説明

血管新生阻害剤および癌転移抑制剤

【課題】血管新生阻害作用および癌転移抑作用を有する化合物を提供する。
【解決手段】 本発明は、式(I)
【化1】


(式中、Xが−CH−で、かつRが炭素数1または2のアルキル基、ホルミル基、アセチル基、水素原子又はハロゲン原子を表すか、あるいは、Xが−(CH−で、かつRが炭素数1〜3のアルキル基、ホルミル基、アセチル基、水素原子又はハロゲン原子を表す)で表される化合物を有効成分とする血管新生阻害剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生阻害剤および癌転移抑制剤、またはその作用に基づく疾病治療並びに予防用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は死亡原因の第一位であり死亡者数の約3割を占めている(平成18年人口動態統計:厚生労働省)疾患である。癌は、癌細胞が増殖し人間個体を死に至らしめる疾患であり、癌治療には大きく分けて化学療法、手術療法、放射線療法等があるが、いずれの治療においても癌の転移は大きな課題となっている。癌細胞は正常細胞と異なり、細胞分裂時に抑制がかからず無限増殖し、また、他の組織へ侵入して増殖を続けるという性質がある。現在、癌治療は、癌細胞をできるだけ選択的に排除する方法が実施されているが、他の組織への転移の有無は時間が経過しないと不明であるため、癌転移を抑制する方法の開発が望まれている。細胞増殖が制御できなくなった細胞を腫瘍細胞、その塊を腫瘍というが、この段階では良性の腫瘍である。それに加えて腫瘍細胞が周囲に浸潤する能力を獲得したときに悪性腫瘍、すなわち癌と呼ぶ(非特許文献1)。癌細胞が血液やリンパ管に入り、体内の他の場所に転移すると治療が困難になる場合が多い。
【0003】
癌の転移を抑制する薬剤はこれまでいくつかの報告があるが、いまだ十分なものはなく、安全で効果ある薬剤が望まれている。癌細胞の増殖には、癌組織内における血管新生による栄養供給が必要であり、新しく形成された血管は、癌細胞への栄養補給だけではなく、形成された血管を通じて癌の転移を引き起こすことが知られている。従って、癌組織での血管新生阻害は、癌細胞の増殖を抑制して癌を縮小させるだけではなく、癌転移抑制に有効と考えられている。これまでに知られている血管新生阻害のターゲットとしては、血管内皮細胞増殖抑制因子阻害、タンパク質分解酵素阻害、TNFαなどの炎症性サイトカイン阻害などがある。また一方で、癌転移の際は癌細胞がタンパク質分解酵素により基底膜を破って周囲の組織内に浸潤していくことから、この癌浸潤を抑制することも癌転移抑制に有効な一つの方法と考えられている。
【0004】
熱ショックタンパク質(HSP)やその転写誘導因子である熱ショック因子(HSF)の抗癌作用に関する関係は、これまでにHSP90阻害剤による癌増殖抑制効果や(非特許文献2)、HSP90阻害剤を熱ショック反応抑制剤と併用することによりHSP90阻害剤の作用が強まることが報告されているが(非特許文献3)、血管新生阻害や癌転移抑制効果に関する記述は全くない。N−ホルミル−3,4−メチレンジオキシベンジリデン−γ−ブチロラクタム(KNK437)は熱ショック因子活性化阻害剤として見出された化合物であり、これまでに、ストレス性疾患治療剤(特許文献1)、癌温熱療法時の癌細胞温熱耐性獲得阻害剤(特許文献2)、神経細胞伸張促進剤としての報告(非特許文献4)があるが、血管新生阻害作用や癌浸潤抑制作用、癌転移抑制作用に関する報告はない。
【0005】
また、従来の抗癌剤は、一般に癌細胞だけではなく正常細胞にまで影響を及ぼす副作用が問題となっており、副作用のより少ない抗癌剤が望まれている。血管新生阻害剤は、副作用の少ない抗癌剤として期待されているが、血管新生は癌組織だけでなく正常組織でもおこるため、より癌組織特異的あるいは疾患特異的な血管新生阻害剤が望まれている。また、血管新生阻害剤や癌転移抑制剤は、各種癌治療や他の薬剤と併用できるものが望まれているが、未だ満足できる薬剤はない。さらに、血管新生に関連する疾患としては、網膜に血管新生が起こる糖尿病性網膜症、網膜の黄斑部に血管新生が起こる加齢黄斑変性症、角質での毛細血管増加が起こる乾癬、マクロファージなどの炎症細胞が血管新生を促進させる関節炎などがあり、いずれも血管新生阻害剤による治療効果が期待されている。
【特許文献1】米国特許第6281229号明細書
【特許文献2】米国特許第6903116号明細書
【非特許文献1】The Cell 細胞の分子生物学、第4版、1313-1326、2004
【非特許文献2】J.Bioxci.32,517-530,2007
【非特許文献3】Cancer Res.,66,1783-1791,2006
