説明

血管内用処置材

【課題】血管からの流出が抑制され、特殊なカテーテルが不要であり、かつ血管内で塞栓を任意に解除しうる血管内用処置材を提供する。
【解決手段】pH7以上の条件下で水膨潤し、かつ水膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであるpH応答性水膨潤性高分子微粒子を含む、血管内用処置材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内用処置材に関し、さらに詳細には、血管からの流出が抑制され、特殊なカテーテルが不要であり、かつ血管内で塞栓を任意に解除しうる血管内用処置材に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤、血管奇形、肝癌、子宮筋腫などの血管内治療法として血管塞栓術が行われている。血管塞栓術は、血管内に血管塞栓材を投与し、血管内腔を塞栓材で充填閉塞することによって、動脈瘤、血管奇形の破裂による出血性疾患(代表的な疾患としては脳梗塞)を予防的に処置したり、あるいは癌、筋腫への栄養血管を塞栓材で充填、閉塞することによって、癌、筋腫を虚血壊死させる治療方法である。血管塞栓材としては、金属コイル、絹糸、樹脂製の粒子、ゼラチンスポンジなどが使用されてきた。これらの塞栓材を使用した場合、血管内において、塞栓材と塞栓材の空隙を血栓が埋める形態で塞栓が達成される。そのため、血栓が血液線溶系の働きによって溶解し、塞栓血管が再開通してしまい、思ったとおりの治療効果が得られないことがあった。それらの欠点を改良した材料として、液状の塞栓材が開発されてきている。血液中の水分との接触によって重合が開始してポリマー化し、固体として析出することにより血管を塞栓するシアノアクリレートを含む処置材(例えば、非特許文献1参照)や、あらかじめ血液に不溶のポリマーを有機溶剤に溶かした液体を血管内に注入し、有機溶剤が血液中に拡散することでポリマーが固体として析出することによって血管内を塞栓するポリビニルアルコール(例えば、非特許文献2参照)がそれに該当する。いずれの材料を用いても、血管内腔を塞栓材のみで閉塞することが可能である。
【0003】
また、特許文献1には、乾燥時の直径が100〜900μmであるpH感受性水膨潤性高分子微粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−528880号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.V.Jayaraman,et al.,“Treatment of Traumatic Cervical Arteriovenous Fistulas with N−butyl−2−Cyanoacrylate” AJNR Am J Neuroradiol 28:352−54,February,2007
【非特許文献2】W.Weber,et al.,“Endovascular Treatment of Intracranial Arteriovenous Malformations with Onyx:Technical Aspects” AJNR Am J Neuroradiol 28:371−77,February,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載のシアノアクリレートを用いた場合、血管壁と、血管内へ処置材を投与するマイクロカテーテルとを接着させてしまうという問題があった。また、非特許文献2に記載のポリビニルアルコールを用いた場合、固体析出が有機溶剤の拡散速度に依存し、塞栓する血管の血流環境によって析出速度が異なるため、標的血管を塞栓するためにポリビニルアルコールの注入速度を微調整する必要があり、注入操作が面倒になるという問題があった。さらに、媒体としてジメチルスルホキシドを用いているため、特殊なカテーテルを用いる必要があった。
【0007】
加えて、シアノアクリレートおよびポリビニルアルコールは、いずれも血管内で固体になってしまうと、液体状に戻すことができず、塞栓を解除することができなかった。
【0008】
さらに、特許文献1に記載の高分子微粒子を用いた塞栓材では、水膨潤後の微粒子同士の接触面積が小さく摩擦も小さいため、完全に固形化されず塞栓した部位から流動してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、血管からの流出が抑制され、特殊なカテーテルが不要であり、かつ血管内で塞栓を任意に解除しうる血管内用処置材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、pH7以上、特に血液のようなpH7.3〜7.6の弱アルカリ条件下にて水膨潤し、かつその水膨潤後の平均粒子径を特定の範囲としたpH応答性水膨潤性高分子微粒子を用いた血管内用処置材が、血管からの流出が抑制され、特殊なカテーテルを用いずに塞栓可能であり、かつpH条件を変化させることにより血管内で塞栓を任意に解除しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、pH7以上の条件下で水膨潤し、かつ水膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであるpH応答性水膨潤性高分子微粒子を含む、血管内用処置材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血管内用処置材は、血管内を隙間無く充填出来る塞栓材としての効果に優れる。また、本発明の血管内用処置材は、カテーテルなどの医療用具と血管壁とを接着させない水を媒体とすることが可能であるため、特殊なカテーテルが不要である。さらに、水膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであることから、静脈からの流出による合併症発症のリスクが低い。さらに、本発明のpH応答性水膨潤性高分子微粒子は、特定のpH条件下で膨潤し固形状となるが、酸性水溶液を添加することによって、血管内で固形状の状態から流動性を有する液状に形態を変化させることが可能であることから、塞栓を任意に解除することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、pH7以上の条件下で水膨潤し、かつ水膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであるpH応答性水膨潤性高分子微粒子を含む、血管内用処置材である。
