説明

血管新生の治療のための方法及び組成物

本明細書では、血管新生、特に眼の血管新生とその結果生じる線維形成性障害の治療のための方法及び組成物を開示する。組成物は、一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害因子を含み、方法には阻害因子の製造方法及び必要とする被検体への阻害因子の投与方法が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年2月6日出願の米国仮特許出願番号61/207202の優先権を主張するものであり、該出願の開示内容はその全体が出典明記によってここに援用される。
【0002】
(発明の分野)
本出願は、例えば黄斑変性症に生じるような眼性血管新生とその治療の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
脈絡膜の血管新生(CNV)は、眼の脈絡膜層における新規の血管の異常又は過剰な形成を指し、加齢性黄斑変性(AMD)の一般的な症状である。世界的な不可逆的な盲目の主な原因であるAMDでは、CNVは網膜下腔へのブルッフ膜を越えた脈絡叢血管の異常成長に特徴があり、斑での炎症(一般に鎮静する)、脈管形成及び最終的に線維形成が生じる。
【0004】
AMD及び他のタイプの脈絡叢血管新生の現在の治療は、一般的に抗血管形成薬の投与を伴う。しかしながら、このような治療は、CNVからも生じる炎症及び線維形成をほとんど軽減しない。ゆえに、血管新生の逆行を促すが、これらの治療は、CNVから生じる線維形成性の障害に対するものではないので、望むほど臨床的に有効ではない。
したがって、単独でも抗血管形成治療と併用しても用いられる眼の血管新生に対する抗線維化治療は、CNVによる視力喪失を軽減する点で大きな臨床的成功につながるであろう。
【発明の概要】
【0005】
特定のリシルオキシダーゼ型(lysyl oxidase-type)酵素の発現の増加が脈絡叢の血管新生(CNV)に続いて生じる線維形成性障害に応じて生じることを本明細書において開示する。一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害は、CNV後の線維形成性障害の低減及び/又は逆行を促す。さらに、抗血管新生治療と抗線維化療法の組合せが、CNV、例えば加齢性黄斑変性(AMD)を特徴とする疾患の治療のために使われうることが決定された。抗線維化治療には、一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害が含まれる。抗血管形成治療には、一又は複数の血管形成因子、例えば血管内皮性増殖因子(VEGF)などの活性の阻害が含まれる。
【0006】
一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害及び/又は脈管形成の阻害のための組成物は、タンパク質(例えば抗体又は小さいペプチド)、核酸(例えば三重形成オリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、マイクロRNA、リボザイム)又は小有機分子(例えば、1kD未満の分子量を有するもの)を含み、これらは例えば組換え化学により合成されてよい。
【0007】
ゆえに、本開示内容には以下の実施態様が含まれるが、これらに限定されない。
1. 生物体における眼血管新生の治療方法であって、生物体の一又は複数の細胞におけるリシルオキシダーゼ型酵素の活性を阻害することを含む方法。
2. 阻害がリシルオキシダーゼ様タンパク質に抗体を結合させることを含む、実施態様1に記載の方法。
3. リシルオキシダーゼ様タンパク質がリシルオキシダーゼ(LOX)である、実施態様2に記載の方法。
4. リシルオキシダーゼ様タンパク質がリシルオキシダーゼ関連タンパク質2(LOXL2)である、実施態様2に記載の方法。
5. 方法が生物体の一又は複数の細胞における血管形成因子の活性を阻害することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
6. 血管形成因子の活性が血管形成因子への抗体の結合によって阻害される、実施態様5に記載の方法。
7. 血管形成因子が血管内皮性増殖因子(VEGF)である、実施態様5に記載の方法。
8. VEGFが血管内皮性増殖因子A(VEGF−A)である、実施態様7に記載の方法。
9. 眼の血管新生が、加齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病性網膜症(DR)及び未熟児の網膜症からなる群から選択される疾患で起こる、実施態様1に記載の方法。
10.抗体が生物体の眼に導入される、実施態様2に記載の方法。
11.抗体が生物体の眼に導入される、実施態様6に記載の方法。
12.抗体をコードするポリヌクレオチドが生物体の眼に導入される、実施態様2に記載の方法。
13.抗体をコードする一又は複数のポリヌクレオチドが生物体の眼に導入される、実施態様6に記載の方法。
14.抗体が一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、実施態様10に記載の方法。
15.抗体が一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、実施態様11に記載の方法。
16.ポリヌクレオチドが一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、実施態様12に記載の方法。
17.ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドが一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、実施態様13に記載の方法。
18.ポリヌクレオチドが、アデノ関連ウイルス(AAV)、アデノウイルス及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターにキャプシド形成されている、実施態様12に記載の方法。
19.ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドが、アデノ関連ウイルス(AAV)、アデノウイルス及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターにキャプシド形成されている、実施態様13に記載の方法。
20.ウイルスベクターがアデノ関連ウイルス(AAV)である、実施態様18に記載の方法。
21.ウイルスベクターがアデノ関連ウイルス(AAV)である、実施態様19に記載の方法。
22.ウイルスベクターがAAVタイプ2又はAAVタイプ4である、実施態様20に記載の方法。
23.ウイルスベクターがAAVタイプ2又はAAVタイプ4である、実施態様21に記載の方法。
24.生物体が哺乳動物である、実施態様1に記載の方法。
25.哺乳動物がヒトである、実施態様24に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】レーザー処置マウス(左及び真ん中のパネル)と未処置のコントロールマウス(右パネル)の脈絡膜及び網膜の、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)染色した薄切片を示す。上3枚の写真は、レーザー光凝固後4日目の2つの損傷眼とコントロール眼の切片を示し、下の写真は、レーザー光凝固後7日目の2つの損傷眼と1つのコントロール眼の切片を示す。病変部位を楕円で囲って示す。
【図2】レーザー処置マウス(左及び真ん中のパネル)と未処置のコントロールマウス(右パネル)の脈絡膜及び網膜の薄切片における、CD45免疫反応を示すレッドシアニン3の免疫蛍光法を示す。上3枚の写真は、レーザー光凝固後4日目の2つの損傷眼とコントロール眼の切片を示し、下の写真は、レーザー光凝固後7日目の2つの損傷眼と1つのコントロール眼の切片を示す。病変部位を楕円で囲って示す。
【図3】レーザー光凝固後14日目及び28日目の、コントロールマウスとレーザー損傷マウスからの切片におけるCD45反応領域のレベルの定量分析を示す。炎症の程度は、総病変領域に対するCD45陽性領域の割合として表す。
【図4】レーザー処置マウス(左及び真ん中のパネル)と未処置のコントロールマウス(右パネル)の脈絡膜及び網膜の、トリクローム染色した薄切片を示す。上3枚の写真は、レーザー光凝固後4日目の2つの損傷眼とコントロール眼の切片を示し、下の写真は、レーザー光凝固後7日目の2つの損傷眼と1つのコントロール眼の切片を示す。病変部位を楕円で囲って示す。
【図5】レーザー処置マウス(左及び真ん中のパネル)と未処置のコントロールマウス(右パネル)の脈絡膜及び網膜の、シリウスレッドで染色した薄切片を示す。上3枚の写真は、レーザー光凝固後4日目の2つの損傷眼とコントロール眼の切片を示し、下の写真は、レーザー光凝固後7日目の2つの損傷眼と1つのコントロール眼の切片を示す。病変部位を楕円で囲って示す。
【図6】レーザー光凝固後4日目及び7日目の、コントロールマウスとレーザー損傷マウスからの切片におけるコラーゲン沈着の定量分析を示す。コラーゲン沈着は、総病変領域の割合として、コラーゲン繊維が占める領域(トリクロームにて青く、シリウスレッドにて赤く染色される)を決定することによって定量化した。シリウスレッド染色は偏光下で分析した。トリクロームではp=0.00003、シリウスレッドでは0.00005。
【図7】レーザー光凝固後14日目及び28日目の、コントロールマウスとレーザー損傷マウスからの切片におけるコラーゲン沈着の定量分析を示す。コラーゲン沈着は、図6のキャプションに記載のように定量化した。
【図8】光凝固後4、7、14及び28日目のレーザー損傷眼における、リシルオキシダーゼ(LOX)及びリシルオキシダーゼ様(LOXL)タンパク質をコードするmRNAのレベルを示す。4、7、14及び28日の各日について、5本の棒群はそれぞれ、左から右に、LOX、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4について規準化したmRNAレベルを表す。各々の時間点の棒は、左から右に、mLOX、mLOXL1、mLOXL2、mLOXL3及びmLOXL4について規準化したmRNAレベルについてのデータを表す。
【図9】光凝固後2、4、28及び35日目のレーザー損傷眼における、リシルオキシダーゼ(LOX)及びリシルオキシダーゼ様(LOXL)タンパク質をコードするmRNAのレベルを示す。図8に示す結果を得たものとは異なる実験の結果である。2、4、28及び35日の各日について、5本の棒群はそれぞれ、左から右に、LOX、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4について規準化したmRNAレベルを表す。各々の時間点の棒は、左から右に、mLOX、mLOXL1、mLOXL2、mLOXL3及びmLOXL4についてのデータを表す。
【図10】レーザー光凝固後35日目のレーザー損傷マウス眼の切片におけるCD45反応領域のレベルの定量分析を示す。マウスは、抗LOXL2抗体(最も左の棒)、抗LOX抗体(真ん中の棒)又はベヒクル(最も右の棒)にて処置した。炎症の程度は、総病変領域に対するCD45陽性領域の割合として表す。
【図11】レーザー光凝固後35日目のレーザー損傷マウス眼の切片におけるCD31反応領域のレベルの定量分析を示す。マウスは、抗LOXL2抗体(最も左の棒)、抗LOX抗体(真ん中の棒)又はベヒクル(最も右の棒)にて処置した。炎症の程度は、総病変領域に対するCD31陽性領域の割合として表す。
【図12】レーザー光凝固後35日目のレーザー損傷マウス眼からの切片における、シリウスレッド染色によるコラーゲン沈着の定量分析を示す。コラーゲン沈着は、総病変領域の割合として、コラーゲン繊維が占める領域(赤く染色される)を決定することによって定量化した。シリウスレッド染色は偏光下で分析した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(詳細な説明)
本開示内容の実施は、特に明記しない限り、細胞生物学、毒物学、分子生物学、生化学、細胞培養、免疫学、腫瘍学、組換えDNA及び関連分野の分野における標準的な方法及び従来の技術を使用するものであり、当業者の技量の範囲内である。このような技術は、文献に記載されており、このことにより当業者に利用可能である。例として、Alberts, B. et al., 「Molecular Biology of the Cell」, 5th edition, Garland Science, New York, NY, 2008;Voet, D. et al. 「Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level」, 3rd edition, John Wiley & Sons, Hoboken, NJ, 2008;Sambrook, J. et al., 「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001;Ausubel, F. et al., 「Current Protocols in Molecular Biology」, John Wiley & Sons, New York, 1987及び定期的な最新版;Freshney, R.I., 「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」, 4th edition, John Wiley & Sons, Somerset, NJ, 2000;及び、the series 「Methods in Enzymology」, Academic Press, San Diego, CAを参照のこと。
【0010】
脈絡叢血管新生におけるリシルオキシダーゼ型酵素の役割
リシルオキシダーゼ(LOX)及びリシルオキシダーゼ様(LOXL)タンパク質は、細胞外間隙でのコラーゲンとエラスチンの架橋結合に関与する。この活性ゆえに、これらタンパク質は線維形成の過程に重要な役割を果たしうる。ここでは、特定のリシルオキシダーゼ型酵素の発現が加齢性黄斑変性(AMD)のモデル系におけるレーザー誘導性CNVの後に増加し、リシルオキシダーゼ発現の増加が線維形成損傷の観察と同時に起こることが示される(下記の実施例4及び5を参照のこと)。加えて、リシルオキシダーゼ(LOX)及びリシルオキシダーゼ様タンパク質2(LOXL2)の活性の阻害因子(例えば抗LOX及び抗LOXL2抗体)による被検体の処置が、同じ系におけるレーザー誘導性のCNV後の血管新生及び線維形成を妨げることがここで示される。したがって、リシルオキシダーゼ型酵素(例えばLOX、LOXL2)の活性の阻害は、CNVから生じる眼への線維形成性損傷を逆行させる、緩和する及び/又は予防するために用いられうる。
【0011】
ゆえに、一態様では、本明細書に記載の一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素の活性を調節する組成物が、血管新生の特徴を有する状態の治療に用いられる。血管新生の特徴を有する状態の非限定的な例は加齢性黄斑変性(AMD)である。他の状態には、糖尿病性網膜症及び未熟児の網膜症が含まれる。
