説明

血管内皮機能改善剤

【課題】本発明の目的は、一酸化窒素作用増強活性を有し、安全かつ効果的な血管内皮機能改善剤を提供し、さらには高血圧症、動脈硬化症の改善剤又は予防剤を提供することである。
【解決手段】スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した、一酸化窒素作用増強剤、血管内皮機能改善剤、高血圧症・動脈硬化症の改善剤又は予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素作用増強活性を有する血管内皮機能改善剤に関するものであり、さらには高血圧症および動脈硬化症の改善剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化をはじめとした生活環境の変化や高齢化に伴い、虚血性心疾患、脳血管障害、慢性閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が急増している(非特許文献1)。血管内皮は血管の恒常性維持に関わっており、血管内皮機能異常は高血圧症や動脈硬化症などの心血管系疾患と関連があることが知られている(非特許文献2、3)。血管内皮は様々な生理活性物質を産生しているが、その中でも特に一酸化窒素は血管弛緩作用、血小板凝集抑制作用、血管平滑筋増殖抑制作用などが知られており、血管内皮機能の恒常性維持に重要な役割を担っている。このことから一酸化窒素の作用を増強することにより血管内皮機能を改善し、さらには高血圧症、動脈硬化症などの疾病を改善又は予防すると考えられている。一酸化窒素作用増強剤としてクロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸(特許文献1)、イソフムロン類、ホップエキス、異性化ホップエキス(特許文献2)などが知られている。
【0003】
スターフルーツはAverrhoa carambolaを基原とする果実で、東南アジアを始めとして世界中で栽培されている。これまで、スターフルーツが一酸化窒素の作用を増強することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−261444
【特許文献2】特開2005−104951
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】生活習慣病 分子メカニズムと治療、pp.92-98、中山書店、2001年
【非特許文献2】Circulation 1993 87 1468-1474
【非特許文献3】Mebio 2007 24 20-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、一酸化窒素作用増強活性を有し、安全かつ効果的な血管内皮機能改善剤を提供し、さらには高血圧症、動脈硬化症の改善剤又は予防剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、スターフルーツが一酸化窒素の作用を増強し、血管内皮機能を改善することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した一酸化窒素作用増強剤。
(2)スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した血管内皮機能改善剤。
(3)スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した高血圧症の改善剤又は予防剤。
(4)スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した動脈硬化症の改善剤又は予防剤。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスターフルーツは、一酸化窒素の作用を増強することで、血管内皮機能を改善する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、スターフルーツをそのまま用いることも、スターフルーツの抽出物を用いることもできる。スターフルーツの抽出物とは、スターフルーツを溶媒で抽出したものである。溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール類、アセトン等のケトン類等の有機溶媒を、単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。抽出物は、上記抽出物をそのまま使用することも、乾燥エキス、流エキス、チンキ等の一般的な形態のものを用いることもできる。
【0011】
本発明において、一酸化窒素作用の増強とは、一酸化窒素の分泌促進、一酸化窒素合成酵素の活性化、一酸化窒素の分解抑制などにより、血管内皮由来の一酸化窒素の作用が増強されることを意味する。
【0012】
本発明において、血管内皮機能とは、例えばFMD(flow mediated dilation)やPWV(pulse wave velocity)、AI(augmentation index)等の指標を目安とすることのできる、血管内皮の健康状態を意味し、実験動物を用いた試験ではpD2値で表される。
【0013】
本発明において、高血圧症とは血圧が高値を示した状態であり、例えば収縮期血圧が130mmHg以上、又は拡張期血圧が85mmHg以上の状態を目安とすることができる。また動脈硬化症とは動脈が肥厚あるいは硬化することによって引き起こされる疾患を指し、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞等がある。本発明は、好ましくは高血圧症又は動脈硬化症の方に用いられるが、高血圧症又は動脈硬化症を予防するために用いることもできる。
【0014】
本発明の剤形は特に限定されないが、経口剤として投与することが特に好ましい。経口剤としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、微粒剤、液剤、チュアブル剤、トローチなどの形態で摂取することが可能である。
【0015】
また、発明の効果を損なわない質的および量的範囲で、必要に応じて他の公知の添加剤として、生薬、天然物、賦形剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、粘稠剤、溶解補助剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを混合することができる。
【0016】
通常、成人にはスターフルーツに換算して1回100〜5000mg、好ましくは200〜2000mgを1日2〜3回経口投与することが望ましく、さらに好ましくは1回200〜1000mgを1日3回経口投与することがさらに望ましい。また、この投与量は投与ルート、年齢、性別、症状の重症度などにより適宜増減することも可能である。
