血管内皮障害を検査するための新規な検査方法および検査用キット
【課題】血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことを可能としうる手段を提供する。
【解決手段】本発明の一形態によれば、生体より採取した血漿試料について、1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、2)組織因子含有マイクロパーティクルを検出または定量する工程とを含む、血管内皮障害の検査方法が提供される。また、本発明の他の形態によれば、血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体と、組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体とを含む、血管内皮障害の検査用キットが提供される。
【解決手段】本発明の一形態によれば、生体より採取した血漿試料について、1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、2)組織因子含有マイクロパーティクルを検出または定量する工程とを含む、血管内皮障害の検査方法が提供される。また、本発明の他の形態によれば、血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体と、組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体とを含む、血管内皮障害の検査用キットが提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮障害を検査するための新規な検査方法および検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に、高血糖、高血圧および高脂血症のいずれか2種以上を合併した病態をいう。このメタボリックシンドロームは、高齢化社会に向けて、医療費抑制および高齢者のQOL確保等の観点から、予防・改善すべき病態である。そして、メタボリックシンドロームは、生活習慣の改善によってその発症を予防することが有効であると考えられている。
【0003】
このメタボリックシンドロームの病態の進行には、血管内皮の障害が関与しているとされている。例えば、血管内皮に障害を受けた患者群ほど心血管イベントの発症率が高いことが報告されている。
【0004】
ところで、活性化した種々の細胞は微小粒子(マイクロパーティクル(MP;MicroParticle))と呼ばれる小胞を放出することが知られている。直径1〜2μm程度のこれらのマイクロパーティクルは、由来する細胞に応じて、血小板由来マイクロパーティクル(PDMP;Platelet-Derived MicroParticle)、血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP;Endothelial-Derived MicroParticle)、単球由来マイクロパーティクル(MDMP;Monocyte-Derived MicroParticle)などが知られており、生体内で重要な役割を演じているとされている。
【0005】
これらのMPは、種々の受容体、膜タンパク質(GpIIb/IIIa、VE-cadherin、Tissue Factor(TF))などを発現し、血栓形成に関与すると考えられている。また、多くの病態で、血行中のMPレベルが高いことが観察されている。したがって、これらのMPの検出・定量は、種々の病態の進行における血栓前駆状態の重篤度の検出および評価、ひいてはメタボリックシンドロームの病態・重篤度の評価における重要な尺度となることが期待される。そして、これらの評価に基づく予防的医療が実現できれば、今後到来する高齢社会におけるその有用性は計り知れない。
【0006】
従来、マイクロパーティクルを病態マーカーとして用いる、血管内皮障害に関連した各種病態の検査技術として、例えば特許文献1には、血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)を指標とする血栓症前駆状態の検出・監視方法が開示されている。また、例えば特許文献2には、同じく血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)を指標として心臓血管疾患を診断したり、その予後を評価したり、その進行の有無を評価したりする方法が開示されている。
【0007】
従来、生体試料(例えば、血漿)中のマイクロパーティクルを検出・定量する手法としては、例えば濾過法や酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)法などが従来提案されていた。しかし近年では、MPのサイズおよび表面状態を同時に計測可能なフローサイトメトリー法を利用してMPを検出・定量することが広く行われている。フローサイトメトリー法の原理や、細胞・細胞粒子の部分集団を識別して定量する方法におけるその利点などは、今日では当該技術に精通する者にはよく知られており、MPの検出・定量以外の用途でも、例えば、血液中の活性化された血小板の検出や、機能検定法による血小板由来のプロ凝血素性微粒子の検出などに既に利用されている。なお、フローサイトメトリー法を用いると、複数の計測対象を同時に計測することが可能である。にもかかわらず、従来提案されているフローサイトメトリー法によるMPの検出・定量方法は、単色の蛍光標識を利用して1種のみのMPを計測するものである。従来の技術はこの点で、フローサイトメトリー法の利点を十分に生かし切れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−533698号公報
【特許文献2】特表2008−529702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、PDMPを指標として各種病態の診断・予後評価を行う技術が従来提案されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、従来提案されているPDMPのみを指標とした手法では、血管内皮障害の検出・評価を確定的に行うには十分ではないことが判明した。その一因として、血漿中のPDMPは血管内皮障害以外のイベント(例えば、炎症の発生など)によってもそのレベルが上昇してしまうことが考えられた。
【0010】
そこで本発明は、上述したような従来技術における課題に鑑み、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことを可能としうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決することを目指して、鋭意研究を行なった。その過程で、血管内皮障害の高リスク患者群における各種マイクロパーティクルの検出・定量を試みた。また、それだけでなく、各マイクロパーティクル間での相関も調べてみた。そうしたところ、まったく予期していなかったことに、血管内皮障害の高リスク患者群においては、血漿中における血管内皮由来マイクロパーティクル(以下、単に「EDMP」とも称する)の量と、組織因子(TF;Tissue Factor)を含有するマイクロパーティクル(以下、「組織因子含有マイクロパーティクル」または「TF」とも称する)の量との間に高い相関が認められることを知得した。この知見に基づき、これら2種のマイクロパーティクルが血管内皮障害の病態マーカーとして用いられうるであろうと考え、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の形態によれば、生体より採取した血液試料について、
1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
2)組織因子含有マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
を含む、血管内皮障害の検査方法が提供される。
【0013】
上記検査方法においては、工程1)を、血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体(例えば、抗CD144抗体)を用いて行い、工程2)を、組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体(例えば、CD142抗体)を用いて行うことが好ましい。
【0014】
また、上記検査方法においては、第1および第2の抗体が蛍光色素で標識されたものであることが好ましく、この場合、工程1)および工程2)は、フローサイトメトリー法を用いて行われうる。
【0015】
さらに、上記検査方法は、上記血液試料について、
3)血小板由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程、および/または、
4)単球由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程、および/または、
5)好中球由来マイクロパーティクル(NDMP;Neutrophil-Derived MicroParticle)を検出または定量する工程
をさらに含むことが好ましい。
【0016】
なお、本発明の他の形態によれば、上記検査方法における上記工程を含む、メタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査方法もまた、提供されうる。
【0017】
また、本発明のさらに他の形態によれば、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体と、
組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体と、
を含む、血管内皮障害の検査用キットが提供される。
【0018】
上記検査用キットにおいては、第1の抗体が抗CD144抗体であり、第2の抗体が抗CD142抗体であることが好ましい。
【0019】
また、上記検査用キットにおいては、第1および第2の抗体が蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン−Cy5、またはフィコエリトリンなど)で標識されたものであることが好ましく、この場合、当該検査用キットは、フローサイトメトリー法を用いた検査に用いられうる。さらにこの場合、上記検査用キットは、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第1のセッティングビーズと、
組織因子含有マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第2のセッティングビーズと、
濃度既知の計数ビーズと、
マイクロパーティクルの検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズと、
をさらに含むことが好ましい。なお、閾値ビーズの平均粒径は好ましくは0.5μmであり、計数ビーズの平均粒径は好ましくは3〜7μmであり、第1および第2のセッティングビーズの平均粒径は好ましくは1〜2μmである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の検査方法や検査用キットを用いることで、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことが可能となる。また、このようにして血管内皮障害の検出・評価を行うことで、ひいてはメタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FS×SSサイトグラムのFSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定する段階を説明するための説明図である。
【図2】1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FS×SSサイトグラムのFSにおけるTF検出領域の粒径の上限部位を決定する段階を説明するための説明図である。
【図3】FS×SSサイトグラム上で、TF検出のための1次領域(1次ゲート)を決定する段階を説明するための説明図である。
【図4】FS×FLサイトグラム上で、TF検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図5】2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FS×SSサイトグラムのFSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定する段階を説明するための説明図である。
