説明

血液浄化用酸化チタン多孔質粒子、血液浄化材及び血液浄化用モジュール

【課題】安定した酸素欠陥を多数有するものの、可視光照射下でも光触媒活性が抑制された酸化チタンを用いて、血液等に含まれる有害物質の吸着除去能に優れる一方、前記血液等に含まれる有用物質をできる限り除去することがなく、かつ、発塵性が低減され、血液浄化材及びそれを用いた血液浄化用モジュールを提供する。
【解決手段】電子スピン共鳴測定により温度10Kで測定した場合に、1.96付近を示すシグナルが存在し、このシグナルは対称軸に平行な成分g1と垂直な成分g2を示す2つのシグナルに分かれており、かつ、2.003〜2.004のシグナルが実質的に存在しない酸化チタンからなる血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を用いて、血液浄化用モジュールを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や血漿等の液体(以下、血液等という)に含まれるエンドトキシン等の有害物質の除去能を有する血液浄化用酸化チタン多孔質粒子、これを用いた血液浄化材及び血液浄化用モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高度の肝機能障害を有する患者に対する治療の一つとして、該患者の血液や血漿を吸着剤に接触させ、物理化学的現象あるいは免疫反応を利用して、病因となる有害物質を除去する血液浄化法による治療が行われている。
【0003】
このような血液浄化法においては、吸着剤として、従来は、活性炭や陰イオン交換樹脂が主に使用されていたが、吸着除去能や血液等に対する適合性の点で十分とは言えないものであり、新たな血液浄化用吸着剤の材料の開発が進められている。
【0004】
近年、新たな吸着剤材料として、血液適合性に優れた酸化チタン粒子が提案されている。例えば、特許文献1には、ヒト新鮮血漿に接触させた際の血漿の擬固因子を特定し、かつ、比表面積20〜80m2/g、平均細孔径150〜200Å、pH6〜7.5であり、血漿を直接接触させるビリルビン吸着用酸化チタンが記載されている。この酸化チタンは、吸着特性及び血液適合性において、十分に実用性があり、血漿中の総ビリルビンを選択に吸着させる吸着剤として利用することができるものである。
【0005】
また、非酸化性雰囲気下で熱処理された酸化チタン微粒子からなり、血液又は血漿中の有害物質の除去能を有し、かつ、血液又は血漿中の有用物質の除去が抑制される血液浄化剤も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−245973号公報
【特許文献2】特開2005−287701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている血液浄化用吸着剤においては、血液に含まれる有害物質、特にエンドトキシンについては、吸着量は十分とは言えず、さらなる吸着性能の向上が求められていた。
また、特許文献2に記載されている血液浄化剤は、光触媒活性を有するものであり、血液等中の有害物質の除去及び有用成分の除去抑制効果が必ずしも十分と言えるものではなかった。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、血液等に含まれる有害物質の吸着除去能に優れる一方、前記血液等に含まれる有用物質をできる限り除去することがない血液浄化材及びそれを用いた血液浄化用モジュールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る血液浄化用酸化チタン多孔質粒子は、電子スピン共鳴測定により温度10Kで測定した場合に、1.96付近を示すシグナルが存在し、このシグナルは対称軸に平行な成分g1と垂直な成分g2を示す2つのシグナルに分かれており、かつ、2.003〜2.004のシグナルが実質的に存在しない酸化チタンであることを特徴とする。
このような酸化チタン多孔質粒子は、自由電子がないため、光触媒活性機能が働きにくく、このため、有用物質の分解が抑制され、優れた血液浄化作用を奏する。
【0010】
前記酸化チタン多孔質粒子は、粉末X線回折(XRD:X‐raydiffraction)パターンの面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅が0.3〜0.7°であることが好ましい。
このような特定の面方位のピークにおいて所定の半価幅を有している酸化チタン粒子は、特に、血液等に含まれる有害物質の吸着除去能に優れている。
【0011】
また、前記酸化チタン多孔質粒子は、少なくとも表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度が3000〜8000ppmであることが好ましい。
このような酸化チタン多孔質粒子は、血液浄化材としての取扱い容易性に優れた強度を有し、発塵性も低減することができる。
【0012】
