説明

血漿又は血清の保持材及び血液分離用具

【課題】 少量の採血量でも検査を可能とすることのできる血漿又は血清の保持材、及びこの保持材を備えた血液分離用具を提供すること。
【解決手段】 本発明の血漿又は血清の保持材は、平均繊維径が2μm以下の極細繊維の集合体からなり、前記極細繊維集合体の全部の孔の体積の95%を占める孔の径が5μm以下である。静電紡糸法により製造されたものであるのが好ましい。本発明の血液分離用具は前記血漿又は血清の保持材と、血球分離材を備えており、使用時に血漿又は血清の保持材と血球分離材とが隣接可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血漿又は血清の保持材、及び血液分離用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種疾患の診断等のために生化学検査が広く行われている。この生化学検査においては、赤血球等の血球による影響を排除するために、血液から血漿又は血清を分離している。このように血液から血漿又は血清を分離する方法として、血液を凝固させた後に遠心分離する方法、分離材により分離する方法などが知られている。これらの中でも分離材により分離する方法によれば、時間がかからず、簡易に行なうことができるため、医療施設内における生化学検査以外に、遠隔臨床検査システムにおいても使用することができる。この遠隔臨床検査システムは、自宅で患者自らが採血し、採血した血液を血液分離用具の分離材に置き、分離材によって濾過された血漿又は血清を医療施設へ送付し、検査を行なうシステムである。
【0003】
このような血液分離用具は、血漿又は血清のみを濾過する分離材(血球分離材)と、分離材により濾過分離された血漿又は血清を保持する保持材とを備えている。このような血液検査用用具における分離材として非繊維質微多孔性膜や繊維質微多孔性膜(ガラスフィルター等)などを使用し、保持材としてろ紙や多孔質フィルムなどを使用するのが一般的であった(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−249699号公報(段落番号0014、0015、実施例1など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような血液分離用具においては、血漿又は血清の採取率が低いため、検査するためには3〜4滴の血液を必要とし、患者に苦痛を強いるものであった。
【0006】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、少量の採血量でも検査を可能とすることのできる血漿又は血清の保持材、及びこの保持材を備えた血液分離用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「平均繊維径が2μm以下の極細繊維の集合体からなり、前記極細繊維集合体の全部の孔の体積の95%を占める孔の径が5μm以下であることを特徴とする、血漿又は血清の保持材。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「静電紡糸法により製造されたものであることを特徴とする、請求項1記載の血漿又は血清の保持材。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「請求項1又は請求項2に記載の血漿又は血清の保持材と、血球分離材を備えており、使用時に血漿又は血清の保持材と血球分離材とが隣接可能であることを特徴とする血液分離用具。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる血漿又は血清の保持材によれば、平均繊維径の小さい極細繊維の集合体であることによって表面積が広いことに加えて、径の小さい孔が多いことによる毛細管作用によって、血漿又は血清の吸収性及び保持性に優れている。そのため、血漿又は血清の採取率が高く、1〜2滴の少量の血液で検査することができるため、患者の苦痛を和らげることができる。
【0011】
本発明の請求項2にかかる血漿又は血清の保持材によれば、静電紡糸法により孔径が揃っており、かつ孔径の小さい血漿又は血清の保持材を製造できるため、血漿又は血清の吸収性及び保持性が更に優れる血漿又は血清の保持材であることができる。また、通常、溶融紡糸では作製できない、血漿又は血清との馴染みの良い樹脂であっても、静電紡糸法によれば血漿又は血清の保持材を製造できるため、血漿又は血清の吸収性及び保持性が更に優れているという効果を奏する。更には、静電紡糸法により製造した血漿又は血清の保持材は繊維間の接着が緩やかで、血漿又は血清を保持材が吸収した際に膨らみやすいため、吸収時に血球分離材との密着性が高まり、更に吸収性が良くなるという効果も奏する。
【0012】
