血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置
【課題】血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能な血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置を提供すること。
【解決手段】反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置。血球凝集像判定装置1は、反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように反応容器を回転させる回転機構Rと、回転方向に沿った反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように反応容器を傾斜させる傾斜装置7とを備えている。
【解決手段】反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置。血球凝集像判定装置1は、反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように反応容器を回転させる回転機構Rと、回転方向に沿った反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように反応容器を傾斜させる傾斜装置7とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において血液型や感染症等を判定する血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原抗体反応による反応像に基づく血液の検査方法、例えば、血液型を判定する方法には、一般的に試験管法、カラム凝集法或いはプレート静置法が知られている。
【0003】
試験管法は、試薬血球50μLとサンプル血漿50μLを内径10mmの試験管に分注し、遠心分離処理(900G〜1000G、15秒)することによって管底に血球と血漿との凝集反応によって形成される血球ペレットを沈殿させる。その後、試験管を揺り動かすことにより管底に沈殿した血球ペレットを血球凝集塊又は非凝集血球として再浮遊させた血球凝集塊又は非凝集血球をもとに目視判定した凝集(陽性)又は非凝集(陰性)の結果から血液型を判定している(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
カラム凝集法は、不活性粒子と水性媒体とを充填したカラムを使用し、検査対象の血液をカラムへ分注した際の水性媒体中の担体結合抗体と抗原との凝集反応による複合体又は担体結合抗原と抗体との凝集反応による複合体を光学的に可視化することによって判定した凝集(陽性)又は非凝集(陰性)の結果から血液型を判定している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
プレート静置法は、マトリクス状に配置された複数のウェルを有するマイクロプレートを使用し、各ウェルに分注された血液検体と試薬との血球凝集像をもとに判定した凝集(陽性)又は非凝集(陰性)の結果から血液型を判定している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3299768号公報
【特許文献2】特公昭63−60854号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本臨床衛生検査技師会ライブラリーXII「輸血検査の実際」改定第3版P.16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、試験管法は、1つの血液検体当たり3〜4分の短時間で処理することができる。しかし、試験管法は、試験管を揺り動かして沈殿した血球ペレットを再浮遊させることから、試験管の揺動操作に熟練を要し、揺動の習熟度によって反応像に差が生じ、異なる判定結果になる場合が生ずるという問題があった。
【0009】
また、カラム凝集法は、揺動操作に熟練を要することはないが、凝集反応による複合体を可視化するためにカラムを10分間遠心分離処理する必要があり、処理に時間が掛かるという問題があった。特に、プレート静置法は、マイクロプレートを静置してウェル内で凝集反応を行わせるため、反応処理に60分程度の時間を要していた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能な血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の血球凝集像判定方法は、反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定方法であって、前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転する遠心処理工程と、前記遠心処理工程における回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の血球凝集像判定方法は、上記の発明において、前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の血球凝集像判定方法は、上記の発明において、前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、前記血球は、赤血球であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の血球凝集像判定方法は、上記の発明において、前記反応工程の後に、前記反応容器の傾斜を解除する解除工程と、傾斜を解除した前記反応容器を撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像された前記反応像を含む前記反応容器の映像を画像処理し、前記反応容器の映像にもとづく判定値を演算する画像処理工程と、前記画像処理工程で演算した判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を判定する判定工程と、を更に含むことを特徴とする。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の血球凝集像判定装置は、反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定装置であって、前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転させる回転手段と、回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、前記血球は、赤血球であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記回転手段は、モータと、前記モータによって回転されるロータと、前記マイクロプレートを保持して前記ロータに水平軸の周りにスイング自在に支持されるバケットと、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記複数のウェルを撮像する撮像手段と、前記撮像手段が撮像した前記反応像を含む前記ウェル毎の映像を画像処理し、前記ウェル毎の映像にもとづく判定値を演算する画像処理手段と、前記判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を前記ウェル毎に判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記傾斜手段は、前記バケットの外縁を把持する把持手段と、前記把持手段を回動させて前記マイクロプレートの回転方向前側の短辺が鉛直方向下方となるように前記バケットを傾斜させる回動手段と、前記回動手段を前記把持手段と共に昇降させる昇降手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように反応容器を回転し、回転方向に沿った反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように反応容器を傾斜させるので、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能な血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る血球凝集像判定装置の概略構成図である。
【図2】図2は、ロータの斜視図である。
【図3】図3は、バケットを取り付けたロータの斜視図である。
【図4】図4は、マイクロプレートをセットしたバケットを取り付けたロータの平面図である。
【図5】図5は、マイクロプレートの平面図である。
【図6】図6は、図5のC−C線に沿った断面図である。