さらに、前記酸化チタン多孔質粒子は、粉末X線回折パターンにおいて、TiO2(ルチル型)及びCaTiO3(ペロブスカイト型)のパターンのみが存在することが好ましい。
このような特徴を有する酸化チタンの結合形態は、表面にCaを有しているため、血液浄化材としての取扱い容易性に優れた強度を有し、発塵性も低減することができる。
【0013】
また、本発明に係る血液浄化材は、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子からなり、複数の前記粒子が焼結により一体化されていることを特徴とする。
このような一体化されたブロック状とすることにより、血液浄化用モジュール等の容器への装入が容易となり、また、前記酸化チタン多孔質粒子の脱落や発塵をより低減させることができる。
【0014】
また、本発明に係る血液浄化用モジュールは、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子又は前記血液浄化材が、波長200〜700nmの光透過率が30%以下である遮光性容器に装入されていることが好ましい。
このようなモジュールによれば、前記酸化チタン多孔質粒子の光触媒活性をより確実に抑制することができ、血液浄化の際に、該酸化チタン多孔質粒子による有用物質の分解がより効果的に抑制される。
【0015】
なお、本発明でいう血液等に含まれる有害物質としては、エンドトキシン、ビリルビン、胆汁酸、アンモニア等が挙げられる。また、前記有用物質としては、アルブミン、フィブリノーゲン等のタンパク質が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る酸化チタン多孔質粒子によれば、血液等に含まれる有害物質を効率的に除去することができ、かつ、有用物質の減少を抑制することができる血液浄化材を提供することができる。
また、本発明に係る血液浄化材によれば、粒子のままの状態よりも取扱いが容易となり、脱粒や発塵性をより低減させることができる。
また、本発明に係る血液浄化用モジュールによれば、タンパク質等の有用物質を分解することなく、上記のような本発明に係る酸化チタン多孔質粒子又は血液浄化材による有害物質の吸着除去能をより効果的に発揮させることができる。
したがって、本発明に係る酸化チタン多孔質粒子、これを用いた血液浄化材及び血液浄化用モジュールは、血液透析をはじめ、血漿交換、吸着療法等の体外循環による血液浄化治療に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1に係る酸化チタン多孔質粒子のESRスペクトルを示した図である。
【図2】実施例1に係る酸化チタン多孔質粒子のXRDパターンを示した図である。
【図3】比較例2に係る酸化チタン多孔質粒子のESRスペクトルを示した図である。
【図4】比較例2に係る酸化チタン多孔質粒子のXRDパターンを示した図である。
【図5】実施例1,2についてのアルブミン吸着評価におけるアルブミンの濃度の経時変化を示したグラフである。
【図6】実施例1,2及び比較例1,2についてのエンドトキシン除去能評価におけるエンドトキシン濃度の経時変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係る酸化チタン多孔質粒子は、電子スピン共鳴測定(ESR:Electron Spin Resonance)により温度10Kで測定した場合に、1.96付近を示すシグナルが存在し、このシグナルは対称軸に平行な成分g1と垂直な成分g2を示す2つのシグナルに分かれており、かつ、2.003〜2.004のシグナルが実質的に存在しない酸化チタンである。
このような酸化チタン多孔質粒子は、安定した酸素欠陥を多数有するため、有害物質の除去能力が高くなる。また、自由電子がない構成であるため、光触媒活性機能が働きにくくなり、有用物質の分解が抑制され、さらに、優れた血液浄化作用を奏する。
【0019】
このような特徴を有する酸化チタンは、従来の安定した酸素欠陥を有するアナターゼ型結晶構造の可視光照射下で活性を有する光触媒(以下、可視光型光触媒と称する)とは異なるものである。つまり、ESRにおいて酸化チタンの酸素欠陥に帰属するシグナルとして知られているg値が2.003〜2.007であるシグナルは実質的に観測されない。
【0020】
また、ESRにおいて、Ti3+に帰属するg値が1.96付近を示すシグナルが明確な異方性を示し、対称軸に平行な成分g1と垂直な成分g2を示す2つのシグナルに明確に分かれている酸化チタン多孔質粒子は、安定した酸素欠陥を多数有するが、可視光型光触媒活性が抑制され、優れた血液浄化作用を奏する。
【0021】
特に、g1の範囲が1.936±0.002、g2の範囲が1.965±0.003であり、2.003〜2.004のシグナルが実質的に存在しない場合、可視光型光触媒活性が抑制され、より優れた血液浄化作用を奏する。
一方、2.003〜2.004のシグナルが存在すると、可視光による光触媒活性機能が働きやすくなるため、有用物質の分解が促進されやすくなる。