本発明の請求項3にかかる血液分離用具によれば、前記血漿又は血清の保持材を備えているため、血漿又は血清の採取率が高いため、1〜2滴の少量の血液で検査することができ、患者の苦痛を和らげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の血漿又は血清の保持材(以下、単に「保持材」ということがある)は表面積が広く、血漿又は血清の吸収性及び保持性に優れ、結果として採取率が高いように、平均繊維径が2μm以下の極細繊維の集合体からなる。極細繊維の平均繊維径が小さければ小さい程、血漿又は血清の吸収性及び保持性に優れているため、1.5μm以下であるのが好ましく、1.2μm以下であるのがより好ましく、0.8μm以下であるのが更に好ましい。なお、極細繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、1nm程度が適当である。本発明における極細繊維の「繊維径」は、保持材の電子顕微鏡写真から測定して得られる極細繊維の横断面における直径を意味し、極細繊維の横断面形状が非円形である場合には、横断面積と同じ面積の円の直径を極細繊維の繊維径とみなす。また、極細繊維の「平均繊維径」は極細繊維100本の繊維径の算術平均値をいう。
【0014】
本発明の保持材を構成する極細繊維は連続繊維であっても、非連続繊維であっても良いが、連続繊維であると、血液分離用具作製時又は使用時に極細繊維の脱落が生じにくいため好適である。このように極細繊維が連続繊維である場合、繊維径の測定は保持材の厚さ方向切断面の電子顕微鏡写真をもとに行う。
【0015】
本発明の保持材を構成する極細繊維はどのような樹脂から構成されていても良いが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリアミドなど血漿又は血清の吸収性の良いものを使用することができる。また、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド等の撥水性樹脂であっても、紫外線照射、プラズマ照射或いは親水性樹脂を極細繊維表面に付与するなどの親水化処理を実施することによって使用することができる。なお、血漿又は血清の検査項目としてタンパクが含まれている場合には、検査結果に影響を及ぼさないように、タンパク吸着性の低い樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、親水化処理したポリフッ化ビニリデンなど)からなるのが好ましい。タンパク吸着を防ぐために、リン脂質系高分子などの低タンパク吸着素材を繊維表面に付与しても良い。以上から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、親水化処理したポリフッ化ビニリデンは吸収性が高いことのみならず、低タンパク吸着性といった点から特に好ましい。更に、極細繊維は上述のような樹脂1種類からなる必要はなく、2種類以上の樹脂が混合又は複合されていても良い。
【0016】
本発明の保持材は上述のような極細繊維集合体からなるが、径の小さい孔が多いことによる毛細管作用によって、血漿又は血清の吸収性及び保持性に優れているように、極細繊維集合体の全部の孔の体積の95%を占める孔の径が5μm以下である。この径が小さければ小さい程、毛細管作用が働きやすいため、3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのがより好ましく、1μm以下であるのが更に好ましい。他方、前記径の下限値は特に限定するものではない。なお、本発明において全部の孔の体積の95%を占める孔の径を前記値としているのは、仮に5%程度前記値を超えるような大きな孔があったとしても、残りの95%の体積を占める孔によって十分に毛細管作用が働き、血漿又は血清の吸収性及び保持性に優れているためである。また、本発明における「全部の孔の体積の95%を占める孔の径」は、ASTM E1294−89に規定されている「自動細孔径分布測定機を使ったメンブレンフィルターの細孔径の特性に対する標準試験方法」にしたがって孔径を測定し、最小の孔径から積算して体積の95%が含まれる孔径の最大値をいう。
【0017】
本発明の保持材は上述のような極細繊維の集合体からなるが、静電紡糸法により製造されたものであると、孔径が揃っており、かつ孔径の小さい保持材であることができるため、血漿又は血清の吸収性及び保持性が更に優れている。また、好適であるポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンからなる極細繊維であっても紡糸できるため、このような極細繊維を紡糸した場合には血漿又は血清の吸収性及び保持性が更に優れている。更に、静電紡糸法により製造した保持材は繊維間の接着が緩やかで、血漿又は血清を保持材が吸収した際に膨らみやすいため、吸収時に血球分離材との密着性が高まり、更に吸収性が良くなるという効果も奏する。この静電紡糸法とは樹脂を溶媒に溶解させた紡糸溶液の溶媒を揮発させるとともに電気的に延伸して繊維化する方法であり、より具体的には後述の方法をいう。