【図6】FS×SSサイトグラム上で、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定する段階を説明するための説明図である。
【図7】FS×FLサイトグラム上で、EDMP検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図8】実施例1において、計測サンプルにおけるEDMPおよびTFを検出した結果を示す図である。
【図9A】実施例1におけるEDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【図9B】実施例1におけるTFの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【図10】計数ビーズを計測する段階を説明するための説明図である。
【図11A】実施例1において計測された、健常ボランティア由来の計測サンプル中のEDMP濃度(平均値±標準偏差)と、患者由来の計測サンプルにおけるEDMP濃度(平均値±標準偏差)とを比較したグラフである。
【図11B】実施例1において計測された、健常ボランティア由来の計測サンプル中のTF濃度(平均値±標準偏差)と、患者由来の計測サンプルにおけるTF濃度(平均値±標準偏差)とを比較したグラフである。
【図12】FS×FLサイトグラム上で、PDMP検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図13】実施例2において、計測サンプルにおけるPDMPを検出した結果を示す図である。
【図14】実施例2におけるPDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【図15】実施例2において計測された、健常ボランティア由来の計測サンプル中のPDMP濃度(平均値±標準偏差)と、患者由来の計測サンプルにおけるPDMP濃度(平均値±標準偏差)とを比較したグラフである。
【図16】FS×FLサイトグラム上で、MDMP検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図17】実施例3において、計測サンプルにおけるMDMPを検出した結果を示す図である。
【図18】実施例3におけるMDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1の形態は、生体より採取した血液試料について、
1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)を検出または定量する工程と、
2)組織因子含有マイクロパーティクル(TF)を検出または定量する工程と、
を含む、血管内皮障害の検査方法である。以下、本発明の検査方法を実施するための好ましい一形態について、MPの検出・定量をフローサイトメトリー法により行う場合を例に挙げて具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の具体的な実施形態のみには限定されない。
【0023】
本発明の検査方法においては、検査対象の試料として、生体より採取した血液試料を用いる。本発明の検査方法を適用することができる対象としては、動物であれば特に限定されないが、例えば、哺乳動物等が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、霊長類、実験用動物、家畜、ペット等が挙げられ特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ヒト、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどが挙げられる。好ましくは、対象動物はヒトである。また、本発明の検査方法に用いられる血液試料について特に制限はなく、従来臨床検査において一般的に用いられている血液試料が用いられうる。血液試料は例えば、血漿試料であり、好ましくは血小板欠乏血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)である。
【0024】
ここで、採血時に存在するMPを検出し、採血後にMPが発現しないようにするためには、血小板を活性化させないことが重要となる。従って、血漿試料等の血液試料の調製の際には、Caイオンキレート作用を有するクエン酸やEDTAを抗凝固剤として用いることが好ましい。なお、従来MPの計測ではクエン酸採血管を用いることが一般的に行われているが、本発明の検査方法のようにMP計測のみが目的の場合には、試料安定性を向上させることを目的として、Caイオンキレート効果が強いEDTAを抗凝固剤として用いることがより好ましい。
【0025】
なお、全血試料にはMPに対して血球成分が多数存在することから、本発明の検査方法においては、血液試料として全血試料よりも血漿試料を用いることが好ましい。具体的には、全血試料の処理過程で血球細胞から余計なMPを生じさせないように、血球成分をできるだけ穏やかに除去し、特に血小板とのコンタミネーションをできるだけ排除する必要がある。全血試料から血球成分を除去して血漿試料を得るには、遠心操作により血漿成分を分離すればよい。この際の遠心条件について特に制限はなく、例えば、最も簡便な方法である8000gで5分といった条件が用いられうる。なお、試料容器としてはPP製マイクロチューブを用いればよい。
【0026】
続いて、血球が沈殿した上清の血漿を別の試料容器(PP製マイクロチューブなど)に移し、フローサイトメトリー法の計測用試料とする。遠心操作によって得られた血漿は例えば4℃程度の温度で保存し、速やかに使用する。あるいは、計測に使用するまで−20℃以下の低温で凍結保存し、解凍後速やかに計測に用いる。
【0027】
次に、計測用試料中のMPを免疫染色する。具体的には、免疫染色に必要な抗体濃度となるように、計測用試料に抗体を分注し、試料中に含まれるMPの表面抗原と反応させる。この際、免疫染色において抗原抗体反応が問題なく行われるように、計測用試料中のMP濃度の最大値を推定し、抗体分注量がMPを染色するのに十分であることを確認しておく。抗体濃度が不適切であると、抗原抗体結合部位に別の抗体がトラップされ偽陽性パターンとなることがある。抗体と表面抗原との間での抗原抗体反応を十分に進行させるための反応条件は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、室温にて5〜30分間程度インキュベートすればよい。ただし、蛍光色素に対する悪影響を防止するという観点からは、インキュベートは遮光条件下で行うことが好ましい。また、反応終了後、計測用試料を緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など)を用いて希釈してもよい。この際、MPどうしの凝集を防止することを目的として、ウシ血清アルブミン(BSA)等の凝集防止剤を0.1%程度の濃度で添加することが好ましい。
【0028】
フローサイトメトリー法によって血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。EDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD144抗体、抗CD105抗体、抗CD146抗体、抗CD62E抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD144抗体が用いられる。同様に、フローサイトメトリー法によって組織因子含有マイクロパーティクル(TF)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。TFを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD142抗体などが用いられうる。
【0029】
抗体を蛍光標識するのに用いられる蛍光色素について特に制限はなく、本技術分野における公知の知見が適宜参照されうる。かような蛍光色素としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、PE−Cy5、Cy3、Cy5、Cy5.5、PerCP、PE−Cy5.5、PE−Cy7、PerCP−Cy5.5などが挙げられる。上述したように、フローサイトメトリー法によれば複数の計測対象を同時に計測することができるという利点があるが、これを実現するためには、同時に計測を希望する異なる2つ以上の抗体のそれぞれを、互いに異なる蛍光色素によって標識すればよい。
【0030】
なお、フローサイトメトリー法による血液試料中のEDMPおよびTFの定量を可能とするために、計測用試料には、計数ビーズを添加しておく。具体的には、一定量の計数ビーズが既に含まれている計測用チューブ(例えば、TruCountTM tube(BD Biosciences)など)を用いてもよいし、別途準備した計数ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ(Polyscience、Philadelphia USA)など)を計量して、計測用チューブに添加してもよい。この際に用いる計数ビーズの平均粒径は、計測対象粒子と異なる血小板よりも大きな粒径が好ましく、好ましくは3〜7μmであり、より好ましくは3μmである。
【0031】
本発明者らの検討によれば、血管内皮障害の高リスク群としての患者由来の計測サンプルについて、EDMP濃度とTF濃度との間に極めて高い相関が見られることが今回初めて見出された。本発明の検査方法は当該知見に基づいて、血管内皮障害を検査することができる。具体的には、例えば、被験体から採取した血液試料中のEDMP濃度およびTF濃度を、健常者および血管内皮障害と確定診断された患者のそれぞれから採取した血液試料中のEDMP濃度およびTF濃度と比較して、被験体における血管内皮障害の有無や、血管内皮障害が存在する場合にはその程度を検査することが可能である。特に、EDMP濃度およびTF濃度の双方の値が、健常者と比較して有意に高いか、または確定診断後の患者と比較して有意に低くないときには、血管内皮障害が存在する可能性が非常に高いと判定することができる。なお、フローサイトメトリー法によって血液試料中のEDMP濃度やTF濃度を計測する具体的な手法については、後述する。
【0032】
さらに、本発明の検査方法は、上述した血液試料について、
3)血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)を検出または定量する工程、および/または、
4)単球由来マイクロパーティクル(MDMP)を検出または定量する工程、および/または、
5)好中球由来マイクロパーティクル(NDMP)を検出または定量する工程
をさらに含むことが好ましい。
【0033】
かような形態において、フローサイトメトリー法によってPDMPやMDMP、NDMPを検出または定量するには、これらを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。PDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD41抗体、抗CD62P抗体、抗CD61抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD41抗体が用いられる。同様に、フローサイトメトリー法によって単球由来マイクロパーティクル(MDMP)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。MDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD11b(Mac−1)抗体、抗CD32抗体、抗CD33抗体、抗CD14抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD11b(Mac−1)抗体が用いられる。同様に、フローサイトメトリー法によって好中球由来マイクロパーティクル(NDMP)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。NDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD66b抗体、抗CD56抗体、抗CD16抗体、抗CD64抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD66b抗体が用いられる。
【0034】
