説明

血球停止膜、血液分離フィルタ、血液分離装置及び検体採取容器

【課題】血液から血漿又は血清を短時間で採取することができ、分離途中での閉塞や溶血が生じ難く、かつ部品点数を減らし、コストを低減することができる血球停止膜、並びに該血球停止膜を備えた血液分離フィルタ、血液分離装置及び検体採取容器を提供する。
【解決手段】血液から血球成分を捕捉し、血漿又は血清を採取するのに用いられ、バブルポイント圧が1.3〜4.5kg/cmの範囲にあり、かつ0.7kg/cmの圧力下での水流量が32mL/分/cm以下である血球停止膜3、並びに該血球停止膜3と、血球成分よりも血漿又は血清が早く通過する血液分離部材4とを備えた血液分離フィルタ、血液分離装置1及び検体採取容器11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から血漿又は血清を採取するのに用いられる血球停止膜であって、より詳細には、血液中の血球成分を捕捉し、短時間で血漿又は血清を採取することができる血球停止膜、並びに該血球停止膜を備えた血液分離フィルタ、血液分離装置及び検体採取容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液から血球を除去し、臨床検査に必要な血漿または血清を得るために、遠心分離法が用いられてきた。しかし、遠心分離法では、分離後に上澄みの血漿または血清を移しかえる作業等が煩雑であった。また、検査結果を得るまでに時間を要し、さらに大型で高価な遠心分離機が必要であった。
【0003】
この問題を解決するために、遠心分離機を用いることなく、血液から血球を除去し、臨床検査に必要な血漿または血清を得ることを可能とする様々な分離装置が提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、入口と出口とを有する容器内に濾過材を装着した血漿または血清分離フィルタが開示されている。濾過材は、高分子極細繊維集合体または多孔質ポリマーからなる。高分子極細繊維集合体または多孔質ポリマーには、親水性ポリマーが固定されている。
【0005】
特許文献1では、濾過材中で血液を移動させ、かつ血漿または血清を分離採取する間に親水性ポリマーが膨潤する。親水性ポリマーの膨潤により、フィルタが閉塞され、濾過が自動停止する。所定量の血漿または血清を採取した後、血球が到達するまでに濾過が自動的に停止するため、血漿または血清への血球の混入を自動的に防ぐことができるとされている。
【0006】
他方、下記の特許文献2には、血液が流れる流路を有する流路形成部材内に、血液を血球成分と血漿又は血清とに分離する血液分離フィルタと、血球成分の混入を防止する血球停止フィルタと、血漿又は血清に接触されると膨潤し、流路を閉塞する水膨潤性ポリマーとを備える血液分離フィルタ装置が開示されている。
【0007】
特許文献2では、血液分離フィルタを通過する際に、血液が移動速度差により血球成分と血漿又は血清とに分離される。また、血液分離フィルタによりも下流に配置された血球停止フィルタにより、血球成分の通過が防がれる。さらに、所定量の血漿又は血清を採取した後に、水膨潤性ポリマーが膨潤し、流路が閉塞される。
【特許文献1】特開平11−285607号公報
【特許文献2】特許第3809457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、親水性ポリマーが膨潤し、フィルタが閉塞されるので、血漿または血清への血球の混入を自動的に防ぐことができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、濾過材中での移動速度差により、血球と、血漿または血清とが分離されていた。上記移動速度差により分離を行う場合、例えばヘマトクリットや粘度が異なる血液では移動速度差が異なり、場合によっては、分離途中でフィルタが閉塞し、検体の回収量が大幅に減少することがあった。さらに、フィルタが閉塞する前に、血球がフィルタを通過し、血漿または血清に混入することもあった。
【0010】
他方、特許文献2では、血球停止フィルタを備えているため、ヘマトクリットや粘度の異なる血液を用いたとしても、血液から血球を捕捉し、血漿または血清を効果的に分離することができる。また、水膨潤性ポリマーにより流路が閉塞されるので、血漿または血清の採取後に、長時間放置されて溶血が生じたとしても、赤血球内成分が血漿または血清に混入するおそれはない。
【0011】
