説明

血液浄化器

【課題】生体適合性に優れ、分画性に優れ、かつ耐衝撃性にも優れる血液浄化器を提供すること。
【解決手段】血液の導入口及び導出口を有する容器と、該容器の内部に装填された、親水性高分子を含有するポリスルホン系高分子からなる中空糸膜の束と、該容器の内部を満たす保存液と、を備える、滅菌された血液浄化器であって、ポリスルホン系高分子に対する親水性高分子の質量割合が0.20以上0.24以下であり、中空糸膜の膜厚が25μm以上39μm以下であり、中空糸膜が紡糸原液の吐出速度が20m/分以上40m/分以下で形成されたものであり、かつ質量割合、膜厚及び吐出速度が、下記式:150<(質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)<280を満たす、血液浄化器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、その高い生体適合性と安価な製造コストから、透析器内に装填される中空糸膜の素材には、ポリスルホン系ポリマー(PS系)が広く用いられている。PS系には、血液との親和性を上げるために親水性ポリマーが添加されることが多い。親水性ポリマーにはポリビニルピロリドンやポリエチレングリコール等が主に用いられている(特許文献1)。
【0003】
中空糸膜の特性は、素材ごとに大きく変化するため、他の素材から構成される中空糸膜の開発で得られた様々な知見をPS系中空糸膜にそのまま適用することはできない。透析治療に適した最適物性をPS系中空糸膜で得るために日夜試行錯誤が続けられている。
【0004】
他方、素材とは別に、近年、その軽量性や取扱い容易性から、ドライタイプの透析器が広く用いられるようになってきている。ドライタイプの透析器とは、透析容器内に抗酸化剤を含有する水溶液などの液体が充填されていない透析器である(特許文献2)。
【0005】
これに対し、透析容器内に保存液(抗酸化剤を含有する水溶液などの液体)が充填された透析器を「ウェットタイプの透析器」という。ウェットタイプの透析器は、高い生体適合性や保存安定性を有し、安定した治療を実現することができる。ドライタイプとウェットタイプでは中空糸膜の置かれる環境が大きく異なり、それぞれの環境に最適な中空糸膜の開発が進められているので、素材と同様、ドライタイプの中空糸膜の開発で得られた様々な知見をウェットタイプの中空糸膜にそのまま適用することはできない。ドライタイプと比較して軽量性や取扱い容易性には劣るものの、その高い生体適合性や保存安定性、そして長期にわたり使用されてきた実績から、ウェットタイプは依然として必要不可欠な透析器であり、より良いウェットタイプの透析器を作製するために日夜試行錯誤が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−309356号公報
【特許文献2】国際公開第2009/072548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年ではアミロイド骨関節症を引き起こさないために、ポリスルホン系の透析膜ではβ−マイクログロブリン(以下、βMG)(分子量11,800)を除去することが一般的になってきている。ところが、腎障害、特に重篤な尿細管障害では、血清や尿中のβMGだけでなくα−マイクログロブリン(以下、αMG)濃度が上昇することが知られている。したがって、重篤な腎障害を抑制するためには血液中のαMG(分子量約33,000)を効率よく除去できる膜が必要である。しかしながら、分子量が大きいαMGの除去性能を向上させようとすると人体に極めて有用なアルブミン(分子量約66,000)の損失も大きくなるという問題がある。そのため、アルブミンの損失が小さく、かつαMG及びβMGを効率よく除去できる、分画性に優れる透析膜が求められている。
【0008】
また、現在、血液浄化器においては、リークリスクの少ない耐衝撃性の高い製品設計も求められている。
【0009】
そこで本発明は、生体適合性に優れ、分画性に優れ、かつ耐衝撃性にも優れる血液浄化器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のものに関する。
[1]
血液の導入口及び導出口を有する容器と、
該容器の内部に装填された、親水性高分子を含有するポリスルホン系高分子からなる中空糸膜の束と、
該容器の内部を満たす保存液と、を備える、滅菌された血液浄化器であって、
前記ポリスルホン系高分子に対する前記親水性高分子の質量割合が0.20以上0.24以下であり、
前記中空糸膜の膜厚が25μm以上39μm以下であり、
前記中空糸膜が紡糸原液の吐出速度が20m/分以上40m/分以下で形成されたものであり、かつ
前記質量割合、前記膜厚及び前記吐出速度が、下記式:
150<(質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)<280
を満たす、血液浄化器。
[2]
返血性指標値が0.01以下である、[1]に記載の血液浄化器。
[3]
膜面積を1.5mに換算したときのβ−マイクログロブリンの篩係数が0.90を超える、[1]又は[2]に記載の血液浄化器。
[4]
膜面積を1.5mに換算したときのアルブミンの篩係数が0.01未満である、[1]〜[3]のいずれかに記載の血液浄化器。
[5]
膜面積を1.5mに換算したときのβ−マイクログロブリンのクリアランス(βMG−CL)が60mL/分以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の血液浄化器。
