説明

血管新生制御剤およびその利用

【課題】血管新生の制御機構に関わる新規遺伝子を利用する、血管新生促進剤、血管新生の促進方法、血管新生抑制剤、血管新生の抑制方法、および、血管新生制御組成物のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】血管新生促進剤は、配列番号1に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド等、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド等、配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチドの阻害物質等または配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドの阻害物質等を有効成分として含む。血管新生抑制剤は、配列番号1に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチドの阻害物質等、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドの阻害物質等、配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド等または配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド等を有効成分として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生の制御機構を利用する、血管新生促進剤、血管新生の促進方法、血管新生抑制剤、血管新生の抑制方法、および、血管新生制御組成物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、既存の血管から新たな血管が作られ血管網を構築する生理的現象である。しかし、生体にとっては、血管新生と関連して多くの疾患、例えば癌の増殖転移または糖尿病性網膜症等との関わり合いを持っている。その為、この血管新生を制御、調節することができれば、これらの疾患の予防、治療が可能となる。
【0003】
そこで、近年、この血管新生の制御機構が遺伝子レベルから研究されており、現在までに血管新生に関連する遺伝子、特に、血管新生を抑制する遺伝子が多数発見されている。例えば、特許文献1には、血管内皮細胞増殖抑制活性、c−fosプロモーターからの転写抑制活性、E2Fプロモーターからの転写抑制活性、AP1プロモーターからの転写抑制活性、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抑制活性、NFκBプロモーターからの転写抑制活性および/または血管新生抑制活性を有する新規のポリペプチド、およびそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドについて記載されている。
【0004】
また、非特許文献1ないし非特許文献3においても、例えば、血管新生の応答を媒介し、促進するGalectin−3、血管新生を制御するmicroRNA−92a、または、VEGFに関与するETS−1因子およびMMP−1因子等について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/090574号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Anna I. Markowska, Fu-Tong Liu, and Noorjahan Panjwani、2010、Galectin-3 is an important mediator of VEGF- and bFGF-mediated angiogenic response、J. Exp. Med. Vol. 207 No. 9、1981-1993
【非特許文献2】Angelika Bonauer, Guillaume Carmona, Masayoshi Iwasaki, Marina Mione, Masamichi Koyanagi, Ariane Fischer, Jana Burchfield, Henrik Fox, Carmen Doebele, Kisho Ohtani, Emmanouil Chavakls, Michael Potente, Marc Tjwa, Carmen Urbich, Andreas M. Zeiher, and Stefanie Dimmeler、2009、MicroRNA-92a Controls Angiogenesis and Functional Recovery of Ischemic Tissues in Mice、SCIENCE VOL 324、1710-1713
【非特許文献3】SUN-HEE HEO, YOUNG-JIN CHOI, HYUN-MO RYOO, AND JE-YOEL CHO、2010、Expression Profiling of ETS and MMP Factors in VEGF-Activated Endothelial Cells: Role of MMP-10 in VEGF-Induced Angiogenesis、Journal of Cellular Physiology 224、734-742
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述したように、血管新生を抑制する遺伝子は多数発見されているが、血管新生を促進(血管再生)する遺伝子の発見は少なく、その制御機構の全容は明確には解明されていない。その為、血管新生と関連する、例えば、癌の増殖転移または糖尿病性網膜症等の疾患の予防薬または治療薬へと繋がる研究開発は、未だ困難であると言える。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、血管新生の制御機構に関わる新規遺伝子を利用する、血管新生促進剤、血管新生の促進方法、血管新生抑制剤、血管新生の抑制方法、および、血管新生制御組成物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、本発明者らは鋭意研究を行い、血管新生を促進する遺伝子としてHey2(hairy/enhancer-of-split related with YRPW motif 2)遺伝子を、血管新生を抑制する遺伝子としてjdp2(jun dimerization protein 2)遺伝子を、DNAマイクロアレイ法により発見した(実施例1参照)。また、これらの両遺伝子の血管新生に係る機能解析を、RNAi法で管腔形成を観察することにより、確認した(実施例2参照)。