【0018】
本発明の保持材は上述のような極細繊維の集合体からなり、その目付は、吸収する血漿又は血清の量や保持材の空隙率によって異なるため特に限定するものではないが、血漿又は血清の保持性に優れているように、5g/m以上であるのが好ましい。目付の上限は特に限定するものではない。
【0019】
本発明の保持材の厚さは特に限定するものではないが、血液分離用具とした時に血球分離材と密着しやすいクッション性を有するように、50μm以上であるのが好ましく、100μm以上であるのがより好ましい。保持材が1枚の極細繊維の集合体から構成されている場合には、1枚の極細繊維の集合体の厚さが前記値の範囲にあるのが好ましく、2枚以上の極細繊維の集合体から構成されている場合には、積層された極細繊維の集合体の厚さが前記値の範囲にあるのが好ましい。なお、厚さの上限は特に限定するものではない。この「厚さ」は10kPa加圧時の厚さを10点で測定し、その10点の算術平均値をいう。
【0020】
本発明の保持材は血漿又は血清の保持量が多いように、またクッション性に優れ血球分離材との密着性に優れるように、空隙率が30%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましく、70%以上であるのが更に好ましく、80%以上であるのが更に好ましい。他方、保持材の機械的強度に優れているように、空隙率は98%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのが更に好ましい。なお、「空隙率(P)」は次の式から算出される値をいう。
P={1−W/(T×d)}×100
ここで、Wは保持材の目付(g/m)を意味し、Tは保持材の厚さ(μm)を意味し、dは極細繊維構成樹脂の密度(g/cm)をそれぞれ意味する。
【0021】
このような本発明の保持材は、例えば、静電紡糸法により製造することができる。より具体的には、(1)極細繊維構成樹脂を含む紡糸溶液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化する紡糸工程、(2)前記繊維化した繊維を捕集体上に集積させて極細繊維の集合体を形成する集積工程、により製造することができる。
【0022】
より具体的には、まず、紡糸溶液を用意する。この紡糸溶液は保持材構成繊維である極細繊維構成樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。極細繊維構成樹脂としては、前述の通り、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、或いはポリフッ化ビニリデンを使用するのが好ましい。溶媒は樹脂によっても変化するため、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。溶媒は1種類でも良いし、2種類以上の溶剤を混ぜた混合溶媒であっても良い。
【0023】
紡糸原液は上述のような樹脂を溶媒に溶解させたものであるが、その濃度は、樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒等によって変化するため、特に限定するものではないが、電界を作用させて繊維化するために、粘度が10〜15000mPa・sの範囲であるような濃度であるのが好ましく、20〜10000mPa・sの範囲であるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が15000mPa・sを超えると、紡糸原液が延伸されにくくなり、繊維となりにくい傾向があるためである。なお、この「粘度」は、粘度測定装置を用い、温度25℃で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
【0024】
この紡糸溶液を吐出するノズルの直径(内径)は、極細繊維の平均繊維径を2μm以下とすることが容易であるように、ノズルの直径は0.1〜2mm程度であるのが好ましい。また、ノズルは金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズルが金属製であればノズルを一方の電極として使用することができ、ノズルが非金属製である場合には、ノズルの内部に電極を設置することにより、吐出した紡糸溶液に電界を作用させることができる。
【0025】
このようなノズルから紡糸溶液を吐出し、吐出した紡糸溶液に電界を作用させることにより延伸して繊維化する。この電界は、極細繊維の所望平均繊維径、ノズルと繊維を集積する捕集体との距離、紡糸溶液の溶媒、紡糸溶液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、極細繊維の平均繊維径を2μm以下とするために、0.2〜5kV/cmであるのが好ましい。印加する電界が大きければ、その電界値の増加に応じて極細繊維の平均繊維径が小さくなる傾向があるが、5kV/cmを超えると、空気の絶縁破壊が生じやすいので好ましくない。また、0.2kV/cm未満になると、繊維形状となりにくい。