【非特許文献4】Neuroscience Letters,410,212-217,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、血管新生阻害作用および癌転移抑制作用を有する化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、KNK437等の下記式(I)で表される化合物に血管新生阻害作用および癌転移抑制作用があることを見いだし、それを基に本発明を完成するに至った。これまで、KNK437に上記のような効果があることは全く知られていなかった。すなわち、本発明が提供するのは以下の通りである。
【0008】
[1]
式(I)、
【化1】

(式中、Xは−CH−、Rは炭素数1または2のアルキル基、ホルミル基、アセチル基、水素原子、ハロゲン原子、あるいは、Xは−(CH−、Rは炭素数1〜3のアルキル基、ホルミル基、アセチル基、水素原子、ハロゲン原子を表す)で表される化合物をまたはその医薬として許容しうる塩を有効成分とする血管新生阻害剤。
【0009】
[2]
Xが−CH−、Rがホルミル基である[1]記載の血管新生阻害剤。
【0010】
[3]
Xが−CH−、Rが水素原子である[1]記載の血管新生阻害剤。
【0011】
[4]
Xが−CH−、Rがアセチル基である[1]記載の血管新生阻害剤。
【0012】
[5]
Xが−(CH−、Rが水素原子である[1]記載の血管新生阻害剤。
【0013】
[6]
Xが−(CH−、Rがホルミル基である[1]記載の血管新生阻害剤。
【0014】
[7]
式(I)で表される化合物がE体である[1]〜[6]いずれか記載の血管新生阻害剤。
【0015】
[8]
式(I)で表される化合物がR体である[1]〜[6]いずれか記載の血管新生阻害剤。
【0016】
[9]
[1]〜[8]いずれか記載の血管新生阻害剤を含有する、癌あるいは糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、乾癬、関節炎の治療または予防薬。
【0017】
[10]
[1]〜[8]いずれか記載の化合物を含有する組成物を用いた、血管新生阻害を目的とした治療または予防方法。
【0018】
[11]
[1]〜[8] いずれか1項記載の式(I)で表される化合物を有効成分とする癌転移抑制剤。
【0019】
[12]
[1]〜[8]いずれか記載の血管新生阻害剤または[11]記載の癌転移抑制剤を含有する癌の治療または転移抑制薬。
【0020】
[13]
[1]〜[8]いずれか記載の化合物を含有する組成物を用いた、癌転移治療または癌転移予防方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、副作用が少ない、血管新生阻害剤および癌転移抑制剤を得ることが期待できる。これらは、癌等の疾病治療並びに予防に有効であり、医薬品や医薬部外品として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明は、下記式(I)で表される化合物(化合物(I))を含有する血管新生阻害剤および癌転移抑制剤に関する。
式(I)
【化2】

上記式(I)のRにおける炭素数1または2のアルキル基としては、メチル基、エチル基が挙げられ、る。Rにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。また、式(I)のRにおける炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0023】
好適な実施態様としては、Xが−CH−で、Rがホルミル基である化合物、Xが−CH−で、Rが水素原子である化合物、Xが−CH−で、Rがアセチル基である化合物、また別の好適な実施態様としては、Xが−(CH−で、Rが水素原子である化合物、Xが−(CH−で、Rがホルミル基である化合物が挙げられる。
【0024】
また、上記(I)で表される化合物はE体であってもよいし、Z体であってもよい。
【0025】
より好ましい実施態様としては、式(I)のXが−CH−でRがホルミル基か、Xが−(CH−でRが水素原子か、あるいはXが−(CH−で、Rがホルミル基であり、かつ、E体又はZ体の化合物である。
【0026】
上記化合物(I)の一例として、N−ホルミル−3,4−メチレンジオキシベンジリデン−γ−ブチロラクタム(KNK437)が挙げられる。
【0027】
式(I)で表される化合物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、KNK437を具体例に挙げると、以下の方法で得ることができる。まず、N−アセチル−2−ピロリドン(70.0g,0.55mol)とピペロナール(82.0g,0.55mol)のテトラヒドロフラン(500ml)溶液を、水素化ナトリウム(60%鉱物油懸濁物、63.0g,1.57mol)のテトラヒドロフラン(1000ml)懸濁液に、アルゴン雰囲気下、氷冷しながら滴下した後、反応液を室温にて一晩撹拌する。得られた反応液を希硫酸で中和、クロロホルムで抽出、飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥したのち、濾過、減圧にて溶媒留去する。得られた反応物を2−プロパノールで再結晶することにより、N−ホルミル−3,4−メチレンジオキシベンジリデン−γ−ブチロラクタム(KNK437)(79.0g,収率65%)を得ることができる。
