血漿中で高度の抗血栓活性を有する多糖類誘導体
本発明は、N,N−アセチルヘパロサンを原料として硫酸化グリコサミノグルカンを製造する方法に関すもので、次の工程から成る。a)天然のまたはリコンビナント細菌株から分離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化とN−硫酸化、(b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素を用いた酵素的エピマー化。(c)部分的脱O−硫酸化と組み合わせた部分的O−硫酸化、(d)部分的6O−硫酸化、(e)N−再硫酸化中間工程にある制御された解重合で、O−硫酸化(O−硫酸化および6O−硫酸化)は部分的であることが特徴である。さらに、本発明は得られた製品の抗Xaと抗IIa活性の比率がいと等しいかそれより高い製品に関し、また、医薬的に許容される賦形剤および/または希釈剤と組み合わせたものを含む組成物にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物起源の多糖類を原料とし抗凝固性と抗血栓性を有する硫酸化多糖類の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界のヘパリンは、グリコサミノグリカン構造を持つ高分子で、3000から30000Daの可変的な分子量を有し、ウロン酸(L−イズロン酸またはD−グルクロン酸)とアミノ糖(グルコサミン)が互いにβ−1,4−結合で結ばれた二糖類単位の繰り返し連鎖からなっている。ウロン酸は位置2で硫酸化されていてもよく、グルコサミンはN−アセチル化またはN−硫酸化され6−硫酸化されていてもよい。さらに、グルコサミンは、位置3にも硫酸基を含んでいてもよい。
【0003】
これらの置換基はアンチトロンビン(ATIII)に対する高い親和性結合領域を生成する点で本質的でありこの高分子の抗凝固性と抗血栓性活性を説明している。
【0004】
ヘパリンは、治療用途において基本的な抗凝固・抗血栓薬であり、今日でさえ動物の臓器からの抽出によって得ている。この供給源を変えようという試みは、この物質のますます増大する需要に応えるために、かつ同時に、主にウイルスやプリオンのような感染性病原体の偶発的汚染を排除するために、ヘパリンと同様の構造を有し同様な性質を持つ分子の製法が、細菌を原料とするので供給に制限が無いN−アセチルヘパロサン多糖類を出発物質として、これまでにも発達してきた。
【0005】
天然のまたはリコンビナントの大腸菌K5(K5 Escherichia)またはパスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)のような細菌系から分離されたN−アセチルヘパロサン多糖類は、D−グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンがα−1,4結合で互いに結ばれた繰り返し連鎖からなる天然のヘパリン前駆体と同じ基本構造を有している。2糖性単位間の結合は逆にβ−1,4結合である。
【0006】
ウロン酸は、二つの異なった位置で硫酸化されていてもよく、また、グルコサミンはN−アセチル化またはN−硫酸化されかつ6−O−硫酸化されていてもよい。さらにグルコサミンは位置3に硫酸基があってもよい。
【0007】
大腸菌K5(E. coli K5)から分離したN−アセチルヘパロサン(Vann W.F.,Schmidt M.A.,Jann B.,Jann K.、欧州生化学雑誌、1981年、第116巻、359−364頁)は、Lormeauら、米国特許5550116号明細書およびCasuら(Carb.Res.誌、1994年、第263巻、271−284頁)に書かれているように、化学的に変性されており、抽出ヘパリンの活性に相当する生物学的活性を持った製品を得る目的で化学的および酵素学的に変性されていた。
【0008】
さらにこの半合成的な製品は解重合過程を受けて分子量が低下しており、異なった治療的応用にはより適切な製品となっており、とりわけ生体有効性が改良され、使用に際する出血性素因者リスクや他の副作用が減少している。
【0009】
細菌性の多糖類の化学的、酵素的な変性については、例えばイタリア特許、IT230785号明細書に示されていて、それによれば、K5多糖類は、N−脱アセチル化されかつN−硫酸化されており、グルクロン酸のC5位で酵素的エピマー化を受けている。これらの転移に続いてウロン酸とアミノ糖の両者に酵素的硫酸化の他の転移が起こっている。
【0010】
特許出願WO92/17509号明細書では、K5多糖を出発物質としてN−脱アセチル化、N−硫酸化、C5酵素的エピマー化工程およびそれに続く化学的O−硫酸化およびオプションとしてのN−硫酸化によって、ヘパリン類似化合物を得る方法が示されている。
【0011】
特許出願WO96/14425号明細書および米国特許5958899号明細書は、イズロン酸の含有量が多いK5多糖類誘導体の製法を記述しており、それによればN−脱アセチル化およびN−硫酸化を実施し、重要な粘性を得るために変性緩衝液を使用した酵素的エピマー化で50%を超えるグルクロン酸をイズロン酸に転化し、続いてウロン酸およびグルコサミン基のフリーの水酸基の少なくともいくつかを硫酸化することにより製造している。
【0012】
特許出願WO97/433117号明細書および米国特許6162797号明細書は、高い抗凝固性と抗血栓性を有するK5誘導体の製法について記述しており、かかる製法は、N−脱アセチル化およびN−硫酸化、グルコロン酸の酵素的エピマー化、およびO−完全硫酸化とN−再アセチル化によりなっている。
【0013】
特許出願WO98/42754号明細書および米国特許6197943号明細書およびNaggi A.ら(糖質研究誌、2001年、第336号、283−290頁)は、インビトロで高い抗血栓性を有するK5多糖誘導体類を含む硫酸化グリコサミノグリカン類を製造する方法について記述しており、かかる方法では完全硫酸化前駆体の加溶媒分解的脱硫酸とオプションとしての6O−再硫酸化により実施された。
【0014】
特許出願WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書は、高い抗凝固性と抗血栓活性を有するK5多糖からグリコサミノグリカン類を製法について記述している。その製法は次の工程を含んでいる。a)N−脱アセチル化、b)N−硫酸化、c)イズロン酸中のグルクロン酸の酵素的エピマー化、d)完全硫酸化、e)部分的な化学的脱硫酸化、およびf)オプションとしての6O−再硫酸化。その工程は、C5グリキュロニルエピメラーゼ酵素を、切断型を用いて、または溶液中で、または固定化して、使用する点で特徴づけられる。
【0015】
さらに、米国特許出願09/732026号明細書およびLiら(生化学雑誌、2001年、第276213巻、20069−20077頁)は、N−末端に付加的連鎖を含むC5エピメラーゼ酵素の発現に関する新規なマウス遺伝子の発見を開示しており、かかる発見によりその連鎖に高い活性と安定性を有する酵素の完全型の生産が可能になった。
【0016】
[発明の要約]
本発明は、アセチルN−ヘパロサンから硫酸化グリコサミノグリカンを製造する方法に関し、さらに詳しくは次の工程を含む製法に関する。
a)天然のまたはリコンビナント細菌原料から単離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化、
b)C5−エピメラーゼグリュクロニル酵素による酵素的エピマー化、
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸化、
d)部分的6O−硫酸化
e)N−再硫酸化。
さらにこの製法は、工程b)、c)またはd)後のいずれかにおいて中間的な解重合工程を含んでいること、および工程c)における部分的O−硫酸化における硫酸化剤/N−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が5以下であり、より好ましくは2.5より小さい値であり、さらに好ましくは1.5より小さい値で実施されること、および工程d)の部分的6O−硫酸化における硫酸化剤/N−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が2以下で実施されること、であることで特徴づけられる。
【0017】
好ましい実施態様として記載の中間的な解重合は工程b)のエピマー化後に実施される。
【0018】
部分的O−硫酸化および部分的6O−硫酸化の両方で用いられる硫酸化試薬としては、トリエチルアミン−SO3,トリメチルアミン−SO3、ピリジン−SO3の中から選ばれ、それらは非プロトン性極性溶媒中で使用され、その溶媒は好ましくはホルミル基の供与体でないもの、例えばテトラメチレンスルホン、2,4−ジメチルスルホラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドが例として挙げられる。任意に、この製法はアンチトロンビンIIIまたはその断片を担持した基質上での親和性選択工程を含む。
【0019】
本発明は、製薬用途で記載された製法に基づいて得られる硫酸化グリコサミノグルカン類K5OS6OSNS−epiにも関連する。これらの生成物は、40%より高い6O−硫酸化率、より好ましくは、抽出ヘパリンの値に極めて近い50%から85%から選ばれる6O−硫酸化率であることで特徴づけられ、また還元末端に無水マンニトール残基が、好ましくは位置1,3および6で硫酸化されているものが存在することでも特徴づけられる。これらの生成物はさらに無水マンニトールの位置1と6にある水酸基が20%以上の硫酸化率を有していること、および、アミノ糖にホルミル基が全く存在しないことが好ましい態様であること、によっても特徴づけられる。
【0020】
本発明に記載の硫酸化グリコサミノグルカン類は、血漿中で生物学的活性である抗因子Xa活性を示し、その活性が従来の技術による方法で得られる生物工学的ヘパリン類の活性より高く、抗Xa活性と抗IIa活性の比が抽出ヘパリンのように1以上であることが特徴である。
【0021】
本発明に記載の製法で得られる生成物は次の特徴を有する。
a)脈管内皮細胞からの組織因子経路インヒビター(TFPI)を遊離でき、その程度は抽出ヘパリンと同等かそれ以上である。
b)ヘパリナーゼIのような加水分解酵素による分解に対しとりわけ耐性が高い。
c)トロンビンおよびXa因子タンパク質分解酵素の遊離を抑制する。
d)PF4因子(血小板第4因子)に対する親和性が低い。
【0022】
本発明に記載の別の側面は、治療に使用することを目的にして本発明に記載の製法で得られる生物工学的ヘパリン(変性N−アセチルヘパロサン類)に関し、かつ、かかるヘパリンを有効成分として含む医薬組成物に関する。本発明に記載の別の側面は、抗血栓性と抗凝縮性についてヘパリンと同様の活性を有する医薬の製造に対して得られる製品の使用に関し、かつ、先天的ないし後天的な抗トロンビンIII欠乏により引き起こされる血栓塞栓症の予防と治療用の薬物の製造に関して得られる製品の使用に関する。
【0023】
本発明に記載の別の側面は、O−硫酸化K5OSNH2−epiおよびK5OS6OSNH2−epi中間生成物の製造に関連し、かかる中間生成物はアミノ糖のアンモニア性基を含まず、さらに好ましくはホルミル基を含まず、またかかる中間生成物はN−硫酸化されおよび/またはN−アセチル化されたヘパロサン誘導体の製造のために分離・使用可能なものである。
【0024】
[発明の詳細な説明]
本発明に記載の主体的側面は、N−アセチル化ヘパロサンを原料として硫酸化グリコサミノグリカンの製法に関し、それは本発明の趣旨を踏まえて「生物工学的ヘパリン」と呼ばれるが、その製法は次の工程を含んでいる。
a)天然のまたはリコンビナント細菌原料から単離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化
b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素による酵素的エピマー化
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸
d)部分的6−O選択的硫酸化
e)N−再硫酸化
かかる製法において、反応工程b)またはc)またはd)のどれかの後で制御された解重合を実施される中間的な工程を含んでいること、およびかかる製法がO−硫酸化が部分的であることで特徴づけられ、かかる硫酸化は工程c)では硫酸化剤と基質の水酸基(エピマー化したN−アセチルヘパロサン)のモル比を5以下、好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.5以下として、かつ10時間より短い硫酸化時間で実施されることで特徴づけられる。工程d)における部分的6O−硫酸化は、硫酸化剤と基質の水酸基(エピマー化したN−アセチルヘパロサン)のモル比を2以下、好ましくは1.5以下とし、かつ2時間より短い硫酸化時間、さらに好ましくは90分より短い硫酸時間、より一層好ましくは60分より短い硫酸時間で、4℃と30℃の間、好ましくは10℃と25℃の間の温度において実施されること、で特徴づけられる。
【0025】
工程c)における部分O−硫酸化および工程d)における6O−硫酸化は公知の硫酸化剤を用いて非プロトン性溶媒中で実施されるが、かかる非プロトン性溶媒としては、ホルミル基供与性の無いものが好ましく、より好ましくはN,N−ジアルキルアセトアミド(さらに好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミドまたはN,N−ジエチルアセトアミド)およびスルホラン(好ましくは、テトラメチレンスルホンまたは2,4−ジメチルスルホラン)から選ばれることが好ましい。
【0026】
ホルミル基供与性の無い有機溶媒の部分的硫酸化への使用により、アミノ糖にホルミル基またはその誘導体を含まないことで特徴づけられる生成物が得られ、抽出ヘパリン類に類似した硫酸基の分布を持つ生成物を与える。
【0027】
本発明の製法に記載の制御された解重合は中間的な工程において実施される。すなわち、b)、c)またはd)の工程のどれかの後に実施し、先行技術で開示されているように最終工程では実施しない。この解重合は、好ましくは部分的O−硫酸化の工程であるc)の前か後に、N−硫酸塩ヘパロサン多糖に対して実施されるのがよい。解重合は、ガンマ線照射のような物理的方法によってもよいし、亜硝酸またはその塩の存在化にベータ・ガンマ線照射をする化学的方法、または過ヨウ素酸塩またはフリーラジカル処理のような化学的方法によってもよい。
【0028】
本発明の好ましい態様として解重合剤は亜硝酸またはその塩であり、使用量は多糖1gについて1から100mgから選ばれる量である。解重合反応は、4℃から10℃の範囲から選ばれる温度で実施される。より好ましくは、制御された解重合は亜硝酸ナトリウムの存在下で30分より短い時間で実施し、当量より過剰の水素化ホウ素ナトリウムを添加して反応を停止させるのがよい。
【0029】
中間的な工程での解重合によって低分子量の生成物を得ることができるが、好ましくは、分子量は15000Da以下であり、より好ましくは3000と9000Daの間であり、還元末端に無水マンニトール残基を含み、この残基では位置6の水酸基の硫酸化に加えて抽出ヘパリンのように位置1と3の水酸基に硫酸化が起こる。
【0030】
上の記述にもかかわらず、本製法は、最終工程でさらに解重合が実施されることを妨げるものではない。中間的な工程で解重合を実施したときに最終生成物は抗凝固性、抗血栓性活性有しており、その抗Xa活性と抗IIa活性の比率は、意外なことに、硫酸化/脱硫酸化および6O−硫酸化工程の後に解重合を実施した生成物(同一の分子量を有するもので比較)で見られる比率より高いことが見いだされており、それは表1に示した通りである。
【0031】
好ましい実施態様に記載のN−アセチル化多糖ヘパロサンは大腸菌K5(E. coli K5)を原料とするものである。
【0032】
本製法は、さらにオプションとして、工程a)〜e)の結果として得られた生成物を、HookらがFEBS 速報誌、1976年、第66巻、90−93頁に記述している抗トロンビンIIIを用いたアフィニティクロマトグラフィを原理とする濃縮する工程を最終工程として含んでよい。
【0033】
N−脱アセチル化およびN−アセチル化は、公知文献記載のアルカリ加水分解の方法により実施されるが、その実施温度は30℃から80℃の範囲、好ましくは40℃から60℃の範囲から選ばれ、また反応時間は10から30時間の範囲、好ましくは15から20時間の範囲から選ばれ、その後に硫酸化剤による処理、好ましくは炭酸ナトリウム中でのピリジン−三酸化硫黄による処理、を20℃から65℃から選ばれる温度範囲で12時間以下で実施される。
【0034】
工程b)におけるエピマー化は、天然のまたはリコンビナントグルクロニルC5エピメラーゼ酵素を使用して、好ましくは固定化形態で、実施される。
【0035】
かかる酵素は、好ましくはWO98/48006号明細書に記述されているようなリコンビナントで、さらに好ましくは、米国特許出願09/732026号明細書に記述されているもので、好ましくは昆虫の細胞または酵母菌種から取り出し精製されたものであり、酵母菌種の例としては、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces Cerevisiae)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromices lactis)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromices lactis)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromices fragilis)を挙げることができる。
【0036】
酵素の固定化は、好ましくは樹脂CNBr−Sepharose 4B (Pharmacia)またはポリメタクリル樹脂またはポリスチレンン樹脂上に、CNBrで活性化させたエポキシ基またはジオール基で、NaHCO3緩衝液100−300mMまたはリン酸緩衝液10−50mMを使用してpH7.0−8.3、より好ましくはpH7.2−7.8で、4℃から25℃の温度で12−72時間実施される。
【0037】
より好ましい態様として記載のエピマー化反応は、35℃を超えない温度で、好ましくは15℃から30℃の範囲の温度、さらに好ましくは20℃から30℃の範囲の温度で実施される。
【0038】
かかるエピマー化反応は、公知文献記載の方法で実施されるが、例としてはWO01/72848号明細書に記述されている方法を挙げることができ、好ましくは35℃を超えない温度で、より好ましくは15℃から30℃の温度範囲、さらに好ましくは20℃から30℃の温度範囲で実施される。
【0039】
エピマー化反応の緩衝液としては、好ましくはHEPES溶液(好ましくは25mMの濃度)を使用して実施され、かかる溶液は、pH5.5−8.0、より好ましくはpH6.5−7.0で、N−脱アセチル化とN−硫酸化された多糖、EDTAを10−30mM,好ましくは15−25mM,CaCl2(または代替し得るものとして、Zn++、Ba++,Mg++,Mn++などの二価のカチオンの塩)を70から150mMの濃度から選ばれる濃度で、さらに好ましくは75から100mMの範囲から選ばれる濃度で、含むものである。かかる溶液は、サーモスタットで温度調節されるが、その温度範囲は15℃から30℃(好ましくは20℃から25℃)で、30−240ml/時の流量で1−24時間循環される。カラムは、温度を保たれた不活性な支持体上に固定化した、好ましくは1.2x107から3x1011cpm当量の固定化酵素を入れたものである。
【0040】
上に開示した操作条件では、とりわけ選択した温度条件では、エピメラーゼC5酵素を数千時間安定化するため、かかるエピマー化反応カラム調製において時間と試薬を大幅に節約ができる。
【0041】
製法中の部分的O−硫酸化(工程c)は、公知の硫酸化剤を使用して実施されるが、かかる硫酸化剤としては、トリエチルアミン−SO3,トリメチルアミン−SO3、ピリジン−SO3が挙げられ、非プロトン性極性溶媒を用いて実施され、その溶媒は好ましくはホルミル基の供与体でないものである。硫酸化反応は、硫酸化剤/水酸基のモル比が5以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.5未満で、硫酸化時間が10時間以下、好ましくは8時間以下、更に好ましくは1から6時間の範囲で、20℃から70℃、好ましくは30℃から60℃の温度で実施される。
【0042】
かかる部分的O−硫酸化に続いて部分的脱硫酸化が実施されるが、これはメタノール溶媒中のDMSOのような脱硫酸化剤を使用して10から240分の範囲の時間で45℃から90℃の範囲の温度で実施される。
【0043】
それぞれの製法の工程は沈殿操作および/または中間反応としての多糖脱硫反応を含むがこれは公知の方法で実施し得る。
【0044】
部分的6O−硫酸化(工程d)は、硫酸化剤を添加して実施されるが、硫酸化剤/水酸基のモル比が2以下、好ましくは1.5より小さい値であり、硫酸化時間が2時間以下、好ましくは90分以下であり、4℃から30℃の範囲の温度、好ましくは10℃から25℃の範囲の温度で、非プロトン性極性溶媒中、好ましくはホルミル基の供与体でない溶媒中で実施される。製法の別の実施態様としては、部分的6O−硫酸化(工程d)はN−再硫酸化の後に実施され、その場合、工程d)と工程e)の順序は逆転して実施される。
【0045】
N−再硫酸化(工程e)は、炭酸塩緩衝液中で公知の硫酸化剤、例えばトリエチルアミン−SO3,トリメチルアミン−SO3、ピリジン−SO3、を添加することにより実施される。
【0046】
結論として、本発明に記載の製法は次のような革新的要素を含んでいる。つまり、部分的O−硫酸化(O−硫酸化および6O−硫酸化)、最終工程でなく中間的な工程で実施される脱硫酸化、および、非プロトン性極性溶媒、好ましくはホルミル基の供与体でない溶媒、中で実施される6O−硫酸化、である。
【0047】
本発明の製法により得られるN−アセチルヘパロサンは、公知の先行技術の製法で得られる生物工学的ヘパリンと比較して特徴ある構造および生物学的差異を有している。
【0048】
化学的な観点からは、本発明の多糖は次の一般式(I)で表現される多糖鎖混合物として定義できる。
【0049】
【化1】
式中、nは3から150の範囲であり、R1は水素、SO3−基、アセチル基、でも良い。R1は、ホルミル基のような他の官能基ではない。R2,R3,R4およびR5は、水素またはSO3−基であるが、R1,R2,R3,R4およびR5は好ましくは次の通りである。
− R1は、85から97%がSO3−基、および/または3%から15%はアセチル基、および/または0から12%はH+、
−R2は、15から60%がSO3−基、
−R3は、少なくとも40%、好ましくは50%から85%SO3−基、
−位置R4とR5では、グルクロン酸単位の少なくとも20%が硫酸化されていない。
【0050】
とりわけ、本発明の製法に記載の解重合された多糖の特徴は、還元末端に硫酸化された水酸基が一つ以上ある無水マンニトール残基があることである。
【0051】
この構造は、解重合が亜硝酸または亜硝酸ナトリウムのような亜硝酸塩の存在下で実施され、その後水素化ホウ素ナトリウムで処理をした結果として得られるもので、次構造式(II)に記載の構造である。
【0052】
【化2】
式中、R1,R2,R3,は、水素、またはSO3-基であり、好ましくは次の通りである。
−R1は、0から100%がSO3−基、
−R2は、0から100%がSO3−基、
−R3は、0から100%がSO3−基。
さらに好ましくは、R1とR3は20%から85%がSO3-基、R2は15%から60%がSO3-基である。
【0053】
本発明で好ましい生成物の分子量は15000Da以下であり、より好ましくは1500から15000Daの範囲にあり、さらに好ましくは3000から9000Daの範囲にある。
【0054】
本発明に記載の好ましい生成物は、その化学構造の観点から公知の先行技術から得られたものと異なっているが、これは、13C−NMRスペクトルにおいて多重シグナルが79から89ppm、とりわけ80から86ppm、に存在することを根拠とでき、これらのシグナルは無水マンニトールの特性シグナルに因るものとしては多すぎ(実施例9で調製された試料の高分解能13C−NMRスペクトルに関する図10参照)、これは中間的な工程で解重合を実施する本発明の製法に基づいて得られた低分子量生成物においていろいろな形で、とりわけ位置1と6の水酸基において、硫酸化された無水マンニトールの存在を示しているためである。
【0055】
さらに特徴的なことに、本発明に記載の製法で得られた生成物は無水マンニトールの位置1の水酸基が硫酸化されている点で公知のものと異なっているが、これは13C−NMRスペクトルにおける67−68ppm領域のシグナルの増加および61−63ppm領域のシグナルの消失によって示される。
【0056】
かかる差異は図11のスペクトル(実施例10に記述した多糖生成物に対応するもの)と図9のスペクトル(実施例8に記述した多糖生成物に対応するもの)を比較することによって示される。このような差異は、二次元NMR法によってさらに明確になることはGuerriniらが高血栓症セミナー、2001年、第27巻、第5号、473−482頁に記述している通りである。
【0057】
これらのスペクトル領域の主なる特徴は無水マンニトールに存在する水酸基の部分的または完全な硫酸化によって得られるものであり、かかる無水マンニトールは、硫酸化工程の前、とりわけ位置1および6の水酸基の硫酸化の前に実施された解重合により生じた多糖の還元末端に形成されるものである。
【0058】
本発明の生成物を先行技術(例として、本発明の比較例として示した実験例6および7で示した)の生成物および製法と比較したときのさらなる特徴は、1H−NMRスペクトルにおいて7−9.5ppmのシグナルが、13C−NMRスペクトルにおいて51ppmと165ppmのシグナルがそれぞれ消失していることであり、これは低分子量および高分子量の生成物すべてにおいてグルコサミン構造上に解離したアミノ基もしくはアセチル基もしくは硫酸基が無いことを示している。
【0059】
逆に、通常上記の領域にシグナルが現れるのは、N−アセチルヘパロサンの硫酸化がN,N−ジアセチルホルムアミドのようなホルミル基供与性有機溶媒中で実施された製法においてである。
【0060】
本発明に記載の硫酸化グリコアミノグリカンは、血漿の存在下で抗因子Xa活性として測定した抗凝固性が公知の変性法で得られた生物工学的ヘパリンの抗凝固性より高い。さらに重要なことは、本発明によって得られた硫酸化グリコアミノグリカンは、抗Xa活性と抗IIa活性の比が1以上であり、抽出ヘパリンの示す比に非常に近いことである。
【0061】
本発明の生成物の特徴は次の通りである。
