説明

血管内皮細胞増殖因子阻害剤及び抗癌剤

【課題】副作用が少なく、多くの癌細胞に対して効果のある、血管内皮細胞増殖因子阻害剤、及び抗癌剤を提供する。
【解決手段】ウシのアポリポプロテインC−III、又はそれに相同性のある新規タンパク質、並びにそれらの部分ポリペプチドを有効成分として含む血管内皮細胞増殖因子阻害剤及び抗癌剤によって解決することができる。具体的には、特定のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む血管内皮細胞増殖因子阻害剤、又は抗癌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシのアポリポプロテインC−III、又はそれに相同性のある新規タンパク質、並びにそれらの部分ポリペプチドを有効成分として含む血管内皮細胞増殖因子阻害剤及び抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は日本人の死亡原因の第1位であり、現在では全死亡者の約30%が癌により死亡している。癌の治療法としては、手術による治療、放射線療法、及び抗癌剤による化学療法などが用いられている。これらの癌の治療法のうち、抗癌剤による化学療法は、術後の転移や再発を防ぐために、補助的に用いられることや、放射線療法と組み合わせて用いられることもある。また、癌の種類によっては、抗癌剤が第一選択の治療法として選択されることもあり、例えば、白血病やリンパ腫などは、手術による治療がほとんど不可能であり、従って抗癌剤による化学療法が治療の中心となっている。
【0003】
癌治療において大きな役割を果たしている抗癌剤は、癌細胞の細胞分裂過程において、癌細胞の増殖機構を阻害し、直接癌細胞を死滅させるものが多い(例えば、特許文献1)。すなわち、細胞分裂が活発である癌細胞は、細胞分裂を阻害する抗癌剤の効果が得られやすく、癌細胞が障害されやすい。
しかしながら、このような抗癌剤は、癌細胞に特異的に障害を起こさせるものではなく、生体内で分裂している正常な細胞にも障害を起こすことがある。具体的には、正常な状態で細胞分裂を行っている骨髄の造血細胞、口腔の粘膜細胞、消化管の粘膜細胞、毛根細胞などは、抗癌剤の影響を受けやすく、それらの細胞が障害を受けることによって、貧血、出血、脱毛、吐き気、下痢、口内炎、皮膚の障害などの副作用が発生する。このような副作用は、治療を受けている癌患者の負担となり、また副作用が重篤な場合には、治療を継続することが困難になる。従って、副作用の少ない抗癌剤の開発が、望まれている。
【0004】
一方、癌細胞が生体内で癌組織として増殖するためには、癌組織において血液による栄養分や酸素の供給が必要である。癌細胞は、癌組織において酸素や栄養分を取得するために、自ら血管新生因子を分泌し、癌細胞の周囲に血管新生を誘導し、それによって癌細胞の爆発的な増殖を起こしていることが報告された(非特許文献1)。このことは、逆に癌細胞からの血管新生因子の分泌を阻害することにより、癌細胞の増殖を抑えることができる可能性を示しており、癌細胞から分泌される血管新生因子を阻害する抗癌剤の研究が進められている。このような血管新生因子を阻害する抗癌剤は、多くの固形癌に対して有効である可能性があり、また、癌細胞自体に対する直接的な障害(殺作用)によって癌の増殖を抑えるわけではないので、重篤な副作用が軽減されると考えられた。
しかしながら、血管新生阻害剤としては、Genentech社が開発していた血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)に対する抗体医薬であるアバスチン[Avastin:ビーバキズマブ(Bevacizumab)]が、米国のFDAから認可されたのみであり、副作用が少なく、多くの癌細胞に有効な血管新生阻害剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−116491号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「サイエンス(Science)」(米国)1987年、第235巻、p.442−447
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・ベテリナリー・メディカル・サイエンス(Journal of Veterinary Medical Science)」(日本)2001年、第63巻、p.597−601
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、生体の癌に対する免疫作用に着目し、副作用が少なく、多くの癌細胞に対して効果のある、生体由来の抗癌剤について鋭意研究を進めてきた。その過程で、ウシ血清中の分子量分布が約50,000以下の糖タンパク質S3が、メラノーマ細胞に対して直接的な障害活性を示し、メラノーマ細胞の担癌マウスの生存率を延長させることができることを見出した(特許文献1)。しかしながら、この糖タンパク質S3は癌細胞を、直接障害する物質であり、癌患者に対して抗癌剤として使用した場合、残念ながら生体内で副作用を生じると考えられた。
前記糖タンパク質S3は、ウシ血清を硫安沈殿し、更にリン酸ナトリウム緩衝液を用いたShodex GFA-50Pカラム及びShodex GS-310Pカラムによる分画を行い、分子量21,000をピークとする凸の分画を回収することによって得られる。特許文献1には、得られたS3がSDS−PAGEによる分析で、分子量約10,000、約36,000、約42,000及び約50,000のバンドを含むことが示されているが、本発明者は、更にこのS3について研究を進めたところ、S3を構成する4つのタンパク質の分子量は、実際には約29,000、約52,000、約64,000、及び約100,000であり、糖タンパク質S3はVEGF産生阻害活性を示さないことがわかった。そして、分子量約29,000のタンパク質は、PMF(ペプチドマスフィンガープリンティング)法により、アミノ酸配列を決定したところ、トランスサイレチン(分子量約15,000)の2量体であることを同定した。しかしながら、このトランスサイレチンには、メラノーマ細胞に対する障害活性は見られず、前記糖タンパク質S3の中の約52,000、約64,000、及び約100,000のいずれかのタンパク質が、メラノーマ細胞に対する障害活性を示すものと考えられた。
本発明者は、更に副作用が少なく、多くの癌細胞に対して効果のある、生体由来の抗癌剤について、鋭意研究した結果、ウシ血漿中の分子量約7,500のタンパク質に、血管内皮細胞増殖因子を阻害する活性があることを見出した。そして、このタンパク質は、メラノーマ細胞に対して、直接的な障害活性は示さないが、肺転移モデルマウスにおいて、メラノーマ細胞の転移及び増殖を抑制することを見出した。そして、このタンパク質について、PMF(ペプチドマスフィンガープリンティング)法によりアミノ酸配列を決定したところ、ウシのアポリポプロテインC−IIIの第87番のセリンがロイシンに置き換わったアポリポタンパク質C−III−87L変異体の第24〜89番の66アミノ酸からなる部分フラグメントであることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【0008】