【0014】
前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子は、血液のようなpH7.3〜7.6の弱アルカリ性条件下で即時に水膨潤して、粒子同士の接触面積が大きくなって摩擦が大きくなり、流動性をほとんど有さない形態になる。したがって、血管内を隙間無く充填出来る塞栓材としての効果を発揮しうる。また、本発明の血管内用処置材は、カテーテルと血管壁とを接着させない水を媒体とすることが可能であるため、特殊なカテーテルが不要であり、さらに膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであることから、例えば、静脈からの流出による合併症発症のリスクを低下させうる。また、前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子は、酸性水溶液を添加することによって血管内で固形状の状態から流動性がある液状に形態が変化しうるため、塞栓を任意に解除することも可能となる。
【0015】
以下、本発明の血管内用処置剤の構成について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されるものではない。
【0016】
(構成)
[pH応答性水膨潤性高分子微粒子]
本発明の血管内用処置材は、pH7以上の条件下で膨潤し、かつ水膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであるpH応答性水膨潤性高分子微粒子を含む。
【0017】
前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子は、特に限定されないが、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位および不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位を含む共重合体を、架橋剤(a3)により架橋したpH応答性水膨潤性架橋高分子(A)から形成される微粒子であることが好ましい。以下、このpH応答性水膨潤性架橋高分子(A)に用いられる単量体成分について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0018】
<(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)>
pH応答性水膨潤性架橋高分子(A)の単量体成分である(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)は、特に制限されない。具体的な例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−s−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド 、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これら(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド等の記載は、アクリル酸およびメタクリル酸またはこれらの各誘導体を意味する。
【0019】
なかでも、整形外科領域等で使用実績があり、生体内において安全性が高い(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0020】
<不飽和カルボン酸(a2)>
前記pH応答性水膨潤性架橋高分子(A)の単量体成分である不飽和カルボン酸(a2)は、特に制限されず、具体的な例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、イタコン酸、クロトン酸、ソルビン酸などが挙げられる。また、前記不飽和カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩も、pH応答性水膨潤性架橋高分子(A)の製造の際に用いることができる。不飽和カルボン酸の塩を共重合に用いた場合は、後述する酸処理を行うことにより、不飽和カルボン酸(a2)の構成単位がpH応答性水膨潤性架橋高分子(A)に導入されうる。これら不飽和カルボン酸(a2)(またはその塩)は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0021】
なかでも、pH7以上の中性からアルカリ性領域において膨張性を示すという観点から、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0022】
<架橋剤(a3)>
