血管ステント
抗増殖活性物質の使用を必要とせずに再狭窄の危険性を減少させる血管ステントを提供するために、寸法安定性を有する材料の担体、および生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料の、前記担体上において少なくとも断面に配置される一つ以上の層が提案され、前記担体と前記層との間の、および/または個々の層間の吸着が解除され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管ステント、特に冠状動脈ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、体内における器官の管腔構造を広げた状態に保ち、および/または閉塞(狭窄)後において当該構造を再度広げるためのインプラントとして医学的に使用される。一般にこの場合において、圧縮形態における小さな管状ステントが関連性のある器官へ導入され、その後当該器官の壁を支持するために拡張される。
【0003】
ステントは、血管を、特に冠状動脈領域における血管を広げるために特に重要である(冠状動脈ステント)。血管壁上における血栓(血の塊)、血中脂質、またはカルシウムの沈着の結果としての冠状動脈の狭窄または閉塞は、血液が供給不足である心筋領域において頻繁に引き起こされ、その結果心筋梗塞を引き起こす。かかる狭窄を予防または除去するために使用されるステントは、当該血管を十分な大きさに広げるためにバルーンカテーテルを用いて関連する血管へ導入され、そして速やかに放射状に広げられる小さな管状の格子枠を含む。
【0004】
しかし、血管ステントに関連するかかる治療は、通常いわゆる再狭窄の問題が起こる。これは、ステント上の沈着、および/またはステントよる組織の過剰増殖の結果としての当該血管の再度の狭窄を意味し、そしてこれは、「異物」であるステント(一般的に金属またはプラスチック材料)に対する血小板および凝固因子の活性化によって引き起こされる。再狭窄は、多くの場合、罹患した血管の新たな処置を必要とする。
【0005】
これまでのかなりの期間、薬剤被覆ステント(薬剤溶出ステント、DES)は、この問題を避け、または減らすために使用された。これらのステントはコーティングを有し、そこから組織の形成を阻害するための特定の活性物質(例えば抗増殖剤、細胞増殖抑制剤、または免疫抑制剤)が放出される。かかるステントの使用を通じて、関連する血管の再狭窄の危険性が著しく減らされ得る(M.C.Morice他,New England Journal of Medicine 2002(346)1773−1780を参照)。
【0006】
薬剤被覆ステントは、特に刊行された特許出願である米国特許出願公開第2005/0019404A1号明細書中に開示されている。
【0007】
しかし近年の研究において、冠状動脈の狭窄後に薬剤被覆ステントが埋め込まれた患者において、被覆されていない金属製ステントで処置された患者よりも死亡率が高いことが発見された。この研究の定量的結果は、ステントの埋め込み後6ヶ月〜3年の期間内における心筋梗塞による死亡の可能性が、先に言及された患者群において後に言及された患者群よりも32%高かったというものであった(B.Lagerqvist他,New England Journal of Medicine 2007(356)1009−1019を参照)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、抗増殖性活性物質の使用を必要とせずに再狭窄の危険性を減少させるステントを提供することである。
【0009】
本目的は、導入部において記載されたタイプの血管ステントであって、寸法安定性を有する材料の担体、および生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料の、当該担体上において少なくとも断面に配置される一つ以上の層を含み、当該担体と当該層との間の、および/または個々の層間の吸着が解除され得る前記ステントによって、本発明に従って達成される。
【0010】
この吸着の除去は、生理学的条件下において、本発明のステントからの一つ以上の層の分離を促進する。本発明の血管ステントがヒトまたは動物の体内で使用されている間に曝されている生理学的条件、すなわち特に血管内における一般的な条件は、この場合においていわゆる生理学的標準条件と定義され得、そしてインビトロにおいて再現され得る。本明細書における生理学的標準条件は、PBSバッファー(pH7.2)中、37℃におけるインキュベーションを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、埋め込み前の圧縮状態における本発明のステントを示す。
【図2】図2は、埋め込み後の拡張状態における本発明のステントを示す。
【図3】図3は、本発明のステントの構造の詳細を示す。
【図4】図4は、本発明のステントの層の横断面図を示す。
【図5】図5は、修飾ゼラチンの吸着阻害効果に関するグラフを示す。
【図6】図6は、修飾ゼラチンの吸着阻害効果に関するグラフを示す。
【図7】図7は、マウスの皮下組織における血管形成生成の写真を示す。
【図8a】図8aは、種々の架橋ゼラチン系血管新生促進基材の存在下における、血管生成の増加の写真を示す。
【図8b】図8bは、種々の架橋ゼラチン系血管新生促進基材の存在下における、血管生成の増加の写真を示す。
【図8c】図8cは、種々の架橋ゼラチン系血管新生促進基材の存在下における、血管生成の増加の写真を示す。
【図9】図9は、ゼラチン系材料の2つの層の、時間依存的分離挙動の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましくは、吸収性材料の1つ以上の層は各々脱着可能である。本発明における層の脱着は、層を形成する吸収性材料の、当該層の底面または担体からの、少なくとも断面における二次元分離を意味する。言い換えれば、発生することは、特定の構造統合性をなお有する層断面または断片の分離である。この分離過程は、分子レベルにおける層の連続的な分解または吸収(それにより、当該層が上で記載した意味における脱着が起こる以前に実質上完全に吸収される)とは対照的であると見なされ得る。
【0013】
本発明のステントの有利な効果は、吸着の解除および血管ステントからの吸収性材料の1つ以上の層の分離によって、ステント表面上に形成された細胞、組織、または血栓も、ステントから分離され、そして血管の関連領域から血流によって除去されるという事実に基づく。したがって本方法は、ステントの清掃およびその表面の再生につながり、それにより、抗増殖剤または同様の活性物質の使用を必要とせずに再狭窄を予防し、または少なくとも遅延させる。
【0014】
本発明のために、層と担体との間に、および/または層同士の間に最初から存在する吸着は、吸着の制御可能な解除によって、二次元層部分の分離が意図的に時限的および予定的方法で可能であるために、そして当該ステントが当該分離の開始までに明確な特性を示すために重要である。
【0015】
本発明に従って提供される個々の層間における吸着の解除可能性は、種々の手段によって達成され得る。第一に、生理学的条件下において溶解可能な材料の吸着層が、吸収性材料の個々の層間において提供され得る。かかる吸着層のために種々の物質が考えられ、例えば低分子量溶解性コラーゲン加水分解物である。
【0016】
好ましい担体は、微視的に滑らかで閉じた表面を有している。層が当該担体へ適用されるとき、これにより細孔中に材料が沈着することを防ぎ、それにより積極的固定効果に基づく吸着をもたらす。特にこれはまた、小さい管状の格子枠の形態で担体を使用する場合において適用し、そしてそれはまた、本発明において特に好適である。担体が格子枠構造を有する場合において、層の二次元分離の間に、生理学的に過剰に大きく、それゆえに医学的に危険な層断片が血液循環中に放出されないという特別な利点が達成される。
【0017】
格子構造を有する担体の場合、好ましい目的は、横断面において好ましくは層および/または複数の層によって完全に覆われる、担体の網のコーティングである。担体の網のコーティングの後であっても、当該網の間の空間は完全に開いている。
【0018】
当該ステントの拡張はその後、担体上の層(単数または複数)、すなわち担体の網上の層(単数または複数)の統合性を脅かすことなしに可能である。
【0019】
さらに、分離層はまた、吸収性材料の個々の層間において提供されてもよく、これは以下にさらにより詳細に議論される。
【0020】
吸収性材料の個々の層間(および/または当該担体と隣接層との間)における吸着の解除はまた、特に生理学的な条件下における当該材料の少なくとも部分的な分解に基づいてもよく、ここで分解は主に、最終的に当該材料の吸収を引き起こす過程を意味する。吸収性材料の分解特性は、この場合において種々の方法によって、例えば異なる分子量のゼラチンを使用することによって、および/またはゼラチン系材料へのさらなる生体高分子の混合によって意図的に影響されてもよい。
【0021】
本発明の好ましい実施形態に従って、吸着は、ゼラチンの架橋度に従って解除されてもよい。より高いゼラチンの架橋度により、ゼラチン系材料のより遅い分解(および吸収)がもたらされ、その結果、このパラメーターを用いて個々の層の分離挙動が単純な方法で調節されてもよい。
【0022】
特に好ましい方法において、架橋度が吸収性材料の一つ以上の層内で担体方向に減少するように、ゼラチンは架橋される。担体と相対する層の面におけるより低いゼラチンの架橋度によって達成される効果は、この領域において当該材料のより早い分解が生じ、従って当該担体への(および/または当該層の下部への)吸着が解除され、一方、より高いゼラチンの架橋度の結果として、当該層の外側において特定の構造統一性が維持され、そして少なくとも断面において、先に記載した当該層の二次元分離が達成されることである。
【0023】
当該担体が形成される寸法安定性を有する材料は、好ましくは生理学的条件下で不活性であり、特に金属および/またはプラスチック材料である。担体として、特に拡張可能な格子枠または同様の構造を、小さい管またはホースの形態で使用することが可能である。
【0024】
心臓血管領域における血管狭窄症が心筋梗塞を引き起こす場合があるために、本発明の血管ステントは、好ましくはこの領域において、そして特に冠状血管の治療のために使用される(冠状動脈ステント)。しかし当該ステントは、身体の他の領域における狭窄を処置するために同様に使用されてもよい。
【0025】
再狭窄の危険性を少なくとも減らす本発明の効果は、担体の断面において層(単数または複数)を配置することによってすでに達成され得る。しかし少なくとも一つの層が当該担体表面の約75%以上、特に約90%以上を覆うならば好ましい。特に好ましい方法において、少なくとも一つの層が当該担体の全表面を実質的に覆うことである。
【0026】
吸収性材料の層(単数または複数)のための基材としての本発明のゼラチンの使用は、ゼラチンが身体によって極めて十分に許容され、そして再現性のある純度および質で製造され得る、実質的に完全な吸収性生産物であるという利点を提供する。
【0027】
本発明の範囲内において、さらにゼラチンは、それが血管新生、すなわち血管の再生を促進する限りにおいて特に有利な効果を有する。これに関する研究は、ゼラチン含有成形体をヒトまたは動物の体内へ導入することによって、局所的に血管新生促進効果が起こることを示した。これは、多孔性構造への毛細血管の成長が観察された(独国特許出願第102005054937号明細書を参照)多孔性成形体のみならず、血管新生促進効果が成形体の周囲の領域において観察される、とくに非多孔性成形体、例えば塗膜においても適用される。
