説明

血液浄化装置

【課題】透析中において、定期的に代謝率の高い臓器において血管拡張物質の分泌を、補液に伴う血圧の変化から自動的に判断し、その結果に応じて除水速度を調整し、血圧低下を防ぐ血液浄化装置を提供する。
【解決手段】血液浄化器1と、血液供給回路21と、血液ポンプ3と、血液返送回路22と、透析液供給流路41と、透析液ポンプ43と、透析液排出流路42と、除水手段44と、透析液供給回路41と、血液供給回路21上であって、血液ポンプ3より上流側に設けた補液ライン5と、血液供給回路21上に設けた自動開閉弁V1と、自動開閉弁V2と、自動開閉弁V1より更に上流側の血液供給回路21から分枝する圧測定ライン25と、圧測定ライン25の血液回路21とは反対の端に存在する圧測定手段24と、圧測定手段24と電気的に接続されている圧変化演算手段71と、圧変化演算手段71および除水手段44と除水制御手段72と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補液を行う手段、補液に伴う血圧の変化を測定する手段、血圧変化の程度に応じた速度で除水を行う除水手段からなる血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経失調の患者では、除水を伴う透析治療において、血液量の減少と平行して血圧が低下していくが、このような血圧低下は緩徐な血圧低下であり問題にならない。しかしながら、このような緩徐な血液低下はやがて急速な血圧低下へと進展することが知られている。そして、この急速な血圧低下は、患者に苦痛を与え、場合によっては、患者に心筋梗塞や心停止などの重篤な状態を生じせしめる危険がある。
一方、透析治療中に血圧が急速に低下した際に、100〜300ml程度の少量の急速補液を行うと、血圧が急速に回復することが、広く知られている。図1には、血液透析中において、血圧が低下していない時と、血圧が低下した時における補液後の血圧の変化に関する、発明者らの実験結果を示す。
【0003】
透析治療中に血圧が急速に低下し、100〜300ml程度の少量の急速な補液により血圧が急速に上昇する現象のメカニズムについて、以下の理論が提唱されている。代謝率の高い臓器で酸素需要が増大すると、酸素供給量が増えない限り、酸素濃度が低下する。酸素濃度が低下すると、アデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌され、以って、血流量が増加する。その結果、当該臓器では酸素供給量が増大し、酸素濃度の低下が防がれる。一方、透析治療中においては、血圧が低下すると、全臓器で血流が低下し、以って、全臓器への酸素供給量が減少し、酸素濃度が低下する。その結果、全臓器のうち、代謝率が高い臓器では、アデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌され、以って、代謝率が高い臓器の血流量が増加する。しかし、代謝率が高い臓器の血流量の増加により、血圧はますます低下し、やがて当該臓器におけるアデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の分泌に伴なう血流の増加を、血圧の低下による血流の減少が相殺し、更に、やがてこれを上回るようになり、結果、血圧は急速に低下していく。このような状況の下で、100〜300ml程度の少量の電解質液を急速に補液すると、補液により増加した血液量は、主に血管が拡張している代謝率が高い臓器に流入し、結果、代謝率が高い臓器への酸素供給量が増大し、以って、アデノシンや一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の分泌が停止し、当該臓器の血管は収縮して、血圧が上昇する。即ち、少量の急速補液で血圧が上昇するという現象は、身体が、代謝率の高い臓器の血流量が減少して血管拡張物質が分泌されているという危機的な状況にあったことを示している。これは、血圧が低下していない状況、或いは、血圧が緩徐にしか低下して行かない状況の下では、100〜300ml程度の少量の電解質液を急速に補液しても、血圧は変化しないことからも明らかである。図4には、血液透析中において、血圧が低下していない時と、血圧が低下した時における補液後の血圧の変化に関する、発明者らの実験結果を示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本透析医学会雑誌42巻9号 695〜703頁「逆濾過透析液を利用した自動モードによる間歇補液血液透析の考案とその臨床評価」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その解決すべき課題は、透析中において、定期的に代謝率の高い臓器において血管拡張物質が分泌されているか否かを、補液に伴なう血圧の変化から自動的に判断し、その結果に応じて除水速度を調整することにより、血圧低下を防ぐことを可能にする血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題の解決のために、請求項1の発明の要旨とするところは、