【0010】
そこで、本発明の第1の態様に係る血管新生促進剤は、以下(a)ないし(d)のいずれかのポリヌクレオチドを有効成分として含むことを特徴とする。
(a)配列番号1に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(b)配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(c)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0011】
または、以下(e)ないし(g)のいずれかのポリペプチドを有効成分として含むことを特徴とする。
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
(g)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
【0012】
または、以下(h)ないし(k)のいずれかのポリヌクレオチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする。
(h)配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(i)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(j)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(k)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0013】
好ましくは、前記ポリヌクレオチドの阻害物質は、遺伝子の発現を抑制する機能性核酸であることを特徴とする。
【0014】
さらに好ましくは、前記機能性核酸は、siRNAであることを特徴とする。
【0015】
または、以下(l)ないし(n)のいずれかのポリペプチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする。
(l)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(m)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
(n)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
【0016】
本発明の第2の態様に係る血管新生の促進方法は、第1の態様に係る血管新生促進剤を有効量投与または添加する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の第3の態様に係る血管新生抑制剤は、以下(a)ないし(d)のいずれかのポリヌクレオチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする。
(a)配列番号1に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(b)配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(c)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0018】
好ましくは、前記ポリヌクレオチドの阻害物質は、遺伝子の発現を抑制する機能性核酸であることを特徴とする。
【0019】
さらに好ましくは、前記機能性核酸は、siRNAであることを特徴とする。
【0020】
または、以下(e)ないし(g)のいずれかのポリペプチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする。
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
(g)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
【0021】
または、以下(h)ないし(k)のいずれかのポリヌクレオチドを有効成分として含むことを特徴とする。
(h)配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(i)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(j)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(k)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0022】
または、以下(l)ないし(n)のいずれかのポリペプチドを有効成分として含むことを特徴とする。
(l)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(m)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
(n)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
【0023】
本発明の第4の態様に係る血管新生の抑制方法は、第3の態様に係る血管新生抑制剤を有効量投与または添加する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の第5の態様に係る血管新生制御組成物のスクリーニング方法は、Hey2遺伝子または前記Hey2遺伝子の遺伝子産物の発現量を検出する工程を含むことを特徴とする。
【0025】
または、jdp2遺伝子または前記jdp2遺伝子の遺伝子産物の発現量を検出する工程を含むことを特徴とする。