上述した工程3)および/または工程4)および/または工程5)を含む実施形態によれば、上記で得られた血液試料中のEDMP濃度およびTF濃度に加えて、血液試料中のPDMP濃度および/またはMDMP濃度といった情報もまた、併せて検査に用いられうる。これにより、よりきめ細やかな検査(例えば、病態の細分類など)が可能となるため、好ましい。また、血液試料中のPDMP濃度は、当該血液における凝固系の状態を反映する指標として用いられうる。したがって、例えば、高脂血症などを発症しており抗凝固薬を服用している患者を被験体とする場合には、得られたPDMP濃度に関する情報をもとに、抗凝固薬の服用による臨床的な効果(治療効果・予防効果)を同時に検査することもできる。さらに、MDMPは、HPS(Hemophagocytic syndrome、血球貪食症候群)などのような免疫が不活化する場合などには関連がある。NDMPは、炎症反応などに係る場合などに関連がある。よって、同時に計測することで内皮障害の原因追求に有効である。
【0035】
そして、本発明の他の形態によれば、上記検査方法における上記工程を含む、メタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査方法もまた、提供されうる。
【0036】
フローサイトメトリー法によってEDMPやTFといったMPを検出・定量する具体的な手順については特に制限はなく、正確な値が精確に得られる限り、従来公知の知見が適宜参照されうる。以下、当該手順の一例について、EDMPおよびTFを同時に検出・定量する場合を例に挙げて、図面を参照しつつ簡単に説明する。
【0037】
まず、計測サンプルを用いた計測に先立ち、TF検出領域およびEDMP検出領域を決定する。
【0038】
具体的には、初めに、FS×SSサイトグラムを用意する。ここで、フローサイトメトリー法ではその原理上、0.5μm未満の粒径を有するMPについては前方散乱光(FS;Forward Scatter)の強度の違いによって粒径を分析することはできない。よって、ここでは、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定する。
【0039】
続いて、本発明者らの検討によれば、TF並びに、任意で用いられうるPDMPおよびMDMPについては、粒径の上限値を1.0μmに設定することが妥当と結論づけられた。よって、ここでは、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、当該セッティングビーズのピーク値によって、FSにおけるTF検出領域の粒径の上限部位を決定する。
【0040】
以上の手続きによって設定されたMP検出領域の粒径の下限部位および上限部位に基づき、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TF検出のための1次領域(1次ゲート)を決定する。
【0041】
一方、FS×FLサイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域(ゲート)を決定する。この際、縦軸(FL)の下限部位は、非特異的に染色された粒子を検出領域から可能な限り排除できるように設定されうる。
【0042】
一方、EDMPに関しては、本発明者らの検討によれば、1.5μmよりも大きなイベントが出現する結果も観察されたことから、これらの大多数のイベントが含まれるようにFSの上限を拡大することとした。ただし、バックグランドノイズや核物質を含むapoptotic bodiesである大きなvesicleはできるだけ除外する必要があるため、FSの上限は2.0μmまで拡大することとした。よって、ここでは、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、当該セッティングビーズのピーク値によって、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定する。
【0043】
その後、上記と同様に、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定し、FS×FLサイトグラム上で、図7に示すようにして、EDMP検出領域(ゲート)を決定する。
【0044】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMPおよびTFを検出・定量する。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行う。
【0045】
その後、EDMPおよびTFのそれぞれのFS−FLスキャッタグラムで陽性領域を2次ゲートし、ゲート内に含まれたイベントをMPイベントとする。得られたMPイベントは、FS−SSスキャッタグラムに再展開することで、MPイベントのサイズの情報について把握することもできる(図9Aおよび図9Bを参照)。
【0046】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMPおよびTFの濃度(個/μL血液)を算出する。
【0047】
以上、フローサイトメトリー法によって血液試料中のMPを検出・定量する場合を例に挙げて本発明の検査方法を詳細に説明したが、場合によっては、他の手法を用いて血液試料中のMPを検出・定量してももちろんよい。フローサイトメトリー法以外に検出・定量に用いられうる手法としては、例えば、濾過法、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)法などが挙げられる。
【0048】
本発明のさらに他の形態によれば、血管内皮障害を検査するための検査用キットが提供される。当該検査用キットは、その必須構成要素として、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する抗体と、
組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する抗体と、
を含む。これらの2種の抗体の具体的な形態については上述したとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0049】
また、上記検査用キットにおいては、第1および第2の抗体が蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン−Cy5、またはフィコエリトリンなど)で標識されたものであることが好ましく、この場合、当該検査用キットは、上述したようなフローサイトメトリー法を用いた検査に用いられうる。さらにこの場合、検査用キットは、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)の検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するためのセッティングビーズと、
組織因子含有マイクロパーティクル(TF)の検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するためのセッティングビーズと、
濃度既知の計数ビーズと、
マイクロパーティクルの検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズと、をさらに含むことが好ましい。なお、閾値ビーズの平均粒径は好ましくは0.5μmであり、計数ビーズの平均粒径は好ましくは3〜5μmであり、第1および第2のセッティングビーズの平均粒径は好ましくは1〜2μmである。
【0050】
本発明により提供される検査用キットは、上述した構成要素以外にも、例えば、試薬や試料を希釈するための緩衝液、反応容器、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールを記載した指示書等を含むものであってもよい。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。このキットを使用することにより、本発明の血管内皮障害の検査やメタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査が簡便となり、早期の診断および/または治療方針決定に非常に有用である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
≪計測用試料の調製≫
血管内皮障害の高リスク群としての心臓弁膜症の患者、虚血性心疾患に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施した患者、またはカテーテル術受術患者(計20名)から末梢血を採取し、CRP値0.2mg/dL以下であることを確認して、以下の実験に用いた。この際、採血する際の抗凝固剤としてはEDTAを用いた。一方、健常者検体として、健常ボランティア(24〜47歳の健康な男女(29名))からクエン酸採血管を用いて採取した末梢血を用いた。なお、すべての患者および健常ボランティアから、書面によるインフォームドコンセントを得ている。
【0053】
採血した血液をPP製マイクロチューブに移し(アシストA.150)、遠心操作により血漿成分を分離して、得られた血小板欠乏血漿(PPP;Platelet Poor Plasma)を別のPP製マイクロチューブに移し、計測用試料とした。なお、血漿分離の遠心条件は、8000g、5分で行った。また、得られた血漿は4℃で保存し、その日のうちに計測を行った。当日計測できない場合には、計測するまで−20℃以下で凍結保存し、解凍後は速やかに計測を行った。
【0054】
≪実施例1:EDMPおよびTFの計測例≫
患者群由来の試料を用いた計測の際には、まず、TruCountTMtube(BD Biosciences)に、EDMPを特異的に認識するFITC標識抗CD144抗体(Serotec Oxford UK)およびTFを特異的に認識するPE標識抗CD142抗体(BD Biosciences社製)をそれぞれ2.5μLずつ添加し、さらに上記で調製した計測用試料50μLを添加した。なお、TruCountTM tubeには、計数ビーズであるTruCountTMビーズが凍結乾燥状態で含まれている。一方、健常者由来の試料を用いた計測の際には、TruCountTM tubeに代えて、濃度が既知の計数ビーズ(平均粒径3.0μmのポリスチレンビーズ1.68×109particles/mL(Polyscience、Philadelphia USA))を希釈分注して50000個加えた。また、血漿中のMP量の推測値から、抗体の添加量は十分であることを確認した。
【0055】
室温遮光で15分間インキュベートし、抗体と血漿中のMPとを反応させ、PBS(0.1%BSA)を450μL添加して希釈し、計測サンプルを調製した。
【0056】
なお、計測サンプルを用いた計測に先立ち、以下の手順で、TF検出領域およびEDMP検出領域を決定した。また、フローサイトメトリー法には、BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD Biosciences)を用いた。
【0057】
まず、FS×SSサイトグラムを用意した。次いで、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定した。
【0058】
続いて、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるTF検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TF検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL2サイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域を決定した。
【0059】
一方、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL1サイトグラムを用意し、図7に示すようにして、EDMP検出領域を決定した。
【0060】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMPおよびTFを検出した。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行った。それぞれの検出結果を図8に示す。なお、EDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図9Aに示し、TFの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図9Bに示す。
【0061】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズとして用いたTruCountTMビーズまたはポリスチレンビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMPおよびTFの血漿中濃度(個/μL血漿)を算出した。
【0062】