ある実施態様では、リシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子は、リシルオキシダーゼ様タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害する抗体、小RNA分子、リボザイム、三重形成核酸又は転写因子であってもよい。様々なタイプのリシルオキシダーゼ阻害因子の開示について、例として米国公開特許2006/0127402、米国公開特許2007/0225242及び共同出願した米国公開特許2009/0053224を参照が参照され、これらすべては出典明記によって援用される。また、リシルオキシダーゼ型酵素をコードする遺伝子の発現を阻害する転写因子の製造方法の開示については、米国特許第6534261号を参照のこと。
【0012】
ある実施態様では、リシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子は、リシルオキシダーゼ型酵素に結合してその活性を阻害する抗体である。他の実施態様では、阻害は競合するものではない。リシルオキシダーゼ型酵素に結合する抗体の調製、組成物及び使用の開示については、一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素に結合してその活性を阻害する例示的な抗体は、共同出願した米国公開特許2009/0053224に開示されており、この開示内容は出典明記によって本明細書中に援用される。
ある実施態様では、抗体又は機能的抗体断片をコードする核酸が、リシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子として用いられる。このような核酸は、当分野で公知の任意の方法によって投与されてよい。例えば、ネイキッド核酸は、場合によってバッファ又は薬学的担体溶液に含められ、眼に注射されてもよいし、点眼のための溶液として調製されても、全身投与されてもよい。あるいは、核酸は、ウイルスベクター(例えばアデノウイルス、アデノ関連ウイルス又はレンチウイルスベクター)にキャプシド形成されてよい。
【0013】
リシル型酵素
ここで使用する「リシルオキシダーゼ型酵素」なる用語は、リジンとヒドロキシリシン残基のε−アミノ基の酸化的脱アミノを触媒し、その結果ペプチジルリジンのペプチジル-α-アミノアピジン-δ-セミアルデヒド(アリシン)への変換及びアンモニアと過酸化水素の化学上の量の放出を起こす、タンパク質のファミリのメンバーを指す。
【化1】

【0014】
この反応は、コラーゲン及びエラスチンのリジン残基上で細胞外的に起こることが多い。アリシンのアルデヒド残基は反応性であり、他のアリシン及びリジン残基と自然に凝縮し、その結果コラーゲン分子が架橋してコラーゲン線維が形成されうる。
リシルオキシダーゼ型酵素は、ニワトリ、ラット、マウス、ウシ及びヒトから精製された。すべてのリシルオキシダーゼ型酵素は、タンパク質のカルボキシ終末部分に位置する、およそ205アミノ酸長の、酵素の活性部位を含有する、共通の触媒ドメインを含む。活性部位は、Cu(II)原子を配位する4つのヒスチジン残基を含有する保存されたアミノ酸配列を含む銅結合部位を含有する。また、活性部位は、リジン残基とチロシン残基(ラットのリシルオキシダーゼのlys314とtyr349に、そして、ヒトのリシルオキシダーゼのlys320及びtyr355に対応する)との間の分子内共有結合により形成されるリシルチロシルキノン(LTQ)補助因子を含有する。また、LTQ補助因子を形成するチロシン残基を囲む配列はリシルオキシダーゼ型酵素間で保存されている。触媒ドメインも10の保存されたシステイン残基を含有しており、このシステイン残基は5つのジスルフィド結合の形成に関与する。また、触媒ドメインはフィブロネクチン結合ドメインを含む。最後に、4つのシステイン残基を含有する、増殖因子及びサイトカインレセプタードメインに類似するアミノ酸配列は、触媒ドメインに存在する。
【0015】
単離され特徴が示された酵素のこのファミリの第一メンバーは、リシルオキシダーゼであり(EC 1.4.3.13)、これはプロテイン-リジン6-オキシダーゼ、プロテイン-L-リジン:酸素6-オキシドリダクターゼ(脱アミノ化している)又はLOXとしても知られている。例として、Harris et al., Biochim. Biophys. Acta 341:332- 344 (1974);Rayton et al, J. Biol. Chem. 254:621-626 (1979);Stassen, Biophys. Acta 438:49-60 (1976)を参照のこと。
【0016】
その他のリシルオキシダーゼ型酵素がその後発見された。これらのタンパク質は「LOX様」又は「LOXL」とも称されていた。これらすべては、前記の共通の触媒ドメインを含み、類似の酵素活性を有する。現在、LOX及び4つのLOX関連又はLOX様タンパク質であるLOXL1(「リシルオキシダーゼ様」、「LOXL」又は「LOL」とも表される)、LOXL2(「LOR−1」とも表される)、LOXL3及びLOXL4といった、5つの異なるリシルオキシダーゼ型酵素が、ヒト及びマウスに存在することが知られている。リシルオキシダーゼ型酵素のそれぞれをコードする5つの遺伝子はそれぞれ異なる染色体に存在する。例として、Molnar et al, Biochim Biophys Acta. 1647:220-24 (2003);Csiszar, Prog. Nucl. Acid Res. 70: 1-32 (2001);2001年11月8日に公開の国際公開01/83702、及び米国特許第6300092号を参照のこと。これらすべては出典明記によってここに援用される。LOXCと呼ばれるLOX様タンパク質は、LOXL4に対していくらか類似性を有するが異なる発現パターンを有しており、マウスのEC細胞株から単離された。Ito et al. (2001) J. Biol. Chem. 276:24023-24029。2つのリシルオキシダーゼ型酵素であるDmLOXL−1及びDmLOXL−2は、ショウジョウバエから単離された。
【0017】
すべてのリシルオキシダーゼ型酵素が共通の触媒ドメインを共有しているが、これらは互いに特にアミノ末端基領域内が異なってもいる。LOXと比較して、4つのLOXLタンパク質はアミノ末端伸展を有する。ゆえに、ヒトのプレプロLOX(すなわち、シグナル配列切断前の一次翻訳産物(以下を参照))は、417のアミノ酸残基を含有しており、LOXL1は574を含有し、LOXL2は638を含有し、LOXL3は753を含有し、LOXL4は756を含有する。
LOXL2、LOXL3及びLOXL4は、そのアミノ末端基領域内に、スカベンジャーレセプターシステインリッチ(SRCR)ドメインの4つの繰り返しを含有する。これらのドメインはLOX又はLOXL1に存在しない。SRCRドメインは、分泌、膜貫通、又は細胞外基質のタンパク質に見られ、多くの分泌及びレセプターのタンパク質のリガンド結合を媒介することが知られている。Hoheneste et al. (1999) Nat. Struct. Biol. 6:228-232;Sasaki et al (1998) EMBO J. 17:1606-1613。そのSRCRドメインに加えて、LOXL3は、そのアミノ末端基領域に核移行シグナルを含有する。プロリンリッチドメインはLOXL1に特有であるようである。Molnar et al. (2003) Biochim. Biophys. Acta 1647:220-224。また、様々なリシルオキシダーゼ酵素はそのグリコシル化パターンが異なる。
【0018】
また、組織分布は、リシルオキシダーゼ型酵素間で異なる。ヒトのLOX mRNAは、心臓、胎盤、精巣、肺、腎臓及び子宮において高く発現しているが、脳及び肝臓では発現がわずかである。ヒトLOXL1のmRNAは、胎盤、腎臓、筋肉、心臓、肺及び膵臓において発現され、LOXと同様に、脳及び肝臓では発現がより低いレベルである。Kim et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:7176-7182。LOXL2 mRNAは、子宮、胎盤及び他の器官において高いレベルで発現されるが、LOX及びLOXLと同様に、脳及び肝臓では低いレベルで発現する。Jourdan Le-Saux et al.(1999) J. Biol. Chem. 274:12939:12944。LOXL3 mRNAは、精巣、脾臓及び前立腺において高く発現され、胎盤では中程度に発現され、肝臓では発現されない一方で、高いレベルのLOXL4 mRNAが肝臓において観察される。Huang et al. (2001) Matrix Biol. 20:153-157;Maki and Kivirikko (2001) Biochem. J. 355:381-387;Jourdan Le-Saux et al. (2001) Genomics 74:211- 218;Asuncion et al. (2001) Matrix Biol. 20:487-491。
【0019】
また、異なるリシルオキシダーゼ型酵素の発現及び/又は関与は、疾患において変わりうる。例として、Kagen (1994) Pathol. Res. Pract. 190:910-919;Murawaki et al. (1991) Hepatology 14:1167-1173;Siegel et al. (1978) Proc. Natl. Acad. ScL USA 75:2945-2949;Jourdan Le-Saux et al. (1994) Biochem. Biophys. Res. Comm. 199:587-592;及び、Kim et al. (1999) J. Cell Biochem. 72:181-188を参照のこと。また、リシルオキシダーゼ型酵素は、頭頸部癌、膀胱癌、大腸癌、食道癌及び乳癌を含む多くの癌に関係していた。例として、Wu et al. (2007) Cancer Res. 67: 4123- 4129参照;Gorough et al. (2007) J. Pathol. 212:74-82;Csiszar (2001) Prog. Nucl. Acid Res. 70: 1-32及びKirschmann et al. (2002) Cancer Res. 62: 4478-4483を参照のこと。
ゆえに、リシルオキシダーゼ型酵素は構造及び機能においていくらかオーバーラップを示すが、それぞれは同様に異なる構造及び機能を有するようである。例えば、標的としたLOXの欠失はマウスの出生時には致死的であるようであるのに対して、LOXL1欠損は重篤な発達上の表現型が生じない。Hornstra et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:14387- 14393;Bronson et al. (2005) Neurosci. Lett. 390:118-122。
【0020】
リシルオキシダーゼ型酵素の最も広く報告された活性は、細胞外のコラーゲン及びエラスチン内の特定のリジン残基の酸化であるが、リシルオキシダーゼ型酵素は多くの細胞プロセスにも関与するという所見がある。例えば、いくつかのリシルオキシダーゼ型酵素が遺伝子発現を制御するという報告がある。Li et al. (1997) Proc. Natl. Acad. ScL USA 94:12817-12822;Giampuzzi et al. (2000) J. Biol. Chem. 275:36341-36349。さらに、LOXは、ヒストンH1のリジン残基を酸化することが報告された。LOXの他の細胞外活性には、単球、線維芽細胞及び平滑筋細胞の走化性の誘導が含まれる。Lazarus et al. (1995) Matrix Biol. 14:727-731;Nelson et al. (1988) Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 188: 346-352。LOX自体の発現は、多くの増殖因子及びステロイド、例えばTGF−β、TNF−α及びインターフェロンによって誘導される。Csiszar (2001) Prog. Nucl. Acid Res. 70: 1-32。最近の研究では、他の役割が、主に発達上の調節、腫瘍抑制、細胞運動性及び細胞老化といった多様な生物学的機能でのLOXに起因するとした。
【0021】
様々な供与源からのリシルオキシダーゼ型タンパク質の例には、以下の配列のうちの1つから発現又は翻訳されたポリペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有する酵素が含まれる。EMBL/GenBank受託番号:M94054;AAA59525.1−mRNA;S45875;AAB23549.1−mRNA;S78694;AAB21243.1−mRNA;AF039291;AAD02130.1−mRNA;BC074820;AAH74820.1−mRNA;BC074872;AAH74872.1−mRNA;M84150;AAA59541.1−ゲノムDNA。LOXの一実施態様は、ヒトのリシルオキシダーゼ(hLOX)プレプロプロテインである。
リシルオキシダーゼ様酵素をコードする配列の例示的な開示内容は、以下の通りである。LOXL1は、GenBank/EMBL BC015090;AAH15090.1で寄託されたmRNAによってコードされ、LOXL2は、GenBank/EMBL U89942で寄託されたmRNAによってコードされ、LOXL3は、GenBank/EMBL AF282619;AAK51671.1で寄託されたmRNAによってコードされ、そして、LOXL4は、GenBank/EMBL AF338441;AAK71934.1で寄託されたmRNAによってコードされる。
【0022】
プレプロペプチドとして知られるLOXタンパク質の一次翻訳産物は、アミノ酸1−21から伸展するシグナル配列を含有する。このシグナル配列は、マウス及びヒトの両LOXでは、Cys21とAla22との間の切断によって細胞内に放出され、ここでは完全長型とも称されるLOXの46−48kDaのプロペプチド型を生成する。プロペプチドは、ゴルジ体を通過する間にNグリコシル化され、50kDaのタンパク質を産生し、その後細胞外環境に分泌される。この段階では、タンパク質は触媒的に不活性である。マウスLOXのGly168とAsp169との間、及びヒトLOXのGly174とAsp175との間の更なる切断により、成熟した、触媒的に活性な、18kDaのプロペプチドを放出する30−32kDAの酵素を生成する。この最終的な切断現象は、骨形成タンパク質−1(BMP−1)としても知られるメタロエンドプロテアーゼプロコラーゲンC−プロテナーゼに触媒される。興味深いことに、この酵素は、LOXの基質(コラーゲン)のプロセシングにおいても機能する。N−グリコシル単位はその後取り除かれる。
【0023】
潜在的なシグナルペプチド切断部位は、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4のアミノ末端に予測された。予測されたシグナル切断部位は、LOXLではGly25とGln26との間、LOXL2ではAla25とGln26との間に、LOXL3ではGly25とSer26との間、そして、LOXL4ではArg23とPro24との間である。
LOXL(LOXL1)タンパク質のBMP−1切断部位は、Ser354とAsp355との間に同定された。Borel et al. (2001) J. Biol. ChCm.276: 48944-48949。Ala/Gly−Asp配列にあり、時に酸性又は荷電の残基がその後に続くプロコラーゲン及びプロLOX内のBMP−1切断のためのコンセンサス配列に基づいて、他のリシルオキシダーゼ型酵素内の潜在的なBMP−1切断部位が予測された。LOXL3内の予測されたBMP−1切断部位はGly447とAsp448の間に位置し、この部位でのプロセシングにより、成熟したLOXに類似するサイズの成熟したペプチドが生じうる。BMP−1のための潜在的な切断部位は、LOXL4内の残基Ala569とAsp570との間に同定された。Kim et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:52071-52074。また、LOXL2は、LOXLファミリの他のメンバーに類似してタンパク質分解されて切断され、分泌されてよい。Akiri et al.(2003) Cancer Res. 63: 1657-1666。
