説明

血管新生治療のための自己性または同種性前駆細胞の馴化培地

骨髄、末梢血、または脂肪組織から得られた単離された血管新生前駆細胞の混成分泌産物を含む無細胞馴化培地を含む、治療用組成物が提供される。本組成物はさらに、培養下にある前駆細胞に血管新生促進導入遺伝子をトランスフェクトすることによって得られる血管新生促進タンパク質を含んでもよい。本組成物は、患者における心筋または末梢肢などの虚血部位またはその付近に導入された場合に血管新生を促進するのに有用である。血管新生促進タンパク質を患者に対して送達するためにこのような無細胞馴化培地を利用するための方法も提供される。また、無細胞馴化培地を、虚血組織に対する送達のために血流中に注入することもできる。細胞は、自己性または同種性いずれの源に由来していてもよく、保存のために凍結乾燥または凍結してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本出願は、一般に、さまざまな疾患の治療に骨髄細胞を用いる方法、より具体的には、側副血管形成(血管新生)および組織灌流を増強するための、自己性および同種性の血管新生前駆細胞に由来する馴化培地の使用を対象とする。本出願は骨髄細胞の使用について述べるが、これには末梢血から、または脂肪組織を含む他の組織から単離された細胞を含む、血管新生前駆細胞全般からの馴化培地も該当するものとする。
【0002】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)項に基づき、2004年9月8日に提出された米国特許出願第60/608,272号の恩典を主張し、そのすべての内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
心筋の側副血管の機能を増強するために組換え遺伝子または増殖因子を用いることは、心血管疾患の治療への新たなアプローチとなる可能性がある。Kornowski, R., et al.,「Delivery strategies for therapeutic myocardial angiogenesis」, Circulation 2000;101:454-458(非特許文献1)。この概念は心筋虚血の動物モデルで実証されており、さらに臨床試験が進行中である。Unger, E.F., et al.,「Basic fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model」, Am J Physiol (1994) 266:H1588-1595(非特許文献2);Banai, S. et al.,「Angiogenic-induced enhancement of collateral blood flow to ischemic myocardium by vascular endothelial growth factor in dogs」, Circulation (1994) 83:2189(非特許文献3);Lazarous, D.F., et al.,「Effect of chronic systemic administration of basic fibroblast growth factor on collateral development in the canine heart」, Circulation (1995) 91:145-153(非特許文献4);Lazarous, D.F., et al.,「Comparative effects of basic development and the arterial response to injury」, Circulation (1996) 94:1074-1082(非特許文献5);Giordano, F.J., et al.,「Intracoronary gene transfer of fibroblast growth factor-5 increases blood flow and contractile function in an ischemic region of the heart」, Nature Med (1996) 2:534-9(非特許文献6)。Guzman, R.J., et al.,「Efficient gene transfer into myocardium by direct injection of adenovirus vectors」, Circ Res (1993) 73:1202-7(非特許文献7);Mack, C.A., et al.,「Biologic bypass with the use of adenovirus-mediated gene transfer of the complementary deoxyribonucleic acid for VEGF-121, improves myocardial perfusion and function in the ischemic porcine heart」, J Thorac Cardiovasc Surg (1998) 115:168-77(非特許文献8)。
【0004】
例えば、血管新生因子の直接的な術中心筋内注入が側副枝の機能に及ぼす効果が、心筋虚血の動物モデルで研究されている。血管新生ペプチドをコードする導入遺伝子を含むアデノウイルスベクターの開胸式経心外膜投与は、側副枝機能の増強を引き起こした(Mack et al., 前記)。患者の開心術中に血管新生ペプチドまたはプラスミドベクターの直接的な心筋内注入を行っても血管新生が起こることが報告された。Schumacher, B., et al.,「Induction of neoangiogenesis in ischemic myocardium by human growth factors. First clinical results of a new treatment of coronary heart disease」, Circulation (1998) 97:645-650(非特許文献9);Losordo, D.W., et al.,「Gene therapy for myocardial angiogenesis:initial clinical results with direct myocardial injection of phVEGF165 as sole therapy for myocardial ischemia」, Circulation (1998) 98:2800(非特許文献10)。
【0005】
心臓または末梢肢における循環疾患の患者を治療するための新たな様式として治療的血管新生は有望ではあるものの、当技術分野においては、臨床的に関連する治療的血管新生応答を最適に促進する新規かつよりよい治療戦略を未だに必要としている。
【0006】
【非特許文献1】Kornowski, R., et al.,「Delivery strategies for therapeutic myocardial angiogenesis」, Circulation 2000;101:454-458
【非特許文献2】Unger, E.F., et al.,「Basic fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model」, Am J Physiol (1994) 266:H1588-1595
【非特許文献3】Banai, S. et al.,「Angiogenic-induced enhancement of collateral blood flow to ischemic myocardium by vascular endothelial growth factor in dogs」, Circulation (1994) 83:2189
【非特許文献4】Lazarous, D.F., et al.,「Effect of chronic systemic administration of basic fibroblast growth factor on collateral development in the canine heart」, Circulation (1995) 91:145-153
【非特許文献5】Lazarous, D.F., et al.,「Comparative effects of basic development and the arterial response to injury」, Circulation (1996) 94:1074-1082
【非特許文献6】Giordano, F.J., et al.,「Intracoronary gene transfer of fibroblast growth factor-5 increases blood flow and contractile function in an ischemic region of the heart」, Nature Med (1996) 2:534-9
【非特許文献7】Guzman, R.J., et al.,「Efficient gene transfer into myocardium by direct injection of adenovirus vectors」, Circ Res (1993) 73:1202-7
【非特許文献8】Mack, C.A., et al.,「Biologic bypass with the use of adenovirus-mediated gene transfer of the complementary deoxyribonucleic acid for VEGF-121, improves myocardial perfusion and function in the ischemic porcine heart」, J Thorac Cardiovasc Surg (1998) 115:168-77
【非特許文献9】Schumacher, B., et al.,「Induction of neoangiogenesis in ischemic myocardium by human growth factors. First clinical results of a new treatment of coronary heart disease」, Circulation (1998) 97:645-650
【非特許文献10】Losordo, D.W., et al.,「Gene therapy for myocardial angiogenesis:initial clinical results with direct myocardial injection of phVEGF165 as sole therapy for myocardial ischemia」, Circulation (1998) 98:2800
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、最適な側副枝発達には、数百種ではないにせよ数十種の遺伝子の差次的発現を伴う、多数の複雑なプロセスが必要であるという前提に基づく。この概念に基づけば、側副血管の最適な発達および組織灌流を、コードされる産物が血管新生に関係することが知られている単一のタンパク質または単一の遺伝子の投与によって達成することはできず、さらに、血管新生プロセスの複雑性のため、複数の血管新生関連タンパク質または遺伝子の組み合わせの投与によっても達成することができないことになる。本発明は、血管新生および側副血管形成に関与する増殖因子およびサイトカインを、時間および濃度に依存した、協調的で、かつ適切な順序で増殖培地中に分泌するという、ある一定の血管新生前駆細胞の能力に依拠する。
【0008】
最近試験されているほとんどの治療アプローチは、単一の血管新生増殖因子(例えば、VEGF、FGF、アンジオポエチン1)を虚血組織に送達することに焦点を当てている。これは、多様なベクターを用いた最終産物(例えば、タンパク質)の送達、または遺伝子導入のいずれかによって実現しうる。しかし、新たな血管形成の開始および維持のためには、複数の増殖因子系の間の複雑な相互作用がおそらく必要であろうと考えられている。より具体的には、新たな血管の形成および機能の開始および維持のために、協調し、かつ時宜を得た様式で相互作用する種々の血管新生サイトカインにより、特定の局所的な血管新生環境が誘導されることが重要であると考えられている。
【0009】
したがって、1つの態様において、本発明は、側副血管の発達を、それを必要とする患者において増強するために有用な組成物を生成するための方法であって、単離された自己性または同種性の血管新生前駆細胞を、適した培養条件下で、適した培地中にて、血管新生前駆細胞による混成分泌産物を含む馴化培地の生成を促進するのに十分な期間にわたって増殖させることによる方法を提供する。馴化培地は、血管新生前駆細胞の混成分泌産物の混合物を含む無細胞馴化培地へと加工処理される。患者における血流障害のある組織の内部または付近の部位に注入されると、無細胞培地を含む組成物は組織中での側副血管の発達を促進する。
【0010】
もう1つの態様において、本発明は、血流障害を有する組織への供給路である側副枝が発達しつつある部位に注入された場合に、血流障害部位を有する患者において側副血管の発達を増強するために有用な治療用組成物を提供する。本発明の治療用組成物はサイトカインの混合物を含む無細胞培地を含み、無細胞培地は、単離された同種ドナー前駆細胞を、適した増殖培地中にて、前駆細胞による増殖産物の混合物の産生を促進するのに適した条件下で増殖させることによって生成される。続いて、馴化培地は、そこから細胞を除去して無細胞馴化培地を得るために加工処理される。
【0011】
さらにもう1つの態様において、本発明は、容器内に含められた本発明の治療用組成物と;哺乳動物における血流障害部位の内部または付近で側副血管の発達を増強するための組成物の使用説明書とを含むキットを提供する。
【0012】