【0026】
好ましくは、前記血管新生制御組成物は、癌、糖尿病、関節リウマチ、慢性炎症または動脈硬化の医薬組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、血管新生の制御機構に関わる新規遺伝子を利用する、血管新生促進剤、血管新生の促進方法、血管新生抑制剤、血管新生の抑制方法、および、血管新生制御組成物のスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例2に係るHUVECのNegative Control siRNAの管腔形成の様子を示す図である。
【図2】本発明の実施例2に係るHUVECのHey2−siRNAの管腔形成の様子を示す図である。
【図3】本発明の実施例2に係るHUVECのjdp2−siRNAの管腔形成の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書において「有する」、「含む」または「含有する」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。
【0030】
(血管新生促進剤)
本発明の実施の形態1に係る血管新生促進剤は、Hey2を有効成分として含むものと、jdp2阻害物質を有効成分として含むものとが挙げられる。
【0031】
Hey2遺伝子またはjdp2遺伝子は、塩基配列およびコードするポリペプチドのアミノ酸配列の並びは公知であるが、機能は未知である。例えば、最も好ましいヒト(Homo sapiens)に係る遺伝子の塩基配列において、Hey2遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に(National Center for Biotechnology Information(NCBI)のアクセッションNo.AB044755)、当該Hey2遺伝子の塩基配列がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に(NCBIのアクセッションNo.BAA96781)、jdp2遺伝子の塩基配列を配列番号3に(NCBIのアクセッションNo.AB077880)、当該jdp2遺伝子の塩基配列がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号4に示す(NCBIのアクセッションNo.BAB83896)。
【0032】
本発明において、「Hey2」もしくは「jdp2」とは、これら配列番号1もしくは配列番号3に示される塩基配列のポリヌクレオチド、または、配列番号2もしくは配列番号4に示されるアミノ酸配列のポリペプチドを示すが、これらに限定されるものではない。ポリヌクレオチドの場合、「Hey2」もしくは「jdp2」は、例えば、配列番号1もしくは配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチドと、配列番号1もしくは配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチドと、配列番号1もしくは配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号1もしくは配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生制御機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、配列番号1もしくは配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号1もしくは配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生制御機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとを挙げることができる。
【0033】
ここで、ストリンジェントな条件下とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸が形成される条件下、すなわち配列番号1または配列番号3に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列の相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件下が挙げられる。
【0034】
具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃であり、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件下では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常は、ナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
【0035】
ポリペプチドの場合、「Hey2」もしくは「jdp2」は、例えば、配列番号2もしくは配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチドと、配列番号2もしくは配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生制御機能を有するポリペプチドと、配列番号2もしくは配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生制御機能を有するポリペプチドとを挙げることができる。
【0036】
ポリヌクレオチドおよびポリペプチドのいずれの場合においても、「80%以上の相同性」という用語を使用しているが、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。また、ポリペプチドの場合において、1または数個の「数個」とは、好ましくは20個以下、より好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下を意味する。さらに、本発明において血管新生「制御」(機能)とは、血管新生を正に制御、すなわち「促進」する場合、および、血管新生を負に制御、すなわち「抑制」する場合のいずれも含む意味として用いている。
