説明

血漿タンパク質マトリックスおよびその製造方法

【課題】組織工学用の移植組織として並びにバイオテクノロジーにおいて有用な血漿タンパク質を含んでなる凍結乾燥した生体適合性マトリックス、および上記マトリックスの製造方法の提供。
【解決手段】機械的および物理的パラメーターを補助成分、またはマトリックスを形成した後に除去することができる添加物を使用して制御して、マトリックスの生物学的特性を改良することができる。マトリックスは、同種血漿、更に好ましくは自己由来血漿由来の血漿タンパク質を含んでなる。さらに、マトリックスの製造に用いられる血漿タンパク質の少なくとも1種類が自己由来血漿に由来する。本マトリックスは、それ自体でまたは細胞を担持する移植組織片として臨床的に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織工学用の移植組織並びにバイオテクノロジーなどの臨床用途に用いられる凍結乾燥した血漿タンパク質を含んでなるバイオマトリックスに関する。本発明によるマトリックスは、それ自体でまたは細胞を担持している移植組織片として臨床的に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、哺乳類の組織を構造的且つ機能的に再構築する技術として定義することができる(Hunziker, 2002)。イン・ビトロの組織工学は、一般的には細胞が結合し、増殖し、新組織を合成して創傷または欠陥を修復することができる構造的支持体として働くポリマー性足場の送達を含んでいる。
【0003】
疾病や外傷によって損傷を受けやすい組織の一例は、身体の幾つかの種類の軟骨の一つである、骨の関節表面に見られる関節軟骨である。軟骨の損傷は、慢性リウマチ性関節炎のような炎症性疾患、変形性骨関節症のような退行性過程、または関節内骨折またはこの後の靱帯損傷のような外傷から生じることがある。軟骨損傷は痛みや機能低下を伴うことが多く、一般的には医学的介入なしには治癒しない。
【0004】
損傷した軟骨を修復するための現在行われている治療方法としては、自発的修復応答を誘発する処置や、構造的および機能的に組織を再構築する処置が挙げられる。摩損関節形成術(abrasion artheroplasty)、微小破壊(microfracture)または軟骨下マイクロドリリング(subchondral micro-drilling)のような外科的手法を含む前者は、骨の軟骨下部位を露出することによって血餅を形成させ且つ多能性幹細胞を浸潤させ、治癒応答を開始する。誘発された組織は耐久性でなく、臨床的改良は長持ちしないことが多い。
【0005】
もう一つの方法は、自己由来または同種供給源からの軟骨または骨軟骨組織の移植である。移植の原理は、これらの細胞の増殖および組織分化活性によって新軟骨が形成されるという概念に基づいている。実際には、この手法は極めて変化しやすく、臨床上の成功は限定されていた。
【0006】
組織再生に有用なおよび/または組織培養に有用な生体適合性表面としてのマトリックスは、当該技術分野で周知である。従って、これらのマトリックスは、イン・ビトロまたはイン・ビボでの細胞増殖の基質として考えることができる。組織増殖および/または再生に適するマトリックスとしては、生物分解性および生物学的に安定なものが挙げられる。組織生長または再生を支持するといわれている有用なマトリックスとして働くことができる多くの候補のうちには、ゲル、フォーム、シート、および様々な形態および形状の多数の多孔性粒状構造物が挙げられる。
【0007】
合成および/または天然に存在する生物分解性材料から形成される多孔性材料は、以前は創傷被覆材または移植組織片として用いられてきた。多孔性材料は、治癒が進行する間、構造的支持と増殖組織の枠組を提供する。好ましくは、多孔性材料は、創傷周辺の組織が再生するに従って徐々に吸収される。多孔性創傷被覆材または移植組織片の制作に用いられる典型的な生体吸収性材料としては、構造タンパク質および多糖類のような合成ポリマーおよびバイオポリマーが挙げられる。バイオポリマーは、その物理化学的特性に影響を与える方法で選択または処理することができる。例えば、バイオポリマーは、酵素的、化学的または他の手段によって架橋することができ、それによって、柔軟性または分解感受性の程度を大きくまたは小さくすることができる。
【0008】
組織工学処理または培養に有用であることが開示されている多種多様な天然ポリマーの中には、フィブロネクチン、様々な種類のコラーゲン、およびラミニン、並びにケラチン、フィブリンおよびフィブリノーゲン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸など細胞外マトリックスの様々な成分が挙げられる。
【0009】
フィブリンは、血液凝固過程に関与する主要な血漿タンパク質である。血液の凝固は、多数の血漿タンパク質、特にフィブリノーゲン(第I因子)、第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、および第XIII因子の逐次的相互作用を含む複雑な過程である。フォンビルラント因子(vWF)、アルブミン、免疫グロブリン、凝固因子、および補体成分のような他の血漿タンパク質は、血液のタンパク質網状組織または血餅の形成に役割を果たすこともできる。
【0010】
フィブリンは組織接着医療手段として当該技術分野で知られており、創傷治癒および組織修復に用いることができる。凍結乾燥した血漿由来のタンパク質濃縮物(第XIII因子、フィブロネクチン、およびフィブリノーゲンを含む)は、トロンビンおよびカルシウムの存在下にて注射可能な生物学的膠(biological glue)を形成する。米国特許第5,411,885号明細書には、フィブリン膠を用いる、組織を埋設して培養する方法が開示されている。米国特許第4,642,120号明細書には、フィブリノーゲン膠を自己由来間葉細胞または軟骨細胞と組み合わせて用いて軟骨および骨の欠陥の修復を促進することが開示されている。米国特許第5,260,420号明細書には、フィブリンを含んでなる生物学的膠の製造方法および損傷部位へ注入する用法が開示されている。米国特許第6,074,663号明細書には、接着形成の防止のための架橋フィブリンシート様材料が開示されている。
【0011】
米国特許第6,310,267号明細書には、創傷治癒用の生物分解性の柔軟なフィブリンウェブの特定の製造方法が開示されている。この方法は、キレート化剤を含むフィブリノーゲン溶液の透析、トロンビン溶液の添加による柔軟なウェブの形成、ウェブのフリーズドライ及び凍結乾燥(lyophilizing)を必要とする。
【0012】
米国特許第5,972,385号明細書には、組織修復の目的で単独でまたは増殖因子のような他の治療薬と組み合わせて投与される架橋したコラーゲン−多糖類マトリックスが開示されている。この発明には、フィブリンと組み合わせた架橋コラーゲン−多糖類マトリックスも開示されている。このマトリックスの調製工程は、凍結および凍結乾燥、並びにフィブリノーゲンとトロンビンを添加して、上記マトリックスにフィブリンを形成することを
含む。
【0013】
創傷治癒を目的とする凍結乾燥したフィブリンウェブは、米国特許第6,310,267号明細書に開示されている。開示されているように、ウェブの調製には、フィブリノーゲン溶液の単一または多段階透析が必要である。この開示によれば、フィブリノーゲン溶液の単一段階または多段階透析によりその組成が著しく変化し、それに通常含まれている塩およびアミノ酸の濃度がかなり減少する。透析は、NaClのような生理学的に適合性の無機塩と、EDTA、シュウ酸またはクエン酸のアルカリ金属塩のような有機錯化剤との水溶液中で行われる。
【0014】
止血、組織接着、創傷治癒、および細胞培養支持のための血餅形成活性剤を含むフィブリンスポンジは、WO 99/15209号明細書に開示されている。
【0015】
この開示によれば、凍結乾燥後の水分または水含量の回復は、柔軟で適合性のある高吸収性スポンジを得るのに極めて重要である。
【0016】
米国特許第5,955,438号明細書および第4,971,954号明細書には、組織再生に有用な、糖により架橋したコラーゲン基剤のマトリックスが開示されている。米国特許第5,700,476号明細書は、創傷修復に用いるのに適した薬理活性を有する薬剤を含む生体吸収性移植材料を提供する。この方法は、凍結乾燥して異形スポンジを形成し、これによって薬理活性を有する薬剤を段階的に放出することができる2種類のバイオポリマー成分の混合物を記載している。
【0017】
米国特許第5,736,372号明細書には、関節内層に用いられる機能性軟骨構造のイン・ビボでの産生用の軟骨細胞を含む生物分解性合成ポリマー繊維状マトリックスが開示されている。
【0018】
米国特許第5,948,429号明細書では、バイオポリマー溶液の形成、この溶液の紫外線による架橋、及びその後凍結乾燥して格子を形成することを含んでなる、バイオポリマーフォームの製造方法が開示されている。
【0019】
米国特許第5,443,950号明細書は、間質細胞を接種して三次元間質マトリックスを形成した三次元細胞マトリックス上で増殖する様々な細胞型の移植の方法に関する。更に、米国特許第5,842,477号明細書には、骨膜/軟骨膜組織および間質細胞と組み合わせた生物活性薬剤を含むまたは含まない生体適合性三次元足場を移植して、移植部位に新たな軟骨を生成させることによるイン・ビボでの軟骨修復の方法が開示されている。用いる足場は、生物分解性または非生物分解性材料からなる群から選択される。
【0020】
病気に罹ったまたは損傷した軟骨や骨で見られる組織欠陥を包含するがこれらに限定されない組織欠陥の治療に関しては未だ満たされていないニーズがある。背景技術には、血漿タンパク質から構成される凍結乾燥したマトリックスの機械的および物理的パラメーターを、マトリックスが形成した後に除去することができる補助成分または添加剤を用いて制御し、マトリックスの生物学的特性を改良することができることはどこにも教示も示唆もされていない。本発明のマトリックスは、それ自体移植組織片として、および/または移植に適する細胞担持移植組織片として、細胞の増殖に有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、イン・ビトロおよびイン・ビボのいずれでも細胞の増殖の支持体として有用な多孔性マトリックスを提供することである。本発明のもう一つの目的は、生物分解性で且つ非免疫原性であるマトリックスを提供することである。本発明の更にもう一つの目的は、それ自体が移植組織片として、または疾患または外傷によって損傷を受けた組織を修復するための細胞担持移植組織片として有用な多孔性マトリックスを提供することである。本発明のもう一つの目的は、イン・ビボでの軟骨の増殖および修復を促進する方法を提供することである。本発明の更にもう一つの目的は、上記マトリックスの製造方法を提供することである。