血液を浄化する血液浄化器と、該血液浄化器に対して体内から取り出された浄化されるべき血液を供給するための血液供給回路と、該血液供給回路上に設けられた、血液を前記血液浄化器に送出するための血液ポンプと、前記血液浄化器に接続され、該血液浄化器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送回路と、前記血液浄化器に接続され、該血液浄化器へ透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路上に設けられた、透析液を前記血液浄化器に供給するための透析液ポンプと、前記血液浄化器で血液を浄化するのに使用された透析液を該血液浄化器から排出するための透析液排出流路と、前記血液浄化器からの透析液の単位時間当たりの排出量と該血液浄化器への透析液の単位時間当たりの供給量との差が、体内からの除水速度と等しくなるように駆動する除水手段とから構成される血液透析施行手段と、血液浄化治療中において、所定の間隔で所定量の補液を行う補液手段と、補液に伴う血圧の変化、或いは、血圧を反映する指標の変化を測定する圧変化測定手段と、補液後に、該血圧変化測定手段により測定された血圧変化の程度に応じた速度で除水を行う除水手段と、を有する血液浄化装置である。
【0007】
そして、請求項2の発明に従う血液透析装置においては、前記補液手段が、透析液をオンラインで血液回路内に注入するための手段である。
【0008】
更に、請求項3の発明に従う血液透析装置においては、前記補液手段は、血液浄化器において、血液浄化器膜を介して、逆濾過により透析液を血液側へ移行させるための手段である。
【0009】
更に、又、請求項4の発明に従う血液透析装置においては、前記補液手段は、容器に保存されている電解質液を血液回路内に注入するための手段である。
【0010】
そして、請求項5の発明に従う血液透析装置においては、前記血圧変化測定手段がシャント血管内の圧変化を測定する手段である。
【0011】
一方、請求項6の発明に従う血液透析装置においては、前記除水速度設定手段により設定される除水速度は、ゼロ、透析開始前に飲水したことによる過剰体液貯留分のみが除水されるような速度、透析開始前に飲水したことによる過剰体液貯留分と補液分の合計が除水されるような速度の3種類である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、血液浄化治療中に、所定の間隔で所定量の補液を行ない、補液の前と後には、血圧、或いは、血圧を反映する指標を測定し、更に、該血圧、或いは、血圧を反映する指標の補液の前後における変化の程度を算出し、この変化が大きい場合には、代謝率の高い臓器の血流量が減少して血管拡張物質が分泌されているという危機的な状況にあると判断し、以って、該血圧、或いは、血圧を反映する指標の補液の前後における変化の程度に基づいて、次の所定量の補液までの間に行われる除水速度を調整することにより、血圧の低下を防止することが可能となる。
【0013】
又、請求項2の発明においては、血液浄化治療中に、所定の間隔で行われる所定量の補液が、透析液をオンラインで血液回路内に注入することにより実現されるので、補液に使用する電解質液に掛かる費用が削減できるという利点がある。
【0014】
更に、請求項3の発明においては、血液浄化治療中に、所定の間隔で行われる所定量の補液が、透析液を血液浄化器膜を介して逆濾過により血液側に移行させることで実現させられるので、補液に使用する電解質液に掛かる費用が削減できるという利点がある。
【0015】
更に、請求項4の発明においては、血液浄化治療中に、所定の間隔で行われる所定量の補液が、容器に保存されている電解質液を注入することで実現されるので、補液に用いられる電解質液が細菌等に汚染されることなく、安全であるという利点がある。
【0016】
