説明

血管新生促進剤

【課題】副作用を発症するおそれがなく、安価な血管新生促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】血管新生促進剤は、フコステロールを含有する。モズク等の天然物から抽出される天然化合物であるフコステロールを主成分としている。このため、副作用が生じるおそれがなく、また、フコステロールはモズク等から抽出して得られるため、合成等の面倒な調製が不要なことから、安価に提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管壁が障害を受けて破綻すると、心筋梗塞、脳梗塞、或いは壊死といった循環器疾患の形で現れる。血管壁の破綻の最大の原因は動脈硬化である。動脈硬化では、血管が閉塞や狭窄して血流が悪くなるため、虚血や組織の壊死がおこる。このような病態の治療として、血管新生療法が注目されている。
【0003】
血管新生とは、生理的な現象や特定の疾患にみられる新しい血管が形成されるプロセスである。血管新生には、種々の分子や細胞のメカニズムによる複雑なプロセスがある。血管新生を促進できれば、既存の血管に閉塞や狭窄が生じても、新生した血管を通じて血流の悪化を抑制することが可能となる。
【0004】
血管新生を促進する薬剤として、特許文献1〜3に開示の血管新生促進剤が開発されている。特許文献1では、グルクロン酸誘導体およびグルコサミン誘導体を構造中に有する化合物、その薬理学的に許容される塩および溶媒和物または塩の溶媒和を有効成分として含む血管内皮細胞増殖促進剤が開示されている。特許文献2には、ウロテンシン様ペプチド化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する血管新生促進剤について開示されている。特許文献3には、アセチルサリチル酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする血管新生促進剤について開示されている。
【0005】
また、特許文献4に、フコステロールを含有する抗動脈硬化作用を有する組成物が開示されている。血管を取り巻いている平滑筋細胞が増殖しすぎると、血管を圧迫し閉塞や狭窄が生じて動脈硬化が引き起こされる。抗動脈硬化作用を有する組成物を適用することで、動脈硬化を引き起こす平滑筋細胞の増殖を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−103738号公報
【特許文献2】特開2002−087982号公報
【特許文献3】特開2004−262776号公報
【特許文献4】特開2005−104887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示の血管新生促進剤は、合成が困難であり、コストも高いという課題がある。更に、毒性の危険性があり、副作用が生じるおそれがある。
【0008】
特許文献4では、平滑筋細胞の増殖を抑制することについて開示されているだけであり、フコステロールが血管新生を促進する作用について何ら開示されていない。
【0009】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、副作用が生じるおそれがなく、安価な血管新生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る血管新生促進剤は、フコステロールを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る血管新生促進剤は、モズク等の天然物から抽出される天然化合物であるフコステロールを主成分としている。このため、副作用が生じるおそれがない。また、フコステロールはモズク等から抽出して得られ、合成等の面倒な調製が不要なため、安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例におけるサンプル1を用いて培養した動脈片の撮影画像である。
【図2】実施例におけるサンプル3を用いて培養した動脈片の撮影画像である。
【図3】(A)は実施例における動脈片の撮影範囲を説明する図、(B)は撮影方向を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る血管新生促進剤は、フコステロールを有効成分とする。フコステロールは、化学式(1)に示す構造式で表される物質である。
【化1】

