説明

血球分離材及び血球分離材の製造方法

【課題】任意の形状とすることが可能であり、外部からの動力や煩雑な工程を必要とせず、少量の採血においても簡便かつ安全に血球を分離することのできる、分離性能に優れた血球分離材を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物からなる、モノリス構造を有する血球分離材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノリス構造を有する血球分離材に関する。また、本発明はモノリス構造を有する血球分離材の製造方法に関する。さらに、本発明は、モノリス構造を有する血球分離材を用いた血球分離容器、採血管及び血液検査器に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学検査において、血液に含まれる血球成分以外の成分について、例えば、免疫学的検査を行うとき、血液中の血球成分が検査を阻害することがあるために、血球成分を分離した血漿又は血清が使用される。そのため、患者から採血針を用いて採血管に血液を採血し採血管内で血液を凝固させた後に、もしくは血清分離剤や抗凝固剤が入った採血管を用いる場合は、血液と血清分離剤や抗凝固剤とを撹拌した後に、遠心分離器を使用して遠心分離することにより、血漿又は血清と、血球とが分離される。一部のイムノクロマトのように少量の血漿又は血清で検査を実施できる場合には、皮膚穿刺などによる少量血液の採血を行うことがある。この場合、毛細管やスポイトに採血した穿刺血を小型のチューブに分注後、小型の遠心分離器にかけることにより、血漿又は血清が得られる。もしくは、採血した毛細管に栓をして毛細管を遠心分離器にかけることにより、血漿又は血清と、血球とを分離することができる。このように、血球分離を伴う血液検査は、遠心分離器が必要である、時間が掛かる、手技が煩雑であるなどの理由から、改善が求められている。さらに、血液を取り扱う場合、手技が煩雑であると取扱者が血液に接触し、感染などのリスクが高くなることが考えられる。また、検査の対象となる血液が汚染される恐れもある。
【0003】
一方、上記方法とは別に、血液を、血漿又は血清と、血球とに分離する方法として、血球分離膜を使用する方法がある。血球分離膜としては、例えば、セルロースなどの不織布や、ポリエーテルサルフォンなどの高分子からなる多孔質膜が知られている。この血球分離膜の一方の面(上面側)に血液を滴下すると、血球成分が膜中に捕捉されて、血漿又は血清が他方の面(下面側)から得られる。
【0004】
血球分離膜は、例えば、高分子を含む溶液を基材上に塗工し、溶媒を揮発させ多孔質化させることにより製造することができる。しかしながら、この方法においては、溶媒の揮発をミクロ領域で制御することが難しく多孔質化が不均一に進むという問題や、溶媒を揮発させるという方法であるために厚い膜を製造し難いという問題がある。そのため、このようにして得られた血球分離膜を用いて血液の分離を行うと、膜内に捕捉されずに流れ出てしまう血球が少なからずある。これを解決するために、血球分離膜を数枚重ねるなどの手法をとることで血球分離性能を満たすこともある。
【0005】
また、血球分離膜は形状が膜であるために、この血球分離膜を用いるとフィルタの形状が制約されてしまう。すなわち、血球分離膜を用いたフィルタにおいては、血球分離膜を固定するために、通常、フィルタをディスク状の形状にする必要があり(例えば、特許文献1参照)、キャピラリー等の形状にすることが難しい。したがって、フィルタの形状がディスク状であることから、少量の血液を分離する場合には滴下した血液が血球分離膜の平面方向に浸透して広がり膜中に血漿又は血清が残るため、得られる血漿又は血清量が少なくなることが予想される。
【0006】
また、別の方法として、自由な形状に加工できるスポンジ状の血球分離材を作製し、これをハウジングに装填して得たフィルタを用いる方法がある(例えば、特許文献2参照)。しかし、このフィルタにおいては血球分離材とハウジングが結合(接着)していないために、血球分離材とハウジングとの境界部分にバイパスが形成されて血液がバイパスを通り、血漿又は血清と血球とが分離されずに流出してしまうということが懸念される。また、スポンジ状の血球分離材を用いて血球を分離する方法として、この血球分離材をハウジングに充填したフィルタに圧力をかけて血液を流す方法がある。しかしながら、この圧力を必要とする方法は、フィルタの流路長が長くなると溶血がおこり易くなる恐れや、フィルタの破損や不具合により血液が飛散する恐れがある。さらに、圧力をかけるための動力も必要となる。また、血球分離材を血液の入口から出口までが同じ口径のハウジング(例えば、キャピラリー)中へ装填した場合には、通液時や加圧時に血球分離材が抜け出てしまうということが考えられる。
【0007】
さらに、別の方法として中空糸を使用する方法がある。しかしながら、この方法においては、構造的に複雑であるためフィルタが大型になること、フィルタに圧力をかける必要があること等の制約がある。そのため、中空糸を用いたフィルタは、少量血液の分離には向いていない。また、上述のスポンジ状の血球分離材に圧力をかける場合と同様に、溶血や血液飛散、さらに動力の問題がある。
【0008】
【特許文献1】特許第2898665号公報
【特許文献2】特許第3644169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのために、上記の問題を解決し、分離性能に優れ、少量の血液であっても効率よく分離することが可能な血球分離材が望まれていた。
したがって、本発明は、任意の形状とすることが可能であり、外部からの動力や煩雑な工程を必要とせず、少量の採血においても簡便かつ安全に血球を分離することのできる、分離性能に優れた血球分離材を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような血球分離材を製造する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのような血球分離材を用いた血球分離容器、採血管及び血球検査器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らが鋭意検討した結果、キャピラリーなどの細い管内に形成することが可能であり、少量の血液の分離に適した血球分離材を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物からなる、モノリス構造を有する血球分離材に関する。
