説明

血管内皮細胞バリアの完全性の保存ための方法及び医薬的組成物

本発明は、血管内皮細胞バリアの完全性の保存及び心筋梗塞を伴うノーリフロー現象における低下における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、血管内皮細胞バリアの完全性の保存及び心筋梗塞を伴うノーリフロー現象における低下における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0002】
発明の背景
心臓疾患は、高及び低所得国における第1及び第2の死亡原因をそれぞれ示し、微小血管損傷を最小化する処置を、傷ついた心筋を保護するために優先すべきである(ACC/AHAガイドラインにより推奨される通り)。閉塞した梗塞動脈内での流動の迅速な回復は、虚血症状の開始後での虚血誘導性組織損傷を限定することができ、急性心筋梗塞(AMI)患者についての短期及び長期転帰の重要な決定因子である。心臓の虚血組織における血液供給の回復は、実際に、飢餓心筋に酸素及び栄養を回復させ、このように、AMIの範囲を限定するが、しかし、また、微小血管機能障害、炎症、及び酸化損傷を誘導する。
【0003】
増加した血管透過性は、虚血事象後での浮腫及び心筋損傷への重要な一因である。浮腫の発生は、回復に有害である完全性の破壊を決定し、また、浸潤のために白血球により使用される暫定的なマトリクスネットワークを形成するフィブロネクチン及びフィブリノゲンの溢出を許す。血管損傷は、また、再灌流前壁の心筋虚血を伴う患者の30%において観察され、死亡の高い発生率に関連付けられるノーリフロー現象に寄与する。心臓における血管の漏出性は、従って、疾患進行に寄与する。内皮細胞及び心筋細胞での血管漏出及び浮腫の防止は、急性心筋梗塞後の再灌流の間に心筋流動を改善し、及び、梗塞に応答したその調節は、梗塞サイズを限定し、心臓機能を改善し、生存期間を延長しうる進行中の治療を改善するための関連する戦略を示す。それにもかかわらず、ノーリフロー現象を標的とする薬理学的処置は現在ない。
【0004】
アンジオポエチンは、Tie2受容体への結合を通じた血管安定化及び漏出の両方の主な調節因子である。アンジオポエチンファミリーに属するアンジオポエチン様タンパク質(ANGPTL1−7)は、アンジオポエチンと一部の構造的及び機能的特性を共有する。ANGPTL4は、低酸素により誘導され、虚血病態(例えば重大な下肢虚血など)において血管細胞により産生される。ANGPTL4は、20kDa及び35kDa(それぞれコイルドコイルドメイン及びフィブリノゲン様ドメインを含む)においてプロセシングされる55kDaの分泌タンパク質である。コイルドコイルドメインは、その活性のために必要であるそのオリゴマー化を媒介する。血管新生に対するANGPTL4の役割を特徴付ける試験は、複雑な結果を提供した:インビトロでの内皮細胞の生存因子又は接着モジュレーター、及び、それが可溶性であるか、ヘパラン硫酸プロテオグリカンを介して細胞外マトリックスと相互作用するかに依存しうる、異なるインビボモデルにおける血管新生のインデューサーならびに阻害剤。ANGPTL4は、また、腸におけるリンパ管発生及び血管透過性の調節を通じた血管機能の重要なモジュレーターとして現れる。実際に、ANGPTL4は、皮膚における急性VEGF又はヒスタミン誘導性血管透過性亢進、ならびに血管透過性の阻害を通じた転移性腫瘍細胞の血管内異物侵入及び溢出の両方を阻害する。アンジオポエチンの状況依存的活性に沿って、ANGPTL4は、TGF□媒介性の肺転移乳腺腫瘍モデルにおいて腫瘍細胞の溢出増加を誘導した。ANGPTL4は、また、リポタンパク質(LPL)及び肝臓(HL)リパーゼを阻害する。マウスにおいて、ANGPTL4の肝臓での過剰発現が高トリグリセリド血症を誘導するのに対し、angptl4遺伝子欠失又は抗ANGPTL4抗体処置はより低い血漿トリグリセリドレベルを起こす。しかし、脂質代謝の調節におけるANGPTL4の役割は明らかではない。angptl4欠失マウスがコントロールマウスと比較してより低いHDLレベルを示すからである。ヒトにおいて、ANGPTL4は種々の変異体を持ち、E40Kは、有意に低い血漿トリグリセリド(TG)及びより高レベルの高密度リポタンパク質コレステロール(HDL)に関連付けられる。興味深いことに、抗アテローム脂質プロファイルを呈するが、ANGPTL4不活化E40K変異体を保有する個人が増加した冠動脈性心臓疾患リスクにさらされる。これらの最近のデータは、ANGPTL4が、まだ特徴付けられていない機構を通じて心臓疾患において役割を有することを示唆する。
【0005】
発明の概要
本発明は、血管内皮細胞バリアの完全性の保存及び心筋梗塞を伴うノーリフロー現象における低下における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0006】
発明の詳細な説明
本発明者らは、血管透過性、出血、浮腫、炎症、及び梗塞の重症度がangptl4欠損マウスにおいて増加することを示す。虚血後の減少したvegfr2及びveカドヘリン発現ならびにVEGFR2の下流での増加したSrcキナーゼリン酸化が、angptl4欠損マウスの冠動脈微小循環において増強した。両方の事象は、変化したVEGFR2/VEカドヘリン複合体形成に、及び、増加したノーリフローと相関するangptl4欠損マウスの内皮細胞における破壊された接着接合に導いた。対照的に、組換えヒトANGPTL4は、内皮細胞においてVEGF駆動VEGFR2/VEカドヘリン複合体解離を保護し、出血を限定し、ウサギにおいて心筋梗塞のサイズ及びノーリフローの程度を低下させた。したがって、ANGPTL4媒介性血管保護は、AMIの間での二次的な心臓保護のために決定的であり、治療的介入のための関連標的を構成しうる。
【0007】
本発明の治療的使用及び方法:
本発明は、血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0008】
本明細書において使用する通り、用語「血管内皮細胞バリア」は、血管の内面を裏打ちする細胞の層を指し、血流中への及び外への液体、物質、及び細胞(例えば骨髄細胞及び白血球など)の通過を制御することにより、血管内腔と周辺組織の間の選択的バリアとして作用する。血管内皮細胞バリアの透過性における過剰な又は長期の増加は、組織浮腫/腫脹に導く。したがって、用語「血管内皮細胞バリアの完全性の保存」は、前記バリアの透過性を回避又は限定することによる血管内皮細胞バリアの維持を意味する。
【0009】
特に、本発明は、虚血状態の処置の間での血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0010】
本発明の文脈において、用語「処置する」又は「処置」は、本明細書において使用する通り、そのような用語を適用する虚血状態の進行を逆転及び軽減、阻害することを意味する。典型的には、虚血状態の処置は、血管形成術(例、冠動脈、腎臓、又は頸動脈血管形成術)、血栓溶解、又は冠動脈手術による虚血臓器(例、心臓)の再灌流にある。用語「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)」は、冠動脈性心臓疾患において見出される心臓の狭窄(狭くなった)冠動脈を処置する治療的手法である冠動脈血管形成術を意味する。用語「血栓溶解」は血栓溶解薬剤の投与を意味する。現在利用可能な血栓溶解薬剤は、レテプラーゼ(r−PA又はRetavase)、アルテプラーゼ(t−PA又はActivase)、ウロキナーゼ(Abbokinase)、プロウロキナーゼ、アニソイル化精製ストレプトキナーゼアクチベーター複合体(APSAC)、及びストレプトキナーゼを含む。
【0011】
用語「虚血状態」は、少なくとも1つの臓器又は組織中での血液供給における制限に起因する任意の条件を指す。これらの条件は、典型的には、血管の閉塞に起因する。例えば、虚血状態は、しかし、限定しないが、腎虚血、網膜虚血、脳虚血、及び心筋虚血を含む。特に、この用語は、しかし、限定しないが、冠動脈バイパス移植手術、心停止に起因する全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血梗塞、高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂に起因する出血、頭蓋内動脈瘤の破裂に起因するクモ膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血に導く頸動脈狭窄又は閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中及び脊髄傷害、脳血管の疾患:例、アテローム性動脈硬化症、血管炎、黄斑変性、心筋梗塞、心筋虚血、及び上室性頻脈性不整脈を含む。
【0012】
さらなる局面において、本発明は、梗塞サイズ、出血、及びノーリフローを低下させる血管の完全性の保存による急性心筋梗塞後の心臓保護における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0013】
さらなる局面において、本発明は、冠動脈性心臓疾患、特に心筋梗塞の処置におけるノーリフローの防止における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0014】
特に、本発明は、ST上昇心筋梗塞の処置におけるノーリフローの防止における使用のためのANGPTL4ポリペプチドに関する。
【0015】
用語「ノーリフロー」は、刊行された医学報告書においてますます使用されており、微小血管閉塞及び閉塞動脈を開いた後での低下した心筋流動を記載する。その最も広い意味において、用語「ノーリフローを防止する」又は「ノーリフローの防止」は、ノーリフローを低下又は回避することを指す。
【0016】
用語「患者」は、虚血状態に苦しむ任意の患者(好ましくはヒト)を指す。
【0017】
特定の実施態様において、患者は冠動脈疾患と診断され、特に、患者は、以下:
− 安定狭心症又は労力狭心症などの心筋壊死を伴わない慢性虚血性疾患;
− 不安定狭心症などの心筋壊死を伴わない急性虚血性疾患;
− ST上昇心筋梗塞又は非ST上昇心筋梗塞などの心筋壊死を伴う虚血性疾患
の冠動脈疾患の1つを呈するとして診断されている。
【0018】
用語「ANGPTL4」は、当技術分野において一般的な意味を有し、アンジオポエチン様タンパク質4を指す。ANGPTL4は、また、HFARP(肝臓フィブリノゲンアンジオポエチン関連タンパク質)、PGAR(PPARガンマアンジオポエチン関連タンパク質)、及びFIAF(絶食誘導性脂肪組織因子)と命名される。この用語は、天然に存在するANGPTL4ならびにその機能保存的変異体及び改変形態を含む。
【0019】
ANGPTL4は、任意の供給源からでありうるが、しかし、典型的には、哺乳動物(例、ヒト及び非ヒト霊長類)ANGPTL4、及び特にヒトANGPTL4である。ANGPTL4タンパク質の配列及びそのようなタンパク質をコードする核酸は、当業者に公知である。例えば、GenBank Acc. Nos. NM_139314及びNM_001039667、ならびにGenbank Acc. Nos. AAH23647は、ホモサピエンスANGPTL4の完全なアミノ酸配列を提供する。しかし、当業者がこれらの分子の配列を知っている通り、任意のANGPTL4タンパク質又は遺伝子配列変異体を、それがANGPTL4の特性を有する限り、使用してもよいことを理解すべきである。
【0020】
「機能保存変異体」は、タンパク質又は酵素中の所与のアミノ酸残基が、ポリペプチドの全体的な立体構造及び機能の変化を伴わずに変化させたものであり、しかし、限定しないが、同様の性質(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族など)を有するアミノ酸を用いたアミノ酸の置換を含む。保存されているとして示されるアミノ酸以外のタンパク質中のアミノ酸は、同様の機能の任意の2つのタンパク質間でのタンパク質又はアミノ酸配列パーセント類似性が変動しうるように、又は、例えば、アライメントスキーム(例えばクラスター方法による、など)に従って決定される通りに70%〜99%でありうる(それにおいて類似性はMEGALIGNアルゴリズムに基づく)ように異なってもよい。「機能保存変異体」は、また、BLAST又はFASTAアルゴリズムにより決定される通り少なくとも60%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも85%、及びさらにより好ましくは少なくとも90%を有するポリペプチドを含み、それらは、それと比較される天然又は親タンパク質と同じ又は実質的に同様の特性又は機能を有する。
【0021】
本発明によれば、用語「ANGPTL4」ポリペプチドは、ANGPTL4の20k-Da N末端フラグメント(又はその機能保存)及び、より具体的には、N末端フラグメントコイルドドメインを含む任意のポリペプチドを指す(Ge, H. et al. Oligomerization and regulated proteolytic processing of angiopoietin-like protein 4. J Biol Chem 279, 2038-45 (2004);Mandard, S. et al. The direct peroxisome proliferator-activated receptor target fasting-induced adipose factor (FIAF/PGAR/ANGPTL4) is present in blood plasma as a truncated protein that is increased by fenofibrate treatment. J Biol Chem 279, 34411-20 (2004)及び;Chomel, C. et al. Interaction of the coiled-coil domain with glycosaminoglycans protects angiopoietin-like 4 from proteolysis and regulates its antiangiogenic activity. Faseb J 23,940-9 (2009)により記載される通り)。したがって、この用語は、ANGPTL4自体又は20k-Da N末端フラグメントを含むそのフラグメントを包含する。
【0022】
特定の実施態様において、本発明の治療方法において使用されるANGPTL4ポリペプチドは、それらの治療効力を改善するために修飾されうることが熟慮される。治療用化合物のそのような修飾を使用して、毒性を減少させる、循環時間を増加させる、又は体内分布を修飾させてもよい。例えば、潜在的に重要な治療用化合物の毒性を、体内分布を改変する薬物担体媒体の種々の組み合わせにより有意に減少させることができる。
【0023】
薬物バイアビリティーを改善するための戦略は、水溶性ポリマーの利用である。種々の水溶性ポリマーは、体内分布を改変し、細胞取り込みの様式を改善し、生理学的バリアの透過性を変化させ、及び身体からのクリアランスの速度を改変することが示されている。標的化効果又は徐放性効果のいずれかを達成するために、末端基として、骨格の一部として、又はポリマー鎖上のペンダント基として薬物部分を含む水溶性ポリマーが合成されている。
【0024】
