説明

血管塞栓形成法

【課題】生体適合性ポリマーと生体適合性溶媒を含有する塞栓形成組成物とともに、金属コイルのような非粒子物質を脈管部位(例えば、動脈瘤腔)に導入する、脈管の病巣部の治療に有用な方法の提供。
【解決手段】生体適合性溶媒は、血液に混和あるいは溶解し、かつ供給の間ポリマーを溶解する。生体適合性ポリマーは、生体適合性溶媒には溶け、血液には溶けない。生体適合性溶媒は、血液に接触すると、生体適合性ポリマーが沈殿している塞栓形成組成物から消散する。非粒子物質の存在下でポリマーを沈殿させると、非粒子物質は、ポリマーの沈殿物を生長させる構造的格子として作用することができる。他の実施態様においては、生体適合性ポリマー組成物を、生体適合性プレポリマーを含有する生体適合性プレポリマー組成物と置き換えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血管塞栓形成法に係り、特に脈管の病巣部の治療に適する方法に関するものである。この方法では、生体適合性ポリマーと生体適合性溶媒を含有する塞栓形成組成物とともに、金属コイルのような非粒子物質を脈管部位(例えば、動脈瘤腔)に導入する。
【0002】
生体適合性溶媒は、血液に混和あるいは溶解し、かつ供給中ポリマーを溶解する。生体適合性ポリマーは、生体適合性溶媒には可溶で、血液には不溶のものから選択する。生体適合性溶媒は、血液に接触すると、塞栓形成組成物から消散し、そこに生体適合性ポリマーが沈殿する。非粒子物質の存在下でポリマーを沈殿させると、非粒子物質は、ポリマーの沈殿を生長させるための構造的格子として作用することができる
【背景技術】
【0003】
参照文献
本明細書では、以下の刊行物を肩数字を付して引用している。
1 Castaneda-Zuniga,et al.,Interventional Radiology,in VascularEmbolotherapy,Part 1,1:9-32,Williams & Wilkins,Publishers(1992)(非特許文献1)
2 Hopkins,et al.,"Endovascular Treatment of Aneurysms and CerebralVasosoams",in"Current Management of Cerebral Aneurysms",Am.Assoc.Neuro.Surgeons,A.Awad,Editor,Chapter II,pp.219-242(1993).(非特許文献2)
3 Pruvo,et al.,"Endovascular Treatment of 16 Intracranial Aneurysms withMicrocoils",Neuroragjology,33(supple):S144(Abstract)(1991).(非特許文献3)
4 Mandai,et al.,"Direct Thrombosis of Aneurysms with Cellulose AcetatePolymer",J.Neurosurg.,77:497-500(1992)(非特許文献4)
5 Kinugasa,et al.,"Direct Thrombosis of Aneurysms with Cellulose AcetatePolymer",J.Neurosupg.,77:501-507(1992)(非特許文献5)
6 Casarett and Doull's Toxicology,Amdur et al.,Editors,Pergamon Press,NewYork,pp.661-664(1975)(非特許文献6)
7 Greff,et al.,U.S.Patent Application SerialNo.08/507,863 for "NovelCompositions for Use in Embolizing Blood Vessels",filed July 27,1995(非特許文献7)
8 Greff,et al.,U.S.Patent Application Serial No.08/508,248 for "CelluloseDiacetate Compositions for Use in Embolizing Blood Vessels",filed July27,1995(非特許文献8)
9 Kinugasa,etal.,"Early Treatment of Subaraclmoid Hemorrhage AfterPreventing Rerupture of an Aneurysm",J.Neurosurg., 83:34-41(1995)(非特許文献9)
10 Kinugasa,et al.,"Prophylactic Thrombosis to Prevent New Bleeding and toDelay
Aneurysms Surgery",Neurosulg.,36:661(1995)(非特許文献10)
11 Taki,et al.,"Selection and Combination of Various EndovascularTechniques in the Treatment of Giant Aneurysms",J.Neurosurg., 77:37-42(1992)(非特許文献11)
12 German,et al.,New England Jounal of Medicine,250:104-106(1954)(非特許文献1
2)
13 Rabinowitz,et al.,U.S Patent No.3,527,224,for"Method of SugicallyBonding Tissue Together",issued 9/8/70(非特許文献13)
14 Hawkins,et al.,U.S.Patent No.3,591,676,for"Surgical Adhesive Compositions",issued7/6/71(非特許文献14)
上述の参照文献のすべては、個々の文献を特別に単独で参照して本明細書にその全部を取り込む必要があるのと同程度に,すべての文献の全体を取り込んだものである。
【0004】
技術の現状
血管塞栓形成法は、腫瘍の治療、及び動脈瘤、動静脈奇形(AVM)、動静脈痩(AVF)、制御できない出血などの病巣部の治療を含む種々の目的で実施されている。
【0005】