【図7】図7は、マイクロプレートに形成されたウェルの断面を拡大して示した斜視図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る血球凝集像判定方法を説明するフローチャートである。
【図9】図9は、血球凝集像判定装置におけるロータの回転に伴うバケットの姿勢を模式的に説明する正面図である。
【図10】図10は、傾斜装置によってバケットをロータから外した状態を模式的に示す正面図である。
【図11】図11は、傾斜装置によってバケットを傾斜させた状態を模式的に示す正面図である。
【図12】図12は、プレート静置法で処理した場合における血漿(血清)が陰性の際のウェルの反応像を示す図である。
【図13】図13は、プレート静置法で処理した場合における血漿(血清)が弱陽性の場合のウェルの反応像を示す図である。
【図14】図14は、プレート静置法で処理した場合における血漿(血清)が強陽性の場合のウェルの反応像を示す図である。
【図15】図15は、血球凝集像判定装置によって遠心処理を施した直後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の実施例を示す図である。
【図16】図16は、遠心処理の後、更に2分間傾斜させた後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の実施例を示す図である。
【図17】図17は、図16に示す映像の判定結果を赤血球浮遊液の濃度と共に併記した本発明の実施例を示す図である。
【図18】図18は、図17に示す映像中、5行2列目の強陽性のウェルを拡大した図である。
【図19】図19は、図17に示す映像中、5行3列目の弱陽性のウェルを拡大した図である。
【図20】図20は、図17に示す映像中、5行5列目の陰性のウェルを拡大した図である。
【図21】図21は、遠心処理を施した直後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の比較例を示す図である。
【図22】図22は、傾斜装置によって2分間傾斜させた後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の比較例を示す図である。
【図23】図23は、4行1列目のウェルの拡大図である。
【図24】図24は、4行2列目のウェルの拡大図である。
【図25】図25は、4行4列目のウェルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置に係る実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る血球凝集像判定装置の概略構成図である。血球凝集像判定装置1は、図1に示すように、筐体2、ロータ3、モータ6、傾斜装置7、CCDカメラ8、画像処理部11及び制御部12を備えている。
【0025】
筐体2は、上方へ開閉自在に被着される蓋としてドア2aを有しており、チャンバ2b内にロータ3が配置されている。
【0026】
図2は、ロータ3の斜視図である。ロータ3は、図2に示すように、本体3aの両側にヨーク3bが形成されたH字形の部材であり、本体3aの中央に挿通孔3cが形成されている。また、ヨーク3bは、内側の互いに対向する位置に、それぞれ内側へ突出し、バケット4を水平に支持する水平軸であるトラニオンピン3dが設けられている。ロータ3は、図2に示すトラニオンピン3dによって本体3aを挟む両側にバケット4をバランスさせて保持する。
【0027】
図3は、バケット4を取り付けたロータ3の斜視図である。図4は、マイクロプレート5をセットしたバケット4を取り付けたロータ3の平面図である。バケット4は、図3に示すように、上部が解放され、底面に開口4aが形成された直方体形状の箱体である。バケット4は、図4に示すように、トラニオンピン3dによって挟まれる両側中央からロータ3の外周側へ僅かに変位した位置に係合溝4bが形成されている。バケット4は、係合溝4bにトラニオンピン3dを係合させることにより、図3に示すように、ロータ3に支持され、トラニオンピン(図示せず)を中心として矢印Asで示すようにスイングする。そして、バケット4は、図4に示すように、マイクロプレート5を保持し、ロータ3と共に挿通孔3cを中心として矢印Arで示す方向へ回転する。このとき、バケット4は、係合溝4bがロータ3の外周側へ僅かに変位している。このため、ロータ3が回転すると、バケット4は、ロータ3の内周側がトラニオンピン3dを中心としてマイクロプレート5と共に下方へスイングする。
【0028】
ここで、図5は、マイクロプレートの平面図であり、図6は、図5のC−C線に沿った断面図である。また、図7は、マイクロプレートに形成されたウェルの断面を拡大して示した斜視図である。以下、図5〜図7を参照してマイクロプレート5の構造について説明する。
【0029】
マイクロプレート5は、図5に示すように、12×10個のウェル5aがマトリックス状に配列形成されている。ウェル5aは、分注された血液検体と試薬とを反応させる微小な反応容器であり、図6に示すように、内面が略円錐形の底壁5bを有している。このとき、ウェル5aは、図7に示すように、マイクロプレート5の上面における直径をD(=6mm)、底壁5bの内面部分の深さをHとすると、内面の平均傾斜角度θ〔=tan−1{H/(D/2)}〕が30度に設定されている。また、底壁5bの内面には、同心円上に形成した複数の段部からなり、高さhがh=16μmに設定された凹凸5cが形成されている。
【0030】
モータ6は、図1に示すように、ロータ3及びバケット4と共にマイクロプレート5を回転させる回転機構Rを構成しており、ロータ3を回転させて各ウェル5aに分注された血液検体或いは試薬に含まれる血球を底壁5b側へ移動させる。モータ6は、挿通孔3cに挿通した回転軸6aの上端に螺着するナット(図示せず)によって、ロータ3が取り付けられている。
【0031】
傾斜装置7は、バケット4毎に設けられ、バケット4の回転方向に沿って前側に位置する短辺Ss(図4参照)を鉛直方向下方にしてマイクロプレート5を傾斜させる傾斜手段である。傾斜装置7は、図1に示すように、チャンバ2b側面のバケット4を臨む位置に設けられ、チャック71、回動モータ72及び昇降装置73を備えている。
【0032】
チャック71は、図1に示すように、バケット4の長辺側外縁を2本の把持爪71a(図10参照)によって把持する。回動モータ72は、回動軸72a(図10参照)を有しており、回動軸72aの端部に設けたチャック71を回動させてマイクロプレート5の回転方向前側の短辺Ss(図4参照)が鉛直方向下方となるようにバケット4を傾斜させる。昇降装置73は、ボールねじを使用した回動モータ72の昇降手段であり、スライダ(図示せず)に回動モータ72が取り付けられている。
【0033】
CCDカメラ8は、マイクロプレート5の複数のウェル5aを撮像する撮像手段であり、撮像した複数のウェル5aの画像信号を画像処理部11へ出力する。CCDカメラ8は、図1に示すように、ドア2a下面のロータ3によって回転されるマイクロプレート5を臨む位置に設けられている。このとき、傾斜装置7とCCDカメラ8は、マイクロプレート5の回転軌跡に沿って中心角90度離れた位置に配置される。
【0034】
照明9は、チャンバ2bの内壁下部に設けてマイクロプレート5を下方から照明する蛍光灯等の照明手段である。
【0035】
画像処理部11は、CCDカメラ8から入力される複数のウェル5aの前記画像信号をもとに各ウェル5aの映像を画像処理して判定値をウェル5a毎に演算し、得られたウェル5a毎の判定値信号を判定部12aへ出力する。
【0036】
制御部12は、血球凝集像判定装置1を構成する各部への動作タイミングの指示やデータの転送等を行って各部を制御し、血球凝集像判定装置1全体の動作を統括的に制御する。制御部12は、ウェル5a毎の判定結果や複数のウェル5aにおける判定結果に基づく各血液検体の血液型に関する判定結果の他、血球凝集像判定装置1の動作に必要な各種データを保持するメモリを内蔵したマイクロコンピュータ等で構成され、図1に示すように、判定部12aを有している。判定部12aは、画像処理部11から入力されるウェル5a毎の判定値をもとに最も凝集が生じている場合を強陽性として血液検体を強陽性、弱陽性或いは陰性の3段階にウェル5a毎に判定する。
【0037】
以上のように構成される血球凝集像判定装置1は、例えば、血液型を判定する際は、マイクロプレート5の複数のウェル5aに原液又は生理食塩水で所定濃度に希釈した血漿を分注し、所定倍率で希釈した血球を分注した際の血漿と血球の反応に伴う凝集像をもとにマイクロプレート5のウェル5a毎に血液検体の陽性或いは陰性を判定する。
【0038】
ここで、血漿と血球とが反応して凝集像を形成した場合は陽性、非凝集の場合は陰性である。また、赤血球の血液型を調べるABO表検査の場合は、血液から採取した赤血球が血液検体となり、型判定用の抗A抗体,抗B抗体を試薬として使用する。また、血漿(血清)の血液型を調べるABO裏検査の場合、血漿(血清)が血液検体となり、血液型が既知のA型赤血球,B型赤血球を生理食塩水にそれぞれ浮遊させたA型赤血球浮遊液,B型赤血球浮遊液を試薬として使用する。以下、血漿(血清)の血液型を調べるABO裏検査の場合を例に説明する。
