説明

血清または血漿の分離方法および血液分離管

【課題】微粒子を含む採取全血から血漿/血清を簡便な操作で分離するための方法を提供する。
【解決手段】微粒子を含む採取全血を高分子凝集剤と混合し、その混合物を遠心処理に供して前記高分子凝集剤により凝集した血球と微粒子を沈降させ、上層の血漿または血清を回収することを特徴とする採取全血から血清または血漿を分離する血液分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は採取全血から血清または血漿を分離する血液分離方法およびこの方法に用いる血液分離管に係り、より詳細には、人工酸素運搬体等の微粒子を含む全血から一段で血清または血漿を分離する血液分離方法およびこの方法に用いる血液分離管に関する。
【背景技術】
【0002】
採取血液を対象とする臨床検査として、血液生化学検査等のように、血漿あるいは血清を対象に行なわれるものがある。このため、採取全血から血漿や血清を得る操作は血液検体の処理として頻繁に行なわれる。現行の採取全血から血漿または血清を分離する方法では、採血管に採取した全血を遠心分離して赤血球、白血球、血小板等の血球成分を沈殿させ、上澄み液として血漿または血清を得ている。
【0003】
血漿や血清を得るための採血管は数多く市販され、血漿分離用にはEDTA−2Na、EDTA−2Ka、クエン酸Na、ヘパリンNa等の血液抗凝固剤の入った容器、また、血清分離用には血液凝固促進剤の入った容器が使用されている。また、容器内を減圧して密栓することにより、所定量の血液が採血できる真空採血管も広く使用されている。通常の血液ではこの方法で検査に支障のない血漿や血清の検体が得られる。
【0004】
しかし、溶血により遊離ヘモグロビンが混入している血液検体、トリグリセリド濃度の上昇により乳濁した乳糜血漿等は、検査が困難な検体である。このような検体では、ヘモグロビンの特性吸収や濁度が測定を妨害して正確な検査値が得られない。
【0005】
また、微粒子を輸送担体とする薬物輸送、ヘモグロビンをリン脂質小胞体に内包させた人工酸素運搬体(ヘモグロビン小胞体)、造影剤等の開発が進み、微粒子製剤の投与を伴う治療は近い将来増加するとともに多様化することが予測される。血管内への投与を目的として開発される微粒子の大きさは数十〜数百ナノメートルの範囲に設定される場合が多く、その大きさや濃度にもよるが、それら微粒子製剤は、乳濁した分散液として提供される。これら血管内へ投与される微粒子は、血球に比して数十〜数百倍小さな粒子であるため、現行の血液分離に用いられる遠心分離(遠心力:ほぼ数千g)で沈降させるのは事実上困難である。すなわち、微粒子製剤投与後の採取血液をそのまま遠心分離しても微粒子が浮遊した血漿や血清しか得られず、乳濁、さらには微粒子形成材や担持薬剤の特性吸収により各種検査に支障が生じることになる。この点が、微粒子製剤の臨床応用に際しての共通の解決課題となるが、現在までこの課題の実用的な解決には至っていない。
【0006】
微粒子を分離する方法は実験的に幾つか知られている。例えば、数万〜数十万gの遠心力をかけて微粒子を沈殿させる超遠心分離法、限外濾過やフィルター濾過等の膜分離が挙げられる。これらの方法は実験室や微粒子製造における分離精製に用いられ、原理的にはこれらの方法により血漿や血清から微粒子を除去することは可能である。しかし、超遠心分離は超遠心分離機器の設置された特定箇所でしか実施できないため、医療現場でこの実施を広く期待できるとは言えず、また、限外濾過やフィルター濾過は目詰まりが頻発し、操作の煩雑さがあるため、迅速で正確に多検体の処理が要求される臨床検体の処理法としては必ずしも実用的とは言えない。
【0007】
ところで、高分子の添加により懸濁粒子が凝集する現象はそれ自体よく知られ、例えば、リン脂質の形成する小胞体は、細胞膜のモデルとして、共存する高分子との相互作用が詳しく調べられている。各種分子量体の入手が容易なデキストラン等の多糖類(非特許文献1、2)やポリエチレングリコール(非特許文献3)がよく使用され、これらの高分子と小胞体を共存させると、条件により小胞体凝集が生起する。高分子による小胞体凝集の主要な作用として、小胞体表面の電荷(ゼータ電位)の中和あるいは遮蔽や小胞体間の架橋が知られている。高分子が粒子表面に吸着する吸着能は高分子の分子量が大きくなるほど顕著となり、また小胞体膜の流動性、小胞体表面電荷、イオン強度、温度、pH等も関連因子として見出されている(非特許文献1、2、3)。高分子の添加による小胞体凝集現象はその機構が詳しく調べられ、制御因子も明らかになっているので応用技術として利用できる。しかし、応用分野が見出されていないために有効に活用されていないのが実状である。応用例の一つとして薬剤を内包する小胞体の精製方法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