【0022】
これらおよび他の目的は、本明細書に開示される発明によって適えられる。
【0023】
様々な血漿または組織タンパク質を含んでなる多数のバイオマトリックスが背景技術で知られているが、組織工学処理を成功させるのに必要な基準を満たす点で完全に満足なものは見出されていない。スポンジとも呼ばれる本明細書に開示されている多孔性マトリックスは、それ自身をイン・ビボおよびイン・ビトロのいずれでも細胞増殖を支持し、促進するために特に有利なものとする特性を有している。
【0024】
本発明のマトリックスの有利な特性の中には、下記のようなものがある。
1. マトリックスは、血漿タンパク質の粗製画分のような部分精製タンパク質を用いて良好に形成することができる。
2. 血漿タンパク質を自己由来材料から回収することができ、それによって、健康上の危険を伴う貯留血液供給源の必要性を回避することができる。
3. マトリックスは、組成物中で用いられる補助成分を変更することによって制御される優れた機械特性を有する。所望な特性としては、引張強さ、弾性、圧縮性、耐剪断性、成形適性が挙げられる。
4. マトリックスは、組成物中で用いられる補助成分を変更することによって制御される優れた物理特性を有する。所望な特性としては、テキスチャー、細孔径および細孔の均一性、電荷および電荷分布、親水性、付着性、湿潤性が挙げられる。
5. マトリックスは、組成物中で用いられる補助成分を変更することによって制御される優れた生物学的特性を有する。所望な特性としては、生物分解性、免疫原性の欠如、細胞生長、増殖、分化および移動を維持し、促進する能力が挙げられる。
【0025】
マトリックスの属性および所望な特性を、補助成分であって、それらの幾つかは以後の細胞生長および増殖の支持に対し有害であると考えられ得るものを用いることによって制御することができることを初めて開示する。従って、これらの成分はフリーズドライしたマトリックスの生成および形成の過程において用いられ、次いで必要な場合には除去されることを明確に理解されたい。凍結乾燥したマトリックスを再水和し、洗浄して細胞生長に有害なあらゆる添加剤を除去することにより、意図された使用目的のための所望の機械および生物学的特性を有し、細胞生長に有害な成分を本質的に含まない最適化された血漿タンパク質マトリックスを提供することができる。洗浄したマトリックスは、直ちに用いることもまたは使用前に再度凍結乾燥することもできる。
【0026】
本発明のマトリックスの本質的成分は、カルシウムイオンと第XIII因子の存在下でフィブリノーゲンとトロンビンの相互作用によって得られるフィブリン;セリンタンパク質阻害薬、特にプラスミン阻害薬、具体的にはトラネキサム酸から選択される当該技術分野で周知の抗繊溶剤である。アプロチニン、α-2-マクログロブリン、α-2-プラスミン阻害薬、プラスミノーゲン活性剤阻害薬、および他の天然または合成薬剤などの他の抗繊溶剤を、単独でまたは組み合わせて用いることもできる。場合によっては任意の添加剤を含むまたは含まないこれらの本質的成分を凍結乾燥して、実質的に有機キレート化剤の非存在下で残留水含量の最少要件なしで弾力性のあるスポンジ様マトリックスを得る。補助成分としては、上記のように所望な特性を付与する様々なポリマーが挙げられる。好ましいポリマーは、多糖類、現在一層好ましくはヒアルロン酸;アニオン性多糖類、現在一層好ましくは硫酸化多糖類、現在最も好ましいものはデキストラン硫酸;グリコサミノグリカン、またはポリエチレングリコールまたはそれらの組合せのような他のポリマーから選択することができる。更に、上記成分の1以上と共にグリセロールを加えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、血漿由来のタンパク質の廉価な生物分解性の非免疫原性三次元マトリックスを提供する。本発明の現在の好ましい態様では、マトリックスは、同種血漿、更に好ましくは自己由来血漿由来の血漿タンパク質を含んでなる。本発明の一態様によれば、マトリックスの製造に用いられる血漿タンパク質の少なくとも1種類が自己由来血漿に由来する。本発明のもう一つの態様によれば、総ての血漿タンパク質は自己由来血漿に由来する。しかしながら、任意の免疫学的または他の適当な供給源からの血漿タンパク質、並びにトロンビンおよび第XIII因子と反応したときに血漿タンパク質血餅を形成する能力を有する遺伝子工学処理を施したタンパク質またはペプチドを用いることができる。従って、本発明の一態様では、本発明で用いられる血漿タンパク質は、少なくともフィブリノーゲンと第XIII因子を包含する。これらの成分は血漿供給源から精製することができ、または生のまたは組換えタンパク質などを包含する市販の供給源から用いることができる。
【0028】
本発明の一態様では、血漿タンパク質マトリックスは、本明細書で以下に記載の方法で測定した引張強さが少なくとも0.2 kPaであり、変形が2 mmのスポンジである。本発明のスポンジマトリックスは、不規則な細孔と実質的に規則的な細孔を有することできる。明細書および特許請求の範囲において、実質的に規則的な細孔という用語は、細孔の大半または更に好ましくは実質的に総ての細孔が同一細孔径範囲にあることを意味している。本発明の更に好ましいマトリックスは、直径が50-300ミクロンの範囲の細孔を有する。本発明による現在最も好ましい態様は、細孔径が100-200μmの範囲である血漿タンパク質スポンジマトリックスである。
【0029】
上記の特定の構造および機械特性を有する血漿タンパク質マトリックスは、任意の適当な方法によって得ることができ、現在の好ましい方法は、血漿タンパク質血餅を凍結乾燥する方法である。
【0030】
本発明の一態様では、血漿マトリックスは、血餅を得るのに適当な条件下で塩化カルシウムの存在下にて血漿タンパク質をトロンビンと混合し;血餅が得られる前に血漿タンパク質とトロンビンの混合物を固形支持体に注型または成形し;凝固した混合物を凍結し;凝固した混合物を凍結乾燥することによって製造される。あるいは、トロンビン溶液を鋳型に注入し、フィブリノーゲン溶液を加えて混合してブレンドし;凝固した混合物を凍結して、凍結乾燥することもできる。
【0031】
細胞生長の足場として、イン・ビボまたはイン・シテューでの移植の足場として有用な血漿タンパク質のマトリックスの製造方法は、下記の工程を含む:
血餅を得るのに適当な条件下で有機キレート剤の実質的な非存在下で、血漿タンパク質とトロンビンをカルシウムイオンと少なくとも1種類の抗繊溶剤の存在下にて混合し;場合によっては少なくとも1種類の補助成分を加え、
血餅を得る前に血漿タンパク質とトロンビンの混合物を固形支持体に注型し;
凝固した混合物を凍結し;
凝固した混合物を凍結乾燥して、残留水分量が3%に過ぎないスポンジを得る
段階を含んでなる。
【0032】
特定の典型的な態様では、30-50mg/mlの濃度の血漿タンパク質を、総血漿タンパク質1mg当たり少なくとも0.5単位、好ましくは1.5単位のトロンビンと混合した後、混合物を-70℃で約16時間冷凍し、少なくとも16時間、好ましくは24時間凍結乾燥する。
【0033】
細胞と共に用いる前のその最終形態では、スポンジは実質的に乾燥しており、10%未満の残留水分、更に好ましくは5%未満の残留水分、最も好ましくは3%未満の残留水分を含んでいる。
【0034】
もう一つの好ましい態様では、本発明のスポンジは物理、機械および/または生物学的特性などのスポンジのある種の特性を改質することができる補助成分を含んでいる。補助成分を添加することにより、スポンジに優れた特長が付与される。補助成分は、血餅の形成前に血漿タンパク質に添加される。本発明による現在の好ましい態様は、デキストラン硫酸を含んでなるスポンジである。本発明による現在の一層好ましい態様は、ヒアルロン酸を含んでなるスポンジである。本発明による現在最も好ましい態様は、ヒアルロン酸とグリセロールを含んでなるスポンジである。
【0035】
更にもう一つの態様では、スポンジに有益な特性を付与する添加剤を除去し、スポンジを凍結乾燥して全水分を除去する。一旦スポンジを注型して、凍結乾燥したならば、添加剤は最早必要がなく、スポンジから除去することができる。現在の好ましい態様は、上記した少なくとも1個のものを含んで調製したスポンジであって、冷凍−凍結乾燥段階の後に洗浄し、再度凍結乾燥して残留水分を除去したスポンジを提供する。
【0036】
本発明は、製造手続きの間に追加の合成ポリマーをスポンジに導入することを提供する。これらのポリマーは、スポンジの物理、機械および/または生物学的特性を変化させることができる。これらのポリマーは非生物分解性または生物分解性であることがある。非分解性材料の例としては、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレンのような過フッ化ポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、シリコーンゴム、ポリスルホン、ポリウレタン、非分解性ポリカルボキシレート、非分解性ポリカーボネート、非分解性ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステルアミドのようなポリアミド、および上記材料のコポリマー、ブロックコポリマーおよび配合物が挙げられる。
【0037】
分解性材料の例としては、ポリ乳酸およびポリグリコール酸のような加水分解性ポリエステル、ポリオルトエステル、分解性ポリカルボキシレート、分解性ポリカーボネート、分解性ポリカプロラクトン、ポリ無水物、および上記材料のコポリマー、ブロックコポリマーおよび配合物が挙げられる。他の成分としては、レシチンなどの界面活性剤が挙げられる。
【0038】
本発明の血漿タンパク質マトリックスは、とりわけ細胞生長にとって予想外に有利な支持体として有用である。本発明のマトリックスは、三次元支持体内で培養することが所望な間葉細胞、軟骨細胞、骨細胞および骨芽細胞、上皮細胞、ニューロン細胞、肝、腎、膵臓および任意の他の細胞型を増殖させるような組織培養に有用な生体適合性表面である。
【0039】
本発明によれば、イン・ビボでの細胞の移植のための細胞担持移植組織片も提供される。本発明の現在の好ましい態様によれば、マトリックスは、様々な細胞型の増殖を支持することができる血漿タンパク質を含んでなるスポンジである。好ましくは、スポンジに細胞を接種して、イン・ビボでの移植の前にイン・ビトロで細胞を増殖させる。あるいは、スポンジに培養しまたは採取した細胞を吸収させ、細胞を含んでなるスポンジをイン・ビボで移植する。