更に、請求項5の発明においては、補液の前と後における血圧の変化を、シャント血管内の圧の変化から推定するので、患者にあっては、血圧を測定するために上腕をマンシェットなどで頻繁に締め付けられるという不快な思いをする必要がなくなるという利点がある。
【0017】
更に、請求項6の発明においては、所定量の補液の前後における、血圧、或いは、血圧を反映する指標の変化の程度に基づいて決定される、次の所定量の補液までの間に行われる除水の速度が、ゼロ(除水の停止)、透析開始前に飲水したことによる過剰体液貯留分のみが除水されるような速度、或いは、透析開始前に飲水したことによる過剰体液貯留分と補液分の合計が除水されるような速度の3種類のうちのいずれかであるため、装置が簡単で使いやすいものとなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の概略説明図である。
【図2】実施例2の概略説明図である。
【図3】実施例3の概略説明図である。
【図4】血液透析中において、血圧が低下していない時と、血圧が低下した時における補液後の血圧の変化に関する、発明者らの実験結果を示す
【図5】実験例1の説明図である。
【図6】実験例1の説明図である。
【図7】実験例1の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【実施例1】
【0020】
先ず、実施例1について、図1を用いて説明する。
図1は実施例1の概略説明図であり、血液浄化治療中に、所定の間隔で行われる所定量の補液が、透析液をオンラインで血液回路内に注入することである場合の血液浄化装置を示す。
実施例1の血液浄化装置は、血液浄化器1と、血液浄化器1に対して体内から取り出された浄化されるべき血液を供給するための血液供給回路21と、血液供給回路21上に設けられた、血液を血液浄化器21に送出するための血液ポンプ3と、血液浄化器1に接続され、血液浄化器1で浄化された血液を体内に返送するための血液返送回路22と、血液浄化器1に接続され、血液浄化器1へ透析液を供給するための透析液供給流路41と、透析液供給流路41上に設けられた、透析液を血液浄化器1に供給するための透析液ポンプ43と、血液浄化器1で血液を浄化するのに使用された透析液を血液浄化器1から排出するための透析液排出流路42と、血液浄化器1からの透析液の単位時間当たりの排出量と血液浄化器1への透析液の単位時間当たりの供給量との差が、体内からの除水速度と等しくなるように駆動する除水手段44と、透析液供給回路41と、血液供給回路21上であって、血液ポンプ3より上流側の任意の点との間に設けられた補液ライン5(このようなラインをオンラインという)と、血液供給回路21と補液ライン5との接続部51よりも上流側の血液供給回路21上に設けられた自動開閉弁V1と、補液ライン5上に設けられた自動開閉弁V2と、自動開閉弁V1より更に上流側の血液供給回路21から分枝する圧測定ライン25と、圧測定ライン25の血液回路21とは反対の端に存在する圧測定手段24と、圧測定手段24と電気的に接続されている圧変化演算手段71と、圧変化演算手段71および除水手段44の両方と電気的に接続されている除水制御手段72と、から構成されている。
【0021】
そして、本実施例における血液浄化装置により血液透析を施行する場合には、まず、自動開閉弁V1を開き、自動開閉弁V2を閉じ、血液ポンプ3にて血液浄化器1に任意の速度で血液を供給することにより血液透析を施行する。透析開始を開始した後は、透析開始時から15分おきに、血液ポンプ3の送液速度が150 ml/分となり、次に、自動開閉弁V2が開き、更に、自動開閉弁V1が閉じて、透析液供給回路41を通って血液浄化器1に供給される透析液の一部(これが補液になる)が、血液ポンプ3により、150ml/分で1分間、補液ライン5を通って血液供給回路21に流入せしめられることにより、150mlの補液が行われるようになっている。そして、補液量が150mlに達すると、自動開閉弁V1が開き、次いで自動開閉弁V2が閉じ、更に、血液ポンプ3の駆動速度が元の速度に戻されることにより、血液透析が再開されるようになっている。即ち、本実施例においては、補液ライン5と、自動開閉弁V2、V1と、血液ポンプ3により、補液手段が構成されている。
【0022】