ポリエチレングリコール(PEG)が、その高い程度の生体適合性及び修飾の容易さを前提として、薬物担体として広く使用されてきた。種々の薬物、タンパク質、及びリポソームへの付着が、滞留時間を改善し、毒性を減少させることが示されてきた。PEGは、鎖の末端のヒドロキシル基を通じて、及び、他の化学的方法を介して活性薬剤に結合させることができる;しかし、PEG自体は1分子当たり多くて2つの活性薬剤に限定される。異なるアプローチにおいて、PEGとアミノ酸のコポリマーを、PEGの生体適合性の特性を保持しうるが、しかし、1分子当たり多数の付着点(より大きな薬物負荷を提供する)という追加の利点を有しうる、種々の適用に適するように合成的に設計されうる新規生体材料として探索した。
【0025】
当業者は、薬物の効果的な修飾のためのPEG化技術を知っている。例えば、PEGの交互ポリマー及び三官能性モノマー(例えばリジンなど)からなる薬物送達ポリマーが、VectraMed(Plainsboro, N.J.)により使用されてきた。PEG鎖(典型的には2000ダルトン又はそれ以下)が、安定したウレタン連結を介してリジンのa及びeアミノ基に連結されている。そのようなコポリマーは、PEGの望ましい特性を保持し、ポリマー鎖に沿った、厳密に制御された既定の間隔で反応性ペンダント基(リジンのカルボン酸基)を提供する。反応性ペンダント基を、誘導体化、架橋、又は他の分子との共役のために使用することができる。これらのポリマーは、ポリマーの分子量、PEGセグメントの分子量、及び薬物とポリマーの間での開裂可能な連結を変動させることにより、安定した長期循環プロドラッグを産生する際に有用である。PEGセグメントの分子量は、薬物/連結基複合体の間隔及び複合体の分子量当たりの薬物の量に影響を与える(より小さいPEGセグメントはより大きな薬物負荷を提供する)。一般的には、ブロックコポリマー複合体の全分子量を増加させることによって、複合体の循環半減期が増加する。それにもかかわらず、複合体は易分解性である、又は、閾値を限定する糸球体ろ過を下回る分子量(例、45kDa未満)を有しなければならない。
【0026】
また、循環半減期及び体内分布を維持する際に重要であるポリマー骨格に対して、リンカーを使用し、治療用薬剤を、特定の誘因、典型的には標的組織中での酵素活性により骨格ポリマーから放出されるまでプロドラッグ中に維持してもよい。例えば、この型の組織活性化薬物送達は、体内分布の特定部位への送達が要求され、治療用薬剤が病変部位に又はその近くに放出される場合に特に有用である。活性化薬物送達における使用のための連結基ライブラリーは、当業者に公知であり、酵素反応速度、活性酵素の保有率、及び選択した疾患特異的酵素の切断特異性に基づきうる(VectraMed, Plainsboro, N.J.により確立された技術を参照のこと)。そのようなリンカーは、治療送達のために、本明細書に記載するANGPTL4ポリペプチドを改変する際に使用してもよい。
【0027】
本発明によれば、ANGPTL4ポリペプチドは、従来の自動化されたペプチド合成方法により又は組換え発現により産生してもよい。タンパク質の設計及び作製のための一般原則は、当業者に周知である。
【0028】
本発明のANGPTL4ポリペプチドは、溶液中で又は従来技術に従って固体支持体上で合成してもよい。種々の自動シンセサイザーが商業的に利用可能であり、公知のプロトコールに従って使用することができる。本発明のANGPTL4ポリペプチドは、また、例示的なペプチドシンセサイザー(例えばApplied Biosystems Inc.からのモデル433Aなど)を用いて固相技術により合成してもよい。任意の所与のタンパク質の純度(自動ペプチド合成を通じて又は組換え方法を通じて生成された)を、逆相HPLC分析を使用して決定してもよい。各ペプチドの化学的信頼性は、当業者に周知の任意の方法により確立されうる。
【0029】
自動ペプチド合成への代替物として、組換えDNA技術を用いてもよく、それにおいて、選んだタンパク質をコードするヌクレオチド配列を発現ベクター中に挿入し、適切な宿主細胞中に形質転換又はトランスフェクトし、発現のために適した条件下で培養する(本明細書において以下に記載する通り)。組換え方法は、より長いポリペプチドを産生するために特に好ましい。
【0030】
種々の発現ベクター/宿主系を利用し、ペプチド又はタンパク質をコードする配列を含み、発現させてもよい。これらは、しかし、限定しないが、微生物、例えば組換えバクテリオファージ、プラスミド、又はコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換した細菌;酵母発現ベクターを用いて形質転換した酵母;ウイルス発現ベクター(例、バキュロウイルス)を用いて感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)を用いてトランスフェクトした又は細菌発現ベクター(例、Ti又はpBR322プラスミド)を用いて形質転換した植物細胞系;又は動物細胞系などを含む。当業者は、タンパク質の哺乳動物発現を最適化するための種々の技術を知っている。組換えタンパク質産生において有用である哺乳動物細胞は、しかし、限定しないが、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、COS細胞(例えばCOS−7など)、W138、BHK、HepG2、3T3、RIN、MDCK、A549、PC12、K562、及び293細胞を含む。細菌、酵母、及び他の無脊椎動物におけるペプチド基質又は融合ポリペプチドの組換え発現のための例示的なプロトコールが、当業者に公知であり、本明細書において以下に簡単に記載されている。組換えタンパク質の発現のための哺乳動物宿主系も当業者に周知である。宿主細胞株は、発現タンパク質をプロセシングする、又は、タンパク質の活性を提供する際に有用であろう特定の翻訳後修飾を産生する特定の能力について選ばれうる。ポリペプチドのそのような改変は、しかし、限定しないが、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、及びアシル化を含む。タンパク質の「プレプロ」形態を切断する翻訳後プロセシングは、また、正確な挿入、フォールディング、及び/又は機能のために重要でありうる。異なる宿主細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、293、WI38など)は、特定の細胞機構及びそのような翻訳後活性のための特徴的な機構を有し、導入された外来タンパク質の正確な修飾及びプロセシングを確実にするために選ばれうる。
【0031】
本発明のANGPTL4ポリペプチドの組換え産生において、ANGPTL4由来タンパク質をコードするためのポリヌクレオチド分子を含むベクターを用いることが必要であろう。そのようなベクターを調製し、ならびに、そのようなベクターを用いて形質転換された宿主細胞を産生する方法は、当業者に周知である。そのような努力において使用されるポリヌクレオチド分子をベクターに結合してもよく、それは、一般的に、宿主おいて伝播するための選択マーカー及び複製起点を含む。発現コンストラクトのこれらのエレメントは当業者に周知である。一般的に、発現ベクターは、適切な転写又は翻訳調節配列(例えば哺乳動物、微生物、ウイルス、又は昆虫遺伝子に由来するものなど)に作動可能に連結されている所与のタンパク質をコードするDNAを含む。調節配列の例は、転写プロモーター、オペレーター、又はエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、ならびに転写及び翻訳を制御する適切な配列を含む。
【0032】
用語「発現ベクター」、「発現コンストラクト」、又は「発現カセット」は、本明細書を通して互換的に使用され、遺伝子産物をコードする核酸を含む任意の型の遺伝子コンストラクトを含むことを意味し、それにおいて、配列をコードする核酸の部分又は全部を転写することが可能である。
【0033】
本発明のペプチド又はポリペプチドの発現のための適切な発現ベクターの選択は、もちろん、使用される特定の宿主細胞に依存し、当業者の技術の範囲内である。哺乳動物発現ベクターの構築のための方法は、例えば、EP−A−0367566及びWO 91/18982に開示されている。
【0034】
一般的に、本発明において有用なベクターは、しかし、限定しないが、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸配列の挿入又は取り込みにより操作されているウイルス又は細菌の供給源に由来する他の媒体を含む。ウイルスベクターは好ましい型のベクターであり、しかし、限定しないが、以下のウイルス:レトロウイルス(例えばモロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、及びラウス肉腫ウイルスなど);アデノウイルス、アデノ関連ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン−バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びRNAウイルス(例えばレトロウイルスなど)からの核酸配列を含む。当技術分野において名付けられていないが、しかし、公知の他のベクターを容易に用いることができる。
【0035】
好ましいウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子と置換された非細胞変性真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスはレトロウイルス(例、レンチウイルス)を含み、そのライフサイクルはDNA中へのゲノムウイルスRNAの逆転写を含み、宿主細胞DNA中へのその後のプロウイルスの組み込みを伴う。レトロウイルスは、ヒト遺伝子治療試験について承認されている。最も有用であるのは、複製欠損している(即ち、所望のタンパク質の合成に向けることが可能であるが、しかし、感染性粒子を製造することが不可能である)それらのレトロウイルスである。そのような遺伝子改変レトロウイルス発現ベクターは、インビボでの遺伝子の高い効率の形質導入のための一般的な有用性を有する。複製欠損レトロウイルスを産生するための標準的プロトコール(プラスミド中への外来遺伝物質の取り込み、プラスミドを用いたパッケージング細胞株のトランスフェクション、パッケージング細胞株による組換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の回収、及びウイルス粒子を用いた標的細胞の感染の工程を含む)は当技術分野において周知である。
【0036】
特定の適用のための好ましいウイルスは、アデノウイルス及びアデノ関連(AAV)ウイルスであり、それらは遺伝子治療におけるヒトでの使用について既に承認されている二本鎖DNAウイルスである。実際に、12の異なるAAV血清型(AAV1〜12)が公知であるが、各々が異なる組織向性を伴う。組換えAAVは、依存的パルボウイルスAAV2に由来する。アデノ関連ウイルス型1〜12を操作し、複製欠損にすることができ、広範囲の細胞型及び種に感染することが可能である。それは、利点、例えば熱及び脂質溶媒安定性;造血系細胞を含む高い形質導入頻度;及び多様な系統における重感染阻害の欠如などを有し、このように、複数の一連の形質導入を許す。報告によれば、アデノ関連ウイルスは、部位特異的な様式でヒト細胞DNA中に組み込むことができ、それにより挿入変異誘発の可能性及びレトロウイルス感染に特徴的な挿入遺伝子発現の変動を最小限にする。また、野生型アデノ関連ウイルス感染は、選択圧の非存在において100継代を超えて組織培養において継がれており、アデノ関連ウイルスゲノムの組み込みが比較的安定した事象であること意味する。アデノ関連ウイルスは、また、染色体外の様式で機能することができる。
【0037】
他のベクターはプラスミドベクターを含む。プラスミドベクターが当技術分野において広範に記載されており、当業者に周知である。過去数年間、プラスミドベクターが、抗原をコードする遺伝子をインビボで細胞に送達するためのDNAワクチンとして使用されてきた。それらはこのために特に有利である。なぜなら、それらはウイルスベクターの多くと同じ安全性の懸念を有さないからである。これらのプラスミドは、しかし、宿主細胞と適合性のあるプロモーターを有し、プラスミド内に作動的にコードされる遺伝子からペプチドを発現することができる。いくつかの一般的に使用されるプラスミドは、pBR322、pUC18、pUCl9、PRC/CMV、SV40、及びpBluescriptを含む。他のプラスミドが当業者に周知である。加えて、プラスミドは、DNAの特定のフラグメントを除去及び追加するために制限酵素及び連結反応を使用して注文設計されうる。プラスミドは、種々の非経口、粘膜、及び局所経路により送達されうる。例えば、DNAプラスミドを筋肉内、皮内、皮下、又は他の経路により注射することができる。それは、また、鼻腔内スプレー又は液滴、直腸坐剤により及び経口で投与してもよい。それは、また、遺伝子銃を使用して表皮又は粘膜表面に投与してもよい。プラスミドは、水溶液中で、金粒子上で乾燥させて、又は別のDNA送達系(しかし、限定しないが、リポソーム、デンドリマー、コクリエート、及びマイクロカプセル化を含む)と会合させて与えてもよい。
【0038】
発現は、適当なシグナルがベクター中に提供されることを要求する(例えば、宿主細胞において目的の核酸の発現を駆動するために使用されうるウイルス及び哺乳類源の両方の供給源からのエンハンサー/プロモーターなど)。通常、発現される核酸は、プロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」は、遺伝子の特異的な転写を開始するために要求される、細胞の合成機構、又は導入された合成機構により認識されるDNA配列を指す。ヌクレオチド配列は、調節配列が目的のタンパク質(即ち、ANGPTL4、変異体など)をコードするDNAに機能的に連結する場合、作動可能に連結されている。このように、プロモーターヌクレオチド配列は、プロモーターヌクレオチド配列が配列の転写に向ける場合、所与のDNA配列に作動可能に連結されている。
【0039】
同様に、語句「転写制御下」は、プロモーターが、RNAポリメラーゼ開始及び遺伝子の発現を制御するための核酸に関して正確な位置及び方向にあることを意味する。核酸の発現を駆動する任意のプロモーターを使用してもよい。目的の核酸配列の発現を制御するために用いられる特定のプロモーターは、それが標的細胞において核酸の発現に向けることが可能である限り、重要であるとは考えられない。このように、ヒト細胞を標的とする場合、核酸コード領域を、ヒト細胞において発現させることが可能であるプロモーターに隣接して及びその制御下に位置づけることが好ましい。一般的に言えば、そのようなプロモーターは、ヒトプロモーター又はウイルスプロモーターのいずれかを含みうる。一般的なプロモーターは、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)最初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスの長い末端反復、[ベータ]−アクチン、ラットインスリンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼプロモーターを含み、その全てが、当業者に周知であり、容易に利用可能であり、目的のコード配列の高レベル発現を得るために使用することができる。目的のコード化配列の発現を達成するための、当技術分野において周知である他のウイルス又は哺乳動物細胞又は細菌ファージのプロモーターの使用も、発現のレベルが目的のタンパク質の回収可能収率を産生するために十分であるという条件で、熟慮される。周知の特性を伴うプロモーターを用いることにより、トランスフェクション又は形質転換に続く目的のタンパク質の発現のレベル及びパターンを最適化することができる。誘導性プロモーターも使用してもよい。