水処理の分野では、水溶性高分子の添加により粒子を凝集させて沈降除去する方法が実用化されている。この分野で対象とされる粒子の粒径はおおよそ数μmから数百μmであり、これより粒径の大きいものは自然沈殿でよく、逆に小さいものは凝集反応が起こりにくいため、除去するには精密濾過等の他の方法が必要とされている。古くからアルカリデンプンやアルギン酸ソーダ等の天然系水溶性高分子が使われてきたが、最近はより性能の高い合成系高分子凝集剤が広く使われている。数μmから数百μmの大きさの粒子を対象とするので血球分離には利用できる。
【0009】
その例として、特許文献2には、人体から採取した血液(全血)に、デキストランと、バンコマイシンもしくはバンコマイシン構造を持つ化合物を添加混合し、所定時間の経過により血漿(および/または血清)と血球とを分離することを特徴とする血球の分離方法が記載されている。この方法は、従来の遠心分離機の使用を必要としないことを特徴としている。しかしながら、下記比較例2で確認されているように、この方法を微粒子を含む全血に適用した場合、血球は沈降するものの、微粒子は沈降せず、血漿/血清から微粒子を分離することはできなかった。
【0010】
また、血漿とヘモグロビン内包小胞体を混合した試料にデキストランを添加して遠心分離することにより、ヘモグロビン内包小胞体を沈降させて血漿を分離した実験が非特許文献4に報告されている。この報告では、予め血液から分離した血漿にヘモグロビン内包小胞体を混合し、このものにデキストランを添加して遠心分離することにより再び血漿を得る方法が記載されている。この方法を微粒子を含む採取全血に適用した場合、まず微粒子を含む採取全血から微粒子の浮遊する血漿を分離する操作を行い、その微粒子の浮遊する血漿にデキストランを添加し、遠心分離を行うという二段階の処理を要すことになり、従来の血球分離に較べ操作が煩雑となる。多検体を同時に処理することが多い臨床検体において、段階処理による容器間の移液が検体汚染や検体の入れ違い等の原因となる可能性もある。
【特許文献1】特開平4−21627号公報
【特許文献2】特開平8−208492号公報
【非特許文献1】J. Biochem., 88, 1219, 1980
【非特許文献2】J. Biochem., 91, 975, 1982
【非特許文献3】Macromolecules, 29, 8132-8136
【非特許文献4】Clin. Chem. Lab. Med., 41, 222-231, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上述べたように、微粒子を投与した後の血液から採取された全血には、微粒子が含まれるが、その採取全血を遠心分離に供しただけでは、微粒子は、分離された血漿/血清に浮遊したままとどまり、微粒子による濁度や特性吸収により、特に比色や比濁を測定原理とする既存の臨床検査に支障をきたす。そして、従来の方法では、全血から、微粒子の取り除かれた血漿/血清を獲得するためには、煩雑な操作を要する。
【0012】
従って、本発明は、微粒子を含む採取全血から、血漿/血清を、簡便な操作で、特に一段階で、分離するための方法とそのために使用される血液分離管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、微粒子の浮遊する採取全血に高分子凝集剤を添加して、これを単に遠心分離することにより血漿や血清を分離できることを見いだした。その際、高分子凝集剤を収容した血液分離管を使用すれば、従来の血球分離と全く同じ操作で、採血から血漿/血清の分離までを、一段階で行うことが可能となる。
【0014】
すなわち、本発明の1つの側面によれば、微粒子を含む採取全血を高分子凝集剤と混合し、その混合物を遠心処理に供して前記高分子凝集剤により凝集した血球と微粒子を沈降させ、上層の血漿または血清を回収することを特徴とする採取全血から血清または血漿を分離する血液分離方法が提供される。