透析開始時から15分おきに行われる補液時には、自動開閉弁V1が閉じているので、自動開閉弁V1よりも上流側において、血液供給回路21から分枝している圧測定ライン25の、血液供給回路21とは反対の端に設けられた圧測定手段24では、正確に血液回路21の先端に取り付けられた穿刺針を介して、補液前後のシャント血管内の圧が測定される。そこで、本実施例における血液浄化装置を用いて施行する血液透析においては、補液時には、150mlの補液が終了すると同時に、圧測定手段24で正確に測定された補液前後のシャント血管内の圧が圧変化演算手段71にオンラインで伝送され、圧変化演算手段71では圧測定手段24から伝送された補液前後のシャント血管内の圧の値から、補液前後のシャント血管内の圧の変化程度が算出され、圧変化演算手段71で算出されたシャント血管内の圧の変化程度は、次に、除水制御手段72に伝送され、除水制御手段72では、圧変化演算手段71から伝送された補液前後のシャント血管内の圧の変化程度に基づいて、次の補液時までの除水速度が決定され、その情報は除水手段44に伝送される。
【0023】
本実施例においては、補液の前後のシャント血管内の圧の変化の程度の指標として、
シャント血管内圧上昇率=(補液後のシャント血管内圧−補液前のシャント血管内圧)/補液前のシャント血管内圧×100%。という指標を採用した。そして、この式により求めたシャント血管内圧上昇率が30%以上の場合には、除水を行わず、シャント血管内圧上昇率が20%より大きく、且つ、30%以下の場合には体重増加分のみを除水し、血液上昇率が20%以下の場合に体重増加分と補液した分を除水した。
【実施例2】
【0024】
図2は実施例2の概略説明図であり、所定の間隔で行われる所定量の補液が、容器に保存された電解質液を血液回路内に注入することであるところの血液浄化装置を示す。
実施例2の血液浄化装置では、血液浄化器1と、血液供給回路21と、血液供給回路21に設けられた血液ポンプ3と、血液返送回路22と、透析液供給回路41と透析液排液回路42を含んでいる。そして、血液ポンプ3より上流側の接続部分62において、血液供給回路21には電解質液供給ライン6が接続されており、更に、電解質液供給ライン6の血液供給回路21と反対側の端には、電解質液容器61が接続されている。又、電解質液供給ライン6と血液供給回路21との接続部分62より上流側の血液供給回路21上には、コッフェルK1が設けられ、更に、電解質液供給ライン6上には、コッフェルK2が設けられている。又、コッフェルK1より更に上流側の血液供給回路21からは、圧測定ライン25が分枝し、圧測定ライン25の血液供給回路21とは反対の端には、圧測定手段24が接続されている。尚、実施例2においても、特に図示はされていないが、実施例1におけると同様に、圧変化演算手段、除水制御手段、除水手段が設けられている。
【0025】
実施例2における血液浄化装置において、血液透析を施行する場合には、まず、コッフェルK1を開き、コッフェルK2を閉じて、血液ポンプ3にて血液浄化器1に任意の速度で血液を供給することにより血液透析を施行する。
【0026】
実施例2においては、透析開始後は、透析開始時から15分おきに、血液ポンプ3の送液速度を150ml/分に調整し、次に、コッフェルK2を開き、次いでコッフェルK1を閉じる。これにより、電解質液が、電解質液容器61から、150ml/分で1分間、電解質液ライン6を通って血液回路21に流入せしめられ、以って、150mlの補液が行われる。そして、補液量が150mlに達すると、コッフェルK1を開き、次いでコッフェルK2を閉じ、更に、血液ポンプ3の駆動速度を元の速度に戻して血液透析を再開する。即ち、本実施例においては、電解質液容器61と、電解質液ライン6と、コッフェルK1と、コッフェルK2と、血液ポンプ3により、補液手段が構成されている。
そして、実施例2においても、補液後の除水速度は、実施例1と同じ演算式を用いて決定される。
【実施例3】
【0027】
図3は実施例3の概略説明図であり、所定の間隔で行われる所定量の補液が、血液浄化器において、血液浄化膜を介して、透析液が血液側に逆濾過されることであるところの血液浄化装置を示す。
本実施例においては、血液浄化器1と、血液供給回路21と、血液供給回路21に設けられた血液ポンプ3と、血液返送回路22と、透析液供給回路41と、透析液排液回路42と、透析液供給回路41と透析液排液回路42に跨って設けられた、血液浄化器1と透析液供給回路41、透析排液回路42との間に密閉回路を構成するイコライザー43と、イコライザー43をバイパスするバイパス回路46と、バイパス回路46上に設けられた逆濾過ポンプ45と、血液ポンプ3より上流側の血液供給回路21から分枝する圧測定ライン25と、血液供給回路21とは反対の圧測定ライン25の端に設けられた圧測定手段24からなる。