【0037】
これらを考慮すると、本発明において、Hey2またはjdp2は、最も好ましくはヒト(Homo sapiens)に係るものであるが、好ましくは動物(脊椎動物および無脊椎動物を含む)に係るものも含む。例えば、動物としては、哺乳網、鳥網、爬虫網、両生網、魚網または昆虫網等が挙げられる。
【0038】
前述した通り、本実施の形態1に係る血管新生促進剤にはHey2を有効成分として含むものと、jdp2阻害物質を有効成分として含むものとが挙げられる。具体的には、本実施の形態1に係る血管新生促進剤は、血管新生、つまり血管網の構築を促進し、調節する効果を奏する。
【0039】
「jdp2阻害物質」とは、jdp2遺伝子の遺伝子産物の活性を阻害しうる物質(任意の識別可能な化学物質または分子等であり、例えば、低分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチドまたは核酸等を含む)を意味する。ここで、jdp2阻害物質の例としては、jdp2遺伝子の転写または翻訳に影響を及ぼす物質、または、jdp2遺伝子の遺伝子産物の活性に影響を及ぼす物質等を挙げることができる。なお、jdp2阻害物質には、プロモーターまたはエンハンサー阻害物質も含まれるものとする。
【0040】
このようなjdp2阻害物質の例としては、核酸、アンチセンス、siRNA、これらを含むベクター、ポリペプチド、優性阻害体(dominant negative)、抗体(配列番号4に示される連続したアミノ酸配列を含むポリペプチド内のエピトープと特異的に結合する抗体等)、酵素、触媒型RNA、リボザイム、アダプターまたは低分子量(例えば、2000Da未満)の化学分子等を挙げることができる。なお、前述したように、jdp2遺伝子の転写もしくは翻訳、または、jdp2遺伝子の遺伝子産物の活性を阻害しうる物質である限り、これらの薬学的に許容される誘導体または薬学的に許容される塩類等の形態であっても、jdp2阻害物質に含まれる。また、このようなjdp2阻害物質は、例えば、後述するスクリーニング方法によっても選別することが可能である。
【0041】
本発明において、jdp2阻害物質は、発現を抑制する「機能性核酸」であることが好ましい。本発明において「機能性核酸」とは、細胞内のDNAまたはmRNA等の内在性遺伝子の発現抑制を行う他、DNAまたはmRNAが有する転写または翻訳等のタンパク質を合成する一連の過程において作用し、本来有する機能を抑制できる核酸を意味する。
【0042】
例えば、アンチセンス、siRNA、miRNA、shRNA、リボザイムまたはこれらを含む発現ベクター等を挙げることができる。当該機能性核酸は、遺伝子の発現を「抑制」するものである。本発明において、「抑制」とは、対照群と比較した場合において、本来のmRNAまたはタンパク質の発現量の50%以上を、好ましくは80%以上を、より好ましくは90%以上を抑制することを意味する。
【0043】
これらの機能性核酸を含有させる発現ベクターは、当業者にとって公知のものであればどのようなものでも構わない。好ましくは、プラスミド、コスミドまたはウイルス発現系を含む。好ましいウイルス発現系の例としては、アデノウイルス、レトロウイルスまたはレンチウイルス等を挙げることができる。また、細胞または組織に発現ベクターを導入する方法についても、当業者にとって公知の方法であればどのようなものでも構わない。好ましい例としては、トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションまたは組み換えウイルスベクターによる感染等を挙げることができる。
【0044】
本発明において機能性核酸は、「siRNA」の形態が好ましい。本発明の「siRNA」とは、前述のとおり遺伝子発現を抑制するsiRNAを意味する。具体的には、対照群と比較して遺伝子発現を50%以上抑制できるsiRNA、好ましくは対照群と比較して遺伝子発現を80%以上抑制できるsiRNA、より好ましくは対照群と比較して遺伝子発現を90%以上抑制できるsiRNAを意味する。siRNAは、RNAi(RNA干渉)と呼ばれる配列特異的な遺伝子発現の抑制を誘導することが知られている。siRNAは、一般に2本鎖のRNA部分と、センス鎖およびアンチセンス鎖の3’末端のオーバーハング部分から構成される。
【0045】
siRNAは、当業者にとって公知の方法によって設計することができる。例えば、選択したDNA配列(19〜21塩基が望ましい)をそのままRNA配列に変換したもの(センス鎖)と、そのアンチセンス鎖を2本鎖RNA部分とし、オーバーハング部を付加する。オーバーハング部は、1または2塩基の任意の核酸(リボ核酸またはデオキシ核酸)であるが、ウリジン(U)もしくはチミジン(dT)が好ましい。本発明に係るHey2またはjdp2のsiRNAの場合は、好ましくは哺乳類の、より好ましくはヒト(Homo sapiens)の、最も好ましくはヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells、HUVEC)のHey2またはjdp2のDNA配列(配列番号1または配列番号3)に基づいて設計され、Hey2またはjdp2の遺伝子発現を抑制できるsiRNAであれば、特に限定しない。遺伝子発現の抑制は、Hey2またはjdp2に特異的であることが望ましい。特異的であるか否かは、一般公開されているBLAST検索を実施することにより確認可能である。また、オーバーハング部分は必須ではない。
【0046】
本実施の形態1に係る血管新生促進剤には、例えば、試薬、医薬品または食品(健康食品もしくはサプリメントを含む)等を挙げることができる。さらに具体的に述べると、これらの形態としては、例えば、液剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、タブレットまたはカプセル剤等を挙げることができる。なお、これらの試薬、医薬品または食品等において、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド、または、これらの阻害物質の有効成分としての含有量および一日における投与量等は、適宜調節することが可能である。