【0040】
更に、増殖因子、サイトカイン、酵素、抗微生物薬、抗炎症薬から選択される生物活性剤である補助成分をスポンジに導入することも包含される。
【0041】
生物活性剤、例えば、増殖因子、脈管形成促進因子などは、移植組織片中での細胞の一層速やかな生長または移植組織片の一層速やかな脈管形成を促進する上で有利である。
【0042】
移植片は、少なくともcm3あたり104(1万)個の細胞、好ましくはcm3あたり105個の細胞、更に好ましくはcm3あたり106個の細胞の密度の細胞を担持する血漿タンパク質足場からなっている。非制限的例では、軟骨細胞を軟骨損傷の部位に移植するための移植組織片は、容積が約0.2 cm3で2-3日のインキュベーション期間の前に播種した104個の軟骨細胞を有する300μlの血漿タンパク質足場からなっている。好ましくは、自己由来血漿タンパク質と自己由来軟骨細胞を含んでなる軟骨細胞を移植するための血漿タンパク質足場が、移植のための移植組織片として用いられる。本発明の特定の態様では、軟骨細胞を移植するための血漿タンパク質足場は、50-300μmの実質的に規則的な細孔径と0.2 kPaを有するフィブリンスポンジを含んでなる。本発明の血漿タンパク質マトリックスは、細胞の播種前または移植前に患部に適合するように所望な大きさおよび形状の切片に切断することができる。
【0043】
血漿タンパク質足場は、それ自体移植組織片として用いて、欠陥または損傷部位をイン・シテューで機械的に支持し、および/またはマトリックスを提供し、その中で欠陥または損傷部位からの細胞が増殖し、分化するようにすることもできる。例えば、軟骨修復には、血漿タンパク質マトリックスを、軟骨切削(chondral shaving)、レーザーまたは摩耗軟骨整復、穿孔、または微小破壊法などの他の治療手続きと共に用いることができる。
【0044】
細胞生長を支持する効果的な足場である本発明の血漿タンパク質マトリックスは、例えば、ニューロン細胞、循環器組織、尿路上皮細胞および胸部組織などを包含する細胞や組織を再生させるためのマトリックスとして、再建手術においてイン・ビボで利用することもできる。幾つかの典型的な整形外科用途としては、関節の再舗装、半月修復、頭蓋顔面復元、または椎間円板(invertebral disc)の修復が挙げられる。更に、血漿タンパク質マトリックスは、例えば、股関節置換処置におけるピンおよびプレートのような合成または他の移植組織片のコーティングとして用いることができる。従って、本発明は、本発明の血漿タンパク質マトリックスを含んでなるものでコーティングした移植組織片または医療器具も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】A−Dは、フリーズ・ドライの前、フリーズ・ドライ後に本発明の一態様によって製造した、低フィブリノーゲン濃度または高フィブリノーゲン濃度を用いて製造したフィブリンスポンジを示し、市販のコラーゲンスポンジと比較した。
【図2】A及びBはスポンジの機械特性を示す。
【図3】A及びBはフィブリンスポンジの尿素への溶解速度を示す。
【図4】A−Dは本発明の一態様による血漿タンパク質マトリックス上で増殖した軟骨細胞。
【図5】フィブリン血餅上および市販のコラーゲンスポンジ上で増殖した細胞と比較した本発明の一態様による血漿タンパク質スポンジ上で増殖した細胞のグリコサミノグリカン(GAG)含量を示すグラフである。
【図6】血漿タンパク質スポンジおよびコラゲナーゼの存在下での関節の軟骨細胞の増殖。
【図7】ヤギへの血漿タンパク質スポンジの移植の結果を示す。
【0046】
本発明は、図を用いて行った下記の詳細な説明により一層完全に理解され、評価されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
本発明は、血漿由来のタンパク質の凍結乾燥した生体適合性で生物分解性のマトリックスに関する。本発明の一態様によるマトリックスは、例えば組織工学の方法においてイン・ビボで様々な組織を再生しおよび/または修復し、およびイン・ビトロで細胞を増殖する方法で有用である。
【0048】
本発明のマトリックスは、例えば、外傷、外科処置または疾患によって損傷を受けた組織を再生しおよび/または修復する再建外科的方法に用いることができる。本発明は、組織再生の目的でそれ自体移植可能な足場として用いるためのマトリックスを提供する。本発明の現在の好ましい態様によれば、マトリックスは、物理支持体としても、またイン・ビトロでの培養およびその後の移植の際の単離された細胞接着基剤としても働く。移植された細胞個体群は生長し、細胞は正常に機能するので、それらはそれら自身の細胞外マトリックス(ECM)支持体を分泌し始める。足場ポリマーは、人工支持体の必要性が減少するので、分解するように選択される。
【0049】
足場の用途としては、ニューロン、筋骨格、軟骨、腱(tendenous)、肝、膵臓、腎、眼、動静脈、泌尿器または任意の他の組織を形成する固形または中空器官のような組織の再生が挙げられる。本発明のある種の態様では、任意の組織から誘導されたまたは特殊の組織型への分化が誘発された幹細胞を利用することができる。好ましくは、細胞は自己由来組織から誘導される。例えば、軟骨を培養する目的で、軟骨細胞または間葉幹細胞をマトリックス上に播種することができる。本発明の特定の態様では、軟骨細胞または軟骨細胞の前駆細胞をマトリックス上に移植前にまたはイン・ビボでの移植部位に播種することができる。更に、目的とする細胞を遺伝子工学処理を施して、治療効果を発揮する遺伝子産物、例えば、抗炎症ペプチドまたはタンパク質、脈管形成、走化性、骨形成または増殖効果を有する増殖因子を発現することができる。治癒を増進するための遺伝子工学処理細胞の非制限的例は、米国特許第6,398,816号明細書に開示されている。
【0050】
本発明の更にもう一つの態様では、マトリックスは合成または他の移植組織片、または医療器具のコーティングとして用いることができる。本発明のマトリックスは、当業者に知られているコーティングまたは接着法によるピンまたはプレートのような移植組織片に適用することができる。従って、細胞生長を支持し促進することができるマトリックスコーティングは、移植組織片に好都合な環境を提供するのに用いることができる。
【0051】
便宜上と明確さのために、本明細書、例および特許請求の範囲で用いるある種の用語を、本明細書で説明する。
【0052】
本明細書で用いる「血漿」は、凝固前に見られるようなヒトまたは動物の血液の流動性の非細胞部分を表す。
【0053】
本明細書で用いる「血漿タンパク質」は、正常なヒトまたは動物の血漿中に見られる可溶性タンパク質を表す。これらには、凝固タンパク質、アルブミン、リポタンパク質、および補体タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で用いる「マトリックス」は、多孔性構造の固形または半固形状の生物分解性物質であって、細胞がマトリックスに生息しまたは侵襲することができる十分な大きさの細孔または空間を有するものを表す。マトリックス形成材料は、フィブリノーゲンを含む溶液にトロンビンを添加してフィブリンマトリックスを形成するように、マトリックスを形成するのに重合剤の添加を必要とすることがある。本発明の血漿タンパク質マトリックスは、本明細書では細胞の培養のための足場またはスポンジとして、組織置換移植組織片として、または細胞担持組織置換移植組織片として表すことができる。
【0055】
本明細書で用いる「生体適合性」という用語は、毒性が低く生体中で許容可能な異物反応および生活組織との親和性を有する材料を表す。
【0056】
本明細書で用いる「細胞担持」は、マトリックスがその関係する構造体中に細胞を保持できる能力を表す。好ましくは、細胞は、増殖し且つマトリックスの細孔を侵襲することができる。
【0057】
「移植」という用語は、本発明のスポンジを患者に挿入することによって、移植組織片が損傷を受けたまたは除去された組織を完全にまたは部分的に置換する働きをすることを表す。移植のもう一つの態様は、患者の所定部位に治療薬を輸送するビヒクルとしてのスポンジの使用を意味するものとも解釈される。この態様では、増殖因子、サイトカイン、酵素、抗微生物薬、抗炎症薬から選択される生物活性剤である補助成分のスポンジへの導入も包含される。
【0058】
生物活性剤、例えば、増殖因子、脈管形成促進因子などは、移植組織片内での細胞の一層速やかな生長、または移植組織片の一層速やかな脈管形成を促進する上で好都合である。このような因子は小さすぎてスポンジ内に効果的に保持することができないことがあるので、遅延放出または制御放出マイクロカプセルの形態でスポンジに導入し、その有効性を提供する。
【0059】
血漿タンパク質スポンジ中の細孔の「細孔径」は、様々なスポンジの顕微鏡分析によって決定されるように、方程式:P=(LxH)1/2(上記式中、LおよびHは、それぞれ細孔の長さおよび高さである)を用いることによって決定される。「細孔壁の厚み」はスポンジ中の細孔間の距離を特長づけるパラメーターであり、スポンジの微小構造を示している。これは、顕微鏡レベルでの測定によって決定される。
【0060】
「界面活性剤」とは、例えば、表面活性を示す合成有機化合物、とりわけ湿潤剤、洗剤、浸透剤、展着剤、分散剤、および発泡剤のような界面でのエネルギー関係を変更する物質を表す。本発明で有用な界面活性剤の好ましい例は疎水性化合物であり、リン脂質、油状物、およびフッ化界面活性剤が挙げられる。
【0061】
「乾燥した」およびその変化体は、脱水されたまたは無水の、すなわち実質的に液体を欠いている物理状態を表す。本発明の血漿タンパク質マトリックスは、好ましくは10%未満の残留水分を有し、更に好ましくは5%未満の残留水分を有し、最も好ましくは5%未満の残留水分を有する。
【0062】
「凍結乾燥する(lyophilize)」または「フリーズドライ」という用語は、凍結状態での急速冷凍および脱水により乾燥形態の組成物の調製を表す(ときには、昇華とも呼ばれる)。この工程は、減少した空気圧での真空下で起こり、完全圧で必要な温度より低温で乾燥することができる。
【0063】
本明細書で用いる「アニオン性多糖類」は、未修飾並びにその化学誘導体など1個の負に帯電した基(例えば、約4.0を上回るpH値のカルボキシル基)を含む多糖類であり、ナトリウムおよびカリウム塩、カルシウムまたはマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩のようなその塩を包含する。アニオン性多糖類の例としては、ペクチン、アルギン酸塩、ガラクタン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、およびポリウロン酸が挙げられる。
