説明

血管内皮増殖因子受容体1に由来するエピトープ・ペプチドおよびこれらのペプチドを含むワクチン

本発明は、配列番号:1、2、13、32のアミノ酸配列を含む免疫原性ペプチド、ならびに1個、2個、または数個のアミノ酸が置換もしくは付加された前記アミノ酸配列を含み、かつ細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチドを提供し、これらのペプチドを含む腫瘍の処置または予防のための薬物も提供する。本発明のペプチドは、ワクチンとして使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌ワクチンとして非常に有効なペプチド、ならびにこれらのペプチドを含む腫瘍の処置および予防のための薬物に関する。
【0002】
本願は、2005年2月28日出願の米国仮出願第60/657,527号に基づく優先権を主張し、前記出願の内容は、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
腫瘍増殖は一般に、血管が新生される血液供給がない場合は1〜2mm3に制限されており、血管形成は、腫瘍の浸潤、増殖、および転移において重大な役割を有している(Folkman,J.(2002)Semin.Oncol.29:15-8(非特許文献1), Folkman,J.(1996)Nat.Med.2:167-8(非特許文献2), Kerbel and Folkma,(2002).Nature Rev.Cancer.2:727-39(非特許文献3), Brown et al.,(1995)Hum.Pathol.26:86-91(非特許文献4), Eberhard et al.,(2000)Cancer Res.60:1388-93(非特許文献5))。腫瘍血管形成の阻害が、腫瘍進行の抑制に関連していることも示されている。血管形成の抑制を達成するため、多数の研究者が、血管形成の過程の調節において重大な役割を果たしている血管内皮増殖因子(VEGF)およびVEGF受容体(VEGFR)を標的とした治療戦略を調査してきた。これらの研究は、モノクローナル抗体、組換え受容体、またはシグナル伝達の阻害剤を使用して、インビトロまたはインビボで、腫瘍増殖が成功裡に抑制され得ることを示した(El-Mousawi et al.,(2003)J.Biol.Chem.278:46681-91(非特許文献6), Stefanik et al.,(2001)J.Neurooncol.55:91-100(非特許文献7), Wood et al.,(2000)Cancer Res.60:2178-89(非特許文献8), Luttun et al.,(2002)Nat.Med.8:831-40(非特許文献9), Lyden et al.,(2001)Nat.Med.7:1194-201(非特許文献10), Lu et al.,(2001)Cancer Res.61:7002-8(非特許文献11))。しかしながら、これらの戦略は、比較的高い用量レベルで高頻度にまたは連続的に試薬を投与することを必要とし、これは、かなりの不便さおよび有害作用に関連し得る。
【0004】
VEGFは、腫瘍組織内の内皮細胞に強発現するが、正常組織においてはそうではない2つの関連するチロシンキナーゼ受容体である、VEGFR1(Flt-1)およびVEGFR2(KDR)に結合する(Risau,W.(1997)Nature.386:671-4(非特許文献12), Ferrara and Davis-Smyth,(1997)Endor.Rev.18:4-25(非特許文献13), Shibuya et al.,(1999)Curr.Topics.Microbiol.Immunol.237:59-83(非特許文献14), Plate et al.,(1994)Int.J.Cancer.59:520-9(非特許文献15))。VEGFR1は、最初に同定されたVEGF受容体であり(Shibuya et al.,(1990)Oncogene 5:519-24(非特許文献16))、VEGF(VEGF-A)、ならびにVEGFファミリーの他の2つのメンバーである、VEGF-B(Olofsson et al.,(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:2576-81(非特許文献17))および胎盤増殖因子(PlGF)(Maglione et al.,1991.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9267-71(非特許文献18))と相互作用する。PlGFは、VEGFR1からVEGFを移動させることにより、より多くのVEGFがVEGFR2に結合してVEGFR2を活性化できるようにし、それによりVEGFにより駆動される血管形成を増強すると予想されている(Park et al.,(1994)J.Biol.Chem.269:25646-54(非特許文献19))。その他の研究は、PlGF-/-マウスにおける腫瘍形成障害および血管漏出により証明されるように、特に病理学的状況においては、インビボのVEGFとPlGFとの間に相乗作用が存在することを示している(Carmeliet et al.,(2001)Nat.Med.7:575-83(非特許文献20))。
【0005】
最近の報告は、マウス腫瘍モデルにおいて、マウスVEGFR2のcDNAまたは組換えタンパク質を使用したワクチン接種が、有意な抗腫瘍効果に関連していることを示している(Li et al.,(2002)J.Exp.Med.195:1575-84(非特許文献21), Niethammer et al.,(2002)Nat.Med.8:1369-75(非特許文献22))。しかし、これらの報告では、ヒトのカウンターパートとは有意に異なると考えられるマウス系において、ヒトVEGFR2のマウスホモログが使用されたため、これらの結果はこの戦略の臨床適用を直接保証することはできない。
【0006】
【非特許文献1】Folkman,J.(2002)Semin.Oncol.29:15-8
【非特許文献2】Folkman,J.(1996)Nat.Med.2:167-8
【非特許文献3】Kerbel and Folkma,(2002).Nature Rev.Cancer.2:727-39
【非特許文献4】Brown et al.,(1995)Hum.Pathol.26:86-91
【非特許文献5】Eberhard et al.,(2000)Cancer Res.60:1388-93
【非特許文献6】El-Mousawi et al.,(2003)J.Biol.Chem.278:46681-91
【非特許文献7】Stefanik et al.,(2001)J.Neurooncol.55:91-100
【非特許文献8】Wood et al.,(2000)Cancer Res.60:2178-89
【非特許文献9】Luttun et al.,(2002)Nat.Med.8:831-40
【非特許文献10】Lyden et al.,(2001)Nat.Med.7:1194-201
【非特許文献11】Lu et al.,(2001)Cancer Res.61:7002-8
【非特許文献12】Risau,W.(1997)Nature.386:671-4
【非特許文献13】Ferrara and Davis-Smyth,(1997)Endor.Rev.18:4-25
【非特許文献14】Shibuya et al.,(1999)Curr.Topics.Microbiol.Immunol.237:59-83
【非特許文献15】Plate et al.,(1994)Int.J.Cancer.59:520-9
【非特許文献16】Shibuya et al.,(1990)Oncogene 5:519-24
【非特許文献17】Olofsson et al.,(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:2576-81
【非特許文献18】Maglione et al.,1991.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9267-71
【非特許文献19】Park et al.,(1994)J.Biol.Chem.269:25646-54
【非特許文献20】Carmeliet et al.,(2001)Nat.Med.7:575-83
【非特許文献21】Li et al.,(2002)J.Exp.Med.195:1575-84
【非特許文献22】Niethammer et al.,(2002)Nat.Med.8:1369-75
【発明の開示】
【0007】
本願において使用される略語:
CTL、細胞傷害性Tリンパ球
VEGF、血管内皮増殖因子
PlGF、胎盤増殖因子
VEGFR1、血管内皮増殖因子受容体1
VEGFR2、血管内皮増殖因子受容体2
TGM、トランスジェニック・マウス
TAA、腫瘍関連(associate)抗原
i.d.、皮内注射
s.c.、皮下注射
IFA、フロイント不完全アジュバント
【0008】
発明の概要
本発明は、内因的にVEGFR1を発現する内皮細胞に対する、細胞傷害性T細胞を誘導するペプチドを提供する。本発明のペプチドは、配列番号:1、2、13のアミノ酸配列、または1、2、もしくは数個のアミノ酸が置換もしく付加された配列を含む。ある種の態様において、N末端から2番めのアミノ酸は、ロイシンまたはメチオニンである。いくつかの態様において、C末端のアミノ酸は、バリンまたはロイシンである。
【0009】
本発明は、配列番号:32のアミノ酸配列、または1、2、もしくは数個のアミノ酸が置換もしく付加された配列を含むペプチドも提供する。ある種の態様において、N末端から2番めのアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである。いくつかの態様において、C末端のアミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである。
【0010】
本発明は、本発明のペプチドを含む、腫瘍の処置または予防のための薬学的組成物をさらに提供する。
【0011】
本発明は、本発明のペプチドおよびHLA抗原を含む複合体を表面上に提示するエキソソームを提供する。いくつかの態様において、HLA抗原は、HLA-A24(例えば、HLA A2402)またはHLA-A02(例えば、HLA-A0201)である。
