説明

血漿浄化装置及び血漿浄化装置の作動方法

【課題】血漿流路を着脱可能な溶血センサを用いて、溶血の発生を精度良く検出できる血漿浄化装置を実現する。
【解決手段】血漿浄化装置1は、血液から血漿を分離する血漿分離器10と、血漿分離器10で分離された血漿が流れる血漿流路70と、血漿流路70が着脱自在であり、血漿流路70に光を透過したときの透過光量を検出する溶血センサ80と、溶血センサ80により検出された透過光量に基づいて、溶血の発生を判定する溶血判定制御部140とを備えている。溶血判定制御部140は、溶血の発生の基準となる透過光量の下限閾値Lmを、溶血センサ80により検出された透過光量Laに基づいて初期設定し、その後、検出透過光量Laが増加したときには、下限閾値Lmを透過光量に追従するように上昇させ、検出透過光量Laが減少したときには、下限閾値Lmを一定に保つように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿浄化装置及び血漿浄化装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者から血液を取り出し、当該血液から血漿を分離し、血液を浄化して体内に戻す血漿交換療法がある。この血漿交換療法は、血漿浄化装置を用いて行われ、血漿浄化装置は、患者の血液を、中空糸膜などの分離膜を有する血漿分離器に供給し、当該血漿分離器から患者に戻す血液回路と、血漿分離器で分離された血漿を流す血漿回路を備えている(特許文献1参照)。血漿浄化装置では、血漿回路の血漿ポンプにより負圧を発生させ、その負圧により血液中の血漿を血漿分離器の分離膜を通過させて分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−125207号公報
【特許文献2】特開2010−172419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記血漿浄化装置では、血漿分離器の分離膜で血漿を分離する際に、血液中の赤血球が破損する溶血が発生することがある。これは、患者の血中の赤血球が破損していくことを意味するため、溶血が発生した際にはそれを検出する必要がある。溶血の発生を検出するため、血漿分離器の下流の血漿流路に溶血センサを取り付けることが考えられる。溶血センサには、溶血が生じた際に血漿中にヘモグロビンの量が増加することを利用して、血漿流路のチューブにヘモグロビンの吸収スペクトルのピークを有する波長の光を透過しその透過光量を検出して溶血の発生を検出する光センサを用いることが考えられる。この場合、溶血センサにより検出された透過光量が、予め定められている透過光量の一定の下限閾値を下回ったときに、溶血の発生が確認される。
【0005】
しかしながら、血漿浄化治療において血漿流路には、当初プライミング液が流れその後血漿に置換されていく。このように血漿流路に流れる液体が変動し透明度が変わるため、一定の下限閾値を基準に判断しても溶血の発生の判断を誤ることが考えられる。
【0006】
また、血漿浄化装置に溶血センサを設ける場合には、治療の準備の際に血漿流路のチューブを溶血センサに取り付ける必要がある。この際、例えば血漿流路のチューブに寸法誤差があったり、作業者が誤ってチューブの固定位置がずれたりすることが考えられる。この場合、溶血センサで検出される透過光量が変動するため、溶血の発生を誤って検出することが考えられる。
【0007】
なお、透析治療を行うための透析装置に漏血や溶血を検出する光センサを設ける技術が開示されているが(特許文献2参照)、この透析装置は、透析液の流路と光センサが予め一体的に装置に内蔵され、透析液流路と光センサの位置関係が一定であることを前提としたものであり、血漿流路を溶血センサに着脱するような血漿浄化装置には採用できない。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、血漿流路を着脱可能な溶血センサを用いて、溶血の発生を精度良く検出できる血漿浄化装置及び血漿浄化装置の作動方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、体内から取り出された血液中の血漿成分を浄化する血漿浄化装置であって、血液から血漿を分離する血漿分離器と、前記血漿分離器で分離された血漿が流れる血漿流路と、前記血漿流路が着脱自在であり、前記血液流路に光を透過したときの透過光量を検出して溶血を検出する溶血センサと、前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて、当該透過光量が下限閾値を下回るか否かで溶血の発生を判定する溶血判定制御部であって、前記溶血の発生の基準となる透過光量の下限閾値を、前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて初期設定し、その後、前記検出された透過光量が増加したときには、前記下限閾値を前記透過光量に追従するように上昇させ、前記検出された透過光量が減少したときには、前記下限閾値を一定に保つように前記下限閾値を制御する、溶血判定制御部と、を備える、血漿浄化装置である。
