説明

血液浄化器および血液浄化装置

【課題】 β2−ミクログロブリンに代表される小分子量蛋白を血液中より充分に除去しうる安全で簡易な血液浄化器および血液浄化装置を提供する。
【解決手段】 logP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が2.50以上の化合物を固定したセルロース類と水の重量比が1:9から3:7の範囲にあり、平均粒子径が300から600μmの球状ヒドロゲルが、血液の入口と出口を有し、少なくとも出口側には血液は通過するがヒドロゲルは通過できないヒドロゲルの流出防止具を装着した容器に70万から2000万個、水溶液とともに収納されており、該容器は密閉され、少なくともその内部が滅菌されていることを特徴とする血液浄化器。前記血液浄化器を血液透析器と接続してなる血液浄化装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は血液浄化器および血液浄化装置に関する。さらに詳しくは、体外循環治療に用いる血液浄化器および血液浄化装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ここ四半世紀に体外循環による血液浄化技術はめざましい進歩を遂げてきた。なかでも血液透析は腎不全患者の腎臓機能を代行する血液浄化法として広く普及している。この血液透析は透析膜を介して血液と透析液とを接触せしめ、両液中の溶質の濃度差により血液中の不要成分を透析液側に排出させることを原理とするもので、プレート状や中空糸状の透析膜を用いたさまざまな血液透析器が開発され、臨床使用されている。また、血液透析と同様に膜を用いた血液浄化法としては血液濾過や血液透析濾過などが施行されている。一方、吸着体を用いた血液浄化も種々検討され、腎臓機能を補助するための粒状活性炭を充填した吸着器が市販されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、血液透析の分野において、血液透析治療を行っている腎不全患者の血液中に小分子量蛋白が蓄積していることが問題視されている。この蓄積は、本来は腎臓で代謝されるこれらの小分子量蛋白が旧来の血液透析器では除去することができなかったために起こった問題であると考えられている。かかる小分子量蛋白の一例として、透析性アミロイドーシス患者のアミロイド沈着を構成する蛋白であることが1985年に下条らにより明らかにされたβ2−ミクログロブリンが挙げられる。β2−ミクログロブリンの分子量は11,731と報告されている(F.Gejyo et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, Vol.129, No.3, Pages 701-706,1985)。かかる小分子量蛋白の除去性能を向上させるために、血液透析膜の孔径を大きくする手段がとられ、いわゆるハイパフォーマンス・メンブレンと呼ばれる膜を用いた血液透析器が開発されて臨床使用されているが、現在のところ充分な除去能力が得られているとは言い難い。また、血液濾過法、血液透析濾過法ではこれらの小分子量蛋白をかなり高い効率で除去することが可能となりつつあるが、これらの方法では、通常の血液透析では必要としない大量の補液を必要とする点、広く用いられている透析装置単独では取り扱えず、追加の装置を必要とする点などの問題点がある。さらに、これらの膜を用いる方法では、大孔径化に伴い透析液側からの菌由来のエンドトキシンをはじめとする毒性物質による汚染が懸念されている。一方、粒状活性炭を充填した吸着器は、元々蛋白の吸着を目的としたものではなく、小分子量蛋白の吸着能力は乏しく、充分な除去をなしえないのが現状である。
【0004】本発明は叙上の課題を解決し、β2−ミクログロブリンに代表される小分子量蛋白を血液中より充分に除去しうる安全で簡易な血液浄化器および血液浄化装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】我々は、血液中のβ2−ミクログロブリンに代表される小分子量蛋白を充分に除去することが可能な、安全で簡易な血液浄化器について鋭意検討した結果、logP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が2.50以上の化合物を固定したセルロース類(以下、C−セルロース類という)と水からなるコロイド質固相を持つヒドロゲルであって、C−セルロース類と水の重量比および粒径を特定範囲とした球状体を、入口と出口を有する容器に、水溶液中で一定量収納し、該容器を密閉し、その内部を滅菌することにより、目的に合致した器具が得られることを見いだし、体外循環治療に用いる血液浄化器を発明した。