【0012】
本発明のペプチドを患者に投与する段階を含む、高い細胞傷害性T細胞誘導能を有する抗原提示細胞を誘導する方法および細胞傷害性T細胞を誘導する方法も提供される。いくつかの態様において、方法は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を抗原提示細胞に移入する段階を含む。本発明は、本発明の方法により誘導される、単離された細胞傷害性T細胞および抗原提示細胞を提供する。本発明は、HLA抗原と本発明のペプチドとの間で形成された複合体を含む抗原提示細胞を提供する。
【0013】
本発明は、本発明のペプチドを有効成分として含む、疾患部位における血管形成を阻害するためのワクチンも提供する。本発明のワクチンは、HLA抗原がHLA-A24またはHLA-A02である対象への投与を目的としたものであり得る。いくつかの態様において、ワクチンは、悪性腫瘍の増殖および/または転移を抑制するために使用される。
【0014】
本発明は、本発明のペプチド、または免疫学的活性を有する断片、またはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、該対象において腫瘍を処置または予防する方法をさらに提供する。
【0015】
本発明は、本発明のワクチンを投与する段階を含む、該対象において血管形成により媒介される疾患を処置または予防する方法も提供する。いくつかの態様において、血管形成により媒介される疾患は、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチ、乾癬、またはアテローム性動脈硬化症である。
【0016】
上記の発明の概要および以下の詳細な説明は、いずれも、好ましい態様のものであり、本発明または本発明の他の別の態様を制限するものではないことを理解されたい。
【0017】
発明の詳細な説明
「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「該、前記(the)」という単語は、本明細書において使用される場合、特記されない限り、「少なくとも一つの」を意味する。
【0018】
血管形成は、腫瘍進行のための重大なメカニズムであることが示されている。複数の研究により、様々な型の抗血管形成剤を使用して腫瘍血管形成が阻害され得るならば、腫瘍増殖が抑制され得ることが示唆されている。本発明において、本発明者らはVEGFR1を標的とする新規の免疫療法を開発する可能性を調査した。本発明者らは、まず、HLA-A2およびA24からVEGFR1のペプチド・エピトープを同定し、内因的にVEGFR1を発現する内皮細胞に対する強力な細胞傷害性を有するCTLクローンを成功裡に確立した。A2/Kbトランスジェニック・マウスにおいて、これらのエピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種は、インビボで治療モデルにおける腫瘍増殖の有意な抑制に関連していた。抗血管形成アッセイにおいては、腫瘍により誘導される血管形成が、ワクチン接種により有意に抑制された。インビトロおよびインビボのこれらの結果は、VEGFR1が有望な標的であり得ることを強く示唆しており、様々な種類の癌に対する抗血管形成免疫療法の臨床開発のための決定的な根拠を支持している。
【0019】
本発明において、本発明者らは臨床的環境に密接な関係がある系において、この新規の免疫療法の有効性を調査した。本発明者らは、HLA-A*0201およびA*2402に拘束されたヒトVEGFR1のエピトープ・ペプチドを同定し(Rammensee et al.,1995.Immunogenetics.41:178-228)、これらのペプチドにより誘導されたCTLが、ペプチドでパルスされた標的細胞に対してのみならず、内因的にVEGFR1を発現する標的細胞に対しても、HLAクラスI拘束的に強力かつ特異的な細胞傷害性を有することを示した。さらに、本発明者らは臨床的環境へと直接解釈され得る特有のマウス・モデルを使用して、これらのエピトープ・ペプチドによるワクチン接種のインビボ抗腫瘍効果を調査した。本発明者らのモデル系は、ヒトCTLエピトープの分析に有用であることが示されているA2/Kbトランスジェニック・マウス(TGM)を使用する。ヒトとA2/Kb TGMとの間では、CTLレパートリーのおよそ71%が一致する(Wentworth et al.,(1996)Eur.J.Immunol.26:97-101)。腫瘍系を構築するため、本発明者らはHLA-A*0201分子を発現しないC57BL/6マウス(H-2Kb)において化学的に誘導された、同系のマウス腫瘍細胞を移植した。A2/Kb TGMおよびH-2Kbマウス細胞系を組み合わせたこの腫瘍系は、特有の環境を提供する。A2/Kb TGMの内皮細胞はHLA-A*0201分子を発現するため、VEGFR1エピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種により誘導されたCTLは、HLA-A*0201およびVEGFR1の両方を発現する内皮細胞を認識する。従って、抗血管形成ワクチンのインビボ抗腫瘍効果は、HLA-A*0201拘束的に評価され得る。しかしながら、腫瘍細胞は、VEGFR1を発現しているとしても、HLA-A*0201を発現しないため認識されない。このインビボ腫瘍モデルにおいて、これらのエピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種は、腫瘍増殖の有意な抑制に関連していた。抗血管形成アッセイにおいて、腫瘍により誘導された血管形成は、これらのエピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種により有意に抑制された。これらの結果は、VEGFR1に由来するエピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種が、抗腫瘍免疫応答を誘導することを示している。
【0020】
腫瘍関連抗原(TAA)の同定は、HLAクラスI拘束的にCTLを誘導して腫瘍細胞を溶解することができる、ペプチドに基づく癌ワクチンの臨床開発を可能にした(Bruggen et al.,(1991)Science.254:1643-7, Boon et al.,(1996)J.Exp.Med.183:725-9, Rosenberg et al.,(1998)Nat.Med.4:321-7, Butterfield et al.,(1999)Cancer Res.59:3134-42)。TAAペプチドを使用した複数の臨床試験が、黒色腫患者において腫瘍退縮が観察されたことを報告している(Rosenberg et al.,(1998)Nat.Med.4:321-7, Nestle et al.,(1998)Nat.Med.4:328-32, Thurner et al.,(1999)J.Exp.Med.190:1669-78, Belli et al.,(2002)J.Clin.Oncol.20:4169-80, Coulie et al.,(2002)Immunol.Rev.188:33-42)。臨床的な効力は、腫瘍細胞上のHLAクラスI分子の欠損またはダウンレギュレーションによりもたらされ得ることが示唆されている(Cormier et al.,(1998)Int.J.Cancer.75:517-24, Paschen et al.,(2003)Int.J.Cancer.103:759-67, Fonteneau et al.,(1997)J.Immuol.159:2831-9.Reynolds et al.,(1998)J.Immunol.161:6970-6)。HLAクラスI分子の発現において何らかの変化を示す腫瘍の頻度は、40%を超えると推定されている(Cormier et al.,(1998)Int.J.Cancer.75:517-24, Paschen et al.,(2003)Int.J.Cancer.103:759-67)。従って、腫瘍細胞自体を標的とする癌ワクチンによりCTLが成功裡に誘導され得たとしても、腫瘍細胞のかなりの部分が、クラスIエピトープに特異的なCTLから免れることができる。腫瘍血管形成に関与している内皮細胞に対する有効なワクチンの開発は、別のアプローチである。内皮細胞は遺伝的に安定しており、HLAクラスI分子のダウンレギュレーションを示さず、多様な腫瘍の進行に重大に関与している。さらに、CTLは他の組織に侵入することなく、内皮細胞に対する損傷を直接引き起こすことができ、腫瘍血管系内の少数の内皮細胞の溶解ですら、血管の完全性の破壊をもたらし、多数の腫瘍細胞が阻害され得る(Folkman,J.(1995)Nat.Med.1:27-31)。従って、内皮細胞は、癌免疫療法のための良好な標的である。CTL応答により特異的かつ効率的に腫瘍血管形成を予防するためには、血管形成に関係する分子の中から適切な標的を選択する必要がある。
【0021】
VEGFは、腫瘍組織内の内皮細胞上に強発現するが、正常組織においてはそうではない、2つの関連するチロシンキナーゼ受容体、VEGFR1(Flt-1)およびVEGFR2(KDR)に結合する(Risau,W.(1997)Nature.386:671-4, Shibuya et al.,(1999)Curr.Topics.Microbiol.Immunol.237:59-83, Plate et al.,(1994)Int.J.Cancer.59:520-9)。中和抗体、組換え受容体、またはキナーゼ阻害剤を含むこれらの受容体の抑制は、抗腫瘍効果を示した(El-Mousawi et al.,(2003)J.Biol.Chem.278:46681-91, Stefanik et al.,(2001)J.Neurooncol.55:91-100, Wood et al.,(2000)Cancer Res.60:2178-89, Luttun et al.,(2002)Nat.Med.8:831-40, Lyden et al.,(2001)Nat.Med.7:1194-201, Lu et al.,(2001)Cancer Res.61:7002-8)。抗VEGFR1中和抗体は、用量依存的に腫瘍増殖および新血管新生を効率的に減弱させた(Luttun et al.,(2002)Nat.Med.8:831-40)。さらに、VEGFR1およびVEGFR2の両方を阻止する試薬を用いた組み合わせ処置、またはVEGFR1およびVEGFR2に対する二機能性抗体(「二重特異性抗体」)の使用は、そのような戦略として、単一抗体または単機能性親抗体による単独治療より強い血管増殖の阻害をもたらした(Lyden et al.,(2001)Nat.Med.7:1194-201, Lu et al.,(2001)Cancer Res.61:7002-8)。
