説明

血液検査用容器

【課題】放射線が照射されても血液凝固促進剤の血液凝固性能が低下し難く、さらに常温もしくはそれ以上の過酷な条件に長期間保存された場合に血液凝固促進剤に含まれる酵素の活性の変動が小さく、安定性に優れており、血液凝固促進剤の高い血液凝固性能を長期間にわたって安定して発揮し得る血液検査用容器を提供する。
【解決手段】開口2aを有する管状容器2と、管状容器2の開口2aに気密的に取付けられた栓体3とを備え、管状容器2内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されており、かつ管状容器2内に、ペプチド鎖において、アルギニンと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はリジンと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る酵素を含む血液凝固促進剤4が収容されている、血液検査用容器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固性能を有する血液凝固促進剤が収容されている血液検査用容器に関し、より詳細には、血清生化学検査などの臨床検査等に用いられる血液検査用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
血清生化学検査などの臨床検査等において、短時間で血液から血清を採取したい場合には、酵素等からなる血液凝固促進剤が使用されている。酵素は、ペプチド鎖においてアルギニンと任意のアミノ酸残基との結合や、リジンと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解することができる。
【0003】
代表的な酵素としては、トロンビンが知られており、トロンビンはシリカ等に代表される無機系の血液凝固促進剤よりも高い血液凝固性能を有している。よって、トロンビンを用いれば、血液を急速に凝固させることができ、極めて短時間で血液から血清を得ることができる。
【0004】
しかしながら、トロンビン等の酵素は不安定であり、安定に保存することは難しく、酵素の高い血液凝固性能を長期間にわたり安定して発揮させることは困難であった。また、トロンビンなどの酵素は、ガンマ線や電子線といった放射線が照射された場合に失活しやすかった。
【0005】
酵素の高い血液凝固性能を維持するために、従来よりトロンビン等の酵素は、一般に凍結乾燥されて、保存されている。しかしながら、トロンビン等の酵素を凍結乾燥して保存した場合であっても、高い血液凝固性能を長期間にわたり維持することは困難であった。そこで、トロンビン等の酵素の保存安定性を高めるために種々の試みがなされている。
【0006】
下記の特許文献1には、トロンビン含有水性溶液に、安定化剤として糖及びアミノ酸を含有させたトロンビン水性液状組成物が開示されている。
【0007】
他方、下記の特許文献2には、トロンビン、糖類、塩基性アミノ酸および有機酸塩からなるトロンビン乾燥製剤が開示されている。このトロンビン乾燥製剤では、凍結乾燥時および製剤保存時のトロンビンの安定性に富み、用時の溶解性にも優れているとされている。
【特許文献1】特開昭64−40433号公報
【特許文献2】特開平02−53732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2のトロンビン水性液状組成物及びトロンビン乾燥製剤は、特に常温もしくはそれ以上の過酷な条件で保存された場合に、十分な安定性を有していなかった。また、特許文献1、2のトロンビン水性液状組成物及びトロンビン乾燥製剤が低温で保存された場合には、ある程度の安定性を有するものの、常温もしくはそれ以上の過酷な条件で保存される血液検査用容器には適用できるものではなく、高い血液凝固性能をより一層長期間にわたり維持し得ることが求められていた。さらに、特許文献1、2のトロンビン水性液状組成物及びトロンビン乾燥製剤では、放射線が照射された場合に、トロンビンが失活し、血液凝固性能が低下するという欠点もあった。
【0009】
ところで、血液凝固促進剤に含まれる酵素は、急速に血液を凝固させる性能を有しているが故に、わずかな活性の違いで血液凝固性能が大きく変化する性質を持ち合わせている。すなわち、酵素の活性が高すぎると、血液の凝固が速くなって凝固が不均一となり、遠心分離後に、血清中にフィブリン析出を引き起こすことがある。一方、酵素の活性が低すぎると、血液の凝固が遅くなり所定の時間内に必要な血清が得られないことがある。そこで、製造した直後から使用期限までの期間において、酵素の活性の変動が小さく、十分な保存安定性を有する血液凝固促進剤が強く望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、放射線が照射されても血液凝固促進剤の血液凝固性能が低下し難く、さらに常温もしくはそれ以上の過酷な条件に長期間保存された場合に血液凝固促進剤に含まれる酵素の活性の変動が小さく、安定性に優れており、血液凝固促進剤の高い血液凝固性能を長期間にわたって安定して発揮し得る血液検査用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る血液検査用容器は、開口を有する管状容器と、管状容器の開口に気密的に取付けられた栓体とを備え、管状容器内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されており、かつ管状容器内に、ペプチド鎖において、アルギニンと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はリジンと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る酵素を含む血液凝固促進剤が収容されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る血液検査用容器のある特定の局面では、血液凝固促進剤は、β−アラニンをさらに含んでいる。
