説明

血液浄化用中空糸膜およびその製造方法

【課題】プライミング後の放置時間による膜の膨潤起因の性能変化が少なく、かつ膜素材の水との親和性のよい生体適合性が良好な中空糸膜を得る。
【解決手段】本発明は、プライミング処理後1時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(1hr))とプライミング処理後24時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(24hr))が特定範囲である血液浄化用中空糸膜である。また、乾湿式紡糸法による中空糸膜の製造において、中空糸膜をボビン形状で巻き取ったあと、ボビンを一定範囲の透湿性のある袋の中に入れ熱処理をする血液浄化用中空糸膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析膜、血液濾過膜または血液透析濾過膜等として好適に用いることのできる血液浄化用中空糸膜及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは慢性腎不全の血液透析などに用いられた際、膜性能の経時安定性に優れ、かつ不要な低分子タンパク質などの除去を効率よく行いうる血液浄化用等として好適に用いることのできる血液浄化用中空糸膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液透析時の経時安定性を改善し、血液濾過や血液透析濾過にも好適に用いる事が可能な中空糸膜を製造する方法として、血液浄化用中空糸膜の凝固が完了して膜構造が安定した後に、張力が掛かった状態で75℃超、90℃以下の水溶液中で加熱処理することにより経時安定性を改善して中空糸膜表面へのタンパク質などの吸着による膜の目詰まりを抑制する方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法で得られた中空糸膜は、プライミング処理後の放置時間による膜の膨潤起因で、純水の限外ろ過係数(UFR)の値にばらつきが発生してしまう点と、プライミング処理後の放置時間による膜の膨潤起因で中空糸膜の形状が変化し血液浄化器の透析液側流路の不均一化による偏流が発生し、小分子物質の透過性能が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−313359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の課題を解決しようとするものであり、その目的は水や血液による中空糸膜の膨潤(膜緩み)が引き起こす限外濾過係数の経時安定性を改善し、例えば、慢性腎不全の血液透析などに用いられた際、膜性能の経時安定性に優れ、かつ不要な低分子タンパク質などの除去を効率よく行いうる血液浄化用等として好適に用いることのできる血液浄化用中空糸膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成した。
即ち本発明は、ポリマー、溶媒、非溶媒からなる製膜溶液をチューブインオリフィスノズルから中空形成材と共に吐出し、エアギャップを通過後、凝固浴で凝固させた血液浄化用中空糸膜を水洗し、引き続きグリセリン水溶液に浸漬する工程、乾燥する工程を経て、ボビンに巻き取り、該ボビンを0.1〜1.0mg/(cm2・hr)の透湿性を有する包装袋に入れて、40〜98℃で熱処理を行うことにより得られた、内径が100〜300μm、膜厚が10〜100μm、含水率が1〜10%の血液浄化用中空糸膜であって、該血液浄化用中空糸膜を用いて作製した膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化器について測定したプライミング処理後1時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(1hr))とプライミング処理後24時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(24hr))が下記(1)式を満たすことを特徴とする血液浄化用中空糸膜である。
2%≦UFR(24hr)/UFR(1hr)×100−100≦20% (1)
この場合において、該血液浄化器をプライミング処理し、室温で1時間および24時間静置した後の血液浄化器のそれぞれに、ヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を血液浄化器の中空糸膜内側に流量200ml/min、濾過量が15ml/minで環流し、環流開始1時間後の濾液中のタンパク質漏出量をそれぞれ(TPL(1hr))および(TPL(24hr))とした時に、下記(2)式を満たすことが好ましい。
TPL(24hr)/TPL(1hr)=0.8〜1.4 (2)
また、この場合において、該血液浄化器の血液接触側にヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を200ml/minの流量で灌流した際、30分後の血小板保持率が80〜98%であることが好ましい。
また、この場合において、上記血液浄化用中空糸膜は主としてセルロース系ポリマーからなることが好ましい。
また、この場合において、上記セルロース系ポリマーはセルローストリアセテートおよびセルロースジアセテートであることが好ましい。