【0039】
先ず、複数のウェル5aのそれぞれに判定対象の血漿(血清)とA型赤血球浮遊液,B型赤血球浮遊液とを分注し、分注後のマイクロプレート5をバケット4に装着する。そして、血球凝集像判定装置1のドア2aを上方へ開き、それぞれにマイクロプレート5を装着した2つのバケット4をチャンバ2b内のロータ3に保持させる。
【0040】
このとき、バケット4は、係合溝4b(図10参照)をトラニオンピン3dに係合させて、図4に示すように、トラニオンピン3dに支持される。このため、ロータ3は、回転中心となるロータ3の挿通孔3cに対して2つのマイクロプレート5を点対称に保持する。
【0041】
次に、作業者は、血球凝集像判定装置1のドア2aを閉じ、血球凝集像判定装置1のスイッチをオンし、血球凝集処理判定ボタンを押下する。すると、血球凝集像判定装置1は、予め設定されたプログラムに従ってモータ6を駆動してロータ3を回転させ、マイクロプレート5に遠心処理を施す。以下、本発明の血球凝集像判定方法を図8に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0042】
先ず、血球凝集像判定装置1は、制御部12の制御のもとに、ロータ3を回転させてマイクロプレート5に遠心処理を施す(ステップS100)。この遠心処理によって血球を底壁5b側へ偏らせるが、制御部12は、血球が完全に底壁5bに押圧されることがないようにモータ6によるマイクロプレート5の回転を制御する。このような制御をするうえで、制御部12は、例えば、ロータ3が毎分1000回転(200G)の回転数で、15秒間回転するようにモータ6を制御した。このとき、各ウェル5aにおいては、血漿(血清)中に存在する抗体と赤血球表面に存在する抗原決定基との抗原抗体反応による凝集反応が開始している。このため、底壁5b側へ移動する血球には非凝集赤血球の他に、凝集反応によって生ずる凝集塊が含まれている。
【0043】
ここで、図9は、血球凝集像判定装置1におけるロータ3の回転に伴うバケット4の姿勢を説明する正面図である。モータ6の回転開始時、バケット4は、ロータ3の上面とバケット4の上面が面一の状態にある。モータ6の回転数の増加に伴い、バケット4は、作用する遠心力によりトラニオンピン3dを中心として下部がロータ3の外方へスイングし、図9(a)に示すように、ロータ3の内周側が下がり、外周側が上昇する。そして、回転数が更に増加し、モータ6の回転数が毎分1000回転に達すると、制御部12は、モータ6を停止させる。このため、下部がロータ3の外方へスイングするバケット4は、図9(b)に示すロータ3の上面に対して直交状態になる直前に回転数が減少し始める。従って、マイクロプレート5は、各ウェル5a内の赤血球が底壁5b側へ移動される。
【0044】
次に、血球凝集像判定装置1は、マイクロプレート5の回転方向前側の短辺Ss(図4参照)が鉛直方向下方となるようにマイクロプレート5を傾斜させる(ステップS102)。
【0045】
ここで、図10は、傾斜装置7によってバケット4をロータ3から外した状態を示す正面図である。図11は、傾斜装置7によってバケット4を傾斜させた状態を示す正面図である。以下、傾斜装置7によるマイクロプレート5の傾斜動作を図10,図11を参照して説明する。
【0046】
先ず、血球凝集像判定装置1は、傾斜装置7を駆動してチャック71によってバケット4の長辺側外縁を2本の把持爪71aによって把持した後、昇降装置73によって回動モータ72を上昇させ、図10に示すように、バケット4をロータ3から外す。その後、血球凝集像判定装置1は、回動モータ72を駆動してチャック71を回動させ、図11に示すように、マイクロプレート5の回転方向前側の短辺Ss(図4参照)が鉛直方向下方となるようにバケット4を水平面に対して90°に保持して2分間傾斜させる。
【0047】
2分経過後、血球凝集像判定装置1は、上記とは逆に傾斜装置7を駆動してバケット4をロータ3に保持させ、マイクロプレート5の傾斜を解除する(ステップS104)。これにより、マイクロプレート5は、バケット4と共に水平状態に保持される(図4参照)。
【0048】
次いで、血球凝集像判定装置1は、マイクロプレート5の複数のウェル5aをCCDカメラ8に撮像させる(ステップS106)。このとき、マイクロプレート5は、図1に示したように、照明9によって下方から照明されているので、複数のウェル5aを鮮明に撮像することができる。その後、CCDカメラ8から入力される複数のウェル5aの画像信号をもとに画像処理部11に反応像を含むウェル5a毎の映像を画像処理させる(ステップS108)。
【0049】
画像処理部11は、例えば、ウェル5aの周辺部における平均光量Lpと中心部における平均光量Lcの比の値Lp/Lcを10倍した凝集反応の判定パラメータP/Cを判定値として演算する。このとき、血漿(血清)が、例えば、赤血球に対して陰性の場合、赤血球は、凝集反応を起すことなくウェル5aの底壁5b中央の最深部に集まる。このため、ウェル5aの反応像は、図12に示すように、ウェル5aの周辺部Pにおける平均光量Lpがウェル5aの中心部Cにおける平均光量Lcに比べて大きくなる。この結果、判定パラメータP/Cの値は、40以上となる。ここで、図12及び以下に示す図13,図14は、プレート静置法で反応させた場合における血球凝集反応像を示している。
【0050】
一方、血漿(血清)が、例えば、赤血球に対して弱い反応性を示す弱陽性検体の場合、赤血球は、凝集と非凝集の中間となる。このため、弱陽性の血漿(血清)を同様に処理した場合、図13に示すように、ウェル5aの反応像は、ウェル5aの周辺部Pにおける平均光量Lpとウェル5aの中心部Cにおける平均光量Lcとの差が、図12に示した陰性検体の場合に比べて小さくなる。この結果、判定パラメータP/Cの値は、15〜30の範囲となる。
【0051】
そして、血漿(血清)が、例えば、赤血球に対して強い反応性を示す強陽性検体の場合、赤血球表面の抗原と血漿(血清)中の抗体との反応によって微小な凝集塊が生ずる。このため、強陽性の血漿(血清)を同様に処理した場合、図14に示すように、ウェル5a全体に粒子状に分散する。従って、強陽性の場合、ウェル5aの反応像は、ウェル5aの周辺部Pにおける平均光量Lpとウェル5aの中心部Cにおける平均光量Lcとは殆ど等しくなる。この結果、判定パラメータP/Cの値は、10〜15の範囲となる。なお、判定パラメータP/Cの値が30〜40の範囲は、自動判定不可とする。
【0052】
画像処理後、判定部12aは、画像処理部11が演算した判定パラメータP/Cをもとにウェル5a毎に血漿(血清)の陽性或いは陰性を判定する(ステップS110)。そして、判定部12aは、ウェル5a毎に判定した判定結果をもとに血漿(血清)の血液型を判定する(ステップS112)。
【0053】
このようにして血液型の判定が終了した後、作業者は、血球凝集像判定装置1のドア2aを上方へ開き、マイクロプレート5を保持したバケット4をロータ3から外す。次に、バケット4からマイクロプレート5を取り出した後、複数のウェル5aのそれぞれに判定対象の新たな血漿(血清)とA型赤血球浮遊液,B型赤血球浮遊液とが分注された新たなマイクロプレート5をバケット4に保持させる。そして、上記と同様にして、新たなマイクロプレート5を保持したバケット4をチャンバ2b内のロータ3に支持させて、血球凝集像判定方法を繰り返す。
【0054】
以上のように、本発明によれば、マイクロプレート5を回転させて血球をマイクロプレート5の底壁5b側へ偏らせた後、マイクロプレート5の回転方向前側の辺が鉛直方向下方となるようにマイクロプレート5を傾斜させて試薬と血液検体とを反応させ、反応像をもとにウェル5a毎に血液検体の陽性或いは陰性を判定する。このとき、本発明は、血球をマイクロプレート5の底壁5b側へ移動させる遠心処理に15秒、マイクロプレート5を傾斜させて試薬と血液検体とを反応させるのに2分あればよい。このため、試薬と検体の分注、バケットへのプレートの脱着等、これらの他に判定に要する時間を考慮しても、本発明は、従来から行われている試験管法、カラム凝集法或いはプレート静置法に比べ、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能である。また、本発明は、血液検体と試薬を分注したマイクロプレートの遠心処理と、傾斜処理とによって血液検体の陽性或いは陰性を判定するので、従来から使用されている試験管法やカラム凝集法に比べて安価に判定することができる。
【0055】
(実施例)
以下、本発明の実施例を説明する。図15は、血球凝集像判定装置1によって遠心処理を施した直後のマイクロプレート5をCCDカメラ8で撮像した図である。このとき、図中矢印で示す右方向がマイクロプレート5の回転方向である。また、マイクロプレート5は、上から4行目と5行目、左から2列目〜5列目のウェル5aの計8つのウェル5aに判定対象の血漿(血清)と、試薬としての赤血球浮遊液とがそれぞれ25μLずつ分注されている。そして、上から4行目のウェル5aには0.43%の赤血球浮遊液が分注され、5行目のウェル5aには0.85%の赤血球浮遊液が分注されている。