血管塞栓形成法は、塞栓形成すべき脈管部位にカテーテルを選択的に配置することのできるカテーテル技術によって達成することが好ましい。この点に関するカテーテル技術及び血管造影法における最近の進歩によって、今や、手術不可能な病巣部を違った方法で治療することを含め、神経の脈管内にまで介入することができる。特に、直径が1mm位の血管にアクセスすることのできるマイクロカテーテル及びガイドワイヤーの発展によって、多くの病巣部の脈管内治療ができるようになった。
【0006】
脈管内治療養生法は、脈管部位に供給されると血栓症を引き起こすように設計された金属コイルのような非粒子物質の利用を含む1。理論上、マイクロコイルを脈管部位に留置
すると、そのコイルの周囲に血餠が形成され、それによって容易に脈管部位を閉塞することができる。
【0007】
しかしながら、金属コイルの周囲の血栓は事実上一様ではなく、形成された血餠の分裂が起こり得るという事実を含め、この方法の複雑さが報告されている。この前者の態様では、例えば、脈管の病巣部を不完全に閉塞してしまい、一方、後者の態様では、患者の循環系内で血餠が移動してしまう可能性がある。
【0008】
さらに、金属コイルに用いるために白金が選択されてきたが、白金コイルのトロンボゲン形成ポテンシャルは変わりやすく2、血管(例えば、動脈瘤)の閉塞が不十分になって
しまう。同様に、コイルを動脈瘤の治療に用いると、留置後、コイルは、動脈瘤腔内で及び/又は動脈瘤腔から移動する傾向にある。このような場合の動脈瘤腔からコイルが移動した結果、治療を受けた患者が逆行して完全な運動麻痺を引き起こしたことが報告されている3
【0009】
なおまた、血栓形成の前に、動脈瘤腔内で移動すると、動脈瘤内から石灰化された塞栓が遊離して、血管内膜を裂傷し、あるいは血管壁を切開してしまう。
【0010】
さらに、血管塞栓形成法においては、過小なコイルを使用すると、患者の循環系内でコイルが移動してしまい、過大のコイルを使用すると、コイルが伸長してしまい、このことは、血管塞栓形成においては有効でないと考えられている1ので、コイルサイズの選択は
重要である。
【0011】
コイルにDarcon(登録商標)製の糸を取入れることによって白金コイルの血栓形成特性を改良するための努力が為されてきたが、コイルの移動が、主としてそのような移動によって生じるポテンシャル的にひどく相反する影響に起因する重大な問題として残されている。さらに、コイルの周囲に形成される血栓は、動脈瘤の治療を成功させるために不可欠なので、形成された血餠から血餠の断片が割れること及び患者の循環系内にその断片が入り込むことを最小限にするように留意しなければならない。
【0012】
さらにまた、病巣部の治療においては、血栓形成に有効な多重コイルを使用することが一般的である。しかしながら、多重コイルの位置決め及び留置は技術的に難しく、しばしば望ましくないコイルの移動、留置ミス、及び/又はコイルパックの変形が生じてしまうことがある。
【0013】
上述の点から、金属コイルのような非粒子物質を利用した血管塞栓形成法の効果を高め
ることが、継続的に要望されている。
【0014】
本発明は、塞栓形成すべき血管部位にマイクロコイル及び他の非粒子物質をカテーテルを介して導入する血管塞栓形成法の効果が、この部位に下記に述べるようなポリマー組成物をさらに導入することによって高めることができるという発見に関するものである。留置されたコイル及び他の非粒子物質は、その周囲にポリマーの沈殿を生長させて血管に塞栓形成する格子として作用する。
【0015】
血管塞栓形成のためにポリマー組成物を用いることは、今までにも、塞栓形成すべき脈管部位にキャリヤー溶液から原位置でポリマーの沈殿物を予め形成する組成物を含めて開示されてきたが4,5、このような組成物は、例外なく、金属コイルのような非粒子物質の
存在下で組成物単独で用いられていた。効果的な治療のためには、そのようなポリマー組成物は、構造的に十分完成した沈殿物を形成して、その沈殿物の分裂を阻止しなければならず、その沈殿物は、留置された部位に固定されなければならない。あるポリマー組成物は、必要条件を満たす構造的に完成した沈殿物を形成するが7,8、他のポリマー組成物は
そうではない。いずれの場合でも、これらの沈殿物を脈管部位に固定しておくことは、特に、血液の流れが多い及び/又は冗漫な頚部を有する病巣部においては、重大な問題として残されている。このような場合には、沈殿物の脈管部位への固定は、治療すべき病巣部の形状に固有の機能ではなく、意図した脈管部位から沈殿物が移動してしまうことがあり得る。
上述の観点から、脈管部位に塞栓を形成するために使用するポリマー組成物の効果を高めることが継続的に要望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Castaneda-Zuniga,et al.,Interventional Radiology,in VascularEmbolotherapy,Part 1,1:9-32,Williams & Wilkins,Publishers(1992)
【非特許文献2】Hopkins,et al.,"Endovascular Treatment of Aneurysms and CerebralVasosoams",in"Current Management of Cerebral Aneurysms",Am.Assoc.Neuro.Surgeons,A.Awad,Editor,Chapter II,pp.219-242(1993).
【非特許文献3】Pruvo,et al.,"Endovascular Treatment of 16 Intracranial Aneurysmswith Microcoils",Neuroragjology,33(supple):S144(Abstract)(1991).
【非特許文献4】Mandai,et al.,"Direct Thrombosis of Aneurysms with CelluloseAcetate Polymer",J.Neurosurg.,77:497-500(1992)
【非特許文献5】Kinugasa,et al.,"Direct Thrombosis of Aneurysms with CelluloseAcetate Polymer",J.Neurosupg.,77:501-507(1992)
【非特許文献6】Casarett and Doull's Toxicology,Amdur et al.,Editors,PergamonPress,New York,pp.661-664(1975)
【非特許文献7】Greff,et al.,U.S.Patent Application SerialNo.08/507,863 for"Novel Compositions for Use in Embolizing Blood Vessels",filed July27,1995