【0026】
前述のように吐出した紡糸溶液に電界を作用させることにより、紡糸溶液に静電荷が蓄積され、捕集体側の電極によって電気的に引張られ、引き伸ばされて繊維化する。電気的に引き伸ばしているため、繊維が捕集体に近づくにしたがって、電界により繊維の速度が加速され、平均繊維径の小さい極細繊維となる。また、溶媒の蒸発によって細くなり、静電気密度が高まり、その電気的反発力によって分裂し、更に平均繊維径の小さい極細繊維になると考えている。
【0027】
このような電界は、例えば、ノズル(金属製ノズルの場合にはノズル自体、ガラスや樹脂などの非金属製ノズルの場合にはノズルの内部の電極)と捕集体との間に電位差を設けることによって、作用させることができる。例えば、ノズルに電圧を印加するとともに捕集体をアースすることによって電位差を設けることができるし、逆に、捕集体に電圧を印加するとともにノズルをアースすることによって電位差を設けることもできる。なお、電圧を印加する装置は特に限定されるものではないが、直流高電圧発生装置を使用できるほか、ヴァン・デ・グラフ起電機を用いることもできる。また、印加電圧は前述のような電界強度とすることができるのであれば良く、特に限定するものではないが、5〜50KV程度であるのが好ましい。
【0028】
次いで、(2)前記繊維化した極細繊維を捕集体上に集積させて極細繊維の集合体を形成する集積工程を実施する。この集積工程で使用する捕集体は、極細繊維を捕集できるものであれば良く特に限定されるものではないが、例えば、不織布、織物、編物、ネット、平板、ドラム、或いはベルト形状を有する、金属製や炭素などからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料を使用できる。捕集体を他方の電極として使用する場合には、捕集体は体積抵抗が10Ω以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、ノズル側から見て、捕集体よりも後方に対向電極として導電性材料を配置する場合には、捕集体は必ずしも導電性材料である必要はない。後者のように、捕集体よりも後方に対向電極を配置する場合、捕集体と対向電極とは接触していても良いし、離間していても良い。
【0029】
本発明の保持材である極細繊維集合体は上述のようにして製造できるが、目付が足りないような場合には、2枚以上の極細繊維集合体を積層して、本発明の保持材とすることができる。
【0030】
なお、極細繊維集合体の全部の孔の体積の95%を占める孔の径が5μm以下となるように、紡糸溶液の濃度、粘度、溶媒の種類、ノズル先端と捕集板の距離、印加電圧、紡糸環境の温度、湿度、ノズル先端からの紡糸溶液の吐出量などの条件を適宜調整することによって製造することができる。例えば、水溶性樹脂(例えばポリビニルアルコール)の場合、紡糸溶液の濃度は10〜20wt%、粘度は100〜12000mPa・s、溶媒は純水、ノズル先端と捕集板との距離は10〜20cm、印加電圧は15〜20kV、紡糸環境の温度20〜30℃、湿度40〜60%RH、ノズル先端からの紡糸溶液の吐出量0.1〜1.0g/時間とすることにより製造しやすい。また、水と混和する有機溶剤(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)に溶解する樹脂の場合、紡糸溶液の濃度は10〜30wt%、粘度は100〜5000mPa・s、ノズル先端と捕集板との距離は5〜15cm、印加電圧は10〜20kV、紡糸環境の温度20〜30℃、湿度10〜40%RH、ノズル先端からの紡糸溶液の吐出量0.1〜3.0g/時間程度とすることにより製造しやすい。
【0031】
また、極細繊維がポリフッ化ビニリデンのような疎水性樹脂からなる場合には、極細繊維集合体を製造した後に、紫外線照射、プラズマ照射、或いは親水性樹脂を極細繊維表面に付与するなどの親水化処理を実施するのが好ましい。更には、タンパク吸着を防ぐために、リン脂質系高分子などの低タンパク吸着素材を繊維表面に付与するなどの処理を実施しても良い。
【0032】
本発明の血液分離用具は前述のような保持材と、血球分離材を備えており、使用時に保持材と血球分離材とが隣接可能である。そのため、血球分離材に血液を置くと、血球分離材によって血漿又は血清のみを濾過し、血球と分離することができ、この分離された血漿又は血清は保持材によって吸収され、保持されやすいため、1〜2滴の少量の血液であっても検査することができる。
【0033】
