説明

血漿分離装置

【課題】溶血を引き起こすことなく、血液から血漿を速やかに分離することができる血漿分離装置を得る。
【解決手段】血液供給口2に第1の流路11が接続されており、第1の流路11に複数の分岐流路13の第1の端部が接続されており、複数の分岐流路13の第2の端部に第2の流路12が接続されており、第1の流路11の各分岐流路13の第1の端部が接続されている開口部が、血球の外形よりも大きな開口面積を有し、開口部近傍における第1の流路11に沿う方向の流速が、分岐流路方向の流速の3倍以上となるように第1の流路11及び複数の分岐流路13及び第2の流路12からなる流路構造における圧力損失比が定められている、血漿分離装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液検査や血液製剤の前処理において血液から血漿成分を取り出すのに用いられる血漿分離装置に関し、より詳細には、微量の血液から血漿を迅速かつ簡便に分離することを可能とする血漿分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ流体を取り扱うマイクロ流体分析チップが注目されている。マイクロ流体分析チップ内において、マイクロ流体からなる試料が搬送され、希釈されたり、マイクロ流体試料中の被検出物質の定量等が行われたりしている。
【0003】
ところで、検体が血液である場合、分析項目によっては、血液から血清や血漿を分離する必要がある。
【0004】
下記の特許文献1には、U字型キャピラリーを含む血液分析装置チップを3000〜5000rpmの回転速度で30分間回転し、それによって血液を遠心分離により血球成分と血漿とに分離する方法が開示されている。
【0005】
他方、下記の特許文献2には、直径が5μm以下であり、長さが直径と等しいか、直径よりも長い血液分離要素が搭載されている分析用チップが開示されている。ここで、血球分離要素としては、ガラス繊維またはガラス繊維からなる濾紙が好ましいと記載されている。
【特許文献1】特開2001−258868号公報
【特許文献2】特開2006−58280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、血液分析装置チップを3000〜5000rpmのような高速で30分間回転しなければならなかった。そのため、回転駆動装置がかさばるので、分析に必要な材全体の小型化を図ることが困難であった。また、全分析時間の大部分を遠心分離工程が占めており、血漿分離に時間がかかりすぎていた。そのため、現場において、全ての分析を迅速に行うことができなかった。
【0007】
特許文献2に記載の方法では、血球分離要素により血液を物理的に濾過しているため、すなわち血球成分よりも小さな貫通穴や開口部を有するフィルタ材料を用いて血液の濾過が行われていたため、血球成分が詰まりがちであった。血球成分が詰まると、圧力が高くなり、溶血するおそれがあった。溶血を防止するためには、フィルタ前後の圧力差を小さくすればよいと考えられる。しかしながら、その場合には、流速が非常に低くなり、血漿分離に長時間を要することとなる。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、溶血を引き起こすことなく、迅速に血液から血漿を分離することを可能とし、しかも分析装置全体の小型化を進めることが可能な血漿分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、血液が供給される血液供給口と、前記血液供給口に接続されており、血液が流される第1の流路と、第1,第2の端部を有し、第1の端部において前記第1の流路に接続されている複数の分岐流路と、前記複数の分岐流路の第2の端部に接続されている第2の流路とを備え、前記第1の流路において前記各分岐流路の第1の端部が接続されている開口部の内径が血球の外径よりも大きく、前記開口部近傍における第1の流路に沿う方向の流速が、前記分岐流路方向の流速の3倍以上となるように前記第1の流路、複数の分岐流路及び第2の流路からなる流路構造における圧力損失比が定められている、血漿分離装置が提供される。
【0010】
本発明に係る血漿分離装置のある特定の局面では、前記分岐流路が前記第1の流路から分岐している方向が、前記第1の流路の上流側に傾斜している方向である。この場合には、血球成分が分岐流路により一層流れ込み難くなる。