【0024】
本開示の目的のためには、「リシルオキシダーゼ型酵素」なる用語は、上述のリジン酸化酵素の5つすべてを包含し、更に実質的に酵素活性を保持するLOX、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4の機能的断片及び/又は誘導体も包含する。この酵素活性は、例えばリシル残基の脱アミノ触媒能である。一般的に、機能的断片又は誘導体はそのリジン酸化活性の少なくとも50%を保持する。いくつかの実施態様では、機能的断片又は誘導体は、そのリジン酸化活性の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%又は100%を保持する。
【0025】
また、リシルオキシダーゼ型酵素の機能的断片は、触媒活性を実質的に変えない保存的アミノ酸置換(天然のポリペプチド配列に関して)を含んでよいことも意味する。「保存的アミノ酸置換」なる用語は、特定の共通する構造及び/又は性質に基づいたアミノ酸のグループ化を指す。共通の構造に関して、アミノ酸は、無極性側鎖を有するもの(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン及びトリプトファン)、無電荷極性側鎖を有するもの(セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン及びシステイン)、及び荷電極性側鎖を有するもの(リジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びヒスチジン)に分類されてよい。芳香族側鎖を含有するアミノ酸のグループには、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが含まれる。複素環式側鎖は、プロリン、トリプトファン及びヒスチジンに存在する。非極性側鎖を含有するアミノ酸のグループのうち、短い炭化水素側鎖を有するもの(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン)は、より長い非炭化水素側鎖を有するもの(メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン)とは区別されうる。荷電極性側鎖を有するアミノ酸のグループのうち、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)は、塩基性側鎖を有するもの(リジン、アルギニン及びヒスチジン)と区別されうる。
【0026】
個々のアミノ酸の共通する性質を定める機能的方法は、相同な生物体の対応するタンパク質間でのアミノ酸変化の規準化した頻度を分析することである(Schulz, G. E. and R. H. Schirmer, Principles of Protein Structure, Springer- Verlag, 1979)。このような分析により、グループ内のアミノ酸が相同タンパク質において互いに優先して置換されるために、タンパク質構造全体に同様な影響を有するアミノ酸のグループ群が定められる(上掲のSchulz & Schirmer)。この種の分析により、互いに保存的に置換されうる以下のアミノ酸のグループ群が同定されうる。
(i)Glu、Asp、Lys、Arg及びHisからなる、荷電基を含有するアミノ酸、
(ii)Lys、Arg及びHisからなる、陽性荷電基を含有するアミノ酸、
(iii)Glu及びAspからなる、陰性荷電基を含有するアミノ酸、
(iv)Phe、Tyr及びTrpからなる、芳香族基を含有するアミノ酸、
(v)His及びTrpからなる、窒素環を含有するアミノ酸、
(vi)Val、Leu及びIleからなる、大きな脂肪族非極性基を含有するアミノ酸、
(vii)Met及びCysからなる、微極性基を含有するアミノ酸、
(viii)Ser、Thr、Asp、Asn、Gly、Ala、Glu、Gln及びProからなる、小さい残基の基を含有するアミノ酸、
(ix)Val、Leu、Ile、Met及びCysからなる、脂肪族基を含有するアミノ酸、そして、
(x)Ser及びThrからなる、水酸基を含有するアミノ酸。
【0027】
ゆえに、先に例証したように、アミノ酸の保存的置換は当業者に公知であり、一般的に結果として生じる分子の生物活性を変えずに作製されうる。また当業者には、通常、ポリペプチドの非必須領域内の単一のアミノ酸置換が実質的に生物学的活性を変更しないことが理解される。例として、Watson, et al., "Molecular Biology of the Gene," 4th Edition, 1987, The Benjamin/Cummings Pub. Co., Menlo Park, CA, p. 224を参照のこと。
リシルオキシダーゼ型酵素に関する更なる情報については、例としてRucker et al., Am. J. Clin. Nutr. 67:996S-1002S (1998)及びKagan et al, J. Cell. Biochem 88:660-672 (2003)を参照のこと。また、共同出願した米国公開特許2009/0053224(2009年2月26日)及び米国公開特許2009/0104201(2009年4月23日)を参照のこと。これらの開示内容は出典明記によって本明細書中に援用される。
【0028】
リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子
リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子には、活性化因子(アゴニスト)及び阻害因子(アンタゴニスト)が含まれ、様々なスクリーニングアッセイを用いて選択されうる。一実施態様では、修飾因子は、試験化合物がリシルオキシダーゼ型酵素に結合するか否かを決定することによって同定され、このとき、結合が生じれば、化合物は候補修飾因子である。場合によって、このような候補修飾因子に更なる試験を実施してよい。あるいは、候補化合物をリシルオキシダーゼ型酵素と接触させ、リシルオキシダーゼ型酵素の生物活性をアッセイし、リシルオキシダーゼ型酵素の生物活性を変更する化合物は、リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子である。一般に、リシルオキシダーゼ型酵素の生物活性を低減する化合物は、酵素の阻害因子である。ある実施態様では、生物活性は脱アミノ化であり、更なる実施態様では、それは過酸化物産生である。
【0029】
リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子を同定するための方法には、一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素を含有する細胞培養物において候補化合物を培養することと、一又は複数の生物活性又は細胞の特徴をアッセイすることを含む。培養物における生物活性又は細胞の特徴を変更する化合物は、リシルオキシダーゼ型酵素の潜在的な修飾因子である。アッセイされうる生物活性には、例えば、リシルオキシダーゼ酵素活性(例えば、脱アミノ化、過酸化物産生)、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル、一又は複数のリシルオキシダーゼ型酵素をコードするmRNAのレベル、及び/又はリシルオキシダーゼ型酵素に特異的な一又は複数の機能が含まれる。上述したアッセイの他の実施態様では、候補化合物との接触がない場合に、一又は複数の生物活性又は細胞の特徴は、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル又は活性と相関する。例えば、生物活性は、移動、走化性、上皮から間葉への変化又は間葉から上皮への変化などの細胞性機能、及び変化は、一又は複数のコントロール又は比較試料(一又は複数)との比較によって検出される。例えば、ネガティブコントロール試料には、候補化合物が加えられるリシルオキシダーゼ型酵素のレベル又は活性が減少した培養物、又は、試験培養物と同じ量のリシルオキシダーゼ型酵素活性を有するが候補化合物が添加されていない培養物が含まれうる。いくつかの実施態様では、異なるレベルのリシルオキシダーゼ型酵素を含有する別々の培養物を、候補化合物と接触させる。生物活性の変化が観察される場合、そして、高いレベルのリシルオキシダーゼ型酵素又はその活性を有する培養物において変化が大きい場合、化合物はリシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子と同定される。化合物がリシルオキシダーゼ型酵素の活性化因子又は阻害因子であるか否かの決定は、化合物によって誘導される表現型から明らかとなってもよいし、リシルオキシダーゼ酵素活性に対する化合物の効果の試験といった更なるアッセイを必要としてもよい。
【0030】
生化学又は組換えのいずれかでリシルオキシダーゼ型酵素を得るための方法、並びに上記のリシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子を同定するための細胞培養及び酵素アッセイのための方法は当分野で公知である。
リシルオキシダーゼ型酵素の酵素活性は、多くの異なる方法によってアッセイされうる。例えば、酵素活性は、過酸化水素、アンモニウムイオン、及び/又はアルデヒドの検出及び/又は産生の定量化によって、リジン酸化及び/又はコラーゲン架橋をアッセイすることによって、又は、細胞浸潤能、細胞接着、細胞増殖又は転移の増殖を測定することによって評価されてよい。例として、Trackman et al. (1981) Anal. Biochem. 113:336-342;Kagan et al. (1982) Meth. Enzymol. 82A: 637-649;Palamakumbura et al. (2002) Anal. Biochem. 300:245-251;Albini et al. (1987) Cancer Res. 47: 3239-3245;Kamath et al. (2001) Cancer Res. 61: 5933-5940;米国特許第4997854号及び米国公開特許2004/0248871を参照のこと。
【0031】
試験化合物には、例えば、小有機化合物(例えばおよそ50からおよそ2500Daの分子量を有する有機分子)、核酸及びタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。化合物又は複数の化合物は、化学的に合成されても微生物に産生させてもよいし、例えば植物、動物又は微生物由来の細胞抽出物といった試料に含まれうる。さらに、化合物(一又は複数)は当分野で公知であるが、リシルオキシダーゼ型酵素を調節することができることは知られていない。リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子についてアッセイするための反応混合物は、無細胞抽出物であってもよいし、細胞培養物又は組織培養物を含んでもよい。複数の化合物は、例えば、反応混合物に加えられてもよいし、培養物に加えられてもよいし、細胞に注入されてもよいし、トランスジェニック動物に投与されてもよい。アッセイに使用される細胞又は組織は、例えば、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、脊椎動物の細胞、哺乳動物の細胞、霊長類細胞、ヒト細胞であってもよいし、又は非ヒトトランスジェニック動物を含むか又はこれから得られうる。
【0032】
リシルオキシダーゼ型酵素などの標的に特異的な親和性を有する化合物を同定するための、大きなライブラリの産生及びスクリーニングのためのさまざまな方法が当業者に公知である。これらの方法には、ランダム化されたペプチドがファージから表出され、固定されたレセプターを用いた親和性クロマトグラフィによってスクリーニングされるファージ-ディスプレイ方法が含まれる。例として、国際公開91/17271、国際公開92/01047及び米国特許第5223409号を参照のこと。他の手法では、固形支持体(例えば「チップ」)に固定したポリマーの組合せのライブラリは、フォトリソグラフィを使用して合成される。例として、米国特許第5143854号、国際公開90/15070及び国際公開92/10092参照。固定したポリマーは標識したレセプター(例えばリシルオキシダーゼ型酵素)と接触させ、支持体をスキャンして標識の位置を決定し、これによって、レセプターへのポリマー結合を同定する。
【0033】
対象のポリペプチド(例えばリシルオキシダーゼ型酵素)の結合リガンドを同定するために用いられうる連続的なセルロース膜支持体上のペプチドライブラリーの合成及びスクリーニングは、例えば、Kramer (1998) Methods MoI. Biol. 87: 25-39に記述される。このようなアッセイによって同定されたリガンドは、対象のタンパク質の候補修飾因子であって、さらなる試験のために選択されてよい。また、この方法は、例えば、対象のタンパク質における結合部位及び認識モチーフを決定するために用いられてよい。例として、Rudiger (1997) EMBO J. 16:1501-1507及びWeiergraber (1996) FEBS Lett. 379:122-126を参照のこと。
【0034】
WO98/25146は、所望の性質、例えばポリペプチド又はその細胞レセプターを刺激、結合又は拮抗する能力を有する化合物のための複合体のライブラリをスクリーニングするための更なる方法を記述する。このようなライブラリ中の複合体は、試験下に化合物、化合物の合成の少なくとも一の工程を記録するタグ、及びリポーター分子による修飾に影響されやすい係留を含む。係留の修飾は、複合体が所望の性質を有する化合物を含有することを示すために用いられる。タグは、このような化合物の合成の少なくとも一の工程を示すために解読されてよい。リシルオキシダーゼ型酵素と相互作用する化合物を同定するための他の方法は、例えば、ファージディスプレイシステムを有するインビトロスクリーニング、濾過結合アッセイ、及びBIAcore装置(ファルマシア)などを使用した相互作用を測定する「リアルタイム」である。
【0035】
これらすべての方法は、リシルオキシダーゼ型酵素又は関連したポリペプチドの活性化因子/アゴニスト及び阻害因子/アンタゴニストを同定するために、本開示内容に従って用いられてよい。
リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子の合成に対する他の手法は、ペプチドの模倣類似体を使用することである。模倣ペプチド類似体は、例えば、立体異性体、すなわちD−アミノ酸を天然に生じるアミノ酸と置換することによって生成されうる。例としてTsukida (1997) J. Med. Chem. 40:3534-3541を参照。さらに、元のポリペプチドの一部の除去により失われうる立体配置的性質を復旧するために、プロ模倣構成成分がペプチドに組み込まれてよい。例としてNachman (1995) Regul. Pept. 57:359-370を参照。
【0036】