また、この場合において、上記血液浄化用中空糸膜を用いて作製された血液浄化器はドライタイプであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の血液浄化用中空糸膜は、水や血液による中空糸膜の膨潤性、いわゆる膜緩みが抑制されているので、プライミング後の放置時間による膜の膨潤起因の性能変化が少なく、かつ中空糸膜素材自体が持つ水との親和性のよさから生体適合性が良好であり、血液透析膜、血液濾過膜及び血液透析濾過膜等の血液浄化用として好適に用いることができる。また、本発明の血液浄化用中空糸膜の製造方法は、上記特性を有した血液浄化用中空糸膜を経済的に、かつ安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明における血液浄化用中空糸膜(以下、単に中空糸膜と称することがある。)の材質としては、再生セルロース、改質セルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ビニルアルコール−エチレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマーなどが挙げられるが、タンパク吸着量が少なく、透水性、溶質透過性に優れる点でセルロース系の材質が好ましい。高い透水性を得ることができ、溶質分離特性に優れ、生体適合性にも優れることから、セルロースジアセテートやセルローストリアセテートがより好ましい。
【0009】
本発明の血液浄化用中空糸膜の内径は100〜300μmであることが好ましい。内径が100μm未満の場合には中空糸膜中空部を流れる被処理液(血液など)の圧力損失が大きくなる為、例えば血液を流した時溶血することがある。したがって、中空糸膜の内径は130μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましい。逆に、中空糸膜の内径が300μmより大きい場合には中空糸膜中空部を流れる血液の剪断速度が小さく、濾過に伴いタンパク質などが膜の内面に堆積しやすくなる傾向がある。したがって、中空糸膜の内径は280μm以下がより好ましく、260μm以下がさらに好ましい。
【0010】
本発明の血液浄化用中空糸膜の膜厚は10〜100μmであることが好ましい。可紡性や血液浄化器の組立て性向上の面から10〜50μmの範囲にあることがより好ましい。高い透過性能を得るためには10〜30μmがさらに好ましい。
【0011】
本発明の血液浄化用中空糸膜の膜構造は、均質構造であることが好ましい。本発明において、膜構造が均質であるとは、SEM(走査電子顕微鏡)で膜断面を1000倍程度で観察した際に、支持層、スキン層など膜断面構造に不均一性が観察されず、また、ボイドやピンホール等も観察されないことを言う。
また、疎水性が比較的強いセルロースアセテートを素材としているため、中空糸膜を濡らした場合にも、膜厚や中空糸膜内径、中空糸膜外径は再生セルロース中空糸膜ほど変化しない。
【0012】
血液浄化器は、その使用に際し、生理食塩水を中空糸膜内外に流して洗浄および気泡の追い出し等を行う、いわゆるプライミング処理が実施される。一般的に、血液浄化用に使用される中空糸膜の構成材料は疎水性高分子であるため、水や血液と接触させても馴染まない(濡れない)という課題を有する。そのために、予め水に浸漬された状態で出荷されるウエットタイプ血液浄化器あるいは、乾燥中空糸膜にグリセリン、ポリビニルピロリドン等の親水化成分を含浸、付着、コート等されたドライタイプ血液浄化器の形態での展開がなされており、血液浄化使用前のプライミング処理が簡便に行なえるように工夫されている。これらの中で、ウエットタイプ血液浄化器は血液浄化器内に水が充填された状態で出荷されるためプライミング処理が行ないやすいが、雑菌が繁殖しやすいとか、重量増による輸送コストの高騰、寒冷地や空輸時に充填液の凍結により膜素材がダメージを受けるという問題がある。一方、ドライタイプ血液浄化器は、水との馴染み性が必ずしも充分でなく、該プライミング処理に時間を要したり、プライミング処理後十分に水となじんで性能が発現する迄に時間がかかるという課題を有する。そのために、短時間のプライミング処理で所定レベルの膜性能が発現するドライタイプ血液浄化器用に適した中空糸膜の開発が嘱望されており、本発明は、該要求に答えるものである。
【0013】
本発明の中空糸膜は、該中空糸膜を用いて作製した血液浄化器のプライミング処理後1時間時点の純水の限外ろ過係数(UFR(1hr))とプライミング処理後24時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(24hr))が、2%≦UFR(24hr)/UFR(1hr)×100−100≦20%の関係を示すことが好ましい。この関係を有する中空糸膜は、水や血液と膜素材との親和性がよく、高い生体適合性を示すとともに、治療中およびプライミング後の放置時間による性能変動が少ないといった利点を持つ。この関係が20%を超える場合には、臨床使用中あるいはプライミング後の放置時間によって、膜緩みが発生してUFRが大幅に増大し性能が安定しないほか、膜緩みによってタンパク質の漏出量が増加することがある。したがって、上記関係は15%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましい。また、この関係が2%未満の場合には、水および血液と膜素材との親和性が低すぎることを示し、臨床使用中に血液中のタンパク質や血球成分が膜に付着しやすくなり、経時的な性能の低下や凝血や残血が発生することがある。したがって、該関係は3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。
