説明

血管細胞治療のための歯肉繊維芽細胞の使用

本発明は、動脈リモデリング病変、例えば動脈瘤、血管形成術後狭窄及び再狭窄、大動脈切開又はアテローム性動脈硬化症の治療用の細胞組成物を得るための歯肉繊維芽細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管細胞治療における、特に動脈の病変の治療のための歯肉繊維芽細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈壁は、膜(tunicae)とよばれる重畳された3層からなる。内膜(inner tunica) (脈管内膜(intimae))は、内皮細胞の層からなる。中間膜(intermediate tunica) (中膜(media))は、平滑筋繊維と弾性繊維に富む結合組織とから主になる。外膜(outer tunica) (外膜(adventica))は、アセンブリ全体を囲む結合外被である。
【0003】
動脈は、動脈壁損傷を誘導し得る種々の起源(低酸素症、脂質過負荷、血行力学的外力、アテローム、高血圧など)の多くの攻撃に付される。これらの損傷の修復の間に、細胞外マトリックスの分解と合成の間の不均衡に起因する異常な治癒反応が発生し得、血管拡張(動脈瘤)、又は逆に収縮(アテローム発生の間に二次的に発生する狭窄、又は狭窄の再現に向かう瘢痕性のリモデリングの経過において発生する特に血管形成術の後の再狭窄)により反映され得る病理的動脈リモデリングを誘導する。
【0004】
例えば、動脈瘤性損傷において、細胞外マトリックス成分、特に弾性繊維の酵素分解及び平滑筋細胞(SMC)の数の減少が、中膜において観察される。著しい炎症性浸潤を伴う繊維形成が外膜において観察される。
【0005】
細胞外マトリックス成分の分解は、種々のマトリックスプロテアーゼを伴う。これらのうち、エラスターゼ、浸潤された白血球及び生理的宿主細胞(内皮細胞、平滑筋細胞及び外膜繊維芽細胞)により合成されるマトリックスメタロプロテイナーゼ-9 (MMP9)を特に挙げることができ、これは弾性繊維断片化の大部分を担っている(THOMPSON, J. Clin. Invest. 96: 318〜326, 1995)。並行して、中膜におけるSMCの希薄さの増大は、細胞外マトリックス成分の合成の減少、及び主にこれらのSMCにより合成されるマトリックスプロテアーゼ阻害剤の合成の減少を導く(LOPEZ-CANDALESら, Am. J. Pathol. 150: 993〜1007, 1997)。
【0006】
狭窄及び再狭窄の場合、異常な創傷治癒プロセスと考えることもできる退縮性(retractile)繊維リモデリングが発生する。このリモデリングは、内膜性繊維過形成を特徴とし(LAFONTら, Circ. Res. 76(6): 996〜1002, 1995)、新内膜(neointima)、中膜及び外膜におけるコラーゲンの増加に関係すると考えられる(LAFONTら, Circulation 100(10): 1109〜1115, 1999; DURANDら, Arch. Mal. Coeur Vaiss. 94(6): 605〜611, 2001)。
【0007】
現在、動脈病変の治療は、外科手術及び心臓手術(血管手術、大動脈冠動脈及び末梢のバイパス、大動脈ダクロン人工器官、冠動脈及び末梢の動脈血管形成、大動脈内部人工器官など)に主に基づく。しかし、これらの侵襲性の技法は原因を治療しないが、病変の結果を治療する。これらは、疾患の発生の抑制は不可能であるが、患者の状態を改善することを可能にする。
よって、より侵襲的でなく、病理的動脈リモデリングを効率的に治療することを可能にする新規な手段を有することが必要であると考えられる
【0008】
ALLAIREら(J. Clin. Invest. 102(7): 1413〜1420, 1998)は、ラットにおける実験的動脈瘤モデルにおいて、動脈壁におけるSMCの局所的内植が、弾性繊維分解及び動脈瘤形成の阻害を誘導することを観察している。ラットにおいて、すでに形成された実験的動脈瘤を、SMCの局所注射により安定化できることも示されている。この安定化は、細胞移植のレベルでのパラクリン起源のTGFβの分泌に関連している(LOSYら, J. Vasc. Surg. 37(6): 1301〜1309, 2003)。
【0009】
しかし、細胞治療による動脈瘤の治療のためのSMCの使用に対する主な障害は、これらのSMCを幹細胞から得る必要があることである。用いる幹細胞は、骨髄又は血液に由来し、得ることが非常に困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、動脈壁SMC以外の細胞種を細胞治療において用いることができるかについての探索に着手し、歯肉繊維芽細胞を試すことを思いついた。