【0064】
硫酸化多糖類の例としては、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、ヘキスロニルヘキソサミノグリカン硫酸、イノシトールヘキサスルフェート、スクロースオクタスルフェートが挙げられる。上記のものの誘導体および模倣物は、本発明に包含されるものとする。
【0065】
本明細書で用いる「軟骨」という用語は、細胞外マトリックスに埋設された軟骨細胞を含む分化した種類の結合組織を表す。軟骨の生化学組成は種類によって異なるが、一般的にはコラーゲン、主としてII型コラーゲン、並びに他の微量の種類のもの、例えば、IXおよびXI型、プロテオグリカン、他のタンパク質、および水を含んでなる。例えば、ヒアリン軟骨、関節の軟骨、肋骨軟骨、繊維状軟骨、半月軟骨、弾性軟骨、耳軟骨、および黄色軟骨など幾つかの種類の軟骨が、当該技術分野で認められている。任意の種類の軟骨の産生は、本発明の範囲内にあるものとする。
【0066】
本明細書で用いる「軟骨細胞」は、軟骨組織の成分を産生することができる細胞を表す。
【0067】
「有機キレート剤の実質的に非存在下」とは、1mm未満の濃度、例えば、lmm未満のEDTAを表す。
【0068】
本発明の現在の好ましい態様では、血漿タンパク質マトリックスが提供される。この種類のマトリックスは、本発明によれば、抗繊溶剤を含む血漿タンパク質溶液をトロンビン溶液に暴露し、上記混合物を冷凍し、凍結乾燥してスポンジ様マトリックスを生成させることによって産生することができる。
【0069】
米国特許第6,310,267号明細書には、創傷治癒のための生物分解性の柔軟なフィブリンウェブを製造するための特定の方法が開示されている。この方法は、フィブリノーゲン溶液をキレート化剤を含み且つトロンビン溶液を添加することにより柔軟なウェブを形成する溶液で透析し、ウェブをフリーズドライし且つ凍結乾燥(lyophilizing)する必要がある。
【0070】
背景技術のフィブリンウェブとは対照的に、本発明者らは意外なことに、生体適合性の三次元(3D)スポンジ様マトリックスを粗製の血漿タンパク質溶液から調製することができることを見出した。組織への接着、細孔径および生体適合性など有利な特性を有する血漿タンパク質足場またはスポンジは、任意の有機錯体形成剤を透析した後に得られる。本発明の現在の好ましい態様によれば、血漿タンパク質溶液は同種血漿に由来する。本発明の現在の更に好ましい態様によれば、成分の少なくとも1種類、好ましくはマトリックスの製造に用いられる血漿タンパク質は、自己由来血漿に由来する。本発明のもう一つの態様によれば、マトリックスの製造に用いられる総ての成分は自己由来である。血漿タンパク質は、当該技術分野で知られており且つ下記に例示される様々な方法によって単離して、細孔径、弾性、圧縮および細胞担持能によって測定したのと実質的に同様な特性を有する血漿タンパク質マトリックスを生成することができる。安定なトロンビン成分は、当該技術分野で知られている方法、例えば、米国特許第6,274,090号明細書、およびHaisch et al (Med Biol Eng Comput 38 : 686-9, 2000)に開示されている方法によって自己由来血漿から単離することができる。
【0071】
生成する血漿タンパク質マトリックスは、生体適合性、細胞侵襲および増殖に適合した細孔径、および画定した形状に成形しまたは注型する能力など好都合な特性を示す。
【0072】
本発明の現在の好ましい態様では、組織修復または再生を必要とする患者から採血し、血漿タンパク質を自己由来血漿およびそれから調製したマトリックスから単離する。本発明のマトリックスは、それ自体支持体または足場として、またはイン・ビボでの移植のための細胞担持足場として働くことができる。
【0073】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、有機錯体形成剤の実質的非存在によって、ある種の細胞型の増殖および代謝に好都合な特性を有する本発明のマトリックスを提供することができる。本明細書の例に示されるように、本発明のマトリックスは、イン・ビボおよびイン・ビトロ系の軟骨細胞の増殖を支持する。
【0074】
創傷治癒のための米国特許第6,310,267号明細書に開示された柔軟なフィブリンウェブの産生に必要な1-20mMの範囲のある種の有機錯体形成剤の存在は、本質的にある種の細胞型の増殖に有害な影響を有することがある。イン・ビボまたはイン・ビトロでの細胞生長および増殖のためのフィブリンウェブの使用は、開示されていない。それにも拘わらず、上記特許明細書のウェブを用いてある種の細胞型を培養することができる。
【0075】
本発明の現在の好ましい態様によれば、フィブリノーゲン溶液を錯体形成剤を必要としない溶液で透析することを特長とするフィブリノーゲン溶液から産生したフィブリンスポンジは、イン・ビトロおよびイン・ビボでの細胞の生長のための足場として働く。もう一つの態様では、フィブリンスポンジは、透析したフィブリノーゲン溶液に対するトロンビン溶液の作用によって形成した後、フリーズドライに付される。好ましくは、フィブリンスポンジに所望な細胞を播種し、細胞を増殖させ、細胞を含んでなるスポンジを組織修復または再生を必要とする部位に移植する。更に好ましくは、細胞を、この細胞の増殖に好都合な生物活性剤と合わせてスポンジに播種する。
【0076】
軟骨や骨のような構造組織の復元において、組織形状は、様々な厚みおよび形状の三次元配置の物品へのマトリックスの成形を必要とする機能に不可欠である。従って、形成した血漿マトリックスは、球、立方体、棒、チューブまたはシートなどの特定の形状を採るように生成させることができる。形状は、任意の不活性材料から作ることができ、球または立方体については総ての側面で、またはシートについては限定された数の側面でマトリックスと接触することができる鋳型または支持体の形状によって決定される。マトリックスは、体内器官または部分の形態に形作り、人工器官を構成することができる。マトリックスの部分を鋏、外科用メス、レーザービームまたは任意の他の切断器具で除去することによって、三次元構造で必要な任意の改善を行うことができる。
【0077】
ポリマーマトリックスは、マトリックスを移植して脈管形成が起こるまで細胞生育力と生長を保持するため、付着に適正な部位および細胞培養物からの栄養分の適正な拡散を提供するように形成しなければならない。細胞侵襲は、組織に固着して移植組織片を置換し、従って、移植組織片が修復しようとする任意の欠陥を修復することができる細胞に必要である。移植組織片の構造を効率的に侵襲することができなければ、新しい組織に必要な脈管形成が妨げられ、生命を維持することができない。
【0078】
本発明のもう一つの態様による血漿タンパク質マトリックスを、イン・ビトロでの細胞生長または組織培養のマトリックスとして用いることができる。下記の例に示されるように、本発明のマトリックスは血漿タンパク質スポンジである。乾燥前のその湿潤形態では、マトリックスは血餅である。乾燥形態では、マトリックスはスポンジである。本発明のマトリックスは、生長する細胞に対して比較的大きな表面積と、移植に対して機械的に改良された足場を提供する。
【0079】
従って、本発明のマトリックスは、イン・ビトロおよびイン・ビボでの用途のための製品として有用である。
【0080】
血漿タンパク質マトリックスは、その乾燥形態では、例外的に良好に組織表面に付着する。本発明の一態様によれば、本発明の乾燥スポンジは、組織再生が所望な部分に置かれる。特定の細胞を培養した第二のスポンジを乾燥スポンジの上部に置く。本発明の湿潤スポンジは、本発明の乾燥スポンジに良好に付着する。治癒過程中に、細胞を最初に培養したスポンジからの細胞は、組織再生の部分に直接付着するスポンジに移動する。この系では、湿潤スポンジが良好に付着しない場合における生物学的膠の必要性が回避される。
【0081】
本発明のある種の態様によれば、血漿タンパク質マトリックスは、軟骨細胞生長の支持体および新軟骨形成の足場として用いられる。しかしながら、本発明の血漿マトリックスは、様々なレベルの力で間葉細胞または他の組織形成細胞のような任意の適当な細胞の組織培養に有用な表面として用いることができる。例えば、典型的には「幹細胞」または「間葉幹細胞」と呼ばれる細胞は多能性であり、または潜在的に制限されない数の有糸分裂を行い株を回復しまたは任意の細胞型に分化する能力を有する子孫細胞を産生することができる細胞系中立の(lineage-uncommitted)細胞は本発明のマトリックス上で増殖させることができる。更に、細胞系中立の(lineage-committed)「前駆細胞」も、本発明のマトリックス上で増殖させることができる。細胞系中立の(lineage-committed)前駆細胞は、無制限の数の有糸分裂が不可能であると考えられ、結局は特定の細胞型のみに分化する。
【0082】
本発明のマトリックスは、軟骨または他の適当な組織の生長および/または移植を支持することができる。更に、本発明は、主としてヒトの組織の生長および/または移植の方法に関するものであるが、本発明は任意の哺乳類の組織の生長および/または移植の方法も包含することができる。
【0083】
細胞をマトリックス上に播種する方法は、多種多様である。非制限的例では、細胞は、細胞をマトリックスの表面に置くことによって吸着されるか、またはスポンジを細胞を含む溶液に入れることによってマトリックスに吸収される。好ましくは、マトリックスに、所望な細胞を104個の細胞/cm3、更に好ましくは105個の細胞/cm3の密度で表面播種することによって播種する。
【0084】
添加剤
本発明のマトリックスは、ある種の態様では、メチレンブルーのような1種類以上の殺菌剤および/または抗生物質および抗ウイルス薬のような抗微生物薬、化学療法剤、抗拒絶薬、鎮痛薬および鎮痛薬の組合せ、抗炎症薬、およびステロイドのようなホルモンなどの1種類以上の薬剤を含むこともできる。
【0085】
本発明の他の態様では、血漿タンパク質マトリックスは、弾性、細孔径、表面付着性、細胞生長および増殖を保持する能力などの機械的、物理的および生物学的特性を調節する成分を包含する。これらの成分としては、多糖類、アニオン性多糖類、グリコサミノグリカン、または合成ポリマー、例えば、ヒアルロン酸、ペクチン、アルギン酸塩、ガラクタン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、ポリウロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、ヘキスロニルヘキソサミノグリカン硫酸、イノシトールヘキサスルフェート、スクロースオクタスルフェートおよびPEGが挙げられる。好ましくは、スポンジは、デキストラン硫酸、PEG、グリセロールおよび/またはヒアルロン酸のような補助成分を用いて製造する。