【0015】
また、本発明の他の側面によれば、本発明の血液分離方法に用いる血液分離管であって、血液分離管本体と、前記血液分離管本体に収容された前記高分子凝集剤を含むことを特徴とする血液分離管が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微粒子を含む採取全血から血漿/血清を簡便な操作で効率的に分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の詳細を説明する。
【0018】
本発明よると、まず、微粒子を含む採取全血に高分子凝集剤を添加する。
【0019】
血中に投与される微粒子としては、油滴小球、脂肪乳剤、高分子ビーズ、高分子ミセル、高分子ゲル、あるいは両親媒性化合物の形成するミセル、小胞体、繊維状集合体、平板状集合体等を例示することができる。通常、これら微粒子は、直径が0.01〜1μmの範囲内にある。これら微粒子のうち、ヘモグロビンを内包したリン脂質小胞体を生理学的に許容され得る媒体に分散させた人工酸素運搬体は、人工血液として使用される。
【0020】
本発明に用いられる高分子凝集剤は、微粒子を凝集させる水溶性高分子を包含する。その例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、澱粉、デキストラン、デキストリン等のノニオン性高分子凝集剤、カチオン変性ポリアクリルアミド、ポリL−リジン、キトサン、ポリビニルピリジン、ニトロ化アクリル樹脂、ポリビニルイミダゾリン、ポリ(ジアルキルアミノエチル)アクリレート、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、アスパラギン酸/ヘキサメチレンジアミン重縮合物、ポリビニルアミジン、主鎖中に第4級アンモニウム塩構造を含む強塩基性高分子電解質であるアイオネン等のカチオン性高分子凝集剤、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、スルホメチル化ポリアクリルアミド、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩等のアニオン性高分子凝集剤、アクリルアミド/アミノアルキルアクリレート(またはメタクリレート)4級塩/アクリル酸(またはアクリル酸エステル)共重合体等の両性高分子凝集剤等が挙げられる。微粒子の性質により適した高分子凝集剤を使用できるが、各種生化学検査に供される血漿や血清を採取することを考慮して、目的とする検査を妨害しない高分子凝集剤を選択することが望ましい。微粒子がマイナスの電荷を有しているときはカチオン性高分子を、また微粒子がプラスの電荷を有しているときはアニオン性高分子を選択することにより、微粒子表面と高分子凝集剤が静電的に相互作用して凝集が促進されることが多く、逆に同電荷の微粒子と高分子の組み合せでは静電反発により凝集し難くなる場合がある。複数種の高分子凝集剤を使用してもよく、また微粒子の特性に合わせて適した高分子凝集剤を設計・合成できる場合には、新規な高分子凝集剤を使用することもできる。高分子凝集剤としては、デキストランおよびポリエチレングリコールが好ましく、デキストランが特に好ましい。
【0021】
一般に高分子凝集剤は、分子量が高いほど凝集能が高くなるため、分散性の高い微粒子を凝集させるにはより高分子量の添加を必要とする。分子量の上限はないが、分子量の増大により溶液粘度が上昇して採取血液との混合に時間を要す場合があるので、分子量200万以下で微粒子を凝集できる高分子を選択するのが好ましい。また、非特許文献3に記載されているように、微粒子の凝集を生起する高分子凝集剤には下限臨界分子量が存在する点には充分注意が必要である。下限臨界分子量は高分子凝集剤の種類や微粒子の種類により決まるため、制限を設けることはできないが、臨界分子量以下の高分子を添加しても微粒子の凝集は生起しないため目的は達成されない。例えば、デキストランは、200kDa以上の平均分子量を有することが好ましい。
【0022】
高分子凝集剤は、固体、液体のいずれでもよく、例えば、溶液、粉末、薄膜等の形態で用いることができる。高分子凝集剤を溶液として用いる場合、溶媒としては、生理食塩水、緩衝溶液等を用いることができる。