従って、本発明の目的は、副作用が少なく、多くの癌細胞に対して効果のある、血管内皮細胞増殖因子阻害剤、及び抗癌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、(1)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド、(3)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド、あるいは、(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチドに関する。
また、本発明は、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む、血管内皮細胞増殖因子阻害剤に関する。
また、本発明は、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む、抗癌剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤によれば、血管の異常増殖を原因とする疾患、例えば癌の治療を行うことができる。また、本発明の抗癌剤によれば、抗癌作用の1つのメカニズムとして、血管内皮細胞増殖因子を阻害する機能を有しているため、多くの固形癌の増殖を抑制することが可能であり、更に、メラノーマ細胞への直接的な障害作用(殺作用)がないため、患者に使用した場合にも重篤な副作用を示さないものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のポリペプチドを、マルチモード用カラムにより分画し、SDS−PAGEの電気泳動を行ったものである。レーンhの分画を回収した。約66KDaのタンパク質は、アルブミンである。
【図2】MALDI−TOF−MSを用いた質量分析により、アミノ酸組成を分析したポリペプチドのSDS−PAGE電気泳動である。7.5Kタンパク質は、87L−BapoC−IIIfragである。
【図3】B16メラノーマ細胞と7.5Kタンパク質とを接触させ、24時間後及び48時間後の培養上清中のVEGF活性を、ELISA法で測定し、その結果をまとめたものである
【図4】B16メラノーマ細胞と7.5Kタンパク質とを接触させ、48時間後の培養上清中のVEGF活性を、ELISA法で測定し、その結果をまとめたものである。
【図5】B16メラノーマ細胞をC57BL/6マウスに接種し、接種の一日後から本発明の抗癌剤を500μg/headで、週2回投与し、B16メラノーマ細胞接種21日後の肺での腫瘍結節数をまとめたものである。
【図6】B16メラノーマ細胞をC57BL/6マウスに接種し、接種の一日後から本発明の抗癌剤を500μg/headで、週2回投与し、B16メラノーマ細胞接種21日後の肺での腫瘍結節を示す写真である。
【図7】B16メラノーマ細胞をC57BL/6マウスに接種し、接種の3日前から本発明の抗癌剤を500μg/headで、週2回投与し、B16メラノーマ細胞接種21日後の肺での腫瘍結節数をまとめたものである。
【図8】B16メラノーマ細胞をC57BL/6マウスに接種し、接種の3日前から本発明の抗癌剤を500μg/headで、週2回投与し、B16メラノーマ細胞接種21日後の肺での腫瘍結節を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1]本発明のポリペプチド
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド(以下、配列番号1で表されるアミノ酸配列由来のポリペプチドを、「機能的等価改変体1」と、配列番号2で表されるアミノ酸配列由来のポリペプチドを、「機能的等価改変体2」と称する)、あるいは、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド(以下、「機能的等価改変体」と称し、本「機能的等価改変体」は、前記「機能的等価改変体1」及び「機能的等価改変体2」を含む)、
が含まれ、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
【0013】
前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、具体的には、
EEGSLLDKMQ GYVKEATKTA KDALSSVQES QVAQQARDWM TESFSSLKDY WSSFKGKFTD FWELATで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、ウシのアポリポタンパク質C−III(以下、BapoC−IIIと称する)と相同性のある新規なポリペプチド(配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)の部分ポリペプチドフラグメントである。
ヒトのアポリポタンパク質C−IIIは、高密度リポタンパク質(HDL)、カイロミクロン、超低密度リポタンパク質(VLDL)画分に分布しており、リポプロテインの代謝に関連していると考えられている。一方、BapoC−IIIは、主に、高密度リポタンパク質(HDL)に分布しているが、その機能はほとんど知られていない(非特許文献2)。
前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、前記BapoC−III、すなわち配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの第87番のセリンがロイシンに置き換わったアポリポタンパク質C−III−87L変異体(以下、87L−BapoC−IIIと称する)の第24〜89番の部分ポリペプチドフラグメント(以下、87L−BapoC−IIIfragと称する)である。
【0014】
前記配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、具体的には、EEGSLLDKMQ GYVKEATKTA KDALSSVQES QVAQQARDWM TESFSSLKDY WSSFKGKFTD FWESATで表されるアミノ酸からなるポリペプチドであり、ウシのアポリポプロテインC−III(配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)の部分ポリペプチドフラグメントであり、すなわち、BapoC−IIIの第24〜89番の部分ポリペプチドフラグメント(以下、BapoC−IIIfragと称する)である。
【0015】
本発明のポリペプチドである「配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド」は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、前記の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(87L−BapoC−IIIfrag)を含み、更に、