【0028】
最初に言及した、薬剤被覆ステントを用いたより高い死亡率の原因は、主に当該被覆ステント中で使用される抗増殖性活性物質の所望ではない副作用にあり、すなわち関連する血管を覆う領域における血管新生の防止にあることが発見された。狭窄の事象において、身体の自然な反応は、血管を再生することによって閉塞を克服することである。この過程が抗増殖剤などによって阻害されるので、狭窄がそれでもなお発生する場合において側枝血管が利用されず、そしてその結果が心筋梗塞である(P.Meier他,Journal of American Cardiology 2007(49)15〜20)。
【0029】
本発明のステント中において抗増殖性物質なしで済まし得ることは、血管新生阻害効果が避けられるのみならず、反対に血管新生がゼラチン系材料によって刺激されることを意味する。
【0030】
従って、本発明の血管ステントは、一方でステント表面の自己洗浄効果の結果として、再狭窄の危険性を減らし、または遅延させ、他方で関連する血管を覆う領域におけるゼラチンの血管新生促進効果のために、側枝血管の発生を同時に促進する。特にステントの全ての層が分離された後に再狭窄が発生するが、側枝血管は、天然のバイパス系として利用可能である。
【0031】
さらに抗増殖剤なしで済ますことは、さらなる利点を提供する。例えばこれらの活性物質は、再狭窄をもたらす可能性のある組織の沈着を予防するのみならず、ステントの内皮化をもたらす。内皮化は、ステントの周囲に血液の構成成分と適合する結合組織の層を産生し、それによりステント材料上における血小板および凝固因子の活性化を防止し、すなわちこの過程はステント領域内における血栓症を妨げる。
【0032】
本発明の吸収性材料は、好ましくは架橋ゼラチンによって主に形成される。これは、当該ゼラチンが、使用される材料の任意のさらなる構成成分と比較して最も大きな部分を示すことを意味する。
【0033】
特にゼラチンの好適な種類は、ポークリンド(pork−rind)ゼラチンであり、そしてそれは好ましくは高分子量であり、そして約160〜320gのブルーム(Bloom)値を有する。
【0034】
本発明のステントの最適な生体適合性を保証するために、出発物質は好ましくは、特に低い内毒素含有量を有するゼラチンが使用される。内毒素は、代謝産物、または動物性原料中において生じる微生物断片である。ゼラチンの当該毒素含量は、1gあたりの国際単位(I.U./g)で示され、そしてLAL試験に従って決定され、その実施は、European Pharmacopoeia第4版(Ph.Eur.4)に記載されている。
【0035】
できる限り低い内毒素含有量を保持するために、ゼラチンの製造過程においてできる限り早く微生物を破壊することが有利である。さらに、好適な衛生基準が当該製造過程において観察されるべきである。
【0036】
したがってゼラチンの内毒素含量は、当該製造過程の間において特殊な方法によって著しく減少され得る。これらの方法は主に、貯蔵期間を回避した新鮮な原料(例えばポークリンド)の使用、ゼラチンの製造の開始直前の全製造プラントの注意深い清掃、そして場合により製造プラント中におけるイオン交換および濾過系の交換を含む。
【0037】
本発明の範囲内において使用されるゼラチンは、好ましくは約1,200I.U./g以下の、さらにより好ましくは約200I.U./g以下の内毒素含量を有する。好ましくは、内毒素含量は、約50I.U./g以下であり、各々の場合においてLAL試験に従って決定される。これと比較して、多くの市販のゼラチンは、20,000I.U./g超の内毒素含量を有する。
【0038】
本発明の溶解性ゼラチンの架橋によって、当該ゼラチンは、生理学的条件において不溶性だが、吸収性である材料へと変換される。この場合において、上で既に言及された通り、当該材料の吸収率および/または分解率は、当該ゼラチンの架橋度に依存してもよく、そして比較的広い範囲で調節されてもよい。特に個々の層の脱着時間は、各々のゼラチンの架橋度によってあらかじめ選択されてもよい。
【0039】
架橋ゼラチン系成形体、その吸収性特性、およびその製造は、刊行された独国特許出願第102004024635A1号明細書に記載されている。
【0040】
ゼラチンの架橋は、化学的および酵素的架橋剤の両方によって達成されてもよい。化学的架橋剤のうち、ホルムアルデヒドを使用する架橋が好ましく、そしてそれは同時に殺菌を達成する。
【0041】
好ましい酵素的架橋剤は、トランスグルタミナーゼ酵素である。
【0042】
架橋ゼラチン系成形体の製造のために好適な手順は、二段階の架橋工程であり、それにより第一段階において、ゼラチンは溶液中で部分的に架橋される。部分的架橋ゼラチン溶液から成形体がその後製造され、そして第二の架橋ステップを受ける。
【0043】
第二の架橋ステップは、気相において架橋剤を、好ましくはホルムアルデヒドを特に作用させることによって行なわれてもよい。
【0044】
この方法に従って、本発明の血管ステントは、ゼラチン系材料の部分的に架橋された溶液を担体表面上へ塗布することによって、例えば当該担体を当該溶液へと浸すことによって製造されてもよい。当該溶液の乾燥後、吸収性材料の層を有する担体が得られ、それはその後、例えば気相中ホルムアルデヒドを用いて第二の架橋ステップを受ける。
【0045】
架橋剤が、当該層の外側からのみ当該層へと浸透することができるため、この第二の架橋ステップは、架橋度の好ましい勾配を獲得する単純な方法であって、これは、当該層の外側におけるより高い架橋度、および担体に相対する当該層の内側におけるより低い架橋度をもたらす。
【0046】
本発明の範囲内において、溶液中におけるゼラチンの架橋ではなく、当該担体上に当該層を塗布した後に単一の架橋段階を提供することが同様に考えられる。
【0047】
吸収性材料は、好ましくは一つ以上の柔軟剤を含む。これは、特に埋め込み後におけるステントの拡張に関して有利となり得る、当該材料の柔軟性を増加させる。十分な柔軟性により、ステントの拡張の間、少なくとも一つの層が損傷を受けること、または当該担体から機械的に分離することを広範囲で防止することが可能である。
【0048】
好ましい柔軟剤は、例えばグリセリン、オリゴグリセリン、オリゴグリセロール、ソルビトールおよびマンニトールである。吸収性材料中における当該柔軟剤含量は、好ましくは約12〜約40重量%、より好ましくは約16〜約25重量%である。
【0049】
本発明の好ましい実施形態に従って、吸収性材料の複数の層は担体上に配置される。好ましくは各々の場合において個別に分離する複数の層を提供することによって、本発明のステントの表面は、繰り返し沈着から遊離され得、そのため、再狭窄の危険性が減らされている間の期間が著しく延長され得る。血管ステントは、2〜5個の層の吸収性材料を好ましくは含む。
【0050】
複数の層を有する本発明のステントは、先に説明された(場合により、部分的に架橋されたゼラチン溶液を塗布し、乾燥し、そして第二の架橋化を行う)方法のステップを、連続して複数回実行することによって製造することが比較的容易である。
【0051】
各々の層内におけるゼラチンの架橋度は、当該担体方向に好ましくは減少する。これは、各々の個々の層の分離のための吸着の解除を促進する。
【0052】
吸収性材料の個々の層は、外側から連続的に有利に脱着可能である。かかる連続的な脱着は、各々の場合において、さらに内部に配置されている層が上部に配置されている層によってある程度分解から保護されているという事実によって、既に促進されている。これは、たとえ全ての層が同一の平均的なゼラチンの架橋度を有していても適用される。
【0053】
しかしそれは、個々の層の平均的架橋度が当該担体と隣接する層方向に増加するならば好ましい。内部層の高い架橋度により、これらの層の分解および脱着はさらに遅延され得る。さらに個々の層の分離挙動は、各々の必要性に、すなわちステント上の予想沈着強度、および/またはステント上における組織形成に意図的に適合され得る。理想的には、最深部の層の脱着までの期間は、この脱着が起こる以前に、当該ゼラチン系材料の血管新生促進効果によって促進される側枝血管の発生が行われるために充分な程度に長い。
【0054】
個々の層の平均的架橋度は、例えば最外部の層が約1〜2週間後に脱着し、そして担体と隣接する最深部の層が約3〜6カ月後に脱着するように選択されてもよい。具体的な期間は、本発明のステントが生理学的条件に曝される時間に、すなわち特に血管中に挿入される時間を参照にする。
【0055】
個々の層の異なる架橋度は、先に記載された製造方法において、ゼラチン溶液中の架橋剤の異なる濃度によって、および/または第二の架橋ステップにおける、架橋剤の異なる濃度もしくは反応時間によって実現されてもよい。
【0056】
吸収性材料の個々の層の厚さは、好ましくは約5〜約50μmの範囲内である。
【0057】
本発明のさらなる実施形態に従って、一つ以上の分離層は、吸収性材料の複数の層間、および/または当該層(単数または複数)の外側に配置される。かかる分離層を用いて、種々の有利な効果が達成され得る。
【0058】
第一に、複数の層間の吸着は、当該分離層を用いて減少され得る。各々の最外部の層におけるゼラチン系材料の進行性の分解と共に、この層の吸着の解除および分離が、当該分離層を用いて加速され、ここで当該分離層自体は、下部に配置された層の外側に残る。
【0059】
吸収性材料は、分離層のために好ましくは使用される。この材料は、少なくとも一つの層におけるゼラチン系材料よりも長い吸収時間を好ましくは有し、その結果、当該分離層は、層の外側にこの層の脱着時点においてなお存在する。
【0060】
当該分離層は、例えば離型ワックス(releasing wax)によって形成されてもよい。
【0061】
各々の最外部の層に配置された分離層を用いて達成され得るさらなる効果は、当該ステント表面上の細胞または組織の沈着が、これらの沈着に関する吸着阻害効果を有する当該分離層によって減少されることである。これはさらに、再狭窄の危険性を抑制する。当該沈着の程度が減少されるならば、当該吸収性材料の層(単数または複数)のより遅い脱着時間が選択されてもよい。
【0062】
少なくとも一つの分離層は、修飾ゼラチンを好ましくは含む。ゼラチンの化学的修飾によって、細胞に関する吸着阻害効果が達成され得ることが見出された。
【0063】
本発明のさらなる実施形態に従って、当該修飾ゼラチンは、一つ以上のゼラチン系材料の層中に含まれることが提供される。このようにして、修飾ゼラチンの分離層を用いた場合に匹敵する効果が達成され得る。
【0064】
分離層は、大部分または実質的に全体を修飾ゼラチンによって形成されてよいが、当該層中における可能な修飾ゼラチン含量は、当該ゼラチンの架橋性、および分解挙動に基づく副作用が避けれられるべき範囲内で限定される。
【0065】
修飾ゼラチンは、好ましくは脂肪酸基で修飾されたゼラチンである。この一つの例は、ドデセニルスクシネートを用いたゼラチンの修飾である。
【0066】
当該修飾は、特に当該ゼラチンのリシン基の遊離のアミノ酸基においてもたらされる。好ましくは、修飾ゼラチンのリシン基の約10〜約80%が脂肪酸基で修飾される。
【0067】
吸着阻害効果を達成するさらなる可能な方法は、ゼラチンのアニオン性修飾であり、例えば側鎖のコハク酸エステル化である。
【0068】
本発明のこれらのおよびさらなる利点は、以下の実施例および図を参照にして、詳細に記載される。
【0069】
図1および2は、特に冠状動脈ステントとして使用される本発明の血管ステントの実施形態を示す。当該ステントは、金属またはプラスチック材料で作られた小さな管状の格子枠の形態である担体を含み、そしてそれらの表面上に架橋ゼラチン系吸収性材料の複数の層が配置されている。
