説明

血管疾患の新たな治療標的を同定するためのインビトロの血行力学的内皮/平滑筋細胞共培養モデルの使用

【課題】ヒトの循環をモデルとした血行力学的(すなわち、血流)パターンを培養状態のヒト/動物細胞に適用するためのインビトロの生体力学モデルの提供。
【解決手段】ヒトの循環をモデルとした血行力学的(すなわち、血流)パターンを培養状態のヒト/動物細胞に適用するために用いられるインビトロの生体力学的モデル。2から3またはそれより多くの異なる細胞型を培養皿環境中で物理的に分離することを可能にし、内側の細胞表面は、シミュレートされた血行力学的流動パターンに曝される。培地、薬剤等を、共培養モデルの内側および外側チャンバーの両方へ別々に且つ独立して供給するための特注の流入管および流出管を含む。人工のトランズウェル膜およびペトリ皿の底面による接着細胞の物理的分離は、各々の細胞層または表面を、一連の生物学的解析(すなわち、タンパク質、遺伝子等)のために別々に単離することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年1月10日出願の米国仮特許出願第60/879,710号からの 35 U.S.C. § 119(e) に基づく優先権を主張し、その内容は引用により本明細書に取り込まれる。
【0002】
関連の資金援助を受けた研究または開発の宣言
適用なし
【0003】
配列表の参照
適用なし
【0004】
発明の背景
発明の分野
本発明は一般的に、細胞(例えば、内皮細胞)上でのインビトロの流体解析(例えば、血行力学)のための装置および方法に関する。より具体的には、本発明は、培養皿環境中で1より多くの異なる細胞型を物理的に分離することを可能にし、一方で内側の細胞表面がシミュレートされた血行力学的流動パターンに曝される装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0005】
関連技術の説明
アテローム性動脈硬化は、動脈の病変形成および管腔狭窄によって特徴づけられる血管の炎症性疾患である。内皮細胞(EC)および平滑筋細胞(SMC)の局所的表現型は、血管疾患の進行において重要な意味を有する。初期のアテローム発生の間には、内皮が活性化され、接着分子の発現、リポタンパク質に対する透過性およびサイトカイン産生の増大をもたらす。かかる環境変化は、形態的変化、増大した増殖および遊走ならびに静止状態の SMC を定義するマーカーの減少した発現によって特徴づけられる“表現型転換”を起こすように SMC を促し得る。
【0006】
アテローム性動脈硬化は、大動脈における、血行力学的に定義された領域、例えば複雑な流動パターンを生み出す分岐におけるその局所的な発達によってさらに特徴づけられる。プラーク形成を起こしやすいアテローム易発性(Atheroprone)領域は、低い時間平均せん断応力および“乱れた(disturbed)”振動性流動パターンにさらされる。対照的に、プラーク形成を起こしにくいアテローム保護性(atheroprotective)領域は、比較的高い時間平均せん断応力および拍動性の層流にさらされる (13、39)。慢性的な乱流(disturbed flow)の領域においては、EC 表現型の変化、例えば増大した接着分子発現、(すなわち、血管細胞接着分子 1 (VCAM-1)、細胞間接着モジュール 1 (ICAM-1)、e-セレクチン)および低密度リポタンパク質(LDL)に対する経内皮透過性が、局所的なシグナル伝達環境に影響を与え、SMC 表現型を変更することができ、増殖、遊走およびアテローム性動脈硬化の発病をもたらす。
【0007】
EC のおよび血行力学的流動パターンを含む SMC 表現型の変化を制御する因子は、完全には理解されていない。しかし、アテローム性動脈硬化における SMC 表現型転換の特徴は、SMMHC、SMαA およびミオカルディンを含む分化した SMC を定義する収縮性タンパク質の抑制である。
【0008】
アテローム発生における内皮に対するせん断応力の役割を理解するため、EC を様々なせん断応力条件に曝すインビトロのモデルが広範に研究されてきた。EC は流動パターンにおける変動を識別することができ、かつ、せん断応力の大きさおよび血行動態の経時変化する特徴の両方に対し感受性であるため、インビボの流動環境を模倣(emulating)することは、内皮のインビボの表現型を再現すること(recapitulating)に対して大きな影響を有すると思われる。加えて、あらゆる型の流動の存在下における EC と SMC の複雑な相互作用および交差情報交換を示した研究はほとんどなく、文献によって古典的に定義されているような、インビボ由来のヒトの内皮に対する血行力学的な力がどのように SMC 表現型転換を調節するかについて調べた既知の研究は今日まで存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の概要
本発明の一つの側面は、これらに限定されないが、ヒトの循環をモデルとした血行力学的(すなわち、血流)パターンを培養状態のヒト/動物細胞に適用するために用いられるインビトロの生体力学モデルである。本モデルは、非観血的磁気共鳴画像法を用いてヒトの循環から直接測定され、コーンの回転を制御するモーターに変換される血行力学的流動パターンを再現する。コーンは流体(すなわち、細胞培養の培地)中に浸され、プレート表面上で増殖する細胞の表面に近接させられる。コーンの回転は、流体上で運動量を変換し、プレートまたは細胞表面に対する経時変化するせん断応力を作り出す。本モデルは、生体内で内皮細胞(血管を裏打ちする細胞)に対して与えられる生理学的な血行力学的な力を最も密接に模倣し、より単純化された非生理学的流動パターンの適用に限られていたこれまでの流動装置を乗り越える。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の別の側面は、市販のトランズウェル共培養皿、例えば 75mm-直径のトランズウェルを取込むことに向けられている。これは、2つ、3つまたはそれより多くの異なる細胞型を培養皿環境の中で物理的に分離することを可能にし、一方で内側の細胞表面は、シミュレートされた血行力学的流動パターンに曝される。他の重要な改変は、共培養モデルの内側および外側チャンバーの両方へ、培地、薬剤等を別々に且つ独立して供給するための流入管および流出管を含む。外部部品が、生理学的な温度および気体濃度を制御するために用いられる。人工のトランズウェル膜およびペトリ皿の底面による接着細胞の物理的分離は、各々の細胞層または表面を、一連の生物学的解析(すなわち、タンパク質、遺伝子等)のために別々に単離することを可能にする。
【0011】
本発明の方向付けされた使用は、1) ヒト/動物の内皮および平滑筋細胞 − 血管壁を構成し、アテローム性動脈硬化(心疾患、卒中、末梢血管疾患)および他の血管疾患の病理学的進行に関与する、重要な意味を持つ2つの細胞型の間のクロストークを研究することを含む。2) このモデルは、新規な薬剤に基づく治療を毒性、炎症(例えば単球接着、炎症性サイトカイン放出、炎症性遺伝子誘導)および透過性について試験する際の診断モデルとしても用いることができる。
【0012】
本発明に関する様々な態様のいくつかの代表的な新しい側面は、これらに限定されないが、順不同で、以下を含む:
【0013】
装置は、アテローム性動脈硬化に感受性の動脈循環、アテローム性動脈硬化保護性の動脈循環、および他の生理学的(例えば、運動)または病的状態(例えば、高血圧、糖尿病、脂質異常症)に感受性の患者からの動脈循環における血行力学的せん断応力特性を、最も高いレベルの忠実度で再現することができる。
【0014】
装置は、動脈、静脈またはあらゆる器官の循環から、あらゆる型の測定可能なまたは理想主義的なせん断応力特性を、最も高いレベルの忠実度で再現することができる。
【0015】
膜の反対側で培養された別の細胞型を伴うかまたは伴わない状態での、トランズウェル膜の内側表面に対する血行力学的流動パターンの曝露。
【0016】
トランズウェル皿の底面上で培養された別の細胞型を伴うかまたは伴わない状態での、トランズウェル膜の内側表面に対する血行力学的流動パターンの曝露。
【0017】
膜の反対側で培養された別の細胞型を伴うかまたは伴わない状態で、且つトランズウェル皿の底面上で培養された第3の細胞型を伴うかまたは伴わない状態での、トランズウェル膜の内側表面に対する血行力学的流動パターンの曝露。第3の細胞は、炎症性の細胞接着アッセイのための単球またはマクロファージを含み得る。
【0018】
膜の反対側で培養された別の細胞型を伴うかまたは伴わない状態で、且つトランズウェル膜の内表面の培地中に浮遊した状態の第3の細胞型を伴うかまたは伴わない状態での、トランズウェル膜の内側表面に対する血行力学的流動パターンの曝露。