【実施例】
【0017】
以下に試験例により、本発明をさらに具体的に説明する。
以下で用いるスターフルーツ水抽出エキスは、凍結乾燥したスターフルーツ29.19gを粉砕後、10倍量の水で還流抽出(沸騰後30分間)した。抽出物はひだ折り濾紙(5A)で濾過した後、濾液をナス型フラスコに移し、凍結させた。ナス型フラスコ中の水分を凍結乾燥機により留去して乾燥エキス12.58gを製造した。乾燥エキスの抽出率は43.08%であった。
【0018】
以下で用いるスターフルーツ30%エタノール抽出エキスは、凍結乾燥したスターフルーツ29.30gを粉砕後、10倍量の30%(v/v)エタノールで還流抽出(沸騰後30分間)した。抽出物はひだ折り濾紙(5A)で濾過した後、濾液をナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いて、40℃でエタノールを留去した。さらにナス型フラスコ中の水分を凍結乾燥機により留去して乾燥エキス11.03gを製造した。乾燥エキスの抽出率は37.64%であった。
【0019】
以下で用いるスターフルーツ50%エタノール抽出エキスは、凍結乾燥したスターフルーツ28.97gを粉砕後、10倍量の50%(v/v)エタノールで還流抽出(沸騰後30分間)した。抽出物はひだ折り濾紙(5A)で濾過した後、濾液をナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いて、40℃でエタノールを留去した。さらにナス型フラスコ中の水分を凍結乾燥機により留去して乾燥エキス15.26gを製造した。乾燥エキスの抽出率は52.68%であった。
【0020】
試験例1
血管内皮機能評価試験
スターフルーツ水抽出エキス、スターフルーツ30%エタノール抽出エキス、あるいはスターフルーツ50%エタノール抽出エキスの血管内皮機能改善作用の評価は、雄性自然発症高血圧ラット(SHR)の胸部大動脈の血管標本を用いて実施した。
【0021】
20週齢のSHRから摘出した胸部大動脈の血管標本をKrebs−Henseleit溶液中でマグヌス管に懸垂し、1gの張力を負荷した。フェニレフリン(10-6M)を溶液中に添加し、平滑筋を収縮させた後、スターフルーツ水抽出エキス、スターフルーツ30%エタノール抽出エキス、あるいはスターフルーツ50%エタノール抽出エキスを、終濃度として100μg/mLとなるよう反応液に添加し、張力を測定した。血管弛緩率は下記の式により算出した。
血管弛緩率(%)=エキスを添加した際の張力の減少/フェニレフリンによる張力の増加×100
その結果、スターフルーツ水抽出エキスの血管弛緩率は80%、スターフルーツ30%エタノール抽出エキスの血管弛緩率は64%、スターフルーツ50%エタノール抽出エキスの血管弛緩率は67%であった。
【0022】
次に、本薬理作用の一酸化窒素依存性について評価した。20週齢のSHRから摘出した胸部大動脈の血管標本をKrebs−Henseleit溶液中でマグヌス管に懸垂し、1gの張力を負荷した。フェニレフリン(10-6M)を溶液中に添加し、平滑筋を収縮させた後、スターフルーツ水抽出エキスを、終濃度として12.5μg/mL、25μg/mL、50μg/mLあるいは100μg/mLとなるよう反応液に添加し、張力を測定した。また、一酸化窒素合成酵素阻害剤であるニトロ−L−アルギニンメチルエステル(L−NAME、100μM)をスターフルーツ水抽出エキスよりも先に添加した際の張力もあわせて測定した。
【0023】
その結果、スターフルーツ水抽出エキスの濃度が12.5μg/mLでは血管弛緩率は15%、25μg/mLでは血管弛緩率は23%、50μg/mLでは血管弛緩率は31%、100μg/mLでは血管弛緩率は85%であった。また、L−NAMEを予め添加した際には、スターフルーツ水抽出エキスの血管弛緩率は12.5μg/mL、25μg/mL、50μg/mLあるいは100μg/mLいずれにおいても0%であった。このことから、スターフルーツ水抽出エキスの血管弛緩作用は一酸化窒素作用増強作用によることがわかった。
【0024】
試験例2
血管内皮機能および血圧評価試験
血圧は無加温型非観血式血圧計(室町機械株式会社)を用いて尾動脈圧を測定した。また、血管内皮機能は、ラットより摘出した胸部大動脈の血管標本をKrebs−Henseleit溶液中でマグヌス管に懸垂し、1gの張力を負荷して、フェニレフリン(10-6M)を溶液に添加し、平滑筋を収縮させた後、アセチルコリン(10-9M〜10-5M)で刺激した際の張力を測定し、血管弛緩率から、血管内皮機能の指標であるpD2値を算出した。
【0025】
13週齢の雄性SHR(日本エスエルシー株式会社)18匹を、血圧がほぼ同等となるように1群9匹で2群に分けた。対照群にはAIN−93Gを、スターフルーツ水抽出エキス添加群にはAIN−93Gにスターフルーツ水抽出エキスを1%添加した餌を8週間与えた。
【0026】
その結果、対照群の血圧は200.7±3.7mmHgであった。スターフルーツ水抽出エキス添加群では181.3±6.3mmHgであり、対照群と比較して有意な血圧低下作用を示した(p<0.05)。また、対照群のpD2値は7.55±0.05であったが、スターフルーツ水抽出エキス添加群では7.74±0.05であり、対照群と比較して有意な血管内皮機能改善作用を示した(p<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、医薬部外品、医薬品の他、「血管内皮機能が気になる方に」、又は「血圧が気になる方に」などの表示を付した特定保健用食品(健康増進法第26条第1項の許可又は第29条第1項の承認を受け、食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品)などとして利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した一酸化窒素作用増強剤。
【請求項2】
スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した血管内皮機能改善剤。
【請求項3】
スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した高血圧症の改善剤又は予防剤。
【請求項4】
スターフルーツ、又はその抽出物を有効成分として配合した動脈硬化症の改善剤又は予防剤。

【公開番号】特開2011−251960(P2011−251960A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103361(P2011−103361)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】