a)ヒトの血漿の存在下で実施した試験において、抗因子Xa活性が50 IU/mgより高く、より好ましくは70 IU/mgより高い。かかる抗因子Xa活性は、Ten Cate H.臨床化学、1984年、3860−3864頁、または、欧州薬学雑誌、1997年、第3版に記述されている測定法に依ることが好ましい。血漿の存在下における本発明の生物学的活性は、驚くべきことに先行技術のどの製法で生産された生物工学的ヘパリンの生物学的活性より高い値であり、高分子量または低分子量の抽出ヘパリンと比べてほぼ同等の活性を有することである。
b)TFPI(Bronze GJ Jr.らが、血液誌、1988年、第71巻、335−343頁に述べた組織因子経路インヒビター)の活性能が抽出ヘパリンの活性能と同等以上である。
c)同様な分子量で比較したときの活性の比、抗Xa/抗IIa、が1以上である。より好ましい比は、1.5以上である。
d)ヘパリナ−ゼIに対する耐性が、抽出ヘパリンが示す耐性と同等以上である。
e)トロンビンとXa因子プロテアーゼの遊離に対する抑制能。
f)PF4因子(血小板第4因子)に対する親和性が低い。
【0062】
脈管内皮細胞におけるTFPI活性能が本発明の生成物の抗血栓性と抗炎症性活性を高めており、外科的処置における深刻な静脈血栓症、不安定な狭心症の虚血性併発症、心筋梗塞、および虚血性の諸症状に対する治療法を拡大し改善する。
【0063】
プロテアーゼの産生阻害能は、TFPI産生向上と結びついて、本発明の治療適用性をさらに拡大し、敗血症および汎発生静脈凝固のような併発症(CID)の処置および先天的または後天的な抗トロンビンIII欠乏症の処置にまで適用可能である。
【0064】
本発明の生成物で処置した後のTFPI因子への活性度の測定は、例えばインビトロではHUVEC細胞について実施されるが、その方法はGory A.M.らが抗血栓症誌、1999年、第81巻、589−593頁に示している。
【0065】
本発明に記載のN−アセチル化ヘパロサン誘導体(生物工学的ヘパリン)は、ヘパリナーゼIのような加水分解酵素による分解に対する抵抗性が顕著に高い。この特性に加えて、本質的にバイオアベイラビリティが高く使用時の出血や高分子ヘパリンのような副作用のリスクが低い低分子量生成物を得ることができること、高い抗因子Xa活性と低い硫酸化率であること、によって本発明の生成物は非経口的使用だけでなく経口的投与法も可能である。
【0066】
前述したように、本発明の製法で得られた生成物はトロンビンプロテアーゼの生成とXa因子を抑制する。
【0067】
プロテアーゼ生成の抑制はフィブリノーゲンが枯渇した血漿に対して実施するのが望ましい。因子IIと因子Xa生成の両方の抑制についてのモニターは、内因性および外因性凝固系の両方をアミドール法を使用して実施するのが望ましい。
【0068】
使用した二つの系に対する両方の方法では、本発明で得られた生成物はトロンビンと因子Xaの両方に強い抑制活性を示し、この特性が本発明の生成物の抗血栓薬としてより良いプロフィールを与えている。
【0069】
本発明に記載の製法で得られた生成物は、さらにPF4因子(血小板第4因子)に対する親和性が低いが、PF4因子は生物工学的ヘパリンを含む溶液にPF4因子の所定量を添加した後に残っている抗Xa活性として血漿について測定できる。
【0070】
残存している抗Xa活性は、初期の活性に対する割合として算出されるが、抽出ヘパリンまたは低分子量の抽出ヘパリンよりも高い値を示しており、これはPF4に対する親和性が低いことを示している。
【0071】
このように低い結合親和性は、ヘパリンを原因とする栓球減少症(HIT)を発症するリスクを減少させるので、本発明で得られる生成物に良い臨床的プロフィールを与えている。調製可能な生成物の好ましい分子量が15000Daより低い場合でも、またより好ましくは3000と9000Daの間にある場合でも、15000Da以上の分子量は解重合の条件を変えることによるだけで得ることができ、その場合も高い抗Xa活性、ヘパリナーゼ耐性およびTFPI因子の遊離などの生物学的性質が保たれている。
【0072】
結論として、本発明に記載の方法で生産される生物工学的ヘパリンは次のような主な特徴を示す。
− 13C−NMRスペクトルにおいて多重シグナルが79から89ppm、とりわけ80から86ppm、に存在し、これらのシグナルは無水マンニトールの特性シグナルに因るものとしては多すぎる量であり、さらに13C−NMRスペクトルにおいて67−68ppm領域のシグナルの増加および61−62ppm領域のシグナルの消失すること。これらのシグナルは、様々な形の硫酸化マンニトールの存在、とりわけ位置1,3,6の硫酸基の存在、さらに特徴的には、位置1の水酸基の硫酸化されたものの存在、を明らかにしており、これらのことは図11と9を比較して強調することができる。
− 好ましくは、1H−NMRスペクトルにおいて7−9.5ppmのシグナルが消失し、さらに13C−NMRスペクトルにおいて51ppmと165ppmのシグナルがそれぞれ消失していることであり、これはホルミル基が無いことを示している。
− 血漿中の抗Xa(抗凝固)活性が先行技術で作られた生物工学的ヘパリンより高い値を有する。
− 抗Xa活性/抗IIa因子活性の比率が先行技術で作られた生物工学的ヘパリンより高い値を有し、好ましくは1と等しいかそれより高く、より好ましくは1.5と等しいかそれより高い。
− ヘパリナーゼ耐性が抽出ヘパリンと等しいかそれより高い。
− トロンビンとXa因子生成阻害能がある。
− PF4親和性が低い。
【0073】
本発明で新規に作成した生物工学的ヘパリンの生物学的活性は特異的である。とりわけ、抗Xa活性と抗IIa活性の比率が1と等しいかそれより高いが、先行技術で得られる生成物では、APTT値から得られる抗血栓性と抗凝固性の最適な比率を示している1より通常低い。本発明で得られる比率は抽出ヘパリンの比率に近い。
【0074】
抽出ヘパリンと同様の好ましい特徴は高いHCII値から得られる最適な特徴は評価できるものので、トロンビンに対するより直接的な抑制作用であり、このことは、本発明の生成物が抗血栓症および/または抗血栓による静脈症や先天的または後天的な抗トロンビン欠乏症に使用できる可能性を含んでいる。
【0075】
本発明のさらなる側面は、抽出ヘパリンの代替として抗凝固や抗血栓の治療用または予防用として、または線溶と抗凝集活性を持つ医薬品の調製用として、上述した製法によって得た生成物の単独での使用、および医薬上容認できる適切な賦形剤や希釈剤を使用した組成物としての調合使用にも関する。
【0076】
本発明の生成物およびその生成物を含む組成物の用途としてとりわけ適しているのは、不安定な狭心症、心筋心臓発作、深刻な静脈血栓症、肺塞栓症,虚血症の諸症状または敗血症の治療、汎発性血管内凝固症候群(CID)のような敗血症の併発症などの予防や治療を目的とした医薬品への有効成分としての使用である。
【0077】
本発明の生成物のさらなる側面は、不安定狭心症、動脈血栓症、アンテローム性動脈硬化症の予防と治療、またはアンチトロンビンIIIの先天的または後天的欠乏症に起因する血栓塞栓症の治療のための医薬品の製造用途に関する。
【0078】
本発明の生成物はミセルやキャリヤ分子などによって体内輸送されるので非経口使用に加えて経口使用用途にもとりわけ適している。
【0079】
従って、本発明のさらなる側面は、経口および非経口用途の両方に対して適切な調合をすることにより、本発明に記載の製法で作られたN−アセチルヘパロサンの多糖誘導体を有効成分として含む医薬組成物である。
【0080】
本発明のさらなる側面は、アミノ糖の遊離アミノ性基を持ちホルミル基を全く含まず抗凝集活性の無いO−硫酸化中間体で、本発明の最終生成物の調製に関する。
【0081】
とりわけ好ましいものは、本発明に記載の製法で得られ分離された中間体であるK5OSNH2−epiであり、次の一般式(III)で表わされる多糖鎖の混合物として定義できる。
【0082】
【化3】
ここで、nは3から150であり、R1は水素またはアセチル基であることができ、アセチル化度は3%から15%の範囲である。
【0083】
R1は他の官能基ではなく、好ましくはホルミル基ではない。R2,R3,R4およびR5は、水素またはSO3−基であり、硫酸化度は好ましくは30%から98%の間から選ばれる。
【0084】
K5OSNH2−epi(1H−NMRスペクトルは図16に示した)の好ましい分子量は1500から15000Daの範囲であり、より好ましくは3000から9000の間であり、色原体法(Coatestヘパリンキット、Chromogenix)で測定した抗因子Xa活性が10 IU/mgより低い抗凝集活性を持つことが特徴である。
【0085】
K5OSNH2−epiは、例えば本発明のような生成物を製造する上で有用である。
【0086】
K5OSNH2−epiは、本発明に記載の方法で調製され、かつ単離できるもので、次の一般式(IV)で表される多糖鎖の混合物として定義できる。
【0087】
【化4】
ここで、nは3から150であり、R1は水素またはアセチル基であることができ、アセチル化度は3%から15%である。R1は他の官能基ではなく、好ましくはホルミル基ではない。R2、R3、R4およびR5は、水素またはSO3−基であり、R2、R3、R4およびR5は好ましくは次の通りである。
−R2は、15から60%がSO3−基、
−R3は、少なくとも40%、好ましくは50%から85%がSO3−基、そしてR4とR5の位置では、グルクロン酸単位の少なくとも20%が硫酸化されていない。
【0088】
K5OSNH2−epi中間体(13C−NMRスペクトルを図15に示した)の分子量は好ましくは1500から15000Daの範囲であり、より好ましくは3000から9000の間である。K5OSNH2−epi中間体は、アミノ多糖上に一つの解離したアミノ基があり、硫酸化されておらず、全くホルミル基を含まないことが特徴である。さらに、色原体法(Coatestヘパリンキット、Chromogenix)で測定した抗因子Xa活性が10 IU/mgより低い抗凝集活性を持つことも別の特徴である。K5OSNH2−epi中間体は、例えばN−硫酸化誘導体を本発明のような方法で製造する上で有用であり、また、抗凝集活性を持たない。
【0089】
とりわけ好ましい態様として、N−アセチルヘパロサン(大腸菌K5多糖)のような細菌由来の多糖から生物工学的ヘパリンを製造する製法は次の製法からなっている。
【0090】
N−アセチルヘパロサン多糖の調製と精製
出発材料は、好ましくは二糖類単位の鎖によって表されるN−アセチルヘパロサン多糖であり、D−グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンモノマーがβ1,4結合で結びあわされた構造である、 [−4) −GicA α 1−4 GIcNAc−(I−]n、で表現される。多糖は例えば天然の大腸菌K5系統(系統 Bi8337/41血清型O10:K5:H4)(この場合、対応する多糖はK5多糖)またはパスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)細菌タイプD、またはそれらの誘導体、またはそれらの突然変異種、または大腸菌の組み換え型菌種株で例えばFinke A.らのJournal of Bacteriology、1991年、173巻。13号4088−4094頁またはDrake CR,Roberts IS,Jann B.,Jann K.,およびBoulnois GJのFEMS Microbiol.速報誌.1990年、第54巻、1−3号、227−230頁、に記述されているものである。
【0091】
K5多糖の製造に有用な大腸菌系統はATTC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、アメリカ合衆国)のATCC23506のような微生物の公共のコレクションから得ることができる。
【0092】
マルトシダ・パスツレラ(Multocida Pasteurella)タイプD株はATCCコレクションから得ることができる(ATCC 12948)。
【0093】
N−アセチルヘパロサン多糖類は培養液から微生物の発酵と抽出によって得ることができる。精製は、公知の方法によって実施されるが、例としては特許WO01/02597号明細書に記述された方法を挙げることができ、この場合次の培養液が使われている。大豆小麦粉 2g /l、 K2HP04 9.7g/l 、 KH2P04 2g/l、 MgCl2 0.11 g/l 、クエン酸ナトリウム0.5 g/l 、硫酸アンモニウム 1g/l 、ブドウ糖(あらかじめ殺菌されたもの)2g/l、水1000ml q.b、pH7.3。
【0094】
予備培養液は、好ましくはTripic大豆寒天培地から取り出した大腸菌、Bi8337/41(O1O:K5:H4)の細胞懸濁液を播種したものである。播種は、攪拌下37℃で24時間実施される。次の工程で、上述した培養液を含む発酵槽を上述した予備培養液を使い0.1%で播種し、発酵を18時間37℃で実施される。発酵中、pH、酸素、残存ブドウ糖、生産されたK5多糖および細菌の成長をモニターする。
【0095】
発酵の最後には、温度を80℃に10分間維持した。細胞は10000rpmの遠心分離で培養液から分離し、上澄液は1000−10000Daカットオフ濾過膜で濾過し体積を1/5まで減少させる。そして、このK5多糖を体積4倍量のアセトンを加えて沈殿させ遠心分離により取り出す。
【0096】
ペレットの除タンパクは、好ましくは、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus Orizae)のプロテアーゼタイプIIを使用して、NaCl 0.1M,EDTA0.15Mを含む緩衝液中で、pH8,SDS0.5%、37℃、90分で実施される。
【0097】
溶液は10000Daカットオフ薄膜を用いて限外濾過を実施し、その後多糖をアセトンで沈殿させる。多糖の純度は通常は80%以上で以下の分析法の少なくとも一つを用いて策定する。ウロン酸の算出(カルバゾール法)、1H−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトル、UVおよび/またはタンパク質含有量。
【0098】
a)細菌を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化とN−硫酸化
好ましくは5から10g量の精製したK5多糖を200−2000mlの2N水酸化ナトリウムに溶解し、40−80℃で反応させ脱アセチル化を完結させる(例、15−30時間)。この溶液を中和する。脱アセチル化したK5多糖を含む溶液を20−65℃に保ち、一段階で10−40gの炭酸ナトリウムと10−40gの硫酸化剤を添加する。硫酸化剤は、ピリジン−発煙硫酸アダクツ、トリメチルアミン−発煙硫酸などから選択する。
【0099】
硫酸化剤は12時間までに一度に添加する。反応の終了時には、必要であれば溶液を室温に戻しpHを7.5から8にする。
【0100】
生成物を公知の方法で塩から精製するが、方法の例としては、らせん状薄膜1000Da(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)のダイアフィルトレーションを挙げることができる。得られた生成物を濃縮して10%多糖濃度とする。濃縮した溶液は必要に応じて公知の方法で脱溶媒する。
【0101】
N−アセチル化/N−硫酸化の比率は13C−NMRスペクトルで測定する。
【0102】
b)C5グルクロニルエピメラーゼによる酵素的エピマー化
C−5エピマー化の工程はイズロン酸中のグルクロン酸部分のエピマー化を含むものであるが、C5グルクロニルエピメラーゼ酵素(C−5エピメラーゼと呼ぶ)を天然のまままたはリコンビナントものを溶液中で、または好ましくは固定化酵素として、使用し実施される。
【0103】
この工程には、WO98/48006号明細書に記載されたリコンビナントエピメラーゼC5酵素を使用する。好ましいものは、米国特許出願09/732026号明細書およびLiら、生化学雑誌、2001年、第276巻、23号、20069−20077頁に記載されているように変性されN−端末に付加的な連鎖を含むリコンビナントエピメラーゼである。
【0104】
リコンビナント酵素は、好ましくは、昆虫の細胞または酵母の細胞から発現・精製されたもので、好ましくは、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces Cerevisiae)、ピチア・パストリス(Pichia Pastoris)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromices lactis)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromices fragilis)の属に含まれるものである。
【0105】
b.1)C−5エピメラーゼの樹脂上への固定
リコンビナント酵素は、樹脂、薄膜、ガラスビーズのような異なった不活性基質上に固定化することができるが、その基質は公知の方法、例えば、臭化シアノジェン、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、で官能基を導入するか、または酵素をイオン交換樹脂に反応させることによるか、または酵素を薄膜上に吸着させることにより実施される。
【0106】
好ましい実施態様においては、酵素を次のような市販の樹脂上に固定する。CNBrセファロース4B(ファルマシア)またはポリスチレン樹脂またはポリメタクリル樹脂(Resindion 三菱)であり、これらはエポキシ基またはジオール型CNBr活性基を有しているものである。
【0107】
本発明でとりわけ好ましい酵素固定法として、NaHCO3 100−300mMの緩衝液中、pH7.0−8.3、好ましくは7.2−7.8,温度4−25℃、12−72時間、CNBrで活性化したジオール基を有するポリメタクリル樹脂を使用する方法を挙げることができる。
【0108】
本発明に記載の酵素の不活性基質への結合反応は、酵素活性の低下を防止するためにK5N−脱アセチル化されN−硫酸化された基質の存在下に実施される。
【0109】
固定化酵素の活性度の測定は、かかる固定化酵素を含むカラムに、その固定化酵素によって毎分のカウントあたりで理論的に転換する量のN−脱アセチルN−硫酸化K5をHEPES 25mM、KCl 0.1M,TritonX−100 0.01%およびEDTA 0.15Mからなる緩衝液に溶解し、pH7.4、37℃、24時間、流量0.5ml/分で循環させる方法で実施される。DEAEクロマトグラフィー法で精製しセファデックスG−10上で脱塩後、生成物を凍結乾燥し、WO96/14425号明細書に従って1H−NMRスペクトルでイズロン酸含量を測定する。
【0110】
b.2)固定化酵素によるエピマー化
C5エピマー化反応は、例としてWO96/14425号明細書の記載にあるように、HEPES 0.04またはTris 0.05M、KCl 0.4M,EDTA 0.06MおよびTritonX−100およびさらなる添加物、とりわけグリセリンまたはポリビニルピロリドン、からなる反応緩衝液中で実施されることができる。
【0111】
反応は、WO01/72848号明細書の記述にあるように、HEPES25ml、CaCl2 50mMを含む溶液中で,pH7.4,温度30−40℃で実施される。
【0112】
とりわけ、カラムに固定化した後にもグルクロニルC5エピメラーゼが寿命を維持し安定であるような温度と緩衝液の反応条件であることが好ましい。
【0113】
0.001−10gのN−脱アセチルN−硫酸化K5およびEDTA10−30mM、好ましくは15−25mM,およびHEPES25mM,およびCaCl270−150mM,(好ましくは、75−100mM)を含む20−1000mlの水溶液を、pH5.5−8.0,好ましくはpH6.5−7.0、サーモスタットで調節した温度15℃から30℃(好ましくは、20−25℃)で、1.2x107から3x1011当量の固定化酵素で15−30℃、好ましくは20−25℃で不活性基質上に固定化したものを含むカラムを用い、流速30−240ml/時、1−24時間循環させる。
【0114】
上述した温度と緩衝液の条件は、カラム上の酵素の安定性を向上させ、3000時間より長い稼働時間を与え、それ故に製法をとりわけ優れたものにしている。反応の最後には、試料をDEAE樹脂またはStartbindDEAEカートリッジを通して精製し、2MのNaClを添加して沈殿させ、最後にG10セルファデックス樹脂(ファルマシア社)上で脱塩するかまたは2体積のエタノールを沈殿させIR120H+樹脂上に通してナトリウム塩を得る。
【0115】
上述した好ましい条件で得られた生成物は、WO96/14425号明細書の記述にある1H−NMRスペクトル法で測定すると、少なくとも50%(全ウロン酸に対するイズロン酸)のエピマー化率を有している。
【0116】
制御された解重合
工程b)またはc)またはd)で得られた生成物に対して公知の方法による制御された解重合を実施される。例えばWO82/03627号明細書の記述にある亜硝酸を用いた脱アミノ反応、または過ヨウ素酸ナトリウムを用いた酸化開裂(EP287477号明細書)、またはフリーラジカル処理(EP121067号明細書)、またはベータ脱離(EP40144号明細書)、またはガンマ線処理(米国特許4987222号明細書)であり、好ましい分子量画分は1500から15000Daの範囲、より好ましくは3000から9000Daの範囲である。
【0117】
本発明の好ましい側面は、制御された解重合は硫酸化の工程の前に実施される。
【0118】
とりわけ、前工程で得られた生成物に対する制御された解重合は、亜硝酸または亜硝酸ナトリウムを用いて実施される。この場合、使用する塩の量は多糖1gあたり1から100mgであり、続いて過剰のホウ素化水素で還元する。
【0119】
2番目の好ましい実施態様は、試料を50−250mlの水に4℃で溶解し、1N塩酸を添加して酸性とする。亜種酸ナトリウムの量は5から500mgを添加し反応を60分より短く、好ましくは30分より短く実施される。
【0120】
過剰のホウ素化水素ナトリウムが消えた後に、3倍容積のエタノールで沈殿させ真空乾燥機で乾燥して生成物を得る。
【0121】
製造の最後の工程で解重合を実施される場合、例えばWO01/72848号明細書の記載にあるように実施されることができる。
【0122】
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸化
上の工程で得られた生成物を水に10%の濃度で再懸濁する。この溶液を10℃に冷却し、10℃の温度を保持したままIR−120H+カチオン交換樹脂に通す。溶液を樹脂に通した後、樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで続ける。得られた酸性溶液を三級アミンまたは四級アンモニウム塩、例えば塩から調製した15%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、で中和する。溶液を濃縮して体積を少なくした後に凍結乾燥する。
【0123】
得られた生成物を10−1000mlの有機溶媒、好ましくはスルホランまたは2,4−ジメチルスルホラン、中に懸濁させる。別の有機溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)またはN,N−ジメチルホルムアミドを使用することもできる。これらの有機溶媒を添加するとき、固体状の硫酸化剤、または同じ溶媒に溶かした硫酸化剤溶液として、添加する。
【0124】
硫酸化剤と多糖基質(エピマー化したN−硫酸化K5)のモル比率は、硫酸化剤と多糖ダイマー中の水酸基の比率で表現して、5以下に保持し、より好ましくは2.5未満に、さらに好ましくは1.5未満に保持する。
【0125】
溶液は20℃から70℃の範囲の温度、好ましくは30℃から60℃、に10時間以下、好ましくは8時間以下、さらに好ましくは6時間以下、に保持する。反応の最後には、溶液を室温まで冷却し食塩を飽和させたアセトンを添加して多糖を完全に沈殿させる。
【0126】
沈殿物を濾過して溶媒を分離し、最小量の脱イオン水に溶解し、食塩を0.2Mとなるように添加する。溶液に2N水酸化ナトリウムを添加してpH7.5−8にする。アセトンを添加して完全に沈殿させる。沈殿物を濾過して溶媒と分離する。得られた固体を10−100mlの脱イオン水に溶解し限外濾過により残存する塩を除き精製する。
【0127】
試料の一部を凍結乾燥して13C−NMRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルで部分的O−硫酸化生成物の構造分析をする。
【0128】
部分的硫酸化生成物を含む溶液をIR−120+カチオン交換樹脂または同等品に通す。
【0129】
樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで実施し、その後、ピリジンを加える。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥する。生成物を20−200mlのDMSO/メタノール(9/1 V/V)溶液で処理し、その溶液を45−90℃で10−420分保持する。最後に、溶液に10−200mlの脱イオン水を加え、食塩で飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させる。
【0130】
得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションを実施し、一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をする。
【0131】
d)部分的6O−硫酸化
上に示した工程で得られた生成物を6O−硫酸化する。位置6Oの硫酸基の量を、公知の方法、例えば13C−NMRスペクトルで測定する。この場合の条件は、Guerriniらが抗血栓症セミナー、2001年、第27巻、5号、473−482頁に記述がある。
【0132】
得られた生成物を水に再分散させて5から10%の濃度にし、室温に保持する。この溶液をIR−120+カチオン交換樹脂または同等品に通す。溶液を通し終わった後、三級アミンまたは四級アンモニウム塩、例えば塩から調製した15%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液で中和する。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥する。
【0133】
得られた生成物を10−000mlのジメチルホルムアミドを含む有機溶媒、好ましくはスルホランまたは2,4−ジメチルスルホラン、またはN,N−ジメチルホルムアミドを含む有機溶媒中に懸濁させ、ピリジン−SO3アダクツのような硫酸化剤を固体状態でまたは同じ有機溶媒を用いた溶液で添加する。
【0134】