【非特許文献8】Greff,et al.,U.S.Patent Application Serial No.08/508,248 for"Cellulose Diacetate Compositions for Use in Embolizing BloodVessels",filed July 27,1995
【非特許文献9】Kinugasa,etal.,"Early Treatment of Subaraclmoid Hemorrhage AfterPreventing Rerupture of an Aneurysm",J.Neurosurg., 83:34-41(1995)
【非特許文献10】Kinugasa,et al.,"Prophylactic Thrombosis to Prevent New Bleedingand to Delay Aneurysms Surgery",Neurosulg.,36:661(1995)
【非特許文献11】Taki,et al.,"Selection and Combination of Various EndovascularTechniques in the Treatment of Giant Aneurysms",J.Neurosurg., 77:37-42(1992)
【非特許文献12】German,et al.,New England Jounal of Medicine,250:104-106(1954)
【非特許文献13】Rabinowitz,et al.,U.S Patent No.3,527,224,for"Method ofSugically Bonding Tissue Together",issued 9/8/70
【非特許文献14】Hawkins,et al.,U.S.Patent No.3,591,676,for"Surgical AdhesiveCompositions",issued 7/6/71
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ここに述べるような方法で、非粒子物質とポリマー組成物を組み合わせて血管塞栓形成を行うと、予期しえない、かつ驚くべき結果を得るという発見に関するものである。特に、これらの方法を組み合わせることによって、これらを別々に使用した場合にそれぞれの塞栓形成法に係る欠点を減少させ、あるいは無くすことができる。本発明で重点的に取り上げるこれらの欠点としては、例えば、(a)脈管部位での非粒子物質の周囲の
種々の血栓形成に関する問題、(b)脈管部位に導入された後の非粒子物質の移動に関する
問題、(c)脈管部位での沈殿物形成後のポリマー沈殿物の分裂に関する問題、及び、(d)脈管部位へのポリマー沈殿物の固定に関する問題がある。
【0018】
従って、この方法の一態様においては、本発明は、患者の血管内で脈管部位に塞栓形成する方法であって、この方法は、
(a)塞栓形成すべき脈管部位に、カテーテルを介して1つの非粒子物質又は複数の前記
物質を導入し、かつ、
(b)生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影剤を含有するポリマー組
成物を、前記血管部位に、カテーテルを介して供給することを含み、
前記供給は、ポリマーの沈殿物が前記脈管部位で原位置形成し、それによって、血管塞栓を形成し、かつ前記非粒子物質が前記沈殿物内に被包されるような条件下で行われることを特徴とする。
【0019】
ポリマー組成物において、生体適合性溶媒としてはジメチルスルホキシドが好ましく、生体適合性ポリマーとしては、エチレンビニルアルコールコポリマー、又はアセチルセルロースポリマーが好ましい。
【0020】
他の実施態様においては、生体適合性ポリマー組成物が、生体適合性プレポリマーを含有する生体適合性プレポリマー組成物と置き換えられる。この実施態様においては、本発明は、患者の血管内で脈管部位に塞栓形成する方法であって、この方法は、
(a)塞栓形成すべき脈管部位に、カテーテルを介して1つの非粒子物質又は複数の前記
物質を導入し、かつ、
(b)前記脈血管部位に、生体適合性プレポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影
剤を含有するプレポリマー組成物を、カテーテルを介して供給することを含み、
前記供給は、プレポリマーが前記脈管部位で原位置重合し、それによって、血管塞栓を形成し、かつ前記非粒子物質が前記ポリマー内に被包されるような条件下で行われることを特徴とする。
【0021】
任意の一実施態様においては、プレポリマー組成物は、さらに、好ましくは、ジメチルスルホキシド、エタノール、及びアセトンより成る群から選択されたものである生体適合性溶媒を含有する。
【0022】
キットの一態様においては、本発明は、
(a)生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影剤を含有するポリマー組
成物と、
(b)1つの非粒子物質又は複数のそのような物質と
を含んで成るパーツキットに関するものである。
【0023】
キットの他の態様においては、本発明は、
(a)生体適合性プレポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影剤を含有するプレポ
リマー組成物と、
(b)1つの非粒子物質又は複数のそのような物質と
を含んで成るパーツキットに関するものである。
キットは、さらに前記ポリマー組成物を供給可能なカテーテルを含むことが好ましい。
【0024】
一実施態様においては、前記ポリマー組成物を供給可能なカテーテルは、前記非粒子物質を供給可能なカテーテルと同じものである。他の実施態様においては、前記ポリマー組成物を供給可能なカテーテルは、前記非粒子物質を供給可能なカテーテルとは異なったものである。この後者の態様においては、キットは、さらに前記非粒子物質を供給可能なカテーテルを含む。
他の実施態様においては、キットは、さらに血流を弱めるためのミクロバルーンカテーテルを含む。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)患者の血管内で脈管部位に塞栓形成する方法であって、この方法が、
(a)塞栓形成すべき脈管部位に、カテーテルを介して1つの非粒子物質又は複数の前記
物質を導入し、かつ、
