説明

血管病変を治療する方法

抗血管新生化合物の投与、または血管破壊療法もしくは切除療法と抗血管新生化合物の投与の組合せを使用する、ウイルス関連病変を治療する方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、下記の米国仮特許出願:2009年2月6日に出願された第61/150,476号;2009年2月9日に出願された第61/151,158号;および2009年4月7日に出願された第61/167,331号の利益を主張するものであり、それらすべての内容全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、抗血管新生化合物、または血管破壊レーザー療法もしくは切除レーザー療法と抗血管新生化合物の投与との組合せを使用するウイルス関連病変などの血管病変を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ウイルス関連病変(例えば、乳頭腫)などの発声粘膜病変は、微細喉頭コールドインストルメント(cold instrument)(例えば、マイクロシザー、マイクロフォーセップ(Kleinsasser、「Laryngeal Papillomas in Children」、Microlaryngoscopy and Endolaryngeal Microsurgery、1968、W.B.Saunders:Philadelphia.70〜75ページ;ZeitelsおよびSataloff、J.Voice、13:1323〜127(1999);Zeitels、Atlas of Phonomicrosurgery and Other Endolaryngeal Procedures for Benign and Malignant Disease.2001、Singular:San Diego)、およびマイクロデブリッダー(El−BitarおよびZalzal、Arch.Otolaryngol.Head.Neck.Surg.128(4):425〜8(2002);Zweigら、Am J Rhinol、14(1):27〜32(2000))切除レーザー(例えば、二酸化炭素(Strongら、Otol.Rhinol.Laryngol.85:508〜516(1976))およびツリウム(Zeitels、Ann Otol Rhinol Laryngol、115:891〜896(2006))を包含する外科的処置で治療されることが多い。ごく最近、光血管破壊レーザー(例えば、532nmパルスチタン酸リン酸カリウム(KTP)レーザー(Burnsら、Laryngoscope、117(8):1500〜1504(2007);Zeitelsら、Current Opinion in Otolaryngology & Head & Neck Surgery、15:394〜400(2007);Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol、115:679〜685(2006);Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol、115:571〜580(2006);Zeitelsら、Annals of Otology,Rhinology,& Laryngology、117(supp 199):1〜24(2008))または585nmパルス色素レーザー(PDL)(Francoら、Ann Otol Rhinol Laryngol、112:751〜758(2003);Francoら、Annals of Otology,Rhinology and Laryngology、111:486〜492(2002);Zeitels、Papillomatosis.「Atlas of phonomicrosurgery and other endolaryngeal procedures for benign and malignant disease」(119〜131ページ)、San Diego:Singular(2001);Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol、113(4):265〜276(2004))が、これらの障害を治療するための最良の外科的選択肢として浮上している。光血管破壊レーザーは、病変の病変内血管新生微小循環を選択的に標的とすることができるため、喉頭乳頭腫症を正確に治療するのに特に有益である。しかしながら、補助療法、例えば、シドホビルなどの抗ウイルス化合物を併用した場合でさえ、再発を確実に防止する外科的アプローチはない(De Clercq、Intervirology.40(5〜6):295〜303(1997);Gross、Intervirology.40(5〜6):368〜77(1997))。さらに、抗ウイルス剤による補助治療は、回復困難な声帯粘膜瘢痕化および持続的嗄声を引き起こすと報告されている(LeeおよびRosen、J Voice、18(4):551〜556(2004))。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に記載されているように、抗血管新生剤、例えば、抗VEGF化合物、例えば、アバスチンの、単独でのまたは細胞減少治療、例えば、光血管破壊レーザー治療、例えば、パルスKTPレーザー光血管破壊と組み合わせた投与は、血管新生ウイルス病変、例えば、声門乳頭腫症の治療を強化する。したがって、本発明は、血管新生病変の細胞減少治療(例えば、コールドインストルメント外科的治療、凍結療法、高周波、電気外科的治療、および/またはレーザー減量)と場合により併せた、抗血管新生化合物の投与を使用する、ウイルス関連病変を包含する血管新生病変を治療するための方法を提供する。
【0005】
したがって、一態様において、本発明は、対象において、実質内器官内、粘膜内または皮膚内の血管コンポーネントを含む新生物または病変、例えば、ウイルス誘発性血管病変、例えば、上皮血管病変を局所的に治療する(例えば、注射する)ための方法を提供する。方法は、ある量の血管新生阻害剤を対象へ投与すること、および、必要に応じて、病変を実質的に減量するのに十分な細胞減少治療に病変を曝露させることを包含する。一部の実施形態において、病変は、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)により引き起こされる乳頭腫である。一部の実施形態において、血管新生阻害剤は、抗VEGF化合物、例えば、抗VEGF抗体、例えば、ベバシズマブである。血管新生阻害剤は、全身的または局所的に、例えば、病変もしくは病変に隣接した組織への局所投与により、対象へ投与することができる。一部の実施形態において、任意選択の細胞減少治療は、COレーザー、Nd:YAGレーザー、ツリウムレーザーおよびEr,Cr:YSGGレーザーからなる群から選択されるレーザーにより提供され、一部の実施形態において、細胞減少治療は、532nmパルスチタン酸リン酸カリウム(KTP)レーザーまたは585nmパルス色素レーザー(PDL)からなる群から選択されるレーザーにより提供される。一部の実施形態において、任意選択の細胞減少治療は、コールドインストルメント、例えば、マイクロシザーおよびマイクロフォーセップまたはマイクロデブリッダーにより提供される。一部の実施形態において、任意選択の細胞減少治療は、切除組織治療であり、例えば、凍結療法、高周波、または電気焼灼により提供される。
【0006】
一部の実施形態において、病変は、上皮腫瘍であり、かつ/または対象の皮膚表面に存在する。一部の実施形態において、病変は、対象の任意の粘膜組織表面、または器官内、例えば、呼吸管内、泌尿生殖管内、または上部もしくは下部消化管(すなわち、口腔から直腸まで)内に存在する。一部の実施形態において、病変は、内部器官(例えば、脾臓、肺、肝臓または腎臓)表面に存在する。