【0013】
本発明に係る血液検査用容器の他の特定の局面では、酵素はトロンビンである。
【0014】
本発明に係る血液検査用容器のさらに他の特定の局面では、シリコーンオイル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン及びこれらの誘導体からなる群から選択した少なくとも1種が管状容器内にさらに収容されている。
【0015】
本発明に係る血液検査用容器のさらに他の特定の局面では、アミン塩、第4級窒素を有する有機化合物、及び硫酸プロタミンからなる群から選択した少なくとも1種が管状容器内にさらに収容されている。
【0016】
本発明に係る血液検査用容器の別の特定の局面では、吸着性無機物が管状容器内にさらに収容されている。
【0017】
本発明に係る血液検査用容器のさらに別の特定の局面では、血液凝固促進剤は管状容器の内壁面に塗布されている。
【0018】
本発明に係る血液検査用容器のさらに別の特定の局面では、血液凝固促進剤が比重1.08以上の担持体に塗布されて、管状容器内に収容されている。
【0019】
本発明に係る血液検査用容器のさらに別の特定の局面では、血液凝固促進剤が乾燥された状態で、管状容器内に収納されている。
【0020】
本発明に係る血液検査用容器のさらに別の特定の局面では、管状容器内が減圧されている。
【0021】
本発明に係る血液検査用容器の他の特定の局面では、管状容器は合成樹脂からなる。
【0022】
本発明に係る血液検査用容器のさらに他の特定の局面では、栓体が取付けられた管状容器が、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有する材質からなる包装袋内に収容されて、該包装袋が密封されている。
【0023】
本発明に係る血液検査用容器のさらに他の特定の局面では、包装袋内に、脱酸素剤及び/又は乾燥剤がさらに収容されている。
【0024】
本発明に係る血液検査用容器のさらに他の特定の局面では、包装袋内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されている。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る血液検査用容器は、開口を有する管状容器と、管状容器の開口に気密的に取付けられた栓体とを備えている。本発明では、管状容器内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されており、かつ管状容器内に、ペプチド鎖において、アルギニンと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はリジンと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る酵素を含む血液凝固促進剤が収容されている。よって、常温もしくはそれ以上の過酷な条件に長期間保存された場合に血液凝固促進剤に含まれる酵素の活性の変動が小さく、安定性に優れており、血液凝固促進剤の高い血液凝固性能を長期間にわたって安定して発揮することができる。さらに、放射線が照射された場合でも、血液凝固促進剤の血液凝固性能が低下し難く、高い血液凝固性能を維持することができる。
【0026】
血液凝固促進剤が、β−アラニンをさらに含む場合には、酵素の保存安定性を高めることができ、特に酵素としてトロンビンが用いられた際に、トロンビンの保存安定性を飛躍的に高めることができる。
【0027】
酵素がトロンビンである場合には、血液を急速に凝固させることができ、極めて短時間で血液から血清を得ることができる。
【0028】
シリコーンオイル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン及びこれらの誘導体からなる群から選択した少なくとも1種が管状容器内にさらに収容されている場合には、これらの物質が収容された部分、例えば管状容器の内壁面等に血液が付着するのを防止することができる。
【0029】
アミン塩、第4級窒素を有する有機化合物、及び硫酸プロタミンからなる群から選択した少なくとも1種が管状容器内にさらに収容されている場合には、透析患者等のヘパリン添加血液でも短時間で血液から血清を得ることができる。
【0030】
吸着性無機物が管状容器内にさらに収容されている場合には、血液を効率的に凝固させることができる。
【0031】
血液凝固促進剤が管状容器の内壁面に塗布されている場合には、血液凝固促進剤と血液とを効率的に接触させることができるので、血液を効率的に凝固させることができる。
【0032】
血液凝固促進剤が比重1.08以上の担持体に塗布されて、管状容器内に収容されている場合には、血液凝固促進剤の安定性をさらに高めることができる。
【0033】
管状容器内が減圧されている場合には、血液検査用容器を真空採血管として用いることができる。
【0034】
管状容器が合成樹脂からなる場合には、落下したり衝撃が与えられても破損し難いので、血液検査容器が破損して、使用者等が血液感染するのを防止することができる。
【0035】
栓体が取付けられた管状容器が、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有する材質からなる包装袋内に収容されて、該包装袋が密封されている場合には、管状容器内に充填されている窒素及び/又は不活性ガスが置換されたり、漏洩するのを防ぐことができ、さらに管状容器内への酸素や水分の侵入を抑制することができる。よって、管状容器内に収容された酵素に放射線が照射されても失活し難く、長期間にわたり酵素の保存安定性がより一層高められる。
【0036】
さらに、栓体が取付けられた管状容器が包装袋に収容されていることによって、管状容器が透湿性の高い材質からなる場合でも、酵素の保存安定性に優れ、高い血液の凝固促進性能を長期間にわたり安定して発揮することができる。
