説明

血液透析用マイクロ流体装置

本発明は、マイクロ流体装置と、血液等の溶液を濾過するためにこうした装置を使用する方法とを提供する。本発明の一態様では、本マイクロ流体装置が提供され、このマイクロ流体装置は、(i)1つまたは複数の第1流路であって、各第1流路が、高さが約50μmから約500μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約20cmの範囲である、1つまたは複数の第1流路と、(ii)第1流路のうちの1つまたは複数に相補的な少なくとも1つの第2流路と、(iii)1つまたは複数の第1流路を少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年10月29日に出願された米国仮特許出願第61/256,093号明細書の利益およびそれに対する優先権を主張し、その内容はすべての目的において参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、マイクロ流体装置および溶液を濾過するためにこうした装置を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
創傷、疾患または他の健康問題による腎臓または腎臓系の障害により、さまざまな生理学的問題がもたらされる可能性がある。頻繁に遭遇する問題としては、体内の異常な体液濃度、カルシウム、リン酸塩および/またはカリウムの異常な濃度、乱れた酸濃度ならびに貧血が挙げられる。窒素代謝の毒性最終生成物(たとえば、尿、尿酸およびクレアチニン)が血液および組織に蓄積する可能性がある。場合によっては、タンパク尿(尿へのタンパク質損失)および/または血尿(尿への血液損失)が発生する可能性がある。長期にわたり、腎臓問題は、心血管疾患および他の疾患に著しい影響を与える可能性がある。
【0004】
腎臓障害を患っているかまたは腎臓機能が低下した患者は、自身の腎臓機能を補完および/または置換する透析処置に頼ることが多い。透析は、健康な腎臓が通常は自力で除去する過剰な水、排泄物および毒を、体内から除去する。透析治療の頻度および程度は、たとえば腎機能不全の程度によって決まる可能性がある。
【0005】
腎機能の喪失を治療するために使用される透析処置には2つのタイプ、すなわち(i)血液透析および(ii)腹膜透析がある。血液透析の場合、患者は、患者の静脈および/または動脈内に挿入されるカテーテルを用いて血液透析機に接続される。患者の血液は機械を通過し、そこで、毒、排泄物および過剰な水が除去され、その後、血液は患者に戻される。血液透析は、通常、透析センターで行われ、治療は、1週間に3回4時間の透析を必要とする。これは、全体として患者の生活の質および共同生活体に貢献する能力を激しく妨げる。
【0006】
腹膜透析では、患者の腹膜がフィルタとして用いられ、毒、排泄物および過剰な水は、腹部の内外に排出される。透析物(透析液)は、患者の腹膜腔内に導入され、そこで、患者の腹膜と接触する。毒、排泄物および過剰な水は、拡散および浸透を介して腹膜を通って透析物内に入る。その後、毒、排泄物および水を含む使用された透析物は、患者から排出される。上記ステップは、数回繰り返される必要がある場合がある。
【0007】
血液透析と同様に、腹膜透析は、不都合であり、患者の生活の質を向上させる治療の強化に対して十分な余地を残す。たとえば、そのプロセスは、患者の側に著しい手作業による労力を必要とすることが多く、患者は、一般に、複数の治療サイクルを受ける必要があり、その各々は約1時間続く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記理由により、改善された、患者により好都合な濾過技術、特に血液濾過技術が必要とされている。本発明は、これらの必要に対処し、他の関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶液を濾過するマイクロ流体装置および方法を提供する。溶液は、産業用途または医療用途用であり得る。たとえば、マイクロ流体装置および方法は、血液透析において特定の利点を提供し、移動式腎臓増強(augmentation)装置用に適用可能であると考えられる。本明細書に記載するマイクロ流体装置は、寸法が血液透析に特に適している、1つまたは複数の第1流路を含む。特定の範囲の高さ、幅および長さによって特徴付けられる第1流路は、血液濾過用途に対して優れた流体流特性を提供することが分かった。本明細書に記載する第1流路の特徴の1つの利点は、それらが、たとえば血液中に含まれる赤血球に対して適していると考えられている流体せん断速度を提供するということである。第1流路の特徴はまた、濾液を浄化された血液から離れるように向けるために用いられる1つまたは複数の第2流路から第1流路を分離する濾過膜を通過する、濾液の総量を最適化するために重要であることも理解される。
【0010】
したがって、本発明の一態様はマイクロ流体装置を提供する。本マイクロ流体装置は、(i)1つまたは複数の第1流路であって、各第1流路が、高さが約50μmから約500μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約20cmの範囲である、1つまたは複数の第1流路と、(ii)第1流路のうちの1つまたは複数に相補的な少なくとも1つの第2流路と、(iii)1つまたは複数の第1流路を少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜とを備える。
【0011】
本発明の別の態様は、分析物を含む溶液を濾過して、前記溶液より少ない分析物を含む浄化された溶液を提供する方法を提供する。本方法は、(i)本明細書に記載し、かつ前記分析物に対して少なくとも半透過性である濾過膜を有するように構成された装置の、1つまたは複数の第1流路の流入端部に、前記分析物を含む前記溶液を導入するステップと、(ii)1つまたは複数の第1流路の流出端部から浄化された溶液を収集するステップとを含む。
【0012】
本発明のさらなる態様は、(i)濾過構成要素であって、(a)少なくとも1つの第1流路および少なくとも1つの第1流路と相補的な少なくとも1つの第2流路と、(b)少なくとも1つの第1流路を少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜とを備え、少なくとも1つの第1流路が、37.0℃の血液に対して約100s−1から約3000s−1の範囲の流体せん断速度を提供するように構成される、濾過構成要素と、(ii)少なくとも1つの第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管と、(iii)少なくとも1つの第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管と、(iv)少なくとも1つの第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管とを備える、着用可能腎臓増強装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のマイクロ流体装置を示す。
【図2】第2流路(101)が濾過膜(102)を介して2つの第1流路(100)に流体連結されている本発明のマイクロ流体装置を示す。
【図3】分岐した流路を有する本発明のマイクロ流体装置の断面図を示す。
【図4】マイクロ流体装置の流路の長さ、幅および/または高さの変化により、こうした流路内を流れる流体に対する計算されたせん断速度がいかに変化するかを評価する計算モデルの結果を示すグラフである。