【0022】
本発明において、本発明者らはインビトロおよびインビボの新規のモデル系を使用して、腫瘍により誘導される血管形成を標的とする免疫療法が有効であることを証明した。まず、本発明者らは高頻度に認識されるHLA対立遺伝子であるHLA-A*0201およびA*2402に拘束されたVEGFR1のエピトープ・ペプチドを同定した(Rammensee et al.,(1995)Immunogenetics.41:178-228)。CTLは、これらのペプチドにより成功裡に誘導され、ペプチドでパルスされた標的細胞のみならず、内因的にVEGFR1を発現する細胞に対しても、強力な細胞傷害活性を示した。本発明者らの所見は、ヒトVEGFR1がヒト系において免疫原性であることを明確に証明した。
【0023】
次いで、本発明者らは複数の腫瘍細胞系およびA2/Kb TGMを使用して、インビボ抗腫瘍効果を証明した。A2/Kb TGMはHLAクラスI発現の欠損を有する腫瘍細胞に対するヒトにおける免疫応答を評価するための優れたモデル系である。ヒトとA2/Kb TGMとのCTLレパートリーは、およそ71%一致することが示されている(Wentworth et al.,(1996)Eur.J.Immunol.26:97-101)。従って、エピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種により誘導されるCTLは、A2/Kb TGMに由来しVEGFR1およびHLA-A*0201を発現する内皮細胞を認識し得るが、「ヒト」MHCクラスI分子をもたない腫瘍細胞は認識しない。この特有の腫瘍モデル系を使用して、これらのエピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種により、腫瘍増殖の有意な阻害が観察された。このペプチドに基づくワクチンは、ワクチン接種前の腫瘍の有意な抑制にも関連していた。これらの結果は、本発明者らのワクチン接種戦略が、腫瘍の逃避メカニズムの一つであると考えられるHLA欠損を有する腫瘍に対してすら有効であることを示す。また、本発明者らは腫瘍により誘導される血管形成が、これらのエピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種により有意に阻害されることをDASアッセイにおいて示した。この結果は、腫瘍により誘導される血管内皮細胞上に発現される分子を標的とするペプチドワクチン接種により、腫瘍血管形成の阻害が達成され得ることを示している。
【0024】
インビトロおよびインビボのこれらの結果は、VEGFR1が、細胞免疫を使用した免疫学的治療の有用な標的であることを示しており、広範囲の癌に対するこの戦略の臨床開発の決定的な根拠を支持する。
【0025】
HLA抗原に関して、本明細書に提示されたデータは、(日本人の間で高度に発現していると言われる)A-24型またはA-02型の使用が、有効な結果を入手するために好適であることを示している。A-2402およびA-0201のような亜型の使用が、さらに好ましい。しかしながら、診療所において、処置を必要とする患者のHLA抗原の型が事前に調査され、これによりこの抗原に対する高レベルの結合親和性を有するか、または抗原提示による細胞傷害性T細胞(CTL)誘導能を有するペプチドの適切な選択が可能になる。さらに、高い結合親和性およびCTL誘導能を示すペプチドを得るため、天然に存在するVEGFR1部分ペプチドのアミノ酸配列に基づいて1個、2個、または数個のアミノ酸の置換または付加が行われ得る。本明細書において、「数個」という用語は、5個以下、または好ましくは3個以下を意味する。さらに、天然にディスプレイされるペプチドに加え、HLA抗原との結合によりディスプレイされるペプチドの配列の規則性は既知であるため(Kubo RT,et al.,(1994)J.Immunol. 152,3913-24; Rammensee HG,et al.,(1995)Immunogenetics.41:178-228; Kondo A,et al.,(1994)J.Immunol.155:4307-12)、そのような規則性に基づく修飾を、得られたペプチドに対して行うことができる。例えば、高いHLA-24結合親和性を示すペプチドは、N末端から2番めのアミノ酸が、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンに置換されており、C末端のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンに置換されたペプチドも、好適に使用され得る。他方、高いHLA-0201結合親和性を示すペプチドは、N末端から2番めのアミノ酸が、ロイシンまたはメチオニンに置換されており、C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンに置換されたペプチドが好適に使用され得る。さらに、1〜2個のアミノ酸が、ペプチドのN末端および/またはC末端に付加され得る。
【0026】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内因性または外因性のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合には、特定の物質に対する自己免疫疾患またはアレルギー症状のような副作用が誘導されるかもしれず、従って、好ましくは配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況は、入手可能なデータベースを使用して相同性検索を実施することにより、回避される。さらに、1個または2個のアミノ酸が異なるペプチドさえ存在しないことが相同性検索から明らかである場合には、HLA抗原との結合親和性を増加させ、かつ/またはCTL誘導能を増加させるための上記アミノ酸配列の修飾が、そのような問題を引き起こす危険はない。
【0027】
上記のようなHLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドは、癌ワクチンとして非常に有効であると予想されるが、高い結合親和性の存在を指標として選択される候補ペプチドは、CTL誘導能の実際の存在について調査されなければならない。CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保持している抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞)、またはより具体的にはヒト末梢血単核白血球に由来する樹状細胞を誘導し、ペプチドによる刺激の後、CD8陽性細胞と混合し、次いで標的細胞に対する細胞傷害活性を測定することにより成される。反応系として、ヒトHLA抗原を発現するよう作製されたトランスジェニック動物(例えば、BenMohamed et al.,(2000)Hum.Immunol; 61(8):764-79 Related Articles,Books,Linkout.に記載されたもの)が使用され得る。例えば、標的細胞を51Cr等により放射標識し、標的細胞から放出された放射能から、細胞傷害活性を計算することができる。または、固定化されたペプチドを保持する抗原提示細胞の存在下でCTLにより産生され放出されたIFN-γを測定し、抗IFN-γモノクローナル抗体を使用して培地上の阻止帯を可視化することにより、調べることができる。
【0028】
上記のようなペプチドのCTL誘導能の調査の結果として、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するものは、必ずしも高い誘導能をもたなかった。さらに、VLLWEIFSL(配列番号:1)、TLFWLLLTL(配列番号:2)、NLTATLIVNV(配列番号:13)、SYGVLLWEIF(配列番号:32)により示されたアミノ酸配列を含むペプチドから選択されたノナペプチドまたはデカペプチドは、特に高いCTL誘導能を示した。
【0029】
さらに本発明は、細胞傷害性T細胞誘導能を有し、かつ1個、2個、または数個のアミノ酸が置換または付加された配列番号:32のアミノ酸配列を含む、約40アミノ酸未満、しばしば約20アミノ酸未満、通常は約15アミノ酸未満の免疫原性ペプチドを提供する。いくつかの好ましい態様において、他のタンパク質のアミノ酸配列と一致しない限り、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換または付加された配列番号:32に示された10アミノ酸を含むアミノ酸配列を有する免疫原性ペプチドは、CTL誘導能を有し得る。特に、N末端から2番目のアミノ酸におけるフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンへのアミノ酸置換、およびC末端のアミノ酸におけるフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンへのアミノ酸置換、ならびにN末端および/またはC末端における1〜2個のアミノ酸付加が、好適な例である。当業者は、アミノ酸の置換および付加に加え、ペプチドの免疫学的活性を有する断片も、本発明の方法において使用され得ることを認識する。活性を有する断片を決定する方法は、当技術分野において周知である。
【0030】