さらにもう1つの態様において、本発明は、血流障害部位を有する患者における側副血管形成を増強するための方法であって、心臓または肢の虚血組織といった、患者における血流障害を有する組織に対する供給路となる側副枝が発達しつつある部位に対して、側副血管形成を増強するのに十分な量の本発明の組成物を直接投与することによる方法を提供する。
【0013】
発明の詳細な説明
骨髄(BM)は、血管新生プロセスの制御に関与する広範囲にわたるサイトカイン(例えば、増殖因子)および細胞の天然の源である。このため、自己(A)BMもしくはそれに由来する骨髄細胞、または細胞を培養下で増殖させた際のこれらの細胞に由来する培地の、多くの血管新生因子を時宜を得た様式(time-appropriate manner)で分泌するというこれらの細胞の自然に備わった能力を利用することによる送達は、虚血性の心筋および末梢肢における、ならびに血流障害を来しているその他の組織における、治療的な側副枝の発達を実現するための最適な介入をもたらす。
【0014】
しかし、自己骨髄を入手して培養するために必要な時間は、このような病状の治療のための骨髄の使用を過度に遅らせる可能性がある。場合によっては、患者の年齢のために、自己骨髄を満足できるほど利用できないこともある。心筋梗塞の場合には、時間が考慮される重要な要因であると思われる。しかし、免疫応答があるため、自己細胞以外のものを用いるには、患者によって細胞が拒絶されないと考えられる「マッチした」ドナーを見つける必要があることが知られている。
【0015】
本発明は、骨髄から得られるもの(ただしこれには限定されない)などの自己性または同種性前駆細胞のインビトロでの増殖に由来する無細胞培地を、この馴化培地が組織中での側副血管の成長に関与する前駆細胞によって分泌される多くの血管新生因子の患者の組織への送達をもたらすという理由から、細胞それ自体の代わりに用いることができるという発見に基づく。本発明の方法および組成物に用いるのに適した前駆細胞を、例えば、末梢血、または脂肪組織を含む他の組織から得ることもできる。本発明の無細胞培地は、単離された同種性または自己性前駆細胞を、適した条件下で、前駆細胞が混成分泌産物を馴化培地中に分泌するのに十分な時間にわたって培養することによって生成される。続いて馴化培地を、混成分泌産物を含む無細胞培地を得るために加工処理する。赤血球のみの型判定および交差試験を行うような輸血のためのドナー血液の調製の場合と同じように、投与されるその他の細胞、ならびに血漿は、型判定を何ら行うことなく投与される。これらの産物のいずれかに対する重篤なアレルギー反応の発生率は極めて低い。同種性または自己性の源による細胞に由来する無細胞馴化培地は、種々のドナーから得られる血清または血漿と同程度にアレルゲンを含まないとみなすことができる。
【0016】
無細胞培地中に残留するサイトカインは、多くのタンパク質のサイズと比較して相対的に低分子であり、このため、哺乳動物の身体が非自己と認識して免疫応答につながるという特徴を有しない。細胞とサイトカインのサイズの違いのため、増殖培地の濾過により、または遠心分離処理、例えば10k×gで5分間、により、増殖培地から細胞を除去して無細胞培地を得ることは容易である。無細胞培地を凍結または凍結乾燥などによってさらに加工処理し、取り扱い、保存および流通が便利になるように小さな容器内に入れてもよい。当業者は、凍結または凍結乾燥された無細胞培地は、患者への投与のための他の種類の血液細胞および血液製剤を調製するのに適することが当技術分野で公知である手法を用いて、滅菌水、生理食塩液などの液体の添加により、使用のために直ちに再構成されることを理解しているであろう。
【0017】
骨髄(BM)は、血管新生プロセスの制御に関与する広範囲にわたるサイトカイン(例えば、増殖因子)および細胞の天然の源であり、これらは本明細書において便宜上「混成分泌産物」と総称される。このため、自己(A)BMまたはそれに由来する骨髄細胞の、多くの血管新生因子を時宜を得た様式で分泌するというこれらの細胞の自然に備わった能力を利用することによる心筋内注入は、虚血心筋における治療的な側副枝の発達を実現するための最適な介入をもたらす。
【0018】
本発明は、血管新生発達と関連のある自己性または同種性前駆細胞を、内因性に分泌された混成分泌産物を含む無細胞馴化培地を調製するために用いうるという発見を利用することにより、当技術分野における進歩を示す。加えて、このような自己性または同種性前駆細胞の少なくとも一部に、血管新生タンパク質(すなわち、虚血組織の領域に対する側副血液供給を発達させる標的組織の能力を増強するサイトカイン、増殖因子または転写因子)のうち1つまたは複数をコードするポリヌクレオチドをトランスフェクトすることもできる。このような細胞トランスフェクションは、細胞の混成分泌産物のうち1つもしくは複数の濃度を上昇させるか、または細胞によって生成される馴化培地に対して、1つもしくは複数の別の血管新生または動脈形成(arteriogenic)タンパク質を追加すると考えられる。トランスフェクトされた前駆細胞のインビトロでの増殖中に、これらの遺伝子産物は馴化培地に追加され、それ故に、自己性または同種性前駆細胞が増殖することによって生じる馴化培地の治療効果に貢献すると考えられる。これらの混成因子および増殖産物の非限定的な例には、顆粒球-単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)および低酸素誘導因子-1(HIF-1)がある。トランスフェクトされた前駆細胞は、無細胞馴化培地を生成するための加工処理の際に馴化培地から除去されると考えられる。
【0019】
代替的または追加的に、本明細書に記載したようにして得られたこのような前駆細胞に対して、一酸化窒素シンターゼ(NOS)の1つまたは複数の種をコードする遺伝子をトランスフェクトすることができる。「NOS遺伝子」または「NOSをコードするポリヌクレオチド」とは、これらの用語が本明細書で用いられる場合、誘導NOS(iNOS)および内皮NOS(eNOS)を含むNOSの公知のアイソフォームのいずれかをコードする遺伝子のほか、いずれもより強力な血管新生作用を引き起こす、発現の規模が変化するように、または変化したタンパク質中をコードするように変異したNOS遺伝子のことを意味する。
【0020】
前駆細胞の少なくとも一部に、NOSをコードするポリヌクレオチドを形質導入することの根拠は、同定されている血管新生作用因子のうち効力の高いものの一つであるVEGFが、NOSシグナル伝達経路を介して働くという事実による。例えば、VEGFは、NOS遺伝子がノックアウトされたマウスでは血管新生を誘導できないことが示されている。さらに、NOSのタンパク質産物である一酸化窒素(NO)は、血管新生を誘導し、さらに、その多くが血管新生に関与する多くの異なる遺伝子の発現を誘導するという多数の作用を有する。したがって、前駆細胞に対してNOSをコードするポリヌクレオチドをトランスフェクトすることは、本明細書に記載の混成分泌産物を分泌し、さらに多数の血管新生関連遺伝子の発現を刺激するという細胞の内在的能力を増強する。
【0021】
側副血管の発達を増強する前駆細胞の能力を増強する能力を有するものとして本発明が記載する遺伝子のもう1つのファミリーは、線維芽細胞増殖因子(FGF)のファミリーである。この遺伝子のファミリーは、14種を上回る密接な関連のある遺伝子を含み、これにはFGF 1、FGF 2、FGF 4およびFGF 5が非限定的に含まれる。骨髄細胞に対してFGFファミリーの1つの遺伝子の形質導入を行う根拠は、FGFが血管新生の強力な刺激物質であることが知られていることによる。FGFはまた、多数の別の遺伝子の発現も刺激し、それらのタンパク質産物の多くは血管新生を誘導することができる。
【0022】
単球/マクロファージによって発現されるPR39遺伝子も、本明細書に記載されたように、前駆細胞に対して、それらによって生成される無細胞馴化培地が側副枝形成を向上させる能力を増強するために移入するのに適している。馴化培地をPR39の遺伝子産物で強化することの根拠は、このタンパク質がHIF-1αのプロテアソーム分解を阻害し、インビトロで血管構造の形成を加速させ、マウスにおいて心筋血管構造を増大させるという事実による。HIF-1αの定常レベルを高めることにより、HIF-1関連遺伝子の発現を誘導する転写因子であるヘテロ二量体――HIF-1α/HIF-1β――が形成される。これらの遺伝子のうち多くのタンパク質産物は、血管新生の発達を促進する。この戦略――HIF-1αの定常レベルを高めること――の根拠は上に詳述されている。
【0023】
本発明の馴化培地の調製に用いられる前駆細胞に対して、エクスビボで、血管新生サイトカイン増殖因子または哺乳動物血管新生促進因子の導入遺伝子、例えばHIF-1もしくはEPAS1導入遺伝子、またはPR39もしくはNOSもしくはFGFファミリーのメンバーをコードする導入遺伝子などを保有するプラスミドベクターまたはアデノウイルスベクターを、細胞が増殖することに由来する馴化培地中でのそれらの発現を目的としてトランスフェクトすることができる。そのように生成された培地を加工処理して無細胞馴化培地を得、本明細書に記載されるように血管新生を改善するために治療部位に注入する。
【0024】
細胞の接種は、1つまたは複数の導入遺伝子を含む1つまたは複数のベクターの存在下での数時間の期間にわたる細胞の培養後に行われ、接種された細胞は約12時間〜3日後に導入遺伝子の産物を産生しはじめる。または、前駆細胞を、1つまたは複数の血管新生サイトカイン、増殖因子および/または哺乳動物細胞における血管新生を促進する因子をコードするベクターとともに、当技術分野で公知の任意の方法によって接種することもできる。用いるベクターは当技術で公知である任意のものから選択することができ、これには本明細書に記載したものが非限定的に含まれる。適した培養条件は当技術分野で周知であり、本明細書中の実施例に記載されたものが非限定的に含まれる。
【0025】
本明細書に記載されたようなトランスフェクトされた、またはトランスフェクトされていない前駆細胞の増殖によって得られる無細胞馴化培地の有効量を、患者における所望の部位に対して、患者のその部位での側副血管形成を増強するために直接投与すること(すなわち、注入すること)ができる。本発明の馴化培地の投与のために特に有効な部位には、心臓および/または末梢の虚血組織における側副枝依存的灌流を増強するための、心筋または骨格筋が含まれる。このような細胞に由来する無細胞馴化培地を、その中に含まれる混成分泌産物および任意の刺激性血管新生タンパク質が血液により所望の部位へと送達されるように、血管系に注入することもできる。
【0026】
刺激性血管新生タンパク質をコードするポリヌクレオチドには、コードされる産物を細胞膜を越えて「輸送」することができるシグナル配列が「機能的に付け加え」られていても、または「機能的に付随し」ていてもよい。多様なこの種のシグナル配列が公知であり、かつ当業者によって過度の実験を行わずに使用されうる。
【0027】
このような目的が企図される遺伝子導入ベクター(「発現ベクター」とも称する)は、核酸を、その発現および/または複製のために宿主細胞中に輸送するために用いられる組換え核酸分子である。発現ベクターは環状または直鎖状のいずれでもよく、かつ内部にさまざまな核酸構築物を組み入れることが可能である。発現ベクターは典型的には、適切な宿主細胞中に導入された場合に挿入された核酸の発現を引き起こすプラスミドの形態をとる。
【0028】
遺伝子治療に用いるのに適したウイルスベクターが、個別の宿主系、特に哺乳動物系における使用を目的として開発されており、これには例えば、レトロウイルスベクター、その他のレンチウイルスベクター、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどに基づくものが含まれる(Miller and Rosman, BioTechniques 7:980-990, 1992;Anderson et al., Nature 392:25-30 Suppl., 1998;Verma and Somia, Nature 389:239-242, 1997;Wilson, New Engl. J. Med. 334:1185-1187 (1996)を参照のこと。これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる)。好ましい遺伝子導入ベクターは、進行性動脈閉塞症に罹患している対象において首尾よく使用され、その対象の側副動脈の発達を生じさせる、1つまたは複数の導入遺伝子を保有する複製能欠損アデノウイルスである(Barr et al.,「PCGT Catheter Based Gene Transfer Into the Heart Using Replication-Deficient Recombinant Adenoviruses」, Journal of Cellular Biochemistry, Supplement 17D, p.195, Abstract P101(Mar. 1993);Barr et al.,「Efficient catheter-mediated gene transfer into the heart using replication-defective adenovirus」, Gene Therapy (1994) 1:51-58)。
【0029】
複数のさまざまな遺伝子導入アプローチが実施可能であり、これにはヘルパー非依存的な複製能欠損ヒトアデノウイルス5系が含まれる。ヒトアデノウイルス5をベースとする組換えアデノウイルスベクター(Virology (1988) 163:614-6l7)は、アデノウイルスゲノムのうち必須な初期遺伝子を欠いており(通常はE1A/E1B)、このため、欠けている遺伝子産物をトランス性に与える許容性細胞系統の中で増殖させなければ、複製することはできない。欠けているアデノウイルスゲノム配列の代わりに関心対象の導入遺伝子をクローニングし、複製能欠損アデノウイルスに感染させた組織/細胞中で発現させることができる。アデノウイルスを利用した遺伝子導入は宿主ゲノム中への導入遺伝子の組込みはもたらさず(アデノウイルスを介したトランスフェクションのうち導入遺伝子の宿主DNA中への組み入れが起こるのは0.1%)、このため安定ではないが、アデノウイルスベクターは高い力価で増殖させることができ、非複製性細胞にもトランスフェクトすることができる。アデノウイルスベクターが投与される虚血性の心筋または骨格筋において側副枝発達の増強をもたらのに必要なのは、血管新生促進導入遺伝子の一過性発現のみであることが研究により示されている。