【0007】
一部の実施形態において、対象は、再発性呼吸器乳頭腫症に罹患している。
【0008】
一部の実施形態において、方法は、例えば、その後に、血管新生阻害剤の1つまたは複数の追加の投与量を投与することをさらに包含する。本明細書に記載されている方法は、2回以上、例えば、病変が再発した場合に行うことができる。
【0009】
別途定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明における使用のために本明細書に記載され、当技術分野において知られている他の適当な方法および材料も使用することができる。材料、方法および例は例示に過ぎず、限定することは意図されていない。本明細書に記述されているすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれるものとする。矛盾する場合、定義を包含する本明細書が支配するものとする。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および図から、ならびに特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(1A)40歳のクラッシック声楽家の声門における両側性再発性呼吸器乳頭腫症を示す写真である。この患者は、複数回の532nmパルスKTP血管破壊レーザー手順を受け、これにより発声粘膜柔軟性は保存されたが疾患再発は防止されなかった。 (1B)内転中の、1Aと同じ検査を示す写真である。 (1C)右声帯の上皮下表在固有層における図1Aと同じ患者に与えられたベバシズマブ7.5mgの診療所ベースの注射を示す写真である。注入は、右側疾患を尾部へ視覚的に移動させた。 (1D)ベバシズマブ注射後、1Cと同じ日に(および、同じ患者で)、両側的に疾患に対して行われた診療所ベースの532nmパルスKTP血管破壊の使用を示す写真である。レーザー治療領域における白色の痂皮および0.3mmファイバー(矢印)が、左声帯の前部交連領域内の外方増殖性病変と接触していることに留意されたい。 (1E)外転(開大)中の、同じ患者の声帯を示す写真である。レーザー手順は、2回目の注射後に中止した。患者は、その後、合計でさらに3回の注射を受けた。最後の注射から6カ月が過ぎ、活動性疾患は見られない。 (1F)内転(閉鎖)中の1Eにおけるのと同じ視野を示す写真であり、逆流歴と一致する声門口(glottal introitus)に認められる実質的分泌物がある。
【図2】(2A及び2B)本明細書に記載されている方法を使用する治療の前(1A、気道の重度閉塞を示している)および後(1B)の、図1A〜Fに示されている患者と異なる患者の声帯を示す写真である。図1Bは、ベバシズマブの診療所ベースの注射中に撮影した写真を示す。
【図3】治療前後の患者により完了された音声関連の生活の質(Voice-Related Quality-of-Life)(V−RQOL)調査の結果を示す棒グラフである。より高いスコアは、より良い音声関連の生活の質を示している。アスタリスクは、欠損データを示している(説明については実施例1を参照)。
【図4】治療前後の標準的一節を朗読中の平均基本周波数の音響学的評価の結果を示す棒グラフである。斜交平行線模様の領域は、男性患者および女性患者についての正常値の範囲を別々に示している。アスタリスクは、欠損データを示している(説明については実施例1を参照)。
【図5】治療前後の持続母音発声中の雑音対調和成分比の音響学的評価の結果を示す棒グラフである。斜交平行線模様の領域は、正常値の範囲を示している。アスタリスクは、欠損データを示している(説明については実施例1を参照)。
【図6】治療前後の標準的な音節文字列発声中の声門下空気圧に対する音圧レベルの比(水1センチメートル当たりのデシベル)の空気力学的評価の結果を示す棒グラフである。斜交平行線模様の領域は、正常値の範囲を示している。アスタリスクは、欠損データを示している(説明については実施例1を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
少なくとも部分的に、本発明は、抗血管新生化合物の、単独でのまたは外科的除去(例えば、コールドインストルメント、電気焼灼、高周波、レーザー、または凍結療法を使用する)と組み合わせた投与が、慢性ウイルス関連血管新生微小血管病変の治療に有用であり、臨床転帰の改善および再発の可能性低下をもたらすという発見に基づいている。血管破壊レーザーと組み合わせた抗血管新生化合物の使用が特に有効である。
【0013】
治療の方法
本明細書に記載されている方法は、抗血管新生剤の投与、および、場合により、抗血管新生剤の投与と組み合わせて病変を実質的に減量する(すなわち、病変のサイズを縮小する)のに十分な細胞減少治療の使用を包含する。
【0014】
本明細書に記載されている方法は、粘膜、皮膚、または実質内器官の病変に関連する微小血管関連増殖を治療するための方法を包含する。一部の実施形態において、この増殖は、障害乳頭腫症、例えば、呼吸器乳頭腫症などのウイルスによる感染を包含する。一部の実施形態において、方法は、そのような治療を必要としているか必要としていると判断された対象へ、場合により、レーザー血管破壊治療と併せて、治療上有効な量の本明細書に記載されている抗血管新生化合物を投与することを包含する。
【0015】
この状況において使用されている場合、「治療する」こととは、障害の少なくとも1つの症状を改善することを意味する。例えば、本明細書に記載されている方法を使用する治療は、病変の大きさまたは数の減少および再発の遅延または防止(すなわち、可能性の低下)をもたらすことができる。本明細書で使用されている「防止」は、すべての症例で再発を必ずしも100%防止するわけではないが、再発の可能性の著しい低下である。
【0016】
本明細書に記載されている治療は、1日おきに1回を包含する1週当たり1回または複数回投与することができる。当業者は、疾患または障害の重症度、前治療、対象の全般的健康状態および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を包含するがそれらに限定されないある種の要因が、対象を効果的に治療するのに必要とされる用量およびタイミングに影響を与え得ることを理解しているであろう。さらに、本明細書に記載されている方法による対象の治療は、単一の治療または一連の治療を包含することができる。
【0017】
細胞減少治療
多くの適当な細胞減少治療、例えば、光血管破壊レーザー、切除レーザー、電気手術、凍結手術、高周波、およびコールドインストルメント外科的手順が当技術分野において知られている。
【0018】
したがって、本明細書に記載されている方法は、病変を破壊するために選択的ヘモグロビン吸収性集束レーザー光を使用する、既知の光血管破壊レーザー治療の使用を包含することができる。これは、532nmパルスチタン酸リン酸カリウム(KTP)レーザーまたは585nmパルス色素レーザー(PDL)を包含する。そのような方法は、当技術分野において知られており、全身麻酔を伴う微細喉頭手術(例えば、Zeitels、「Papillomatosis」、Atlas of Phonomicrosurgery and Other Endolaryngeal Procedures for Benign and Malignant Disease中、2001、Singular:San Diego.p.119〜131;Burnsら、Laryngoscope、2007.117(8):1500〜4;Francoら、Ann.Rhinol.Laryngol.2002;111:486〜492を参照)における、および表面局所麻酔を用いる診療所ベースの手順(Zeitelsら、Ann.Otol.Rhinol.Laryngol.2004 Apr;113(4):265〜76;Zeitelsら、Ann Otol.Rhinol.Laryngol.2006;115:679〜685;Zeitelsら、Curr.Op.Otolaryngol.Head Neck Surg.2007;15:394〜400)としての使用について記載されている。一部の実施形態において、光血管破壊レーザー治療は、血管破壊レーザー光源からの1つまたは複数のパルスに病変を曝露させることを含む。一部の実施形態において、血管破壊レーザー治療は、病変(例えば、乳頭腫)の白化が観察されるまで施される。