【0019】
内側(上側)チャンバーおよび外側(下側)チャンバーの両方のための流入管および流出管を所定の位置に保つために用いられるクランプは、トランズウェルの側面上に乗っている。これは、流動環境を乱すことなく、トランズウェルの上側および/または下側チャンバーの培地、生化学的化合物アゴニスト、アンタゴニスト等を別々に灌流により出入り(perfuse in and out)させるために用いられる。実験から抽出された培地は、いずれかの層からのサイトカインまたは体液性因子の分泌をさらに試験するために用いられ得る。
【0020】
遺伝子アレイ、プロテオミクスを含むプロセシング後の(post-processing)生物学的(プロテオミクス/ゲノム)解析のために、単一の実験から各々の細胞型を独立に(1つ、2つまたは3つの異なる細胞型が用いられる)単離する能力。
【0021】
装置は、接着性または非接着性のあらゆる種からのあらゆる細胞型を受容し、試験することができる。
【0022】
装置は、胚の血管発達から成人におけるアテローム性動脈硬化の重症例までの全ての局面を研究するための、血管の生物模倣型細胞培養モデルとして用いることができる。例えば、内皮細胞は内側表面にプレーティングすることができ、および/または平滑筋細胞はトランズウェル膜の反対側にプレーティングすることができ、および/またはマクロファージ(または白血球)は上側または下側チャンバー中にプレーティングすることができる。
【0023】
装置は、血行力学的条件下での血管ステント材料からの細胞の適合性、細胞接着および表現型調節を試験するために用いることができる。例えば、内皮および/または平滑筋細胞は、材料に隣接して、材料の上部にまたは材料の下に播種することができ、装置の固定された表面上に乗せることができる。材料は、これらに限定されないが、金属性ナノポーラス金属、ポリマー、生分解性ポリマー、炭素表面、引っ掻き傷のある(scratched)もしくはエッチングされた(etched)表面を含む。
【0024】
装置は、細胞の存在下または非存在下で、血行力学的条件下での血管ステント材料からの薬剤(すなわち、化合物)の溶出を試験するために用いることができる。
【0025】
装置は、血行力学的条件下でのポリマー性材料で被覆された表面の上にまたは表面に隣接して播種された細胞の適合性、細胞接着および表現型調節を試験するために用いることができる。
【0026】
装置は、血液脳関門の研究のための血管の生物模倣型細胞培養モデルとして用いることができる。例えば、内皮細胞は、内側表面にプレーティングすることができ、および/またはグリア細胞および/またはアストロサイトおよび/またはニューロンは、トランズウェル膜の反対側および/またはペトリ皿の底面にプレーティングすることができる。
【0027】
装置は、喘息の発生および進行の研究のための気道の生物模倣型細胞培養モデルとして用いることができる。例えば、上皮細胞は、内側表面にプレーティングすることができ、および/または平滑筋細胞は、トランズウェル膜の反対側にプレーティングすることができ、および/またはマクロファージ(または白血球)は、下側チャンバー中にプレーティングすることができる。律動的な呼吸パターンは、コーンの動きによって分泌のためによく近接して、および/またはコーンと上皮の表面の間の人工粘膜層によって、模倣される。
【0028】
装置は、内皮細胞および上皮性有足細胞の相互作用を研究するための腎臓の生物模倣型モデルとして用いることができる。
【0029】
装置は、患者の薬剤治療を模倣する特定の体液性環境を作り出すために用いることができ、その後、患者の薬剤治療と併せて既知または未知の薬剤化合物の適合性を決定することができる。例えば、装置は、培地中に薬剤リピトールを伴った状態で特定の時間動かすことができ、次いで、毒性、炎症(例えば単球接着、炎症性サイトカイン放出、炎症性遺伝子誘導)および透過性の変化を決定するために、未知の薬剤を添加することができる。
【0030】
装置は、薬剤毒性またはいくつかの病態生理学的エンドポイントに連鎖する同定された遺伝子型を有する患者から採取された血管細胞または他の器官細胞型における機能変化を決定するために用いることができる。 例えば、薬剤毒性に関連することが同定された一塩基多型(SNP)を有する患者からの内皮細胞は、新規なまたは既知の化合物を毒性、炎症(例えば単球接着、炎症性サイトカイン放出、炎症性遺伝子誘導)および透過性の変化について試験するために用いることができる。これは一般に、ファーマコゲノミクスと称される。
【0031】
本発明の一つの態様は、血行力学的パターンを培養状態の細胞に適用する方法であり、前記方法は、第1のセットの細胞をトランズウェル上にプレーティングする工程、第2のセットの細胞を前記トランズウェル上にプレーティングする工程、ここで前記第1のセットの細胞は前記第2のセットの細胞から分離され、流体を前記トランズウェルに添加する工程; および一定期間、前記流体の回転を起こす工程を含み、これによって前記培地は前記第2のセットの細胞にせん断力を及ぼす。
【0032】
本発明の別の態様は、血行力学的パターンを培養状態の細胞に適用する方法であり、前記方法は、対象の血行力学的パターンをモニターする工程; 前記血行力学的パターンを電子的指示のセットへとモデル化する工程; および前記電子的指示に基づいて、トランズウェル上の細胞の複数のセットに対してせん断応力をもたらすために装置を使用する工程を含む。
【0033】
本発明の別の態様は、電子コントローラー; 前記電子コントローラーを介して操作されるモーター; 前記モーターによって回転させられる、前記モーターに接続したコーン; 膜を備えたトランズウェル、ここで前記コーンは前記トランズウェル中の培地に少なくとも部分的に浸され、前記コーンは前記培地に対して回転力を及ぼす; 前記トランズウェルに培地を添加するための流入管; および前記トランズウェルから培地を回収するための流出管を含む血行力学的流動装置である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図の簡単な説明
【図1】図 1 は、トランズウェル上の EC/SMC プレーティングの代表的な図を提供する;
【図2】図 2 は、トランズウェル培養皿に適合するよう改変されたコーンおよびプレート流動装置の図を提供する;
【図3】図 3 は、ヒト総頚動脈(CCA)および内頚動脈洞(ICS)の MRI から得られる代表的な血行力学的流動パターンを示すグラフを提供する。かかる代表的な MRI も示される;
【図4】図 4 は、EC 播種後24時間での EC および SMC の代表的なコンフルエントな層を示す;
【図5】図 5 は、F-アクチンおよび FM 4-64 について染色された代表的な横断面または膜の細孔内での細胞プロセスを示す微分干渉によって可視化された代表的な横断面を示す;
【図6】図 6 は、EC/SMC の形態および配向の代表的な免疫蛍光画像を示す;
【図7】図 7 は、EC および SMC についての形状因子(shape factor)(SF)の代表的な規準化されたヒストグラムプロットを示す;
【図8】図 8 は、アテローム保護性の流れの方向(0°)と比較しての、SMC および EC についての方向の平均角度を示す;
【図9】図 9 は、流れの方向と比較しての SMC の方向(または角度)の配向ヒストグラムを示す;
【図10】図 10 は、規準化された遺伝子発現を明示する代表的なグラフを示す;
【図11】図 11 は、規準化された mRNA 発現の代表的なグラフを示す;
【図12】図 12 は、代表的なタンパク質解析の結果を示す;
【図13】図 13 は、規準化された mRNA 発現の代表的なグラフを示す;
【図14】図 14 は、規準化された mRNA 発現の代表的なグラフを示す;
【図15】図 15 は、代表的なブロット解析の結果を示す;
【図16】図 16 は、アテローム易発性およびアテローム保護性の流動調整された培地上で行われた IL-8 についての代表的な ELISA 解析の結果を示す;
【図17】図 17 は、規準化された mRNA 発現の代表的なグラフを示す;
【図18】図 18 は、膜の表面の代表的な走査型電子顕微鏡写真を示す; および
【図19】図 19 は、代表的な濃縮倍率(fold enrichment)のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の詳細な説明
アテローム性動脈硬化