【0006】さらに、この血液浄化器を透析器と連結して使用することにより、腎臓機能を代行するシステムが得られることを見いだし、直接血液灌流方式の体外循環治療に用いる血液浄化装置を完成させた。
【0007】すなわち本発明は、(1)logP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が2.50以上の化合物を固定したセルロース類(C−セルロース類)と水の重量比が1:9から3:7の範囲にあり、平均粒子径が300から600μmの球状ヒドロゲルが、血液の入口と出口を有し、少なくとも出口側には血液は通過するがヒドロゲルは通過できないヒドロゲルの流出防止具を装着した容器に70万から2000万個、水溶液とともに収納されており、該容器は密閉され、少なくともその内部が滅菌されていることを特徴とする血液浄化器に関する。
【0008】さらに本発明は、(2)logP値が2.50以上の化合物が炭素数8〜18個の炭化水素部位を有する化合物である前記(1)項記載の血液浄化器。
【0009】さらに本発明は、(3)容器内の水溶液のpHが5から8の範囲にある水溶液である前記(1)または(2)項記載の血液浄化器に関する。
【0010】さらに本発明は、(4)容器内の水溶液がpHに対して緩衝作用を持つ化合物の水溶液である前記(1)または(2)項記載の血液浄化器に関する。
【0011】さらに本発明は、(5)容器内の水溶液がクエン酸とクエン酸ナトリウムを含有する水溶液である前記(1)または(2)項記載の血液浄化器に関する。
【0012】さらに本発明は、(6)入口と出口を有する容器の一部または全体が透明性を有する樹脂成型品からなる前記(1)または(2)項記載の血液浄化器に関する。
【0013】さらに本発明は、(7)前記(1)から(6)項のいずれかに記載の血液浄化器を血液透析器と接続してなる血液浄化装置に関する。
【0014】さらに本発明は、(8)血液浄化器と血液透析器が直列に接続されている前記(7)項記載の血液浄化装置に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明における血液とは、全血液はもちろんのこと、全血液より血球成分を除去した血漿、血清等を含む。
【0016】本発明の血液浄化器内に充填されるヒドロゲルはlogP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が2.50以上の化合物を固定したセルロース類(C−セルロース類)と水または水溶液により構成される。
【0017】化合物のlogP値は次の方法により求められる。まず、化合物をオクタノーール(もしくは水)に溶解し、これに等量の水(もしくはオクタノール)を加え、グリッフィン・フラスク・シェイカー(Griffin flask shaker)(グリッフィン・アンド・ジョージ・リミテッド(Griffin&George Ltd.)製)で30分間振盪する。その後2,000rpmで1〜2時間遠心分離し、オクタノール層および水層中の化合物濃度の測定を分光学的またはGLC等の種々の方法により測定することにより次式で求められる。
【0018】P=Coct/CwCoct:オクタノール層中の化合物濃度Cw :水層中の化合物濃度これまでに多くの研究者らにより種々の化合物のlogP値が実測されているが、それらの実測値はシー・ハンシュ(C.Hansch)らによって整理されている(「パーティション・コエフィシエンツ・アンド・ゼア・ユージズ;ケミカル・レビューズ(PARTITION COEFFICIENTS ANDTHEIR USES;Chemical Reviews)、71巻、525頁、1971年」参照)。
【0019】また実測値の知られていない化合物については、アール・エフ・レッカー(R.F.Rekker)がその著書(「ザ・ハイドロフォビック・フラグメンタル・コンスタント(THE HYDROPHOBIC FRAGMENTAL CONSTANT)」、エルセビア・サイエンティフィック・パブリッシング・カンパニー(Elsevier Sci.Pub.Com.)、アムステルダム(1977))中に示している疎水性フラグメント定数fを用いて計算した値(Σf)が参考となる。疎水性フラグメント定数は数多くのlogP実測値をもとに、統計学的処理を行い決定された種々のフラグメントの疎水性を示す値であり、化合物を構成するおのおののフラグメントのf値の和はlogP値とほぼ一致すると報告されている。本発明においてlogP値というとき、logP値が知られていない化合物についてはΣf値を意味する。