以上のようにして求めた患者由来の計測サンプル中のEDMP濃度およびTF濃度について相関係数rを算出したところ、r=0.87と極めて高い相関が見られた。ここで、図11A(EDMP濃度)および図11B(TF濃度)に示すように、健常ボランティア由来の計測サンプル中のEDMP濃度(平均値)およびTF濃度(平均値)はいずれも、患者由来の計測サンプルにおける値(平均値)よりも有意に小さい値を示した。このことから、血漿中のEDMP濃度およびTF濃度を血管内皮障害の病態マーカーとして併用することで、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことが可能となることが示唆された。なお、図11Aおよび図11Bのグラフで示される値は、健常ボランティアおよび患者のそれぞれ由来の計測サンプルにおける平均値±標準偏差である。
【0063】
≪実施例2:EDMP、TFおよびPDMPの計測例≫
患者群由来の試料を用いた計測の際には、まず、TruCountTM tube(BD Biosciences)に、EDMPを特異的に認識するFITC標識抗CD144抗体(Serotec Oxford UK)、TFを特異的に認識するPE標識抗CD142抗体(BD Biosciences社製)、およびPDMPを特異的に認識するPerCP−Cy5.5標識抗CD41抗体(DAKO Glostrup Denmark)をそれぞれ2.5μLずつ添加し、さらに上記で調製した計測用試料50μLを添加した。なお、TruCountTM tubeには、計数ビーズであるTruCountTMビーズが凍結乾燥状態で含まれている。一方、健常者由来の試料を用いた計測の際には、TruCountTM tubeに代えて、濃度が既知の計数ビーズ(平均粒径3.0μmのポリスチレンビーズ1.68×109particles/mL(Polyscience、Philadelphia USA))を希釈分注して50000個加えた。また、血漿中のMP量の推測値から、抗体の添加量は十分であることを確認した。
【0064】
室温遮光で15分間インキュベートし、抗体と血漿中のMPとを反応させ、PBS(0.1%BSA)を450μL添加して希釈し、計測サンプルを調製した。
【0065】
なお、計測サンプルを用いた計測に先立ち、以下の手順で、TF検出領域、PDMP検出領域、およびEDMP検出領域を決定した。また、フローサイトメトリー法には、BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD Biosciences)を用いた。
【0066】
まず、FS×SSサイトグラムを用意した。次いで、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定した。
【0067】
続いて、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるTF検出領域およびPDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TFおよびPDMPの検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL2サイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域を決定した。また、FS×FL3サイトグラムを用意し、図12に示すようにして、PDMP検出領域を決定した。
【0068】
一方、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL1サイトグラムを用意し、図7に示すようにして、EDMP検出領域を決定した。
【0069】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMP、TFおよびPDMPを検出した。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行った。PDMPについての検出結果を図13に示す。なお、PDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図14に示す。
【0070】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズとして用いたTruCountTMビーズまたはポリスチレンビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMP、TFおよびPDMPの血漿中濃度(個/μL血漿)を算出した。ここで、上述した実施例1と同様に、健常ボランティア由来の計測サンプル中のPDMP濃度(平均値)は、患者由来の計測サンプルにおける値(平均値)よりも有意に小さい値を示した。また、図15に示すように、健常ボランティア由来の計測サンプル中のPDMP濃度(平均値)は、患者由来の計測サンプルにおける値(平均値)よりも有意に小さい値を示した。このことから、血管内皮障害の病態マーカーとして、実施例1で検討した血漿中のEDMP濃度およびTF濃度に加えてPDMP濃度をさらに併用することで、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことが可能となることが示唆された。なお、図15のグラフで示される値は、健常ボランティアおよび患者のそれぞれ由来の計測サンプルにおける平均値±標準偏差である。
【0071】
≪実施例3:EDMP、TF、PDMP、およびMDMPの計測例≫
患者群由来の試料を用いた計測の際には、まず、TruCountTMtube(BD Biosciences)に、EDMPを特異的に認識するFITC標識抗CD144抗体(Serotec Oxford UK)、TFを特異的に認識するPE標識抗CD142抗体(BD Biosciences社製)、PDMPを特異的に認識するPerCP−Cy5.5標識抗CD41抗体(DAKO Glostrup Denmark)、およびMDMPを特異的に認識するPE−Cy7標識CD11b抗体をそれぞれ2.5μLずつ添加し、さらに上記で調製した計測用試料50μLを添加した。なお、TruCountTM tubeには、計数ビーズであるTruCountTMビーズが凍結乾燥状態で含まれている。一方、健常者由来の試料を用いた計測の際には、TruCountTM tubeに代えて濃度が既知の計数ビーズ(平均粒径3.0μmのポリスチレンビーズ1.68×109particles/mL(Polyscience、Philadelphia USA))を希釈分注して50000個加えた。また、血漿中のMP量の推測値から、抗体の添加量は十分であることを確認した。
【0072】
室温遮光で15分間インキュベートし、抗体と血漿中のMPとを反応させ、PBS(0.1%BSA)を450μL添加して希釈し、計測サンプルを調製した。
【0073】
なお、計測サンプルを用いた計測に先立ち、以下の手順で、TF検出領域、PDMP検出領域、およびEDMP検出領域を決定した。また、フローサイトメトリー法には、BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD Biosciences)を用いた。
【0074】
まず、FS×SSサイトグラムを用意した。次いで、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定した。
【0075】
続いて、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるTF検出領域、PDMP検出領域、およびMDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TF、PDMP、およびMDMPの検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL2サイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域を決定した。また、FS×FL3サイトグラムを用意し、図12に示すようにして、PDMP検出領域を決定した。さらに、FS×FL4サイトグラムを用意し、図16に示すようにして、MDMP検出領域を決定した。
【0076】
一方、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL1サイトグラムを用意し、図7に示すようにして、EDMP検出領域を決定した。
【0077】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMP、TF、PDMPおよびMDMPを検出した。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行った。MDMPについての検出結果を図17に示す。なお、MDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図18に示す。
【0078】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズとして用いたTruCountTMビーズまたはポリスチレンビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMP、TF、PDMPおよびMDMPの血漿中濃度(個/μL血漿)を算出した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮障害を検査するための新規な検査方法および検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に、高血糖、高血圧および高脂血症のいずれか2種以上を合併した病態をいう。このメタボリックシンドロームは、高齢化社会に向けて、医療費抑制および高齢者のQOL確保等の観点から、予防・改善すべき病態である。そして、メタボリックシンドロームは、生活習慣の改善によってその発症を予防することが有効であると考えられている。
【0003】
このメタボリックシンドロームの病態の進行には、血管内皮の障害が関与しているとされている。例えば、血管内皮に障害を受けた患者群ほど心血管イベントの発症率が高いことが報告されている。
【0004】
ところで、活性化した種々の細胞は微小粒子(マイクロパーティクル(MP;MicroParticle))と呼ばれる小胞を放出することが知られている。直径1〜2μm程度のこれらのマイクロパーティクルは、由来する細胞に応じて、血小板由来マイクロパーティクル(PDMP;Platelet-Derived MicroParticle)、血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP;Endothelial-Derived MicroParticle)、単球由来マイクロパーティクル(MDMP;Monocyte-Derived MicroParticle)などが知られており、生体内で重要な役割を演じているとされている。
【0005】
これらのMPは、種々の受容体、膜タンパク質(GpIIb/IIIa、VE-cadherin、Tissue Factor(TF))などを発現し、血栓形成に関与すると考えられている。また、多くの病態で、血行中のMPレベルが高いことが観察されている。したがって、これらのMPの検出・定量は、種々の病態の進行における血栓前駆状態の重篤度の検出および評価、ひいてはメタボリックシンドロームの病態・重篤度の評価における重要な尺度となることが期待される。そして、これらの評価に基づく予防的医療が実現できれば、今後到来する高齢社会におけるその有用性は計り知れない。
【0006】
従来、マイクロパーティクルを病態マーカーとして用いる、血管内皮障害に関連した各種病態の検査技術として、例えば特許文献1には、血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)を指標とする血栓症前駆状態の検出・監視方法が開示されている。また、例えば特許文献2には、同じく血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)を指標として心臓血管疾患を診断したり、その予後を評価したり、その進行の有無を評価したりする方法が開示されている。
【0007】