【0037】
包装袋内に、脱酸素剤及び/又は乾燥剤がさらに収容されている場合には、長期間にわたり酵素の保存安定性がより一層高められる。
【0038】
包装袋内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されている場合には、長期間にわたり酵素の保存安定性がさらに一層高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0040】
図1(a)、(b)に本発明の一実施形態に係る血液検査用容器を外観斜視図及び正面断面図で示す。
【0041】
図1(a)、(b)に示すように、血液検査用容器1は、管状容器2と栓体3とを備えている。管状容器2は、一端に開口2aを有し、一端とは反対側の他端に丸底2bを有する。栓体3は、大径部3aと、大径部3aよりも径が小さな小径部3bとを有する。管状容器2の開口2aに栓体3の小径部3bが圧入されて、管状容器2の開口2aに栓体3が気密的に取付けられている。
【0042】
血液検査用容器1では、管状容器2内に、窒素が充填されている。なお、管状容器2内は、不活性ガスが充填されていてもよい。
【0043】
血液検査用容器1では、管状容器2内に血液凝固促進剤4が収容されている。血液凝固促進剤4は、ペプチド鎖において、アルギニンと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はリジンと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る酵素を含んでいる。
【0044】
上記酵素としては、例えば、トリプシン、トロンビン、蛇毒トロンビン様酵素などのセリンプロテアーゼ;カテプシンB、フィシンなどのチオールプロテアーゼ;キニナーゼIなどの金属プロテアーゼ等が挙げられる。中でも、トロンビンなどのセリンプロテアーゼが好ましく用いられ、トロンビンがさらに好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記トロンビンとしては、特に限定されないが、例えばヒト、ウシ等の動物の血漿から精製して得られたものを用いることができる。
【0046】
血液凝固促進剤に含有される酵素は、少なすぎると血液の凝固に時間がかかりすぎ、多すぎると血液の凝固が速すぎて、凝固が不均一になったり、検査値に悪影響を及ぼす可能性がある。よって、酵素の使用量としては、活性値として0.1〜100IU(国際単位:以下「単位」と記す)の範囲が好ましい。例えば、酵素としてトロンビンを使用する場合、その使用量は血液1mL当たり0.5〜50単位の範囲が好ましく、より好ましくは1〜20単位の範囲である。
【0047】
上記管状容器としては、開口を有する管状容器であれば特に限定されないが、開口を有し、有底の管状容器が好ましく用いられる。
【0048】
上記管状容器の材質としては、合成樹脂であってもガラスであってもよく、特に限定されない。合成樹脂からなる管状容器は、落下したり、衝撃が与えられた場合でも破損し難い。よって、血液検査容器が破損して、使用者等が血液感染するのを防止することができるため、合成樹脂からなる管状容器が好ましく用いられる。
【0049】
上記合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等が挙げられる。なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。
【0050】
上記管状容器は、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有する材質からなることが好ましい。
【0051】
上記栓体としては、管状容器の開口に気密的に取付けることが可能な材質、形状からなるものが用いられる。栓体の材質としては、例えば、合成樹脂、エラストマー、ゴム、アルミニウム箔などの金属箔等が挙げられる。上記ゴムとしては、例えば、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等が好適に用いられる。栓体は、上述した材質の2つ以上を用いて構成されていてもよい。2つ以上の材質を用いて構成された栓体としては、例えば、ゴムやエラストマーからなる栓体本体を合成樹脂からなるカバーで覆ったオーバーキャップタイプの栓体などが挙げられる。他の例としては、例えば、金属箔のラミネートフィルム等の栓体で容器開口部をシールして密封してもよい。
【0052】
上記栓体は、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有する材質からなることが好ましい。
【0053】
血液検査用容器の管状容器内には、窒素及び/または不活性ガスが充填されている。すなわち、管状容器内には、窒素または不活性ガスのいずれかが充填されていてもよく、窒素と不活性ガスとが併用されて充填されていてもよい。
【0054】
上記不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの第18族元素からなるガスが挙げられる。これらの不活性ガスは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0055】
上記管状容器内に窒素及び/又は不活性ガスを充填する方法は、特に限定されない。例えば、窒素及び/又は不活性ガスを充満させたチャンバー内において管状容器の開口に栓体を取付けて密封する方法、管状容器内に窒素及び/又は不活性ガスを送り込みながら管状容器の開口に栓体を取付けて密封する方法、管状容器の開口に栓体を取付けて密封した後に、容器内の気体を窒素及び/又は不活性ガスで置換する方法などが挙げられる。
【0056】