また、本発明は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物及びポロゲンを混合し、樹脂組成物を硬化し、ポロゲンを除去する、モノリス構造を有する血球分離材の製造方法に関する。
さらに、本発明は、前記血球分離材を内部に備えた血球分離容器、前記血球分離材を備えた採血管、前記血球分離材及び検査材を備えた血液検査器に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、任意の形状とすることが可能であり、外部からの動力や煩雑な工程を必要とせず、少量の採血においても簡便かつ安全に血球を分離することのできる、分離性能に優れた血球分離材及びその製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば、採血から血球分離を連続的に、迅速、簡便に行うことが可能であり、また、血液との接触機会を減らすこともできる血球分離容器、採血管、及び血液検査器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の血球分離材は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物からなる、モノリス構造を有する血球分離材である。
【0013】
本発明の血球分離材は、多孔質化溶媒(ポロゲン)中で樹脂組成物が硬化する際の相分離現象を利用することにより形成されたモノリス構造を有する。本発明において、モノリス構造(一体型構造)とは、連続的に繋がった樹状の骨格(主骨格)と連続的に繋がった空孔(スルーポア)からなる共連続構造を有する多孔質体を意味する。後述する樹脂組成物の組成、ポロゲンの使用量、硬化温度などの製造条件を変化させることによって、骨格の大きさ、空孔の大きさなどが異なるモノリス構造を得ることができる。また、製造条件によっては、モノリス構造中に粒子が凝集した構造(粒子凝集構造)が混在する場合がある。そのような粒子凝集構造が混在したモノリス構造も、本発明の血球分離材として用いることができる。モノリス構造を構成する骨格の表面には、メソポアと呼ばれるナノレベルの空孔が存在してもよい。場合によって混在する粒子凝集構造を構成する粒子にも、メソポアが存在してもよい。モノリス構造については、国際公開WO2006/073173号パンフレットなどに記載があり、これまでにカラムクロマトグラフィーの充填材などとしての利用が知られている。
【0014】
本発明の血球分離材は、主としてエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物からなるが、その表面に官能基が導入されている、表面が修飾されている、表面がコーティングされているなど、任意の付加的な構成を有していてもよい。
【0015】
モノリス構造は、構造の均一性が高く、また、空孔率が高い。そのため、モノリス構造を有する血球分離材は、一般の非対称性膜などを利用した分離膜と比較して、流路抵抗が低く、重力や毛細管現象により容易に血液が内部に浸透する。したがって、血球分離材に外部動力を用いて圧力をかけることなく、血球分離を行うことができる。ただし、血球分離材内の血漿又は血清を取り出すために加圧することも可能であり、加圧により効率よく血球分離を行うことができる。
【0016】
また、モノリス構造は、空孔の径を簡単にコントロールすることが可能であるために、血球の分離に最適な径に作製することができる。これらの観点から、モノリス構造は、本発明の血球分離材として好ましく用いることができる。
【0017】
モノリス構造を有する血球分離材における血液成分の透過速度は、0.1〜100mm/秒であることが好ましく、0.5〜50mm/秒であることがより好ましく、0.7〜10mm/秒であることがさらに好ましい。血液成分の透過速度が0.1mm/秒未満であると血液中の水分の蒸発が起こるために血球分離が阻害される場合があり、100mm/秒を超えると血球分離性能が低下する場合がある。
【0018】
本発明において、血液透過速度は、キャピラリー内に形成した血球分離材を用いて測定することができる。まず、内部に血球分離材を形成したキャピラリーを、鉛直に立て、キャピラリーの上部から血球分離材上に血液を注入する。その後、血球分離材の下部から血漿が浸出してくる。注入から浸出までの時間と、血球分離材の長さから、透過速度を求めることができる。
【0019】
モノリス構造を有する血球分離材の平均空孔径は、1〜50μmが好ましく、3〜30μmがさらに好ましい。平均空孔径が1μm未満であると血球成分が目詰まりし易く、50μmを超えると血球成分の分離性能が低下する場合がある。空孔径を変化させることで、透過速度をコントロールすることができる。
【0020】
本発明において、平均空孔径を求めるには、まず、血球分離材を血液の流れる方向に対して垂直方向に切断する。次いで、電子顕微鏡を用いて切断面を撮影し、環状に撮影されている空孔の長径及び短径を測定し(10個程度)、測定値を相加平均する。
【0021】
空孔径の平均アスペクト比(長径/短径)は、1〜5が好ましく、1.1〜3がさらに好ましい。平均アスペクト比が5を超えると血球分離性能が低下する傾向がある。
【0022】
本発明において、平均アスペクト比を求めるには、まず、血球分離材を血液の流れる方向に対して垂直方向に切断する。次いで、電子顕微鏡を用いて切断面を撮影し、環状に撮影されている空孔の長径及び短径を測定し(10個程度)、それぞれの長径/短径の比を算出し、算出した値を相加平均する。
【0023】
また、空孔率は、40〜95%が好ましく、50〜90%がより好ましく、60〜85%が最も好ましい。本発明における空孔率とは、血球分離材の見かけ上の体積に占める空孔の体積の割合を意味する。空孔率が40%未満では流速が遅くなり血球分離に時間が掛かり易く、95%を超えると主骨格の割合が少ないため血球分離材の強度が低下する傾向がある。
【0024】
本発明において、空孔率は、以下の方法により測定することができる。
例えば、後述のとおり、本発明の血球分離材は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物とポロゲンとを混合し、樹脂組成物を硬化させ、ポロゲンを除去することにより得ることができる。したがって、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物とポロゲンの配合比(重量比)から、ポロゲンの配合割合を求め、それを空孔率とすることができる。この方法は、簡便であり好ましく、後述する実施例においてはこの方法を使用した。