しかしながら、特許文献2では、分離された検体によって水膨潤ポリマーが膨潤し流路が閉塞される機構上、検体量が減少する問題があった。また、水膨潤性ポリマーにより流路が閉塞されるので、赤血球内成分の血漿または血清への混入をある程度防ぐことはできるが、水膨潤性ポリマーを配置する場合には、部品点数が増え、部品費用及び加工コストが高くなりがちであった。
【0012】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、血液から血漿又は血清を短時間で採取することができ、分離途中での閉塞や溶血が生じ難く、かつ部品点数を減らし、コストを低減することができる血球停止膜、並びに該血球停止膜を備えた血液分離フィルタ、血液分離装置及び検体採取容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、血液から血球成分を捕捉し、血漿又は血清を採取するのに用いられる血球停止膜であって、バブルポイント圧が1.3〜4.5kg/cmの範囲にあり、かつ0.7kg/cmの圧力下での水流量が32mL/分/cm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明のある特定の局面では、血球停止膜は、表面が親水性である。
【0015】
本発明に係る血液分離フィルタは、本発明に従って構成された血球停止膜と、血球成分よりも血漿又は血清が早く通過する血液分離部材とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る血液分離装置は、本発明に従って構成された血液分離フィルタと、血液の入口である第1の開口と、血液の出口である第2の開口とを有し、かつ血液が流れる流路を有する流路形成部材とを備え、血液分離フィルタは、血液分離部材が上流側となるように、流路内に設置されていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る血液分離装置のある特定の局面では、第1,第2の開口が栓体により気密的に封止されており、かつ内部が5〜90kPaに減圧されている。
【0018】
本発明に係る検体採取容器は、本発明に従って構成された血液分離装置と、一端に開口を有し、かつ他端に底部を有する管状容器とを備え、血液分離装置は、流路形成部材の第1の開口が管状容器の開口側となるように、管状容器内に収容されており、流路形成部材の第1の開口と、管状容器の開口とが栓体により気密的に封止されており、かつ内部が5〜90kPaに減圧されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る血球停止膜では、バブルポイント圧が1.3〜4.5kg/cmの範囲にあり、かつ0.7kg/cmの圧力下での水流量が32mL/分/cm以下であるので、血液から血漿又は血清を短時間で採取することができる。また、分離途中で血球停止膜が閉塞したり、血球停止膜による溶血の発生を抑制することができる。さらに、溶血が生じ難いので、分離の際に、血球停止膜の下流に流路を閉塞するための余計な部材を用いる必要がなく、部品点数を減らし、コストを低減することができる。
【0020】
表面が親水性である場合には、分離途中での閉塞や溶血の発生をより一層抑制することができる。
【0021】
本発明に係る血液分離フィルタでは、上記血球停止膜と、血球成分よりも血漿又は血清が早く通過する血液分離部材とを備えているので、血液を血球と血漿又は血清とにより一層確実に分離することができる。
【0022】
本発明に係る血液分離装置では、上記血液分離フィルタと、血液の入口である第1の開口と、血液の出口である第2の開口とを有し、かつ血液が流れる流路を有する流路形成部材とを備えているので、血液の分離をより一層容易に行うことができる。
【0023】
流路形成部材の第1,第2の開口が栓体により気密的に封止されており、かつ内部が5〜90kPaに減圧されている場合には、血液の分離をより一層短時間で行うことができる。
【0024】
本発明に係る検体採取容器では、血液分離装置が、流路形成部材の第1の開口が管状容器の開口側となるように管状容器内に収容され、流路形成部材の第1の開口と、管状容器の開口とが栓体により気密的に封止されており、かつ内部が5〜90kPaに減圧されているので、短時間で分離を行うことができ、溶血による赤血球内成分の混入のない血漿又は血清を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0026】
本発明に係る血球停止膜は、血液から血球成分を捕捉し、血漿又は血清を採取するのに用いられる。