【0030】
しかし、無細胞馴化培地を得るための加工処理の間に、関心対象のベクターおよび導入遺伝子が馴化培地から除去され、それ故に遺伝子治療の用途において遭遇する可能性のある問題が実質的に回避されると考えられることは、本発明の特別な特徴である。
【0031】
血管新生前駆細胞の少なくとも一部に導入される外因性核酸の量は、公知の原理に従って当業者による変更が可能である。例えば、遺伝子導入を実現するためにウイルスベクターを用いる場合には、トランスフェクトしようとする細胞に導入する核酸の量を、ウイルスベクターのプラーク形成単位(PFU)の量を変更することによって変更することができる。
【0032】
自己性または同種性前駆細胞の無細胞馴化培地は、それ単独でまたは刺激性血管新生タンパク質とともに、心筋または虚血肢に対する側副血管形成の発達、それ故に側副血流を増強および/または促進するために、経心内膜的または経心外膜的アプローチのいずれかを介して、患者に対して、虚血性および/または非虚血性の心筋に直接的に、または任意のその他の虚血組織(末梢肢を含む)に直接的に送達することができる。また、このアプローチを、心筋形成のプロセスによる、新たに移植された脱分化および/または分化した心筋細胞の発達を促進するために用いることもできる。
【0033】
したがって、本発明のさまざまな態様によれば、培養下にある増殖中の前駆細胞に由来する無細胞馴化培地を、細胞に血管新生タンパク質の産生をさらに増強するための導入遺伝子がトランスフェクトされたか否かにかかわらず、「単独」の治療用組成物として、または任意の適した薬理作用薬または追加的なサイトカインと組み合わせて注入する。例えば、無細胞培地を、血管の発達および形成を促進する血管新生増殖因子の添加によって補強することもできる。例えば、7〜10日間(またはそれ以上)にわたるインビトロでの増殖後に、骨髄由来前駆細胞(この期間の後に増殖している細胞系統は数種しかないと思われる)は数多くのサイトカインを分泌すること――これは、細胞をインビトロで低酸素状態に曝露するか、またはHIF-1、特にHIF-1αもしくはMCP-1、もしくは低酸素に対する細胞応答に関与する細胞シグナル伝達経路を刺激するその他の分子と接触させた場合に増大させうる効果である――が見いだされている。血流障害領域の付近の組織中、またはこのような虚血組織に対する供給路となる発達中の側副枝を含む組織中に注入されると、馴化培地中のこれらの分泌されたサイトカインは、血管の増殖およびリモデリングを刺激する。これらは新たな血管でもよく(血管新生)、または組織中に存在しているが実質的な血流が生じるには細すぎる血管でもよい(動脈形成)。したがって、本発明は、本発明の治療用組成物が注入される組織の細胞の分化転換に依拠するのではなく、新たな血管の形成または既存の極めて細い血管の拡張を刺激することに依拠する。この概念は研究室で検討されており、妥当であることが示されている。
【0034】
本明細書で用いる場合、「骨髄細胞」という用語は、吸引した骨髄の細胞増殖条件下での増殖によって生じる任意の細胞のことを意味する。驚いたことに、本明細書中の実施例に記載されていて当技術分野でも公知であるような、適した増殖培地中での7〜10日間(またはそれ以上)にわたる増殖の後に、既存の細胞系統は漸減して少数の前駆細胞系統が残る。これらの骨髄由来前駆細胞系統は、混成分泌産物を馴化培地中に分泌する原因となり、本明細書中の実施例に記載されていて当技術分野でも公知であるようにして単離することができる。馴化培地は7〜10日間の増殖の後に収集することもでき、または既存の培地を取り出して廃棄し、細胞をさらに1〜7日間(またはそれ以上)にわたって培養した上で新たな馴化培地を収集し、無細胞培地を生成するために加工処理して、本発明の通りに用いることもできる。
【0035】
任意で、初期の細胞増殖培地から、少なくとも1つの識別用表面マーカーの存在に基づく細胞スクリーニング法を用いて、骨髄前駆細胞を単離することもできる。例えば、骨髄から得られた血管新生前駆細胞を、例えばCD34+細胞を選別することによって初期増殖培地から単離することができる。または、CD34-細胞を選別して選択することもできる。続いて、単離された細胞を、本明細書に記載の馴化培地を生成するために増殖させる。前駆細胞が末梢血および脂肪組織を含む他の組織に由来する場合には、同様の(しかし必ずしも同一でなくてもよい)方法を用いることができる。続いて、単離された細胞を、本明細書に記載の馴化培地を生成するために増殖させる。
【0036】
培養下での増殖中に前駆細胞によって分泌されるサイトカインの混合物の非限定的な例には、VEGF、FGF、単球走化性タンパク質(MCP-1)、マクロファージ特異的コロニー刺激因子(M-CSF)、および胎盤由来増殖因子(PIGF)がある。分泌されるサイトカインのより完全な表は、以下の表1に見られる。
【0037】
(表1)骨髄由来ストロマ細胞による血管新生促進性(proangiogenic)/動脈形成促進性(proarteriogenic)遺伝子産物の発現

MCP-1=単球走化性タンパク質-1;M-CSF:マクロファージ特異的コロニー刺激因子;VEGF=血管内皮増殖因子;EC=内皮細胞;およびSMC=平滑筋細胞。
【0038】
研究により、血管新生は、骨髄の機能、ならびに循環路に入って創傷治癒および/または虚血の部位を標的として最終的には新たな血管の形成に寄与する、幹細胞および前駆細胞を含む造血細胞の発達を支えるために必要であることが示されている。成人骨髄から単離された未分化間葉前駆細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体は、発達中の微小血管系の細胞表面マーカーを認識し、知見からはこの種の細胞が胚の血管新生に役割を果たす可能性が示唆されている(Fleming, J.E., Jr., Dev Dyn (1998) 212:119-32)。
【0039】
このため、ドナーの骨髄、脂肪組織もしくは末梢血またはそれらの組み合わせから得られた前駆細胞は「混成分泌産物」の天然の源をもたらし、このような単離された前駆細胞を増殖させることによって生成される馴化培地は、驚いたことに、その中の強力な相互作用性増殖因子の混合物の存在が原因となって治療的血管新生を生じさせるために利用することができると考えられる。加えて、ここで、驚いたことに、このような単離された前駆細胞が培養された無細胞馴化培地も、治療的な血管新生および/または筋形成を生じさせる、増殖因子タンパク質を含む混成分泌産物を含むことが見いだされている。さらに、心臓または末梢肢の虚血組織などにおける血流障害を患っている患者に対する治療効果は、罹病組織または付近の非罹患組織に対して、このような単離された自己性または同種性前駆細胞を前駆細胞によって増殖培地中に混成分泌産物が分泌されるのに適した期間にわたって培養し、増殖培地を加工処理して細胞を除去することにより生成された無細胞馴化培地を、側副血管の発達をもたらす治療的な血管新生および/または筋形成を生じさせるために投与することによって、もたらすこともできる。
【0040】
ヒト皮下脂肪組織に由来するストロマ細胞は造血を支えると考えられることが以前に示されている(Storms et al. Blood (2000) 96:685aおよびBlood (2001) 98:851a)。また、流血中の前駆細胞を末梢血から収集しうることも知られている。ドナーを造血性増殖因子で前処理することにより、これらのプロトコールにおける流血中の前駆細胞(PBPC)の数を有意に増加させることができる。このような動員(mobilization)の後には、ドナーから培養のために十分な細胞を得るために必要なのは3種類のアフェレーシス(aphaeresis)のうち1つのみである。本発明の方法に用いるためには、標準的なアフェレーシス法またはその他の標準的な手法によってPBPCを収集し、液体窒素中で凍結保存する。骨髄採取と比較して、自己性または同種性PBPCの収集は、外来状況で行うことができ、麻酔を必要としない上、本発明の治療方法に用いるための無細胞馴化培地を得るために培養するのに十分な前駆細胞を得るために必要になる都度、反復することができる。また、骨髄採取と比較して、脂肪組織からの自己性または同種性前駆細胞の収集はより簡単に行うことができる。
【0041】
DMSOは、末梢血前駆細胞(PBPC)を凍結させるためのプロトコールに通常用いられる凍結保護剤である。PBPCを培養の前に凍結させる場合には、患者に注入された時にDMSOがいくつかの望ましくない副作用を引き起こすおそれがあるため、解凍プロトコールは、解凍したPBPCを1250gで1.5分間遠心分離し、DMSOを洗い流すためにそれらを同じ条件でもう一度洗浄することからなる。洗浄液は、NaCl-グルコース緩衝液+10%ACDである。標準的なFACS法により、有核細胞の総数および特定の細胞種の割合を決定することができる。
【0042】
前駆細胞の源としてあまりよく知られていないものに、体脂肪の発達に伴って新血管形成を受けるヒト脂肪組織(AT)がある。ヒトのAT由来ストロマ血管画分では、CD34+/CD31-細胞集団の存在が同定されており、インビトロで幹細胞の分化可塑性を呈することが示されている。このような流血中前駆細胞(CPC)の血管新生能力を示すために、後肢虚血のマウスモデルが用いられている(A. Miranville et al., Institut fur Kardiovaskulare Physiologie, JW Goethe Universitat, Frankfurt am Main)。ヌードマウスの表在大腿動脈と深部大腿動脈との連結から24時間後に、新たに単離したCD34+/CD31-細胞を静脈内注入した。2週間後に、CD34+/CD31-細胞の注入後には、CD34-/CD31-細胞の注入後または細胞を注入しなかった場合と比較して虚血肢の相対的血流の統計学的に有意な増加が観察された。この研究により、異種からのAT由来の単離CPCが血管新生効果を発揮することが示された。もう1つの研究により、ヒト皮下脂肪組織から単離された脂肪ストロマ細胞(ASC)が、細胞106個当たり1203 +/- 254pgの血管内皮増殖因子(VEGF)、細胞106個当たり12280 +/- 2944pgの肝細胞増殖因子および細胞106個当たり1247 +/- 346pgのトランスフォーミング増殖因子-βを分泌することが示された。ASCを低酸素条件下で培養したところ、VEGFの分泌は5倍に増加した(P=0.0016)。低酸素ASCから得た馴化培地は内皮細胞の増殖を有意に増加させた(P<0.001)。虚血後肢を有するヌードマウスは、ヒトASCが投与された場合、顕著な灌流の改善(P<0.05)を示した(Rehman J, et al. Circulation (2004) Mar 16;109(10):1292-8)。このような非自己細胞に由来する無細胞馴化培地もまた、哺乳動物組織における側副血管発達を増強するために用いうることは、本発明の1つの局面である。
【0043】
虚血に応答した血管新生の開始に関与している可能性が最も高い血管新生促進因子の1つはHIF-1であり、これは低酸素に対する応答に関与するいくつかの遺伝子のプロモーターと結合してそれらを刺激する強力な転写因子である。HIF-1の誘導および活性化は組織pO2によって厳密に制御されている。HIF-1の発現はpO2の低下に伴って指数的に増加し、それにより、pO2が低下すると低酸素環境に対する適応応答としての役を果たす遺伝子産物の発現が増加するという正のフィードバックループがもたらされる。HIF-1の活性化は、例えば、エリスロポエチン、解糖に関与する遺伝子の誘導およびVEGFの発現を導く。HIF-1はまた、低pO2レベルに対する適応応答に関与する他の多くの遺伝子の発現も調節すると考えられている。HIF-1は、低酸素に対する応答に関与するタンパク質のレベルを、低pO2に応答する遺伝子の転写調節によって調節し、これらの遺伝子は、HIF-1結合部位を含むプロモーターまたはエンハンサー領域の内部に、低酸素応答エレメント(HRE)と呼ばれる短いDNA配列を有する。
【0044】
HIF-1の発現が(HeLa細胞における評価で)pO2と指数的および逆相関的な関係にある一方で、曲線の変曲点が酸素飽和度5%にあり、最大活性が0.5%、最大活性の1/2が1.5〜2.0%にあることは重要である。このような低酸素組織環境における骨髄細胞による血管新生因子の分泌および側副枝の発達の増強を引き起こす低酸素誘導血管新生遺伝子の発現をアップレギュレートするような、このような比較的低レベルの低酸素状態は、軽度の心筋虚血または下肢虚血の存在下―すなわち、組織壊死(それぞれ心筋梗塞および下腿潰瘍など)の非存在下で存在するレベル―では起こらないように思われる。このため、本発明の1つの態様は、骨髄細胞における低酸素応答遺伝子の産生を刺激するための方法であって、1)本明細書に記載した本発明の自己性または同種性馴化培地、および2)より高レベルのp02の存在下で分解されず、そのため恒常的に活性を有する改変型のHIF-1をコードする遺伝子がトランスフェクトされた前駆細胞、を同時投与することによる方法を提供する。
【0045】