【0014】
フコステロールは、モズク、昆布等の海藻類に、細胞膜の構成成分として含まれている天然化合物である。フコステロールは、海藻類からアルコール等の溶媒を用いて抽出し、精製することで得られる。また、市販されているフコステロールをそのまま用いることも可能である。フコステロールは海藻類に含まれている天然化合物ゆえ、体内に投与しても毒性の危険性が小さく、副作用が生じる可能性が低い。
【0015】
血管新生促進剤は、全身的または局所的に、そして経口的または非経口的に投与され、必要に応じて最適な方法が選択される。血管新生促進剤の投与量は特に制限されず、疾患の種類、症状の程度、投与形態や患者の年齢、性別、症状の程度や発生頻度、体重などの条件に応じて、最適な量が決定される。
【0016】
血管新生促進剤は、固体組成物、液体組成物或いはその他の組成物の形態にして投与される。
【0017】
血管新生促進剤は、フコステロールに通常の製剤化に用いられる担体、賦形剤、その他の添加剤を加えて公知の方法で調製することができる。製剤用の担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、デンプン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、ゴマ油、カカオバター、エチレングリコールなどやその他常用されるものをあげることができる。
【0018】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などが用いられる。このような固体組成物においては、フコステロールが少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合される。固体組成物は、常法にしたがって不活性な希釈剤以外の添加物、例えば、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、グルタミン酸またはアスパラギン酸のような溶解補助剤を含んでいてもよい。錠剤または丸剤は、必要によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの糖衣や胃溶性または腸溶性物質のフィルムで被覆してもよいし、2つ以上の層で被覆してもよい。さらに、ゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも含まれる。
【0019】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤などを含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールなどを含んでいてもよい。この組成物は、不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤などを含んでいてもよい。
【0020】
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤が含まれる。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば、注射用水および注射用生理食塩液が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、などが含まれる。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、乳糖)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)等の補助剤を含んでいてもよい。これらは、例えば、精密ろ過膜によるろ過滅菌、高圧蒸気滅菌のような加熱滅菌、あるいは、殺菌剤の配合などの通常の滅菌方法によって無菌化することが可能である。また、無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0021】
また、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を応用して投与することも効果的である。DDSとは、目標とする患部に、投与した薬物を効果的且つ集中的に送り込む技術である。例えば、血管新生促進剤を膜等で包み込んで投与して、血管新生促進剤が目的とする患部に到達させることで、効果的に患部を治療することができる。更に、血管新生促進剤の投与量の削減にもつながる。更に、目的とする患部に血管新生促進剤を運ぶ性質のある運搬体(キャリア)を用いるとよい。
【0022】
フコステロールは、上述のようにモズク等の海藻類から公知の手法によって抽出することができるとともに、合成等面倒な調製が不要である。このため、本実施形態に係る血管新生促進剤は安価に提供され得る。
【実施例】
【0023】
ラットの動脈片を用いて、フコステロールが血管新生促進作用を有することを検証した。このフコステロールの血管新生への影響は、ラットの動脈片をコラーゲンゲル中で培養する血管新生測定系で評価した。
【0024】
ラットはWistar系の雄で、6−8週齢のもの(日本チャールズ・リバー株式会社製)を用意した。ラットをジエチルエーテルにより麻酔し、右大腿動脈切断により出血死させた後、胸部大動脈を取り出し、1〜1.5mmの長さに切断した。
【0025】
この動脈片を6ウェル培養プレートに移し、コラーゲンゲル溶液で包埋し、37℃でゲル化させた。コラーゲン溶液は、コラーゲン原液、10×Eagle’sMEM培地、再構成緩衝液を8:1:1の割合で混合して調製し、これを4℃で保存しておいたものを用いた。コラーゲン原液(Cellmatrix type Ia)及び再構成緩衝液は新田ゼラチン株式会社製、10×Eagle’sMEM培地はインビトロジェン株式会社製をそれぞれ用いた。
【0026】
ゲル化後、1%ITS+を含むRPMI1640培地を2ml加えた。ITS+及びRPMI1640培地は、インビトロジェン株式会社製を用いた。
【0027】
これに、フコステロール溶解液を加えた。フコステロール溶解液は、エタノールにフコステロールを溶解して調製した。フコステロールはシグマアルドリッチ株式会社製を用いた。
【0028】
培養はCOインキュベーター中で行い、培養後7日目に培地交換を行った。なお、実験はコラーゲンゲル中のフコステロール濃度が20μM(サンプル1)、10μM(サンプル2)になるように、フコステロール溶解液をそれぞれ添加して調製し行った。また、参考例として、フコステロール溶解液を加えないもの(サンプル3)についても行った。そして、それぞれのサンプルごとに動脈片を6検体準備し、培養を行った。
【0029】
培養10日目に動脈片より生じる微小血管毛を倒立顕微鏡下で撮影し、撮影した画像から微小血管の長さを測定し、それぞれのサンプルごとに微小血管の平均長を算出した。
【0030】
図1にサンプル1を用いて培養した動脈片の撮影画像、図2にサンプル3を用いて培養した動脈片の撮影画像をそれぞれ示している。なお、図1および図2は、輪切り状の動脈片を図3(A)の上面図のように破線で囲った範囲を、図3(B)の側面図に示すように矢印方向に撮影したものである。
【0031】
フコステロールを含有するサンプル1を用いて培養した動脈片では、図1中の破線で示すように、微小血管の長さは凡そ1300μmである。また、最も長い微小血管では、約2000μmまで伸びている。一方、フコステロールを添加していないサンプル3を用いて培養したものでは、図2中の破線で示すように、微小血管の長さは凡そ800μmであった。コラーゲンゲル中にフコステロールを添加することで微小血管が長くなったことがわかる。
【0032】
また、表1にサンプル1〜3を用い、各々6検体培養した動脈片の微小血管の平均長及び標準偏差を示す。
【表1】

【0033】
フコステロールを添加していないサンプル3を用いて培養した動脈片の微小血管の平均長が890.8μmであるのに比べて、フコステロールを含有するサンプル1及びサンプル2を用いて培養した動脈片の微小血管は、それぞれ1337μm及び1147μmといずれも長くなっている。また、フコステロールの濃度の高いサンプル1を用いた場合、フコステロール濃度の低いサンプル2を用いた場合に比べ、微小血管の平均長が長くなっている。これらから、フコステロールの作用により血管が伸びること、また、フコステロール濃度が高いと血管を新生する作用が高いことがわかる。
【0034】
以上の検証結果から、フコステロールを含有することにより、本実施形態に係る血管新生促進剤は、血管新生を促進できることを実証した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の血管新生促進剤は、フコステロールの作用により血管新生を促進できる。脳梗塞等、血管障壁を伴う疾病の治療に用いる等、医療分野での利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコステロールを含有することを特徴とする血管新生促進剤。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−121917(P2011−121917A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282307(P2009−282307)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】