【0027】
本発明では、血球停止膜のバブルポイント圧が1.3〜4.5kg/cmの範囲にあり、かつ0.7kg/cmの圧力下での水流量は32mL/分/cm以下である。
【0028】
上記バブルポイント圧は、P=K4δcosθ/d(P:バブルポイント圧、K:形状補正係数、δ:液体の表面張力、d:孔径、θ:固体に対する液体の接触角)で表され、血球停止膜の内部に液体が保持されているときに、この液体を押し出すために必要な圧力と定義される。
【0029】
バブルポイント圧が1.3kg/cm未満であると、血球成分が捕捉された際に、溶血が起こり易くなり、4.5kg/cmより大きいと、濾過の途中で血漿又は血清が目詰まりし易くなり、検体を充分に回収できないことがある。
【0030】
0.7kg/cmの圧力下での水流量が32mL/分/cmを超えると、流量が高すぎて、血球成分が捕捉された際に、容易に破壊され、赤血球内成分が血球停止膜内を短時間で通過する。よって、分離した血漿又は血清に赤血球内成分が混入し、正常な検査結果を得ることができない。
【0031】
上記血球停止膜を構成する材料としては、特に限定されないが、ポリビニリデンジフルオライド、ポリエーテルスルホン、セルロース混合エステル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、アクリル共重合体等が挙げられる。
【0032】
血球停止膜は、表面が親水性であることが好ましい。前述のように、バブルポイント圧は、血球停止膜の孔径、液体の表面張力および接触角等によって変動する。よって、血球停止膜の親水性を高めることで、バブルポイント圧を1.3〜4.5kg/cmの範囲に容易にすることができる。また、血漿又は血清中のタンパクや脂質などの血球停止膜への吸着量は少ない方が好ましく、この点においても血球停止膜は表面が親水性であることが好ましい。表面を親水性とするために、血球停止膜は、親水性を有する材料からなるか、または親水性を有する処理剤でコーティングされていることが好ましい。
【0033】
上記親水性を有する材料としては、特に限定されないが、上記血球停止膜を構成する材料のうち親水性を有するものが用いられる。
【0034】
上記親水性を有する処理剤としては、特に限定されないが、親水性高分子等が挙げられる。具体的には、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、親水性シリコーン、低分子界面活性剤などが挙げられる。
【0035】
上記血球停止膜は、血球成分よりも血漿又は血清が早く通過する血液分離部材と組合せて用いられてもよい。
【0036】
血球停止膜と、血液分離部材とを備えた血液分離フィルタでは、血液分離部材による移動速度差を利用して、血液を血球と血漿又は血清とにより一層確実に分離することができる。
【0037】
血液分離部材は、血球成分よりも血漿又は血清が早く通過するものであれば特に限定されない。例えば、血球成分よりも血漿若しくは血清を速く移動させ得る孔径と、実用可能な濾過時間を確保し得る孔数、すなわち空隙率と、血液の濾過の過程で血漿若しくは血清の移動を物理的あるいは化学的に障害しない形状とを有するものが用いられる。
【0038】
血液分離フィルタを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ウレタン、アクリル、レーヨン、ガラス等が挙げられる。
【0039】
血液分離部材としては、具体的には、例えば上記材料を成形した繊維を不織布状に集積させたもの、上記材料を用いて連続孔が形成された連続気泡発泡体などの成形体、上記材料を成形した略球形の微粒子を細密充填構造となるように集積したもの、あるいはこの集積したものを焼結することにより一体成形したもの、上記材料を成形したフィルムに貫通孔を形成したもの、あるいはフィルムの片面ないし両面にコロナ放電やプレス加工によりシボ加工したシートを多数枚積層したもの等が挙げられる。
【0040】
血液分離部材の平均孔径としては、移動速度差により血球成分と血漿又は血清との分離を可能とし、血球成分への障害、すなわち赤血球の破壊を防止するため、2〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは3〜8μmの範囲である。平均孔径が2μmよりも小さいと、血液分離部材に血球成分が目詰まりして濾過が阻害されたり、濾過時に血球成分への抵抗が大きくなり赤血球が破壊され易くなる。平均孔径が10μmを超えると、血球成分と血漿又は血清との移動速度差が小さくなり、血球成分が短時間で血球停止膜に至り易くなる。平均孔径は、バブルポイント試験法(JIS K 3832)や電子顕微鏡による拡大画像を用いた実測法などにより計測することができる。