アテローム性動脈硬化は、乱れた、時間平均の低い、振動性の壁せん断応力によって特徴づけられる動脈の領域、例えば分岐および曲率の高い領域において優先的に発達する。生体内のアテローム易発性領域およびインビトロでの内皮に対するアテローム易発性せん断応力は、下流の炎症性標的の活性化および調節によって示される炎症促進性の準備刺激を誘導し得る。EC および SMC は、アテローム硬化性の現象を開始する間に表現型調節または“転換”を受けることが知られている2つの主要な細胞型であるが、EC に対する血行力学的な力が SMC におけるこの過程を調節するかまたはこれに貢献するか否かについては本発明まで不明であった。EC に適用されるヒト由来アテローム易発性せん断応力は、クロマチンレベルでの後成的な修飾を介して、EC および SMC における炎症促進性の表現型ならびに SMC におけるアテローム生成促進性の(proatherogenic)表現型転換を調節する。これは、メカノトランスクリプショナルカップリング(mechanotranscriptional coupling)と呼ばれる過程である。
【0036】
本発明の共培養過程からの結果は、血行動態が血管の EC および SMC 準備刺激をアテローム生成促進性の応答へ向けて誘導するという仮説を支持し、それ故、初期のアテローム硬化性現象の研究のための生理学的に関連する新しい生物模倣型血管モデルとしての共培養系の使用を確証する。これらの結果は、これまでに発表されたアテローム性動脈硬化に関連するインビボおよびインビトロの流動研究と一致する(図 10 を参照)。さらに、これまでの EC および SMC のトランズウェル共培養モデルは、少数の流動研究を除いて静的な(statictype)実験に制限されており、生理学的に関連するヒト由来の血行力学的流動パターンを採用した既知の研究は無い。脈管構造中の領域をインビボで正確に比較するためのより生理学的に関連するモデルをもたらし、古典的な SMC 分化マーカーに焦点を合わせた本発明の過程は、2つの血行力学的流動パターンを直接的に比較することによってこれらの制限を乗り越える。
【0037】
血管疾患における SMC 表現型調節の特徴は、収縮性の表現型を定義する遺伝子の変化した発現である。SMC 分化マーカーおよび分化した SMC を反映するもの(delineator)である転写因子は、アテローム易発性の流動によって影響を受ける。分化マーカー(SMαA およびミオカルディン)の発現の消失ならびに mRNA およびタンパク質の両方のレベルでの炎症性マーカー VCAM-1 の誘導は、アテローム易発性の流動に曝された EC が、アテローム保護性の流動と比較して SMC 表現型を異なって調節することを確証した。ChIP 解析によって、アテローム易発性に誘導される、CArG 依存性の SMC 遺伝子発現の消失を開始するメカニズムが、アテローム保護性の流動と比較して SMαA および SMMHC の CArG ボックス領域への SRF の結合の減少ならびにヒストン H4 の脱アセチル化を含むことが明らかになった。これは初期の増殖応答遺伝子 c-fos には当てはまらなかった。これらの結果は、PDGF-BB 処理に対する応答における単一培養(monoculture)の SMC 研究と一致し、そしてより重要なことに、急性の血管傷害に対する応答における、インタクトな血管における SMαA、SMMHC および c-fos についての後成的なフィンガープリントとも一致する。したがって、ヒストン H4 のアセチル化が、CArG クロマチン プロモーター領域を SRF が接近可能な状態に維持するために重大な意味を持つという一般的なパラダイムは、EC に対して曝露される2つの異なる血行力学的流動パターンによって、異なって調節される。SRF のコアクチベーターであるミオカルディンは、SMC 選択性 CArG 依存性遺伝子の正の調節のための SRF との高次の複合体形成において重大な役割を果たす。対照的に、KLF4 は、CArG 依存性の SMC 分化遺伝子のミオカルディン依存性の調節を抑制し得る。ミオカルディン発現は、アテローム易発性の流動に対する応答において有意に減少したが、一方で KLF4 は、発現を増大させる傾向があった。KLF4 遺伝子発現は、培養された SMC における PDGF-BB への応答において迅速に且つ一過性に誘導され得、インタクトな血管においては急性の血管傷害の後6時間まで一過性に誘導されて24時間までにベースラインに戻り得ることから、KLF4 発現の最大の且つ最も重要な変化は、この時点においては捕獲されなかった可能性がある。それにもかかわらず、この研究において作られた遺伝子プロファイルは、文献からの現存するデータと相関し、総合すると、結果は、アテローム易発性の流動に曝された SMC の表現型調節が転写レベルで起こり、かつ、良く特徴付けされた SRF/ミオカルディンおよびKLF4 のシグナル伝達の軸(axis)を含むことを示唆する。
【0038】
興味深いことに、EC はアテローム易発性の流動において、減少した KLF4 発現を示した。KLF4 は、単一培養の EC において流動によって調節されることが示されてきた; しかし、KLF4 が、アテローム保護性の流動と比較して、アテローム易発性の流動によって異なって発現することはこれまで知られていなかった。EC における KLF4 の機能的重要性は、KLF2 の機能的重要性(すなわち、抗炎症性、アテローム保護性および止血制御)と類似することが最近示された。さらに、KLF4 は細胞周期の調節に関与することが示され、より大きな細胞周期活性がアテローム易発性関連のインビトロの流動および生体内の領域について報告された。したがって、KLF4 転写の調節は、血管の EC および SMC 増殖の調節において、同等に重要な役割を果たし得る。さらに、ミオカルディンは急性の機械的血管傷害に伴って減少することが示された一方、KLF4 は増加し、この過程は、これらの転写因子が初期のアテローム生成現象を模倣するモデルにおいて異なって調節されることの証拠を提供する。アテローム性動脈硬化における生体内の調節は、現在のところ不明である。
【0039】
驚くべき事に、SMMHC は、期待された 調節傾向(modulation trend)に従わなかった唯一の SMC マーカーであった。これは、RT-PCR プライマーによる両方の SMMHC アイソフォーム(SM-1 および SM-2)の認識のためであり得る。各々のアイソフォームについての別々の解析は、他の SMC マーカーと一致する応答を解明し得る。より遅い時点(すなわち、48時間)での解析は、これを解決し得る。アテローム易発性の流動の存在下における EC および SMC の両方の 組み合わされた(combined)表現型応答は、ヒトにおいておよびアテローム性動脈硬化の実験モデルにおいて定義された、歴史的な EC および SMC の表現型特性に著しく類似する(図 10)。
【0040】
アテローム保護性の流動と比較してのアテローム易発性の流動に対する応答における EC 遺伝子発現の評価は、類似の流動特性を用いる唯一の単一培養研究ならびに同様の大きさの定常のせん断応力およびアテローム性動脈硬化のインビボのモデルを用いる研究と一致し、血行動態が EC 表現型を SMC の存在よりも頑強に調節することを強調する。24時間のアテローム易発性の流動に曝された EC は、eNOS、Tie2 および KLF2 の減少に相応する、IL-8、VCAM-1 および PCNA に関するより高いレベルのアテローム生成促進性および増殖性の遺伝子およびタンパク質を誘導した。eNOS および Tie2 の発現消失は、より高い割合の再構築および増大した透過性、生体内でのアテローム感受性の(atherosusceptible)領域に特有の特徴を示唆する。証拠は、KLF2 のおよびおそらくは KLF4 の、アテローム保護(atheroprotection)の上流の転写調節因子としての役割を確立した。アテローム保護性のインビトロの血行動態および生体内の領域は、KLF2 発現および転写の制御の鍵となるモジュレーターであると思われる。SMC はまた、増大した VCAM-1 mRNA レベルによって示される通り、アテローム易発性の流動に対する初期の炎症性応答をも示した。VCAM-1 調節は、ヒトのアテローム硬化性プラークの SMC において観察され、インビトロおよびインビボでの初期のアテローム発生の間における増殖に関連づけられた。しかし、増殖性マーカー PCNA は、アテローム易発性の流動に関して SMC において変化を示さなかったため、この系の中にはより遊走性の SMC 表現型が存在する可能性がある。
【0041】