【0070】
図1は、圧縮状態のステントを示す。この状態におけるステントは、比較的小さい横断面のみを有し、それ故に狭窄によって影響される血管領域へと導入され得る。
【0071】
埋め込みをされた後、当該ステントは、影響される血管が大きく広げられ、そして当該ステントによって支持されるように、例えばバルーンカテーテルを用いて拡張され、すなわち放射状に拡張される。当該ステントのこの拡張された状態は、図2に示される。当該担体の格子枠および吸収性材料の層の両方が、この拡張過程を引き起こすのに十分な柔軟性を有する。
【0072】
図3は、本発明のステントの枠構造の拡大詳細図を示す。当該担体の格子枠は、複数の相互連結された網によって形成されており、ここで当該層はこれらの網の表面上に配置されている。本発明の場合において、好ましくは当該担体の全表面の可能な限り広い範囲が覆われている。
【0073】
図3で示される格子構造形状および/または当該網の配置は、本発明の場合においてほんの一例である。しかし当該格子構造は、当該網の屈曲または変形によって、ステントの拡張が可能となるように設計されるべきである。
【0074】
当該担体の網10を通る、例えばラインA−Aに沿った横断面の配置図が図4に示される。例えば直径が100〜200μmの範囲内である当該網は、3つの層、すなわち当該網10に隣接する内部層21、中間層22および外部層23で囲まれている。この実施形態の代替として、1つの、2つの、または3つ超の層が提供されてもよい。
【0075】
全ての層は、生理学的条件下において吸収性である架橋性ゼラチン系材料によって形成される。当該層の柔軟性を増加させるために、当該材料は、柔軟剤、例えばグリセリンをさらに含んでもよい。
【0076】
当該ゼラチンの架橋度は、3つの層21、22、および23の各々において、当該担体の網10の方向に好ましくは減少する。これは、例えば外部層23が、その内側、すなわち中間層22に相対する側において、その外側20よりも低い架橋度を有することを意味する。
【0077】
この段階的な架橋度は、生理学的条件下において層23の内側におけるゼラチン系材料のより早い分解をもたらし、その結果、あらかじめ選択した時間の後において層22への吸着の解除をもたらし、そして少なくとも断面において、層22から層23の二次元分離をもたらす。同時に、層23の外側20、すなわちステントの表面上において生じた細胞または組織の沈着は、関連する血管領域から血流によって除去される。この分離の後に層22は外側の層を形成し、その結果、先程記載した過程がこの層で繰り返され得る。
【0078】
個々の層21、22、および23におけるゼラチンの平均的架橋度は、好ましくは網10方向へ増加し、すなわち層23は最も低い、そして層21は最も高い平均的架橋度を有する。
【0079】
例えば、個々の層における架橋度は、血管ステントを血管中へ導入後、層23が約1〜2週間で脱着し、層22が約4〜8週間で脱着し、そして層21が約3〜6カ月で脱着するように選択される。
【0080】
個々の層21、22、および23は、約5〜約50μmの範囲内の厚さを好ましくは有する。
【0081】
分離層は、個々の層21、22、および23の間に、ならびに/または層23の外側20に配置され得る。かかる分離層は、一方で個々の層間の吸着の解除を加速し、そして/または細胞および組織の吸着を妨げる。
【0082】
分離層ならびに/または層21、22、および23は、特に修飾ゼラチンを含んでもよい。このようにして、以下の実施例1に示されるように、未修飾ゼラチンに関して細胞吸着は減少され得る。
【実施例】
【0083】
実施例1:修飾ゼラチンによる細胞吸着の阻害
ゼラチン中に存在するリシン基のアミノ基を、無水コハク酸を用いてコハク酸エステル形態へと変換してもよく、その結果、未修飾ゼラチンで観測されるゼラチン材料の8〜9のpKs値は約4へと低下される。
【0084】
当該ゼラチンを修飾するさらなる可能な方法は、リシン基のアミノ基をドデセニルスクシニル基へと変換することである。この場合においてpKs値は約5へと減少し、そして同時に、当該脂肪酸基によるゼラチンのかすかな疎水化が生じる。
【0085】
両方の場合において、このようにして処理されたゼラチンに関する細胞吸着は著しく減少し、そしてそれはブタ軟骨細胞の例を使用して、下に記載された試験において実証された。
【0086】
修飾ゼラチンのリシン基の変換度は、好ましくは30%以上である。ドデセニルスクシネート化されたゼラチンの場合において、40〜50%の変換度が通常極めて満足のいくものであり、一方コハク酸エステル化されたゼラチンの場合において、リシン基の80%からほぼ完全な変換が最も良い結果を与える。
【0087】
図5および6は、ポークリンドゼラチン(MW 119kDa)、ならびにリシン基において約95%コハク酸エステル化されたゼラチン(図5)、および約45%ドデセニルスクシネート化されたゼラチン(図6)からそれぞれ同一形式で製造されたゼラチン材料の、試験目的のためにガラス表面上に塗布された、試験領域に関する細胞吸着の結果を示す。各々の場合において、混合比が100:0、80:20、50:50、および0:100である、未修飾ゼラチンと修飾ゼラチンとの混合物を試験した。
【0088】
各々の場合における試験において、20,000個のブタ軟骨細胞を、試験領域において4時間、37℃でインキュベートした。過剰量を除去し、当該表面を洗浄し、そして当該表面上に残存する細胞を、光学顕微鏡による後の分析のために固定化した。同等の結果を、ヒト軟骨細胞を用いて得た。
【0089】
グラフで示されるパーセンテージは、先に記載した手順を行った後における、インキュベーションのために使用された細胞数に対する、膜試験領域において見られる細胞数の比率を示す。
【0090】
両方のタイプの修飾ゼラチンに関して、修飾ゼラチンのみの使用の場合において0に近い数の結果を得た。
【0091】
化学修飾ゼラチンによるこの著しい細胞吸着阻害は、ステントの外側における各々の層上の細胞および組織の沈着を減少させるために、本発明の範囲内において利用されてもよい。
【0092】
個々の層間に好ましくは配置された分離層は、この場合において100%までの非常に高い比率の修飾ゼラチンを含んでもよい。上部に配置された層の脱着の後、これらの分離層は各々の場合においてステントの表面を形成するため、したがって本発明のステントの非常に強い吸着阻害効果が達成され得る。
【0093】
実施例2:血管新生の促進
以下の実施例は、ゼラチン系材料の局所的血管新生促進効果を実証することを目的とする。
【0094】
ゼラチン系材料からの膜の製造
3つの異なる架橋度を有するゼラチン膜(膜A、BおよびC)を、2段階の架橋工程を用いて製造した。
【0095】
各々の3つのバッチのために、25gのポークリンドゼラチン(300gブルーム)、9gの85重量%グリセリン溶液、および66gの蒸留水を混合し、そしてゼラチンを60℃の温度で溶解した。当該溶液の超音波脱ガスを行なった後、第一の架橋ステップを行うためにホルムアルデヒド水溶液(2.0重量%、室温)を加え、すなわち3.75gのこの溶液をバッチAへ、そして6.25gの当該溶液をバッチBおよびCのそれぞれに加えた。
【0096】
当該混合物を均質化し、そしてポリエチレン支持体上に約250μmの厚さで、ドクターブレードを用いて60℃で塗布した。
【0097】
30℃、相対的大気湿度30%で約1日乾燥後、当該膜をPE支持体から除去し、さらに同一の条件下約12時間乾燥した。第二の架橋ステップを実行するために、当該乾燥された膜(厚さ約50μm)を、平衡蒸気圧で17重量%のホルムアルデヒド水溶液にデシケーター中室温で曝した。膜AおよびBの場合において、ホルムアルデヒド蒸気への曝露時間は2時間であり、膜Cの場合においては17時間であった。
【0098】
このように製造された成形体のうち、膜Aは全体的に最も低い架橋度を有し、そして膜Cは全体的に最も高い架橋度を有し、膜Bはその中間であった。これは、当該膜の異なる分解挙動に反映され、動物実験(以下参照)において、生理学的条件下における記載された膜の吸収時間は、約14日(膜A)と約21日(膜C)の間であった。
【0099】
動物実験における血管新生促進効果の確認
インビボにおけるゼラチン膜A、BおよびCの血管新生促進効果を、動物実験において調査した。試験動物として、10週齢であって20gの体重を有する、チャールズ・リバー社(Sulzfeld)のBalb/C系統マウスを使用した。
【0100】
基材として、先に記載したゼラチン膜の5×5mm2片を、各々の場合において使用した。各々の場合において、特定の架橋度を有する2片の膜をマウスの頸背部領域において皮下に移植した。この目的のために、当該動物を麻酔し、そして頸背部の毛を剃り落とした。鉗子を使用して首の皮を持ち上げ、そして約1cm切開した。この切開において、鉗子を使用してそれぞれの2片の膜を挿入する皮下の穴を作製するために、先が尖っていない鉗子を使用した。2回の単一ボタン縫合によって傷を塞いだ。
【0101】
12日後、当該動物を殺し、そして当該移植基材の血管新生効果を視覚的に評価した。
【0102】
図7は、陰性対照として、血管新生促進基材の移植が行なわれていないマウス皮下組織の対応する領域を示す。マウスの皮下組織における正常な場合のように、血管の比較的少ない散在のみが観測された。
【0103】
図8a〜8cは、対応するマウスが移植後12日で殺された後における、移植された膜片A、BおよびCの領域における皮下組織の写真を示す。膜自体は写真中で視認が困難であるため、膜片の位置を黒い四角で印をつけた(参照文字A、B、またはCは対応する膜のことである)。図8aで見られるように、実験において幾つかの膜をクマシーブリリアントブルーで染色した。
【0104】
3つ全ての画像により、移植された膜片を囲む領域内において、血管の発生の著しい増加が示された。血管の数量および大きさの両方は、図7における陰性対照よりも著しく大きかった。血管新生が、生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料を用いて局所的に刺激され得ることをこの結果は証明した。
【0105】
架橋ゼラチン系材料のこの局所的血管新生促進効果は、本発明の血管ステントにおいて特に有利な効果をもたらす。ゼラチン含有材料の層は、ステントで処理される血管領域における側枝血管の発生を刺激し、その結果、再狭窄事象において、例えば全ての層の完全な脱着後、心筋梗塞の危険性が著しく減少され得る。
【0106】
実施例3:複数の層のゼラチン系材料の時間依存的分離挙動
架橋ゼラチン系材料における複数の層の時間依存的分離挙動の定性的および定量的決定を行うために、下に記載した試験を行なった。
【0107】
視覚的な評価を容易にするために、ここで使用される担体は、ステントの格子枠ではなく、平らなポリエチレン支持体であり、そしてその上に吸収性材料の2つの層が広い領域において塗布された。同一の組成である吸収性材料は、本発明の範囲内において本発明の血管ステントの担体表面へ塗布されてもよい。
【0108】
試験において吸収性材料の2つの層間における違いを見ることができるように、第一の層を白色顔料(二酸化チタン)で染色し、そして第二の層を食紅(カンデュリン(Candurin)・ワインレッド)で染色した。同一の理由のために、本発明のステントの範囲内において好ましい厚さよりも厚い層が製造された。
【0109】
第一の試験バッチ3−1を、以下の通りに実施した:
【0110】
20gのポークリンドゼラチン(300gブルーム)、8gのグリセリン、1gの二酸化チタンおよび69gの蒸留水を混合し、そして当該ゼラチンを30分間室温で浸した:その後ゼラチンを、当該混合物を60℃へと加熱することによって溶解し、そして当該溶液を均質化し、そして超音波脱気を行なった。