【0011】
本発明に係る血漿分離装置のさらに他の特定の局面では、前記第1の流路の一方の側方において複数の前記分岐流路が第1の流路に接続されている。それによって、多くの分岐流路を第1の流路に接続することができる。また、第1の流路の片側にのみ分岐流路が接続されるので、小型化を図ることができる。
【0012】
本発明に係る血漿分離装置のさらに別の特定の局面では、前記分岐流路の横断面が長手方向と短手方向とを有する形状であり、該分岐流路の横断面の長手方向が、前記第1の流路の延びる方向と略直交している。この場合には、分岐流路を容易に形成することができる。例えば、プレート状部材に貫通穴を設けることにより分岐流路を第1の流路の接続する場合、第1の流路に積層されるプレート状部材に貫通穴を形成することにより分岐流路を容易に接続することができる。
【0013】
本発明に係る血漿分離装置のさらに別の特定の局面によれば、前記分岐流路の横断面が長手方向と短手方向とを有する形状を有し、該横断面の長手方向寸法が、前記第1の流路の幅の3分の1よりも小さくされる。この場合には、複数の分岐流路が第1の流路に接続されている複数の開口部を様々な形態で配置することができ、例えば千鳥格子状に配置することができる。従って、単位面積あたりの分岐流路の数を増大させることができ、それによって血漿分離効率をより一層高めることができる。
【0014】
本発明に係る血漿分離装置の他の特定の局面では、前記流路形成部材が、複数のプレートを積層した積層プレートからなり、積層プレート内に前記第1,第2の流路及び前記複数の分岐流路が形成されており、前記血液供給部が積層プレートの外表面に開口している。この場合には、合成樹脂などからなる複数のプレートを積層することにより、本発明に係る血漿分離装置を容易に製造することができる。
【0015】
本発明に係る血漿分離装置のさらに他の特定の局面では、前記積層プレートにおいて、前記分岐流路が設けられている高さ位置と、前記第1,第2の流路が設けられている高さ位置とが異なっている。このように、積層プレートにおいて、分岐流路は、第1,第2の流路と異なる高さ位置に設けられてもよく、プレート間の界面やプレートに設けられた貫通部等により、分岐流路や第1,第2の流路を適宜形成することができる。
【0016】
本発明に係る血漿分離装置のさらに他の特定の局面によれば、第1,第2の端部を有する複数の第2の分岐流路と、第3の流路とがさらに備えられ、前記複数の第2の分岐流路の第1の端部が前記第2の流路に接続されており、前記第2の分岐流路の第2の端部が前記第3の流路に接続されている。この場合には、複数段構成により、血球成分の血漿への混入をより一層確実に防止することができる。
【0017】
本発明に係る血漿分離装置のさらに他の特定の局面によれば、前記第1の流路の下流側端部と、前記第2の流路の上流側端部とが接続されて、第1,第2の流路により1つの流路が形成されており、かつ前記第2の流路の下流側端部が、少なくとも2つの流路に分岐されている。血球成分は、分岐流路が合流する側とは反対の方向に寄せられ、血漿のみの流れと、血球成分が濃縮された流れがあたかも二層流のように流れることになる。少なくとも2つの流路に分岐していることにより、これら二層流を実際に2つの流れに分岐させることができる。それによって、血漿を、より一層確実に血球成分と分離することができる。
【0018】
前記一本の流路については、様々な形態とすることができるが、渦巻状の形状とすることが望ましい。それによって、小さな面積に配置された渦巻状の流路により複数段構成における段数を増大したのと同じ効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る血漿分離装置によれば、開口部近傍における第1,第2の流路に沿う方向の流速が、分岐流路方向の流速の3倍以上とされているため、血球成分は、同じ程度の大きさの分岐流路には流れ込まず第1の流路を直進し、分岐流路には血漿成分だけが流れ込むことになる。そのため、第2の流路から血漿を回収することができ、血液から血漿を確実に分離することができる。しかも、分岐流路の内径は血球の外径よりも大きいため、血球が万が一分岐流路に流れ込んだとしても、分岐流路の目詰まりは生じない。従って、溶血も生じない。しかも、血漿分離に遠心分離装置を必要としないので、分析装置全体の小型化を図ることができる。また、血漿分離に長時間の操作を必要としない。