【0047】
このように、本実施の形態1に係る血管新生促進剤を利用することにより、血管新生を促進させることが可能になる。当該促進方法に関しては、以下の実施の形態2において詳細に述べる。
【0048】
(血管新生の促進方法)
本発明の実施の形態2に係る血管新生の促進方法は、前述の実施の形態1に係る血管新生促進剤を有効量投与または添加する工程を含む。なお、血管新生促進剤における用語の詳細および好ましい形態等については、前述の実施の形態1と同様である。
【0049】
本発明における「有効量投与または添加する」とは、血管新生制御機能の効能、対象とする物質、動物もしくは生物、または、これらの血管新生の程度等を考慮したうえで、適当な量を投与または添加等することを意味する。なお、適当な量の中に懸濁する場合も含む。例えば、血管新生促進剤の有効成分が、遺伝子の発現を抑制する機能性核酸である場合については、in vivo発現、特に、哺乳動物発現ベクターを投与する方法が好ましい。その他の投与または添加方法については、有効成分がポリヌクレオチドもしくはポリペプチドまたはこれらの阻害物質の場合で異なる部分もあるが、結果的に血管新生制御の対象において、血管新生の程度が異なっていればどのような方法でも構わない。なお、当業者であれば、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドまたはこれらの阻害物質を有効成分とした、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、無菌性溶液または懸濁液剤等を、注射器等を用いて対象とする生物等に投与等することは容易に可能である。また、これらは経口投与または非経口投与のどちらでもよく、非経口投与の形態も特に限定されず、静脈投与、筋肉内投与、腹腔内投与または皮下投与等を挙げることができる。
【0050】
このように、本実施の形態2に係る血管新生の促進方法によれば、病疾患等により血管新生が抑制された状態となっている場合に利用することができる。また、血管新生に関連する疾患、例えば、関節リウマチ、慢性炎症、動脈硬化、癌または糖尿病等のうち、血管新生が抑制された状態となってしまう疾患の予防薬または治療薬の研究開発等に繋げることも可能となる。
【0051】
(血管新生抑制剤)
本発明の実施の形態3に係る血管新生抑制剤には、Hey2阻害物質を有効成分として含むものと、jdp2を有効成分として含むものとが挙げられる。具体的には、本実施の形態3に係る血管新生抑制剤は、血管新生、つまり血管網の構築を抑制し、調節する効果を奏する。これは、前述した通り、Hey2が血管新生を促進する遺伝子として機能し、jdp2が血管新生を抑制する遺伝子として機能するためである。なお、「Hey2」(配列番号1および配列番号2)、ならびに、「jdp2」(配列番号3および配列番号4)の用語等の詳細については、実施の形態1において詳細に前述した通りである。
【0052】
また、「Hey2阻害物質」とは、前述の「jdp2阻害物質」と同様に、Hey2遺伝子の遺伝子産物の活性を阻害しうる物質(任意の識別可能な化学物質または分子等であり、例えば、低分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチドまたは核酸等を含む)を意味する。具体的には、Hey2遺伝子の転写または翻訳に影響を及ぼす物質、または、Hey2遺伝子の遺伝子産物の活性に影響を及ぼす物質等を挙げることができる。なお、プロモーターまたはエンハンサー阻害物質も含まれる。
【0053】
その他、核酸、アンチセンス、siRNA、これらを含むベクター、ポリペプチド、優性阻害体(dominant negative)、抗体(配列番号2に示される連続したアミノ酸配列を含むポリペプチド内のエピトープと特異的に結合する抗体等)、酵素、触媒型RNA、リボザイム、アダプターまたは低分子量(例えば、2000Da未満)の化学分子等も、同様に挙げることができる。これらのうち、例えば、アンチセンス、siRNA、miRNA、shRNA、リボザイムまたはこれらを含む発現ベクター等の「機能性核酸」が好ましい。発現ベクターの詳細については、前述の実施の形態1と同様である。
【0054】
Hey2阻害物質においても、当該機能性核酸は、Hey2遺伝子の発現を「抑制」するものである。「抑制」の意味については、前述の実施の形態1と同様である。なお、機能性核酸のうち最も好ましいものも、jdp2阻害物質と同様で、「siRNA」である。siRNAによる遺伝子発現の抑制の誘導、形態およびその他詳細についても前述の実施の形態1と同様である。
【0055】
本実施の形態3に係る血管新生抑制剤の形態についても、前述の実施の形態1に係る血管新生促進剤と同様に、例えば、試薬、医薬品または食品(健康食品もしくはサプリメントを含む)等を挙げることができる。より具体的な形態としても同様に、例えば、液剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、タブレットまたはカプセル剤等を挙げることができる。さらに、これらの試薬、医薬品または食品等において、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドまたはこれらの阻害物質の有効成分としての含有量および一日における投与量等が、適宜調節可能であることも同様である。
【0056】
このように、本実施の形態3に係る血管新生抑制剤を利用することにより、血管新生を抑制させることが可能になる。当該抑制方法に関しては、以下の実施の形態4において詳細に述べる。
【0057】
(血管新生の抑制方法)
本発明の実施の形態4に係る血管新生の抑制方法は、前述の実施の形態3に係る血管新生抑制剤を有効量投与または添加する工程を含む。なお、用語の詳細および好ましい形態等については、前述の実施の形態1ないし実施の形態3と同様である。
【0058】
本実施の形態4に係る血管新生の抑制方法によれば、病疾患等により血管新生が促進された状態となっている場合に利用することができる。また、血管新生に関連する疾患、例えば、関節リウマチ、慢性炎症、動脈硬化、癌または糖尿病等のうち、血管新生が促進した状態となってしまう疾患の予防薬または治療薬の研究開発等に繋げることもできる。