本発明は、細胞傷害性T細胞誘導能を有し、かつ1個、2個、または数個のアミノ酸が置換または付加された配列番号:1、2、または13のアミノ酸配列を含むペプチドも提供する。他のタンパク質のアミノ酸配列と一致しない限り、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換または付加された配列番号:1、2、または13により示される9または10アミノ酸を含むアミノ酸配列は、CTL誘導能を有し得る。特に、N末端から2番めのアミノ酸におけるロイシンまたはメチオニンへのアミノ酸置換、およびC末端のアミノ酸におけるバリンまたはロイシンへのアミノ酸置換、ならびにN末端および/またはC末端における1〜2個のアミノ酸付加は、好適な例である。当業者は、アミノ酸の置換および付加に加え、ペプチドの免疫学的活性を有する断片も、本発明の方法において使用され得ることを認識する。活性を有する断片を決定する方法は、当技術分野において周知である。これらの修飾されたペプチドによる刺激により得られるCTLクローンは、元のペプチドを認識し、損傷を引き起こし得る。
【0031】
本発明のペプチドは、周知の技術を使用して調製され得る。例えば、ペプチドは、組換えDNA技術または化学合成によって合成的に調製され得る。本発明のペプチドは、個々に合成されてもよいし、または2つ以上のペプチドを含むより長いポリペプチドとして合成されてもよい。ペプチドは、好ましくは単離されている、即ち他の天然に存在する宿主細胞タンパク質およびそれらの断片を実質的に含まない。
【0032】
ペプチドは、修飾が本明細書に記載されるようなペプチドの生物学的活性を破壊しない限り、糖鎖形成、側鎖酸化、またはリン酸化のような修飾を含み得る。その他の修飾には、例えばペプチドの血清半減期を増加させるために使用され得るD-アミノ酸またはその他のアミノ酸ミメティック(mimetic)の取り込みが含まれる。
【0033】
本発明のペプチドは、インビボまたはエクスビボでCTLを誘導し得る癌ワクチンとして使用するための、一つまたは複数の本発明のペプチドを含む組み合わせへと調製され得る。ペプチドはカクテル中に存在してもよいし、または標準的な技術を使用して相互に結合させてもよい。例えば、ペプチドは、単一のポリペプチド配列として発現させられ得る。組み合わせるペプチドは、同一であってもよいし、または異なっていてもよい。本発明のペプチドを投与することにより、ペプチドが抗原提示細胞のHLA抗原上に高密度に提示され、次いでディスプレイされたペプチドとHLA抗原との間に形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導され、腫瘍細胞において血管内皮細胞に対する強い免疫応答が誘導される。または、対象から樹状細胞を除去することにより、細胞表面上に本発明のペプチドが固定化された抗原提示細胞を得て、これらを本発明のペプチドによりエクスビボで刺激し、これらの細胞を前記対象に再投与することにより、対象においてCTLを誘導し、その結果として標的細胞に対する攻撃性を増加させることができる。
【0034】
より具体的には、本発明は腫瘍を処置するため、または腫瘍の増殖、転移等を予防するための免疫原性組成物を提供する。組成物は、一つまたは複数の本発明のペプチドを含む。組成物中のペプチドは同一であってもよいし、または異なっていてもよい。さらに、病理部位における血管形成は、腫瘍のみならず、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチ、乾癬、およびアテローム性動脈硬化症のような疾患、そして固形腫瘍の転移とも密接に関連している(Folkman,J. (1995)Nature Med.1:27-31; Bicknell et al.,(1996)Curr.Opin.Oncol.8:60-5)。従って、本発明のペプチドは、腫瘍、ならびに糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチ、乾癬、およびアテローム性動脈硬化症のような血管形成により媒介される疾患のほかに、固形腫瘍の転移を処置するために使用され得る。
【0035】
本発明のペプチドは、正常な血管とは形態学的に異なり、悪性腫瘍組織において形成される、蛇行した血管の形成を阻害することが見出され、ワクチン接種されたマウスにおける創傷治癒および生殖能の分析結果により、正常な生理学的な血管形成に対する有害作用は存在しないことが確認された。さらに、本発明のペプチドを認識するCTLクローンを使用して、非増殖性または増殖性の内皮細胞に対する細胞傷害性をインビトロで試験したところ、これらのクローンは、非増殖性の内皮細胞よりも増殖性の内皮細胞に対して強い活性を示すことが見出された。より具体的には、それらは、増殖性の内皮細胞が観察される障害、特に癌に対して、極めて特異的に機能する。
【0036】
本発明のペプチドによる樹状細胞のインビボおよびインビトロの刺激は、これらのペプチドが、細胞上に初めに固定化されていたペプチドに置き換わるよう、高濃度のペプチドに細胞を曝すことにより容易に実施され得る。従って、本発明において使用されるペプチドは、HLA抗原に対して少なくともあるレベルの結合親和性をもたなければならない。
【0037】
本発明のペプチドは、直接投与されてもよいし、または従来の製剤法により製剤化された薬学的組成物として投与されてもよい。そのような場合、本発明のペプチドに加え、薬物のために通常使用される担体、賦形剤等が、特定の制限なしに適宜含まれ得る。本発明の免疫原性組成物は、胃癌、十二指腸癌、結腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、および脳腫瘍のような、様々な腫瘍の処置および予防のために使用され得る。本発明のペプチドは、腫瘍組織において新たに形成される血管の内皮細胞を標的とし、腫瘍細胞自体を標的とはせず、従って多様な腫瘍が処置の標的となり、それらの使用に特定の制限はない。
【0038】
本発明のペプチドを有効成分として含む、腫瘍の処置および/または予防のための免疫原性組成物は、細胞性免疫が効果的に確立されるように、アジュバントと共に投与されてもよいし、または抗腫瘍薬のような他の有効成分と共に投与されてもよく、顆粒への製剤化により投与されてもよい。適用され得るアジュバントには、文献(Johnson AG.(1994)Clin.Microbiol.Rev. 7:277-89)に記載されたものが含まれ得る。例示的なアジュバントには、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、またはミョウバンが含まれる。さらに、リポソーム製剤、薬物が直径数μmのビーズに結合している顆粒製剤、および脂質が薬物に結合している製剤が、都合よく使用され得る。投与の方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与、または標的とされた腫瘍の近傍への局所投与が可能である。本発明のペプチドの用量は、処置される疾患、患者の年齢、体重、投与の方法等によって適切に調整することができ、通常0.001mg〜1000mg、好ましくは0.01mg〜100mg、より好ましくは0.1mg〜10mgであり、好ましくは数日〜数ヶ月に1回投与される。当業者は、適当な用量を適切に選択することができる。
【0039】
または、本発明は本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体を表面上に提示するエキソソームと呼ばれる細胞内小胞を提供する。エキソソームは、例えば公表特許公報 特表平11-510507および特表2000-512161に詳細に記載された方法を使用することにより調製することができ、好ましくは処置および/または予防の標的である対象から得られた抗原提示細胞を使用して調製される。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様に、癌ワクチンとして接種され得る。
【0040】
使用されるHLA抗原の型は、処置および/または予防を必要とする対象のものと一致しなければならない。例えば、日本人の場合、HLA-A24またはHLA-A02、特にHLA-A2402またはHLA-0201が、しばしば適切である。
【0041】
いくつかの態様において、本発明のワクチン組成物は、細胞傷害性Tリンパ球を初回刺激する成分を含む。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを初回刺激し得る物質として同定されている。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のε-およびα-アミノ基に付着させ、次いで本発明の免疫原性ペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加されたペプチドは、ミセルもしくは粒子として直接投与されてもよく、リポソームに組み入れられてもよく、またはアジュバント中で乳化されてもよい。CTL応答を初回刺激する脂質のもう一つの例として、トリパルミトイル-S-グリセリルシステイニルセリル-セリン(P3CSS)のような大腸菌(E. coli)リポタンパク質は、適切なペプチドに共有結合的に付着した際に、CTLを初回刺激するために使用され得る(例えば、Deres,et al.,(1989)Nature 342:561-4参照)。
【0042】
本発明の免疫原性組成物は、本明細書に開示された免疫原性ペプチドをコードする核酸も含み得る。例えば、Wolff et al.,(1990)Science 247:1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;ならびに国際公開公報第98/04720号を参照のこと。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA」、促進性(ブピビカイン、ポリマー、ペプチドにより媒介される)送達、陽イオン性脂質複合体、および粒子により媒介される(「遺伝子銃」)、または圧力により媒介される送達(例えば、米国特許第5,922,687号参照)が含まれる。
【0043】