【図5】マイクロ流体装置の流路の幅および高さの変化により、流路に取り付けられた濾過膜を通過する流体の計算された割合がいかに変化するかを評価する計算モデルの結果を示すグラフである。
【図6】マイクロ流体装置の流路の長さ、幅および/または高さの変化により、流路に取り付けられた膜を通過する流体(すなわち濾液)の割合とともに、流路内を流れる流体に対する計算されたせん断速度がいかに変化するかを評価する計算モデルの結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、溶液を濾過するマイクロ流体装置および方法を提供する。マイクロ流体装置および方法は、血液透析において特定の利点を提供すると考えられる。上述したように、本明細書に記載するマイクロ流体装置は、寸法が血液透析に特に適している、1つまたは複数の第1流路を含む。第1流路の高さ、幅および長さの特定の組合せが、血液濾過に対して優れた流体流特性を提供する。本明細書に記載する第1流路の特徴の1つの利点は、それらが、たとえば血液中に含まれる赤血球に対して適していと考えられる流体せん断速度を提供するということである。第1流路の特徴の別の利点は、それらが、濾液を浄化された血液から離れるように向けるために用いられる1つまたは複数の第2流路から第1流路を分離する濾過膜を、最適な総量の濾液が通過するのを可能にする、ということである。
【0015】
図1にマイクロ流体装置のいくつかの態様を例示し、その図は、複数の第1流路100が濾過膜102によって相補的な第2流路101から分離されている、例示的なマイクロ流体装置を示す。濾過膜を、化学接着剤を使用して、または機械的手段により、支持層103および104に固定してもよい。濾過される溶液は、第1流路100の流入端部に与えられる。溶液が第1流路100を通過する際、分析物が濾過膜102を通過して第2流路内に入る。濾過膜を通過する分析物は、まとめて濾液と呼ばれ、第2流路から排出され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体を、図2の配置に従って構成することができ、そこでは、複数の第1流路100が、濾過膜102によって相補的な第2流路101から分離されている。この実施形態では、単一の第2流路101が、濾過膜102を介して第1流路100のうちの2つに流体連結されている。第1流路および第2流路に対するさまざまな配置を含むマイクロ流体装置のさらなる実施形態を、後により詳細に説明する。
【0017】
本明細書に記載するマイクロ流体装置は、腎臓増強装置(KAD)での使用に適していると考えられる。KADは、自己腎機能を増強し腎機能不全の患者を治療するために患者の血液から濾液を抽出する。装置を、水分バランス(血液量過多/血液量減少)、イオン性溶質バランス、小分子排泄(血液尿素窒素、クレアチニン等)および中分子抽出(β−ミクログロブリン等)を含む、本来の腎機能を増強するように構成することができる。KADを、従来の腎臓透析または濾過を補完するかまたは部分的に置換する、携帯型の着用可能な装置を提供するように構成することができる。さらに、KADを、装置内に構築される徐放性機構を介して患者の血流に直接イオンを施すように構成することができる。
【0018】
マイクロ流体装置およびKADのさまざまな態様を以下セクションで説明する。1つのセクションに記載する特徴は、いかなる特定のセクションにも限定されるようには意図されていない。
【0019】
I.マイクロ流体装置の流路の特徴
マイクロ流体装置の流路を、それらの高さ、幅、長さおよび流路形状に従って特徴付けることができる。いくつかの高さ、幅および長さによって特徴付けられる流路は、血液透析等の溶液濾過用途に対して特定の利益を提供することが分かった。本明細書に記載するマイクロ流体装置は、1つまたは複数の第1流路および少なくとも1つの第2流路を含む。第1流路および第2流路のさまざまな特徴を以下に説明する。
【0020】
A.第1流路の特徴
本明細書におけるマイクロ流体装置は1つまたは複数の第1流路を含み、各第1流路は、高さが約50μmから約500μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約20cmの範囲である。図1に示すように、マイクロ流体装置の第1流路は、装置において互いに対しておよそ平行に伸びてもよい。別法として、図3に示すマイクロ流体装置の断面図に示すように、1つまたは複数の第1流路は、相互に連結する流路の網状構造の一部であってもよい。相互に連結する流路の網状構造は、流体流が流路内を通るように仕向ける二又分岐または他の幾何学的形状を含んでもよい。
【0021】
第1流路は、断面が円形、矩形、三角形または他の幾何学的形状であってもよい。いくつかの実施形態では、第1流路は、断面が矩形である。
【0022】
流路を、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、環状オレフィンコポリマー(たとえば、ZEONOR)、ポリスルホンまたはポリウレタン等のポリマー材料で成形することができる。いくつかの用途では、ポリグリセロールセバシン酸、ポリオクタンジオールシトラート、ポリジオールシトラート、シルクフィブロイン、ポリエステルアミドおよび/またはポリカプロラクトン等の生分解性材料または生体適合性材料が有利であり得る。
【0023】
流路寸法
第1流路の寸法を、第1流路の高さ、幅および長さに従って特徴付けることができる。それらの高さ、幅および長さに従って特徴付けられるいくつかの流路寸法は、血液等の溶液を濾過する優れた性能を提供することが分かった。図4は、マイクロ流体装置の流路の長さ、幅および/または高さに対する変更により、こうした流路内を流れる流体に対する計算されたせん断速度がいかに変化するかを評価する計算モデルの結果を示す。計算を、流路の流入端部における流体圧力が120mmHgであり、流路の流出端部における流体圧力が105mmHgである条件をモデル化するように行った。図5は、マイクロ装置の流路の幅および高さを変更することにより、流路に取り付けられた膜を通過する流体の計算された割合がいかに変化するかを評価する計算モデルの結果を示す。計算を、流路の長さが7cmであり、流路の流出端部における流体圧力が20mmHgである条件をモデル化するように行った。図6は、マイクロ流体装置の流路の長さ、幅および/または高さの変更により、流路に取り付けられた膜を通過する流体(すなわち濾液)の割合とともに、流路内を流れる流体に対する計算されたせん断速度がいかに変化するかを例示する計算モデルのさらなる結果を提供する。
【0024】
血液濾過のために優れた条件(たとえば、血液濾過に対して許容可能なせん断速度、流体が流路内を流れる際の許容可能な流体圧力降下、流路に取り付けられた膜を通過する分析物の割合)を提供すると考えられる第1流路の特徴が特定された。たとえば、第1流路は、望ましくは、高さが約50μmから約500μmの範囲である。他のいくつかの実施形態では、第1流路は、高さが約50μmから約400μm、約50μmから約300μm、約50μmから約150μm、約100μmから約200μm、約150μmから約250μm、または約80μmから約220μまでの範囲である。
【0025】
第1流路は、望ましくは、幅が約50μmから約900μmの範囲である。他のいくつかの実施形態では、第1流路は、幅が、約50μmから約150μm、約100μmから約200μm、約150μmから約250μm、約200μmから約300μm、約250μmから約350μm、約300μmから約400μm、約350μmから約400μm、約500μmから約600μm、約100μmから約500μm、約50μmから約2mm、約50μmから約1mm、または約0.5mmから約2mmの範囲である。