【0014】
本発明の中空糸膜は、上記血液浄化用中空糸膜を用いて作製した膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化器の血液接触側にヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を200ml/minの流量で灌流した際、30分後の血小板保持率が70〜98%であることが好ましい。血小板保持率がこの範囲よりも小さいと血小板の粘着量が多くなり、血栓ができやすくなったり、血液浄化機能が低下したりすることがある。また、この範囲よりも大きいと活性化された血小板までも血液中に放出されるため、生体内を循環する血球や血漿などの血液成分が刺激され、生体内の血液全体が活性化された状態となり、凝血傾向や、場合によっては塞栓を生じる危険性も否定できない。したがって、該30分後の血小板保持率は75〜98%であることがより好ましく、80〜98%であることがさらに好ましい。
【0015】
また、本発明の中空糸膜は、上記血液浄化器をプライミング処理し、室温で1時間および24時間静置した血液浄化器のそれぞれに、ヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を用いて、血液浄化器の中空糸内側に流量200ml/min、濾過量が15ml/minで環流し、環流開始後1時間後の濾液中のタンパク質漏出量をそれぞれ(TPL(1hr))および(TPL(24hr))とした時に、下記(2)式を満たすことが好ましい。
TPL(24hr)/TPL(1hr)=0.8〜1.4 (2)
TPL(24hr)/TPL(1hr)が小さすぎると、臨床使用中に血液中のタンパク質や血球成分が膜に付着しやすくなり、経時的な性能の低下や凝血や残血が発生することがある。したがって、TPL(24hr)/TPL(1hr)は0.85以上がより好ましく、0.90以上がさらに好ましい。また、TPL(24hr)/TPL(1hr)が大きすぎると、臨床使用中にたんぱく質の漏出量が増大し、生体内の血中タンパク質濃度が低くなり、低タンパク症を引き起こす恐れがある。したがってTPL(24hr)/TPL(1hr)は1.35以下がより好ましく、1.30以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明の中空糸膜のプライミング処理後1時間以内のUFRは3ml/(m2・hr・mmHg)以上200ml/(m2・hr・mmHg)以下が好ましい。UFRが3ml/(m2・hr・mmHg)未満の場合は、透析膜として必要な除水量を得られず十分な透析効果を得られないことがある。したがって、UFRは4ml/(m2・hr・mmHg)以上がより好ましく、5ml/(m2・hr・mmHg)以上がさらに好ましい。また、UFRが200ml/(m2・hr・mmHg)より大きい場合は、タンパク質の漏出を抑えきれなくなるとか、プライミング処理後のUFR発現性が十分でないことがある。したがって、UFRは190ml/(m2・hr・mmHg)以下がより好ましく、180ml/(m2・hr・mmHg)以下がさらに好ましい。
【0017】
また、本発明の中空糸膜は、該中空糸膜を用いて作製した膜面積1.5m2の血液浄化器について測定した尿素クリアランスが158〜200mL/minの範囲であることが好ましい。本発明において、尿素クリアランスの測定はダイアライザー性能評価基準(昭和57年、日本人工臓器学会)に準じ、シングルパス方式を採用し、血液側は尿素100mg/dLを含有する生理食塩水溶液、透析液側は生理食塩水を用い、温度37±1℃でろ過を生じない条件で行う。なお、血液側流量は200mL/min、透析液側流量は500mL/minとする。尿素クリアランスが低過ぎると、臨床使用時、1回の透析治療にかかる時間が長くなり、患者への負担が大きくなる可能性がある。したがって、尿素クリアランスは163mL/min以上がより好ましく、168mL/min以上がさらに好ましい。血液側流量200mL/minの時のクリアランスの最大値は200mL/minである。
【0018】
本発明においては、中空糸膜は実質的に乾燥状態にあることが好ましい。実質的に乾燥状態にあるとは、中空糸膜乾燥重量に対する水の重量(含水率)が10%以下であることを言う。含水率は小さい方が血液浄化器の重量を軽くできるとか、雑菌の繁殖がないとか、輸送中の温度変化による結露を生じないなど品質面で好ましい。特に、グリセリン等の水溶性の成分を含有する中空糸膜の場合、含水率が高すぎると、輸送中の温度変化等により中空糸膜からグリセリンが脱落しやすくなり、プライミング処理時中空糸膜全体が均一に濡れないとか、均一化に長時間を要するなどの問題が発生することがある。したがって、中空糸膜の含水率は9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。しかし、含水率を小さくするために中空糸膜の乾燥時間を長くしたり乾燥温度を上げることは、中空糸膜素材の劣化に繋がることがある。したがって、中空糸膜の含水率は1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。