ペプチド模倣体を構築するための他の方法は、アキラルO−アミノ酸残基をペプチドに組み込み、この結果、脂肪族鎖のポリメチレン単位によるアミド結合の置換を生じさせることである。Banerjee (1996) Biopolymers 39:769-777。他のシステムにおける小ペプチドホルモンの活性過多なペプチド模倣類似体は記述されている。Zhang (1996) Biochem. Biophys. Res. Commun. 224:327-331。
【0037】
また、リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子のペプチド類似体は、連続したアミドアルキル化によるペプチド模倣体の組合せライブラリの合成の後に、例えば、それらの結合及び免疫学的性質について生成した化合物を試験することによって同定されうる。ペプチド模倣体組合せライブラリの生成及び使用のための方法は記述されている。例としてOstresh, (1996) Methods in Enzymology 267:220-234及びDorner (1996) Bioorg. Med. Chem. 4:709-715を参照。さらに、一又は複数のリシルオキシダーゼ酵素の三次元及び/又は結晶構造は、リシルオキシダーゼ活性のペプチド模倣阻害因子の設計のために使われうる。Rose (1996) Biochemistry 35:12933-12944;Rutenber (1996) Bioorg. Med. Chem. 4:1545-1558。
【0038】
天然の生物学的ポリペプチドの活性を模倣する低分子量合成分子の構造に基づく設計及び合成は、例としてDowd (1998) Nature Biotechnol. 16:190-195;Kieber-Emmons (1997) Current Opinion Biotechnol. 8:435-441;Moore (1997) Proc. West Pharmacol. Soc. 40: 115-119;Mathews (1997) Proc. West Pharmacol. Soc. 40: 121-125;及び、Mukhija (1998) European J. Biochem. 254:433-438に更に記載されている。
また、例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の基質又はリガンドとして作用しうる小有機化合物の模倣体を設計、合成、及び評価することができることは当業者に周知である。例えば、ハパロシンのD−グルコース模倣体が、細胞毒性において多薬剤耐性支援結合タンパク質を拮抗する際のハパロシンとして類似の効率を表したことが記述されている。Dinh (1998) J. Med. Chem. 41:981-987。
【0039】
リシルオキシダーゼ型酵素の構造は、修飾因子、例えば小分子、ペプチド、ペプチド模倣体及び抗体の選別を導くために調査されてよい。リシルオキシダーゼ型酵素の構造特性は、リシルオキシダーゼ型酵素のリガンド、基質、結合パートナー又はレセプターに結合するか又はそれとして機能する天然ないし合成分子を同定するのに役立ちうる。例としてEngleman (1997) J. Clin. Invest. 99:2284- 2292を参照。例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の構造的モチーフの折り畳みシミュレーション及びコンピュータ再設計は、適切なコンピュータプログラムを使用して実行されてよい。Olszewski (1996) Proteins 25:286-299;Hoffman (1995) Comput. Appl. Biosci. 11:675-679。タンパク質折り畳みのコンピュータモデリングは、詳細なペプチド及びタンパク質構造の立体配置的かつエネルギー的な分析のために使われてよい。Monge (1995) J. MoI. Biol. 247:995-1012;Renouf (1995) Adv. Exp. Med. Biol. 376:37-45。相補的ペプチド配列のためのコンピュータ支援検索を用いた、リガンド及び結合パートナーと相互作用する、リシルオキシダーゼ型酵素上の、部位を同定するために、適切なプログラムが使用されてよい。Fassina (1994) Immunomethods 5:114- 120。タンパク質及びペプチドの設計のための他のシステムは、例としてBerry (1994) Biochem. Soc. Trans. 22:1033-1036;Wodak (1987), Ann. N.Y. Acad. ScL 501:1- 13;及び、Pabo (1986) Biochemistry 25:5987-5991に記載されている。上記の構造的分析から得られる結果は、例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子として機能する有機分子、ペプチド及びペプチド模倣体の調製のために使われてよい。
【0040】
リシルオキシダーゼ酵素型酵素の阻害因子は、競合阻害因子、非競合阻害因子、混合阻害因子又は非競合阻害因子であってよい。競合阻害因子は、基質に構造的類似性を持ち、通常活性部位に結合し、より低い基質濃度で有効であることが多い。見かけのKは、競合阻害因子の存在下で増加する。非競争阻害因子は、一般に、酵素−基質複合体、又は、基質が活性部位で結合した後に利用可能になる部位に結合し、活性部位を歪めてよい。見かけのK及びVmaxは非競争阻害因子の存在下で減少し、基質濃度は阻害にほとんど又はまったく影響を及ぼさない。混合阻害因子は、遊離酵素及び酵素−基質複合体の両方に結合することができ、これによって基質結合と触媒活性に作用する。非競合的阻害は、阻害因子が酵素及び酵素−基質複合体を等しい結合活性で結合する混合阻害の特別な例であり、阻害は基質濃度に影響されない。非競合的阻害因子は一般に、活性部位の外の領域で酵素に結合する。酵素阻害に関する更なる詳細については、例として上掲のVoet et al. (2008)を参照のこと。
【0041】
抗体
ある実施態様では、リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子は、抗体である。更なる実施態様では、抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害因子である。
本明細書中で用いるように、「抗体」なる用語は、抗原エピトープを特異的に結合するペプチド配列(例えば、可変領域配列)を含む、単離したか又は組み換えたポリペプチド結合作用剤を意味する。この用語は広義の意味で用いられ、所望の生物活性を表す限り、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ナノボディ、ダイアボディ、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びscFv、Fab及びFab2を含むがこれらに限らない抗体断片を特別に包含する。「ヒト抗体」なる用語は、非ヒトとなりうるCDR領域を除いて、ヒト起源の配列を含有してなる抗体を指すが、完全な構造の免疫グロブリン分子が存在することを表すのではなく、抗体はヒトにおいてごくわずかな免疫原性作用を有することを表す(すなわち、それ自体に抗体の産生を誘導しない)。
【0042】
「抗体断片」は、完全長抗体の一部、例えば完全長抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab')、及びFv断片;ダイアボディ(diabodies);直鎖状抗体(Zapata et al. (1995) Protein Eng. 8(10): 1057-1062);単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片であってそれぞれ単一の抗原結合部位を有するものと、容易に結晶化する能力を反映して命名された残りの「Fc」断片を産生する。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、抗原を架橋結合することが依然として可能である1つのF(ab’)断片が生じる。
【0043】
「Fv」は、完全な抗原-認識及び-結合部位を含む最小の抗体断片である。この領域は、密接に非共有結合した1本の重鎖と1本の軽鎖の可変ドメインの二量体からなる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、V−V二量体の表面上の抗原結合部位を定めるこの配位にある。あわせて、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な6つのうち3つのCDRのみを含んでなる単離されたV又はV領域)でさえ、Fv断片全体よりは低い親和性であるが、抗原を認識し結合する能力を持つ。
また、「Fab」断片は、重鎖及び軽鎖の可変領域に加えて、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常ドメイン(CH)を含有する。Fab断片は、本来、抗体のパパイン消化後に観察された。F(ab')断片が抗体ヒンジ領域から一又は複数のシステインを含む重鎖CHドメインのカルボキシ末端にいくつかの更なる残基を含有する点で、Fab'断片はFab断片と異なる。F(ab')断片は、ヒンジ領域の近くで、ジスルフィド結合により連結した2つのFab断片を含有し、本来、抗体のペプシン消化後に観察された。Fab'-SHは、本明細書では、定常ドメインのシステイン残基(一又は複数)が遊離チオール基を持っているFab'断片の名称である。抗体断片の他の化学共役も公知である。
【0044】
任意の脊椎動物種からの抗体(イムノグロブリン)の「軽鎖」には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に区別される型の一つが割り当てられる。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、イムノグロブリンは5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMに分かれ、更にそれらは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2等のサブクラス(イソ型)に分かれる。
「単鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のV及びVドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。いくつかの実施態様では、FvポリペプチドはVとVドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含み、それはsFvが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にする。sFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthunを参照のこと。
【0045】
「ダイアボディ」なる用語は、2つの抗原結合部位を持つ小さい抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(V−V)内で軽鎖可変ドメイン(V)に重鎖可変ドメイン(V)が結合してなる。非常に短いために同一鎖上で2つのドメインの対形成が可能であるリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、2つの抗原結合部位を造り出す。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404097号;国際公報93/11161;及びHollinger et al. (1993) Proc.Natl.Acad.Sci. USA 90:6444-6448に更に詳細に記載されている。
【0046】
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の成分には、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。いくつかの実施態様では、単離された抗体は、(1)ローリー法によって定量して95重量%以上の、例えば99重量%以上の抗体まで、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、N末端あるいは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、あるいは(3)クーマシーブルーあるいは銀染色による検出により、還元又は非還元条件下でのゲル電気泳動法(例えばSDS−PAGE)による均一性まで精製される。「単離した抗体」なる用語には、抗体の自然環境の少なくとも一の構成成分が存在しないので、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。ある実施態様では、単離した抗体は、少なくとも一つの精製工程によって調製される。
【0047】
いくつかの実施態様では、抗体はヒト化抗体又はヒト抗体である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、マウス、ラット又はウサギのような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。ゆえに、非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化型は、非ヒト免疫グロブリン由来のごく小さい配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。非ヒト配列は、主に可変領域に、特に相補性決定領域(CDR)に位置する。いくつかの実施態様では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。また、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入したCDRないしはフレームワーク配列にも見られない残基を含んでいてもよい。ある実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも一、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、このすべて又は実質的にすべてのCDRは非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、すべて又は実質的にすべてのフレームワーク領域はヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。本開示のために、ヒト化抗体は、免疫グロブリン断片、例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')又は抗体の他の抗原結合配列も包含する。
また、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、一般的にヒト免疫グロブリンのものを含みうる。例として、Jones et al. (1986) Nature 321:522-525;Riechmann et al. (1988) Nature 332:323-329;及び、Presta (1992) Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596を参照。
【0048】