低酸素状態の非存在下におけるHIF-1αの不安定性を理由として、それに対して正常酸素条件下でも恒常的な活性を確保させるために、以下の実施例8に記載したように、HIF-1α由来のDNA結合ドメインおよび二量体化ドメイン、ならびに単純ヘルペスウイルスVP16タンパク質由来のトランス活性化ドメインからなるHIF-1α遺伝子のキメラ構築物が構築されている。このVP16ドメインはHIF-1Iにおけるユビキチン化部位を無効化し、それによってこのタンパク質のプロテアソーム性分解を消失させる。このため、この結果得られる安定したレベルのHIF-1αは、HIF-1が標的とする遺伝子の恒常的なトランス活性化を導く。HIFのこの型および機能的に関連した型(HIF-2など)の発現、またはHIF経路に作用して機能的に同様な影響をもたらす因子の発現により、骨髄由来の馴化培地中に存在する低酸素誘導血管新生遺伝子の最適な発現が得られると考えられる。さらに別の態様においては、補足的なHIF-1または関連物質を前駆細胞由来の馴化培地に対してその投与前に添加することができ、またはHIF-1をタンパク質もしくは遺伝子のいずれかとして別個に注入することもできる。後者としての場合には、HIF-1をプラスミドもしくはウイルスベクターのいずれかとして、または機能的に適切なタンパク質レベルの存在を導くような任意の他の様式で注入することができる。
【0046】
HIF-1(またはHIF-1I構築物)の転写活性は、VEGF、VEGFR1、VEGFR2、Ang-2、Tie-1および一酸化窒素シンターゼを含む、低酸素に対する細胞の応答に関与する多くの遺伝子のプロモーターに存在する特異的なDNA低酸素応答認識エレメント(HRE)との結合に由来する。このため、HIF-1は、虚血に対する組織応答の連携において中心的な役割を果たす。
【0047】
しかし、HIF-1が、前駆細胞による血管新生物質の産生を増強しうる介入の一例として用いられることは強く主張される。本発明はまた、HIF-1活性を増強すること(すなわち、その半減期を延長させること)により、またはHIF-1に類似した効果をもたらすことにより、前駆細胞、例えば骨髄から得られた前駆細胞を刺激して、血管新生因子の発現を増加させる、その他の血管新生作用因子の使用も範囲に含む。
【0048】
さらにそのほかの態様において、本発明の治療用無細胞培地は、単離された血管新生前駆細胞を内皮PASドメインタンパク質1(EPAS1)に対して曝露することによって調製される。EPAS1はHIF-1と高度の構造的および機能的な相同性を有し、HIF-2としても知られている。HIF-1と同じように、培地の血管新生活性を刺激するために、補足的なEPAS1を前駆細胞由来の馴化培地に対して培地の注入前にエクスビボで直接添加することができ、またはEPAS1を、本発明の方法に従って治療しようとする対象に対してタンパク質もしくは遺伝子のいずれかとして別個に注入することもできる。
【0049】
本発明によるもう1つの態様においては、HIF-1によりVEGFプロモーター活性を刺激するために、自己性または同種性前駆細胞をエクスビボの増殖培地中で低酸素状態または他の形態のエネルギー、例えば、超音波、RFまたは電磁エネルギーに曝露することができる。この介入はVEGFおよび他の遺伝子の発現を増加させる。
【0050】
最新のデータは、側副枝機能を高める上での単球由来サイトカインの重要性も示している。単球はインビボでの側副枝成長過程において活性化され、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)はインビトロでの剪断ストレスによってアップレギュレートされる。単球は側副血管成長(動脈形成)および毛細血管出芽(血管新生)の過程において血管壁に付着することが示されている。MCP-1はまた、ウサギ慢性後肢虚血モデルにおける大腿動脈閉塞後の側副枝の成長を増強することが示されている(Ito et al., Circ Res (1997) 80:829-3)。単球の活性化は、側副枝の成長ならびに毛細血管の出芽において重要な役割を果たすように思われる。LPSによる単球のリクルートメントの増加は、実験的動脈閉塞から7日後の時点での毛細血管密度の増加ならびに側副枝および末梢の伝導性の向上を伴う(M. Arms et al., J Clin Invest (1998) 101:40-50)。
【0051】
したがって、本発明のさらにもう1つの局面は、本明細書に記載した適した培地中にある増殖中の自己性または同種性前駆細胞をMCP-1によってエクスビボ刺激し、その後に、細胞によって分泌されたサイトカインの混合物を含む無細胞培地を、心臓および/または末梢の虚血組織における側副枝依存的な灌流および筋機能を増強する目的で、虚血性の心筋または末梢器官または骨格筋(例えば、虚血肢)に対して直接送達することを含む。血管新生前駆細胞の刺激は、増殖中の細胞をタンパク質の形態にあるMCP-1に対して直接曝露することにより行うことができる。
【0052】
顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)は単球の成熟のための刺激性サイトカインであるとともに、多能性造血性増殖因子であり、これらは癌患者において免疫抑制療法または化学療法に反応して通常起こる白血球数減少(すなわち、白血球減少症または顆粒球減少症または単球減少症)といったさまざまな血液学的病態に対する臨床行為に利用されている。GM-CSFはまた、赤芽球バースト形成単位、好酸球コロニー形成単位(CSF)および多能性(CSF)からの、さらには顆粒球-マクロファージCSFおよび顆粒球CFUからの、インビトロでのコロニー形成を誘導する多系列性増殖因子としても記載されている(Bot F.J., Exp Hemato (1989) 17:292-5)。GM-CSFに対するエクスビボ曝露はCD-34+前駆細胞の急速な増殖を誘導することが示されている(Egeland T. et al., Blood (1991) 78:3192-g)。これらの細胞は血管内皮細胞へと分化する能力を有しており、生後の血管新生に自然下で関与している可能性がある。さらに、GM-CSFはマクロファージ/単球の増殖、分化、運動性および生存(アポトーシスの割合の低下)に対する複数の刺激作用を有する。骨髄由来内皮前駆細胞および単球に対する公知の複合的作用に合致して、虚血性心血管器官における新たな血管の形成および分化を誘導するための本明細書に記載した培地中で血管新生前駆細胞を増殖させることによって得られる無細胞馴化培地の注入に対する補助療法として、GM-CSFを用いることは、本発明のもう1つの局面である。さらに、GM-CSFは、HIF-1、EPAS1、低酸素状態、またはMCP-1などの作用因子の作用を本明細書に記載したように増強することにより、本発明の無細胞馴化培地の注入によって引き起こされる治療的な心筋血管新生をさらに増強する可能性がある。
【0053】
したがって、1つの態様において、本発明は、HIF-1、EPAS1、MCP-1、GM-CSFより選択される少なくとも1つの化合物による、または本発明の組成物の生成に用いられる自己性もしくは同種性前駆細胞を細胞が培養下で増殖している間に低酸素環境に直接曝露することによる、増殖中の自己性もしくは同種性前駆細胞のエクスビボ刺激、またはこのような細胞の増殖によって生成される無細胞馴化培地の刺激を含む。自己性または同種性前駆細胞の増殖によって生成される無細胞馴化培地は、心臓および/または末梢虚血組織における側副枝依存的な灌流を増強するために、虚血性の心筋または末梢器官または骨格筋(例えば、虚血肢)に対して送達される。
【0054】
しかし、虚血領域への血液の送出を増強する目的で、側副血管の発達が望まれる領域内に注入された自己骨髄細胞は、ある種の「リスク」状態が優勢である場合には、最適な血管新生効果を生じさせない可能性がある。例えば、高コレステロール血症の存在下では血管新生が障害されることを示す証拠があり、これは加齢によっても損なわれる。さらに、骨髄細胞の機能を含め、自然下で起こる血管新生プロセスを、若齢健常個体でみられるものと比較して障害させる数多くの遺伝病および他の疾患がある。
【0055】
高コレステロール血症は、低比重リポタンパク質コレステロールレベルの出生時からの顕著な上昇をもたらす優性遺伝性の遺伝病であり、若齢での心筋梗塞を引き起こす。「加齢」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、必ずしも年齢では計測されず、身体が血管系を健康状態に保つ能力の低下の観点から計測される。しかし、身体が血管の健康を保つ能力は、時間とともに(すなわち、年齢とともに)同様に悪化する傾向がある。
【0056】
実験的な証拠から、血管系の側副枝の発達は、高度な動脈硬化および組織虚血に冒される患者の最大のコホートである高齢者では障害されていることが示唆されている。例えば、骨髄前駆細胞(BMPC)の機能およびHIF-1活性はいずれも加齢とともに低下する。このため、高齢者における側副枝の発達を障害させる加齢関連遺伝子はすべて、加工処理して彼らの虚血組織に送達するために、または本発明による無細胞馴化培地の調製のために回収される、自己血管新生前駆細胞、例えば骨髄由来細胞の活性をも障害させると考えられる。
【0057】
これらの欠点は、本発明の方法に従って、このような患者に対して、若齢健常個体から得られた単離された同種前駆細胞(骨髄細胞、末梢血、または脂肪組織に由来する)を培養し、無細胞馴化培地を得るために馴化培地を加工処理してそこから細胞を除去することにより調製された無細胞馴化培地を投与することによって、克服することができる。
【0058】
自己性または同種性骨髄のいずれかから調製する場合、任意で骨髄を、約300μ〜約200μよりも大きい粒子を除去するために、増殖培地中に入れる前に濾過することもできる。また、骨髄細胞を、前駆細胞の産生を導く増殖のために、濾過されたABMから分離することもできる。通常、骨髄から、1つまたは少数の前駆細胞を含む少数の細胞系統のみを含む組成物に移行させるために必要な増殖時間は約7〜10日である。続いて、骨髄由来前駆細胞を単離し、虚血組織における血管新生および側副灌流の発達を増強する混成分泌産物を分泌させるために適した増殖培地中で適した期間にわたって、例えば約24時間にわたってさらに増殖させる。混成分泌産物を含む馴化培地を、細胞を除去するために選択されたフィルターを通して収集するか、または細胞を実質的に除去するための当技術分野で公知のその他の様式で加工処理して、無細胞培地を生成することができる。両方の細胞増殖工程に関する適した培養条件は、本明細書の実施例に記載されたものに例示されているが、それらには限定されない。前駆細胞が末梢血および脂肪組織を含む他の組織に由来する場合には、同様の(しかし必ずしも同一ではない)方法を用いることができる。
【0059】
血管新生前駆細胞により分泌された混成分泌産物を含む無細胞培地の「有効量」とは、この用語が本明細書で用いられる場合には、血流低下または虚血状態を来している領域における側副血流の発達を刺激するのに十分な量のことを意味する。無細胞培地は、患者における虚血部位または虚血部位付近の領域に、患者のその部位での側副血管形成を増強するために直接投与する(すなわち、注入する)ことができる。本発明の無細胞培地の投与のために特に有効な部位には、心臓および/または末梢虚血組織における側副枝依存的な灌流を増強するための、心筋、または下肢などにおける骨格筋が含まれる。また、本発明の無細胞馴化培地を、血液により所望の部位へと送達されるように血管系に注入することもできる。
【0060】
「髄由来ストロマ細胞」という語句は、本明細書で用いる場合、骨髄の試料を増殖させることによって得られるCD34陰性/CD45陰性のものであることを意味する。同様の、しかし必ずしも同一ではない細胞を、骨髄以外の組織から得ることができる。
【0061】
本発明に従って生成される無細胞培地は、単独で、または別の血管新生サイトカインとともに送達することができる。無細胞培地は、虚血心筋または虚血肢に対する側副血管形成の発達を、それ故に側副血流を増強および/または促進するために、患者に対して、経心内膜的または経心外膜的アプローチのいずれかを介して(例えば、カテーテルを介して)虚血性および/または非虚血性の心筋に直接的に、または任意の他の虚血組織(末梢肢を含む)に直接的に送達することができる。また、このアプローチは、新たに移植された脱分化および/または分化した心筋細胞の移植による新たな心筋の発達(心筋形成)を、新たに発達した心筋細胞に対して栄養分の流れを与えると考えられる側副枝の発達を増強することによって、促進するため、および/または支えるために用いることもできる。
【0062】
本発明は、血管新生を増強し、それによって虚血心筋または下肢での新たな血管の発達を速めるためのさまざまな戦略を含む。本発明のもう1つの局面は、馴化培地を生成するための、インビトロでの前駆細胞による「血管新生遺伝子発現の最適化」の戦略を含む。この戦略は、低酸素に対する応答に関与する多数の遺伝子の発現を誘導するための、HIF-1転写因子をコードするオリゴヌクレオチドの同時投与、またはそれによるインビトロでの前駆細胞のトランスフェクションを含む。同様のアプローチは、内皮PASドメインタンパク質1(EPAS1)をコードするポリヌクレオチドと、本発明の無細胞培地との同時投与、または内皮PASドメインタンパク質1(EPAS1)をコードするポリヌクレオチドのインビトロでの自己性または同種性前駆細胞へのトランスフェクションを含む。この戦略はまた、血管内皮増殖因子(VEGF)および低酸素状態によって発現が増加するその他の血管新生タンパク質を増加させるために、自己性もしくは同種性前駆細胞を低酸素状態にエクスビボ曝露すること、または無細胞馴化培地と、血管新生活性が証明されている他のサイトカイン(MCP-1など)とを、心臓もしくは任意の末梢虚血組織への直接注入により同時投与することも含む。本発明はしたがって、自己性もしくは同種性前駆細胞、刺激された自己性もしくは同種性前駆細胞、例えばHIF-1、EPAS1、MCP-1、GM-CSF、あるいは低酸素状態または超音波、RF、電磁エネルギー、もしくはレーザーエネルギーといった他の形態のエネルギーに対する一過性曝露によって刺激された自己性もしくは同種性前駆細胞、の増殖によって生成される無細胞馴化培地の直接的な心筋内(経心外膜的または経心内膜的)もしくは末梢筋肉内注入を含む。本発明のある態様において、前駆細胞の刺激は、自己性または同種性前駆細胞の、FGFまたはVEGFのいずれかといったタンパク質の形態にある血管新生因子に対する直接曝露によるものでありうる。