【0022】
前記酸化チタン多孔質粒子は、粉末X線回折パターンの面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅が0.3〜0.7°であることが好ましい。
粉末X線回折においては、測定対象の酸化チタンは、多孔質粒子の結晶構造のみならず、粒子の形態等によっても、そのパターンは異なる。通常、欠陥のない完全な結晶であるほど、ピークはシャープになり、結晶性に乱れや欠陥等があると、ピークはブロードになりやすい。
上記のような特定の面方位のピークにおいて所定の半価幅を有している酸化チタン粒子は、結晶構造において特定の位置に酸素欠乏欠陥があると考えられ、特に、血液等に含まれる有害物質の吸着除去能に優れており、血液浄化に好適に用いることができる。
ピークの半価幅が0.3°未満の場合、血液等に含まれる有害物質の除去性能が低下するおそれがある。
一方、ピークの半価幅が0.7°より大きい場合、そのような酸化チタン粒子を作製するために、比表面積が非常に小さくなるように高温で焼成することとなるため、血液等との接触面積を十分に確保することが困難となるおそれがある。
【0023】
また、酸化チタン多孔質粒子は、血液浄化材として用いられる酸化チタンからなる多孔質粒子である。そして、該粒子の少なくとも表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度が3000〜8000ppmであることを特徴とするものである。
このような酸化チタン多孔質粒子は、少なくとも粒子表面が血液浄化材としての取扱い容易性に優れた強度を有しており、また、発塵性も低減することができる。
前記Ca濃度は、4500〜5500ppmであることがより好ましい。これにより、前記粒子の使用時及び取扱い時における耐破損性の信頼度をより高めることができる。
一方、前記Ca濃度が3000ppm未満又は8000ppmを超える場合、酸化チタン多孔質粒子の強度が低下するおそれがある。
【0024】
さらに、前記粒子中のCa濃度は、粒子全体で±20ppmの範囲内で均一な分布を示していることがより好ましい。
これにより、前記粒子の使用時及び取扱い時における耐破損性の信頼度をより高めることができる。
【0025】
また、前記酸化チタン多孔質粒子は、粉末X線回折(XRD)パターンにおいて、TiO2(ルチル型)及びCaTiO3(ペロブスカイト型)のパターンのみが観測され、アナターゼ型酸化チタンを実質的に有さない酸化チタンからなるものであることが好ましい。
このような特徴を有する酸化チタンの結合形態により、血液浄化材としての取扱い容易性に優れた強度を有し、発塵性をより低減させることができる。
また、上記効果をさらに得るために、CaTiO3(ペロブスカイト型)パターンは、TiO2面方位(110)のピーク強度を100とした場合の強度比が1〜3程度で存在していることがより好ましい。
【0026】
前記酸化チタン多孔質粒子の形状やサイズは、除去しようとする有害物質を含有する血液等を接触させることができるものであれば、特に限定されるものではなく、微粒子状、粉末状、顆粒状であってもよく、また、ペレット状や不定形塊状であってもよい。
ただし、該粒子による有害物質の吸着除去能を均一かつ効率的に発揮させる観点からは、サイズがほぼ均一な球状粒子であることが好ましい。
【0027】
前記酸化チタン多孔質粒子の粒子径は、好ましくは0.5〜5mmである。
上記範囲内の粒径であれば、血液等に含まれる有害物質に対する所望の吸着除去能を確保しつつ、血液浄化用モジュール等の容器に装入しやすいため、より好ましい。
上記のような効果を発現させるためには、前記粒子の粒子径は0.8〜1.2mmであることがより好ましい。
【0028】
また、前記酸化チタン多孔質粒子は、比表面積が0.8〜3m2/gであることが好ましい。
これにより、血液等との接触面積を十分に確保して血液等に含まれる有害物質の吸着除去を行うことができるため、血液浄化作用を十分に発揮させることができ、かつ、有用成分の分解を抑制することができる。
【0029】
前記酸化チタン多孔質粒子の気孔率は、25〜55%であることが好ましい。
これにより、血液等に含まれる有害物質の吸着除去能を十分に得ることができ、血液浄化用モジュール等の容器に装入して使用する際に発塵することのない程度の十分な強度を得ることができる。
【0030】
上記のような本発明に係る酸化チタン多孔質粒子に用いられる酸化チタン自体(酸化チタン原料)は、一般に、硫酸チタンを加水分解して焼成する硫酸法、四塩化チタンを高温で酸化する塩素法、焼成時に揮発する酸性又はアルカリ性化合物の水溶液中でチタンアルコキシド化合物を処理して酸化チタンを沈殿物として得るゾル−ゲル合成法等により製造することができる。
本発明においては、これらのいずれの製造方法による酸化チタン原料を用いても、良好な血液浄化作用が得られる。
【0031】