【0041】
血液分離部材の空隙率としては、実用可能な濾過時間を確保し得るためには、20〜97%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜95%の範囲である。空隙率が20%よりも低いと、濾過に長時間を要し、赤血球の破壊が生じ易くなる。空隙率が97%よりも高いと、血液分離フィルタの保形性が低下し、濾過時の圧力で血液分離部材が変形して孔径が変化することがあり、血液の分離を安定に行えないことがある。
【0042】
血液分離フィルタの使用に際しては、血液の流れる方向に対して、血液分離部材が上流側、血球停止膜が下流側に配置されることが好ましい。この場合、血球成分が血球停止膜に到達する前に、血漿又は血清が血球停止膜を通過するので、血液の分離効率をさらに一層高めることができる。
【0043】
以下、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る血液分離装置を示す正面断面図である。
【0045】
図1に示すように、血液分離装置1は、流路形成部材2と、血液分離部材3と、血球停止膜4を備えている。すなわち、血液分離装置1は、血液分離部材3と血球停止膜4と含む血液分離フィルタを備えている。該血液分離フィルタは、流路形成部材2の流路内に設置されている。
【0046】
血液分離部材3及び血球停止膜4としては、前述のものが用いられる。具体的には、血液分離部材3は、血球成分よりも血漿又は血清が早く通過するように構成されている。また、血球停止膜4のバブルポイント圧は1.3〜4.5kg/cmの範囲とされており、かつ0.7kg/cmの圧力下での水流量は32mL/分/cm以下とされている。
【0047】
流路形成部材2は、上端に血液の入口である第1の開口2aと、下端に血液の出口である第2の開口2bとを有し、かつ血液が流れる流路を有する。
【0048】
流路形成部材2は、円筒状の形状を有する筒状部材5と、底部材6とを有する。筒状部材5は、上端5aが開口している。筒状部材5の下端5bよりもわずかに上方において、筒状部材5の内周面から内側に向かって突出するように、環状周縁部5cが設けられている。この環状周縁部5cにより、該環状周縁部5cに囲まれた開口部5dが形成されている。
【0049】
底部材6は、主面部6aと、主面部6aの中央から下方に延ばされた環状の出口部6bとを有する。出口部6bは上下に延びる中空流路を有する。主面部6aの上面には環状突部6dが設けられている。環状突部6dに囲まれた部分が凹部6cとされている。凹部6cは、出口部6bの中空流路に連ねられており、流路の一部が構成されている。
【0050】
底部材6は、環状周縁部5cの下方に配置されている。具体的には、筒状部材5は下端5bにおいて開口しているが、この開口から底部材6が挿入され、固定されている。すなわち、主面部6aの外周面が筒状部材5の内周面に密着され、固定されている。この状態において、主面部6aの上面が、環状周縁部5c及び開口部5dに対向されている。
【0051】
流路形成部材2は、第1,第2の開口2a,2bを有するが、第1の開口2aは筒状部材5の上端5aにあり、第2の開口2bは底部材6の出口部6bにある。
【0052】
流路形成部材2を構成する材料としては、特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂が挙げられる。流路形成部材2は、空気非透過性であることが好ましい。流路形成部材2は、表面に金属や珪素などが蒸着されて、空気非透過性能が向上されていてもよい。
【0053】
流路形成部材2は、円筒状の形状を有するが、角筒状の形状を有していてもよい。
【0054】
血液分離部材3は、筒状部材5内において、環状周縁部5c上に配置されている。血液分離部材3の外周面は、筒状部材5の内周面と密着している。
【0055】
血球停止膜4は、筒状部材5内において、環状周縁部5cと主面部6aとの間の空間に配置されている。具体的には、血球停止膜は、環状周縁部5cの下面及び環状突部6dの上面に挟持されるように配置されている。
【0056】
よって、血液の流れる方向に対して血液分離部材3が上流側、血球停止膜4が下流側となるように、血液分離部材3及び血球停止膜4が流路形成部材2の流路に設置されている。
【0057】