本発明の「使用時に保持材と血球分離材とが隣接可能」とは、使用する前及び使用時において隣接した状態にある場合と、使用する前には隣接していないものの、使用時において隣接した状態にある場合の両方を含む概念である。より具体的には、(1)保持材と血球分離材とが隣接した状態で、プラスチック等からなる固定部材によって一緒に隣接した状態で固定されていても良いし、(2)保持材と血球分離材とがプラスチック等からなる固定部材によって別々に固定されているものの、固定部材を折り曲げるなどして、使用時に隣接した状態となるものであっても良いし、(3)保持材と血球分離材との間にフィルム等の絶縁材が介在した状態で、プラスチック等からなる固定部材によって一緒に固定されており、使用時に絶縁材を取り除くことによって、隣接した状態となるものであっても良い。
【0034】
本発明の血液分離用具は前述のような保持材を備え、使用時に保持材と血球分離材とが隣接可能であること以外は、従来の血液分離用具と全く同様であることができる。なお、血球分離材としては、例えば、ガラスフィルター、非対称性多孔質膜、メルトブロー不織布などを使用することができる。また、保持材は1枚である必要はなく、血漿又は血清の吸収性及び保持性に優れているように、2枚以上を重ねて使用しても良い。
【0035】
なお、本発明の血液分離用具は、例えば、保持材と血球分離材とをそれぞれ準備した後、プラスチック等からなる固定部材を常法により成型すると同時に保持材と血球分離材を固定することによって製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、孔径の測定は、多孔質材料自動細孔測定システム(Porous Materials,Inc社製)により、表面張力が16dynes/cmの液体(GALWICK)を使用して行った。また、厚さは、ダイヤルシックネスゲージ(尾崎製作所社製)を用いて、圧力10kPaで測定した。
【0037】
(実施例1)
完全けん化ポリビニルアルコール(重合度:1000)を純水に溶解させた紡糸溶液(固形分濃度:12.5wt%、粘度:230mPa・s)を調製した。
【0038】
また、シリンジにポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.4mmのステンレス製ノズルを取り付けて、紡糸装置とした。次いで、前記ノズルに高電圧電源を接続した。更に、前記ノズルと対向し、10cm離れた位置に、表面に導電フッ素加工を施したステンレス薄板を取り付けたドラム(捕集体、接地)を設置した。
【0039】
次いで、前記紡糸溶液を前記シリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と直角の方向へ吐出する(吐出量:0.5g/時間)とともに、前記ドラムを一定速度(表面速度:2m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+19kVの電圧を印加して、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記ドラムのステンレス薄板上に極細繊維を集積させて極細繊維集合体を形成した。なお、紡糸環境を温度25℃、湿度は50%RHに維持した状態で極細繊維集合体を形成した。
【0040】
その後、温度180℃で10分間熱処理を行い、不溶化して極細繊維集合体を製造し、この極細繊維集合体を8枚積層して本発明の保持材(目付:48g/m、厚さ:224μm)を製造した。この保持材を構成する極細繊維は連続繊維で、束状にはなく、極細繊維が分散した状態にあった。なお、この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0041】
(実施例2)
部分けん化ポリビニルアルコール(重合度:2800)を純水に溶解させた紡糸溶液(固形分濃度:10wt%、粘度:2500mPa・s)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、極細繊維集合体を形成した。
【0042】
その後、温度180℃で30分間熱処理を行い、不溶化して極細繊維集合体を製造し、この極細繊維集合体を8枚積層して本発明の保持材(目付:52g/m、厚さ:208μm)を製造した。この保持材を構成する極細繊維は連続繊維で、束状にはなく、極細繊維が分散した状態にあった。なお、この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0043】
(実施例3)
部分けん化ポリビニルアルコール(重合度:2800)を純水に溶解させた紡糸溶液(固形分濃度:14wt%、粘度:11000mPa・s)を使用し、ノズルとドラムとの距離を20cmとしたこと以外は実施例1と同様にして、極細繊維集合体を形成した。
【0044】