【0059】
(血管新生制御組成物のスクリーニング方法)
本発明の実施の形態5に係る血管新生制御組成物のスクリーニング方法では、Hey2遺伝子またはjdp2遺伝子およびこれらの遺伝子産物を指標とする。すなわち、Hey2遺伝子もしくは遺伝子産物の発現量、または、jdp2遺伝子もしくは遺伝子産物の発現量の検出を行い、血管新生制御組成物(すなわち、血管新生促進組成物または血管新生抑制組成物)を選別する。
【0060】
本実施の形態5に係る血管新生制御組成物の「組成物」とは、例えば、化合物、分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチドまたは核酸等でもよいし、試薬、医薬品または食品(健康食品・サプリメントを含む)等でも構わない。遺伝子または遺伝子産物の発現量の検出方法については、当業者であれば容易に測定・検出可能であり、例えば、ノザンブロッティング、定量リアルタイムPCR、RIA法、ELISA法または蛍光抗体法等を挙げることができる。
【0061】
例えば、対象の物質を特定の組成物に対して接触(直接的接触または間接的接触のいずれでも構わない)・暴露させた場合に、当該物質のjdp2発現量が減少する当該特定の組成物は血管新生を促進(血管再生)させる組成物である。これは、jdp2が血管新生を抑制する遺伝子産物となる為である。この場合、当該特定の組成物は、血管新生が抑制した状態となる疾患の予防薬または治療薬等に利用できる可能性が高い。一方、例えば、同様の接触等をさせた場合に、当該物質のHey2発現量が減少する当該特定の組成物は血管新生を抑制させる組成物である。これは、Hey2が血管新生を促進する遺伝子産物となる為である。この場合、当該特定の組成物は、血管新生が促進した状態となる疾患の予防薬または治療薬等に利用できる可能性が高い。また、それぞれにおいて発現量が増加した場合には、それぞれにおける血管新生の促進または抑制が逆となる。なお、血管新生と関連する疾患には、例えば、関節リウマチ、慢性炎症、動脈硬化、癌または糖尿病等を挙げることができる。
【実施例】
【0062】
以下、調製例および実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、調製例および実施例は本発明を限定するものではない。
【0063】
(調製例)
まず、HUVECの培養方法について説明する。初代培養HUVECは、クラボウ(KE−4109P10)より購入した。初代培養HUVECは、到着後、直ちに37℃の温浴中にて解凍し、血管内皮細胞専用培地HuMedia−EG2(クラボウ)で培養を開始した。培養は、COインキュベーター内、37℃、湿度95%にて行った。なお、以下に述べる全ての実験には、継代数5または6のHUVECを用いた。
【0064】
(実施例1)
本実施例1では、DNAマイクロアレイ法での新規血管新生制御遺伝子(Hey2遺伝子およびjdp2遺伝子)の発見について詳細に述べる。
【0065】
DNAマイクロアレイ解析用の、HUVECの天然由来血管新生抑制物質への暴露について述べる。まず、COインキュベーター内において、継代数5のHUVECを、75cmのフラスコ中にほぼコンフルエントになるまで、HuMedia−EG2培地を用いた培養を行った。暴露実験開始19時間前に、5%FBS(Cell Culture Technology)を含むRMPI1640培地(Gibco)に交換し、実験開始1時間前に、再度同培地16mlに交換した。
【0066】
ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したカルノシン酸(Sigma-Aldrich)、レスベラトロール(Cayman Chemical Company)およびエピガロカテキンガレード(ナカライテスク)を、最終濃度50μMとなるように培地に添加し、6時間COインキュベーター内において培養した。6時間経過後、培地を取り除き、PBSを用いてHUVECを洗浄後、細胞解離バッファーを用いてHUVECを剥離し、同培地を用いて遠心管に回収した。遠心分離後(室温、900g×10分間)、上清を捨て、PBSを用いてHUVECを懸濁した。懸濁したHUVECの一部を取り、細胞数計測に用いた。残りのHUVEC懸濁液は、再び遠心分離(室温、900g×10分間)を行った後、上清を捨て、2mlのRNAlater(Ambion)を加えた。その後、4℃で24時間保存し、−80℃のディープフリーザーに入れ、1日置いた。その後、−80℃で凍結させたHUVECを用い、DNAマイクロアレイ解析を実施した。
【0067】
次いで、当該DNAマイクロアレイ解析での、天然物由来血管新生抑制物質暴露によって変動した、マーカー候補遺伝子の発現解析について述べる。DNAマイクロアレイ解析により、前述したような複数の天然物由来血管新生抑制物質暴露(カルノシン酸、レスベラトロールおよびエピガロカテキンガレード)によってその遺伝子発現が変動し、血管新生に重要であると示唆される遺伝子が2種類選択された。当該2種類の遺伝子は、Hey2遺伝子と、jdp2遺伝子であった。
【0068】
(実施例2)
本実施例2では、RNAi法でのHey2遺伝子およびjdp2遺伝子の血管新生制御における機能解析について詳細に述べる。
【0069】
当該機能解析として、siRNAによるHey2またはjdp2発現阻害が、HUVECの血管新生に与える影響、すなわちHUVECの管腔形成に与える影響について実験を行った。まず、継代数6のHUVECが、25cmのフラスコにほぼコンフルエントになるまで、HuMedia−EG2培地を用い、COインキュベーター内で培養を行った。RNAiの実験開始24時間前に、10%FBS(Cell Culture Technologies)を含むOPTI−MEM(登録商標)I Reduced Serum Medium培地(Invitrogen)に交換し、RNAiの実験開始1時間前に、再度同培地5mlに交換した。
【0070】