歯肉繊維芽細胞は、歯肉の軟結合組織中で遊走、接着及び増殖できる間葉細胞であり、機械的外力、細菌感染、pHの変動、温度などの多数の攻撃に付される歯肉組織の完全性を維持する(GOGLYら, Clin. Oral Invest. 1: 147〜152, 1997; GOGLYら, Biochem. Pharmacol. 56(11): 1447〜1454, 1998; EJEILら, J. Periodontol. 74(2): 188〜195, 2003)。
それらが付される環境条件に応じて、歯肉繊維芽細胞は表現型を変更でき、かつ増殖、遊走又は細胞外マトリックス成分の合成若しくは分解を介して歯肉組織環境からの刺激に応答することができる。
【0011】
よって、これらは、種々の細胞外マトリックス成分:コラーゲン(I、III、V、VI、VII、XII型)、弾性繊維、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカン、並びに糖タンパク質を合成できる。これらは、これらの巨大分子成分を分解できる種々の酵素(特にメタロプロテアーゼ)も産生できる。最後に、これらは、MMPの活性形を阻害するメタロプロテアーゼの組織阻害剤も発現できる。
【0012】
本発明者らは、歯肉繊維芽細胞とSMCとの共培養を行い、これらの細胞同士の相互作用が、SMCによるMMP9活性の歯肉繊維芽細胞による阻害、及び2つの細胞種によるTGFβの分泌の増強をもたらすことを観察している。これらの効果は、歯肉繊維芽細胞に特異的であり、SMCを皮膚又は外膜の繊維芽細胞と共培養しても観察されない。
同様の知見が、歯肉繊維芽細胞と損傷を受けた動脈との共培養においても得られている。この器官培養型モデルは、歯肉繊維芽細胞の存在が、弾性ネットワークの保護を誘導することを示すことも可能にしている。
【0013】
よって、歯肉繊維芽細胞は、まず、動脈瘤形成の主要な因子の1つ、すなわち弾性ネットワークの分解の原因となるMMP9への阻害効果を有し、次に、動脈瘤の安定化に好ましい因子、すなわちTGFβ分泌への活性化効果を有すると考えられる。
【0014】
本発明者らは、また、ウサギにおいて、ウサギからの歯肉組織サンプルから得られた歯肉繊維芽細胞の、該ウサギへの動脈壁内への移植からなるインビボ試験を行い、これらの自己の歯肉繊維芽細胞は、中膜のレベルで壁の中に挿入されるようになり得ることに注目した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の主題は、よって、歯肉組織以外の鉱物化されていない結合組織のリモデリングからなる病変、特に動脈リモデリング病変の治療において用いるための細胞組成物を得るための歯肉繊維芽細胞の使用である。
【0016】
歯肉繊維芽細胞は、本発明によると、重大な細胞外マトリックス障害を有する全ての血管病変、特に動脈の病変において用いることができる。特に、アテローム性動脈硬化症、易損性斑(vulnerable plaque)、再狭窄、動脈性動脈瘤、大動脈切開が挙げられる。血管領域の外でも、歯肉繊維芽細胞は、細胞外マトリックス障害を伴う病変:皮膚創傷治癒、組織修復(熱傷、癌、実質欠損(substance loss)の患者)において組織リモデリングを調節できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好ましい実施形態によると、上記の病変は動脈瘤である。
本発明の別の好ましい実施形態によると、上記の病変は、血管形成術後狭窄又は再狭窄である。
【0018】
上記の繊維芽細胞は、好ましくは自己繊維芽細胞、すなわち、治療が意図される個体から予め採取した歯肉組織から誘導され、培養に付された繊維芽細胞である。好ましくは、これらの繊維芽細胞は、少なくとも14日間、有利には14〜70日間培養される。
本発明を行うために用いることができる歯肉繊維芽細胞培養物は、当業者にそれ自体で知られる従来の技法により得ることができる(BARLOVATZ-MEIMONら, "culture de cellules animales" ["Animal cell culture"] p. 898, ill. Paris: INSERM, 2003)。
【0019】
動脈壁における繊維芽細胞の内植(implantation)は、微細針を備えたバルーンカテーテル(INFILTRATOR)を用いる、外膜若しくは外膜周囲組織(periadventitial tissue)への外部若しくは内部の経路を介する注射による局所的、又は全身経路(磁気誘導により行われるターゲティングを伴う(超常磁性のナノ粒子の予めの細胞内への組み込み)注射部位の上流の末梢静脈又は動脈経路)、又は生物学的経路(WILHEMら, Eur. Biophys. J. 31(2): 118〜125, 2002; PANYAMら, J. Drug Target 10(6): 515〜523, 2002)のいずれかの種々の方法で行うことができる。