【0086】
更に、トラネキサム酸などのフィブリン形成防止剤(anti-fibrinogenic agents)を、本発明のマトリックスに包含させることができる。これらの化合物は繊溶を防止し、従って、イン・ビボでのフィブリンの分解速度を制御するのに用いることができる。トラネキサム酸は、1%-10%、好ましくは5%の最終濃度まで加えることができる。
【0087】
例えば、治療効果を増進するために、サイトカイン、増殖因子およびそれらの活性剤などの生物活性剤を本発明のマトリックスに包含させるか、又はマトリックス上に播種する細胞に加えて、このような薬剤を本発明のスポンジに組込むことによって、遅延放出または徐放機構が提供される。例えば、増殖因子、構造タンパク質またはサイトカインのような創傷修復の時間的順序を増進し、増殖速度を変更し、または細胞外マトリックスタンパク質の代謝合成を増加するものは、本発明のマトリックスに有用な添加剤である。典型的なタンパク質としては、骨および軟骨治癒についてはFGF2、FGF9およびFGF18などの骨増殖因子(BMPs, IGF)および繊維芽細胞増殖因子、軟骨治癒については軟骨増殖因子遺伝子(CGF, TGF-β)、神経治癒については神経増殖因子遺伝子(NGF)およびある種のFGF、および血小板由来の増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF-1)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、内皮由来の生長補給物(EDGF)、表皮増殖因子(EGF)等の一般の成長因子、およびヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、およびその類似物、例えば、デキストラン硫酸、スクロースオクタ硫酸またはヘパリンなどの、増殖因子の作用を増進することができる他のタンパク質、およびそれらの断片などが挙げられる。骨、軟骨または他の結合組織を形成する細胞に作用することが示されている他の因子としては、レチノイド、生長ホルモン(GH)、およびトランスフェリンが挙げられる。軟骨修復に特異的なタンパク質としては、軟骨増殖因子(CGF)、FGFおよびTGF-βが挙げられる。
【0088】
本発明のタンパク質は、天然、合成または組換え供給源から得られ、DNA合成、および一次繊維芽細胞、軟骨細胞、血管および角膜内皮細胞、骨芽細胞、筋芽細胞、平滑筋、およびニューロン細胞など様々な細胞のイン・ビトロでの細胞分裂を刺激する能力を示すポリペプチドまたはその誘導体または変異体である。
【0089】
更に、遺伝子工学処理を施して上記タンパク質を発現する細胞は、本発明に包含される。軟骨修復に好ましい例では、骨膜細胞、間葉幹細胞または軟骨細胞自体、または形質転換増殖因子−β(TGF-β)、ある種のFGFまたはCGFなどの群から選択される軟骨増殖因子遺伝子でトランスフェクションしたものが用いられ、骨修復では、骨膜または他の間葉幹細胞または骨細胞/骨芽細胞自体、または骨形態形成タンパク質(BMP)ファミリー遺伝子または繊維芽細胞増殖因子ファミリー遺伝子などの群から選択される骨増殖因子遺伝子でトランスフェクションしたものが用いられ、神経修復には、神経細胞および神経支持体細胞自体または神経増殖因子(NGF)遺伝子または特定のFGFなどの群から選択される遺伝子でトランスフェクションした該細胞が用いられる。
【0090】
更に、特定の酵素を本発明のスポンジと混合して、軟骨に含まれるプロテオグリカンおよび/またはタンパク質の分解を促進することができる。理論によって束縛されることを望むものではないが、軟骨の軟骨細胞は関節の厚い細胞外マトリックス(ECM)に埋設される。様々な種類のコラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、トリプシン、キモトリプシン、コンドロイチナーゼなど当該技術分野で知られている酵素によって関節表面のECMが分解され、これにより本発明のスポンジに侵襲して軟骨再生を促進することができる軟骨細胞が放出される。
【0091】
本発明の血漿マトリックスは、疾患のあるまたは損傷した組織の部位に移植するための様々な細胞型を増殖するためのフィブリンスポンジ支持体として説明される。しかしながら、マトリックスは、他の血漿タンパク質を含んでなるスポンジであり、それ自体で近位細胞がイン・ビボで飛散して増殖することができる移植足場として、または損傷を受けた組織またはイン・ビボでの任意の他の適当な部位への細胞の移植に用いる細胞増殖の足場として用いることができる。従って、当業者であれば、特定の組織要求に従って下記に例示した手順を調節することができる。
【0092】
下記の例は、単なる例示のためのものであり、非限定的なものと解釈すべきである。
【0093】

例1: 全血漿からの血漿タンパク質の単離
新鮮な凍結血漿は、血液銀行(Tel-Hashomer,イスラエル国)から受け取った。血漿(220ml)を4℃インキュベーターで一晩融解した後、4℃にて約1900gで30分間遠心分離した。ペレットを、均質化溶液が見られるまで緩やかに回転しながら2.5ml PBSに再懸濁した。トラネキサム酸(抗繊溶剤;最終濃度10%)とアルギニン(最終濃度2%)を、任意により血漿タンパク質画分に加えた。
【0094】
総タンパク質濃度は、Bradford分析法およびSDS-PAGE(標準と比較)によって評価したところ約42-50mg/mlであった。
【0095】
血漿タンパク質の調製について詳細な方法が示されているが、他の血漿タンパク質の調製方法は当該技術分野で知られており、本発明のマトリックスの調製に有用であることを理解すべきである。フィブリノーゲン濃度を高めた溶液の調製のためのプロトコールの一例は、Sims, et al.によって示される(Plastic & Recon. Surg. 101 : 1580-85, 1998)。
【0096】
例2: 同種または自己由来血液からの血漿タンパク質画分の抽出
材料:
1) クエン酸ナトリウム, 3.8%、または任意の他の薬学上許容可能な血液凝固防止剤、
2) 硫酸アンモニウム(NH42SO4, 飽和(500g/1)、
3) 硫酸アンモニウム(NH42SO4, 25%、
4) リン酸-EDTA緩衝液: 50mMリン酸, 10mM EDTA, pH 6.6、
5) Tris-NaCl緩衝液: 50mM Tris, 150mM NaCl, pH 7.4、
6) エタノール, 無水4℃、
7) 全血(Israel Blood Bank, Tel Hashomer Hospital、または患者から)。
【0097】
方法:
血液銀行からの1袋の血液は450mlであり、クエン酸ナトリウムを含んでいた。450mlの自己由来血に3.8%クエン酸ナトリウム溶液50mlを加え、溶液を緩やかに混合した。
【0098】
血液−クエン酸ナトリウムを50ml試験管に分配し(40ml/試験管)、2,100gで20分間遠心分離した。上清血漿を50ml試験管に集めて、5000gで15分間4℃で再度遠心分離した。上清血漿をフラスコに集めて、氷上におき、飽和硫酸アンモニウム溶液を硫酸アンモニウム1容対上清3容の割合(1:3容積比)で加えた。典型的な量は、75ml硫酸アンモニウム対225ml血漿であった。溶液を、時折緩やかに振盪しながら4℃に1.5時間保持した(磁気攪拌は不可)。
【0099】
上清血漿を50ml試験管に小分けし(40ml/試験管)、4℃で5000gにて15分間遠心分離した。上清を廃棄し、それぞれのペレットを25%硫酸アンモニウム溶液10mlで洗浄した(ペレットは溶解せず)。
【0100】
それぞれのペレットを、リン酸-EDTA緩衝液6-7mlに溶解した。試料、典型的には溶液100μlをSDS-PAGEおよび血餅分析のために保持した。
【0101】
溶解したペレットをプールし、硫酸アンモニウム沈澱を、飽和硫酸アンモニウムを血漿試料に1:3の容積比を達成するように加えることによって反復した(典型的には、硫酸アンモニウム25ml対血漿75ml)。溶液を時折緩やかに振盪しながら4℃に1.5時間保持し、50ml試験管に分割し、5000gで15分間遠心分離した。
【0102】
上清を廃棄し、ペレットを上記で用いたリン酸-EDTA緩衝液の容積と同量又はそれ以下の容積のTris-NaCl緩衝液に溶解した。典型的な総量は、約45mlであった。
【0103】
試料を、Tris-NaCl緩衝液1.5リットル中で3-4時間または4℃で一晩透析を行った(SnakeSkin(商標)透析試験管, 3.5kDカットオフ, Pierce)。透析した試料を高速耐性試験管中で4℃で21,000gにて15分間遠心分離して、不溶性材料を除去した。上清を集めて、氷上に保持した。
【0104】
上清血漿を、50ml試験管に分割した。冷却した(EtOH)を最終濃度が7%(例えば、EtOH3.7ml対上清49ml)になるまで加え、氷上に30分間保持した。溶液を冷却して沈澱を形成させることが重要である。
【0105】
溶液を5000gにて15分間遠心分離し、上清を廃棄して、ペレットを同一容積(典型的には45mlの量)のTris-NaCl緩衝液に溶解した。溶液を、4℃でTris-NaCl緩衝液1.5リットル中で一晩透析した。透析した溶液4℃で21,000gにて15分間遠心分離して、溶解しなかった材料を除去した。
【0106】
タンパク質濃度は、Bradford法を用いて決定した(Bradford (1976) Anal. Biochem. 72: 248-254)。タンパク質収率は、完全血液1ml当たり0.2-0.6mgの範囲であり、典型的結果は0.4-0.5mg/mlであった。
【0107】
血餅形成能は、30μlトロンビン(100 U/ml; Omrix)を70μl血漿生成物(10mg/ml)に加えることによって決定した。凝固は30秒以内に起こるようにする。タンパク質純度は、試料50μgを5% SDS-ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動分析し、クーマシーブルーを用いて染色することによって決定した。
【0108】
上清の残りを集めて、冷凍し、乾燥するまで48時間凍結乾燥した。
【0109】
例3: 血漿タンパク質マトリックス調製方法
材料:
トラネキサム酸 (5%最終)
塩化カルシウム 5 mM
トロンビン (1000単位/ml, Omrix)
【0110】
方法 1:
血漿タンパク質マトリックスの調製方法は、下表1に示すようにタンパク質およびトロンビン濃度について最適化した。頭に「1」の付いた試料は、凝固性タンパク質の濃度の最適化を試験した。頭に「2」の付いた試料は、スポンジ中のトロンビンの濃度の最適化について試験した。総ての実験は、3回ずつ行った。