【0063】
骨髄、脂肪組織、または末梢血から得られる単離された自己性または同種性前駆細胞を、血管新生を生じさせる効果のある馴化培地を生成するために自己骨髄細胞の代わりに用いうるという発見が、本発明につながった。さらに、治療用無細胞馴化培地を生成するために同種ドナーにより提供される前駆細胞を用いることの利点はいくつかある。第1に、虚血患者または高齢患者が、自己骨髄を得るために麻酔を受ける必要がない。若齢健常ドナーからの骨髄はより活発な前駆細胞を産生し、細胞を除去するための同種前駆細胞馴化培地の加工処理は、本発明の組成物の免疫原性を血漿よりも低くする。加えて、同種前駆細胞から得られる治療用組成物を前もって生成し、レシピエント患者による即時使用のために保存しておくことができる。例えば、治療用組成物を、保存に適応させるために凍結または凍結乾燥することができる。
【0064】
以下の実施例には、本発明のある種の局面が例示されている。これらの実施例は、本発明を例示することを意図しており、それを限定することは意図していない。
【0065】
実施例
実施例1
内皮細胞の増殖に対する骨髄培養培地の効果
吸引ブタ自己骨髄細胞が、有力な血管新生因子であるVEGFおよび重要な血管新生補助因子として最近同定されたMCP-1を分泌するか否かを明らかにするための試験を行った。骨髄をインビトロで4週間培養した。培養ブタ大動脈内皮細胞(PAEC)に、細胞の増殖により生成された馴化培地を添加し、4日後に増殖を評価した。馴化培地中のVEGFおよびMCP-1のレベルをELISAを用いてアッセイした。4週間の培養期間中、BM細胞はVEGFおよびMCP-1を分泌し、このためこれらの濃度は時間依存的な様式で上昇した。結果として得られた馴化培地は、用量依存的な様式で、PAECの増殖を増強した。これらの結果は、BM細胞がVEGFおよびMCP-1といった有力な血管新生サイトカインを分泌しうること、ならびに血管内皮細胞の増殖を誘導しうることを示している。
【0066】
ブタ骨髄の培養
骨髄(BM)細胞を、慢性心筋虚血のブタから、保存料を含まないヘパリン(20単位/ml BM細胞)中に無菌条件下で収集し、300μおよび200μのステンレス鋼製メッシュフィルターを用いて逐次的に濾過した。続いてBM細胞をFicoll-Hypaque勾配遠心分離処理によって単離し、T-25培養フラスコ内で長期培養液(LTCM)(Stem Cell Tech, Vancouver, British Columbia, Canada)中にて5% CO2下、330℃で培養した。各培養物におけるBMCの播種密度は7×106個/mlとした。毎週、培地の半分を取り出して新たなLTCMと入れ換えた。取り出した培地を濾過し(0.2μフィルター)、その後の固相酵素免疫アッセイ(ELISA)および細胞増殖アッセイのために-200℃で保存した。
【0067】
ブタ大動脈内皮細胞の単離および培養
新鮮なブタ大動脈内皮細胞(PAEC)を従来の方法を用いて単離した。37℃、5%二酸化炭素下にある、2% FBS、ヒドロコルチゾン、ヒトFGF、VEGF、ヒトEGF、IGF、ヘパリンおよび抗生物質を含む内皮細胞増殖培地(EGM-2培地、Clonetics, San Diego, CA)を細胞の増殖用に使用した。細胞が約7日の時点で集密化したところで、それらを2.5%トリプシンによって分割し、その後は10% FBSを含む培地199中で培養した。それらの実体は、典型的な内皮細胞形態および第VIII因子に対する免疫組織化学染色によって確認した。3〜10回継代したものを増殖試験のために用いた。
【0068】
大動脈内皮細胞に対する馴化培地の効果
細胞増殖アッセイ:PAEC(3〜10回継代)をトリプシン処理によって培養フラスコから取り出した。剥離した細胞を96ウェル培養プレートに移し、5,000細胞/ウェルの播種密度でプレーティングした。細胞を2〜3日培養し、その後に増殖およびDNA合成の実験に用いた。BM細胞培養物による馴化培地を4週時点で収集し、7個の培養フラスコからの培地をプールしてバイオアッセイに用いた。プールした馴化培地のアリコート(10μL、30μL、100μLまたは200μL)またはLTCM(200μL、対照として)を96ウェルプレート中の集密化PAECに添加した(3つずつ用意)。馴化培地または対照培地との4日間の培養後に、PAECをトリプシン処理し、細胞計数器(Coulter Counter Beckman Corporation, Miami FL)。
【0069】
PAECのDNA合成に対する馴化培地の効果
プール試料からの馴化培地のアリコート(10μL、30μL、100μLまたは200μL)または対照培地(LTCM、200μL)を、96ウェルプレート中のPAEC(上と同じ播種密度)に対して添加した(3つずつ用意)。2日後に、1μCiのトリチウム標識チミジンを各ウェルに添加した。48時間後に、PAEC中のDNAを細胞収集装置(Mach III M Tomtec, Hamden, CT)を用いて収集し、放射能を液体シンチレーションカウンター(Multi-detector Liquid Scintillation Luminescence Counter EG&G Wallac, Turku, Finland)により計数した。
【0070】
ELISA VEGFによる馴化培地中のVEGFおよびMCP-1の測定
馴化培地中のVEGF濃度はサンドイッチ式ELISAキット(Chemicon International Inc., Temecula, CA)を用いて測定した。手短に述べると、抗ヒトVEGF抗体でプレコーティングしたプレートを用いて、馴化培地中のVEGFまたは既知濃度の組換えVEGFと結合させた。この複合体を、捕捉されたVEGFと結合するビオチン化抗VEGF抗体により検出した。続いてビオチン化VEGF抗体をストレプトアビジン-アルカリホスファターゼおよび発色性溶液により検出した。この抗ヒトVEGF抗体はブタVEGFと交差反応する。
【0071】
ELISAによる馴化培地中のMCP-1の測定
馴化培地中のMCP-1濃度はサンドイッチ式酵素イムノアッセイキット(R&D Systems, Minneapolis, MN)を用いてアッセイした:抗ヒトMCP-1抗体でプレコーティングしたプレートを用いて、馴化培地中のMCP-1または既知濃度の組換えタンパク質と結合させた。この複合体を、捕捉されたMCP-1と結合するビオチン化抗MCP-1抗体により検出した。続いてビオチン化MCP-1抗体をストレプトアビジン-アルカリホスファターゼおよび発色性溶液により検出した。この抗ヒトMCP-1抗体はブタMCP-1と交差反応する。
【0072】
結果
4週時点で収集したBM馴化培地は、用量依存的な様式で、PAECの増殖を亢進させた(図1)。これは、細胞数を直接算定することによって、およびトリチウム標識チミジンの取り込みを測定することによって示された(どちらの測定に関してもp<0.001)。この用量依存的応答は下行脚を示した;すなわち、増殖は200μL馴化培地の場合には30μLおよび100μLに比して低下した(どちらの比較ともP=0.003)。同様の用量依存的な結果がトリチウム標識チミジン取り込み試験でも観察された(200μLとの比較で、30μLおよび100μLでそれぞれP=0.03)。
【0073】
新たに吸引したBM細胞のうち、第VIII因子に対して陽染されたものは限られた数(5±4%)であった。これらの結果は図2に示されている。これは4週間培養したBM細胞の付着層での57±14%とは対照的であった(そのうち60±23%が内皮様細胞であり、40±28%は巨核球の外観を呈した)。
【0074】
4週間の期間にわたり、BM馴化培地中のVEGFおよびMCP-1の濃度は徐々に上昇し、第1週のレベルに対してそれぞれ10倍および3倍となった(どちらの比較ともP<0.001)(図3)。これに対して、BMに対して曝露されていない対照培養液におけるVEGFおよびMCP-1のレベルは、図4に示されているように、それぞれ0および11±2 pg/mlであった。
【0075】
実施例2
培養ブタ骨髄細胞によるVEGF分泌に対する低酸素の効果
低酸素状態は培養骨髄内皮細胞によるVEGFの発現を著しく低下させることが示されており、これらの結果は、低酸素に対するエクスビボ曝露が、低酸素誘導血管新生因子の発現を増加させることにより、虚血筋組織に注入される骨髄細胞およびその馴化培地の側副枝増強効果をさらに強めうることを示している。ブタ骨髄を採取し、300μおよび200μのステンレス鋼製メッシュフィルターを用いて逐次的に濾過した。続いてBMCをFicoll-Hypaque勾配遠心分離処理によって分離し、T-75培養フラスコ内で33℃、5%CO2下で培養した。細胞が約7日の時点で集密化したところで、それらをトリプシン処理によって1:3に分割した。4週間の培養後に、BMCを低酸素条件(1%酸素を含むチャンバーに入れる)に24〜120時間曝露させるか、または正常条件下に保った。この結果得られた馴化培地を収集し、VEGF、MCP-1をELISAにより分析した。
【0076】
低酸素に対する曝露は、VEGF分泌を著しく増加させた:24時間の時点で、VEGF濃度は正常酸素下での106±13pg/mlから、低酸素条件下では1,600±196pg/mlに上昇した(p=0.0002);120時間後の時点では、これは4,163±62から6,028±167pg/mlに上昇した(p<0.001)。新たに単離したBMCに対して別個に試験を行ったところ、同じ傾向がみられた。また、低酸素状態はBMCの増殖速度も低下させた。MCP-1発現は低酸素状態によって増加しなかったが、これはそのプロモーターがHIF結合部位を持たないことが知られているため、予想外の所見ではなかった。
【0077】
実施例3
内皮細胞の管形成に対する骨髄培養液の効果
ブタ内皮細胞および血管平滑筋細胞の共培養の手法を用いて、骨髄細胞の馴化培地がインビトロで構造上の血管の形成を誘導することが示された。血管形成に対するこのような効果は、骨髄馴化培地に対する曝露がなければ観察されなかった。これらの結果は、骨髄細胞およびその分泌因子が血管新生誘発(pro-angiogenic)効果を発揮することを示唆する。
【0078】
実施例4
慢性心筋虚血モデルにおける側副灌流および局所機能に対する自己骨髄の経心内膜的送達の効果
左回旋冠動脈の周囲にアメロイド閉塞具(ameroid constrictor)を埋込むことにより、ブタ14匹において慢性心筋虚血を作成した。埋込みの4週後に、ブタ7匹に対して、経心内膜的注入カテーテルを用いて、新たに吸引したABMを虚血域へ経心内膜的に注入し(動物1匹当たり2.4ml、12箇所に注入)、7匹の対照動物に対してはヘパリン添加食塩水を注入した。ベースラインおよび4週後の時点で、被験動物に対して、局所収縮性(心筋肥厚の割合(%))を評価するための安静時およびペーシング時の心エコー検査、ならびに安静時およびアデノシン持続注入時の側副枝依存的灌流を評価するためのミクロスフェア試験を行った。ABMの注入から4週後の側副血流(虚血域/正常域×100の比で表される)は、ABM投与ブタでは改善したが、対照では改善しなかった(ABM:安静時には95±13に対して81±11、P=0.017;アデノシン注入時には85±19に対して72±10、P=0.046;対照:安静時には86±14に対して86±14、P=NS;アデノシン注入時には73±17に対して72±14、P=0.63)。同様に、収縮性もABM投与ブタでは増大したが、対照では増大しなかった(ABM:安静時には83±21に対して60±32、P=0.04;ペーシング時には91±44に対して35±43、P=0.056;対照:安静時には69±48に対して64±46、P=0.74;ペーシング時には65±56に対して37±56、P=0.23)。
【0079】
これらの結果は、カテーテルを利用したABMの経心内膜的注入が虚血心筋における側副灌流および心筋機能を増強しうることを示しており、これらの所見は、このアプローチが最適な治療的血管新生を実現するための新規な治療戦略となりうることを示唆している。
【0080】
特定の病原体を持たない体重約70kgの家畜ブタ14匹に麻酔を施し、挿管した上で、処置期間を通じて2L/分のO2補給および1〜2%イソフルレン吸入を行った。動脈へのアクセスは右大腿動脈を単離し、8フレンチ・シースを挿入することで確保した。左回旋動脈を左側開胸術によって単離し、金属で包み込んだアメロイド閉塞具をこの動脈のごく近位部に埋込んだ。アメロイド閉塞具の埋込みから4週後に、すべてのブタに対して(1)アメロイド閉塞の確認および側副血流の評価のための選択的な左および右冠動脈の血管撮影法;(2)経胸的心エコー検査、ならびに(3)局所心筋血流の評価を行った。
【0081】
骨髄の吸引および調製ならびに心筋内注入
ベースラインの評価を完了した直後に、全動物に対して、左大腿骨幹から標準的な手法を用いてBM吸引を行った。BMは2つの部位から(1部位当たり3ml)、保存料を含まないヘパリン化ガラス製シリンジ(ヘパリン20単位/新鮮BM 1ml)を用いて吸引した。吸引した骨髄を直ちに、300μおよび200μのステンレス鋼フィルターを逐次的に用いてマクロフィルター処理した。続いて、虚血心筋領域およびその境界領域に向けて、経心内膜的注入カテーテルを用いて、心筋内の12箇所に骨髄を注入した(1つの注入部位当たり0.2ml、合計2.4ml)。
【0082】
心エコー検査
被験動物における乳頭筋中位レベルでの短軸断面および長軸断面の経胸的心エコー画像をベースラインおよびペーシング時、ならびにベースラインおよびABM埋込みから4週後の追跡評価時に記録した。短縮率の測定値は、壁肥厚の割合(%)(収縮終期の厚み−拡張終期の厚み/拡張終期の厚み)×100を測定することによって得た。これらの測定を虚血領域(外側域)および遠隔領域(前方中隔域)で行った。その後に、一時的ペースメーカー電極を右大腿静脈シースから挿入し、右心房内に留置した。被験動物に対して180/分のペーシングを2分間行い、同時に心エコー画像を記録した。