【0026】
第1流路は、望ましくは、長さが約3cmから約20cmの範囲である。他のいくつかの実施形態では、第1流路は、長さが約3cmから約10cm、約3cmから約5cm、約4cmから約6cm、約5cmから約7cm、約6cmから約8cm、約6.5cmから約7.5cm、約7cmから約9cmの範囲、または約7cmである。
【0027】
第1流路の寸法を、高さ対幅の比および高さ対長さの比に従って特徴付けることも可能である。いくつかの実施形態では、第1流路は、高さ対幅の比が1:1から約1:4または約1:1から約1:2の範囲である。いくつかの実施形態では、第1流路は、高さ対長さの比が1:250から約1:800または約1:250から約1:400である。いくつかの実施形態では、第1流路は、幅対長さの比が1:250から約1:800または約1:250から約1:400である。
【0028】
第1流路の寸法を、上述した高さ、幅および長さの範囲の組合せにより、単独でまたは上述した高さ対幅の比および高さ対長さの比と組合せて、特徴付けることも可能である。たとえば、いくつかの実施形態では、各第1流路は、高さが約50μmから約300μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約10cmの範囲である。いくつかの実施形態では、第1流路は、以下の表1に示す寸法のうちの1つを有している。
【0029】
【表1】

【0030】
上述したように、いくつかの実施形態では、1つまたは複数の第1流路は、相互に連結する流路の網状構造の一部である。こうした網状構造の状況では、一実施形態では、網状構造における流路の体積の少なくとも90%が、高さが約50μmから約300μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲である。
【0031】
せん断速度
第1流路を、溶液が第1流路内を移動する際に観察される流体せん断速度に従って特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の第1流路は、流体せん断速度が37.0℃の血液に対して約100s−1から約4000s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約100s−1から約3000s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約400s−1から約2200s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約1000s−1から約2200s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約1500s−1から約2200s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約1900s−1から約2200s−1の範囲であるものとして特徴付けられる。
【0032】
流体輸送の分量
第1流路を、前記流路の集合体(population)を通して輸送することができる流体の分量に従ってさらに特徴付けることができる。たとえば、いくつかの実施形態では、8000から9000の第1流路の集合体が、約1mL/分から約500mL/分、約15mL/分から約150mL/分、約50mL/分から約100mL/分、約100mL/分から約150mL/分または約15mL/分から約50mL/分の速度で血液を輸送することができる。他のいくつかの実施形態では、マイクロ流体装置は、複数の第1流路を含み、それらはまとめて、前記複数の第1流路を通して約15mL/分から約150mL/分の総量で流体を輸送するように構成される。
【0033】
濾過膜を通る流体移送の総量
第1流路を、第1流路から濾過膜を通過して第2流路まで流れる流体の総量に従ってさらに特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の第1流路は、少なくとも1つの第1流路を覆う濾過膜を通過する流体の総量が、少なくとも1つの第1流路に入る流体の約3%v/vから約50%v/vの範囲であるように構成される。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の第1流路は、少なくとも1つの第1流路を覆う濾過膜を通過する流体の総量が、少なくとも1つの第1流路に入る流体の約10%v/vから約25%v/vの範囲であるように構成される。
【0034】
B.第2流路の特徴
第2流路は、濾過膜の第1流路とは反対側に配置され、濾過膜を介して少なくとも1つの第1流路と流体連通しており、すなわち、第2流路は、1つまたは複数の第1流路と相補的である。第2流路は、第1流路と比較して高さ特徴および幅特徴が同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、第2流路は、単一の第1流路を覆うのに十分な幅である。他のいくつかの実施形態では、第2流路は、2個、3個、4個、10個または15個の第1流路を覆う等、2つ以上の第1流路を覆うのに十分な幅である。他のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの第2流路は、濾過膜を介して少なくとも2つの第1流路と流体連通している。
【0035】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの第2流路は、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約20cmの範囲である。他のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの第2流路は、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約10cmの範囲である。他のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの第2流路は、幅が約50μmから約500μmの範囲である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの第2流路は、長さが約6cmから約8cmの範囲、または約7cmである。
【0036】
いくつかの実施形態では、第2流路は、第1流路の正確な鏡像であって、厳密にその上に位置していてもよく、または代りに別の好適な形態をとってもよい(たとえば、膜にわたって第1流路の網状構造と同一の広がりを有しかつその反対側に位置する単一流路)。
【0037】
II.濾過膜
濾過膜を、特定の分析物の分離を達成するように選択することができる。濾過膜は、好ましくは多孔性であり少なくとも半透過性である。本技術分野において種々の濾過膜が既知であり、本明細書に記載するマイクロ流体装置で使用するのに適していると考えられる。
【0038】
膜の孔構造およびサイズにより、流体/溶質のいずれが第2流体および貯蔵器まで通過するかが決まる。いくつかの実施形態では、膜厚さは、およそ1μmからおよそ500μmまでの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、膜厚さは、およそ1μmからおよそ100μm、およそ100μmからおよそ200μm、およそ200μmからおよそ300μmまたはおよそ230μmからおよそ270μmの範囲であり得る。
【0039】