【0028】
本発明でいう血管新生とは、既存の血管から新たな血管が分岐し、毛細血管となる現象である。血管新生は、癌あるいは糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、乾癬、関節炎等の疾患に関与することが知られており、血管新生阻害剤はこれらの疾患治療に適応可能である。
【0029】
癌の浸潤とは、癌細胞が周囲の組織、血液やリンパ管に入りこむことであり、また、癌転移とは癌が浸潤し、体の他の場所で腫瘍を形成することである。癌転移は多段階からなり、原発腫瘍から癌細胞が離脱し、癌細胞が血管やリンパ管へ侵入し、さらに離れた組織に癌細胞が定着し増殖することで起こる。癌浸潤のメカニズムは未だ完全には解明されていないが、細胞と細胞の接着が破壊されることに一つの原因があると推測されている。癌細胞は周囲の組織に広がっていき、元の腫瘍から癌細胞が離脱することで癌の転移が始まる。そのため、癌浸潤を抑制することは、血管を含めた周囲の組織への癌侵入や血管やリンパ球で運ばれた部位に癌細胞が定着することを抑制し、癌転移を抑制することができる。また、癌組織が大きくなるためには血液の供給が必要なため、癌組織は血管を新たに形成する血管新生が原発腫瘍および転移腫瘍に必須である。新しく形成された血管により癌細胞は増殖を続け、また同時にその血管は癌転移に必要な、癌細胞運搬路となっている。そのため、癌組織の血管新生を阻害した場合、栄養と酸素の不足により癌細胞の成育が阻害され、さらに癌転移が抑制される可能性がある。
【0030】
本発明の血管新生阻害剤および癌転移抑制剤は、血管新生阻害および癌細胞の転移を抑制する効果を有するので、癌あるいは糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、乾癬、関節炎等の疾患治療や予防薬の製造に用いることが出来る。
【0031】
血管新生は、血管新生促進因子といわれる成長因子やサイトカインが血管に働き、さらにマトリックスメタロプロテナーゼ2(コラーゲン分解酵素)により血管基底膜のコラーゲンが溶解されることで、内皮細胞が血管新生部位に移動していき、その後、新しい血管が出来る。
【0032】
癌細胞の転移(浸潤)を調べる方法の一つとして、例えば、Boyden Chamberと呼ばれる上下2層からなる培養器具を用いることができる。具体的には、上層の約8μmの穴をもつ膜上に癌細胞株を播種し、培地を加えた下層への癌細胞移動を調べる方法である。
【0033】
血管新生阻害作用を測定するための一つの方法として、正常ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)と皮膚繊維芽細胞(NHDF)との共培養系モデルがある。この共培養系モデルを用いると、例えば、内皮細胞および内皮細胞間の接合部に高発現している抗CD31抗体で管腔染色することにより、血管腔を観察することが出来る。この系を用いることにより、管腔形成阻害物質の評価を行うことが可能である。
【0034】
血管新生のメカニズムは、遺伝子発現を解析することによりさらに詳細に調べることが出来る。例えばリアルタイムPCR技術を利用して血管新生に関連する遺伝子群の発現を解析することができ、正常ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いてその遺伝子発現を解析することも一つの方法である。リアルタイムPCR技術を利用し、血管新生阻害作用を持つ薬剤をHUVEC細胞培養時に添加して、血管新生に関連する遺伝子発現の変化を解析することは、そのメカニズム解明にも有用である。
【0035】
血管新生に関与する遺伝子群としては、例えば血管新生を誘導する腫瘍増殖因子(TGF−α)、細胞走化性を誘導するケモカイン(C−X−Cモチーフ)リガンド1、コラーゲンなどの細胞外構造を分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリー、低血清下で増殖が抑制されている線維芽細胞の増殖を促進するマトリックスメタロプロテアーゼインヒビター3、などがある。HUVEC細胞を用いた血管新生阻害効果試験において、薬剤処理等によるこれら遺伝子の発現低下は、血管新生阻害効果の作用メカニズムを示唆している。
【0036】