【0020】
所望により、マトリックスリモデリングに参加する歯肉繊維芽細胞産物、例えばデコリン(マトリックスリモデリングに参加するプロテオグリカン) (AL HAJ ZENら, Matrix Biol. 22(3): 251〜258, 2003)又はヒアルロン酸と組み合わせることも可能である。
【0021】
本発明は、血管細胞治療において用いることができる歯肉繊維芽細胞の効果を説明する限定しない実施例に言及する以下のさらなる記載から、より明確に理解される。
【実施例】
【0022】
実施例1:歯肉繊維芽細胞と平滑筋細胞の共培養におけるMMP2、MMP9、TIMP-1及びTGFβの分泌
繊維芽細胞の標識
歯肉繊維芽細胞は、WILHEMら(Biomaterials 24: 1001〜1011, 2003)により記載されるようにして、磁赤鉄鉱のアニオン性ナノ粒子を用いて標識する。
歯肉繊維芽細胞(6つの異なる培養物)は、10%胎児ウシ血清(FCS)中で集密まで培養し、48時間後に、培養上清を除去し、細胞を血清フリー培地で培養する。
これらのナノ粒子での歯肉繊維芽細胞の標識の優良性を、パール(Perl)染色(プルシアンブルー)により制御する。ナノ粒子は吸収され、図1に示すように、歯肉繊維芽細胞のエンドソーム内に内部移行される。
【0023】
標識が歯肉繊維芽細胞の表現型を変更しないことを証明するために、マトリックスメタロプロテイナーゼ-2 (MMP2)並びにサイトカインであるIL-1β及びTGFβの分泌へのナノ粒子の取り込みの影響を、D1、D3及びD5 (培養日数)にて評価した。
D1において、標識された繊維芽細胞でMMP2及びIL-1βの産生の増加が観察され、この産生は、D3及びD5において通常のレベルに戻る。この一過性の増加は、おそらく、ナノ粒子の取り込みの後のストレスによるのだろう。一方、研究期間の間に、TGFβの産生の変化は観察されない。
【0024】
歯肉繊維芽細胞及び平滑筋細胞の共培養
標識された歯肉繊維芽細胞(FG)と平滑筋細胞(SMC)との共培養を、GILLERYら(Experinetia 45(1): 98〜101, 1989)に記載された方法に従ってコラーゲンゲル中で行う。
簡単に、細胞は、歯肉繊維芽細胞については歯肉サンプルから、そして平滑筋細胞については動脈中膜から得る。サンプル(歯肉及び動脈中膜)を、ペトリ皿でDMEM培地/20% FCS中の初代培養に付す。集密において、細胞をトリプシン処理し、DMEM培地/10% FCS中で再び培養に付す。この培地中で数世代を経過した後に、細胞をコラーゲンI中で(2 mlコラーゲン中に60000個の細胞) 3、7、14又は21日間培養する。ゲルを浸している培養培地(DMEM/10% FCS)は、毎週交換する。
同じ条件下で、歯肉繊維芽細胞培養と平滑筋細胞培養とを別々に、コントロールとして行う。
【0025】
SMCによるMMP9分泌
MMP9分泌は、免疫検出によりD3に見出され、光学顕微鏡(×160)により観察する。
MMP9は、繊維芽細胞において検出されない。これは、ゲル中のSMCの位置に対応する部位でのみ検出される。これらの結果は、以前の研究を裏付けるものであり、この研究によると繊維芽細胞はMMP9を発現しない(GOGLYら, 1998, 上記)。
【0026】
MMP2及びMMP9の活性並びにMMP9の転写へのFG/SMC相互作用の効果
ザイモグラフィによるMMP9及びMMP2の活性の評価
FG及び/又はSMCの培養のサンプル20μlを、50%グリセロール及び0.4%ブロモフェノールブルー含有1M Tris、pH 6.8中で1/2に希釈し、1 mg/mlのα-カゼイン(Sigma Chemical)を含有するSDS 10%ポリアクリルアミドゲルでの1時間の電気泳動に付す。ゲルを、蒸留水で希釈した2.5% Triton X-100中で洗浄し、次いで、100 mM Tris-HCl、5 mM CaCl2、0.005% Brij 35、0.001% NaN3、pH 7.4中で36時間、37℃にてインキュベートする。次いで、ゲルを0.25%クーマシーブルー(Biorad, ref. G 250) (50%メタノール、10%酢酸)で染色し、次いで適切に脱染する(40%エタノール、10%酢酸)。結果を図2に示す。
【0027】
A: 600個の未標識繊維芽細胞についてのMMP2活性(コントロール);
B: コラーゲンゲル中で培養した600個の標識繊維芽細胞についてのMMP2活性;
C: コラーゲンゲル中で培養した600個のSMCについてのMMP2及びMMP9活性;
D: 600個の培養標識繊維芽細胞+コラーゲンゲル中で別に培養した600個のSMCについてのMMP2及びMMP9活性(2つの細胞種同士の相互作用の不在下で全活性を決定するために、2つの別々の培養の培地を合わせる);