初期のアテローム発生の間に SMC 表現型調節を制御する、EC から分泌される1または複数のサイトカイン/マイトジェンは、未だ解明される必要があり、候補、例えば PDGF-BB、IL-1 および IL-8 を含む。EC が、アテローム易発性の流動の後、IL-8 mRNA の産生および IL-8 の分泌を増大させることをここに示す。実際、IL-8 は、SMC において遊走性の表現型の誘導を刺激し得る。そのため、EC による IL-8 分泌は、SMC がより総合的な(synthetic)表現型を調節する1つのメカニズムであり得る。興味深いことに、アポリポタンパク質 E -/- マウスにおける最近の研究は、実験的に誘導された低いせん断応力が、増殖関連タンパク質(Gro)-α mRNAの増加をもたらすことを示した。しかし、本研究の生体内の性質を考えると、Gro-α mRNA の変化が EC におけるものか、SMC におけるものか、またはその両方におけるものかは決定されていなかった。Gro-α は IL-8 と同じ受容体に結合するが、IL-8 のマウスのホモログは存在しない。そのため、ヒト共培養モデルは、EC 由来の IL-8 の SMC に対する役割を調べるのに理想的であり、今後の研究は、かかる相互情報交換(cross-communication)メカニズムの相対的寄与を確立するために進行している。
【0042】
アテローム保護性の流動と対比してアテローム易発性の流動において観察される細胞形態の変化も、局在的な下流のアテローム生成応答をもたらし得る初期の再構築の徴候であった。EC は、本発明者らの系において観察される通り、拍動性の生理的状態の下で流動の方向に再配向し、乱流に曝された後により多角形の形を維持することが知られている。しかし、内皮によって感知されるせん断応力に起因する SMC の再配向についての我々の理解は、その最も初期の段階におけるものである。SMC は、アテローム保護性の波形の下では血行力学的流動に対してより垂直に配向するが、一方でアテローム易発性の流動に曝された SMC は、よりランダムな整列をもたらした。重要なことに、この SMC の配向は、インタクトな血管における、二股の領域、アテローム性動脈硬化に高度に感受性の領域での SMC の空間的パターン形成とほぼ同一である。総合すると、この事は、血行力学的流動が、別々のアテローム易発性またはアテローム保護性の流動パターンに固有のユニークな制御メカニズムによって EC および SMC の両方の配向を調節し得ることを示唆する。
【0043】
本発明は、内皮に対して直接に適用されるアテローム保護性またはアテローム易発性のヒトの血行力学的な力が、SMC 表現型を調節することができ、SMC 再構築に影響を与えることができるということ、すなわちメカノトランスクリプショナルカップリングとして本発明者らが定義した過程を示す、ヒトの EC および SMC を用いる新規なインビトロの共培養モデルを提示する。さらに、EC および SMC における表現型のおよび形態的な変更のスナップショットは、内皮に対する血行力学的な力がアテローム発生の重要なモジュレーターであることを示す。
【0044】
図 1 に示される通り、トランズウェル 100 が、血行力学的流動過程において用いられる。トランズウェルは、複数の細胞 110、120 が並行して試験されるのを可能にし、また、多孔質の界面を提供する。共培養へプレーティングするための代表的な過程も知られている; しかし、この過程は、当業者に利用可能な過程によって変更され得る。この態様において、SMC 110 は最初の時点でプレーティングされ、その後にトランズウェルが反転させられる。SMC 110 が24から48時間の間インキュベートされ、その後に EC 120 がトランズウェル上にプレーティングされ、インキュベートされる。トランズウェルが挿入されるためのペトリ皿の底は、トランズウェル膜 170 に直接プレーティングされた細胞型のように、追加の細胞型または同じ細胞型をプレーティングするための第3の表面としても働き得る。
【0045】
図 2 に示される通り、モーターおよびコーン装置 200 は、細胞に対してせん断力を適用するために用いられる。モーター 230 は、コーン 240 を正確な回転速度で回転させ、いずれかの方向(すなわち時計回りまたは反時計回り)に回転をもたらすことができる。この回転力は、コーンによって液体培地へ適用される。今度はこの培地が、せん断力をトランズウェル膜 270 上の細胞 260 へ直接的に適用する。ソフトウェアが、コーンの連続的な動きを制御するためにプログラムされる。このソフトウェアファイルがモーターコントローラーユニットにアップロードされ、次いで、プログラムされたタスクを実行するために、情報がモーターに直接送られる。
【0046】
好ましい態様において、培地は、実験の間、細胞の完全性および健康を維持するために処方される細胞培養ブロスである。処方は制限されず、用いられる細胞型および実験的研究に応じて異なり得る。さらに、薬剤化合物は、最初にまたは流動実験の過程において細胞培養環境中へ灌流されて、この処方の一部であり得る。これは、これらに限定されないが、細胞におけるタンパク質/遺伝子の機能を阻害し得、活性化し得または変更し得る化合物を含み得る。
【0047】
一つの態様において、装置は、血行力学的条件下における血管ステント材料からの細胞の適合性、細胞接着および表現型調節を試験するために用いられ得る。例えば、装置の固定された表面上に乗せられた、材料に隣接して、材料の上部に、または材料の下に播種された内皮および/または平滑筋細胞。材料は、これらに限定されないが、金属性ナノポーラス金属、ポリマー、生分解性ポリマー、炭素表面、引っ掻き傷のあるもしくはエッチングされた表面を含む。これらの材料は、非分解性ポリマーもしくはコポリマー、例えばポリエチレン酢酸ビニル共重合体(polyethylene-co-vinyl acetate)(PEVA)およびポリメタクリル酸 n-ブチルをさらに含み、トランズウェル表面上に被覆することができる。これらの材料は、生分解性ポリマーまたはコポリマー、例えばポリ乳酸 グリコール酸(PLGA)もしくはホスホリルコリンをさらに含み、トランズウェル表面上に被覆することができる。これらの材料は、ナノポーラス表面修飾、例えばセラミック、金属または他の材料をさらに含み、ナノポーラス表面修飾としてトランズウェル表面に添加することができる。これらの材料は、ミクロポーラス表面修飾、例えばセラミック、金属、物理的エッチング(例えば砂の吹き付け)またはミクロポーラス表面修飾を形成するためにトランズウェル表面に付加される他の材料をさらに含む。
【0048】
本発明の別の態様において、装置は、トランズウェル膜の1または両方の面にプレーティングされた細胞と共に動作し得る。トランズウェル膜の膜部分は、様々な空隙率および厚さを有するあらゆる生物学的なまたは合成の材料を含み得る。同様に、トランズウェル膜を保持および支持する構造は、あらゆる合成の材料で作られ得る。
【実施例】
【0049】
実施例
以下は、本発明を用いる方法の例であり、本発明の範囲を本実施例中に記載される正確な方法に限定することを意図するものではない。
【0050】
ヒト細胞の単離および培養
初代 ヒト EC および SMC を、臍帯から単離し、展開し、細胞の源として用いた。ヒト EC を、前述の通りに臍帯静脈から単離し(ヒト臍帯静脈 EC)、その後、前述の通りに同様の方法を用いて静脈から SMC を単離した。
【0051】
EC は継代 2 において実験に用いられ、SMC は継代 10 まで実験に用いられ、両者とも、特定の EC および SMC マーカーの保持に基づいて、基本的な EC/SMC 表現型を保持するよう樹立された。細胞型を、10% FBS (GIBCO)、2 mM L-グルタミン(BioWhitaker)、増殖因子 [10 μg/ml ヘパリン(Sigma)、5 μg/ml 内皮細胞増殖サプリメント(Sigma)および 100 U/ml ペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO)] が補充された培地 199 (M199; BioWhitaker)を用いて、別々に培養および継代した。
【0052】
トランズウェル共培養プレーティング条件
図 1 に示される通り、多孔質のトランズウェル膜(厚さ 10 μmで、孔の直径 0.4 μmのポリカーボネート、no. 3419、Corning)を、上面および底面について、0.1% ゼラチンで最初に被覆した。トランズウェルを反転させ、SMC を 2 時間の間、底面上に 10,000 細胞/cm2 の密度でプレーティングした。次いでトランズウェルを元に戻し、48時間の間、ウェルを低血清増殖培地(2% FBS、2 mM L-グルタミンおよび 100 U/ml ペニシリン-ストレプトマイシンが補充された M199)中に保持した。次いで、同じ培地条件のもとでさらに24時間の間、EC を膜の上面に 80,000 細胞/cm2 の密度でプレーティングした。血行力学的流動実験のために、2つの皿を並行して調製した。