【0010】
本発明によれば、透過光量の下限閾値を、溶血センサにより検出された透過光量に基づいて初期設定し、透過光量が増加したときには、当該下限閾値を上昇させ、透過光量が減少したときには、下限閾値を一定に保つので、透過光量の下限閾値を実際に検出した透過光量に応じて変動させる。このため、例えば血漿流路を流れる液体がプライミング液から血漿に変動したり、血漿流路に寸法誤差があったり、溶血センサに対する血漿流路の取り付けが適切に行われなかったような場合でも、それらの要因に左右されず、溶血の発生を適正に検出できる。また、溶血が発生した場合には透過光量が減少するので、溶血の発生と無関係な透過光量の増加の場合には、下限閾値を上昇させ、溶血の発生と関係があり得る透過光量の減少の場合には、下限閾値を一定にしている。この結果、透過光量の変動に応じて下限閾値が適正に変動され、溶血の発生をより精度よく検出できる。
【0011】
また、前記溶血判定制御部は、前記下限閾値の初期設定から30〜90分間経過する毎に、その経過時の前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて前記下限閾値を再設定するものであってもよい。
【0012】
上記血漿浄化装置における前記下限閾値は、検出された透過光量の0.2〜0.9倍の値に初期設定されてもよい。
【0013】
前記下限閾値には、不変の下限値が設定されていてもよい。
【0014】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されたときに、前記下限閾値を初期設定するものであってもよい。
【0015】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングを、前記血漿流路に流れる液量に基づいて設定してもよい。
【0016】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングを、前記血漿分離器の容量に基づいて設定してもよい。
【0017】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングを、前記溶血センサにより検出された透過光量の変化に基づいて設定してもよい。
【0018】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内にプライミング液が流れているときの透過光量の不変の下限閾値を設定し、前記血漿流路にプライミング液が流れている間に、前記透過光量と前記不変の下限閾値を比較して溶血の発生を判定してもよい。
【0019】
以上の血漿浄化装置は、前記溶血判定制御部により溶血の発生が判定されたときに警報を出力するものであってもよい。
【0020】
別の観点による本発明は、体内から取り出された血液中の血漿成分を浄化する血漿浄化装置の作動方法であって、前記血液浄化装置が、血液から血漿を分離する血漿分離器と、前記血漿分離器で分離された血漿が流れる血漿流路と、前記血漿流路が着脱可能であり、前記血漿流路に光を透過したときの透過光量を検出する溶血センサと、前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて、当該透過光量が下限閾値を下回るか否かで溶血の発生を判定する溶血判定制御部と、を備えたものであり、前記透過光量の下限閾値を、前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて初期設定し、その後、前記検出された透過光量が増加したときには、前記下限閾値を前記透過光量に追従するように上昇させ、前記検出された透過光量が減少したときには、前記下限閾値を一定に保つように前記溶血判定制御部が作動する、血漿浄化装置の作動方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、血漿浄化装置において、溶血の発生を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】血漿浄化装置の構成の概略を示す説明図である。