図2に、本発明の一実施形態に係る血液分離装置1が管状容器内に収容された検体採取容器11を正面断面図で示す。
【0058】
図2に示すように、管状容器12は、一端に開口12aを有し、かつ他端に丸底の底部12bを有する。血液分離装置1は、流路形成部材2の第1の開口2aが管状容器12の開口12a側となるように、管状容器12内に収容されている。
【0059】
流路形成部材2の第1の開口2aと、管状容器12の開口12aとは、栓体13により気密的に封止されている。栓体13は、大径部13aと、中径部13bと、小径部13cとを有する。大径部13aは、管状容器12の開口12aの外径よりもわずかに大きな径を有する。中径部13bは、管状容器12の開口12aの内径とほぼ等しい径を有する。小径部13は、流路形成部材2の第1の開口2aの内径とほぼ等しい径を有する。
【0060】
栓体13は、空気非透過性を有し、かつ採血針またはシリンジにより刺通され得る材料により構成されている。栓体13を構成する材料としては、例えば天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、または熱可塑性エラストマー等の弾性体が挙げられる。
【0061】
検体採取容器11では、中径部13bが管状容器12の開口12aに圧入され、開口12aが気密的に封止されている。小径部13cが流路形成部材2の第1の開口2aに圧入され、第1の開口2aが気密的に封止されている。
【0062】
検体採取容器11内は減圧されている。検体採取容器11の内部は、5〜90kPaに減圧されていることが好ましい。圧力が5kPaより低いと、分離の際に赤血球が破壊されて、赤血内成分が漏洩し易くなり、90Paより高いと、採血を速やかに行えないことがある。
【0063】
検体採取容器11を用いて、血液を採取、分離する際には、栓体13に採血針等を刺通し、流路形成部材2の第1の開口2aから、血液を血液分離部材3の上端3aに供給する。血液を供給した後に、採血針を抜去する。
【0064】
分離する血液は全血でも良いし、等張の水溶液などで希釈された血液でもよい。また、血液は、人の血液に限らず、実験動物や家畜などの血液でもよい。また、新鮮血であっても、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸塩やクエン酸などの抗凝固剤を添加した血液であってもよい。
【0065】
血液の採取に際しては、ホルダーを用いて真空採血を行ってもよいし、シリンジに血液を採取した後にシリンジを栓体13に刺通してもよい。血液を採取した後には、採血針は好ましくは抜去されるが、栓体13に刺通されたままでもよい。
【0066】
血液分離部材3では、血液が通過する際に、血球成分よりも血漿又は血清が速く移動する。相対的に早く移動した血漿または血清は、血球停止膜4に先に到達し、血球停止膜4を通過する。そして、血漿又は血清は、流路形成部材2の第2の開口2bから流下して、管状容器12の底部12bに収容される。
【0067】
血漿又は血清よりも相対的に遅く移動した血球成分は、血球停止膜4に到達しても、血球停止膜を通過しない。従って、底部12bに収容された血漿又は血清に血球成分は混入しない。また、血球停止膜4は、上記のように構成されているので、分離途中で血球停止部材が閉塞したり、血球停止部材による溶血の発生が抑制されている。従って、検体を多く回収することができ、赤血球内成分の混入のない血漿又は血清を得ることができる。また、溶血の発生が抑制されるので、流路を閉塞するための余計な部材を用いる必要がなく、部品点数を減らし、コストを低減することができる。
【0068】
底部12bに収容された血漿又は血清は、例えば管状容器12の開口12aから血液分離装置1を抜き去り、採取することができる。
【0069】
次に、図3を用いて、本発明の他の実施形態に係る血液分離装置を説明する。
【0070】
図3に示すように、血液分離装置21は、流路形成部材22と、血液分離部材23と、血球停止膜24とを備えている。すなわち、血液分離装置21は、血液分離部材23と血球停止膜24と含む血液分離フィルタを備えている。該血液分離フィルタは、流路形成部材22の流路内に設置されている。血液分離部材23及び血球停止膜24は、その大きさが異なることを除いては、血液分離部材3及び血球停止膜4と同様にして構成されている。
【0071】