この分散液を4℃から30℃、好ましくは10℃から25℃、の温度に保ち、硫酸化する水酸基の2当量より少ない量、より好ましくは1.5当量より少ない量、の硫酸化剤、例えばピリジン−SO3アダクツ、で10−90分間処理し、食塩を飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させた。得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションにより精製する。一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をする。
【0135】
e)N−再硫酸化
6O硫酸化多糖を含む溶液を20−65℃に保ち、10−100gの炭酸ナトリウムを一度に加え、10−100gの硫酸化剤、例えば好ましくはピリジン−SO3、を添加する。硫酸化剤の添加は、12時間までの反応時間の間に実施される。反応の終了時に、必要であれば、溶液を室温まで冷却して、好ましくは2Mの水酸化ナトリウムで、pH7.5から8に中和する。
【0136】
生成物を公知の方法で塩から精製するが、方法の例としては、らせん状薄膜1000Da(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)のダイアフィルトレーションを挙げることができる。この製法の簡潔は、透析物の伝導度が1000mS、好ましくは100mSより低くなったときである。得られた生成物を濃縮して10%多糖濃度とする。一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をする。
【0137】
この工程で上述したように実施した6−O選択的硫酸化とN−再流酸化は、工程e)で得られた生成物に対しては、異なった順番で行うことができ、例としては、N−アセチル化を先に6−O硫酸化を後にする方法で、これはWO98/42754号明細書に記述された方法で、最終生成物の生物学的活性が変わらないものが得られる。
【0138】
アンチトロンビンIIIを結合した連鎖の濃縮(任意)
前の工程で述べた方法で得られた生成物は、任意に、アニオン交換クロマトグラフィーでさらに純度を向上できるが、アニオン交換クロマトグラフィーのカラムの例としては、Lam L.H.らが生物化学・生物物理学研究速報、1976年、第69巻、2号、570−577頁に記述しているDEAEカラムを挙げることができる。この精製法またはそれ以外の別の方法としては、生成物をさらに次のようなアフィニティクロマトグラフィーを通す方法がある。すなわち、HookらがFEBS速報誌、1976年、第66巻、90−93頁または米国特許4692435号号明細書、にあるヒトの全部または一部のアンチトロンビン連鎖を使った方法、またはLiu S.らが、合衆国国立アカデミー科学予稿集、1980年、第77巻、6551−6555頁に記述したヘパリンに対して高い親和性を有するペプチド連鎖を使用した方法を挙げることができる。この方法を用いれば、次にNaCl生理食塩溶液による溶出操作で、固相に結合した画分を分離することが可能となる。
【0139】
実例として、N−再硫酸化の工程で得られた生成物10−50mgを、50−100mgのヒトのアンチトロンビンIIIを固定化したアフィニティカラム( Kedrion SPA、Lucca, イタリア )に、Tris−HCl 10mM,pH7.4,NaCl 0−0.15M、4℃の緩衝液を用いて注入する。カラムは、その後3倍体積のTris−HCl、pH7.4の緩衝液で洗浄する。
【0140】
カラムに高い親和性を持って結合した分子は、0.5から3MのNaClを含むTris−HCl 10mM、pH7.4の緩衝液で溶出される。
【0141】
溶出したものは、次に、好ましくはカットオフ1000Daのらせん状薄膜を使用してダイアフィルトレーションを実施して塩を除き凍結乾燥で濃縮する。
【0142】
一部の試料をカルバゾール法、HPLC,NMRおよび抗Xa活性を測る色素生産性による分析をする。
【0143】
得られた生成物は、出発物質の1.5から3倍という優れた抗Xa活性を示す。
【0144】
同様な抗Xa活性の増加は、抽出ヘパリンを同様な方法で処理しても得られる。このことは、アンチトロンビンIIIに対する結合性において、本発明によって得られた生物工学的ヘパリンが抽出ヘパリンとの類似性を示す新たなシグナルである。
[実験の部]
【0145】
実施例1 本発明の製法による生物工学的ヘパリンの製造
次の工程により実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)解重合
e)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
f)部分的6−O硫酸化
g)N−再硫酸化
【0146】
a)多糖の調製
N−アセチルヘパロサン多糖を大腸菌、Bi8337/41(O1O:K5:H4)(ATCC 23506)の発酵により得、特許WO01/02597号明細書に記述された方法に従って培養液からの抽出と精製を実施した。使用した培養液の組成は、大豆小麦粉 2g/l、 K2HP04 9.7g/l 、 K2HP04 2g/l、 MgCl2 0.11 g/l 、クエン酸ナトリウム0.5g/l 、硫酸アンモニウム1g/l 、ブドウ糖(あらかじめ殺菌されたもの) g/l、水1000ml q.b、pH7.3。
【0147】
この培養液に、Tripic大豆寒天培地から取り出した細胞懸濁液を、攪拌下37℃で24時間播種した。発酵槽中の種菌はタイプF5(Industrie Meccaniche di Bagnolo SpA)で上述の培養液が使われているが、上述の予備培養液を使い0.1%で播種し、発酵を18時間37℃で実施した。発酵中、pH、酸素、残存ブドウ糖、生産されたK5多糖および細菌の成長を測定した。発酵の最後には、温度を80℃に10分間維持した。細胞は10000rpmの遠心分離で培養液から分離し、上澄液は1000−10000Daカットオフ濾過膜で濾過し体積を1/5まで減少させた。そして、このK5多糖を体積4倍量のアセトンを加えて沈殿させ遠心分離により取り出した。
【0148】
得られた固体からの除タンパクは、好ましくは、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus Orizae)種のプロテアーゼタイプIIを使用して、NaCl 0.1M、EDTA0.15Mを含む緩衝液中で、pH8、SDS0.5%、37℃、90分で実施した。溶液は10000Daカットオフ薄膜を用いて限外濾過を実施し、その後多糖をアセトンで沈殿させた。多糖の純度はウロン酸分析(カルバゾール法)により測定し、1H−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトル、UVおよび/またはタンパク質含有量を測定した。
【0149】
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
工程a)で得られた生成物10gを200mlの2N水酸化ナトリウムに溶解し、50℃で18時間反応させた。この溶液を6N塩酸で中和した。N−脱アセチル化多糖を得た。
【0150】
脱アセチル化したK5多糖を含む溶液を40℃に保ち、一段階で10gの炭酸ナトリウムを加えた後に10gのピリジン−発煙硫酸アダクツを10分かけて加えた。得られた生成物はN−脱アセチル化およびN−硫酸化されたK5多糖であり、らせん状薄膜1000Da(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)を使用してダイアフィルトレーションにより塩を除いて精製した。精製は、溶出物の伝導度が100mSより低くなったときをもって完了とした。
【0151】
生成物を同じダイアフィルトレーション法で10%の多糖濃度としてから凍結乾燥した。N−アセチル化/N−硫酸化の比率は13C−NMRスペクトルで測定した。
【0152】
c)エピマー化
c−1)C5エピメラ−ゼの樹脂への固定化
5mgのリコンビナントグルクロニルC−5エピメラーゼを米国特許09/732026号明細書およびLiらの生物科学雑誌、2001年、第276巻、23号20069−20077頁に従って得た。これを、HEPES 0.25M,KCl 0.1M、TritonX−100 0.1%およびEDTA 15mMからなるpH7.4の緩衝液200mlに溶解し、工程b)の記載に従って得られたN−脱アセチル化およびN−硫酸化されたK5多糖100gを上の溶液に加えた。溶液を30000Da薄膜を用い4℃でダイアフィルトレーションを実施し、N−脱アセチル化およびN−硫酸化されたK5多糖が流出しなくなるまで続けた。薄膜に残されている溶液に対して、緩衝液をダイアフィルトレーションにより替えNaHCO3 pH7 200mMで置き換え、50mlに濃縮した後50mlのCNBrセファロース4B活性化樹脂を加え、4℃で終夜反応させた。
【0153】
反応の最終工程で、デカンテーションした後、上澄み中の残存酵素の量をQuantigold法(Diversified Biotec)で測定した。上澄み液中に酵素は無く、上述した方法で固定化は100%で実施されたことが明確になった。樹脂の残った活性サイトを埋めるために、樹脂をTmponTris−HCl 100mM、pH8で洗浄した。
【0154】
固定化酵素の活性度を測定するために、理論的に1.2x107cpmに相当する量の固定化酵素をカラムに仕込んだ。こうして調製したカラムに、1mgのN−脱アセチル化およびN−硫酸化したK5(工程b)で得たもの)を、HEPES 25mM,KCl 0.1M,EDTA 0.15M、TritonX−100 0.01%からなる緩衝液に溶解し、pH7.4、37℃、流量0.5ml/分で終夜循環させる方法で実施した。
【0155】
DEAEクロマトグラフィー法で精製した後、セファデックスG−10上で脱塩後、生成物を凍結乾燥し、WO96/14425号明細書に従って1H−NMRスペクトルでイズロン酸含量を測定した。
【0156】
c−2)固定化酵素によるエピマー化
10gのN−脱アセチルN−硫酸化K5多糖を600mlの緩衝液に溶解した。緩衝液の組成は、EDTA15mM、HEPES25mM,CaCl2 75mMで、pH7.0である。この溶液を、固定化酵素を詰めたカラム50mlを循環させた。
【0157】
この操作を28℃、流速20ml/hで24時間実施した。得られた生成物を限外濾過で精製後、エタノールで沈殿させた。沈殿物を水に再溶解し濃度10%とした。得られた生成物のエピマー化比率は、1H−NMRスペクトルで測定すると、全ウロン酸あたりのイズロン酸の比率として、55%であった。(図1に示す)
【0158】
d)制御された解重合
工程c−2)で得られた生成物を、特許WO82/03627号明細書の記述にある亜硝酸を用いた制御された分解反応を施した。実験では、5gの試料を250mlの水に溶解し、サーモスタットで調節した水浴に4℃に保持した。1N塩酸を添加してpH2.0にして、4℃に保ち、その後200mgの亜硝酸ナトリウムを加えた。必要に応じ1N塩酸を添加してpH2.0にして、15分攪拌した。溶液を1N水酸化ナトリウムで中和した後、4℃に冷却した。
【0159】
13mlの脱イオン水に溶解した250mgのホウ素化水素ナトリウムを加え、4時間反応させた。溶液に1N塩酸を添加してpH5.0にして、10分放置して過剰のホウ素化水素ナトリウムを分解した。その後、1N水酸化ナトリウムで中和した。3倍体積のエタノールを使用して生成物を取り出し、真空乾燥機で乾燥した。得られた生成物は分子量が6000Daであった。
【0160】
e)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
上の工程で得られた生成物を水に10%の濃度で再懸濁した。この溶液を10℃に冷却し、10℃の温度を保持したままIR−120H+カチオン交換樹脂に通した。溶液を樹脂に通した後、樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで続けた。得られた酸性溶液を三級アミンまたは四級アンモニウム塩、例えば塩から調製した15%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、で中和してアンモニウム塩を得た。溶液を濃縮して体積を少なくした後に凍結乾燥した。
【0161】
得られた生成物を100mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMA)に再溶解した後、ピリジン−SO3を添加した。
【0162】
それから、硫酸化剤と多糖基質(エピマー化したN−硫酸化K5)の比率は、硫酸化剤と多糖ダイマー中の水酸基の比率として表現して、1.25量を添加した。
【0163】
溶液は50℃に360分保持した。反応の最後には、溶液を室温まで冷却し食塩を飽和させたアセトンを添加して多糖を完全に沈殿させた。
【0164】
沈殿物を濾過して溶媒を分離し、最小量の脱イオン水に溶解し、食塩を0.2Mとなるように添加した。溶液に2N水酸化ナトリウムを添加してpH7.5にした後アセトンを添加して完全に沈殿させた。沈殿物を濾過して溶媒と分離した。得られた固体を100mlの脱イオン水に溶解し限外濾過により残存する塩を除き精製した。
【0165】
試料の一部を凍結乾燥して13C−NMRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルで部分的O−硫酸化生成物の構造分析をした。
【0166】
部分的硫酸化生成物を含む溶液をIR−120+カチオン交換樹脂または同等品に通した。溶液を通した後に、樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで実施した。得られた酸性溶液にピリジンを加えて中和した。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥した。生成物を100mlのDMSO/メタノール(9/1 V/V)溶液で処理し、その溶液を65℃で240分保持した。最後に、溶液に200mlの脱イオン水を加え、食塩で飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させた。
【0167】
得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションを実施し、一部の試料を凍結乾燥した後、13CNMRスペクトルによる構造分析をした。
【0168】
f)部分的6O−硫酸化
工程e)で得られた生成物を水に再分散させて10%の濃度にし、室温に保持した。この溶液をIR−120+カチオン交換樹脂に通した。その後、樹脂を脱イオン水で洗浄し、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液で中和してアンモニウム塩とした。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥した。
【0169】
得られた生成物を100mlのDMFに懸濁し、このDMF溶液にピリジン−SO3を添加した。この溶液を10℃に保ち、水酸基あたりで1.25当量の硫酸化剤のピリジン−SO3アダクツで60分間処理した。食塩を飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させた。得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションにより精製する。一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をした。
【0170】
g)N−再硫酸化
生成物を水に溶解して40℃に保ち、10gの炭酸ナトリウムを一度に加え、10gのピリジン−SO3を10分間で添加した。
【0171】
反応の終了時に、必要であれば、溶液を室温まで冷却して、必要であれば水酸化ナトリウムで、pH8より低くした。
【0172】
生成物を公知の方法、例えばらせん状薄膜1000Daカットオフ(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)のダイアフィルトレーションで塩から精製した。この製法の完結は、透析物の伝導度が1000mS,好ましくは100mSより低くなった時とした。得られた生成物を濃縮して10%多糖濃度とした。
【0173】
1H−NMRスペクトルを図2に示した。
【0174】
得られた生成物についてヒトの血漿中で測定した抗Xa活性は140 IU/mg(表2を見よ)であり、抗Xa活性と抗IIa活性の比率は2.5であった。
【0175】
実施例2 DMFを用いたO−硫酸化
実施例1において、工程c)とf)で行った部分O−硫酸化と部分6O−硫酸化で有機溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を使用した以外は実施例1と同じ操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は85.9 IU/mgであった(表2)。NMRスペクトルを図3に示した。
【0176】
実施例3 亜硝酸ナトリウムの基質50 mg/gの存在下での制御された解重合
実施例1において実施した制御された解重合において、分子量がおよそ8000Daのものを得る目的で、多糖1gあたりに20mgの亜硝酸ナトリウムを使用した以外は実施例1と同じ操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は60.1 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図4に示した。
【0177】
実施例4 分子量がおよそ8000Daの生物工学的ヘパリンの製造(亜硝酸ナトリウムの基質20 mg/gの存在下での制御された解重合)
実施例1において実施した制御された工程d)の解重合において、分子量がおよそ4200Daのものを得る目的で、多糖1gあたりに50mgの亜硝酸ナトリウムを使用した以外は実施例1と同じ操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は150 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図5に示した。
【0178】
実施例5 分子量がおよそ20000Daの生物工学的ヘパリンの製造
実施例5は次の工程により実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
e)部分的6−O硫酸化およびN−再硫酸化
工程a)〜c)は、実施例1の工程a)〜c)と同じ操作であり、実施例1の解重合(工程d)は実施せず、工程d)は実施例1の工程e)と同じで、工程e)は実施例1の工程f)とg)と同様にして実施した。得られた最終生成物は分子量がおよそ20000Daであり、解重合を受けやすいものであった。血漿中での抗Xa活性は135 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図6に示した。
【0179】
実施例6 分子量がおよそ1500Daの生物工学的ヘパリンの製造(亜硝酸ナトリウムの基質5 mg/gの存在下での制御された解重合)
実施例1において実施した工程d)において、分子量がおよそ15000Daのものを得る目的で、多糖1gあたりに5mgの亜硝酸ナトリウムを使用して制御された解重合を実施した以外は実施例1と同じ温度時間条件で操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は180 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図7に示した。
【0180】
実施例7 公知の方法による生物工学的ヘパリンの製造製法
この実施例では、O−完全硫酸化および6O−硫酸化製法条件として、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された方法で実施した。これを簡単に述べると、完全硫酸化はジメチルホルムアミド中で50℃、18時間、O−脱硫酸化は65℃、150分、および6O−硫酸化はジメチルホルムアミド中で0℃、90分、の条件で実施した。
【0181】
得られた最終生成物の分子量はおよそ20000Daであった。血漿中での抗Xa活性は45 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図8に示した。
【0182】
実施例8 先行技術の方法による生物工学的ヘパリンの製造
この実施例では、O−完全硫酸化および6O−硫酸化製法条件として、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された方法で実施した。これを簡単に述べると、完全硫酸化はジメチルホルムアミド中で50℃、18時間、O−脱硫酸化は65℃、150分、および6O−硫酸化はジメチルホルムアミド中で0℃、90分、の条件で実施した。
【0183】
さらに、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された硫酸化製法の最後に、亜硝酸ナトリウム40 mg/基質gを用いて4℃、15分の条件で解重合を実施した。
【0184】
得られた最終生成物は分子量はおよそ6000Daであった。血漿中での抗Xa活性は31.5U/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図9に示した。
【0185】
実施例9 生物工学的ヘパリンの製造(解重合および硫酸化条件の制御)
実施例1において次のような変化をさせた以外は実施例1と同じ操作を実施した。
実施例1において実施した制御された解重合(工程d)において、エピマー化したK5NS1gあたりに40mgの亜硝酸ナトリウムを使用して実施した以外は実施例1と同じ温度時間条件で操作を実施した。得られた生成物の分子量はおよそ6500Daであった。
【0186】
実施例1における部分的硫酸化(工程e)において、硫酸化剤と硫酸化されエピマー化された基質K5Nとの比率を5とし、180分の反応時間とし、O−硫酸化は60分実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は89 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図10に示した。
【0187】
実施例10 生物工学的ヘパリンの製造(解重合および硫酸化条件の制御)
実施例1において、中間工程でのK5−N多糖の解重合(工程d)で分子量がおよそ6500Daのものを得る目的で、エピマー化したK5NS1gあたりに40mgの亜硝酸ナトリウムを使用して実施した以外は実施例9で記述したものと同じ温度時間条件で操作を実施した。
【0188】
実施例1の部分的硫酸化(工程e)において、硫酸化剤と硫酸化されエピマー化された基質K5Nとの比率を0.6とし、8時間の反応時間とし、O−脱硫酸化は30分実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は101 IU/mgであった(表2)。この実施例で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを図11に示した。
【0189】
実施例11 アフィニティカラムの選択によるアンチトロンビンIIIとの親和性が優れた多糖画分の分離
実施例1と同様にして多糖を調製した。工程g)のN−再硫酸化の後、生成物を次のようにしてアフィニティカラムを通した。実施例1の工程g)で得られた生成物20gを、あらかじめ100mgのヒトのアンチトロンビンIII( Kedrion SPA、Lucca, イタリア )を固定化したCNBrセファロース4B,(ファルマシア)カラムを用いて、Tris−HCl 10mM,pH7.4,NaCl 0−0.15M、4℃の緩衝液を用いて注入した。60分の結合反応後に、Tris−HCl 10mM、pH7.4の緩衝液を用いてその少なくとも3倍容積量で洗浄した。カラムに高い親和性を持って結合した分子は、2MのNaClを含むTris−HCl 10mM、pH7.4のグラジエントを加えて溶出させた。溶出したものを、カットオフ1000Daのらせん状薄膜を使用してダイアフィルトレーションを実施して塩を除き凍結乾燥で濃縮した。
【0190】
得られた最終生成物は分子量はおよそ8500Daであり、血漿中での抗Xa活性は300 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図12に示した。
【0191】
実施例12 6000Daの低い分子量を有する生物工学的ヘパリンの製造
実施例5において、N−再硫酸化後に生成物を実施例1の工程dと同じ条件で制御された解重合を実施した以外は実施例5と同じ操作を実施した。得られた最終生成物の分子量はおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は65 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図13に示した。
【0192】
実施例13 生物工学的ヘパリンの製造(硫酸化条件の制御)
実施例1において、実施例1の部分的硫酸化(工程e)の硫酸化剤と硫酸化されエピマー化および硫酸化された基質K5との比率を5とし、50℃で8時間反応させた以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0193】
得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は75 IU/mgであった。この実施例で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを図14に示した。
【0194】
実施例14 中間体K5OS6OSNH2,epiの調製(生物工学的ヘパリンの再硫酸化していない中間体)
実施例1において、最終工程である再硫酸化を実施しない以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。得られた最終生成物の分子量はおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は5 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図15に示した。
【0195】
実施例15 中間体K5OS,NH2,epiの調製(脱硫酸化、6O−硫酸化およびN−再硫酸化前の生物工学的ヘパリンの中間体)
実施例1において、実施例1の部分的O−硫酸化(工程e)の硫酸化剤と硫酸化されエピマー化および硫酸化された基質K5Nの水酸基との比率を5とし、50℃で8時間反応させ、この後の脱硫酸、6O−硫酸化およびN−再硫酸化を実施しなかった以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0196】