【0019】
一部の実施形態において、細胞減少治療は、例えば、当技術分野において知られている、COレーザー、Nd:YAGレーザー、またはEr,Cr:YSGGレーザーを使用する切除レーザー治療である。
【0020】
他の実施形態において、細胞減少治療は、コールドインストルメント(Kleinsasser、「Laryngeal Papillomas in Children」、Microlaryngoscopy and Endolaryngeal Microsurgery中、1968、W.B.Saunders:Philadelphia.p.70〜75、ZeitelsおよびSataloff、J.Voice、13:1323〜127(1999);Zeitels、2001、前掲書)または二酸化炭素などの切除レーザー(Zeitels、2001、前掲書;Strongら、Otol.Rhinol.Laryngol.85:508〜516(1976))もしくはツリウムレーザー(Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol.115(12):891〜6(2006))を用いる外科的治療である。フォノマイクロサージェリーも使用することができ、例えば、ZeitelsおよびSataloff、J.Voice.13(1):123〜7(1999)を参照されたい。
【0021】
一般に、いずれの治療も、十分な減量または除去、すなわち、病変の大きさの著しい減少が達成されるまで施される。一部の実施形態において、レーザー治療は、病変(例えば、乳頭腫)の白化が観察されるまで施される。
【0022】
さらなる情報については、例えば、SilvermanおよびPitman、Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg.12(6):532〜7(2004);GallagherおよびDerkay、Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg.16(6):536〜42(2008);LeeおよびSmith、Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg.13(6):354〜9(2005);およびGoonら、Eur Arch Otorhinolaryngol.265(2):147〜51(2008)、2007年11月29日付の電子出版を参照されたい。
【0023】
抗血管新生剤
本明細書に記載されている方法において使用することができる多くの抗血管新生剤が当技術分野において知られている。例えば、抗血管新生剤は、アンギオスタチン(例えば、プラスミノーゲン断片)、抗血管新生アンチトロンビンIII(aaATIII)、カンスタチン(canstatin)、軟骨由来の阻害剤(CDI)、CD59補体断片、エンドスタチン(例えば、コラーゲンXVIII断片)、フィブロネクチン断片、gro−β、ヘパリナーゼ、ヘパリンおよびその断片(例えば、六糖類断片)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、インターフェロンα/β/γ、インターフェロン誘導タンパク質(IP−10)、IL−12、クリングル5(プラスミノーゲン断片)、メタロプロテイナーゼ阻害剤、2−ニエトキシエストラジオール(2−niethoxyestradiol)、PEDF、胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤、血小板第4因子、プロラクチン16kD断片、プロリフェリン関連タンパク質、レチノイド、テトラヒドロコルチゾール−S、トロンボスポンジン、トランスフォーミング成長因子β、ツミスタチン(tumistatin)、バスキュロスタチン(vasculostatin)およびバソスタリン(vasostalin)(カルレティキュリン断片)、フマギリン、非グルココルチコイドステロイド、ならびにα−FGF、bFGF、VEGF、IL−8、およびGM−CSFなどの1種または複数種の血管新生ペプチドに対する抗体を包含することができる。多くの他の抗血管新生剤は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,422,738号に記載されている。
【0024】
一部の実施形態において、抗血管新生剤は、VEGFシグナル伝達を遮断する。これまで使用されてきたVEGFシグナル伝達を遮断する少なくとも3つの方法がある。第一の方法は、抗体を使用してVEGF(例えば、VEGF−A、−B、−C、−D、PGF)および/またはVEGFR(例えば、VEGFR−1、−2、−3)を阻害することである。例は、VEGF−Aと結合し、VEGFR−1およびVEGFR−2に対するVEGF−Aの相互作用を阻む組み換えヒト化モノクローナル抗体であるアバスチン(ベバシズマブ)(例えば、Prestaら、Cancer Res.57:4593〜4599(1997);Hurwitzら、N.Engl.J.Med.350:2335〜2342を参照)(2004);VEGF−Aに対するマウスモノクローナル抗体である2C3(Zhangら、Angiogenesis.5:35〜44(2002);Brekkenら、Cancer Res.58:1952〜9(1998));VEGFR−2に対するヒトモノクローナル抗体であるIMC−1121B(RockwellおよびGoldstein、米国特許第6,811,779号);VEGFR−2と結合するペグ化されたヒト化ジ−Fab断片であるCDP−791(Tonら、Clin.Cancer Res.13:7113〜711(2007))を包含する。ルセンティス(ラニビズマブ)は、VEGF−Aと結合する組み換えヒト化モノクローナル抗体であるが、その認可された使用法は、新生血管加齢性黄斑変性症患者の治療のためである(Genentechから入手可能)。
【0025】
第二の方法は、VEGFR(例えば、VEGFR−1、−2、−3)を阻害するタンパク質キナーゼ阻害剤を使用する。少なくとも2種の知られているFDA認可の低分子阻害剤、スーテント(スニチニブ)(Goodmanら、Clin.Cancer Res.13:1367〜1373(2007))およびネクサバール(ソラフェニブ)(Kaneら、Clin.Cancer Res.12:7271〜8(2006))が市販されている。他のキナーゼ阻害剤は、VEGFR−1、−2、および−3を阻害するバタラニブ(PTK787/ZK222584)(Woodら、Cancer Res.60:2178〜2189(2000))、VEGFR−1、−2、および−3の阻害剤であるCEP−7055(Ruggeriら、Cancer Res.63:5978〜5991(2003))、VEGFR−2およびFGFの阻害剤であるCP−547,632(Beebeら、Cancer Res.63:7301〜7309(2003))を包含するが、それらに限定されるものではない。