流路形成部材22は、円筒状の形状を有する。流路形成部材22は、両端に血液の入口である第1の開口22aと、血液の出口である第2の開口22bとを有し、かつ血液が流れる流路を有する。流路形成部材22の第1の開口22aは円錐台形状に先細りした形状を有する。第1の開口22aの開口径は、第2の開口22bの開口径よりも小さくされている。流路形成部材22は、流路形成部材2と同様の材料を用いて構成され得る。
【0072】
流路形成部材22としては、特に限定されないが、具体的には、一般的な臨床検査機器のラック適合性を考慮すると、例えば外径16mm×長さ100mm迄の大きさを有するものが挙げられる。
【0073】
第1の開口22aは、第1の栓体25により気密的に封止されている。第1の栓体25は、大径部25aと、大径部25aよりも径が小さな小径部25bとを有する。大径部25aは流路形成部材22の第1の開口22aの外径とほぼ等しい径を有する。採血針またはシリンジを容易に刺通し得るように、第1の栓体25の外側表面の中央には、逆円錐台形状の凹部25cが設けられている。小径部25bが第1の開口22aに圧入されている。
【0074】
第2の開口22bは、第2の栓体26により気密的に封止されている。第2の栓体26は、大径部26aと、大径部26aよりも径が小さな小径部26bとを有する。小径部26bが第2の開口22bに圧入されている。第1,第2の栓体25,26は、栓体13と同様の材料を用いて構成され得る。
【0075】
血液分離装置21内は減圧されている。血液分離装置21の内部は、5〜90kPaに減圧されていることが好ましい。
【0076】
採血針またはシリンジが第2の栓体26に刺通されないように、第2の栓体26の外表面はカバー27により覆われている。第2の栓体26の外表面は、カバー27により覆われていることが好ましい。カバー27が設けられている場合には、誤って採血針またはシリンジが第2の栓体26に刺通され、第2の栓体26側から血液が採取されるのを防止することができる。
【0077】
カバー27を構成する材料としては、特に限定されないが、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0078】
流路形成部材22では、流路形成部材22の長さ方向の中央近傍において、内周面に環状棚部22cが設けられている。この環状棚部22cにより、該環状棚部22cに囲まれた開口部22dが形成されており、中空流路を構成している。第2の開口22b側において、環状棚部22cには、第1の開口22a側に向ってテーパー22eが付けられている。
【0079】
流路形成部材22は、環状棚部22cよりもわずかに第1の開口22a側において、流路形成部材22の内周面から内側に突出した環状突部22fを有する。
【0080】
血球停止膜23は、流路形成部材22内において、環状突部22f上に配置されている。血球停止膜23の外周面は、流路形成部材22の内周面と密着している。
【0081】
血球分離部材24は、筒状部材5内において、血球停止膜23の上面に接するように、血球停止膜23上に配置されている。血球分離部材24の外周面は、流路形成部材22の内周面と密着している。
【0082】
よって、血液の流れる方向に対して血液分離部材23が上流側、血球停止膜24が下流側となるように、血液分離部材23及び血球停止膜24が流路形成部材22の流路に設置されている。
【0083】
血液分離装置21では、流路形成部材22の第1の開口22aから、血液を供給する。供給された血液は、血液分離部材23を通過し、さらに血球停止膜24を通過する。そして、血漿又は血清は、流路形成部材22の開口部22dから流下して、流路形成部材22の第2の開口22b側、すなわち第2の栓体26上に収容される。第2の栓体26上に収容された血漿又は血清は、第2の開口22b側から取り出すことができる。
【0084】
以下、実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
図1,2に示す血液分離装置、及び該血液分離装置を備える検体採取容器を作製した。
【0086】
直径約11mmの円筒状の形状を有する流路形成部材2を用意した。流路形成部材2内の図1に示す位置に、下記表1に示す血球停止膜を配置した。また、流路形成部材2内の図1に示す位置に、直径約1.8μmのポリエステル製の極細繊維0.55gを渦巻き状に巻いた血液分離部材を配置し、血液分離装置を作製した。
【0087】
図2に示すように、血液分離装置を有底の管状容器に収容し、栓体により封栓し、内部を40kPaに減圧し、検体採取容器を作製した。
【0088】
【表1】

【0089】
(評価)