一方、両遺伝子に対するStealth RNAi(Invitrogen)溶液20μMから、60pmol(3μl)を取り、OPTI−MEM(登録商標)I Reduced Serum Medium培地(Invitrogen)497μlと混合した。また、10μlのLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)とOPTI−MEM(登録商標)I Reduced Serum Medium培地(Invitrogen)490μlとを混合し、さらに、前述したそれぞれの遺伝子に対するStealth RNAiを含有する500μlの溶液と混合した(合計1ml)。その後、室温で20分間置き、前述したHUVECの培地に加え、当該HUVECを24時間または48時間、COインキュベーター内において培養した。
【0071】
なお、前述のStealth RNAi(Invitrogen)は、Hey2遺伝子またはjdp2遺伝子のそれぞれに対し、各3種類ずつ合成して実験を行った。Hey2遺伝子に対しては、HSS118841、HSS118842およびHSS17450を使用し、jdp2遺伝子に対しては、HSS151239、HSS151240およびHSS174669を使用した。また、Negative Controlとして、3種類のStealth RNAi Negative Control Duplexes(Invitrogen)を使用した。具体的には、Low GC Duplex、Medium GC DuplexおよびHigh GC Duplexを使用した。
【0072】
次に、96well培養プレートに、保冷していたマトリゲル(BD Biosciences)を50μl入れ、COインキュベーター内で1時間保温してゲル化させた。前述の方法により、Hey2遺伝子またはjdp2遺伝子のsiRNAをトランスフェクトしたHUVECの培地を取り除き、PBSでHUVECを洗浄した後、細胞解離バッファーを用いてHUVECを剥離し、10%FBSを含むOPTI−MEM(登録商標)I Reduced Serum Medium培地(Invitrogen)を用いて遠心管に回収した。その後、遠心分離を行い(室温、900g×10分間)、上清を捨て、同培地を用いて細胞数1.0×10cells/mlとなるようにHUVECを懸濁した。なお、細胞の一部はRNA回収用にPBS洗浄を行い、RNAlater1mlを用いて保存した。その後、1.0×10cells/mlのHUVEC懸濁液100μlを、ゲル化したマトリゲル上に加え、COインキュベーター内で18時間培養を行った。培養後、各Stealth RNAiにおけるHUVECの管腔形成の様子を、倒立顕微鏡下で、OLYMPUS DSE330−A撮影システムにより写真撮影した。
【0073】
図1は、本発明の実施例2に係るHUVECのNegative Control siRNAの管腔形成の様子を示す図である。図2は、本発明の実施例2に係るHUVECのHey2−siRNAの管腔形成の様子を示す図である。図3は、本発明の実施例2に係るHUVECのjdp2−siRNAの管腔形成の様子を示す図である。図2におけるHey2−siRNAは、前述の3種類のStealth RNAiがHey2遺伝子に対する場合を示し、図3におけるjdp2−siRNAは、前述の3種類のStealth RNAiがjdp2遺伝子に対する場合を示す。
【0074】
図1および図2に示すように、Hey2−siRNAはHUVECの管腔形成を抑制している。すなわち、Negative Controlである図1のHUVECの管腔形成と比較すると、図2のHey2−siRNAのHUVECの管腔形成は抑制されており(血管新生は抑制されており)、これはHey2が血管新生の促進に関与する遺伝子であることを意味する。また、図1および図3に示すように、jdp2−siRNAはHUVECの管腔形成を促進している。すなわち、Negative Controlである図1のHUVECの管腔形成と比較すると、図3のjdp2−siRNAのHUVECの管腔形成は促進されており(血管新生は促進されており)、これはjdp2が血管新生の抑制に関与する遺伝子であることを意味する。
【0075】
このように、Hey2の発現阻害物質は管腔形成に対して抑制的に作用することから、siRNAもしくは阻害物質等による発現阻害または機能阻害は、血管新生抑制剤に応用可能である。このことから、Hey2が血管新生促進剤(血管再生剤)に応用可能であることも示唆される。一方、jdp2の発現阻害物質は管腔形成に対して促進的に作用することから、siRNAもしくは阻害物質等による発現阻害または機能阻害は、血管新生促進剤(血管再生剤)に応用可能である。このことから、jdp2が血管新生抑制剤に応用可能であることも示唆される。
【0076】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0077】
本明細書の中で明示した論文および公開特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明者らは鋭意研究を行い、血管新生を促進する遺伝子としてHey2(hairy/enhancer-of-split related with YRPW motif 2)遺伝子を、血管新生を抑制する遺伝子としてjdp2(Jun dimerization protein 2)遺伝子を、DNAマイクロアレイ法により発見した(実施例1参照)。また、これらの両遺伝子の血管新生に係る機能解析を、RNAi法で管腔形成を観察することにより、確認した(実施例2参照)。
【0079】
そこで、本発明によれば、血管新生の制御機構に関わる新規遺伝子を利用する、血管新生促進剤、血管新生の促進方法、血管新生抑制剤、血管新生の抑制方法、および、血管新生制御組成物のスクリーニング方法が提供され、その結果、血管新生と関連する、例えば癌の増殖転移または糖尿病性網膜症等の予防薬または治療薬の研究開発へと繋がる可能性が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(a)ないし(d)のいずれかのポリヌクレオチドを有効成分として含むことを特徴とする、血管新生促進剤。
(a)配列番号1に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(b)配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(c)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下(e)ないし(g)のいずれかのポリペプチドを有効成分として含むことを特徴とする、血管新生促進剤。