【0020】
よって、本発明によれば、溶血を引き起こすことなく、短時間で血液から血漿を分離することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1(a),(b)は、本発明の血漿分離装置の上部を示す模式的平面図及び血漿分離の原理を説明するための模式的部分切欠拡大平面断面図であり、図2(a)は本実施形態の血漿分離装置の外観を示す略図的斜視図であり、(b)及び(c)はそれぞれ、図1(a)中のA−A線に沿う部分の拡大断面図及び分岐流路の横断面を示す断面図である。
【0023】
図2(a)に示すように、血漿分離装置1は、矩形の積層プレートを用いて構成されている。この矩形の積層プレートは、臨床現場等により容易に取扱いされ得る大きさとされている。大きさは特に限定されるわけではないが、例えば縦20〜100mm、横20〜100mm、厚み1〜10mm程度とされ、その場合には容易に積層プレートを携帯することができる。
【0024】
この積層プレート内において、図1(a)に示す流路構造が形成されている。この流路構造は、血液供給口2に接続された第1の流路11を有する。第1の流路11の下流側には、排出口3が接続されている。
【0025】
上記血液供給口2及び排出口3は、図2(a)に示すように、積層プレートの上面に開口している。
【0026】
第1の流路11は、積層プレート内に形成されている。第1の流路11は、図2(b)に示す横断面形状を有する。すなわち、第1の流路11の横断面形状は、長手方向と短手方向を有する略矩形の形状を有する。第1の流路11の深さは、特に限定されないが、10〜100μm程度であり、より好ましくは10〜30μm程度である。深さが浅すぎると、血球成分が詰まり、第1の流路11が閉塞するおそれがある。深さが大きすぎると、流速を高精度に制御することができないことがある。なお、第1の流路11の上流側及び/または下流側に、より深い流路が形成されてもよい。
【0027】
第1の流路11の延びる方向の一方の側方に、複数の分岐流路13が接続されている。分岐流路13は第1の端部と第2の端部とを有し、第1の端部が第1の流路11に接続されている。分岐流路13の第2の端部が第2の流路12に接続されている。
【0028】
第1の流路11に分岐流路13を第1の端部が接続されている部分である開口部の内径は、血球の外径よりも大きくされている。本実施形態では、開口部だけでなく、分岐流路13の全長にわたり、分岐流路13の内径が血球の外径よりも大きくされている。
【0029】
従って、血球が分岐流路13側に誤って流れ込んだとしても、分岐流路13の目詰まりが生じ難い。
【0030】
他方、第2の流路12の深さは、特に限定されないが、第1の流路11と同様、10〜100μm程度とされ、より好ましくは10〜30μm程度である。深さが浅すぎると誤って血球成分が侵入してきた場合、第2の流路12を閉塞するおそれがある。深さが大きすぎると、流速を高精度に制御することが困難となることがある。
【0031】
なお、第2の流路12においても、分岐流路13が接続されている部分よりも上流側及び下流側においては、より深い流路が接続されていてもよい。
【0032】
第2の流路12の下流側端部には、血漿回収口4が接続されている。血漿回収口4は、図2(a)に示すように積層プレートの上面に開口している。
【0033】
従って、図2(a)に示す血漿分離装置1において、血液供給口2からシリンジ等を用いて血液を供給し、第1の流路11に血液を流し込むと、後述するように、血漿が分離され、分離された血漿が上記血漿回収口4から回収される。回収に際しては、血漿回収口4にチューブやシリンジ等を接続すればよい。
【0034】
本実施形態の血漿分離装置1は、第1の流路における分岐流路13が接続されている開口部近傍における第1の流路方向の流速が分岐流路方向の流速の3倍以上となるように上記流路構造における圧力損失比が定められていることを特徴とし、それによって、溶血を生じさせることなく、血漿を速やかに分離することができる。これを、以下において詳細に説明する。
【0035】