本発明の免疫原性ペプチドは、ウイルスまたは細菌のベクターによって発現させることもできる。発現ベクターの例には、牛痘または鶏痘のような弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えばペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとしての、牛痘ウイルスの使用を含む。宿主に導入すると、組換え牛痘ウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それにより免疫応答を誘発する。免疫化プロトコルにおいて有用な牛痘ベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。もう一つのベクターは、BCG(Bacille Calmette Guerin)である。BCGベクターは、Stover,et al.,(1991)Nature 351:456-60に記載されている。治療的投与または免疫化のために有用な、多様なその他のベクター、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、解毒炭疽毒素ベクター等は、明白である。例えば、Shata,et al.,(2000)Mol.Med.Today 6:66-71; Shedlock,et al.,(2000)J.Leukoc.Biol.68:793-806; およびHipp,et al.,(2000)In vivo 14:571-85を参照のこと。
【0044】
本発明は、本発明のペプチドを使用して抗原提示細胞を誘導する方法も提供する。抗原提示細胞は、末梢血単球から樹状細胞を誘導し、次いでインビトロまたはインビボでそれらを本発明のペプチドと接触させる(により刺激する)ことにより誘導することができる。本発明のペプチドが対象に投与されると、本発明のペプチドが固定化された抗原提示細胞が、対象の体内で誘導される。または、抗原提示細胞に本発明のペプチドを固定化した後、細胞をワクチンとして対象に投与することができる。
【0045】
本発明は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をインビトロで抗原提示細胞に移入する工程を含む、高レベルの細胞傷害性T細胞誘導能を有する抗原提示細胞を誘導する方法も提供する。導入される遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。導入の方法に関しては、特定の制限なしに、リポフェクション、エレクトロポレーション、およびリン酸カルシウム法のような、この分野において従来実施されている様々な方法が使用され得る。より具体的には、Reeves ME,et al.,(1996)Cancer Res. 56:5672-7; Butterfield LH,et al.,(1998)J.Immunol. 161:5607-13; Boczkowski D,et al.,(1996)J.Exp.Med. 184:465-72; 公表特許公報 特表2000-509281に記載されるように実施され得る。遺伝子を抗原提示細胞へ移入することにより、遺伝子は細胞内で転写、翻訳等を受け、得られたタンパク質がプロセシングされ、MHCクラスIまたはクラスIIと結合し、提示経路を進んで部分ペプチドへを提示する。
【0046】
さらに本発明は、本発明のペプチドを使用してCTLを誘導する方法を提供する。本発明のペプチドが対象に投与されると、CTLが対象の体内で誘導され、腫瘍組織内の血管形成内皮細胞を標的とする免疫系の強度が増強される。または、それらは、インビトロで対象に由来する抗原提示細胞およびCD8陽性細胞または末梢血単核白血球を本発明のペプチドと接触させ(により刺激し)、CTLを誘導した後、細胞が対象に戻される、エクスビボ治療法のために使用されてもよい。
【0047】
さらに本発明は、本発明のペプチドを使用して誘導される単離された細胞傷害性T細胞を提供する。本発明のペプチドを提示する抗原提示細胞からの刺激により誘導された細胞傷害性T細胞は、好ましくは処置および/または予防の標的である対象に由来し、抗腫瘍効果を目的として、単独で、または本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与され得る。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチド、または好ましくは誘導のために使用されるのと同一のペプチドを提示する標的細胞に対して、特異的に作用する。標的細胞は、VEGFR1を内因的に発現する細胞、またはVEGFR1をコードする遺伝子をトランスフェクトした細胞であってよく、これらのペプチドによる刺激のために細胞表面上に本発明のペプチドを提示する細胞もまた、攻撃の標的になり得る。
【0048】
本発明は、HLA抗原と本発明のペプチドとの間で形成された複合体の提示を含む、抗原提示細胞も提供する。本発明のペプチドまたは本発明のペプチドをコードするヌクレオチドを接触させることにより得られる抗原提示細胞は、好ましくは処置および/または予防の標的である対象に由来し、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくは細胞傷害性T細胞を含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与され得る。
【0049】
本発明において、(免疫原性組成物とも呼ばれる)「ワクチン」という語句は、動物への接種により腫瘍を抑制するための、腫瘍内皮細胞に対する免疫を誘導する機能を有する物質をさす。本発明によって、配列番号:1、2、13のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、HLA-A02拘束性エピトープ・ペプチドであることが示唆され、配列番号:32が、VEGFR1を発現する腫瘍内皮細胞に対する強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得る、HLA-A24拘束性エピトープ・ペプチドであることが示唆された。従って本発明は、配列番号:1、2、13、32のアミノ酸配列を含むポリペプチドを使用して抗腫瘍免疫を誘導する方法も包含する。一般に、抗腫瘍免疫には、以下のような免疫応答が含まれる:
− 腫瘍内の内皮細胞に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
− 腫瘍内の内皮細胞を認識する抗体の誘導、および
− 抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0050】
従って、あるタンパク質が、動物への接種により、これらの免疫応答のうちのいずれかを誘導する場合、前記タンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判断される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、前記タンパク質に対する宿主における免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することにより検出することができる。
【0051】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は、周知である。生体に入った異物は、抗原提示細胞(APC)の作用によりT細胞およびB細胞に提示される。抗原特異的にAPCにより提示された抗原に対して応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞傷害性T細胞(または細胞傷害性Tリンパ球;CTL)へと分化し、増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。従って、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによりペプチドをT細胞へと提示し、CTLの誘導を検出することにより評価することができる。さらにAPCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞は抗腫瘍免疫においても重要であるため、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0052】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野において周知である。DCは、APCの中でも最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法においては、試験ポリペプチドをまずDCと接触させ、次いでこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後、関心対象の細胞に対する細胞傷害効果を有するT細胞を検出することにより、試験ポリペプチドが細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Crで標識された腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(lactose dehydrogenase)放出を指標として用いて腫瘍細胞損傷の程度を評価する方法も、周知である。
【0053】
DCの他に、末梢血単核細胞(PBMC)もAPCとして使用され得る。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することにより増強されることが報告されている。同様に、CTLはスカシガイヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することにより誘導されることが示されている。
【0054】
これらの方法により、CTL誘導活性を保有することが確認された試験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドである。従って、腫瘍内皮細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触により腫瘍内皮細胞に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞傷害性を獲得したCTLも、腫瘍に対するワクチンとして使用することができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を使用するそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0055】
一般に、ポリペプチドを細胞免疫療法のために使用する場合、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせ、それらをDCと接触させることにより、CTL誘導の効率が増加することが知られている。従って、タンパク質断片によりDCを刺激する場合には、複数の型の断片の混合物を使用することが有利である。