得られたK5OS−NH2−epi生成物の分子量はおよそ6000Daであり、水酸基の95%は硫酸化され、血漿中での抗Xa活性は8 IU/mgであった(表2)。この実施例で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを図16に示した。
【0197】
実施例16 分子量がおよそ6000Daの生物工学的ヘパリンの製造
実施例1で記述したものと同様に次の工程を実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
e)制御された解重合
f)部分的6−O硫酸化およびN−再硫酸化
工程a)〜c)は、実施例1の工程a)〜c)と同じ操作であり、工程d)と工程e)実施例1の工程d)と工程e)の順番を逆にしている以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0198】
得られた最終生成物は分子量がおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は95 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図17に示した。
【0199】
実施例17 順番を逆にして得た生成物の生物学的活性の測定
抗Xa活性の測定−抗Xa活性は色原体法(Coatestヘパリンキット、Chromogenix)で測定した。測定は、正常なヒトの血漿中で、色原体基質S2222(Chromogenix)、Xaウシ属因子(Chromogenix)およびヒトのアンチトロンビンIII(Chromogenix)を試薬として使用した。反応は、凝固計AC9000(International Laboratory社)中で37℃で実施し、405nmで読み取りをした。結果を表2に示した。公知の方法で得た生成物(とりわけWO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された手順の生成物)についての結果を表1にまとめたが、この表には抽出ヘパリンの文献値も報告した(Fareed Jら、Exp Opin.Invest.Drug,1997年、第6巻、705−733頁)。
【0200】
抗IIa因子活性−抗IIa因子活性は、正常なヒトの血漿中で次の手順で実施した。
0.5 U/mlのヒトのアンチトロンビンIII(Chromogenix)を30mlを、異なった濃度の検査する試料溶液30mlと混合し、5.3nKat/mlのウシ属トロンビン(Chromogenix)60mlと混合した。
この溶液を37℃で70秒間インキュベートし、色原体基質S2238(Chromogenix)を60ml加えた。反応は、凝固計AC9000(International Laboratory社)を使用して、405nmで90秒間毎秒読み取りを実施した。公知の生成物(主に、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された製法の生成物)で得られた結果を表1に示した。
【0201】
ヘパリナーゼに対する耐性−ヘパリナーゼIに対する耐性は、低分子量および高分子量の試料を調製して、Tris−HCl 20mM、NaCl 50mM、CaCl2 4mM,0.01% BSAからなる緩衝液、pH7.5,最終濃度0.02%、を用いた。20単位のヘパリナーゼI(Sigma,CAS番号52227−76−6)を試料溶液100mlに加え、反応を25℃でインキュベートした。10分、1時間、2時間、20時間目に、塩酸50mMを加えて反応を停止させ試料を採取した。
【0202】
分画試料を235nmの吸光度測定とGPC−HPLCで分析し分子量を求めた。結果を表3に示した。この表で、高分子量(HMW)および低分子量(Fraxiparina,Sanofi)の両方の抽出ヘパリンは、長時間では分解して分子量が低下しているが、本発明で得た生物工学的ヘパリンは安定であったことがわかる。(ヘパリナーゼIの処理で20時間後も分子量が安定に保たれている)
TFPI活性−TFPIファクターを基礎とした活性の測定は、Gori AMら、抗血栓症誌、1999年、第81号、589−593頁に記述された方法でHUVEC細胞上でインビトロで実施し、市販の無分割ヘパリンと比較した(表4)。
【0203】
プロテアーゼ生成の抑制−プロテアーゼ精製の抑制の測定は、Fareedら、Path.Haem.Thromb.誌、2002年、第32巻、3号、56−65頁に報告されている方法に従ってフィブリノーゲンを枯渇させた血漿中で実施した。試験試料を様々な希釈度で添加した後、内因性凝固系の活性化についてはPT(トロンボピラスチンC)を添加し、内因性凝固系の活性化についてはAPTT(Dade Actin)を添加し、血漿を活性化させた。因子IIと因子Xaの両方の抑制をACL9000凝固計(International Laboratory社)を用いて観察した。希釈度50mg/mlの試料についての結果を表5に示した。
【0204】
PF4因子への親和性−PF4因子(血小板第4因子)に対する親和性の測定は、血漿中で、本発明で得られた生物工学的ヘパリンを含む溶液に一定量のPF4因子を加えた後残存する抗Xa活性を測定することにより実施した。
【0205】
0.8抗Xa活性を含む血漿100mgを加えてPF4の最終濃度10mg/mlとした。試料の抗Xa活性をACL9000凝固計(International Laboratory社)を用いてCoatestヘパリンキット(Chromogenix)で測定した。残存抗Xa活性は初期の活性に対する比率として表される(表6)。
【0206】
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の測定−APTTの測定は、ACL9000凝固計(International Laboratory社)を用いて凝固試験により実施した。規定通りに希釈した試料に一定量のセファリン(キットAPTT、International Laboratory社cod8468710)を添加し37℃で反応を実施し、塩化カルシウムを添加後の塊の生成を660nmの吸光度で測定した。
【0207】
APTT値は、第一次国際標準低分子ヘパリン85/600に対する活性度の比率として表2に報告した。
【0208】
ヘパリン補因子II(HCII)の活性度の測定−HCIIの測定は、0.085 PEU/mlのHCII20ml、異なった濃度の試験試料溶液80ml、0.02Mのtris緩衝液中の0.18 U/mlのトロンビン(Boehringer社)50ml、pH7,4,0.15MNaClおよびPEG6000 0.1%の反応混合物を調製することにより実施した。この溶液を37℃で60秒間インキュベートした後、1mMのSpectrozyme色素生成基質(American Diagnostic社)を50ml加えた。反応は、ACL9000自動凝固計(International Laboratory社)を用いて405nm波長で180秒間毎秒測定した。
【0209】
HCII値は、第一次国際標準低分子ヘパリン85/600に対する活性度の比率として表2に報告した。
【0210】
表1および2に示した生物工学的ヘパリンの生物学的活性デ−タは、本発明で調製したもの、またはホルミル基供給型溶媒またはN,N−ジメチルホルムアミドのような非供給型溶媒の使用に無関係なO−完全硫酸化で特徴づけられる方法によるもの、または最終工程での解重合によるもの、または抽出ヘパリンのものを含んでいる。とりわけこのデ−タでは、本発明で得た生成物が先行技術で得られた生成物に比較して、同様な分子量のものではヒトの血漿中の抗Xa活性が高いことがわかる。
【0211】
実際、本発明で得られた生成物では、抗Xa活性として表した生物学的活性と分子量の比が高い。このように優れた値は本発明の次の製法の複合された特性によるものと思われる。
− マイルドな条件で実施されたO−硫酸化(O−硫酸化と6O−硫酸化)(実施例5と7で比較されている)
− O−硫酸化と6O−硫酸化でホルミル基非供給型の非プロトン性極性溶媒を使用している(実施例1と2で比較されている)
− 中間工程での解重合がO−硫酸化工程の前または6O−硫酸化工程の前に実施されている。これは製法の最後に実施した解重合と比較できる。(実施例1と12で比較されている)
【0212】
実施例1と6で実施したように、血漿中の抗Xa活性として求められた生物学的活性と生成物の分子量の比が高くなること、および抗Xa活性と抗IIa活性の比率が高くなること、がO−硫酸化(O−硫酸化および6O−硫酸化)を部分的に実施しかつO−硫酸化と6O−硫酸化でホルミル基非供給型の非プロトン性極性溶媒を使用し、かつ解重合を中間工程で実施したときに見られる。
【0213】
しかしながら、実施例13で実施したように、本発明の製法は強いO−硫酸化を部分的な6O−硫酸化と組み合わせた場合も成功している。
【0214】
さらに、実施例12で実施したように、本発明の製法は解重合を最後に実施した場合も成功している。
【0215】
公知の方法で得られた生物工学的ヘパリンと比較して本発明の生成物で改良が見られた他のパラメータは、抗血栓性と抗凝集性の関係を示す抗Xaと抗IIa活性の比率であり、この結果は抽出ヘパリンの値に近いAPTT値からも得られている。
【0216】
その比率が1と等しいかそれより高い結果が本発明の生成物に得られているが、先行技術で得られた生成物ではその比率は1より低いのである。
HCII値が高いことによって示された他の特性は、抽出ヘパリンと比較してトロンビンに対する直接的に抑止する能力が優れていることである。
【0217】
実施例18 分子量がおよそ6000Daの生物工学的ヘパリンの製造
実施例1で記述したものと同様に次の工程を実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
e)N−再硫酸化
f)制御された解重合
g)部分的6−O硫酸化および
工程a)〜c)は、実施例1の工程a)〜c)と同じ操作であり、工程d)〜g)が実施例1の工程d)〜g)の順番と逆になっている以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0218】
得られた最終生成物は分子量がおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は92 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図18に示した。
【0219】
【表1】
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
【表4】
【0223】
【表5】
【0224】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】実施例1に述べた、K5N−硫酸化エピマー化多糖のアノマ−領域の13C−NMRスペクトル。
【図2】実施例1で得られた生成物の1H−NMRスペクトル。
【図3】実施例2で得られた生成物の1H−NMRスペクトル。
【図4】実施例3で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図5】実施例4で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図6】実施例5で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図7】実施例6で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図8】実施例7で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図9】実施例8で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図10】実施例9で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図11】実施例10で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図12】実施例11で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図13】実施例12で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図14】実施例13で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図15】実施例14で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図16】実施例15で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図17】実施例16で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図18】実施例18で得られた生成物の1H−NMRスペクトル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物起源の多糖類を原料とし抗凝固性と抗血栓性を有する硫酸化多糖類の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界のヘパリンは、グリコサミノグリカン構造を持つ高分子で、3000から30000Daの可変的な分子量を有し、ウロン酸(L−イズロン酸またはD−グルクロン酸)とアミノ糖(グルコサミン)が互いにβ−1,4−結合で結ばれた二糖類単位の繰り返し連鎖からなっている。ウロン酸は位置2で硫酸化されていてもよく、グルコサミンはN−アセチル化またはN−硫酸化され6−硫酸化されていてもよい。さらに、グルコサミンは、位置3にも硫酸基を含んでいてもよい。
【0003】
これらの置換基はアンチトロンビン(ATIII)に対する高い親和性結合領域を生成する点で本質的でありこの高分子の抗凝固性と抗血栓性活性を説明している。
【0004】
ヘパリンは、治療用途において基本的な抗凝固・抗血栓薬であり、今日でさえ動物の臓器からの抽出によって得ている。この供給源を変えようという試みは、この物質のますます増大する需要に応えるために、かつ同時に、主にウイルスやプリオンのような感染性病原体の偶発的汚染を排除するために、ヘパリンと同様の構造を有し同様な性質を持つ分子の製法が、細菌を原料とするので供給に制限が無いN−アセチルヘパロサン多糖類を出発物質として、これまでにも発達してきた。
【0005】
天然のまたはリコンビナントの大腸菌K5(K5 Escherichia)またはパスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)のような細菌系から分離されたN−アセチルヘパロサン多糖類は、D−グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンがα−1,4結合で互いに結ばれた繰り返し連鎖からなる天然のヘパリン前駆体と同じ基本構造を有している。2糖性単位間の結合は逆にβ−1,4結合である。
【0006】
ウロン酸は、二つの異なった位置で硫酸化されていてもよく、また、グルコサミンはN−アセチル化またはN−硫酸化されかつ6−O−硫酸化されていてもよい。さらにグルコサミンは位置3に硫酸基があってもよい。
【0007】
大腸菌K5(E. coli K5)から分離したN−アセチルヘパロサン(Vann W.F.,Schmidt M.A.,Jann B.,Jann K.、欧州生化学雑誌、1981年、第116巻、359−364頁)は、Lormeauら、米国特許5550116号明細書およびCasuら(Carb.Res.誌、1994年、第263巻、271−284頁)に書かれているように、化学的に変性されており、抽出ヘパリンの活性に相当する生物学的活性を持った製品を得る目的で化学的および酵素学的に変性されていた。
【0008】
さらにこの半合成的な製品は解重合過程を受けて分子量が低下しており、異なった治療的応用にはより適切な製品となっており、とりわけ生体有効性が改良され、使用に際する出血性素因者リスクや他の副作用が減少している。
【0009】
細菌性の多糖類の化学的、酵素的な変性については、例えばイタリア特許、IT230785号明細書に示されていて、それによれば、K5多糖類は、N−脱アセチル化されかつN−硫酸化されており、グルクロン酸のC5位で酵素的エピマー化を受けている。これらの転移に続いてウロン酸とアミノ糖の両者に酵素的硫酸化の他の転移が起こっている。
【0010】
特許出願WO92/17509号明細書では、K5多糖を出発物質としてN−脱アセチル化、N−硫酸化、C5酵素的エピマー化工程およびそれに続く化学的O−硫酸化およびオプションとしてのN−硫酸化によって、ヘパリン類似化合物を得る方法が示されている。
【0011】
特許出願WO96/14425号明細書および米国特許5958899号明細書は、イズロン酸の含有量が多いK5多糖類誘導体の製法を記述しており、それによればN−脱アセチル化およびN−硫酸化を実施し、重要な粘性を得るために変性緩衝液を使用した酵素的エピマー化で50%を超えるグルクロン酸をイズロン酸に転化し、続いてウロン酸およびグルコサミン基のフリーの水酸基の少なくともいくつかを硫酸化することにより製造している。
【0012】
特許出願WO97/433117号明細書および米国特許6162797号明細書は、高い抗凝固性と抗血栓性を有するK5誘導体の製法について記述しており、かかる製法は、N−脱アセチル化およびN−硫酸化、グルコロン酸の酵素的エピマー化、およびO−完全硫酸化とN−再アセチル化によりなっている。
【0013】
特許出願WO98/42754号明細書および米国特許6197943号明細書およびNaggi A.ら(糖質研究誌、2001年、第336号、283−290頁)は、インビトロで高い抗血栓性を有するK5多糖誘導体類を含む硫酸化グリコサミノグリカン類を製造する方法について記述しており、かかる方法では完全硫酸化前駆体の加溶媒分解的脱硫酸とオプションとしての6O−再硫酸化により実施された。
【0014】
特許出願WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書は、高い抗凝固性と抗血栓活性を有するK5多糖からグリコサミノグリカン類を製法について記述している。その製法は次の工程を含んでいる。a)N−脱アセチル化、b)N−硫酸化、c)イズロン酸中のグルクロン酸の酵素的エピマー化、d)完全硫酸化、e)部分的な化学的脱硫酸化、およびf)オプションとしての6O−再硫酸化。その工程は、C5グリキュロニルエピメラーゼ酵素を、切断型を用いて、または溶液中で、または固定化して、使用する点で特徴づけられる。
【0015】
さらに、米国特許出願09/732026号明細書およびLiら(生化学雑誌、2001年、第276213巻、20069−20077頁)は、N−末端に付加的連鎖を含むC5エピメラーゼ酵素の発現に関する新規なマウス遺伝子の発見を開示しており、かかる発見によりその連鎖に高い活性と安定性を有する酵素の完全型の生産が可能になった。
【0016】
[発明の要約]
本発明は、アセチルN−ヘパロサンから硫酸化グリコサミノグリカンを製造する方法に関し、さらに詳しくは次の工程を含む製法に関する。
a)天然のまたはリコンビナント細菌原料から単離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化、
b)C5−エピメラーゼグリュクロニル酵素による酵素的エピマー化、
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸化、
d)部分的6O−硫酸化
e)N−再硫酸化。
さらにこの製法は、工程b)、c)またはd)後のいずれかにおいて中間的な解重合工程を含んでいること、および工程c)における部分的O−硫酸化における硫酸化剤/N−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が5以下であり、より好ましくは2.5より小さい値であり、さらに好ましくは1.5より小さい値で実施されること、および工程d)の部分的6O−硫酸化における硫酸化剤/N−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が2以下で実施されること、であることで特徴づけられる。
【0017】
好ましい実施態様として記載の中間的な解重合は工程b)のエピマー化後に実施される。
【0018】
部分的O−硫酸化および部分的6O−硫酸化の両方で用いられる硫酸化試薬としては、トリエチルアミン−SO3,トリメチルアミン−SO3、ピリジン−SO3の中から選ばれ、それらは非プロトン性極性溶媒中で使用され、その溶媒は好ましくはホルミル基の供与体でないもの、例えばテトラメチレンスルホン、2,4−ジメチルスルホラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドが例として挙げられる。任意に、この製法はアンチトロンビンIIIまたはその断片を担持した基質上での親和性選択工程を含む。
【0019】
本発明は、製薬用途で記載された製法に基づいて得られる硫酸化グリコサミノグルカン類K5OS6OSNS−epiにも関連する。これらの生成物は、40%より高い6O−硫酸化率、より好ましくは、抽出ヘパリンの値に極めて近い50%から85%から選ばれる6O−硫酸化率であることで特徴づけられ、また還元末端に無水マンニトール残基が、好ましくは位置1,3および6で硫酸化されているものが存在することでも特徴づけられる。これらの生成物はさらに無水マンニトールの位置1と6にある水酸基が20%以上の硫酸化率を有していること、および、アミノ糖にホルミル基が全く存在しないことが好ましい態様であること、によっても特徴づけられる。
【0020】
本発明に記載の硫酸化グリコサミノグルカン類は、血漿中で生物学的活性である抗因子Xa活性を示し、その活性が従来の技術による方法で得られる生物工学的ヘパリン類の活性より高く、抗Xa活性と抗IIa活性の比が抽出ヘパリンのように1以上であることが特徴である。
【0021】
本発明に記載の製法で得られる生成物は次の特徴を有する。
a)脈管内皮細胞からの組織因子経路インヒビター(TFPI)を遊離でき、その程度は抽出ヘパリンと同等かそれ以上である。
b)ヘパリナーゼIのような加水分解酵素による分解に対しとりわけ耐性が高い。
c)トロンビンおよびXa因子タンパク質分解酵素の遊離を抑制する。
d)PF4因子(血小板第4因子)に対する親和性が低い。
【0022】
本発明に記載の別の側面は、治療に使用することを目的にして本発明に記載の製法で得られる生物工学的ヘパリン(変性N−アセチルヘパロサン類)に関し、かつ、かかるヘパリンを有効成分として含む医薬組成物に関する。本発明に記載の別の側面は、抗血栓性と抗凝縮性についてヘパリンと同様の活性を有する医薬の製造に対して得られる製品の使用に関し、かつ、先天的ないし後天的な抗トロンビンIII欠乏により引き起こされる血栓塞栓症の予防と治療用の薬物の製造に関して得られる製品の使用に関する。
【0023】
本発明に記載の別の側面は、O−硫酸化K5OSNH2−epiおよびK5OS6OSNH2−epi中間生成物の製造に関連し、かかる中間生成物はアミノ糖のアンモニア性基を含まず、さらに好ましくはホルミル基を含まず、またかかる中間生成物はN−硫酸化されおよび/またはN−アセチル化されたヘパロサン誘導体の製造のために分離・使用可能なものである。
【0024】
[発明の詳細な説明]
本発明に記載の主体的側面は、N−アセチル化ヘパロサンを原料として硫酸化グリコサミノグリカンの製法に関し、それは本発明の趣旨を踏まえて「生物工学的ヘパリン」と呼ばれるが、その製法は次の工程を含んでいる。
a)天然のまたはリコンビナント細菌原料から単離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化
b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素による酵素的エピマー化
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸
d)部分的6−O選択的硫酸化
e)N−再硫酸化
かかる製法において、反応工程b)またはc)またはd)のどれかの後で制御された解重合を実施される中間的な工程を含んでいること、およびかかる製法がO−硫酸化が部分的であることで特徴づけられ、かかる硫酸化は工程c)では硫酸化剤と基質の水酸基(エピマー化したN−アセチルヘパロサン)のモル比を5以下、好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.5以下として、かつ10時間より短い硫酸化時間で実施されることで特徴づけられる。工程d)における部分的6O−硫酸化は、硫酸化剤と基質の水酸基(エピマー化したN−アセチルヘパロサン)のモル比を2以下、好ましくは1.5以下とし、かつ2時間より短い硫酸化時間、さらに好ましくは90分より短い硫酸時間、より一層好ましくは60分より短い硫酸時間で、4℃と30℃の間、好ましくは10℃と25℃の間の温度において実施されること、で特徴づけられる。
【0025】
工程c)における部分O−硫酸化および工程d)における6O−硫酸化は公知の硫酸化剤を用いて非プロトン性溶媒中で実施されるが、かかる非プロトン性溶媒としては、ホルミル基供与性の無いものが好ましく、より好ましくはN,N−ジアルキルアセトアミド(さらに好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミドまたはN,N−ジエチルアセトアミド)およびスルホラン(好ましくは、テトラメチレンスルホンまたは2,4−ジメチルスルホラン)から選ばれることが好ましい。
【0026】
ホルミル基供与性の無い有機溶媒の部分的硫酸化への使用により、アミノ糖にホルミル基またはその誘導体を含まないことで特徴づけられる生成物が得られ、抽出ヘパリン類に類似した硫酸基の分布を持つ生成物を与える。
【0027】
本発明の製法に記載の制御された解重合は中間的な工程において実施される。すなわち、b)、c)またはd)の工程のどれかの後に実施し、先行技術で開示されているように最終工程では実施しない。この解重合は、好ましくは部分的O−硫酸化の工程であるc)の前か後に、N−硫酸塩ヘパロサン多糖に対して実施されるのがよい。解重合は、ガンマ線照射のような物理的方法によってもよいし、亜硝酸またはその塩の存在化にベータ・ガンマ線照射をする化学的方法、または過ヨウ素酸塩またはフリーラジカル処理のような化学的方法によってもよい。
【0028】
本発明の好ましい態様として解重合剤は亜硝酸またはその塩であり、使用量は多糖1gについて1から100mgから選ばれる量である。解重合反応は、4℃から10℃の範囲から選ばれる温度で実施される。より好ましくは、制御された解重合は亜硝酸ナトリウムの存在下で30分より短い時間で実施し、当量より過剰の水素化ホウ素ナトリウムを添加して反応を停止させるのがよい。
【0029】