窒素及び/又は不活性ガスが管状容器内に充填されていることによって、酵素にガンマ線や電子線などの放射線が照射された際に酵素が失活するのを抑制することができ、酵素の保存安定性を高めることができる。特に、酵素としてトロンビンが用いられている場合に、窒素及び/又は不活性ガスが管状容器内に充填されていることによって、放射線が照射された際にトロンビンが失活するのをより一層効果的に抑制することができ、トロンビンの保存安定性をより一層高めることができる。
【0057】
上記血液凝固促進剤には、安定化剤としてグリシン、アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸、糖、ゼラチンなどが添加されてもよい。
【0058】
上記血液凝固促進剤は、β−アラニンを含むことが好ましい。血液凝固促進剤にβ−アラニンを添加することによって、酵素の安定性を飛躍的に高めることができる。β−アラニンの添加量としては、上記酵素1単位あたり0.01〜1000μgの範囲であることが好ましい。
【0059】
上記酵素としてトロンビンが使用される場合、血液凝固促進剤にβ−アラニンを添加することによって、トロンビンの安定性をより一層高めることができる。酵素としてトロンビンが使用される場合、β−アラニンの添加量としては、トロンビン1単位あたり0.01〜1000μgの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜200μgの範囲、最も好ましくは0.5〜50μgの範囲である。β−アラニンの添加量が多いと血液凝固促進剤中にβ−アラニンが溶解し難くなり、成分が不均一に溶解、分散された血液凝固促進剤となったり、管状容器内に血液凝固促進剤をスプレー塗布する場合に、スプレー塗布できないことがある。
【0060】
上記酵素、中でもとりわけトロンビンを含み、β−アラニンが添加された血液凝固促進剤を管状容器に収容し、窒素及び/または不活性ガスを管状容器内に充填して管状容器の開口を栓体で密封した血液検査用容器では、酵素の安定性に極めて優れている。
【0061】
上記管状容器内には、吸着性無機物が収容されていることが好ましい。吸着性無機物としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、カオリン、ベントナイト、珪藻土等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。吸着性無機物は、血液凝固促進剤とは別に管状容器内に収容されていてもよく、血液凝固促進剤に添加されて管状容器内に収容されていてもよい。吸着性無機物の使用量としては、血液1mLあたり0.001〜10mgの範囲が好ましい。より好ましくは0.01〜1mgの範囲である。
【0062】
管状容器の内壁面等に血液が付着するのを防止するために、血餅剥離成分として、シリコーンオイル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン及びこれらの誘導体からなる群から選択した少なくとも1種が管状容器内に収容されていることが好ましい。
【0063】
上記シリコーンオイルとしては、例えば水溶性タイプの変性シリコーンオイルが挙げられ、好ましく用いられる。上記ポリオキシアルキレン及びその誘導体としては、例えば、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレングリセリルエーテルなどが挙げられ、好ましく用いられる。
【0064】
上記血餅剥離成分は、血液凝固促進剤に添加されて、管状容器内に収容されていてもよい。血餅剥離成分の使用量としては、血液1mLあたり0.1μg〜10mgの範囲が好ましい。より好ましくは1μg〜1mgの範囲である。
【0065】
上記血液凝固促進剤には、抗線溶剤及び/又は抗プラスミン剤が添加されてもよい。抗線溶剤及び抗プラスミン剤としては、例えば、アプロチニン、大豆トリプシンインヒビター、p−アミノメチル安息香酸、アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。抗線溶剤及び抗プラスミン剤の使用量としては、血液1mLあたり0.1μg〜10mgの範囲が好ましい。より好ましくは1μg〜1mgの範囲である。
【0066】
透析患者等のヘパリン添加血液でも短時間で血液から血清を得ることができるように、ヘパリン中和剤が管状容器内に収容されていることが好ましい。例えば、上記血液凝固促進剤の血液凝固促進成分がトロンビンである場合、血液中にヘパリンが存在するとトロンビンの血液凝固性能が阻害されて血液は凝固しない。ヘパリン中和剤が併用されることで血液中のヘパリンが中和され、トロンビンは本来の血液凝固性能を発揮することができる。ヘパリン中和剤としては、例えばアミン塩、第4級窒素を有する有機化合物、硫酸プロタミン等が挙げられる。アミン塩、第4級窒素を有する有機化合物、及び硫酸プロタミンからなる群から選択した少なくとも1種が管状容器内に収容されていることがより好ましい。ヘパリン中和剤は、血液凝固促進剤に添加されて、管状容器内に収容されていてもよい。
【0067】
上記アミン塩を構成するアミンは第1級、第2級及び第3級のいずれでもよく、アミン塩を構成する酸も無機酸及び有機酸のいずれでもよい。無機酸としては、例えば、塩酸等のハロゲン化水素、硫酸、亜硫酸などが挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸などが挙げられる。アミン塩の有機残基は通常アルキル基であるが、イミノ基やエーテル基等の異種元素を含む炭化水素基であってもよい。アミン塩は分子内塩であってもよい。アミン塩の具体例としては、例えば、ヘキサデシルジメチルアミン塩酸塩やテトラデシルジ(アミノエチル)グリシン等が挙げられる。
【0068】