【0111】
【表1】

【0112】
結果1
スポンジは、乾燥および湿潤物理特性の比較によって分析した。5mg/mlタンパク質(試料1-5)で作製したスポンジは、凍結乾燥時に著しく収縮した。10または20mg/mlタンパク質で作製したスポンジは、組織培養液中で24時間後でもその構造を保持したが、他のものは若干変形した。これは、それらの使用を妨げるものではない。
【0113】
トロンビンの濃度は、フィブリンモノマーの重合の反応時間を決定する。0.5Uトロンビン/mg血漿タンパク質の濃度は、良好な物理的および生物学的特性を有するスポンジを生成した。1.5Uトロンビン/mg血漿タンパク質を選択し、これは、反応を速め、反応が完了する前に2溶液が十分に混合する時間を有するようにしたからであるが、他の濃度も実質的に同様な特性を有するマトリックスを得るには許容可能である。
【0114】
方法-2:
スポンジを、血漿タンパク質溶液をトロンビン溶液と混合し、注型し、冷凍し、凍結乾燥することによって作製した。様々なレベルの血漿タンパク質を有する同種または自己由来など異なる供給源由来のヒト血漿タンパク質を、タンパク質濃度20-50mg/mlで用いた。市販フィブリノーゲン(Omrix)も、同様に20mg/mlの濃度で試験した。
【0115】
トロンビン(1000U/ml)を、5mM塩化カルシウム溶液で1:10に希釈した。最終スポンジ処方物は、血漿タンパク質供給源によって5%または10%の濃度のトラネキサム酸を包含した。
【0116】
上記の2溶液(血漿タンパク質およびトロンビン)を、下記の順序でそれぞれ21:9(例えば、血漿タンパク質210μlおよびトロンビン溶液90μl)の割合で混合した。48穴ELISAプレートをトロンビン溶液90μlでコーティングし、血漿タンパク質溶液を加えた。混合物を室温(約25℃)で10分間または血餅が形成するまでインキュベーションした後、-70℃で一晩(約16時間)冷凍し、滅菌条件下にて-85℃で乾燥するまで少なくとも16時間および24時間まで凍結乾燥した。トロンビンの最終濃度は1.5U/mg血漿タンパク質であることに留意されたい。トロンビンの量は、マトリックスの所望な重合速度によって変化させることができる。
【0117】
結果2:
実質的に同様な生化学的特長と生体適合性を有するスポンジは、同種または自己由来血液、全血漿または市販フィブリノーゲンなどの様々な供給源から単離した血漿タンパク質溶液から得た。これらの特長としては、細孔径、表面付着性、細胞生長および増殖の維持能、および生体適合性が挙げられる。この結果は、本発明の血漿タンパク質スポンジの製造には、ある範囲の血漿タンパク質の製造方法およびある範囲のタンパク質濃度を用いることができることを示している。
【0118】
例4: 足場の形態および機械特性
一般に組織工学のためのマトリックスは、なかでも化学的性状、多孔度、付着性、生体適合性および弾性などを包含する幾つかの基準によって特定される(Hunziker, Osteoart. Cart., 10: 432-465, 2002)。上記文献の表IIには、これらの特性の幾つかとこれらの特性の生物学的基礎が示されている。
【0119】
本発明者らの実験室では、特性の幾つかを計測した。細胞移動に重要な多孔度は、足場を厚い標本に切断することによって光学顕微鏡を用いる幾何学的測定によって検討した。標本をスライド上に載せ、ヘマトキシリン/エオシンで染色した。光学マイクロメーターによって細孔径と隣接する細孔間の距離を測定した。
【0120】
図1Aは、乾燥前の血漿タンパク質血餅(10mg血漿タンパク質/ml)を示す。細孔径は、μm(ミクロン)の孔径範囲である。血漿タンパク質スポンジ(図1B)(10mg血漿タンパク質/ml, 乾燥後)では、細孔は100μmの孔径範囲である。20mgタンパク質/mlの血漿タンパク質スポンジ(図1D)と 10mgフィブリノーゲン/mlの血漿タンパク質スポンジ(図1B)との細孔径の差は顕著ではなく、2つの足場での細胞生長に差は見られなかった。本発明の血漿タンパク質スポンジは、コラーゲンゲル(図1C)と比較して実質的に規則的な細孔の網状組織を有することが分かる。
【0121】
細胞を用いて使用する前の最終形態では、スポンジは実質的に乾燥しており、10%未満の残留水分、更に好ましくは、5%未満残留水分、最も好ましくは3%未満の残留水分を含む。この特長は、当該技術分野で知られている方法によって測定される。
【0122】
機械特性の測定は、デジタル式力ゲージDF12を備えたChatillon TCD200装置を用いて行った。クランプ間の距離を1.2cmに設定し、引張速度を12.7mm/分に設定した。それぞれの血漿タンパク質スポンジは、長さが2.5cmであり、幅が0.5cmであり、完全に凍結乾燥した。
【0123】
変形はスポンジの弾性、すなわちスポンジが裂けるまで加えることができるミリメーター(mm)で測定した引張の量を表す。力はkPaで計算し、スポンジストリップを引き裂くのに要するエネルギーの量を表す。厚みを計算に組込む。
【0124】
図2Aは、様々な補助成分を含んでなるスポンジにおいて、kPaで測定した引張強さを表す。図2Bは、同じ種類のスポンジの変形を表す。3個のスポンジの試験の平均値を示す。コラーゲン(Col)スポンジは市販されており(Ortec)粗製血漿スポンジ(粗製)は、例1(10mg/mlフィブリノーゲン)のプロトコールに準じて粗製血漿から調製した。本明細書に示される補助成分を含む総てのスポンジは、市販のフィブリノーゲン(約20フィブリノーゲンmg/ml)から調製した。HA=ヒアルロン酸(0.0024%最終濃度)、Dex=デキストラン硫酸(分子量約10,000, 1%最終濃度)、PEG=PEG 300(1.5%最終濃度)、G=グリセロール(0.25%最終濃度)。
【0125】
精製フィブリノーゲン(Fbr)から調製したスポンジ、および粗製血漿タンパク質(粗製)から調製したものは、実質的に同一の機械特性を示す。HAおよびPEGを両方とも含んでなるスポンジは、最大の引張強さおよび弾性を示す。デキストラン硫酸のみを含んでなるスポンジでは、引張強さは増加するが、弾性は増加しない。それぞれの補助薬剤は、スポンジにある種の特性を付与するものと思われる。顕微鏡分析は、様々な成分を含んでなるスポンジの細孔径と細孔均一性を決定する目的で行った。添加剤を含むスポンジを製造する手順を、本明細書で以下に示す。
【0126】
例5: 補助成分を含んでなるスポンジの製造手順
本発明の好ましい態様では、本発明のマトリックスはある種の添加剤または補助成分を用いて製造することができる。デキストラン硫酸、グリセロールおよびヒアルロネート(ヒアルロン酸)などを包含する添加剤をスポンジに添加して、所定の機械的および生物学的特性を変化させた。機械的および物理パラメーターは、補助成分または添加剤を組込むことによって制御されることが示された。添加剤は、マトリックスが形成されて、マトリックスの生物学的特性を改良した後に除去することができる。
【0127】
総ての添加剤を濾過し(0.2μm)、血漿タンパク質溶液に加えた。試験した添加剤および濃度のリストを、下表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
最適化実験は、マトリックスの柔軟性、弾性、細孔径、および細胞生長能に関する添加剤の最適濃度を決定する目的で行った。細孔径、引張強さおよび弾性に関して良好な物理特性を生成する補助成分の濃度は、0.25%グリセロール、1.5% PEG、0.0024%ヒアルロン酸または1%デキストラン硫酸であった。2個以上の成分の一つの好ましい組合せを、表2に示す。
【0130】
添加剤は、スポンジの製造中に表面、機械および/または生物学的特性などの好都合な特性をスポンジに付与する。本発明による現在の最も好ましい態様は、デキストラン硫酸を含んでなるスポンジである。
【0131】
ある種の添加剤は細胞生長に有害であることがあり、従って、凍結乾燥段階の後に除去することができる。スポンジを滅菌蒸留水またはPBSで洗浄することによって再水和し、それ自体で使用され、または再凍結乾燥を行って総ての水分を除去することができる。現在の好ましい態様では、上記のように1種類以上の添加剤を含むスポンジが提供され、このスポンジは冷凍−凍結乾燥段階の後に洗浄し、スポンジを再度凍結乾燥して総ての残留水分を除去する。
【0132】
例6: 溶解速度
スポンジ溶解の速度により、血漿タンパク質が経た架橋のレベルを測定する。
【0133】
2つの実験を、1:新たに作製したもの対室温で1ヶ月保管したスポンジ、および2:異なる条件下で2ヶ月間保管したスポンジで行った。
【0134】
1. 新たに作製したものおよび1ヶ月間保管したスポンジを0.75mlの10M尿素に加えて、緩やかに振盪した。尿素の試料を、5、15、20、30、40分間毎に採取した。尿素中のタンパク質の量、すなわちフィブリンスポンジの溶解速度をBradford法によって測定した。
【0135】
図3Aは、新たに作製したスポンジは0.085mg/分の速度で尿素に溶解し、一方古いスポンジは0.025mg/分の速度で溶解したことを示している。これは、古いスポンジの方が新しいスポンジより多く架橋していることを示唆している。
【0136】
2. スポンジを2つの異なる条件下
a. 不活性雰囲気N2(g)
b. 開放空気(標準雰囲気)
で2ヶ月間保管した。
【0137】
2ヶ月後、スポンジを上記と同様に試験した。
【0138】
図3Bは、空気に暴露したスポンジは、不活性条件下で保管したものより速い速度で架橋することを示している。
【0139】
例7: 細胞播種
様々な方法で細胞をスポンジに播種することができる。播種に重要なことは細胞接着性、移動能、およびマトリックス内での細胞の増殖である。細胞は、培地、PBS、または任意の生体適合性緩衝液に単独でまたは生物活性剤の存在下にて懸濁させることができる。細胞は、細胞を含む液滴をスポンジ上に置き、細胞をスポンジに吸着させることによって播種することができる。あるいは、細胞の懸濁液が入っている容器にスポンジを入れることによって、液体中の細胞をスポンジに吸収させることができる。
【0140】
材料および方法:
培養した細胞を生長培地(MEM)で調製し、48穴マイクロタイタープレートで102-106個の細胞/標準300μl血漿タンパク質スポンジ(約0.2cm3)の密度でスポンジの最上部に置く。様々な容積の生長培地を加え、細胞を様々な期間生長させる。スポンジは様々な大きさ、形状、および厚みのものとすることができることを理解すべきである。
【0141】