【0026】
第三の方法は、いわゆる「VEGF−トラップ」、すなわち、VEGFリガンドと結合してVEGFRとの結合を阻む可溶性ハイブリッドVEGF受容体を使用する(Holashら、Proc.Natl.Acad.Sci.99:11393〜11398(2002))。
【0027】
一部の実施形態において、抗血管新生剤は、抗血管内皮成長因子(VEGF)剤、例えば、KDRおよび/またはflt受容体とのVEGF結合を阻害するための抗VEGF抗体またはその抗原結合性部分(Fv、Fab、またはscFv部分など)、例えば、Avastin(登録商標)(ベバシズマブ)である。アバスチンは、インビトロとインビボの両方でヒトVEGFと結合してその生物学的活性を阻害する組み換えヒト化モノクローナルIgG1抗体である。ベバシズマブは、ヒトフレームワーク領域およびVEGFと結合するマウス抗体の相補性決定領域を含有する(Prestaら、Cancer Res.57:4593〜9 1997)。アバスチンは、Genentech(South San Francisco、CA)から入手可能である。SchlaeppiおよびWood、Cancer and Metastasis Rev.1999;18:473〜481;米国特許第7,169,901号;第7,056,509号;および第7,297,334号;米国特許公開第20020032315号;第20080187966号;および第20090010883号;ならびにPCT第WO94/10202号も参照されたい。一部の実施形態において、抗体は、VEGFと特異的に結合し、VEGFR1との結合、VEGFR2との結合を遮断するか、VEGFR1とVEGFR2の両方との結合を遮断する。
【0028】
他の抗VEGF剤は、KDRおよび/またはflt受容体との結合についてVEGFと競合する可能性があるVEGF拮抗剤(例えば、WO94/21679に例えば記載されている、VEGFと結合するflt受容体の可溶性切断形態)、およびチロシンキナーゼ阻害剤を包含する。
【0029】
一部の実施形態において、抗血管新生剤は、シクロオキシゲナーゼ(COX)−2の阻害剤ではなく、例えば、セレコキシブ(4−(5−(4−メチルフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゼンスルホンアミド、CELEBREX(商標))ではない。抗血管新生剤は、インターフェロン、インドール−3−カルビノール、メトトレキセート、およびシドホビルでもない。
【0030】
一部の実施形態において、抗血管新生剤は、VEGFまたはVEGFRを標的とする低分子干渉RNA(siRNA)、例えば、ベバシラニブ(Bevasiranib)(Cand5;OPKO Health;すべてのVEGF−Aスプライス形態を標的とする修飾siRNA)またはAGN−745(Sirna−027;Merck;VEGFR−1を標的とする化学修飾siRNA)、例えば、de Fougerolles、Human Gene Therapy 19:125〜132(2008)を参照;および抗VEGFアプタマー(例えば、マクゲン(Macugen)(ペガプタニブ;OSI Pharmaceuticals、ペグ化抗VEGF−Aアプタマー)、例えば、Tremoladaら、Am.J.Cardiovasc.Drugs 7:393〜398(2007)を参照)である。
【0031】
送達
抗血管新生剤は、例えば、全身的に、または治療されるべき組織へ局所的に投与することができる。投与経路の例は、非経口、例えば、静脈内、粘膜内、粘膜下、皮内、皮下、経粘膜(例えば、吸入)、経口、経皮(局所)、および直腸投与を包含する。例えば、抗血管新生剤は、病変中か病変周囲への注射により投与することができる。
【0032】
例えば、抗血管新生剤は、皮膚もしくは粘膜病変の表面、良性もしくは悪性の新生物、または炎症性疾患の内部かそれらの直下に注射することができる。あるいは、それらは、血管造影法か病変の領域に栄養を与える動脈への直接的な外科的アクセスのどちらかにより動脈内へ投与することができる。これらの病変内および/または病変下(sublesional)注射、または動脈内注射は、完全な退縮、部分的後退または体積の減少につながることがある。抗血管新生薬のこれらの局所的および領域的注射は、コールドインストルメント(例えば、フォーセップ、シザー、自動デブリッダー)、レーザー、電気焼灼、高周波、および/または凍結療法などの粘膜切除手順に伴って行うことができる。
【0033】
一部の実施形態において、固形腫瘍または粘膜癌腫中への抗血管新生剤の動脈内、病変内および病変下注射を使用し、放射線療法、細胞傷害性の切除化学療法、または手術などの他の癌治療を強化することができる。手術のモデルにおいて、抗血管新生剤は、粘膜腫瘍の切除時に使用し、局所制御を強化することができる。癌の周囲にフィールド異形成(field dysplasia)が存在し、異形成を包含するその領域全体の切除が、前癌性および癌性組織の全領域を包含するために極端な病的状態につながるおそれがある場合、抗血管新生剤は、癌の中に注射するだけでなく、異形成を取り囲んでいる周囲へ投与することもできる。このことは、辺縁が完全に正常になるまで、軟組織の十分なゆとりをもった完全な除去に伴う病的状態を少なくすることができる。このシナリオは、気道消化管および泌尿生殖管腫瘍において珍しいことではない。浸潤性の癌に隣接した不治の粘膜または真皮の異形成辺縁のこのシナリオは、気道消化管および泌尿生殖管ならびに皮膚において普通のことである。
【0034】
粘膜疾患の治療において抗血管新生剤を使用するための方法の一部の実施形態において、薬剤は、粘膜表面または皮膚表面に局所的(locally)および表面的(topically)に適用される。抗血管新生剤の送達を変えることにより、薬剤は、皮膚、気道消化管または泌尿生殖系の疾患を表面的に治療するために使用することができる。気道における乳頭腫の例として、抗血管新生剤は、粘膜を通して病変中へ表面的に吸収される吸入剤として使用されてもよい。抗血管新生剤は、炎症性疾患、前癌性異形成または癌領域用に皮膚へ直接適用されるクリームで投与することもできる。喉頭、咽頭、膀胱、および頸部などの皮膚または粘膜の表面へ臨床医により表面的に塗布されてもよい。
【0035】
製剤−制御放出製剤
医薬組成物は、典型的には、その意図された投与経路に適合するように製剤化される。適当な医薬組成物を製剤化する方法は、当技術分野において知られており、例えば、Drugs and the Pharmaceutical Sciences:a Series of Textbooks and Monographs(Dekker、NY)シリーズの本を参照されたい。例えば、非経口、皮内、または皮下適用のために使用される溶液剤または懸濁剤は、下記の成分:注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度を調整するための試剤を包含することができる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。
【0036】
皮膚または粘膜の病変を治療するための抗血管新生剤の有効性を強化するための1つの戦略は、制御放出製剤を使用して組織への薬物の放出を遅らせることである。
【0037】