【0111】
当該担体上に吸収性材料の第一の層を形成するために、このゼラチン溶液を、約550μmの厚さで平坦なポリエチレン担体上へドクターブレードによって塗布した。
【0112】
ゼラチンの架橋を行なうために、第一の層を有するポリエチレン担体を、デシケーター中10重量%のホルムアルデヒド水溶液の平衡蒸気圧で室温にて17時間曝した。
【0113】
ホルムアルデヒドの蒸気は、実質的に担体から離れた側からのみ吸収性材料の層中に浸透することができるため、担体方向に減少するゼラチンの架橋度が、この方法によって獲得される。
【0114】
ゼラチン系材料の第一の層をその後、26℃、相対的大気湿度10%で一晩乾燥した。乾燥された層は、約100μmの厚さを有した。
【0115】
架橋された第一の層を有する担体を約4℃に冷却した。分離層を製造するために、ボーソン(Boeson)離型ワックスを層上にスプレーし、そして柔らかい布を用いて均一に広げた。
【0116】
吸収性材料の第二の層のためのゼラチン溶液を、出発物質として20gのゼラチン、4gのグリセリン、73gの蒸留水、および二酸化チタンの代わりに1gのカンデュリン・ワインレッドを使用して、第一の層のための溶液と同様にして製造した。
【0117】
得られるゼラチン溶液を、離型ワックスと共に提供される吸収性材料の第一の層上へ、約550μmの厚さで同様に塗布した。
【0118】
架橋剤への曝露時間が17時間の代わりにたった2時間であったという違いがあるのみで、第二の層は、第一の層に関して記載されたように、ホルムアルデヒド蒸気を用いた架橋を同様に受けた。結果的に第二の層は、第一の層よりも低い平均的架橋度を有し、ここでゼラチンの架橋度は、第二の層中において担体方向に同様に減少した。
【0119】
乾燥は、第一の層に関して記載した方法で達成された。乾燥後、第二の層は約70μmの厚さを有した。
【0120】
生理学的条件下におけるゼラチン系材料の2つの層の時間依存的分離挙動を、PBSバッファー(pH7.2)中、37℃でのインキュベーションによって決定した。これらの生理学的標準条件を用いて、体内における本発明の血管ステントの使用の間に用いられている条件を再現することが可能である。
【0121】
図9は、PBSバッファー中で5、6、7、10、11および12日間インキュベーションした後の、試験バッチ3−1の2つの層を有する担体の写真を示す。
【0122】
上の3枚の写真において見られるように、第二の(外側の)層の吸着の解除、および下部に配置された第一の層からのこの層の分離がインキュベーション5日目〜7日目の間で起こる。元来赤色で染色された第二の層は、暗領域として図9の上の3つの写真で見え、一方で、白色で染色された第一の層は、非常に明るい領域として見られる。5日後、約20%の第二の層が分離され、そして第一の層の個々の白色片が見られる。6日後、約65%の第二の層が分離され、そして当該第二の層は実質的に担体の右下領域にのみ存在する。インキュベーション7日目後、第二の層は最終的に、実質的に完全に分離された。試験バッチの全ての領域において第一の層が見られ、この層は一部既に膨張し、そして水疱が形成されているが、実質的になお損傷を受けていない。
【0123】
図9の下の3枚の写真で見られるように、当該担体からのゼラチン系材料の第一の層の分離は、実質的にインキュベーション10日目〜12日目で起こる。第一の層(白色の領域)の分離の間、ポリエチレン担体は暗い背景として見えるようになる。インキュベーション10日後において約35%、11日後に約80%、12日後に約95%の第一の層が担体から分離された。
【0124】
記載された結果は、架橋性ゼラチン系吸収性材料の複数の層を用いて、個々の層における異なる平均的架橋度によって、下部の層の分離が始まる前に、各々の場合において外側の層が実質的に完全に分離する効果による分離挙動の調節を達成することが可能であることを実証した。この効果によって、本発明の血管ステントの場合において、吸収性材料の複数の層の連続的分離の結果として、ステント表面の繰り返しの再生を達成することが可能である。
【0125】
当該試験はまた、ゼラチン系材料の層間における吸着を解除することによって、少なくとも断面において、下の層から、または担体から層の二次元分離が起こることをさらに実証した。これは、各々の層の内側におけるゼラチンのより低い架橋度によって促進された。
【0126】
第二の試験バッチ3−2を、ゼラチン系材料の2つの層間において分離層(ボーソン離型ワックス)が施されたという違いがあるが、先に記載した試験バッチ3−1と同様にして行なった。このバッチにおいて、第一の層は約80μmの厚さを有し、そして第二の層は約100μmの厚さを有した。
【0127】
試験バッチ3−2においても、2つの層の連続的分離挙動が観測された。しかしこの場合において、約20%の第一の層は、インキュベーション6日目後に分離し、約55%がインキュベーション7日目後に、そしてちょうどインキュベーション10日目後にほぼ100%分離した。
【0128】
バッチ3−2の第二の層は、13日後においてなお実質的に無傷であった。18日後において約20%、そして25日後に約70%の第二の層が分離した。
【0129】
同程度のゼラチンの架橋度である場合に、分離層の使用を通じて下の層からの個々の層の分離が(バッチ3−2と比較してバッチ3−1の第二の層において)加速され得ることをこの結果は特に実証した。バッチ3−2の第一の層のより遅い分離は、当該層がより厚く、そして分離層によって保護されていることに起因され得る。
【0130】
さらなる試験バッチ3−3を、ドクターブレードによる塗布に先立ち、第一および第二の層のためのゼラチン溶液中に2mlの1重量%ホルムアルデヒド水溶液を加えるという違いがあるが、バッチ3−2と同様の方法で行なった。この二段階の架橋化の結果として、このバッチの両方の層は、バッチ3−1および3−2と比較してより高い平均的架橋度を有する。これは再度、このバッチの第一の層のより遅い分離時間をもたらし、そして約5%未満の当該層のみが、インキュベーション25日目後に担体から分離した。32日後にようやく完全な分離が起こった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管ステント、特に冠状動脈ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、体内における器官の管腔構造を広げた状態に保ち、および/または閉塞(狭窄)後において当該構造を再度広げるためのインプラントとして医学的に使用される。一般にこの場合において、圧縮形態における小さな管状ステントが関連性のある器官へ導入され、その後当該器官の壁を支持するために拡張される。
【0003】
ステントは、血管を、特に冠状動脈領域における血管を広げるために特に重要である(冠状動脈ステント)。血管壁上における血栓(血の塊)、血中脂質、またはカルシウムの沈着の結果としての冠状動脈の狭窄または閉塞は、血液が供給不足である心筋領域において頻繁に引き起こされ、その結果心筋梗塞を引き起こす。かかる狭窄を予防または除去するために使用されるステントは、当該血管を十分な大きさに広げるためにバルーンカテーテルを用いて関連する血管へ導入され、そして速やかに放射状に広げられる小さな管状の格子枠を含む。
【0004】
しかし、血管ステントに関連するかかる治療は、通常いわゆる再狭窄の問題が起こる。これは、ステント上の沈着、および/またはステントよる組織の過剰増殖の結果としての当該血管の再度の狭窄を意味し、そしてこれは、「異物」であるステント(一般的に金属またはプラスチック材料)に対する血小板および凝固因子の活性化によって引き起こされる。再狭窄は、多くの場合、罹患した血管の新たな処置を必要とする。
【0005】
これまでのかなりの期間、薬剤被覆ステント(薬剤溶出ステント、DES)は、この問題を避け、または減らすために使用された。これらのステントはコーティングを有し、そこから組織の形成を阻害するための特定の活性物質(例えば抗増殖剤、細胞増殖抑制剤、または免疫抑制剤)が放出される。かかるステントの使用を通じて、関連する血管の再狭窄の危険性が著しく減らされ得る(M.C.Morice他,New England Journal of Medicine 2002(346)1773−1780を参照)。
【0006】
薬剤被覆ステントは、特に刊行された特許出願である米国特許出願公開第2005/0019404A1号明細書中に開示されている。
【0007】
しかし近年の研究において、冠状動脈の狭窄後に薬剤被覆ステントが埋め込まれた患者において、被覆されていない金属製ステントで処置された患者よりも死亡率が高いことが発見された。この研究の定量的結果は、ステントの埋め込み後6ヶ月〜3年の期間内における心筋梗塞による死亡の可能性が、先に言及された患者群において後に言及された患者群よりも32%高かったというものであった(B.Lagerqvist他,New England Journal of Medicine 2007(356)1009−1019を参照)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、抗増殖性活性物質の使用を必要とせずに再狭窄の危険性を減少させるステントを提供することである。
【0009】
本目的は、導入部において記載されたタイプの血管ステントであって、寸法安定性を有する材料の担体、および生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料の、当該担体上において少なくとも断面に配置される一つ以上の層を含み、当該担体と当該層との間の、および/または個々の層間の吸着が解除され得る前記ステントによって、本発明に従って達成される。
【0010】
この吸着の除去は、生理学的条件下において、本発明のステントからの一つ以上の層の分離を促進する。本発明の血管ステントがヒトまたは動物の体内で使用されている間に曝されている生理学的条件、すなわち特に血管内における一般的な条件は、この場合においていわゆる生理学的標準条件と定義され得、そしてインビトロにおいて再現され得る。本明細書における生理学的標準条件は、PBSバッファー(pH7.2)中、37℃におけるインキュベーションを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、埋め込み前の圧縮状態における本発明のステントを示す。
【図2】図2は、埋め込み後の拡張状態における本発明のステントを示す。
【図3】図3は、本発明のステントの構造の詳細を示す。
【図4】図4は、本発明のステントの層の横断面図を示す。
【図5】図5は、修飾ゼラチンの吸着阻害効果に関するグラフを示す。
【図6】図6は、修飾ゼラチンの吸着阻害効果に関するグラフを示す。
【図7】図7は、マウスの皮下組織における血管形成生成の写真を示す。
【図8a】図8aは、種々の架橋ゼラチン系血管新生促進基材の存在下における、血管生成の増加の写真を示す。
【図8b】図8bは、種々の架橋ゼラチン系血管新生促進基材の存在下における、血管生成の増加の写真を示す。
【図8c】図8cは、種々の架橋ゼラチン系血管新生促進基材の存在下における、血管生成の増加の写真を示す。
【図9】図9は、ゼラチン系材料の2つの層の、時間依存的分離挙動の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましくは、吸収性材料の1つ以上の層は各々脱着可能である。本発明における層の脱着は、層を形成する吸収性材料の、当該層の底面または担体からの、少なくとも断面における二次元分離を意味する。言い換えれば、発生することは、特定の構造統合性をなお有する層断面または断片の分離である。この分離過程は、分子レベルにおける層の連続的な分解または吸収(それにより、当該層が上で記載した意味における脱着が起こる以前に実質上完全に吸収される)とは対照的であると見なされ得る。