なお、本明細書において、血漿とは、血液から赤血球や白血球などの有形成分を取り除いたものをいうものとする。なお、血清とは、血漿からさらに繊維素などの凝固成分を取り除いたものをいうものとする。哺乳動物の赤血球は細胞核を含まない。脱核した赤血球は、通常真ん中が窪んだ円盤型の形状を有している。赤血球の大きさすなわち外径は、人の赤血球の場合約8μmであり、ラットでは約6μmである。白血球の大きさは、約6〜14μmである。血漿板の大きさは2〜3μmである。
【0036】
また、分岐流路が接続されている第1の流路の開口部の内径が血球の外径よりも大きいこととは、血球を囲む外接球の直径をd、分岐流路の開口部の短辺の長さまたは最も短い径をwとした場合、w/d>1であることを意味する。w/dは1.1〜3の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.2〜1.5である。w/dが1以下の場合、分岐流路が接続されている開口部において血球が詰まるおそれがある。
【0037】
w/dを1.1以上とすることにより血球の詰まりをより確実に防止することができる。なお、w/dが大きすぎると、血球の分離が原理的に困難となることがある。
【0038】
図1(b)に示すように、第1の流路11において分岐流路13が接続されている開口部11a近傍において、第1の流路11の流路方向の流速をVとする。開口部近傍における分岐流路方向の流速をVとする。この場合、Vが、3Vよりも大きくなるように、第1の流路11及び分岐流路13を有する流路構造における圧力損失比が定められている。そのため、開口部が血球の外形よりも大きい断面を有していたとしても、血球成分は同程度の大きさである分岐流路13には流れ込まず、図1(b)の矢印Aで示すように第1の流路を直進する。従って、分岐流路13には血漿成分のみが流れ込むことになる。この理由を以下において詳述する。
【0039】
流れが理想的な層流である場合には、図1(b)において多点のハッチングで示す分岐流Bと主流Cとの境界となる流線Dが存在し、主流Cと分岐流Bとは流線Dで区分される。血球のような粒子Eの中心が流線Dよりも主流C側に位置すると、粒子Eは分岐流路13には流れ込まない。従って、開口部の幅wが、粒子Eの1.5倍であっても、第1の流路11の流路方向の流速と、分岐流路13の流路方向の流速の比が3対1以上であれば、粒子は分岐流路13には流れ込まない。
【0040】
流れが理想的な層流でない場合であっても、同様に、粒子Eは分岐流路13に流れ込まない。すなわち、図3に示す極限状態を検討すると、
/V>{w−(1/√2)(d/2)}/{(1−1/√2)(d/2)}
>{(2 w/d)−1/√2}/(1−1/√2)
の関係が得られる。従って、開口部の幅wが、粒子Eの径の1.2倍であっても、第1の流路11の流路方向の流速と、分岐流路13方向の流速の比が3対1以上であれば、上記条件は満たされ、血球などの粒子は分岐流路に流れ込まない。
【0041】
従って、本実施形態のように、開口部近傍における第1の流路11の流路方向の流速と、分岐流路の方向の流速の比を3対1以上とすることにより、血球は分岐流路13に流れ込まず、血球を含まない血漿のみが分岐流路13に流れることになる。よって、血漿回収口4から血漿を回収することができる。すなわち、第2の流路12に血漿が分配されるが、分配される血漿の流量は、流路径及び圧力損失の関係に基づくハーゲン・ポアズイユの式とその派生式に基づいて求めることができる。すなわち、流路構造における圧力損失は、電気回路における電気抵抗のアナロジーとして取り扱うことができ、流量の分配に基づいて各点における流速を求めることができる。
【0042】
前述したように、開口部11aが、血球の外径よりも大きい内径を有するが、本実施形態では、分岐流路13の全長にわたり、流路の幅が、血球の外径よりも大きくされている。分岐流路13の横断面における幅が血球の外径よりも小さいと、血球が分岐流路13において詰まるおそれがある。もっとも、流路幅が大きすぎると、血球などの粒子が詰まり難いが、分岐流路に誤って入ることが増え、分離が悪くなるおそれもある。赤血球や白血球を除くのが目的であるため、分岐流路13の流路幅は10〜20μm程度とすることが好ましい。
【0043】
分岐流路13の横断面における短径寸法は、血球の外径よりも大きいため、高精度に形成される必要は必ずしもない。従って、血漿分離装置1の製造に際し、高精度に分岐流路13の寸法を制御する必要がないので、成形加工等の製造プロセスにおける歩留まりを高めることができる。