軟組織における薬物の滞留時間を増すための様々な選択肢がある。抗血管新生剤の遅延放出は、マイクロスフェアまたはナノ粒子の使用、または声帯機能を回復するはずの生体材料などの、局所組織に対して不活性であるかさらには局所機能に有益である可能性がある適当な担体(組織拡張器(expander)/充填剤など)に薬物を包埋することを包含する当業者によく知られている様々な様式で達成することができる。例えば、ポリマーインプラントまたはマイクロカプセルまたはナノもしくはマイクロスフェアについて、例えば、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)PLGAマイクロスフェア;D,L−乳酸オリゴマー;ポリ乳酸またはコポリ(乳酸/グリコール酸)のマイクロカプセル;ポリ(α−ヒドロキシ酸)マイクロスフェア;ポリアンヒドリドマイクロスフェア;ヒアルロン酸ヒドロゲルを含む、制御放出製剤において使用するための生体分解性ポリマーが当技術分野において知られている。例えば、とりわけ、PutneyおよびBurke、Nature Biotechnology 16:153〜157(1998);Talmadge、Adv.Drug Del.Rev.10:247〜299(1993);ClelandおよびJones、Pharm.Res.13:1462〜1473(1996);Tianら、J.Control.Release、102(1):13〜22(2005);Grainger、Exp.Op.Biol.Ther.4(7):1029〜1044(2004);米国特許出願公開第US20050019400号;第20070160617号;EP0659406B1;EP0765659A1;米国特許第5980945号;およびWO/2006/047279A2を参照されたい。
【0038】
一部の臨床環境において、組織は、機能を回復する生体材料または細胞構築物による増大および再建を必要とし、これらの生体材料または細胞構築物は、抗血管新生剤のための担体としての機能を果たすことがある。一部の実施形態において、進行中の局所疾患増殖を伴う腫瘍(例えば、皮膚)の除去後に軟組織欠損が存在することがあり、欠損の出現を減らすために組織増大充填剤を使用することが望ましいことがある。組織増大充填剤は、抗血管新生剤を輸送することができる。粘膜乳頭腫症(例えば、気道消化管または泌尿生殖管における)、皮膚病変、または胃腸病変(例えば、血管異形成、腺腫、またはバレット食道)などの病変の収縮がある場合、そのような製剤の使用が、特に望ましいことがある。
【0039】
遅延または制御薬物送達はさらに、粘膜または皮膚の切除量を少なくするか、ことによると、粘膜切除手順の必要性を未然に防ぐことさえある。これらの概念は、喉頭における再発性呼吸器乳頭腫症、前癌性異形成および癌の例により例示される。これらのシナリオにおいて、前述の疾患を治療するための頻繁な手順は、発声粘膜の硬直をもたらす声帯の層状微細構造の実質的損失につながることが多かった。しかしながら、事前の減少手順にもかかわらず、進行中の粘膜疾患が依然として存在することが多い。このシナリオにおいて、生体材料インプラントまたは細胞グラフトは、疾患を退縮させるための抗血管新生剤を輸送しながら、失われた上皮下軟組織を回復させる可能性がある。
【0040】
用量
化合物の用量、毒性および治療有効性は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な投与量)およびED50(集団の50%において治療上有効な投与量)を決定することについて、例えば、細胞培養物または実験動物における標準的な医薬手順により決定することができる。毒性効果と治療効果の間の投与量比は、治療指数であり、治療指数は、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物が使用されることがあるが、非感染細胞に対する潜在的損傷を最小限に抑え、それによって、副作用を減らすため、そのような化合物が罹患組織の部位を標的とする送達システムを設計することに留意すべきである。
【0041】
本明細書に記載されている薬剤の多くについて、適当な用量に関する指針が当技術分野において利用可能であるが、最適な用量は、経験的に決定することもできる。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータは、ヒトにおける使用のために一連の用量を製剤化するのに使用することができる。そのような化合物の用量は、ほとんどまたは全く毒性がない、ED50を包含する循環濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化することがある。本発明の方法において使用される任意の化合物について、治療上有効な投与量は、初めに、細胞培養アッセイから推定することができる。投与量は、細胞培養物において決定されるIC50(すなわち、症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を包含する循環血漿濃度範囲を達成するために動物モデルにおいて製剤化することができる。そのような情報を使用して、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0042】
「有効な量」とは、有益な結果または望ましい結果を得るのに十分な量である。例えば、治療量は、望ましい治療効果を達成する量である。この量は、疾患または疾患症状の発現を防止する(すなわち、可能性を低める)ために必要な量である予防上有効な量と同じか異なっていてよい。有効な量は、1回または複数回の投与、適用または用量で投与することができる。組成物の治療上有効な量は、選択された組成物によって異なる。
【0043】
ウイルス関連病変
哺乳動物において病変、例えば、癌を誘発するウイルスは、極めて広範囲に及ぶ。一部の実施形態において、ウイルス関連病変は、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)により引き起こされる。腫瘍をもたらすことがある他のタイプのウイルスは、様々なRNAウイルスならびにヘルペスウイルスを包含する。一部の実施形態において、病変は、癌性ではない。
【0044】
そのような腫瘍は、ほかの点では健康な個人においても現れることがあるが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染している人々などの免疫系が低下している人々は、全身にわたって腫瘍増殖を引き起こし、罹患した個人に大きな精神的および肉体的苦痛をもたらすことがあるHPV感染にかかりやすい。
【0045】
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は、上皮細胞向性の二本鎖DNAウイルスであり、腫瘍形成に関連している。100を超える型のHPVが同定されており、そのうちの68が腫瘍形成を誘発し得る。これらのHPVの一部、例えば、6型および11型は、上部胃腸管および呼吸管ならびに泌尿生殖管などの粘膜組織において、およびすべての年齢層において生じることがある尋常性疣贅などの良性腫瘍に関係している(例えば、Dickensら、J Pathol.165(3):243〜6(1991)を参照)。他の型は、口(例えば、Gillison、Semin.Oncol.31(6):744〜54(2004);およびGillisonおよびLowy、Lancet、363(9420):1488〜9(2004)を参照)および感染した哺乳動物の生殖粘膜における異形成および癌腫における病原因子として強く関係するとされ、16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、および82型は、「高リスク」HPVとして分類されている。例えば、「Supplement:Assessing the Burden of HPV−Associated Cancers in the United States」、Cancer.113(S10):2837〜3057(2008);Munozら、New Engl.J.Med.348(6):518〜527(2003)を参照されたい。