【0013】
本発明のステントの有利な効果は、吸着の解除および血管ステントからの吸収性材料の1つ以上の層の分離によって、ステント表面上に形成された細胞、組織、または血栓も、ステントから分離され、そして血管の関連領域から血流によって除去されるという事実に基づく。したがって本方法は、ステントの清掃およびその表面の再生につながり、それにより、抗増殖剤または同様の活性物質の使用を必要とせずに再狭窄を予防し、または少なくとも遅延させる。
【0014】
本発明のために、層と担体との間に、および/または層同士の間に最初から存在する吸着は、吸着の制御可能な解除によって、二次元層部分の分離が意図的に時限的および予定的方法で可能であるために、そして当該ステントが当該分離の開始までに明確な特性を示すために重要である。
【0015】
本発明に従って提供される個々の層間における吸着の解除可能性は、種々の手段によって達成され得る。第一に、生理学的条件下において溶解可能な材料の吸着層が、吸収性材料の個々の層間において提供され得る。かかる吸着層のために種々の物質が考えられ、例えば低分子量溶解性コラーゲン加水分解物である。
【0016】
好ましい担体は、微視的に滑らかで閉じた表面を有している。層が当該担体へ適用されるとき、これにより細孔中に材料が沈着することを防ぎ、それにより積極的固定効果に基づく吸着をもたらす。特にこれはまた、小さい管状の格子枠の形態で担体を使用する場合において適用し、そしてそれはまた、本発明において特に好適である。担体が格子枠構造を有する場合において、層の二次元分離の間に、生理学的に過剰に大きく、それゆえに医学的に危険な層断片が血液循環中に放出されないという特別な利点が達成される。
【0017】
格子構造を有する担体の場合、好ましい目的は、横断面において好ましくは層および/または複数の層によって完全に覆われる、担体の網のコーティングである。担体の網のコーティングの後であっても、当該網の間の空間は完全に開いている。
【0018】
当該ステントの拡張はその後、担体上の層(単数または複数)、すなわち担体の網上の層(単数または複数)の統合性を脅かすことなしに可能である。
【0019】
さらに、分離層はまた、吸収性材料の個々の層間において提供されてもよく、これは以下にさらにより詳細に議論される。
【0020】
吸収性材料の個々の層間(および/または当該担体と隣接層との間)における吸着の解除はまた、特に生理学的な条件下における当該材料の少なくとも部分的な分解に基づいてもよく、ここで分解は主に、最終的に当該材料の吸収を引き起こす過程を意味する。吸収性材料の分解特性は、この場合において種々の方法によって、例えば異なる分子量のゼラチンを使用することによって、および/またはゼラチン系材料へのさらなる生体高分子の混合によって意図的に影響されてもよい。
【0021】
本発明の好ましい実施形態に従って、吸着は、ゼラチンの架橋度に従って解除されてもよい。より高いゼラチンの架橋度により、ゼラチン系材料のより遅い分解(および吸収)がもたらされ、その結果、このパラメーターを用いて個々の層の分離挙動が単純な方法で調節されてもよい。
【0022】
特に好ましい方法において、架橋度が吸収性材料の一つ以上の層内で担体方向に減少するように、ゼラチンは架橋される。担体と相対する層の面におけるより低いゼラチンの架橋度によって達成される効果は、この領域において当該材料のより早い分解が生じ、従って当該担体への(および/または当該層の下部への)吸着が解除され、一方、より高いゼラチンの架橋度の結果として、当該層の外側において特定の構造統一性が維持され、そして少なくとも断面において、先に記載した当該層の二次元分離が達成されることである。
【0023】
当該担体が形成される寸法安定性を有する材料は、好ましくは生理学的条件下で不活性であり、特に金属および/またはプラスチック材料である。担体として、特に拡張可能な格子枠または同様の構造を、小さい管またはホースの形態で使用することが可能である。
【0024】
心臓血管領域における血管狭窄症が心筋梗塞を引き起こす場合があるために、本発明の血管ステントは、好ましくはこの領域において、そして特に冠状血管の治療のために使用される(冠状動脈ステント)。しかし当該ステントは、身体の他の領域における狭窄を処置するために同様に使用されてもよい。
【0025】
再狭窄の危険性を少なくとも減らす本発明の効果は、担体の断面において層(単数または複数)を配置することによってすでに達成され得る。しかし少なくとも一つの層が当該担体表面の約75%以上、特に約90%以上を覆うならば好ましい。特に好ましい方法において、少なくとも一つの層が当該担体の全表面を実質的に覆うことである。
【0026】
吸収性材料の層(単数または複数)のための基材としての本発明のゼラチンの使用は、ゼラチンが身体によって極めて十分に許容され、そして再現性のある純度および質で製造され得る、実質的に完全な吸収性生産物であるという利点を提供する。
【0027】
本発明の範囲内において、さらにゼラチンは、それが血管新生、すなわち血管の再生を促進する限りにおいて特に有利な効果を有する。これに関する研究は、ゼラチン含有成形体をヒトまたは動物の体内へ導入することによって、局所的に血管新生促進効果が起こることを示した。これは、多孔性構造への毛細血管の成長が観察された(独国特許出願第102005054937号明細書を参照)多孔性成形体のみならず、血管新生促進効果が成形体の周囲の領域において観察される、とくに非多孔性成形体、例えば塗膜においても適用される。
【0028】
最初に言及した、薬剤被覆ステントを用いたより高い死亡率の原因は、主に当該被覆ステント中で使用される抗増殖性活性物質の所望ではない副作用にあり、すなわち関連する血管を覆う領域における血管新生の防止にあることが発見された。狭窄の事象において、身体の自然な反応は、血管を再生することによって閉塞を克服することである。この過程が抗増殖剤などによって阻害されるので、狭窄がそれでもなお発生する場合において側枝血管が利用されず、そしてその結果が心筋梗塞である(P.Meier他,Journal of American Cardiology 2007(49)15〜20)。
【0029】
本発明のステント中において抗増殖性物質なしで済まし得ることは、血管新生阻害効果が避けられるのみならず、反対に血管新生がゼラチン系材料によって刺激されることを意味する。
【0030】
従って、本発明の血管ステントは、一方でステント表面の自己洗浄効果の結果として、再狭窄の危険性を減らし、または遅延させ、他方で関連する血管を覆う領域におけるゼラチンの血管新生促進効果のために、側枝血管の発生を同時に促進する。特にステントの全ての層が分離された後に再狭窄が発生するが、側枝血管は、天然のバイパス系として利用可能である。
【0031】
さらに抗増殖剤なしで済ますことは、さらなる利点を提供する。例えばこれらの活性物質は、再狭窄をもたらす可能性のある組織の沈着を予防するのみならず、ステントの内皮化をもたらす。内皮化は、ステントの周囲に血液の構成成分と適合する結合組織の層を産生し、それによりステント材料上における血小板および凝固因子の活性化を防止し、すなわちこの過程はステント領域内における血栓症を妨げる。
【0032】
本発明の吸収性材料は、好ましくは架橋ゼラチンによって主に形成される。これは、当該ゼラチンが、使用される材料の任意のさらなる構成成分と比較して最も大きな部分を示すことを意味する。
【0033】
特にゼラチンの好適な種類は、ポークリンド(pork−rind)ゼラチンであり、そしてそれは好ましくは高分子量であり、そして約160〜320gのブルーム(Bloom)値を有する。
【0034】
本発明のステントの最適な生体適合性を保証するために、出発物質は好ましくは、特に低い内毒素含有量を有するゼラチンが使用される。内毒素は、代謝産物、または動物性原料中において生じる微生物断片である。ゼラチンの当該毒素含量は、1gあたりの国際単位(I.U./g)で示され、そしてLAL試験に従って決定され、その実施は、European Pharmacopoeia第4版(Ph.Eur.4)に記載されている。
【0035】
できる限り低い内毒素含有量を保持するために、ゼラチンの製造過程においてできる限り早く微生物を破壊することが有利である。さらに、好適な衛生基準が当該製造過程において観察されるべきである。
【0036】
したがってゼラチンの内毒素含量は、当該製造過程の間において特殊な方法によって著しく減少され得る。これらの方法は主に、貯蔵期間を回避した新鮮な原料(例えばポークリンド)の使用、ゼラチンの製造の開始直前の全製造プラントの注意深い清掃、そして場合により製造プラント中におけるイオン交換および濾過系の交換を含む。
【0037】
本発明の範囲内において使用されるゼラチンは、好ましくは約1,200I.U./g以下の、さらにより好ましくは約200I.U./g以下の内毒素含量を有する。好ましくは、内毒素含量は、約50I.U./g以下であり、各々の場合においてLAL試験に従って決定される。これと比較して、多くの市販のゼラチンは、20,000I.U./g超の内毒素含量を有する。
【0038】
本発明の溶解性ゼラチンの架橋によって、当該ゼラチンは、生理学的条件において不溶性だが、吸収性である材料へと変換される。この場合において、上で既に言及された通り、当該材料の吸収率および/または分解率は、当該ゼラチンの架橋度に依存してもよく、そして比較的広い範囲で調節されてもよい。特に個々の層の脱着時間は、各々のゼラチンの架橋度によってあらかじめ選択されてもよい。
【0039】
架橋ゼラチン系成形体、その吸収性特性、およびその製造は、刊行された独国特許出願第102004024635A1号明細書に記載されている。
【0040】
ゼラチンの架橋は、化学的および酵素的架橋剤の両方によって達成されてもよい。化学的架橋剤のうち、ホルムアルデヒドを使用する架橋が好ましく、そしてそれは同時に殺菌を達成する。
【0041】
好ましい酵素的架橋剤は、トランスグルタミナーゼ酵素である。
【0042】
架橋ゼラチン系成形体の製造のために好適な手順は、二段階の架橋工程であり、それにより第一段階において、ゼラチンは溶液中で部分的に架橋される。部分的架橋ゼラチン溶液から成形体がその後製造され、そして第二の架橋ステップを受ける。
【0043】
第二の架橋ステップは、気相において架橋剤を、好ましくはホルムアルデヒドを特に作用させることによって行なわれてもよい。
【0044】
この方法に従って、本発明の血管ステントは、ゼラチン系材料の部分的に架橋された溶液を担体表面上へ塗布することによって、例えば当該担体を当該溶液へと浸すことによって製造されてもよい。当該溶液の乾燥後、吸収性材料の層を有する担体が得られ、それはその後、例えば気相中ホルムアルデヒドを用いて第二の架橋ステップを受ける。
【0045】
架橋剤が、当該層の外側からのみ当該層へと浸透することができるため、この第二の架橋ステップは、架橋度の好ましい勾配を獲得する単純な方法であって、これは、当該層の外側におけるより高い架橋度、および担体に相対する当該層の内側におけるより低い架橋度をもたらす。
【0046】
本発明の範囲内において、溶液中におけるゼラチンの架橋ではなく、当該担体上に当該層を塗布した後に単一の架橋段階を提供することが同様に考えられる。
【0047】