【図2】溶血センサの構成の概略を示す説明図である。
【図3】検出透過光量の変動例と、下限閾値、下限値の関係を示すグラフである。
【図4】単純血漿交換療法を行う血漿浄化装置の構成の概略を示す説明図である。
【図5】血漿吸着療法を行う血漿浄化装置の構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る血漿浄化装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0024】
図1に示す血漿浄化装置1は、血漿浄化療法のうちの二重濾過血漿浄化療法(Double Filtration Plasmapheresis(DFPP))を実施するものである。
【0025】
血漿浄化装置1は、例えば患者から取り出された血液を血漿分離器10に送り患者に戻す血液回路11と、血漿分離器10により血液から分離された血漿を血漿成分分離器12に送り血液回路11に戻す血漿回路13を有している。
【0026】
血液回路11は、一端が患者の脱血部に接続され、他端が血漿分離器10の入口10aに接続された脱血流路20と、一端が血漿分離器10の出口10bに接続され、他端が患者の返血部に接続される返血流路21を有している。脱血流路20及び返血流路21は、例えば軟質のチューブにより構成されている。脱血流路20には、流路のチューブを外側から扱いて液送する血液ポンプ30、気泡を排出するためのドリップチャンバ31、血液回路11に抗凝固剤を注入するためのシリンジポンプ32等が設けられている。ドリップチャンバ31には、例えば血漿分離器10の入口圧を測定する圧力センサ33が設けられている。返血流路21には、ドリップチャンバ40、気泡検知器41、クランプバルブ42、圧力センサ43等が設けられている。
【0027】
血漿分離器10は、例えば分離膜としての中空糸膜50を有している。脱血流路20から血漿分離器10に流入した血液は中空糸膜50の一次側を流れ、返血流路21に流出し、中空糸膜50の一次側を流れる際に、血液中の血漿が中空糸膜50の二次側に流れ出て分離される。
【0028】
血漿分離器10の中空糸膜50の二次側の出口10cには、中空糸膜50の二次側の圧力を検出する圧力センサ51が設けられている。
【0029】
血漿回路11は、一端が血漿分離器10の中空糸膜50の二次側の出口10dに接続され、他端が血漿成分分離器12の入口12aに接続された第1の血漿流路70と、一端が血漿成分分離器12の出口12cに接続され、他端が返血流路21に接続された第2の血漿流路71を有している。第1の血漿流路70及び第2の血漿流路71は、例えば軟質のチューブにより構成されている。
【0030】
第1の血漿流路70には、例えば溶血センサ80、血漿ポンプ81、ドリップチャンバ82、圧力センサ83等が設けられている。血漿成分分離器12は、例えば中空糸膜90を有し、血漿から所定の病因物質を分離できる。例えば血漿成分分離器12は、血漿が入口12aから中空糸膜90の一次側に流れ込み、中空糸膜90の二次側に流れ出て病因物質が分離される。また、血漿成分分離器12の中空糸膜90一次側の出口12bには、廃液ポンプ100が設けられた廃液流路101が接続されており、分離された病因物質は、廃液流路101を通じて排出される。第2の血漿流路71には、例えば補液バッグ110に通じる補液流路111が接続されている。補液流路111には、補液ポンプ112が設けられている。
【0031】
溶血センサ80は、例えば図2に示すように発光部120と、受光部121と、それらを支持して固定する支持部材122及びセンサ制御部123を有している。第1の血漿流路70のチューブは、発光部120と受光部121の間に着脱できる。センサ制御部123は、発光部120と受光部121の動作を制御し、発光部120に所定の光量の所定の波長(ヘモグロビンの吸収スペクトルのピークを有する波長)の光を発光させ、第1の血漿流路70を透過した光を受光部121で受光させ、その透過光量を検出できる。溶血センサ80で検出された透過光量の情報は、センサ制御部123から後述の制御装置130に出力できる。
【0032】
血漿浄化装置1は、例えば血液ポンプ30、気泡検知器41、血漿ポンプ81、溶血センサ80、廃液ポンプ100、補液ポンプ112等の各装置の動作を制御して血漿交換処理を実行する制御装置130を有している。制御装置130は、汎用コンピュータと同様のCPU、メモリ等を有し、予めメモリに記憶されたプログラムを実行して血漿交換処理を実施できる。