中間的な工程での解重合によって低分子量の生成物を得ることができるが、好ましくは、分子量は15000Da以下であり、より好ましくは3000と9000Daの間であり、還元末端に無水マンニトール残基を含み、この残基では位置6の水酸基の硫酸化に加えて抽出ヘパリンのように位置1と3の水酸基に硫酸化が起こる。
【0030】
上の記述にもかかわらず、本製法は、最終工程でさらに解重合が実施されることを妨げるものではない。中間的な工程で解重合を実施したときに最終生成物は抗凝固性、抗血栓性活性有しており、その抗Xa活性と抗IIa活性の比率は、意外なことに、硫酸化/脱硫酸化および6O−硫酸化工程の後に解重合を実施した生成物(同一の分子量を有するもので比較)で見られる比率より高いことが見いだされており、それは表1に示した通りである。
【0031】
好ましい実施態様に記載のN−アセチル化多糖ヘパロサンは大腸菌K5(E. coli K5)を原料とするものである。
【0032】
本製法は、さらにオプションとして、工程a)〜e)の結果として得られた生成物を、HookらがFEBS 速報誌、1976年、第66巻、90−93頁に記述している抗トロンビンIIIを用いたアフィニティクロマトグラフィを原理とする濃縮する工程を最終工程として含んでよい。
【0033】
N−脱アセチル化およびN−アセチル化は、公知文献記載のアルカリ加水分解の方法により実施されるが、その実施温度は30℃から80℃の範囲、好ましくは40℃から60℃の範囲から選ばれ、また反応時間は10から30時間の範囲、好ましくは15から20時間の範囲から選ばれ、その後に硫酸化剤による処理、好ましくは炭酸ナトリウム中でのピリジン−三酸化硫黄による処理、を20℃から65℃から選ばれる温度範囲で12時間以下で実施される。
【0034】
工程b)におけるエピマー化は、天然のまたはリコンビナントグルクロニルC5エピメラーゼ酵素を使用して、好ましくは固定化形態で、実施される。
【0035】
かかる酵素は、好ましくはWO98/48006号明細書に記述されているようなリコンビナントで、さらに好ましくは、米国特許出願09/732026号明細書に記述されているもので、好ましくは昆虫の細胞または酵母菌種から取り出し精製されたものであり、酵母菌種の例としては、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces Cerevisiae)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromices lactis)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromices lactis)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromices fragilis)を挙げることができる。
【0036】
酵素の固定化は、好ましくは樹脂CNBr−Sepharose 4B (Pharmacia)またはポリメタクリル樹脂またはポリスチレンン樹脂上に、CNBrで活性化させたエポキシ基またはジオール基で、NaHCO3緩衝液100−300mMまたはリン酸緩衝液10−50mMを使用してpH7.0−8.3、より好ましくはpH7.2−7.8で、4℃から25℃の温度で12−72時間実施される。
【0037】
より好ましい態様として記載のエピマー化反応は、35℃を超えない温度で、好ましくは15℃から30℃の範囲の温度、さらに好ましくは20℃から30℃の範囲の温度で実施される。
【0038】
かかるエピマー化反応は、公知文献記載の方法で実施されるが、例としてはWO01/72848号明細書に記述されている方法を挙げることができ、好ましくは35℃を超えない温度で、より好ましくは15℃から30℃の温度範囲、さらに好ましくは20℃から30℃の温度範囲で実施される。
【0039】
エピマー化反応の緩衝液としては、好ましくはHEPES溶液(好ましくは25mMの濃度)を使用して実施され、かかる溶液は、pH5.5−8.0、より好ましくはpH6.5−7.0で、N−脱アセチル化とN−硫酸化された多糖、EDTAを10−30mM,好ましくは15−25mM,CaCl2(または代替し得るものとして、Zn++、Ba++,Mg++,Mn++などの二価のカチオンの塩)を70から150mMの濃度から選ばれる濃度で、さらに好ましくは75から100mMの範囲から選ばれる濃度で、含むものである。かかる溶液は、サーモスタットで温度調節されるが、その温度範囲は15℃から30℃(好ましくは20℃から25℃)で、30−240ml/時の流量で1−24時間循環される。カラムは、温度を保たれた不活性な支持体上に固定化した、好ましくは1.2x107から3x1011cpm当量の固定化酵素を入れたものである。
【0040】
上に開示した操作条件では、とりわけ選択した温度条件では、エピメラーゼC5酵素を数千時間安定化するため、かかるエピマー化反応カラム調製において時間と試薬を大幅に節約ができる。
【0041】
製法中の部分的O−硫酸化(工程c)は、公知の硫酸化剤を使用して実施されるが、かかる硫酸化剤としては、トリエチルアミン−SO3,トリメチルアミン−SO3、ピリジン−SO3が挙げられ、非プロトン性極性溶媒を用いて実施され、その溶媒は好ましくはホルミル基の供与体でないものである。硫酸化反応は、硫酸化剤/水酸基のモル比が5以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.5未満で、硫酸化時間が10時間以下、好ましくは8時間以下、更に好ましくは1から6時間の範囲で、20℃から70℃、好ましくは30℃から60℃の温度で実施される。
【0042】
かかる部分的O−硫酸化に続いて部分的脱硫酸化が実施されるが、これはメタノール溶媒中のDMSOのような脱硫酸化剤を使用して10から240分の範囲の時間で45℃から90℃の範囲の温度で実施される。
【0043】
それぞれの製法の工程は沈殿操作および/または中間反応としての多糖脱硫反応を含むがこれは公知の方法で実施し得る。
【0044】
部分的6O−硫酸化(工程d)は、硫酸化剤を添加して実施されるが、硫酸化剤/水酸基のモル比が2以下、好ましくは1.5より小さい値であり、硫酸化時間が2時間以下、好ましくは90分以下であり、4℃から30℃の範囲の温度、好ましくは10℃から25℃の範囲の温度で、非プロトン性極性溶媒中、好ましくはホルミル基の供与体でない溶媒中で実施される。製法の別の実施態様としては、部分的6O−硫酸化(工程d)はN−再硫酸化の後に実施され、その場合、工程d)と工程e)の順序は逆転して実施される。
【0045】
N−再硫酸化(工程e)は、炭酸塩緩衝液中で公知の硫酸化剤、例えばトリエチルアミン−SO3,トリメチルアミン−SO3、ピリジン−SO3、を添加することにより実施される。
【0046】
結論として、本発明に記載の製法は次のような革新的要素を含んでいる。つまり、部分的O−硫酸化(O−硫酸化および6O−硫酸化)、最終工程でなく中間的な工程で実施される脱硫酸化、および、非プロトン性極性溶媒、好ましくはホルミル基の供与体でない溶媒、中で実施される6O−硫酸化、である。
【0047】
本発明の製法により得られるN−アセチルヘパロサンは、公知の先行技術の製法で得られる生物工学的ヘパリンと比較して特徴ある構造および生物学的差異を有している。
【0048】
化学的な観点からは、本発明の多糖は次の一般式(I)で表現される多糖鎖混合物として定義できる。
【0049】
【化1】
式中、nは3から150の範囲であり、R1は水素、SO3−基、アセチル基、でも良い。R1は、ホルミル基のような他の官能基ではない。R2,R3,R4およびR5は、水素またはSO3−基であるが、R1,R2,R3,R4およびR5は好ましくは次の通りである。
− R1は、85から97%がSO3−基、および/または3%から15%はアセチル基、および/または0から12%はH+、
−R2は、15から60%がSO3−基、
−R3は、少なくとも40%、好ましくは50%から85%SO3−基、
−位置R4とR5では、グルクロン酸単位の少なくとも20%が硫酸化されていない。
【0050】
とりわけ、本発明の製法に記載の解重合された多糖の特徴は、還元末端に硫酸化された水酸基が一つ以上ある無水マンニトール残基があることである。
【0051】
この構造は、解重合が亜硝酸または亜硝酸ナトリウムのような亜硝酸塩の存在下で実施され、その後水素化ホウ素ナトリウムで処理をした結果として得られるもので、次構造式(II)に記載の構造である。
【0052】
【化2】
式中、R1,R2,R3,は、水素、またはSO3-基であり、好ましくは次の通りである。
−R1は、0から100%がSO3−基、
−R2は、0から100%がSO3−基、
−R3は、0から100%がSO3−基。
さらに好ましくは、R1とR3は20%から85%がSO3-基、R2は15%から60%がSO3-基である。
【0053】
本発明で好ましい生成物の分子量は15000Da以下であり、より好ましくは1500から15000Daの範囲にあり、さらに好ましくは3000から9000Daの範囲にある。
【0054】
本発明に記載の好ましい生成物は、その化学構造の観点から公知の先行技術から得られたものと異なっているが、これは、13C−NMRスペクトルにおいて多重シグナルが79から89ppm、とりわけ80から86ppm、に存在することを根拠とでき、これらのシグナルは無水マンニトールの特性シグナルに因るものとしては多すぎ(実施例9で調製された試料の高分解能13C−NMRスペクトルに関する図10参照)、これは中間的な工程で解重合を実施する本発明の製法に基づいて得られた低分子量生成物においていろいろな形で、とりわけ位置1と6の水酸基において、硫酸化された無水マンニトールの存在を示しているためである。
【0055】
さらに特徴的なことに、本発明に記載の製法で得られた生成物は無水マンニトールの位置1の水酸基が硫酸化されている点で公知のものと異なっているが、これは13C−NMRスペクトルにおける67−68ppm領域のシグナルの増加および61−63ppm領域のシグナルの消失によって示される。
【0056】
かかる差異は図11のスペクトル(実施例10に記述した多糖生成物に対応するもの)と図9のスペクトル(実施例8に記述した多糖生成物に対応するもの)を比較することによって示される。このような差異は、二次元NMR法によってさらに明確になることはGuerriniらが高血栓症セミナー、2001年、第27巻、第5号、473−482頁に記述している通りである。
【0057】
これらのスペクトル領域の主なる特徴は無水マンニトールに存在する水酸基の部分的または完全な硫酸化によって得られるものであり、かかる無水マンニトールは、硫酸化工程の前、とりわけ位置1および6の水酸基の硫酸化の前に実施された解重合により生じた多糖の還元末端に形成されるものである。
【0058】
本発明の生成物を先行技術(例として、本発明の比較例として示した実験例6および7で示した)の生成物および製法と比較したときのさらなる特徴は、1H−NMRスペクトルにおいて7−9.5ppmのシグナルが、13C−NMRスペクトルにおいて51ppmと165ppmのシグナルがそれぞれ消失していることであり、これは低分子量および高分子量の生成物すべてにおいてグルコサミン構造上に解離したアミノ基もしくはアセチル基もしくは硫酸基が無いことを示している。
【0059】
逆に、通常上記の領域にシグナルが現れるのは、N−アセチルヘパロサンの硫酸化がN,N−ジアセチルホルムアミドのようなホルミル基供与性有機溶媒中で実施された製法においてである。
【0060】
本発明に記載の硫酸化グリコアミノグリカンは、血漿の存在下で抗因子Xa活性として測定した抗凝固性が公知の変性法で得られた生物工学的ヘパリンの抗凝固性より高い。さらに重要なことは、本発明によって得られた硫酸化グリコアミノグリカンは、抗Xa活性と抗IIa活性の比が1以上であり、抽出ヘパリンの示す比に非常に近いことである。
【0061】
本発明の生成物の特徴は次の通りである。
a)ヒトの血漿の存在下で実施した試験において、抗因子Xa活性が50 IU/mgより高く、より好ましくは70 IU/mgより高い。かかる抗因子Xa活性は、Ten Cate H.臨床化学、1984年、3860−3864頁、または、欧州薬学雑誌、1997年、第3版に記述されている測定法に依ることが好ましい。血漿の存在下における本発明の生物学的活性は、驚くべきことに先行技術のどの製法で生産された生物工学的ヘパリンの生物学的活性より高い値であり、高分子量または低分子量の抽出ヘパリンと比べてほぼ同等の活性を有することである。
b)TFPI(Bronze GJ Jr.らが、血液誌、1988年、第71巻、335−343頁に述べた組織因子経路インヒビター)の活性能が抽出ヘパリンの活性能と同等以上である。
c)同様な分子量で比較したときの活性の比、抗Xa/抗IIa、が1以上である。より好ましい比は、1.5以上である。
d)ヘパリナ−ゼIに対する耐性が、抽出ヘパリンが示す耐性と同等以上である。
e)トロンビンとXa因子プロテアーゼの遊離に対する抑制能。
f)PF4因子(血小板第4因子)に対する親和性が低い。
【0062】
脈管内皮細胞におけるTFPI活性能が本発明の生成物の抗血栓性と抗炎症性活性を高めており、外科的処置における深刻な静脈血栓症、不安定な狭心症の虚血性併発症、心筋梗塞、および虚血性の諸症状に対する治療法を拡大し改善する。
【0063】
プロテアーゼの産生阻害能は、TFPI産生向上と結びついて、本発明の治療適用性をさらに拡大し、敗血症および汎発生静脈凝固のような併発症(CID)の処置および先天的または後天的な抗トロンビンIII欠乏症の処置にまで適用可能である。
【0064】
本発明の生成物で処置した後のTFPI因子への活性度の測定は、例えばインビトロではHUVEC細胞について実施されるが、その方法はGory A.M.らが抗血栓症誌、1999年、第81巻、589−593頁に示している。
【0065】
本発明に記載のN−アセチル化ヘパロサン誘導体(生物工学的ヘパリン)は、ヘパリナーゼIのような加水分解酵素による分解に対する抵抗性が顕著に高い。この特性に加えて、本質的にバイオアベイラビリティが高く使用時の出血や高分子ヘパリンのような副作用のリスクが低い低分子量生成物を得ることができること、高い抗因子Xa活性と低い硫酸化率であること、によって本発明の生成物は非経口的使用だけでなく経口的投与法も可能である。
【0066】
前述したように、本発明の製法で得られた生成物はトロンビンプロテアーゼの生成とXa因子を抑制する。
【0067】
プロテアーゼ生成の抑制はフィブリノーゲンが枯渇した血漿に対して実施するのが望ましい。因子IIと因子Xa生成の両方の抑制についてのモニターは、内因性および外因性凝固系の両方をアミドール法を使用して実施するのが望ましい。
【0068】
使用した二つの系に対する両方の方法では、本発明で得られた生成物はトロンビンと因子Xaの両方に強い抑制活性を示し、この特性が本発明の生成物の抗血栓薬としてより良いプロフィールを与えている。
【0069】
本発明に記載の製法で得られた生成物は、さらにPF4因子(血小板第4因子)に対する親和性が低いが、PF4因子は生物工学的ヘパリンを含む溶液にPF4因子の所定量を添加した後に残っている抗Xa活性として血漿について測定できる。
【0070】
残存している抗Xa活性は、初期の活性に対する割合として算出されるが、抽出ヘパリンまたは低分子量の抽出ヘパリンよりも高い値を示しており、これはPF4に対する親和性が低いことを示している。
【0071】
このように低い結合親和性は、ヘパリンを原因とする栓球減少症(HIT)を発症するリスクを減少させるので、本発明で得られる生成物に良い臨床的プロフィールを与えている。調製可能な生成物の好ましい分子量が15000Daより低い場合でも、またより好ましくは3000と9000Daの間にある場合でも、15000Da以上の分子量は解重合の条件を変えることによるだけで得ることができ、その場合も高い抗Xa活性、ヘパリナーゼ耐性およびTFPI因子の遊離などの生物学的性質が保たれている。
【0072】
結論として、本発明に記載の方法で生産される生物工学的ヘパリンは次のような主な特徴を示す。
− 13C−NMRスペクトルにおいて多重シグナルが79から89ppm、とりわけ80から86ppm、に存在し、これらのシグナルは無水マンニトールの特性シグナルに因るものとしては多すぎる量であり、さらに13C−NMRスペクトルにおいて67−68ppm領域のシグナルの増加および61−62ppm領域のシグナルの消失すること。これらのシグナルは、様々な形の硫酸化マンニトールの存在、とりわけ位置1,3,6の硫酸基の存在、さらに特徴的には、位置1の水酸基の硫酸化されたものの存在、を明らかにしており、これらのことは図11と9を比較して強調することができる。
− 好ましくは、1H−NMRスペクトルにおいて7−9.5ppmのシグナルが消失し、さらに13C−NMRスペクトルにおいて51ppmと165ppmのシグナルがそれぞれ消失していることであり、これはホルミル基が無いことを示している。
− 血漿中の抗Xa(抗凝固)活性が先行技術で作られた生物工学的ヘパリンより高い値を有する。
− 抗Xa活性/抗IIa因子活性の比率が先行技術で作られた生物工学的ヘパリンより高い値を有し、好ましくは1と等しいかそれより高く、より好ましくは1.5と等しいかそれより高い。
− ヘパリナーゼ耐性が抽出ヘパリンと等しいかそれより高い。
− トロンビンとXa因子生成阻害能がある。
− PF4親和性が低い。
【0073】
本発明で新規に作成した生物工学的ヘパリンの生物学的活性は特異的である。とりわけ、抗Xa活性と抗IIa活性の比率が1と等しいかそれより高いが、先行技術で得られる生成物では、APTT値から得られる抗血栓性と抗凝固性の最適な比率を示している1より通常低い。本発明で得られる比率は抽出ヘパリンの比率に近い。
【0074】
抽出ヘパリンと同様の好ましい特徴は高いHCII値から得られる最適な特徴は評価できるものので、トロンビンに対するより直接的な抑制作用であり、このことは、本発明の生成物が抗血栓症および/または抗血栓による静脈症や先天的または後天的な抗トロンビン欠乏症に使用できる可能性を含んでいる。
【0075】
本発明のさらなる側面は、抽出ヘパリンの代替として抗凝固や抗血栓の治療用または予防用として、または線溶と抗凝集活性を持つ医薬品の調製用として、上述した製法によって得た生成物の単独での使用、および医薬上容認できる適切な賦形剤や希釈剤を使用した組成物としての調合使用にも関する。
【0076】
本発明の生成物およびその生成物を含む組成物の用途としてとりわけ適しているのは、不安定な狭心症、心筋心臓発作、深刻な静脈血栓症、肺塞栓症,虚血症の諸症状または敗血症の治療、汎発性血管内凝固症候群(CID)のような敗血症の併発症などの予防や治療を目的とした医薬品への有効成分としての使用である。
【0077】
本発明の生成物のさらなる側面は、不安定狭心症、動脈血栓症、アンテローム性動脈硬化症の予防と治療、またはアンチトロンビンIIIの先天的または後天的欠乏症に起因する血栓塞栓症の治療のための医薬品の製造用途に関する。
【0078】
本発明の生成物はミセルやキャリヤ分子などによって体内輸送されるので非経口使用に加えて経口使用用途にもとりわけ適している。
【0079】
従って、本発明のさらなる側面は、経口および非経口用途の両方に対して適切な調合をすることにより、本発明に記載の製法で作られたN−アセチルヘパロサンの多糖誘導体を有効成分として含む医薬組成物である。
【0080】
本発明のさらなる側面は、アミノ糖の遊離アミノ性基を持ちホルミル基を全く含まず抗凝集活性の無いO−硫酸化中間体で、本発明の最終生成物の調製に関する。
【0081】
とりわけ好ましいものは、本発明に記載の製法で得られ分離された中間体であるK5OSNH2−epiであり、次の一般式(III)で表わされる多糖鎖の混合物として定義できる。
【0082】
【化3】
ここで、nは3から150であり、R1は水素またはアセチル基であることができ、アセチル化度は3%から15%の範囲である。
【0083】
R1は他の官能基ではなく、好ましくはホルミル基ではない。R2,R3,R4およびR5は、水素またはSO3−基であり、硫酸化度は好ましくは30%から98%の間から選ばれる。
【0084】
K5OSNH2−epi(1H−NMRスペクトルは図16に示した)の好ましい分子量は1500から15000Daの範囲であり、より好ましくは3000から9000の間であり、色原体法(Coatestヘパリンキット、Chromogenix)で測定した抗因子Xa活性が10 IU/mgより低い抗凝集活性を持つことが特徴である。
【0085】
K5OSNH2−epiは、例えば本発明のような生成物を製造する上で有用である。
【0086】
K5OSNH2−epiは、本発明に記載の方法で調製され、かつ単離できるもので、次の一般式(IV)で表される多糖鎖の混合物として定義できる。
【0087】
【化4】
ここで、nは3から150であり、R1は水素またはアセチル基であることができ、アセチル化度は3%から15%である。R1は他の官能基ではなく、好ましくはホルミル基ではない。R2、R3、R4およびR5は、水素またはSO3−基であり、R2、R3、R4およびR5は好ましくは次の通りである。
−R2は、15から60%がSO3−基、
−R3は、少なくとも40%、好ましくは50%から85%がSO3−基、そしてR4とR5の位置では、グルクロン酸単位の少なくとも20%が硫酸化されていない。
【0088】
K5OSNH2−epi中間体(13C−NMRスペクトルを図15に示した)の分子量は好ましくは1500から15000Daの範囲であり、より好ましくは3000から9000の間である。K5OSNH2−epi中間体は、アミノ多糖上に一つの解離したアミノ基があり、硫酸化されておらず、全くホルミル基を含まないことが特徴である。さらに、色原体法(Coatestヘパリンキット、Chromogenix)で測定した抗因子Xa活性が10 IU/mgより低い抗凝集活性を持つことも別の特徴である。K5OSNH2−epi中間体は、例えばN−硫酸化誘導体を本発明のような方法で製造する上で有用であり、また、抗凝集活性を持たない。
【0089】
とりわけ好ましい態様として、N−アセチルヘパロサン(大腸菌K5多糖)のような細菌由来の多糖から生物工学的ヘパリンを製造する製法は次の製法からなっている。
【0090】
N−アセチルヘパロサン多糖の調製と精製
出発材料は、好ましくは二糖類単位の鎖によって表されるN−アセチルヘパロサン多糖であり、D−グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンモノマーがβ1,4結合で結びあわされた構造である、 [−4) −GicA α 1−4 GIcNAc−(I−]n、で表現される。多糖は例えば天然の大腸菌K5系統(系統 Bi8337/41血清型O10:K5:H4)(この場合、対応する多糖はK5多糖)またはパスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)細菌タイプD、またはそれらの誘導体、またはそれらの突然変異種、または大腸菌の組み換え型菌種株で例えばFinke A.らのJournal of Bacteriology、1991年、173巻。13号4088−4094頁またはDrake CR,Roberts IS,Jann B.,Jann K.,およびBoulnois GJのFEMS Microbiol.速報誌.1990年、第54巻、1−3号、227−230頁、に記述されているものである。
【0091】
K5多糖の製造に有用な大腸菌系統はATTC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、アメリカ合衆国)のATCC23506のような微生物の公共のコレクションから得ることができる。
【0092】
マルトシダ・パスツレラ(Multocida Pasteurella)タイプD株はATCCコレクションから得ることができる(ATCC 12948)。
【0093】
N−アセチルヘパロサン多糖類は培養液から微生物の発酵と抽出によって得ることができる。精製は、公知の方法によって実施されるが、例としては特許WO01/02597号明細書に記述された方法を挙げることができ、この場合次の培養液が使われている。大豆小麦粉 2g /l、 K2HP04 9.7g/l 、 KH2P04 2g/l、 MgCl2 0.11 g/l 、クエン酸ナトリウム0.5 g/l 、硫酸アンモニウム 1g/l 、ブドウ糖(あらかじめ殺菌されたもの)2g/l、水1000ml q.b、pH7.3。
【0094】
予備培養液は、好ましくはTripic大豆寒天培地から取り出した大腸菌、Bi8337/41(O1O:K5:H4)の細胞懸濁液を播種したものである。播種は、攪拌下37℃で24時間実施される。次の工程で、上述した培養液を含む発酵槽を上述した予備培養液を使い0.1%で播種し、発酵を18時間37℃で実施される。発酵中、pH、酸素、残存ブドウ糖、生産されたK5多糖および細菌の成長をモニターする。
【0095】
発酵の最後には、温度を80℃に10分間維持した。細胞は10000rpmの遠心分離で培養液から分離し、上澄液は1000−10000Daカットオフ濾過膜で濾過し体積を1/5まで減少させる。そして、このK5多糖を体積4倍量のアセトンを加えて沈殿させ遠心分離により取り出す。
【0096】
ペレットの除タンパクは、好ましくは、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus Orizae)のプロテアーゼタイプIIを使用して、NaCl 0.1M,EDTA0.15Mを含む緩衝液中で、pH8,SDS0.5%、37℃、90分で実施される。
【0097】
溶液は10000Daカットオフ薄膜を用いて限外濾過を実施し、その後多糖をアセトンで沈殿させる。多糖の純度は通常は80%以上で以下の分析法の少なくとも一つを用いて策定する。ウロン酸の算出(カルバゾール法)、1H−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトル、UVおよび/またはタンパク質含有量。
【0098】
a)細菌を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化とN−硫酸化
好ましくは5から10g量の精製したK5多糖を200−2000mlの2N水酸化ナトリウムに溶解し、40−80℃で反応させ脱アセチル化を完結させる(例、15−30時間)。この溶液を中和する。脱アセチル化したK5多糖を含む溶液を20−65℃に保ち、一段階で10−40gの炭酸ナトリウムと10−40gの硫酸化剤を添加する。硫酸化剤は、ピリジン−発煙硫酸アダクツ、トリメチルアミン−発煙硫酸などから選択する。
【0099】
硫酸化剤は12時間までに一度に添加する。反応の終了時には、必要であれば溶液を室温に戻しpHを7.5から8にする。
【0100】