[6]
膜面積を1.5mに換算したときのα1-マイクログロブリンのクリアランス(αMG−CL)が5mL/分以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の血液浄化器。
[7]
膜面積を1.5mに換算したときのアルブミンの漏出量(Alb−loss)が、0.05g以上1.5g以下である、[1]〜[6]のいずれかに記載の血液浄化器。
[8]
β−マイクログロブリンのクリアランス(βMG−CL)と、アルブミンの漏出量(Alb−loss)との比が60以上である、[1]〜[7]のいずれかに記載の血液浄化器。
[9]
α1-マイクログロブリンのクリアランス(αMG−CL)と、アルブミンの漏出量(Alb−loss)との比が10以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載の血液浄化器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体適合性に優れ、分画性に優れ、かつ耐衝撃性にも優れる血液浄化器が提供される。すなわち、本発明の血液処理器は、上記質量割合、上記膜厚及び上記吐出速度が所定の範囲内にあり、かつこれらの積が所定の範囲内にあることにより、βMGだけでなくαMGを高度に除去でき、かつアルブミンは保持できるという分画性に優れており、耐衝撃性にも優れている。また、ウェットタイプであるため生体適合性にも優れる。
【0012】
特に、ウェットタイプの製品では製品輸送時の液揺れ等により糸に応力がかかり中空糸膜が途中で切れてしまうという特有の課題がある。本発明の血液浄化器は、中空糸膜を薄膜(39μm以下)にしても耐衝撃性が維持されるという顕著な効果を奏する。また、薄膜化が可能であるため、コンパクト化及び軽量化も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る血液浄化器を示す模式断面図である。
【図2】3成分ポリマー溶液の組成図である。
【図3】3成分ポリマー溶液の最適濃度範囲を示す組成図である。
【図4】一実施形態に係るチューブインオリフィス型の紡糸口金(ノズル)を示す模式断面図である。
【図5】実施例及び比較例におけるβMG−CLとAlb−lossとの関係を示す図である。
【図6】実施例及び比較例におけるαMG−CLとAlb−lossとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
図1は、一実施形態に係る血液浄化器の模式断面図である。血液処理器10は、容器2の長手方向に沿って、複数の中空糸膜1からなる中空糸膜束が装填されている。当該中空糸膜束は、中空糸膜1の内側(第1の流路1a)と外側(第2の流路11)とを隔絶するように、その両端部がポッティング剤の硬化物3a、3bによって、容器2の両端部に固定されている。本実施形態に係る血液浄化器は、その使用前は、空間8、第1の流路1a及び第2の流路11に保存液が満たされている。保存液は、抗酸化剤を含有する水溶液などの液体である。
【0016】
中空糸膜1の端面は開口しており、血液が矢印Fbの方向から空間8を経て第1の流路1a内へ流入する。第1の流路1aを通過した血液は、他方の端面の開口部から流出する。容器2の両端部には、表面に中空糸膜1の開口部を有するポッティング剤の硬化物3a,3bの端面に対向して、血液の導入口及び導出口となる、ノズル6a,6bを備えたヘッダー7a,7bが設けられている。
【0017】
容器2の両端部の側面には、透析液等の流入口及び流出口となるノズル2a,2bが設けられている。透析液等は、ノズル2bより矢印Faの方向から流入し、第2の流路11の内部を通過し、ノズル2aから外部へ流出する。透析液等は、第2の流路11の内部を通過しながら、中空糸膜1を介して、第1の流路1aの内部を流れる血液から、αMG及びβMG等を除去する。
【0018】
本実施形態に係る血液浄化器に充填する中空糸膜は、従来、一般的に知られている乾湿式製膜技術を利用して製造することができる。すなわち、まず、ポリスルホン系高分子と親水性高分子とを、両者を共に溶解する共通溶媒に溶解し、均一な紡糸原液を調製する。このような共通溶媒としては、ポリスルホン系高分子及び親水性高分子を共に溶解するものであればよく、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMAC)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジオキサン等の溶媒、あるいは上記2種以上の混合液からなる溶媒が挙げられる。また、孔径制御を目的として、紡糸原液には水などの非溶媒を加えてもよい。
【0019】
ここで、ポリスルホン系高分子とは、スルホン結合を有する高分子化合物の総称であり、これに限定されるものではないが、例えば、繰返し単位が下記の式(1)、式(2)、式(3)、式(4)及び式(5)で示されるポリスルホン系ポリマーが挙げられる。これらの芳香環の一部に置換基が導入された修飾ポリマーであっても構わない。工業的な入手し易さから、繰返し単位が式(1)、式(2)及び式(3)で示される芳香族ポリスルホン系ポリマーが好ましく、中でも(1)式で示す化学構造を持つポリスルホンが特に好ましい。このビスフェノール型ポリスルホン樹脂は、例えばソルベイ・アドバンスド・ポリマーズより「ユーデル(登録商標)」の商品名で市販されており、重合度等によっていくつかの種類が存在するが特に限定するものではない。