そして、本発明に係る酸化チタン多孔質粒子は、上記のようにして得られた酸化チタン原料を用いて製造されるが、その製造方法は特に限定されるものではない。焼結体を粉砕することにより得ることもでき、あるいはまた、粒子状の成形体を焼結してもよく、例えば、以下に示すような方法により、好適に製造することができる。
まず、分散剤を添加混合したアルギン酸ナトリウム水溶液に酸化チタン仮焼粉を入れ、粉砕混合し、スラリーを調製する。次いで、このスラリーを塩化カルシウム水溶液に滴下してゲル化させ、球状の酸化チタンゲルを作製する。そして、この球状酸化チタンゲルを、洗浄し、乾燥させた後、700〜1000℃で熱処理し、さらに、水素雰囲気等の還元性雰囲気下で800〜1000℃で熱処理することにより、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子が得られる。
【0032】
また、前記酸化チタン多孔質粒子は、複数の粒子を焼結により一体化させて、血液浄化材とすることが好ましい。
このように一体化させてブロック状とした血液浄化材とすることにより、血液浄化用モジュール等の容器への装入が容易となり、また、前記酸化チタン多孔質粒子の脱落や粒子表面からの発塵により、これらの粒子や発塵物が浄化する血液等に混入することをより抑制することができる。
【0033】
このようなブロック状の血液浄化材を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、上記において例示した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の製造方法において、球状酸化チタンゲルを純水で洗浄し、乾燥させて得られた粒子を所定の型に充填して荷重をかけて一体化させた後、上記製造方法と同様に大気中及び還元性雰囲気下での熱処理を施すことにより、酸化チタン多孔質粒子を一体化させた血液浄化材を得ることができる。
【0034】
前記酸化チタン多孔質粒子又は血液浄化材に血液等を接触させる具体的な方法としては、バッチ式と循環(灌流)式とがある。
バッチ式では、通液性を有する容器等に前記酸化チタン多孔質粒子又は血液浄化材を装入し、該容器をタンクにセットし、浄化しようとする血液等をこのタンク内に供給し、その血液等を所定時間撹拌することにより、前記酸化チタン多孔質粒子と血液等とを接触させる。
一方、循環式では、前記酸化チタン多孔質粒子又は血液浄化材をカートリッジ等の容器に充填又は装入した血液浄化用モジュールに、浄化しようとする血液等を流通させることにより、前記酸化チタン多孔質粒子と血液等とを接触させ、前記モジュールから排出される血液等をポンプ等により循環させる。
このように、本発明に係る酸化チタン多孔質粒子を用いた血液浄化方法は、体外で血液等を浄化するものであり、上記のような方法によって浄化された血液等が体内に戻される。
【0035】
なお、上記のようにして製造された血液浄化用酸化チタン多孔質粒子又は血液浄化材を充填又は装入したカートリッジ等の容器は、純水圧送洗浄し、120℃で乾燥した後、血液浄化用モジュールに装入し、γ線で滅菌処理してから使用することが好ましい。
【0036】
本発明に係る血液浄化用酸化チタン多孔質粒子又はこれを用いた前記血液浄化材が、血液浄化用モジュールに適用される際は、波長200〜700nmの光透過率が30%以下である遮光性容器に装入されて使用されることが好ましい。
酸化チタンは、通常、紫外〜可視光の波長領域における光触媒作用を有するため、このような波長領域の光を遮断できる容器に装入し、前記光触媒作用によりタンパク質等の有用物質が分解されるのを抑制することが好ましい。
したがって、上記のような容器を用いたモジュール構成とすることにより、前記酸化チタン多孔質粒子の光触媒活性を抑制することができ、前記酸化チタン多孔質粒子による血液浄化の際に、タンパク質等の有用物質の分解作用を抑制し、有害物質のみを効率的に吸着除去することが可能となる。
【0037】
前記光透過率は、一般的な室内灯や自然光の下で血液浄化用モジュールを使用する際に酸化チタンの光触媒活性が抑制される程度でよいため、30%以下であることが好ましい。より好ましくは、10%以下である。
前記遮光性容器は、このような光透過率を満たすものであれば、その構成は特に限定されるものではない。例えば、従来から用いられているポリプレピレン製容器であって着色を施したもの等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
酸化チタン原料として塩素法により作製した比表面積約72m2/gの酸化チタン粒子62.5g、アルギン酸ナトリウム1wt%水溶液250g、分散剤としてアロンA−30SL(東亜合成株式会社製)1.8gを混合してポットに入れ、樹脂ボールを用いて、ポットミルにてスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを内径1mmのフッ素樹脂製チューブを装着したペリスタポンプを用いて、塩化カルシウム1.2重量%水溶液に滴下し、8時間以上放置して十分にゲル化させ、球状の酸化チタンゲルを作製した。