【0025】
また、別の方法として、任意の大きさのキャピラリー(例えば、内径1mm、長さ1cmのキャピラリー)内全体に作製した血球分離材をそのまま、またはペレット状に切り出したものを、真空乾燥機で1時間以上乾燥させた後に全体の重量を測定する。次いで、水や水溶液、溶媒等の液体を充填して再度、全体の重量を測定する。これらの測定値の差より、血球分離材内の空孔に完全に液体が充填された血球分離材の重量を求め、この重量と液体の密度から充填された液体の体積を算出する。キャピラリーの内容積又はペレットの体積に占める充填された液体の体積の割合を、空孔率とすることができる。
【0026】
血球分離材の最大曲げ応力は、0.1〜50MPaが好ましく、0.4〜10MPaがさらに好ましく、0.5〜5MPaがより好ましい。最大曲げ応力が0.1MPa未満であると成形、容器充填時などに変形する不具合が生じることがある。また、製造上、最大曲げ応力が50MPaを超える血球分離材を作製することは難しい。
【0027】
本発明において、曲げ応力は、次の方法により測定することができる。まず、直径5〜6mm、長さ250mm以上の円筒形の血球分離材を作製する。島津製作所製AUTOGRAPHなどの強度測定装置を用いて、作製した血球分離材について、3点曲げ測定を行う。測定条件は、支点間距離:100〜200mm、荷重速度:1mm/minとする。
【0028】
最大曲げ応力(σ)(MPa)は次式から得られる。
σ=M/Z
ただし、Mは曲げモーメント(N・mm)、Zは断面係数(mm)を表す。
また、曲げモーメント、断面係数は次式から得られる。
M=(P×L)/4
ただし、Pは荷重(N)、Lは支点間距離(mm)を表す。
Z=π×d/32
ただし、dは円断面の直径(mm)を表す。また、円断面とは円筒形サンプルの長軸に対して垂直面の円の直径である。
【0029】
モノリス構造を有する血球分離材の製造方法については後述するが、モノリス構造は、樹脂組成比を変えること、樹脂組成物とポロゲンの比を変えること、硬化条件を変えること、ポロゲンの分子量を変えることなどにより、骨格の大きさや孔径の大きさなどを調整することができる。
【0030】
例えば、樹脂組成物において、硬化剤の量を増やすことで硬化反応を速くすることができ、孔径を小さくできる。硬化剤の量を増やしすぎると、硬化反応が速すぎて相分離が進まないためにモノリス構造を有さない硬化物、すなわち、スルーポアのない硬化樹脂になる傾向がある。硬化剤を減らした場合には、硬化反応が遅くなり孔径が大きくなる傾向がある。減らしすぎると、硬化反応が遅くなり粒子凝集構造になる傾向がある。
【0031】
また、例えば、ポロゲンに対し樹脂組成物の量を増やすと反応速度が速くなり、減らすと遅くなる傾向がある。
【0032】
硬化条件については、反応温度を上げると反応速度が速くなり、下げると反応速度が遅くなる傾向がある。
【0033】
そして、ポロゲン(多孔質化溶媒)として好ましく用いられる水酸基を有する有機溶媒又は水溶性ポリマーの水溶液については、有機溶媒又は水溶性ポリマーの分子量を大きくするとこれらの疎水性が増加し、モノマーが反応物より疎水性が高いことから、相分離速度が遅くなるために、孔径が小さくなる。分子量が大きすぎると、相分離速度が遅くなりすぎて、モノリス構造を有さない硬化物になる傾向がある。分子量が小さいと、相分離速度が速く、孔径が大きくなる。分子量が小さすぎると、相分離速度が速くなりすぎて粒子凝集構造になる傾向がある。ただし、孔径の大小は、分子の立体障害や、相分離状態の違いなどにより、傾向が異なる場合もある。
【0034】
血球分離材は、グラジエント構造を有していてもよい。グラジエント構造とは、空孔径が血球分離材内で徐々に異なる構造、好ましくは、空孔径が血球分離材内で血液の浸透する方向に徐々に小さくなる構造をいう。血液の浸入側から浸出側方向に孔径を徐々に小さくすることにより、浸入側付近の孔径を大きく設定して血球による目詰まりによる流速の低下を抑えながら、浸出側付近の孔径を小さく設定して血球が流れ出ないようにすることができる。
【0035】
次に本発明の血球分離材の製造方法について説明する。本発明の血球分離材は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物及びポロゲン(多孔質化溶媒)を混合し、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を硬化させて硬化物を得て、硬化物からポロゲンを除去することにより作製することができる。ポロゲンとは、空孔を形成するために用いられる溶媒である。エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物は、エポキシ樹脂の他に、通常、エポキシ樹脂硬化剤を含有することが好ましい。さらに、樹脂組成物には、任意の公知の添加剤を加えることができる。
【0036】
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物は、骨格を形成し、ポロゲンは空孔を形成する。骨格を形成する硬化物に欠損やクラックが発生すると、欠損やクラックがバイパスとなり、血球がこのバイパスを通過し血球分離が不完全となることがある。したがって、硬化物には、欠損やクラックが少ないことが望ましい。
【0037】
骨格は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物により形成される。エポキシ樹脂は、エポキシ基の反応により水酸基が形成される。それらの水酸基とポロゲンとして好ましく用いられる水酸基を有する有機溶媒又は水酸基を有するポリマーの水溶液との親和性が高いために、硬化に伴うポロゲンとの相分離が緩やかに起こる。そのために、エポキシ樹脂には、スルーポア径の制御が容易になる、低温での硬化が可能になるなどの利点がある。
【0038】