【0044】
上記のように、第1の流路11及び分岐流路13への流量への分配は圧力損失比によって決定されるものであり、血液を流す流速は特に限定されるものではない。もっとも、好ましくは、第1の流路11における流速は、1〜1000mm/秒、より好ましくは10〜100mm/秒程度とすることが望ましい。流速が高すぎると、高い圧力が必要となり、溶血するおそれがある。流速が低すぎると、血漿分離時間が長くなるおそれがある。
【0045】
本実施形態の血漿分離装置1では、分岐流路13を用いて血漿が分離される。すなわち、本実施形態は、篩やメッシュにより物理的に血液を濾過して血漿を分離する装置ではない。従って、血球の目詰まりが生じ難い。また、大型の遠心分離装置などを必要としないので、分析装置全体の小型化を進めることができるとともに、長時間の遠心分離操作も必要としない。
【0046】
血漿分離装置1の製造に際しては、図2(a)に示した積層プレートを形成すればよい。この場合、複数のプレート材を、接着剤等を介して積層することにより、積層プレートを容易に得ることができる。また、拡散接合や押さえ治具による圧着によって積層プレートを得てもよい。複数のプレートを構成する材料については特に限定されず、様々な合成樹脂、ガラス、セラミックス、シリコンまたは他の金属を用いることができる。合成樹脂としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。また、金属としては、防錆性に優れたステンレスなどを好適に用いることができる。また、血漿分離状態や血球の目詰まり等を視認し得るように、血漿分離装置1を構成するプレートは、透明であることか望ましい。特に、第1の流路11、分岐流路13及び第2の流路12を含む流路構造を外部から目視し得るように、これらの部分が透明であることが望ましい。
【0047】
積層プレートを合成樹脂により成形する場合には、各プレートを、様々な成形方法を用いて成形すればよい。このような成形法については特に限定されず、溶液キャスト法、射出成形法、インプリント法、レーザーアブレーション法などを挙げることができる。
【0048】
また、使用前には、血漿分離装置1には、流路内に生理食塩水やリン酸緩衝液を充填しておくことが好ましい。
【0049】
必要に応じて、使用後の血漿分離装置1に、流路内に生理食塩水やリン酸緩衝液を追加充填することにより血漿の回収率を上げることができる。場合によっては、空気等の異なる圧力媒体によるフラッシュ操作が行われてもよい。
【0050】
上記積層プレートでは、複数のプレートを積層することにより、第1の流路11、第2の流路12及び複数の分岐流路13が形成されているが、これらは、積層プレート内において、同じ高さ位置に形成される必要は必ずしもない。例えば、図5(a)〜(c)に示す3枚のプレート21〜23を積層することにより、第1,第2の流路11,12及び分岐流路13が形成されている部分を構成してもよい。ここでは、第1のプレート21において、第1,第2の流路11,12を形成するための貫通穴が形成されている。第2のプレート22に、第2のプレート22を貫通している接続口22aが22bが形成されている。そして、第3のプレート23に、分岐流路13を形成するための貫通穴が形成されている。
【0051】
プレート21〜23を積層し、上下に貫通穴が形成されていないプレートを積層することにより、第1の流路11と第2の流路12との間に、接続口22a,22bを介して分岐流路13が接続されることになる。このような構造では、分岐流路13と、第1,第2の流路11,12とが異なる高さ位置に形成されることになる。
【0052】
また、第1の流路11と第2の流路12とを異なる高さ位置に形成してもよい。例えば、図5(c)の分岐流路を形成する貫通穴に接続されるように、第2の流路を形成する貫通穴を形成し、接続口22bを除去すれば、分岐流路13と第2の流路12とを同じ高さ位置に形成することができる。
【0053】
このように、第1の流路11及び第2の流路12並びに分岐流路13は、積層プレート内において、様々な高さ位置に形成することができる。
【0054】