【0020】本発明においては、β2−ミクログロブリンの吸着に有効な化合物の探索にあたり、種々のlogP値を有する化合物を固定し検討した結果、logP値2.50以上、好ましくは2.70以上、さらに好ましくは2.90以上の化合物がβ2−ミクログロブリンの吸着に有効であり、logP値2.50未満の化合物は殆どβ2−ミクログロブリンの吸着能を示さないことがわかった。たとえばアルキルアミンを固定化したばあい、アルキルアミンをn−ヘキシルアミン(logP=2.06)からn−オクチルアミン(logP=2.90)に変えると、このあいだでβ2−ミクログロブリンの吸着能は飛躍的に上昇することがわかった。これらの結果より、本発明の血液浄化器におけるβ2−ミクログロブリンの吸着能は、logP値2.50以上の化合物の固定によりセルロース類に導入された原子団とβ2−ミクログロブリンとのあいだの疎水性相互作用によるものと考えられ、logP値2.50未満の化合物では疎水性が小さすぎるためにβ2−ミクログロブリンの吸着能を示さないと考えられる。
【0021】また一方で、n−オクチルアミンを、さらにアルキル鎖長が長く、より疎水性が高いと考えられるセチルアミン(Σf=7.22)に変えると、β2−ミクログロブリンの吸着能はさらに上昇することがわかった。これらの結果より、本発明の血液浄化器におけるβ2−ミクログロブリンの吸着は、logP値2.50以上の化合物の固定により達成されるが、化合物のlogP値は大きいほど好ましいことがわかり、たとえば、セチルアミンよりもさらにアルキル鎖長が長く、より疎水性が高いと考えられるオクタデシルアミン(Σf=8.28)のような化合物の固定により、セチルアミンを固定したばあいと同等またはそれ以上のβ2−ミクログロブリンの吸着を示すものと考えられる。logP値の上限値はとくに制限されないが、実用上15程度である。
【0022】本発明において、セルロース類に固定される化合物としては、logP値が2.50以上の化合物であれば特別な制限なしに用いることができる。ただし、セルロース類に化合物を化学結合法によって結合するばあいには、化合物の一部が脱離することが多いが、この脱離基が化合物の疎水性に大きく寄与しているばあい、すなわち脱離によりセルロース類に固定される原子団の疎水性がΣf=2.50より小さくなるようなばあいには本発明の主旨から考えて、本発明に用いる化合物としては不適当である。その代表例を一つあげると、安息香酸イソペンチルエステル(Σf=4.15)をエステル交換により水酸基を有するセルロース類に固定するばあいがあげられる。このばあい、実際にセルロース類に固定される原子団はC65CO−であり、この原子団のΣfは1以下である。このような化合物が本発明で用いる化合物として適当かどうかは、脱離基の部分を水素に置き換えた化合物のlogP値が2.50以上かどうかにより判断すればよい。
【0023】logP値が2.50以上の化合物のなかでも、炭素数7〜20個、なかんづく8〜18個の炭化水素部位を有するものが好ましく、さらに不飽和炭化水素、アルコール、アミン、チオール、カルボン酸およびその誘導体、ハロゲン化物、アルデヒド、イソシアナート、グリシジルエーテルなどのオキシラン環含有化合物、ハロゲン化シランなどのようにセルロース類への結合に利用できる官能基を有する化合物が好ましく用いられる。
【0024】前記不飽和炭化水素としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどがあげられる。
【0025】前記アルコールとしては、n−オクチルアルコール、ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、1−オクテン−3−オール、ナフトール、ジフェニルメタノール、4−フェニル−ブタノールなどがあげられる。
【0026】前記アミンとしては、n−オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ナフチルアミン、2−アミノオクテン、ジフェニルメチルアミンなどがあげられる。
【0027】前記チオールとしては、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、テトラデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオールなどがあげられる。
【0028】前記カルボン酸およびその誘導体としては、n−オクタン酸、ノナン酸、2−ノネン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、ジフェニル酢酸などがあげられ、その誘導体としては前記カルボン酸の酸ハロゲン化物、エステル、アミド、ヒドラジドなどがあげられる。