従来、生体試料(例えば、血漿)中のマイクロパーティクルを検出・定量する手法としては、例えば濾過法や酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)法などが従来提案されていた。しかし近年では、MPのサイズおよび表面状態を同時に計測可能なフローサイトメトリー法を利用してMPを検出・定量することが広く行われている。フローサイトメトリー法の原理や、細胞・細胞粒子の部分集団を識別して定量する方法におけるその利点などは、今日では当該技術に精通する者にはよく知られており、MPの検出・定量以外の用途でも、例えば、血液中の活性化された血小板の検出や、機能検定法による血小板由来のプロ凝血素性微粒子の検出などに既に利用されている。なお、フローサイトメトリー法を用いると、複数の計測対象を同時に計測することが可能である。にもかかわらず、従来提案されているフローサイトメトリー法によるMPの検出・定量方法は、単色の蛍光標識を利用して1種のみのMPを計測するものである。従来の技術はこの点で、フローサイトメトリー法の利点を十分に生かし切れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−533698号公報
【特許文献2】特表2008−529702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、PDMPを指標として各種病態の診断・予後評価を行う技術が従来提案されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、従来提案されているPDMPのみを指標とした手法では、血管内皮障害の検出・評価を確定的に行うには十分ではないことが判明した。その一因として、血漿中のPDMPは血管内皮障害以外のイベント(例えば、炎症の発生など)によってもそのレベルが上昇してしまうことが考えられた。
【0010】
そこで本発明は、上述したような従来技術における課題に鑑み、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことを可能としうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決することを目指して、鋭意研究を行なった。その過程で、血管内皮障害の高リスク患者群における各種マイクロパーティクルの検出・定量を試みた。また、それだけでなく、各マイクロパーティクル間での相関も調べてみた。そうしたところ、まったく予期していなかったことに、血管内皮障害の高リスク患者群においては、血漿中における血管内皮由来マイクロパーティクル(以下、単に「EDMP」とも称する)の量と、組織因子(TF;Tissue Factor)を含有するマイクロパーティクル(以下、「組織因子含有マイクロパーティクル」または「TF」とも称する)の量との間に高い相関が認められることを知得した。この知見に基づき、これら2種のマイクロパーティクルが血管内皮障害の病態マーカーとして用いられうるであろうと考え、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の形態によれば、生体より採取した血液試料について、
1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
2)組織因子含有マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
を含む、血管内皮障害の検査方法が提供される。
【0013】
上記検査方法においては、工程1)を、血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体(例えば、抗CD144抗体)を用いて行い、工程2)を、組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体(例えば、CD142抗体)を用いて行うことが好ましい。
【0014】
また、上記検査方法においては、第1および第2の抗体が蛍光色素で標識されたものであることが好ましく、この場合、工程1)および工程2)は、フローサイトメトリー法を用いて行われうる。
【0015】
さらに、上記検査方法は、上記血液試料について、
3)血小板由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程、および/または、
4)単球由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程、および/または、
5)好中球由来マイクロパーティクル(NDMP;Neutrophil-Derived MicroParticle)を検出または定量する工程
をさらに含むことが好ましい。
【0016】
なお、本発明の他の形態によれば、上記検査方法における上記工程を含む、メタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査方法もまた、提供されうる。
【0017】
また、本発明のさらに他の形態によれば、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体と、
組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体と、
を含む、血管内皮障害の検査用キットが提供される。
【0018】
上記検査用キットにおいては、第1の抗体が抗CD144抗体であり、第2の抗体が抗CD142抗体であることが好ましい。
【0019】
また、上記検査用キットにおいては、第1および第2の抗体が蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン−Cy5、またはフィコエリトリンなど)で標識されたものであることが好ましく、この場合、当該検査用キットは、フローサイトメトリー法を用いた検査に用いられうる。さらにこの場合、上記検査用キットは、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第1のセッティングビーズと、
組織因子含有マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第2のセッティングビーズと、
濃度既知の計数ビーズと、
マイクロパーティクルの検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズと、
をさらに含むことが好ましい。なお、閾値ビーズの平均粒径は好ましくは0.5μmであり、計数ビーズの平均粒径は好ましくは3〜7μmであり、第1および第2のセッティングビーズの平均粒径は好ましくは1〜2μmである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の検査方法や検査用キットを用いることで、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことが可能となる。また、このようにして血管内皮障害の検出・評価を行うことで、ひいてはメタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FS×SSサイトグラムのFSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定する段階を説明するための説明図である。
【図2】1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FS×SSサイトグラムのFSにおけるTF検出領域の粒径の上限部位を決定する段階を説明するための説明図である。
【図3】FS×SSサイトグラム上で、TF検出のための1次領域(1次ゲート)を決定する段階を説明するための説明図である。
【図4】FS×FLサイトグラム上で、TF検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図5】2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FS×SSサイトグラムのFSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定する段階を説明するための説明図である。
【図6】FS×SSサイトグラム上で、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定する段階を説明するための説明図である。
【図7】FS×FLサイトグラム上で、EDMP検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図8】実施例1において、計測サンプルにおけるEDMPおよびTFを検出した結果を示す図である。
【図9A】実施例1におけるEDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【図9B】実施例1におけるTFの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【図10】計数ビーズを計測する段階を説明するための説明図である。
【図11A】実施例1において計測された、健常ボランティア由来の計測サンプル中のEDMP濃度(平均値±標準偏差)と、患者由来の計測サンプルにおけるEDMP濃度(平均値±標準偏差)とを比較したグラフである。
【図11B】実施例1において計測された、健常ボランティア由来の計測サンプル中のTF濃度(平均値±標準偏差)と、患者由来の計測サンプルにおけるTF濃度(平均値±標準偏差)とを比較したグラフである。
【図12】FS×FLサイトグラム上で、PDMP検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図13】実施例2において、計測サンプルにおけるPDMPを検出した結果を示す図である。
【図14】実施例2におけるPDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【図15】実施例2において計測された、健常ボランティア由来の計測サンプル中のPDMP濃度(平均値±標準偏差)と、患者由来の計測サンプルにおけるPDMP濃度(平均値±標準偏差)とを比較したグラフである。
【図16】FS×FLサイトグラム上で、MDMP検出領域を決定する段階を説明するための説明図である。
【図17】実施例3において、計測サンプルにおけるMDMPを検出した結果を示す図である。
【図18】実施例3におけるMDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1の形態は、生体より採取した血液試料について、
1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)を検出または定量する工程と、
2)組織因子含有マイクロパーティクル(TF)を検出または定量する工程と、
を含む、血管内皮障害の検査方法である。以下、本発明の検査方法を実施するための好ましい一形態について、MPの検出・定量をフローサイトメトリー法により行う場合を例に挙げて具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の具体的な実施形態のみには限定されない。
【0023】
本発明の検査方法においては、検査対象の試料として、生体より採取した血液試料を用いる。本発明の検査方法を適用することができる対象としては、動物であれば特に限定されないが、例えば、哺乳動物等が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、霊長類、実験用動物、家畜、ペット等が挙げられ特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ヒト、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどが挙げられる。好ましくは、対象動物はヒトである。また、本発明の検査方法に用いられる血液試料について特に制限はなく、従来臨床検査において一般的に用いられている血液試料が用いられうる。血液試料は例えば、血漿試料であり、好ましくは血小板欠乏血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)である。
【0024】
ここで、採血時に存在するMPを検出し、採血後にMPが発現しないようにするためには、血小板を活性化させないことが重要となる。従って、血漿試料等の血液試料の調製の際には、Caイオンキレート作用を有するクエン酸やEDTAを抗凝固剤として用いることが好ましい。なお、従来MPの計測ではクエン酸採血管を用いることが一般的に行われているが、本発明の検査方法のようにMP計測のみが目的の場合には、試料安定性を向上させることを目的として、Caイオンキレート効果が強いEDTAを抗凝固剤として用いることがより好ましい。
【0025】
なお、全血試料にはMPに対して血球成分が多数存在することから、本発明の検査方法においては、血液試料として全血試料よりも血漿試料を用いることが好ましい。具体的には、全血試料の処理過程で血球細胞から余計なMPを生じさせないように、血球成分をできるだけ穏やかに除去し、特に血小板とのコンタミネーションをできるだけ排除する必要がある。全血試料から血球成分を除去して血漿試料を得るには、遠心操作により血漿成分を分離すればよい。この際の遠心条件について特に制限はなく、例えば、最も簡便な方法である8000gで5分といった条件が用いられうる。なお、試料容器としてはPP製マイクロチューブを用いればよい。