膜を横切る物質移動を可能にするために、膜またはその少なくとも一部は透過性または半透過性である(すなわち、選択的にいくつかのイオンおよび分子には透過性であるが他のイオンおよび分子には透過性でない)べきである。透過性を、半多孔性または多孔性材料(ポリエーテルスルホン等)を使用することによって達成してもよく、それにより物質移動が孔を介して発生する。
【0040】
膜の孔を、飛跡エッチング、溶質溶出、溶媒分解、選択的エッチング、成形または転相技法等のプロセスによって形成してもよい。膜孔サイズは、0nm〜100nmの範囲であってもよく、特定の溶質の保持および他の溶質の除去を選択するように、膜孔サイズを選択することができる。血液から除去されるべき液体または水に加えて、膜は、カリウム、ナトリウム、塩素およびマグネシウムを含むイオン、尿素およびクレアチニン等の小分子およびβ2−ミクログロブリン等の中分子の除去も可能にし得る。概して、膜は、アルブミン、フィブリンおよびフィブロネクチン等のタンパク質ならびに血液中の細胞の保持を可能にする。
【0041】
例示的な膜材料には、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、シリコン、セルロース、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスルホン(PS)、ポリカーボネート(PC)が含まれ、またはPLGA、ポリカプロラクトン(PCL)またはバイオラバー(Biorubber)等の分解性材料からである。いくつかの実施形態では、膜はポリエーテルスルホンを含む。
【0042】
III.流体導管およびポンプ
本明細書に記載するマイクロ流体装置は、任意選択的に以下のうちの1つまたは複数を含んでもよい。すなわち、(i)1つまたは複数の第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管、(ii)1つまたは複数の第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管、(iii)少なくとも1つの第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管、および(iv)第1アクセス導管に入る流体が1つまたは複数の第1流路を通過して第1戻り導管から出るように流れるのを確実にするポンプである。
【0043】
アクセス導管および戻り導管は、患者の血液等の流体を、第1流路および第2流路にまたはそこから搬送する。アクセスは、IV針、カニューレ、、カテーテルまたは埋め込まれたアクセス装置を介してもよい。アクセス点は、先の治療(たとえば血液透析)のための既存の箇所であってもよく、本質的に動−静脈であっても静−静脈であってもよい。導管は、シリコーンゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルおよびラテックスゴム等のポリマーを含む、標準的な医用管材料であり得る。アクセス導管の内径のおよそのサイズ範囲は300μm〜1cmであり得る。アクセス導管を、マイクロ流体装置内に組み込むことができ、または代りに、アクセス導管は別個であって、マイクロ流体装置に接続するために取付箇所を有することができる。
【0044】
ポンプは、たとえば、動脈血圧が特定の用途に対して十分に高くない場合、または静−静脈アクセスがより望ましいと考えられる場合に、装置内への血液流量を調節し得る。場合によっては、120mmHgの生理学的血圧が、血流を動脈アクセスからマイクロ流体装置を通り患者に戻るように駆動するのに十分であり得る。他の場合では、特に静−静脈アクセスが使用される場合、ポンプを用いて血液がマイクロ流体装置を通るように駆動される。膜の多孔性および流路の幾何学的形状とともにポンプの流れおよび圧力により、流体/溶質が抽出される速度が決まる。ポンプ圧が増大することにより、膜を横切り貯蔵器に入る血液および溶質の対流の速度が増大する。さらに、ポンプ圧の増大により、より高い流れがマイクロ流体装置を流れるように駆動される。最適なポンプ圧は、所望の血流および濾過速度によって決まるが、0mmHg〜650mmHgの範囲のポンプ圧が代表的である。マイクロ流体装置を通る血流量は、1.5L/分の通常の腎臓血流より幾分か低く、たとえば0mL/分〜500mL/分の範囲であってもよい。
【0045】
マイクロポンプおよびマイクロバルブ技術の使用を用いて、水、小分子およびタンパク質の対流伝達、ならびに溶出分子または吸着剤分子の送達および分配の速度を制御することができる。流路の寸法およびアーキテクチャの範囲で流れを制御することができるマイクロフローセンサおよび他の要素を使用してもよい。マイクロポンプ、マイクロバルブおよびマイクロフローセンサの使用は、1回のわずかな充電で長期間作用することができると考えられる。
【0046】
IV.流体貯蔵用の貯蔵器
マイクロ流体装置は、任意選択的に、濾過膜を介して流体から抽出される濾液を収集する貯蔵器を備えることができる。いくつかの実施形態では、貯蔵器の容積により、濾過膜を介して流体から抽出される濾液の総量が決まる。他のいくつかの実施形態では、貯蔵器は、少なくとも1つの第2流路の延長部である。他のいくつかの実施形態では、貯蔵器は、第2戻り導管に流体結合されている。
【0047】
(たとえば血液透析物からの水または他の老廃物用の)貯蔵器は、装置の重量および患者に対する負担を最小限にするように取外し可能であってもよい。貯蔵器の容積により、抽出される流体/溶質の総量が決まり、それは、貯蔵器が満杯になると拡散および対流が厳密に制限されるためである。本質的に、定容量形貯蔵器は、満杯になると、血液からのさらなる液体の濾過を阻止する背圧を提供し、膜を横切る対流を制限する。さらに、貯蔵器内の溶質の濃度は経時的に増大し、それにより膜を横切る溶質の拡散の速度が低下する。老廃物流における主重量は水からなり、それは、尿成分の重量の95%が水であるためである。成人の場合の通常の尿量は1.5L/日であるため、マイクロ流体装置が毎日正常に排泄される水の約50%を除去する場合、24時間の間に、3つの250mL(約9オンス)の水の塊を装置から容易にかつ安全に除去することができる。埋込み可能な水濾過ユニットとは異なり、装置と泌尿器系との間に侵襲的流体連結が不要であり、それにより、感染および他の外科合併症の危険がなくなる。患者の大きさ、必要な液体除去、1日に望まれる貯蔵器交換の回数、患者による液体摂取量および患者の血圧のような要素に従って、貯蔵器のサイズを決めることができる。
【0048】
V.吸着剤システム
マイクロ流体装置は、貯蔵器に貯蔵するために選択的にいくつかの化合物を結合するかまたは流体を吸収する吸着剤システム等の1つまたは複数の追加の構成要素を有することができる。吸着剤材料は、貯蔵器内に存在し単純に水を吸収することができ、それにより、患者から抽出された流体を安定化する。別の用途では、吸着剤材料は、特に、尿、クレアチニンまたは他の溶質を、濾液においてそれらの濃度を低減しそれにより大量のそれらを血液から除去するために結合することができる。
【0049】
VI.送達システム
マイクロ流体装置に組み込むことができる別の構成要素は、物質(イオン、抗凝固組成物および/または栄養分等)を患者の血流に直接投与する、分解性イオン溶出システム、マイクロポンプベース装置または多孔性貯蔵器等の送達システムである。送達システムは、徐放性形式で装置内の血液にたとえばイオンを放出して、濾過中に喪失したイオンを補充するかまたは他の方法で患者におけるイオンのバランスをとることができる。イオンは、ナトリウム、マグネシウム、塩素およびカリウムを含むことができる。分解系は、分解性マトリックスに入れて送達される物質を含むことができる。水は、マトリックスと接触すると分解し、それにより物質を時間依存的に放出する。マイクロポンプシステムは、ポンプ圧を使用して、物質を含む所定の分量の溶液を放出することができる。多孔性貯蔵器は、たとえば、貯蔵器内の高濃度のイオンによって駆動される拡散を介してイオンが多孔性媒体を通過するのを可能にする。