【0029】前記ハロゲン化物としては、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化デシル、塩化ドデシルなどがあげられる。
【0030】前記アルデヒドとしては、オクチルアルデヒド、n−カプリンアルデヒド、ドデシルアルデヒドなどがあげられる。
【0031】前記イソシアナートとしては、ドデシルイソシアナート、ヘキサデシルイソシアナート、オクタデシルイソシアナートなどがあげられる。
【0032】前記グリシジルエーテルとしては、ドデシルグリシジルエーテル、ヘキサデシルグリシジルエーテル、オクタデシルグリシジルエーテルなどがあげられる。
【0033】前記ハロゲン化シランとしては、n−オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシランなどがあげられる。
【0034】これらの他にも、前記の例示化合物の炭化水素部分の水素原子がハロゲン、窒素、酸素、イオウなどのヘテロ原子を含有する置換基、他のアルキル基などで置換された化合物のうち、logP値が2.50以上の化合物、前述のシー・ハンシュ(C.Hansch)らの総説「パーティション・コエフィシエンツ・アンド・ゼア・ユージズ;ケミカル・レビューズ(PARTITION COEFFICIENTS AND THEIR USES;Chemical Reviews)、71巻、525頁、1971年」中の555ページから613ページの表に示されているlogP値が2.50以上の化合物などを用いることができるが、本発明においてはこれらのみに限定されるものではない。
【0035】なお、これらの化合物はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を組み合わせてもよく、さらにはlogP値が2.50未満の化合物との組み合わせで用いてもよい。
【0036】セルロース類に対してlogP値が2.50以上の化合物を固定する方法には、公知の種々の方法、例えば物理的に結合させる方法、イオン結合を介して結合させる方法、共有結合を介して結合させる方法などを用いることができるが、結合した化合物が脱離しにくいことが重要であることから、共有結合を介して固定することが最も好ましい。具体的な手段としては、セルロース類の水酸基を利用して直接的に該化合物をエステル結合、アミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合等を介して結合させる方法や、セルロース類にアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基、カルボキシル基などの官能基を導入することにより反応性の高い状態とした(活性化)後、該化合物を結合させる方法が挙げられる。また、セルロース類に官能基を導入して活性化する具体的な方法としては、臭化シアン法、エポキシ法、トレシルクロリド性、過ヨウ素酸酸化法などが具体例として挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0037】また、本発明に示したヒドロゲルにおけるlogP値が2.50以上の化合物の固定量は担体であるセルロース類の乾燥重量(1g)当たり10〜1000μmolが好ましいが、充分な吸着能を有しかつ全血液を処理する場合の血小板の粘着・付着を防ぐという観点から、さらに好ましくは50〜500μmolであり、最も好ましくは100〜300μmolである。
【0038】また、本発明でいうセルロース類とは、天然セルロース、再生セルロースおよびセルロース誘導体の少なくとも1種のことであり、例えば天然セルロースとしては木綿繊維を脱脂したもの、麻類の繊維、木材からリグニンやヘミセルロースなどを除去してえられるパルプ、該パルプをさらに精製してえられる精製セルロースなどがある。また、再生セルロースとは天然セルロースをいったんセルロース誘導体にしたのち加水分解などにより再生させたセルロースのことである。セルロース誘導体としては、例えば天然または再生セルロースの水酸基の一部または全部がエステル化および/またはエーテル化されたものなどが挙げられる。前記セルロースの水酸基の一部または全部がエステル化されたものの具体例としては、例えば酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、ニトロセルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、セルロースのジカルボン酸エステルなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。また前記セルロースの水酸基の一部または全部がエーテル化されたものの具体例としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロースなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、本発明はlogP値が2.50以上の化合物が固定されていることが必須要件であり、これに加え他の原子団が固定されていることに何ら制限を与えるものではない。