【0020】
【化1】

【0021】
さらに、親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、中でもPVPが親水化の効果や安全性の面より好ましい。
【0022】
以下、ポリスルホン系高分子としてPSfを、親水性高分子としてPVPを用いる場合を例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
PVPは分子量等によっていくつかの種類が存在し、例えば、市販品としてPVPのK−30、85、115(いずれもビー・エー・エス・エフ社製)等を挙げることができる。本実施形態において、使用するPVPの分子量(粘度平均分子量)は1万〜200万、好ましくは5万〜150万である。中空糸膜内表面のPVP含有率は膜の親水化に大きく影響し含有率が小さいと血液抵抗性が上がる傾向にあり好ましくない。そのため、中空糸膜内表面のPVP含有率は30%以上が好ましく、33%以上がより好ましい。ただし、PVP含有率が高すぎると血液への漏えいが多くなりかえって生体適合性が劣る傾向がある。そのため、中空糸膜内表面のPVP含有率は45%以下が好ましく、42%以下がより好ましい。
【0024】
中空糸を製膜するに際しては、チューブインオリフィス型の紡糸口金を用いることができる。図4は、一実施形態に係るチューブインオリフィス型の紡糸口金(ノズル)の模式断面図である。該紡糸口金のオリフィスから紡糸原液21を、チューブから該紡糸原液を凝固させるための中空内液22とを同時に空中に吐出させる。中空内液としては、水又は水を主体とした凝固液が使用でき、目的とする中空糸の膜性能に応じてその組成等は決めていけば良く一概には決められないが、一般的には紡糸原液に使った溶媒と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、0〜60質量%のDMAC水溶液などが用いられる。紡糸口金から中空内液とともに吐出された紡糸原液は、空走部を走行させ、紡糸口金下部に設置した水を主体とする凝固浴中へ導入、浸漬して凝固を完了させる。さらに、例えば洗浄工程等を経て、乾燥工程に導入することで本実施形態に係る血液浄化器に装填する血液浄化膜が得られる。
【0025】
さらに、拡散性の向上、及び耐衝撃性の向上のために乾燥後の中空糸に、クリンプ、あるいは捲縮、ウェービングと言われる形状を付与された形状を形成することが好ましい。クリンプの波長、周期を調整することで同膜面積の中空糸膜束で嵩だか性が変わり生産性、拡散性、耐衝撃性に大きな影響を与えたるめ、容器形状に合わせて適したクリンプを選択する。
【0026】
本実施形態に係る中空糸膜型血液浄化器の製造についても公知の方法を利用できる。例えば、上記の中空糸膜から構成される中空糸膜束を流体の出入り口(導入口及び導出口)を持つ筒状のプラスチック容器へ挿入し、ポッティング剤を注入して束端と容器との間を該ポッティング剤により両端をシールした後、硬化後の余分なポッティング剤を切断除去し中空糸端面を開口させ、流体の出入り口を持つヘッダーを取り付けることによって製造できる。容器の形状としては、例えば旭化成クラレメディカル(株)社製APS−SAシリーズに代表される形状であり、中空糸膜束の膜面積、充填率によって任意のサイズを選択し製造する。充填率を高くするほど中空糸膜面積当たりの容器サイズを小さくすることができ省エネの観点から望ましいが、充填率が高すぎると容器への中空糸膜束の挿入時に中空糸と容器内側面とが強く接触するおそれや、容器内に折れ曲がった状態のままポッティング剤で固定されることによりリークリスクが大きくなるおそれがあるため、適切な充填率を選択する。
【0027】
上記の血液浄化器に、例えば、純水に、抗酸化剤としてピロ亜硫酸ナトリウム、又はアセトンソジウムバイサルファイト等の水溶性の物質を溶存させた保存液を充填し、施栓後、滅菌を行う。また、滅菌操作は、γ線又は電子線を照射する放射線滅菌等の滅菌方法を、任意に選択し使用することができる。
【0028】
本実施形態に係る血液浄化器の滅菌は、抗酸化剤を含有する溶液などの保存液を容器の内部に充填した状態で放射線照射して行うことが好ましい。溶液を充填した状態で放射線照射を行うことにより、ドライタイプでの各部位の吸収線量のばらつきに比べて均一な吸収線量となりやすく局部的に損傷をうける可能性が減っていると考えられる。このため、膜厚の薄い中空糸膜を充填したウェットタイプでもリークリスクを十分小さくすることが可能である。
【0029】
本実施形態に係る血液浄化器に装填されている血液浄化膜(多孔質中空糸膜)は、膜厚が25μm以上39μmであり、、より好ましくは30μm以上35μmである。なお、PSfを用いたドライタイプの血液処理膜の場合、膜厚が40μmより小さいものは既に知られているが、ウェットタイプでは実用化にまで至っているものはなく、ビスフェノール型のPSf(Bis−PSf)で40μm以上50μm以下である。
【0030】
血液浄化膜(多孔質中空糸膜)は、その内径が100〜250μmであることが好ましく、150〜200μmであることがより好ましい。内径が100μm未満では、中空糸膜の中空部内に血液を流したときに、剪断速度や圧力損失の上昇によって溶血が増加する傾向にある。内径が250μmを超えると、低分子量タンパク質の総括物質移動係数が低下する傾向がある。
【0031】