【0019】
含水率が10%以下であれば、孔径保持剤や凍結防止剤、親水化剤等の他の液体、固体成分を含むことは本発明より排除されない。たとえば、このような液体、固体成分としてはグリセリン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。本発明においては、プライミング処理によって速やかに洗浄除去が可能であり、人体にとって有害性の程度が低いグリセリンを必要に応じて用いる。
【0020】
本発明の中空糸膜は、例えば、以下のように製造することができる。
セルロース系ポリマーおよびセルロース系ポリマーに対する溶媒、非溶媒を溶解して製膜溶液を調製し、得られた製膜溶液をチューブインオリフィスノズルの外側スリットから吐出すると同時に中心孔より中空形成材を吐出する。ノズルから吐出された製膜溶液は、空中走行部(エアギャップ)を通過させた後、凝固液に浸漬させ製膜溶液の凝固、相分離を行なわせる、いわゆる乾湿式紡糸法で製造するのが好ましい。得られた中空糸膜は、過剰の溶媒、非溶媒等を除去するために洗浄工程を経た後、中空糸膜に親水化剤や孔径保持剤を含浸させるための液体槽に浸漬させる。このようにして得られた湿潤中空糸膜をドライヤーに通して乾燥し、ボビンにチーズ状に巻き取る(ボビンの捲き厚は5〜30cm)。このボビンを透湿量0.1〜1.0mg/(cm2・hr)の一定の透湿性を有する袋に入れて、加熱処理を実施する。本発明による中空糸膜はこの一定の透湿性を持つ袋を利用し、中空糸膜自体の水分を一定に保ちながら熱処理を行い、膜の微細構造を調整するのが好ましい。
【0021】
セルロース系ポリマーに対する溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、セルロース系ポリマーの凝固および相分離のコントロールのしやすさ、作業安全性、廃棄処理の観点からN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミドを用いるのが好ましい。
【0022】
また、セルロース系ポリマーに対する非溶媒としては、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が好ましく用いられるが、溶媒との相溶性や洗浄除去性、安全性の観点からトリエチレングリコール、ポリエチレングリコールがより好ましい。ポリエチレングリコールとしては分子量200、400のものを用いるのが、室温で液体であり取り扱い性に優れる点より好ましい。
さらに、製膜溶液には、酸化防止剤や微孔形成剤などの添加剤を必要に応じて加えることができる。
【0023】
本発明において用いる中空形成材としては、セルロース系ポリマーに対して活性のある液体、不活性な液体および気体を用いることができる。活性のある液体としては、セルロース系ポリマーの溶媒および非溶媒と水との混合液、不活性な液体としては流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピルなど、不活性な気体としては窒素、アルゴンなどを用いることが可能である。中空形成材として活性のある液体を用いると、得られる中空糸膜は不均一構造となりやすく、また不活性な液体および気体を用いると得られる中空糸膜は均一構造となりやすい。グリセリン等の孔径保持剤を含有する中空糸膜の場合、細孔からの孔径保持剤の脱落防止の観点から均一構造の中空糸膜とするのが好ましく、本発明においては中空形成材として流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピルを用いるのが好ましい。
【0024】
エアギャップを通過した製膜溶液は、凝固液槽に浸漬し、凝固および相分離を進行させる。ここで凝固液としては、製膜溶液の調製に用いた溶媒および非溶媒と水との混合液を用いるのが好ましい。凝固液組成により得られる中空糸膜の構造、特性が変化するため、溶媒、非溶媒、水の混合比率は目的とする膜構造、膜特性にあわせて試行錯誤により決定する必要がある。本発明において凝固液の調製に用いる溶媒、非溶媒は、製膜溶液の調製に用いたものと同じものを使用することが好ましく、さらに製膜時の経時的な組成変化を抑制するため製膜溶液中の溶媒、非溶媒比と同じにするのが好ましい。
【0025】
洗浄工程は、中空糸膜製膜に用いた溶媒、非溶媒等を除去するためのものであり、洗浄装置の構成や用いる洗浄液については特に限定されるものではない。洗浄液については、溶媒、非溶媒と相溶性のあるものであればよく、水、アルコールなどを用いる事が可能であり、本発明においては洗浄液として、水を用いるのが好ましい。より好ましくは、限外処理した水をさらに逆浸透膜処理した水を用いる。
【0026】