【0028】
イコライザー43としては、例えば、透析液供給装置(図示されていない)から透析液供給回路412を通って供給された新鮮な透析液を貯留し透析液供給回路411を通して血液浄化器1に供給する室と、血液浄化器1から排液回路421を通って流入する使用済透析液を貯留する室との2室と共に、除水のための除水ポンプを有するものや、更に透析液供給装置から透析液供給回路412を通って供給された新鮮な透析液を貯留し透析液供給回路411を通して血液浄化器1に供給する室と、血液浄化器1から排液回路421を通って流入する使用済透析液を貯留する室との2室に加えて、除水のための室を有するものが使用されている。貯留された使用済透析液は、イコライザー45から血液浄化器1に供給される新鮮透析液が無くなったときに、新たに新鮮な透析液が新鮮透析液室に供給されることにより、排液回路422を通って排液される。イコライザー45の室は柔軟な膜で仕切られており、新鮮透析液の室が満杯の時に使用済透析液の室が空になるように構成されている。そして、逆濾過は、イコライザー45により密閉回路とされた、血液浄化器1と透析液供給回路41、透析排液回路42とで構成される空間に、逆濾過ポンプ46でバイパス回路47を通して、該空間外から新たな透析液を注入することにより実施される。即ち、逆濾過手段50は、イコライザー45とバイパス回路47と逆濾過ポンプ46から構成されている。
【0029】
実施例3においては、透析開始後は、透析開始時から15分おきに、血液ポンプ3の駆動を停止し、同時に、逆濾過ポンプ45を駆動することにより、逆濾過手段50で、150ml/分の速度で、1分間にわたって、150ml/分の逆濾過(補液)をおこなう。そして、逆濾過量が150mlに達すると、逆濾過ポンプ45が停止し、次いで血液ポンプが元の速度で駆動するようになっている。即ち、本実施例においては、逆濾過手段50が補液手段となっている。又、実施例3でも、血液ポンプ3より上流側の血液供給回路21からは、圧測定ライン25が分枝し、圧力測定ライン25の血液供給回路21とは反対の端には、圧力測定手段24が接続されているが、該圧測定手段24により補液前後のシャント血管内の圧が測定される。そして、圧測定手段24で測定された補液前後のシャント血管内の圧は、図示されてはいないが、圧変化演算手段にオンラインで伝送され、圧変化演算手段では圧測定手段24から伝送された補液前後のシャント血管内の圧の値から、補液前後のシャント血管内の圧の変化程度が算出され、圧変化演算手段で算出されたシャント血管内の圧の変化程度は、次に、除水制御手段に伝送され、除水制御手段では、圧変化演算手段から伝送された補液前後のシャント血管内の圧の変化程度に基づいて、次の補液時までの除水速度が決定され、その情報はイコライザー45に伝送され、イコライザー45では除水制御手段が指示した速度で除水が行われる。尚、実施例3においても、補液後の除水速度は、実施例1および実施例2と同じ演算式を用いて決定される。
<実験例1>
【0030】
透析中に血圧の低下する3人の患者について、実施例2に示す血液浄化装置を用いて血液透析を行った。即ち、透析治療中に15分毎に150mlの補液を行い、補液を行った後の除水については、血圧上昇率>30%の場合には、補液後に除水を行わず、20%<血液上昇率≦30%の場合には、補液後に体重増加分のみの除水を行い、血液上昇率≦20%の場合には、補液後に体重増加分と補液した分の除水を行うようにした。図5〜図7には、それぞれの患者の血液浄化装置を用いた血液透析中における血圧の推移を示す。
同じ患者に、通常の血液浄化装置を用いて、通常の血液透析を行い、本発明の血液浄化装置を用いた場合と通常の血液浄化装置を用いた場合とを比較すると、いずれの患者でも、血液浄化装置を用いた場合に血圧が安定することがわかった。
【0031】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0032】