前記pH応答性水膨潤性架橋高分子(A)に用いられる架橋剤(a3)としては、特に制限されず、例えば、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)、重合性不飽和基と重合性不飽和基以外の反応性官能基とをそれぞれ1つずつ有する架橋剤(ロ)、重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)などが挙げられる。これら架橋剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記架橋剤(イ)のみを用いる場合は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)と不飽和カルボン酸(a2)(またはその塩)との共重合を行う際に、重合系内に架橋剤(イ)を添加して共重合させればよい。前記架橋剤(ハ)のみを用いる場合は、(a1)と(a2)との共重合を行ったあとに架橋剤(ハ)を添加して、例えば加熱による後架橋を行えばよい。前記架橋剤(ロ)のみを用いる場合ならびに前記架橋剤(イ)、(ロ)、および(ハ)の2種以上を用いる場合は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)と不飽和カルボン酸(a2)との共重合を行う際に重合系内に架橋剤を添加して共重合させ、さらに、例えば加熱による後架橋を行えばよい。
【0024】
重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)の具体例としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスメタクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、N,N’−ベンジリデンビスアクリルアミド、N,N’−ビス(アクリルアミドメチレン)尿素、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ又はトリ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルアミン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0025】
重合性不飽和基と重合性不飽和基以外の反応性官能基とをそれぞれ1つずつ有する架橋剤(ロ)の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)の具体例としては、例えば、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン等)、アルカノールアミン(例えば、ジエタノールアミン等)、およびポリアミン(例えば、ポリエチレンイミン等)等が挙げられる。
【0027】
これらのうち、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)が好ましく、N,N’−メチレンビスアクリルアミドがより好ましい。
【0028】
前記pH応答性水膨潤性架橋高分子(A)の製造方法は、特に制限されないが、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)、不飽和カルボン酸(a2)(またはその塩)、および必要に応じて架橋剤(a3)を共重合させ、さらに必要に応じて後架橋を行うことにより製造することが好ましい。
【0029】
共重合の方法は、特に制限されず、例えば、重合開始剤を使用する溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、逆相懸濁重合法、薄膜重合法、噴霧重合法など従来公知の方法を用いることができる。重合制御の方法としては、断熱重合法、温度制御重合法、等温重合法などが挙げられる。また、重合開始剤により重合を開始させる方法の他に、放射線、電子線、紫外線等を照射して重合を開始させる方法を採用することもできる。好ましくは、重合開始剤を使用した逆相懸濁重合法である。
【0030】
前記逆相懸濁重合を行なう場合の連続相の溶媒としては、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、流動パラフィン等の脂肪族系有機溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系有機溶媒等の有機溶媒が使用できるが、ヘキサン、シクロヘキサン、流動パラフィン等の脂肪族系有機溶媒がより好ましい。なお、前記溶媒は、単独でもまたは2種以上を混合して用いることもできる。
【0031】
前記連続相には、分散安定剤を添加することができる。この分散安定剤の種類や使用量を適宜選択することにより、得られるpH応答性水膨潤性高分子微粒子の粒径を制御することができる。
【0032】
前記分散安定剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、ステアリン酸グリセリル、カプリル酸グリセリル、ステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ヤシ脂肪酸ソルビタンなどの非イオン系界面活性剤が好適に用いられる。
【0033】
前記分散安定剤は、連続相の溶媒に対して、好ましくは0.04〜20質量%の範囲、より好ましくは1〜12質量%の範囲で用いられる。前記分散安定剤の使用量が0.04質量%未満であると、重合時に得られる重合体が凝集する場合がある。一方、20質量%を超えると、得られた微粒子の粒径のばらつきが大きくなる場合がある。
【0034】
前記逆相懸濁重合法における単量体成分の濃度は、従来公知の範囲であれば特に限定されず、例えば、2〜7質量%が好ましく、3〜5質量%がより好ましい。
【0035】
前記逆相懸濁重合法で用いられる重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、過酸化水素等の過酸化物、2,2’−アゾビス〔2−(N−フェニルアミジノ)プロパン〕2塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(N−アリルアミジノ)プロパン〕2塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}2塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、入手が容易で取り扱いが容易であるという観点から、過硫酸塩が好ましく、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム及び過硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0036】