【0039】本発明でいうヒドロゲルとは、前述の通り水または水溶液を必須成分とするコロイド質固相のことをいい、ヒドロゲルを乾燥して水分を除去した後に残されるゲル骨格、すなわちキセロゲルは本発明でいうヒドロゲルの概念から外れるものである。
【0040】C−セルロース類と水の重量比は、ヒドロゲルの付着水やヒドロゲル粒子間の間隙水を吸引濾過法や遠心法などにより除去したときの重量(湿潤重量Ww)と、続いて乾燥させて重量が変化しなくなったときの重量(乾燥重量Wd)とから求められる。すなわち、Wd:(Ww−Wd)が本発明でいうC−セルロース類と水の重量比となる。具体的な湿潤重量を求める方法としては、例えばヒドロゲルをグラスフィルターにとり、アスピレーターを用いて吸引し、吸引時間と重量の関係を示す重量減少曲線を作成した際に曲線の傾きが緩やかになる吸引時間経過後に重量を測定する方法が挙げられる。また、乾燥方法としては、恒量化が達成できる方法であれば特に制限はないが、105℃程度の温度での常圧乾燥が特別な装置が不要で簡便に採用できる。本発明のヒドロゲルを構成するC−セルロースと水の重量比は1:9〜3:7の範囲にあるが、この重量比は、血液浄化器に血液を通液した際の圧力損失によるヒドロゲルの変形、およびこれに伴う圧密化を防ぐという観点から、C−セルロース類の割合が1/9以上あることが望ましく、さらに浄化速度の低下を防ぐという観点からC−セルロース類の割合が3/7以下にあることが望ましいことに基づく。
【0041】本発明の血液浄化器に収納されているヒドロゲル粒子の形状は球状であり、球状とは真球状のものはもちろんのこと、広く回転楕円体を含む。この種のヒドロゲルの平均粒子径に関しては、一般に血漿の如き細胞成分をほとんど含まない体液を処理する場合には、300μm以下のものが浄化速度が高いという観点から採用され、また、直接血液灌流方式で用いる場合には、血球成分の充分な通過流路を確保するために250〜1000μmのものが好ましく用いられている。本発明の球状ヒドロゲル粒子については、血球成分の通過性および浄化速度の両立の観点から300〜600μmのものがより好ましい。ここでいう平均粒子径とは、数平均粒子径のことを指し、たとえば実体顕微鏡にて10倍から50倍程度の倍率で20〜50個のヒドロゲル粒子の粒子径を観察・測定し、えられた測定値を平均することにより求められる。ヒドロゲル粒子が回転楕円体の場合は、その長径を粒子径とし、前述と同様の方法により平均粒子径を求める。粒子径が上述の範囲にあれば粒径分布に関しては特別な制限なく用いることが可能であるが、例えば特開昭63−117039号公報などに記載された振動法を用いて均一液滴を形成し、適切な条件で凝固させて作製される粒径分布の狭い粒子は特に直接血液灌流方式で用いる場合好ましい。
【0042】本発明のC−セルロース類からなるヒドロゲル粒子を作製する方法としては、セルロース類をC−セルロース類としたのち成形してヒドロゲル粒子とする方法、セルロース類のヒドロゲル粒子を作製してこれにlogP値が2.50以上の化合物を固定する方法のいずれの方法も可能である。
【0043】具体的にセルロース類をC−セルロース類としたのち成形してヒドロゲル粒子とする方法を挙げると、セルロース類にlogP値が2.50以上の化合物を固定してC−セルロース類としたのち、該C−セルロース類を溶剤に溶かして溶液化した後、液滴化し凝固させてヒドロゲル粒子とする方法、また該C−セルロース類を溶液化するのに適当な溶剤がない場合は、C−セルロース類に対しさらにエステル化やエーテル化を行い溶剤に溶けやすいものとしたのち、ヒドロゲル粒子とする方法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0044】セルロース類のヒドロゲル粒子を作製してこれにlogP値が2.50以上の化合物を固定する方法において、セルロース類のヒドロゲル粒子を作製する方法としては、セルロース類を溶剤に溶解した後、液滴化し凝固させてヒドロゲル粒子を作製する方法が挙げられるが、セルロース類としてセルロース誘導体を用いる方法が溶剤の種類が多様化するために製造条件の選択範囲も広くなり、好ましく用いられる。セルロース誘導体としては、前述のセルロースの水酸基の一部または全部がエステル化および/またはエーテル化されたものが挙げられるが、なかでも酢酸セルロース、プロピオン酸セルロースなどのセルロースエステルが多種の溶剤に溶解するためより好ましく用いられる。これらのセルロース誘導体をヒドロゲル粒子化したのち、そのままあるいは必要に応じ加水分解反応を行った後、logP値が2.5以上の化合物を固定することによりC−セルロース類のヒドロゲル粒子が作製される。