上記第4級窒素を有する有機化合物としては、例えば、テトラアルキルアンモニウムが挙げられるが、アルキル基のかわにアリール基を有する化合物やイミノ基、エーテル基等の異種元素を含む炭化水素基を有する化合物でもよい。第4級窒素を有する有機化合物の具体例としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。他にも、第4級窒素を有する有機化合物として、第4級窒素を有する有機重合体が好ましく用いられる。
【0069】
上記第4級窒素を有する有機重合体としては、例えば、ポリアミンスルホンのようなポリカチオンが好適に使用される。ヘパリンの不活性化には高分子量のポリカチオンを用いることが効果的であり、高分子量のポリカチオンは、ヘパリンと結合してヘパリンを不溶化し沈殿させる。ポリアミンスルホンとしては、例えば下記の一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体などが挙げられる。
【0070】
【化1】

【0071】
上記ポリアミンスルホンは合成化合物であるため、天然物である硫酸プロタミンと比べて取扱性に優れている。ポリアミンスルホンは精製しやすく、血液凝固促進剤を調製する際に、血液凝固促進剤に容易に配合することができる。さらに、ポリアミンスルホンは、ヘパリンの中和能力にも極めて優れている。
【0072】
上記ヘパリン中和剤の添加量は、凝固させる血液に含まれるヘパリン量により適宜決定される。例えば、一般の透析患者のヘパリン添加血液を凝固させる場合、ヘパリン中和剤の添加量は、血液1mLあたり0.001〜10mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.005〜1mgの範囲、最も好ましくは0.01〜0.5mgの範囲である。
【0073】
上記血液凝固促進剤は、水などの溶媒に溶解、分散された液として、管状容器内に収容されてもよい。血液凝固促進剤は水溶液とされて、管状容器内に収容されることが好ましい。
【0074】
上記血液凝固促進剤を管状容器内に収容する方法としては、特に限定されないが、例えば、血液凝固促進剤を水溶液として管状容器内に滴下する方法、管状容器の内壁面にスプレーなどにより塗布する方法等が挙げられる。血液を効率的に凝固させることができるため、血液凝固促進剤が管状容器の内壁面に塗布されていることが好ましい。
【0075】
酵素の安定性を高めるために、血液凝固促進剤は乾燥された状態で、管状容器内に収容されていることが好ましい。収容された血液凝固促進剤溶液もしくは分散液の乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、真空乾燥、加熱乾燥、除湿空気や加温空気などによる送風乾燥、シリカゲルなどの乾燥剤による乾燥等の方法が挙げられる。このように血液凝固促進剤が乾燥されて管状容器内に収容されていることで、血液凝固促進剤の保存安定性がより一層高められる。
【0076】
上記血液凝固促進剤は、血液凝固促進剤の安定性をさらに高めるため、例えば、乾燥粉末や乾燥顆粒等のように予め乾燥した状態で管状容器内に収容されていてもよい。この他にも、例えば、不織布、織布、樹脂製やガラス製のシートやビーズ等の担持体に血液凝固促進剤が担持された状態で収容されていてもよい。遠心分離後に担持体が血清中に残存せず血餅中に取り込まれるように、血液凝固促進剤は、比重1.08以上の担持体に塗布されて、管状容器内に収容されていることが好ましい。
【0077】
検査用血清を効率的に採取するために、管状容器内に血清分離剤等が収容されていてもよい。血清分離剤としては、例えば、血清と血餅の中間となる比重のチクソトロピー性をもつゲル状物質が好適に用いられる。血清分離剤は、血液が凝固した後に遠心分離を行うことで、比重差を利用して血清と血餅の間に血清分離剤の隔壁を形成し、血清を容易に分離することを可能とする。
【0078】
窒素及び/または不活性ガスで充填された管状容器内は減圧されていることが好ましい。管状容器内が減圧されていると、血液検査用容器を真空採血管として用いることができる。血液凝固促進剤等が収容されている管状容器の減圧状態を維持し得るように、管状容器の開口には、気密的に栓体が取付けられている。
【0079】
管状容器内が減圧されている場合には、管状容器として減圧状態を維持し得る材質、形状からなるものが使用される。管状容器内が減圧されている場合に、栓体として、管状容器内の減圧状態を維持でき、かつ採血時に刺通可能な材質、形状からなるものが好ましく使用される。管状容器内の減圧度は、採血したい血液量にあわせて設定される。
【0080】
管状容器内を減圧状態として、管状容器の開口に栓体を取付けて密封する方法については、特に限定されない。例えば、真空チャンバー等の内部及び管状容器の内部を窒素及び/または不活性ガスで置換した後、所定の減圧度に減圧して栓体で密封する方法が挙げられる。例えば、管状容器に上記栓体を嵌合させて密封する以外にも、例えば、刺通部にゴムを積層した金属箔のラミネートフィルム等の栓体で、容器開口部をシールして密封してもよい。
【0081】
栓体が取付けられた管状容器は、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有する材質からなる包装袋内に収容されて、該包装袋が密封されていることが好ましい。これにより、管状容器内に充填されている窒素及び/又は不活性ガスが置換されたり、漏洩するのを防ぐことができ、さらに管状容器内への酸素や水分の侵入を抑制することができる。よって、管状容器内に収容された酵素に放射線が照射された場合でも失活し難く、長期間にわたり酵素の保存安定性がより一層高められる。
【0082】
さらに、栓体が取付けられた管状容器が包装袋に収容されていることによって、管状容器が透湿性の高い材質からなる場合でも酵素の保存安定性に優れ、高い血液凝固促進性能を長期間にわたり安定して発揮することができる。
【0083】