【0040】
タンパク質発現において使用される別の調節エレメントはエンハンサーである。これらは、DNAの同一分子上の遠い位置に位置づけられるプロモーターからの転写を増加させる遺伝子エレメントである。発現コンストラクトにcDNAインサートを用いている場合、典型的には、遺伝子転写物の適切なポリアデニル化をもたらすためのポリアデニル化シグナル配列を含むことが望まれるであろう。選択したトランスジェニック動物種の細胞により認識される任意のポリアデニル化シグナル配列は、本発明の実行に適切である(例えばヒト又はウシ成長ホルモン及びSV40ポリアデニル化シグナルなど)。
【0041】
本発明の別の局面は、上に記載する通りの血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0042】
典型的には、前記核酸はDNA又はRNA分子であり、それらは、任意の適切なベクター(例えばプラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ又はウイルスベクター(上に記載する通り)など)に含まれうる。
【0043】
そのため、本発明のさらなる目的は、上に記載する通りの血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターに関する。
【0044】
本発明のさらなる目的は、上に記載する通りの血管内皮細胞バリアの完全性の保存のために、ANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸(又はその核酸を含むベクター)を含む宿主細胞に関する。
【0045】
同じ核酸及びベクターは、また、冠動脈性心臓疾患、特に心筋梗塞の処置におけるノーリフローの防止における使用のために有用でありうる。
【0046】
本発明は、それを必要とする患者において虚血状態を処置する方法に関し、以下からなる工程:
− i)虚血臓器又は組織において血液供給を回復すること、
− ii)前記患者に、治療的に効果的な量の本発明のANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター・・・)を投与することにより、前記虚血臓器又は組織の血管内皮細胞バリアの完全性を保存すること
を含む。
【0047】
特に、本発明は、それを必要とする患者において急性心筋梗塞を処置するための方法に関し、以下からなる工程:
− i)心臓虚血組織において血液供給を回復すること、
− ii)前記患者に、治療的に効果的な量の本発明のANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター)を投与することにより、前記心臓虚血組織の血管内皮細胞バリアの完全性を保存すること
を含む。
【0048】
特定の実施態様において、上に記載する通りの工程i)及びii)を連続して又は同時に実施してもよい。
【0049】
「治療的に効果的な量」により、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で血管内皮細胞バリアの完全性を保存するための十分な量のANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター)を意味する。本発明の化合物及び組成物の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決められることが理解されるであろう。任意の特定の患者についての特定の治療的に効果的な用量レベルは、以下:処置されている障害及び障害の重症度;用いられる特定の化合物の活性;用いられる特定の組成物、患者の年齢、体重、一般健康、性別、及び食事;投与時間、投与経路、及び用いられる特定の化合物の排泄速度;治療期間;用いられる特定のポリペプチドと組み合わせで又はそれと同時に使用される薬物;及び医学的技術分野において周知の因子を含む種々の因子に依存する。例えば、所望の治療的効果を達成するために要求されるものよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは、当技術分野の範囲内で周知である。
【0050】
本発明の医薬的組成物:
本発明のさらなる目的は、上に記載する通りの血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター・・・)を含む医薬的組成物に関する。本発明の医薬的組成物は、また、冠動脈性心臓疾患、特に心筋梗塞の処置におけるノーリフローの防止における使用のために有用である。
【0051】
典型的には、ANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター)を、医薬的に許容可能な賦形剤、及び、場合により、徐放性マトリクス(例えば生分解性ポリマーなど)と組み合わせて、治療用組成物を形成してもよい。
【0052】
「医薬的に」又は「医薬的に許容可能な」は、哺乳動物、特にヒトに投与した場合(必要に応じて)、有害の、アレルギー性の、又は他の厄介な反応を産生しない分子実体及び組成物を指す。医薬的に許容可能な担体又は賦形剤は、非毒性の固体、半固体、もしくは液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料、又は任意の型の補助製剤を指す。
【0053】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所、又は直腸投与のための本発明の医薬的組成物において、活性成分は、単独で又は別の活性成分との組み合わせで、従来の医薬的支持体との混合物として、動物及び人間に単位投与形態で投与することができる。適切な単位投与形態は、経口経路形態(例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒剤及び経口懸濁剤又は溶液など)、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、皮内、髄腔内及び鼻腔内投与形態ならびに直腸投与形態を含む。
【0054】
好ましくは、医薬的組成物は、注入することが可能な製剤用の医薬的に許容可能である賦形剤を含む。これらは、特に等張性の無菌生理食塩溶液(リン酸一ナトリウム又はリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムなど、あるいはそのような塩の混合物)、又は乾燥した、特に凍結乾燥組成物でありうるが、それらは、滅菌水又は生理学的食塩水の添加時に、場合に依存して、注射用溶液の構成を許す。
【0055】
注射用の使用のために適切な医薬的形態は、無菌水溶液又は分散剤;ゴマ油、ピーナッツ油、又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射溶液又は分散剤の即時調製のための無菌粉末を含む。全ての場合において、形態は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度まで液体でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、微生物(例えば細菌及び真菌など)の混入作用に対して保存されなければならない。
【0056】
遊離塩基又は薬理学的に許容可能な塩としての本発明の化合物を含む溶液は、界面活性剤(例えばヒドロキシプロピルセルロースなど)と適切に混合し、水中で調製することができる。分散剤は、また、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物ならびに油中で調製することができる。保存及び使用の普通の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含む。
【0057】
ANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター)は、中性又は塩の形態で組成物に製剤化することができる。医薬的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)を含み、それらは、無機酸、例えば、塩酸又はリン酸、あるいは酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基と形成される塩は、また、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化鉄など、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来しうる。
【0058】
担体は、また、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、及び野菜油を含む溶媒又は分散媒質でありうる。適した流動性は、例えば、コーティング(例えばレシチンなど)の使用により、要求される粒子サイズの維持により(分散剤の場合において)、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌薬剤及び抗真菌薬剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど)によりもたらすことができる。多くの場合において、等張薬剤(例えば、糖又は塩化ナトリウム)を含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤の組成物(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)中での使用によりもたらすことができる。
【0059】
無菌注射用溶液は、上に列挙する他の成分のいくつかを伴う適当な溶媒中に、要求される量で活性ポリペプチドを取り込ませることにより調製し、必要に応じて、ろ過滅菌が続く。一般的に、分散剤は、種々の滅菌活性成分を、基礎分散媒質及び上に列挙するものからの要求される他の成分を含む無菌賦形剤中に取り込ませることにより調製する。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合において、好ましい調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、それによって、活性成分+先に無菌ろ過したその溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末がもたらされる。
【0060】
製剤化時に、溶液は、投与製剤と適合する様式で、治療的に効果的な量で投与されうる。製剤は、種々の投与形態(例えば上に記載する注射用溶液の型など)で容易に投与されるが、しかし、薬物放出カプセルなどを用いることもできる。
【0061】
水溶液中での非経口投与のために、例えば、溶液は、必要な場合、適切に緩衝化し、液体希釈剤は、最初に、十分な生理食塩水又はグルコースを用いて等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与のために特に適切である。これに関連して、用いることができる無菌水性媒質は、本開示に照らして当業者に公知であろう。投与量におけるいくらかの変動が、処置されている患者の状態に依存して必ず生じる。投与に責任のある人は、任意の事象において、個々の被験者のために適当な用量を決定する。
【0062】
非経口投与(例えば静脈内又は筋肉内注射など)のために製剤化される本発明の化合物に加えて、他の医薬的に許容可能な形態は、例えば、経口投与のための錠剤又は他の固体;リポソーム製剤;徐放カプセル;及び現在使用されている任意の他の形態を含む。
【0063】
本発明の医療機器:
本発明は、また、血管内装具(例えばステント、バイパスグラフト、血管チューブ周囲の内部パッチ、血管チューブ周囲の外部パッチ、血管カフ、及び血管形成術用カテーテルなど)の間で選択される生体材料又は医療用送達デバイスを調製するためのANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター)の使用に関する。
【0064】
この点において、本発明は、特に、そのようなANGPTL4ポリペプチド(又はANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸もしくはANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター)発現及び/又は活性(上で定義する)を用いてコーティングした生体材料又は医療用送達デバイス(上に言及する)に関し、前記の生体材料又は医療用送達デバイスは、血管内装具(例えばステント、バイパスグラフト、血管チューブ周囲の内部パッチ、血管チューブ周囲の外部パッチ、血管カフ、及び血管形成術用カテーテルなど)の間で選択される。そのような局所の生体材料又は医療用送達デバイスを使用して、任意の血管位置(冠動脈、頚動脈、腎動脈、末梢動脈、大脳動脈、又は任意の他の動脈もしくは静脈の位置を含む)において実施される血行再建術、バイパス、又は移植手順の補助として狭窄を低下させ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン移植を伴う又は伴わない及びステント留置を伴う又は伴わない、あるいは任意の他の心臓もしくは移植手順、又は先天性血管インターベンションと一緒での動脈−静脈透析アクセスなどの場合において吻合狭窄を低下させることができる。
【0065】
例証の目的のために、それにANGPTL4ポリペプチドをコーティングするためのそのような血管内装具及び方法が、特に、WO2005094916に記載されており、又は、当技術分野において現在使用されるものである。装具のコーティングのために使用される化合物によって、好ましくは、前記阻害剤の制御放出が許される。前記化合物は、ポリマー(例えば縫合糸、ポリカーボネート、Hydron、及びElvaxなど)、バイオポリマー/バイオマトリクス(例えばアルギン酸塩、フカン、コラーゲンベースマトリクス、ヘパラン硫酸など)、又は合成化合物、例えば合成ヘパラン硫酸様分子もしくはそれらの組み合わせなどでありうる。ポリマー材料の他の例は、生体適合性生分解性材料、例、ラクトンベースのポリエステル又はコポリエステル、例、ポリラクチド;ポリラクチド−グリコリド;ポリカプロラクトン−グリコリド;ポリオルトエステル;ポリ無水物;ポリアミノ酸;ポリサッカライド;ポリホスファ−ゼン;ポリ(エーテル−エステル)コポリマー、例、PEO−PLLA又はその混合物;及び生体適合性非分解性材料(例、ポリジメチルシロキサン);ポリ(エチレン−ビニルアセテート);アクリル酸ベースのポリマー又はコポリマー、例、ポリブチルメタクリレート、ポリ(ヒドロキシエチルメチル−メタクリレート);ポリビニルピロリジノン;フッ素化ポリマー、例えばポリテトラフルオエチレン(polytetrafluoethylene)など;セルロースエステルを含みうる。ポリマーマトリクスが使用される場合、それは、2層、例えば、前記阻害剤が取り込まれているベース層(例えばエチレン−コ−ビニルアセテート及びポリブチルメタクリレートなど)及びトップコート(例えばポリブチルメタクリレートなど)(前記阻害剤の拡散制御として作用する)を含みうる。あるいは、前記阻害剤は、ベース層中に含まれてもよく、補助剤が外層に取り込まれてもよく、又はその逆でもよい。
【0066】
そのような生体材料又は医療用送達デバイスは、生分解性でありうる、又は、金属もしくは合金(例、Ni及びTi)、又は別の安定物質(永久的な使用を意図する場合)で作製されうる。本発明の阻害剤は、また、マイクロポア又はチャネルを含むように改変されているステント又はグラフトの金属中に封入されうる。また、本発明の阻害剤を含む、上に開示する通りのポリマー又は他の生体適合性材料で作製された血管チューブ周囲の内部パッチ、血管チューブ周囲の外部パッチ、又は血管カフは、また、局所送達のために使用してもよい。