洗浄終了後の中空糸膜は、引き続き中空糸膜細孔に孔径保持剤等を含浸させるための工程に導かれる。本発明においては、孔径保持剤としてグリセリンを用いるのが好ましい。グリセリンは医薬品や化粧料の用途として用いられる安全性の高い物質であるが、室温における粘度が高いため、原液のままでは孔径保持剤として使用するのは困難である。したがって、本発明においてはグリセリンを水に溶解したものを100℃以下に加熱した後、中空糸膜と接触させることにより細孔内に含浸するようにしている。溶液中のグリセリン濃度や温度は、中空糸膜の細孔の大きさや数、分布状態によって適宜設定する必要があるが、本発明の中空糸膜のUFR範囲のものであれば、15〜90重量%のグリセリン水溶液を30〜80℃に加熱した後、中空糸膜を浸漬し細孔内に含浸させるのが好ましい。グリセリン濃度が低過ぎると、中空糸膜細孔内への含浸性は高まるが乾燥によって細孔が収縮するため、所期の膜特性を得られない可能性がある。したがって、グリセリン濃度は18重量%以上がより好ましく、21重量%以上がさらに好ましい。また、グリセリン濃度が高過ぎると、細孔径の保持効果は高まるが、粘度が高まるため細孔内への含浸性が低下することがある。また、グリセリン水溶液の粘度を低下させるためには温度を上げれば良いが、そうするとグリセリン自体が熱酸化されたり、中空糸膜にダメージを与える可能性がある。したがって、グリセリン濃度は87重量%以下がより好ましく、84重量%以下がさらに好ましい。
【0027】
グリセリン水溶液を含浸させた中空糸膜は、次に乾燥工程にて乾燥される。乾燥温度は40〜120℃が好ましい。ここで、中空糸膜を乾燥させる目的としては、中空糸膜に含まれる水を蒸発させて中空糸膜の軽量化を行うだけでなく、血液浄化器の組立て性の確保(ポッティング剤が水と反応し接着不良を起こすことを防ぐ)、グリセリンの脱落防止(余剰の水を蒸発させることによりグリセリンの流動性を低下させる)、膜構造の固定化(その後の温度変化による細孔の拡大縮小を防ぐ)などが挙げられる。乾燥温度が低過ぎると瞬時に水を蒸発させることができず、グリセリンの脱落を招くことがある。したがって、乾燥温度は45℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。また、乾燥温度が高過ぎると、グリセリンが熱酸化を起こすことがある。したがって、乾燥温度は115℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましい。
【0028】
このようにして得られた乾燥中空糸膜は、ボビンにチーズ状に巻取る。ボビンに捲き取る際、中空糸膜は綾角2〜10°で捲き取るのが好ましい。また、チーズの幅は20〜60cmが好ましい。さらにチーズの厚みは5〜30cmが好ましい。このような厚みおよび幅、綾角で捲き取ることにより、中空糸膜同士の間隙が適度になり、後述する熱処理がチーズ状に巻き取られた中空糸膜全体に均一に作用するため好ましい。より好ましい綾角は2〜8°、さらに好ましい綾角は2〜6°である。また、このような条件で巻き取られたチーズを熱処理することにより、中空糸膜にクリンプが付与され、血液浄化に使用した際に、透析液の偏流を抑制できるという副次効果も得られる。本発明の血液浄化用中空糸膜は、このようにクリンプが付与されているため、上記したような高い尿素クリアランスを発現することが可能となっている。
【0029】
上記方法で巻き取られたボビンは、透湿量が0.1〜1.0mg/(cm2・hr)の袋で包装して熱処理を行なうのが好ましい。袋の透湿量は0.2〜0.9mg/(cm2・hr)がより好ましく、0.3〜0.8mg/(cm2・hr)がさらに好ましい。透湿量がこの範囲にある包装袋を用いることにより、中空糸膜より蒸発した水蒸気の蒸散がある程度抑制され、かつ該水蒸気の一部が袋を透過して系外に排出されることにより中空糸膜の含水率が最適化され(中空糸膜中の含水率3〜8%)、さらに中空糸膜の含水率をボビン全体で均一にすることができる。該方法の実施によりプライミング後の透水性の変化が一定の範囲内の中空糸膜が得られる理由として、中空糸膜周りの湿度調整機能により、熱処理中の湿度やボビンからの水の蒸発速度等が調整されることが関係していると考えている。
一方、中空糸膜の熱処理時に、中空糸膜中の水分の蒸発が少なすぎると、膜中のポリマーは、水分を含んだ状態で固定される。このような場合、プライミング処理後にポリマーが水を吸収せずにポリマーと血液が直接接触することになるため、血液中のタンパク質や血球成分が膜に付着しやすくなり、凝血や残血が発生する原因になると考えられる。また、中空糸膜の熱処理時、中空糸膜中の水分が蒸発しすぎると、透水性の変化や生体適合性に悪影響を与えるだけでなく、中空糸膜の表面が荒れるなど表面状態が悪化することがあり、生産効率にも悪影響を与えるという弊害が発生する可能性がある。そのため、このような透湿量の範囲の袋に包装して中空糸膜を熱処理する事により、膜中のポリマーから適度に水分を除いた状態で膜構造が固定でき、プライミング処理後の透水性の変化を一定範囲内に保つ事ができると考えられる。
【0030】
包装袋の素材としては、透湿量0.1〜1.0mg/(cm2・hr)の透湿性を持つものであれば特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等のプラスチックよりなるシートやフィルムを用いるのが好ましい。該シートやフィルムに透湿性を抑制する層を積層したり、あるいは、逆に該フィルムに搾孔して透湿量を調整してもよい。
【0031】