【0046】
乳頭腫症の診断は、標準的方法、例えば、ALA−D−Light蛍光診断を使用して行うことができる。
【0047】
再発性呼吸器乳頭腫症(RRP)は、一般的であり、実際に、小児における最も一般的な良性新生物である(小児集団において100,000人当たりおよそ3.96人)(Wiatrak、Curr.Opin.Otolaryngol.Head Neck Surg.11(6):433〜41(2003))。若年発症型と成人発症型の喉頭RRPは共に、従来の方法で治癒可能ではないため、罹患率は、毎年、新症例の発生率よりも実質的に高い。良性であるが、重大な病的状態および時折生ずる死亡は、外科的除去のための入院を必要とすることがある多発性再発に関係している。下気道中への増殖の蔓延または拡張は、一般的に、より不良な予後を示す。臨床的挙動は変わりやすく、病変は、退行し、持続し、まれな事例では、喫煙または照射などの他の環境的要因が関わる場合、癌腫に進行することがある。
【0048】
単純疱疹ウイルス
単純疱疹ウイルス関連多形性紅斑(HAEM)について記載されており、例えば、AurelianおよびBurnett、「Current understanding of herpes simplex virus−associated erythema multiforme」、Exp.Rev.Derm.Aug.3(4):491〜499(2008)を参照されたい。
【0049】
他のウイルス関連病変
他のウイルス関連病変は、エプスタインバーウイルス(EBV)関連病変、例えば、EBV関連種痘様水疱症(HV)様皮膚病変を包含する。
【0050】
非ウイルス病変
本明細書に記載されている方法は、ウイルス感染を伴っていても伴っていなくてもよい血管病変(例えば、増殖または腫瘍)を治療するためにも使用することができる。例えば、他の新血管新生プロセスは、消化管の血管異形成、肺および気管気管支樹の血管病変、気道消化管全体の腺腫様ポリープ、血管腫(皮膚、粘膜、器官)、ならびにウェジナー肉芽腫症およびベーチェット病などの血管炎を包含する。
【0051】
一部の実施形態において、病変は、上皮細胞腫瘍、例えば、非癌性の上皮細胞腫瘍である。
【0052】
(実施例)
本発明を、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲を限定しない下記の実施例においてさらに記載する。
【実施例1】
【0053】
声帯乳頭腫症の血管破壊(532nmKTPレーザー、585nmパルス色素レーザー)レーザー治療を強化するためのAVASTIN(商標)の喉頭顕微鏡下および診療所ベースの(office-based)注射
光血管破壊レーザーは、発声粘膜の柔軟性を保存しながら疾患を退縮させることにより声門乳頭腫症を効果的に治療する。しかしながら、このアプローチは、再発を確実には防止しない。したがって、抗血管新生剤ベバシズマブ(AVASTIN(商標))の病変内/病変下注射を、疾患再発および発声粘膜の柔軟性/機能に対する効果を決定するために評価した。
【0054】
材料および方法
後ろ向き調査を、確立したパターンの再発があり、事前の血管破壊レーザー治療を受けた難治性声門再発性呼吸器乳頭腫症(RRP)の10名の患者からなるパイロット群で行った。10名のうちの3名は、気道閉塞を示し、10名のうちの7名は、頻繁な疾患再発に伴う発声機能障害の治療を受けていた。罹患声帯中への上皮下(表在固有層内)ベバシズマブ注射(5〜10mg)を、最適な発声機能を維持する必要がなくなるためにレーザー切除を中止するまで、4〜6週間隔でパルスKTPレーザー光血管破壊治療と一緒に使用した(図1A〜F)。患者は、5〜10mg(0.2〜0.4mL:上皮下表在固有層において前の手順から存在する瘢痕の量0.1当たり2.5mgの最初の一連の5回のベバシズマブ注射を受け、治療間隔は、患者の移動制約の実施上の配慮に部分的に基づいた。疾患評価は、ベバシズマブの使用前後の診療所喉頭鏡検査の所見を比較することにより、従来の記載(Zeitelら、Ann Otol Rhinol Laryngol、113:265〜76(2004))と同様に定量化した。
【0055】
ベバシズマブ注射は、Universal Modular Glottiscope(Endocraft LLC)(Zeitels、Ann Otol Rhinol Laryngol Suppl、108(suppl 179):2〜24(1999))の使用と一緒に、手術室において喉頭顕微鏡注入針(Endocraft LLC、Winter Park、Florida)(ZeitelsおよびVaughan、Otolaryngol Head Neck Surg、105:478〜9(1991))で行った。解剖学的な理論的根拠および手順的技法は、以前に詳述されている(Zeitels、Laryngoscope、105(suppl 67):1〜51(1995))。診療所ベースの注射は、固定したテレスコピックガイダンス(telescopic guidance)(KayPENTAX、Lincoln Park、New Jersey;Fordら、Laryngoscope、108:1584〜6(1998))付きのFordシステム(Medtronic Inc、Minneapolis、Minnesota)(Ford、Othlaryngol Head Neck Surg、103:135−7(1990))で、または柔軟な喉頭鏡制御(KayPENTAX)と併せたアミンの(Amin’s)経頸部的技法(Amin、Ann Otol Rhinol Laryngol、115:699〜702(2006))により与えられた。
【0056】
患者は、一連のベバシズマブ注射前後に標準的な音声評価を受けた。これらは、ビデオストロボ検査、音声関連の生活の質調査(V−RQOL)(HogikyanおよびSethuraman、J Voice、13:557〜69(1999))の完了、ならびに発声機能の客観的な音響学的および空気力学的指標を包含した。主観的判断に対するその信頼性のため、ビデオストロボ検査記録の所見は公式データとして使用されず、発声機能指標の結果を議論することとの関連においてのみ包含される。発声機能の音響学的および空気力学的指標を得るためのプロトコルの詳細については、以前に記載されている(Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol Suppl、107(suppl 173):2〜24(1998))。可能な場合、注射後指標を、個々の患者について注射前指標および歴史的基準(historical norm)(Id.)と記述的に比較した。
【0057】
結果
それらの事前の声門再発パターンをレーザー治療単独と比較すると、10名の患者(20の声帯)はすべて、粘膜柔軟性を維持または改善しながら再発の90%を超える低下を有していた。さらに、10名の患者のうちの7名(20の声帯のうちの14)は、疾患の完全な解消を有していた。これら7名の患者のうち、4名は、臨床的解消を有し、3名は、ベバシズマブ注射の中止から8〜10週後に軽度の再発を呈した。しかしながら、3名はすべて、診療所注射の使用によりレーザー切除なしに優れた機能を維持している。一連の5回の注射後に臨床的解消を達成しなかった10名の患者のうちの3名はすべて、気道閉塞を示した。経時的には、3名のうちの1名は、進行中の注射を正当化する極めて限定された上皮疾患を示したが(図2A〜Bを参照)、発声粘膜の外科的切除治療を必要としなかった。したがって、ジストニアモデルとある程度同様に、10症例のうちの4症例は、この時点で解消され、10名の患者のうちの4名は、限定された再発または持続的疾患を有し、8〜12週間隔でベバシズマブを注射されている。10名の患者のうちの2名は、ベバシズマブ注射と組み合わせた診療所ベースのKTPレーザー治療を受け続けている。これら2名の個人は、気管切開術を受けていることを当初から示していた。要約すると、どの患者も、全身麻酔を伴う微細喉頭手術を必要とせず、10名の患者のうちの2名(20の声帯のうちの4つ)のみが、声帯膜の診療所ベースのレーザー治療を依然として必要としている。ベバシズマブ注射の結果としての全身性合併症も局所合併症もなかった。