例えば、上記の実施形態においては、補液量を150ml、補液間隔を15分、補液速度を150ml/分としたが、本発明における補液量、補液間隔、補液速度は、これらの値に限定されるものではなく、血液浄化治療中に補液を行った場合に有効に血圧が上昇するような補液量、補液間隔、補液速度であればよい。又、補液前後における血圧の上昇の程度を示す指標として、上記の実施形態においては、血圧上昇率を採用した。しかし、本発明において使用する血圧の上昇の程度を示す指標は、血圧上昇率に限定されるものではない。補液前後の血圧変化を示す指標であれば、どのような指標を使用しても差し支えない。例えば、補液による血圧上昇の程度を示す指標として、補液前の血圧と補液後の血圧との比を使用してもよい。又、上記の実施形態においては、血圧を反映する指標としてシャント血管内圧を採用した。しかし、本発明における血圧を反映する指標は、シャント血管内圧に限定されるものではない。血圧の変化に伴なって変化する指標であれば、どのような指標を使用しても差し支えない。例えば、シャント血管内圧の代わりに、シャント血流速度、シャント血流音、指尖容積脈波、耳介の温度を使用してもよい。


【符号の説明】
【0033】
1 血液浄化器
21 血液供給回路
22 血液返送回路
23 静脈チャンバ
24 圧測定手段
3 血液ポンプ
41 透析液供給流路
411 イコライザーより下流の透析液供給回路
412 イコライザーより上流の透析液供給回路
42 透析液排出回路
421 イコライザーより下流の透析液排出回路
422 イコライザーより上流の透析液排出回路
43 透析液ポンプ
44 除水手段
45 イコライザー
46 逆濾過ポンプ
47 バイパス回路
5 補液ライン(オンライン)
51 血液ポンプより上流側の血液回路と補液ラインとの接続部分
6 生食ライン
61 生食容器
62 血液ポンプより上流側の血液回路と生食ラインとの接続部分
71 圧変化演算手段
72 除水制御手段
V1、V2 自動開閉弁
K1、K2 コッフェル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を浄化する血液浄化器と、該血液浄化器に対して体内から取り出された浄化されるべき血液を供給するための血液供給回路と、該血液供給回路上に設けられた、血液を前記血液浄化器に送出するための血液ポンプと、前記血液浄化器に接続され、該血液浄化器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送回路と、前記血液浄化器に接続され、該血液浄化器へ透析液を供給するための透析液供給流路と、前記血液浄化器で血液を浄化するのに使用された透析液を該血液浄化器から排出するための透析液排出流路と、前記血液浄化器からの透析液の単位時間当たりの排出量と該血液浄化器への透析液の単位時間当たりの供給量との差が、体内からの除水速度と等しくなるように駆動する除水手段とから構成される血液透析施行手段と、血液浄化治療中において、所定の間隔で所定量の補液を行う補液手段と、補液に伴う血圧の変化、或いは、血圧を反映する指標の変化を測定する圧変化測定手段と、補液後に、該圧変化測定手段により測定された圧変化の程度に応じた速度で除水を行う除水手段と、を有することを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記補液手段が、オンラインで透析液を注入する透析液注入手段である請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記補液手段が、血液浄化器膜を介して透析液を透析液側から血液側へ逆濾過する逆濾過手段である請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記補液手段が、容器に保存されている電解質液を注入する電解質液注入手段である請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記血圧変化測定手段がシャント血管内の圧変化を測定する手段である請求項1から請求項4に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記除水速度設定手段により設定される除水速度が、ゼロ、透析開始前に飲水したことによる過剰体液貯留分のみが除水されるような速度、透析開始前に飲水したことによる過剰体液貯留分と補液分の合計が除水されるような速度の3種類である請求項1から請求項5に記載の血液浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−239866(P2011−239866A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113065(P2010−113065)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】