本発明において用いられるエポキシ樹脂は、少なくとも多官能のエポキシ樹脂を含み、場合により、1官能のエポキシ樹脂を含んでもよい。多官能のエポキシ樹脂としては、2官能のエポキシ樹脂、3官能のエポキシ樹脂などがある。エポキシ樹脂には、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族エポキシ樹脂、及び芳香環由来の炭素原子を含まない非芳香族エポキシ樹脂がある。好ましくは、芳香族エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は、1種を単独で、また、複数種を組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明に使用されるエポキシ樹脂のうち、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(bisphenol A diglycidyl ether)、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂(bisphenoxyethanol fluorene diglycidyl ether)、トリグリシジルイソシアヌレート(tris(2,3−epoxypropyl)isocyanurate)などの3官能イソシアヌレートエポキシ樹脂、トリアジン環含有エポキシ樹脂、複素芳香環を含むエポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂、または3官能イソシアヌレートエポキシ樹脂であり、特に好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、またはトリグリシジルイソシアヌレートである。
【0041】
また芳香環由来の炭素原子を含まない非芳香族エポキシ樹脂として、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などが挙げられる。好ましくは、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、特に好ましくは、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(4,4−methylenebis(cyclohexyl glycidyl ether))である。
【0042】
エポキシ樹脂硬化剤としては、ジアミン類、酸無水物類、多価フェノール類など、公知のエポキシ硬化剤を用いることができる。好ましくは、ジアミン類である。ジアミン類としては、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族ジアミン、及び芳香環由来の炭素原子を含まない非芳香族ジアミンがあり、非芳香族ジアミンには脂肪族ジアミン又は脂環族ジアミンがある。本発明においては、芳香族ジアミン又は脂環族ジアミンが好ましく用いられる。また、ジアミン類と共に1価のアミン類又は3価以上のアミン類を用いることができる。ジアミン類は、1種を単独で、また、複数種を組み合わせて用いることができる。
【0043】
これらのアミン類の例としては、フェニレンジアミン(phenylenediamine)、ジアミノジフェニルメタン(4,4’−diaminodiphenylmethane)、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン(4,4’−methylenebiscyclohexylamine)、シクロヘキサンジアミン(1,2−cyclohexyldiamine)、4,6−ジヘキシル−3,5−ビス(N−(2−アミノエチル)−ヘプタンアミド)シクロヘキサン(4,6−dihexyl−3,5−di(N−ethylamine heptanamide)cyclohexene)やこれらの変性品等の脂環族ポリアミン類、ポリアミン類とダイマー酸とからなる脂肪族ポリアミドアミン類などが挙げられる。
【0044】
中でも、好ましいジアミン類は、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、4,6−ジヘキシル−3,5−ビス(N−(2−アミノエチル)−ヘプタンアミド)シクロヘキサン)であり、特に好ましいジアミン類は、ジアミノジシクロヘキシルメタン又はジアミノジフェニルメタンである。
【0045】
エポキシ樹脂とジアミン類の組み合わせとしては、芳香族エポキシ樹脂と脂環族ジアミンの組み合わせ、脂環族エポキシ樹脂と芳香族ジアミンの組み合わせ、脂環族エポキシ樹脂と脂環族ジアミンの組み合わせが好ましい。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ジアミノジシクロヘキシルメタン、又はトリグリシジルイソシアヌレート/ジアミノジフェニルメタンの組み合わせが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ジアミノジシクロヘキシルメタンの組み合わせがより好ましい。
【0046】
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物は、さらに、硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類など従来公知の硬化促進剤を用いることができる。具体的には、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のアルキル基置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0047】
樹脂組成物中、エポキシ樹脂とジアミン類とは、1:0.5〜1:4(エポキシ樹脂:ジアミン類(当量比))の割合で含まれていることが好ましく、1:0.5〜1:0.7(エポキシ樹脂:ジアミン類(当量比))の割合で含まれていることがより好ましい。エポキシ樹脂とジアミン類の割合は、必要とするモノリス構造に応じて任意の混合比とすることができる。その傾向としては、ジアミン類の比率が大きいと硬化速度を速く、孔径を小さくできる。ジアミン類の比率が大きすぎると、硬化反応が速すぎて相分離が進まないためにモノリス構造を有さない硬化物となる傾向がある。また、ジアミン類の比率が小さいと硬化速度が遅く、孔径を大きくできる。ジアミン類の比率が小さすぎると硬化反応が遅く、粒子凝集構造が得られる傾向がある。
【0048】
ポロゲンとしては、樹脂組成物と相溶性があり、樹脂組成物の硬化と共に樹脂組成物と相分離する溶媒を用いることが好ましく、例えば、水溶性の有機溶媒又は水溶性ポリマーの水溶液を用いることが好ましい。さらに、水溶性の有機溶媒としては、エチレングリコール類、プロピレングリコール類等のグリコール類、セロソルブ類、グリセリンが挙げられる。水溶性ポリマーの水溶液では、ポリビニルアルコール類の水溶液、ポリビニルピロリドン類の水溶液などが挙げられる。中でも水酸基を有する有機溶媒又は水酸基を有するポリマーの水溶液が好ましく、例えば、エチレングリコール類、ポリビニルアルコール類の水溶液が挙げられ、エチレングリコール類が特に好ましい。