シリンジを用いて、検体採取容器の栓体から、ヒト血液(ヘマトクリット40%)を約2mL注入した後、直ちに栓体を中空針で刺通し、血液の流入部を大気圧とし、血液の分離を行った。容器内の検体収容部は血液分離中に減圧された状態であり、血液分離完了し後もその状態で放置し、溶血の様子を確認した。60分間放置した後、分離された検体について、遠心分離した血清と比較し、溶血の有無を確認した。結果を下記表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例1〜6の検体採取容器では、溶血は認められず、検体の回収量についても安定しており、320〜340μLの検体を回収することができた。
【0092】
他方、比較例1,2の検体採取容器では、血液分離完了5分後から溶血検体の混入が認められた。比較例1,2の検体採取容器では、実施例1〜6の検体採取容器よりも、60分後の検体の回収量が多いのはそのためである。また比較例3については、溶血は認められなかったが、血液の分離途中で血球停止膜が目詰まりし、検体の回収量が少なかった。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施形態に係る血液分離装置を示す正面断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る血液分離装置を備えた検体採取容器を示す正面断面図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る血液分離装置を示す正面断面図。
【符号の説明】
【0094】
1…血液分離装置
2…流路形成部材
2a…第1の開口
2b…第2の開口
3…血液分離部材
3a…上端
4…血球停止膜
5…筒状部材
5a…上端
5b…下端
5c…環状周縁部
5d…開口部
6…底部材
6a…主面部
6b…出口部
6c…凹部
6d…環状突部
11…検体採取容器
12…管状容器
12a…開口
12b…底部
13…栓体
13a…大径部
13b…中径部
13c…小径部
21…血液分離装置
22…流路形成部材
22a…第1の開口
22b…第2の開口
22c…環状棚部
22d…開口部
22e…テーパー
22f…環状突部
23…血液分離部材
24…血球停止膜
25…第1の栓体
25a…大径部
25b…小径部
25c…凹部
26…第2の栓体
26a…大径部
26b…小径部
27…カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液から血球成分を捕捉し、血漿又は血清を採取するのに用いられる血球停止膜であって、
バブルポイント圧が1.3〜4.5kg/cmの範囲にあり、かつ0.7kg/cmの圧力下での水流量が32mL/分/cm以下であることを特徴とする、血球停止膜。
【請求項2】
表面が親水性である、請求項1に記載の血球停止膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血球停止膜と、
血球成分よりも血漿又は血清が早く通過する血液分離部材とを備えることを特徴とする、血液分離フィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載の血液分離フィルタと、
血液の入口である第1の開口と、血液の出口である第2の開口とを有し、かつ血液が流れる流路を有する流路形成部材とを備え、
前記血液分離フィルタは、前記血液分離部材が上流側となるように、前記流路内に設置されていることを特徴とする、血液分離装置。
【請求項5】
前記第1,第2の開口が栓体により気密的に封止されており、かつ内部が5〜90kPaに減圧されている、請求項4に記載の血液分離装置。
【請求項6】
請求項4に記載の血液分離装置と、
一端に開口を有し、かつ他端に底部を有する管状容器とを備え、
前記血液分離装置は、前記流路形成部材の前記第1の開口が前記管状容器の開口側となるように、前記管状容器内に収容されており、
前記流路形成部材の第1の開口と、前記管状容器の開口とが栓体により気密的に封止されており、かつ内部が5〜90kPaに減圧されていることを特徴とする、検体採取容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−232876(P2008−232876A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73948(P2007−73948)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】