【0058】
このパイロット試験では、4つの主要発声評価指標のサブセットを利用し、発声機能に対する新たな治療レジメンの影響を評価した。指標は、全体的なV−RQOLスコア、標準的一節を朗読中の平均基本周波数(F0:発声ピッチ)、持続母音中の雑音対調和成分比(NHR:声質)、および標準的な音節文字列発声中の声音圧力レベルと平均声門下空気圧の間の比(水1センチメートル当たりのデシベル:発声効率)を包含した。図3は、V−RQOL調査についての結果を示している。この尺度で、0は、最低の発声関連の生活の質を示し、100は、最高の発声関連の生活の質を示している。すべての患者にわたって、注射前スコア(7名の患者)は、28から60までの範囲であり、注射後スコア(10名の患者)は、82から100までの範囲であった。V−RQOLを完了した患者のうちの7名すべてが、治療の前後に、+30から+95までの範囲で注射後スコアの劇的な増加を示した。治療前スコアは、患者F2およびF3(本発明者らがV−RQOLを使用し始める前に当初評価された)または患者M2(気道閉塞を示し、治療前発声評価が行われる前に手術室まで緊急に運ばれた)については入手出来なかった。
【0059】
残りの発声機能指標について、患者M1およびM2について治療前発声評価データがないのは、両者が失声し、1名が気管切開術を示したためであり、M7について治療後空気力学的指標がないのは、技術的困難のためである。図4は、女性による標準的一節の朗読中の平均F0についての結果を示しており、男性データは、発声ピッチの正常な性差のため別々に評価した(すなわち、平均女性ピッチは、平均男性ピッチよりおよそ1オクターブ上である)。患者F1は、治療前に異常に高いF0(249Hz)を示し、これは治療後に正常を下回る値(161Hz)まで低下した。患者F2についてのF0は、治療前に正常範囲内(204Hz)であったが、治療後に正常を下回るレベル(156Hz)まで減少した。患者F3は、治療前に高いF0(259Hz)を示したが、治療後に正常なF0(199Hz)を示した。7名の男性患者のうち6名は、正常範囲内であるか正常範囲に極めて近い治療後F0値を有していた。治療前後にF0評価を受けた男性患者のうち5名すべては、−3Hzから−122Hzまでの範囲である減少の形態で治療後F0値の改善を示した。患者M2のみが、著しく高い治療後F0値を示した。
【0060】
NHRの声質関連指標についての結果は、図5に示されている。10名の患者のうちの9名は、正常範囲内であるか正常範囲に極めて近い治療後NHR値を示した。治療前後にNHR評価を受けた8名の患者のうち7名は、−0.008から−0.58までの範囲である治療後NHR値の改善を示し、1名の患者は、治療前後に同じ正常NHR値を維持した。図6は、発声効率を反映する音節発声中の声門下空気圧に対する音圧レベルの比(水1センチメートル当たりのデシベル)についての結果を示している。治療後指標を有していた9名の患者のうち2名のみが正常な閾値を達成した。しかしながら、治療前後に評価を受けた患者のうちの7名すべてが、+0.5から+9.9までの範囲である治療後発声効率の改善を示した。
【0061】
シドホビルの局所注射で観察される発声問題(声帯瘢痕化および難治性嗄声が報告されている(LeeおよびRosen、J Voice、18:551〜6(2004))を考えて、本試験は、化合物のこれまでの使用を踏まえて全身性合併症のリスクが限定されたことに十分な満足を得たが、ベバシズマブの初期声門投与では極めて慎重に進めた。注射戦略は、眼科モデルに見合っており、これについては、主に高齢の集団ではあるが最小限の困難さでのベバシズマブの認可外使用に関する広範な文献がある(Fungら、Br J Ophthalmol 2006;90:1344〜9(2006);LynchおよびCheng、Ann Pharmacother、41:614〜25(2007))。用いられた投与量は、眼に使用された投与量のおよそ5〜10倍であったが、本投与量は、それでも、全身性静脈内癌治療の投与量の15分の1未満であった(Zhuら、Am J Kidney Dis、49:186〜93(2007))。ベバシズマブの局所注射を受けた初期の2名の患者は、度重なる手術にもかかわらず懸念される慢性気道障害を有し、それらの疾患の重症度により新規な治療戦略を試みざるを得なかった。最初、一方の声帯のみに注射した。実質的な発声改善とともに、疾患再発のペースの劇的な減少を観察した後、第二の声帯を同様に治療した。しかしながら、これらの患者が他の施設で実質的に事前の手術を受けていたため、表在固有層(発声粘膜柔軟性)に対するベバシズマブの効果を評価することは困難であった。
【0062】
有望かつ劇的な結果が10名の患者すべてにおいて認められ、すべてが、KTPレーザー治療単独による再発の事前パターンと比較して90%を超える改善を有していた。10名のうちの4名は、もはや認識できる疾患を有していないほど解消していた。10名のうちの別の4名は、8〜12週間隔のベバシズマブの診療所注射のみにより管理される顕微鏡的疾患を有している。10名のうちの2名のみが、現在、診療所のみで行われる進行中の声門レーザー治療を必要とし、再発は、事前の再発パターンと比較して極めて限定されている。これらの患者は共に、当初、気道閉塞を呈する重症疾患を示し、それらのうちの1名は、気管切開術を受けた。
【0063】
本明細書で報告されている症例は、RRP患者における発症および再発のパターンが、広いスペクトルを含むことを例示している。本明細書に示されているデータに基づくと、異なる外科的切除技術は、より容易な技法がより完全な除去につながることが多いという事実は別として、再発パターンを実質的に変えない。有効な外科的技法は、主に、軟組織および発声を保存しながら時間効率よく臨床的に目に見える疾患のより包括的な除去を可能にする。別の言い方をすると、本データは、声門の層状微細構造を保存する現行の外科的方法が、乳頭腫症−宿主関係および/または再発パターンの生物学的変化をもたらすことは示唆していない。したがって、疾患発症のスペクトルに見合う再発の変化に富むパターンとともに、ベバシズマブに対する応答のスペクトルがあるはずである。
【0064】
発声転帰に関して、患者は、治療後発声機能に実質的な改善を示した。このことは、新たな治療レジメン後の音声関連の生活の質についての患者の自己評価における劇的増加により最も明確に反映された(図5におけるV−RQOL結果を参照)。大部分の患者は、声質における治療後改善(図7におけるHNR結果を参照)および発声効率も有し、患者の大部分は、正常な治療後NHR値を実際に達成した。一方、発声効率は、各単一症例で改善したものの、2名の患者のみが正常レベルを完全に達成した(図8)。これらの結果は、軽度の持続性発声欠損のある患者が、根本的な空気力学的パラメーターを調整して正常な声質を達成するか近づける能力を有するという以前の所見と一致する(Holmbergら、J Voice、17:269〜82(2003))。
【0065】