【0026】
続いて、血球が沈殿した上清の血漿を別の試料容器(PP製マイクロチューブなど)に移し、フローサイトメトリー法の計測用試料とする。遠心操作によって得られた血漿は例えば4℃程度の温度で保存し、速やかに使用する。あるいは、計測に使用するまで−20℃以下の低温で凍結保存し、解凍後速やかに計測に用いる。
【0027】
次に、計測用試料中のMPを免疫染色する。具体的には、免疫染色に必要な抗体濃度となるように、計測用試料に抗体を分注し、試料中に含まれるMPの表面抗原と反応させる。この際、免疫染色において抗原抗体反応が問題なく行われるように、計測用試料中のMP濃度の最大値を推定し、抗体分注量がMPを染色するのに十分であることを確認しておく。抗体濃度が不適切であると、抗原抗体結合部位に別の抗体がトラップされ偽陽性パターンとなることがある。抗体と表面抗原との間での抗原抗体反応を十分に進行させるための反応条件は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、室温にて5〜30分間程度インキュベートすればよい。ただし、蛍光色素に対する悪影響を防止するという観点からは、インキュベートは遮光条件下で行うことが好ましい。また、反応終了後、計測用試料を緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など)を用いて希釈してもよい。この際、MPどうしの凝集を防止することを目的として、ウシ血清アルブミン(BSA)等の凝集防止剤を0.1%程度の濃度で添加することが好ましい。
【0028】
フローサイトメトリー法によって血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。EDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD144抗体、抗CD105抗体、抗CD146抗体、抗CD62E抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD144抗体が用いられる。同様に、フローサイトメトリー法によって組織因子含有マイクロパーティクル(TF)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。TFを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD142抗体などが用いられうる。
【0029】
抗体を蛍光標識するのに用いられる蛍光色素について特に制限はなく、本技術分野における公知の知見が適宜参照されうる。かような蛍光色素としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、PE−Cy5、Cy3、Cy5、Cy5.5、PerCP、PE−Cy5.5、PE−Cy7、PerCP−Cy5.5などが挙げられる。上述したように、フローサイトメトリー法によれば複数の計測対象を同時に計測することができるという利点があるが、これを実現するためには、同時に計測を希望する異なる2つ以上の抗体のそれぞれを、互いに異なる蛍光色素によって標識すればよい。
【0030】
なお、フローサイトメトリー法による血液試料中のEDMPおよびTFの定量を可能とするために、計測用試料には、計数ビーズを添加しておく。具体的には、一定量の計数ビーズが既に含まれている計測用チューブ(例えば、TruCountTM tube(BD Biosciences)など)を用いてもよいし、別途準備した計数ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ(Polyscience、Philadelphia USA)など)を計量して、計測用チューブに添加してもよい。この際に用いる計数ビーズの平均粒径は、計測対象粒子と異なる血小板よりも大きな粒径が好ましく、好ましくは3〜7μmであり、より好ましくは3μmである。
【0031】
本発明者らの検討によれば、血管内皮障害の高リスク群としての患者由来の計測サンプルについて、EDMP濃度とTF濃度との間に極めて高い相関が見られることが今回初めて見出された。本発明の検査方法は当該知見に基づいて、血管内皮障害を検査することができる。具体的には、例えば、被験体から採取した血液試料中のEDMP濃度およびTF濃度を、健常者および血管内皮障害と確定診断された患者のそれぞれから採取した血液試料中のEDMP濃度およびTF濃度と比較して、被験体における血管内皮障害の有無や、血管内皮障害が存在する場合にはその程度を検査することが可能である。特に、EDMP濃度およびTF濃度の双方の値が、健常者と比較して有意に高いか、または確定診断後の患者と比較して有意に低くないときには、血管内皮障害が存在する可能性が非常に高いと判定することができる。なお、フローサイトメトリー法によって血液試料中のEDMP濃度やTF濃度を計測する具体的な手法については、後述する。
【0032】
さらに、本発明の検査方法は、上述した血液試料について、
3)血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)を検出または定量する工程、および/または、
4)単球由来マイクロパーティクル(MDMP)を検出または定量する工程、および/または、
5)好中球由来マイクロパーティクル(NDMP)を検出または定量する工程
をさらに含むことが好ましい。
【0033】
かような形態において、フローサイトメトリー法によってPDMPやMDMP、NDMPを検出または定量するには、これらを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。PDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD41抗体、抗CD62P抗体、抗CD61抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD41抗体が用いられる。同様に、フローサイトメトリー法によって単球由来マイクロパーティクル(MDMP)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。MDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD11b(Mac−1)抗体、抗CD32抗体、抗CD33抗体、抗CD14抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD11b(Mac−1)抗体が用いられる。同様に、フローサイトメトリー法によって好中球由来マイクロパーティクル(NDMP)を検出または定量するには、これを特異的に認識する抗体を蛍光色素で標識したものが用いられる。NDMPを特異的に認識する抗体としては、その有する表面抗原に対応したものとして、抗CD66b抗体、抗CD56抗体、抗CD16抗体、抗CD64抗体などが用いられうる。なかでも、好ましくは抗CD66b抗体が用いられる。
【0034】
上述した工程3)および/または工程4)および/または工程5)を含む実施形態によれば、上記で得られた血液試料中のEDMP濃度およびTF濃度に加えて、血液試料中のPDMP濃度および/またはMDMP濃度といった情報もまた、併せて検査に用いられうる。これにより、よりきめ細やかな検査(例えば、病態の細分類など)が可能となるため、好ましい。また、血液試料中のPDMP濃度は、当該血液における凝固系の状態を反映する指標として用いられうる。したがって、例えば、高脂血症などを発症しており抗凝固薬を服用している患者を被験体とする場合には、得られたPDMP濃度に関する情報をもとに、抗凝固薬の服用による臨床的な効果(治療効果・予防効果)を同時に検査することもできる。さらに、MDMPは、HPS(Hemophagocytic syndrome、血球貪食症候群)などのような免疫が不活化する場合などには関連がある。NDMPは、炎症反応などに係る場合などに関連がある。よって、同時に計測することで内皮障害の原因追求に有効である。
【0035】
そして、本発明の他の形態によれば、上記検査方法における上記工程を含む、メタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査方法もまた、提供されうる。
【0036】
フローサイトメトリー法によってEDMPやTFといったMPを検出・定量する具体的な手順については特に制限はなく、正確な値が精確に得られる限り、従来公知の知見が適宜参照されうる。以下、当該手順の一例について、EDMPおよびTFを同時に検出・定量する場合を例に挙げて、図面を参照しつつ簡単に説明する。
【0037】
まず、計測サンプルを用いた計測に先立ち、TF検出領域およびEDMP検出領域を決定する。
【0038】
具体的には、初めに、FS×SSサイトグラムを用意する。ここで、フローサイトメトリー法ではその原理上、0.5μm未満の粒径を有するMPについては前方散乱光(FS;Forward Scatter)の強度の違いによって粒径を分析することはできない。よって、ここでは、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定する。
【0039】
続いて、本発明者らの検討によれば、TF並びに、任意で用いられうるPDMPおよびMDMPについては、粒径の上限値を1.0μmに設定することが妥当と結論づけられた。よって、ここでは、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、当該セッティングビーズのピーク値によって、FSにおけるTF検出領域の粒径の上限部位を決定する。
【0040】
以上の手続きによって設定されたMP検出領域の粒径の下限部位および上限部位に基づき、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TF検出のための1次領域(1次ゲート)を決定する。
【0041】
一方、FS×FLサイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域(ゲート)を決定する。この際、縦軸(FL)の下限部位は、非特異的に染色された粒子を検出領域から可能な限り排除できるように設定されうる。
【0042】
一方、EDMPに関しては、本発明者らの検討によれば、1.5μmよりも大きなイベントが出現する結果も観察されたことから、これらの大多数のイベントが含まれるようにFSの上限を拡大することとした。ただし、バックグランドノイズや核物質を含むapoptotic bodiesである大きなvesicleはできるだけ除外する必要があるため、FSの上限は2.0μmまで拡大することとした。よって、ここでは、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、当該セッティングビーズのピーク値によって、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定する。
【0043】
その後、上記と同様に、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定し、FS×FLサイトグラム上で、図7に示すようにして、EDMP検出領域(ゲート)を決定する。
【0044】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMPおよびTFを検出・定量する。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行う。
【0045】
その後、EDMPおよびTFのそれぞれのFS−FLスキャッタグラムで陽性領域を2次ゲートし、ゲート内に含まれたイベントをMPイベントとする。得られたMPイベントは、FS−SSスキャッタグラムに再展開することで、MPイベントのサイズの情報について把握することもできる(図9Aおよび図9Bを参照)。
【0046】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMPおよびTFの濃度(個/μL血液)を算出する。
【0047】
以上、フローサイトメトリー法によって血液試料中のMPを検出・定量する場合を例に挙げて本発明の検査方法を詳細に説明したが、場合によっては、他の手法を用いて血液試料中のMPを検出・定量してももちろんよい。フローサイトメトリー法以外に検出・定量に用いられうる手法としては、例えば、濾過法、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)法などが挙げられる。