(b)生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒、及び平均粒子サイズが約10μm以下の非水溶性造影剤を含有するポリマー組成物を、前記血管部位に、カテーテルを介して供給することを含み、
前記供給は、ポリマーの沈殿物が前記脈管部位で原位置形成し、それによって、血管塞栓を形成し、かつ前記非粒子物質が前記沈殿物内に被包されるような条件下で行われることを特徴とする脈管部位に塞栓形成する方法。
(項目2)哺乳類の患者の動脈瘤に塞栓形成する方法であって、この方法が、
(a)動脈瘤腔内に、カテーテルを介して1つの金属コイル又は複数の金属コイルを導入
し、かつ、
(b)生体適合性ポリマーと、ジメチルスルホキシドと、タンタル、タンタルオキシド、
タングステン、及び硫酸バリウムから成る群より選択された非水溶性造影剤とを含有するポリマー組成物を、カテーテルを介して、前記動脈瘤腔に供給することを含み、前記非水溶性造影剤の平均粒子サイズが10μm以下であり、
前記供給は、ポリマーの沈殿物が動脈瘤腔内で原位置形成し、それによって、動脈瘤を閉塞し、かつ前記金属コイルが前記沈殿物内に被包されるような条件下で行われることを特徴とする動脈瘤に塞栓形成する方法。
(項目3)前記生体適合性溶媒が、ジメチルスルホキシド、エタノール、及びアセトンから成る群より選択されたものである項目第1項に記載の方法。
(項目4)前記生体適合性溶媒が、DMSOである項目第3項に記載の方法。
(項目5)前記非水溶性造影剤が、タンタル、タンタルオキシド、タングステン、及び硫酸バリウムから成る群より選択されたものである項目第1項に記載の方法。
(項目6)前記非粒子物質が、1つの金属コイル又は複数の金属コイルである項目第1項に記載の方法。
(項目7)前記金属コイルが、白金コイルである項目第2項又は第5項に記載の方法。
(項目8)前記造影剤が、タンタルである項目第1項又は第2項に記載の方法。
(項目9)前記ポリマー組成物が、約0.05〜0.3cc/分の速度で、動脈瘤に注入されることを特徴とする項目第1項又は第2項に記載の方法。
(項目10)前記ポリマー組成物が、少なくとも0.6cc/分の速度で、動脈瘤に注入されることを特徴とする項目第1項又は第2項に記載の方法。
(項目11)(a)生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影剤を含有する
ポリマー組成物と、
(b)1つの非粒子物質又は複数のそのような物質と
を含んで成るパーツキット。
(項目12)(a)生体適合性プレポリマー、及び非水溶性造影剤を含有するプレポリマー
組成物と、
(b)1つの非粒子物質又は複数のそのような物質と
を含んで成るパーツキット。
(項目13)前記キットが、さらに生体適合性溶媒を含むものである項目12に記載のパーツキット。
(項目14)前記生体適合性溶媒が、ジメチルスルホキシド、エタノール、及びアセトンから成る群より選択されたものである項目第11項又は第13項に記載のパーツキット。
(項目15)前記生体適合性溶媒が、ジメチルスルホキシドである項目第14項に記載のパーツキット。
(項目16)前記非水溶性造影剤が、タンタル、タンタルオキシド、タングステン、及び硫酸バリウムから成る群より選択されたものである項目第11項又は第12項に記載のパーツキット。
(項目17)前記非粒子物質が、1つの金属コイル又は複数の金属コイルである項目第11項又は第12項に記載のパーツキット。
(項目18)前記金属コイルが、白金コイルである項目第17項に記載のパーツキット。
(項目19)前記キットが、さらに前記ポリマー組成物を供給可能なカテーテルを含むものである項目第11項又は第12項に記載のパーツキット。
(項目20)前記ポリマー組成物を供給可能なカテーテルが、前記非粒子物質も供給可能なものである項目第19項に記載のパーツキット。
(項目21)前記キットが、さらに前記非粒子物質を供給可能なカテーテルを含んで成る項目第19項に記載のパーツキット。
(項目22)患者の血管内で脈管部位に塞栓形成する方法であって、この方法が、
(a)塞栓形成すべき脈管部位に、カテーテルを介して1つの非粒子物質又は複数の前記
物質を導入し、かつ、
(b)生体適合性プレポリマー及び造影剤を含有するプレポリマー組成物を、前記脈管部
位に、カテーテルを介して供給することを含み、
前記供給は、前記プレポリマーが前記脈管部位で原位置重合し、それによって、血管塞栓を形成し、かつ前記非粒子物質が前記ポリマー内に被包されるような条件下で行われることを特徴とする脈管部位に塞栓形成する方法。
(項目23)前記プレポリマー組成物が、さらに生体適合性溶媒を含有するものである項目第22項に記載の方法。
(項目24)前記生体適合性溶媒が、ジメチルスルホキシド、エタノール、及びアセトンから成る群より選択されたものである項目第23項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、塞栓形成すべき脈管部位に、非粒子物質とポリマー又はプレポリマー組成物の両方を取り込んで、脈管部位に塞栓形成する方法に関するものである。
【0026】
しかし、この発明をさらに詳細に説明する前に、まず、以下の用語について定義しておく。
用語「塞栓形成」とは、ある物質が血管に注入されるプロセスをいい、これは、例えば、動脈瘤の場合には、動脈瘤嚢を塞ぎ、及び/又は動脈瘤へ血液が流れないようにし、また、AVM's及びAVF'sの場合には、血液の流れを制御/整流するための栓又は血餠を形成して、正常な組織に潅流するようにする。従って、血管塞栓形成は、病巣部に起因す
る出血(例えば、臓器出血、胃腸出血、脈管出血、及び動脈瘤に係る出血)を防止/制御することにおいて重要である。さらに、塞栓形成術は、血液の供給を中断することによって病的組織(例えば、腫瘍など)を切除することに利用することもできる。
【0027】
用語「非粒子物質」とは、物理的形状あるいは構造が不連続な生体適合性のマクロ的個体物質をいい、これは、血管に留置されると血管塞栓を形成する。非粒子物質は、マクロ的で(すなわち、大きさが1mm以上)、粒子がミクロ的(すなわち、大きさが1mm未満)なのとは、対照的である。そのような非粒子物質の例としては、コイル(金属コイル、鉤付
コイルなどを含む)、シルクストリーマー、プラスチックブラシ、取り外し可能なバルー
ン (例えば、シリコン又はラテックスバルーン)、気泡 (例えば、ポリビニルアルコール
気泡)、ナイロンメッシュなどがある。このような非粒子物質は、一般的に市販されてい
る。例えば、白金コイルは、米国カリフォルニア州サンノゼのTargetTherapeuticsから入手することができる。