なお、上記重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄、L−アスコルビン酸、N、N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の還元剤と併用して、レドックス重合開始剤として用いることもできる。
【0037】
重合開始剤の使用量は、単量体の総量100質量部に対して、2〜6質量部が好ましく、3〜5質量部がより好ましい。前記重合開始剤の使用量が2質量部未満の場合、重合反応自体が進行しない可能性がある。一方、6質量部を超えると、得られる重合体の分子量が小さく、また粘性が大きくなるため重合体が凝集する場合がある。
【0038】
必要に応じて、共重合の際に連鎖移動剤を使用してもよい。前記連鎖移動剤の例としては、例えば、チオール類(n−ラウリルメルカプタン、メルカプトエタノール、トリエチレングリコールジメルカプタン等)、チオール酸類(チオグリコール酸、チオリンゴ酸等)、2級アルコール類(イソプロパノ−ル等)、アミン類(ジブチルアミン等)、次亜燐酸塩類(次亜燐酸ナトリウム等)等を挙げることができる。
【0039】
前記逆相懸濁重合法における重合条件は特に制限されず、例えば、重合温度は使用する触媒の種類によって適宜設定することができるが、好ましくは35〜75℃、より好ましくは40〜50℃である。重合温度が35℃未満の場合には、重合反応自体が進行しない可能性がある。一方、重合温度が70℃を超える場合には、分散媒が揮発して単量体成分の分散状態が悪くなる場合がある。重合時間は、好ましくは2時間以上である。
【0040】
重合系内の圧力は、特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよい。また、反応系内の雰囲気も、空気雰囲気であってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下であってもよい。
【0041】
架橋剤(a3)として、上記の重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)を用いる場合、架橋剤(ハ)を添加する時期は単量体の重合反応終了後であればよく、特に限定されない。
【0042】
後架橋反応を行う際の反応温度は、使用する架橋剤(a3)の種類等によっても異なるため、一概には決定できないが、通常50〜150℃である。また、反応時間は、通常1〜48時間である。
【0043】
また、共重合を行う際、単量体溶液中に造孔剤を過飽和懸濁させることによって多孔質とすることもできる。この際、単量体溶液には不溶であるが洗浄溶液には可溶である造孔剤を用いることが好ましい。造孔剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、氷、スクロース、または炭酸水素ナトリウムなどが好ましく挙げられ、より好ましくは塩化ナトリウムである。造孔剤の好ましい濃度は、単量体溶液中、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%の範囲である。
【0044】
共重合の際に不飽和カルボン酸(a2)の塩を用いた場合、共重合後に酸処理を行い、pH応答性水膨潤性架橋高分子(A)のカルボン酸塩の部分をカルボキシル基に変換しておくことが好ましい。酸処理の条件は特に限定されず、例えば、塩酸水溶液などの低pH水溶液中で、好ましくは15〜60℃の温度範囲で、好ましくは1〜24時間処理すればよい。
【0045】
このようにして得られるpH応答性水膨潤性架橋高分子(A)は、必要に応じて、加熱乾燥、解砕等を行うことにより、本発明で用いられるpH応答性水膨潤性高分子微粒子となる。本発明で用いられるpH応答性水膨潤性高分子微粒子の形状は、球状、破砕状、不定形状等特に限定されるものではないが、球状であることが好ましい。
【0046】
前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子の水膨潤後の平均粒子径は、50〜100μmであり、好ましくは50〜80μmであり、より好ましくは50〜60μmである。前記膨潤後の平均粒子径が50μm未満であると、pH応答性水膨潤性高分子微粒子が動脈と静脈との吻合部を通過して静脈へ流出することにより、健常な臓器への栄養血管を塞栓してしまう可能性が高くなる。一方、100μmを超えると、pH膨潤性水膨潤性高分子微粒子同士の接触面積が小さくなり摩擦も小さくなるため、完全に固形化せず流動してしまう。
【0047】
上記のような範囲の水膨潤後の平均粒子径とするためには、前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子の水膨潤前(乾燥時)の平均粒子径を、好ましくは20〜50μm、より好ましくは20〜40μm、さらに好ましくは20〜30μmの範囲に制御すればよい。
【0048】
上記のpH応答性水膨潤性高分子微粒子の形状および平均粒子径は、pH応答性水膨潤性高分子微粒子の製造条件(単量体の種類、共重合時の温度・時間、分散安定剤の量・種類等)により制御されうる。なお、本発明において、水膨潤前(乾燥時)のpH応答性水膨潤性高分子微粒子の平均粒子径は、コールターカウンターにより測定した値を採用するものとする。また、水膨潤後のpH応答性水膨潤性高分子微粒子の平均粒子径は、CCDカメラで撮影した該微粒子を100個選択して、それぞれの粒子径を測定したときの平均値を採用するものとする。
【0049】
本発明の血管内用処置材は、上記のようにして得られるpH応答性水膨潤性高分子微粒子を粉末状でそのまま用いることができるが、取り扱いの容易さ、カテーテルなどの医療用具と血管壁との接着を防ぐなどの観点から、pH5〜6の蒸留水を用いて水性分散液の形態とすることが好ましい。
【0050】