吸収性材料は、好ましくは一つ以上の柔軟剤を含む。これは、特に埋め込み後におけるステントの拡張に関して有利となり得る、当該材料の柔軟性を増加させる。十分な柔軟性により、ステントの拡張の間、少なくとも一つの層が損傷を受けること、または当該担体から機械的に分離することを広範囲で防止することが可能である。
【0048】
好ましい柔軟剤は、例えばグリセリン、オリゴグリセリン、オリゴグリセロール、ソルビトールおよびマンニトールである。吸収性材料中における当該柔軟剤含量は、好ましくは約12〜約40重量%、より好ましくは約16〜約25重量%である。
【0049】
本発明の好ましい実施形態に従って、吸収性材料の複数の層は担体上に配置される。好ましくは各々の場合において個別に分離する複数の層を提供することによって、本発明のステントの表面は、繰り返し沈着から遊離され得、そのため、再狭窄の危険性が減らされている間の期間が著しく延長され得る。血管ステントは、2〜5個の層の吸収性材料を好ましくは含む。
【0050】
複数の層を有する本発明のステントは、先に説明された(場合により、部分的に架橋されたゼラチン溶液を塗布し、乾燥し、そして第二の架橋化を行う)方法のステップを、連続して複数回実行することによって製造することが比較的容易である。
【0051】
各々の層内におけるゼラチンの架橋度は、当該担体方向に好ましくは減少する。これは、各々の個々の層の分離のための吸着の解除を促進する。
【0052】
吸収性材料の個々の層は、外側から連続的に有利に脱着可能である。かかる連続的な脱着は、各々の場合において、さらに内部に配置されている層が上部に配置されている層によってある程度分解から保護されているという事実によって、既に促進されている。これは、たとえ全ての層が同一の平均的なゼラチンの架橋度を有していても適用される。
【0053】
しかしそれは、個々の層の平均的架橋度が当該担体と隣接する層方向に増加するならば好ましい。内部層の高い架橋度により、これらの層の分解および脱着はさらに遅延され得る。さらに個々の層の分離挙動は、各々の必要性に、すなわちステント上の予想沈着強度、および/またはステント上における組織形成に意図的に適合され得る。理想的には、最深部の層の脱着までの期間は、この脱着が起こる以前に、当該ゼラチン系材料の血管新生促進効果によって促進される側枝血管の発生が行われるために充分な程度に長い。
【0054】
個々の層の平均的架橋度は、例えば最外部の層が約1〜2週間後に脱着し、そして担体と隣接する最深部の層が約3〜6カ月後に脱着するように選択されてもよい。具体的な期間は、本発明のステントが生理学的条件に曝される時間に、すなわち特に血管中に挿入される時間を参照にする。
【0055】
個々の層の異なる架橋度は、先に記載された製造方法において、ゼラチン溶液中の架橋剤の異なる濃度によって、および/または第二の架橋ステップにおける、架橋剤の異なる濃度もしくは反応時間によって実現されてもよい。
【0056】
吸収性材料の個々の層の厚さは、好ましくは約5〜約50μmの範囲内である。
【0057】
本発明のさらなる実施形態に従って、一つ以上の分離層は、吸収性材料の複数の層間、および/または当該層(単数または複数)の外側に配置される。かかる分離層を用いて、種々の有利な効果が達成され得る。
【0058】
第一に、複数の層間の吸着は、当該分離層を用いて減少され得る。各々の最外部の層におけるゼラチン系材料の進行性の分解と共に、この層の吸着の解除および分離が、当該分離層を用いて加速され、ここで当該分離層自体は、下部に配置された層の外側に残る。
【0059】
吸収性材料は、分離層のために好ましくは使用される。この材料は、少なくとも一つの層におけるゼラチン系材料よりも長い吸収時間を好ましくは有し、その結果、当該分離層は、層の外側にこの層の脱着時点においてなお存在する。
【0060】
当該分離層は、例えば離型ワックス(releasing wax)によって形成されてもよい。
【0061】
各々の最外部の層に配置された分離層を用いて達成され得るさらなる効果は、当該ステント表面上の細胞または組織の沈着が、これらの沈着に関する吸着阻害効果を有する当該分離層によって減少されることである。これはさらに、再狭窄の危険性を抑制する。当該沈着の程度が減少されるならば、当該吸収性材料の層(単数または複数)のより遅い脱着時間が選択されてもよい。
【0062】
少なくとも一つの分離層は、修飾ゼラチンを好ましくは含む。ゼラチンの化学的修飾によって、細胞に関する吸着阻害効果が達成され得ることが見出された。
【0063】
本発明のさらなる実施形態に従って、当該修飾ゼラチンは、一つ以上のゼラチン系材料の層中に含まれることが提供される。このようにして、修飾ゼラチンの分離層を用いた場合に匹敵する効果が達成され得る。
【0064】
分離層は、大部分または実質的に全体を修飾ゼラチンによって形成されてよいが、当該層中における可能な修飾ゼラチン含量は、当該ゼラチンの架橋性、および分解挙動に基づく副作用が避けれられるべき範囲内で限定される。
【0065】
修飾ゼラチンは、好ましくは脂肪酸基で修飾されたゼラチンである。この一つの例は、ドデセニルスクシネートを用いたゼラチンの修飾である。
【0066】
当該修飾は、特に当該ゼラチンのリシン基の遊離のアミノ酸基においてもたらされる。好ましくは、修飾ゼラチンのリシン基の約10〜約80%が脂肪酸基で修飾される。
【0067】
吸着阻害効果を達成するさらなる可能な方法は、ゼラチンのアニオン性修飾であり、例えば側鎖のコハク酸エステル化である。
【0068】
本発明のこれらのおよびさらなる利点は、以下の実施例および図を参照にして、詳細に記載される。
【0069】
図1および2は、特に冠状動脈ステントとして使用される本発明の血管ステントの実施形態を示す。当該ステントは、金属またはプラスチック材料で作られた小さな管状の格子枠の形態である担体を含み、そしてそれらの表面上に架橋ゼラチン系吸収性材料の複数の層が配置されている。
【0070】
図1は、圧縮状態のステントを示す。この状態におけるステントは、比較的小さい横断面のみを有し、それ故に狭窄によって影響される血管領域へと導入され得る。
【0071】
埋め込みをされた後、当該ステントは、影響される血管が大きく広げられ、そして当該ステントによって支持されるように、例えばバルーンカテーテルを用いて拡張され、すなわち放射状に拡張される。当該ステントのこの拡張された状態は、図2に示される。当該担体の格子枠および吸収性材料の層の両方が、この拡張過程を引き起こすのに十分な柔軟性を有する。
【0072】
図3は、本発明のステントの枠構造の拡大詳細図を示す。当該担体の格子枠は、複数の相互連結された網によって形成されており、ここで当該層はこれらの網の表面上に配置されている。本発明の場合において、好ましくは当該担体の全表面の可能な限り広い範囲が覆われている。
【0073】
図3で示される格子構造形状および/または当該網の配置は、本発明の場合においてほんの一例である。しかし当該格子構造は、当該網の屈曲または変形によって、ステントの拡張が可能となるように設計されるべきである。
【0074】
当該担体の網10を通る、例えばラインA−Aに沿った横断面の配置図が図4に示される。例えば直径が100〜200μmの範囲内である当該網は、3つの層、すなわち当該網10に隣接する内部層21、中間層22および外部層23で囲まれている。この実施形態の代替として、1つの、2つの、または3つ超の層が提供されてもよい。
【0075】
全ての層は、生理学的条件下において吸収性である架橋性ゼラチン系材料によって形成される。当該層の柔軟性を増加させるために、当該材料は、柔軟剤、例えばグリセリンをさらに含んでもよい。
【0076】
当該ゼラチンの架橋度は、3つの層21、22、および23の各々において、当該担体の網10の方向に好ましくは減少する。これは、例えば外部層23が、その内側、すなわち中間層22に相対する側において、その外側20よりも低い架橋度を有することを意味する。
【0077】
この段階的な架橋度は、生理学的条件下において層23の内側におけるゼラチン系材料のより早い分解をもたらし、その結果、あらかじめ選択した時間の後において層22への吸着の解除をもたらし、そして少なくとも断面において、層22から層23の二次元分離をもたらす。同時に、層23の外側20、すなわちステントの表面上において生じた細胞または組織の沈着は、関連する血管領域から血流によって除去される。この分離の後に層22は外側の層を形成し、その結果、先程記載した過程がこの層で繰り返され得る。
【0078】
個々の層21、22、および23におけるゼラチンの平均的架橋度は、好ましくは網10方向へ増加し、すなわち層23は最も低い、そして層21は最も高い平均的架橋度を有する。
【0079】
例えば、個々の層における架橋度は、血管ステントを血管中へ導入後、層23が約1〜2週間で脱着し、層22が約4〜8週間で脱着し、そして層21が約3〜6カ月で脱着するように選択される。
【0080】
個々の層21、22、および23は、約5〜約50μmの範囲内の厚さを好ましくは有する。
【0081】
分離層は、個々の層21、22、および23の間に、ならびに/または層23の外側20に配置され得る。かかる分離層は、一方で個々の層間の吸着の解除を加速し、そして/または細胞および組織の吸着を妨げる。
【0082】
分離層ならびに/または層21、22、および23は、特に修飾ゼラチンを含んでもよい。このようにして、以下の実施例1に示されるように、未修飾ゼラチンに関して細胞吸着は減少され得る。
【実施例】
【0083】
実施例1:修飾ゼラチンによる細胞吸着の阻害
ゼラチン中に存在するリシン基のアミノ基を、無水コハク酸を用いてコハク酸エステル形態へと変換してもよく、その結果、未修飾ゼラチンで観測されるゼラチン材料の8〜9のpKs値は約4へと低下される。
【0084】
当該ゼラチンを修飾するさらなる可能な方法は、リシン基のアミノ基をドデセニルスクシニル基へと変換することである。この場合においてpKs値は約5へと減少し、そして同時に、当該脂肪酸基によるゼラチンのかすかな疎水化が生じる。
【0085】
両方の場合において、このようにして処理されたゼラチンに関する細胞吸着は著しく減少し、そしてそれはブタ軟骨細胞の例を使用して、下に記載された試験において実証された。
【0086】
修飾ゼラチンのリシン基の変換度は、好ましくは30%以上である。ドデセニルスクシネート化されたゼラチンの場合において、40〜50%の変換度が通常極めて満足のいくものであり、一方コハク酸エステル化されたゼラチンの場合において、リシン基の80%からほぼ完全な変換が最も良い結果を与える。
【0087】
図5および6は、ポークリンドゼラチン(MW 119kDa)、ならびにリシン基において約95%コハク酸エステル化されたゼラチン(図5)、および約45%ドデセニルスクシネート化されたゼラチン(図6)からそれぞれ同一形式で製造されたゼラチン材料の、試験目的のためにガラス表面上に塗布された、試験領域に関する細胞吸着の結果を示す。各々の場合において、混合比が100:0、80:20、50:50、および0:100である、未修飾ゼラチンと修飾ゼラチンとの混合物を試験した。
【0088】
各々の場合における試験において、20,000個のブタ軟骨細胞を、試験領域において4時間、37℃でインキュベートした。過剰量を除去し、当該表面を洗浄し、そして当該表面上に残存する細胞を、光学顕微鏡による後の分析のために固定化した。同等の結果を、ヒト軟骨細胞を用いて得た。
【0089】
グラフで示されるパーセンテージは、先に記載した手順を行った後における、インキュベーションのために使用された細胞数に対する、膜試験領域において見られる細胞数の比率を示す。
【0090】
両方のタイプの修飾ゼラチンに関して、修飾ゼラチンのみの使用の場合において0に近い数の結果を得た。