【0050】
VII.細胞を含むマイクロ流体装置
本装置を、装置の内部構造に細胞を含むことにより、特に流路の壁に裏打ちすることにより、さらに強化してもよい。したがって、本発明の一態様は、細胞が流路のうちの少なくとも1つの内壁に付着する、本明細書に記載するマイクロ流体装置に関連する。細胞は、人間または他の哺乳類の細胞であってもよく、細胞を、たとえば、腎臓の一般的な実質細胞、上皮細胞、内皮細胞、前駆細胞、幹細胞、またはネフロンからの上皮細胞およびその構造体(近位尿細管およびヘンレのループ等)を含むように腎臓組織から取得してもよい。細胞は、組織からの臨床分離株、患者の生検細胞、市販の細胞株またはさまざまな供給源からの工学的に処置された(engineered)細胞であってもよい。
【0051】
VIII.マイクロ流体装置の作製
本明細書に記載するマイクロ流体装置を、表面に1つまたは複数の流路を有する2つの高分子デバイス間に濾過膜を固定することによって作製することができる。図6に示すように、2つのポリマーデバイスは、流路を支持している各ポリマーデバイスからの表面が濾過膜に取り付けられるように向けられ、第1ポリマーデバイスからの流路が、第2ポリマーデバイスからの流路とオーバラップするように位置合せされる。濾過膜(すなわち、図6において識別される多孔性膜)を、プラズマ接合、接着接合、熱接着、架橋結合、機械的締付または上記の組合せを用いてポリマーデバイスに付着させてもよい。
【0052】
ポリマーデバイスを、微細加工技法によって作成されたモールドを用いてポリマー内に流路構造を成形すること等により、本技術分野において既知である技法を用いて作成してもよい。モールドを、フォトリソグラフィまたは電子ビームリソグラフィによってパターニングし、ウェットエッチング、溶剤エッチング、または反応性イオンエッチング等のドライエッチング処置を用いてエッチングすることができる。モールドを、シリコン、二酸化ケイ素、窒化物、ガラス、石英、金属または基板に付着したフォトレジストで製作してもよい。モールドを、任意選択的に、ポリジメチルシロキサン、エポキシまたは金属での複製によってより耐久性のある形態にしてもよい。そして、モールドを用いて、大きいアクセス導管または血液または濾液が流れるより小さい流路等、装置のポリマー構造を成形することができる。成形は、ホットエンボス加工、射出成形、鋳造または他の従来の複製処置によって達成してもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置は、硬質ポリマー(または「硬質プラスチック」)から製造される。好適な硬質ポリマー材料としては、たとえばポリイミド、ポリウレタン、エポキシおよび硬質ゴム等の熱硬化性ポリマーと、たとえばポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリ(メチルメタクリレート)、環状オレフィンコポリマー、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、ポリカプロラクトン(polycaproleacton)(PCA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(乳酸−グリコール酸)(PGLA)等の熱可塑性ポリマーが含まれる。これらの材料のうちのいくつか(たとえば、PCA、PLA、PGAおよびPGLA)は生分解性であり、したがって組織工学用途にも適している。
【0054】
環状オレフィンコポリマー(COC)を使用することができ、それは、優れた光学特性、化学特性およびバルク特性を有している。たとえば、COCは、強固な耐化学性および低い吸水性を示し、それらは、化学溶剤で滅菌され水環境で使用されることが多い装置の場合に重要な特徴である。
【0055】
硬質ポリマー材料は、装置製造に対してホットエンボス加工(またはいくつかの実施形態ではコールドエンボス加工)法を容易にする。このプロセスは、マイクロ流路を画定するフォトマスクの設計および製造で開始し、その後、フォトレジストでコーティングされた(たとえば、標準4インチの)シリコンウェハのフォトリソグラフィによるパターニングが続く。一実施形態では、パターニングステップは、予備焼成した清浄なシリコンウェハをSU8フォトレジスト(たとえば、MA、USAのMicroChemから入手可能)を用いて、30秒間2000rpmで2回スピンコーティングすることと、マスクアライナ(たとえば、Waterbury、VTのSuss America、Karl Suss MA−6)を用いてウェハ上にフォトマスクを配置し、ウェハをUV光に露出させることと、ウェハを現像液(たとえばShipleyのAZ400K)で12分間現像することと、ウェハを150℃で15分間焼成することとを含む。結果としての得られるSU8パターンでは、マイクロ流路は、一実施形態では高さが110μm±10μmである隆起特徴に対応する。
【0056】
パターニングされたSU8フォトレジストは、PDMS(たとえば、MI、USAのDow ChemicalのSylgard 184)の第2のネガ型レプリカ鋳造モールドを生成するモールドとしての役割を果たす(ステップ306)。一実施形態では、PDMS系エラストマーおよび硬化剤は、10:1の比の質量で混合され、パターニングされたSU8ウェハ上に流し込まれ、脱気のために約30分間真空下に置かれ、2時間を超えて80℃の炉で硬化する。PDMSモールドでは、流路は凹状である。耐久性のあるエポキシマスターモールドを、後にPDMSモールドから作製することができる。一実施形態では、これは、3:2体積比の樹脂および硬化剤でConapoxy(Olean、NY、USAのCytec Industries Inc.のFR−1080)を混合し、混合物をPDMSモールドに流し込み、それを120℃で6時間硬化させることによって達成される。
【0057】
硬化したエポキシマスターは、その後、PDMSモールドから解放され、COCまたは他の熱可塑性基板内にホットエンボス加工されてマイクロ流体の特徴を形成する。エンボス加工ステップは、通常、たとえば熱電対およびヒータ制御システムを介する温度の制御と、圧縮空気および真空を介する圧力の付与とを容易にするプレス機において、負荷および上昇温度下で行われる。エポキシマスターモールドが基板に直接接触している間の温度、圧力およびそれらを加える持続時間は、エンボス加工された特徴の忠実度と、エンボス加工された層を解放する能力およびそれらの層の機械的特性を最適化するように選択され得る製造パラメータを構成する。一実施形態では、COC(または他の熱可塑性)プレートが、エポキシマスター上に配置され、プレス機内に装填され、100kPaおよび120℃で1時間エンボス加工される。結果として得られるエンボス加工されたプレートは、その後、100kPa圧力下で60℃まで冷却され、プレス機から取り出され、エポキシマスターモールドから分離される。
【0058】
高温および高圧に耐えることができかつマイクロ流体パターンを熱可塑性ウェハ内にエンボス加工するための打抜き型としての役割を果たす、耐久性のあるマスターモールドを、必ずしもエポキシから作製する必要はない。代替実施形態では、エッチングされたシリコンモールドまたは電鋳されるかあるいは微細加工された金属(たとえばニッケル)モールドを使用してもよい。エポキシマスターは、耐久性があるだけでなく、比較的製造が安価であるため有利である。