【0028】
使用する非粒子物質を特定することは重要ではなく、好ましい物質としては、金属コイル、鉤付金属コイル、ファイバー(例えば、Darcon(登録商標)ウールファイバー)及び/又はストリーマー付金属コイルなどがある。白金コイルを用いると、さらに好ましい。
【0029】
用語「生体適合性ポリマー」とは、患者の体内で使用した際、使用量においては、毒性がなく、化学的に不活性で、実質的に非免疫性で、かつ実質的に血液に不溶のものをいう。好適な生体適合性ポリマーとしては、例として、アセチルセルロース5,9-10(ジアセチ
ルセルロース8を含む)、エチレンビニルアルコールコポリマー7,11、ポリカーボネートウレタンコポリマー、ヒドロゲル(例えば、アクリル樹脂)、ポリアクリロニトリルなどがある。また、生体適合性ポリマーは生体内原位置で用いられるときには、非感染性であることが好ましい。
【0030】
使用する生体適合性ポリマーを特定することは重要ではなく、得られるポリマー溶液の粘度、生体適合性溶媒に対する生体適合性ポリマーの溶解度、ポリマー組成物と非粒子物質との適合性などに関して選択される。このような要素は、技術の熟練の範囲内でよい。
【0031】
好適な生体適合性ポリマーとしては、ジアセチルセルロース及びエチレンビニルアルコールコポリマーがある。ジアセチルセルロースポリマーは市販されており、あるいは、公知の方法で調製することができる。好ましい一実施態様においては、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定したジアセチルセルロース組成物の数平均分子量は、約25,000〜約100,000、さらに好ましくは、約50,000〜約75,000、さらに好ましくは、約58,000〜64,000である。ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定したジアセチルセルロース組成物の
重量平均分子量は、好ましくは、約50,000〜200,000、さらに好ましくは、約100,000〜約180,000である。当業者には明らかなように、すべての他の要素が等しい低分子量のジア
セチルセルロースポリマーは、高分子量のジアセチルセルロースポリマーに比し、その組成物の粘度が低くなるだろう。従って、単にポリマー組成物の分子量を調節することで、組成物の粘度を容易に調節することができる。
【0032】
エチレンビニルアルコールコポリマーは、エチレンとビニルアルコールモノマーの両方の残基を含む。組成物の塞栓形成特性を変えなければ、少量(例えば、5モルパーセント未満)の他のモノマーがポリマー構造に含まれ、あるいはグラフトされていてもよい。このような他のモノマーとしては、単なる例示であるが、無水マレイン酸、スチレン、プロピレン、アクリル酸、酢酸ビニルなどがある。
【0033】
エチレンビニルアルコールコポリマーは、市販されており、あるいは、公知の方法で調製することもできる。エチレンビニルアルコールコポリマー組成物としては、6重量パー
セントのエチレンビニルアルコールコポリマーと、35重量パーセントのタンタル非水溶性造影剤のDMSO溶液が、20℃で60センチポアズに等しいかそれ未満の粘度を有するようなものを選択することが好ましい。当業者には明らかなように、すべての他の要素が等しい低分子量のコポリマーは、高分子量のコポリマーに比し、その組成物の粘度が低くなるだろう。従って、単にポリマー組成物の分子量を調節することで、カテーテルデリバリーで必要なように組成物の粘度を容易に調節することができる。
【0034】
さらに明らかなように、コポリマー中のビニルアルコールに対するエチレンの割合は、組成物全体の疎水性/親水性に影響を及ぼし、これによって、組成物の水に対する相対的な可溶性/不溶性、及び水溶液(例えば、血液)中でのコポリマーの沈殿速度に影響を及ぼす。特に好ましい実施態様においては、ここで用いるコポリマーは、エチレンを約25〜約60モルパーセント、及びビニルアルコールを約40〜約75モルパーセント含む。この組成物は、血管塞栓形成に用いるのに適した必要な沈殿速度を備えている。
【0035】
用語「造影剤」とは、例えば、レントゲン写真によって、哺乳類被検体に注入している間に監視可能にするような放射線不透過性の物質をいう。造影剤は、典型的には非水溶性である(例えば、水に対する溶解度は、20℃で、0.01mg/ml未満である)。非水溶性造影剤
の例としては、タンタル、タンタルオキシド、及び硫酸バリウムがあり、それぞれ、粒子サイズが約10μm以下であるということを含め、生体内での使用に適した形態で市販され
ている。他の非水溶性造影剤としては、金、タングステン、及び白金がある。
【0036】
用語「生体適合性溶媒」とは、少なくとも哺乳類の体温では液体の有機物質で、生体適合性ポリマーを溶解し、使用量においては、実質的に毒性がないものをいう。好適な生体適合性溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシドの類似体/同族体、エタノール、アセトンなどがある。また、使用する水の量が血液と接触したときに溶解したポリマーを沈殿させるのに十分なほどの少量であれば、生体適合性溶媒との混合水溶液を用いることもできる。生体適合性溶媒としては、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0037】
用語「被包」とは、ポリマーの沈殿物に被包された非水溶性造影剤及び/又は非粒子物質に関して使用されている場合は、カプセルが薬物を被包するように沈殿物内で非水溶性造影剤を何か物理的に捕捉していると推論することは意味しない。むしろ、この用語は、個々の成分に分離しないような完全に密着した沈殿物の形態を示すために使われている。
【0038】
用語「生体適合性プレポリマー」とは、生体内原位置で重合してポリマーを形成する物質をいい、これは、患者の体内で使用される場合に、使用量においては、毒性が無く、化学的に不活性で、実質的に非免疫性で、かつ、実質的に血液に不溶である。好適な生体適合性プレポリマーの例としては、シアノアクリレート1,13,14、ヒドロキシエチルメタク
リレート、シリコンプレポリマー、ウレタンプレポリマーなどがある。プレポリマーは、モノマーあるいは反応性オリゴマー13でもよい。また、生体適合性プレポリマーは、生体内原位置で使用したときに非感染性であることが好ましい。
【0039】
組成物