【0091】
化学修飾ゼラチンによるこの著しい細胞吸着阻害は、ステントの外側における各々の層上の細胞および組織の沈着を減少させるために、本発明の範囲内において利用されてもよい。
【0092】
個々の層間に好ましくは配置された分離層は、この場合において100%までの非常に高い比率の修飾ゼラチンを含んでもよい。上部に配置された層の脱着の後、これらの分離層は各々の場合においてステントの表面を形成するため、したがって本発明のステントの非常に強い吸着阻害効果が達成され得る。
【0093】
実施例2:血管新生の促進
以下の実施例は、ゼラチン系材料の局所的血管新生促進効果を実証することを目的とする。
【0094】
ゼラチン系材料からの膜の製造
3つの異なる架橋度を有するゼラチン膜(膜A、BおよびC)を、2段階の架橋工程を用いて製造した。
【0095】
各々の3つのバッチのために、25gのポークリンドゼラチン(300gブルーム)、9gの85重量%グリセリン溶液、および66gの蒸留水を混合し、そしてゼラチンを60℃の温度で溶解した。当該溶液の超音波脱ガスを行なった後、第一の架橋ステップを行うためにホルムアルデヒド水溶液(2.0重量%、室温)を加え、すなわち3.75gのこの溶液をバッチAへ、そして6.25gの当該溶液をバッチBおよびCのそれぞれに加えた。
【0096】
当該混合物を均質化し、そしてポリエチレン支持体上に約250μmの厚さで、ドクターブレードを用いて60℃で塗布した。
【0097】
30℃、相対的大気湿度30%で約1日乾燥後、当該膜をPE支持体から除去し、さらに同一の条件下約12時間乾燥した。第二の架橋ステップを実行するために、当該乾燥された膜(厚さ約50μm)を、平衡蒸気圧で17重量%のホルムアルデヒド水溶液にデシケーター中室温で曝した。膜AおよびBの場合において、ホルムアルデヒド蒸気への曝露時間は2時間であり、膜Cの場合においては17時間であった。
【0098】
このように製造された成形体のうち、膜Aは全体的に最も低い架橋度を有し、そして膜Cは全体的に最も高い架橋度を有し、膜Bはその中間であった。これは、当該膜の異なる分解挙動に反映され、動物実験(以下参照)において、生理学的条件下における記載された膜の吸収時間は、約14日(膜A)と約21日(膜C)の間であった。
【0099】
動物実験における血管新生促進効果の確認
インビボにおけるゼラチン膜A、BおよびCの血管新生促進効果を、動物実験において調査した。試験動物として、10週齢であって20gの体重を有する、チャールズ・リバー社(Sulzfeld)のBalb/C系統マウスを使用した。
【0100】
基材として、先に記載したゼラチン膜の5×5mm2片を、各々の場合において使用した。各々の場合において、特定の架橋度を有する2片の膜をマウスの頸背部領域において皮下に移植した。この目的のために、当該動物を麻酔し、そして頸背部の毛を剃り落とした。鉗子を使用して首の皮を持ち上げ、そして約1cm切開した。この切開において、鉗子を使用してそれぞれの2片の膜を挿入する皮下の穴を作製するために、先が尖っていない鉗子を使用した。2回の単一ボタン縫合によって傷を塞いだ。
【0101】
12日後、当該動物を殺し、そして当該移植基材の血管新生効果を視覚的に評価した。
【0102】
図7は、陰性対照として、血管新生促進基材の移植が行なわれていないマウス皮下組織の対応する領域を示す。マウスの皮下組織における正常な場合のように、血管の比較的少ない散在のみが観測された。
【0103】
図8a〜8cは、対応するマウスが移植後12日で殺された後における、移植された膜片A、BおよびCの領域における皮下組織の写真を示す。膜自体は写真中で視認が困難であるため、膜片の位置を黒い四角で印をつけた(参照文字A、B、またはCは対応する膜のことである)。図8aで見られるように、実験において幾つかの膜をクマシーブリリアントブルーで染色した。
【0104】
3つ全ての画像により、移植された膜片を囲む領域内において、血管の発生の著しい増加が示された。血管の数量および大きさの両方は、図7における陰性対照よりも著しく大きかった。血管新生が、生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料を用いて局所的に刺激され得ることをこの結果は証明した。
【0105】
架橋ゼラチン系材料のこの局所的血管新生促進効果は、本発明の血管ステントにおいて特に有利な効果をもたらす。ゼラチン含有材料の層は、ステントで処理される血管領域における側枝血管の発生を刺激し、その結果、再狭窄事象において、例えば全ての層の完全な脱着後、心筋梗塞の危険性が著しく減少され得る。
【0106】
実施例3:複数の層のゼラチン系材料の時間依存的分離挙動
架橋ゼラチン系材料における複数の層の時間依存的分離挙動の定性的および定量的決定を行うために、下に記載した試験を行なった。
【0107】
視覚的な評価を容易にするために、ここで使用される担体は、ステントの格子枠ではなく、平らなポリエチレン支持体であり、そしてその上に吸収性材料の2つの層が広い領域において塗布された。同一の組成である吸収性材料は、本発明の範囲内において本発明の血管ステントの担体表面へ塗布されてもよい。
【0108】
試験において吸収性材料の2つの層間における違いを見ることができるように、第一の層を白色顔料(二酸化チタン)で染色し、そして第二の層を食紅(カンデュリン(Candurin)・ワインレッド)で染色した。同一の理由のために、本発明のステントの範囲内において好ましい厚さよりも厚い層が製造された。
【0109】
第一の試験バッチ3−1を、以下の通りに実施した:
【0110】
20gのポークリンドゼラチン(300gブルーム)、8gのグリセリン、1gの二酸化チタンおよび69gの蒸留水を混合し、そして当該ゼラチンを30分間室温で浸した:その後ゼラチンを、当該混合物を60℃へと加熱することによって溶解し、そして当該溶液を均質化し、そして超音波脱気を行なった。
【0111】
当該担体上に吸収性材料の第一の層を形成するために、このゼラチン溶液を、約550μmの厚さで平坦なポリエチレン担体上へドクターブレードによって塗布した。
【0112】
ゼラチンの架橋を行なうために、第一の層を有するポリエチレン担体を、デシケーター中10重量%のホルムアルデヒド水溶液の平衡蒸気圧で室温にて17時間曝した。
【0113】
ホルムアルデヒドの蒸気は、実質的に担体から離れた側からのみ吸収性材料の層中に浸透することができるため、担体方向に減少するゼラチンの架橋度が、この方法によって獲得される。
【0114】
ゼラチン系材料の第一の層をその後、26℃、相対的大気湿度10%で一晩乾燥した。乾燥された層は、約100μmの厚さを有した。
【0115】
架橋された第一の層を有する担体を約4℃に冷却した。分離層を製造するために、ボーソン(Boeson)離型ワックスを層上にスプレーし、そして柔らかい布を用いて均一に広げた。
【0116】
吸収性材料の第二の層のためのゼラチン溶液を、出発物質として20gのゼラチン、4gのグリセリン、73gの蒸留水、および二酸化チタンの代わりに1gのカンデュリン・ワインレッドを使用して、第一の層のための溶液と同様にして製造した。
【0117】
得られるゼラチン溶液を、離型ワックスと共に提供される吸収性材料の第一の層上へ、約550μmの厚さで同様に塗布した。
【0118】
架橋剤への曝露時間が17時間の代わりにたった2時間であったという違いがあるのみで、第二の層は、第一の層に関して記載されたように、ホルムアルデヒド蒸気を用いた架橋を同様に受けた。結果的に第二の層は、第一の層よりも低い平均的架橋度を有し、ここでゼラチンの架橋度は、第二の層中において担体方向に同様に減少した。
【0119】
乾燥は、第一の層に関して記載した方法で達成された。乾燥後、第二の層は約70μmの厚さを有した。
【0120】
生理学的条件下におけるゼラチン系材料の2つの層の時間依存的分離挙動を、PBSバッファー(pH7.2)中、37℃でのインキュベーションによって決定した。これらの生理学的標準条件を用いて、体内における本発明の血管ステントの使用の間に用いられている条件を再現することが可能である。
【0121】
図9は、PBSバッファー中で5、6、7、10、11および12日間インキュベーションした後の、試験バッチ3−1の2つの層を有する担体の写真を示す。
【0122】
上の3枚の写真において見られるように、第二の(外側の)層の吸着の解除、および下部に配置された第一の層からのこの層の分離がインキュベーション5日目〜7日目の間で起こる。元来赤色で染色された第二の層は、暗領域として図9の上の3つの写真で見え、一方で、白色で染色された第一の層は、非常に明るい領域として見られる。5日後、約20%の第二の層が分離され、そして第一の層の個々の白色片が見られる。6日後、約65%の第二の層が分離され、そして当該第二の層は実質的に担体の右下領域にのみ存在する。インキュベーション7日目後、第二の層は最終的に、実質的に完全に分離された。試験バッチの全ての領域において第一の層が見られ、この層は一部既に膨張し、そして水疱が形成されているが、実質的になお損傷を受けていない。
【0123】
図9の下の3枚の写真で見られるように、当該担体からのゼラチン系材料の第一の層の分離は、実質的にインキュベーション10日目〜12日目で起こる。第一の層(白色の領域)の分離の間、ポリエチレン担体は暗い背景として見えるようになる。インキュベーション10日後において約35%、11日後に約80%、12日後に約95%の第一の層が担体から分離された。
【0124】
記載された結果は、架橋性ゼラチン系吸収性材料の複数の層を用いて、個々の層における異なる平均的架橋度によって、下部の層の分離が始まる前に、各々の場合において外側の層が実質的に完全に分離する効果による分離挙動の調節を達成することが可能であることを実証した。この効果によって、本発明の血管ステントの場合において、吸収性材料の複数の層の連続的分離の結果として、ステント表面の繰り返しの再生を達成することが可能である。
【0125】
当該試験はまた、ゼラチン系材料の層間における吸着を解除することによって、少なくとも断面において、下の層から、または担体から層の二次元分離が起こることをさらに実証した。これは、各々の層の内側におけるゼラチンのより低い架橋度によって促進された。
【0126】
第二の試験バッチ3−2を、ゼラチン系材料の2つの層間において分離層(ボーソン離型ワックス)が施されたという違いがあるが、先に記載した試験バッチ3−1と同様にして行なった。このバッチにおいて、第一の層は約80μmの厚さを有し、そして第二の層は約100μmの厚さを有した。
【0127】
試験バッチ3−2においても、2つの層の連続的分離挙動が観測された。しかしこの場合において、約20%の第一の層は、インキュベーション6日目後に分離し、約55%がインキュベーション7日目後に、そしてちょうどインキュベーション10日目後にほぼ100%分離した。
【0128】
バッチ3−2の第二の層は、13日後においてなお実質的に無傷であった。18日後において約20%、そして25日後に約70%の第二の層が分離した。
【0129】
同程度のゼラチンの架橋度である場合に、分離層の使用を通じて下の層からの個々の層の分離が(バッチ3−2と比較してバッチ3−1の第二の層において)加速され得ることをこの結果は特に実証した。バッチ3−2の第一の層のより遅い分離は、当該層がより厚く、そして分離層によって保護されていることに起因され得る。
【0130】