また、癌転移抑制メカニズムは、癌転移に関連する遺伝子発現を解析することによりさらに詳細に調べることが出来る。例えばリアルタイムPCR技術を利用して癌転移に関連する遺伝子群の発現を解析することができ、癌細胞株を用いてその遺伝子発現を解析することも一つの方法である。用いる癌細胞は腺癌細胞や上皮癌細胞等、特に限定する必要はない。リアルタイムPCR技術を利用し、癌転移抑制作用を持つ薬剤を癌細胞培養時に添加して、癌転移に関連する遺伝子発現の変化を解析することは、そのメカニズム解明に有用である。
【0037】
癌転移に関連する遺伝子群としては、コラーゲンなどの細胞外構造を分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリー、癌浸潤のステップとしてMMPの活性を調節するMMPインヒビター、基底膜コラーゲンタイプIVのα鎖(COL4A2)、などがある。癌細胞株を用いた癌転移抑制試験において、薬剤処理等によるこれら遺伝子の発現低下は、癌転移抑制効果のメカニズムを示唆している。
【0038】
血管新生阻害効果および癌転移抑制効果を調べる別の方法として、マウスに癌を移植し、その癌組織への血管新生作用および癌浸潤作用を観察評価する方法がある。
癌細胞を移植したマウス(担癌マウス)を数週間飼育することで、癌細胞は増殖し腫瘍を形成する。薬剤を投与したマウスと薬剤を投与しないマウスの癌細胞を摘出し、組織染色後に血管腔を観察することにより血管新生を評価することができる。また、同じ担癌マウス試験により、腫瘍観察および腫瘍摘出後の重量測定で癌浸潤を評価することができる。用いる癌細胞は特に限定されないが、C3Hマウス頬部腫瘍由来癌細胞株(SQ−1979)細胞などがある。
【0039】
本発明の化合物は単独で使用できるが、他の薬剤を用いる化学療法、手術療法、放射線療法、温熱療法あるいは他の血管新生抑制療法と組み合わせて使用することもできる。
【0040】
本発明化合物の投与方法としては経口、経腸または他の非経口的投与方法のいずれをも選ぶことができる。具体的な製剤形態としては特に限定されず、投与目的や投与経路等に応じて、たとえば錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、又は坐剤、軟膏剤、注射剤、局所投与のクリーム若しくは点眼薬などの非経口剤をあげることができる。配合量に関しては特に規定するものではないが、所望の効果を奏する範囲内で適宜選択することができる。
【0041】
本発明による製剤の担体としては経口、経腸、その他非経口的に投与するために適した有機または無機の固体または液体の任意成分を含有することができる。任意成分としては、一般に製剤に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤等の添加物を含有させることができる。結合剤の好適な例としてはデンプン、トレハロース、デキストリン、アラビアゴム末などが挙げられる。賦形剤の好適な例としては、しょ糖、乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニト−ル、結晶セルロース、ゼラチン、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、植物性および動物性脂肪ならびに油、ペクチンなどが挙げられる。滑沢剤の好適な例としてはステアリン酸、タルク、ロウ、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。安定剤の好適な例としては油脂、プロピレングリコールなどが挙げられる。乳化剤の好適な例としては、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としてはリン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。
【0042】
本発明の血管新生阻害剤および癌転移抑制剤を医薬部外品として製剤化して用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
【0043】
本発明の化合物は、製剤中に0.001〜100重量%含ませることができる。含有量は、好ましくは0.01〜100重量%、より好ましくは0.1〜90重量%である。
これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日当たり、好ましくは0.001〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.01〜200mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【0044】
また本発明の血管新生阻害剤および癌転移抑制剤はその他の医薬を含むことができる。この場合、本発明化合物(I)は必ずしもその製剤中の主成分でなくてもよい。
以下に実施例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定的に解釈されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定的に解釈されるものではない。