生成物を公知の方法で塩から精製するが、方法の例としては、らせん状薄膜1000Da(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)のダイアフィルトレーションを挙げることができる。得られた生成物を濃縮して10%多糖濃度とする。濃縮した溶液は必要に応じて公知の方法で脱溶媒する。
【0101】
N−アセチル化/N−硫酸化の比率は13C−NMRスペクトルで測定する。
【0102】
b)C5グルクロニルエピメラーゼによる酵素的エピマー化
C−5エピマー化の工程はイズロン酸中のグルクロン酸部分のエピマー化を含むものであるが、C5グルクロニルエピメラーゼ酵素(C−5エピメラーゼと呼ぶ)を天然のまままたはリコンビナントものを溶液中で、または好ましくは固定化酵素として、使用し実施される。
【0103】
この工程には、WO98/48006号明細書に記載されたリコンビナントエピメラーゼC5酵素を使用する。好ましいものは、米国特許出願09/732026号明細書およびLiら、生化学雑誌、2001年、第276巻、23号、20069−20077頁に記載されているように変性されN−端末に付加的な連鎖を含むリコンビナントエピメラーゼである。
【0104】
リコンビナント酵素は、好ましくは、昆虫の細胞または酵母の細胞から発現・精製されたもので、好ましくは、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces Cerevisiae)、ピチア・パストリス(Pichia Pastoris)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromices lactis)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromices fragilis)の属に含まれるものである。
【0105】
b.1)C−5エピメラーゼの樹脂上への固定
リコンビナント酵素は、樹脂、薄膜、ガラスビーズのような異なった不活性基質上に固定化することができるが、その基質は公知の方法、例えば、臭化シアノジェン、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、で官能基を導入するか、または酵素をイオン交換樹脂に反応させることによるか、または酵素を薄膜上に吸着させることにより実施される。
【0106】
好ましい実施態様においては、酵素を次のような市販の樹脂上に固定する。CNBrセファロース4B(ファルマシア)またはポリスチレン樹脂またはポリメタクリル樹脂(Resindion 三菱)であり、これらはエポキシ基またはジオール型CNBr活性基を有しているものである。
【0107】
本発明でとりわけ好ましい酵素固定法として、NaHCO3 100−300mMの緩衝液中、pH7.0−8.3、好ましくは7.2−7.8,温度4−25℃、12−72時間、CNBrで活性化したジオール基を有するポリメタクリル樹脂を使用する方法を挙げることができる。
【0108】
本発明に記載の酵素の不活性基質への結合反応は、酵素活性の低下を防止するためにK5N−脱アセチル化されN−硫酸化された基質の存在下に実施される。
【0109】
固定化酵素の活性度の測定は、かかる固定化酵素を含むカラムに、その固定化酵素によって毎分のカウントあたりで理論的に転換する量のN−脱アセチルN−硫酸化K5をHEPES 25mM、KCl 0.1M,TritonX−100 0.01%およびEDTA 0.15Mからなる緩衝液に溶解し、pH7.4、37℃、24時間、流量0.5ml/分で循環させる方法で実施される。DEAEクロマトグラフィー法で精製しセファデックスG−10上で脱塩後、生成物を凍結乾燥し、WO96/14425号明細書に従って1H−NMRスペクトルでイズロン酸含量を測定する。
【0110】
b.2)固定化酵素によるエピマー化
C5エピマー化反応は、例としてWO96/14425号明細書の記載にあるように、HEPES 0.04またはTris 0.05M、KCl 0.4M,EDTA 0.06MおよびTritonX−100およびさらなる添加物、とりわけグリセリンまたはポリビニルピロリドン、からなる反応緩衝液中で実施されることができる。
【0111】
反応は、WO01/72848号明細書の記述にあるように、HEPES25ml、CaCl2 50mMを含む溶液中で,pH7.4,温度30−40℃で実施される。
【0112】
とりわけ、カラムに固定化した後にもグルクロニルC5エピメラーゼが寿命を維持し安定であるような温度と緩衝液の反応条件であることが好ましい。
【0113】
0.001−10gのN−脱アセチルN−硫酸化K5およびEDTA10−30mM、好ましくは15−25mM,およびHEPES25mM,およびCaCl270−150mM,(好ましくは、75−100mM)を含む20−1000mlの水溶液を、pH5.5−8.0,好ましくはpH6.5−7.0、サーモスタットで調節した温度15℃から30℃(好ましくは、20−25℃)で、1.2x107から3x1011当量の固定化酵素で15−30℃、好ましくは20−25℃で不活性基質上に固定化したものを含むカラムを用い、流速30−240ml/時、1−24時間循環させる。
【0114】
上述した温度と緩衝液の条件は、カラム上の酵素の安定性を向上させ、3000時間より長い稼働時間を与え、それ故に製法をとりわけ優れたものにしている。反応の最後には、試料をDEAE樹脂またはStartbindDEAEカートリッジを通して精製し、2MのNaClを添加して沈殿させ、最後にG10セルファデックス樹脂(ファルマシア社)上で脱塩するかまたは2体積のエタノールを沈殿させIR120H+樹脂上に通してナトリウム塩を得る。
【0115】
上述した好ましい条件で得られた生成物は、WO96/14425号明細書の記述にある1H−NMRスペクトル法で測定すると、少なくとも50%(全ウロン酸に対するイズロン酸)のエピマー化率を有している。
【0116】
制御された解重合
工程b)またはc)またはd)で得られた生成物に対して公知の方法による制御された解重合を実施される。例えばWO82/03627号明細書の記述にある亜硝酸を用いた脱アミノ反応、または過ヨウ素酸ナトリウムを用いた酸化開裂(EP287477号明細書)、またはフリーラジカル処理(EP121067号明細書)、またはベータ脱離(EP40144号明細書)、またはガンマ線処理(米国特許4987222号明細書)であり、好ましい分子量画分は1500から15000Daの範囲、より好ましくは3000から9000Daの範囲である。
【0117】
本発明の好ましい側面は、制御された解重合は硫酸化の工程の前に実施される。
【0118】
とりわけ、前工程で得られた生成物に対する制御された解重合は、亜硝酸または亜硝酸ナトリウムを用いて実施される。この場合、使用する塩の量は多糖1gあたり1から100mgであり、続いて過剰のホウ素化水素で還元する。
【0119】
2番目の好ましい実施態様は、試料を50−250mlの水に4℃で溶解し、1N塩酸を添加して酸性とする。亜種酸ナトリウムの量は5から500mgを添加し反応を60分より短く、好ましくは30分より短く実施される。
【0120】
過剰のホウ素化水素ナトリウムが消えた後に、3倍容積のエタノールで沈殿させ真空乾燥機で乾燥して生成物を得る。
【0121】
製造の最後の工程で解重合を実施される場合、例えばWO01/72848号明細書の記載にあるように実施されることができる。
【0122】
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸化
上の工程で得られた生成物を水に10%の濃度で再懸濁する。この溶液を10℃に冷却し、10℃の温度を保持したままIR−120H+カチオン交換樹脂に通す。溶液を樹脂に通した後、樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで続ける。得られた酸性溶液を三級アミンまたは四級アンモニウム塩、例えば塩から調製した15%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、で中和する。溶液を濃縮して体積を少なくした後に凍結乾燥する。
【0123】
得られた生成物を10−1000mlの有機溶媒、好ましくはスルホランまたは2,4−ジメチルスルホラン、中に懸濁させる。別の有機溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)またはN,N−ジメチルホルムアミドを使用することもできる。これらの有機溶媒を添加するとき、固体状の硫酸化剤、または同じ溶媒に溶かした硫酸化剤溶液として、添加する。
【0124】
硫酸化剤と多糖基質(エピマー化したN−硫酸化K5)のモル比率は、硫酸化剤と多糖ダイマー中の水酸基の比率で表現して、5以下に保持し、より好ましくは2.5未満に、さらに好ましくは1.5未満に保持する。
【0125】
溶液は20℃から70℃の範囲の温度、好ましくは30℃から60℃、に10時間以下、好ましくは8時間以下、さらに好ましくは6時間以下、に保持する。反応の最後には、溶液を室温まで冷却し食塩を飽和させたアセトンを添加して多糖を完全に沈殿させる。
【0126】
沈殿物を濾過して溶媒を分離し、最小量の脱イオン水に溶解し、食塩を0.2Mとなるように添加する。溶液に2N水酸化ナトリウムを添加してpH7.5−8にする。アセトンを添加して完全に沈殿させる。沈殿物を濾過して溶媒と分離する。得られた固体を10−100mlの脱イオン水に溶解し限外濾過により残存する塩を除き精製する。
【0127】
試料の一部を凍結乾燥して13C−NMRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルで部分的O−硫酸化生成物の構造分析をする。
【0128】
部分的硫酸化生成物を含む溶液をIR−120+カチオン交換樹脂または同等品に通す。
【0129】
樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで実施し、その後、ピリジンを加える。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥する。生成物を20−200mlのDMSO/メタノール(9/1 V/V)溶液で処理し、その溶液を45−90℃で10−420分保持する。最後に、溶液に10−200mlの脱イオン水を加え、食塩で飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させる。
【0130】
得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションを実施し、一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をする。
【0131】
d)部分的6O−硫酸化
上に示した工程で得られた生成物を6O−硫酸化する。位置6Oの硫酸基の量を、公知の方法、例えば13C−NMRスペクトルで測定する。この場合の条件は、Guerriniらが抗血栓症セミナー、2001年、第27巻、5号、473−482頁に記述がある。
【0132】
得られた生成物を水に再分散させて5から10%の濃度にし、室温に保持する。この溶液をIR−120+カチオン交換樹脂または同等品に通す。溶液を通し終わった後、三級アミンまたは四級アンモニウム塩、例えば塩から調製した15%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液で中和する。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥する。
【0133】
得られた生成物を10−000mlのジメチルホルムアミドを含む有機溶媒、好ましくはスルホランまたは2,4−ジメチルスルホラン、またはN,N−ジメチルホルムアミドを含む有機溶媒中に懸濁させ、ピリジン−SO3アダクツのような硫酸化剤を固体状態でまたは同じ有機溶媒を用いた溶液で添加する。
【0134】
この分散液を4℃から30℃、好ましくは10℃から25℃、の温度に保ち、硫酸化する水酸基の2当量より少ない量、より好ましくは1.5当量より少ない量、の硫酸化剤、例えばピリジン−SO3アダクツ、で10−90分間処理し、食塩を飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させた。得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションにより精製する。一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をする。
【0135】
e)N−再硫酸化
6O硫酸化多糖を含む溶液を20−65℃に保ち、10−100gの炭酸ナトリウムを一度に加え、10−100gの硫酸化剤、例えば好ましくはピリジン−SO3、を添加する。硫酸化剤の添加は、12時間までの反応時間の間に実施される。反応の終了時に、必要であれば、溶液を室温まで冷却して、好ましくは2Mの水酸化ナトリウムで、pH7.5から8に中和する。
【0136】
生成物を公知の方法で塩から精製するが、方法の例としては、らせん状薄膜1000Da(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)のダイアフィルトレーションを挙げることができる。この製法の簡潔は、透析物の伝導度が1000mS、好ましくは100mSより低くなったときである。得られた生成物を濃縮して10%多糖濃度とする。一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をする。
【0137】
この工程で上述したように実施した6−O選択的硫酸化とN−再流酸化は、工程e)で得られた生成物に対しては、異なった順番で行うことができ、例としては、N−アセチル化を先に6−O硫酸化を後にする方法で、これはWO98/42754号明細書に記述された方法で、最終生成物の生物学的活性が変わらないものが得られる。
【0138】
アンチトロンビンIIIを結合した連鎖の濃縮(任意)
前の工程で述べた方法で得られた生成物は、任意に、アニオン交換クロマトグラフィーでさらに純度を向上できるが、アニオン交換クロマトグラフィーのカラムの例としては、Lam L.H.らが生物化学・生物物理学研究速報、1976年、第69巻、2号、570−577頁に記述しているDEAEカラムを挙げることができる。この精製法またはそれ以外の別の方法としては、生成物をさらに次のようなアフィニティクロマトグラフィーを通す方法がある。すなわち、HookらがFEBS速報誌、1976年、第66巻、90−93頁または米国特許4692435号号明細書、にあるヒトの全部または一部のアンチトロンビン連鎖を使った方法、またはLiu S.らが、合衆国国立アカデミー科学予稿集、1980年、第77巻、6551−6555頁に記述したヘパリンに対して高い親和性を有するペプチド連鎖を使用した方法を挙げることができる。この方法を用いれば、次にNaCl生理食塩溶液による溶出操作で、固相に結合した画分を分離することが可能となる。
【0139】
実例として、N−再硫酸化の工程で得られた生成物10−50mgを、50−100mgのヒトのアンチトロンビンIIIを固定化したアフィニティカラム( Kedrion SPA、Lucca, イタリア )に、Tris−HCl 10mM,pH7.4,NaCl 0−0.15M、4℃の緩衝液を用いて注入する。カラムは、その後3倍体積のTris−HCl、pH7.4の緩衝液で洗浄する。
【0140】
カラムに高い親和性を持って結合した分子は、0.5から3MのNaClを含むTris−HCl 10mM、pH7.4の緩衝液で溶出される。
【0141】
溶出したものは、次に、好ましくはカットオフ1000Daのらせん状薄膜を使用してダイアフィルトレーションを実施して塩を除き凍結乾燥で濃縮する。
【0142】
一部の試料をカルバゾール法、HPLC,NMRおよび抗Xa活性を測る色素生産性による分析をする。
【0143】
得られた生成物は、出発物質の1.5から3倍という優れた抗Xa活性を示す。
【0144】
同様な抗Xa活性の増加は、抽出ヘパリンを同様な方法で処理しても得られる。このことは、アンチトロンビンIIIに対する結合性において、本発明によって得られた生物工学的ヘパリンが抽出ヘパリンとの類似性を示す新たなシグナルである。
[実験の部]
【0145】
実施例1 本発明の製法による生物工学的ヘパリンの製造
次の工程により実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)解重合
e)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
f)部分的6−O硫酸化
g)N−再硫酸化
【0146】
a)多糖の調製
N−アセチルヘパロサン多糖を大腸菌、Bi8337/41(O1O:K5:H4)(ATCC 23506)の発酵により得、特許WO01/02597号明細書に記述された方法に従って培養液からの抽出と精製を実施した。使用した培養液の組成は、大豆小麦粉 2g/l、 K2HP04 9.7g/l 、 K2HP04 2g/l、 MgCl2 0.11 g/l 、クエン酸ナトリウム0.5g/l 、硫酸アンモニウム1g/l 、ブドウ糖(あらかじめ殺菌されたもの) g/l、水1000ml q.b、pH7.3。
【0147】
この培養液に、Tripic大豆寒天培地から取り出した細胞懸濁液を、攪拌下37℃で24時間播種した。発酵槽中の種菌はタイプF5(Industrie Meccaniche di Bagnolo SpA)で上述の培養液が使われているが、上述の予備培養液を使い0.1%で播種し、発酵を18時間37℃で実施した。発酵中、pH、酸素、残存ブドウ糖、生産されたK5多糖および細菌の成長を測定した。発酵の最後には、温度を80℃に10分間維持した。細胞は10000rpmの遠心分離で培養液から分離し、上澄液は1000−10000Daカットオフ濾過膜で濾過し体積を1/5まで減少させた。そして、このK5多糖を体積4倍量のアセトンを加えて沈殿させ遠心分離により取り出した。
【0148】
得られた固体からの除タンパクは、好ましくは、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus Orizae)種のプロテアーゼタイプIIを使用して、NaCl 0.1M、EDTA0.15Mを含む緩衝液中で、pH8、SDS0.5%、37℃、90分で実施した。溶液は10000Daカットオフ薄膜を用いて限外濾過を実施し、その後多糖をアセトンで沈殿させた。多糖の純度はウロン酸分析(カルバゾール法)により測定し、1H−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトル、UVおよび/またはタンパク質含有量を測定した。
【0149】
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
工程a)で得られた生成物10gを200mlの2N水酸化ナトリウムに溶解し、50℃で18時間反応させた。この溶液を6N塩酸で中和した。N−脱アセチル化多糖を得た。
【0150】
脱アセチル化したK5多糖を含む溶液を40℃に保ち、一段階で10gの炭酸ナトリウムを加えた後に10gのピリジン−発煙硫酸アダクツを10分かけて加えた。得られた生成物はN−脱アセチル化およびN−硫酸化されたK5多糖であり、らせん状薄膜1000Da(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)を使用してダイアフィルトレーションにより塩を除いて精製した。精製は、溶出物の伝導度が100mSより低くなったときをもって完了とした。
【0151】
生成物を同じダイアフィルトレーション法で10%の多糖濃度としてから凍結乾燥した。N−アセチル化/N−硫酸化の比率は13C−NMRスペクトルで測定した。
【0152】
c)エピマー化
c−1)C5エピメラ−ゼの樹脂への固定化
5mgのリコンビナントグルクロニルC−5エピメラーゼを米国特許09/732026号明細書およびLiらの生物科学雑誌、2001年、第276巻、23号20069−20077頁に従って得た。これを、HEPES 0.25M,KCl 0.1M、TritonX−100 0.1%およびEDTA 15mMからなるpH7.4の緩衝液200mlに溶解し、工程b)の記載に従って得られたN−脱アセチル化およびN−硫酸化されたK5多糖100gを上の溶液に加えた。溶液を30000Da薄膜を用い4℃でダイアフィルトレーションを実施し、N−脱アセチル化およびN−硫酸化されたK5多糖が流出しなくなるまで続けた。薄膜に残されている溶液に対して、緩衝液をダイアフィルトレーションにより替えNaHCO3 pH7 200mMで置き換え、50mlに濃縮した後50mlのCNBrセファロース4B活性化樹脂を加え、4℃で終夜反応させた。
【0153】
反応の最終工程で、デカンテーションした後、上澄み中の残存酵素の量をQuantigold法(Diversified Biotec)で測定した。上澄み液中に酵素は無く、上述した方法で固定化は100%で実施されたことが明確になった。樹脂の残った活性サイトを埋めるために、樹脂をTmponTris−HCl 100mM、pH8で洗浄した。
【0154】
固定化酵素の活性度を測定するために、理論的に1.2x107cpmに相当する量の固定化酵素をカラムに仕込んだ。こうして調製したカラムに、1mgのN−脱アセチル化およびN−硫酸化したK5(工程b)で得たもの)を、HEPES 25mM,KCl 0.1M,EDTA 0.15M、TritonX−100 0.01%からなる緩衝液に溶解し、pH7.4、37℃、流量0.5ml/分で終夜循環させる方法で実施した。
【0155】
DEAEクロマトグラフィー法で精製した後、セファデックスG−10上で脱塩後、生成物を凍結乾燥し、WO96/14425号明細書に従って1H−NMRスペクトルでイズロン酸含量を測定した。
【0156】
c−2)固定化酵素によるエピマー化
10gのN−脱アセチルN−硫酸化K5多糖を600mlの緩衝液に溶解した。緩衝液の組成は、EDTA15mM、HEPES25mM,CaCl2 75mMで、pH7.0である。この溶液を、固定化酵素を詰めたカラム50mlを循環させた。
【0157】
この操作を28℃、流速20ml/hで24時間実施した。得られた生成物を限外濾過で精製後、エタノールで沈殿させた。沈殿物を水に再溶解し濃度10%とした。得られた生成物のエピマー化比率は、1H−NMRスペクトルで測定すると、全ウロン酸あたりのイズロン酸の比率として、55%であった。(図1に示す)
【0158】
d)制御された解重合
工程c−2)で得られた生成物を、特許WO82/03627号明細書の記述にある亜硝酸を用いた制御された分解反応を施した。実験では、5gの試料を250mlの水に溶解し、サーモスタットで調節した水浴に4℃に保持した。1N塩酸を添加してpH2.0にして、4℃に保ち、その後200mgの亜硝酸ナトリウムを加えた。必要に応じ1N塩酸を添加してpH2.0にして、15分攪拌した。溶液を1N水酸化ナトリウムで中和した後、4℃に冷却した。
【0159】
13mlの脱イオン水に溶解した250mgのホウ素化水素ナトリウムを加え、4時間反応させた。溶液に1N塩酸を添加してpH5.0にして、10分放置して過剰のホウ素化水素ナトリウムを分解した。その後、1N水酸化ナトリウムで中和した。3倍体積のエタノールを使用して生成物を取り出し、真空乾燥機で乾燥した。得られた生成物は分子量が6000Daであった。
【0160】
e)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
上の工程で得られた生成物を水に10%の濃度で再懸濁した。この溶液を10℃に冷却し、10℃の温度を保持したままIR−120H+カチオン交換樹脂に通した。溶液を樹脂に通した後、樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで続けた。得られた酸性溶液を三級アミンまたは四級アンモニウム塩、例えば塩から調製した15%水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、で中和してアンモニウム塩を得た。溶液を濃縮して体積を少なくした後に凍結乾燥した。
【0161】
得られた生成物を100mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMA)に再溶解した後、ピリジン−SO3を添加した。
【0162】
それから、硫酸化剤と多糖基質(エピマー化したN−硫酸化K5)の比率は、硫酸化剤と多糖ダイマー中の水酸基の比率として表現して、1.25量を添加した。
【0163】
溶液は50℃に360分保持した。反応の最後には、溶液を室温まで冷却し食塩を飽和させたアセトンを添加して多糖を完全に沈殿させた。
【0164】
沈殿物を濾過して溶媒を分離し、最小量の脱イオン水に溶解し、食塩を0.2Mとなるように添加した。溶液に2N水酸化ナトリウムを添加してpH7.5にした後アセトンを添加して完全に沈殿させた。沈殿物を濾過して溶媒と分離した。得られた固体を100mlの脱イオン水に溶解し限外濾過により残存する塩を除き精製した。
【0165】
試料の一部を凍結乾燥して13C−NMRスペクトルおよび1H−NMRスペクトルで部分的O−硫酸化生成物の構造分析をした。
【0166】
部分的硫酸化生成物を含む溶液をIR−120+カチオン交換樹脂または同等品に通した。溶液を通した後に、樹脂を脱イオン水で洗浄し、流出液のpHが6より高くなるまで実施した。得られた酸性溶液にピリジンを加えて中和した。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥した。生成物を100mlのDMSO/メタノール(9/1 V/V)溶液で処理し、その溶液を65℃で240分保持した。最後に、溶液に200mlの脱イオン水を加え、食塩で飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させた。
【0167】
得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションを実施し、一部の試料を凍結乾燥した後、13CNMRスペクトルによる構造分析をした。
【0168】
f)部分的6O−硫酸化
工程e)で得られた生成物を水に再分散させて10%の濃度にし、室温に保持した。この溶液をIR−120+カチオン交換樹脂に通した。その後、樹脂を脱イオン水で洗浄し、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液で中和してアンモニウム塩とした。溶液を最小体積まで濃縮した後に凍結乾燥した。
【0169】
得られた生成物を100mlのDMFに懸濁し、このDMF溶液にピリジン−SO3を添加した。この溶液を10℃に保ち、水酸基あたりで1.25当量の硫酸化剤のピリジン−SO3アダクツで60分間処理した。食塩を飽和したアセトンで処理して完全に沈殿させた。得られた固体を公知の方法でダイアフィルトレーションにより精製する。一部の試料を凍結乾燥した後、13C−NMRスペクトルによる構造分析をした。