【0056】
一方、図16は、遠心処理の後、更に2分間傾斜させた後のマイクロプレート5をCCDカメラ8で撮像した図である。また、図17は、図16に示す映像の判定結果を赤血球浮遊液の濃度と共に併記した図である。このとき、CCDカメラ8が撮像した反応像を含むマイクロプレート5の上記計8つのウェル5a毎の映像を画像処理部11によって画像処理し、得られたウェル5a毎の判定値をもとに判定部12aが血漿(血清)の陽性或いは陰性を判定した。その判定パラメータとして、ウェル5a中心部の透過光量が適用可能だが、他のパラメータと組み合わせて判定しても良い。更に、図18乃至図20は、図17に示す映像中、5行2列目の強陽性のウェル5a(W2)を拡大した映像、5行3列目の弱陽性のウェル5a(W3)を拡大した映像及び5行5列目の陰性のウェル5a(W5)を拡大した図である。
【0057】
図18乃至図20に示す図から明らかなように、本発明によれば、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能なうえ、血液検体の強陽性、弱陽性及び陰性を視覚によって明確に相互に判別することができ、特に、従来から判別し難いと言われている弱陽性と陰性とを視覚によって明確に判別することができた。
【0058】
(比較例)
ここで、本発明の血球凝集像判定方法と本発明に対する比較例としての試験管法とを使用し、血液検体をそれぞれ3回ずつ判定した。試験管法では凝集の強さを「1+」、「2+」といった形式で表現するが、「2+」は比較的容易に陰性と判別可能な弱陽性像だが、「1+」は陰性との判別に技量を要する弱陽性像である(非特許文献1参照)。弱陽性の血液検体の試験管法の判定結果は、「2+」や「1+」と変動したが、本発明の血球凝集像判定方法では、陰性との判別が容易な反応像が常に形成され、弱陽性の血液検体の判定結果における再現性が試験管法に比べて勝っていた。
【0059】
また、本発明の他の比較例として、底壁の内面が滑らかなU字形に加工され、隣接するウェルが接近している点を除き、マイクロプレート5と同数のウェルWを有するマイクロプレートを用い、血球凝集像判定装置1によって上記と同一条件で血球凝集像判定方法を実行した。その結果を図21乃至図25に示す。
【0060】
図21は、遠心処理を施した直後のマイクロプレートをCCDカメラ8で撮像した図である。このとき、図中矢印で示す右方向がマイクロプレートの回転方向である。また、マイクロプレートは、上下に隣り合う2行の計16のウェルWに判定対象の血漿(血清)と、試薬としての赤血球浮遊液とがそれぞれ25μLずつ分注されている。このとき、上側のウェルWには1.7%の赤血球浮遊液が分注され、下側のウェルWには0.85%の赤血球浮遊液が分注されている。また、左側の4列は原液の血漿(血清)を使用し、右側の4列は生理食塩水によって希釈した2倍希釈の血漿(血清)を使用した。
【0061】
図22は、傾斜装置7によって2分間傾斜させた後のマイクロプレートをCCDカメラ8で撮像した図である。
【0062】
ここで、図23は、図22の4行1列目のウェルW1の拡大図であり、図24は、同じく4行2列目のウェルW2の拡大図である。また、図25は、同じく4行4列目のウェルW4の拡大図である。図23乃至図25から明らかなように、底壁の内面が滑らかなU字形のウェルWを有するマイクロプレートの場合、ウェルW1の弱陽性検体凝集反応像は、ウェル中心部に集まった血球沈渣から右方向に血球粒子の流れ出しが見られるが、ウェルW4の陰性検体非凝集像でも同程度の血球粒子の流れ出しが見られ、視覚情報によるウェルW2とウェルW4との判別は困難であった。従って、マイクロプレート5のウェル5aは、底壁5bの内面に凹凸5cを形成しておくことが望ましいことが分かった。
【0063】
尚、本発明の血球凝集像判定方法においては、マイクロプレート5の遠心処理と、傾斜処理とを行った後、マイクロプレート5を血球凝集像判定装置1から取り出し、目視によって陽性或いは陰性の判定を行ってもよい。但し、血球凝集像判定装置1で判定を行うと、一定した基準に基づく判定結果が得られるという利点がある。
【0064】
また、上記実施の形態は、画像処理部11が反応像判定パラメータP/Cを判定値として演算したが、これに限定されるものではなく、例えば、中心部Cにおける平均光量Lc或いはその他の判定パラメータを使用してもよく、これらの判定パラメータを組み合わせて用いることによって血液検体の陽性或いは陰性の判定を行ってもよい。
【0065】
更に、上記実施の形態は、反応容器としてマイクロプレート5のウェル5aを使用したが、ウェル5aに代えて、ウェル5aが個々に独立した反応容器を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明の血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置は、血液検体を簡易、かつ、短時間で処理して判定するのに有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 血球凝集像判定装置
2 筐体
3 ロータ
3d トラニオンピン
4 バケット
4b 係合溝
5 マイクロプレート
5a ウェル
5b 底壁
5c 凹凸
6 モータ
7 傾斜装置
8 CCDカメラ
9 照明
11 画像処理装置
12 制御部
12a 判定部
71 チャック
72 回動モータ
73 昇降装置
Ss 短辺
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において血液型や感染症等を判定する血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原抗体反応による反応像に基づく血液の検査方法、例えば、血液型を判定する方法には、一般的に試験管法、カラム凝集法或いはプレート静置法が知られている。
【0003】
試験管法は、試薬血球50μLとサンプル血漿50μLを内径10mmの試験管に分注し、遠心分離処理(900G〜1000G、15秒)することによって管底に血球と血漿との凝集反応によって形成される血球ペレットを沈殿させる。その後、試験管を揺り動かすことにより管底に沈殿した血球ペレットを血球凝集塊又は非凝集血球として再浮遊させた血球凝集塊又は非凝集血球をもとに目視判定した凝集(陽性)又は非凝集(陰性)の結果から血液型を判定している(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
カラム凝集法は、不活性粒子と水性媒体とを充填したカラムを使用し、検査対象の血液をカラムへ分注した際の水性媒体中の担体結合抗体と抗原との凝集反応による複合体又は担体結合抗原と抗体との凝集反応による複合体を光学的に可視化することによって判定した凝集(陽性)又は非凝集(陰性)の結果から血液型を判定している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
プレート静置法は、マトリクス状に配置された複数のウェルを有するマイクロプレートを使用し、各ウェルに分注された血液検体と試薬との血球凝集像をもとに判定した凝集(陽性)又は非凝集(陰性)の結果から血液型を判定している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3299768号公報
【特許文献2】特公昭63−60854号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本臨床衛生検査技師会ライブラリーXII「輸血検査の実際」改定第3版P.16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、試験管法は、1つの血液検体当たり3〜4分の短時間で処理することができる。しかし、試験管法は、試験管を揺り動かして沈殿した血球ペレットを再浮遊させることから、試験管の揺動操作に熟練を要し、揺動の習熟度によって反応像に差が生じ、異なる判定結果になる場合が生ずるという問題があった。
【0009】