【0049】
エチレングリコール類の分子量は、62〜1,500が好ましく、62〜1,000がより好ましく、62〜600が特に好ましい。得られるモノリス構造は、このエチレングリコール類の分子量にも影響される。分子量62〜1,500のエチレングリコール類を使用することで、有効な空孔径のモノリス構造を形成することができる。エチレングリコール類の分子量が異なると、重量当たりの水酸基の数、すなわち、水酸基価が異なる。反応したエポキシ樹脂に生じる水酸基と、エチレングリコール類の水酸基との相互作用によりモノリス構造が安定化する、すなわち、ポロゲンの水酸基価に応じてモノリス構造が安定化すると考えられるため、この観点から、ポロゲンの水酸基価が大きいことが好ましい。分子量1,500を超えるエチレングリコール類を使用したときには、エチレングリコール類がモノリス構造を保持することができず、モノリス構造を有する硬化物を得ることができない場合がある。また、分子量62のポロゲンはエチレングリコールであり、これ未満の分子量はありえない。
【0050】
エチレングリコール類の分子量がモノリス構造に与える影響の傾向としては、エチレングリコール類の分子量が大きいと、エチレングリコール類の疎水性が増加し、相分離速度が遅くなるために、孔径が小さくなる。分子量が大きすぎると、相分離速度が遅くなりすぎて、モノリス構造を有さない硬化物になる。分子量が小さいと、相分離速度が速く、孔径が大きくなる。分子量が小さすぎると、相分離速度が速くなりすぎて粒子凝集構造になる。
【0051】
エチレングリコール類として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール、デカエチレングリコール、ウンデカエチレングリコール、ドデカエチレングリコールなどが挙げられ、これらを混合して用いることもできる。好ましくは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール、より好ましくはテトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコールである。エチレングリコール類の分子量としては、単独又は混合して用いる場合の分子量が、150〜400であることが好ましく、200〜300程度であることがより好ましい。
【0052】
樹脂組成物とポロゲンは、全体の重量に対する樹脂組成物の重量が5〜50wt%(重量%)となる混合比で用いることが好ましく、10〜40wt%がより好ましく、20〜35wt%がさらに好ましい。必要なモノリス構造に応じて、任意の混合比を取ることができる。得られるモノリス構造は、ポロゲンの混合割合に近い空孔率を有するものとなる。樹脂組成物の混合比が50wt%を超えるとモノリス構造を有しない硬化物になり、5wt%未満では懸濁液となり硬化物が得られない場合がある。傾向として、樹脂組成物の割合を増やすと反応速度が速くなり孔径が小さくなる。樹脂組成物の割合を減らすと反応速度が遅くなり孔径が大きくなる。
【0053】
樹脂組成物とポロゲンを含む混合溶液の加熱は、目的とする血球分離材の形状に応じ、任意の容器内で行うことができる。例えば、キャピラリーに充填された血球分離材を得たい場合には、混合溶液をキャピラリーの任意の部分に加える。その後、加熱装置を用いて、混合溶液を0.5〜24時間加熱することにより硬化させる。モノリス構造の制御の観点から、加熱温度は50〜200℃が好ましく、60〜120℃がより好ましい。傾向として、反応温度を上げると反応速度が速くなり孔径が小さくなる。反応温度を下げると反応速度が遅くなり孔径が大きくなる。
【0054】
モノリス構造は、樹脂組成物を硬化させる際の温度に影響される。同じ組成の樹脂組成物を用いたとしても、硬化温度を数度変化させることにより、異なる孔径を有するモノリス構造を得ることができる。この特性を生かして、例えば、一つの反応容器内で、容器内の部分によって硬化温度を少しずつ変化させることで、モノリス構造にグラジエント構造を持たせることができる。
【0055】
モノリス構造は、樹脂組成比を変えることによっても、異なる孔径を有するモノリス構造を得ることができる。さらに、孔径は、樹脂組成物とポロゲンの比によっても影響される。したがって、一つの反応容器内で樹脂組成比やポロゲン含有量を変えることによっても、グラジエント構造を作製することができる。
【0056】
樹脂組成物を硬化させた後、水にポロゲンを溶解させ洗浄することで、ポロゲンを硬化物内から取り除くことができる。これにより、モノリス構造を有する血球分離材を得ることができる。水を使用せずに、有機溶剤のみにより洗浄することもできるが、その場合には、疎水性の高いモノリス構造を有する血球分離材が得られることになる。
【0057】
さらに、ポロゲンを除去した後、乾燥機で乾燥することが好ましい。この際、モノリス構造を有する樹脂は、内部に微細な空孔が多く乾燥し難いために、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒で洗浄し、乾燥し易くすることも可能である。
【0058】
本発明の血球分離材を用いて血漿又は血清を得る場合、血漿又は血清成分の血球分離材への吸着が問題になる場合がある。血球分離材の表面を表面処理することにより、血球分離材への血漿又は血清成分の吸着を抑制することができる。表面処理としては、親水化処理が好ましい。親水化処理は、具体的には、血球分離材の表面を、酸やアルカリで処理し、反応せずに残っているエポキシ基を開環させて、血球分離材の表面に水酸基を形成することにより行うことができる。例えば、血球分離材に、酸やアルカリの水溶液を流せばよい。好ましくは、アルカリ水溶液が用いられる。その際、表面処理をより効率的に行うために、酸やアルカリの水溶液の表面張力を低下させることが好ましく、水溶液にメタノールやエタノールなどの有機溶剤を少量添加することができる。この親水化処理により血漿又は血清成分の吸着を抑制できる。
【0059】
他にも、エチレングリコール類、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ホスフォリルコリン基を有するオリゴマー、ポリマーなどを血球分離材の表面に反応、もしくは吸着させることによっても、血漿又は血清成分の吸着を抑制できる。
【0060】