【0056】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することにより確認され得る。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、ポリペプチドにより免疫された実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の成長、増殖、または転移がそれらの抗体により抑制される場合、前記ポリペプチドは、抗腫瘍免疫を誘導する能力を有すると決定され得る。
【0057】
本発明は、VEGFR1もしくは前記ポリペプチドの免疫学的活性を有する断片、または前記ポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドからなる群より選択される核酸によりコードされるポリペプチドを含むワクチンを、対象へ投与する段階を含む、前記対象において腫瘍を処置または予防する方法にも関する。ポリペプチドの投与は、対象において抗腫瘍免疫を誘導する。従って本発明は、抗腫瘍免疫を誘導する方法をさらに提供する。ポリペプチドまたはその免疫学的活性を有する断片は、腫瘍に対するワクチンとして有用である。ある場合には、タンパク質またはその断片が、T細胞受容体(TCR)に結合した形で投与されてもよく、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞のような抗原提示細胞(APC)上に提示されてもよい。DCの強い抗原提示能力のため、DCの使用がAPCの中でも最も好ましい。
【0058】
抗腫瘍免疫は、本発明のワクチンを投与することにより誘導され、抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍の処置および予防を可能にする。腫瘍に対する治療または腫瘍の発現の予防には、腫瘍細胞の増殖の阻害、腫瘍細胞の退行、および腫瘍細胞の発生の抑制のような工程のいずれかが含まれる。腫瘍を有する個体の死亡率の減少、血中の腫瘍マーカーの減少、腫瘍に伴う検出可能な症状の軽減等も、腫瘍の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防の効果は、好ましくは統計的に有意である。例えば観察において、5%以下の有意水準で、腫瘍に対するワクチンの治療または予防の効果が、ワクチン投与のない対照と比較される。例えば、スチューデントのt検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを、統計分析のために使用することができる。
【0059】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質、または前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはベクターは、アジュバントと組み合わせてもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と一緒に(または連続的に)投与された場合に、タンパク質に対する免疫応答を増強する化合物をさす。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせてもよい。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含有し得る。ワクチンは、全身または局所投与される。ワクチン投与は、単回投与により実施されてもよいし、または複数回投与により追加免疫されてもよい。
【0060】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして使用する場合、腫瘍は、例えばエクスビボ法により処置または予防され得る。より具体的には、処置または予防を受ける対象のPBMCを回収し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導の後、細胞を対象に投与し得る。APCは、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCへ導入することによっても誘導され得る。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷する活性が高い細胞をクローニングし増殖させることにより、細胞免疫療法をより効果的に実施できる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体における類似した型の疾患に対しても、細胞免疫療法のために使用され得る。
【0061】
以下の実施例は、本発明を例示し、その作成および使用にあたり当業者を手助けするために提示される。実施例は、他の点で本発明の範囲を制限するためのものでは決してない。
【0062】
特に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものと類似しているかまたは同等である方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、適当な方法および材料が以下に記載される。本明細書中に引用された特許、特許出願、および刊行物はいずれも、参照により組み入れられる。
【0063】
実施例
本発明は、以下の実施例により詳細に例示されるが、これらの実施例に制限されない。
【0064】
材料および方法
細胞系
T2細胞系は、Dr.H.Shiku(三重大学医学部)より寛大に提供された。AG1-G1-Flt-1およびAG1-G1-Neo細胞系は、Dr.M.Shibuya(東京大学医科学研究所)より厚意で提供された。AG1-G1細胞系は、ヒト良性血管腫から確立され、AG1-G1-Flt-1は、VEGFR1 cDNAを保持しているBCMGSプラスミドベクターをAG1-G1細胞系に感染させることにより作製された。メチルコラントレンにより誘導されたマウス繊維肉腫細胞系であるMCA205は、Dr.S.A.Rosenberg(National Cancer Institute,Bethesda,MD)より寛大に寄贈された。B16、マウス黒色腫、およびマウス結腸腺癌MC38は、ATCCより購入した。
【0065】
合成ペプチド
HLA-A*0201(A2)およびHLA-A*2402(A24)に拘束されたVEGFR1由来エピトープ・ペプチドの候補は、対応するHLAとの結合親和性に基づき選択された。結合親和性は、BioInformatics & Molecular Analysis Section(BIMAS)のウェブサイトを用いて予測した(Kuzushima et al.,(2003)Blood.101:1460-8, Parker et al.,(1994)J.Immunol.152:163-75)。これらの候補ペプチドは、標準的な固相合成法によりサワディー・テクノロジー(日本)により合成され、逆相HPLCにより精製された。ペプチドの純度(>95%)および同一性は、それぞれ分析用HPLCおよび質量分析により決定された。本発明において使用されるペプチドは、表1および2に記載される。
【0066】
CEAペプチド(DVLYGPDTPI(配列番号:41))は、インビボのマウスモデルのための陽性対照として使用された。CMVペプチド(A02;NLVPMVATV(配列番号:42)、A24;QYDPVAALF(配列番号:43))は、インビトロでのヒトCTL誘導のための陽性対照として使用された(Solache et al.,(1999)J.Immunol.163:5512-8, Kuzushima et al.,(2001)Blood.98:1872-81)。
【0067】
動物
MHCクラスIが、HLA-A*0201のα1およびα2ドメインならびにマウスH-2Kbのα3ドメインからなるA2/Kb TGMは、他に記載されたように調製された(Wentworth et al.,(1996)Eur.J.Immunol.26:97-101)。動物は、東京大学医科学研究所の特定病原体除去動物施設において管理され、動物実験のプロトコルは全て、当研究所の倫理委員会により承認された。
【0068】
CTL系およびクローンの作製
単球由来樹状細胞(DC)を、以前に記載されたように、HLA上に提示されたペプチドに対するCTL応答を誘導するために使用した(Nukaya et al.,(1999)Int.J.Cancer.80:92-7, Tsai et al.,(1997)J.Immunol.158:1796-802, Nakahara et al.,(2003)Cancer Res.63:4112-8)。簡単に説明すると、対応するHLAを有する健康なボランティアからPBMCを入手し、GM-CSF(キリンビール株式会社(日本)より提供)およびIL-4(Genzyme/Techne, Minneapolis)の存在下で培養した。5日間の培養後、成熟DCを得るため、OK-432(中外製薬株式会社、日本)を培養物に添加した(Nakahara et al.,(2003)Cancer Res.63 :4112-8)。7日目に、作製された成熟DCを、T細胞刺激のため、各ペプチドによりパルスした。これらのペプチドをパルスされたDCを毎回使用して、自己由来CD8+ T細胞を、0日目、7日目、および14日目に3回刺激し、得られたリンパ系細胞を細胞傷害活性に関して21日目に試験した。
【0069】
CTLクローンを作製するため、確立されたCTL系を、刺激細胞として同種のPBMCおよびA3-LCLを用いて、1ウェル当たり0.3、1、および3細胞で、96穴プレートに播いた。得られたCTLクローンの細胞傷害活性を14日目に試験した。
【0070】
細胞傷害性アッセイ
細胞傷害活性は、標準的な4時間51Cr放出アッセイを使用して測定した。T2細胞およびA24-LCLを、候補ペプチドでパルスされた標的細胞として使用した。特異的溶解率を、以下のように計算した:
特異的溶解率(%)=[(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)]×100
【0071】
A2/Kb TGMにおけるエピトープ・ペプチドの免疫原性