血液浄化器は人体からの血液と接しまた体内へ戻すため生体適合性が高いことが好ましい。生体適合性の指標の一つとして血液循環後の返血性が挙げられる。返血性が悪いことは、中空糸膜が血液に対して刺激となり血液の凝固が起こりやすいことを示しており、返血性が悪いほど生体適合性が悪い膜であるといえる。検討の結果、返血性指標値が、0.02以下であれば生体適合性が良く、0.01以下であることがさらに好ましいことを見出した。
【0032】
なお、本明細書において、「返血性指標値」とは、血液処理器の血液側に牛血漿を10分間循環した後、生理食塩水250mLを用いて返血した場合に、返血生理食塩水量が200mL〜210mLとなる間の10mLに含まれるヘモグロビン量と元の牛血漿中のヘモグロビン量との比を意味する。
【0033】
本実施形態に係る血液浄化器は、アミロイド骨関節症の原因物質であるβMGの篩係数は0.90を超えることが好ましく、0.95を超えることがより好ましい。また、牛血漿循環60分後のアルブミンの篩係数が0.01未満であることが好ましく、0.008未満であることがより好ましい。さらに、一般に透析開始直後はアルブミンの漏出が多くそれが患者の体調の悪化の要因の1つとなっている。そのため、牛血漿循環15分後のアルブミンの篩係数も0.01以下であることが好ましく、0.008以下であることがより好ましい。上記篩係数は、膜面積を1.5mに換算したときの値である。
【0034】
βMGの篩係数、及びアルブミンの篩係数は、日本透析医学会の定める血液透析器の性能評価法に従った性能評価法により求めることができる。具体的には、例えば、血液浄化器の血液側にβMGを含む溶液、又は牛血漿(アルブミンを含む)を循環させ、循環開始60分後に血液側入口(Bin)、血液側出口(Bout)、濾液側(F)より溶液をサンプリングし、各サンプルの溶質(βMG又はアルブミン)濃度から、下記式によって求めることができる。
SC(みかけの篩係数)=2×CF/(CBin+CBout
CBin:血液側入口の溶質濃度
CBout:血液側出口の溶質濃度
CF:濾液側の溶質濃度
【0035】
また、ここでの評価は実際に病院で多く用いられる1.5mの透析器あるいは、その前後の1.4m〜1.6mの透析器として評価することが望ましいが、中空糸束あるいは容器サイズなどの事情により作製不能な場合、膜面積を計算により換算することで、この関係を満たすか否かを判断することができる。
【0036】
ここで、本発明でいう分画性とは、βMG−CLと、アルブミンの損失指数(漏出量)(以下、Alb−loss)との比、又はαMG−CLと、Alb−lossとの比を指す。従来、血液透析膜等の分画性といえば、血中から除去すべきβMGと血中に残すべきアルブミンとの透過率比を論じることが多かったが、高性能化が進んでいるPSf中空糸膜にあっては数値が頭打ちとなって差異を見出し難く分画性を正確に表しているとは言い難い。また、本発明に係る中空糸膜のような薄膜では、βMGの除去に膜固有の拡散性も寄与していると考えられる。したがって、βMG−CLとAlb−lossとの比は分画性の指標として適している。さらに近年αMG領域のタンパク質の除去の必要性も着目されており、αMG−CLとAlb−lossとの比についても、高性能領域での分画性に優れる中空糸膜を的確に評価する指標として重要である。
【0037】
本実施形態に係る血液浄化膜(多孔質中空糸膜)においては、中空糸膜面積1.5m換算で、βMG−CLが60mL/分以上であることが好ましく、70mL/分以上がより好ましい。また、αMG−CLが5mL/分以上であることが好ましい。αMG−CLが小さいと、分子量30,000程度の物質の除去量が少ないため、透析合併症の予防効果や痒み・痛みといった臨床症状の改善効果を得られないことがある。したがって、αMG−CLは10mL/分以上がより好ましい。
【0038】
一方、アルブミンは生体にとって有用なタンパク質であり、臨床においては血液透析治療1回(除水量3L)あたりのAlb−lossは2g以下が適当と考えられている。Alb−lossが多すぎると、食事摂取量の少ない患者では低アルブミン血症などの障害を引き起こす可能性がある。したがって、牛血漿を用いた評価でのAlb−lossが1.5g以下であることが好ましく、1.0g以下が更に好ましい。逆に、生体内にはアルブミンに結合する毒素の存在も知られており、Alb−lossが少なすぎても、種々の障害を引き起こす可能性がある。したがって、牛血漿を用いた評価でのAlb−lossは0.05g以上が好ましく、0.1g以上がより好ましい。
【0039】
また、βMG及びαMGの除去性を高める意味でクリアランスは大きい方が好ましいが、それぞれのクリアランスに対して有用タンパクであるアルブミンの漏出量が大きくなってしまうことは好ましくない。そのため、本発明者らは、βMG−CLとAlb−lossの比、及びαMG−CLとAlb−lossの比が重要であると考える。鋭意研究した結果、βMG−CLとAlb−lossの比は60以上が好ましく、より好ましくは100以上である。αMG−CLとAlb−lossの比は10以上が好ましく、15以上がより好ましい。
【0040】
β−マイクログロブリンのクリアランス(βMG−CL)、及びα1-マイクログロブリンのクリアランス(αMG−CL)は、日本透析医学会の定める血液透析器の性能評価法に従った性能評価法により求めることができる。具体的には、例えば、血液浄化器の血液側にβMG及びαMGを含む牛血漿を循環させ、循環開始60分後、血液側には上記牛血漿を、透析液側には透析液を流し、流量安定後、それぞれの溶質(βMG及びαMG)の濃度から、下記式によって計算される値である。