さらに、血球分離材の表面に水酸基を形成した後に、水酸基に各種モノマーを反応させることにより、血球分離材にアミノ基やカルボキシル基などの反応性官能基を導入することができる。導入した反応性官能基に、適切なモノマー、オリゴマー、ポリマーなどを反応させることで、非特異吸着を低減することができる。例えば、血球分離材の表面の水酸基に、アミノアルコキシシラン、グリシジルアルコキシシランなどを反応させた後、さらに、グリシジル基やアミノ基などを有するポリエチレングリコール等のエチレングリコール類を反応させることもできる。
【0061】
本発明の血球分離材は、硬化させる際の容器の形状により、自由に形状を変えることができる。上述のキャピラリー内に形成した形状に限定されず、円柱状、フィルム状、薄膜状、ブロック状など自在に作製できる。本発明の血球分離材は、少量の血液の分離を可能にする分離材であるが、多量の血液の分離にも用いることができる。大きな容器を用いると、多量の血液の分離に適した血球分離材を製造することができる。
【0062】
本発明の血球分離材は、ポロゲンを除去する前であれば、硬化させた後でも柔軟性が高く、モノリス構造を保ったままで、容易に、硬化物を曲げたり伸ばしたり、切断したり、任意の形状に加工することもできる。また、ポロゲンを除去した後でも、通常の樹脂と同じように、切断や研磨などの加工が可能である。したがって、硬化物を切断、研磨などすることにより所望の形状の血球分離材を得て、得られた血球分離材をキャピラリーなどの容器中に導入することも可能である。
【0063】
硬化に用いる容器は、容器内で樹脂組成物を硬化させた後、血球分離材を容器から取り出すことなく、そのまま血球を分離することのできる血球分離容器として用いることのできる容器であることが好ましい。すなわち、キャピラリーやチューブなど、血液を流すことのできる容器が好ましい。また、そのような容器の材質としては、ガラス、樹脂、金属などがあるが、表面の親水性が高いことや、安全性が高く、コストが安いこと等から、ガラスが好ましい。樹脂を用いる場合には、容器の内面を親水処理することが好ましい。
【0064】
容器にガラスを用いた場合、硬化反応時にガラス表面の水酸基とモノマーの反応性官能基が反応することで、血球分離材と容器を化学的に結合することができる。これにより、血球分離材と容器の界面にバイパスができることを防ぐことができる。また、加圧時における血球分離材の移動を防ぐことができる。樹脂容器の場合でも、表面に反応性官能基を導入することで、血球分離材と容器を化学的に結合することができる。
【0065】
これらの観点から、容器としては、ガラスキャピラリー又は樹脂キャピラリーが好ましく、ガラスキャピラリーが特に好ましい。樹脂キャピラリーに樹脂組成物を加える場合には、キャピラリーの内面を親水処理するか、または、キャピラリー内に樹脂組成物を吸引することが好ましい。キャピラリーに代え、熱収縮チューブなどを用いることもできる。
【0066】
また、本発明の血球分離材を、採血管内部に形成することができる。これにより、採血時に、その場で血球を分離し、血漿又は血清を採取することが可能となる。本発明の採血管を用いることにより、採血から血球分離を連続的に、迅速、簡便に行うことが可能であり、また、血液との接触機会を減らすこともできる。
【0067】
さらに、本発明の血球分離材を、検査材と組み合わせ、血液検査器を得ることもできる。組み合わせる検査材は特に限定されないが、検査材を本発明におけるモノリス構造を利用して作製してもよい。例えば、モノリス構造の表面にアミノ基やカルボキシル基などの官能基を導入し、これらの官能基を利用して、標的物質を捕捉することが可能な物質を固定化する。モノリス構造の表面に官能基を導入する方法としては、モノリス構造を作製する際に、これらの官能基を有するモノマーを使用するか、または、表面に残っているエポキシ基にこれらの官能基を有するモノマーを反応させることにより導入できる。また、モノリス構造の表面が疎水性を有する場合には、そのままの状態で標的物質を捕捉することが可能な物質を物理吸着により固定化することも可能である。この他、固定化に際しては当業者に公知のいかなる方法を用いても差し支えない。標的物質を補足することが可能な物質としては、各種の物質、例えば、生体由来物質・菌体・ウィルスあるいはそれらと結合する又は親和性を有する物質、とりわけ、タンパク、糖タンパク、ペプチド、糖ペプチド、多糖、核酸、脂質、糖脂質、ビタミン類、ステロイド、カテコールアミン、チロキシンなどのホルモン類、プロスタグランディン類、GABA、アセチルコリン、セロトニン、ドーパミンなどの各種神経伝達物質、抗生物質などに代表される生体由来物質などが挙げられる。このようにモノリス構造に各種の物質が固定化された検査材は、各種の抗原抗体反応などに好適に用いることができる。標的物質を捕捉することが可能な物質を固定化した後に、非特異吸着を抑制するために、ブロッキング剤などで該物質の隙間を埋めてもよい。ブロッキング剤としては、アルブミン、カゼイン等生体関連物質、ホスフォリルコリンポリマー、PEG、ポリビニルピロリドン等の合成高分子が使用できる。
【0068】
血球分離材と検査材とは、例えば、キャピラリー内に連続して充填することにより、簡単に組み合わせて用いることができる。これにより、血球分離と血漿又は血清の検査とを連続的に、迅速、簡便に行うことが可能であり、また、血液との接触機会を減らすこともできる。
【0069】
標的物質の検出方法としては、検査対象となる標的物質と特異的に結合可能な物質を用いる方法が考えられる。例えば、抗原抗体反応を用いる場合、そのような物質として標的物質と特異的に結合できる、標識した抗体などが挙げられる。この標識としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスホターゼ等の酵素、ルテニウム錯体、鉄錯体、ルビジウム錯体等の金属錯体、蛍光物質、ナノドット、蛍光物質含有ポリマー粒子等の蛍光粒子、金コロイド、銀コロイド等の金属粒子、着色粒子などがある。これらの標識した抗体を標的物質と反応させた後、それぞれの物質に応じた検出方法により検出を行う。酵素や金属錯体の場合はその基質を導入することにより、化学発光や蛍光の強度を測定したり、または目視で観察したりすることにより検出が可能となる。蛍光物質や蛍光粒子の場合は、蛍光の強度を測定することにより検出する。さらに、金属粒子や着色粒子の場合には、目視で観察することにより検出できる。
【0070】
本発明の血液検査器を用いることにより、様々な標的物質を検出することが可能である。標的物質として、各種の物質、例えば、生体由来物質・菌体・ウィルスあるいはそれらと結合する又は親和性を有する物質、とりわけ、タンパク、糖タンパク、ペプチド、糖ペプチド、多糖、核酸、脂質、糖脂質、ビタミン類、ステロイド、カテコールアミン、チロキシンなどのホルモン類、プロスタグランディン類、GABA、アセチルコリン、セロトニン、ドーパミンなどの各種神経伝達物質、抗生物質などに代表される生体由来物質などを検出することができる。