【0067】
前記の生体材料又は医療用送達デバイスは、阻害剤が、前記の生体材料又は医療用送達デバイスから経時的に放出されて、周辺組織に入ることを許す。前記放出は、1ヶ月から1年の間に生じうる。本発明の局所送達は、低濃度の循環化合物による疾患部位での高濃度の本発明の阻害剤を許す。そのような局所送達適用のために使用される前記阻害剤の量は、使用される化合物、処置される状態、及び所望の効果に依存して変動しうる。本発明の目的のために、治療的に効果的な量を投与する。
【0068】
前記の生体材料又は医療用送達デバイスの局所投与は、好ましくは、血管病変部位で又はその近くで起こる。投与は、以下の経路:カテーテル又は他の血管内送達系を介して、鼻腔内、気管支内、腹腔内、又は食道内のいずれか1つ又は複数によりうる。ステントは、一般的に、管の内腔内に残される管状構造として使用し、閉塞を軽減する。それらは、血管の壁成分に関連する閉塞を剪断及び破壊し、拡大内腔を得るために、非拡張形態で管内腔中に挿入してもよく、次に、自律的に(自己拡張ステント)又はインサイツの第2のデバイス(例、狭窄血管及び身体の通路内で膨張させるカテーテルマウント血管形成術用バルーン)の助けを用いて拡張させる。
【0069】
本発明の診断方法:
本発明のさらなる局面は、微小血管機能障害を有する又はその素因があると考えられる患者をテストする方法に関し、それは、以下のために前記患者からの生物学的サンプルを分析する工程:
(i)ANGPTL4をコードする遺伝子及び/又はその関連プロモーターにおける変異の存在を検出すること、及び/又は
(ii)ANGPTL4をコードする遺伝子の発現を分析すること。
【0070】
本明細書において使用する通り、用語「生物学的サンプル」は、患者からの任意のサンプル(例えば血液又は血清など)を指す
を含む。
【0071】
ANGPTL4をコードする遺伝子において変異を検出するための典型的な技術は、制限断片長多型、ハイブリダイゼーション技術、DNAシークエンシング、エキソヌクレアーゼ耐性、マイクロシークエンシング、ddNTPを使用した固相伸長、ddNTPを使用した溶液中での伸長、オリゴヌクレオチドアッセイ、単一ヌクレオチド多型を検出するための方法、例えば動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション、ライゲーション連鎖反応、ミニシークエンシング、DNA「チップ」、PCRと又は分子指標と融合させた単一又は二重標識プローブを用いた対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション、及び他を含みうる。
【0072】
ANGPTL4をコードする遺伝子の発現を分析することは、転写核酸又は翻訳タンパク質の発現を検出するための多種多様の周知の方法のいずれかにより評価されうる。
【0073】
好ましい実施態様において、ANGPTL4をコードする遺伝子の発現は、前記遺伝子のmRNA転写物又はmRNA前駆体(例えば新生RNAなど)の発現を分析することにより評価される。前記分析は、患者からの生物学的サンプル中の細胞からmRNA/cDNAを調製すること、及び、mRNA/cDNAと参照ポリヌクレオチドをハイブリダイズすることにより評価することができる。調製したmRNA/cDNAは、しかし、限定しないが、サザン又はノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析(例えば定量的PCR(TaqMan)など)、及びプローブアッセイ(例えばGeneChip(TM)DNAアレイ(AFF YMETRIX)など)を含むハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅アッセイにおいて使用することができる。
【0074】
有利には、ANGPTL4をコードする遺伝子から転写されるmRNAの発現レベルの分析は、核酸増幅のプロセス(例、RT−PCR(米国特許第4,683,202号に記載する実験的な実施態様)、リガーゼ連鎖反応(BARANY, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.88, p: 189-193, 1991)、自己持続的な配列複製(GUATELLI et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.57, p: 1874-1878, 1990)、転写増幅系(KWOH et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.86, p: 1173-1177, 1989)、Q−ベータレプリカーゼ(LIZARDI et al., Biol. Technology, vol.6, p: 1197, 1988)、ローリングサークル複製(米国特許第5,854,033号)、又は任意の他の核酸増幅方法による)を含み、当業者に周知の技術を使用した増幅分子の検出が続く。これらの検出スキームは、そのような分子が非常に低い数で存在する場合、核酸分子の検出のために特に有用である。本明細書において使用する通り、増幅プライマーは、遺伝子の5’又は3’領域(それぞれプラス鎖及びマイナス鎖、又はその逆)にアニールし、間に短い領域を含むことができる核酸分子のペアであるとして定義される。一般的に、増幅プライマーは、約10〜30ヌクレオチド長であり、約50〜200ヌクレオチド長の領域に隣接する。適切な条件下で、及び、適切な試薬を用いて、そのようなプライマーは、プライマーにより隣接されるヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を許す。
【0075】
別の好ましい実施態様において、ANGPTL4をコードする遺伝子の発現は、前記遺伝子から翻訳されたタンパク質の発現を分析することにより評価される。前記分析は、抗体(例、放射標識抗体、発色団標識抗体、フルオロフォア標識抗体、又は酵素標識抗体)、抗体誘導体(例、基質との又はタンパク質/リガンド対(例、ビオチン−ストレプトアビジン)のタンパク質又はタンパク質のリガンドとの抗体複合体)、又はANGPTL4をコードする遺伝子から翻訳されたタンパク質に特異的に結合する抗体フラグメント(例、単鎖抗体、単離された抗体可変ドメインなど)を使用して評価することができる。
【0076】
前記分析は、当業者からの周知の種々の技術(しかし、限定しないが、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット分析、及び酵素結合免疫吸着アッセイ(RIA)を含む)により評価することができる。
【0077】
本発明の方法は、患者からの生物学的サンプル中でのANGPTL4をコードする遺伝子の発現レベルと、コントロールにおける前記遺伝子の正常な発現レベルを比較することを含みうる。正常な発現レベルと比較した、患者の生物学的サンプル中での前記遺伝子の有意に弱いレベルの発現は、患者が微小血管機能障害を有する又はそれを発生する素因があることの指標である。ANGPTL4をコードする遺伝子の発現の「正常」レベルは、微小血管機能障害により苦しめられていない患者の生物学的サンプル中での前記遺伝子の発現レベルである。好ましくは、発現の前記正常レベルは、コントロールサンプル(例、増加した網膜血管透過性により苦しめられていない健康な患者からのサンプル)中で評価し、好ましくは、いくつかのコントロールサンプル中での前記遺伝子の平均発現レベルである。
【0078】
本発明を、さらに、以下の図面及び実施例により例証する。しかし、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するものとして任意の方法で解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】コントロールウサギにおける及び100ng/mlヒト組換えANGPTL4注射ウサギにおける梗塞サイズ(リスクのある部位でのパーセンテージとして表す)。白丸は個々の梗塞サイズを示し、黒丸は平均±SEMを示す(*p<0.05)(A)。コントロールウサギにおける及び100ng/mlヒト組換えANGPTL4注射ウサギにおける梗塞サイズのパーセンテージとして表される(B)又はリスクのある部位のパーセンテージとして表される(C)ノーリフローゾーンの範囲。白丸は個々のノーリフローゾーンを示し、黒丸は平均±SEMを示す(*p<0.05)。ウサギ梗塞心筋の顕微鏡画像(D、スケールバー=250μm)。HE染色によって、100ng/mlヒト組換えANGPTL4注射ウサギと比較して、コントロールウサギにおいてより顕著であった、矢印(A)により示す出血により特徴付けられる拡散した虚血部位が明らかになった。
【0080】
実施例1:アンジオポエチン様4による血管内皮細胞バリアの完全性の保存を通じた心臓保護
材料&方法:
実験は、フランス農務省により編集された公式規則に従って実施した。この試験は、実験動物の世話及び使用に関するINSERM(フランス国立衛生研究所)の基準に従い、欧州連合理事会指令(86/609/EEC)に従って実施した。
【0081】
動物及びジェノタイピング:ジェノタイプを、以下の条件を使用した尾部のゲノムDNAのPCRにより決定した:94℃で30秒間にわたる変性、56℃で45秒間にわたるアニーリング、及び72℃で1分15秒にわたる伸長、30サイクル。野生型(angptl4+/+)、angptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZノックアウトC57BL/6マウス(8〜12週齢)を心筋梗塞プロトコールに供した、又は、基礎条件においてコントロールとして使用した。
【0082】
心筋虚血−再灌流実験:雄angptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZマウスを、ペントバルビタールナトリウムの腹腔内注射により麻酔した。左冠動脈の一過性閉塞を伴う心筋梗塞を45mnにわたり実施し、次に、組織を1時間〜3週間にわたり再灌流した。angptl4発現試験のために、WTマウスは、1時間、3時間、24時間、48時間、72時間、1週間、2週間、3週間の再灌流を受けた(2匹の動物/群)。梗塞サイズを評価するため、及び、免疫組織化学(IHC)試験又は超微細構造試験のために、雄angptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZマウスを虚血後4時間又は48時間のいずれかの間に再灌流した(4〜5匹の動物/群)。透過性分析のために、4時間の再灌流だけ、angptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZマウスを用いて実施した(3〜5匹の動物/群)。リスクのある部位をエバンスブルー染色により同定し、梗塞部位を2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)染色により同定した。リスクのある部位を非青色領域として同定し、左心室重量のパーセンテージとして表した。梗塞部位を、TTCネガティブゾーンとして同定し、リスクのある部位のパーセンテージとして表した。超微細構造分析をHitachi H-9500電子顕微鏡で実施した。
【0083】
ウサギ実験:ニュージーランドウサギ(2.5〜3.0kg)を、ゾラゼパム、チレタミン、及びペントバルビタールを使用して麻酔した(全て20〜30mg/kg静脈内)。動物に挿管し、機械的に換気し、左開胸を実施した。縫合糸を、左冠動脈の主要分枝の下に通した。結紮の末端を短いプロピレンチューブに通し、スネアを形成した。ウサギは、次に、賦形剤又はヒト組換えangptl4(10μg/kg静脈内;100ng/ml)のいずれかを無作為に受けた。5分後、冠動脈閉塞(CAO)を、チューブを通じてスネアを引くことにより30分の間に誘導した。再灌流を、その後、スネアを放出することにより誘導した。胸を、次に、層で閉じた。再灌流の開始から4時間後、胸を再び開き、チオフラビンS(4%;1.5ml/kg)を、左心房を通じて迅速に注入した。ウサギを、次に、ペントバルビタール、続いて塩化カリウムを使用して屠殺した。切除後、心臓を、アルシアンブルー(0.5%)を用いて逆行的に灌流し、スライスに切った。スライスを、UV光を使用して撮影し、ノーリフローの領域を同定した。ノーリフロー、梗塞、及びリスクゾーンの部位を、マウスと同様に決定した。
【0084】
インサイツハイブリダイゼーション(ISH)及び免疫組織化学(IHC)分析:全長ヒト又はマウスangptl4 ORFをPCRにより増幅し、pGem.T(Promega)にサブクローニングし、35S−RNAアンチセンスマウスangptl4プローブを生成するために使用した。センスプローブをネガティブコントロールとして使用し、テンプレートとして使用した。センスプローブ、アンチセンスヒト又はマウスangptl4プローブを使用したISHならびにIHC免疫標識抗CD45、Mac3、及びCD31実験を、以前に記載された通りに実施した(Brechot, N. et al. Modulation of macrophage activation state protects tissue from necrosis during critical limb ischemia in thrombospondin-1-deficient mice.PLoS ONE 3, e3950 (2008))。抗CD34抗体を使用したIHCに組み合わせたヒトangptl4を検出するISH(R&D system)を、ヒト梗塞心臓切片で実施した。
【0085】
改変マイルズアッセイ:雄angptl4−/−及びangptl4+/−マウスにペントバルビタールを用いて麻酔した。基礎条件については、マウスに1%エバンスブルー(200μL)を用いて尾静脈中に注射し、4時間後に屠殺した。虚血−再灌流条件については、マウスを、45mnにわたり冠動脈閉塞に供し、1%エバンスブルー(200μl)を用いて4時間の再灌流前に静脈内注入した。屠殺時、マウスを、18ゲージのカニューレを使用して、クエン酸緩衝液(pH4)を用いて大動脈を通じて灌流した。血液、染料、及び緩衝液は、右心房における開口を通じて出た。エバンスブルーを、1mlのホルムアミド中で、70℃で18時間にわたり溶出した。遠心分離後、620nmでの吸光度を、分光光度計を使用して測定した。溢出したエバンスブルー(ng)を標準曲線から決定し、組織重量(g)に対して標準化した。データを、3又は5匹のマウス/遺伝子型の平均±s.e.m.として提示する。
【0086】