【0046】
(実施例1)KNK437の濃度依存的血管新生阻害作用
血管新生キット(倉敷紡績株式会社、製品番号;KZ−1100)を使用し、製品説明書奨の方法に従って実験した。当該キットは正常ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)と皮膚繊維芽細胞(NHDF)の共培養系モデルであり、24穴プレートで管腔形成初期段階の増殖状態で提供される。血管新生専用培地に血管新生促進剤であるVEGF−A(キット付属)を添加したものを培地交換に用い、KNK437を終濃度が、0(コントロール)、0.01、0.1、1.0、10、20μMになるよう各ウエルに添加した。炭酸ガスインキュベーターで3日間培養後、さらに4、7、9日目に各KNK437濃度に設定した培地で培地交換した。11日目にPBSで洗浄後、1ml/wellの70%エタノールを加え、室温30分静置により細胞固定した。さらに抗CD31抗体を用いた管腔染色キット(倉敷紡績株式会社、製品番号;KZ−1225)で各ウエルを染色し、形成された管腔を観察した。
その結果、KNK437は濃度依存的に血管新生阻害作用を示した。
【0047】
(実施例2)KNK437の血管新生関連遺伝子発現低下作用
血管新生関連遺伝子発現の解析は、SABiosciences社のAngiogenesis RT ProfilerTM PCR Arraysシステム(PAHS−024A)を使用し、製品説明書の方法に従って実験した。KNK437は、終濃度10μMで正常ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)へ添加し、炭酸ガスインキュベーターで3日間培養後、RNAを抽出した。さらにcDNAを調製後、RTマスターミックスと混合し、PCRアレイプレート(96穴)に添加した。PCR装置(BIO-RAD社)でリアルタイムPCRを実行後、Threshold Cycle (Ct)法によりデータ解析した。KNK437投与後の発現量変化は、(KNK437添加群の発現量)/(KNK437非添加群の発現量)の比で表し、発現量が減少したものはマイナスの記号で表した。
【0048】
【表1】

【0049】
KNK437投与群では、MMPファミリー等の血管新生関連の遺伝子発現が顕著に低下した。
【0050】
(実施例3)KNK437の癌転移関連遺伝子群発現低下作用
癌転移関連伝子発現の解析は、SABiosciences社のTumor Metastasis RT ProfilerTM PCR Arraysシステム(PAHS−028A)を使用し、製品説明書の方法に従って実験した。ヒト顎下腺由来腺癌細胞株(HSG)、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株(HSC2、SAS)を使用し、KNK437はHSG細胞で終濃度10μM、その他の細胞で終濃度40μMとなるよう培地へ添加し、炭酸ガスインキュベーターで3日間培養後、RNAを抽出した。さらにcDNAを調製後、RTマスターミックスと混合し、PCRアレイプレート(96穴)に添加した。PCR装置(BIO-RAD社)でリアルタイムPCRを実行後、Threshold Cycle (Ct)法によりデータ解析した。KNK437投与後の発現量変化は、(KNK437添加群の発現量)/(KNK437非添加群の発現量)の比で表し、発現量が減少したものはマイナスの記号で表した。
【0051】
【表2】

【0052】
KNK437投与群では、特にMMPファミリー遺伝子群の遺伝子発現が顕著に低下した。
【0053】
(実施例4)KNK437の癌細胞株の癌転移抑制効果(浸潤抑制)
上下2層からなる24ウェルタイプのBoyden Chamberを用い、8μmの穴の開いたメンブレンを透過した細胞数を観察し、KNK437の細胞浸潤阻害効果を調べた。Cell Invasion Assay Kit (CHEMICON International, Inc. No. ECM550)を使用し、製品説明書の方法に従って実験した。上層チャンバーには、浸潤型癌細胞株であるヒト顎下腺由来腺癌細胞株(HSG)、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株(HSC2、SAS、HSC3、KB)をそれぞれ1.0x10個/ml濃度で播種した。KNK437はHSG細胞で終濃度10μM、その他の細胞で終濃度40μMとなるよう下層チャンバーに添加し、炭酸ガスインキュベーターで3日間培養後、メンブレンを透過して移動した細胞を染色し、浸潤抑制効果についてKNK437未添加のコントロール群と比較し評価した。
【0054】
【表3】

【0055】
浸潤型癌細胞株のHSG、HSC2、SAS、HSC3、KB、において、KNK437投与群はKNK437非投与コントロール群と比較し浸潤抑制効果を示し、癌転移抑制効果が認められた。