【0045】本発明の血液浄化器は上述のヒドロゲルを血液の入口と出口を有し、少なくとも出口側には血液は通過するがヒドロゲルは通過できないヒドロゲルの容器外への流出防止具を装着した容器に収納したものである。ヒドロゲルの流出防止具としては、メッシュ、不織布、線栓などのフィルターが挙げられ、その材質としてはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステルなどが使用できる。また、容器の形状、材質、大きさにはとくに限定はないが、好ましい具体例としては、たとえば容器150〜500ml程度、直径4〜10cm程度の透明または半透明の筒状容器などがあげられる。その素材としては耐滅菌性を有するものが好ましい。具体的にはシリコーンコートされたガラス、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられるが、ポリプロピレンやポリカーボネートは成型性、強度、耐薬品性等も良好であり好ましく、さらにポリカーボネートは透明性が高く、使用前、使用中及び使用後の血液浄化器内部の異状が目視にて確認されることから特に好ましく用いられる。
【0046】本発明の血液浄化器に収納されているヒドロゲル粒子の個数は単位体積あたりに含まれるヒドロゲル粒子の個数より、血液浄化器の体積あたりに換算して求めることが可能である。ヒドロゲル粒子の個数が70万個より少ないと、充分な浄化能力を得ることができない。また2000万個より多く収納しようとすると、血液浄化器の体積が500mlを超えるような大きさとなるため、体外循環血液量が非常に多くなり患者への負担が大きくなると言う点から実用的でない。
【0047】また、容器のヒドロゲル収納スペースに対するヒドロゲル収納体積の比率に特に制限はなく、たとえば収納スペースにその50%程度の体積のヒドロゲルを収納してもよいし、収納スペースにほぼ等しい体積のヒドロゲルを収納してもよいが、後者の如く収納スペース全体にヒドロゲルを充填する方法が、不必要な体外循環血液量の増加を招かず好ましい。
【0048】本発明の血液浄化器の一実施例を図1に示す。しかしながら、本発明の血液浄化器はこのような具体例に限定されるものではない。
【0049】図1において、1は円筒状の容器本体であり、容器本体1の上部開口および下部開口はそれぞれ上部蓋部材2および下部蓋部材4で液密に密閉されている。上部蓋部材2には血液流入側ノズル3、下部蓋部材4には血液流出側ノズル5が設けられている。7はメッシュ枠6に設けられたメッシュである。血液流入側のメッシュは省略してもよい。8は水溶液(充填液)、9は球状ヒドロゲルである。
【0050】本発明の血液浄化器中にC−セルロース類からなるヒドロゲルとともに収納される水溶液、すなわち充填液は、人体に対して悪影響を与えないものであれば基本的にはどのような水溶液でも構わないが、滅菌時のヒドロゲルへのダメージを防ぐためにpH5から8の範囲にあることが好ましい。また、滅菌時の温度変化などにより血液浄化器内のpHが変動すること懸念される場合には、pHに対して緩衝作用を持つ化合物の水溶液を用いることにより充填液のpHの変動幅を小さくすることが可能となり、充填液として緩衝液が好ましく用いられる。前記化合物の具体例としてはリン酸、酢酸、マレイン酸、クエン酸、ホウ酸、酒石酸、グリシンなど、あるいはこれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などのように人体に安全なものが好ましく、これらは単独で用いてもよく、2種以上併用して用いてもよい。さらに、前記化合物としてクエン酸とクエン酸ナトリウムを用いた水溶液は市販の血漿灌流用血液浄化器の充填液としての実績もあり好ましく用いられる。
【0051】本発明の血液浄化器の滅菌方法の具体例としては、高圧蒸気滅菌やγ線滅菌、水溶性薬剤による滅菌などが挙げられるが、水の存在下菌を死滅させることができる方法であれば特別な制限なしに行われる。なかでも高圧蒸気滅菌は、該ヒドロゲルに大きなダメージを与えることもなく、また特別な薬剤も使用しないため有害な薬剤の残留もなく好ましく用いられる。