ストロボ検査所見は、客観的発声機能試験結果を裏付けた。声質(NHR)および発声効率(水1センチメートル当たりのデシベル)における改善は、声帯粘膜波活動の振幅および対称性における治療後改善により、および発声振動周期中のより完全な声門閉鎖により反映された。女性患者についての低下した治療後F0値は、これらの患者の治療後ストロボ検査において見られるように、振動粘膜がわずかに拡大し(質量負荷)より柔軟になったことに起因していた。著しく高い治療後F0値を示した1名の男性患者におけるストロボ検査所見は、疑いなくこの患者の疾患についての初期外科的処置の結果である緊張したピッチの高い声の印象を伴う粘膜波活動の低下した声帯粘膜の無力性セグメントの持続を示した。
【0066】
RRPを治療するために薬理学的変調剤としてベバシズマブを導入する1つの目的は、声門粘膜が切除を必要とした診療所ベースのレーザー介入12、23の数を減らすことであった。成人RRPの喉頭顕微鏡下治療をほとんど避けることができ、複数の全身麻酔剤の病的状態を最小限に抑えることはこれまでに確立されていた(Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol、113:265〜76(2004);Zeitelsら、Ann Otol Rhinol Laryngol、115:679〜85(2006))。本結果は、薬剤の定期的な診療所ベースの注射の使用が、ジストニアのためにボトックスを使用するモデルと同様に、発声および声帯の層状微細構造を保存するために有用であることを示している。
【実施例2】
【0067】
症例研究
患者は、声帯上に再発性呼吸器乳頭腫症を発症したプロの歌手であった。発声膜に対する乳頭腫症の影響のため、この患者は、声楽家としてのキャリアを捨てなければならなかった。患者は、発声膜の疾患の喉頭顕微鏡下の完全除去を受けた。その後2カ月にわたって、疾患は再発し悪化した。2カ月後、患者は、疾患を根絶するために診療所ベースの血管破壊532nmKTPレーザー手順を受けた。3カ月後、患者は、再び、実質的再発に見舞われ、疾患の2カ月後、8カ月前の彼の初期症状よりも顕著になった。
【0068】
その時、患者は、両側性に実質的な量の発声粘膜を冒しているびまん性血管新生再発性呼吸器乳頭腫症を有していた(右声帯の内側および左声帯の前方に血管球状塊)(図1A〜B)。AVASTIN(商標)の経口腔注射を、発声粘膜の右および左の表在固有層中へのAVASTIN(商標)注入と併せて使用した(図1C)。0.3mmファイバーで532パルスKTPレーザーを使用し、声帯の呼吸器乳頭腫症を退縮させた(図1D;血管新生乳頭腫病変のレーザー治療の少量の白色痂皮および限定された出血が声帯上に見られた)。
【0069】
3カ月後、患者は、限定された再発を有し、血管破壊KTPレーザーとAVASTIN(商標)による別の診療所ベースの併用治療を受けた。次の来院で、3カ月後、患者は、識別できる疾患を有さず、発声粘膜の両側中への別のAVASTIN(商標)注射を受けた。その後、患者は、疾患の観察可能な再発はなかったが、1カ月後にAVASTIN(商標)による発声声帯の最後の両側性診療所ベースの注射を受けた。
【0070】
ベバシズマブ注射の前、この患者は、KTPレーザー治療にもかかわらず8〜10週で再発した。一連のベバシズマブ注射を完了して以来、患者は、最後の注射から6カ月後に疾患の臨床的証拠を有さず、10カ月の間レーザー手順を受けなかった(図1E〜F)。最も注目すべきことに、この患者の歌唱は、制限がなく、疾患前の状態と同等である。
【0071】
他の実施形態
本発明について、その詳細な説明と併せて記載してきたが、以上の説明は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定することではなく例示することが意図されていることが理解されるべきである。他の態様、利点、および修正形態は、下記の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において血管コンポーネントを含む病変を治療する方法であって、治療上有効な量の血管新生阻害剤を前記病変へ局所的に投与することを含む方法。
【請求項2】
病変を実質的に減量するのに十分な細胞減少治療に病変を曝露させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
病変が、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)により引き起こされる乳頭腫である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
血管新生阻害剤が、抗VEGF化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
抗VEGF化合物が、抗VEGF抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗VEGF抗体が、ベバシズマブである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
病変への局所投与が、病変中への直接注射もしくは病変表面への局所適用、または病変に隣接した組織中への直接注射もしくは組織表面への局所適用である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
血管新生阻害剤が、制御放出製剤を使用して局所的に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞減少治療が、COレーザー、Nd:YAGレーザー、ツリウムレーザー;Er,Cr:YSGGレーザー;532nmパルスチタン酸リン酸カリウム(KTP)レーザー;または585nmパルス色素レーザー(PDL)からなる群から選択されるレーザーにより提供される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
細胞減少治療が、コールドインストルメントにより提供される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
細胞減少治療が、切除組織治療である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
病変が、ウイルス誘発性血管病変である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
病変が、上皮血管病変または腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
病変が、対象の皮膚表面に存在する;対象の粘膜組織表面に存在する;または内部器官表面に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
粘膜組織が、対象の呼吸管;消化管;または泌尿生殖管内にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象が、再発性呼吸器乳頭腫症に罹患している、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
その後に、血管新生阻害剤の1つまたは複数の追加の投与量を投与することをさらに含む、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−517434(P2012−517434A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549277(P2011−549277)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/023295
【国際公開番号】WO2010/091234
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】