(2a)配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド;
(2b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端に、配列番号3で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列(すなわち、N末端が配列番号3の第1番〜第23番のアミノ酸のいずれかである)、及び/又はC末端に配列番号3で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列(すなわち、C末端が、配列番号3の第90番〜96番のアミノ酸のいずれかである)[以下、「配列番号3で表されるアミノ酸配列、そのN末端欠失配列及び/又はC末端欠失配列」と称する]を有し、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド;並びに
(2c)配列番号3で表されるアミノ酸配列、そのN末端欠失配列及び/又はC末端欠失配列において、そのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド、
などが含まれる。
前記(2b)のポリペプチドには、例えば、
MQPRLLLLAA FLALLVLPEA TKAEEGSLLD KMQGYVKEAT KTAKDALSSV QESQVAQQAR DWMTESFSSL KDYWSSFKGK FTDFWELATS PTQSPPで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、すなわち、87L−BapoC−IIIが含まれる。
【0016】
本明細書において、「血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示す」か否かを判定する方法(以下、「血管内皮細胞増殖因子阻害活性の判定方法」は、血管内皮細胞増殖因子の作用を阻害するか否か、あるいは血管内皮細胞増殖因子を産生及び/又は分泌する細胞における、血管内皮細胞増殖因子の産生及び/又は分泌を阻害するか否かを判定することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、血管内皮細胞増殖因子と試験するポリペプチドを混合して、直接血管内皮細胞増殖因子の作用を抑制されるか否か、又は前記の試験ポリペプチドと血管内皮細胞増殖因子を産生及び/又は分泌する細胞を接触させ、細胞の血管内皮細胞増殖因子の産生及び/又は分泌が抑制されるか否かで確認することができる。より具体的には、後述の実施例1に記載のように、VEGFを産生するB16メラノーマ細胞に試験するポリペプチドを混合し、産生されるVEGFの濃度をELISAで測定することによって、確認することができる。
血管内皮細胞増殖因子(以下、VEGFと称する)は、血管形成において、血管内皮細胞に特異的に作用する重要な増殖因子であり、血管透過性亢進の作用も有している。VEGFは、更に管腔形成の促進、内皮細胞の遊走、及び腫瘍血管における病的血管新生などの作用も有している。VEGFには、スプライシングの違いにより、いくつかのサブタイプがあり、121、165、189アミノ酸のタイプが知られている。これらのうち、165アミノ酸のサブタイプ(VEGF165)が量的に多く存在し、マウスの実験では、VEGF165が最も効率よく腫瘍血管を誘導することが報告されている。
【0017】
本明細書において、「抗腫瘍活性を示す」か否かを判定する方法(以下、「抗腫瘍活性の判定方法」は、生体内及び/又は試験内において腫瘍細胞の増殖、腫瘍細胞の転移、特定のタンパク質の産生/分泌、などを阻害、又は抑制するか否かを判定することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、マウスに癌細胞を移植した担癌マウスに、前記試験ポリペプチドを投与し、移植された癌細胞の増殖、転移などが抑制されたか否かで確認することができる。より具体的には、後述の実施例2に記載のように、B16メラノーマ細胞をマウスに接種し、試験するポリペプチドをマウスに投与することによって、16メラノーマ細胞の生体における増殖が抑制されるか否かで確認することができる。
【0018】
本発明のポリペプチドにおける前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行うための配列を用いることができ、例えば、FLAGタグ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、mycエピトープなどを挙げることができる。
【0019】
本発明の「機能的等価改変体1」及び「機能的等価改変体2」は、それぞれ配列番号1及び配列番号2で表されるアミノ酸配列における、1又は複数の箇所において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個(例えば、1〜数個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もウシに限定されるものではない。
また、本発明の「機能的等価改変体」は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における、1又は複数の箇所において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個(例えば、1〜数個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もウシに限定されるものではない。但し、本発明の「機能的等価改変体」は、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを除く。
【0020】
本発明の「機能的等価改変体」には、例えば、前記機能的等価改変体1及び機能的等価改変体2を含み、更に、
(4a)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド;
(4b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端に、配列番号3で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列、及び/又はC末端に配列番号3で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列を有し、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド;並びに
(4c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端に、配列番号3で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列、及び/又はC末端に配列番号3で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加されたアミノ酸配列であって、そのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド、