【0033】
制御装置130は、溶血センサ80により検出された透過光量に基づいて、溶血の発生を判定する溶血判定制御部140として機能する。溶血判定制御部140は、溶血の発生の基準となる透過光量の下限閾値Lm(図3に示す)を、溶血センサ80により検出された透過光量(以下、「検出透過光量」とする。)に基づいて初期設定し、その後、検出透過光量が増加したときには、下限閾値Lmを透過光量に追従するように上昇させ、検出透過光量が減少したときには、下限閾値Lmを一定に保つように制御する。下限閾値Lmは、検出透過光量の0.2〜0.9倍の値に設定する。
【0034】
下限閾値Lmの初期設定は、第1の血漿流路70内がプライミング液から血漿に置換されたときに行われる。この第1の血漿流路70内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングは、第1の血漿流路70に流れる液量に基づいて設定されてもよいし、血漿分離器10の容量に基づいて設定されてもよいし、検出透過光量の変化に基づいて設定されてもよい。
【0035】
また、溶血判定制御部140は、下限閾値Lmの初期設定から所定時間T1、例えば30〜90分間経過する毎に、その経過時の検出透過光量に基づいて下限閾値Lmを再設定する。また、下限閾値Lmには、予め不変の下限値Lcを設定しておき、上記初期設定や再設定により下限閾値Lmが不変の下限値Lcより低くなる場合には、下限値Lcを下限閾値Lmとして設定する。
【0036】
さらに、溶血判定制御部140は、第1の血漿流路70内にプライミング液が流れているときの透過光量の不変の下限閾値Lmを設定し、第1の血漿流路70にプライミング液が流れている間は、検出透過流量と不変の下限閾値Lmに基づいて溶血の発生を判定する。
【0037】
制御装置130は、警報出力部141を有し、溶血判定制御部140により溶血の発生が判定されたとき、つまり検出透過光量が下限閾値Lmを下回ったときに警報を出力する。
【0038】
次に、以上のように構成された血漿浄化装置1の動作の一例を説明する。血漿浄化治療が行われる前の準備段階には、図2に示すように第1の血漿流路70のチューブが溶血センサ80に取り付けられる。また、図1に示す血漿分離器10、血液回路11及び血漿回路13内を生理食塩水などのプライミング液に置換するプライミング処理が行われる。
【0039】
血漿浄化治療が開始されると、図1に示す血液回路11では、血液ポンプ30が稼働し、患者から取り出された血液が血漿分離器10に送られる。血漿分離器10の血液中の血漿は、中空糸膜50の一次側から二次側に流出し血液から分離される。残りの血液は、血漿分離器10から返血流路21を通って患者に戻される。一方、血漿回路13では、血漿ポンプ81が稼働し、血漿分離器10で分離された血漿が、第1の血漿流路70を通じて溶血センサ80を通過し、血漿成分分離器12に送られる。血漿成分分離器12に流入した血漿は、中空糸膜90の一次側から二次側に流出し、中空糸膜90により病因物質が分離され、当該二次側から第2の血漿流路71に流出する。病因物質は、血漿成分分離器12から廃液流路101を通じて排出される。第2の血漿流路71に流出した血漿は、補液バッグ110から補液が補充され、その後返血流路21に送られる。返血流路21に送られた血漿は、血漿分離器10からの血液と合流して、患者に戻される。
【0040】
血漿浄化治療中は、溶血センサ80が作動し、血漿分離器10の出口側の第1の血漿流路70において溶血が発生しているか否かが検出される。溶血の発生の判断は、溶血センサ80により検出された検出透過光量La(図3に示す)が、その下限閾値Lmより下がるか否かで行われる。図3には、血液浄化治療時の検出透過光量Laの一例と、下限閾値Lm及び下限値Lcを示す。
【0041】
血漿浄化治療開始直後は、プライミング処理により血漿分離器10等に充填されていたプライミング液が第1の血漿流路70を流れており、プライミング液が血漿に置換されていく間(置換期間T0)は、不変の下限閾値Lmが設定される。この不変の下限閾値Lmは、実験に基づいて低い値に設定されている。例えばこのときの不変の下限閾値Lmは、第1の血漿流路70のチューブ寸法誤差、溶血センサ80に対する第1の血漿流路70のチューブの取り付けによる誤差、血液中のヘモグロビン濃度のバラつきを考慮し、プライミング液から血漿に置換されたときの透過光量を実験より求め、その透過光量に対し余裕のある値(低い値)に設定してもよい。また、不変の下限閾値Lmは、到底許容できない溶血が発生した場合の値に設定してもよい。置換期間T0では、検出透過光量Laは、次第に低下する。