播種したスポンジについて3日間、1週間および3週間のインキュベーションの後、スポンジを切断して、細胞侵襲および増殖を観察する。細胞増殖は、例9に記載の方法で決定する。
【0142】
例8: 細胞の単離および培養
試薬:
コラゲナーゼ2型; Worthington Biochemical Corp. (カタログ番号: 4147)
ストック溶液: 1700単位/ml培地(MEM)
最少必須培地(MEM) Gibco BRL (カタログ番号: 21090-022)
ウシ胎児血清(FBS); Gibco BRL (カタログ番号: 16000-044)
L-グルタミン溶液; Gibco BRL (カタログ番号: 25030-024)
完全培地: 10%ウシ胎児血清(FCS)、2mM L-グルタミン、および100U/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンを補足した最少必須培地(MEM)
【0143】
関節軟骨用移植組織片の調製
本発明のスポンジは、組織修復および再生のための細胞担持足場として用いることができる。一態様では、細胞をイン・ビトロでスポンジ上で培養した後、移植する。好ましい態様では、移植直前にスポンジに細胞を播種し、細胞をイン・ビボで生長および増殖させる。
【0144】
新鮮なブタ軟骨からの軟骨生験材料を約3-4mmの厚さの小片に切断し、PBSで無菌洗浄し、3ml MEM培地を含む新しい試験管に入れた。軟骨は任意の脊椎動物種から得ることができ、好ましくは同種または自己由来である。
【0145】
コラゲナーゼII型を1:5に希釈し、1mlを軟骨細片に加え、混合物を37℃インキュベーター中で一晩緩やかに振盪した。試料の大半が消化されたならば、懸濁液を滅菌ガーゼを介して投入し、マトリックス砕片および未消化材料を除去した。濾液を遠心分離し、2回洗浄して残留酵素を除去した。
【0146】
細胞の数は血球計によって測定し、生育力はトリパンブルー排除によって測定した。細胞を、150cm2組織培養フラスコで培地30ml中で5x106個の細胞/mlの濃度で培養した。フラスコを、5%CO2雰囲気および95%湿度の37℃インキュベーターに入れた。培地は、3-4日毎に交換した。細胞は付着して、1週間のインキュベーションの後には集密的になった。
【0147】
集密的な状態において、細胞培地を除去し、3mlのトリプシン-EDTA溶液を加えた。30mlのMEM+FBSを加え、溶液を800gで10分間遠心分離した。上清を除き、ペレットを分散させて、細胞を計数した。細胞担持マトリックスを作製するため、102-106個の細胞を直径が9mmであり厚みが2mm(約0.2cm3)の血漿タンパク質足場に播種した。マトリックスを37℃インキュベーターに1時間入れ、新鮮な培地lmlをそれぞれに加えた。培地を数日毎に新鮮な培地に交換し、マトリックスを採取して細胞増殖および分化分析を行った。
【0148】
結果:
図4A−Dは、血漿マトリックスが子牛の軟骨細胞増殖を支持することができることを示している。初期状態(図4A)から細胞が集蜜的になる(図4B−4D)までに細胞数は3-5倍に増加した。ヘマトキシリンおよびエオシンに対する1ヶ月コラーゲン移植組織片の組織切片は、コラーゲンスポンジ上の細胞はより小さく且つその球形の形状を保持していることを示した(図4Cおよび4D参照)。コラーゲンスポンジの内部では、細胞は繊維−軟骨に似た組織に再組織化されたが、血漿タンパク質スポンジ(図4A−D)では、細胞は良好に分布して互いに間隔が空いており、厚いヒアリン様細胞外マトリックスに埋設され、成熟した関節軟骨細胞に典型的な丸い細胞形態を保持している。保持されたフィブリンの小島は、細胞がマトリックスを完全に分解し、これを軟骨マトリックスと置換することができることを示している。これらの結果は、イン・ビトロでの組織様形成の成功は特定の細胞−マトリックス材料によって著しく変化することを示唆している。本発明の一態様によるフィブリンスポンジは、コラーゲンスポンジより軟骨組織形成に優れたマトリックスであることが示される。
【0149】
更に、上記マトリックス上で生長した細胞個体群は、軟骨細胞分化マーカーの幾つかを発現した。軟骨細胞分化の間に発現された幾つかの表現型の一つは、グリコサミノグリカン(GAG)産生である。GAGの産生は、エイシアン・ブルー(Acian blue)を用いる組織染色中で確認され、DMB(3,3'-ジメトキシベンジジン二塩酸塩)色素法を用いて定量された。図5は、3種類の異なるマトリックスであるコラーゲンスポンジ、フィブリン血餅(10mg/ml)および血漿タンパク質スポンジ(20mg/ml)上で生長した子牛軟骨細胞におけるGAG含量の結果を示している。図5に示すグラフから、血漿タンパク質スポンジおよび/またはフィブリン血餅上で生長した細胞は、コラーゲンスポンジマトリックス上で生長した細胞より著しく高いGAG含量を示す。この実験は、血漿タンパク質スポンジ上で分化する細胞の能力を例証している。
【0150】
例9: 細胞増殖分析
本発明のマトリックス上での軟骨細胞の増殖は、2つの方法CyQUANT(商標)(Molecular Probes)またはXTT試薬(Biological Industries, Co.)の一つによって定量した。血漿タンパク質マトリックスをコラゲナーゼまたは他の酵素に溶解し、細胞を遠心分離によって集め、製造業者のプロトコールに準じて分析を行った。
【0151】
一つの実験では、ヒトの関節軟骨細胞(106個の細胞/100μl)を、マイクロウェルプレート中で本発明のマトリックスおよびコラゲナーゼの存在下にて生長させた。細胞をMEM中で一晩生長させ、34Uのコラゲナーゼを加え、細胞または細胞+スポンジを4時間インキュベーションした。XTT試薬を3-4時間加え、プレートをELISAリーダーでA490mmで読み取った。結果を図6に示す。分かるように、細胞の増殖速度はスポンジの存在によっても、またはコラゲナーゼの添加によっても損なわれなかった。
【0152】
例10: ヤギの関節軟骨修復モデル
ヤギの膝関節損傷における移植スポンジの使用を評価する目的で、比較研究を行った。
【0153】
研究の目的は、炎症応答、損傷表面へ付着する能力に関して、新たに製造したスポンジ、古いスポンジおよび市販のコラーゲンマトリックスの間で比較し、スポンジのヒアリン軟骨の生長を誘発する能力を試験することであった。
【0154】
材料および方法:
6頭のヤギを試験用に選択し、処理群のうちの一つに無作為に割り当てた。
【0155】
試験を行った様々なスポンジ(マトリックス)には、
1: 新たに調製した血漿タンパク質スポンジ
2: 60℃でインキュベーションした(注型後60℃で24時間インキュベーションした)スポンジ
3: 古いスポンジ(4-6ヶ月, 室温保管)
4: コラーゲン(Ortec)
が含まれる。
【0156】
抗生物質:
アモキシシリン2mlを処置の直前および処置後4日間1日1回IM投与した。
【0157】
麻酔:
予備投薬: 25kg体重当たり0.2mlキシラジン2%をIM投与した。
誘導: ヤギが失神したならば、I.V.ベンフロンを挿入した。
【0158】
1mlバリウム(1mg) + 2mlケタミン(100mg/ml)の25kg体重当たりlmlの処方物ボーラスを、ベンフロンを介して投与した。必要に応じて、更に0.5mlを加えることができる。30分間より長い処置には、挿管を行い、ガス(ハロテン、またはイソフロラン)麻酔を投与した。
【0159】
創傷を行う手順:
動物の両膝の毛を剃り、消毒薬で洗浄した。
【0160】
膝の側部を露出し、膝蓋を横に関節をはずし、軟骨を露出させた。
【0161】
膝の大腿顆の関節表面に、外科用メスを用いて軟骨下骨には達しない4箇所の部分厚み欠損(6mm)を付けた。欠損部分を食塩水で洗浄した。
【0162】
スポンジを移植する手順:
凍結乾燥したマトリックスを、欠損部分に移植して付着させた。場合によっては、フィブリン基剤の生物学的膠を用いることができる。膝蓋を配置し直し、シノビア(sinovia)と皮膚をVicryll縫合を用いて閉じた。皮膚を、ヨウ素軟膏でクリーニングした。
【0163】
痛覚脱失:
0.05mg/kgのブプレノルフィンを、処置の直前および同日の終わりにSC(皮下)投与した。
【0164】
追跡調査および組織評価
追跡調査期間(6または10週間)の終了時に、ヤギを屠殺し、組織を取り出して組織評価を行い、膝を可動性および外観について評価した。組織切片を、損傷部分および2-3mmの縁から調製した。組織を脱石灰し、標準的手順でスライドを作製した。
【0165】
スライドをヘマトキシリン−エオシンおよびアルシアン・ブルー染色法によって染色した。細胞型マーカーに対する抗体を用いる免疫組織化学またはRNAまたはDNAプローブを用いるイン・シテューRNAハイブリダイゼーションなどの免疫組織学的分析を行う。
【0166】
組織評価を行って、下記のパラメーター:新たに形成した組織の特長、再生した組織の関節表面の規則性、再生組織の構造的一体性および厚み、軟骨内の骨化、および残りの軟骨中の細胞の状態、を測定した。
【0167】
結果:
表3は、組織学分析の実験の説明および結果を表している。
【0168】
【表3】

【0169】
図7は、実験後のヤギの膝関節を示す。
【0170】
例11: 損傷した軟骨の一段階治療法: 関節鏡検査または半関節切開に適する
自己由来軟骨細胞移植は、膝の孤立した軟骨欠損部にヒアリン様軟骨を復元するのに臨床的に有効であることが分かった。本発明の治療法は、
1. 健康な軟骨の関節鏡検査による診断および生検。
2. 細胞の培養。
3. 脛骨から採取して損傷部上に縫合する骨膜弁下の損傷部への培養軟骨細胞の注入。
【0171】
この手法の変法は、本発明のマトリックスを包含する生物分解性材料中への細胞の組込みを提供する。余り傷が付かない方法が本発明で示されており、患者は軟骨修復の目的で一度だけ外科処置を受ける。
【0172】
処置
軟骨欠損を有する患者は、関節鏡検査または半関節切開の数日前に診療所に呼ばれて診察を受ける。血液(約100-250ml)を採取して、血漿タンパク質を単離する。血漿タンパク質マトリックスまたは数個のマトリックスを作製して、標識し、外科手術の当日まで無菌保管する。
【0173】
外科手術の当日に、患者の関節の健康な軟骨の小片を採取し、小片に切断し、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼまたは他の軟骨分解酵素、またはそれらの組合せを含む試験管に入れる。
【0174】