また、ボビン状態で熱処理を行う事から、ボビンの表層から内層までほぼ均等に熱が伝わる熱処理条件を設定する必要がある。好ましい熱処理温度は40〜98℃である。熱処理温度が高すぎると、ボビンの表層部分の温度が上がりすぎ、その結果中空糸膜中の含水率が低下し、ボビンの表層部分と内層部分の中空糸膜に含水率の差が生じることになる。そうすると、表層部分の中空糸膜を用いて作製した血液浄化器と内層部分の中空糸膜を用いて作製した血液浄化器との間で性能差や品質の違いが生じることになり工業的には好ましくない。したがって、熱処理温度は95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。また、熱処理温度が低すぎると、内層部に十分熱が伝わらず、前記熱処理温度が高すぎる場合と同様の性能や品質に関わる問題が生じるだけでなく、プライミング処理後の放置時間による膜の膨潤起因で中空糸膜の形状が変化し血液浄化器の透析液側流路の不均一化による偏流が発生し、小分子物質の透過性能が低下してしまうという問題が生じる可能性がある。したがって、より好ましい熱処理温度は50℃以上、さらに好ましい熱処理温度は60℃以上である。
【0032】
上記熱処理の処理時間は、15〜25時間が好ましい。15〜24時間がより好ましく、15〜23時間がさらに好ましい。15時間未満では熱処理効果が不十分となることがある。逆に、25時間を越えた場合は、熱処理中に蓄積した熱エネルギーにより膜素材や含浸させたグリセリン等が劣化し、品質の低下を招くことがある。
【0033】
上述したような製造方法の特徴を有することにより中空糸膜内表面の平滑性が達成され、前述のTPL(24hr)/TPL(1hr)や血小板保持率を好ましい範囲に維持することが可能となっているものと推測する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明の効果ならびに詳細な説明を加えるが、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【0035】
(純水の限外濾過係数(UFR)の測定方法)
血液浄化器を使用し、膜の内外両面に純水を満たし、37℃に恒温した。膜の内側に通じる血液浄化器入口から圧力をかけて37℃の純水を流し、膜の内側と外側の圧力差、すなわち膜間圧力差を生じせしめ、1分間に膜を通じて膜外側に出てくる純水の量を測定した。膜間圧力差(TMP)はTMP=(Pi+Po)/2とする。(Piは血液浄化器入口圧力、Poは血液浄化器出口圧力。)4点の異なった膜間圧力差において、1分間の透水量を測定し、膜間圧力差と透水量の2次元座標にプロットして、それらの近似直線の傾きを求めた。この数値に60をかけ、血液浄化器の膜面積で割って中空糸膜の純水の限外濾過係数(以下UFR)をもとめた。単位はml/(m2・hr・mmHg)である。
【0036】
(中空糸膜内径、膜厚の測定方法)
中空糸断面のサンプルは以下のようにして得る事ができる。測定には中空形成材を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた状態で観察する事が好ましい。乾燥方法は特に問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去した後、純水で完全に置換し、湿潤状態で形態を観察することが好ましい。乾燥後の中空糸膜を厚さ2mmのスライドガラスの中央に開けられたφ1mmの孔に適当数通し、スライドガラス上下面で剃刀によりカットし、中空部を露出させた断面サンプルを得る。得られたサンプルは投影機(Nikon-12A)を用いて、視野内の任意の5サンプルを無作為に抽出し、各中空糸膜断面内側の短径と長径をそれぞれ測定し、その算術平均値を中空糸膜1個の内径とした。さらに5サンプルの平均値をもって中空糸膜内径とした。
【0037】
(袋の透湿量の測定方法)
一辺30cm四方の線を袋に書き、線の外側に沿ってヒートシーラーで3方をシールし、30cm四方の袋を作る。作製した袋に25℃の純水250mlを入れ、他3方と同様にシールする。このとき、袋と水の合計重量を測定する。
袋の一辺を一塊にまとめ、線の外側部分をたこ糸でしばり、60℃の定温乾燥器内で2hr吊り下げた状態で静置する。2hr後乾燥器から袋を取り出し袋と残った水の合計重量を測定し、透湿量は蒸発した水の重量を袋の表面積と時間の積で割る。
透湿量(mg/(cm2・hr))=(投入前重量−投入後重量)/(1800cm2×2hr)
【0038】
(尿素クリアランス(CLun)の測定)
血液浄化器を使用し、ダイアライザー性能評価基準(昭和57年、日本人工臓器学会)に準じ、シングルパス方式を採用し、血液側は尿素100mg/dLを含む生理食塩水溶液、透析液は生理食塩水を用い、温度37±1℃でろ過を生じない条件で測定した。血液側流量200mL/minで透析液側流量500mL/min時の尿素クリアランス(CLun)を求める。
CLun(ml/min)=(血液側入口濃度×血液側入口流量−血液側出口濃度×血液側出口流量)/血液側入口濃度×100
【0039】
(血液中血小板数(PLT)変化率)
ヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を400ml準備し、膜面積1.5m2の血液浄化器を作製し、室温の生理用食塩水を使用してプライミング処理を行う。血液浄化器の中空糸膜内側に流量200ml/minで、牛血を30分環流する。測定は環流前の牛血中PLTと、環流後の牛血中PLTを測定し、測定方法は自動血球計算器法を用いる。
PLT変化率(%)=環流後のPLT/環流前のPLT×100
【0040】
(タンパク質漏出量(TPL)の測定)
ヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を用いて、血液浄化器の中空糸内側に200ml/minで送る。その際、出口側の圧力を調整して、濾過量が15ml/minかかるようにし、濾液は血液槽に戻す。プライミング後室温静置1時間と24時間の血液浄化器を使用して、環流開始後1時間後に濾液をサンプリングする。得られたサンプルをピロガロールレッド法によって分析し、各サンプル採取時間でのTPL濃度を求める。
【0041】
(中空糸膜中の含水率の測定)
中空糸膜を5〜10g採取し、採取時の重量を記録しておく。記録後、サンプルを105℃の定温乾燥機内に2hr静置する。サンプルを乾燥機から取り出したら、すばやくデシケータ内に移動し40〜60min放冷する(デシケータ内は乾燥雰囲気下状態である事が必要)。放冷後すばやくサンプルの重量を測り、含水率を求める。
中空糸膜中の含水率(重量%)=(乾燥前重量−乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0042】
(実施例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)19.0重量%、N-メチル-2-ピロリドン(三菱化学社製)56.7重量%、トリエチレングリコール(三井化学社製)24.3重量%を145℃で溶解し製膜溶液を得た。120℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として、流動パラフィンを用いて製膜溶液を吐出、エアギャップを通過後、30℃の水中で凝固させた。その後、水洗し膜構造を安定化させた後、60℃、65重量%のグリセリン水溶液中を通過させドライヤーで乾燥し、綾角4°、捲き厚12cmでボビンに巻き上げた。ボビンを透湿量0.4mg/(cm2・hr)のポリエチレン製の袋に入れて、70℃で20時間熱処理を行った。得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。このようにして得られた中空糸膜を用いて膜面積1.5m2の血液浄化器を作製し、UFR(24hr)、UFR(1hr)を測定した。結果を表1に示す。
尿素クリアランスは良好で透析液の偏流は確認されず、血小板変化率は少なく、TPLのプライミング依存性も小さく良好であった。
【0043】
(実施例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)23.0重量%、N-メチル-2-ピロリドン(三菱化学社製)53.9重量%、トリエチレングリコール(三井化学社製)23.1重量%を170℃で溶解して製膜溶液を得た。140℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として、流動パラフィンを用いて製膜溶液を吐出、エアギャップを通過後、30℃のN-メチル-2-ピロリドン/トリエチレングリコール/水=21/9/70からなる凝固浴中で凝固させた。その後、水洗し膜構造を安定化させた後、60℃、60重量%のグリセリン水溶液中を通過させドライヤーで乾燥し、綾角4°、捲き厚25cmでボビンに巻き上げた。その後は実施例1と同様にして中空糸膜を作製した。このようにして得られた中空糸膜から膜面積1.5m2の血液浄化器を作製して性能を評価した。結果を表1に示す。
結果、実施例1と同じく尿素クリアランスは良好で透析液の偏流は確認されず、血小板変化率は少なく、TPLのプライミング依存性も小さく良好であった。
【0044】
(実施例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)24.5重量%、N-メチル-2-ピロリドン(三菱化学社製)52.9重量%、トリエチレングリコール(三井化学社製)22.6重量%を140℃で溶解した製膜溶液を用い、凝固させた。その後は実施例1と同様に中空糸膜を作製した。このようにして得られた中空糸膜から膜面積1.5m2の血液浄化器を作製して性能を評価した。結果を表1に示す。なお、本実施例で得られたサンプルはUFRが小さくタンパク質の漏出は確認できなかった。このため、TPLのプライミング依存性評価は実施していない。
結果、実施例1と同じく尿素クリアランスは良好で透析液の偏流は確認されず、血小板変化率は少なく良好であった。
【0045】
(実施例4)
実施例1と同じ条件で中空糸膜を紡糸しボビンに巻き取り、ボビンを透湿量0.1mg/(cm2・hr)のポリエチレン製の袋に入れて、70℃で20時間熱処理を行った。このようにして得られた中空糸膜から膜面積1.5m2の血液浄化器を作製して性能を評価した。結果を表1に示す。
尿素クリアランスは良好で透析液の偏流は確認されず、TPLのプライミング依存性も小さく良好であった。
【0046】
(比較例1)
熱処理時に、ポリエチレン袋に入れない状態で実施した以外は実施例1と同じ条件で中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜の内径は199μm、膜厚は15μmであった。このようにして得られた中空糸膜から膜面積1.5m2の血液浄化器を作製して実施例と同様に中空糸膜の性能評価を行った結果を表1に示す。
結果、血小板保持率は良好だったが、TPLの時間依存性が大きく、性能が不安定であった。また、膜の膨潤起因で中空糸膜の形状が変化し血液浄化器の透析液側流路の不均一化による偏流が発生し、尿素クリアランス値が低下した。
【0047】
(比較例2)