【0042】
第1の血漿流路70内のプライミング液が血漿に置換されると、この時(置換終了時ta)に下限閾値Lmが初期設定される。初期設定の下限閾値Lmは、この置換終了時taの検出透過光量Laの0.2〜0.9倍の値に設定される。プライミング液が血漿に置換されたタイミング、つまり置換終了時taは、例えば第1の血漿流路70に流れた液量に基づいて設定される。例えば第1の血液流路70の血漿ポンプ81の流量設定値により、血漿浄化治療開始時から第1の血漿流路70で流れた総流量が分かり、当該総流量が、第1の血漿流路70を通過するはずのプライミング液の液量に到達する時間を置換終了時taとする。
【0043】
なお、置換終了時taは、血漿分離器10の容量に基づいて設定してもよい。この場合、例えば溶血判定制御部140が、血漿分離器10の容量を認識し、当該容量に基づいて、血漿分離器10内のプライミング液がすべて第1の血漿流路70を流れ終わる時間を置換終了時taとする。なお、溶血判定制御部140は、例えばユーザが容量を入力することによって血漿分離器10の容量を認識してもよいし、血漿分離器10に予め付された容量に関するコードを読み取り機で読み取ることにより血漿分離器10の容量を認識してもよい。
【0044】
また、置換終了時taは、検出透過光量Laの変化に基づいて設定してもよい。この場合、例えば第1の血漿流路70にプライミング液が流れている間に溶血センサ80により透過光量が検出され、検出透過光量が下がりきった時間を置換終了時taとする。
【0045】
初期設定終了後は、検出透過光量Laに基づいて下限閾値Lmを変動させ、検出透過光量Laが増加したときには、下限閾値Lmをその透過光量に追従するように上昇させ、検出透過光量Laが減少したときには、下限閾値Lmを一定に保つ。
【0046】
そして、下限閾値Lmの初期設定時(置換終了時ta)から所定時間T1、例えば30〜90分間経過する毎に、その経過時の検出透過光量Laに基づいて下限閾値Lmが再設定される。つまり、置換終了時taから所定時間T1が経過する度に、上述の初期設定時と同様に下限閾値Lmが、その時に検出透過光量Laの0.2〜0.9倍の値に設定される。
【0047】
また、下限閾値Lmには、不変の下限値Lcが設定されており、上述の初期設定や再設定により下限閾値Lmが予め定められた不変の下限値Lcより低くなる場合には、当該下限値Lcが下限閾値Lmとして用いられる。よって、下限閾値Lmが不変の下限値Lcより下がることはない。
【0048】
そして、検出透過光量Laが下限閾値Lmよりも低くなった場合(図3のLa線の点線で示した場合)には、溶血が発生していると判断され、警報が出力される。
【0049】
本実施の形態によれば、透過光量の下限閾値Lmを、溶血センサ80により検出された透過光量に基づいて初期設定し、検出透過光量Laが増加したときには、下限閾値Lmを上昇させ、検出透過光量Laが減少したときには、下限閾値Lmを一定に保つので、透過光量の下限閾値Lmを実際に検出した透過光量に応じて変動させる。このため、例えば第1の血漿流路70を流れる液体がプライミング液から血漿に変動したり、第1の血漿流路70のチューブに寸法誤差があったり、溶血センサ80に対する第1の血漿流路70のチューブの取り付けが適切に行われなかったような場合でも、それらの要因に左右されず、溶血の発生を適正に検出できる。また、溶血が発生した場合には検出透過光量Laが減少するので、溶血の発生と無関係な透過光量の増加の場合には、下限閾値Lmを上昇させ、溶血の発生と関係があり得る透過光量の減少の場合には、下限閾値Lmを一定にしている。この結果、検出透過光量Laの変動に応じて下限閾値Lmが適正に変動され、溶血の発生をより精度よく検出できる。
【0050】
下限閾値Lmは、検出透過光量Laの0.2〜0.9倍の値に設定されるので、溶血の発生の検出の精度を向上できる。
【0051】