【0170】
g)N−再硫酸化
生成物を水に溶解して40℃に保ち、10gの炭酸ナトリウムを一度に加え、10gのピリジン−SO3を10分間で添加した。
【0171】
反応の終了時に、必要であれば、溶液を室温まで冷却して、必要であれば水酸化ナトリウムで、pH8より低くした。
【0172】
生成物を公知の方法、例えばらせん状薄膜1000Daカットオフ(プレップスケールカートリッジ、Millipore社)のダイアフィルトレーションで塩から精製した。この製法の完結は、透析物の伝導度が1000mS,好ましくは100mSより低くなった時とした。得られた生成物を濃縮して10%多糖濃度とした。
【0173】
1H−NMRスペクトルを図2に示した。
【0174】
得られた生成物についてヒトの血漿中で測定した抗Xa活性は140 IU/mg(表2を見よ)であり、抗Xa活性と抗IIa活性の比率は2.5であった。
【0175】
実施例2 DMFを用いたO−硫酸化
実施例1において、工程c)とf)で行った部分O−硫酸化と部分6O−硫酸化で有機溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を使用した以外は実施例1と同じ操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は85.9 IU/mgであった(表2)。NMRスペクトルを図3に示した。
【0176】
実施例3 亜硝酸ナトリウムの基質50 mg/gの存在下での制御された解重合
実施例1において実施した制御された解重合において、分子量がおよそ8000Daのものを得る目的で、多糖1gあたりに20mgの亜硝酸ナトリウムを使用した以外は実施例1と同じ操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は60.1 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図4に示した。
【0177】
実施例4 分子量がおよそ8000Daの生物工学的ヘパリンの製造(亜硝酸ナトリウムの基質20 mg/gの存在下での制御された解重合)
実施例1において実施した制御された工程d)の解重合において、分子量がおよそ4200Daのものを得る目的で、多糖1gあたりに50mgの亜硝酸ナトリウムを使用した以外は実施例1と同じ操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は150 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図5に示した。
【0178】
実施例5 分子量がおよそ20000Daの生物工学的ヘパリンの製造
実施例5は次の工程により実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
e)部分的6−O硫酸化およびN−再硫酸化
工程a)〜c)は、実施例1の工程a)〜c)と同じ操作であり、実施例1の解重合(工程d)は実施せず、工程d)は実施例1の工程e)と同じで、工程e)は実施例1の工程f)とg)と同様にして実施した。得られた最終生成物は分子量がおよそ20000Daであり、解重合を受けやすいものであった。血漿中での抗Xa活性は135 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図6に示した。
【0179】
実施例6 分子量がおよそ1500Daの生物工学的ヘパリンの製造(亜硝酸ナトリウムの基質5 mg/gの存在下での制御された解重合)
実施例1において実施した工程d)において、分子量がおよそ15000Daのものを得る目的で、多糖1gあたりに5mgの亜硝酸ナトリウムを使用して制御された解重合を実施した以外は実施例1と同じ温度時間条件で操作を実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は180 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図7に示した。
【0180】
実施例7 公知の方法による生物工学的ヘパリンの製造製法
この実施例では、O−完全硫酸化および6O−硫酸化製法条件として、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された方法で実施した。これを簡単に述べると、完全硫酸化はジメチルホルムアミド中で50℃、18時間、O−脱硫酸化は65℃、150分、および6O−硫酸化はジメチルホルムアミド中で0℃、90分、の条件で実施した。
【0181】
得られた最終生成物の分子量はおよそ20000Daであった。血漿中での抗Xa活性は45 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図8に示した。
【0182】
実施例8 先行技術の方法による生物工学的ヘパリンの製造
この実施例では、O−完全硫酸化および6O−硫酸化製法条件として、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された方法で実施した。これを簡単に述べると、完全硫酸化はジメチルホルムアミド中で50℃、18時間、O−脱硫酸化は65℃、150分、および6O−硫酸化はジメチルホルムアミド中で0℃、90分、の条件で実施した。
【0183】
さらに、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された硫酸化製法の最後に、亜硝酸ナトリウム40 mg/基質gを用いて4℃、15分の条件で解重合を実施した。
【0184】
得られた最終生成物は分子量はおよそ6000Daであった。血漿中での抗Xa活性は31.5U/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図9に示した。
【0185】
実施例9 生物工学的ヘパリンの製造(解重合および硫酸化条件の制御)
実施例1において次のような変化をさせた以外は実施例1と同じ操作を実施した。
実施例1において実施した制御された解重合(工程d)において、エピマー化したK5NS1gあたりに40mgの亜硝酸ナトリウムを使用して実施した以外は実施例1と同じ温度時間条件で操作を実施した。得られた生成物の分子量はおよそ6500Daであった。
【0186】
実施例1における部分的硫酸化(工程e)において、硫酸化剤と硫酸化されエピマー化された基質K5Nとの比率を5とし、180分の反応時間とし、O−硫酸化は60分実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は89 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図10に示した。
【0187】
実施例10 生物工学的ヘパリンの製造(解重合および硫酸化条件の制御)
実施例1において、中間工程でのK5−N多糖の解重合(工程d)で分子量がおよそ6500Daのものを得る目的で、エピマー化したK5NS1gあたりに40mgの亜硝酸ナトリウムを使用して実施した以外は実施例9で記述したものと同じ温度時間条件で操作を実施した。
【0188】
実施例1の部分的硫酸化(工程e)において、硫酸化剤と硫酸化されエピマー化された基質K5Nとの比率を0.6とし、8時間の反応時間とし、O−脱硫酸化は30分実施した。得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は101 IU/mgであった(表2)。この実施例で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを図11に示した。
【0189】
実施例11 アフィニティカラムの選択によるアンチトロンビンIIIとの親和性が優れた多糖画分の分離
実施例1と同様にして多糖を調製した。工程g)のN−再硫酸化の後、生成物を次のようにしてアフィニティカラムを通した。実施例1の工程g)で得られた生成物20gを、あらかじめ100mgのヒトのアンチトロンビンIII( Kedrion SPA、Lucca, イタリア )を固定化したCNBrセファロース4B,(ファルマシア)カラムを用いて、Tris−HCl 10mM,pH7.4,NaCl 0−0.15M、4℃の緩衝液を用いて注入した。60分の結合反応後に、Tris−HCl 10mM、pH7.4の緩衝液を用いてその少なくとも3倍容積量で洗浄した。カラムに高い親和性を持って結合した分子は、2MのNaClを含むTris−HCl 10mM、pH7.4のグラジエントを加えて溶出させた。溶出したものを、カットオフ1000Daのらせん状薄膜を使用してダイアフィルトレーションを実施して塩を除き凍結乾燥で濃縮した。
【0190】
得られた最終生成物は分子量はおよそ8500Daであり、血漿中での抗Xa活性は300 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図12に示した。
【0191】
実施例12 6000Daの低い分子量を有する生物工学的ヘパリンの製造
実施例5において、N−再硫酸化後に生成物を実施例1の工程dと同じ条件で制御された解重合を実施した以外は実施例5と同じ操作を実施した。得られた最終生成物の分子量はおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は65 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図13に示した。
【0192】
実施例13 生物工学的ヘパリンの製造(硫酸化条件の制御)
実施例1において、実施例1の部分的硫酸化(工程e)の硫酸化剤と硫酸化されエピマー化および硫酸化された基質K5との比率を5とし、50℃で8時間反応させた以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0193】
得られた生成物の血漿中での抗Xa活性は75 IU/mgであった。この実施例で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを図14に示した。
【0194】
実施例14 中間体K5OS6OSNH2,epiの調製(生物工学的ヘパリンの再硫酸化していない中間体)
実施例1において、最終工程である再硫酸化を実施しない以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。得られた最終生成物の分子量はおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は5 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図15に示した。
【0195】
実施例15 中間体K5OS,NH2,epiの調製(脱硫酸化、6O−硫酸化およびN−再硫酸化前の生物工学的ヘパリンの中間体)
実施例1において、実施例1の部分的O−硫酸化(工程e)の硫酸化剤と硫酸化されエピマー化および硫酸化された基質K5Nの水酸基との比率を5とし、50℃で8時間反応させ、この後の脱硫酸、6O−硫酸化およびN−再硫酸化を実施しなかった以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0196】
得られたK5OS−NH2−epi生成物の分子量はおよそ6000Daであり、水酸基の95%は硫酸化され、血漿中での抗Xa活性は8 IU/mgであった(表2)。この実施例で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを図16に示した。
【0197】
実施例16 分子量がおよそ6000Daの生物工学的ヘパリンの製造
実施例1で記述したものと同様に次の工程を実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
e)制御された解重合
f)部分的6−O硫酸化およびN−再硫酸化
工程a)〜c)は、実施例1の工程a)〜c)と同じ操作であり、工程d)と工程e)実施例1の工程d)と工程e)の順番を逆にしている以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0198】
得られた最終生成物は分子量がおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は95 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図17に示した。
【0199】
実施例17 順番を逆にして得た生成物の生物学的活性の測定
抗Xa活性の測定−抗Xa活性は色原体法(Coatestヘパリンキット、Chromogenix)で測定した。測定は、正常なヒトの血漿中で、色原体基質S2222(Chromogenix)、Xaウシ属因子(Chromogenix)およびヒトのアンチトロンビンIII(Chromogenix)を試薬として使用した。反応は、凝固計AC9000(International Laboratory社)中で37℃で実施し、405nmで読み取りをした。結果を表2に示した。公知の方法で得た生成物(とりわけWO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された手順の生成物)についての結果を表1にまとめたが、この表には抽出ヘパリンの文献値も報告した(Fareed Jら、Exp Opin.Invest.Drug,1997年、第6巻、705−733頁)。
【0200】
抗IIa因子活性−抗IIa因子活性は、正常なヒトの血漿中で次の手順で実施した。
0.5 U/mlのヒトのアンチトロンビンIII(Chromogenix)を30mlを、異なった濃度の検査する試料溶液30mlと混合し、5.3nKat/mlのウシ属トロンビン(Chromogenix)60mlと混合した。
この溶液を37℃で70秒間インキュベートし、色原体基質S2238(Chromogenix)を60ml加えた。反応は、凝固計AC9000(International Laboratory社)を使用して、405nmで90秒間毎秒読み取りを実施した。公知の生成物(主に、WO01/72848号明細書およびWO02/50125号明細書に記載された製法の生成物)で得られた結果を表1に示した。
【0201】
ヘパリナーゼに対する耐性−ヘパリナーゼIに対する耐性は、低分子量および高分子量の試料を調製して、Tris−HCl 20mM、NaCl 50mM、CaCl2 4mM,0.01% BSAからなる緩衝液、pH7.5,最終濃度0.02%、を用いた。20単位のヘパリナーゼI(Sigma,CAS番号52227−76−6)を試料溶液100mlに加え、反応を25℃でインキュベートした。10分、1時間、2時間、20時間目に、塩酸50mMを加えて反応を停止させ試料を採取した。
【0202】
分画試料を235nmの吸光度測定とGPC−HPLCで分析し分子量を求めた。結果を表3に示した。この表で、高分子量(HMW)および低分子量(Fraxiparina,Sanofi)の両方の抽出ヘパリンは、長時間では分解して分子量が低下しているが、本発明で得た生物工学的ヘパリンは安定であったことがわかる。(ヘパリナーゼIの処理で20時間後も分子量が安定に保たれている)
TFPI活性−TFPIファクターを基礎とした活性の測定は、Gori AMら、抗血栓症誌、1999年、第81号、589−593頁に記述された方法でHUVEC細胞上でインビトロで実施し、市販の無分割ヘパリンと比較した(表4)。
【0203】
プロテアーゼ生成の抑制−プロテアーゼ精製の抑制の測定は、Fareedら、Path.Haem.Thromb.誌、2002年、第32巻、3号、56−65頁に報告されている方法に従ってフィブリノーゲンを枯渇させた血漿中で実施した。試験試料を様々な希釈度で添加した後、内因性凝固系の活性化についてはPT(トロンボピラスチンC)を添加し、内因性凝固系の活性化についてはAPTT(Dade Actin)を添加し、血漿を活性化させた。因子IIと因子Xaの両方の抑制をACL9000凝固計(International Laboratory社)を用いて観察した。希釈度50mg/mlの試料についての結果を表5に示した。
【0204】
PF4因子への親和性−PF4因子(血小板第4因子)に対する親和性の測定は、血漿中で、本発明で得られた生物工学的ヘパリンを含む溶液に一定量のPF4因子を加えた後残存する抗Xa活性を測定することにより実施した。
【0205】
0.8抗Xa活性を含む血漿100mgを加えてPF4の最終濃度10mg/mlとした。試料の抗Xa活性をACL9000凝固計(International Laboratory社)を用いてCoatestヘパリンキット(Chromogenix)で測定した。残存抗Xa活性は初期の活性に対する比率として表される(表6)。
【0206】
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の測定−APTTの測定は、ACL9000凝固計(International Laboratory社)を用いて凝固試験により実施した。規定通りに希釈した試料に一定量のセファリン(キットAPTT、International Laboratory社cod8468710)を添加し37℃で反応を実施し、塩化カルシウムを添加後の塊の生成を660nmの吸光度で測定した。
【0207】
APTT値は、第一次国際標準低分子ヘパリン85/600に対する活性度の比率として表2に報告した。
【0208】
ヘパリン補因子II(HCII)の活性度の測定−HCIIの測定は、0.085 PEU/mlのHCII20ml、異なった濃度の試験試料溶液80ml、0.02Mのtris緩衝液中の0.18 U/mlのトロンビン(Boehringer社)50ml、pH7,4,0.15MNaClおよびPEG6000 0.1%の反応混合物を調製することにより実施した。この溶液を37℃で60秒間インキュベートした後、1mMのSpectrozyme色素生成基質(American Diagnostic社)を50ml加えた。反応は、ACL9000自動凝固計(International Laboratory社)を用いて405nm波長で180秒間毎秒測定した。
【0209】
HCII値は、第一次国際標準低分子ヘパリン85/600に対する活性度の比率として表2に報告した。
【0210】
表1および2に示した生物工学的ヘパリンの生物学的活性デ−タは、本発明で調製したもの、またはホルミル基供給型溶媒またはN,N−ジメチルホルムアミドのような非供給型溶媒の使用に無関係なO−完全硫酸化で特徴づけられる方法によるもの、または最終工程での解重合によるもの、または抽出ヘパリンのものを含んでいる。とりわけこのデ−タでは、本発明で得た生成物が先行技術で得られた生成物に比較して、同様な分子量のものではヒトの血漿中の抗Xa活性が高いことがわかる。
【0211】
実際、本発明で得られた生成物では、抗Xa活性として表した生物学的活性と分子量の比が高い。このように優れた値は本発明の次の製法の複合された特性によるものと思われる。
− マイルドな条件で実施されたO−硫酸化(O−硫酸化と6O−硫酸化)(実施例5と7で比較されている)
− O−硫酸化と6O−硫酸化でホルミル基非供給型の非プロトン性極性溶媒を使用している(実施例1と2で比較されている)
− 中間工程での解重合がO−硫酸化工程の前または6O−硫酸化工程の前に実施されている。これは製法の最後に実施した解重合と比較できる。(実施例1と12で比較されている)
【0212】
実施例1と6で実施したように、血漿中の抗Xa活性として求められた生物学的活性と生成物の分子量の比が高くなること、および抗Xa活性と抗IIa活性の比率が高くなること、がO−硫酸化(O−硫酸化および6O−硫酸化)を部分的に実施しかつO−硫酸化と6O−硫酸化でホルミル基非供給型の非プロトン性極性溶媒を使用し、かつ解重合を中間工程で実施したときに見られる。
【0213】
しかしながら、実施例13で実施したように、本発明の製法は強いO−硫酸化を部分的な6O−硫酸化と組み合わせた場合も成功している。
【0214】
さらに、実施例12で実施したように、本発明の製法は解重合を最後に実施した場合も成功している。
【0215】
公知の方法で得られた生物工学的ヘパリンと比較して本発明の生成物で改良が見られた他のパラメータは、抗血栓性と抗凝集性の関係を示す抗Xaと抗IIa活性の比率であり、この結果は抽出ヘパリンの値に近いAPTT値からも得られている。
【0216】
その比率が1と等しいかそれより高い結果が本発明の生成物に得られているが、先行技術で得られた生成物ではその比率は1より低いのである。
HCII値が高いことによって示された他の特性は、抽出ヘパリンと比較してトロンビンに対する直接的に抑止する能力が優れていることである。
【0217】
実施例18 分子量がおよそ6000Daの生物工学的ヘパリンの製造
実施例1で記述したものと同様に次の工程を実施した。
a)大腸菌K5を原料としたN−アセチルヘパロサン多糖の調製
b)N−脱アセチル化およびN−硫酸化
c)エピマー化
d)部分的O−硫酸化および部分的O−脱硫酸
e)N−再硫酸化
f)制御された解重合
g)部分的6−O硫酸化および
工程a)〜c)は、実施例1の工程a)〜c)と同じ操作であり、工程d)〜g)が実施例1の工程d)〜g)の順番と逆になっている以外は実施例1で記述したものと同じ操作を実施した。
【0218】
得られた最終生成物は分子量がおよそ6000Daであり、血漿中での抗Xa活性は92 IU/mgであった(表2)。13C−NMRスペクトルを図18に示した。
【0219】
【表1】
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
【表4】
【0223】
【表5】
【0224】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】実施例1に述べた、K5N−硫酸化エピマー化多糖のアノマ−領域の13C−NMRスペクトル。
【図2】実施例1で得られた生成物の1H−NMRスペクトル。
【図3】実施例2で得られた生成物の1H−NMRスペクトル。
【図4】実施例3で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図5】実施例4で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図6】実施例5で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図7】実施例6で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図8】実施例7で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図9】実施例8で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図10】実施例9で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図11】実施例10で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図12】実施例11で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図13】実施例12で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図14】実施例13で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図15】実施例14で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図16】実施例15で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図17】実施例16で得られた生成物の13C−NMRスペクトル。
【図18】実施例18で得られた生成物の1H−NMRスペクトル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
a)天然のまたはリコンビナント細菌株から単離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化、
b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素を用いた酵素的エピマー化、
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸化、
d)部分的6O−硫酸化、
e)N−再硫酸化、
を含み、さらに工程b)、c)、d)のいずれかの後に制御された解重合工程を含む、アセチルN−ヘパロサンを原料としてグリコサミノグルカン−硫酸塩を製造する方法であって、
前記方法は、工程c)の部分的O−硫酸化が10時間未満の時間で、かつ前記硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンのモル比が5以下で実施されること、および、工程d)の部分的6O−硫酸化が2時間以下の時間で、かつ硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が2以下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
工程d)とe)の順番を逆にして実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中間的な解重合が、工程b)のエピマー化の後に実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)のO−硫酸化は、硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンのモル比が2.5未満で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記モル比が、1.5以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程d)の部分的O−硫酸化が、6時間以下の時間で実施される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
工程d)の部分的O−硫酸化が、1.5以下の硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比を用いて実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程d)の6O−硫酸化が、60分以下の時間で実施される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