【0053】
共培養の血行力学的流動装置および流動パターン
図 2 に示される通り、ヒトの循環からモデル化された動脈の流動パターンを用いるこの過程の新規な共培養インビトロモデルを、ヒト EC に適用した。コーンおよびプレート装置の一つのバージョンは、コーンが(タイミングベルト接続を介して一方の側へ向かうのではなく)モーターによって直接的に駆動される直接駆動である。このモデルを、75-mm-直径のトランズウェル共培養皿(厚さが 10 μmで、孔の直径が 0.4 μmのポリカーボネート、Corning)を組み込むよう改変した。さらなる改変は、トランズウェル皿を安全に保持するための土台、トランズウェル区画の内側にフィットするためのより小さなコーン(直径が 71.4 mmでコーン角度が 1°) ならびに EC および SMC 層の両方に対して連続的に培地を交換するための培養流動環境への直接的接近手段を提供する、トランズウェルの内側および外側チャンバーの両方についての流入管および流出管のための特別な取付けブラケットを含んだ。コーンの回転を介して、系は EC/SMC 共培養の EC 層に対して血行力学的せん断応力をかける。
【0054】
この過程で用いられる血行力学的流動パターンは、それぞれアテローム保護性の(CCA)およびアテローム易発性の(ICS)せん断応力パターンをインビトロで最善にシミュレートするために、ヒトの総頚動脈(CCA)および内頚動脈洞(ICS)の MRI から得られた。2つの血行力学的流動条件を、各々の EC/SMC 亜集団について並行して実行した。図 3 は、総頚動脈(CCA; アテローム保護性、右、310)および内頚動脈洞(ICS; アテローム易発性、320)からのヒトの血行力学的流動特性(左)が、トランズウェルの EC 表面に対して課された事を示す。
【0055】
リアルタイム RT-PCR
24時間の血行力学的流動パターンの適用の後、SMC および EC を、Ca2+/Mg2+ を伴う PBS で2回リンスした。膜を保持皿から取り除き、反転させた。小さく柔軟な細胞スクレーパーを用いて、SMC を 皿の中心へ向かって穏やかに掻き集めた。次いで、1 ml のPBS を用いて細胞を無菌の表面上へすすぎ落とし、その後、細胞を氷上で微量遠心管に移した。膜を反転させ、無菌の表面上に平らに置き、EC を 1 ml のPBS 中で掻き集めた後、氷上で別々の微量遠心管に移した。管を遠心し、PBS を除去した。TRIzol 試薬 (Invitrogen)を用いて全 RNA を抽出し、iScript cDNA 合成キット(Bio-Rad)を用いて逆転写した。Beacon Designer 2.0 を用いて、平滑筋α-アクチン(SMαA)、ミオカルディン、平滑筋ミオシン重鎖(SMMHC)、VCAM-1、単球走化性タンパク質-1 (MCP-1)、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)、アンジオポエチン(angiopoiten)受容体 Tie2、IL-8 およびクルッペル様転写因子(KLF2 および KLF4)についてプライマーを設計した。表 1 は、各々のヒト遺伝子について用いられたセンスおよびアンチセンスプライマーを示す。mRNA の発現を、AmpliTaq Gold (Applied Biosystems)、SYBR green (Invitrogen) および iCycler (Bio-Rad)を用いるリアルタイム RT-PCR を介して解析した。

【表1】


【0056】
ウエスタンブロット解析
血管の SMC および EC を、リアルタイム PCR で記載した通りに回収し、RIPA バッファー(1% ノニデット P-40、Na-デオキシコーレート、1 mM EDTA、1 mM PMSF、1 mM Na3VO4、1 mM NaF、1 μg/ml アプロチニン、1 μg/ml ロイペプチン および 1 μg/ml ペプスタチン)中で溶解した。全タンパク質ライセートを、7.5% SDS-PAGE ゲル上で分離し、ポリビニル誘導体膜上にブロットした。一次抗体 [SMαA (Sigma、1:1,000)、eNOS (BD Transduction Laboratories、0.1 μg/ml)、VCAM-1 (R&D Systems、1:500) および PCNA (Cell Signaling、1:1,000)] を、室温で1時間または 4 ℃で一晩、ブロットと共にインキュベートした。セイヨウワサビ ペルオキシダーゼ結合 二次抗体 [ヤギ 抗ウサギ、ヤギ 抗マウス (Santa Cruz Biotechnology、1:5,000) および ロバ 抗ヤギ (1:5,000)] を、室温で1時間、ブロットと共にインキュベートした。AlphaImager 8900 および AlphaEaseFC ソフトウェアを、それぞれブロット画像の獲得および濃度測定解析のために用いた。
【0057】
ELISA
共培養されたトランズウェルを調製し、異なる血行力学的環境に曝露した。4、8、12 および 24 時間後に、膜の各チャンバーについて、流動実験の間を通じて灌流された培地を氷上で回収した(すなわち、アテローム易発性およびアテローム保護性の流動からの EC および SMC 培養上清)。その後、ELISA (GE Healthcare)を介して IL-8 分泌タンパク質についてアッセイされるまで、サンプルを -80℃で保管した。タンパク質の濃度を、分光光度計(spectrophometer)を用いて 450 nm で決定し、1時間あたりの回収された培地の体積に対して規準化した。
【0058】
クロマチン免疫沈降アッセイ
流動パターンの適用後、クロマチン免疫沈降(ChIP)を、タンパク質:DNA 相互作用の定量的解析を可能にする改変を伴って、前述の通りに行った(30)。各実験からの流出培地に 1% ホルムアルデヒドを補充し、次いで、24 時間の流動の後すぐに 10 分間、細胞と共にインキュベートした。抗体は、ウサギ ポリクローナル 抗血清応答因子(SRF; Santa Cruz Biotechnology、5 μg/ml) および 抗ヒストン H4 アセチル化 (Upstate Biotechnologies、5 μg/ml) を包含した。回収された DNA を、製造者の推奨にしたがって、picogreen 試薬 (Molecular Probes) を用いて蛍光によって定量化した。リアルタイム PCR を、ChIP 実験からの 1 ng のゲノム DNA について、小さな改変を伴って前述の通りに行った。リアルタイム PCR プライマーを、SMαA、SMMHC、c-fos CArG の 5'- CC(a/T)6GG (CArG) エレメントに隣接するように設計した。表 1 は、ChIP 解析のために用いたプライマーを示す。タンパク質:DNA 相互作用/濃縮の定量化を、以下の式によって決定した: 2(Ct Ref - Ct IP) - 2(Ct Ref - Ct 抗体なし対照)、ここで、Ct Ref は基準閾値サイクル(Ct)であり、Ct IP は免疫沈降物の Ct である。ChIP データは、一緒にプールされ2つ1組で解析された5から6の独立した実験を代表する。
【0059】
免疫蛍光
免疫蛍光(IF)のために、トランズウェル膜を、表面調製物(en face preparation)および横断面の両方について、4% パラホルムアルデヒド中で固定した。表面調製物を、0.2% Triton X-100 中で透過処理した。SMC のための一次抗体を、1切れのパラフィルム上にピペットで滴下し [Cy3-SMαA (Sigma、4 μg/ml) および SMMHC (Biomedical Technologies、1:100)]、サンプル ウェルを上に置いた。次いで、EC のための一次抗体 [血管内皮カドヘリン(VE-cad; Santa Cruz Biotechnology、2 μg/ml)] をウェルの内側へ直接添加し、両方の抗体を同時に1時間インキュベートした。同様に、二次抗体 [Cy2 ロバ 抗ヤギ (Jackson ImmunoResearch、4 μg/ml) および Alexa fluor546 ヤギ 抗ウサギ (Molecular Probes、6 μg/ml)] を必要なだけサンプルに添加し、1 時間インキュベートした。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI; Molecular Probes)と共に Prolong Gold Antifade 試薬を大きなカバースリップに添加し、その上にウェルを降ろすことによって、サンプルをマウントした。DAPI の別の液滴をウェルの内側に添加し、22-mm-直径のカバースリップを上に置いて、凝固させた。画像化を可能にするため、マウントされたサンプルからメスを用いて保持ウェルを取り除いた。z-軸を通して EC 層から SMC 層まで表面サンプル(en face sample)を画像化するために、共焦点顕微鏡法を用いた (Nikon Eclipse Microscope TE2000-E2 および Melles Griot Argon Ion Laser System no. 35-IMA-840)。