【0083】
局所心筋血流
局所心筋血流の測定は、安静時および冠動脈の血管最大拡張時に多数の蛍光色ミクロスフェア(Interactive Medical Technologies, West Los Angeles, CA)を用いることによって行い、基準試料法(Heymann MA, et al., Prog Cardiovasc Dis 1977;20:55-79)によって定量した。蛍光ミクロスフェア(0.8ml、ミクロスフェア5×106個/ml、直径15μmが0.01% Tween 80を含む食塩水懸濁液中にある)を、6Fジャドキンス・レフト3.5診断用カテーテルを介して左心房内に注入した。冠動脈の最大拡張は、アデノシンを140μg/kg/分(Fujisawa USA, Deerfield, IL)という定速で左大腿静脈内に6分間にわたって持続注入することによって誘導した。持続注入の最後の2分間に、ミクロスフェア注入および血液基準試料の採取を、安静時試験と同じ様式で行った。
【0084】
灌流評価の完了後に、過大用量のペントバルビタールナトリウムおよびKCLを用いて被験動物を屠殺した。心臓を採取してリンゲル乳酸液を流して洗浄し、10〜15分間の灌流固定を行った後に、10%緩衝ホルムアルデヒドによる浸漬固定を3日間行った。固定を終えた後に、心臓を短軸に沿って切断し、7mm厚スライスとした。中心側の2枚のスライスをそれぞれ分割して、さらに小さな8つの楔状片とし、それをさらに切断して心内膜側および心外膜側のサブセグメントとした。8つの外側虚血域および8つの正常中隔域のサブセグメントでの測定値を、心内膜側および心外膜側の局所心筋血流の評価に用いた。側副血流の相対値も虚血域/非虚血域(IZ/NIZ)血流の比として計算した。
【0085】
組織病理学
注入カテーテルを用いたBM吸引物の注入が機械的な細胞損傷を伴うか否かを評価するために、新たに濾過したABM吸引物をインビボ試験の場合と同程度の注入圧を用いて針を通して注入する前および後に、標準的なBM塗沫標本を調製した。形態学的評価は、試験プロトコールを知らされていない無関係な熟練技術者によって行われた。
【0086】
組織病理学的評価を、試料として採取した心臓組織に対して行った。パイロット試験では、蛍光標識された領域を同定するために、7mm圧の短軸スライスをUV光の下で検査した。同定された各領域を切断して、隣接した3つの全層ブロック(中央、右および左)とし、これらを10%緩衝ホルムアルデヒド中で浸漬固定した。引き続いて、これらの各ブロックを3つのレベルに切断し、そのうち2つをヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)で、1つをPASで染色した。加えて、1つの新たな蛍光標識組織ブロックを各被験動物の虚血領域から入手してOCTコンパウンド(Sakura Finetek USA Inc., Torrance, CA)中に包埋した上で、液体窒素中で凍結させた。これらの急速凍結心筋組織の凍結切片を風乾させ、アセトンで固定した。免疫ペルオキシダーゼ染色を、自動Dako immunno Stainer(Dako, Carpenteria, CA)を用いて行った。内在性ペルオキシダーゼおよび非特異的取り込みは、0.3%水素ペルオキシダーゼおよび10%オボアルブミンでブロックした。CD-34に対するモノクローナルマウス抗体(Becton Dickinson, San Jose, CA)を一次抗体として用いた。リンク用抗体はビオチン化ヤギ抗マウスIgG抗体とし、三次抗体は西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させたストレプトアビジンとした。ジアミノベンジジン(DAB)を色素原として用い、切片を1%メチルグリーンで対比染色した。脱水および洗浄の後に、スライドをマウントし、Nikon Labphot顕微鏡を用いて検査した。
【0087】
有効性試験では、虚血領域および非虚血領域からの1.5平方センチメートルの全層切片をパラフィン切片として調製した。試料のそれぞれをH&E、マッソン三色染料および第VIII因子関連抗原により染色した。免疫ペルオキシダーゼ染色を行ったスライドを、内皮細胞集団の密度および血管形成に関して調べた。後者は内腔の存在によって前者と識別した。血管形成は、虚血心筋および非虚血心筋の内側2分の1から作成した第VIII因子染色スライドの5つの顕微鏡写真試料を用いて評価した。内皮細胞の密度は同じ顕微鏡写真のデジタル画像を用いて評価した。内皮集団の密度はSigma-Scan Pro形態計測ソフトウエアにより、強度閾値法を用いて決定した。各試料および各標本に関する内皮総面積を、相対的内皮面積の百分率(内皮面積/被験心筋面積)とともに求めた。内皮総面積は、被験心筋の非梗塞(生存)領域の相対百分率としても算出した。三色染料で染色した切片はデジタル化し、青色の染色性コラーゲンによって占められる面積、ならびに心外膜(これは通常、コラーゲンを含む)によって占有される面積を除外した総切片面積を、Sigma-Scan Proを用いて測定した。続いて梗塞面積を青色の染色によって占められる面積として算出した。
【0088】
手順データ
ABMまたはプラセボの心筋内注入はいずれも、平均血圧、心拍数および不整脈誘導に関する急性変化を伴わなかった。血行動態パラメーターはすべて二群間で同等であった。ペアワイズ比較からは、対照群で初期平均動脈血圧が追跡時の方が高かったこと(P=0.03)を除き、指標に関する各群内部での追跡手順との比較で同等の血行動態パラメーターが示され、ペーシング時およびアデノシン持続注入時には差がみられなかった。
【0089】
心筋機能
局所心筋機能評価に関して以下の表2に示している。虚血域に対する非虚血域(IZ/NIZ)の比×100として表した、安静時およびペーシング時の、介入前の壁肥厚相対値は、群間で同程度であった(それぞれP=0.86および0.96)。ABMの心筋内注入から4週後の時点では、局所壁肥厚の改善が安静時およびペーシング時にみられ、これは側副枝依存的な虚血側壁の壁肥厚が〜50%増大したことに起因した。対照動物では有意差は認められなかったが、追跡時点でのペーシング時には虚血領域において壁肥厚が改善する傾向は認められた。
【0090】
(表2)虚血壁の局所収縮性

ABMは自己骨髄を表す。
【0091】
心筋灌流データ
局所心筋灌流評価に関して以下の表3に示している。安静時およびアデノシン持続注入時の、介入前の貫壁性心筋灌流、IZ/NIZに関して、投与群と対照群との間に差はみられなかった(それぞれP=0.42および0.96)。ABM注入から4週後には、安静時およびペーシング時の相対的な局所貫壁性心筋灌流が有意に改善した。これは、安静時(57%の改善、P=0.08)およびアデノシン持続注入時(37%、P=0.09)ともに虚血域における心筋灌流の絶対値が改善したことに起因したが、安静時(35%の増加、P=0.18)およびアデノシン持続注入時(25%の増加、P=0.26)のいずれにおいても非虚血域への血流の絶対値に関して有意な変化は認められなかった。虚血域でみられた局所心筋血流の増加は、安静時には心内膜側(73%)および心外膜側(62%)の局所的改善の両者からなり、アデノシン持続注入時には改善の程度が幾分低下した(いずれの区域とも40%)。4週時点で、対照群においては、虚血域および非虚血域における貫壁性、心内膜側または心外膜側の灌流に関して、介入前の値と比較して差がみられなかった。
【0092】
(表3)局所心筋灌流

ABMは自己骨髄を表す。
【0093】
組織病理学および血管形成評価
濾過した吸引物を注入カテーテルに通す前および後のBM塗抹標本の評価により、正常な構造が認められ、大凝集アルブミンは存在せず、細胞断片や細胞形態の変形はみられないことが判明した。注入第1日時点での組織病理学的評価では、フィブリン、および散在性の細胞浸潤を伴う炎症域を特徴とする急性病変が示された。この浸潤物は、BM浸潤物と形態的に識別できない単核細胞を特徴とした。細胞密度は3日および7日の時点が最大で、その後は時間経過とともに低下した。3週時点では、0.5ml注入部位において0.2mlのものと比較してより高度の線維化が認められた。BM由来前駆細胞を同定することを意図したCD-34免疫染色を、最大の細胞浸潤物が認められた切片で行った。全体的には、細胞浸潤物の4〜6%がCD-34に対する陽性免疫反応性を示した。
【0094】
検査した虚血心筋の全体のうち10%未満を占める小さな壊死壊死領域が、両群ともに虚血境界部の特徴としてみられた。非虚血性領域では正常な心筋構造が示された。この二群における組織形態計測的な特徴の変化を比較した。血管によって占められる総面積、直径50μmを上回る血管数のいずれにも差はみられなかった。しかし、第VIII因子に対して陽染される総面積(内皮細胞、内腔の有無は問わない)を虚血区域と非虚血区域との間で比較したところ、二群間に差が示された。ABM群では、虚血性側副枝依存的区域における内皮細胞総面積が、非虚血性区域で観察されたものよりも100%大きく(面積11.6±5.0%に対して5.7±2.3%、P=0.016)、一方、対照群では有意差はみられなかった(面積12.3±5.5%に対して8.2±3.1%、P=0.11)。しかし、血管により占められる面積%および50μを上回る血管の数を含む、血管形成のその他のパラメーターは、両群ともに虚血区域と非虚血区域との間で同程度であった。
【0095】
実施例5
心筋虚血の動物モデルにおける、GM-CSFの前投与によりインビボ刺激した自己骨髄の効果
左回旋冠動脈の周りにアメロイド閉塞具を埋込むことにより、ブタ16匹において慢性心筋虚血を作成した。アメロイド埋込みから4週が経過する3日前に、8匹の被験動物に対して、GM-CSFの皮下注入を連続3日間(用量1日10μg)行った後に(4日目かつアメロイド埋込みからちょうど4週後に)、新たに吸引したABMの虚血域への経心内膜的注入を経心内膜的注入カテーテルを用いて行い(1匹当たり2.4ml、12箇所)、GM-CSF刺激を受けていない8匹の対照動物にはヘパリン添加食塩水を注入した。ベースラインおよび4週後の時点で、被験動物に対して、局所伸張性(心筋肥厚の%)を評価するための安静時およびペーシング時の心エコー検査、ならびに安静時およびアデノシン持続注入時の側副枝依存的灌流を評価するためのミクロスフェア試験を行った。ABMの注入から4週後の側副血流(虚血域/正常域×100という比として表される)は、ABM投与ブタでは改善したが、対照では改善しなかった(ABM:安静時には85±11に対して72±16、P=0.026;アデノシン注入時には83±18に対して64±19 、P=0.06;対照:安静時には93±10に対して89±9、P=0.31;アデノシン注入時には73±17に対して75±8、P=0.74)。同様に、収縮性もABM投与ブタでは増大したが、対照では増大しなかった(ABM:安静時には93±33に対して63±27、P=0.009;ペーシング時には84±36に対して51±20、P=0.014、対照:安静時には72±45に対して66±43、P=0.65;ペーシング時には70±36に対して43±55、P=0.18)。
【0096】
これらの結果は、GM-CSFを3日間全身投与することによって前刺激したABMのカテーテル経心内膜的注入が、虚血心筋における側副灌流および心筋機能を増強しうることを示しており、これらの所見は、このアプローチが最適な治療的血管新生を実現するための新規な治療戦略となりうることを示唆している。
【0097】
実施例6
ブタ骨髄の培養
ブタから骨髄細胞(BMC)を、保存料を含まないヘパリン(20単位/ml BM細胞)中に無菌条件下で収集し、300μおよび200μのステンレス鋼製メッシュフィルターを用いて逐次的に濾過する。続いて、BMCをFicoll-Hypaque勾配遠心分離処理によって単離し、T-75フラスコに播種し、T-75培養フラスコ内で長期培養液(LTCM)(Stem Cell Tech, Vancouver, British Columbia, Canada)中にて5%CO2下、33℃で培養する。続いて培地を交換し、非付着細胞を洗い流す。付着細胞(すなわち、「早期付着細胞」)の大部分は単球、内皮前駆細胞またはその他の造血系列細胞である。早期付着細胞中の単球の中には骨髄由来ストロマ細胞がある。lac-Z染色試験によって、これらの細胞はアデノウイルスに対して許容性であることがマーカータンパク質の発現から示されている。
【0098】
各培養皿におけるBMCの播種密度は7×106/mlとする。約7日の時点で細胞が集密化したところで、それらを0.25%トリプシンにより3分の1に分割する。3〜8回継代したものをこの試験に用いる。
【0099】
アデノウイルスのトランスフェクション
BMCをまず、ペトリ皿に付着する早期付着細胞の内層の産生が行われるように、6cmペトリ皿で3〜14日間培養する。非付着細胞は初回播種の翌日に洗い流す。続いて、早期付着細胞に対して、1つまたは複数のサイトカイン、増殖因子または他の哺乳動物血管新生促進因子(転写因子HIF-1またはHIF-2など、ただしこれには限定されない)をコードするベクターを接種する。この接種は、播種の3〜28日後、例えば3〜12日後または3〜8日後に行うことができる。接種の約2時間〜3日後に、トランスフェクトされた細胞からウイルスを洗い流す。続いて、トランスフェクトされた細胞を患者の標的組織、例えば心臓または脚に注入する。
【0100】
実施例7
MSCにはインビトロで生物活性のある側副枝増強因子を分泌する能力がある
1)骨髄由来細胞からの馴化培地が単独で側副血流を増強する、および2)MSCのHIF-1形質導入によって細胞の血管新生能が高まる、という仮説の可能性に関する最初の検証として、マウスMSCを単離し、馴化培地をサイトカイン産生に関して連続的に分析した(図5)。