本発明の方法で使用するポリマー又はプレポリマー組成物は、それぞれの成分を加え、得られた組成物を全組成物が実質的に均一になるまで、混ぜ合わせることによって常法で調製される。
【0040】
例えば、ポリマー組成物は、生体適合性溶媒に十分な量の生体適合性ポリマーを加え、有効濃度のポリマー組成物を得ることができる。ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量を基準として、好ましくは、約2.5〜約8.0重量パーセント、さらに好ましくは、約4
〜約5.2重量パーセントの生体適合性ポリマーを含有する。必要ならば、生体適合性溶媒
に生体適合性ポリマーを効果的に溶解させるために、例えば、50℃で12時間、穏やかに暖めながら攪拌してもよい。
【0041】
そして、十分な量の非水溶性造影剤を加え、有効濃度の完成ポリマー組成物を得る。ポリマー組成物は、組成物の全重量を基準として、好ましくは、約10〜約40重量パーセント、さらに好ましくは、約20〜約40重量パーセント、さらに好ましくは、35重量パーセントの非水溶性造影剤を含有する。造影剤は、生体適合性溶媒に溶解しないので、生成される縣濁液を効果的に均一にするために攪拌する。縣濁液の生成を促進するために、造影剤の粒子サイズは、約10μm以下を維持することが好ましく、約1〜約5μm(例えば、平均サイズが約2μm)が、さらに好ましい。
【0042】
好ましい一実施態様においては、適切な粒子サイズの非水溶性造影剤は、例えば、分留によって調製される。そのような実施態様においては、平均粒子サイズが約20ミクロン未満のタンタルのような非水溶性造影剤を、好ましくは、クリーンな環境で、エタノール(無水)のような有機溶液に添加する。約40秒間沈降させて生成される縣濁液を攪拌すると、より大きい粒子が速く沈降する。粒子から液体を分離することによって、有機液体の上層を取り除くと、粒子サイズが、小さくなることが、光学顕微鏡によって確認される。所望の粒子サイズになるまで、このプロセルを任意に繰り返し行う。
【0043】
生体適合性溶媒への成分の添加順序は、特に重要ではなく、生成される縣濁液を攪拌して、必要な均一な組成物を得る。組成物の混合/攪拌は、無水状態の室温で行うことが好ましい。生成される組成物は、加熱減菌し、必要になるまで、好ましくは、密封容器あるいはガラスびん(例えば、褐色ガラスびん)に貯蔵しておく。
【0044】
プレポリマー組成物は、溶液に十分な量の非水溶性造影剤を添加して、有効濃度の完成ポリマー組成物を得る。プレポリマー組成物は、組成物の全重量を基準として、好ましくは、約10〜約40重量パーセント、さらに好ましくは、約20〜約40重量パーセント、さらに好ましくは、35重量パーセントの非水溶性造影剤を含有する。さらに、造影剤は、生体適合性溶媒に溶解しないので、生成される縣濁液を効果的に均一にするために攪拌する。縣濁液の生成を促進するために、造影剤の粒子サイズは、約10μm以下を維持することが好
ましく、約1〜約5μm(例えば、平均サイズが約2μm)が、さらに好ましい。
【0045】
プレポリマーが液体の場合は(ポリウレタンの場合のような)、生体適合性溶媒は絶対に必要というわけではないが、塞栓形成組成物中の適切な粘度等を備えることが好ましい。生体適合性溶媒を使用する場合は、それは、プレポリマー組成物の全重量を基準として、好ましくは、約50〜約90重量パーセント、さらに好ましくは、約60〜約80重量パーセントの生体適合性プレポリマーを含有する。
【0046】
特に好ましい実施態様においては、プレポリマーはシアノアクリレートで、生体適合性溶媒の存在下で使用することが好ましい。そのように使用する場合は、シアノアクリレート接着剤を選択して、粘度を20℃で約5〜20センチポアズにする。
【0047】
生体適合性溶媒への成分の添加順序は、特に重要ではなく、生成される縣濁液を攪拌して、必要な均一な組成物を得る。組成物の混合/攪拌は、無水状態の室温で行うことが好
ましい。生成される組成物は、加熱減菌し、必要になるまで、好ましくは、密封褐色容器又はガラスびんに貯蔵しておく。
【0048】
方法
そして、上述のような組成物を、哺乳類の血管塞栓形成法において使用する。この方法
においては、まず、従来のカテーテル技術によって、非粒子物質(例えば、白金コイル)を、塞栓形成すべき脈管部位に導入する。例えば、Hopkinsら2の脈管部位にそのような物質を導入する従来のカテーテル技術についての議論を参照されたい。
【0049】
脈管部位への非粒子物質の導入後、従来の方法(例えば、X線透視検査におけるカテーテルデリバリー)で、十分な量のポリマー組成物を導入する。脈管部位にカテーテルからポリマー組成物が放出されると、生体適合性溶媒は血液中に消散し、生体適合性ポリマーの沈殿物が生成する。その沈殿物は、沈殿物の生長及び最終的な血管塞栓形成のための格子として作用する非粒子物質の周囲に形成する。非粒子物質が脈管部位に生成する沈殿物を、順次固定し、その脈管部位に留まる能力に関して非粒子物質は選択される。
【0050】
使用するポリマー組成物の量は、塞栓形成すべき脈管構造の全容量、組成物中のポリマーの濃度、ポリマーの沈殿(固体の形成)速度、使用する非粒子物質のサイズと数などによって特定される。そのような要素は、技術の熟練の範囲内でよい。例えば、沈殿速度は、より疎水性のポリマー組成物によってより速い沈殿速度が得られることを用いて、ポリマー全体の疎水性/親水性を変えることで、制御することができる。
【0051】
使用する非粒子物質とポリマー組成物の特定な組み合わせは、各物質の相互の適合性に支配される。各成分は、他方の成分の存在下で実質的に不活性の場合は、適合すると考えられている。例えば、ジメチルスルホキシドをポリマー組成物の生体適合性溶媒として用いた場合は、この溶媒に適合する非粒子物質が選択される。従って、プラスチック、ウール、及び木材コイルは、ジメチルスルホキシドの存在下で分解し得るので、典型的には、このようなポリマー組成物とともには用いないだろう。一方、白金コイルは、ジメチルスルホキシドの存在下で実質的に不活性であり、従って、このような組み合わせは、適合するだろう。
【0052】
選択された脈管部位に、非粒子物質とポリマー組成物を供給する方法の特に好ましい一実施態様は、小径の医用カテーテルによるものである。高分子カテーテルの成分がポリマー組成物と適合するものであれば(すなわち、カテーテルの成分が、ポリマー組成物中で
容易に分解せず、カテーテル成分の存在下でポリマー組成物の成分が容易に分解することがない。)、使用するカテーテルを特定することは重要ではない。この点に関しては、ポ