また、カラム凝集法は、揺動操作に熟練を要することはないが、凝集反応による複合体を可視化するためにカラムを10分間遠心分離処理する必要があり、処理に時間が掛かるという問題があった。特に、プレート静置法は、マイクロプレートを静置してウェル内で凝集反応を行わせるため、反応処理に60分程度の時間を要していた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能な血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の血球凝集像判定方法は、反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定方法であって、前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転する遠心処理工程と、前記遠心処理工程における回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の血球凝集像判定方法は、上記の発明において、前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の血球凝集像判定方法は、上記の発明において、前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、前記血球は、赤血球であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の血球凝集像判定方法は、上記の発明において、前記反応工程の後に、前記反応容器の傾斜を解除する解除工程と、傾斜を解除した前記反応容器を撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像された前記反応像を含む前記反応容器の映像を画像処理し、前記反応容器の映像にもとづく判定値を演算する画像処理工程と、前記画像処理工程で演算した判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を判定する判定工程と、を更に含むことを特徴とする。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の血球凝集像判定装置は、反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定装置であって、前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転させる回転手段と、回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、前記血球は、赤血球であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記回転手段は、モータと、前記モータによって回転されるロータと、前記マイクロプレートを保持して前記ロータに水平軸の周りにスイング自在に支持されるバケットと、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記複数のウェルを撮像する撮像手段と、前記撮像手段が撮像した前記反応像を含む前記ウェル毎の映像を画像処理し、前記ウェル毎の映像にもとづく判定値を演算する画像処理手段と、前記判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を前記ウェル毎に判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の血球凝集像判定装置は、上記の発明において、前記傾斜手段は、前記バケットの外縁を把持する把持手段と、前記把持手段を回動させて前記マイクロプレートの回転方向前側の短辺が鉛直方向下方となるように前記バケットを傾斜させる回動手段と、前記回動手段を前記把持手段と共に昇降させる昇降手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように反応容器を回転し、回転方向に沿った反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように反応容器を傾斜させるので、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能な血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る血球凝集像判定装置の概略構成図である。
【図2】図2は、ロータの斜視図である。
【図3】図3は、バケットを取り付けたロータの斜視図である。
【図4】図4は、マイクロプレートをセットしたバケットを取り付けたロータの平面図である。
【図5】図5は、マイクロプレートの平面図である。
【図6】図6は、図5のC−C線に沿った断面図である。
【図7】図7は、マイクロプレートに形成されたウェルの断面を拡大して示した斜視図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る血球凝集像判定方法を説明するフローチャートである。
【図9】図9は、血球凝集像判定装置におけるロータの回転に伴うバケットの姿勢を模式的に説明する正面図である。
【図10】図10は、傾斜装置によってバケットをロータから外した状態を模式的に示す正面図である。
【図11】図11は、傾斜装置によってバケットを傾斜させた状態を模式的に示す正面図である。
【図12】図12は、プレート静置法で処理した場合における血漿(血清)が陰性の際のウェルの反応像を示す図である。
【図13】図13は、プレート静置法で処理した場合における血漿(血清)が弱陽性の場合のウェルの反応像を示す図である。
【図14】図14は、プレート静置法で処理した場合における血漿(血清)が強陽性の場合のウェルの反応像を示す図である。
【図15】図15は、血球凝集像判定装置によって遠心処理を施した直後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の実施例を示す図である。
【図16】図16は、遠心処理の後、更に2分間傾斜させた後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の実施例を示す図である。
【図17】図17は、図16に示す映像の判定結果を赤血球浮遊液の濃度と共に併記した本発明の実施例を示す図である。
【図18】図18は、図17に示す映像中、5行2列目の強陽性のウェルを拡大した図である。
【図19】図19は、図17に示す映像中、5行3列目の弱陽性のウェルを拡大した図である。
【図20】図20は、図17に示す映像中、5行5列目の陰性のウェルを拡大した図である。
【図21】図21は、遠心処理を施した直後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の比較例を示す図である。
【図22】図22は、傾斜装置によって2分間傾斜させた後のマイクロプレートをCCDカメラで撮像した本発明の比較例を示す図である。
【図23】図23は、4行1列目のウェルの拡大図である。
【図24】図24は、4行2列目のウェルの拡大図である。
【図25】図25は、4行4列目のウェルの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置に係る実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る血球凝集像判定装置の概略構成図である。血球凝集像判定装置1は、図1に示すように、筐体2、ロータ3、モータ6、傾斜装置7、CCDカメラ8、画像処理部11及び制御部12を備えている。
【0025】
筐体2は、上方へ開閉自在に被着される蓋としてドア2aを有しており、チャンバ2b内にロータ3が配置されている。
【0026】
図2は、ロータ3の斜視図である。ロータ3は、図2に示すように、本体3aの両側にヨーク3bが形成されたH字形の部材であり、本体3aの中央に挿通孔3cが形成されている。また、ヨーク3bは、内側の互いに対向する位置に、それぞれ内側へ突出し、バケット4を水平に支持する水平軸であるトラニオンピン3dが設けられている。ロータ3は、図2に示すトラニオンピン3dによって本体3aを挟む両側にバケット4をバランスさせて保持する。
【0027】
図3は、バケット4を取り付けたロータ3の斜視図である。図4は、マイクロプレート5をセットしたバケット4を取り付けたロータ3の平面図である。バケット4は、図3に示すように、上部が解放され、底面に開口4aが形成された直方体形状の箱体である。バケット4は、図4に示すように、トラニオンピン3dによって挟まれる両側中央からロータ3の外周側へ僅かに変位した位置に係合溝4bが形成されている。バケット4は、係合溝4bにトラニオンピン3dを係合させることにより、図3に示すように、ロータ3に支持され、トラニオンピン(図示せず)を中心として矢印Asで示すようにスイングする。そして、バケット4は、図4に示すように、マイクロプレート5を保持し、ロータ3と共に挿通孔3cを中心として矢印Arで示す方向へ回転する。このとき、バケット4は、係合溝4bがロータ3の外周側へ僅かに変位している。このため、ロータ3が回転すると、バケット4は、ロータ3の内周側がトラニオンピン3dを中心としてマイクロプレート5と共に下方へスイングする。
【0028】
ここで、図5は、マイクロプレートの平面図であり、図6は、図5のC−C線に沿った断面図である。また、図7は、マイクロプレートに形成されたウェルの断面を拡大して示した斜視図である。以下、図5〜図7を参照してマイクロプレート5の構造について説明する。