熱処理時に、透湿性のない(0.01mg/(cm2・hr)以下)アルミ箔製の袋にいれた状態で実施した以外は実施例1と同じ条件で中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜の内径は201μm、膜厚は15μmであった。このようにして得られた中空糸膜から膜面積1.5m2の血液浄化器を作製して実施例と同様に中空糸膜の性能評価を行った結果を表1に示す。
結果、性能は安定しているが、血小板の保持率が低く、抗血栓性に課題が残った。
【0048】
(比較例3)
セルローストリアセテート19.0重量%、N-メチル-2-ピロリドン56.7重量%、トリエチレングリコール24.3重量%を150℃で溶解して製膜溶液を得た。120℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンを用いて製膜原液を吐出、エアギャップを通過後、30℃の水中で凝固させた。その後、水洗し膜構造を安定化させた後、60℃、65%のグリセリン水溶液中を通過させ、ドライヤーで乾燥し実施例1と同様にボビンに巻き上げた。ボビンを実施例1と同様の方法で熱処理を行った。得られた中空糸膜の内径は201μm、膜厚は15μmであった。このようにして得られた中空糸膜を用いて膜面積1.5m2の血液浄化器を作製し、種々評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の血液浄化用中空糸膜は、水や血液による中空糸膜の膨潤、いわゆる膜緩みが抑制されているので、プライミング後の放置時間による膜の膨潤起因の透水性変化が少なく、かつ中空糸膜素材自体が持つ水との親和性のよさから生体適合性が良好であり、血液透析膜、血液濾過膜及び血液透析濾過膜等の血液浄化用として好適に用いることができる。また、本発明の血液浄化用中空糸膜の製造方法は、上記特性を有した血液浄化用中空糸膜を経済的に、かつ安定して製造することができるという利点を有する。従って、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、溶媒、非溶媒からなる製膜溶液をチューブインオリフィスノズルから中空形成材と共に吐出し、エアギャップを通過後、凝固浴で凝固させた血液浄化用中空糸膜を水洗し、引き続きグリセリン水溶液に浸漬する工程、乾燥する工程を経て、ボビンに巻き取り、該ボビンを0.1〜1.0mg/(cm2・hr)の透湿性を有する包装袋に入れて、40〜98℃で熱処理を行うことにより得られた、内径が100〜300μm、膜厚が10〜100μm、含水率が1〜10%の血液浄化用中空糸膜であって、該血液浄化用中空糸膜を用いて作製した膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化器について測定したプライミング処理後1時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(1hr))とプライミング処理後24時間経過時の純水の限外ろ過係数(UFR(24hr))が下記(1)式を満たすことを特徴とする血液浄化用中空糸膜。
2%≦UFR(24hr)/UFR(1hr)×100−100≦20% (1)
【請求項2】
該血液浄化器をプライミング処理し、室温で1時間および24時間静置した後の血液浄化器のそれぞれに、ヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を血液浄化器の中空糸膜内側に流量200ml/min、濾過量が15ml/minで環流し、環流開始1時間後の濾液中のタンパク質漏出量をそれぞれ(TPL(1hr))および(TPL(24hr))とした時に、下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の血液浄化用中空糸膜。
TPL(24hr)/TPL(1hr)=0.8〜1.4 (2)
【請求項3】
該血液浄化器の血液接触側にヘマトクリット30%、総蛋白量6.5g/dlの新鮮牛血(ヘパリン処理血)を200ml/minの流量で灌流した際、30分後の血小板保持率が80〜98%であることを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化用中空糸膜。
【請求項4】
血液浄化用中空糸膜は主としてセルロース系ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜。
【請求項5】
セルロース系ポリマーがセルローストリアセテートおよび/またはセルロースジアセテートであることを特徴とする請求項4に記載の血液浄化用中空糸膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の血液浄化用中空糸膜を用いて作製されたことを特徴とするドライタイプ血液浄化器。


【公開番号】特開2011−41830(P2011−41830A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245101(P2010−245101)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【分割の表示】特願2005−245496(P2005−245496)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】