そして、この球状酸化チタンゲルを純水で洗浄し、80℃で5時間以上乾燥させた後、大気中、200℃/hrで昇温し、1000℃で3時間熱処理し、酸化チタン多孔質粒子を得た。
さらに、この酸化チタン多孔質粒子を、水素雰囲気下、200℃/hrで昇温し、1000℃で2時間保持して熱処理し、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を作製した。
【0039】
作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子のESRスペクトルを電子スピン共鳴測定装置ESP350E(BRUKER社製)で、温度10Kにて測定した。その測定されたスペクトルを図1に示す。
図1に示したように、g値の異方性は明確に観測され、Ti3+は軸対称配位子場に特徴的なスペクトルパターンを示しており、g値の2つの主値(軸対称に平行な成分g1と垂直な成分g2)はそれぞれ、g1=1.937、g2=1.967と測定された。
【0040】
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子のXRDパターンを、粉末X線回折装置RINT2000縦型(リガク製)で測定した。その測定されたXRDパターンを図2に示す。
図2に示したXRDパターンについて、同定の結果、TiO2(ルチル型)とCaTiO3(ペロブスカイト型)のみのパターンのみが測定された。
また、上記において測定したXRDパターンにおいて、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅は、0.402°、0.352°及び0.333°であった。
また、CaTiO3(ペロブスカイト型)パターンは、TiO2面方位(110)のピーク強度を100とした場合の強度比が2.6であることが確認された。
【0041】
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の平均気孔径は0.28μmであった。この平均気孔径は、細孔径分布を水銀ポロシメータ(マイクロメトリックス社製オートポア9500)で測定して求められた細孔径ピーク値とした。
また、比表面積は、BET比表面積計(マイクロメトリックス社製ASAP2020)で測定したところ、2.28m2/gであった。
さらに、粒子300個の画像分析により粒子径を測定したところ、1.05〜1.17mmであった。
【0042】
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度は、4900ppmであった。このCa濃度は、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を深さ50μm以上の位置まで硫酸及びフッ化水素酸で分解し、ICP発光分析装置VISTA-PRO(セイコーインスツルメンツ社製)で測定することにより求めた。
さらに、前記酸化チタン多孔質粒子10個をサンプリングし、各粒子の中心部(中心点から外周部に向かって半径50μmの同心円上内)と外周部(外表面から中心点に向かって深さ50μm内)とのCa濃度を測定した。そして、各酸化チタン多孔質粒子中の平均Ca濃度を算出したところ、前記各粒子全体で±20ppmの範囲で均一な分布を示していることが認められた。
【0043】
[実施例2]
実施例1で作製した球状酸化チタンゲルを洗浄し、乾燥させた後、円筒状の型に充填し、上部から荷重をかけて粒子を一体化させ、円柱状の球状酸化チタン成形体を作製した。
この円柱状の球状酸化チタン成形体を、大気中、200℃/hrで昇温し、1000℃で3時間処理し、直径14.7mm、高さ88mmの円柱状の酸化チタン多孔質粒子を一体化させたブロック体を得た。
さらに、この酸化チタン多孔質粒子を一体化させたブロック体を、水素雰囲気下、200℃/hrで昇温し、1000℃で2時間保持して熱処理することにより、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を一体化させた血液浄化材を作製した。
作製した血液浄化材の酸化チタン多孔質粒子について、実施例1と同様にして、各種評価測定を行った。
【0044】
この酸化チタン多孔質粒子についてのESRスペクトル及びXRDパターンは、実施例1(図1及び図2)と同様であった。
また、前記酸化チタン多孔質粒子の面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅は、0.46°、0.356°及び0.359°であった。
また、CaTiO3(ペロブスカイト型)パターンは、TiO2面方位(110)のピーク強度を100とした場合の強度比が2.6であることが確認された。
さらに、前記酸化チタン多孔質粒子の表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度は、4700ppmであった。