さらなる試験バッチ3−3を、ドクターブレードによる塗布に先立ち、第一および第二の層のためのゼラチン溶液中に2mlの1重量%ホルムアルデヒド水溶液を加えるという違いがあるが、バッチ3−2と同様の方法で行なった。この二段階の架橋化の結果として、このバッチの両方の層は、バッチ3−1および3−2と比較してより高い平均的架橋度を有する。これは再度、このバッチの第一の層のより遅い分離時間をもたらし、そして約5%未満の当該層のみが、インキュベーション25日目後に担体から分離した。32日後にようやく完全な分離が起こった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管ステント、特に冠状動脈ステントであって、寸法安定性を有する材料の担体、および生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料の、前記担体上において少なくとも断面に配置される一つ以上の層を含み、前記担体と前記層との間の、および/または個々の層間の吸着が解除され得る前記ステント。
【請求項2】
前記吸収性材料の一つ以上の層が個別に脱着可能である、請求項1に記載の血管ステント。
【請求項3】
生理学的条件下で可溶性である材料の吸着層が、前記吸収性材料の個々の層間に配置される、請求項1または2に記載の血管ステント。
【請求項4】
前記吸着が前記ゼラチンの架橋度に従って解除され得る、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項5】
前記ゼラチンの架橋度が一つ以上の層の内部で前記担体方向に減少する、請求項4に記載の血管ステント。
【請求項6】
前記担体が金属および/またはプラスチック材料から形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項7】
少なくとも一つの前記層が前記担体表面の約75%以上を覆う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項8】
少なくとも一つの前記層が前記担体表面の約90%以上を覆う、請求項7に記載の血管ステント。
【請求項9】
少なくとも一つの前記層が前記担体の全表面を実質的に覆う、請求項8に記載の血管ステント。
【請求項10】
前記ゼラチン系材料が血管新生促進効果を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項11】
前記吸収性材料が主に架橋ゼラチンで形成される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項12】
前記ゼラチンが、約160〜約320gの範囲内のブルーム(Bloom)値を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項13】
前記ゼラチンが、LAL試験に従って決定される約1,200I.U./g以下の、特に約200I.U./g以下の内毒素含有量を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項14】
前記ゼラチンがホルムアルデヒドを使用して架橋される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項15】
前記ゼラチンがトランスグルタミナーゼを使用して架橋される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項16】
前記吸収性材料が一つ以上の柔軟剤を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項17】
前記吸収性材料の複数の層を含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項18】
前記吸収性材料の2〜5つの層を含む、請求項17に記載の血管ステント。
【請求項19】
前記ゼラチンの架橋度が各々の層の内部で前記担体方向に減少する、請求項17または18に記載の血管ステント。
【請求項20】
前記吸収性材料の個々の層が外側から連続的に脱着可能である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項21】
前記個々の層におけるゼラチンの平均的架橋度が、前記担体に隣接する層方向に増加する、請求項17〜20のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項22】
前記層の厚さが約5〜約50μmである、請求項1〜21のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項23】
一つ以上の分離層が、前記吸収性材料の複数の層間、および/または前記層(単数または複数)の外側に配置される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項24】
少なくとも一つの前記分離層が、前記ゼラチン系材料の層(単数または複数)よりも長い吸収時間を有する、請求項23に記載の血管ステント。
【請求項25】
少なくとも一つの前記分離層が修飾ゼラチンを含む、請求項23または24に記載の血管ステント。
【請求項26】
一つ以上の層が修飾ゼラチンを含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項27】
前記修飾ゼラチンが脂肪酸基で修飾されたゼラチンである、請求項25または26に記載の血管ステント。
【請求項28】
前記修飾ゼラチンのリシン基の約10%〜約80%が脂肪酸基で修飾される、請求項27に記載の血管ステント。
【請求項1】
血管ステント、特に冠状動脈ステントであって、寸法安定性を有する材料の担体、および生理学的条件下において吸収性である架橋ゼラチン系材料の、前記担体上において少なくとも断面に配置される一つ以上の層を含み、前記担体と前記層との間の、および/または個々の層間の吸着が解除され得る前記ステント。
【請求項2】
前記吸収性材料の一つ以上の層が個別に脱着可能である、請求項1に記載の血管ステント。
【請求項3】
生理学的条件下で可溶性である材料の吸着層が、前記吸収性材料の個々の層間に配置される、請求項1または2に記載の血管ステント。
【請求項4】
前記吸着が前記ゼラチンの架橋度に従って解除され得る、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項5】
前記ゼラチンの架橋度が一つ以上の層の内部で前記担体方向に減少する、請求項4に記載の血管ステント。
【請求項6】
前記担体が金属および/またはプラスチック材料から形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項7】
少なくとも一つの前記層が前記担体表面の約75%以上を覆う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項8】
少なくとも一つの前記層が前記担体表面の約90%以上を覆う、請求項7に記載の血管ステント。
【請求項9】
少なくとも一つの前記層が前記担体の全表面を実質的に覆う、請求項8に記載の血管ステント。
【請求項10】
前記ゼラチン系材料が血管新生促進効果を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項11】
前記吸収性材料が主に架橋ゼラチンで形成される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項12】
前記ゼラチンが、約160〜約320gの範囲内のブルーム(Bloom)値を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項13】
前記ゼラチンが、LAL試験に従って決定される約1,200I.U./g以下の、特に約200I.U./g以下の内毒素含有量を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項14】
前記ゼラチンがホルムアルデヒドを使用して架橋される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項15】
前記ゼラチンがトランスグルタミナーゼを使用して架橋される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項16】
前記吸収性材料が一つ以上の柔軟剤を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項17】
前記吸収性材料の複数の層を含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項18】
前記吸収性材料の2〜5つの層を含む、請求項17に記載の血管ステント。
【請求項19】
前記ゼラチンの架橋度が各々の層の内部で前記担体方向に減少する、請求項17または18に記載の血管ステント。
【請求項20】
前記吸収性材料の個々の層が外側から連続的に脱着可能である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項21】
前記個々の層におけるゼラチンの平均的架橋度が、前記担体に隣接する層方向に増加する、請求項17〜20のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項22】
前記層の厚さが約5〜約50μmである、請求項1〜21のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項23】
一つ以上の分離層が、前記吸収性材料の複数の層間、および/または前記層(単数または複数)の外側に配置される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項24】
少なくとも一つの前記分離層が、前記ゼラチン系材料の層(単数または複数)よりも長い吸収時間を有する、請求項23に記載の血管ステント。
【請求項25】
少なくとも一つの前記分離層が修飾ゼラチンを含む、請求項23または24に記載の血管ステント。
【請求項26】
一つ以上の層が修飾ゼラチンを含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載の血管ステント。
【請求項27】
前記修飾ゼラチンが脂肪酸基で修飾されたゼラチンである、請求項25または26に記載の血管ステント。
【請求項28】
前記修飾ゼラチンのリシン基の約10%〜約80%が脂肪酸基で修飾される、請求項27に記載の血管ステント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9】
【公表番号】特表2010−526610(P2010−526610A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507842(P2010−507842)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003894
【国際公開番号】WO2008/138611
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(502084056)ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003894
【国際公開番号】WO2008/138611
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(502084056)ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】
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