【0056】
(実施例5)KNK437の坦癌マウスにおける癌転移抑制(血管新生阻害)効果
C3Hマウス頬部腫瘍由来癌細胞株SQ−1979を、C3Hマウス(5週齢、雄)の背部皮下に接種し1週間後に腫瘍の形成を確認した。癌細胞移植後1週間目からKNK437をオリーブオイルに懸濁し、100mg/kgで腹腔内投与した。KNK437非投与群にはオリーブオイルのみ投与した。3週間隔日投与を行った後、腫瘍を摘出して組織染色により血管腔の形成を顕微鏡観察した。結果を図1に示す。
【0057】
図1の結果からわかるように、KNK437投与群では、血管腔の形成が抑制された。
【0058】
(実施例6)KNK437の坦癌マウスにおける癌転移抑制(癌浸潤抑制)効果
C3Hマウス頬部腫瘍由来癌細胞株SQ−1979を、C3Hマウス(5週齢、雄)の背部皮下に接種し1週間後に腫瘍の形成を確認した。癌細胞移植後1週間目からKNK437をオリーブオイルに懸濁し、100mg/kgで腹腔内投与した。コントロール群はKNK437を投与せずオリーブオイルのみ投与した。3週間隔日投与を行った後、移植した背部を開き腫瘍の浸潤程度を目視で観察した。結果を図2に示す。
【0059】
図2の結果からわかるように、KNK437はマウス癌細胞株の浸潤を抑制した。KNK437投与群で顕著に腫瘍の大きさが小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、副作用が少ない、血管新生阻害剤および癌転移抑制剤を得ることができ、これらは、癌等の疾病治療並びに予防に有効であり、医薬品や医薬部外品として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】マウス背部皮下に接種したC3Hマウス頬部腫瘍由来癌細胞株(SQ−1979)を用いたKNK437の血管腔形成抑制効果を示す。
【図2】マウス背部皮下に接種したC3Hマウス頬部腫瘍由来癌細胞株(SQ−1979)を用いたKNK437の癌浸潤抑制効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Xが−CH−で、かつRが炭素数1または2のアルキル基、ホルミル基、アセチル基、水素原子又はハロゲン原子を表すか、あるいは、Xが−(CH−で、かつRが炭素数1〜3のアルキル基、ホルミル基、アセチル基、水素原子又はハロゲン原子を表す)で表される化合物を有効成分とする血管新生阻害剤。
【請求項2】
Xが−CH−、Rがホルミル基である請求項1記載の血管新生阻害剤。
【請求項3】
Xが−CH−、Rが水素原子である請求項1記載の血管新生阻害剤。
【請求項4】
Xが−CH−、Rがアセチル基である請求項1記載の血管新生阻害剤。
【請求項5】
Xが−(CH−、Rが水素原子である請求項1記載の血管新生阻害剤。
【請求項6】
Xが−(CH−、Rがホルミル基である請求項1記載の血管新生阻害剤。
【請求項7】
式(I)で表される化合物がE体である請求項1〜6いずれか記載の血管新生阻害剤。
【請求項8】
式(I)で表される化合物がZ体である請求項1〜6いずれか記載の血管新生阻害剤。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか記載の血管新生阻害剤を含有する、癌あるいは糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、乾癬、関節炎の治療または予防薬。
【請求項10】
請求項1〜8いずれか記載の化合物を含有する組成物を用いた、血管新生阻害を目的とした治療または予防方法。
【請求項11】
請求項1〜8いずれか1項記載の式(I)で表される化合物を有効成分とする癌転移抑制剤。
【請求項12】
請求項1〜8いずれか記載の血管新生阻害剤または請求項11記載の癌転移抑制剤を含有する癌の治療または転移抑制薬。
【請求項13】
請求項1〜8いずれか記載の化合物を含有する組成物を用いた、癌転移治療または癌転移予防方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95462(P2010−95462A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266612(P2008−266612)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年4月16日 NPO法人日本歯科放射線学会発行の「第49回学術大会 プログラム・講演抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月16日〜18日 NPO法人日本歯科放射線学会主催の「第49回学術大会」において発表
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】