【0023】
高分子凝集剤の量は、全血1mL当たり、10mg以上の割合で用いることが好ましい。高分子凝集剤の量の上限に特に制限はないが、全血1mL当たり50mg以下で十分である。
【0024】
採取全血には、高分子凝集剤に加えて、血液抗凝固剤または血液凝固促進剤を添加することができる。血液抗凝固剤は、全血から血漿を選択的に取得する場合に添加することができ、血液凝固促進剤は、全血から血清を選択的に取得する場合に添加することができる。
【0025】
血液抗凝固剤としては、それ自体既知のものを用いることができ、例えば、エチレンジアミン四酢酸二カリウム塩(EDTA−2K)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA−2Na)、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム二カリウム塩、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム三カリウム塩、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム塩等のEDTA塩;ヘパリンナトリウム、ヘパリンリチウム等のヘパリン塩;フッ化ナトリウム;クエン酸ナトリウムが挙げられる。これらの2種以上を組み合わせてもよい。血液抗凝固剤の使用量は、既知の使用量でよく、例えば、血液抗凝固剤としてEDTA−2Naを使用する場合には、全血1mL当たり、1mg程度の割合で添加することができる。血液抗凝固剤は、固体、液体のいずれでもよく、例えば、溶液、粉末、薄膜等の形態で用いることができる。溶液として用いる場合、溶媒は、上記高分子凝固剤の溶液に用いる溶媒を用いることができる。
【0026】
血液凝固促進剤としては、それ自体既知のものを用いることができ、例えばシリカが挙げられる。血液凝固促進剤の使用量は、既知の使用量でよく、例えば、血液凝固促進剤は、全血1mL当たり、0.01〜1.5mgの割合で添加することができる。血液凝固促進剤は、固体、液体のいずれでもよく、例えば、溶液、粉末、薄膜等の形態で用いることができる。溶液として用いる場合、溶媒は、上記高分子凝固剤の溶液に用いる溶媒を用いることができる。
【0027】
さらに、全血には、血漿や血清の分離を容易にするため、分離促進剤を混合することができる。分離促進剤としては、シリコーンオイル、塩素化ポリブテン、ポリイソブテン、アクリル重合体、α−オレフィン/マレイン酸ジエステル重合体等の樹脂を主成分として、これらに比重、粘度調整用としてシリカ、粘土等の無機微粒子や有機ゲル化剤を添加したものが挙げられる。これらの主成分となる樹脂は基本的に疎水性を有するものであり、また、無機微粒子は増粘効果、チキソトロピ−性を与え、有機ゲル化剤は、チキソトロピ−性を付与することなく、増粘効果を与えるものとして利用できる。分離促進剤は、全血1mL当たり、50〜400mgの割合で用いることができる。
【0028】
こうして、全血に高分子凝集剤(および必要により、上記血液抗凝固剤または血液凝固促進剤、あるいは分離促進剤)を添加し、混合した後、この混合物を遠心分離操作に供する。この遠心分離操作は、通常の遠心分離機を用いて行うことができ、遠心力としては、1000〜5000gで十分である。
【0029】
この遠心分離操作により、血球沈殿層の上に、高分子凝集剤により凝集した微粒子の沈殿層が形成され、澄んだ血漿あるいは血清が上層(上澄み)として形成される。しかる後、血漿または血清を回収する。
【0030】
本発明の血液分離方法は、高分子凝集剤を収容した血液分離管を用いることによって、より簡便に行うことができる。血液分離管は、有底筒状(通常、円筒状)の分離管本体を有し、この分離管本体の内部に高分子凝集剤(および必要により、上記血液抗凝固剤または血液凝固促進剤、あるいは分離促進剤)が収容されている。分離管本体としては、通常一般に使用されている採血管を用いることができる。そのような採血管は、ガラス、またはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル等の合成樹脂で形成される。本発明の血液分離管は、分離管本体内部が減圧状態に維持されていることが好ましく、そのような分離管本体としては、通常一般的に使用されている真空採血管を用いることができる。