などが含まれる。
【0021】
本発明の機能的等価改変体には、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのウシにおける変異体が含まれるだけでなく、ウシ以外の生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ウシ由来の変異体、あるいは、ウシ以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチドなどが含まれる。
【0022】
本発明のポリペプチドは、例えば、ウシの血液から分離及び精製することができる。具体的には、例えば、前記87L−BapoC−IIIfragは、以下のような方法で製造することができる。
ウシの血漿から本発明のポリペプチド以外のタンパク質を除くために、硫安沈殿による分画を行う。例えば、50%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加してウシ血漿を沈殿し、上清を回収する。更に得られた上清を80%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加して沈殿し、沈殿物を回収する。得られた沈殿物は、そのまま、次の工程であるカラムによる分画に用いてもよいが、透析により脱塩を行い、凍結乾燥したものをカラムによる分画の工程に用いてもよい。
カラムによる分画は、本発明のポリペプチドを分離及び精製することができる限り、限定されるものではなく、公知の方法を用いること可能である。例えば、ゲルろ過カラム、イオン交換カラム、疎水性カラム、逆相カラムなどを単独で、又は組み合わせて用い、本発明のポリペプチドを分離精製することができる。
分離及び精製方法に用いるカラムの例として、ゲルろ過、疎水性相互作用、イオン交換相互作用を併せ持つ、マルチモード用カラムを用いることができ、例えば、Shodex社のGS−HQシリーズのカラムを挙げることができる。具体的には、凍結乾燥したサンプルを、溶媒に溶解し、高速液体クロマトグラフィーにより分画する。サンプルを溶解する溶媒は、公知のものを使用することができるが、前記マルチモードカラムを用いる場合は、クエン酸ナトリウムを用いることにより、効率よく本発明のポリペプチドを回収することができる。クエン酸ナトリウムの濃度は、ゲルろ過に用いることができる限り特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜15%であり、より好ましくは、0.05〜5.0%である。回収する分画は、本発明のポリペプチドが多く含まれる分画であるが、特には分子量約7.5kDaの87L−BapoC−IIIfragが多く含まれる分画を回収することが好ましい。回収した分画は、透析により脱塩し、本発明のポリペプチドとして用いることができる。
ウシの血液から本発明のポリペプチドを製造(分離及び精製)する場合には、適宜、それぞれの精製工程のサンプルの「血管内皮細胞増殖因子阻害活性」及び/又は「抗腫瘍活性」を確認することが好ましい。
【0023】
また、本発明のポリペプチドは、遺伝子工学的に製造することもできる。配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ウシ、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA、若しくはmRNA分画、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例1に記載の方法により、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すことを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
また、本発明の「機能的等価改変体」は、前記配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチドが含まれるが、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis)により、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例1に記載の方法により、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すことを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0024】
また、本発明のポリペプチドは、化学合成によって製造することもできる。ペプチドの化学合成法としては、液相法及び固相法があり、本発明のポリペプチドのように比較的長いポリペプチドの合成には、固相法が好ましい。固相法としては、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法を挙げることができ、合成したペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知の方法で精製することができる。特に、70アミノ酸を超えるポリペプチドは、ネイティブケミカルライゲーション法を用いて、2つの合成したポリペプチド鎖を結合させることにより、高収率で合成することができる。
【0025】
本発明のポリペプチドは、後述の「血管内皮細胞増殖因子阻害剤」及び/又は「抗癌剤」の有効成分として使用することができる。具体的には、本発明のポリペプチドを、薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することによって、血管内皮細胞増殖因子阻害剤」及び/又は「抗癌剤」として使用することができる。
【0026】
[2]本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む。
前記本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドは、具体的には、
(1)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド、あるいは、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド、
を挙げることができる。
【0027】
そして、更に、
(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド、及び
(6)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド、
を挙げることができる。
【0028】