CL(mL/分)=(QBin×CBin−QBout×CBout)/CBin
QBin:血液側入口流速
QBout:血液側出口流速
CBin:血液側入口の溶質濃度
CBout:血液側出口の溶質濃度
【0041】
アルブミンの漏出量(Alb−loss)は、日本透析医学会の定める血液透析器の性能評価法に従った性能評価法により求めることができる。具体的には、例えば、牛血漿を血液浄化器の血液側に流し、同時に透析液側に透析液を60分間流し循環し、循環後の透析液中のアルブミン量から下記式により計算される値である。
アルブミン漏出量(g)=透析液中濃度(g/L)×透析液量(L)
【0042】
血液浄化器は、製品状態での保管や移送を想定して、中空糸膜型血液浄化器がカートン内に横置きされた状態での耐落下衝撃性を考慮すると、一般的に、ドライタイプに比べて、ウェットタイプでは、落下衝撃により中空糸膜の周囲の水の移動が起こり、膜の端部に応力集中が生じやすいため、膜破損が起こるリスクが高い。そのため、ウェットタイプの中空糸膜を薄膜化するには中空糸膜の比強度の向上が必要であった。
【0043】
本発明者らは検討の結果、血液浄化器の分画性及び耐衝撃性に大きな影響を与える因子が、紡糸原液のPSfに対するPVPの質量割合[−]、中空糸膜厚[μm]、中空糸膜を形成する際の紡糸原液の吐出速度[m/分]の3項目であることを見出した。
【0044】
中空糸膜の成形にあたっては原液の組成による紡糸可能性が示されている(図2)。図2は、3成分(ポリマー、溶剤及び添加剤)ポリマー溶液の組成図である(日本膜学会編 膜学実験シリーズ 第III巻 人工膜編 p8参照)。図2に示されるようにポリマー濃度が高すぎるとポリマー溶液がゲル化してしまい成型不能である。一方、低すぎると十分な強度を持つ膜が得られない。また、添加剤の濃度が高すぎると相分離を起こしてしまい成型不能になる。よって、成形に用いることができる組成範囲は図2に示すIIIの均一溶解領域内でなければならない。しかしながら、実際の成形においては均一溶解領域にあっても紡糸可能な領域はさらに狭い領域となる。疎水性ポリマー(PSf)濃度は少なすぎると膜の形成が困難となり膜強度が小さくなる傾向にあり、多すぎると紡糸性が悪く孔径が小さくなりすぎてしまう傾向にあることから15〜20質量%が好ましい。また、親水性ポリマー(PVP)の添加量は中空糸成型後の内表面PVP量、透析時のPVP漏出量のバランスから2〜6質量%が好ましい。図3は、この範囲を図示した3成分ポリマー溶液の最適濃度範囲を示す組成図である。図3中斜線で示した領域がこの範囲に相当する。このそれぞれのポリマー濃度の範囲において、紡糸性・分画性に対して親水性ポリマーと疎水性ポリマーの質量比が重要であり、親水性ポリマーの割合が低いほど膜の電荷が負となり、表面電荷が負であるアルブミンの漏出を抑えることができる。しかし、親水性ポリマーの割合が少なすぎると血液適合性が悪化するため、親水性ポリマー質量/疎水性ポリマー質量が0.20以上0.24以下が好ましく、0.21以上0.23以下がより好ましい。
【0045】
また、中空糸膜の膜厚が小さいほど拡散性が上がり、βMGや小分子の除去量が増加する。さらに、中空糸周方向で内表面から外表面に向かうにつれPSfの構造が粗大化し太い骨格となっており、αMGの除去を阻害している。骨格の太さは内表面からの周方向の距離に依存しており、膜厚が大きいほど太い骨格を持つ。そのため膜厚は39μm以下が好ましく、35μm以下がさらに好ましい。一方、糸強度を保ち、落下衝撃等によるリークリスクを低減させるために25μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。
【0046】
分画性の高い中空糸膜の膜構造としてはシャープな孔径分布をもった膜であることが望ましい。孔径は紡糸原液・中空内液の組成、吐出から凝固浴での膜形成、乾燥による孔径の縮小、乾燥工程から巻き取り工程による延伸などで変化し、それらの影響を足し合わせた結果が最終的な孔径となる。吐出から凝固浴での膜形成には紡糸原液の吐出速度が大きく影響を与える。ここで吐出速度とは1分間当たりの吐出量を図4に示すノズルの原液吐出部の面積{π*((a/2)−(b/2))}で割った値であり、紡速すなわち巻き取り速度とは異なるのが一般的である。この速度差をドラフト比といい、ドラフト比が大きいほど中空糸は延伸される。しかし、乾燥による孔径の縮小やドラフト比による延伸では孔径分布のシャープさは変わらず、シャープな孔径分布を得るには吐出から凝固浴での膜形成においてシャープな孔径分布持った膜が望ましい。吐出速度が速すぎると中空糸膜内表面に引き裂かれたような構造が生じやすくなることや、同一中空糸内でも部位によるばらつきが大きくなりやすいことから孔径分布の制御が困難となる。また、図4に示すように原液はノズルから吐出後一度外側へ膨らむ。吐出速度が速いほどこの膨らみが大きくなり膜内部構造のばらつきを増加させる要因となる。しかし、吐出速度が低すぎると生産性の低下や、膜厚の低下を招くため吐出速度は20m/分以上40m/分以下が好ましく、25m/分以上35m/分以下がより好ましい。
【0047】