図4は、本発明の第2の実施形態の血漿分離装置を説明するための模式的平面図である。図4に示すように、分岐流路14が、第1の流路11の流路方向に対して傾斜されて設けられている。より具体的には、分岐流路14は、第1の流路11に接続されている第1の端部から第2の端部に向かって延びるが、第2の端部側が上流側に位置するように、すなわち分岐流路13は、第1の流路11に接続されている部分から第1の流路における上流側に傾斜されている。この場合には、血球成分が分岐流路14に誤って流れ込むことをより確実に防止することができる。
【0055】
第1の実施形態では、第1の流路11の流路方向に直交する方向に複数の分岐流路13が延ばされていたが、第2の実施形態のように、複数の分岐流路14の延びる方向は、第1の流路11の流路方向に直交する必要は必ずしもない。
【0056】
また、図6は、第3の実施形態を説明するための模式的平面図である。本実施形態では、第2の流路12の複数の分岐流路13が接続されている側よりも下流側において、複数の第2の分岐流路15の第1の端部が接続されており、さらに第2の分岐流路15の第2の端部に、第3の流路16が接続されている。この場合、第2の分岐流路15は、第1の分岐流路13と同様に形成されている。従って、第1の流路11から供給された血液のうち血漿が分岐流路13を経て第2の流路12に供給されるが、第2の流路12からさらに第2の分岐流路15に導かれ、第3の流路16から血漿が回収される。よって、多段構成を有するため、血球の混入をより一層確実に防止することができる。
【0057】
なお、本願発明者の実験によれば、図6に示した複数段構成の場合、分岐流路13の流路幅を血球の大きさの2倍である15μLに拡大したとしても、血漿分離が可能であることが確かめられた。この場合、分岐流路13の幅を大きくすることができるので、製造に際しての歩留まりを高めることができる。
【0058】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る血漿分離装置を説明するための模式的平面図である。本実施形態では、第1の流路11の下流側端部が第2の流路12の上流側端部に接続され、1本の流路17が形成されている。そして、第2の流路12の下流側端部か、分岐部19において、2つの流路18A,18Bに分岐されている。
【0059】
上記分岐部19においては、流路18Aが第2の流路12に対し分岐流路14が接続されている側に位置しており流路18Bは、第2の流路12に対し、分岐流路14が接続されている側とは反対側に位置している。
【0060】
分岐流路14からの血球成分を含まない流れが、第2の流路12に合流する部分とは反対側に、血球成分を押し付けることになる。すなわち、第1の流路11を通過する間に分岐流路14へ血漿が流れでることにより血球成分濃度が高くなる。血球成分濃度が高くなったが濃縮された血液が、第2の流路12に流れてきて、分岐流路14と第2の流路12とが合流している部分では、分岐流路14が接続されている部分とは反対側に寄せられる。従って、第2の流路12内の流れにおいては、分岐流路14から流れてきた血漿と、血球を多く含む流れとがあたかも二層流のように流れることになる。そのため、分岐部19において、分岐流路14が接続されている側寄りに配置されている流路18Aに血漿が流れ、分岐流路14が接続されている側とは反対側に配置されている流路18Bに血球を含む液体が流れることになる。
【0061】
よって、流路18Aに接続されている血漿回収口4から血漿を取り出すことができる。そして、流路18Bの下流側端部の接続されている排出口3から血球成分を含む液体を排出させることができる。
【0062】
このように、第1の流路の下流側端部と第2の流路上流側端部とを接続し、1本の流路として形成した場合であっても、流路18A,18Bを第2の流路の下流側端部に分岐部19を介して接続することにより、血漿を速やかに分離することができる。なお、本実施形態では、第2の実施形態の分岐流路14が用いられているが、第1の実施形態の分岐流路13を用いてもよい。
【0063】
図8は、本発明の第5の実施形態の血漿分離装置の流路構造を説明するための模式的平面図である。
【0064】