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
(g)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
【請求項3】
以下(h)ないし(k)のいずれかのポリヌクレオチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする、血管新生促進剤。
(h)配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(i)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(j)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(k)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドの阻害物質は、遺伝子の発現を抑制する機能性核酸であることを特徴とする、請求項3に記載の血管新生促進剤。
【請求項5】
前記機能性核酸は、siRNAであることを特徴とする、請求項4に記載の血管新生促進剤。
【請求項6】
以下(l)ないし(n)のいずれかのポリペプチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする、血管新生促進剤。
(l)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(m)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
(n)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の血管新生促進剤を有効量投与または添加する工程を含むことを特徴とする、血管新生の促進方法。
【請求項8】
以下(a)ないし(d)のいずれかのポリヌクレオチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする、血管新生抑制剤。
(a)配列番号1に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(b)配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(c)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号1に記載の塩基配列、または、配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドの阻害物質は、遺伝子の発現を抑制する機能性核酸であることを特徴とする、請求項8に記載の血管新生抑制剤。
【請求項10】
前記機能性核酸は、siRNAであることを特徴とする、請求項9に記載の血管新生抑制剤。
【請求項11】
以下(e)ないし(g)のいずれかのポリペプチドの阻害物質を有効成分として含むことを特徴とする、血管新生抑制剤。
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
(g)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生促進機能を有するポリペプチド。
【請求項12】
以下(h)ないし(k)のいずれかのポリヌクレオチドを有効成分として含むことを特徴とする、血管新生抑制剤。
(h)配列番号3に記載の塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(i)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を含有するポリヌクレオチド。
(j)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(k)配列番号3に記載の塩基配列、または、配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
以下(l)ないし(n)のいずれかのポリペプチドを有効成分として含むことを特徴とする、血管新生抑制剤。
(l)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。
(m)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
(n)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入またはこれらの組み合わせにより配列に変異が生じているアミノ酸配列を含有し、かつ血管新生抑制機能を有するポリペプチド。
【請求項14】
請求項8ないし13のいずれか1項に記載の血管新生抑制剤を有効量投与または添加する工程を含むことを特徴とする、血管新生の抑制方法。
【請求項15】
Hey2遺伝子または前記Hey2遺伝子の遺伝子産物の発現量を検出する工程を含むことを特徴とする、血管新生制御組成物のスクリーニング方法。
【請求項16】
jdp2遺伝子または前記jdp2遺伝子の遺伝子産物の発現量を検出する工程を含むことを特徴とする、血管新生制御組成物のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記血管新生制御組成物は、癌、糖尿病、関節リウマチ、慢性炎症または動脈硬化の医薬組成物であることを特徴とする、請求項15または16に記載の血管新生制御組成物のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−1675(P2013−1675A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133895(P2011−133895)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000173566)一般財団法人 化学物質評価研究機構 (14)
【Fターム(参考)】