【0029】
マイクロプレート5は、図5に示すように、12×10個のウェル5aがマトリックス状に配列形成されている。ウェル5aは、分注された血液検体と試薬とを反応させる微小な反応容器であり、図6に示すように、内面が略円錐形の底壁5bを有している。このとき、ウェル5aは、図7に示すように、マイクロプレート5の上面における直径をD(=6mm)、底壁5bの内面部分の深さをHとすると、内面の平均傾斜角度θ〔=tan−1{H/(D/2)}〕が30度に設定されている。また、底壁5bの内面には、同心円上に形成した複数の段部からなり、高さhがh=16μmに設定された凹凸5cが形成されている。
【0030】
モータ6は、図1に示すように、ロータ3及びバケット4と共にマイクロプレート5を回転させる回転機構Rを構成しており、ロータ3を回転させて各ウェル5aに分注された血液検体或いは試薬に含まれる血球を底壁5b側へ移動させる。モータ6は、挿通孔3cに挿通した回転軸6aの上端に螺着するナット(図示せず)によって、ロータ3が取り付けられている。
【0031】
傾斜装置7は、バケット4毎に設けられ、バケット4の回転方向に沿って前側に位置する短辺Ss(図4参照)を鉛直方向下方にしてマイクロプレート5を傾斜させる傾斜手段である。傾斜装置7は、図1に示すように、チャンバ2b側面のバケット4を臨む位置に設けられ、チャック71、回動モータ72及び昇降装置73を備えている。
【0032】
チャック71は、図1に示すように、バケット4の長辺側外縁を2本の把持爪71a(図10参照)によって把持する。回動モータ72は、回動軸72a(図10参照)を有しており、回動軸72aの端部に設けたチャック71を回動させてマイクロプレート5の回転方向前側の短辺Ss(図4参照)が鉛直方向下方となるようにバケット4を傾斜させる。昇降装置73は、ボールねじを使用した回動モータ72の昇降手段であり、スライダ(図示せず)に回動モータ72が取り付けられている。
【0033】
CCDカメラ8は、マイクロプレート5の複数のウェル5aを撮像する撮像手段であり、撮像した複数のウェル5aの画像信号を画像処理部11へ出力する。CCDカメラ8は、図1に示すように、ドア2a下面のロータ3によって回転されるマイクロプレート5を臨む位置に設けられている。このとき、傾斜装置7とCCDカメラ8は、マイクロプレート5の回転軌跡に沿って中心角90度離れた位置に配置される。
【0034】
照明9は、チャンバ2bの内壁下部に設けてマイクロプレート5を下方から照明する蛍光灯等の照明手段である。
【0035】
画像処理部11は、CCDカメラ8から入力される複数のウェル5aの前記画像信号をもとに各ウェル5aの映像を画像処理して判定値をウェル5a毎に演算し、得られたウェル5a毎の判定値信号を判定部12aへ出力する。
【0036】
制御部12は、血球凝集像判定装置1を構成する各部への動作タイミングの指示やデータの転送等を行って各部を制御し、血球凝集像判定装置1全体の動作を統括的に制御する。制御部12は、ウェル5a毎の判定結果や複数のウェル5aにおける判定結果に基づく各血液検体の血液型に関する判定結果の他、血球凝集像判定装置1の動作に必要な各種データを保持するメモリを内蔵したマイクロコンピュータ等で構成され、図1に示すように、判定部12aを有している。判定部12aは、画像処理部11から入力されるウェル5a毎の判定値をもとに最も凝集が生じている場合を強陽性として血液検体を強陽性、弱陽性或いは陰性の3段階にウェル5a毎に判定する。
【0037】
以上のように構成される血球凝集像判定装置1は、例えば、血液型を判定する際は、マイクロプレート5の複数のウェル5aに原液又は生理食塩水で所定濃度に希釈した血漿を分注し、所定倍率で希釈した血球を分注した際の血漿と血球の反応に伴う凝集像をもとにマイクロプレート5のウェル5a毎に血液検体の陽性或いは陰性を判定する。
【0038】
ここで、血漿と血球とが反応して凝集像を形成した場合は陽性、非凝集の場合は陰性である。また、赤血球の血液型を調べるABO表検査の場合は、血液から採取した赤血球が血液検体となり、型判定用の抗A抗体,抗B抗体を試薬として使用する。また、血漿(血清)の血液型を調べるABO裏検査の場合、血漿(血清)が血液検体となり、血液型が既知のA型赤血球,B型赤血球を生理食塩水にそれぞれ浮遊させたA型赤血球浮遊液,B型赤血球浮遊液を試薬として使用する。以下、血漿(血清)の血液型を調べるABO裏検査の場合を例に説明する。
【0039】
先ず、複数のウェル5aのそれぞれに判定対象の血漿(血清)とA型赤血球浮遊液,B型赤血球浮遊液とを分注し、分注後のマイクロプレート5をバケット4に装着する。そして、血球凝集像判定装置1のドア2aを上方へ開き、それぞれにマイクロプレート5を装着した2つのバケット4をチャンバ2b内のロータ3に保持させる。
【0040】
このとき、バケット4は、係合溝4b(図10参照)をトラニオンピン3dに係合させて、図4に示すように、トラニオンピン3dに支持される。このため、ロータ3は、回転中心となるロータ3の挿通孔3cに対して2つのマイクロプレート5を点対称に保持する。
【0041】
次に、作業者は、血球凝集像判定装置1のドア2aを閉じ、血球凝集像判定装置1のスイッチをオンし、血球凝集処理判定ボタンを押下する。すると、血球凝集像判定装置1は、予め設定されたプログラムに従ってモータ6を駆動してロータ3を回転させ、マイクロプレート5に遠心処理を施す。以下、本発明の血球凝集像判定方法を図8に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0042】
先ず、血球凝集像判定装置1は、制御部12の制御のもとに、ロータ3を回転させてマイクロプレート5に遠心処理を施す(ステップS100)。この遠心処理によって血球を底壁5b側へ偏らせるが、制御部12は、血球が完全に底壁5bに押圧されることがないようにモータ6によるマイクロプレート5の回転を制御する。このような制御をするうえで、制御部12は、例えば、ロータ3が毎分1000回転(200G)の回転数で、15秒間回転するようにモータ6を制御した。このとき、各ウェル5aにおいては、血漿(血清)中に存在する抗体と赤血球表面に存在する抗原決定基との抗原抗体反応による凝集反応が開始している。このため、底壁5b側へ移動する血球には非凝集赤血球の他に、凝集反応によって生ずる凝集塊が含まれている。
【0043】
ここで、図9は、血球凝集像判定装置1におけるロータ3の回転に伴うバケット4の姿勢を説明する正面図である。モータ6の回転開始時、バケット4は、ロータ3の上面とバケット4の上面が面一の状態にある。モータ6の回転数の増加に伴い、バケット4は、作用する遠心力によりトラニオンピン3dを中心として下部がロータ3の外方へスイングし、図9(a)に示すように、ロータ3の内周側が下がり、外周側が上昇する。そして、回転数が更に増加し、モータ6の回転数が毎分1000回転に達すると、制御部12は、モータ6を停止させる。このため、下部がロータ3の外方へスイングするバケット4は、図9(b)に示すロータ3の上面に対して直交状態になる直前に回転数が減少し始める。従って、マイクロプレート5は、各ウェル5a内の赤血球が底壁5b側へ移動される。
【0044】
次に、血球凝集像判定装置1は、マイクロプレート5の回転方向前側の短辺Ss(図4参照)が鉛直方向下方となるようにマイクロプレート5を傾斜させる(ステップS102)。
【0045】
ここで、図10は、傾斜装置7によってバケット4をロータ3から外した状態を示す正面図である。図11は、傾斜装置7によってバケット4を傾斜させた状態を示す正面図である。以下、傾斜装置7によるマイクロプレート5の傾斜動作を図10,図11を参照して説明する。
【0046】
先ず、血球凝集像判定装置1は、傾斜装置7を駆動してチャック71によってバケット4の長辺側外縁を2本の把持爪71aによって把持した後、昇降装置73によって回動モータ72を上昇させ、図10に示すように、バケット4をロータ3から外す。その後、血球凝集像判定装置1は、回動モータ72を駆動してチャック71を回動させ、図11に示すように、マイクロプレート5の回転方向前側の短辺Ss(図4参照)が鉛直方向下方となるようにバケット4を水平面に対して90°に保持して2分間傾斜させる。
【0047】
2分経過後、血球凝集像判定装置1は、上記とは逆に傾斜装置7を駆動してバケット4をロータ3に保持させ、マイクロプレート5の傾斜を解除する(ステップS104)。これにより、マイクロプレート5は、バケット4と共に水平状態に保持される(図4参照)。
【0048】
次いで、血球凝集像判定装置1は、マイクロプレート5の複数のウェル5aをCCDカメラ8に撮像させる(ステップS106)。このとき、マイクロプレート5は、図1に示したように、照明9によって下方から照明されているので、複数のウェル5aを鮮明に撮像することができる。その後、CCDカメラ8から入力される複数のウェル5aの画像信号をもとに画像処理部11に反応像を含むウェル5a毎の映像を画像処理させる(ステップS108)。