【0045】
[比較例1]
酸化チタン原料として塩素法により作製した比表面積約72m2/gの酸化チタン粒子100g、純水150g、分散剤としてアロンA−30SL(東亜合成株式会社製)3gを混合してポットに入れ、樹脂ボールを用いてポットミルにてスラリーを調整した。
得られたスラリーを室温にて乾燥した後、200℃/hrで昇温し、大気中705℃で2時間熱処理した。得られた焼結体を粉砕し、粒径0.5〜1.2mmに分級した。
さらに、水素雰囲気下200℃/hrで昇温し、705℃で2時間保持し、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を作製した。
作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子について、実施例1と同様にして、各種評価測定を行った。
【0046】
ESRスペクトルを測定した結果、g値の異方性は明確に観測されず、Ti3+は軸対称配位子場に特徴的なスペクトルパターンを示さなかった。
また、XRDパターンについて、同定の結果、TiO2(ルチル型とアナターゼ型)とCaTiO3(ペロブスカイト型)のパターンが測定された。
【0047】
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の平均気孔径は0.04μmであり、比表面積は48.2m2/gであった。
【0048】
[比較例2]
実施例1で作製した球状酸化チタンゲルを洗浄し、乾燥させた後、大気中、200℃/hrで昇温し、1000℃で3時間熱処理し、酸化チタン多孔質粒子を得た。
さらに、この酸化チタン多孔質粒子を、水素雰囲気下、200℃/hrで昇温し、700℃で2時間保持して熱処理し、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を作製した。
作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子について、実施例1と同様にして各種評価測定を行った。
【0049】
測定されたESRスペクトルを図3に示す。
図3に示したように、g値の異方性は明確に観測されず、Ti3+は軸対称配位子場に特徴的なスペクトルパターンを示さなかった。
【0050】
また、測定されたXRDパターンを図4に示す。
図4に示したXRDパターンについて、同定の結果、TiO2(ルチル型)とCaTiO3(ペロブスカイト型)のみのパターンのみが測定された。
また、上記において測定したXRDパターンにおいて、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅は、0.203°、0.221°及び0.184°であった。
また、CaTiO3(ペロブスカイト型)パターンは、TiO2面方位(110)のピーク強度を100とした場合の強度比が1.7であることが確認された。
【0051】
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質顆粒の平均気孔径は0.22μmであり、比表面積は2.48m2/gでり、粒子径は1.05〜1.17mmであった。
さらに、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度は、4900ppmであった。
【0052】
[実施例3]
実施例1において、スラリー調製時に添加するアルギン酸ナトリウム水溶液を1.8wt%、250gとし、それ以外は実施例1と同様にして、血液浄化用酸化チタン多孔質粒子を作製した。
作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子について、実施例1と同様にして、各種評価測定を行った。
【0053】
ESRスペクトルを測定した結果、g値の異方性は明確に観測され、Ti3+は軸対称配位子場に特徴的なスペクトルパターンを示しており、g1=1.937、g2=1.967と測定された。
また、XRDパターンについて、同定の結果、TiO2(ルチル型とアナターゼ型)とCaTiO3(ペロブスカイト型)のパターンが測定された。
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅は、0.402°、0.352°及び0.333°であった。
さらに、CaTiO3(ペロブスカイト型)パターンは、TiO2面方位(110)のピーク強度を100とした場合の強度比が4.0であることが確認された。
【0054】
また、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の平均気孔径は0.28μmであり、比表面積は2.28m2/gであり、粒子径は1.05〜1.17mmであった。
さらに、前記血液浄化用酸化チタン多孔質粒子の表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度は、9600ppmであった。
【0055】