【0031】
図1は、高分子凝集剤等を収容した本発明の血液分離管を例示する概略図である。図1Aは、分離管本体11内に、液体(溶液)状態の高分子凝集剤等13が収容されている例を示す。図1Bは、分離管本体11内に、固体(例えば粉末)状態の高分子凝集剤等14が収容されている例を示す。図1Cは、分離管本体11の内壁に、薄膜状態の高分子凝集剤15が収容されている例を示す。これら血液分離管は、内部が減圧状態にあり、そのため、開口部はゴムキャップ12により密閉されている。
【0032】
本発明の血液分離管は、従来使用されている採血管と高分子凝集剤をセットにして要時準備することもできる。
【0033】
従来の採血管と本発明の血液分離管を使用して、微粒子浮遊血液を遠心分離した後の状態を図2に例示する。
【0034】
従来の採血管(図2A)を使用した場合には、血球成分は沈降して沈殿層23を形成し、その上に白血球/血小板沈殿層22が形成されるが、微粒子は血漿/血清に浮遊して分離できず、乳濁した血漿/血清層21が形成されるに過ぎない。
【0035】
一方、本発明の血液分離管(図2B)を使用した場合には、血球沈殿層23の上に白血球/血小板沈殿層22が形成されるとともに、白血球/血小板沈殿層25の上に微粒子沈殿層32が形成され、その上に、澄んだ透明な血漿/血清層31が形成される。この血漿/血清層31は、デカンテーション等それ自体既知の手法で回収することができる。
【0036】
なお、図2は下記実施例に記載の人工酸素運搬体が微粒子として浮遊した血液について実施した例を図示したものであり、微粒子の大きさや比重、凝集の度合い、高分子凝集剤の種類により沈殿部分の構成は、微粒子が血球の下層に沈殿、血球と微粒子が混在した沈殿になることもある。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を用いて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものでない。
【0038】
比較例1:従来の採血管の利用
麻酔下、ビーグル犬の大腿動脈より血液を50%脱血した後、1時間経過してから人工酸素運搬体として直径250nmのリン脂質小胞体にヘモグロビンを内包させた微粒子(ヘモグロビン小胞体)を5重量%アルブミン水溶液に分散させた人工酸素運搬体を、脱血液と同容量で上腕静脈より輸注した。4時間後にこのビーグル犬より採取した血液を試料とし、従来使用されている全血を対象とする真空採血管に採取した。真空採血管として収容物のないもの、抗凝固剤を収容したもの、あるいは凝固促進剤と分離促進剤を収容したものを使用した。室温で10分間静置した後、遠心分離(5000rpm、10分)した結果、血球は沈殿するものの、ヘモグロビン小胞体は血漿あるいは血清に浮遊したままで分離できなかった。その状態は図2(A)に例示されている。
【0039】
比較例2:デキストラン添加による分離法
特許文献2には、人体から採取した血液にデキストラン、バイコマイシンまたはバイコマイシン構造式を持つ化合物、クロロキンを添加混合し、血球分離を促進することにより遠心分離を省略する方法が記載されている。
【0040】
そこで、比較例1に記載したビーグル犬の採取血液1mLに、生理塩水に溶解させたデキストラン溶液(分子量:487kDa、400mg/mL)を25μL添加してそのまま静置した。血球の沈降は進行するものの、2時間静置しても人工酸素運搬体は血漿に浮遊したままで分離できなかった。
【0041】
実施例1
(A)ポリエチレングリコール溶液(高分子凝集剤)の調整
表1に示す平均分子量の異なる2種類の市販のポリエチレングリコール粉末各1gを秤量し、これを生理塩水5mLに溶解させて2種類の高分子凝集剤溶液を調製した。
【表1】

【0042】
(B)ポリエチレングリコールを収容した採血管による血漿分離
市販の採血管に、表1に示した高分子凝集剤を各々0.5mL収容し、3つの血液分離管を作製した(表2)。
【0043】
微粒子としてリン脂質小胞体(粒径:270nm)の生理塩分散液(脂質濃度:5g/dL、10mL)をウサギ(2.5kg)の耳静脈から投与し、30分経過後に採血した。採取血液(5mL)を表2に示した血液分離管に採取して、25℃で10分間静置した。各血液分離管を遠心分離(5000rpm、10分)に供して血漿層からの小胞体除去の様子を観察した。結果を表2に併記する。