【0060】
横断面を調製するため、EC/SMC 培養を、上記の方法を用いてファロイジン-488 (Molecular Probes) または FM 4-64FX (Molecular Probes)で染色し、30% スクロース中に一晩浸漬し、OCT 化合物中で凍結させ、クライオスタットを用いて 5μm厚の切片にスライスした後、共焦点顕微鏡法による評価のためにマウントした。IF 染色されたサンプルを、前述の通りに、共焦点顕微鏡および微分干渉を用いて、静止状態におけるトランズウェル膜の細孔内での細胞間相互作用について解析した。
【0061】
EC/SMC 配向および形態計測測定
流動の方向に対する EC および SMC の配向を、IF 染色されたサンプルの共焦点顕微鏡法を用いて定量化した。血行力学的流動の後、共培養を上記の通りに固定し、75-mm-直径の皿からの二等辺三角形のサンプルを、皿の中心を向いた三角形の印(pointing)の頂点と共に切り取った。この方法は、流動の方向に対する正確な配向を確立した。次いで、サンプルを上記の通りに染色し、2つのカバースリップの間にマウントした。画像化のために、流動の方向が全てのサンプルにわたって一貫するよう、三角形の頂点が右を向いた状態でサンプルを共焦点のステージ上に置いた。膜の距離のみによって分離された同じ位置において、EC および SMC の画像を撮った。
【0062】
3つの独立した実験にわたって、少なくとも3つの顕微鏡視野(microscopy field)を獲得した。MetaMorph ソフトウェアを、流動の方向に対して解析された各々の細胞について配向の角度および形状因子(SF)を決定するために用いた。細胞型の伸長を決定するため、EC の VE-cad (図 2A) および β-カテニン(示さず)について(CCA: n = 111 および ICS: n = 53) ならびに SMC の SMαA (図 2A)、SMMHC および β-カテニン(示さず)について(CCA: n = 64 and ICS: n = 25)染色された境界の輪郭を描き、面積および周囲長(perimeter)の測定を出力した。SF を、以下の式を用いて算出した: SF = (4πA)/P2、ここで、A は細胞の面積であり、P は周囲長である。ヒストグラム範囲における各々の SF ビンに関して、規準化された頻度を得るため、全範囲にわたって、ビンあたりの細胞数を分析された全細胞数に対して規準化した。各条件について SF の分布を示すため、ヒストグラムをプロットした(図 4B を参照)。配向の角度については、両方の流動パターンからの流動の方向におよび SMC の長軸に沿って線を描き (CCA: n = 119 and ICS: n = 104)、EC はアテローム保護性の流動についてのみ線を描いた (CCA: n = 124)。2つの線の間の角度を、流動方向に対する配向角度として測定し、同じ配向を持つ細胞の頻度が棒の長さとして表されるようヒストグラムをプロットした。
【0063】
データ解析および統計
リアルタイム RT-PCR 結果は、アテローム保護性流動と比較してのアテローム易発性流動のサンプルについてのサイクル増幅回数の誘導倍率(fold induction)として報告され、内因性に発現する遺伝子 β2-ミクログロブリンに対して規準化される。血行力学的流動パターンと時間の関数として発現レベルまたは形態の変化における有意性を決定するため、スチューデントの t-検定を mRNA、配向および伸長のデータについて行った。条件あたり少なくとも3つの独立した実験からのデータを解析のために用い、P<0.05 で評価した。
【0064】
代表的な結果
EC/SMC共培養プレーティングおよび増殖条件の最適化
ヒト EC および SMC のプレーティングのための共培養条件を、各々の細胞型が血行力学的流動の適用の前にコンフルエンスに達するよう最適化した。図 4 は、EC 播種後24時間の EC および SMC のコンフルエントな層を示す。より具体的には、図 4 は、コンフルエントな状態を示す24時間共培養された EC (左) および SMC (右) を示す (上、表面(en face)画像; 下、横断面)。EC は、VE-cad の連続的な末梢性の染色によって示される通り、接着結合(adheren junctions)を形成し、その古典的な多角形の形態を保持したが、一方で SMC は伸長し、典型的な“起伏(hill and valley)”形成においてランダムに配向した。単独でプレーティングされた SMC においては、低血清培地 (10% FBS と比較して 2% FBS) が SMC マーカー SMαA およびミオカルディンの mRNA 発現を増大させ、より分化した SMC 表現型を示した (2% FBS での規準化された遺伝子発現: SMA、2.51 ± 0.36 およびミオカルディン、2.07 ± 0.05; 10% FBS での規準化された遺伝子発現: SMA、0.69 ± 0.23 およびミオカルディン、0.54 ± 0.14; 図 9 を参照)。
【0065】
マウスの共培養モデルは、EC および SMC がトランズウェル膜の線状細孔(linear pore)を通したギャップ結合を介して物理的に相互作用および情報交換することを最近明らかにした。このモデルは、ギャップ結合および物理的ヘテロ細胞接着を介するイオン性情報交換の手段を作り出し、生体内で血管壁内に存在する筋内皮結合(myoendothelial junction)を模倣する。EC/SMC 物理的相互作用が本発明者らのヒト共培養モデルにおいて形成されるかどうか決定するため、トランズウェル膜の横断面を F-アクチンまたは FM 4-64FX について IF 標識し、共焦点および位相差顕微鏡法を用いて解析した。図 5 に示される結果は、ヘテロ細胞相互作用を確立する、細孔内における細胞過程が存在することを実証する。横断面は、F-アクチン (上) および FM 4-64 (中) について染色され、または微分干渉によって可視化され (下)、膜細孔 510、520、530 内における細胞過程を示した。3つの独立した実験からの代表的な画像を示す。表面(en face)画像上の棒は 50 μmに等しく; 横断面上の棒は 10 μm に等しい。
【0066】
EC/SMC 形態的再構築はアテローム易発性の流動において変更される。
生体内での EC および SMC の形態は、EC が血行力学的流動の方向に伸長および整列し、SMC が動脈の長軸および血流の方向に対して垂直の方向を向いた状態で、高度に整えられている。しかし、複雑な流動の領域、例えば動脈の分岐における内皮は、より多角形であまり整列せず、SMC は流れに対し一貫して垂直に整列するわけではない。内皮上の血行力学的流動が EC および SMC に対して形態的変化を誘導するかどうか決定するために、両方の細胞型について以下の SF 測定値を決定した: 1) 伸長における変化 および 2) 流動の方向に対する配向角度の測定値。図 6-8 に示される通り、アテローム保護性の流動と比較して、アテローム易発性の流動の適用後に、細胞の形状(SF)および細胞配向の両方において有意差が観察された。SF は細胞伸長の程度を示し、1 の値は円(すなわち、伸長なし)を特定し、より 0 に近い値は伸長した細胞を特定する。代表的な IF 画像を図 6 に示す。これまでに確立された通り、アテローム易発性の流動に曝された EC は、より多角形の形状を維持し(SF = 0.75 ± 0.002)、一方アテローム保護性条件下の EC は、より伸長した (SF = 0.64 ± 0.015)。EC/SMC の形態および配向を、流動の後、免疫蛍光によって決定した。EC を血管内皮カドヘリン(VE-カドヘリン)について染色し、SMC を平滑筋α-アクチン(SMαA)について染色した。図 6 における矢印は正味の流動の方向を示し、棒は 50 μm に等しい。
【0067】