リエチレンはここに記載のポリマー組成物の存在下で不活性なので、カテーテルの成分をポリエチレンにすると好ましい。他の塞栓形成組成物に適合する物質は、当業者が容易に決めることができ、例えば、他のポリオレフィン類、フルオロポリマー類(例えば、TeflonTM)、シリコーンなどがある。
【0053】
カテーテルで供給される際、ポリマー組成物の注入速度は、部分的には、脈管部位での沈殿物の形成を規制する。特に、約0.05〜0.3cc/分の低速で注入すると、沈殿物は主として注入位置で形成するので、特定の塞栓形成(例えば、動脈瘤)に有効な穀粒あるいは小塊の形態の沈殿物が生成するだろう。一方、約0.1〜0.5cc/数秒(例えば、10秒まで)以
上の高速度で注入すると、脈管ツリーに深く塞栓形成物質を供給するのに特に有用な、カテーテルの先端から下流に、塊状突起のようなフィラメントを形成するだろう。このような方法は、腫瘍の塊及び臓器に塞栓形成する場合に適している。
【0054】
非粒子物質は、脈管部位に導入されると、血管壁に固定され、それによって、塞栓形成部位を固定する。この部位にポリマー組成物を添加すると、生体適合性溶媒は血液中に素早く拡散し、固形沈殿物を形成する。この沈殿物は、生体適合性ポリマー/造影剤であり、その中に非粒子物質が被包されている。何らかの理論に制限されるわけではないが、最初は、血液及び非粒子物質に接触して、海面状の固形沈殿物に柔らかいゲルができると考えられている。ここで、沈殿物は、構造的に開放された繊維状で、非粒子物質の周囲に形
成する。そして、この沈殿物は、血液の流れを制限し、赤血球を捕捉し、それによって、血餠の血管塞栓を形成する。
【0055】
何らかの理論に制限されるわけではないが、非粒子物質がポリマーの沈殿物に被包され、さらには、この物質が塞栓形成に効果的であるばかりでなく、ポリマーの沈殿物とともに用いられるため、脈管部位における非粒子物質についての種々の血栓症に関する問題が減少するので、本発明の方法は、上述の先行技術の問題を処理している。また、非粒子物質がポリマー組成物に被包されているので、これらの物質の移動を最少限にすることができる。さらに、非粒子物質は構造的格子として作用するので、沈殿物が構造的に完全なものとなり、それによって、分裂を最少限にすることができる。さらに、非粒子物質が適切な固定物として働くので、ポリマー組成物のみが血管塞栓形成に使用される場合よりも有効に沈殿物が適当な位置に保持される。
【0056】
また、ここに記載した方法は、上述のポリマー組成物に代えて、若しくはそれとともにシアノアクリレートのような生体適合性プレポリマーを用いることもできる。プレポリマーが液体の場合は(シアノアクリレート類の場合のような)、生体適合性溶媒は絶対に必要というわけではないが、塞栓形成組成物の粘度が適正になるようにすることが好ましい。プレポリマーは、脈管部位に注入されると、血液と接触して原位置で重合し、非粒子物質の周囲に固形ポリマーを形成し、それによって、ポリマー中に非粒子物質を包み込み、血管塞栓を形成する。
【0057】
ポリマー組成物を得るために、本発明の方法は、
(a)生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影剤を含有するポリマー組
成物と、
(b)1つの非粒子物質又は複数のそのような物質と
を含むパーツキットを用いて、簡便に実施される。
【0058】
プレポリマーの組成物を得るために、本発明の方法は、
(a)生体適合性プレポリマー、生体適合性溶媒、及び非水溶性造影剤を含有するポリマ
ー組成物と、
(b)1つの非粒子物質あるいは複数のそのような物質と
を含むパーツキットを用いて、簡便に実施される。
どちらの場合も、キットはさらに前記ポリマー又はプレポリマー組成物を供給可能なカテーテルを含むことが好ましい。
【0059】
一実施態様においては、前記ポリマー又はプレポリマー組成物を供給可能なカテーテルは、非粒子物質を供給可能なカテーテルと同じものである。他の実施態様においては、前記ポリマー又はプレポリマー組成物を供給可能なカテーテルは、非粒子物質を供給可能なカテーテルとは異なる。この後者の実施態様においては、キットは、さらに前記非粒子物質を供給可能なカテーテルを含む。
他の実施態様においては、キットは、さらに血液の流れを減弱させるためのマイクロバルーンカテーテルを含む。
【0060】
有用性
ここに記載した方法は、哺乳類の血管塞栓形成に利用でき、また、順次、病巣部に起因する出血(例えば、臓器出血、胃腸出血、脈管出血、動脈瘤に係る出血)、又は、病的組織(例えば、腫瘍など)の切開に起因する出血を防止/制御するために使用することができる。従って、この方法は、血管塞栓形成が必要なヒト及び他の哺乳類被検体に使用できることがわかる。
【0061】
ここに記載のパーツキットは、そのキットが記載の方法を実施するのに必要な構成要素のすべてを都合よく備えているので、これらの方法に特に有用であることがわかる。
また、ここに記載の方法は、例えば、女性及び男性の不妊化にそれぞれ効果的なファロピアン管あるいは精管内で、又は、失禁を治療するために哺乳類の尿道周囲の組織へのバルキング物質の供給のように、脈管以外にも使用することができると考えられる。
【0062】
以下の実施例は、請求の範囲に記載されている発明を説明するために述べたものであり、それによって、制限を受けるものと解釈すべきでない。
【0063】
実施例
特に言及する場合以外は、すべての温度は、セルシウス度である。また、これらの実施例及び他の記載部分において、以下の略語は、以下の意味である。
cc = 立法センチメートル
DMSO = ジメチルスルホキシド
EVOH = エチレンビニルアルコールコポリマー
mm = ミリメートル
μm = ミクロン
【0064】
以下の実施例においては、実施例1-2は、ここで記載される方法に用いるアセチルセ
ルロースとEVOHを含有するポリマー組成物の調製について記載している。実施例3は、そのようなポリマー組成物を本発明の方法でどのように使用するかについて説明している。
【0065】
実施例1
アセチルセルロース(アセチル含量は39.7重量パーセント)をDMSOに溶解して、DMSO中のコポリマー濃度が6.8重量パーセントのジアセチルセルロースポリマー組成物
を調製した。この溶液にタンタル(10重量パーセント、米国ニューヨーク州ニューヨークのLeicoIndustriesから入手可能、純度が99.95%、サイズが43μm未満)を加えた。
このタンタル組成物を長時間放置すると、タンタルが沈降する。音波処理も有効であるが、使用の前に十分に混合する必要がある。