免疫蛍光試験及び凍結切片上での共焦点分析:虚血及び4時間の再灌流に供したマウスを、腹腔内注射したケタミン及びキシラジンを用いて麻酔した。FITC−ビーズ(20μl)を、以前に記載された通りに大腿静脈中に注射した(Baffert, F., Le, T., Thurston, G. & McDonald, D.M. Angiopoietin-1 decreases plasma leakage by reducing number and size of endothelial gaps in venules. Am J Physiol Heart Circ Physiol 290, H107-18 (2006))。胸を迅速に開き、脈管構造を、改変マイルズアッセイについて説明した通りに、1%パラホルムアルデヒドを用いて120mmHgの圧力で2分間にわたり灌流した。心臓を次に室温で1時間にわたり1%パラホルムアルデヒド中に置き、PBSを用いて数回リンスし、30%スクロースを用いて一晩浸透し、クリオスタット切片のために凍結した。厚さ80μmの切片を、0.3%トリトンX−100、0.2%ウシ血清アルブミンを含むPBS中の5%正常ヤギ血清中で、室温で1時間にわたりインキュベートし、非特異的な抗体結合をブロックし、一次抗体を用いて一晩インキュベートした。内皮細胞、周皮細胞、及び接着接合を、それぞれラット抗CD31(BD Pharmingen)抗体、ウサギ抗NG2(Chemicon)抗体、及びラット抗VE−カドヘリン(E. Dejanaからの個人的な寄贈、IFOM)抗体を用いて同定した。PBSを用いた数回のリンス後、試料を、1:500に希釈した蛍光(Alexa 555及びAlexa 647)二次抗体(抗ラット又は抗ウサギ;Molecular Probes)を用いて室温で3時間にわたりインキュベートした。最後に、試料をVectashield(Vector Laboratories)中にマウントした。共焦点画像を、Leica TCS SP5顕微鏡を使用することにより取得した。共焦点切片を、63x(NA=1.4)油浸対物を使用して、Leica SP5顕微鏡(Leica Microsystems GmbH)で撮像した。各切片の間での0.117μmの増分を使用した。様々な構造の三次元再構成を、Amira 5.2.1ソフトウェア(Visage Imaging GmbH)においてLABELVOXEL及びSURFACEGENモジュールを使用して得た。
【0087】
心筋細胞の単離及び生存アッセイ:麻酔下で、心臓を胸から除去し、カニューレ処置した。心臓を、タイロード緩衝液([mM] NaCl 113;KCl 4.7;KHPO 0.6;NaHPO 0.6;HEPES 10;MgSO 1.2;NaHCO 12;KHCO 10;タウリン30;フェノールレッド0.032;グルコース5.5;NaOH 1Nを用いて7.46に調整したpHを伴う)を用いて一定圧力及び37℃で4分間にわたり灌流した。灌流を、0.1mg/ml Liberase Blendzyme IV(Roche diagnostics)及び0.14mg/mlトリプシン(Sigma)を含む酵素溶液([mM] NaCl 113;KCl 4.7;KHPO 0.6;NaHPO 0.6;HEPES 10;MgSO 1.2;NaHCO 12;KHCO 10;タウリン30;フェノールレッド0.032;グルコース5.5;CaCl 0.0125;NaOH 1Nを用いて7.46に調整したpHを伴う)に切り替えた。心臓が膨張し、わずかに蒼白色になった際、心房及び大動脈を除去した;左心室を小片に切り、穏やかに粉砕した。細胞浮遊液を停止緩衝液([mM] NaCl 113;KCl 4.7;KHPO 0.6;NaHPO 0.6;HEPES 10;MgSO 1.2;NaHCO 12;KHCO 10;タウリン30;フェノールレッド0.032;グルコース5.5;CaCl 0.0125;ウシ血清5%;NaOH 1Nを用いて7.46に調整したpHを伴う)中に移した。細胞外カルシウムを1.0mMまで増分的に加えた。試験した全ての細胞は、光学顕微鏡を用いた観察下で、ロッド形であり、明かな横紋を有し、それらの表面上に任意の目に見える小胞を欠いた。心筋細胞を、5%CO及び95%Nの加湿雰囲気を含む嫌気チャンバー中で3時間にわたりインキュベートした。実験培地を、無血清、無グルコースに変えた。正常酸素実験培地を、5%CO及び空気の加湿大気中のウォータージャケットインキュベーターにおいて平衡化した。心筋細胞の生存率を、最終濃度0.4%に希釈したトリパンブルー溶液(Sigma, Saint-Quentin Fallavier, France)を用いて組織培養ディッシュ中の細胞を染色することにより測定した。筋細胞を、明視野の顕微鏡を使用して、100×倍率で可視化した。3つの無作為な顕微鏡視野における生存(未染色)及び非生存(青色染色)心筋細胞の数を記録し、少なくとも100個の細胞を各視野においてカウントした。パーセント生存率を、各条件における全(未染色及び染色)筋細胞の数により割った各ディッシュにおいてカウントされた未染色筋細胞の数として定義した。
【0088】
心臓パラメータの超音波分析:マウスを、12MHz線形トランスデューサーを備えた心エコー(Vivid 7, GE Medical Systems Ultrasound)を使用した超音波測定に供した。
【0089】
統計分析:分析を、StatViewソフトウェア(バージョン5.0;Abacus Concepts, Inc., Berkeley, CA)を使用して実施した。
【0090】
結果:
ヒトにおける心筋梗塞後のANGPTL4発現:ANGPTL4は低酸素により誘導され、ヒトにおける様々な病理学的状態(例えば重大な後肢虚血など)において及び多数の腫瘍型において発現されるため、本発明者らは、本明細書において、ANGPTL4が心筋虚血後のヒト心臓において発現しているか否かを研究しようとした。急性心筋梗塞で死亡した患者からの組織切片が、ジョルジュ・ポンピドー欧州病院病理部(フランス、パリ)から得られ、梗塞部位を可視化することを許した。ISHを使用して、angptl4 mRNA発現を以下の切片において分析した。梗塞部位周辺のパッチ状染色パターンが観察された。より高倍率での分析では、angptl4 mRNA発現が、心筋細胞において、単核炎症細胞、恐らくはマクロファージにおいて、及びCD34について陽性の内皮細胞において誘導されることが示された。
【0091】
梗塞サイズ及び組織損傷がangptl4LacZ/LacZマウスにおいて増加する:angptl4 mRNA発現を、次に、C57/BL6マウスにおける心筋虚血再灌流のマウスモデルで分析した。それは、虚血に続く3時間というすぐに及び再灌流後の2週間までISHにより梗塞部位においてインサイツで検出することができた。ANGPTL4が心筋梗塞の間に果たしうる機能的役割を決定するために、angptl4遺伝子座をlacZレポーター遺伝子により置換したangptl4ノックアウトマウスを作製し、8世代超にわたりC57/BL6マウスにおいて交配した。いくらかの致死性が発生の間に観察されたが、しかし、生存するangptl4LacZ/LacZ新生仔(期待される頻度の〜25%で得られた)は、生存可能であり、繁殖性であり、機能的な心臓欠陥を示さなかった。
【0092】
心筋虚血−再灌流をangptl4LacZ/+において及びangptl4LacZ/LacZマウスにおいて実施した。リスクゾーンのパーセンテージとして表される梗塞サイズ(IS、リスクのある部位の%)は、コントロールマウス(36±3%)と比較して、angptl4LacZ/LacZマウス(47±3%)において増加した。
【0093】
本発明者らは、次に、両方の遺伝子型において梗塞心臓切片からのHEスライドで出血、浮腫、炎症を定量化した。増加した梗塞サイズに従って、HE染色切片の組織学的分析では、組織壊死が、コントロールマウスと比較して、angptl4LacZ/LacZにおいて大部分が増加することが明らかになった(angptl4LacZ/LacZにおける2.5対angptl4LacZ/+マウスにおける1.2の組織学的スコア)。angptl4LacZ/LacZにおけるより重度の組織傷害(angptl4LacZ/+マウスと比較して)を、また、浮腫(2.3対0.8)、出血(2.3対1.1)、及び炎症(2.8対1.1)の点において定量化した。
【0094】
虚血後の炎症(しかし、毛細血管密度ではない)は、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて調節される:虚血後の炎症応答は、また、組織損傷に影響を与えうるため、本発明者らは、次に、両方の遺伝子型において、隣接するHE染色切片で区切られた梗塞及び非梗塞部位の両方においてMac3免疫染色を使用してマクロファージ密度を分析した。マクロファージ密度がangptl4LacZ/LacZ対angptl4LacZ/+マウスにおける梗塞部位において有意に高かったのに対し(平均マクロファージ密度が1822±117対438±71/mm2に達した。p=0.017)、統計的差はコントロール非梗塞部位において両方の群の間で観察されなかった(157±120対111±48/mm2、p=0.33)。
【0095】
成人の心臓血管ネットワークを、また、CD31を使用して分析し、差は、基礎条件又は梗塞部位のいずれにおいても両方の遺伝子型の間で定量化されなかった(それぞれ4510±124対4380±117平均毛細血管密度/mm2、p=0.22)。大半の変化した梗塞部位(中央梗塞部位)において、減少したマイクロキャピラリー密度が、両方の遺伝子型において同様に観察された(平均毛細血管密度がangptl4LacZ/LacZにおける1115±56対angptl4LacZ/+における1030±48/mm2に達した。p=0.16)。
【0096】
angptl4LacZ/LacZマウスからの心筋細胞の生存は、低酸素により影響されない:インビトロ及びインビボ実験を、次に、いずれの機構がangptl4LacZ/LacZマウスにおける増加した梗塞サイズ及び組織損傷に関与しうるのかを解読するために実施した。angptl4 mRNAが、心筋細胞における低酸素誘導因子1により媒介される低酸素により誘導されたため、本発明者らは、最初に、ANGPTL4の直接的なオートクライン効果を仮定した。両方の遺伝子型からの心筋細胞を、従って、分離し、低酸素インビトロ生存アッセイに供した。心筋細胞の生存率を、正常酸素(20%Oで4時間)又は低酸素(1%Oで3時間、続いて20%Oで1時間)のいずれかにおいて決定した。心筋梗塞サイズに関するインビボでの結果とは対照的に、生存率における差は、正常酸素又は低酸素のいずれかにおいて両方の群間で観察されず、梗塞時のANGPTL4の保護効果が、心筋細胞に対する直接的な保護に関連せず、しかし、むしろ、虚血−再灌流の間での冠動脈の脈管構造に対する効果に関連したことを示唆する。
【0097】
虚血−再灌流によって、angptl4 koマウスにおいて重度の血管変化が誘導された:透過型電子顕微鏡試験を、次に、超微細レベルでangptl4LacZ/LacZマウス及びangptl4LacZ/+マウスにおける虚血後の組織傷害を比較するために実施した。再灌流した心筋細胞は、両方の群間で差を示さなかった。超微細構造分析では、angptl4LacZ/+マウスにおける梗塞部位において、48時間の再灌流後に、炎症細胞に乏しい大きな浮腫部位が示されたのに対し、炎症細胞はangptl4LacZ/LacZマウスにおける浮腫部位に侵入していた。多核好中球、マクロファージ、リンパ球、及びフィブリノゲン沈着が観察された。angptl4LacZ/+マウスが内皮細胞の周囲に正常な周皮細胞の被覆を示したのに対し、内皮細胞と周皮細胞の間の大きな浮腫空間がangptl4LacZ/LacZマウスからの血管において観察された。全体では、これらのデータは、angptl4LacZ/LacZマウスにおける増加した炎症性浸潤及び梗塞サイズと相関する、増加した血管変化を示す。
【0098】
ノーリフロー部位の評価及びANGPTL4の治療可能性:血管変化がノーリフローに関連付けられるため、本発明者らは、さらに、angptl4LacZ/LacZ及びangptl4LacZ/+マウスにおいてノーリフローを分析した。ノーリフローの解剖学的ゾーンは、インタクトな内皮に結合するチオフラビンS染色により区切られ、紫外線に曝露された際に灌流組織が蛍光を発した。壊死ゾーンのパーセンテージとして表されるノーリフローのゾーンは、angptl4LacZ/+群(11±2%)と比較して、angptl4LacZ/LacZ群(19±1%)においてより重要であった(p<0.05)。
【0099】
本発明者らは、次に、組換えANGPTL4による血管変化の減衰が、内皮バリア機能の増強に導き、それは、最終的に、このモデルにおいて結果の虚血−再灌流からマウスを保護しうるとの仮説を立てた。それにもかかわらず、心筋虚血−再灌流は、これらの条件においてマウスでの大量のノーリフローを誘導せず、それを、任意の潜在的な治療効果を評価するための困難なモデルにする。概念の証明として、本発明者らは、従って、以前に記載された通りに、第2の非げっ歯類の種における、即ち、ノーリフロー現象が十分に確立されている心筋虚血再灌流の開胸ウサギモデルにおけるANGPTL4の治療可能性を分析しようとした(Hale, S.L., Mehra, A., Leeka, J. & Kloner, R.A. Postconditioning fails to improve no reflow or alter infarct size in an open-chest rabbit model of myocardial ischemia-reperfusion. Am J Physiol Heart Circ Physiol 294, H421-5 (2008))。虚血病態における循環ANGPTL4のレベルは人間又は任意の他の種のいずれでも試験されていないのに対し、最近の刊行物は、ヒトにおける血漿ANGPTL4レベルの生理学的決定因子(例えばエネルギー制限及び血漿FFA及び循環レベル20〜100ng/mlなど)を同定する(Kersten, S. et al. Caloric restriction and exercise increase plasma ANGPTL4 levels in humans via elevated free fatty acids. Arterioscler Thromb Vasc Biol 29, 969-74 (2009))。本発明者らは、従って、虚血−再灌流の5分前に、ウサギにおける100ng/mlヒト組換えANGPTL4の静脈内注射を実施した。リスクゾーンのパーセンテージとして表される梗塞サイズ(IS、リスクのある部位の%)は、コントロール群において57±5%及びANGPTL4処置群において34±7%であった(図1A);このように、ANGPTL4は心臓保護を与えた。次に、ノーリフローのゾーンを試験した。リスクのある部位のパーセンテージとして表した場合、それはコントロール群において41±2%及びANGPTL4処置群において19±6%であった(図1B)。より重要なことに、梗塞サイズのパーセンテージとして表した場合、それはコントロール群において73±4%及びANGPTL4処置群において55±7%であった(図1C)。組織学的分析は、心筋梗塞が、コントロール群における間隙空間内の壊死及び巨大な出血のコアにあったことを示す。ANGPTL4処置群において、出血の範囲は、全心臓切片部位のパーセンテージとして表され、コントロール群と比較して減少した(5.7±2%対21.9±6.4%、p<0.05)。このように、これらの結果は、従って、ANGPTL4が、コントロールと比較して、血管ネットワークの完全性の保存を誘導し、ノーリフローの範囲を低下させることを示す。
【0100】
血管透過性の早期虚血後制御は、心臓組織保護に関与する:血管保護がANGPTL4処置ウサギにおいて観察されたため、本発明者らは、早期虚血後血管透過性亢進が、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて観察された増加した血管変化、炎症、及び心筋損傷についての機構を構成しうるという仮説をテストした。本発明者らは、従って、angptl4LacZ/LacZ及びangptl4LacZ/+マウスの両方の心臓における45分間の虚血及び4時間だけの再灌流後の血管透過性を分析した。血管密度は基礎条件において両方の遺伝子型において同様であり、45分間の虚血及び4時間の再潅流後のCD31及びMac3のHEスライド及び免疫標識の組織学的試験では、組織壊死又は血管密度もしくは炎症のいずれも両方の群において異ならないことが示された。血管心臓床からのエバンスブルー色素の溢出及び間質における蓄積を、次に、angptl4LacZ/LacZにおいて及びangptl4LacZ/+マウスにおいて測定した。angptl4LacZ/LacZマウスが、虚血から4時間後のangptl4LacZ/+マウスと比較して、増加した心臓血管漏出を示したのに対し(117.5±15.2対84.8±2.7、p=0.032)、有意差は基礎条件において観察されなかった。