【0052】本発明の血液浄化器は前述のごとく血漿を灌流する方法、血液を直接灌流する方法のいずれにも用いることが可能であり、さらに本発明の血液浄化器のみを血液回路内に組み込み単独使用すること、また血液透析器や血液吸着器等の他の血液浄化器と併用することも可能である。
【0053】本発明の血液浄化器を血液透析器と併用する場合には直列接続および並列接続のいずれの方法でも使用できるが、血液回路の複雑化や操作の煩雑化を招かない直列接続は簡便に好ましく用いられる。本発明の血液浄化器と血液透析器とを直列に接続した血液浄化装置は血液透析だけでは除去不充分なβ2−ミクログロブリンをはじめとする小分子量蛋白の除去を行うことが可能であり、操作も容易であり、且つ余分な補液も必要としない簡便なシステムであり、腎不全患者の血液を浄化するのに好適なシステムである。なお、直列接続であるならば、本発明の血液浄化器と血液透析器のいずれが上流側にあってもかまわない。
【0054】本発明の血液浄化装置の一実施例を図2に、他の実施例を図3に示す。
【0055】図2において、10は血液ポンプ11を含む動脈回路であり、動脈回路10の下流方向に本発明の血液浄化器12および血液透析器13がこの順序で直列に接続されている。血液透析器13は静脈回路14に接続されている。15はドリップチャンバである。図2において矢印は血液の流れる方向を示す。
【0056】図3に示される血液浄化装置の実施例においては、動脈回路10の下流方向に血液透析器13および血液浄化器12がこの順序で直列に接続されている。
【0057】以下、腎不全患者の血液の浄化におけるβ2−ミクログロブリンの除去に関する具体的な実施例にて本発明の効果を示すが、本発明の血液浄化器の使用態様はこれらのみに限定されるものではない。
【0058】実施例1市販の酢酸セルロースをジメチルスルホキシドとプロピレングリコールの混合溶剤に溶解し、この溶液を特開昭63−117039号公報に記載された方法(振動法)により液滴化し、凝固させて、酢酸セルロースの球形のヒドロゲル粒子を得た。このヒドロゲル粒子を水酸化ナトリウム水溶液と混和し、加水分解反応を行い、セルロースのヒドロゲル粒子を得た。次に、水酸化ナトリウム水溶液中でエピクロルヒドリンを反応させ、ついでアルコール水溶液中でヘキサデシルアミンを反応させてヘキサデシルアミンを固定したセルロースの球状ヒドロゲル粒子(平均粒子径460μm)を得た。
【0059】このヘキサデシルアミンを固定したセルロース(固定量:175μmol/g−乾燥重量)の球状ヒドロゲルにおいて、ヘキサデシルアミンを固定したセルロースと水との重量比は2:8であり、球状ヒドロゲルの沈降体積1ml中に含まれるゲル粒子の個数を数えたところ、9,800個であった。
【0060】このヒドロゲルを血液の入口側、出口側いずれにも150μmの目開きのメッシュ(材質:ポリエステル)を装着した350mlの透明容器(材質:ポリカーボネート)に充填し(容器内ゲル個数計算値:343万個)、充填液としてpH6から6.5に調製した500ppmのクエン酸とクエン酸ナトリウムとからなる緩衝液を充填し、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行い血液浄化器を作製した。
【0061】この血液浄化器を生理食塩液1リットル、ついでヘパリン10U/mlを添加した生理食塩液1リットルで洗浄した後、図2に示す如く血液透析器(Filtral 16、ホスパル社製)と直列につなぎ、通常の血液透析時の血液流量(200ml/分)で患者血液の体外循環を施行した。体外循環前と体外循環4時間経過時の血液中のβ2−ミクログロブリン濃度をRIA・2抗体法にて測定した。尚、4時間経過時の血液は図2R>2において血液浄化器の上流側より採取した。体外循環前には39.4mg/lであったものが、4時間後には7.7mg/lまで低下した。また、血液浄化器前後と血液透析器後のβ2−ミクログロブリン濃度の時間的な推移から、β2−ミクログロブリン除去量は、血液浄化器により239mg、血液浄化装置により263mgと算出された。
【0062】実施例2実施例1と同様に作製、洗浄した血液浄化器を図3に示す如く血液透析器(Filtral 16、ホスパル社製)と直列につなぎ、通常の血液透析時の血液流量(200ml/分)で患者血液の体外循環を施行した。体外循環前と体外循環4時間経過時の血液中のβ2−ミクログロブリン濃度をRIA・2抗体法にて測定した。尚、4時間経過時の血液は図3において血液透析器の上流側より採取した。体外循環前には32.6mg/lであったものが、4時間後には7.5mg/lまで低下した。また、血液透析器前と血液浄化器後のβ2−ミクログロブリン濃度の時間的な推移から、β2−ミクログロブリン除去量は、血液浄化装置により258mgと算出された。