この際、該水性分散液中のpH応答性水膨潤性高分子微粒子の濃度は、3質量%以上であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。該濃度が3質量%未満である場合、pH応答性水膨潤性高分子微粒子が水膨潤しても粒子間の摩擦が小さく、流動性の低下が得られないことがある。
【0051】
かような構成を有する本発明の血管内用処置材に含まれるpH応答性水膨潤性高分子微粒子は、pH7以上、好ましくは血液のようなpH7.3〜7.6の弱アルカリ性の条件下で水膨潤する。pHが7以上であれば、本発明の血管内用処置材は、流動性がほとんどない固形状の状態となる。一方、pHが7未満の場合、前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子は水膨潤せず、本発明の血管内用処置材は流動性を有する。そして、水膨潤した前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子をpHが4未満の酸性水溶液に接触させた場合、前記pH応答性水膨潤性高分子微粒子は収縮する。したがって、この特性を利用し、例えばカテーテル等を用いて該酸性水溶液を血管内に注入して、塞栓を形成するpH応答性水膨潤性高分子微粒子に接触させることにより、本発明の血管内用処置材に再度流動性を付与させて、塞栓を任意に解除することができる。
【実施例】
【0052】
本発明の効果を、下記の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が、下記の実施例のみに制限されるわけではない。なお、水膨潤前(乾燥時)のpH応答性水膨潤性高分子微粒子の平均粒子径は、コールターカウンターにより測定した。また、水膨潤後のpH応答性水膨潤性高分子微粒子の平均粒子径は、CCDカメラで撮影した該微粒子を100個選択して、それぞれの粒子径を測定したときの平均値である。
【0053】
(製造例1:水膨潤前の平均粒子径が20μmのpH応答性水膨潤性高分子微粒子の製造)
300mLのビーカーにシクロヘキサン150g、流動パラフィン150g、セスキオレイン酸ソルビタン15.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌し、逆相懸濁重合の連続相を調製した。窒素気流を30分間通じて溶存酸素の除去を行った。一方、50mL容量の褐色ガラス瓶にアクリルアミド3.8g、アクリル酸ナトリウム2.2g、N,Nメチレンビスアクリルアミド0.013g、塩化ナトリウム5.4gを秤量し、蒸留水19.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌、溶解しモノマー水溶液を調製した。過硫酸アンモニウム0.27gを2.0gの蒸留水に溶解したものを前記モノマー水溶液に添加した後、前記連続相溶媒に、全量加えた。300rpmの回転数で攪拌し、モノマー溶液を連続相溶媒中に分散させた。30分間攪拌した後、40℃まで昇温し、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン 100μLを添加した。更に攪拌を1時間継続した後、ビーカー内容物を3Lのビーカーに移した。n−ヘキサン1Lを加え、5分間攪拌した後、デカンテーションして上澄みを除去した。沈殿物を500mLのノルマルヘキサンで2回洗浄した。蒸留水を1L加え沈殿物を溶解した後、エタノール2Lを加え、重合物を析出させた。デカンテーションして沈澱した重合物のみを回収、エタノール中で攪拌、解砕した。解砕物に2.5規定の塩酸を添加し、55℃のオーブンに24時間静置した。酸処理後の解砕物を蒸留水中に移し、蒸留水のpH変化がなくなるまで蒸留水を交換した。洗浄後の解砕物にエタノールを添加し、脱水後、ステンレス製篩で分球し、平均粒子径が20μmである微粒子を得た。
【0054】
(製造例2:水膨潤前の平均粒子径が34μmのpH応答性水膨潤性高分子微粒子の製造)
300mLのビーカーにシクロヘキサン150g、流動パラフィン150g、セスキオレイン酸ソルビタン15.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌し、逆相懸濁重合の連続相を調製した。窒素気流を30分間通じて溶存酸素の除去を行った。一方、50mL容量の褐色ガラス瓶にアクリルアミド3.8g、アクリル酸ナトリウム2.2g、N,Nメチレンビスアクリルアミド0.013g、塩化ナトリウム5.4gを秤量し、蒸留水19.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌、溶解し、モノマー水溶液を調製した。過硫酸アンモニウム0.27gを2.0gの蒸留水に溶解したものを前記モノマー水溶液に添加した後、前記連続相溶媒に全量加えた。300rpmの回転数で攪拌し、モノマー溶液を連続相溶媒中に分散させた。30分間攪拌した後、40℃まで昇温、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン 100μLを添加した。更に攪拌を1時間継続した後、ビーカー内容物を3Lのビーカーに移した。n−ヘキサン1Lを加え、5分間攪拌した後、デカンテーションして上澄みを除去した。沈殿物を500mLのノルマルヘキサンで2回洗浄した。蒸留水を1L加え沈殿物を溶解した後、エタノール2Lを加え、重合物を析出させた。デカンテーションして沈澱した重合物のみを回収、エタノール中で攪拌、解砕した。解砕物に2.5規定の塩酸を添加し、55℃のオーブンに24時間静置した。酸処理後の解砕物を蒸留水中に移し、蒸留水のpH変化がなくなるまで蒸留水を交換した。洗浄後の解砕物にエタノールを添加し、脱水後、ステンレス製篩で分球し、平均粒子径34μmの微粒子を得た。
【0055】
(製造例3:水膨潤前の平均粒子径が150μmのpH応答性水膨潤性高分子微粒子の製造)