【0101】
より詳細には、単核骨髄細胞をマウスの大腿骨および脛骨から採取し、Ficoll密度勾配を用いて単核画分を分離した。細胞を10日間培養し、異種混成的な培養細胞から二重磁気ビーズ法を用いてCD34-/CD45-細胞を単離した。この単離手順は、細胞マーカーCD34およびCD45を発現しない細胞を、これらのマーカーに対する市販の抗体で標識した磁気ビーズを用いることによって陰性選択することを含む。
【0102】
MSCは異種混成的な培養細胞から精製した。FITC標識抗CD34抗体(Pharmingen, San Diego, CA)で標識し、続いて抗FITCおよび抗CD45磁気ビーズ(Miltenyi Biotech, Sunnyvale, CA)との同時インキュベーションを行うことにより、CD34-/CD45-画分を単離した。細胞を磁気カラムに通し、二重陰性画分を回収した。次に、ビーズ陰性集団およびビーズ陽性集団を別々に培養した。ビーズ陰性集団は、MSCの典型的な線維芽細胞性形態を示したが、一方、ビーズ陽性集団は主として、リンパ性造血細胞に合致する小型の球状細胞からなるように思われた(図5Aおよび5B)。FACS分析を行ったところ、これらの細胞は、リンパ性造血細胞に典型的な表面マーカーCD31、CD34、CD45およびCD117は発現しないが、骨髄由来ストロマ細胞に典型的なCD44(95±0.6%)、CD90(99.1±0.1%)およびCD105(89±2.1%)を高レベルで発現することが示された。
【0103】
(これらのCD34-/CD45-細胞を、本明細書では「骨髄由来ストロマ細胞」または「MSC」とも呼んでいる)。単離したMSCを再プレーティングし、馴化培地をその後24時間にわたり収集した。
【0104】
以上のようにして調製した馴化培地を、血管新生サイトカインの存在に関してELISAにより分析した。サイトカインレベルは、細胞培養物の総タンパク質量に対して補正した。データは少なくとも3つの異なる細胞集団を反映しており、各集団は2匹のマウスからプールした細胞を含む。これらの結果(図5)は、MSCが、VEGF、MCP-1およびbFGF(アンジオポエチン1およびPDGFも同じ(提示はしていない))のような既知の側副枝増強因子を発現することを示している。これとは対照的に、CD34+細胞(前駆内皮細胞)はこれらの因子を発現しない。
【0105】
培養MSCの培地中に分泌されたサイトカインの機能的な能力に関しても、それらが内皮細胞の増殖を引き起こす能力を検討することによって調べた。以上のようにして調製したMSC馴化培地を収集したところ、これは実際に培養ヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖を増強することが見いだされた。MAECまたはSMC(1×104個/ウェル)を、0.1%ウシ胎仔血清を含むMEMとともに24ウェルプレートにプレーティングし、24時間おいた。続いて培地を種々の希釈度のMSCCMまたはDM-10のみの対照ウェルと交換した。培養を72時間続け、その後に細胞を回収し、Coulter計数器により算定した。データは、対照と比較した場合の増殖の平均変化率として報告されている。
【0106】
MSCおよびMSCからの馴化培地はマウス虚血後肢における側副血流を増大させる
12週齢の雄性Balb/Cマウスに対して、当技術分野で知られた方法を用いて右遠位大腿動脈結紮を行った。24時間後にマウスを3群に無作為に割り付けた。すなわち、1つの群には、虚血後肢の内転筋に、同系マウスから上記の通りに調製した1×106個のMSCを投与し、1つの群には同系マウスから単離した1×106個の成熟内皮細胞を投与し、もう1つの群には非馴化培地を注入した。以後の28日間にわたり、レーザードプラ灌流画像法(LDPI)を利用して虚血後肢血流回復のを追跡した(図6)。
【0107】
図6に示したこれらの検討の結果は、虚血後肢の内転筋へのMSCの注入が側副血流を有意に増大させ、これは成熟内皮細胞を注入することによっては得られない効果であったことを示している。最も重要なことには、馴化培地単独(細胞が取り除かれた)を虚血後脚に注入した場合に側副血流が増大することが認められた。このことは、骨髄由来細胞の馴化培地を側副枝発達領域に注入することにより側副枝発達が強化可能であることの最初の概念証明であった。
【0108】
MSCの形質導入後の細胞生存および遺伝子産物発現の確認
MSCが遺伝的改変のための適切な標的となるか否かを明らかにするための最初の段階として、アデノウイルスベクターを用いたエクスビボ形質導入後のインサイチューでのMSCの生存性を検討した。この目的で、一方は緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を含むアデノウイルスを用い、もう一方はβ-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子を含むものを用いる、2つの別々の実験を行った。以上のように調製したMSCに対してエクスビボで形質導入を行った。予備試験からは、MSCの90%超が、レポーター導入遺伝子を含むアデノウイルスにより首尾良く形質導入され、MOIが150であったことが明らかになった(非提示データ)。タンパク質発現を追跡するために、細胞をMOl 150のAd.GFPまたはAd.β-ガラクトシダーゼとともに2時間インキュベートし、3回すすぎ洗いして回収した上で、直ちに内転筋に注入した(手術の24時間後)。注入したGFP+/MSCの運命を追跡するために、内転筋および腓腹筋の多数の切片をNikon倒立蛍光顕微鏡を用いて検査した。β-gal+/MSCの運命を追跡する目的には、切片を市販X-galキット(Invitrogen)で現像し、24時間前に大腿動脈結紮を受けたマウスの内転筋に直ちに注入した。マウスを第3日、第7日および第14日の時点で屠殺した。続いて、当技術分野で公知の適切なプロトコールに応じて、内転筋切片を蛍光顕微鏡で観察するか、X-galで染色した。
【0109】
第3日の時点では、関心対象の遺伝子を発現することが認められた細胞はわずかであった。しかし、第7日までに(これは第14日まで保たれた)、関心対象の遺伝子を発現する多くの細胞が内転筋組織の全体に分布するようになったことが判明した。
【0110】
以上より、この実験から、細胞の生存性および転写/翻訳機構の保存が確かめられただけではなく、MSCを関心対象の遺伝子を特定の組織、例えば筋組織に導入するためのベクターとして用いうることも示された。
【0111】
MSCに対するインビトロでのHIF-1α/VP16トランスフェクションは低酸素状態によって誘導されるものを上回る、側副枝増強関連因子の増加をもたらす
上記のようにマウスMSCを単離してプレーティングした。MSCの3つの群を比較した。第1群――正常酸素条件下で培養したMSC;第2群――1% O2中で培養したMSC;第3群――上記の通りに調製したHIF-1α/VP16をコードするアデノウイルスをトランスフェクトしたMSC。MSCを感染多重度200のウイルスとともに2時間インキュベートし、その後に遺伝子発現のための期間が得られるように48時間培養した。
【0112】
続いて培養馴化培地を24時間にわたり3つの細胞群のすべてから収集した。市販のELISAキットを用いて、培地を血管新生サイトカインVEGFおよびβ-FGFの存在に関して分析した。サイトカインレベルは細胞培養物の総タンパク質に対して補正した。図7に示したこれらの結果は、HIF-1I/VP16トランスフェクションが、MSCによるVEGFおよびβFGFの双方の発現および分泌を、低酸素状態によって得られるよりも大幅に高いレベルに高めることを示している。
【0113】
これらの培養細胞を含んでいた培地(MSC馴化培地またはMSCCM)を、細胞増殖に対するMSCCMの効果を評価するために、内皮細胞(EC)および平滑筋細胞(SMC)の培養物に対しても添加した。マウス大動脈内皮細胞(MAEC)を以下の通りに単離した。無菌条件下で、マウス胸部大動脈を摘出し(n=10)、外膜を除去して、切断して1〜2mmの環とした。続いてこれらの環を0.25%トリプシンとともに37℃で20分間インキュベートし、その後に洗浄して浮遊細胞を回収した。これらを、10%FBSを加えた最小必須培地中で培養した。細胞は一様に第VIII因子に対して陽性であった。以前に記載されたプロトコールの変法を用いて平滑筋細胞(SMC)を単離した8。手短に述べると、MAECを以上のように収集した後に、コラゲナーゼを含むハンクス平衡塩類溶液(1mg/ml)を添加し、37℃で最長3時間にわたり、15〜30分毎に静かに攪拌しながらインキュベートした。浮遊細胞を再び回収し、洗浄した上で、10%FBSを加えた培地199中に再懸濁させた。細胞は一様に平滑筋アクチンに対して染色された。両方の細胞を3〜8回継代したものを本試験には用いた。
【0114】
正常酸素または低酸素条件下にあるMSCから調製したMSCCMと比較して、HIF-1α/VP16を形質導入したMSCからのMSCCMは、EC増殖(対照培地中での増殖と比較してそれぞれ290%、31%、79%、p<0.001)およびSMC増殖(それぞれ220%、26%、58%、p<0.01)を増加させた。
【0115】
MSCへのHIF-1α/VP16トランスフェクションは側副血流の増加をもたらす
次に、後肢虚血のマウスモデルにおける側副血流に対する、MSCへのHIF-1I/VP16形質導入の効果を調べた。被験動物の1つの群(以上と同じく)には1×105個の非形質導入MSCを投与し、1つの群にはHIF-1I/VP16形質導入細胞を投与し、第3の群には培地を投与した。虚血肢における血流は上記の通りにモニターした。21日間にわたって収集したこれらの結果(図8)から、形質導入MSCを投与されたマウスは、非形質導入MSCを投与されたマウスで観察されたものを一貫して上回る、大きな側副血流の回復を示したことが示された。
【0116】
以上をまとめると、これらの実験は、1)馴化培地単独(細胞が取り除かれた)が、虚血後脚に注入された場合に側副血流を増大させること(骨髄由来細胞の馴化培地を側副枝発達領域に注入することにより側副枝発達が強化可能であることの最初の概念証明);2)アデノウイルスベクター中のHIF-1α/VP16によるトランスフェクションが、MSCのインビトロ血管新生効果を有意かつ顕著に増強することを示している。重要なことに、インビボ試験により、この戦略がMSCのみの注入によって得られるものを上回る側副枝改善効果の増大をもたらすことが示されている。これらの試験は、MSCへのHIF-1α(FGFファミリーのタンパク質などの他の血管新生関連サイトカインおよびNOSをコードする遺伝子でもおそらくそうと考えられる)の形質導入により、虚血組織における側副血流を増加させるための細胞利用戦略の側副枝増強効果が最適化されると考えられることを示している。
【0117】
ヒト患者の治療
保存料を含まないヘパリン化ガラス製シリンジ(ヘパリン20単位/新鮮BM 1ml)を用いて、骨髄(〜5ml)を腸骨稜から吸引する。吸引した骨髄を直ちに、300μおよび200μのステンレス鋼フィルターを逐次的に用いてマクロフィルター処理する。骨髄は標準的な抗凝固/抗凝集溶液(クエン酸ナトリウムおよびEDTAを含む)中に維持し、かつ使用する時まで滅菌培地中4℃に維持する。処置は熟練した血液学者が無菌条件下で行うことが考えられる。骨髄調製物の組織形態が正常なことを確かめるために骨髄塗抹標本を評価する。
【0118】
自己性または同種性の無細胞馴化培地は上述のように調製する。
【0119】
患者に無細胞馴化培地を送達するためには、作用因子を心筋に送達するためのいくつかの手順のうち任意のものを用いうる。これらには、外科的アプローチ(例えば、経胸的切開、または針もしくは他の任意の送達デバイスの経胸的挿入、または胸腔鏡など、ただしこれらには限定されない)により、またはいくつかの経皮的手順の任意のものによって実施しうると考えられる、直接的な経心外膜的送達が含まれる。以下は経皮的送達の一例である。以下の例は、送達の選択肢を、その例に記載された特定的なカテーテル利用プラットフォームシステムに限定することを意味するものではないこと、すなわち任意のカテーテル利用プラットフォームシステムを用いうることが強調されるべきである。
【0120】
経皮的冠動脈形成術のための標準的な手順を用いて、少なくともSFの誘導シースを、右または左の大腿動脈に挿入する。動脈シースの挿入後にヘパリンを投与し、手順のうちLVマッピングおよび無細胞馴化培地の注入を通じて、ACTを200〜250秒間保つために必要に応じて補充する。ACTは処置の間は30分を超えない間隔で確かめ、さらに処置の終了時にも必要条件に適合することを確認する。
【0121】
NOGA-STAR3および注入カテーテルのガイド支援のために左心室撮影法を標準的なRAOおよび/またはLAO撮像として行い、NOGA-STAR3カテーテルを用いてLV電気機械的マップを入手する。8FのINJECTION-STARカテーテルを大腿シースから逆向させて大動脈弁に対して留置する。先端を十分に弯曲させた後に、丸みのついた遠位先端を大動脈弁を通して静かに突出させ、LV腔内に達したところで適切なように真っ直ぐに伸ばす。
【0122】
カテーテル(電磁チップセンサーを内蔵する)を治療区域の一つに向ける(例えば、前方、側方、下後方またはその他)。NOGA3システムの安全面での特徴により、針の挿入および注入は安定性シグナルが3未満のLS値を示した場合にのみ可能となる。無細胞馴化培地0.2ccの単回注入により、経心内膜アプローチを介して、各注入部位の間隔が5mm未満ではない最大で2つの治療区域の範囲に送達がなされると考えられる。注入部位の密度は、個々の対象のLV心筋内解剖構造、およびカテーテルのずれや心室期外収縮(PVC)を伴わずに心内膜表面に安定した留置が得られることに依存すると考えられる。
【0123】