本発明の本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド」は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、を示すポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、前記の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(BapoC−IIIfrag)を含み、更に、
(5a)配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示す融合ポリペプチド;
(5b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端に、配列番号4で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列(すなわち、N末端が配列番号4の第1番〜第23番のアミノ酸のいずれかである)、及び/又はC末端に配列番号4で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列(すなわち、C末端が、配列番号4の第90番〜96番のアミノ酸のいずれかである)[以下、「配列番号4で表されるアミノ酸配列、そのN末端欠失配列及び/又はC末端欠失配列」と称する]を有し、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド;並びに
(5c)配列番号4で表されるアミノ酸配列、そのN末端欠失配列及び/又はC末端欠失配列において、そのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示す融合ポリペプチド、
などが含まれる。
【0029】
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド」には、例えば、前記機能的等価改変体2を含み、更に、
(6a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示す融合ポリペプチド;
(6b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端に、配列番号4で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列、及び/又はC末端に配列番号4で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列を有し、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド;並びに
(6c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端に、配列番号4で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列、及び/又はC末端に配列番号4で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加されたアミノ酸配列であって、そのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示す融合ポリペプチド、
などが含まれる。
【0030】
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、癌細胞からの血管内皮細胞増殖因子の産生及び/又は分泌を抑制することが可能であるので、「血管新生阻害剤」として用いることもできる。従って、本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、例えば、血管内皮細胞の異常な増殖に関連する疾患の治療又は予防に有用である。このような対象疾患としては、例えば、癌(例えば、膀胱癌、乳癌、子宮頸部癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、悪性黒色腫、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、悪性リンパ腫、肝臓癌、肺癌、若しくは胃癌)、又は、膠原病、バセドウ病、リウマチ様関節炎、カポジ肉腫、乾癬、アテローム性動脈硬化症、強皮症、アルツハイマー病、糖尿病、糖尿病性網膜症、若しくは緑内障などを挙げることができる。
【0031】
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、前記の本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0032】
投与剤型としては、特に限定はなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤などの経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、ゼリー、ジェル、ペースト、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0033】
前記経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0034】
非経口投与方法としては、クリーム又は軟膏等による局所投与、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。例えば、注射剤の調製においては、有効成分としてのポリペプチドの他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤等を任意に用いることができる。
【0035】
また、本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤を徐放性ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0036】
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、これに限定されるものではないが、ポリペプチドを、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
【0037】
本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などにより異なり、当業者が適宜決定することができる。更に、形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。
【0038】
《作用》
本発明の「血管内皮細胞増殖因子阻害剤」は、後述のようにVEGFの産生及び分泌細胞の培養上清中の、ELISA法によって測定されるVEGFの量を抑制するものである。VEGFを阻害する方法は、VEGFの産生を抑えること、VEGFの分泌を抑えること、及びVEGFの活性を抑えること(例えば、VEGFの活性の発現に係るエピトープ又はドメインと結合して覆い隠すこと)のいずれか1つの方法でもよく、それらの組み合わせによりVEGFを阻害するものでもよい。また、本発明の「血管内皮細胞増殖因子阻害剤」は、「血管新生阻害剤」として働くものである。