図 7 は、解析された細胞の数に対して規準化された EC の SF の分布を示す。EC の整列は、アテローム保護性の流動に曝された場合、流動の方向と一致し(流動に対する角度 = 8.6 ± 4.01°; 図 8)、一方、アテローム易発性の流動下では、円い形態のために、EC の優先的な方向性は測定できなかった。
【0068】
アテローム易発性の流動に曝されたトランズウェル上の SMC は、アテローム保護性の流動に曝された SMC (SF = 0.31 ± 0.018; 図 6 および 7) よりも、伸長において有意だが小さな増大を示した(SF = 0.26 ± 0.009)。興味深い事に、アテローム保護性の流動における SMC は、一貫して流動の方向に対しより垂直の配向に向かって整列し(図 8 および 9)、一方、対照的に、アテローム易発性条件下の SMC は、よりランダムであまり調和していない配向を示した(それぞれ -47.9 ± 1.3°対 -13.1 ± 5.0°、P < 0.0001)。図 6 は、流動に対する SMC 配向の代表的な画像を示し、図 9 は、SMC 配向のヒストグラム分布を示す。
【0069】
血行力学的流動後の EC/SMC からの RNA およびタンパク質の単離の純度
流動実験後に各々の細胞層から回収された RNA およびタンパク質の純度を、リアルタイム RT-PCR およびウエスタンブロット解析によって、EC および SMC に特異的なタンパク質(それぞれ eNOS および SMαA; 図 11 および図 12)の存在について評価した。検出可能な mRNA またはタンパク質レベルでの相互汚染は無かった。
【0070】
図 11 は、24時間のアテローム保護性流動の後の EC および SMC 集団上でのリアルタイム RT-PCR を示す。両方の細胞型は、各々の細胞型の単離の後、それぞれの SMC および EC マーカー[それぞれ SMαA および 内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)]を発現した。SMC は、EC よりも有意に大きな量の SMαA を発現し、EC の eNOS の発現は、CCA 流動後の SMC の eNOS 発現よりも有意に大きく、示差的遺伝子調節について解析された細胞の集団が純粋であったことを示す。値は、平均 ± SE; n = 3; *P>0.05 である。
【0071】
図 12 は、SMC のみが SMαA を発現し、EC のみが eNOS を発現することを確認するタンパク質解析を示す。IB、イムノブロット解析。
【0072】
アテローム易発性の流動は、EC および SMC 表現型を異なって調節し、炎症促進性の準備刺激を促進する。
【0073】
主要な目的は、EC に適用される示差的なヒト由来血行力学的流動パターンが SMC 表現型調節に影響を与えるかどうか決定することであった。この目的を考慮して、EC および SMC 表現型調節を示す確立されたマーカーにおける変化を、アテローム易発性またはアテローム保護性の流動の適用後24時間、試験した。興味のある遺伝子を、EC もしくは SMC 特異的細胞マーカー(EC: eNOS、Tie2 および KLF2/KLF4; SMC: SMαA、SMMHC およびミオカルディン)または炎症性マーカー(VCAM-1、IL-8 および MCP-1)として分類した。加えて、マーカーのサブセット(eNOS、SMαA、VCAM-1 および PCNA)についてタンパク質解析を行った。遺伝子およびタンパク質の調節を、アテローム保護性の流動と比較して、アテローム易発性の流動における相対的変化によって決定した。
【0074】
一貫して、EC の静止状態のマーカー eNOS、Tie2、KLF2 および KLF4 の mRNA レベルにおける有意な減少が、アテローム易発性の流動に対する応答において観察され(図 13)、それは eNOS のタンパク質レベルにおける変化によっても確認された(図 15)。これらの EC マーカーの調節はこれまで、アテローム性動脈硬化に関連するせん断応力刺激を介して実証されてきた; しかし、SMC の存在下での、血行力学的流動パターンに関する、EC 表現型のこのような包括的な試験は今まで存在していない。
【0075】
古典的な SMC 分化マーカーはこれまで、あらゆるせん断応力刺激に曝された共培養モデルにおける遺伝子調節について解析されたことがない。アテローム性動脈硬化に関連する SMC 表現型調節の特徴は、静止状態の収縮性表現型を定義する遺伝子(例えば、SMαA、SMMHC およびミオカルディン)における減少、総合的な表現型に関連する遺伝子(例えば、KLF4 および VCAM-1)における増大、ならびに増殖性および遊走性の現象の開始を包含した。アテローム易発性の流動の存在下において、SMC は、SMC 分化マーカーである SMαA およびミオカルディンにおいて有意な減少を示した(図 13)。タンパク質解析によって、SMαA についてのこの観察がさらに確認された(図 15)。ミオカルディン依存性の転写を抑制するのに重要であることが最近見出された転写因子 KLF4 は、アテローム保護性の流動と比べてアテローム易発性の流動に関して有意に誘導されなかったが(P = 0.10)、この傾向はそれでも SMC 表現型転換を調節するメカニズムの方向を指し得る。血管傷害はちょうど 4 時間後に KLF4 を最大に誘導したため、24時間の流動においては KLF4 の最大の応答が失われた可能性がある。とりわけ SMMHC は、有意には調節されなかった(P = 0.62)。
【0076】
最も興味深いのは、EC の静止状態のマーカーおよび SMC の収縮性のマーカーにおける減少が、いくつかの炎症促進性遺伝子の上方制御と対応することであった。VCAM-1 は、EC および SMC の両方において、mRNA およびタンパク質の両方のレベルで有意に上方制御された(図 14 および 15)。NF-κB 活性化の下流の炎症促進性遺伝子である IL-8 における有意な増大も、EC において mRNA レベルで観察された。EC および SMC 層からの IL-8 の分泌は、両方の流動パターンの適用の間、時間の関数としてさらに測定され、EC におけるアテローム易発性の流動のより遅い時点においてのみ、有意に増大した (図 16)。対照的に、SMC においては IL-8 および MCP-1 における減少が同時に観察された(図 14)。最後に、増殖性のマーカー PCNA の解析は、アテローム易発性の流動に曝された EC における増大したタンパク質レベルを示したが、SMC に関しては変化を示さなかった(図 15)。
【0077】
SMC 応答に対する、流動に誘導される EC の影響について制御するため、SMC を、単一培養において2つの条件下でプレーティングした: 図 17 に示される通り、1) トランズウェル膜の存在下におけるトランズウェル保持皿の底面上(SMC D) または 2) トランズウェル膜の底面上(SMC T)。各々の条件について、EC の無い状態でトランズウェル膜の上面に流動を適用した。サンプルのリアルタイム RT-PCR 解析は、SMαA および VCAM-1 に関しては各々の条件間で有意差が存在し、ミオカルディンに関しては存在しないことを示した(図 17)。VCAM-1 は、両方の条件に関して、アテローム易発性の流動によってかなり誘導された唯一の遺伝子であった。EC が存在する状態の実験においては観察されなかった、SMC T 条件について導入された潜在的な交絡因子は、流動が適用されているトランズウェルの上面へ多孔質膜を通して突出するという平滑筋細胞の過程であった(図 18)。各々の条件間(SMC D 対 SMC T)の有意な変化は、SMC のその局所環境に対する感受性を示す。このため、本研究に関して、両方の細胞型の存在下で適用された2つの別々の流動パターン間の比較は、血行力学的共培養環境の全ての特性(例えば、培地交換、実験セットアップ、培養時間およびヘテロ細胞の存在)について制御するための最も頑強な方法であった。
【0078】
動脈の血行動態は SMC 遺伝子発現の後成的な調節を制御する
SMαA および SMMHC を含む SMC 選択性の収縮性タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の多くは、SRF に結合する CArG シス調節性エレメントを含有する。SMαA、SMMHC および c-fos プロモーターの 5'-CArG プロモーター領域における SRF の結合およびヒストン H4 アセチル化が血行力学的流動によって後成的なレベルで調節されるかどうか決定するために、ChIP 実験を行った。結果は、SMαA および SMMHC に関して、アテローム保護性の流動と比較して、アテローム易発性の流動に対する応答におけるヒストン H4 アセチル化および SRF 結合の減少を示した(図 19)。逆に、c-fos CArG 領域に対するヒストン H4 アセチル化および SRF 結合は、流動条件の間で統計的に異ならなかった(図 19)。この後成的なフィンガープリントは、PDGF-BB に対する応答における SMC でのインビトロの実験および急性血管傷害に対する応答におけるインビボの実験と同一であった。