【0049】
画像処理部11は、例えば、ウェル5aの周辺部における平均光量Lpと中心部における平均光量Lcの比の値Lp/Lcを10倍した凝集反応の判定パラメータP/Cを判定値として演算する。このとき、血漿(血清)が、例えば、赤血球に対して陰性の場合、赤血球は、凝集反応を起すことなくウェル5aの底壁5b中央の最深部に集まる。このため、ウェル5aの反応像は、図12に示すように、ウェル5aの周辺部Pにおける平均光量Lpがウェル5aの中心部Cにおける平均光量Lcに比べて大きくなる。この結果、判定パラメータP/Cの値は、40以上となる。ここで、図12及び以下に示す図13,図14は、プレート静置法で反応させた場合における血球凝集反応像を示している。
【0050】
一方、血漿(血清)が、例えば、赤血球に対して弱い反応性を示す弱陽性検体の場合、赤血球は、凝集と非凝集の中間となる。このため、弱陽性の血漿(血清)を同様に処理した場合、図13に示すように、ウェル5aの反応像は、ウェル5aの周辺部Pにおける平均光量Lpとウェル5aの中心部Cにおける平均光量Lcとの差が、図12に示した陰性検体の場合に比べて小さくなる。この結果、判定パラメータP/Cの値は、15〜30の範囲となる。
【0051】
そして、血漿(血清)が、例えば、赤血球に対して強い反応性を示す強陽性検体の場合、赤血球表面の抗原と血漿(血清)中の抗体との反応によって微小な凝集塊が生ずる。このため、強陽性の血漿(血清)を同様に処理した場合、図14に示すように、ウェル5a全体に粒子状に分散する。従って、強陽性の場合、ウェル5aの反応像は、ウェル5aの周辺部Pにおける平均光量Lpとウェル5aの中心部Cにおける平均光量Lcとは殆ど等しくなる。この結果、判定パラメータP/Cの値は、10〜15の範囲となる。なお、判定パラメータP/Cの値が30〜40の範囲は、自動判定不可とする。
【0052】
画像処理後、判定部12aは、画像処理部11が演算した判定パラメータP/Cをもとにウェル5a毎に血漿(血清)の陽性或いは陰性を判定する(ステップS110)。そして、判定部12aは、ウェル5a毎に判定した判定結果をもとに血漿(血清)の血液型を判定する(ステップS112)。
【0053】
このようにして血液型の判定が終了した後、作業者は、血球凝集像判定装置1のドア2aを上方へ開き、マイクロプレート5を保持したバケット4をロータ3から外す。次に、バケット4からマイクロプレート5を取り出した後、複数のウェル5aのそれぞれに判定対象の新たな血漿(血清)とA型赤血球浮遊液,B型赤血球浮遊液とが分注された新たなマイクロプレート5をバケット4に保持させる。そして、上記と同様にして、新たなマイクロプレート5を保持したバケット4をチャンバ2b内のロータ3に支持させて、血球凝集像判定方法を繰り返す。
【0054】
以上のように、本発明によれば、マイクロプレート5を回転させて血球をマイクロプレート5の底壁5b側へ偏らせた後、マイクロプレート5の回転方向前側の辺が鉛直方向下方となるようにマイクロプレート5を傾斜させて試薬と血液検体とを反応させ、反応像をもとにウェル5a毎に血液検体の陽性或いは陰性を判定する。このとき、本発明は、血球をマイクロプレート5の底壁5b側へ移動させる遠心処理に15秒、マイクロプレート5を傾斜させて試薬と血液検体とを反応させるのに2分あればよい。このため、試薬と検体の分注、バケットへのプレートの脱着等、これらの他に判定に要する時間を考慮しても、本発明は、従来から行われている試験管法、カラム凝集法或いはプレート静置法に比べ、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能である。また、本発明は、血液検体と試薬を分注したマイクロプレートの遠心処理と、傾斜処理とによって血液検体の陽性或いは陰性を判定するので、従来から使用されている試験管法やカラム凝集法に比べて安価に判定することができる。
【0055】
(実施例)
以下、本発明の実施例を説明する。図15は、血球凝集像判定装置1によって遠心処理を施した直後のマイクロプレート5をCCDカメラ8で撮像した図である。このとき、図中矢印で示す右方向がマイクロプレート5の回転方向である。また、マイクロプレート5は、上から4行目と5行目、左から2列目〜5列目のウェル5aの計8つのウェル5aに判定対象の血漿(血清)と、試薬としての赤血球浮遊液とがそれぞれ25μLずつ分注されている。そして、上から4行目のウェル5aには0.43%の赤血球浮遊液が分注され、5行目のウェル5aには0.85%の赤血球浮遊液が分注されている。
【0056】
一方、図16は、遠心処理の後、更に2分間傾斜させた後のマイクロプレート5をCCDカメラ8で撮像した図である。また、図17は、図16に示す映像の判定結果を赤血球浮遊液の濃度と共に併記した図である。このとき、CCDカメラ8が撮像した反応像を含むマイクロプレート5の上記計8つのウェル5a毎の映像を画像処理部11によって画像処理し、得られたウェル5a毎の判定値をもとに判定部12aが血漿(血清)の陽性或いは陰性を判定した。その判定パラメータとして、ウェル5a中心部の透過光量が適用可能だが、他のパラメータと組み合わせて判定しても良い。更に、図18乃至図20は、図17に示す映像中、5行2列目の強陽性のウェル5a(W2)を拡大した映像、5行3列目の弱陽性のウェル5a(W3)を拡大した映像及び5行5列目の陰性のウェル5a(W5)を拡大した図である。
【0057】
図18乃至図20に示す図から明らかなように、本発明によれば、血液検体を短時間で処理することができ、安定した判定結果を得ることが可能なうえ、血液検体の強陽性、弱陽性及び陰性を視覚によって明確に相互に判別することができ、特に、従来から判別し難いと言われている弱陽性と陰性とを視覚によって明確に判別することができた。
【0058】
(比較例)
ここで、本発明の血球凝集像判定方法と本発明に対する比較例としての試験管法とを使用し、血液検体をそれぞれ3回ずつ判定した。試験管法では凝集の強さを「1+」、「2+」といった形式で表現するが、「2+」は比較的容易に陰性と判別可能な弱陽性像だが、「1+」は陰性との判別に技量を要する弱陽性像である(非特許文献1参照)。弱陽性の血液検体の試験管法の判定結果は、「2+」や「1+」と変動したが、本発明の血球凝集像判定方法では、陰性との判別が容易な反応像が常に形成され、弱陽性の血液検体の判定結果における再現性が試験管法に比べて勝っていた。
【0059】
また、本発明の他の比較例として、底壁の内面が滑らかなU字形に加工され、隣接するウェルが接近している点を除き、マイクロプレート5と同数のウェルWを有するマイクロプレートを用い、血球凝集像判定装置1によって上記と同一条件で血球凝集像判定方法を実行した。その結果を図21乃至図25に示す。
【0060】
図21は、遠心処理を施した直後のマイクロプレートをCCDカメラ8で撮像した図である。このとき、図中矢印で示す右方向がマイクロプレートの回転方向である。また、マイクロプレートは、上下に隣り合う2行の計16のウェルWに判定対象の血漿(血清)と、試薬としての赤血球浮遊液とがそれぞれ25μLずつ分注されている。このとき、上側のウェルWには1.7%の赤血球浮遊液が分注され、下側のウェルWには0.85%の赤血球浮遊液が分注されている。また、左側の4列は原液の血漿(血清)を使用し、右側の4列は生理食塩水によって希釈した2倍希釈の血漿(血清)を使用した。
【0061】
図22は、傾斜装置7によって2分間傾斜させた後のマイクロプレートをCCDカメラ8で撮像した図である。
【0062】
ここで、図23は、図22の4行1列目のウェルW1の拡大図であり、図24は、同じく4行2列目のウェルW2の拡大図である。また、図25は、同じく4行4列目のウェルW4の拡大図である。図23乃至図25から明らかなように、底壁の内面が滑らかなU字形のウェルWを有するマイクロプレートの場合、ウェルW1の弱陽性検体凝集反応像は、ウェル中心部に集まった血球沈渣から右方向に血球粒子の流れ出しが見られるが、ウェルW4の陰性検体非凝集像でも同程度の血球粒子の流れ出しが見られ、視覚情報によるウェルW2とウェルW4との判別は困難であった。従って、マイクロプレート5のウェル5aは、底壁5bの内面に凹凸5cを形成しておくことが望ましいことが分かった。
【0063】
尚、本発明の血球凝集像判定方法においては、マイクロプレート5の遠心処理と、傾斜処理とを行った後、マイクロプレート5を血球凝集像判定装置1から取り出し、目視によって陽性或いは陰性の判定を行ってもよい。但し、血球凝集像判定装置1で判定を行うと、一定した基準に基づく判定結果が得られるという利点がある。
【0064】
また、上記実施の形態は、画像処理部11が反応像判定パラメータP/Cを判定値として演算したが、これに限定されるものではなく、例えば、中心部Cにおける平均光量Lc或いはその他の判定パラメータを使用してもよく、これらの判定パラメータを組み合わせて用いることによって血液検体の陽性或いは陰性の判定を行ってもよい。
【0065】