ところで、溶血が発生した場合には、ある程度の速い速度で検出透過光量Laが低下する(図3のLa線の点線)。また、それより検出透過光量Laの低下速度が遅い場合には、溶血センサの温度特性の変動等の他の要因で検出透過光量Laが低下している可能性が高い。他の要因で検出透過光量Laが緩やかに低下している場合であっても、長時間経過すると、下限閾値Lmに到達する恐れがある。本実施の形態では、下限閾値Lmの初期設定から所定期間T1の30〜90分間経過する毎に、その経過時の検出透過光量Laに基づいて下限閾値Lmを再設定している。こうすることにより、ある程度の速い速度で検出透過光量Laが低下する場合にのみ下限閾値Lmに到達し、それより検出透過光量Laの低下速度が遅い場合には、下限閾値Lmに到達せず、溶血の発生以外の他の要因の場合を排除できるので、溶血の発生をより精度よく検出できる。
【0052】
下限閾値Lmには、不変の下限値Lcが設定されているので、下限閾値Lmが極端に低くなりすぎることを防止できる。これにより、溶血の発生の検出を適正に行うことができる。
【0053】
第1の血漿流路70内がプライミング液から血漿に置換されたとき(置換完了時ta)に、下限閾値Lmを初期設定するので、実際に血漿が流れてからの溶血の発生を適切に検出できる。また、プライミング液が血漿に置換されていく間の透過光量の低下によって溶血の発生を誤検知することを防止できる。
【0054】
また、第1の血漿流路70内にプライミング液が流れているとき(置換期間T0)の不変の下限閾値Lmを設定し、第1の血漿流路70にプライミング液が流れている間は、検出透過光量Laと不変の下限閾値Lmに基づいて溶血の発生を判定するので、置換期間T0の溶血の発生も検出することができる。また、不変の下限閾値Lmを低く設定しておくことにより、置換期間T0の検出透過光量Laの低下や変動により溶血の発生を誤検知することを防止できる。
【0055】
第1の血漿流路70内がプライミング液から血漿に置換されるタイミング(置換完了時ta)を、第1の血漿流路70に流れる液量に基づいて設定しているので、置換完了時taを容易に検出できる。また、置換完了時taを、血漿分離器10の容量に基づいて設定する場合には、置換完了時taを正確に検出できる。さらに、置換完了時taを、溶血センサ80により検出された透過光量の変化に基づいて設定する場合には、より正確に置換完了時taを検出できる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
例えば以上の実施の形態では、血漿浄化装置1が血漿交換治療のうちの二重濾過血漿交換療法を行うものであったが、本発明にかかる血漿浄化装置は、単純血漿交換療法、血漿吸着療法などの他の血液交換治療を行うものにも適用できる。単純血漿交換療法を行う血漿浄化装置1は、例えば図4に示すように第1の血漿流路70が血漿成分分離器12に接続されておらず、第1の血漿流路70を通過する血漿が廃液され、補液バッグ110から第2の血漿流路71を通じて新たな血漿が血液に補充される。また、血漿吸着療法を行う血漿浄化装置1は、例えば図5に示すように第1の血漿流路70が血漿吸着器150に接続され、その血漿吸着器150で病因物質が吸着除去された血漿が第2の血漿流路71を通じて血液に戻される。また、血漿浄化装置1は、必ずしも溶血の発生を判定する直接的な動作を行うものである必要はなく、検出透過光量と下限閾値を比較して検出透過光量が下限閾値を下回った場合に警報を出力するなど、溶血の発生を実質的に判定していればよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、血漿浄化装置において溶血の発生を精度良く検出する際に有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 血漿浄化装置
10 血漿分離器
11 血液回路
12 血漿成分分離器
13 血漿回路
20 脱血流路
21 返血流路
30 血液ポンプ
31 ドリップチャンバ
32 シリンジポンプ
33 圧力センサ
40 ドリップチャンバ
41 気泡検知器
42 クランプバルブ
43 圧力センサ
50 中空糸膜
51 圧力センサ
80 溶血センサ
81 血漿ポンプ
82 ドリップチャンバ
83 圧力センサ
90 中空糸膜
100 廃液ポンプ
101 廃液流路
110 補液バッグ
111 補液流路
112 補液ポンプ
120 発光部
121 受光部
122 支持部材
123 センサ制御部
130 制御装置
140 溶血判定制御部
141 警報出力部
150 血漿吸着器
La 検出透過光量
Lm 下限閾値
Lc 下限値
T0 置換期間
ta 置換終了時間
T1 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内から取り出された血液中の血漿成分を浄化する血漿浄化装置であって、
血液から血漿を分離する血漿分離器と、
前記血漿分離器で分離された血漿が流れる血漿流路と、