【0079】
薬剤
薬剤は、アクチノマイシン-D、バチマスタット(batimistat)、c-myc アンチセンス、デキサメタゾン、パクリタキセル、タキサン、シロリムス、タクロリムスおよびエベロリムス、未分画のヘパリン、低分子量ヘパリン、エノキサパリン(enoxaprin)、ビバリルジン、チロシンキナーゼ阻害剤、グリベック、ワートマニン、PDGF 阻害剤、AG1295、rho キナーゼ阻害剤、Y27632、カルシウムチャンネルブロッカー、アムロジピン、ニフェジピン、および ACE 阻害剤、合成多糖、チクロピジン(ticlopinin)、ジピリダモール、クロピドグレル、フォンダパリヌクス、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、r-ウロキナーゼ、r-プロウロキナーゼ、rt-PA、APSAC、TNK-rt-PA、レテプラーゼ、アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、ラノテプラーゼ(lanoplase)、パミテプラーゼ、スタフィロキナーゼ、アブシキシマブ、チロフィバン、オルボフィバン(orbofiban)、ゼミロフィバン、シブラフィバン(sibrafiban)、ロキシフィバン(roxifiban)、抗再狭窄剤、抗血栓形成剤、抗生物質、抗血小板剤、抗凝固剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、抗高血圧剤、キレート剤、ペニシラミン、トリエチレンテトラミン ジヒドロクロライド、EDTA、DMSA (サクシマー)、デフェロキサミン メシレート、コレステロール降下剤、スタチン、HDL を上昇させる剤、シクロオキシゲナーゼ(cyclyoxygenase)阻害剤、セレブレックス(Celebrex)、ビオックス(Vioxx)、放射性造影剤、放射性同位体、プロドラッグ、抗体断片、抗体、生細胞、治療薬送達ミクロスフェアもしくはミクロビーズ、ならびにそれらのあらゆる組み合わせを含む群から選択され得る。
【0080】
当業者は、さらなる利点および改変に容易に気が付くであろう。それ故、そのより広い側面において本発明は、本明細書において示され、説明される特定の詳細および代表的な態様には限定されない。したがって、添付の特許請求の範囲およびそれと等価なものによって定義される通り、一般的発明概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な改変がなされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血行力学的パターンを培養状態の細胞に適用する方法であって、以下の工程を含む方法:
第1のセットの細胞をトランズウェル上にプレーティングする工程;
第2のセットの細胞を前記トランズウェル上にプレーティングする工程、ここで、前記第1のセットの細胞は前記第2のセットの細胞から分離される;
前記トランズウェルに流体を添加する工程;
一定期間、前記流体の回転を起こす工程、ここで、前記培地はこれによってせん断力を前記第2のセットの細胞に及ぼす。
【請求項2】
前記第1のセットの細胞および前記第2のセットの細胞が、膜によって分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のセットの細胞をインキュベートする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のセットの細胞をインキュベートする工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第3のセットの細胞をプレーティングする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のセットの細胞が、ペトリ皿の底面上にプレーティングされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
追加の前記流体を定期的に添加し、トランズウェルから前記流体の一部を定期的に除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
追加の前記流体を連続的に添加し、トランズウェルから前記流体の一部を連続的に除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記流体が薬剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記一定期間の後に前記第1のセットの細胞および前記第2のセットの細胞を解析する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記回転力が、前もって測定された血行力学的パターンに対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のセットの細胞が、内皮細胞または平滑筋細胞のいずれかからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のセットの細胞が、内皮細胞または平滑筋細胞のいずれかからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
血行力学的パターンを培養状態の細胞に適用する方法であって、以下の工程を含む方法:
対象の血行力学的パターンをモニターする工程;
前記血行力学的パターンを電子的指示のセットへとモデル化する工程;
前記電子的指示に基づいて、トランズウェル上の細胞の複数のセットに対してせん断応力をもたらすために装置を使用する工程。
【請求項13】
前記モニターする工程が、超音波の使用を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項14】
前記モニターする工程が、磁気共鳴画像法の使用を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項15】
前記せん断応力が、前記血行力学的パターンと連動して一定期間にわたって変動する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
以下を含む血行力学的流動装置:
電子コントローラー;
前記電子コントローラーを介して操作されるモーター;
前記モーターによって回転させられる、前記モーターに接続したコーン;
膜を備えたトランズウェル、ここで、前記コーンは前記トランズウェル中の培地に少なくとも部分的に浸され、前記コーンは前記培地に対して回転力を及ぼす;
前記トランズウェルに培地を添加するための流入管; および
前記トランズウェルから培地を回収するための流出管。
【請求項17】
前記トランズウェルが、膜のいずれかの側に細胞のセットを受け入れることができる、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記トランズウェルが、さらなる細胞のセットをペトリ皿の底面において受け入れることができる、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記培地が、前記細胞のセットに対してせん断力を及ぼす、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記培地が、少なくとも1つの薬剤を含む、請求項16に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−80888(P2012−80888A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−247696(P2011−247696)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【分割の表示】特願2009−545600(P2009−545600)の分割
【原出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509195559)ヘモシアー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (2)
【氏名又は名称原語表記】HemoShear, LLC
【Fターム(参考)】