ペプチド特異的CTLを初回刺激するため、マウス1匹当たりHLA-A2拘束性ペプチド100μgおよびIFA 100μlを含むワクチン混合物200μlを使用して、免疫化を行った。ワクチンを、0日目に最初の免疫化のため右脇腹に皮内注射し、11日目に2回目のためもう一方の脇腹に皮内注射した。21日目に、ELISPOTアッセイのため、ワクチン接種されたマウスの脾細胞を応答細胞として使用し、ペプチドでまたはペプチドなしでパルスされたT2細胞を刺激細胞として使用した。
【0072】
インビボ血管形成アッセイ
本発明者らは、以前に記載されたような、腫瘍細胞により誘導されたインビボ血管形成を測定するために設計された背部皮下(DAS)アッセイを使用して、ペプチドワクチン接種の効果を調べた(Oikawa et al.,(1997)Anticancer Res.17:1881-6)。簡単に説明すると、いくつかの修飾に関して以前記載されたような、IFAと結合した対応するペプチドを使用して、A2/Kb TGMを左脇腹に1週間間隔で2回ワクチン接種した(Schuler et al.,(1997)J.Exp.Med.186:1183-7,Song et al.,(1997)J.Exp.Med.186:1247-56,Specht et al.,(1997)J.Exp.Med.186:1213-21)。ミリポア・チャンバー(Millipore Corporation,Bedford,MA)に、MC38細胞(1×106細胞)を含むPBSを充填し、0日目に麻酔下のマウスの背側に埋め込んだ。埋め込まれたチャンバーを、6日目にs.c.筋膜から取り出し、次いでブラック・リングをチャンバーと直接接触していた部位に置いた。血管形成応答を、解剖用顕微鏡を使用して撮影された写真により評価した。血管形成の程度を、>3mmの長さの新たに形成された血管数により決定し、0(無し)〜5(多い)までの範囲の指数を用いて半定量的に評点をつけた。
【0073】
インビボ抗腫瘍効果
本発明者らは、治療モデルを用いてこのワクチン接種の抗腫瘍効果を調査した。1×105個のMCA205細胞または5×105個のB16細胞を0日目に右脇腹にi.d.注射し、4日目および14日目に、IFAと結合した対応するペプチドを使用してワクチン接種を実施した。
【0074】
統計的分析
結果の再現性を確認するため、各実験を三連で実施した。代表的な結果を示す。適用可能である場合には、データの有意性を調べるために、スチューデントのt検定を使用した。P値が0.05未満である場合、その差を統計的に有意であると見なした。
【0075】
結果
VEGFR1タンパク質由来の予想HLAクラスI結合ペプチド
HLA-A*0201(A2)およびHLA-A*2402(A24)に拘束されたVEGFR1由来エピトープ・ペプチドの候補を、対応するHLAとの結合親和性に基づき選択した。結合親和性は、BioInformatics & Molecular Analysis Section(BIMAS)のウェブサイトを用いて予測した。
HLA Peptide Binding Prediction software:
(http://bimas.dcrt.nih.gov/cgi-bin/molbio/ken_parker_comboform)
Kuzushima,K. et al.,(2003)Blood.101:1460-8
Parker,K.C. et al.,(1994)J.Immunol.152:163-75
【0076】
VEGFR1由来のエピトープ候補を使用したCTLクローンの確立
本発明者らはまず、エピトープ・ペプチドを決定するため、VEGFR1の免疫原性を試験した。エピトープ候補ペプチドを、HLAクラスI分子に対するペプチドの結合親和性を反映する結合スコアの順序で選択した(表1、表2)。
【0077】
(表1)VEGFR1タンパク質由来の予想HLA-A*0201結合ペプチド

【0078】
(表2)VEGFR1タンパク質由来の予想HLA-A*2402結合ペプチド

【0079】
これらのペプチド、ならびに「材料および方法」に記載されるようにHLA-A*0201およびHLA-A*2402を有する健康なボランティアから得られたPBMCを使用して、本発明者らはCTLを作製し、CTLクローンが成功裡に確立された。
【0080】
これらのCTLクローンは、対応するペプチドでパルスされた標的細胞に対する特異的な細胞傷害性を示した(図1、図2)。
【0081】
本発明者らは、これらのペプチドにより誘導された確立されたCTLクローンが、内因的にVEGFR1を発現する標的細胞を溶解する能力もまた、同様に調査した。
【0082】
HLA-A*2402 CTLクローンを、VEGFR1発現細胞(AG1-G1-Flt-1)および対照(AG1-G1)に対する細胞傷害性に関して、4時間51Cr放出アッセイにより調査した。これらのCTLクローンは、AG1-G1-Flt-1に対して細胞傷害性を示したが、AG1-G1に対しては示さなかった(図3)。細胞傷害性は、CD8およびHLA-クラスIに対するmAbにより有意に阻止されたが、CD4およびHLA-クラスIIに対するmAbを使用しても阻止されなかった(データは示さず)。
【0083】
VEGFR1エピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種に関連する、インビボの抗血管形成および抗腫瘍効果
本発明者らは、A2/Kb TGMを使用して、VEGFR1エピトープ・ペプチドによるワクチン接種のインビボでの抗血管形成効果および抗腫瘍効果を試験した。
【0084】
最初に、本発明者らはELISPOTアッセイにより、これらのペプチドにより誘導されるCTLの特異的なIFN-γ産生を調査するため、A2/Kb TGMに対するエピトープ・ペプチドの免疫原性を評価した(図4)。IFAと結合したペプチドを、0日目および11日目にA2/Kb TGMにs.c.注射した。21日目に、ELISPOTアッセイのため、ワクチン接種されたマウスの脾細胞を採集して応答細胞として使用し、ペプチドでまたはペプチドなしでパルスされたT2細胞を刺激細胞として使用した。対応するペプチドに対する特異的なIFN-γの産生が、VEGFR1-1087、-770、-417ペプチドによりワクチン接種されたマウスにおいて観察された。このA2/Kb TGM系を使用したELISPOTアッセイにおいて、ヒトPBMCを使用して同定されたエピトープ・ペプチドに関して陽性の結果が示された。
【0085】
本発明者らは、VEGFR1に由来するペプチドを使用したワクチン接種が、腫瘍により誘導される血管形成を抑制するか否かを調査した。腫瘍細胞により誘導される血管形成に対するペプチドワクチン接種の効果を確認するため、本発明者らはインビボの新血管新生の程度を可視化する背部皮下アッセイ(DASアッセイ)を利用した。この半定量的なアッセイにおいて、血管形成に対する有意な阻害が、VEGFR1-1087、-770、-417ペプチドによりワクチン接種されたマウスにおいて観察された(図5)。
【0086】
エピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種は、治療モデルにおいて強い抗腫瘍効果を示した。メチルコラントレンにより誘導されるマウス繊維肉腫細胞系MCA205を、0日目にA2/Kb TGMにi.d.注射し、腫瘍攻撃の後、4日目および14日目に、IFAと結合したVEGFR1-1087、-770、-417ペプチドを使用して、これらのマウスに対してワクチン接種を行った(図6)。腫瘍増殖の有意な抑制が、IFAと結合したVEGFR1-1087、-770ペプチドを使用したワクチン接種について観察された。さらに、腫瘍増殖の有意な阻害が、様々な腫瘍細胞において観察された(データは示さず)。
【0087】
これらの結果は、VEGFR1由来ペプチドを使用したワクチン接種により誘導された抗腫瘍効果が、腫瘍血管形成の阻害により媒介される可能性を強く示唆している。従って、VEGFR1由来エピトープ・ペプチドによるワクチン接種は、このA2/Kb TGM腫瘍系におけるインビボの腫瘍増殖を支える血管のVEGFR1発現内皮細胞に対する効果を通じて、腫瘍細胞の増殖に影響を及ぼし得る。
【0088】
考察
腫瘍関連抗原(TAA)の同定は、CTLを誘導してHLAクラスI拘束的に腫瘍細胞を溶解することができる、ペプチドに基づく癌ワクチンの臨床開発を可能にした(Bruggen et al.,(1991)Science.254:1643-7, Boon et al.,(1996)J.Exp.Med.183:725-9, Rosenberg et al.,(1998)Nat.Med.4:321-7, Butterfield et al.,(1999)Cancer Res.59:3134-42)。現在までに、TAAペプチドを使用した複数の臨床試験が、黒色腫患者のおよそ20%において腫瘍退縮が観察されたことを報告している。しかしながら、著効はまれにしか報告されていない(Rosenberg et al.,(1998)Nat.Med.4:321-7.Nestle et al.,(1998)Nat.Med.4:328-32, Thurner et al.,(1999)J.Exp.Med.190:1669-78, Belli et al.,(2002)Parmiani.J.Clin.Oncol.20:4169-80, Coulie et al.,(2002)Immunol.Rev.188:33-42)。穏やかな臨床的有効度の可能性のある理由の一つは、腫瘍細胞上のHLAクラスI分子の欠損またはダウンレギュレーションであり得る(Cormier et al.,(1998)Int.J.Cancer.75:517-24, Paschen et al.,(2003)Int.J.Cancer.103:759-67, Fonteneau et al.,(1997).J.Immuol.159:2831-9, Reynolds et al.,(1998)J.Immunol.161:6970-6)。HLAクラスI分子の発現に何らかの変化を示す腫瘍の頻度は、40%を超えると推定されている(Cormier et al.,(1998)Int.J.Cancer.75:517-24, Paschen et al.,(2003)Int.J.Cancer.103:759-67)。従って、腫瘍細胞自体を標的とする癌ワクチンによりCTLが成功裡に誘導され得たとしても、腫瘍細胞のかなりの部分が、クラスIエピトープに特異的なCTLから免れることができる。内皮細胞は遺伝的に安定しており、HLAクラスI分子のダウンレギュレーションを示さず、多様な腫瘍の進行に重大に関与しているため、これらの問題は、腫瘍血管形成に対する有効なワクチンの開発により克服することができる。さらにCTLは、他の組織に侵入することなく、内皮細胞に対する損傷を直接引き起こすことができ、腫瘍血管系内の少数の内皮細胞の溶解ですら、血管の完全性の破壊をもたらし、それにより多数の腫瘍細胞が阻害される(Folkman,J.(1995)Nat.Med.1:27-31)。従って、内皮細胞は、癌免疫療法のための良好な標的である。CTL応答により特異的かつ効率的に腫瘍血管形成を予防するためには、血管形成に関係のある分子の中から適切な標的が選択される必要がある。