これらのパラメータは独立したものではなく、相互の関係が分画性及び耐衝撃性に影響を与えるため本発明者らはそれぞれのパラメータを掛け合わせた指標が重要であることを見出した。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)が150以下とはPSfに対するPVPの質量割合や膜厚の値が低すぎることを表し、生体適合性が悪かったり、必要な強度が得られない膜となる。また、280以上とはそれぞれの値が高すぎることを表し、分画性が悪い膜となる。そのため、
150<(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)<280
の範囲の中空糸が高分画性膜として適しており、高い分画性・強度・安全性をすべて満たしているかを知る一つの指標として用いることは有用である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[篩係数の測定]
血液浄化器の血液側に流速(QBin)200mL/分、濾過速度10mL/分/mの条件下で牛血漿を循環させ、循環開始60分後に血液側入口(Bin)、血液側出口(Bout)、濾液側(F)より血漿をサンプリングし各サンプルの溶質(βMG及びアルブミン)濃度を測定した。牛血漿は総蛋白質濃度を6.5±0.5g/dL(デシリットル)になるように調整したものを用い、βMG標品(栄研化学社製)を1mg/L(リットル)添加した。アルブミンはもともと牛血漿中に含まれるアルブミンを分析対象とした。βMG濃度の分析には全自動免疫化学分析装置LX−2200(栄研化学社製)を、アルブミン濃度の分析には、レーザーネフェロメーター(ベーリング社製)を用いた。下式により、それぞれの溶質の篩係数を算出した。
SC(みかけの篩係数)=2×CF/(CBin+CBout
CBin:血液側入口の溶質濃度
CBout:血液側出口の溶質濃度
CF:濾液側の溶質濃度
【0050】
[クリアランス(CL)の測定]
血液浄化器の血液側には総蛋白質濃度を6.5±0.5g/dL、βMG濃度及びαMG濃度が1mg/Lとなるように濃度を調整した牛血漿溶液を用いた。一方、透析液側には、透析液を流したが、トリスアミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液、イオン交換水を用いてもよい。
血液浄化器の血液側に流速(QBin)200mL/分、濾過速度10mL/分/mの条件下で牛血漿を循環させ、循環開始60分後、血液側には流速(QBin)200mL/分で上記牛血漿を、透析液側には流速(QDin)500mL/分で透析液を流し、濾過速度10mL/分/mの条件下で流量安定後、測定を実施した。下式によりそれぞれの溶質(βMG及びαMG)のクリアランスを算出した。
CL(mL/分)=(QBin×CBin−QBout×CBout)/CBin
QBin:血液側入口流速
QBout:血液側出口流速
CBin:血液側入口の溶質濃度
CBout:血液側出口の溶質濃度
ここで得られるクリアランスの数値は、血液側溶液中からどれくらいのβMG及びαMGが除去されたのかを示し、数値が大きいほど血液浄化器のβMG及びαMGの除去性能が高いことを示す。
【0051】
[アルブミン漏出量の測定]
総蛋白質濃度を6.5±0.5g/dLになるように調整した牛血漿2Lを血液側に流速(QBin)200mL/分で流し、同時に透析液側に透析液5Lを流速(QDin)500mL/分で、濾過速度10mL/分/mの条件で60分間流し循環し、循環後の透析液中のアルブミン量を測定した。アルブミンの分析にはCBB法(クマ−シープラスプロテインアッセイキット,PIERCE社製)を用いた。アルブミンの漏出量は以下の式により算出することができる。
アルブミン漏出量(g)=透析液中濃度(g/L)×透析液量(5L)
【0052】
[血液浄化器の耐衝撃試験]
血液処理器の運搬時の動揺を想定した試験として、全てのノズルにポリプロピレン製硬質栓を取り付けた血液浄化器にて落下試験を実施した。滅菌済みの血液浄化器を両ヘッダーを上下方向にした状態で、高さ75cmから落下させることにより衝撃を加えた。落下後に中空糸膜のリーク試験を行い、リークが発生するまで、あるいはのべ回数が10回に達するまで落下・リーク試験を繰り返した。
中空糸膜のリーク試験は、上記の血液浄化器に水を充填し、筒状容器の2つのノズルが上に向くように固定した状態でそれらノズルを開放し、さらに片方のヘッダーノズルから0.15MPaの圧縮空気で加圧した(この際、反対側のヘッダーノズルは閉止)。30秒観察し、その間に容器内に空気の漏れがない状態をリーク無し、空気の漏れがある状態をリークあり(NG)と判定した。
【0053】
[返血性試験]
血液側、透析液側を生理食塩水にて流量200mL/分で5分間洗浄した後に、血液側に牛血漿を200mL/分で10分間循環した。循環終了後生理食塩水を100mL/分で流し返血した。生理食塩水を250mL流した時点で終了した。
返血初めは100mLを採取し、そのあとは10mLずつサンプリングした。採取後はサンプルに注射用水を加えて溶血させて414nmで元液とのヘモグロビン量比を測定した。表1には、返血生理食塩水量が200mLから210mLとなる間の10mLに含まれるヘモグロビン量と元の牛血漿中のヘモグロビン量との比(返血性指標値)を示した。
【0054】
[実施例1]