本実施形態では、図7とは異なり、1本の流路17Aが渦巻状すなわちスパイラル状の形状とされている。1本の流路17Aが渦巻状の形状を有するが、複数の分岐流路14の第1の端部が接続されている部分が第1の流路に相当し、複数の分岐流路14の第2の端部が接続されている部分が第2の流路に相当する。もっとも、複数端を有する渦巻状の形状有するため、例えば矢印Fで示す流路部分は、第1の流路にも相当し、第2の流路にも相当する。従って、本実施形態は、図6に示した複数段からなる構成と図7に示した第1の流路と第2の流路が接続された実施形態との特徴を併せ持つ構造に相当する。
【0065】
上記のように、本発明においては、第1,第2の流路を接続して1本の流路を構成した構造の場合、その平面形状は渦巻状としてもよく、その場合には、より小さな面積に、第1,第2の流路及び分岐流路を有する流路構造を高密度に形成することができる。従って、血漿分離装置の小型化を進めることができる。
【0066】
なお、図8の実施例のように平面上において渦巻き状の流路を配置する代わりに、円筒の外側右上にスパイラル状の流路を配置してもよい。
【0067】
更に、図9に示す変形例のように、分岐流路13Aは、その幅は全長にわたり一定とされる必要は必ずしもない。すなわち、第1の端部側において、血球よりも大きい寸法を有している必要があるが、分岐流路13Aの下流側部分において、血球よりも狭い流路部分13aを形成してもよい。血球が誤って分岐流路13Aに流れ込んできた場合、狭い流路部分13aに目詰まりするおそれはあるが、血球が第2の流路12に流れ込むおそれはない。
【0068】
次に、具体的な実験例につき説明する。
【0069】
(実施例1)
図1〜図3に示した第1の実施形態の血漿分離装置を作製した。第1の流路及び第2の流路11,12の流路幅は100μm、分岐流路13の流路幅10μm、分岐流路13の長さ10μmとした。第1,第2の流路11,12及び分岐流路13の深さはいずれも10μmとした。積層プレートは、ポリメタクリル酸メチルからなる樹脂プレートとフォトレジストフィルムを複数枚積層することにより作製した。
【0070】
血漿分離装置の流路構造内を生理食塩水で満たしてから、気泡が入らないようにして、全血を10倍希釈してなる希釈血液を、血液供給口2からシリンジポンプを用いて1μL/分の流速で1mL導入した。血漿回収口4から82μLの血漿を回収することができた。光学顕微鏡により回収された血漿を観察したところ、血球成分の混入は認められなかった。また、分岐流路13において、目詰まりは生じなかった。
【0071】
(実施例2)
第2の実施形態に従って、第1の流路11に対して、上流側に10°傾斜された方向に延びる分岐流路14を形成し、実施例1と同様にして、血漿分離装置を作製し、評価した。血液の供給速度を10μL/分に高め、血漿分離を試みたところ、87μLの血漿を回収することができた。従って、血液供給速度を高くしても、血漿を確実に回収することが可能であった。
【0072】
なお、本発明は、血漿分離装置であるが、特定の大きさの微粒子が分散した液体から正常な液体をのみを分離する用途に広く用いることができる。このような微粒子としては、ポリマー微粒子、金属微粒子、セラミック微粒子、細胞、オルガネラ、微生物、花粉などを挙げることができる。また、水もしくは化学物質含有水溶液、有機溶媒などの液体以外に、空気等の気体を取り扱ってもよい。すなわち、微粒子が分散されている流体は液体に限定されない。さらに、能動的に動く粒子様の対象物を動きが鈍いまたは動かないものと区別する用途にも本発明を適用することができる。例えば、精子の運動能力による選別に本発明の分離装置を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態の血漿分離装置の流路構造を示す模式的平面図であり、(b)はその原理を説明するための部分切欠拡大平面断面図である。
【図2】(a)は第1の実施形態の血漿分離装置の外観を示す斜視図であり、(b)は図1(a)中のA−A線に沿う部分の断面図であり、(c)は分岐流路の横断面形状示す断面図である。
【図3】第1の実施形態の血漿分離装置において、血球が分岐流路に入り込まない原理を説明するための模式的平面断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の血漿分離装置の流路構造を示す模式的平面図である。