【0089】
本明細書に提示された、インビトロおよびインビボの結果は、VEGFR1が細胞性免疫を用いた免疫学的治療の標的として使用され得ることを示し、広範囲の癌に対するこの戦略の臨床開発の決定的な根拠を支持する。
【0090】
産業上の利用可能性
本発明は、広範囲の腫瘍組織において形成される内皮細胞を標的とすることにより細胞傷害性T細胞を誘導し、癌ワクチンとして極めて有効である、新規のペプチドを提供する。本発明は、腫瘍の処置および予防のための、これらのペプチドを含む免疫原性組成物も提供する。
【0091】
本発明を、詳細に、かつ具体的な態様に関して説明したが、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、様々な変化および修飾をそれらになし得ることは、当業者には明白である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】VEGFR1由来のエピトープ候補を使用したHLA-A*0201拘束性CTLクローンの確立を示すグラフである。HLA-A*0201と結合している各エピトープ・ペプチドでパルスされたT2細胞に対する各CTLクローンの細胞傷害性。T2細胞は、各ペプチドの存在下または非存在下でCTL応答のため使用した。CTLクローンは、対応するペプチドでパルスされた標的細胞に対する特異的な細胞傷害性を示した。E/T比は、エフェクター/標的細胞を示す。
【図2】VEGFR1由来のエピトープ候補を使用したHLA-A*2402拘束性CTLクローンの確立を示すグラフである。A24-LCL細胞は、HLA-A*2402と結合している各ペプチドの存在下または非存在下でHLA-A*2402に拘束されたCTL応答のため使用した。CTLクローンは、対応するペプチドでパルスされた標的細胞に対する特異的な細胞傷害性を示した。E/T比は、エフェクター/標的細胞を示す。
【図3】内因的にVEGFR1を発現する細胞に対する細胞傷害性を示すグラフである。HLA-A*2402 CTLクローンが、4時間51Cr放出アッセイにより、VEGFR1発現細胞(AG1-G1-Flt-1)および対照(AG1-G1)に対する細胞傷害性に関して調査された。これらのCTLクローンは、AG1-G1-Flt-1に対して細胞傷害性を示したが、AG1-G1に対しては示さなかった。E/T比は、エフェクター/標的細胞を示す。
【図4】IFN-γ ELISPOTアッセイによるVEGFR1エピトープ・ペプチドを使用したワクチン接種に関連した、インビボCTL応答の結果を示すグラフである。IFA結合ペプチドが、0日目および11日目にA2/Kb TGMへi.d.注射された。21日目に、ELISPOTアッセイのため、ワクチン接種されたマウスの脾細胞を応答細胞として使用し、ペプチドでまたはペプチドなしでパルスされたT2細胞を刺激細胞として使用した。対応するペプチドに特異的なIFN-γの産生が、VEGFR1-1087、-770、-417ペプチドによりワクチン接種されたマウスにおいて観察された(E/T比:×20)。
【図5】腫瘍により誘導される血管形成のインビボ阻害の結果を示すグラフである。A2/Kb TGMにおけるMC38細胞により誘導された血管形成応答。マウスは、HBSS、IFA単独、およびIFAと結合したVEGFR1ペプチド(VEGFR1-1087、-770、-417)により2回ワクチン接種された。差は、ワクチン接種されたマウスのs.c.筋膜から除去された植え込みチャンバーにおいて肉眼で認識できた。血管形成応答において新たに形成された血管の定量化。腫瘍により誘導される血管形成の有意な阻害が、VEGFR1-1087、-770、-417ペプチドによりワクチン接種されたマウスにおいて観察された。エラーバーは、標準誤差を示す。
【図6】インビボ抗腫瘍効果の結果を示すグラフである。A2/Kb TGMに、MCA205細胞がi.d.接種された。HBSS、IFA単独、およびVEGFR1-1087、-770、-417ペプチドと結合したIFAが、4日後および11日後(示された矢印)にワクチン接種された。IFAと結合したVEGFR1-1087、-770ペプチドを使用したワクチン接種により、腫瘍増殖の有意な抑制が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1、2、13のアミノ酸配列を含む、約15アミノ酸未満の単離されたペプチド。
【請求項2】
1個、2個、または数個のアミノ酸が置換または付加された、配列番号:1、2、13のアミノ酸配列を含む、細胞傷害性T細胞誘導能を有する単離されたペプチド。
【請求項3】
N末端から2番めのアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、請求項2または3のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号:32のアミノ酸配列を含む、約15アミノ酸未満の単離されたペプチド。
【請求項6】
1個、2個、または数個のアミノ酸が置換または付加された、配列番号:32のアミノ酸配列を含む、細胞傷害性T細胞誘導能を有する単離されたペプチド。
【請求項7】
N末端から2番めのアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、請求項6記載のペプチド。
【請求項8】
C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、請求項6または7のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項9】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドを一つまたは複数含む、血管形成により媒介される疾患または腫瘍を処置または予防するための薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドおよびHLA抗原を含む複合体を表面上に提示するエキソソーム。
【請求項11】
HLA抗原がHLA-A24またはHLA-A02である、請求項10記載のエキソソーム。
【請求項12】
HLA抗原がHLA-A2402またはHLA-A0201である、請求項11記載のエキソソーム。
【請求項13】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドを患者に投与する段階を含む、該患者において高い細胞傷害性T細胞誘導能を有する抗原提示細胞を誘導する方法。
【請求項14】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドを患者に投与する段階を含む、該患者において細胞傷害性T細胞を誘導する方法。
【請求項15】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を抗原提示細胞に移入する段階を含む、高い細胞傷害性T細胞誘導能を有する抗原提示細胞を誘導する方法。
【請求項16】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドを投与することにより誘導される、単離された細胞傷害性T細胞。
【請求項17】
HLA抗原と請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドとの間で形成された複合体を含む、単離された抗原提示細胞。
【請求項18】
請求項13記載の方法により誘導される、請求項17記載の抗原提示細胞。
【請求項19】
請求項1、2、5、または6のいずれか一項記載のペプチドを有効成分として含む、疾患部位において血管形成を阻害するためのワクチン。
【請求項20】
HLA抗原がHLA-A24またはHLA-A02である対象への投与を目的とする、請求項19記載のワクチン。
【請求項21】
悪性腫瘍の増殖および/または転移を抑制するために使用される、請求項19記載のワクチン。
【請求項22】
請求項1、2、5、もしくは6のいずれか一項記載のペプチド、または該ペプチドの免疫学的活性を有する断片、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、該対象において腫瘍を処置または予防する方法。
【請求項23】
請求項1、2、5、もしくは6のいずれか一項記載のペプチド、または該ペプチドの免疫学的活性を有する断片、または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、該対象において血管形成により媒介される疾患を処置または予防する方法。
【請求項24】
血管形成により媒介される疾患が、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチ、乾癬、およびアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される、請求項23記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−531463(P2008−531463A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529685(P2007−529685)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【国際出願番号】PCT/JP2006/303352
【国際公開番号】WO2006/093030
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】