非ヒト抗体をヒト化する方法は当分野で公知である。一般に、ヒト化抗体は、一又は複数のアミノ酸残基が、非ヒトである供与源から導入されている。これらの非ヒトアミノ酸残基は「移入」又は「ドナー」残基と称されることが多く、それは一般的に「移入」又は「ドナー」の可変ドメインから得られる。例えば、齧歯目の一又は複数のCDR配列をヒト抗体の対応する配列と置換することによって、ヒト化は、基本的にはウィンターとその共同研究者の方法に従って実行されてよい。例えば上掲のJones et al.;上掲のRiechmann et al.,及びVerhoeyen et al. (1988) Science 239:1534-1536を参照。したがって、このような「ヒト化」抗体には、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されているキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。ある実施形態では、ヒト化抗体は、いくつかのCDR残基及び場合によっていくつかのフレームワーク領域残基が齧歯目の抗体(例えばネズミ科モノクローナル抗体)の類似した部位の残基によって置換されているヒト抗体である。
【0049】
ヒト抗体は、また、例えば、ファージディスプレイライブラリを用いて生産されてもよい。Hoogenboom et al. (1991) J. MoI. Biol, 227:381;Marks et al. (1991) J. MoI. Biol. 222:581。ヒトモノクローナル抗体を調製する他の方法は、Cole et al. (1985) "Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy," Alan R. Liss, p. 77及びBoerner et al. (1991) J. Immunol. 147:86-95に記述される。
ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的に又は完全に不活性化されているトランスジェニック動物(例えばマウス)に導入することによって作製されうる。免疫学的抗原投与により、ヒトの抗体産生が観察され、それは遺伝子再構成、アセンブリ及び抗体レパートリを含むあらゆる点でヒトに見られるものに非常に類似している。この手法は、例えば、米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;同第5661016号、及び、以下の科学文献:Marks et al. (1992) Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonberg et al. (1994) Nature 368: 856-859;Morrison (1994) Nature 368:812-813;Fishwald et al. (1996) Nature Biotechnology 14:845-851;Neuberger (1996) Nature Biotechnology 14:826;Lonberg et al. (1995) Intern. Rev. Immunol. 13:65-93に記載されている。
【0050】
抗体は、上記の公知の選別及び/又は突然変異誘発方法を使用して親和性成熟されてよい。いくつかの実施態様では、親和性成熟された抗体は、成熟された抗体が調製される開始抗体(一般にマウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、ヒト化又はヒト)の親和性の、5倍以上、10倍以上、20倍以上又は30倍以上である親和性を有する。
また、抗体は二重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する、モノクローナル抗体であっても、ヒト抗体でも、ヒト化抗体であってもよい。この場合、2つの異なる結合特異性は、2つの異なるリシルオキシダーゼ型酵素、又は、単一のリシルオキシダーゼ型酵素上の2つの異なるエピトープに対するものであってよい。
また、ここで開示する抗体はイムノコンジュゲートであってもよい。このようなイムノコンジュゲートは、レポーターのような第二の分子にコンジュゲートした抗体(例えばリシルオキシダーゼ型酵素に対する)を含む。また、イムノコンジュゲートは、化学療法剤のような細胞障害性剤、毒素(例えば細菌、真菌、植物又は動物起源の酵素活性のある毒素ないしその断片)、又は放射性同位体(すなわちラジオコンジュゲート)にコンジュゲートした抗体を含みうる。
【0051】
特定のポリペプチド又は特定のポリペプチド上のエピトープ「に特異的に結合する」又は「に特異的である」抗体は、特定のポリペプチド又はエピトープに結合するが、他の任意のポリペプチド又はポリペプチドエピトープに実質的に結合しない抗体である。いくつかの実施態様では、本開示内容の抗体は、およそ4℃、25℃、37℃又は42℃の温度で測定したときに、100nM以下、場合によって10nM以下、場合によって1nM以下、場合によって0.5nM以下、場合によって0.1nM以下、場合によって0.01nM以下又は場合によって0.005nM以下の解離定数(K)で、抗体のモノクローナル抗体、scFv、Fabの形態又は他の形態で、その標的に特異的に結合する。
ある実施態様では、本開示の抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素の一又は複数のプロセシング部位(例えばタンパク分解性切断の部位)に結合し、それによって触媒活性のある酵素へのプロ酵素又はプレプロ酵素のプロセシングを効率よく阻害し、それによってリシルオキシダーゼ型酵素の活性を低減する。
【0052】
ある実施態様では、本開示内容による抗体は、他のリシルオキシダーゼ型酵素(例えばLOXL1、LOXL3及びLOXL4)に対する結合親和性の、例えば10倍、少なくとも100倍又はさらに少なくとも1000倍以上の大きな結合親和性で、ヒトLOX及び/又はヒトLOXL2に結合する。
場合によって、本開示内容による抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素と結合するだけでなくて、例えばインテグリンβ1又は他の細胞レセプターないしはタンパク質を介して、リシルオキシダーゼ型酵素の取り込み又は内部移行を低減するか阻害する。このような抗体は、例えば、細胞外基質タンパク質、細胞レセプター及び/又はインテグリンに結合しうる。
リシルオキシダーゼ型酵素を認識する例示的な抗体及び、リシルオキシダーゼ型酵素に対する抗体に関する更なる開示は、共同出願された米国公開特許2009/0053224(2009年2月26日)において提供され、その開示内容は出典明記によって援用される。
【0053】
リシルオキシダーゼ型酵素の発現を調節するためのポリヌクレオチド
アンチセンス
リシルオキシダーゼ型酵素の調節(一般に阻害)は、転写又は翻訳のレベルでリシルオキシダーゼ型酵素の発現を下方制御することでなされうる。調節のそのような方法には、リシルオキシダーゼ型酵素をコードするmRNA転写産物と配列特異的に結合することができるアンチセンスオリゴないしポリヌクレオチドの使用を伴う。
標的mRNA分子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(又はアンチセンスオリゴヌクレオチド類似体)の結合により、細胞内RNアーゼHによってハイブリッドの酵素切断が引き起こされうる。場合によって、アンチセンスRNA−mRNAハイブリッドの形成は適切なスプライシングを干渉しうる。いずれの場合においても、翻訳に適する完全な、機能的な標的mRNAの数は減少するか又は除去される。他の場合では、標的mRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド類似体の結合は、(例えば立体障害により)リボソーム結合を妨げることによって、mRNAの翻訳を妨げる。
【0054】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ある種のヌクレオチドサブユニットを含み得、例えばDNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)のような類似体又は先の混合物であってもよい。RNAオリゴヌクレオチドは、標的mRNA分子とより安定した二体鎖を形成するが、ハイブリダイズしていないオリゴヌクレオチドは、他の種類のオリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド類似体より細胞内での安定性が低い。これは、このために設計されたベクターを使用して細胞内でRNAオリゴヌクレオチドを発現させることによって対抗することができる。この手法は、例えば大量かつ長命のタンパク質をコードするmRNAを標的化するときに使われてよい。
アンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するときには、以下のことが考慮されうる。(i) 標的配列に結合する際の十分な特異性;(ii) 水への溶解度;(iii) 細胞内及び細胞外のヌクレアーゼに対する安定性;(iv) 細胞膜透過能;及び(v) 生物体を治療するために用いる場合の低毒性。
【0055】
標的mRNA及びオリゴヌクレオチドにおける構造的変更のエネルギーを考慮する熱力学サイクルに基づいて、それらの標的mRNAに対して最も高く予測された結合親和性を有するオリゴヌクレオチド配列を同定するためにアルゴリズムが利用可能である。例えば、Walton et al. (1999) Biotechnol. Bioeng. 65:1-9は、ウサギβ-グロビン(RBG)及びマウス腫瘍壊死因子-α(TNFα)の転写産物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設定するために前記のような方法を使用している。また、同じ研究グループは、細胞培養物中の3つのモデル標的mRNA(ヒト乳酸デヒドロゲナーゼA及びBとラットgp130)に対して合理的に選択されたオリゴヌクレオチドのアンチセンス活性がほとんどすべての場合で有効であったことを報告している。これには、ホスホジエステル及びホスホロチオネートオリゴヌクレオチド化学を有する2つの細胞種の3つの異なる標的に対する試験が含まれていた。
さらに、インビトロシステムを使用して特定のオリゴヌクレオチドの効率を設計及び予測するためにいくつかの手法が利用可能である。例としてMatveeva et al. (1998) Nature Biotechnology 16:1374-1375を参照。
【0056】
本開示内容によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも10ヌクレオチド、例えば、10から15、15から20、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも22、少なくとも25、少なくとも30、又は少なくとも40のヌクレオチドのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド類似体を含む。このようなポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド類似体は、リシルオキシダーゼ型酵素をコードするmRNAと、生理的条件下で、インビボでアニール又はハイブリダイズする(すなわち、基本の相補性を基に二本鎖構造を形成する)ことが可能である。
本開示内容によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞又は組織に投与される核酸コンストラクトから発現されてよい。場合によって、アンチセンス配列の発現は誘導性プロモーターによって制御され、アンチセンス配列の発現が細胞又は組織内でオンオフと切り替わる。あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、たとえば薬学的組成物として、化学的に合成され、細胞又は組織に直接投与されてよい。
【0057】
アンチセンス技術により、非常に正確なアンチセンス設計アルゴリズム及び多種多様なオリゴヌクレオチド運搬システムが生成され、それによって、当業者は、公知の配列の発現を下方制御するのに適したアンチセンス手法を設計し実行することができる。アンチセンス技術に関する更なる情報については、Lichtenstein et al., "Antisense Technology: A Practical Approach," Oxford University Press, 1998を参照のこと。
【0058】
小RNA及びRNAi
リシルオキシダーゼ型酵素の阻害のための他の方法は、標的mRNAに相補的でありその分解を引き起こす二本鎖小干渉RNA(siRNA)分子を利用する手法である、RNA干渉(RNAi)である。Carthew (2001) Curr. Opin. Cell. Biol. 13:244-248。
RNA干渉は一般的に二工程方法である。開始工程と称される第一工程では、おそらく、二本鎖特異的リボヌクレアーゼのRNアーゼIIIファミリのメンバーであり、ATPに依存して二本鎖RNAを切断するダイサーの作用により、インプット二本鎖RNA(dsRNA)は、21−23ヌクレオチド(nt)の小干渉RNA(siRNA)に消化される。インプットRNAは、例えば直接又は導入遺伝子ないしはウイルスを介して運搬されうる。連続した切断事象により、RNAが、各々が2-ヌクレオチドの3'オーバーハングを有する19−21bpの二本鎖(siRNA)に分解される。Hutvagner et al. (2002) Curr. Opin. Genet. Dev. 12: 225-232;Bernstein (2001) Nature 409:363-366。
【0059】
第二のエフェクター工程では、siRNA二本鎖はヌクレアーゼ複合体に結合し、RNA誘導性のサイレンシング複合体(RISC)を形成する。siRNA二体鎖のATP依存性巻き戻しは、RISCの活性化に必要である。次いで、活性なRISC(一本鎖siRNA及びRNアーゼを含有する)は、塩基対相互作用によって相同的転写産物を標的とし、通常、siRNAの3'末端のおよそ12ヌクレオチドの断片へmRNAを切断する。Hutvagner et al., supra;Hammond et al. (2001) Nat. Rev. Gen. 2: 110-119;Sharp (2001) Genes. Dev. 15: 485-490。
RNAi及び関連の方法は、Tuschl (2001) Chem. Biochem. 2:239-245;Cullen (2002) Nat. Immunol. 3:597-599;及び、Brand (2002) Biochem. Biophys. Acta. 1575:15-25にも記載されている。
【0060】
リシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子として、本開示の用途に適切なRNAi分子の合成に対する例示的な方策は、AAジヌクレオチド配列の開始コドンの下流に適切なmRNA配列をスキャンすることである。各AAと下流(すなわち3’隣接)の19ヌクレオチドは、siRNA標的となりうる部位として再コードされる。mRNAの非翻訳領域(UTR)において結合するタンパク質、及び/又は、翻訳開始複合体はsiRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合に干渉しうるので、コード領域内の標的部位が好ましい。上掲のTuschl (2001)。しかしながら、GAPDH遺伝子の5'UTRに対するsiRNAが細胞性GAPDH mRNAのおよそ90%の減少を促し、完全にタンパク質レベルを消失させる例に示されたように、非翻訳領域に対するsiRNAも有効であることが明らかであろう(www.ambion.com/techlib/tn/91/912.html)。上記のように、標的となりうる部位の一群が得られると、標的となりうる部位の配列は、配列アライメントソフトウェア(例えばwww.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/のNCBIから入手可能なBLASTソフトウェア)を使用して適切なゲノムデータベース(例えばヒト、マウス、ラットなど)と比較される。他のコード配列に有意な相同性を示す潜在的標的部位は除外される。