【実施例】
【0071】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
グリシジル基を有するモノマーとしてビスフェノールAジグリシジルエーテル(2.3g)(ジャパンエポキシレジン製)をポリエチレングリコール(PEG#200、分子量約200)(6.7g)(ナカライテスク製)に溶解し、アミノ基を有するモノマーとして4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン(0.82g)(東京化成製)を加えて撹拌した。得られた溶液を、片側を閉管した内径5mmのガラス管に注入し、オイルバス中で60℃、24時間加熱し、硬化させた。硬化後、ガラス管を割って硬化物を取り出し、カッターナイフで、厚さ2mmのタブレット状に切断した。タブレットを水中で超音波洗浄した後、メタノール中で超音波洗浄し、3時間減圧乾燥して、血球分離材を得た。血球分離材のSEM写真(走査型電子顕微鏡S−510 日立製作所製)を図1に示す。モノリス構造、平均孔径8μm、空孔率68%。
【0073】
(実施例2)
実施例1で作製した血球分離材に、ヒトの擬似血液として日本バイオテスト研究所社のウサギ保存全血25μLを滴下した。滴下してから10秒後に、下面から血漿が得られた。図2(a)に滴下10秒後の外観写真、図2(b)に滴下1時間後の断面写真を示す。
【0074】
(実施例3)
グリシジル基を有するモノマーとしてビスフェノールAジグリシジルエーテル(2.3g)(ジャパンエポキシレジン製)をポリエチレングリコール(PEG#200、分子量約200)(6.7g)(ナカライテスク製)に溶解し、アミノ基を有するモノマーとして4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン(0.82g)(東京化成製)を加えて撹拌した。得られた溶液を、ヘマトクリット採血管(内径:1mm、長さ:75mm)中にピペットを用いて注入し、恒温槽中で60℃、24時間加熱し、硬化させた。血球分離材と一体となった採血管が得られた。採血管の外観写真、断面のSEM写真(断面全体、拡大図)を図3(a)〜(c)に示す。拡大図でモノリス構造が無くなっている部分(矢印で示した部分)は、切断時の破片と残留ポロゲンによる。モノリス構造、平均孔径9.3μm、空孔率68%。
【0075】
(実施例4)
トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(1.6g)(日産化学工業製)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.38g)(ナカライテスク製)を、ポリエチレングリコール(PEG#300、分子量約300)(5.7g)(ナカライテスク製)に溶解した。得られた溶液を、片側を閉管した内径5mmのガラス管2本にそれぞれ注入し、オイルバス中でそれぞれ60℃または70℃で、24時間加熱し、硬化させた。硬化後、ガラス管を割って硬化物を取り出し、カッターナイフで、厚さ2mmのタブレット状に切断した。タブレットを水中で超音波洗浄した後、メタノール中で超音波洗浄し、3時間減圧乾燥して、血球分離材を得た。血球分離材のSEM写真(走査型電子顕微鏡S−510 日立製作所製)を図4(a)及び(b)に示す。加熱硬化温度60℃で得た血球分離材:モノリス構造、平均孔径1μm、空孔率74%。加熱硬化温度70℃で得た血球分離材:モノリス構造、平均孔径1.9μm、空孔率74%。
【0076】
(実施例5)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(1.33g)(ジャパンエポキシレジン製)をポリエチレングリコール(PEG#200、分子量約200)(4.15g)(ナカライテスク製)に溶解し、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン(0.52g)(東京化成製)を加えて撹拌し、溶液Aを調製した。ビスフェノールAジグリシジルエーテル(2.10g)(ジャパンエポキシレジン製)をポリエチレングリコール(PEG#200、分子量約200)(6.11g)(ナカライテスク製)に溶解し、アミノ基を有するモノマーとして4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン(0.52g)(東京化成製)を加えて撹拌し、溶液Bを調製した。これらの溶液を、片側を閉管した内径5mmのガラス管に溶液A、溶液Bの順に同量を充填し、オイルバス中で120℃、24時間加熱し、硬化させた。硬化後、ガラス管を割って硬化物を取り出し、中心部分をカッターナイフで、長さ1cmの円筒状に切断した。円筒状硬化物を水中で超音波洗浄した後、メタノール中で超音波洗浄し、3時間減圧乾燥して、血球分離材を得た。その後、FEP熱収縮チューブ(直径5.5mm)(アズワン製)内に、血球分離材を入れた後、ヒートガン(設定約150℃)(石崎電気製作所製)を用いて加熱してチューブを収縮させて、チューブ内に固定した。チューブ内の血球分離材及び血球分離材の断面のSEM写真(走査型電子顕微鏡S−510 日立製作所製)を図5(a)〜(d)に示す。図5(a)において、チューブ上部が溶液Aに、チューブ下部が溶液Bに対応している。図5(b)、(c)及び(d)は、それぞれ、血球分離材のA部、B部及びC部の断面SEM写真である。A部:モノリス構造、平均孔径4.8μm、空孔率70%。B部:モノリス構造、平均孔径5.4μm、空孔率70%。C部:モノリス構造、平均孔径7.1μm、空孔率70%。
【0077】
(実施例6)
実施例1と同様に作製した血球分離材を1Nの水酸化ナトリウム水溶液中に、室温(20℃)で24時間、浸漬した。次いで、血球分離材を純水で洗浄し、減圧乾燥した。血球分離材を5mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)(シグマ製)20μLに2時間浸漬した。その後、フィルタ付きチューブ(ウルトラフリーMC)(ミリポア製)に血球分離材を入れ、小型遠心分離器にかけ、溶液部分と血球分離材とを分離した。遠心分離により得られた溶液部分のタンパク質量(ウシ血清アルブミン量)を、日本バイオ・ラッド製DCプロテインアッセイキットを用いて呈色を行い、670nmの吸光度を測定することにより求めた。その結果、溶液部分のウシ血清アルブミン濃度は4.45mg/mLであった。ウシ血清アルブミン濃度にほぼ変化がなく、ウシ血清アルブミンが血球分離材へほとんど吸着しなかったことが確認できた。