【0066】
実施例2
EVOH(44モルパーセントのエチレン)をDMSOに溶解して、DMSO中のコポリマー濃度が6.8重量パーセントのEVOHポリマー組成物を調製した。溶解を促進するために
、系を一晩中50℃に加熱してもよい。
【0067】
この溶液にタンタル(10重量パーセント、米国ニューヨーク州ニューヨークのLeico Industriesから入手可能な純度が99.95%、サイズが43μm未満のもの、又はH.C.Starck,Inc.(米国マサチューセッツ州ニュートン)製の粒子サイズが約5μmのもの)を非水溶性造影剤として加えた。
【0068】
このタンタル組成物を長時間放置すると、タンタルが沈降する。音波処理も有効であるが、使用の前に十分に混合する必要がある。
【0069】
粒子サイズが10μm以下のタンタルを使うことができ、これは市販されており(例えば、上記のH.C.Starck)、あるいは、以下のように作ることもできる。特に、約3μmの粒子
サイズ(狭いサイズ分布)のタンタルは、平均粒子サイズが約20μm未満のタンタルをク
リーンな環境においてエタノール(無水)に加えて分別することによって調製した。得られた縣濁液を約40秒間沈降させてからかき混ぜると、より大きな粒子になり、速く沈降した。その粒子から液体を分離することによってエタノールの上層を除去し、粒子サイズが
小さくなることを、顕微鏡(NiconAlphaphotTM)で確認した。粒子サイズが平均3μmに
なるまで、必要に応じてこのプロセスを繰り返した。
【0070】
実施例3
この実施例の目的は、動脈瘤の治療において、本発明の方法の生体内での適用について説明することである。
具体的には、ラビットの両側から左右相称のアクセス部で処理した。最初の左右相称のアクセス部に、先端を熱して「J」型に形成したマイクロカテーテル(無菌で、コーティング無し、2cm離れた2つの末端バンドを備えている)を配置した。その先端を、0.014
インチ(0.0355cm)のDasherガイドワイヤーを用いて動脈瘤内に配置した。動脈瘤の寸法決めをした後、5mm×10cmのGDC-10コイル(カリフォルニア州サンノゼのTargetTherapeuticsから入手可能)をマイクロカテーテルにて、動脈瘤内に配置し、そして、約2分
半かけて電解的に取り外した。動脈瘤の末梢部及び中心部は開放されたままであった。
【0071】
二つ目のマイクロカテーテルを、二つ目のアクセス部位から、カテーテルの先端を動脈瘤の中心部に向けて配置した。最初のマイクロカテーテルは、動脈瘤のちようど近位に引き戻され、血液の流れが減少し、視覚化のための造影剤注入が可能になった。視認しやすい位置に動脈瘤がくるように、ラビットをひっくり返した。動脈瘤の容積は、約0.045cc
と計算された。
【0072】
上述の実施例2の塞栓形成組成物(粒子サイズ10μm未満)を造影剤が完全に分散する
まで約4分間振とうした。マイクロカテーテルの配置は、非水溶性造影剤(例えば、ニュージャージー州プリンストンのNycomedから入手可能なOmnipaqueTM)を注入することで確認した。配置後、生理食塩水を含むシリンジをマイクロカテーテルのルアハブに接続し、造影剤を、約5ccの生理食塩水が入っているマイクロカテーテルのハブ及び本体から、約1分間かけて、1ccの増加分ごとに穏やかに標識しながら流し込んだ。その後、シリンジを取り外し、キャップをマイクロカテーテルのルアハブに確実にかぶせた。
【0073】
無菌のDMSO(0.5cc)を1ccシリンジ内に吸引した。マイクロカテーテルのハブか
らキャップを取り外し、シリンジをそこに取り付けた。約0.30ccのDMSOをカテーテルに注入して生理食塩水をそこから除去した。
【0074】
DMSOを調製し注入している間に、塞栓形成組成物を約2分間振とうして非水溶性造影剤を完全に分散させた。そして、1ccシリンジに21ゲージの針を使って塞栓形成組成物を満たした。DMSOを注入したら直ちに、シリンジを取り外し、DMSOの残りをルアハブにあふれるように満たして洗浄するために使用した。
【0075】
その後、直ちに、塞栓形成組成物を含んだシリンジを、連結する間に空気が入らないように注意しながら、カテーテルのハブに連結した。DMSOと塞栓形成組成物との間にはっきりした界面境界を生じるように組成物のシリンジを上に向けて、最初の0.25ccを1分間かけて注入し、マイクロカテーテル内のDMSOと置き換えて血液中のDMSOを希釈した。蛍光透視法で、マイクロカテーテル本体の遠位部に塞栓形成組成物を目視することができた。シリンジの先端を下げて、塞栓形成組成物を注入した。塞栓形成組成物の容量を監視して、満たすべき脈管のスペースの容量に相当する量の塞栓形成組成物を注入するように留意した。塞栓形成組成物の注入が完了したら、塞栓形成シリンジを穏やかに吸引して塞栓形成組成物の塊からカテーテルの先端を切り離した。数秒後、シリンジのプランジャーを解放してマイクロカテーテルを引き出した。
【0076】
総量0.07ccの塞栓形成組成物を動脈瘤に供給した。即座に後部の注入を血管造影すると、充填された動脈瘤と開放された基体の(頸)動脈を示していた。約2分後に撮った血管
造影写像によって、塞栓の一部が動脈瘤から頸動脈に移動し、部分的に吸蔵が起きたことがわかった。
【0077】
上述した方法と同様に液体プレポリマーを用いた組成物を用いることが可能なことは理解される。しかしながら、プレポリマーを用いた場合は、タイミング及び注入速度は、プレポリマーの硬化速度に非常に依存するだろう。そのような要因は、技術の熟練の範囲内である。
【0078】
前述の説明から、当業者には、種々の変更態様、組成物及び方法の変更が頭に浮かぶだろう。添付の請求の範囲内で為されるそのようなすべての変更態様は、請求の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【公開番号】特開2012−106983(P2012−106983A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−208134(P2011−208134)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【分割の表示】特願平9−527719の分割
【原出願日】平成9年1月27日(1997.1.27)
【出願人】(501289751)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (320)
【Fターム(参考)】