PSf(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700)17質量部、PVP(ビー・エー・エス・エフ社製、ルピテック、K85)4質量部、ジメチルアセトアミド(以下、DMAC)79質量部からなる均一な紡糸原液を作製した。中空内液にはDMACの62%水溶液を用い、紡糸原液とともに、紡糸口金から吐出させた。その際、乾燥後の膜厚を35μm、内径を185μmに合わせるように紡糸原液及び中空内液の吐出量を調整した。吐出した紡糸原液を40cm下方に設けた水よりなる60℃の凝固浴に浸漬し、30m/分の速度で凝固工程、水洗工程(洗浄工程)を通過させた後に乾燥機に導入し、150℃で乾燥後、クリンプを付与したポリスルホン系中空糸膜を巻き取った。
【0055】
次に、巻き取った10,000本の中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積が1.5mとなるように設計したプラスチック製筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した後、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。中空糸及び容器内に抗酸化剤溶液を充填後、血液流出入側ノズル及び透析液流出入側ノズルに栓を施した後、γ線を25kGy照射して有効膜面積1.5mの中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は208であり、適切な条件である。牛血漿での評価結果でも、βMG−CLが76.1(mL/分)と非常に高い値でありながらAlb−lossも1.2(g)と小さい値を保っている。また、αMG−CLも18.9(mL/分)と高い除去能を示している。さらに、返血性指標値についても十分に低い値であり生体適合性に優れている。耐衝撃性についても、10回の落下試験後でもリークは発生しなかった。
【0057】
[実施例2]
中空内液をDMACの56%水溶液としたこと以外は、実施例1と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化きを用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は211であり、適切な条件である。実施例1に比べてβMG−CLが低いが、分画性を示すβMG−CL/Alb−loss、αMG−CL/Alb−lossは実施例1よりも高い。また、返血性指標値についても十分に低い値であり生体適合性に優れている。耐衝撃性についても、10回の落下試験後でもリークは発生しなかった。
【0058】
[実施例3]
PSf(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700)17質量部の代わりにPES(住友化学社製、スミカエクセル4800P)17質量部を用い、中空内液をDMACの57%水溶液としたこと以外は、実施例1と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は209であり、適切な条件である。実施例2に比べて若干βMG−CL/Alb−loss、αMG−CL/Alb−lossが低いが十分分画性が高く、生体適合性もいい。耐衝撃性についても、10回の落下試験後でもリークは発生しなかった。
【0059】
[実施例4]
乾燥後の膜厚を25μmとしたこと以外は、実施例2と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は151であり、適切な条件である。実施例2と比べてより高い分画性を示した。また、返血性指標値についても十分に低い値であり生体適合性に優れている。耐衝撃性についても、10回の落下試験後でもリークは発生しなかった。
【0060】
[比較例1]
中空内液をDMACの61%水溶液とし、乾燥後の膜厚を45μmとしたこと以外は、実施例1と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は330であり、膜厚が大きいことから高い値となっている。牛血漿での結果も実施例1と比較して返血性試験結果は同等であるが、Alb−lossが大きく、βMG−CL/Alb−loss、αMG−CL/Alb−lossが低く求める分画性が得られなかった。
【0061】
[比較例2]
中空内液をDMACの57%水溶液としたこと以外は、比較例1と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は325であり、膜厚が大きいことから高い値となっている。比較例1よりはAlb−lossが小さく、分画性すなわちβMG−CL/Alb−lossは高いもののαMG−CLが極端に低くなりαMG−CL/Alb−lossが低く求める分画性が得られなかった。
【0062】
[比較例3]
ウレタン樹脂固定切断後、開口端から濃度28.2%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液を中空糸膜内に2.3秒間注入し、0.3MPaのエアーで10秒間フラッシュさせた後、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。抗酸化剤溶液を充填せず血液流出入側ノズルに栓を施した後、滅菌袋に入れ、電子線を25kGy照射したこと以外は、実施例3と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は229であり、適切な範囲に入っている。しかしながら、ドライタイプであるため、実施例1と比較して分画性は同等であったが、返血性指標値が高く生体適合性に劣っている。
【0063】
[比較例4]