本発明の方法によれば、1つの態様において、血管新生前駆細胞から得られた自己または同種無細胞馴化培地の有効量を、治療のために投与する。経験を積んだ臨床医には理解されるであろうが、投与される量は、意図する治療、治療される病状の重症度、治療しようとする領域のサイズおよび程度などを非限定的に含む、多くの要因に依存すると考えられる。本発明による治療に関して、代表的なプロトコールは、約12回から約25回までの注入のそれぞれにおいて、約0.2mlから約0.5mlまでの量の無細胞馴化培地を、合計約2.4mlから約6mlまでの無細胞馴化培地が投与されるように投与することであると考えられる。投与される各用量は、容積比にして約1%から約2%までのヘパリン、またはクマジンなどの別の抗凝血薬を含むことが好ましい可能性がある。無細胞馴化培地が刺激されている場合、および/または本明細書に記載の他の血管新生因子と併用して投与される場合には、用いられる無細胞馴化培地の量が各投与においてほぼ同一であるべき、および/または投与される無細胞馴化培地の合計が上記のものとほぼ同一であるべきである。無細胞馴化培地の濃度は、上記のように、注入部位の数および間隔、ならびに治療される具体的な病状の要求条件に応じた無細胞馴化培地の有効量を含むような濃縮により、臨床医によって調整されうる。
【0124】
無細胞馴化培地は、任意の送達形態での刺激因子を伴ってもしくは伴わずに、または、無細胞馴化培地の血管新生効果を増強するために設計された導入遺伝子を有するベクターがトランスフェクトされ、馴化培地を調製するために用いられた同種または自己前駆細胞を伴ってもしくは伴わずに、心筋内に、すなわち、治療的心筋血管新生または治療的筋形成において、任意のカテーテルベースの経心内膜的注入デバイスを用いて、または外科的(開胸的)経心外膜的胸壁切開アプローチもしくは経心外膜的送達を可能にする任意の他のアプローチを用いて、注入されると考えられる。下肢虚血の治療の場合には、無細胞馴化培地は、任意の送達形態でのエクスビボまたはインビボ刺激を伴ってまたは伴わずに、無細胞馴化培地またはその要素の直接注入により、下肢の筋肉内に伝達されると考えられる。
【0125】
治療部位当たりの注入容量は、具体的な無細胞馴化培地製品および虚血病状の重症度および注入部位に応じて、1つの注入部位当たりおそらくは0.1〜5.0ccであると考えられる。注入の総数は、1つの治療セッション当たりおそらくは1〜50個の注入部位の範囲にわたると考えられる。
【0126】
もう1つの態様において、無細胞馴化培地の等価な投与量(患者の血液によるその希釈を考慮に入れる)は、任意の送達形態での刺激因子を伴ってもしくは伴わずに、または、無細胞馴化培地の血管新生効果を増強するために設計された導入遺伝子を有するベクターがトランスフェクトされ、馴化培地を調製するために用いられた同種または自己前駆細胞を伴ってもしくは伴わずに、治療部位付近の血管構造内に注入されると考えられる。この場合には血流が無細胞馴化培地を治療部位に送達すると考えられる。
【0127】
本発明を、その精神またはその本質的な属性から逸脱することなく他の具体的な形態として具現化することもできる。すなわち、本発明の以上の説明は、その例示的な態様を開示しているに過ぎず、他の変形物も本発明の範囲に含まれると考えられる。したがって、本発明は、本明細書に詳細に述べてきた特定の態様には限定されない。その代わりに、参照は、本発明の範囲および内容を示すものとしての、添付した特許請求の範囲に対してなされるべきである。
【0128】
以上の具体的な態様は、本発明の実施を例示したものである。しかし、当業者に公知である、または本明細書に開示したその他の方策を、本発明の精神または添付した特許請求の範囲を逸脱することなく用いることもできることが理解される必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】ブタ大動脈内皮細胞(PAEC)の増殖と馴化培地の量との関係についてのグラフである。
【図2】内皮細胞の増殖と馴化培地の量との関係についてのグラフである。
【図3】4週間の期間にわたる馴化培地中のVEGF濃度に関するグラフである。
【図4】4週間の期間にわたる馴化培地中のMCP-1濃度に関するグラフである。
【図5】マウスからのCD34+細胞および骨髄由来ストロマ細胞によるVEGF、MCP-1およびbFGFのインビトロ産生を示したグラフである。
【図6】骨髄由来ストロマ細胞をマウスの虚血後肢の内転筋に注入した場合の側副血流の発達に対する効果を、レーザー/ドプラ灌流イメージングにより評価して示したグラフである。血流は、虚血肢における血流と正常後肢における血流との比として表している。MSC=骨髄由来ストロマ細胞;培地=非馴化培地;MAEC=マウス大動脈内皮細胞。
【図7】HIF-1I-VP16をコードするアデノウイルスをトランスフェクトしたマウス骨髄由来ストロマ細胞(MSC)からのインビトロでのVEGFおよびbFGFの放出に対する効果を示したグラフである(MSC=MSCのみ;低酸素=低酸素条件のみ;HIF=融合タンパク質HIF-1I-VP16をコードするDNAがトランスフェクトされたMSC。データは少なくとも3つの異なるMSC集団の分析を表している。
【図8】1×105個のHIF-1I/VP16を形質導入したMSCが虚血後肢に注入されたマウスにおけるインビボ血流回復の改善を、1×105個の非形質導入MSCと比較して示したグラフである(ANOVAによる傾向の比較、p=0.05)。細胞は第1日に注入した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)骨髄、脂肪、または末梢血前駆細胞より選択される単離された自己性または同種性の前駆細胞を、適した培養条件下、適した増殖培地中、前駆細胞による混成分泌産物の分泌を促進するのに十分な期間にわたって増殖させ、それによって馴化培地を得る段階;および
b)実質的に無細胞性の馴化培地を得るために馴化培地を加工処理する段階
を含む、側副血管の発達を必要とする患者において側副血管の発達を増強するために有用な組成物を生成するための方法。
【請求項2】
前駆細胞を約7〜10日間にわたって培養下で増殖させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前駆細胞を約7〜25日間にわたって培養下で増殖させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前駆細胞を低酸素雰囲気に曝露する段階をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
曝露が約24〜約72時間にわたる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
低酸素雰囲気が酸素を約1%〜約3%含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前駆細胞が前駆細胞型の混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前駆細胞がCD34+またはCD34-前駆細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
a)の前に、
ヒトドナーから同種骨髄を得る段階;および
同種骨髄を、適した培養条件下、骨髄中の細胞による前駆細胞の産生を促進するのに十分な期間にわたって培養する段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
骨髄細胞の培養が7〜25日間にわたる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
約300μから約200μまでの粒子よりも大きい所望されていない粒子を培養前に除去するために骨髄を濾過する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前駆細胞を増殖中に低酸素雰囲気に供する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前駆細胞を、低酸素雰囲気に供するか、または低酸素誘導因子-1(HIF-1)もしくは単球走化性タンパク質1(MCP-1)との接触に供する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
HIF-1が、非低酸素条件下で安定なHIF1α/VP16構築物である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
b)の前に、前駆細胞の少なくとも一部に対して、HIF-1、EPAS1、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、顆粒球-単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、PR39、線維芽細胞増殖因子(FGF)、または一酸化窒素シンターゼ(NOS)より選択される血管新生タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドをトランスフェクトし、血管新生タンパク質を培養下で産生させるためにトランスフェクト細胞を培養する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
無細胞馴化培地を、低酸素雰囲気による刺激に供するか、またはEPAS1、MCP-1、GM-CSF、PR39、FGF、もしくはNOSより選択される少なくとも1つの血管新生タンパク質による刺激に供する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
a)の前に、
同種脂肪組織をドナーから得る段階;および
前駆細胞を培養する前に、脂肪組織から前駆細胞を得るために脂肪組織を加工処理する段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
加工処理が、培地から細胞を除去するサイズに作られたフィルターを用いて培地を濾過する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
自己性または同種性の血管新生前駆細胞の混成分泌産物の有効量を含む無細胞馴化培地
を含む、側副血管の発達を必要とする患者において血流障害部位に注入された場合に側副血管の発達を増強するために有用な治療用組成物。
【請求項20】
血管新生前駆細胞が骨髄細胞、末梢血細胞、または脂肪細胞から得られる、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
血管新生前駆細胞がCD34+/CD34-細胞を含む、請求項19記載の組成物。
【請求項22】
前駆細胞が患者に対して同種性である、請求項19記載の組成物。
【請求項23】
凍結乾燥されている、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
凍結されている、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
前駆細胞が患者に対して自己性である、請求項19記載の組成物。
【請求項26】
前駆細胞が、ドナーの脂肪組織または血液から得られる、請求項19記載の組成物。
【請求項27】
前駆細胞が、ドナーから吸引された骨髄から得られる、請求項19記載の組成物。
【請求項28】
HIF-1またはMCP-1より選択される1つまたは複数の血管新生タンパク質をさらに含む、請求項19記載の組成物。
【請求項29】
EPAS1、MCP-1、GM-CSF、PR39、FGF、またはNOSより選択される1つまたは複数の血管新生タンパク質をさらに含む、請求項19記載の組成物。
【請求項30】
ドナーがヒトである、請求項19記載の組成物。
【請求項31】
無細胞培地を含む容器をさらに含む、請求項19記載の組成物。
【請求項32】
容器内に含められた請求項19記載の組成物;および
哺乳動物において血流障害部位での側副血管発達を増強するための組成物の使用説明書
を含むキット。
【請求項33】
前駆細胞がヒトのものである、請求項32記載のキット。
【請求項34】
前駆細胞がCD34+前駆細胞である、請求項33記載のキット。
【請求項35】
患者における血流障害を有する組織またはその付近の組織に対して、組織における血管新生および側副血管形成を増強するのに十分な量の請求項19記載の組成物を直接投与する段階
を含む、側副血管の形成を必要とする患者において側副血管の形成を増強するための方法。
【請求項36】
組成物が組織中の2つまたはそれ以上の部位に投与される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
組織が心筋組織または末梢肢組織である、請求項35記載の方法。
【請求項38】
投与が部位への直接的な注入による、請求項36記載の方法。
【請求項39】
組織が心筋であり、注入がカテーテルによる、請求項37記載の方法。
【請求項40】
組成物が、心臓または下肢筋肉内に、そこでの血管新生を促進するために直接的に注入される、請求項38記載の方法。
【請求項41】
組成物が、組織に対する送達のために血流内にカテーテルまたは針によって投与される、請求項35記載の方法。
【請求項42】
患者が高齢であり、同種前駆細胞が若齢健常ドナーから得られる、請求項35記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−512198(P2008−512198A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531326(P2007−531326)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/031982
【国際公開番号】WO2006/029262
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(507075901)ミオカーディアル セラピューティクス インコーポレイティッド (1)
【Fターム(参考)】