長期間にわたり酵素の保存安定性がより一層高められるため、包装袋内には、脱酸素剤及び/又は乾燥剤が収容されていることが好ましい。乾燥剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。なかでも、シリカゲルやゼオライトが好適に使用される。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0084】
長期間にわたり酵素の保存安定性がさらに一層高められるため、上記包装袋内には、窒素及び/又は不活性ガスが充填されていることが好ましい。包装袋内に脱酸素剤及び/又は乾燥剤が収容されて、かつ窒素及び/又は不活性ガスが充填されていることがさらに好ましい。
【0085】
上記包装袋の形状は、栓体が取付けられた管状容器を収容でき、密封することできる形状であれば特に限定されない。包装袋としては、例えば、3方シール袋や4方シール袋、パウチ袋、ガセット袋などが挙げられる。包装袋内へのガスもしくは水蒸気が透過する量をできるだけ少なくするため、包装袋の内容積は栓体が取付けられた管状容器を収容し得る範囲で必要最低限の大きさとし、包装袋の表面積を小さくすることが好ましい。
【0086】
上記包装袋の材質は、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有するものであれば特に限定されない。包装袋の材質としては、例えば、アルミニウム箔などの金属箔や合成樹脂などが挙げられる。合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セロファン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を高めるため、もしくはヒートシール性を持たせるため、これらの2つ以上の材質をラミネート等により積層して構成された包装袋が好ましく用いられる。このような包装袋としては、例えば、アルミニウム箔とポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとのラミネートフィルム等からなる包装袋が挙げられる。
【0087】
上記材質に、例えば、シリカ、アルミナ、セラミック、アルミニウムなどが蒸着されたものも包装袋として用いることができる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンにシリカ、アルミナ、セラミック、アルミニウムなどが蒸着されたフィルムとポリエチレン、ポリプロピレンなどのヒートシール性を有するフィルムをラミネートした積層フィルムからなる包装袋が挙げられ、好適に用いることができる。シリカ、アルミナ及びセラミックの蒸着フィルムは、ガスバリア性や水蒸気バリア性に優れるとともに透明性にも優れ、包装袋の外から内容物が視覚的に確認できるとともに、焼却廃棄が可能である等の利点を有する。アルミニウム蒸着フィルムでは、透明性は得られないものの、アルミニウム箔のラミネートフィルムに匹敵する程の優れたガスバリア性及び水蒸気バリア性が得られる。
【0088】
以下、実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
トロンビン(持田製薬製)30万単位およびβ−アラニン2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加し、血液凝固促進剤の水溶液を得た。
【0090】
このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)製の有底の管状容器(内径15mm×長さ100mm)の内壁面に20μLスプレーし、真空乾燥機で12時間乾燥した。しかる後、窒素で置換した真空チャンバー内で管状容器内に窒素を充填して、採血量が5mLとなるように管状容器内を減圧し、管状容器の開口をブチルゴム製の栓体で密封して、真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0091】
(実施例2)
トロンビン(持田製薬製)30万単位およびβ−アラニン0.2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加し、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0092】
(実施例3)
トロンビン(持田製薬製)30万単位およびβ−アラニン10gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加し、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0093】
(実施例4)
実施例1で得られた血液凝固促進剤の水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)製の有底の管状容器(内径15mm×長さ100mm)の内壁面に20μLスプレーし、真空乾燥機で12時間乾燥した。しかる後、ヘリウムで置換した真空チャンバー内で管状容器内にヘリウムを充填して、採血量が5mLとなるように管状容器内を減圧し、管状容器の開口をブチルゴム製の栓体で密封して、真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0094】
(実施例5)
水溶性シリコーンオイルの代わりにポリビニルピロリドンを用いたこと以外は実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0095】
(実施例6)
水溶性シリコーンオイルの代わりにポリビニルアルコールを用いたこと以外は実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0096】
(実施例7)
水溶性シリコーンオイルの代わりにポリオキシプロピレングリセリルエーテルを用いたこと以外は実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0097】
(実施例8)