【0039】
[3]抗癌剤
本発明の抗癌剤は、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む。
【0040】
前記本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドは、具体的には、
(1)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、抗腫瘍活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、抗腫瘍活性を示すポリペプチド、あるいは、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、抗腫瘍活性を示すポリペプチド、
を挙げることができる。
【0041】
そして、更に、
(7)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、抗腫瘍活性を示すポリペプチド、及び
(8)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、抗腫瘍活性を示すポリペプチド、
を挙げることができる。
【0042】
本発明の抗癌剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性を示すポリペプチド」は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、を示すポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、前記の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(BapoC−IIIfrag)を含み、更に、
(7a)配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド;
(7b)配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端に、配列番号4で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列(すなわち、N末端が配列番号4の第1番〜第23番のアミノ酸のいずれかである)、及び/又はC末端に配列番号4で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列(すなわち、C末端が、配列番号4の第90番〜96番のアミノ酸のいずれかである)[以下、「配列番号4で表されるアミノ酸配列、そのN末端欠失配列及び/又はC末端欠失配列」と称する]を有し、抗腫瘍活性を示すポリペプチド;並びに
(7c)配列番号4で表されるアミノ酸配列、そのN末端欠失配列及び/又はC末端欠失配列において、そのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド、
などが含まれる。
【0043】
本発明の抗癌剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、抗腫瘍活性を示すポリペプチド」には、例えば、前記機能的等価改変体2を含み、更に、
(8a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド;
(8b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端に、配列番号4で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列、及び/又はC末端に配列番号4で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列を有し、抗腫瘍活性を示すポリペプチド;並びに
(8c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、全体として1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入され、更にそのN末端に、配列番号4で表されるアミノ酸配列における第1番〜第23番のアミノ酸配列からなる配列又はそのN末端から1〜22個のアミノ酸が欠失した配列が付加された配列、及び/又はC末端に配列番号4で表されるアミノ酸配列における第90番〜第96番のアミノ酸配列からなる配列又はそのC末端から1〜5個のアミノ酸が欠失した配列が付加されたアミノ酸配列であって、そのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、抗腫瘍活性を示す融合ポリペプチド、
などが含まれる。
【0044】
本発明の抗癌剤は、癌細胞の増殖及び転移を抑制することが可能であるので、例えば、膀胱癌、乳癌、子宮頸部癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、悪性黒色腫、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、悪性リンパ腫、肝臓癌、肺癌、胃癌、などの治療又は予防に有用である。
【0045】
本発明の抗癌剤は、前記の本発明の抗癌剤の有効成分として用いることのできるポリペプチドを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0046】
投与剤型としては、特に限定はなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤などの経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、ゼリー、ジェル、ペースト、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0047】
前記経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0048】
非経口投与方法としては、クリーム又は軟膏等による局所投与、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。例えば、注射剤の調製においては、有効成分としてのポリペプチドの他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤等を任意に用いることができる。
【0049】
また、本発明の抗癌剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の血抗癌剤を徐放性ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0050】
本発明の抗癌剤は、これに限定されるものではないが、ポリペプチドを、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
【0051】