【0078】
(実施例7)
トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(3.2g)(日産化学工業製)と4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.74g)(ナカライテスク製)を、ポリエチレングリコール(PEG♯300、分子量約300)(14g)(ナカライテスク製)に溶解させた。得られた溶液を、片側を閉管した内径6mmのガラス管に注入し、オイルバス中で80℃12時間加熱し、硬化させた。硬化後、ガラス管を割って硬化物を取り出し、水中で超音波洗浄した後、メタノール中で超音波洗浄し、3時間減圧乾燥して、血球分離材を得た(空孔率78%)。強度測定装置AUTOGRAPH(島津製作所製)を用いて、この血球分離材の3点曲げ測定を行った。荷重を加える速さは1mm/minとした。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の一実施態様である血球分離材のSEM写真である。
【図2】図2(a)は、ウサギ保存全血滴下10秒後の血球分離材の外観写真、図2(b)は、ウサギ保存全血滴下1時間後の血球分離材の断面写真である。
【図3】図3(a)は、本発明の一実施態様である採血管の外観写真、図3(b)及び(c)はその断面のSEM写真である。
【図4】図4(a)及び(b)は、本発明の一実施態様である血球分離材のSEM写真である。
【図5】図5(a)は、本発明の一実施態様であるグラジエント構造を有する血球分離材の外観写真、図5(b)〜(d)はその断面SEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物からなる、モノリス構造を有する血球分離材。
【請求項2】
表面に反応性官能基を有する請求項1記載の血球分離材。
【請求項3】
最大曲げ応力が、0.1〜50MPaである請求項1又は2記載の血球分離材。
【請求項4】
空孔の平均孔径が、1〜50μmである請求項1〜3いずれか記載の血球分離材。
【請求項5】
空孔率が、40〜95%である請求項1〜4いずれか記載の血球分離材。
【請求項6】
グラジエント構造を有する請求項1〜5いずれか記載の血球分離材。
【請求項7】
エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂又は3官能イソシアヌレートエポキシ樹脂を含む請求項1〜6いずれか記載の血球分離材。
【請求項8】
樹脂組成物がエポキシ樹脂硬化剤を含有し、エポキシ樹脂硬化剤が脂環族ジアミン又は芳香族ジアミン含む請求項1〜7いずれか記載の血球分離材。
【請求項9】
樹脂組成物がエポキシ樹脂硬化剤を含有し、エポキシ樹脂硬化剤がジアミノジシクロヘキシルメタン又はジアミノジフェニルメタンを含む請求項1〜8いずれか記載の血球分離材。
【請求項10】
樹脂組成物及びポロゲンを混合し、樹脂組成物を硬化させ、ポロゲンを除去して得られる、請求項1〜9いずれか記載の血球分離材。
【請求項11】
ポロゲンが、エチレングリコール類を含む請求項10記載の血球分離材。
【請求項12】
エチレングリコール類の分子量が、62〜1500である請求項11記載の血球分離材。
【請求項13】
樹脂組成物及びポロゲンの合計重量に対し、樹脂組成物の重量が5〜50wt%となる混合比で混合する請求項10〜12いずれか記載の血球分離材。
【請求項14】
樹脂組成物を、50〜200℃で0.5〜24時間加熱することにより硬化させる10〜13いずれか記載の血球分離材。
【請求項15】
ポロゲンを除去した後、血球分離材を酸又はアルカリで処理する請求項10〜14いずれか記載の血球分離材。
【請求項16】
ポロゲンを除去した後、血球分離材を水酸化ナトリウム水溶液で処理する請求項10〜15いずれか記載の血球分離材。
【請求項17】
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物及びポロゲンを混合し、樹脂組成物を硬化させ、ポロゲンを除去する、モノリス構造を有する血球分離材の製造方法。
【請求項18】
エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂又は3官能イソシアヌレートエポキシ樹脂を含む請求項17記載の血球分離材の製造方法。
【請求項19】
樹脂組成物がエポキシ樹脂硬化剤を含有し、エポキシ樹脂硬化剤が脂環族ジアミン又は芳香族ジアミン含む請求項17又は18記載の血球分離材の製造方法。
【請求項20】
樹脂組成物がエポキシ樹脂硬化剤を含有し、エポキシ樹脂硬化剤がジアミノジシクロヘキシルメタン又はジアミノジフェニルメタンを含む請求項17〜19いずれか記載の血球分離材の製造方法。
【請求項21】
ポロゲンが、エチレングリコール類を含む請求項17〜20いずれか記載の血球分離材の製造方法。
【請求項22】
樹脂組成物及びポロゲンの合計重量に対し、樹脂組成物の重量が5〜50wt%となる混合比で混合する請求項17〜21いずれか記載の血球分離材の製造方法。
【請求項23】
エポキシ樹脂を、50〜200℃で0.5〜24時間加熱することにより硬化させる請求項17〜22いずれか記載の血球分離材の製造方法。
【請求項24】
ポロゲンを除去した後、血球分離材を酸又はアルカリで処理する請求項17〜23いずれか記載の血球分離材の製造方法。
【請求項25】
ポロゲンを除去した後、血球分離材を水酸化ナトリウム水溶液で処理する請求項17〜24いずれか記載の血球分離材の製造方法。
【請求項26】
請求項1〜16の血球分離材を内部に備えた血球分離容器。
【請求項27】
容器の内壁と血球分離材が化学結合している請求項26記載の血球分離容器。
【請求項28】
請求項1〜16いずれか記載の血球分離材を備えた採血管。
【請求項29】
請求項1〜16いずれか記載の血球分離材及び検査材を備えた血液検査器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−39350(P2009−39350A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208315(P2007−208315)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】