【図5】(a)〜(c)は、異なる高さ位置に第1,第2の流路と分岐流路とが形成されている構造を用いられる第1〜第3のプレートの各平面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る血漿分離装置の流路構造を示す模式的平面図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る血漿分離装置の流路構造を示す模式的平面図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る血漿分離装置の流路構造を示す模式的平面図である。
【図9】分岐流路の変形例を説明するための部分切欠平面図である。
【符号の説明】
【0074】
1…血漿分離装置
2…血液供給口
3…排出口
4…血漿回収口
10…流路幅
11…第1の流路
11a…開口部
12…第2の流路
13…分岐流路
13A…分岐流路
13a…流路部分
14…分岐流路
15…第2の分岐流路
16…第3の流路
17,17A…流路
18A,18B…流路
19…分岐部
21〜23…第1〜第3のプレート
22a,22b…接続口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液が供給される血液供給口と、
前記血液供給口に接続されており、血液が流される第1の流路と、
第1,第2の端部を有し、第1の端部において前記第1の流路に接続されている複数の分岐流路と、
前記複数の分岐流路の第2の端部に接続されている第2の流路とを備え、
前記第1の流路において前記各分岐流路の第1の端部が接続されている開口部の内径が血球の外径よりも大きく、前記開口部近傍における第1の流路に沿う方向の流速が、前記分岐流路方向の流速の3倍以上となるように前記第1の流路、複数の分岐流路及び第2の流路を含む流路構造における圧力損失比が定められている、血漿分離装置。
【請求項2】
前記分岐流路が前記第1の流路から分岐している方向が、前記第1の流路の上流側に傾斜している方向である、請求項1に記載の血漿分離装置。
【請求項3】
前記第1の流路の一方の側方において複数の前記分岐流路が接続されている、請求項1または2に記載の血漿分離装置。
【請求項4】
前記分岐流路の横断面が長手方向と短手方向とを有する形状であり、該分岐流路の横断面の長手方向が、前記第1の流路の延びる方向と略直交している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血漿分離装置。
【請求項5】
前記分岐流路の横断面が長手方向と短手方向とを有する形状を有し、該横断面の長手方向寸法が、前記第1の流路の幅の3分の1よりも小さい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血漿分離装置。
【請求項6】
第1,第2の端部を有する複数の第2の分岐流路と、第3の流路とをさらに備え、前記複数の第2の分岐流路の第1の端部が前記第2の流路に接続されており、前記第2の分岐流路の第2の端部が前記第3の流路に接続されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血漿分離装置。
【請求項7】
前記第1の流路の下流側端部と、前記第2の流路の上流側端部とが接続されて、第1,第2の流路により1つの流路が形成されており、かつ前記第2の流路の下流側端部が、少なくとも2つの流路に分岐されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血漿分離装置。
【請求項8】
前記1本の流路が渦巻状の形状を有する、請求項7に記載の血漿分離装置。
【請求項9】
複数のプレートを積層した積層プレートを有し、積層プレート内に前記第1,第2の流路及び前記複数の分岐流路が形成されており、前記血液供給口が積層プレートの外表面に開口している、請求項1〜8のいずれか1項に記載の血漿分離装置。
【請求項10】
前記積層プレートにおいて、前記分岐流路が設けられている高さ位置と、前記第1,第2の流路が設けられている高さ位置とが異なっている、請求項9に記載の血漿分離装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−71857(P2010−71857A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240903(P2008−240903)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】