【0048】
本発明のさらに他の形態によれば、血管内皮障害を検査するための検査用キットが提供される。当該検査用キットは、その必須構成要素として、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する抗体と、
組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する抗体と、
を含む。これらの2種の抗体の具体的な形態については上述したとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0049】
また、上記検査用キットにおいては、第1および第2の抗体が蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン−Cy5、またはフィコエリトリンなど)で標識されたものであることが好ましく、この場合、当該検査用キットは、上述したようなフローサイトメトリー法を用いた検査に用いられうる。さらにこの場合、検査用キットは、
血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)の検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するためのセッティングビーズと、
組織因子含有マイクロパーティクル(TF)の検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するためのセッティングビーズと、
濃度既知の計数ビーズと、
マイクロパーティクルの検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズと、をさらに含むことが好ましい。なお、閾値ビーズの平均粒径は好ましくは0.5μmであり、計数ビーズの平均粒径は好ましくは3〜5μmであり、第1および第2のセッティングビーズの平均粒径は好ましくは1〜2μmである。
【0050】
本発明により提供される検査用キットは、上述した構成要素以外にも、例えば、試薬や試料を希釈するための緩衝液、反応容器、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールを記載した指示書等を含むものであってもよい。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。このキットを使用することにより、本発明の血管内皮障害の検査やメタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査が簡便となり、早期の診断および/または治療方針決定に非常に有用である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
≪計測用試料の調製≫
血管内皮障害の高リスク群としての心臓弁膜症の患者、虚血性心疾患に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施した患者、またはカテーテル術受術患者(計20名)から末梢血を採取し、CRP値0.2mg/dL以下であることを確認して、以下の実験に用いた。この際、採血する際の抗凝固剤としてはEDTAを用いた。一方、健常者検体として、健常ボランティア(24〜47歳の健康な男女(29名))からクエン酸採血管を用いて採取した末梢血を用いた。なお、すべての患者および健常ボランティアから、書面によるインフォームドコンセントを得ている。
【0053】
採血した血液をPP製マイクロチューブに移し(アシストA.150)、遠心操作により血漿成分を分離して、得られた血小板欠乏血漿(PPP;Platelet Poor Plasma)を別のPP製マイクロチューブに移し、計測用試料とした。なお、血漿分離の遠心条件は、8000g、5分で行った。また、得られた血漿は4℃で保存し、その日のうちに計測を行った。当日計測できない場合には、計測するまで−20℃以下で凍結保存し、解凍後は速やかに計測を行った。
【0054】
≪実施例1:EDMPおよびTFの計測例≫
患者群由来の試料を用いた計測の際には、まず、TruCountTMtube(BD Biosciences)に、EDMPを特異的に認識するFITC標識抗CD144抗体(Serotec Oxford UK)およびTFを特異的に認識するPE標識抗CD142抗体(BD Biosciences社製)をそれぞれ2.5μLずつ添加し、さらに上記で調製した計測用試料50μLを添加した。なお、TruCountTM tubeには、計数ビーズであるTruCountTMビーズが凍結乾燥状態で含まれている。一方、健常者由来の試料を用いた計測の際には、TruCountTM tubeに代えて、濃度が既知の計数ビーズ(平均粒径3.0μmのポリスチレンビーズ1.68×109particles/mL(Polyscience、Philadelphia USA))を希釈分注して50000個加えた。また、血漿中のMP量の推測値から、抗体の添加量は十分であることを確認した。
【0055】
室温遮光で15分間インキュベートし、抗体と血漿中のMPとを反応させ、PBS(0.1%BSA)を450μL添加して希釈し、計測サンプルを調製した。
【0056】
なお、計測サンプルを用いた計測に先立ち、以下の手順で、TF検出領域およびEDMP検出領域を決定した。また、フローサイトメトリー法には、BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD Biosciences)を用いた。
【0057】
まず、FS×SSサイトグラムを用意した。次いで、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定した。
【0058】
続いて、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるTF検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TF検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL2サイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域を決定した。
【0059】
一方、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL1サイトグラムを用意し、図7に示すようにして、EDMP検出領域を決定した。
【0060】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMPおよびTFを検出した。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行った。それぞれの検出結果を図8に示す。なお、EDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図9Aに示し、TFの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図9Bに示す。
【0061】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズとして用いたTruCountTMビーズまたはポリスチレンビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMPおよびTFの血漿中濃度(個/μL血漿)を算出した。
【0062】
以上のようにして求めた患者由来の計測サンプル中のEDMP濃度およびTF濃度について相関係数rを算出したところ、r=0.87と極めて高い相関が見られた。ここで、図11A(EDMP濃度)および図11B(TF濃度)に示すように、健常ボランティア由来の計測サンプル中のEDMP濃度(平均値)およびTF濃度(平均値)はいずれも、患者由来の計測サンプルにおける値(平均値)よりも有意に小さい値を示した。このことから、血漿中のEDMP濃度およびTF濃度を血管内皮障害の病態マーカーとして併用することで、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことが可能となることが示唆された。なお、図11Aおよび図11Bのグラフで示される値は、健常ボランティアおよび患者のそれぞれ由来の計測サンプルにおける平均値±標準偏差である。
【0063】
≪実施例2:EDMP、TFおよびPDMPの計測例≫
患者群由来の試料を用いた計測の際には、まず、TruCountTM tube(BD Biosciences)に、EDMPを特異的に認識するFITC標識抗CD144抗体(Serotec Oxford UK)、TFを特異的に認識するPE標識抗CD142抗体(BD Biosciences社製)、およびPDMPを特異的に認識するPerCP−Cy5.5標識抗CD41抗体(DAKO Glostrup Denmark)をそれぞれ2.5μLずつ添加し、さらに上記で調製した計測用試料50μLを添加した。なお、TruCountTM tubeには、計数ビーズであるTruCountTMビーズが凍結乾燥状態で含まれている。一方、健常者由来の試料を用いた計測の際には、TruCountTM tubeに代えて、濃度が既知の計数ビーズ(平均粒径3.0μmのポリスチレンビーズ1.68×109particles/mL(Polyscience、Philadelphia USA))を希釈分注して50000個加えた。また、血漿中のMP量の推測値から、抗体の添加量は十分であることを確認した。
【0064】
室温遮光で15分間インキュベートし、抗体と血漿中のMPとを反応させ、PBS(0.1%BSA)を450μL添加して希釈し、計測サンプルを調製した。
【0065】
なお、計測サンプルを用いた計測に先立ち、以下の手順で、TF検出領域、PDMP検出領域、およびEDMP検出領域を決定した。また、フローサイトメトリー法には、BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD Biosciences)を用いた。
【0066】
まず、FS×SSサイトグラムを用意した。次いで、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定した。
【0067】
続いて、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるTF検出領域およびPDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TFおよびPDMPの検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL2サイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域を決定した。また、FS×FL3サイトグラムを用意し、図12に示すようにして、PDMP検出領域を決定した。
【0068】
一方、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL1サイトグラムを用意し、図7に示すようにして、EDMP検出領域を決定した。
【0069】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMP、TFおよびPDMPを検出した。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行った。PDMPについての検出結果を図13に示す。なお、PDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図14に示す。
【0070】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズとして用いたTruCountTMビーズまたはポリスチレンビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMP、TFおよびPDMPの血漿中濃度(個/μL血漿)を算出した。ここで、上述した実施例1と同様に、健常ボランティア由来の計測サンプル中のPDMP濃度(平均値)は、患者由来の計測サンプルにおける値(平均値)よりも有意に小さい値を示した。また、図15に示すように、健常ボランティア由来の計測サンプル中のPDMP濃度(平均値)は、患者由来の計測サンプルにおける値(平均値)よりも有意に小さい値を示した。このことから、血管内皮障害の病態マーカーとして、実施例1で検討した血漿中のEDMP濃度およびTF濃度に加えてPDMP濃度をさらに併用することで、血管内皮障害の検出・評価をより高い精度で行うことが可能となることが示唆された。なお、図15のグラフで示される値は、健常ボランティアおよび患者のそれぞれ由来の計測サンプルにおける平均値±標準偏差である。