硫酸化が、30分以下の時間で実施される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程a)のN−アセチルヘパロサン多糖が、大腸菌(E.coli)K5から単離される、請求項1〜2に記載の方法。
【請求項11】
アンチトロンビンIIIまたはその断片を結合した基質上で実施される親和性選択工程f)を追加で含むことを特徴とする、請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
工程c)の部分硫酸化および工程d)の6O−硫酸化が、トリエチルアミン−SO3、トリメチルアミン−SO、ピリジン−SO3からなる群から選ばれる硫酸化剤を非プロトン性極性溶媒中で使用して実施されることを特徴とする、請求項1〜11に記載の方法。
【請求項13】
非プロトン性極性溶媒が、ホルミル基を供給しない溶媒である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
非プロトン性極性溶媒が、テトラメチレンサルフォン、2,4−ジメチルスルフォラン、N,N−ジメチルアセトアミド、またはN,N−ジエチルアセトアミドの中から選ばれる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程dの部分的O−硫酸化が、4℃から30℃の範囲の温度で実施される、請求項1〜14に記載の方法。
【請求項16】
前記温度が、10℃から25℃である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
中間的な制御された解重合が、化学的または物理的方法により実施される、請求項1〜16いずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記物理的方法がガンマ線照射を含み、かつ前記化学的方法が、亜硝酸若しくはその塩での処理、またはベータ解離、または過ヨウ素酸またはフリーラジカル処理である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
解重合が、亜硝酸またはその塩により実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
亜硝酸またはその塩と多糖の比が多糖1gあたり1から100mgであり、かつ、反応が4℃から10℃の温度で実施される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
制御された解重合が、亜硝酸またはその塩の存在下で、かつ30分未満の時間で実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
亜硝酸塩が、亜硝酸ナトリウムである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
解重合が、モル過剰のホウ化水素を加えることで停止される、請求項17〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
下記の工程:
a)天然のまたはリコンビナント細菌株から分離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化、
b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素を用いた酵素的エピマー化、
c)部分的脱O−硫酸化と組み合わせた部分的O−硫酸化、
d)部分的6O−硫酸化、
を含み、かつ、工程b)、c)、d)のいずれかの後に制御された解重合工程を含む、アセチルN−ヘパロサンを原料として硫酸化グリコサミノグルカンを製造する方法であって、
工程c)の部分的O−硫酸化が10時間以下の時間で、かつ前記硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンのモル比を5以下として実施されること、および、工程d)の部分的6O−硫酸化が2時間以下の時間で、かつ前記硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が2以下で実施されること、および、工程c)とd)のO−硫酸化がトリエチルアミン−SO3、トリメチルアミン−SO、ピリジン−SO3の中から選ばれた硫酸化剤を使用して非プロトン性極性溶媒中で実施されることを特徴とする方法。
【請求項25】
工程c)のC5エピマー化反応が、35℃以下の温度で実施されることを特徴とし、かつグルクロニルC5−エピメラーゼは、抽出またはリコンビナントであって、固定相に固定化されたものである、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
リコンビナントC5エピメラーゼが、昆虫または酵母細胞で発現したマウス酵素である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記温度が、15℃から30℃である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記温度が、20℃から25℃である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
固定相が、CNBrで活性化されたエポキシ基またはジオール基を有するポリスチレンまたはポリメタクリル樹脂であり、かつC5エピメラーゼの固定化が、100から300mM濃度の炭酸水素ナトリウムを含む緩衝液中または10から50mM濃度のリン酸緩衝液中で、7.0から8.3の範囲のpHで、4℃から25℃の範囲の温度で、12から72時間の範囲の時間で実施される、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
工程c)のエピマー化が、10から30mMのEDTA、70から150mMのCaCl2を含み、pHが5.5から8.0の範囲であるHEPES緩衝液中で実施される、請求項25〜29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜30に記載の方法で得られ得る変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項32】
15000Da以下の分子量を有する、請求項31に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項33】
3000から9000Daの範囲の分子量を有する、請求項32に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項34】
分子中にホルミル基を含まないことを特徴とする、請求項13に記載の方法で得られ得る変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項35】
還元末端に硫酸化2,5無水マンニトール残基を有することを特徴とする、請求項31〜34に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項36】
無水マンニトールの位置1,3および6の水酸基が部分的に硫酸化されている、請求項35に記載のN−アセチルヘパロサン。
【請求項37】
無水マンニトールの位置1および6の水酸基が部分的に硫酸化されている、請求項36に記載のN−アセチルヘパロサン。
【請求項38】
位置1の水酸基の硫酸化比率が20%から85%の範囲である、請求項37に記載のK5OS6OSNS−epiN−アセチルヘパロサン。
【請求項39】
グルコサミンの位置6の水酸基の硫酸化比率が40%より高い、請求項37に記載のK5OS6OSNS−epiN−アセチルヘパロサン。
【請求項40】
硫酸化比率が50%から85%の範囲である、請求項39に記載のK5OS6OSNS−epiN−アセチルヘパロサン。
【請求項41】
グルコサミンの位置3の水酸基の硫酸化比率が60%より低い、請求項36に記載のN−アセチルヘパロサン。
【請求項42】
請求項24に記載の方法で得られ得るK5OS6OSNH2−epi。
【請求項43】
請求項24の工程a)〜c)記載の方法で得られ得るK5OSNH2−epi。
【請求項44】
血漿の存在下で測定した抗因子Xa活性が、50 IU/mg以上であることを特徴とする、請求項31〜41に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項45】
抗因子Xa活性と因子IIa阻害活性の比率が、1.0以上であることを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項46】
抽出ヘパリンと比較して、TFPI活性化活性度が同等以上であることを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項47】
抽出ヘパリンより高いヘパリナーゼI耐性を有することを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項48】
トロンビンとXa因子プロテアーゼの生成を抑制することを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項49】
抽出ヘパリンと比較して、PF4因子に対する低い親和性を有することを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項50】
抽出ヘより高いパリンHCII因子により特徴づけられる、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項51】
13C−NMRスペクトルの多重シグナルが79から89ppmの領域で無水マンニトールのシグナルと比較して多く、かつ51および165ppmにはシグナルが無いこと、および、1H−NMRスペクトルが7−9.5ppmの領域にシグナルが無いこと、を特徴とする、請求項44〜50に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項52】
図2に対応する1H−NMRスペクトルを有する請求項51に記載のK5OS6OSN−epi。
【請求項53】
図7に対応する13C−NMRスペクトルを有する請求項51に記載のK5OS6OSN−epi。
【請求項54】
薬理学用途のための請求項31〜41および44〜53に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項55】
ヘパリン様の抗血栓活性と抗凝固活性を有する薬剤の製造用途への、請求項54に記載の製品の使用。
【請求項56】
線溶活性と抗凝集活性を有する薬剤の製造用途への、請求項54に記載の製品の使用。
【請求項57】
不安定な狭心症、心筋心臓発作、深刻な静脈血栓症、肺塞栓症、および虚血症諸症状に対する予防と治療用の薬剤の製造用途への、請求項55に記載の使用。
【請求項58】
敗血症および汎発性血管内凝固症候群(CID)のような併発症の治療用の薬剤の製造用途への、請求項55〜56のいずれかに記載の使用。
【請求項59】
不安定な狭心症、心筋急性心臓発作、静脈および動脈血栓症、肺塞栓症、虚血症諸症状および動脈硬化に対する予防と治療用の薬剤の製造用途への、請求項56に記載の使用。
【請求項60】
先天的または後天的なアントロビンIII欠乏症に起因する血栓症症状に対する予防と治療用の薬剤の製造用途への、請求項54〜55に記載の使用。
【請求項61】
適切な賦形剤および/または希釈剤と組み合わせて、請求項31〜41および44〜53に記載の製品のいずれかを有効成分として含む医薬組成物。
【請求項62】
経口投与用に適切な組成の、請求項61に記載の医薬組成物。
【請求項1】
下記の工程:
a)天然のまたはリコンビナント細菌株から単離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化、
b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素を用いた酵素的エピマー化、
c)部分的O−硫酸化とそれに続く部分的O−脱硫酸化、
d)部分的6O−硫酸化、
e)N−再硫酸化、
を含み、さらに工程b)、c)、d)のいずれかの後に制御された解重合工程を含む、アセチルN−ヘパロサンを原料としてグリコサミノグルカン−硫酸塩を製造する方法であって、
前記方法は、工程c)の部分的O−硫酸化が10時間未満の時間で、かつ前記硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンのモル比が5以下で実施されること、および、工程d)の部分的6O−硫酸化が2時間以下の時間で、かつ硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が2以下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
工程d)とe)の順番を逆にして実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中間的な解重合が、工程b)のエピマー化の後に実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)のO−硫酸化は、硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンのモル比が2.5未満で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記モル比が、1.5以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程d)の部分的O−硫酸化が、6時間以下の時間で実施される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
工程d)の部分的O−硫酸化が、1.5以下の硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比を用いて実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程d)の6O−硫酸化が、60分以下の時間で実施される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
硫酸化が、30分以下の時間で実施される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程a)のN−アセチルヘパロサン多糖が、大腸菌(E.coli)K5から単離される、請求項1〜2に記載の方法。
【請求項11】
アンチトロンビンIIIまたはその断片を結合した基質上で実施される親和性選択工程f)を追加で含むことを特徴とする、請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
工程c)の部分硫酸化および工程d)の6O−硫酸化が、トリエチルアミン−SO3、トリメチルアミン−SO、ピリジン−SO3からなる群から選ばれる硫酸化剤を非プロトン性極性溶媒中で使用して実施されることを特徴とする、請求項1〜11に記載の方法。
【請求項13】
非プロトン性極性溶媒が、ホルミル基を供給しない溶媒である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
非プロトン性極性溶媒が、テトラメチレンサルフォン、2,4−ジメチルスルフォラン、N,N−ジメチルアセトアミド、またはN,N−ジエチルアセトアミドの中から選ばれる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程dの部分的O−硫酸化が、4℃から30℃の範囲の温度で実施される、請求項1〜14に記載の方法。
【請求項16】
前記温度が、10℃から25℃である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
中間的な制御された解重合が、化学的または物理的方法により実施される、請求項1〜16いずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記物理的方法がガンマ線照射を含み、かつ前記化学的方法が、亜硝酸若しくはその塩での処理、またはベータ解離、または過ヨウ素酸またはフリーラジカル処理である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
解重合が、亜硝酸またはその塩により実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
亜硝酸またはその塩と多糖の比が多糖1gあたり1から100mgであり、かつ、反応が4℃から10℃の温度で実施される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
制御された解重合が、亜硝酸またはその塩の存在下で、かつ30分未満の時間で実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
亜硝酸塩が、亜硝酸ナトリウムである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
解重合が、モル過剰のホウ化水素を加えることで停止される、請求項17〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
下記の工程:
a)天然のまたはリコンビナント細菌株から分離したN−アセチルヘパロサン多糖のN−脱アセチル化およびN−硫酸化、
b)グルクロニルC5−エピメラーゼ酵素を用いた酵素的エピマー化、
c)部分的脱O−硫酸化と組み合わせた部分的O−硫酸化、
d)部分的6O−硫酸化、
を含み、かつ、工程b)、c)、d)のいずれかの後に制御された解重合工程を含む、アセチルN−ヘパロサンを原料として硫酸化グリコサミノグルカンを製造する方法であって、
工程c)の部分的O−硫酸化が10時間以下の時間で、かつ前記硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンのモル比を5以下として実施されること、および、工程d)の部分的6O−硫酸化が2時間以下の時間で、かつ前記硫酸化剤とN−アセチルヘパロサンの水酸基のモル比が2以下で実施されること、および、工程c)とd)のO−硫酸化がトリエチルアミン−SO3、トリメチルアミン−SO、ピリジン−SO3の中から選ばれた硫酸化剤を使用して非プロトン性極性溶媒中で実施されることを特徴とする方法。
【請求項25】
工程c)のC5エピマー化反応が、35℃以下の温度で実施されることを特徴とし、かつグルクロニルC5−エピメラーゼは、抽出またはリコンビナントであって、固定相に固定化されたものである、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
リコンビナントC5エピメラーゼが、昆虫または酵母細胞で発現したマウス酵素である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記温度が、15℃から30℃である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記温度が、20℃から25℃である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
固定相が、CNBrで活性化されたエポキシ基またはジオール基を有するポリスチレンまたはポリメタクリル樹脂であり、かつC5エピメラーゼの固定化が、100から300mM濃度の炭酸水素ナトリウムを含む緩衝液中または10から50mM濃度のリン酸緩衝液中で、7.0から8.3の範囲のpHで、4℃から25℃の範囲の温度で、12から72時間の範囲の時間で実施される、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
工程c)のエピマー化が、10から30mMのEDTA、70から150mMのCaCl2を含み、pHが5.5から8.0の範囲であるHEPES緩衝液中で実施される、請求項25〜29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜30に記載の方法で得られ得る変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項32】
15000Da以下の分子量を有する、請求項31に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項33】
3000から9000Daの範囲の分子量を有する、請求項32に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項34】
分子中にホルミル基を含まないことを特徴とする、請求項13に記載の方法で得られ得る変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項35】
還元末端に硫酸化2,5無水マンニトール残基を有することを特徴とする、請求項31〜34に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項36】
無水マンニトールの位置1,3および6の水酸基が部分的に硫酸化されている、請求項35に記載のN−アセチルヘパロサン。
【請求項37】
無水マンニトールの位置1および6の水酸基が部分的に硫酸化されている、請求項36に記載のN−アセチルヘパロサン。
【請求項38】
位置1の水酸基の硫酸化比率が20%から85%の範囲である、請求項37に記載のK5OS6OSNS−epiN−アセチルヘパロサン。
【請求項39】
グルコサミンの位置6の水酸基の硫酸化比率が40%より高い、請求項37に記載のK5OS6OSNS−epiN−アセチルヘパロサン。
【請求項40】
硫酸化比率が50%から85%の範囲である、請求項39に記載のK5OS6OSNS−epiN−アセチルヘパロサン。
【請求項41】
グルコサミンの位置3の水酸基の硫酸化比率が60%より低い、請求項36に記載のN−アセチルヘパロサン。
【請求項42】
請求項24に記載の方法で得られ得るK5OS6OSNH2−epi。
【請求項43】
請求項24の工程a)〜c)記載の方法で得られ得るK5OSNH2−epi。
【請求項44】
血漿の存在下で測定した抗因子Xa活性が、50 IU/mg以上であることを特徴とする、請求項31〜41に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項45】
抗因子Xa活性と因子IIa阻害活性の比率が、1.0以上であることを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項46】
抽出ヘパリンと比較して、TFPI活性化活性度が同等以上であることを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項47】
抽出ヘパリンより高いヘパリナーゼI耐性を有することを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項48】
トロンビンとXa因子プロテアーゼの生成を抑制することを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項49】
抽出ヘパリンと比較して、PF4因子に対する低い親和性を有することを特徴とする、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項50】
抽出ヘより高いパリンHCII因子により特徴づけられる、請求項44に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項51】
13C−NMRスペクトルの多重シグナルが79から89ppmの領域で無水マンニトールのシグナルと比較して多く、かつ51および165ppmにはシグナルが無いこと、および、1H−NMRスペクトルが7−9.5ppmの領域にシグナルが無いこと、を特徴とする、請求項44〜50に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項52】
図2に対応する1H−NMRスペクトルを有する請求項51に記載のK5OS6OSN−epi。
【請求項53】
図7に対応する13C−NMRスペクトルを有する請求項51に記載のK5OS6OSN−epi。
【請求項54】
薬理学用途のための請求項31〜41および44〜53に記載の変性N−アセチルヘパロサン。
【請求項55】
ヘパリン様の抗血栓活性と抗凝固活性を有する薬剤の製造用途への、請求項54に記載の製品の使用。
【請求項56】
線溶活性と抗凝集活性を有する薬剤の製造用途への、請求項54に記載の製品の使用。
【請求項57】
不安定な狭心症、心筋心臓発作、深刻な静脈血栓症、肺塞栓症、および虚血症諸症状に対する予防と治療用の薬剤の製造用途への、請求項55に記載の使用。
【請求項58】
敗血症および汎発性血管内凝固症候群(CID)のような併発症の治療用の薬剤の製造用途への、請求項55〜56のいずれかに記載の使用。
【請求項59】
不安定な狭心症、心筋急性心臓発作、静脈および動脈血栓症、肺塞栓症、虚血症諸症状および動脈硬化に対する予防と治療用の薬剤の製造用途への、請求項56に記載の使用。
【請求項60】
先天的または後天的なアントロビンIII欠乏症に起因する血栓症症状に対する予防と治療用の薬剤の製造用途への、請求項54〜55に記載の使用。
【請求項61】
適切な賦形剤および/または希釈剤と組み合わせて、請求項31〜41および44〜53に記載の製品のいずれかを有効成分として含む医薬組成物。
【請求項62】
経口投与用に適切な組成の、請求項61に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2007−501305(P2007−501305A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522341(P2006−522341)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051391
【国際公開番号】WO2005/014656
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(502350799)イナルコ ソシエタ ペル アチオニ (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051391
【国際公開番号】WO2005/014656
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(502350799)イナルコ ソシエタ ペル アチオニ (6)
【Fターム(参考)】
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