【0059】
マイクロ流体装置がポンプを含む場合、ポンプは、ペリスタルティックポンプとして使用される流路の可撓性部分における等、装置に一体的であってもよく、またはマイクロ流体装置内に組み込まれる別個の構成要素であってもよい。マイクロ流体装置自体は可撓性があってもよく、成形されたポリマーが膜に接着すると、マイクロ流体装置を折り曲げ、丸め、または他の方法で成形して小型かつ好都合なフォームファクタを提供することができる。アクセス導管を、マイクロ流体装置の流路に取り付けるか、または成形プロセス中にマイクロ流体装置内に組み込むことができる。
【0060】
IX.腎臓増強装置におけるマイクロ流体濾過装置の応用
本明細書に記載するマイクロ流体装置を、腎臓増強装置(KAD)に組み込んでもよい。いくつかの実施形態では、KADは、患者に対し、短期間透析を回避し、低減しまたは補完するように、本来の腎臓機能の十分な増強を提供する。従来の透析と異なり、KADは、より長期にわたり透析のより緩やかかつより生理的な速度を提供しながら、完全な患者の移動性を可能にする。さまざまな実施形態では、KADは、いくつかの透析セッションに取って代わるかまたはそれを補完する、比較的短期間の動作が意図されているため、従来の透析システムほどの腎臓機能を提供する必要はない可能性がある。着用可能透析システムに比較して、KADは、より単純かつより小型であり、それにより、患者のリスク、コストおよび複雑性が低減し、より高い患者の移動性が可能になる。
【0061】
いくつかの実施形態では、KADは、1つまたは複数の第1流路および第1流路に相補的な1つまたは複数の第2流路と、第1流路および第2流路を分離する濾過膜と、第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管と、第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管と、第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管と、第1アクセス導管に入る流体が、第1流路を通り第1戻り導管から出るように流れることを確実にするポンプと、濾過膜を介して流体から抽出される濾液を収集する貯蔵器とを備える、マイクロ流体装置の形態をとり得る。
【0062】
本装置は、第2流路の流入端部との流体連通を提供する第2アクセス導管を有してもよい。いくつかの実施形態では、網状構造の形態をとる複数の第1流路がある。たとえば、これらは、直径または流路幅が500μm以下である分岐流路を含んでもよい。第2流路を、第1流路の正確な鏡像とし、その上に厳密に配置してもよく、または代りに、第2流路は、別の好適な形態をとってもよい(たとえば、膜にわたって第1流路の網状構造と同一の広がりを有するとともにその反対側に位置する単一流路)。他の実施形態では、第1流路は、高さに対する幅の比が少なくとも100、たとえば7μm〜10μm深さかつ数mm幅である、単一の幅が広いが浅い流路である。
【0063】
マイクロ流路の網状構造は、血液を搬送し濾液を収集する。マイクロ流路は、血液アクセス導管から延在し、流れを大径の血液アクセス導管からマイクロ流路に向けるように、分岐網状構造、二又分岐または他の幾何学的形状の形態をとることができ、マイクロ流路は、流路幅または直径が7μ〜500μmの範囲であり得る。流路幅が小さいことにより、流路内から濾過膜までの輸送を改善するために、血液中の流体および溶質に対する拡散距離が低減する。
【0064】
流路を、装置が可撓性を示すように可撓性マトリックスから形成してもよい。膜は、通常多孔性であり、少なくとも半透過性である。膜は、その領域にわたって可変特性を有してもよく、2つ以上の膜(各々、たとえば異なる選択性を有する)があってもよい。
【0065】
貯蔵器は、望ましくは、その容積によって、濾過膜を介して流体から抽出される流体および溶質の総量が決まるように構成される。貯蔵器は、第2流路の延長部であってもよく、または第2戻り導管に流体結合される別個の構造であってもよい。
【0066】
KADの代表的な実施形態は、患者の血液供給用のアクセス導管および戻り導管、必要に応じて装置内に流体を押し流すポンプ、血流用のマイクロ流路の網状構造、抽出された流体/溶質を収集する流路の第2セット、流路の第1セットおよび第2セットを分離する膜、ならびに抽出された流体/溶質を収集する貯蔵器を備えている。患者の血液は、導管を通り小さい流路内に流れ込む。そこで、膜を横切って拡散および対流を介して、流体/溶質が血液から流路の第2セット内に抽出される。そして、抽出された流体/溶質は、一時的に貯蔵されるために貯蔵器まで流れる。濾過された血液は、戻りラインに接続し血液を患者に戻す小さい流路内を流れ続ける。
【0067】
いくつかの実施形態では、KADは、(i)少なくとも1つの第1流路および少なくとも1つの第1流路に相補的な少なくとも1つの第2流路と、(ii)少なくとも1つの第1流路を少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜と、(iii)少なくとも1つの第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管と、(iv)少なくとも1つの第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管と、(v)少なくとも1つの第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管と、(vi)第1アクセス導管に入る流体が、少なくとも1つの第1流路を通り第1戻り導管から出るように流れることを確実にするポンプと、(vii)濾過膜を介して流体から抽出される濾液を収集する貯蔵器とを備える、マイクロ流体装置を備える。いくつかの実施形態では、少なくとも少なくとも1つの第1流路は、網状構造の形態の複数の流路を備える。いくつかの実施形態では、少なくとも第1流路は、直径または流路幅が500μm以下の分岐流路を備える。いくつかの実施形態では、膜は多孔性かつ少なくとも半透過性である。いくつかの実施形態では、貯蔵器の容積により、濾過膜を介して流体か抽出される濾液の総量が決まる。いくつかの実施形態では、装置は、吸着剤システムをさらに備える。いくつかの実施形態では、装置は、送達システムをさらに備える。いくつかの実施形態では、装置は、流路のうちの少なくとも1つの内壁に付着した細胞をさらに備える。いくつかの実施形態では、流路は、装置が可撓性を示すように可撓性マトリックスで形成される。いくつかの実施形態では、装置は、少なくとも1つの第2流路の流入端部との流体連通を提供する第2アクセス導管をさらに備える。いくつかの実施形態では、貯蔵器は、少なくとも1つの第2流路の延長部である。いくつかの実施形態では、貯蔵器は第2戻り導管に流体結合される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの第1流路は、高さに対する幅の比が少なくとも100である、単一の幅の広いが浅い流路である。
【0068】
KADを、小型としてもよく、いくつかの実施形態では、患者の腕、脚または胴に装着することができ、移動および血液アクセス箇所の除去の可能性を防止するように患者にひもで取り付けることができる。血液アクセスは、腕または足の動脈および静脈、ならびに胴のより大きい血管を介することができる。KADの設置を、透析クリニックまたは医院で、同様に患者自身で行うことができる。
【0069】