【0101】
次に、4時間の再灌流後の増加した透過性に関与する事象をより良く特徴付けるために、本発明者らは、次に、血管漏出のゾーンの局在化を許し、それにより本発明者らが共焦点顕微鏡によりこれらの部位の詳細な分析を行うことを許す蛍光マイクロスフェアの注入を実施した。微小血管密度及び周皮細胞密度は、両方の群間で同様であった(CD31及びNG2免疫反応性により決定した通り)。接着接合でのVE−カドヘリンの安定性が内皮の透過性及び完全性の維持のために重大であるため、本発明者らは、従って、内皮接着接合を研究しようとした。VE−カドヘリン染色の不均一なパターンがangptl4LacZ/+マウスにおいて観察された;強いシグナル及び線形シグナルの両方がより薄いシグナルに隣接していた。対照的に、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて、虚血−再灌流傷害は、より不連続なVE−カドヘリン染色により示される通り、主に破壊された内皮接合におけるより重度の損傷を誘導した。また、これらの破壊された接合は、FITC−ビーズの溢出を大量に許した。比較的に、angptl4LacZ/+マウスにおけるFITC−ビーズの非存在は、残りの安定化接合が、これらのマウスにおいてバリア機能を維持するために十分であることを示した。
【0102】
並行して、同様の分析を基礎条件において実施した。差は、血管密度及び周皮細胞の被覆の点で、両方の遺伝子型間で観察されなかった。本発明者らは、angptl4LacZ/+マウスにおいて密な血管ネットワークを標識する強いVE−カドヘリン線形シグナルを示したのに対し、このシグナルは、また、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて連続的であるが、しかし、より薄く現れた。基礎条件において血管漏出の差を明らかにしなかった改変マイルズアッセイにおいて得られたデータに従って、FITC標識ビーズの溢出は両方の群において存在しなかった。これらの観察は、従って、VE−カドヘリン分布が、基礎条件におけるコントロールマウスと比較して、angptl4LacZ/LacZマウスにおけるそれほど連続的でなく、薄く現れるのに対し、これは心臓において基礎血管透過性を増加させるために十分ではなかったことを示唆する。対照的に、虚血状態は、コントロールマウスと比較して、angptl4LacZ/LacZマウスにおけるより高い血管透過性に最終的に導く接合分解をさらに誘導した。
【0103】
これらの結果は、心臓保護が、血管保護及び血管内皮細胞バリアの完全性の保存を通じて達成されうることを示唆する。全体では、本発明者らは、本明細書において、急性心筋虚血の間での新たな関連する生理的標的としてANGPTL4を記載する。
【0104】
考察:
心筋虚血時には、低酸素誘導因子(HIF)タンパク質(低酸素に対する転写応答の調節に関与する主要な転写因子)が迅速に活性化し、血管新生応答の調節に関与するVEGF−A発現を誘導し、しかし、また、血管透過性及び浮腫を起こし、虚血組織への広範な傷害を招く。VEGF−A放出の第1の波は、内皮細胞透過性及び組織浮腫における増加を誘導し、虚血−再灌流傷害に寄与するのに対し、第2のピークは血管新生修復応答に関係しうる。HIFは、また、酸素欠乏の結果から細胞保護及び代謝変化を誘発する際に必須の役割を果たす。本明細書では、本発明者らは、angptl4 mRNA(インビトロで内皮細胞において及び心筋細胞において、ならびに、重大な後肢虚血及び脳卒中において低酸素により誘導されることが以前に示されている)が、AMIで死亡した患者からの心臓組織においても発現していることを示す。本発明者らは、angptl4 mRNAが、また、AMIのモデルにおけるマウスにおいて発現することをさらに示し、本発明者らは、ANGPTL4が、ノーリフロー及びAMIの範囲を限定する血管内皮細胞バリアの完全性の保存を通じて、虚血後組織損傷の保護を媒介するという証拠を提供する。
【0105】
病理学的虚血状態において、増加した透過性は、内皮接合の安定性により主に制御され、変化した血管の完全性に関与する。Yangらは、非虚血心筋のものと比較して、VE−カドヘリンの心筋組織レベルがリフロー及びノーリフロー心筋において有意に減少することを示したが、微小血管構造の完全性が虚血/再灌流により損傷されたことを示唆する(Yang, Y.J. et al. Post-infarction treatment with simvastatin reduces myocardial no-reflow by opening of the KATP channel. Eur J Heart Fail 9, 30-6 (2007))。今回のインビボ試験において、本発明者らは、angptl4 koマウスが、低下した接着接合の安定性及び増加した血管透過性を示し、それにより増加した心筋梗塞サイズに導くことを初めて示す。内皮細胞における接着接合の主要な成分を構成するVE−カドヘリンは、内皮接合の完全性及びバリア機能を維持するために、出生後の脈管構造においてインビボで要求される。VE−カドヘリンはVEGFR2と会合し、透過性を調節する。実際に、VEGF−A刺激はVEGFR2/VE−カドヘリン複合体の解離を誘導し、それは、Src(内皮細胞間接触及び傍細胞透過性の破壊を促進するために要求される必須の分子)の遮断により防止することができる。本発明者らは、本明細書において、VE−カドヘリン分布がangptl4ノックアウトマウスにおいて混乱し、心臓虚血−再灌流に続く、不安定化した接着接合、減少した血管の完全性及び内皮細胞バリア機能に導くことを示した。アンジオポエチンファミリーの他のメンバーは、また、血管透過性の調節における役割を示す。成熟した脈管構造において、アンジオポエチン−1はVEGF−A又はマスタード油により誘導される透過性を阻害するのに対し、アンジオポエチン−2は、血管漏出を促進することにより、インビボで炎症を起こす。興味深いことに、アンジオポエチン−1は、Tie−2及びホスファチジルイノシトール3−キナーゼをリン酸化し、細胞間接着を維持し、透過性亢進を防止するために必要なGTPアーゼRac1の活性化を誘導することが示されている。アンジオポエチン1は、また、RhoAを通じてmDiaの活性化を推進し、mDiaとSRCの会合を招き、それによりSrc依存的細胞内シグナル伝達の活性化を開始するVEGF−の能力に干渉する。ANGPTL4によるSrc及び/又はRac1シグナル伝達経路の調節が、翻訳後修飾を通じて細胞接合部でそれを安定化させることにより細胞内VE−カドヘリン分布に影響を与えうるか否かは、本試験の範囲を超えるが、しかし、さらなる研究に値しうる。
【0106】
また、再灌流した心筋梗塞は、細胞浸潤及び急性炎症応答に関連付けられる。心筋梗塞後の心臓修復は、炎症段階、増殖段階、及び成熟段階に分けることができる動的で複雑な生物学的プロセスである。炎症カスケードが梗塞心筋の治癒のための必要条件であるのに対し、効果的な心臓修復は、また、血管リモデリングの間に炎症応答を抑制し、及び、非梗塞心筋への線維化の拡大を限定する機構に依存する。虚血後傷害に対する治療における重大なポイントは、有害で持続的な拡大する炎症応答を含むままである。多数の試験では、梗塞心筋における炎症メディエーターの発現及び役割に焦点が当てられてきたが、炎症カスケードの下方調節及び包含に関与する細胞事象及び分子事象は不明のままである。本発明者らは、本明細書において、ANGPTL4による血管透過性の調節が梗塞後炎症応答を減少させることに関与する制御ポイントを構成し、このように、梗塞部位の拡大を限定しうることを示す。
【0107】
本発明者らは、ANGPTL4による血管完全性の早期保護が微小循環ネットワークの保存及び出血のより小さな範囲(両方がノーリフローの範囲を限定することに関与する)を誘導することをさらに示す。この現象は、冠動脈微小循環(それにおいてANGPTL4がその血管保護効果を通じて決定的な役割を果たしうる)のまだ不完全にしか特徴付けられていない解剖学的変化の結果である。
【0108】
ANGPTL4は、また、心臓において高度に発現し、取り込みのための脂肪酸の供給源としてリポタンパク質の加水分解に関与するLPLの阻害剤である。Yuらは、心臓においてANGPTL4を過剰発現するマウスが、空腹時高トリグリセリド血症を示し、左心室機能障害を発生することを示している。これは、angptl4を欠失したマウスが、心筋梗塞の間に心筋細胞死を防止することに関与しうる、より高いLPL活性を有するはずであることを意味しうる。興味深いことに、この事象が虚血心臓内で、インビボで生じる場合、この効果は、本発明者らが本明細書において記載するangptl4ノックアウトマウスにおいて観察された有害な血管効果により克服され、それらのマウスを心筋虚血/再灌流傷害により感受性にする。また、トリグリセリドに富むリポタンパク質のリポタンパク質リパーゼ媒介性加水分解から生成される産物は、ヒト大動脈内皮細胞における閉鎖帯1(ZO−1)の放射状再編成及び細胞体から細胞縁へのFアクチンの同時再分配を通じて内皮層の透過性を増加させることが報告されている。また、最近の知見では、VE−カドヘリンがクローディン5(内皮細胞間接合の維持における密接な内皮接合の重要成分)の上流に置かれる。従って、angptl4ノックアウトマウスにおける内皮接着接合の解体に関する本発明者らの結果は、ANGPTL4が、複数のレベルで内皮バリア機能を促進しうることを示唆する。
【0109】
最後に、心筋細胞は、心筋虚血の臨床的な治療標的として主に認識されたのに対し、わずかな試験で心臓血管の重要性に焦点が当てられてきた。より最近では、臨床的努力が、急性心筋梗塞又は脳卒中後の患者におけるVEGF−A媒介性漏出を遮断するために進行中である。そのような戦略は、組織傷害を低下させ、それにより長期的な結果を最小限することに有意な影響を有しうる。本発明者らの知見は、ANGPTL4が、内皮細胞接合の虚血誘導性破壊及び再灌流AMIにおいて観察された透過性におけるその後の増加を相殺することにより、改善された心筋梗塞治療のために有望でありうることを示唆する。
【0110】
実施例2:アンジオポエチン様4による血管の完全性の保存を通じた心筋梗塞及びノーリフローに対する保護
材料及び方法
実験は、フランス農務省により編集された公式規則に従って実施した。この試験は、欧州連合理事会指令(86/609/EEC)に従ったINSERM(フランス国立衛生研究所)の基準に従う。
【0111】
心筋虚血−再灌流実験:虚血−再灌流プロトコールが、補助材料に記載されている標準技術を使用してangptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZマウス又はウサギで実施された。ウサギは、賦形剤又はヒト組換え55kDa全長ANGPTL4(rhANGPTL4 10μg/kg静脈内)のいずれかを無作為に受けた。
【0112】
改変マイルズアッセイ:雄angptl4LacZ/LacZ及びangptl4LacZ/+マウスにペントバルビタールを使用して麻酔した。基礎条件については、マウスに1%エバンスブルー(200μL)を用いて尾静脈中に注射し、4時間後に屠殺した。虚血−再灌流条件については、マウスを、45分間にわたり冠動脈閉塞に供し、1%エバンスブルー(200μl)を用いて4時間の再灌流前に静脈内注入した。屠殺時、マウスを、クエン酸緩衝液(pH4)を用いて大動脈を通じて灌流した。血液、染料、及び緩衝液は、右心房における開口を通じて出た。エバンスブルーを、1mlのホルムアミド中で、70℃で18時間にわたり溶出した。遠心分離後、620nmでの吸光度を、分光光度計を使用して測定した。溢出したエバンスブルー(ng)を標準曲線から決定し、組織重量(g)に対して標準化した。
【0113】
免疫蛍光試験及び凍結切片上での共焦点分析:免疫蛍光染色を、以前に記載された通りに実施し(Brechot N, Gomez E, Bignon M, Khallou-Laschet J, Dussiot M, Cazes A, Alanio-Brechot C, Durand M, Philippe J, Silvestre JS, Van Rooijen N, Corvol P, Nicoletti A, Chazaud B, Germain S. Modulation of macrophage activation state protects tissue from necrosis during critical limb ischemia in thrombospondin-1-deficient mice.PLoS ONE.2008;3:e3950.)、凍結切片上での共焦点分析が補助材料において詳述される。
【0114】
免疫沈降分析及び免疫ブロット分析:インビボサンプルについて、45分間の虚血−4時間の再灌流に供したマウスを麻酔し、1mM NaVO及び2mM Hを用いて尾静脈中に注射し、解剖して左心室を除去した。HUAEC実験については、40000個細胞/cm2を72時間にわたり完全培養培地(Promocell)中に播種した。細胞を一晩飢餓させ、Ca/MgPBSを用いて2回洗浄する前に、100ng/mlヒト組換えVEGF165(Sigma)を用いて又は100ng/ml(10nM)VEGF及び5μg/ml(360nM)ヒト組換えANGPTL4を含む混合物を用いて5分間にわたり処理した(Chomel C, Cazes A, Faye C, Bignon M, Gomez E, Ardidie-Robouant C, Barret A, Ricard-Blum S, Muller L, Germain S, Monnot C. Interaction of the coiled-coil domain with glycosaminoglycans protects angiopoietin-like 4 from proteolysis and regulates its antiangiogenic activity. Faseb J. 2009; 23: 940-949.)。タンパク質を抽出し、VEGFR2について免疫沈降し、補助材料において記載される通りにウェスタンブロッティングにより分析した。
【0115】
心筋細胞の単離及び生存アッセイ:心筋細胞を、補助材料において記載する通りに単離し、5%CO及び95%Nの加湿雰囲気を含む嫌気チャンバー中で3時間にわたりインキュベートした。実験培地を、無血清、無グルコースに変えた。心筋細胞の生存率を、トリパンブルー(Sigma)を用いて細胞を染色することにより測定した。
【0116】
統計分析:マン−ホイットニー又はスチューデントの検定を使用し、群又は条件間での統計的な差を評価した(GraphPad Prism 4, GraphPad Software)。エラーバーは、SEM及び*, P<0.05;**, P<0.001;***, P<0.0001を示す。
【0117】
補助材料
拡大した方法及び結果
動物及びジェノタイピング:ジェノタイプを、以前に記載した通りに、尾部のゲノムDNAのPCRにより決定した(Gomez, 2010、投稿中)。8〜12週齢のangptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZノックアウト雄マウスを、8世代超にわたりC57/Bl6マウスにおいて交配し、心筋梗塞プロトコールに供した、又は、基礎条件においてコントロールとして使用した。