トロンビン(持田製薬製)30万単位、β−アラニン2g、および第4級窒素を有する有機化合物として上述した式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミンスルホン0.5gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0098】
(実施例9)
トロンビン(持田製薬製)30万単位、β−アラニン0.5g、およびアミン塩であるヘキサデシルジメチルアミン塩酸塩1gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0099】
(実施例10)
トロンビン(持田製薬製)30万単位、β−アラニン5g、および硫酸プロタミン2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0100】
(実施例11)
トロンビン(持田製薬製)30万単位およびグリシン2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0101】
(実施例12)
トロンビン(持田製薬製)30万単位を100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0102】
(実施例13)
トロンビン(持田製薬製)30万単位およびβ−アラニン2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1g及び吸着性無機物であるシリカ3gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0103】
(実施例14)
実施例1で得られた血液凝固促進剤の水溶液20mgを、担持体であるポリエチレンテレフタレート製ビーズ(比重1.4)の表面にコーティングした後、乾燥した。しかる後、血液凝固促進剤が塗布された担持体を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の有底の管状容器(内径15mm×長さ100mm)に収容した。次に、窒素で置換した真空チャンバー内で管状容器内に窒素を充填して、採血量が5mLとなるように管状容器内を減圧し、管状容器の開口をブチルゴム製の栓体で密封して、真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0104】
(実施例15)
実施例1で得られた真空採血管100本と乾燥剤であるシリカゲル20gとを、ガスバリア性及び水蒸気バリア性を有する包装袋であるPET/アルミナ蒸着PET/ポリエチレンのように積層したラミネートフィルムからなるガセット袋(袋底面120×300mm)に収容した。包装袋内の空気を真空吸引してできるだけ空気を取除き、底面より250mmの位置をヒートシールしてガセット袋を密封し、血液検査用容器を得た。
【0105】
(実施例16)
実施例1で得られた真空採血管100本と脱酸素剤とを、ガスバリア性及び水蒸気バリア性を有する包装袋であるPET/アルミナ蒸着PET/ポリエチレンのように積層したラミネートフィルムからなるガセット袋(袋底面120×300mm)に収容した。包装袋内の空気を真空吸引してできるだけ空気を取除き、底面より250mmの位置をヒートシールしてガセット袋を密封し、血液検査用容器を得た。
【0106】
(実施例17)
実施例1で得られた真空採血管100本を、ガスバリア性及び水蒸気バリア性を有する包装袋であるPET/シリカ蒸着PET/ポリエチレンのように積層したラミネートフィルムからなるガセット袋(袋底面120×300mm)に収容した。包装袋内の空気を窒素に置換した後、底面より250mmの位置をヒートシールしてガセット袋を密封し、血液検査用容器を得た。
【0107】
(実施例18)
実施例1で得られた真空採血管100本を、ガスバリア性及び水蒸気バリア性を有する包装袋であるPET/AL(アルミニウム箔)/ナイロン/ポリプロピレンのように積層したラミネートフィルムからなるガセット袋(袋底面120×300mm)に収容し、包装袋内の空気をヘリウムに置換した後、底面より250mmの位置をヒートシールしてガセット袋を密封し、血液検査用容器を得た。
【0108】
(比較例1)
トロンビン(持田製薬製)30万単位およびβ−アラニン2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。
【0109】
このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)製の有底の管状容器(内径15mm×長さ100mm)の内壁面に20μLスプレーし、真空乾燥機で12時間乾燥した。しかる後、大気環境下の真空チャンバー内で、採血量が5mLとなるように管状容器内を減圧し、管状容器の開口をブチルゴム製の栓体で密封して、真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0110】
(比較例2)
トロンビン(持田製薬製)30万単位及びグリシン2gを100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0111】
(比較例3)
トロンビン(持田製薬製)30万単位を100gの精製水に溶解させ、水溶性シリコーンオイル1gをさらに添加して、血液凝固促進剤の水溶液を得た。このようにして得られた血液凝固促進剤の水溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様にして真空採血管である血液検査用容器を得た。
【0112】
<評価1>
上記実施例及び比較例で得られた各血液検査用容器に10kGy及び20kGyのガンマ線を照射し、照射前のトロンビン活性に対する照射後のトロンビン活性残存率を測定した。本評価は血液検査用容器を製造した後、すぐに実施した。結果を下記表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