KADの利点としては、患者の移動性、低コストに繋がる単純な設計、有効性を向上させかつ副作用を低減する、従来の手法に対してより低速かつ緩やかな透析の速度、医療コストの節約のために透析セッションの低減を可能にすることができる、単純な設計のために患者に対するリスクの低減、従来の代替物に対してより頻繁かつ緩やかな治療による患者アウトカムの改善、微細加工された流路による流体流のより優れた制御および有害な血液−装置相互作用の低減、徐放性送達システムによるイオンの管理、ならびに濾液用の使い捨て/取外し可能貯蔵器が、患者の血液から除去された濾液の廃棄および容量の調節の低コストかつ単純な手段を提供する、ということが含まれる。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明は、(i)(a)少なくとも1つの第1流路および少なくとも1つの第1流路に相補的な少なくとも1つの第2流路と、(b)少なくとも1つの第1流路を少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜と、を備え、少なくとも1つの第1流路が、37.0℃の血液に対して約100s−1から約3000s−1の範囲の流体せん断速度を提供するように構成された、濾過構成要素と、(ii)少なくとも1つの第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管と、(iii)少なくとも1つの第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管と、(iv)少なくとも1つの第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管とを備える、着用可能腎臓増強装置を提供する。
【0071】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の第1流路は、流体せん断速度が、37.0℃の血液に対して約400s−1から約2200s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約1000s−1から約2200s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約1500s−1から約2200s−1の範囲、37.0℃の血液に対して約1900s−1から約2200s−1の範囲であるものとして特徴付けられる。いくつかの実施形態では、着用可能腎臓増強装置は少なくとも1つの第1流路を有し、それは、少なくとも1つの第1流路を覆う濾過膜を通過する流体の総量が、少なくとも1つの第1流路に入る流体の約3%v/vから約50%v/v/までの範囲であるように構成される。いくつかの実施形態では、着用可能腎臓増強装置は少なくとも1つの第1流路を有し、それは、少なくとも1つの第1流路を覆う濾過膜を通過する流体の総量が、少なくとも1つの第1流路に入る流体の約10%v/vから約25%v/v/までの範囲であるように構成される。いくつかの実施形態では、着用可能腎臓増強装置は複数の第1流路を含み、それらは、約1mL/分から約500mL/分の総量の流体を前記複数の第1流路を通して輸送するように構成される。いくつかの実施形態では、着用可能腎臓増強装置は、第1アクセス導管に入る流体が少なくとも1つの第1流路を通り第1戻り導管から出るように流れることを確実にするポンプをさらに備える。いくつかの実施形態では、着用可能腎臓増強装置は、濾過膜を介して流体から抽出される濾液を収集する貯蔵器をさらに備える。
【0072】
X.血液に流体を送達するマイクロ流体装置の使用
本明細書に記載したマイクロ流体装置を、流体を血液または他の液体に送達するために使用してもよい。たとえば、血液が第1流路を通過している間、流体を、それが濾過膜を通過して第1流路に入り、第1流路を通過している血液と混合するような条件下で、第2流路に与えることができる。流体を、それが第2流路から濾過膜を通過して第1流路に入るような圧力下で第2流路に与えることができる。こうした環境では、流体を圧力下で送達するように第2流路にポンプを接続してもよい。別法として、流体は、分析物濃度勾配または他の手段により第2流路から濾過膜を通過して第1流路に入ってもよい。
【0073】
XI.溶液を濾過する方法
本発明の別の態様は、分析物を含む溶液を、前記溶液より少ない分析物を含む浄化された溶液を提供するように濾過する方法を提供する。本方法は、(i)前記分析物を含む前記溶液を、本明細書に記載しかつ前記分析物に対して少なくとも半透過性である濾過膜を有するように構成された装置の、1つまたは複数の第1流路の流入端部内に導入するステップと、(ii)1つまたは複数の第1流路の流出端部から浄化された溶体を収集するステップとを含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、溶液は血液である。いくつかの実施形態では、分析物は、尿、尿酸、クレアチニンまたはそれらの混合物である。いくつかの実施形態では、分析物は、水、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンである。
【0075】
参照による援用
本明細書で参照した特許文献および科学論文の各々の開示内容はすべて、すべての目的において、参照により本明細書に援用される。
【0076】
均等物
本発明を、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく他の所定の形態で具現化してもよい。したがって、上述した実施形態は、すべての点において、本明細書に記載した本発明を限定するのではなく例示的であるものとみなされるべきである。そのため、本発明の範囲は、上述した説明によるのではなく添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の均等性の意味および範囲内にあるすべての変更が、本発明に包含されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)1つまたは複数の第1流路であって、各第1流路が、高さが約50μmから約500μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約20cmの範囲である、1つまたは複数の第1流路と、
(ii)前記第1流路のうちの1つまたは複数に相補的な少なくとも1つの第2流路と、
(iii)前記1つまたは複数の第1流路を前記少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜と、
を具備するマイクロ流体装置。
【請求項2】