【0118】
マウス心筋虚血−再灌流実験:マウスを、ペントバルビタールナトリウムの腹腔内注射により麻酔した。左冠動脈の閉塞を伴う心筋梗塞を45mnにわたり実施し、組織を1時間〜3週間にわたり再灌流した。angptl4発現試験のために、WTマウスは、1時間、3時間、24時間、48時間、72時間、1週間、2週間、3週間の再灌流を受けた。梗塞サイズを評価するため、及び、免疫組織化学(IHC)試験又は超微細構造試験のために、雄angptl4LacZ/+及びangptl4LacZ/LacZマウスを虚血後4時間又は48時間のいずれかの間に再灌流した。リスクのある部位を、虚血から48時間後にエバンスブルー染色により同定し、梗塞部位を2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)染色により同定した。リスクのある部位を非青色領域として同定し、左心室重量のパーセンテージとして表した。梗塞部位を、TTCネガティブゾーンとして同定し、リスクのある部位のパーセンテージとして表した。ノーリフローを測定するために、再灌流の開始から4時間後、胸を再び開き、チオフラビンS(4%;1.5ml/kg)を、左心房を通じて注入した。心臓を次にアルシアンブルー(0.5%)を用いて逆行的に灌流し、スライスに切った。スライスを、UV光を使用して撮影し、ノーリフローの領域を同定した。梗塞及びリスクゾーンの部位を、上に定めた通りに決定した。超微細構造分析をHitachi H-9500電子顕微鏡で実施した。
【0119】
免疫蛍光試験及び凍結切片上での共焦点分析:虚血及び4時間の再灌流に供したマウスを、腹腔内注射したケタミン及びキシラジンを用いて麻酔した。FITC−ビーズ(20μl)を、以前に記載された通りに大腿静脈中に注射した44。胸を迅速に開き、脈管構造を、1%パラホルムアルデヒドを用いて120mmHgの圧力で2分間にわたり灌流した。心臓を次に室温で1時間にわたり1%パラホルムアルデヒド中に置き、PBSを用いてリンスし、クリオスタット切片のために凍結した。内皮細胞、周皮細胞、及び接着接合を、それぞれラット抗CD31(BD Pharmingen)抗体、ウサギ抗NG2(Chemicon)抗体、及びラット抗VE−カドヘリン(E. Dejanaからの個人的な寄贈、IFOM)抗体を用いて同定した。共焦点切片を、63x(NA=1.4)油浸対物を使用して、Leica SP5顕微鏡(Leica Microsystems GmbH)で撮像した。各切片の間での0.117μmの増分を使用した。異なる構造の三次元再構成を、Amira 5.2.1ソフトウェア(Visage Imaging GmbH)においてLABELVOXEL及びSURFACEGENモジュールを使用して得た。
【0120】
免疫沈降分析及び免疫ブロット分析:タンパク質を、20mM Tris−HCl、pH7.6、150mM NaCl、0.1% DOC、0.5% NP−40、10%グリセロール、1mM β−グリセロリン酸、1mM NaF、2.5mM Naピロリン酸、1mM NaVO及びプロテアーゼ阻害剤(Calbiochem)のカクテル中で、氷上で抽出した。ライセートを、免疫沈降のために及び全抽出物の免疫ブロットのために分割した。免疫沈降のために、抽出物を、抗VEGFR−2(Cell signaling)と一晩インキュベートしたプロテインA−アガロースビーズを用いて60分間にわたり事前に清浄化し、免疫複合体をプロテインA−アガロースビーズ上で3時間わたり回収した。タンパク質を、低下するLaemmliサンプル緩衝液中で10分間にわたり煮沸することにより溶出した。サンプルをSDS−PAGEにより分析し、ニトロセルロース膜上でのウェスタンブロッティングが続いた。抗VEGFR2(Cell signaling)抗体、抗VE−カドヘリン(Santa Cruz)抗体、抗Srcキナーゼファミリー(Cell signaling)抗体、抗リン酸SrcファミリーTyr−416(Cell signaling)抗体を使用した。シグナルをAttophos chemiluminescence(Promega)により明らかにし、バンド強度をQuantity One 1-D Analysis Software(Biorad)により定量化した。
【0121】
心筋細胞の単離及び生存アッセイ:麻酔下で、心臓を胸から除去し、カニューレ処置した。心臓を、タイロード緩衝液([mM] NaCl 113;KCl 4.7;KHPO 0.6;NaHPO 0.6;HEPES 10;MgSO 1.2;NaHCO 12;KHCO 10;タウリン30;フェノールレッド0.032;グルコース5.5;NaOH 1Nを用いて7.46に調整したpHを伴う)を用いて一定圧力及び37℃で4分間にわたり灌流した。灌流を、0.1mg/ml Liberase Blendzyme IV(Roche diagnostics)及び0.14mg/mlトリプシン(Sigma)を含む酵素溶液([mM] NaCl 113;KCl 4.7;KHPO 0.6;NaHPO 0.6;HEPES 10;MgSO 1.2;NaHCO 12;KHCO 10;タウリン30;フェノールレッド0.032;グルコース5.5;CaCl 0.0125;NaOH 1Nを用いて7.46に調整したpHを伴う)に切り替えた。心臓が膨張し、わずかに蒼白色になった際、心房及び大動脈を除去した;左心室を小片に切り、穏やかに粉砕した。細胞浮遊液を停止緩衝液([mM] NaCl 113;KCl 4.7;KHPO 0.6;NaHPO 0.6;HEPES 10;MgSO 1.2;NaHCO 12;KHCO 10;タウリン30;フェノールレッド0.032;グルコース5.5;CaCl 0.0125;ウシ血清5%;NaOH 1Nを用いて7.46に調整したpHを伴う)中に移した。細胞外カルシウムを1.0mMまで増分的に加えた。試験した全ての細胞は、ロッド形であり、明かな横紋を有し、それらの表面上に任意の目に見える小胞を欠いた。
【0122】
ウサギ実験:ニュージーランドウサギ(2.5〜3.0kg)を、ゾラゼパム、チレタミン、及びペントバルビタールを使用して麻酔した(全て20〜30mg/kg静脈内)。動物に挿管し、機械的に換気し、左開胸を実施した。縫合糸を、短いプロピレンチューブを通じて左冠動脈の主要分枝の下に通し、スネアを形成した。ウサギは、次に、賦形剤又はヒト組換え55kDa全長ANGPTL4 12(10μg/kg静脈内)のいずれかを無作為に受けた。5分後、冠動脈閉塞(CAO)を、チューブを通じてスネアを引くことにより30分の間に誘導した。再灌流を、その後、スネアを放出することにより誘導した。胸を、次に、層で閉じた。再灌流の開始から4時間後、胸を再び開き、チオフラビンS(4%;1.5ml/kg)を、左心房を通じて注入した。ウサギを、次に、ペントバルビタール、続いて塩化カリウムを使用して屠殺した。切除後、心臓を、アルシアンブルー(0.5%)を用いて逆行的に灌流し、スライスに切った。スライスを、UV光を使用して撮影し、ノーリフローの領域を同定した。梗塞及びリスクゾーンの部位を、マウスと同様に決定した。
【0123】
心臓パラメータの超音波分析:マウスを、12MHz線形トランスデューサーを備えた心エコー(Vivid 7, GE Medical Systems Ultrasound)を使用した超音波測定に供した。
【0124】
リアルタイム定量的PCR分析(RT−qPCR):虚血及び4時間又は18時間の再灌流に供したマウスを麻酔し、1mM NaVO及び2mM Hを用いて尾静脈中に及び心臓内に注射し、解剖して左心室を除去した。全RNAを、トリゾール(Invitrogen)を用いた抽出により単離した 逆転写、定量的PCR(三通り)、及び分析を、以前に記載された通りに実施した(Xu Y, Yuan L, Mak J, Pardanaud L, Caunt M, Kasman I, Larrivee B, Del Toro R, Suchting S, Medvinsky A, Silva J, Yang J, Thomas JL, Koch AW, Alitalo K, Eichmann A, Bagri A. Neuropilin-2 mediates VEGF-C-induced lymphatic sprouting together with VEGFR3.J Cell Biol.2010;188:115-130.)。mRNA発現レベルを、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードするハウスキーピング遺伝子に対して標準化した。倍率変化を、比較CT方法を使用して算出した。
【0125】
インサイツハイブリダイゼーション(ISH)及び免疫組織化学(IHC)分析:ヒト心筋梗塞のパラフィンブロックが、ジョルジュ・ポンピドー欧州病院病理部(フランス、パリ)から得られた。梗塞部位の存在を、標準的なHE染色で評価し、隣接スライドをISH及びIHC分析のために使用した。ヒト又はマウスangptl4プローブを使用したISHならびにIHC免疫標識抗CD45、Mac3、及びCD31を、以前に記載された通りに実施した(Brechot N, Gomez E, Bignon M, Khallou-Laschet J, Dussiot M, Cazes A, Alanio-Brechot C, Durand M, Philippe J, Silvestre JS, Van Rooijen N, Corvol P, Nicoletti A, Chazaud B, Germain S. Modulation of macrophage activation state protects tissue from necrosis during critical limb ischemia in thrombospondin-1-deficient mice.PLoS ONE.2008;3:e3950.)。
【0126】
結果
早期虚血後の血管完全性は、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて変化する。
【0127】
angptl4遺伝子座をlacZレポーター遺伝子により置換したangptl4LacZ/LacZマウスを生成した。本発明者らは、最初に、angptl4LacZ/LacZ及びangptl4LacZ/+マウスの両方の心臓において45分間の虚血及び4時間の再灌流後に血管透過性を分析した。組織学的分析では、組織損傷が、この早期の時点で両群において同等であることが示された。angptl4LacZ/LacZマウスが、虚血から4時間後、angptl4LacZ/+マウスと比較して、増加した血管漏出を示したのに対し(117.5±15.2対84.8±2.7μg/ml、p<0.05)、有意差は基礎条件において観察されなかった。重要なことに、angptl4LacZ/LacZマウスは基礎条件又は虚血状態の両方において任意の機能な心臓欠陥又は異常な血管形態を示さなかった。
【0128】
次に、蛍光マイクロスフェアを注射し、このように、血管漏出の部位の局在化を許した。基礎条件において、FITC−ビーズは両方の群において溢出しなかった。45分間の虚血−4時間の再灌流後、FITC−ビーズはangptl4LacZ/+マウスにおいて観察されなかったのに対し、蛍光マイクロスフェアの漏出がangptl4LacZ/LacZマウスにおいて検出され、内皮の完全性が変化したことを示す。接着接合の安定性が内皮の透過性及び完全性の維持のために重大であるため、本発明者らは、基礎条件及び虚血−再灌流モデルにおける内皮接着接合でのVE−カドヘリン分布を研究しようとした。両方の遺伝子型からの非虚血心筋において、密な血管ネットワークを標識するVE−カドヘリン線形シグナルが観察された。対照的に、虚血−再灌流後、VE−カドヘリン染色の不均一なパターンがangptl4LacZ/+マウスにおいて観察された;強いシグナル及び線形シグナルの両方がより薄いシグナルに隣接していた。angptl4LacZ/LacZマウスにおいて、虚血−再灌流傷害は、より組織的で不連続なVE−カドヘリン染色により示される通り、主に破壊された内皮接合におけるより重度の損傷を誘導した。抗CD31及び抗NG2抗体を用いて染色したangptl4LacZ/LacZ心臓切片の共焦点画像から再構築された3次元画像によって、血管からの溢出FITCビーズがさらに確認された。
【0129】
これらの観察は、冠動脈血管の完全性が脆弱であり、接合分解が虚血状態の間のangptl4LacZ/LacZマウスにおいてより高頻度であり、それにより増加した血管透過性に導くことを示唆する。
【0130】
angptl4LacZ/LacZマウスにおけるVEGFR2の下流での増加したSrcキナーゼリン酸化と組み合わせたVEGFR2及びVE−カドヘリン発現における虚血後減少。
【0131】
脈管構造において、VEGFR2及びVE−カドヘリンは、VEGF−R2へのVEGFの結合時に一過性に解離する複合体を形成する。心筋梗塞の間に、虚血は、血管透過性及び浮腫に導くVEGF発現を促進する。本発明者らは、従って、増強したVEGFR2/VE−カドヘリン複合体分解が虚血−再灌流傷害後のangptl4LacZ/LacZマウスにおける増加した接合破壊に関与する機構を構成しうるか否かを研究した。
【0132】
RT−qPCRを使用して、vegfr2及びve−カドヘリンのmRNA発現を、コントロール条件において又は4時間もしくは18時間の再灌流後にangptl4LacZ/LacZ及びangptl4LacZ/+マウスにおける左心室で定量化した。ve−カドヘリン及びvegfr2 mRNA発現は、基礎条件において両方の群で同様であった。4時間の再灌流後、vegfr2及びve−カドヘリンmRNA発現の大量の減少が、コントロールマウスと比較して、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて観察された(ve−カドヘリンについて58±3対34±3%及びvegfr2について70±2対7±5%、p<0.001)。この下方制御は、18時間の再灌流後にvegfr2 mRNAについて維持された(angptl4LacZ/LacZマウスについて66±2%の減少、p<0.001)。タンパク質レベルも影響された(コントロール及び虚血状態における左心室からの全抽出物を使用して実施したウエスタンブロット分析により示される通り)。
【0133】
Srcキナーゼが、VEGFR2/VE−カドヘリン複合体を解離する際でのその役割を通じてVEGF媒介性の透過性において要求される。angptl4LacZ/LacZマウスにおける早期虚血後の接合変化に導く機構をさらに決定するために、VEGFR2下流のSrcキナーゼシグナル伝達をコントロール条件において及び虚血−再灌流後に分析した。左心室ライセートを、VEGFR2について免疫沈降し、VEGFR2、VE−カドヘリン、Src、及びリン酸−Srcについての免疫ブロットが続いた。基礎状態において、VEGFR2/VE−カドヘリンが、両方の遺伝子型において複合体を形成した。VEGFR2/VE−カドヘリン複合体の一過性の不安定化が、angptl4LacZ/+マウスにおいて4時間の再灌流後で観察され、18時間の再灌流後に回復されたのに対し、VE−カドヘリンはangptl4LacZ/LacZマウスにおいてVEGFR2から解離したままである。また、免疫ブロットは、angptl4LacZ/+マウスと比較して、angptl4LacZ/LacZにおいて4時間及び18時間の再灌流後に増加したSrcキナーゼの動員及びリン酸化を示した。