300mLのビーカーにシクロヘキサン150g、流動パラフィン150g、セスキオレイン酸ソルビタン2.0gを添加、マグネチックスターラーで攪拌し、逆相懸濁重合の連続相を調製した。窒素気流を30分間通じて溶存酸素の除去を行った。一方、50mL容量の褐色ガラス瓶にアクリルアミド3.8g、アクリル酸ナトリウム2.2g、N,Nメチレンビスアクリルアミド0.013g、塩化ナトリウム5.4gを秤量し、蒸留水19.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌、溶解しモノマー水溶液を調製した。過硫酸アンモニウム0.27gを2.0gの蒸留水に溶解したものを前記モノマー水溶液に添加した後、前記連続相溶媒に、全量加えた。300rpmの回転数で攪拌し、モノマー溶液を連続相溶媒中に分散させた。30分間攪拌した後、40℃まで昇温、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン 100μLを添加した。更に攪拌を1時間継続した後、ビーカー内容物を3Lのビーカーに移した。ノルマルヘキサン1Lを加え、5分間攪拌した後、デカンテーションして上澄みを除去した。沈殿物を500mLのn−ヘキサンで2回洗浄した。蒸留水を1L加え沈殿物を溶解した後、エタノール2Lを加え、重合物を析出させた。デカンテーションして沈澱した重合物のみを回収、エタノール中で攪拌、解砕した。解砕物に2.5規定の塩酸を添加し、55℃のオーブンに24時間静置した。酸処理後の解砕物を蒸留水中に移し、蒸留水のpH変化がなくなるまで蒸留水を交換した。洗浄後の解砕物にエタノールを添加し、脱水後、ステンレス製篩で分球し、平均粒子径150μmの微粒子を得た。
【0056】
(実施例1)
製造例1で作製した平均粒子径20μmの微粒子0.03gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が3質量%である微粒子分散液を得た。
【0057】
(実施例2)
製造例1で作製した平均粒子径20μmの微粒子0.05gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が5質量%である微粒子分散液を得た。
【0058】
(実施例3)
製造例1で作製した平均粒子径20μmの微粒子0.07gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が7質量%である微粒子分散液を得た。
【0059】
(実施例4)
製造例2で作製した平均粒子径34μmの微粒子0.03gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が3質量%である微粒子分散液を得た。
【0060】
(実施例5)
製造例2で作製した平均粒子径34μmの微粒子0.05gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が5質量%である微粒子分散液を得た。
【0061】
(実施例6)
製造例2で作製した平均粒子径34μmの微粒子0.07gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が7質量%である微粒子分散液を得た。
【0062】
(比較例1)
製造例3で作製した平均粒子径150μmの微粒子0.02gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が2質量%である微粒子分散液を得た。
【0063】
(比較例2)
製造例3で作製した平均粒子径150μmの微粒子0.03gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が3質量%である微粒子分散液を得た。
【0064】
(比較例3)
製造例3で作製した平均粒子径150μmの微粒子0.05gをガラス製試験管(ラルボ清浄試験管)に秤量し、pH5.5の注射用蒸留水を加え1.00gとし、濃度が5質量%である微粒子分散液を得た
(評価)
実施例1〜6および比較例1〜3で得られた微粒子分散液に、1M 炭酸水素ナトリウムを0.1mL添加し、分散液のpHを7.3〜7.6にしたときの微粒子分散液の流動性を試験し、さらに膨潤後の微粒子の平均粒子径を測定した。なお、流動性試験は、試験管を逆さまにしたときに内容物の落下がない場合「固形化」とし、落下した場合「固形化していない」とした。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、水膨潤後の平均粒子径が本発明の範囲である実施例1〜6の血管内用処置材は、水膨潤後固形状になり内容物が落下しなかった。一方、水膨潤後の平均粒子径が本発明の範囲外である比較例1〜3の血管内用処置材は、水膨潤後でも固形状にならず内容物が落下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7以上の条件下で水膨潤し、かつ水膨潤後の平均粒子径が50〜100μmであるpH応答性水膨潤性高分子微粒子を含む、血管内用処置材。
【請求項2】
前記pH応答性水膨張性高分子微粒子が、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位および不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位を含む共重合体を、架橋剤(a3)により架橋したpH応答性水膨潤性架橋高分子(A)から形成される微粒子である、請求項1に記載の血管内用処置材。
【請求項3】
水性分散液の形態である、請求項1または2に記載の血管内用処置材。
【請求項4】
前記水性分散液中の前記pH応答性水膨張性高分子微粒子の濃度が3質量%以上である、請求項3に記載の血管内用処置材。

【公開番号】特開2012−100680(P2012−100680A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51009(P2009−51009)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】