一方、医師は損傷組織を除去し、インプラントのための部分をクリーニングして調製することにより、欠損領域を処置する。作製したマトリックスをその容器から取り出し、欠損領域に適合するように切断する。酵素処理を約20-30分間行った後、細胞と軟骨の小片を卓上遠心分離機で遠心分離し、PBSで洗浄し、少量(50μl-1000μl)のPBSに再懸濁する。医師は、細胞をスポンジ上にイン・シテューで播種する。あるいは、細胞をスポンジに吸収させ、細胞担持スポンジを欠損を有する関節領域に移植する。場合によっては、細胞外マトリックス分解酵素および/または増殖因子などを包含する他の生物活性剤および/または抗炎症性化合物をスポンジに加える。場合によっては、医師は、乾燥スポンジを直接損傷部分に置き、場合によっては酵素溶液を上記スポンジに加え、第二の細胞担持スポンジを第一のスポンジ上に置く。関節を閉じ、関節鏡または半関節切開処置について常法通りに処理し、患者は開放されて、回復を待つ。
【0175】
キット
本発明の方法を実施するのに有用な成分を含んでなるキットにより、外科手術の設定において本発明の方法を好都合に実施することができる。好ましい態様では、本発明のキットは、滅菌溶液(食塩水、酵素)、関節表面の欠損部に移植すべき自己由来軟骨細胞の支持に適する滅菌した無細胞マトリックス材料を含む外科手術環境で容易に使用するのに適した無菌成分と、使用説明書を提供する。マトリックスは、生体適合性で、非免疫原性であり且つ細胞生長および増殖を保持する能力を有する任意の材料でよいが、マトリックスは好ましくは同種血漿から、更に好ましくは自己由来血漿から作製される。
【0176】
例12: 生物活性剤の放出
マトリックス上で組織の発生を促進することができる一つの因子は、増殖因子または他の生物学的薬剤の局部環境への送達である。これらのマトリックスからの増殖因子の組込みと放出は、放射能標識したまたはタグを付けた増殖因子、例えば、蛍光標識した、アルカリホスファターゼ標識した、または西洋ワサビペルオキシダーゼ標識した増殖因子を用いてイン・ビトロまたはイン・ビボで評価される。放出される薬剤の画分および速度は、放射能、蛍光、酵素活性またはタグの他の属性を追跡することによって測定される。同様に、マトリックスからの酵素の放出は、イン・ビトロまたはイン・ビボ分析法で微小環境への酵素活性を分析することによって測定される。
【0177】
本発明を具体的に説明してきたが、当業者であれば多くの変更および修飾を行うことができることを理解されるであろう。従って、本発明は、具体的に記載した態様に限定されると解釈すべきではなく、本発明の範囲、精神および概念が特許請求の範囲を参照することによって一層容易に理解されるであろう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿タンパク質であって、フィブリノーゲン、トロンビンおよび第XIII因子を含んでなる血漿タンパク質(但し、総タンパク質含量の少なくとも50重量%はフィブリンである)と、少なくとも1種類の抗繊溶剤と、デキストラン硫酸、PEG、グリセロール及びヒアルロン酸からなる群から選択される少なくとも1つの補助成分とを含む、細胞を増殖させるための足場として用いるための凍結乾燥した生体適合性多孔性マトリックスであって、実質的に均一な細孔を有し、有機キレート剤を実質的に含まず、且つ残留水分が3%を下回る、マトリックス。
【請求項2】
前記血漿タンパク質を、タンパク質1mg当たり少なくともトロンビン0.5単位と混合する、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項3】
前記血漿タンパク質の少なくとも1つが自己由来であるか、総ての該血漿タンパク質が自己由来である、請求項1又は2に記載のマトリックス。
【請求項4】
前記抗繊溶剤がトラネキサム酸である、請求項1から3の何れか1項に記載のマトリックス。
【請求項5】
多糖類、アニオン性多糖類、グリコサミノグリカン及び合成ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種類の追加の補助成分をさらに含んでなる、請求項1から4の何れか1項に記載のマトリックス。
【請求項6】
前記追加の補助成分が、ペクチン、アルギン酸塩、ガラクタン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、ポリウロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、ヘキスロニルヘキソサミノグリカン硫酸、イノシトールヘキサスルフェート、及びスクロースオクタスルフェートからなる群から選択される、請求項5に記載のマトリックス。
【請求項7】
前記細胞が、幹細胞、前駆細胞、軟骨細胞、骨細胞、肝細胞、間葉、上皮、尿路上皮、ニューロン、膵臓、腎、及び眼細胞型からなる群から選択される、請求項1から6の何れか1項に記載のマトリックス。
【請求項8】
前記細胞の密度が少なくとも104個の細胞/cm3に達する、請求項1から7の何れか1項に記載のマトリックス。
【請求項9】
増殖因子、サイトカイン、酵素、抗微生物薬、及び抗炎症薬からなる群から選択される少なくとも1種類の生物活性剤をさらに含んでなる、請求項1から8の何れか1項に記載のマトリックス。
【請求項10】
50-300ミクロンの大きさの細孔を有する、請求項1から9の何れか1項に記載のマトリックス。
【請求項11】
細胞を増殖させるための足場として用いるための多孔性マトリックスの製造方法であって、
有機キレート剤の実質的非存在下にて、血液凝固に適する条件下で、カルシウムイオンと少なくとも1種類の抗繊溶剤の存在下、血漿タンパク質をトロンビンと混合し;
デキストラン硫酸、PEG、グリセロール及びヒアルロン酸からなる群から選択される少なくとも1種類の補助成分を添加し;
該血漿タンパク質とトロンビンとを含む混合物を、血液凝固の前に固形支持体中で成型し;
該凝固した混合物を凍結させ;
該凝固した混合物を凍結乾燥して、残留水分が3%以下のスポンジを得る
段階を含んでなる、上記方法。
【請求項12】
前記スポンジを所望な形状の断片に切断し、
該断片に細胞を播種し、
該細胞を細胞密度が少なくとも104個の細胞/cm3に達するまで該断片上で増殖させる
段階を更に含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記スポンジを、任意に洗浄して、溶解性の補助成分を除去し、
該洗浄したスポンジを、再度凍結乾燥して、残留水分が3%以下のスポンジを得、
該スポンジを所望な形状の断片に切断する
段階を更に含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記断片に細胞を播種し、
該細胞を細胞密度が少なくとも104個の細胞/cm3に達するまで該断片上で増殖させる
段階を更に含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記血漿タンパク質が少なくともフィブリノーゲンと第XIII因子を含んでなる、請求項11から14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記血漿タンパク質の少なくとも1種類が自己由来であるか、総ての前記血漿タンパク質が自己由来である、請求項11から15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記血漿タンパク質を、タンパク質1mg当たり少なくとも0.5単位のトロンビンと混合する、請求項11から16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗繊溶剤がトラネキサム酸である、請求項11から17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
多糖類、アニオン性多糖類、グリコサミノグリカン及び合成ポリマーからなる群から選択される、少なくとも1種類の追加の補助成分を添加する工程を更に含む、請求項11から18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記追加の補助成分が、ペクチン、アルギン酸塩、ガラクタン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、ポリウロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、ヘキスロニルヘキソサミノグリカン硫酸、イノシトールヘキサスルフェート、及びスクロースオクタスルフェートから群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
増殖因子、サイトカイン、酵素、抗微生物薬、抗炎症薬から選択される少なくとも1種類の生物活性剤を添加する工程を更に含む、請求項11から20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、軟骨細胞、肝細胞、骨細胞、間葉、上皮、尿路上皮、ニューロン、膵臓、腎、または眼細胞型から選択される、請求項11から21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から10の何れか1項に記載のマトリックスを含んでなる移植片。
【請求項24】
請求項11から22の何れか1項に記載の方法により製造した、マトリックスを含んでなる移植片。
【請求項25】
損傷部位への移植により損傷した骨格組織を治療するための、請求項23又は24に記載の移植片。
【請求項26】
前記骨格組織が軟骨である、請求項25に記載の移植片。
【請求項27】
請求項1から10の何れか1項に記載のマトリックスを含んでなる、移植片のための多孔性コーティング。
【請求項28】
請求項11から22の何れか1項に記載の方法によって製造したマトリックスを含んでなる、移植片のための多孔性コーティング。
【請求項29】
請求項1から10の何れか1項に記載のマトリックスと使用説明書を含んでなる、キット。
【請求項30】
損傷した組織を治療するための、請求項1から10のいずれか一項に記載のマトリックス。
【請求項31】
前記組織が骨格組織である、請求項30に記載のマトリックス。
【請求項32】
前記骨格組織が軟骨である、請求項31に記載のマトリックス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−57942(P2010−57942A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253050(P2009−253050)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【分割の表示】特願2003−513482(P2003−513482)の分割
【原出願日】平成14年7月18日(2002.7.18)
【出願人】(503467023)プロション バイオテク リミテッド (1)
【Fターム(参考)】