【0061】
標的配列の限定は、siRNA合成のための鋳型として選択される。選択された配列には、55%より高いG/C含量を有するものと比較して、遺伝子サイレンシングを促すのにより有効であることが示されたので、低G/C含量を有するものが含まれうる。いくつかの標的部位は、評価のために標的遺伝子の長さに沿って選択されてよい。選択したsiRNAを十分に評価するために、ネガティブコントロールが併用される。ネガティブコントロールsiRNAには、試験siRNAと同じヌクレオチド組成を有するが、ゲノムに対して有意な相同性を欠いている配列が含まれる。ゆえに、例えば、siRNAの組み換えられたヌクレオチド配列は、他の遺伝子のいずれにも有意な相同性を示さないので、用いられてよい。
【0062】
本開示内容のsiRNA分子は、宿主細胞に既に導入されたsiRNA転写産物の安定した発現を促しうる発現ベクターから転写されてよい。これらのベクターを操作して小さいヘアピンRNA(shRNA)を発現させ、遺伝子特異的サイレンシングを実行することが可能なsiRNA分子へとインビボでプロセシングされる。例として、Brummelkamp et al. (2002) Science 296:550-553;Paddison et al (2002) Genes Dev. 16: 948-958;Paul et al. (2002) Nature Biotech. 20:505-508;Yu et al. (2002) Proc. Natl. Acad. ScL USA 99:6047-6052を参照のこと。
【0063】
小さいヘアピンRNA(shRNA)は、二本鎖の、ヘアピンループ構造を形成する一本鎖ポリヌクレオチドである。二本鎖領域は、リシルオキシダーゼ型酵素をコードするポリヌクレオチド(例えばLOX又はLOXL mRNA)といった標的配列にハイブリダイズ可能な第一配列と、第一配列に相補的である第二配列から形成される。第一と第二の配列が二本鎖領域を形成するのに対して、第一と第二の配列との間にある非塩基対リンカーヌクレオチドはヘアピンループ構造を形成する。shRNAの二本鎖領域(基部)は、限定エンドヌクレアーゼ認識部位を含んでよい。
shRNA分子は、2bp突出、例えば3'UU−突出といった任意のヌクレオチド突出を有してよい。変動はあるが、基部長は一般的に、およそ15から49、およそ15から35、およそ19から35、およそ21から31bp、又はおよそ21から29bpであり、ループのサイズはおよそ4から30bp、例えばおよそ4から23bpであってよい。
【0064】
細胞内のshRNAの発現のために、プロモーター(例えばRNAポリメラーゼIII HI−RNAプロモーター又はU6 RNAプロモーター)、shRNAをコードする配列の挿入のためのクローニング部位、及び転写終結シグナル(例えば4〜5のアデニン−チミジン塩基対の伸展部位)を含むプラスミドベクターを用いることができる。ポリメラーゼIIIプロモーターは一般に、明確な転写開始及び終止部位を有し、それらの転写産物はポリ(A)尾部を欠いている。これらのプロモーターのための終結シグナルはポリチミジン束によって定められ、転写産物は一般的に第二コード化ウリジンの後で切断される。この位置での切断により、発現したshRNAに3'UU突出が生じ、これは合成siRNAの3'突出に類似している。哺乳動物細胞においてshRNAを発現する他の方法は、先に引用した文献に記載されている。
適切なshRNA発現ベクターの例は、pSUPERTM(オリゴエンジン、ワシントン州シアトル)であり、それは明確な転写開始部位を有するポリメラーゼ-III HI−RNA遺伝子プロモーター及び5の連続したアデニン−チミジン対からなる終結シグナルを含む。上掲のBrummelkamp et al.。転写産物は、(終結配列によってコードされる5つの)第二ウリジンの後ろの部位で切断され、合成siRNAの末端に類似する転写産物を産生し、これはヌクレオチド突出も含有している。shRNAに転写される配列は前記のベクターにクローニングされ、一部のmRNA標的(例えばリシルオキシダーゼ型酵素をコードするmRNA)に相補的な第一配列を、第一配列の逆相補鎖を含む第二配列から短いスペーサーによって切り離されて含む転写産物を生成するようになる。結果として生じる転写産物は基部ループ構造を形成するようにそれ自体がホールドバックし、RNA干渉(RNAi)を媒介する。
【0065】
他の適切なsiRNA発現ベクターは、異なるpol IIIプロモーターの制御下にセンス及びアンチセンスsiRNAをコードする。Miyagishi et al. (2002) Nature Biotech. 20:497-500。このベクターによって生成されるsiRNAも、5チミジン(T5)終結シグナルを含む。
siRNA、shRNA及び/又はそれらをコードするベクターは、様々な方法、例えばリポフェクションによって細胞に導入されてよい。ベクターが媒介する方法も開発されている。例えば、siRNA分子はレトロウイルスを用いて細胞内に運搬されうる。レトロウイルスの運搬は効率が良く、安定した「ノックダウン」細胞を均一かつ迅速に選別できるので、レトロウイルスを用いたsiRNAの運搬が場合によって有利である。Devroe et al. (2002) BMC Biotechnol. 2:15。
最近の科学的な刊行物では、標的mRNA発現を阻害する際の前記のような短い二本鎖RNA分子の有効性が確認され、前記のような分子の治療的能力が明確に示された。例えば、RNAiは、C型肝炎ウイルス(McCaffrey et al. (2002) Nature 418:38-39)、HIV−I感染細胞(Jacque et al. (2002) Nature 418:435-438)、子宮頚癌細胞(Jiang et al. (2002) Oncogene 21:6041-6048)及び白血病細胞(Wilda et al. (2002) Oncogene 21:5716- 5724)に感染する細胞における阻害のために利用された。
【0066】
リシルオキシダーゼ型酵素の発現を調節するための方法
リシルオキシダーゼ型酵素のレベル又は活性を調節するための他の方法は、そのコード遺伝子の発現を調節して、遺伝子発現が抑制される場合には低いレベル、遺伝子発現が活性化される場合には高いレベルのリシルオキシダーゼ活性を引き起こすことである。細胞における遺伝子発現の調節は多くの方法によって達成されうる。
例えば、鎖置換又は三重ヘリックス形成によってゲノムDNA(例えばリシルオキシダーゼ型遺伝子の制御領域)を結合するオリゴヌクレオチドは転写を遮断し、これによりリシルオキシダーゼ型酵素の発現を妨げる。この点に関して、オリゴヌクレオチドがその標的の一方の鎖上のポリプリン伸展と他方の鎖上のホモプリン配列を認識する、いわゆる「スイッチバック」化学連結の使用が記載されている。また、三重ヘリックス形成は、人工的な塩基を含むオリゴヌクレオチドを使用し、これにより、イオン強度及びpHに関して結合条件を広げることによって得られうる。
また、リシルオキシダーゼ様遺伝子の転写の調節は、例えば、機能的ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質、又は、該融合タンパク質をコードする核酸を細胞内に導入することによって達成されうる。機能的ドメインは、例えば、転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインであってもよい。例示的な転写活性化ドメインには、VP16、VP64及びNF−κBのp65サブユニットが含まれ、例示的な転写抑制ドメインには、KRAB、KOX及びv-erbAが含まれる。
【0067】
ある実施態様では、前記のような融合タンパク質のDNA結合ドメイン部分は、リシルオキシダーゼ型酵素又はその制御領域をコードする遺伝子内又はその近くで結合する配列特異的なDNA結合ドメインである。DNA結合ドメインは、リシルオキシダーゼ型酵素(又はその制御領域)をコードする遺伝子でないしはその近くの配列に天然に結合するか、又はそう結合するように遺伝子操作されてよい。例えば、DNA結合ドメインは、リシルオキシダーゼ様遺伝子の発現を制御する天然に生じるタンパク質から得られうる。あるいは、DNA結合ドメインは、リシルオキシダーゼ様遺伝子又は制御領域の、又は、その近くの所望の配列に結合するように操作されうる。
【0068】
この点に関して、zincフィンガーDNA結合ドメインは、所望のDNA配列に結合するようにzincフィンガータンパク質を操作することができるので、有用である。zincフィンガー結合ドメインは、一又は複数のzincフィンガー構造を具備する。Miller et al. (1985) EMBO J 4:1609-1614;Rhodes (1993) Scientific American, February: 56-65;米国特許第6453242号。一般的に、単一のzincフィンガーは、およそ30アミノ酸長であり、4つの亜鉛配位アミノ酸残基を含有する。構造的研究により、標準的な(C)zincフィンガーモチーフが、αヘリックス(一般にヒスチジン残基を配位している2つの亜鉛を含有する)に対して内包された2つのβシート(一般に2つの亜鉛配位システイン残基を含むβターンに保持される)を含有することが示された。
zincフィンガーには、標準的なCzincフィンガー(すなわち、亜鉛イオンが2つのシステインと2つのヒスチジン残基によって配位されているもの)と標準的でないzincフィンガー、例えばCHzincフィンガー(亜鉛イオンが3つのシステイン残基と1つのヒスチジン残基によって配位されているもの)及びCzincフィンガー(亜鉛イオンが4つのシステイン残基によって配位されているもの)が含まれる。また、非標準的なzincフィンガーには、システインやヒスチジン以外のアミノ酸がこれらのうちの1つのzinc配位残基に置換されているものが含まれる。例として、国際公開02/057293(2002年7月25日)及び米国公開特許2003/0108880(2003年6月12日)を参照のこと。
【0069】
zincフィンガー結合ドメインは、天然に生じるzincフィンガータンパク質と比較して、新しい結合特異性を有するように操作されてよく、これにより、所望の配列に結合するように操作されたzincフィンガー結合ドメインの構築が可能となる。例として、Beerli et al. (2002) Nature Biotechnol. 20:135-141;Pabo et al. (2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340;Isalan et al. (2001) Nature Biotechnol. 19:656-660;Segal et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632-637;Choo et al. (2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411-416を参照。操作方法には、合理的な設定及び様々な種類の経験的選別方法が含まれるが、これらに限定されるものではない。
合理的な設定には、例えば、3(又は4)ヌクレオチド配列及び個々のzincフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースを使用するものがあり、このデータベースでは各々の3又は4ヌクレオチド配列は特定の3又は4の配列を結合するzincフィンガーの一又は複数のアミノ酸配列と関連するものである。例として、米国特許第6140081号;同第6453242号;同第6534261号;同第6610512号;同第6746838号;同第6866997号;同第7030215号;同第7067617号;米国公開特許2002/0165356;同2004/0197892;同2007/0154989;同2007/0213269;及び、国際特許出願公開98/53059及び国際公開2003/016496を参照のこと。
【0070】
ファージディスプレイ、相互作用トラップ、ハイブリッド選別及びツーハイブリッド系を含む例示的な選別方法は、米国特許第5789538号;同第5925523号;同第6007988号;同第6013453号;同第6140466号;同第6200759号;同第6242568号;同第6410248号;同第6733970号;同第6790941号;同第7029847号及び同第7297491号;並びに、米国特許出願公開番号2007/0009948及び2007/0009962;国際公開98/37186;国際公開01/60970及びGB2338237に開示されている。
【0071】
zincフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の亢進は、例えば、米国特許第6794136号(2004年9月21日)に記載されている。フィンガー間リンカー配列に関して、zincフィンガー操作の他の態様は、米国特許第6479626号及び米国特許出願公開番号2003/0119023に開示される。また、Moore et al. (2001a) Proc. Natl. Acad. ScL USA 98:1432-1436;Moore et al. (2001b) Proc. Natl. Acad. ScL USA 98:1437-1441及び国際公開01/53480を参照。
操作したzincフィンガーDAN-結合ドメインを含む融合タンパク質の使用に関する更なる詳細は、例えば、米国特許第6534261号;同第6607882号;同第6824978号;同第6933113号;同第6979539号;同第7013219号;同第7070934号;同第7163824号及び同第7220719号に見られる。
【0072】
リシルオキシダーゼ型酵素の発現を調節するための他の方法には、遺伝子又は遺伝子の発現を制御する制御領域の標的突然変異誘発法が含まれる。ヌクレアーゼドメイン及び操作されたDNA結合ドメインを含む融合タンパク質を用いた標的突然変異誘発法の例示的な方法は、例えば、米国特許出願公開2005/0064474;同2007/0134796;及び、同2007/0218528に示される。
【0073】
製剤、キット及び投与経路
また、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル又は活性の修飾因子(例えばリシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子)として同定された化合物を含む治療上の組成物が提供される。このような組成物は、一般的に、修飾因子及び薬学的に許容可能な担体を含む。また、補助的に活性な化合物がこの組成物に含まれていてもよい。例えば、血管新生から生じる線維形成性損傷を低減又は除去するために、抗血管形成剤と組み合わせた、リシルオキシダーゼ型酵素(一又は複数)の修飾因子、特に阻害因子は有用である。したがって、本明細書中で開示する治療上の組成物は、リシルオキシダーゼ型酵素及び抗血管形成剤のレベル及び/又は活性の修飾因子を含有してよい。他の実施態様では、治療上の組成物は、治療上有効な量のリシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の修飾因子を含むが、抗血管形成剤を含んでおらず、組成物は抗血管形成剤とは別に投与される。