【0071】
≪実施例3:EDMP、TF、PDMP、およびMDMPの計測例≫
患者群由来の試料を用いた計測の際には、まず、TruCountTMtube(BD Biosciences)に、EDMPを特異的に認識するFITC標識抗CD144抗体(Serotec Oxford UK)、TFを特異的に認識するPE標識抗CD142抗体(BD Biosciences社製)、PDMPを特異的に認識するPerCP−Cy5.5標識抗CD41抗体(DAKO Glostrup Denmark)、およびMDMPを特異的に認識するPE−Cy7標識CD11b抗体をそれぞれ2.5μLずつ添加し、さらに上記で調製した計測用試料50μLを添加した。なお、TruCountTM tubeには、計数ビーズであるTruCountTMビーズが凍結乾燥状態で含まれている。一方、健常者由来の試料を用いた計測の際には、TruCountTM tubeに代えて濃度が既知の計数ビーズ(平均粒径3.0μmのポリスチレンビーズ1.68×109particles/mL(Polyscience、Philadelphia USA))を希釈分注して50000個加えた。また、血漿中のMP量の推測値から、抗体の添加量は十分であることを確認した。
【0072】
室温遮光で15分間インキュベートし、抗体と血漿中のMPとを反応させ、PBS(0.1%BSA)を450μL添加して希釈し、計測サンプルを調製した。
【0073】
なお、計測サンプルを用いた計測に先立ち、以下の手順で、TF検出領域、PDMP検出領域、およびEDMP検出領域を決定した。また、フローサイトメトリー法には、BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD Biosciences)を用いた。
【0074】
まず、FS×SSサイトグラムを用意した。次いで、図1に示すようにして、0.5μmの平均粒径を有する閾値ビーズを計測し、FSにおけるMP検出領域の粒径の下限部位を決定した。
【0075】
続いて、図2に示すようにして、1.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるTF検出領域、PDMP検出領域、およびMDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図3に示すようにして、TF、PDMP、およびMDMPの検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL2サイトグラムを用意し、図4に示すようにして、TF検出領域を決定した。また、FS×FL3サイトグラムを用意し、図12に示すようにして、PDMP検出領域を決定した。さらに、FS×FL4サイトグラムを用意し、図16に示すようにして、MDMP検出領域を決定した。
【0076】
一方、図5に示すようにして、2.0μmの平均粒径を有するセッティングビーズを計測し、FSにおけるEDMP検出領域の粒径の上限部位を決定した。さらに、FS×SSサイトグラム上で、図6に示すようにして、EDMP検出のための1次領域(1次ゲート)を決定した。そして、FS×FL1サイトグラムを用意し、図7に示すようにして、EDMP検出領域を決定した。
【0077】
続いて、上記で調製した計測サンプルについて計測を行い、計測サンプルにおけるEDMP、TF、PDMPおよびMDMPを検出した。なお、それぞれの抗体についてアイソタイプコントロールを用いたサンプルについて同様に計測を行い、非特異的な染色の確認を行った。MDMPについての検出結果を図17に示す。なお、MDMPの検出結果をFS×SSスキャッタグラムに再展開したものを図18に示す。
【0078】
最後に、図10に示すようにして計数ビーズとして用いたTruCountTMビーズまたはポリスチレンビーズを計測し、その値に基づいて、検出されたEDMP、TF、PDMPおよびMDMPの血漿中濃度(個/μL血漿)を算出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体より採取した血液試料について、
1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
2)組織因子含有マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
を含む、血管内皮障害の検査方法。
【請求項2】
前記工程1)を、血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体を用いて行い、
前記工程2)を、組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体を用いて行う、
請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第1の抗体が抗CD144抗体であり、前記第2の抗体が抗CD142抗体である、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記第1および第2の抗体が蛍光色素で標識されたものであり、前記工程1)および前記工程2)を、フローサイトメトリー法を用いて行う、請求項2または3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記血液試料について、
3)血小板由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記血液試料について、
4)単球由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記血液試料について、
5)好中球由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の工程を含む、メタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査方法。
【請求項9】
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体と、
組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体と、
を含む、血管内皮障害の検査用キット。
【請求項10】
前記第1の抗体が抗CD144抗体であり、前記第2の抗体が抗CD142抗体である、請求項9に記載の検査用キット。
【請求項11】
前記第1および第2の抗体が蛍光色素で標識されたものであり、フローサイトメトリー法を用いた検査に用いられる、請求項9または10に記載の検査用キット。
【請求項12】
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第1のセッティングビーズと、
組織因子含有マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第2のセッティングビーズと、
濃度既知の計数ビーズと、
マイクロパーティクルの検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズと、
をさらに含む、請求項11に記載の検査用キット。
【請求項13】
前記閾値ビーズの平均粒径が0.5μmである、請求項12に記載の検査用キット。
【請求項14】
前記計数ビーズの平均粒径が3〜7μmである、請求項12または13に記載の検査用キット。
【請求項15】
前記第1および第2のセッティングビーズの平均粒径が1〜2μmである、請求項12〜14のいずれか1項に記載の検査用キット。
【請求項16】
前記蛍光色素が、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン−Cy5、またはフィコエリトリンである、請求項11〜15のいずれか1項に記載の検査用キット。
【請求項1】
生体より採取した血液試料について、
1)血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
2)組織因子含有マイクロパーティクルを検出または定量する工程と、
を含む、血管内皮障害の検査方法。
【請求項2】
前記工程1)を、血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体を用いて行い、
前記工程2)を、組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体を用いて行う、
請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第1の抗体が抗CD144抗体であり、前記第2の抗体が抗CD142抗体である、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記第1および第2の抗体が蛍光色素で標識されたものであり、前記工程1)および前記工程2)を、フローサイトメトリー法を用いて行う、請求項2または3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記血液試料について、
3)血小板由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記血液試料について、
4)単球由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記血液試料について、
5)好中球由来マイクロパーティクルを検出または定量する工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の工程を含む、メタボリックシンドロームの予防・発症に関係するリスクファクターの検査方法。
【請求項9】
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルを特異的に認識する第1の抗体と、
組織因子含有マイクロパーティクルを特異的に認識する第2の抗体と、
を含む、血管内皮障害の検査用キット。
【請求項10】
前記第1の抗体が抗CD144抗体であり、前記第2の抗体が抗CD142抗体である、請求項9に記載の検査用キット。
【請求項11】
前記第1および第2の抗体が蛍光色素で標識されたものであり、フローサイトメトリー法を用いた検査に用いられる、請求項9または10に記載の検査用キット。
【請求項12】
血管内皮細胞由来マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第1のセッティングビーズと、
組織因子含有マイクロパーティクルの検出領域のうち、粒径の上限部位を規定するための第2のセッティングビーズと、
濃度既知の計数ビーズと、
マイクロパーティクルの検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズと、
をさらに含む、請求項11に記載の検査用キット。
【請求項13】
前記閾値ビーズの平均粒径が0.5μmである、請求項12に記載の検査用キット。
【請求項14】
前記計数ビーズの平均粒径が3〜7μmである、請求項12または13に記載の検査用キット。
【請求項15】
前記第1および第2のセッティングビーズの平均粒径が1〜2μmである、請求項12〜14のいずれか1項に記載の検査用キット。
【請求項16】
前記蛍光色素が、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン−Cy5、またはフィコエリトリンである、請求項11〜15のいずれか1項に記載の検査用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
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【図4】
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【図9A】
【図9B】
【図10】
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【図11B】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−168012(P2012−168012A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29027(P2011−29027)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
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