〈アルブミン吸着能評価〉
実施例1で作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子及び実施例2で作製した血液浄化材、それぞれ、直径15mm高さ90mmの容器に装入し、血液浄化用モジュールを作製した。なお、安全性及び取扱い性等の面から、血液浄化用モジュールには、波長200〜700nmの光透過率が25%以下であるポリプロピレン製容器を使用した。
このモジュールにシリコンチューブおよび循環ポンプを設置し、循環回路を作製した。
そして、この回路にウシ血漿60mlを18ml/minの流速で4時間循環し、アルブミン濃度の経時変化を測定した。図5に、実施例1,2についてのアルブミンの経時濃度変化のグラフを示す。
図5に示した結果から、実施例1で作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子及び実施例2で作製した血液浄化材では、有用物質であるアルブミンは除去されないことが確認された。
【0056】
〈エンドトキシン除去能評価〉
実施例1、比較例1,2で作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子及び実施例2で作製した血液浄化材について、上記アルブミン吸着能評価の場合と同様に、血液浄化用モジュールを作製し、循環回路を作製した。
この回路に、3リットルの生理食塩水を流速100ml/minで通液させ、回路及び浄化材を洗浄した。そして、この回路にエンドトキシン(E.coli O111B4由来 和光純薬工業株式会社製)を添加したウシ胎児血清60mlを15ml/minで灌流し、一定時間毎に溶液を採取し、エンドトキシン濃度の経時変化を測定した(測定装置:トキシノメータET301、測定試薬:リムルス:ES−IIシングルテストワコー 和光純薬工業株式会社製)。図6に、実施例1,2、比較例1,2及び吸着材を挿入しないモジュール(Control)についてのエンドトキシン濃度の経時変化のグラフを示す。
図6に示した結果から、実施例1で作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子及び実施例2で作製した血液浄化材のエンドトキシン除去能が高いことが確認された。
【0057】
〈圧縮強度評価〉
実施例1,3で作製した血液浄化用酸化チタン多孔質粒子について、破壊荷重の測定により圧縮強度を評価した。
各30個サンプリングし、島津オートグラフAG2000Cを用いて平均破壊加重を測定した結果、実施例1は42.8N、実施例3は28.0Nであった。
このことから、実施例1の破壊加重が大きく、圧縮強度が高いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子スピン共鳴測定により温度10Kで測定した場合に、1.96付近を示すシグナルが存在し、このシグナルは対称軸に平行な成分g1と垂直な成分g2を示す2つのシグナルに分かれており、かつ、2.003〜2.004のシグナルが実質的に存在しない酸化チタンであることを特徴とする血液浄化用酸化チタン多孔質粒子。
【請求項2】
粉末X線回折パターンの面方位(002)、(310)及び(220)のピークの半価幅が0.3〜0.7°であることを特徴とする請求項1記載の血液浄化用酸化チタン多孔質粒子。
【請求項3】
少なくとも表面から深さ50μm以上の位置までのCa濃度が3000〜8000ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の血液浄化用酸化チタン多孔質粒子。
【請求項4】
粉末X線回折パターンにおいて、TiO2(ルチル型)及び少量のCaTiO3(ペロブスカイト型)のパターンのみが存在することを特徴とする請求項1〜3までのいずれか1項に記載の血液浄化用酸化チタン多孔質粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液浄化用酸化チタン多孔質粒子からなり、複数の前記粒子が焼結により一体化されていることを特徴とする血液浄化材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液浄化用酸化チタン多孔質粒子が、波長200〜700nmの光透過率が30%以下である遮光性容器に複数装入されていることを特徴とする血液浄化用モジュール。
【請求項7】
請求項5に記載の血液浄化材が、波長200〜700nmの光透過率が30%以下である遮光性容器に装入されていることを特徴とする血液浄化用モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−148057(P2012−148057A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216642(P2011−216642)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】