その後、温度180℃で30分間熱処理を行い、不溶化して極細繊維集合体を製造し、この極細繊維集合体を2枚積層して本発明の保持材(目付:51g/m、厚さ:320μm)を製造した。この保持材を構成する極細繊維は連続繊維で、束状にはなく、極細繊維が分散した状態にあった。なお、この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0045】
(実施例4)
ポリアクリロニトリル(アルドリッチ製)をジメチルホルムアミドに溶解させた紡糸溶液(固形分濃度:10wt%、粘度:930Pa・s)を使用し、吐出量を1g/時間、印加電圧を+16KV、及び紡糸環境の湿度を17%RHとしたこと以外は実施例1と同様にして、極細繊維集合体を製造し、この極細繊維集合体を8枚積層して本発明の保持材(目付:50.4g/m、厚さ:256μm)を製造した。この保持材を構成する極細繊維は連続繊維で、束状にはなく、極細繊維が分散した状態にあった。なお、この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0046】
(実施例5)
実施例4の保持材に紫外線照射装置(セン特殊光源社製、「UVE−110−IE」)を使用し、低圧水銀ランプにより照射強度5mW/cm、照射時間10分の条件で紫外線照射処理(親水化処理)を実施し、親水化保持材とした。この親水化保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0047】
(比較例1)
セルロース濾紙(ADVANTEC社製、「5C」)1枚を保持材とした。この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0048】
(比較例2)
セルロース濾紙(ADVANTEC社製、「6」)1枚を保持材とした。この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0049】
(比較例3)
セルロース濾紙(ADVANTEC社製、「1」)1枚を保持材とした。この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0050】
(比較例4)
共重合ポリエステルを海成分とし、ナイロンを島成分とする海島型繊維をアルカリ溶液により海成分を除去して製造したナイロン繊維(平均繊維径:2μm)を60mass%と、ナイロン接着繊維(平均繊維径:15μm)を40mass%含み、ナイロン接着繊維により接着した湿式不織布1枚を保持材とした。この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0051】
(比較例5)
ポリエステル繊維からなるメルトブロー不織布(平均繊維径:1.8μm)を用意し、このメルトブロー不織布1枚をシリコンゴム(厚さ:3mm)を担持したステンレス電極でシリコンゴムがメルトブロー不織布と当接するように挟み、大気圧下、周波数15kHz、単位電力1W/cmの交流電圧を15秒間印加して、親水化処理を実施し、保持材とした。この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0052】
(比較例6)
ガラス濾紙(Whatman社製、GF/C)1枚を保持材とした。この保持材の物性は表1に示す通りであった。
【0053】
(血清採取率の測定)
実施例1〜5及び比較例1〜6の各保持材をそれぞれ2cm角に切断した後、表1に示す数だけ積層して血清の保持層(質量:Rb)とした。次いで、血清の保持層の上に、血球分離材として、非対称性多孔質膜(質量:Sb、ポール社製、「BTS−SP300」を載せた。更に、非対称性多孔質膜の上に、直径15mmの穴のあいた金属板(質量:130g)を載せた。
【0054】
その後、金属板の穴に血液を1滴(40〜50μL)滴下し、全ての血液が非対称性多孔質膜に吸収された直後に血球分離材と保持層とを分離し、血球分離材の質量(Sa)及び保持層の質量(Ra)を測定した。これらの質量から次の式により血清採取率(E、単位:%)を算出した。この結果は表1に示す通りであった。
E=[(Ra−Rb)/{(Sa−Sb)+(Ra−Rb)}]×100
【0055】
表1から明らかなように、本発明の保持材の血清採取率は45〜58%で、非常に吸収性及び保持性に優れるものであることがわかった。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が2μm以下の極細繊維の集合体からなり、前記極細繊維集合体の全部の孔の体積の95%を占める孔の径が5μm以下であることを特徴とする、血漿又は血清の保持材。
【請求項2】
静電紡糸法により製造されたものであることを特徴とする、請求項1記載の血漿又は血清の保持材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の血漿又は血清の保持材と、血球分離材を備えており、使用時に血漿又は血清の保持材と血球分離材とが隣接可能であることを特徴とする血液分離用具。