前記1つまたは複数の第1流路が、高さ対幅の比が1:1から約1:4の範囲である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記1つまたは複数の第1流路が、高さ対長さの比が1:250から約1:800の範囲である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記1つまたは複数の第1流路が、高さが約80μmから約220μの範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記1つまたは複数の第1流路が、幅が約100μmから約500μmの範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記1つまたは複数の第1流路が、長さが約6cmから約8cmの範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記1つまたは複数の第1流路が、流体せん断速度が37.0℃の血液に対して約100s−1から約3000s−1の範囲であるように特徴付けられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記1つまたは複数の第1流路が、前記少なくとも1つの第1流路を覆う前記濾過膜を通過する流体の総量が、前記少なくとも1つの第1流路に入る前記流体の約3%v/vから約50%v/vの範囲であるように構成される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記1つまたは複数の第1流路が、相互に連結する流路の網状構造の一部である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記網状構造の前記流路の体積の少なくとも90%が、高さが約50μmから約300μmの範囲であり、幅が約50μmから約900μmの範囲である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第2流路が、幅が約50μmから約900μmの範囲であり、長さが約3cmから約20cmの範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
少なくとも1つの第2流路が、前記濾過膜を介して少なくとも2つの第1流路と流体連通している、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記膜が多孔性でありかつ少なくとも半透過性である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記膜がポリエーテルスルホンを含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
(i)1つまたは複数の第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管と、
(ii)1つまたは複数の第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管と、
(iii)前記少なくとも1つの第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管と、
(iv)前記第1アクセス導管に入る流体が1つまたは複数の第1流路を通って前記第1戻り導管から出るように流れるのを確実にするポンプと、
をさらに具備する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記濾過膜を介して前記流体から抽出された濾液を収集する貯蔵器をさらに具備する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記貯蔵器が、前記濾過膜を介して前記流体から抽出された濾液の総量を決める容積を有する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記貯蔵器が、前記少なくとも1つの第2流路の延長部である、請求項16または17に記載の装置。
【請求項19】
前記貯蔵器が、前記戻り導管に流体結合されている、請求項16〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
吸着剤システムをさらに具備する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
送達システムをさらに具備する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記流路のうちの少なくとも1つの内壁に付着した細胞をさらに具備する、請求項1〜21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
複数の第1流路を含み、前記第1流路がまとめて、前記複数の第1流路を通して約1mL/分から約500mL/分の総量の流体を輸送するように構成されている、請求項1〜22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
分析物を含む溶液を濾過して、前記溶液より少ない分析物を含む浄化された溶体を提供する方法であって、
(i)前記分析物に対して少なくとも半透過性である濾過膜を有するように構成された請求項1〜23のいずれか一項に記載の装置の1つまたは複数の第1流路の前記流入端部に、前記分析物を含む前記溶液を導入するステップと、
(ii)1つまたは複数の第1流路の前記流出端部から前記浄化された溶液を収集するステップと、
を含む方法。
【請求項25】
前記溶液が血液である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記分析物が、尿、尿酸、クレアチニンまたはそれらの混合物である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
(i)濾過構成要素であって、
(a)少なくとも1つの第1流路および前記少なくとも1つの第1流路と相補的な少なくとも1つの第2流路と、
(b)前記少なくとも1つの第1流路を前記少なくとも1つの第2流路から分離する濾過膜と、を備え、
前記少なくとも1つの第1流路が、37.0℃の血液に対して約100s−1から約3000s−1の範囲の流体せん断速度を提供するように構成される、濾過構成要素と、
(ii)前記少なくとも1つの第1流路の流入端部との流体連通を提供する第1アクセス導管と、
(iii)前記少なくとも1つの第1流路の流出端部との流体連通を提供する第1戻り導管と、
(iv)前記少なくとも1つの第2流路の流出端部との流体連通を提供する第2戻り導管と、
を具備する着用可能腎臓増強装置。
【請求項28】
前記少なくとも1つの第1流路が、前記少なくとも1つの第1流路を覆う前記濾過膜を通過する流体の総量が、前記少なくとも1つの第1流路に入る前記流体の約3%v/vから約50%v/vの範囲であるように構成される、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
複数の第1流路を含み、前記第1流路がまとめて、前記複数の第1流路を通して約1mL/分から約500mL/分の総量の流体を輸送するように構成されている、請求項27または28に記載の装置。
【請求項30】
前記第1アクセス導管に入る流体が前記少なくとも1つの第1流路を通って前記第1戻り導管から出るように流れるのを確実にするポンプをさらに具備する、請求項27〜29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記濾過膜を介して前記流体から抽出された濾液を収集する貯蔵器をさらに具備する、請求項27〜30のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2013−509263(P2013−509263A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537090(P2012−537090)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/054602
【国際公開番号】WO2011/059786
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(591016976)ザ・チャールズ・スターク・ドレイパ・ラボラトリー・インコーポレイテッド (10)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】