前記血漿流路が着脱可能であり、前記血漿流路に光を透過したときの透過光量を検出する溶血センサと、
前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて、当該透過光量が下限閾値を下回るか否かで溶血の発生を判定する溶血判定制御部であって、前記透過光量の下限閾値を、前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて初期設定し、その後、前記検出された透過光量が増加したときには、前記下限閾値を前記透過光量に追従するように上昇させ、前記検出された透過光量が減少したときには、前記下限閾値を一定に保つように前記下限閾値を制御する、溶血判定制御部と、を備える、血漿浄化装置。
【請求項2】
前記溶血判定制御部は、前記下限閾値の初期設定から30〜90分間経過する毎に、その経過時の前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて前記下限閾値を再設定する、請求項1に記載の血漿浄化装置。
【請求項3】
前記下限閾値は、検出された透過光量の0.2〜0.9倍の値に設定される、請求項1又は2に記載の血漿浄化装置。
【請求項4】
前記下限閾値には、不変の下限値が設定されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血漿浄化装置。
【請求項5】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されたときに、前記下限閾値を初期設定する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血漿浄化装置。
【請求項6】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングを、前記血漿流路に流れる液量に基づいて設定している、請求項5に記載の血漿浄化装置。
【請求項7】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングを、前記血漿分離器の容量に基づいて設定している、請求項5に記載の血漿浄化装置。
【請求項8】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内がプライミング液から血漿に置換されるタイミングを、前記溶血センサにより検出された透過光量の変化に基づいて設定している、請求項5に記載の血漿浄化装置。
【請求項9】
前記溶血判定制御部は、前記血漿流路内にプライミング液が流れているときの透過光量の不変の下限閾値を設定し、前記血漿流路にプライミング液が流れている間に、前記透過光量と前記不変の下限閾値を比較して溶血の発生を判定する、請求項1〜8のいずれかい項に記載の血漿浄化装置。
【請求項10】
前記溶血判定制御部により溶血の発生が判定されたときに警報を出力する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の血漿浄化装置。
【請求項11】
体内から取り出された血液中の血漿成分を浄化する血漿浄化装置の作動方法であって、
前記血液浄化装置が、
血液から血漿を分離する血漿分離器と、
前記血漿分離器で分離された血漿が流れる血漿流路と、
前記血漿流路が着脱可能であり、前記血漿流路に光を透過したときの透過光量を検出する溶血センサと、
前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて、当該透過光量が下限閾値を下回るか否かで溶血の発生を判定する溶血判定制御部と、を備えたものであり、
前記透過光量の下限閾値を、前記溶血センサにより検出された透過光量に基づいて初期設定し、その後、前記検出された透過光量が増加したときには、前記下限閾値を前記透過光量に追従するように上昇させ、前記検出された透過光量が減少したときには、前記下限閾値を一定に保つように前記溶血判定制御部が作動する、血漿浄化装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22021(P2013−22021A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155981(P2011−155981)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【出願人】(000138037)株式会社メテク (11)
【Fターム(参考)】