【表2】

【0044】
表2に示すように、高分子凝集剤を収容していない採血管(血液分離管1)では、血漿層に小胞体が残留して乳濁していた。一方、ポリエチレングリコールを高分子凝集剤として収容した採血管では透明な血漿が得られた。このことよりポリエチレングリコールを高分子凝集剤として収容した分採血管が、小胞体が浮遊する血液の分離に有効に機能することが確認された。
【0045】
実施例2
(A)デキストラン溶液(高分子凝集剤)の調製
表3に示す平均分子量を有する市販のデキストラン粉末1gを秤量し、これを生理塩水5mLに溶解させて高分子凝集剤を調製した。
【表3】

【0046】
(B)デキストランを収容した採血管による血漿分離
市販の7mL採血管(収容物なし)に、表3に示した高分子凝集剤を各々0.5mL収容して7つの血液分離管を作製した(表4)。
【0047】
ヘモグロビン小胞体を投与したビーグル犬から採血し、採血液(5mL)を表4に示した血液分離管に採取して、25℃で10分間静置した。各血液分離管を遠心分離(5000rpm、10分)に供して血漿層からのヘモグロビン小胞体除去の様子を観察した。結果を表4に併記する。
【表4】

【0048】
表4に示すように、分子量124kDa以下のデキストランを添加した血液分離管(血液分離管4〜8)では、血漿層にヘモグロビン小胞体が残留して乳濁していた。なお、比較例1に記載のように、デキストランを収容していない採血管でもヘモグロビン小胞体が残留して乳濁した血漿層となる。一方、デキストランの分子量200kDa、487kDa(血液分離管9、10)では透明な血漿が得られた。採血液中にヘモグロビン小胞体が浮遊する血液では、分子量200kDa以上のデキストランを収容した血液分離管を使用すれば遠心分離により透明な血漿が得られることが示された。
【0049】
実施例3:デキストランの収容量の効果
市販の7mL採血管(収容物なし)に高分子凝集剤として分子量487kDaのデキストラン溶液0.3〜0.75mLを収容して5つの血液分離管を作製した(表5)。
【0050】
ヘモグロビン小胞体を投与したビーグル犬から採血し、採血液(5mL)を、表5に示した血液分離管に採取して、25℃で10分間静置した。各血液分離管を遠心分離(5000rpm、10分)に供して血漿層からのヘモグロビン小胞体除去の様子を観察した。結果を表5に併記する。
【表5】

【0051】
表5に示すように0.5mL以上(採血後のデキストラン濃度にして18mg/mL以上)を収容した採血管を使用すれば遠心分離により透明な血漿が得られることが示された。
【0052】
実施例4:デキストランを収容した採血管による血清分離
市販の凝固促進剤(シリカ)を収容した採血管に高分子凝集剤として分子量487kDaのデキストラン溶液(200mg/mL、0.75mL)を収容して血液分離管を作製した。
【0053】
ヘモグロビン小胞体を投与したビーグル犬から採血し、採血液(6.25mL)を上記血液分離管に採取して、25℃で20分間静置した。この血液分離管を遠心分離(5000rpm、10分)に供したところ、得られた上澄み(血清)は透明であり、血清からのヘモグロビン小胞体除去が確認された。
【0054】
また比較例としてデキストラン溶液を収容していない採血管をそのまま使用したものについては、同様の遠心分離によりヘモグロビン小胞体は除去されず、透明な血清を得ることはできなかった。
【0055】
実施例5:高分子凝集剤を収容した採血管による血漿微粒子の分離
ラット(500g)から血液12mLを採取した。この採取血液3mLを生理塩水(0.4mL)を収容した採血管に採取した。25℃で10分間静置した後、遠心分離(5000rpm、10分)供したところ、得られた血漿は僅かに乳濁していた。これは、トリグリセリドやリポ蛋白質等生体由来の微粒子の光散乱により、この含量が著しく高い場合には(高脂血症)強い濁度により比濁、比色による検査が困難になる。
【0056】
同様に、ラットからの採取血液3mLを、分子量487kDaのデキストラン溶液(200mg/mL、0.4mL)、または分子量20kDaのポリエチレングリコール溶液(200mg/mL、0.4mL)を収容した採血管(血液分離管)に採取した。25℃で10分間静置した後、遠心分離(5000rpm、10分)に供したところ、得られた血漿は、デキストランを収容した血液分離管では僅かに乳濁していたが、ポリエチレングリコールを収容した血液分離管では濁度の低下を認めた。このことから、本発明の血液分離管は高分子凝集剤の選択により生体由来の微粒子の除去にも有効であることが確認された。