本発明の抗癌剤の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などにより異なり、当業者が適宜決定することができる。更に、形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。
《作用》
本発明の抗癌剤は、後述の実施例2に記載のように、B16メラノーマ細胞の肺における増殖を顕著に抑制することができる。この抗腫瘍作用のメカニズムの1つは、血管内皮細胞増殖因子の阻害であることが考えられるが、これに限定されるものではなく、有効成分として含まれているポリペプチドのその他の作用によって抗腫瘍作用が発揮されている可能性も高いと考える。すなわち、本発明の抗癌剤は、メラノーマ細胞に対する試験管内での直接的な障害作用は有さないものと考えられるが、例えば、他の癌細胞への直接的な障害作用がないこと、生体内での癌細胞への直接的な障害作用がないことを示すものではなく、更に抗腫瘍効果が得られる他の作用を有している可能性もある。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
《製造例》
[A]ウシ血漿からの7.5KDaのタンパク質の分離及び精製
ウシの血漿約1,000mLに、50%飽和となるように硫酸アンモニウムを少量ずつ添加し、4℃で、30分間撹拌した。その後、4℃で、30分間以上静置した後に、冷却遠沈機により、4℃で、10,000rpm、60分間遠心分離し上清を回収した。この操作により、グロブリン以上の大きさのタンパク質の多くを取り除いた。
得られた上清に、更に、80%飽和となるように、硫酸アンモニウムを少量ずつ添加し、溶解後、4℃で30分間撹拌した。更に20%酢酸を用いてpH=5.0に調整し、4℃の保冷庫で一夜静置した。冷却遠沈機により、4℃で、10,000rpm、60分間遠心分離し、沈殿物を回収した。透析チューブ(Spectrum SpectraPor 3;分画分子量3,500MW)に沈殿物を入れ、外液に0.04%クエン酸ナトリウムを用いて6時間、透析脱塩を行った。更に、外液を交換し、8時間の透析脱塩を3回繰り返した。得られたタンパク質溶液をSterivex−GV 0.22μmフィルター(MILLIPORE社)でろ過後、凍結乾燥機(FD−81;EYELA社)を用いて凍結乾燥し、約30gの粉末を得た。
得られた粉末を0.1%クエン酸ナトリウム溶液600mLに溶解し、0.1%クエン酸ナトリウム溶液をキャリア液として使用し、HPLCで分画した。カラムは、Asahipak GS−520 20G(Shodex社製、マルチモード用分取カラム)を用い、分子量7.5kDaのタンパク質を最も多く含む分画を回収した。
得られた分画を、Pellicon XL Devices(バイオマックス−5分画分子量5kDa、MILLIPORE社製)にて脱塩濃縮した。この分画を、更に、0.1%クエン酸Na溶液をキャリア液として使用し、HPLCで分画した。ゲルろ過カラムは、Asahipak GS−320 20G(Shodex社製、マルチモード用分取カラム)を用い、分子量7.5kDaのタンパク質を最も多く含む分画を回収した。カラムを用いて分画したそれぞれの画分をSDS−PAGEによって電気泳動した写真を図1に示す。回収した画分は、図1のレーンhの画分であり、約7.5kDaのバンドを確認することができる。なお、約66KDaのタンパク質は、アルブミンである。
得られた分画を、ビバスピン20(Sartorius社製、分画分子量 3,000)にて脱塩、濃縮を行い、更に、MILLIPORE社マイクロコンYM−3にて脱塩、濃縮し、合計で約30mgのタンパク質を含む溶液を得た。これを使用するまで−20℃にて凍結保存した。
得られたタンパク質を、7.5kタンパク質と称する。
【0054】
[B]7.5kDaのタンパク質の質量分析
得られた7.5kタンパク質を、PMF(ペプチドマスフィンガープリンティング)法により、アミノ酸配列を解析した。具体的には、MALDI(Matrix-assisted Laser dissorption ionization)−TOF(Time of Flight)−MSを用いた質量分析によりアミノ酸組成を分析し、データベースサーチにより、タンパク質を同定した。
5〜20%グラジェントのSDSポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い、約7.5kDaのタンパク質のバンドを切り出した。得られたタンパク質をトリプシンで、切断後、MALDI−TOF−MSでアミノ酸組成の分析を行い、タンパク質データベースから、タンパク質を同定した。実際の分析は、(株)島津製作所プロテオーム解析センターに依頼して行った。
その結果、約7.5kタンパク質は、ウシのアポリポタンパク質C−IIIの第87番のセリンがロイシンに置き換わったアポリポタンパク質C−IIIの変異体(87L−BapoC−III)の第24〜89番の部分ポリペプチドフラグメント(87L−BapoC−IIIfrag)であることがわかった。以下に、87L−BapoC−IIIfragのアミノ酸配列を示す。分子量は7544である。
EEGSLLDKMQ GYVKEATKTA KDALSSVQES QVAQQARDWM TESFSSLKDY WSSFKGKFTD FWESAT
【0055】
[C]注射液の製造
実施例1(A)で得られた7.5kタンパク質50mgを生理食塩水10mLに溶解し、5mg/mLの注射液を作成した。
【0056】
《参考例1:87L−BapoC−IIIfragによるB16メラノーマ細胞に対するin vitroにおける障害活性》
本参考例では、B16メラノーマ細胞に対する、前記87L−BapoC−IIIfragのin vitroにおける障害活性(殺作用)を調べた。
B16メラノーマ細胞を、10%ウシ胎児血清(COSMO BIO社製)を添加したRPMI1640Liquid「ニッスイ」(日水製薬社製;以下、RPMI培地と称する)を用いて、3日間培養した。B16メラノーマ細胞を遠心分離によって回収し、トリパンブルー染色を行い、細胞数をカウントした。滅菌済みの96ウェルマイクロプレートを用意し、1ウェル当たり、細胞1×10個を分注した。
実施例1(A)で得られた7.5kタンパク質を、RPMI培地を用いて希釈し、200μg/mL、1000μg/mL、5000μg/mLの濃度の溶液を調整し、B16メラノーマ細胞が分注されたウェルに添加した。コントロールとして、RPMI培地(7.5kタンパク質0μg/mL)のみを加え、培養開始から48時間後の細胞の生存率を測定した。細胞の生存率は、各ウェルの細胞を48時間後に、トリパンブルー染色液で染色し、生きている細胞数を全体の細胞数で割ったものを生存率とした。試験は、それぞれの濃度について4ウェルで行い、平均を計算した。
培養を開始してから48時間後における、生存率はコントロールが92.1%、であるのに対して、200μg/mL投与したものは92.3%、1000μg/mLが91.4%、5000μg/mLが91.0%の生存率であり、7.5kタンパク質のB16メラノーマ細胞に対する殺細胞作用(障害活性)は、認められなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