更に、上記実施の形態は、反応容器としてマイクロプレート5のウェル5aを使用したが、ウェル5aに代えて、ウェル5aが個々に独立した反応容器を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明の血球凝集像判定方法及び血球凝集像判定装置は、血液検体を簡易、かつ、短時間で処理して判定するのに有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 血球凝集像判定装置
2 筐体
3 ロータ
3d トラニオンピン
4 バケット
4b 係合溝
5 マイクロプレート
5a ウェル
5b 底壁
5c 凹凸
6 モータ
7 傾斜装置
8 CCDカメラ
9 照明
11 画像処理装置
12 制御部
12a 判定部
71 チャック
72 回動モータ
73 昇降装置
Ss 短辺
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定方法であって、
前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転する遠心処理工程と、
前記遠心処理工程における回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜工程と、
を含むことを特徴とする血球凝集像判定方法。
【請求項2】
前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする請求項1に記載の血球凝集像判定方法。
【請求項3】
前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、
前記血球は、赤血球であることを特徴とする請求項1又は2に記載の血球凝集像判定方法。
【請求項4】
前記反応工程の後に、
前記反応容器の傾斜を解除する解除工程と、
傾斜を解除した前記反応容器を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像された前記反応像を含む前記反応容器の映像を画像処理し、前記反応容器の映像にもとづく判定値を演算する画像処理工程と、
前記画像処理工程で演算した判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を判定する判定工程と、
を更に含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の血球凝集像判定方法。
【請求項5】
反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定装置であって、
前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転させる回転手段と、
回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜手段と、
を備えたことを特徴とする血球凝集像判定装置。
【請求項6】
前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする請求項5に記載の血球凝集像判定装置。
【請求項7】
前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、
前記血球は、赤血球であることを特徴とする請求項5又は6に記載の血球凝集像判定装置。
【請求項8】
前記回転手段は、
モータと、
前記モータによって回転されるロータと、
前記マイクロプレートを保持して前記ロータに水平軸の周りにスイング自在に支持されるバケットと、
を備えることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一つに記載の血球凝集像判定装置。
【請求項9】
前記複数のウェルを撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した前記反応像を含む前記ウェル毎の映像を画像処理し、前記ウェル毎の映像にもとづく判定値を演算する画像処理手段と、
前記判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を前記ウェル毎に判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一つに記載の血球凝集像判定装置。
【請求項10】
前記傾斜手段は、
前記バケットの外縁を把持する把持手段と、
前記把持手段を回動させて前記マイクロプレートの回転方向前側の短辺が鉛直方向下方となるように前記バケットを傾斜させる回動手段と、
前記回動手段を前記把持手段と共に昇降させる昇降手段と、
を備えることを特徴とする請求項5乃至9のいずれか一つに記載の血球凝集像判定装置。
【請求項1】
反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定方法であって、
前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転する遠心処理工程と、
前記遠心処理工程における回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜工程と、
を含むことを特徴とする血球凝集像判定方法。
【請求項2】
前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする請求項1に記載の血球凝集像判定方法。
【請求項3】
前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、
前記血球は、赤血球であることを特徴とする請求項1又は2に記載の血球凝集像判定方法。
【請求項4】
前記反応工程の後に、
前記反応容器の傾斜を解除する解除工程と、
傾斜を解除した前記反応容器を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像された前記反応像を含む前記反応容器の映像を画像処理し、前記反応容器の映像にもとづく判定値を演算する画像処理工程と、
前記画像処理工程で演算した判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を判定する判定工程と、
を更に含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の血球凝集像判定方法。
【請求項5】
反応容器内における血液検体と試薬との反応による血球凝集像をもとに前記血液検体を陽性或いは陰性に判定する血球凝集像判定装置であって、
前記反応容器の底壁が遠心力によって外側を向くように前記反応容器を回転させる回転手段と、
回転方向に沿った前記反応容器の前側部分が後側部分よりも鉛直方向下側に位置するように前記反応容器を傾斜させる傾斜手段と、
を備えたことを特徴とする血球凝集像判定装置。
【請求項6】
前記反応容器は、マイクロプレートに形成されたウェルであることを特徴とする請求項5に記載の血球凝集像判定装置。
【請求項7】
前記ウェルは、底壁内面に凹凸が形成され、
前記血球は、赤血球であることを特徴とする請求項5又は6に記載の血球凝集像判定装置。
【請求項8】
前記回転手段は、
モータと、
前記モータによって回転されるロータと、
前記マイクロプレートを保持して前記ロータに水平軸の周りにスイング自在に支持されるバケットと、
を備えることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一つに記載の血球凝集像判定装置。
【請求項9】
前記複数のウェルを撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した前記反応像を含む前記ウェル毎の映像を画像処理し、前記ウェル毎の映像にもとづく判定値を演算する画像処理手段と、
前記判定値をもとに前記血液検体の陽性或いは陰性を前記ウェル毎に判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一つに記載の血球凝集像判定装置。
【請求項10】
前記傾斜手段は、
前記バケットの外縁を把持する把持手段と、
前記把持手段を回動させて前記マイクロプレートの回転方向前側の短辺が鉛直方向下方となるように前記バケットを傾斜させる回動手段と、
前記回動手段を前記把持手段と共に昇降させる昇降手段と、
を備えることを特徴とする請求項5乃至9のいずれか一つに記載の血球凝集像判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−133364(P2011−133364A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293376(P2009−293376)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】
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