【0134】
これらの結果は、vegfr2及びve−カドヘリン発現における減少が、VEGFR下流のSrcキナーゼリン酸化における増加と組み合わさり、虚血−再灌流に続くangptl4LacZ/LacZマウスにおける内皮接着接合におけるVE−カドヘリンの大量解体に関与するVEGFR2/VE−カドヘリン複合体の解離に導くことを示す。
【0135】
梗塞サイズ、ノーリフロー、及び虚血後炎症がangptl4LacZ/LacZマウスにおいて増加する。
【0136】
本発明者らは、次に、angptl4LacZ/LacZマウスにおける血管の完全性の変化が、48時間の再灌流での異常な心筋再灌流及び主要な心臓組織損傷に変換されうるという仮説を立てた。実際に、梗塞サイズは、angptl4LacZ/+マウスと比較して、angptl4LacZ/LacZマウスにおいて増加した(47±3対36±3%、p<0.01)。また、ノーリフローは、壊死ゾーンのパーセンテージとして表した場合、angptl4LacZ/+マウスと比較して、angptl4LacZ/LacZ群においてより重要であった(19±1対11±2%、p<0.05)。
【0137】
壊死、出血、及び浮腫を、また、両方の遺伝子型の梗塞心臓からのHE染色切片上で定量化した(スコア1〜3)。増加した梗塞サイズに従って、組織壊死は、コントロールマウスと比較して、angptl4LacZ/LacZにおいて大部分が増加した(2.5±0.6対1.2±0.2)。出血及び浮腫の評価では、angptl4LacZ/LacZにおいてより重度の組織傷害が明らかになった(それぞれ2.3±0.6対1.1±0.2及び2.3±0.2対0.8±0.2)。虚血後の炎症応答を、また、両方の遺伝子型において分析した。マクロファージ密度は、angptl4LacZ/LacZ対angptl4LacZ/+マウスにおいて梗塞部位で有意に高かったのに対し、有意差は両群間でコントロールの非梗塞部位において観察されなかった。
【0138】
本発明者らは、次に、CD31染色を使用してコア梗塞部位及びその周辺における血管密度を分析した。同様の減弱したマイクロキャピラリー密度を、周辺と比較して、両方の遺伝子型において中央の梗塞部位で定量化した。差は、両方の遺伝子型の間で、両方の部位において定量化されなかった。
【0139】
透過型電子顕微鏡試験を、超微細構造レベルでの組織傷害を評価するためにさらに実施した。再灌流した梗塞部位の分析では、両群間で心筋細胞構造の差は示されなかったが(図IVA及びIVB中の《C1〜4》を参照のこと)、しかし、大きな浮腫部位(炎症細胞に乏しい)がangptl4LacZ/+マウスにおいて観察されたのに対し、炎症細胞がangptl4LacZ/LacZマウスにおける浮腫領域に既に侵入していた。多核好中球、マクロファージ、リンパ球、及びフィブリノゲン沈着が、angptl4LacZ/LacZマウスだけにおいて観察された。全体では、これらのデータは、angptl4LacZ/LacZマウスにおける増加した炎症浸潤と相関する、増加した血管変化を示す。
【0140】
angptl4 mRNAの低酸素活性化が心筋細胞において報告されており、低酸素誘導因子1により媒介される可能性が高いため、本発明者らは、また、ANGPTL4も心筋細胞の生存に影響を与えうるという仮説を立てた。実際に、angptl4LacZ/LacZマウスからのホールマウントのHE染色及びCD31免疫染色切片で実施したLacZ染色では、また、心筋細胞及びECの両方が虚血−再灌流傷害後にangptl4を発現することが明らかになった。インサイツハイブリダイゼーション(ISH)では、angptl4 mRNA発現が、虚血に続く3時間という早期に及び再灌流後2週間まで誘導されたのに対し、angptl4 mRNAは非虚血部位において発現されないことがさらに示された。AMIで死亡した患者からの心臓サンプルにおけるISHでは、また、心筋細胞における及びECSにおけるangptl4 mRNA発現が明らかになった。両方の遺伝子型からの心筋細胞を、従って、単離し、インビトロ生存アッセイに供した。心筋細胞の生存率における差は、正常酸素又は低酸素のいずれにおいても両方の群間で、インビトロで観察されず、ANGPTL4が心筋細胞に対して直接的な影響を有さないことを示唆する。
【0141】
組換えANGPTL4は、VEGFに応答してVEGFR2/VE−カドヘリン複合体を安定化する
本発明者らは、次に、rhANGPTL4が、ECSにおけるVEGFR2/VE−カドヘリン複合体分解の保護を与えうるか否かを研究した。コンフルエントなHUAECを、VEGF単独を用いて又はrhANGPTL4を用いて5分間にわたり刺激した。細胞ライセートをVEGFR2について免疫沈降し、VEGFR2、VE−カドヘリン、Src、及びリン酸−Srcについての免疫ブロットが続いた。コントロール条件において観察された既存のVEGFR2/VE−カドヘリンが、5mnのVEGF刺激内に迅速に破壊される。この複合体は、VEGF及びrhANGPTL4の両方を用いて処理された細胞における解離から保護された。Srcキナーゼ及びリン酸−Src免疫ブロットでは、VEGF媒介性VEGFR2/VE−カドヘリンの不安定化が、VEGF及びrhANGPTL4の両方を用いて処理した細胞において部分的に遮断された、VEGFR2下流の増加したSrcリン酸化と相関することが明らかになった。
【0142】
これらのインビトロ実験は、rhANGPTL4が、Srcキナーゼシグナル伝達の阻害を通じてVEGF誘導性VEGFR2/VE−カドヘリン複合体の不安定化から保護するという証拠を提供する。
【0143】
rhANGPTL4の治療的な心臓保護効果の評価
本発明者らは、次に、rhANGPTL4による血管変化の減衰が、血管内皮バリア機能の増強に導き、それは、最終的に、虚血−再灌流から保護しうるとの仮説を立てた。心筋虚血−再灌流は、これらの条件においてマウスでの大量のノーリフローを誘導しないため、本発明者らは、従って、非げっ歯類の種における、即ち、ノーリフロー現象が十分に確立されている心筋虚血−再灌流の開胸ウサギモデルにおけるANGPTL4の治療可能性を分析しようとした。
【0144】
本発明者らは、従って、虚血−再灌流の5分前に、10mg/kgのrhANGPTL4の静脈内注射を実施した。リスクゾーンのパーセンテージとして表される梗塞サイズ(IS、リスクのある部位の%)は、コントロール群において57±5%及びrhANGPTL4処置群において34±7%であった(p<0.01)。次に、ノーリフローのゾーンを試験した。リスクのある部位のパーセンテージとして表した場合、それはコントロール群において41±2%及びrhANGPTL4処置群において19±6%であった(p<0.05)。より重要なことに、梗塞サイズのパーセンテージとして表した場合、それはコントロール群において73±4%及びrhANGPTL4処置群において55±7%であった(p<0.05)。組織学的分析は、心筋梗塞が、コントロール群における間隙空間内の壊死及び巨大な出血のコアにあることを示した。rhANGPTL4処置群において、出血の範囲は減少した(5.7±2%対21.9±6.4%(全心臓切片部位のパーセンテージとして表す)、p<0.05)。
【0145】
このように、これらの結果は、rhANGPTL4が、梗塞サイズ、出血、及びノーリフローを低下させ、このように、血管保護を与える血管の完全性の保存を誘導することを示す。
【0146】
考察
AMI時には、低酸素誘導因子(HIF)タンパク質(低酸素に対する応答の調節に関与する主要な転写因子)が迅速に活性化し、血管新生応答の調節に関与するVEGF−A発現を誘導し、しかし、また、血管透過性及び浮腫を起こし、広範な傷害を招く。本発明者らは、本明細書において、angptl4 mRNA(インビトロでECにおいて及び心筋細胞において、ならびに、重大な後肢虚血及び脳卒中において低酸素により誘導されることが以前に示されている)が、AMIで死亡した患者からの心臓組織においても発現していることを示す。本発明者らは、さらに、ANGPTL4が、ノーリフロー及びAMIの範囲を限定する血管内皮細胞バリアの完全性の保存を通じて、虚血後組織損傷の保護を媒介するという証拠を提供した。
【0147】
病理学的虚血状態において、増加した透過性は、内皮接合の安定性により主に制御され、変化した血管の完全性に関与する。ECの間での接着接合の主要な成分を構成するVE−カドヘリンは、内皮の完全性及びバリア機能を維持するために、出生後の脈管構造においてインビボで要求される。それは、心筋VE−カドヘリンが虚血心筋において有意に減少することを示したが、微小血管の完全性が虚血/再灌流により損傷されることを示唆する。VE−カドヘリンはVEGFR2と会合し、透過性を調節する。実際に、全身VEGF−A注射は、それによりVEGFR2を活性化し、VEGFR2/VE−カドヘリン複合体の解離を誘導する。本明細書では、本発明者らは、angptl4ノックアウトマウスにおいてVEGFR2/VE−カドヘリン複合体の耐久性のある解離及び変化したVE−カドヘリン分布を示し、AMIに続く破壊された接着接合及び減少したECSバリア機能を起こす。遺伝子発現分析では、i)より顕著な減弱したve−カドヘリンmRNAレベル、ii)AMIに供したangptl4ノックアウトマウスにおけるvegfr2 mRNAレベルの長期減少が明らかになった。ve−カドヘリン及びvegfr2遺伝子発現、ならびに、従って、虚血に応答したVEGFR2/VE−カドヘリン複合体の減少レベルが、angptl4LacZ/LacZマウスにおけるAMIに続く接合破壊及び変化した内皮完全性に関与しうる。
【0148】
Srcは、EC接触の破壊及び傍細胞透過性を促進するために要求される必須の分子である。本発明者らは、本明細書において、増強されたi)VEGFR2/VE−カドヘリン複合体でのSrcキナーゼ動員及びii)Srcキナーゼのリン酸化(AMIに供するangptl4LacZ/LacZマウスにおけるVEGFR2/VE−カドヘリン複合体のより重度の不安定化に導く)についての証拠を提供する。アンジオポエチンファミリーの他のメンバーは、また、血管透過性の調節における役割を示す。アンジオポエチン−1は、Tie−2及びホスファチジルイノシトール3−キナーゼをリン酸化し細胞間接着を維持し、また、mDiaを活性化するために必要なGTPアーゼRac1の活性化を誘導し、捕捉Srcをもたらす。ANGPTL4によるSrc/mDia又はRac1シグナル伝達経路の調節が、翻訳後修飾を通じて細胞接合でそれを安定化させることにより細胞内VE−カドヘリン分布に影響を与えうるか否かは、さらなる研究に値しうる。
【0149】
また、再灌流した心筋梗塞は、細胞浸潤及び急性炎症応答に関連付けられる。虚血後治療における重大なポイントは、有害で持続的な拡大する炎症応答を含むままである。本発明者らは、本明細書において、angptl4LacZ/LacZマウスにおける変化した血管完全性が、梗塞後炎症応答及び梗塞部位の拡大の両方を限定することに関与する制御ポイントを抑制しうることを示す。本発明者らは、また、組換えANGPTL4が、微小循環ネットワークの保存及び出血の少ない範囲(両方がノーリフローの範囲を限定することに関与する)の両方を誘導することを示した。この現象は、冠微小循環(それにおいてANGPTL4はその血管保護効果を通じて決定的な役割を果たしうる)のまだ不完全にしか特徴付けられていない解剖学的変化の結果である(Kloner RA, Ganote CE, Jennings RB.The "no-reflow" phenomenon after temporary coronary occlusion in the dog. J Clin Invest. 1974; 54: 1496-1508.)。また、最近の知見では、VE−カドヘリンがクローディン5(内皮細胞間接合の維持における密接な内皮接合の重要成分)の上流に置かれる。従って、angptl4LacZ/LacZマウスにおける内皮接着接合の解体に関する本発明者らの結果は、ANGPTL4が、複数のレベルで内皮バリア機能を促進しうることを示唆する。
【0150】
最後に、心筋細胞は、心筋虚血の臨床的な治療標的として主に認識されたのに対し、わずかな試験で心臓血管の重要性に焦点が当てられてきた。本発明者らの知見は、ANGPTL4が再灌流AMIにおいて観察された透過性における増加を相殺することを示す。臨床的努力が、急性心筋梗塞又は脳卒中後の患者におけるVEGF−A媒介性漏出を遮断するために進行中である。組み合わせ戦略の探索は、確かに、組織傷害を低下させ、冠動脈微小循環を改善し、それにより心筋梗塞治療を改善させることに有意な影響を有する。
【0151】
参考文献
本願を通して、種々の参考文献が、本発明が関係する技術分野の状態を記載する。これらの参考文献の開示は、本開示への参照により、本明細書により組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチド。
【請求項2】
虚血状態の処置の間での血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチド。
【請求項3】
前記虚血状態が、腎虚血、網膜虚血、脳虚血、及び心筋虚血からなる群より選択される、請求項1記載のANGPTL4ポリペプチド。
【請求項4】
前記虚血状態が、冠動脈バイパス移植手術、心停止に起因する全脳虚血、局所性脳梗塞、脳出血、出血梗塞、高血圧性出血、頭蓋内血管異常の破裂に起因する出血、頭蓋内動脈瘤の破裂に起因するクモ膜下出血、高血圧性脳症、脳虚血に導く頸動脈狭窄又は閉塞、心原性血栓塞栓症、脊髄卒中及び脊髄傷害、脳血管の疾患:例、アテローム性動脈硬化症、血管炎、黄斑変性、心筋梗塞、心筋虚血、及び上室性頻脈性不整脈からなる群より選択される、請求項3記載のANGPTL4ポリペプチド。
【請求項5】
冠動脈性心臓疾患の処置におけるノーリフローの防止における使用のためのANGPTL4ポリペプチド。
【請求項6】
前記冠動脈性心臓疾患が心筋梗塞又はST上昇心筋梗塞である、請求項5記載のANGPTL4ポリペプチド。
【請求項7】
血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項8】
血管内皮細胞バリアの完全性の保存における使用のためのANGPTL4ポリペプチド又はそのコードする核酸を含む医薬的組成物。
【請求項9】
ステント、バイパスグラフト、血管チューブ周囲の内部パッチ、血管チューブ周囲の外部パッチ、血管カフ、及び血管形成術用カテーテルなどの血管内装具からなる群より選択され、ANGPTL4ポリペプチド又はそのコードする核酸を含むことを特徴とする、生体材料又は医療用送達デバイス。
【請求項10】
微小血管機能障害を有する又はその素因があると考えられる患者をテストする方法であって、
(i)ANGPTL4をコードする遺伝子及び/又はその関連プロモーターにおける変異の存在を検出する、及び/又は
(ii)ANGPTL4をコードする遺伝子の発現を分析する
ために該患者からの生物学的サンプルを分析する工程を含む、方法。
【請求項11】
前記生物学的サンプルが血液又は血清である、請求項10記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−516994(P2013−516994A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549344(P2012−549344)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050682
【国際公開番号】WO2011/089152
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】