【0074】
ここで用いる、「治療上有効な量」又は「有効量」は、単独又は他の治療薬とともに細胞、組織又は被検体(例えば、ヒト又は、霊長類、齧歯動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどのようなヒト以外の動物といった哺乳動物)に投与した場合に、疾患の状態又は疾患の進行を妨げるか又は改善するために有効である治療薬の量を指す。治療上の有効用量は、さらに、症状の完全又は部分的な改善、例えば関連する医学的状態の治療、治癒、防止又は寛解、又はこのような状態の治療、治癒、防止又は寛解の速度の増加が生じるために十分な化合物の量を指す。例えばリシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の阻害因子の治療上有効な量は、疾患又は障害の種類、疾患又は障害の範囲、及び疾患又は障害を患っている哺乳動物のサイズによって変化する。
【0075】
本明細書において開示される治療的組成物は、とりわけ、血管新生から生じる線維形成性損傷を低減するために有用である。したがって、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の修飾因子(例えば阻害因子)の「治療上有効な量」は、黄斑変性の間に生じるような、血管新生から生じる線維形成性損傷の低減が生じる量である。例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子が抗体であり、抗体が生体内に投与される場合には、通常の総用量は、例えば体重、投与経路、疾患の重症度などに応じて、1日あたりおよそ10ng/kgから最大100mg/kgの哺乳動物体重まで、例えば、およそ1μg/kg/日から50mg/kg/日、場合によっておよそ100μg/kg/日から20mg/kg/日、500μg/kg/日から10mg/kg/日、又は1mg/kg/日から10mg/kg/日で変化してよい。
【0076】
また、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の修飾因子が抗血管形成剤と組み合わせて用いられる場合、併用して連続的に又は同時に投与されるか否かにかかわらず、血管新生から生じる線維形成性損傷の低減が生じる修飾因子及び抗血管形成剤の併用量である、治療上有効な用量の併用を指す。一より多い併用の濃度は治療的に有効となりうる。
様々な薬学的組成物及びそれらの調製及び使用のための技術は、本開示内容を考慮して当分野の技術者に公知である。投与のための適切な薬学的組成物及び技術の詳細のために、本明細書中の詳細な技術を指し、これは、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. 1985;Brunton et al, "Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics," McGraw-Hill, 2005;University of the Sciences in Philadelphia (eds.), "Remington: The Science and Practice of Pharmacy," Lippincott Williams & Wilkins, 2005;及び、University of the Sciences in Philadelphia (eds.), "Remington: The Principles of Pharmacy Practice," Lippincott Williams & Wilkins, 2008といった教本に更に補足される。
【0077】
開示された治療的組成物は、更に、薬学的に許容可能な材料、組成物又は媒介物、例えば液体又は固形の充填材、希釈液、賦形剤、溶媒又は封入材料(すなわち担体)を含む。これらの担体には、一方の臓器又は身体の一領域から、他方の臓器又は身体の領域への、所望の化学物質の運搬に関与する。各担体は、製剤の他の成分と互換性を持ち、患者に有害でないという意味において「許容可能でなければならない」。薬学的に許容可能な担体として役立ちうる材料のいくつかの例には、糖質、例えばラクトース、グルコース及びスクロース;澱粉、例えばトウモロコシ澱粉及びジャガイモ澱粉;セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;トラガント粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオ脂及び坐薬ワックス;油、例えば落花生油、綿実油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、とうもろこし油及びダイズ油;グリコール、例えばプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチル及びエチルラウリン酸エステル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び酸化アルミニウム三水和物;アルギン酸;無パイロジェン水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;及び、薬学的製剤に使用される他の非毒性互換性物質が含まれる。湿潤剤、乳化剤及び潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、調味料及び芳香剤、防腐剤及び抗酸化剤も、組成物に存在しうる。
【0078】
本開示内容の他の態様は、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の修飾因子の投与を行うためのキットに関する。本開示内容の他の態様は、リシルオキシダーゼ型酵素及び抗血管形成剤のレベル及び/又は活性の修飾因子の併用投与を行うためのキットに関する。一実施態様では、キットは、一又は複数の異なる薬学的な調製物中に、適切に処方された、場合によってリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害因子でない少なくとも一の抗血管形成剤を含有する、薬学的担体にリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害因子を調製して具備する。
【0079】
処方及び運搬方法は、線維形成性損傷の部位(一又は複数)及び程度に応じて適応させうる。例示的な製剤には、ミセル、リポソーム又は薬剤−放出カプセルにカプセル化される製剤(緩やかに徐放させるために設計された生物学的適合性のあるコーティングに内包される活性剤);摂取可能な製剤;局所的な使用、例えば点眼、クリーム、軟膏及びゲルのための製剤;及び、他の製剤、例えば吸入器、エアゾール及び噴霧を含み、非経口投与、例えば静脈内、動脈内、眼内又は皮下の投与に適するものが含まれるがこれらに限定されない。開示内容の化合物の用量は、治療の必要性の程度及び重症度、投与された組成物の活性、被検体の全体的な健康、及び技術者に周知の他の検討項目に従って変化するであろう。
他の実施態様では、本明細書において記述される組成物は、局所的に運搬される。このような局所への運搬は、例えば、眼内注射によって、又は、点眼によって達成されうる。
【0080】
投与
リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害因子(例えばLOX及び/又はLOXL2活性の阻害因子)による脈絡叢血管新生(例えばAMD)の治療のために、眼へ物質を運搬するための当分野で公知のいずれの方法でも利用することができる。例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害因子、例えば、抗LOX抗体及び/又は抗LOXL2抗体の運搬のために、眼への直接の注射が使われてもよい。ある実施形態では、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の阻害因子は、(場合によって脈管形成阻害因子と併用して(下記参照))硝子体液に注入される。他の実施態様では、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の阻害因子の局所投与が使われる。例えば、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の阻害因子を含有する溶液に眼を浸してもよいし、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の阻害因子を点眼のように溶液に調製してもよい。また、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性の阻害因子は、眼に有効な濃度が到達し、眼以外に副作用がない(あるいは許容される程度である)ように全身に投与されてもよい。
【0081】
場合によって、抗リシルオキシダーゼ抗体をコードする核酸(又は他の種類のリシルオキシダーゼ型酵素の阻害因子、例えばリボザイム、siRNA、shRNA又はミクロRNA)が、ウイルスベクター内にキャプシド形成されていてよい。多くのウイルスベクターは、パルボウイルス、パポーバウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、レトロウイルス及びレンチウイルスを含み、当分野で公知である。
組換えウイルスベクターのある種類は、不完全かつ非病原性のパルボウイルスアデノ関連ウイルスセロタイプ2(AAV−2)に基づく。ベクターは、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAV 145塩基対の逆転末端反復配列を含むプラスミドに由来する。感染細胞のゲノムへの組込みによる効率的な遺伝子導入及び安定性導入遺伝子運搬は、このベクター系を用いて得られる。Wagner et al. (1998) Lancet 351: 1702-1703;Kearns et al. (1996) Gene Ther. 9:748-755。
他のアデノ関連ウイルス媒体には、AAVセロタイプ1、5、6、7、8及び9、並びに、キメラAAVセロタイプ、例えばAAV 2/1及びAAV 2/5が含まれる。一本鎖及び二本鎖(例えば自己相補体)のAAVベクターが使用されてよい。
【0082】
併用療法
ある実施態様では、血管新生に特徴がある状態の治療は、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル及び/又は活性を阻害する本明細書に記載される組成物を、脈管形成を阻害する第二組成物とともに投与することを含む。組成物はいずれの順序でも、同時に投与されてもよい。ある実施態様では、両組成物は抗体を含む。他の実施態様では、両組成物は、抗体をコードするポリヌクレオチドを含む。なお更なる実施態様では、一方の組成物は抗体をコードするポリヌクレオチドを含み、他方は抗体ポリペプチドを含む。組成物がポリヌクレオチドとして投与される実施態様では、両方の阻害因子をコードする単一のポリヌクレオチド(例えば発現ベクター)が使われてよい。
ある実施態様では、脈管形成の阻害因子は抗VEGF抗体である。このタイプの阻害因子は、例えばアバスチン(登録商標)及びルセンティス(登録商標)なる商品名で市販されている。しかしながら、いずれの抗VEGF抗体が用いられてよい。
他の実施態様では、脈管形成の阻害因子は、VEGF遺伝子の発現を阻害する小RNA分子、リボザイム、三重形成核酸又は転写因子であってよい。例として米国特許第7067317号を参照のこと。
【実施例】
【0083】
実施例1:AMDのマウスモデル
CNVを引き起こす、マウスの網膜のレーザー誘導性光凝固を、AMDのモデル系として使用した。この処置により、ブルッフ膜に断裂が誘導され、血管新生が誘導され、漏れやすい血管を封止する瘢痕組織が形成される。このモデルでは、凝固の最大5日後には既に炎症が観察され、その後14日目にピークを有する脈管形成が観察された。Rakic et al. (2003) Invest. Ophthalmol. Vis. ScL 44:3186- 3193。光凝固後の更に後の段階(3〜4週)で、線維形成が観察された。本実施例では、レーザー光凝固後の眼(脈絡膜及び網膜)において、炎症及び線維形成の程度及び範囲を、リシルオキシダーゼ(LOX)及びリシルオキシダーゼ様タンパク質(LOXL)の発現とともに評価した。
これらの実験では、8〜10週齢の雄C57BL/6マウスを、20±2℃、55±5%の相対的湿度、及び14時間の明期/10時間の暗期の周期に少なくとも5日間置いて慣れさせ、その後ある動物にはレーザー光凝固を行い、光凝固処置を施さなかった他の動物をコントロールとした。
光凝固のために、マウスをネンブタールTM(60mg/ml)の腹腔内注射により麻酔下におき、瞳孔をTropicolTM(5mg/ml)の局所投与により拡大させた。細隙灯運搬システムを使用して各網膜の9、12及び3時の位置に、アルゴンレーザー(532nm)により3つの熱傷を与えた。レーザーは、400mWのエネルギーと50μmの点サイズに、0.05秒継続に設定した。ブルッフ膜の断裂は、レーザーが狙いを定めた部位での気泡の産生により確認し、泡が観察された部位のみを分析に用いた。
【0084】
レーザー損傷を受けた5匹の動物は、3匹の無損傷のコントロール動物とともに、4日目及び7日目に屠殺した。光凝固の14及び28日後に実施する分析のために、3匹の損傷した動物と3匹のコントロール動物を各時点で屠殺した。
すべての動物は頚椎脱臼により屠殺し、屠殺直後に、両眼を摘出し、脈絡膜及び網膜を切開した。各時点のコントロール群の1匹の動物と光凝固群の1匹の動物を、レーザー誘導損傷、炎症及び線維形成の範囲の分析に用いた。これらの分析のための組織は、4%のパラホルムアルデヒド中で凍結し、パラフィンに包埋した。7μm切片を切除した。切片は、病変を検出するためにヘマトキシリン−エオジンで着色し、他の切片は(免疫組織化学によって)CD45レベルについて試験し、炎症の程度を評価し、異なる切片をシリウスレッド及びトリクローム染色剤で着色し、線維形成の程度及び範囲を評価した。10倍の拡大率及び1292×968ピクセルの解像度のツァイスImager Z1にて画像を得、ツァイスAxiocam MrC5にて写真を撮った。画像は、ツァイスKS300ソフトウェアにて形態学的に分析した。このソフトウェアを用いて、病変の総面積を決定して、異なるマーカー(下記参照)について陽性に染色された病変内の領域を測定して、試験下で特定のマーカーについて陽性である総病変領域の分画を算出した。データは、個々の試料についてスチューデントT検定を用いてStatistica6.1統計ソフトウェアにて分析した。0.05未満のP値を統計学的に有意であるとみなした。
残りの動物(4及び7日目の光凝固群の4匹、14及び28日目の光凝固群の2匹、及び各4時点の2匹のコントロール)を、リシルオキシダーゼmRNAの分析に用いた。mRNA分析のために、新鮮な組織(脈絡膜及び網膜)を液体窒素にて凍結し、RNA抽出(下記)に用いるまで−80℃に保存した。
【0085】
実施例2:病変検出
すべての眼は、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)染色した切片を用いて、組織学的に調べた。レーザー処置を施した各眼に3つの病変を検出した。例を図1に示す。
【0086】
実施例3:炎症