<評価2>
製造した直後の上記実施例及び比較例で得られた各血液検査用容器のトロンビン活性を測定した。さらに、製造した直後の実施例及び比較例で得られた各血液検査用容器を、35℃、75%RHの恒温恒湿槽で2週間及び1ヶ月保存した。製造した直後のトロンビン活性に対する2週間保存した後および1ヶ月保存した後のトロンビン活性残存率を測定し、保存安定性を評価した。
【0115】
また、製造した直後、2週間保存した後及び1ヶ月保存した後の各血液検査用容器について、健常人より血液5mLを真空採血し、速やかにかつ緩やかに5回転倒混和を行い、5分間放置した後、遠心分離を行った。このときの血清中におけるフィブリン発生の有無、血清収率について観察し、下記評価基準で評価した。結果を下記表2に示す。
【0116】
〔フィブリン発生の有無〕
○:発生なし
×:発生あり
〔血清収率〕
○:採血量に対して30%以上
×:採血量に対して30%未満
【0117】
【表2】

【0118】
<評価3>
血液1mLあたりヘパリン1単位を添加したヘパリン添加血液5mLを、製造した直後、上記評価2に記載の条件で2週間保存した後、及び上記評価2に記載の条件で1ヶ月保存した後の実施例8〜10の各血液検査用容器に加え、速やかにかつ緩やかに5回転倒混和を行った。その結果、製造した直後、2週間保存した後、及び1ヶ月保存した後の実施例8〜10の各血液検査用容器のいずれにおいても、5分以内に血液が凝固し、これを遠心分離することでフィブリンの析出がない2mL以上の血清を得ることができた。実施例8〜10以外の実施例及び比較例の各血液検査用容器においては、血液1mLあたりヘパリン1単位を添加したヘパリン添加血液5mLを加え、速やかにかつ緩やかに5回転倒混和を行った後に1時間放置しても、血液が凝固しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る血液検査用容器を示す外観斜視図及び正面断面図。
【符号の説明】
【0120】
1…血液検査用容器
2…管状容器
2a…開口
2b…底部
2c…内壁面
3…栓体
3a…大径部
3b…小径部
4…血液凝固促進剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する管状容器と、前記管状容器の開口に気密的に取付けられた栓体とを備え、
前記管状容器内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されており、かつ前記管状容器内に、ペプチド鎖において、アルギニンと任意のアミノ酸残基との結合及び/又はリジンと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る酵素を含む血液凝固促進剤が収容されていることを特徴とする、血液検査用容器。
【請求項2】
前記血液凝固促進剤が、β−アラニンをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の血液検査用容器。
【請求項3】
前記酵素がトロンビンである、請求項1または2に記載の血液検査用容器。
【請求項4】
シリコーンオイル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン及びこれらの誘導体からなる群から選択した少なくとも1種が前記管状容器内にさらに収容されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項5】
アミン塩、第4級窒素を有する有機化合物、及び硫酸プロタミンからなる群から選択した少なくとも1種が前記管状容器内にさらに収容されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項6】
吸着性無機物が前記管状容器内にさらに収容されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項7】
前記血液凝固促進剤が前記管状容器の内壁面に塗布されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項8】
前記血液凝固促進剤が比重1.08以上の担持体に塗布されて、前記管状容器内に収容されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項9】
前記血液凝固促進剤が乾燥された状態で、前記管状容器内に収容されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項10】
前記管状容器内が減圧されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項11】
前記管状容器が合成樹脂からなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項12】
前記栓体が取付けられた前記管状容器が、ガスバリア性及び/又は水蒸気バリア性を有する材質からなる包装袋内に収容されて、該包装袋が密封されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の血液検査用容器。
【請求項13】
前記包装袋内に、脱酸素剤及び/又は乾燥剤がさらに収容されている、請求項12に記載の血液検査用容器。
【請求項14】
前記包装袋内に、窒素及び/又は不活性ガスが充填されている、請求項12または13に記載の血液検査用容器。

【図1】
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【公開番号】特開2007−248175(P2007−248175A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70255(P2006−70255)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】