【0057】
実施例6:微粒子投与血液から分離した血清の生化学検査
実施例4で分離した血清について生化学検査を実施した。超遠心分離あるいは従来の採血管により分離した血清を比較とした。検査は臨床検査機関に依頼し、通常の臨床検査法に従い実施された。その結果を表6に示す。
【表6】

【0058】
表6に示すように、実施例4で得られた血清を、超遠心分離法で得られた血清の生化学検査値と比較すると、βーリポ蛋白で低値傾向を認めるものの、その他の項目は同等であった。一方、高分子凝集剤を収容していない従来の採血管では、大部分の項目において測定値が大きく逸脱するか、検出不可であった。本発明の高分子凝集剤を収容した採血管の使用により、微粒子投与による血液生化学検査への干渉が回避されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の血液分離管を示す概略図。
【図2】従来の採血管と本発明の血液分離管を使用して微粒子浮遊血液を遠心分離した後の状態を示す概略図。
【符号の説明】
【0060】
11…血液分離管本体
12…ゴムキャップ
13…液体状態の高分子凝集剤
14…固体状態の高分子凝集剤
15…薄膜状態の高分子凝集剤
21…微粒子が浮遊した乳濁血漿/血清層
22…白血球/血小板沈殿層
23…赤血球沈殿層
31…透明血漿/血清層
32…凝集微粒子沈殿層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含む採取全血を高分子凝集剤と混合し、その混合物を遠心処理に供して前記高分子凝集剤により凝集した血球と微粒子を沈降させ、上層の血漿または血清を回収することを特徴とする採取全血から血清または血漿を分離する血液分離方法。
【請求項2】
前記採取全血を前記高分子凝集剤を収容した分離管に入れ、その分離管を前記遠心処理に供することを特徴とする請求項1に記載の血液分離方法。
【請求項3】
前記微粒子が、血管内に投与された製剤であり、その直径が0.01〜1μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の血液分離方法。
【請求項4】
前記製剤が、ヘモグロビンを内包したリン脂質小胞体を含む人工酸素運搬体であることを特徴とする請求項3に記載の血液分離方法。
【請求項5】
前記高分子凝集剤が、ポリエチレングリコールまたはデキストランであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液分離方法。
【請求項6】
前記デキストランの平均分子量が200kDa以上であることを特徴とする請求項5に記載の血液分離方法。
【請求項7】
前記デキストランを、前記採取全血中の濃度が18mg/mL以上となるように前記全血と混合することを特徴とする請求項5または6に記載の血液分離方法。
【請求項8】
前記高分子凝集剤に加えて、前記採取全血に血液抗凝固剤または血液凝固促進剤をさらに添加することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の血液分離方法。
【請求項9】
請求項2〜7に記載の血液分離方法に用いる血液分離管であって、血液分離管本体と、前記血液分離管本体に収容された前記高分子凝集剤を含むことを特徴とする血液分離管。
【請求項10】
前記血液分離管本体にさらに血液抗凝固剤または血液凝固促進剤を収容したことを特徴とする請求項9に記載の血液分離管。
【請求項11】
前記血液分離管本体の内部が真空状態に維持されていることを特徴とする請求項9または10に記載の血液分離管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−271388(P2007−271388A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95902(P2006−95902)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】