また、薄片に、白血球マーカーであるCD45について免疫組織化学を施した。このマーカーの存在は炎症を示す。この分析のために、95℃で20分間抗原検索を行い、ウサギ血清を遮断剤として用いた。切片は、ラット抗マウスCD45抗体(1/100;ベクトンディッキンソン)とともに室温で終夜インキュベートした。次の日、スライドを、1/300希釈のビオチン化ウサギ抗ラット抗体(ダコサイトメーション)とともに室温で45分間インキュベートした。次いで、切片は、TSA Cyan3システム(パーキンエルマーTSATM;NEL704A)を使用して反応させ、TNT洗浄バッファにて洗浄した。ストレプトアビジンペルオキシダーゼは1/100希釈で用い、Cyan3は反応バッファで1/50に希釈した。
炎症の程度は、CD45免疫反応を示す切片の領域を決定し、これを病変の総領域の割合として表すことによって定量化した。領域はツァイスKS300ソフトウェアを使用して決定した。
この分析の結果は、未処置の眼には白血球が存在しなかった(すなわち、CD45免疫反応性は観察されなかった)ことを示した。しかしながら、CD45免疫反応性によって確認される炎症は、レーザー処置の4日後という早い時期のレーザー処置眼に見られた。レーザー損傷眼では、CD45レベルは4、7及び14日目ではおよそ一定であったが、28日目にはおよそ2倍になった。染色した試料の例として図2を参照のこと。図3は、レーザー損傷の14及び28日後でのCD45レベルの定量化を示す。
【0087】
実施例4:線維形成
上記のように入手した薄片を、トリクロームとシリウスレッドにて染色し、電子顕微鏡によって分析した。レーザー損傷の4及び7日後のトリクローム染色切片とシリウスレッド染色切片の例を、図4及び5に示す。
線維形成の範囲は、コラーゲン染色を示す切片の領域を決定し、これを病変の総領域の割合として表すことによって定量的にスコア化した。領域はツァイスKS300ソフトウェアを使用して決定した。
定量化の結果は、レーザー未処置の眼ではコラーゲン沈着(線維形成を示す)を示さなかった。レーザー損傷眼では、コラーゲン沈着は、損傷の4日後という早い時期に(トリクローム及びシリウスレッド染色によって)観察され、コラーゲンレベルは7から14日目にわたって増加し続けた。28日目のコラーゲンレベルは、14日目に観察されるものとほぼ同等であった。図6は、4及び7日目のコラーゲン沈着を示し、図7は14及び28日目のコラーゲン沈着を示す。(2つの異なる実験から得たデータ)。これらの結果から、レーザー損傷の後に線維形成が急速に起こり、14日目の見かけのプラトーになるまで増加し、その後少なくとも更に2週間続くことが示された。
【0088】
実施例5:リシルオキシダーゼ発現
リシルオキシダーゼ(LOX)及びリシルオキシダーゼ関連タンパク質(LOXL)転写産物レベルの分析のために、凍結組織(実施例1を参照)からRNAを精製した。
各マウスの眼の網膜及び脈絡膜をプールしβ-メルカプトエタノールを含有する700μlのQiagen RLTバッファに懸濁し、ポリトロン携帯型電気ホモジナイザーにてホモジナイズした。製造業者の指示(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)に従って、RNeasyミニキットを使用してRNA単離を行った。溶出したRNAは、試薬説明書に従ってAmbion rDNアーゼIにてDNアーゼ処理を行った。
リシルオキシダーゼ及びリシルオキシダーゼ様タンパク質のmRNAレベルは、定量的逆転写/ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)にて測定した。各反応に100ngのRNA鋳型を用い、製造業者の指示に従ってストラタジーンBrilliant II 1ステップコア試薬キットを使用して、逆転写及び増幅反応を行った。標的mRNAに対するプライマー及びFAM/BHQ−1プローブは、Beacon DesignerTMソフトウェア(Premier Biosoft、カリフォルニア州パロアルト)を使用して設計し、プライマーには400nM及びプローブには250nMの終濃度で用いた。プローブ及びプライマーのヌクレオチド配列は表1に示す。
【0089】

【0090】
プライマー/プローブセットは、インビトロsiRNAノックダウン実験によってそれらの標的mRNAに対する特異性を確認し、中程度から高レベルの標的mRNAを発現する細胞株のRNAの希釈物を使用してそれらの増幅効率について試験した。100%の効率は、増幅反応の指数増殖期の間に生じる各周期中のアンプリコンの量の倍加に相当し、3.32周期ごとにアンプリコンの量が10倍に増加する。Cに対するインプットRNA濃度を片対数目盛り上にプロットし、そのようにして生成した曲線の傾斜を決定することによって、効率を決定した。次いで、効率の割合(E)は以下の通りに算出した。
E=(10−1/傾斜−1)×100
すべてのプライマー/プローブセットの増幅効率は、90%より大きいことが決定した。
試験mRNAレベルはリボソームタンパク質L19(RPL19)のmRNAレベルに基準化し、結果を、コントロールの未処理網膜における相対的な発現と比較してレーザー凝固網膜における相対的な発現の倍数的な調節として表した。結果は、各時点について、2匹の実験動物(4網膜+4脈絡膜)と1匹のコントロール動物(2網膜+2脈絡膜)の平均から得た。
【0091】
mRNA分析の結果(図8)から、リシルオキシダーゼ遺伝子(LOX)の発現はレーザー損傷の4日後に3倍以上に増加することが示された。また、LOXL1及びLOXL2をコードするmRNAのレベルの増加も4日目に観察された。4匹の実験動物と2匹のコントロール動物からのRNAをレーザー光凝固の各々2、4、28及び35日後に分析した異なる実験では、損傷の4日後に、LOX、LOXL1及びLOXL2のmRNAレベルの増加も観察された(図9)。
更なる実験から、LOX及びLOXL2のレベルは光凝固後少なくとも35日間は光凝固した眼において上昇したままであることが示された。
【0092】
実施例6:LOX及びLOXL2活性の阻害は黄斑変性に関連する線維形成、炎症及び脈管形成を低減する
本実施例では、LOX及びLOXL2に対する抗体による治療の効果を、加齢性黄斑変性のマウスモデルにおいて評価した。特に、線維形成、炎症及び脈管形成に対する効果を調査した。抗LOX抗体M64及び抗LOXL2抗体AB0023はいずれも共有されている米国特許出願公開番号US2009/0053224(2009年2月26日)、及び、共有されているPCT WO2009/035791(2009年3月19日)において記述される。抗体、その調製方法及びその使用方法を説明するために、これらの開示内容は出典明記によって本明細書中に援用される。抗体は、無菌のPBS pH7.4、0.01%ツイーン20(PBST)で3.75mg/mlの反応溶液に希釈し、4℃に保存した。
36匹の8〜10週齢の雄C57Bl/6マウスをこの実験に用いた。これらは、20±2℃、55±5%の相対湿度、14時間の明期/10時間の暗期の周期にて維持した。0日目に、ネンブタールTMの腹腔内注射により30匹のマウスを麻酔した。6mg/mlの溶液を使用し、注射体積(μl)を動物の体重(g)の10倍とした。麻酔下で、瞳孔を1滴のTropicolTM(5mg/ml保存液)の局所投与により拡大させた。アルゴンレーザー(532nm)を用いて光凝固を行い、細隙灯運搬システムを使用して網膜に3つ(9、12及び3時の位置)の熱傷を与えた。レーザーは、400mWのエネルギーで0.01秒継続時間に設定し、50μmの熱傷点を生成させた。点の産生は、ブルッフ膜の断裂を示す泡の観察によって確認した。
【0093】
光凝固を実施した動物を3つの10匹群に分けた。一つ目の群には、光凝固の直後とその後2日ごとに0.75mgの抗LOX抗体を与えた。二つ目の群には、光凝固の直後とその後2日ごとに0.75mgの抗LOXL2抗体を与えた。三つ目の群には、光凝固の直後とその後2日ごとに200μlのPBST(ベヒクル)を与えた。抗体溶液又はベヒクルは0.2mlの体積で腹腔内投与した。
6匹のナイーブ動物(すなわち、光凝固を与えなかった動物)にもこの試験を行った。
光凝固の35日後に、すべての動物を頚椎脱臼により屠殺し、両眼は取り出し摘出した。
(抗LOX治療群の1匹の動物は試験の16日目に死んだ)。35匹各々の動物の一方の眼を、4%パラホルムアルデヒドに固定し、パラフィンに包埋した。7μmの切片を切り出し、以下のとおりに、分析し、炎症の程度、血管新生の範囲及び線維形成の程度を決定した。
【0094】
炎症の程度は、実施例3に記載したように、CD45免疫反応を示す切片の領域を決定し、これを病変の総領域の割合として表すことによって定量化した。
薄片は、血管マーカーであるCD31について免疫組織化学を行った。このマーカーの存在は血管新生を示す。この分析のために、37℃で7分間のトリプシン消化を行い、ウサギ血清を遮断剤として用いた。切片は、ラット抗マウスCD31抗体(1/500;Pharmingen)とともに室温で終夜インキュベートした。次の日、スライドは、1/300希釈のビオチン化ウサギ抗ラット抗体(ダコサイトメーション)とともに室温で45分間インキュベートした。次いで、切片は、TSA Cyan3システム(パーキンエルマーTSATM;NEL704A)を使用して反応させ、TNT洗浄バッファにて洗浄した。ストレプトアビジンペルオキシダーゼは1/100希釈で用い、Cyan3は反応バッファで1/50に希釈した。
【0095】
血管新生の程度は、CD31免疫反応を示す切片の領域を決定し、これを病変の総領域の割合として表すことによって定量化した。
線維形成の程度は、コラーゲン繊維が占める切片の領域(シリウスレッド染色で測定される)を決定して、これを病変の総領域の割合として表すことによって定量化した。
測定及び定量化の方法は実施例1以下に記載する。
これらの分析の結果を図10−12に示す。図10は、病変のCD45陽性領域にて測定されるように、炎症が抗LOXL2抗体にて処置した被検体において低減したことを示す。同様に、CD31陽性領域又は病変にて測定した血管新生の程度は、抗LOXL2抗体にて処置した被検体において低減した(図11)。コラーゲン密度にて測定されたように、線維形成は抗LOX及び抗LOXL2抗体によって低減した(図12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物体における眼血管新生の治療方法であって、生物体の一又は複数の細胞におけるリシルオキシダーゼ型酵素の活性を阻害することを含む方法。
【請求項2】
阻害がリシルオキシダーゼ様タンパク質に抗体を結合させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リシルオキシダーゼ様タンパク質がリシルオキシダーゼ(LOX)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リシルオキシダーゼ様タンパク質がリシルオキシダーゼ関連タンパク質2(LOXL2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
方法が生物体の一又は複数の細胞における血管形成因子の活性を阻害することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
血管形成因子の活性が血管形成因子への抗体の結合によって阻害される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
血管形成因子が血管内皮性増殖因子(VEGF)である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
VEGFが血管内皮性増殖因子A(VEGF−A)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
眼の血管新生が、加齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病性網膜症(DR)及び未熟児の網膜症からなる群から選択される疾患で起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗体が生物体の眼に導入される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
抗体が生物体の眼に導入される、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
抗体をコードするポリヌクレオチドが生物体の眼に導入される、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
抗体をコードする一又は複数のポリヌクレオチドが生物体の眼に導入される、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
抗体が一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
抗体が一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ポリヌクレオチドが一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドが一又は複数の網膜上皮細胞に導入される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
ポリヌクレオチドが、アデノ関連ウイルス(AAV)、アデノウイルス及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターにキャプシド形成されている、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
ポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドが、アデノ関連ウイルス(AAV)、アデノウイルス及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターにキャプシド形成されている、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
ウイルスベクターがアデノ関連ウイルス(AAV)である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
ウイルスベクターがアデノ関連ウイルス(AAV)である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ウイルスベクターがAAVタイプ2又はAAVタイプ4である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ウイルスベクターがAAVタイプ2又はAAVタイプ4である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
生物体が哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物がヒトである、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−517438(P2012−517438A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549291(P2011−549291)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/023359
【国際公開番号】WO2010/091279
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(510028419)アレスト バイオサイエンシズ,インク. (3)
【Fターム(参考)】