《実施例1:87L−BapoC−IIIfragによるVEGFの分泌阻害》
B16メラノーマ細胞を、RPMI培地を用いて培養し、対数増殖期にあるB16メラノーマ細胞を、0.25%Trypsin/PBSで処理し、回収した。遠心分離機で、1,200rpmで6分間、遠心した後、RPMI培地に再懸濁し細胞数をカウントした。
B16メラノーマ細胞を、1×10/100μL/wellに調整し、96穴マイクロプレートに撒いた。実施例1(A)で得られた7.5kタンパク質を、RPMI培地を用いて、10μg/100μL(A)、100μg/100μL(B)、500μg/100μL(C)の濃度に溶解し、それぞれのウェルに100μLずつ加えて培養した。コントロールは、RPMI培地のみで培養し、24時間後と48時間後の培養上清を回収した。
培養上清中のVEGFの濃度をQuantikine Mouse VEGF Immunoassayキット(R&D systems社)とBIO-KINETICS READER EL312e(BIO-TEK INSTRUMENT社)を用いてELISA法で測定した。試験は、それぞれ2ウェルで行い平均を計算した。結果を図3に示す。24時間後の培養上清中には、VEGFの分泌は少なく、7.5kタンパク質の添加により、VEGFの分泌に、顕著な差は見られなかったが、48時間後の培養上清中に産生されたVEGFの値は、7.5kタンパク質の用量依存的に抑制された。
確認のために、同じ実験を繰り返し、48時間後の培養上清を回収し、培養上清中のVEGFの濃度をELISA法で測定した。結果を図4に示す。コントロールでは、培養上清中に約300pg/mLのVEGFの分泌が見られたが、7.5kタンパク質を添加した培養上清では、100pg/mL以下に抑制されていた。
【0059】
《実施例2:87L−BapoC−IIIfragによるin vivoにおける抗腫瘍作用》
本実施例2では、実験的肺転移モデルを用いて、87L−BapoC−IIIfragの抗腫瘍作用を検討した。マウスB16メラノーマ細胞は、皮膚癌由来の癌細胞であり、マウスに投与することにより、高い確率で血行性転移を起こすことが知られている。この細胞をC57BL/6マウスの尾静脈より静注し実験的肺転移腫瘍を作り、腫瘍の肺転移と増殖に対する87L−BapoC−IIIfragの効果を検討した。
7週齢のC57BL/6雌性マウス(日本クレア社)10匹を、1週間の予備飼育をした後、8週齢に実験に用いた。飼育期間中、飼料および飲料は自由摂取とした。
腫瘍細胞として、対数増殖期にあるB16メラノーマ細胞を0.02%EDTA/PBSにて回収し、1,200rpmで6分間、遠沈後、PBSに再懸濁し細胞数をカウントした。B16メラノーマ細胞を、PBSにて5×10/100μLに調整し、C57BL/6 マウスの尾静脈より、100μLずつ静脈内接種した。
87L−BapoC−IIIfragの投与は、前記製造例[C]で製造した注射剤を用いて、B16メラノーマ細胞の接種1日後から、87L−BapoC−IIIfragを、500μg/100μL/headで、1週間に2回、尾静脈より投与した(実験群I)。対照群の10匹マウスには100μLの生理食塩水のみを同様に投与した。
B16メラノーマ細胞の接種から21日目に、マウスを安楽死させた後、それぞれの肺を摘出した。肺を10%ホルマリン液で固定し、肺に形成された腫瘍結節数を顕微鏡下で外側より観察した。結果を表2及び3、並びに図5及び6に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
実験群Iにおいては、コントロールの腫瘍結節数の平均83.3個に対して、投与群は21.6個であり、87L−BapoC−IIIfragの投与によって、コントロールと比較して、腫瘍結節数が約1/4に抑制された。すなわち、B16メラノーマ細胞接種の翌日からの87L−BapoC−IIIfragの投与によって、B16メラノーマ細胞の肺での増殖が抑えられた。
【0063】
《実施例3:87L−BapoC−IIIfragによるin vivoにおける抗腫瘍作用》
前記製造例[C]で製造した注射剤を用いて、B16メラノーマ細胞の接種3日前から、87L−BapoC−IIIfragを、500μg/100μL/headで、1週間に2回、尾静脈より投与した(実験群II)ことを除いては、実施例2の工程を繰り返した。結果を表4及び5、並びに図7及び8に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
実験群IIでは、コントロールの腫瘍結節数の平均27.3個に対して投与群は1.1個であり、87L−BapoC−IIIfragの投与によって、コントロールと比較して、腫瘍結節数が約1/20にまで抑制された。また、実験群IIの投与群10匹のうち6匹には結節が全く無く、B16メラノーマ細胞接種の3日前からの87L−BapoC−IIIfragの投与によって、B16メラノーマ細胞の肺での増殖が、顕著に抑えられた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のポリペプチドは、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を有するので、血管内皮細胞増殖因子阻害剤、又は抗癌剤の有効成分として有用である。
また、本発明の血管内皮細胞増殖因子阻害剤は、血管内皮細胞などの異常増殖を伴う疾患の予防や治療に用いることができる。更に、本発明の抗癌剤は、癌の化学療法において、術後の転移や再発を防ぎ、また、放射線療法などとも組み合わせて用いることができ、特に固形癌においては、癌の組織の増殖と転移を効果的に抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド、あるいは、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、血管内皮細胞増殖因子阻害活性、及び/又は抗腫瘍活性を示すポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む、血管内皮細胞増殖因子阻害剤。
【請求項3】
配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを、有効成分として含む、抗癌剤。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−235498(P2010−235498A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84333(P2009−84333)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本癌治療学会発行、「日本癌治療学会誌」 第43巻 第2号(第46回 日本癌治療学会総会抄録号)、平成20年10月1日発行
【出願人】(597140534)医療法人社団誠志会 (1)
【Fターム(参考)】