【0063】実施例3実施例1と同様に作製、洗浄した血液浄化器を図2に示す如く血液透析器(BK−1.6P、東レ(株)製)と直列につなぎ、通常の血液透析時の血液流量(200ml/分)で患者血液の体外循環を施行した。体外循環前と体外循環4時間経過時の血液中のβ2−ミクログロブリン濃度をRIA・2抗体法にて、リゾチーム濃度を比濁法にて、ミオグロビン濃度をRIA・PEG法にて測定したところ、体外循環前のβ2−ミクログロブリン、リゾチームおよびミオグロビン濃度はそれぞれ41.5mg/l、46.0mg/lおよび711.0ng/mlであり、体外循環4時間後ではそれぞれ11.5mg/l、17.8mg/lおよび212.5ng/mlであった。
【0064】比較例実施例3で示した同一の患者に4時間の血液透析(血液透析器:BK−1.6P、東レ(株)製)を施行した。血液透析前と血液透析4時間経過時の血液中のβ2ミクログロブリン濃度をRIA・2抗体法にて、リゾチーム濃度を比濁法にて、ミオグロビン濃度をRIA・PEG法にて測定したところ、血液透析前のβ2−ミクログロブリン、リゾチームおよびミオグロビン濃度はそれぞれ32.1mg/l、43.0mg/lおよび567.0ng/mlであり、血液透析4時間後ではそれぞれ22.4mg/l、34.0mg/lおよび286.9ng/mlであった。
【0065】これらの結果から本発明の血液浄化器および血液浄化装置は、β2−ミクログロブリンに代表される小分子量蛋白を充分に除去することが可能な、安全で簡易な血液浄化器および血液浄化装置であることがわかる。
【0066】
【発明の効果】本発明の血液浄化器および血液浄化装置により、血液中のβ2−ミクログロブリンをはじめとする小分子量蛋白を安全かつ簡便に高効率で除去できるという効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の血液浄化器の一実施例を示す一部断面側面図である。
【図2】本発明の血液浄化装置の一実施例を示す概略説明図である。
【図3】本発明の血液浄化装置の他の実施例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
1 容器本体
2 上部蓋部材
3 血液流入側ノズル
4 下部蓋部材
5 血液流出側ノズル
6 メッシュ枠
7 メッシュ
8 水溶液
9 球状ヒドロゲル
10 動脈回路
11 血液ポンプ
12 血液浄化器
13 血液透析器
14 静脈回路
15 ドリップチャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 logP(Pはオクタノール−水系での分配係数)値が2.50以上の化合物を固定したセルロース類と水の重量比が1:9から3:7の範囲にあり、平均粒子径が300から600μmの球状ヒドロゲルが、血液の入口と出口を有し、少なくとも出口側には血液は通過するがヒドロゲルは通過できないヒドロゲルの流出防止具を装着した容器に70万から2000万個、水溶液とともに収納されており、該容器は密閉され、少なくともその内部が滅菌されていることを特徴とする血液浄化器。
【請求項2】 logP値が2.50以上の化合物が炭素数8〜18個の炭化水素部位を有する化合物である請求項1記載の血液浄化器。
【請求項3】 容器内の水溶液のpHが5から8の範囲にある水溶液である請求項1または2記載の血液浄化器。
【請求項4】 容器内の水溶液がpHに対して緩衝作用を持つ化合物の水溶液である請求項1または2記載の血液浄化器。
【請求項5】 容器内の水溶液がクエン酸とクエン酸ナトリウムを含有する水溶液である請求項1または2記載の血液浄化器。
【請求項6】 入口と出口を有する容器の一部または全体が透明性を有する樹脂成型品からなる請求項1または2記載の血液浄化器。
【請求項7】 請求項1から6のいずれかに記載の血液浄化器を血液透析器と接続してなる血液浄化装置。
【請求項8】 血液浄化器と血液透析器が直列に接続されている請求項7記載の血液浄化装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開平9−266948
【公開日】平成9年(1997)10月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−16983
【出願日】平成9年(1997)1月30日
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)