PSf(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700)17質量部の代わりにPES(住友化学社製、スミカエクセル4800P)17質量部を用い、膜厚を40μmとしたこと以外は比較例3と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は310であり、膜厚が大きいことから高い値となっている。比較例3と比べてαMG−CLが低くαMG−CL/Alb−lossも低いため求める分画性は得られていない。また、比較例3同様返血性指標値が高く生体適合性に劣っている。
【0064】
[比較例5]
膜厚を20μmとしたこと以外は、実施例2と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は119であり、膜厚が小さいことから低い値となっている。分画性、返血性指標値は良好な結果であったが5回の落下でリークが発生し、十分な耐衝撃性を得られなかった。
【0065】
[比較例6]
PSf(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700)17質量部を28質量部へ変更し、膜厚を20μmとしたこと以外は実施例2と同じ条件により中空糸膜型血液浄化器を得た。得られた血液浄化器を用いて、性能試験、耐衝撃試験及び返血性試験を行った。結果を表1に示す。(PSfに対するPVPの質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)は85であり、膜厚及びPSfに対するPVPの質量割合が小さいことにより低い値となっている。PSfに対するPVPの質量割合が小さいため耐衝撃性は比較例5に比べて向上するものの9回の落下でリークが発生し、十分な耐衝撃性が得られなかった。また、PSfに対するPVPの質量割合が小さいことに起因して内表面のPVP割合が低く、返血性指標値が高く生体適合性に劣っている。
【0066】
【表1】

【符号の説明】
【0067】
1…中空糸膜、1a…第1の流路、2…容器、2a,2b…ノズル、3a,3b…ポッティング剤の硬化物、6a,6b…ノズル、7a,7b…ヘッダー、10…血液処理器、11…第2の流路、Fa…透析液の流れ方向、Fb…血液の流れ方向、20…ノズル、21…紡糸原液、22…中空内液、Fc…紡糸原液の流れ方向、Fd…中空内液の流れ方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液の導入口及び導出口を有する容器と、
該容器の内部に装填された、親水性高分子を含有するポリスルホン系高分子からなる中空糸膜の束と、
該容器の内部を満たす保存液と、を備える、滅菌された血液浄化器であって、
前記ポリスルホン系高分子に対する前記親水性高分子の質量割合が0.20以上0.24以下であり、
前記中空糸膜の膜厚が25μm以上39μm以下であり、
前記中空糸膜が紡糸原液の吐出速度が20m/分以上40m/分以下で形成されたものであり、かつ
前記質量割合、前記膜厚及び前記吐出速度が、下記式:
150<(質量割合)×(膜厚)×(吐出速度)<280
を満たす、血液浄化器。
【請求項2】
返血性指標値が0.01以下である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項3】
膜面積を1.5mに換算したときのβ−マイクログロブリンの篩係数が0.90を超える、請求項1又は2に記載の血液浄化器。
【請求項4】
膜面積を1.5mに換算したときのアルブミンの篩係数が0.01未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【請求項5】
膜面積を1.5mに換算したときのβ−マイクログロブリンのクリアランス(βMG−CL)が60mL/分以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【請求項6】
膜面積を1.5mに換算したときのα1-マイクログロブリンのクリアランス(αMG−CL)が5mL/分以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【請求項7】
膜面積を1.5mに換算したときのアルブミンの漏出量(Alb−loss)が、0.05g以上1.5g以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【請求項8】
β−マイクログロブリンのクリアランス(βMG−CL)と、アルブミンの漏出量(Alb−loss)との比が60以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の血液浄化器。
【請求項9】
α1-マイクログロブリンのクリアランス(αMG−CL)と、アルブミンの漏出量(Alb−loss)との比が10以上である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の血液浄化器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−85826(P2013−85826A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230851(P2011−230851)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】