E: コラーゲンゲル中で共培養した600個の標識繊維芽細胞と60000個のSMCについてのMMP2及びMMP9活性。
【0028】
結果は、培養中の歯肉繊維芽細胞は、SMC (C及びD)とは異なって、MMP9を発現しない(A及びB)ことを示す。一方、繊維芽細胞は、共培養中にSMCにより分泌されたMMP9の活性を阻害する(E)。同じ結果が、D3及びD21で観察される。MMP2に関して、理論的に予想できたもの(D)に比べて、共培養(E)において活性の低下が観察される。しかし、この減少は、MMP9のものよりに比べてあまり重要でない。
【0029】
RT PCRによるMMP9転写の評価
全RNA (1又は2μg)を、D14のFG及びSMCの培養又は共培養から、MMP-CytoXpress Multiplex PCRキット(BioSource International)を用いて抽出する。得られたmRNAを、逆転写酵素を用いて逆転写し、次いで、PCRを、MMP9特異的プライマーを用いて次のようにして行う:95℃にて1分間の変性工程、94℃にて1分間の変性及び60℃にて4分間のハイブリダイゼーションを5サイクル、94℃にて1分間の変性及び68℃にて2.5分間のハイブリダイゼーションを35〜40サイクル、70℃にて10分間の最終工程、続いて20℃にて冷却。構成的に転写されるGAPDHをコントロールとして用いる。得られたPCR産物を、2%アガロースゲル電気泳動に付す。ゲルをUVの下で調べ、写真撮影をする。結果を図3に示す。
【0030】
M: DNA分子量マーカー;
A: 未標識のFGの培養(1μg RNA);
B: 標識FGの培養(1μg RNA);
C: SMCの培養(1μg RNA);
D: SMCとFGの共培養(1μg RNA);
E: SMCとFGの共培養(2μg RNA)。
【0031】
結果は、SMCの培養(C)及びSMCとFGの共培養(D及びE)においてMMP9の転写修飾がないことを示すが、上記の共培養においてこの酵素の活性の減少が減少することが、ザイモグラフィにより以前に証明された。よって、歯肉繊維芽細胞の作用は、翻訳又は翻訳後のレベルに存在する。
【0032】
TIMP-1の産生へのFG/SMC相互作用の影響
MMP9阻害剤(TIMP-1)は歯肉繊維芽細胞により発現され、MMP9の活性形を、不活性なMMP9/TIMP-1複合体を形成することにより阻害する。
D3、D7、D14及びD21 (培養日数)でのTIMP-1の発現により、細胞相互作用を研究する。
【0033】
ドットブロットによるTIMP-1産生の評価
コラーゲンゲル中でのFGとSMCの共培養の上清の一定量(1 ml)を、DMEM培地中で100μlの最終容量にし、細胞破砕物を除去するために10000 gで遠心分離し、次いで、10μlの1M Tris HCl、150 mM NaCl、pH 7.5の溶液を加える。コントロールとして、FG単独又はSMC単独からの培養上清を、同じ条件下で調製した。サンプル(5μl)を、ニトロセルロースメンブレン(Biorad, ref. 1620115)上に三重に置く。メンブレンを、1%ブロッキング溶液(Boehringer, ref. 1096176)と周囲温度にて1時間インキュベートし、TBS-Tween (50 mM Tris、150 mM NaCl、0.1% Tween 20、pH 7.5)中で4×15分間リンスする。メンブレンを、ヤギ抗ヒト抗TIMP-1ポリクローナル一次抗体(1/500、R&D Systems, ref. AF970)と、周囲温度にて一晩インキュベートする。一次抗体は、TIMP-1の遊離形に特異的である。TBS-Tween中での洗浄後(4×15分)、ブロットをペルオキシダーゼ標識二次抗体(1/1000)と1時間インキュベートし、次いで、過酸化水素及びジアシルヒドラジド含有現像溶液(ルミノール, Boehringer, ref. 1500694)中に1分間入れ、数秒〜10分の期間、Kodak BIOMAX MR写真フィルムと接触させる。次いで、フィルムを現像して固定する。結果の直線性を確かめるために、複数の露光について調べる。結果を図4Aに示す。
【0034】
図4Aの凡例:
FG = 105個の未標識FGの培養;
FG* = 105個の標識FGの培養;
SMC = 105個のSMCの培養;
SMC/FG* = 105個の標識FG及び105個のSMCの共培養。
【0035】
フィルムのイメージは、ビデオカメラを介してコンピュータに伝送される。ソフトウェア(Imagenia 3000, ステーションBIOCOM 200)は、まず、メンブレン上に生じたスポットの濃度、次に、それらの表面積を、輪郭を明確にすることにより半自動的に評価する。結果を図4Bに示す。
図4Bの凡例:
X軸
FG = 105個の未標識FGの培養;
FG* = 105個の標識FGの培養;
SMC = 105個のSMCの培養;
SMC/FG* = 105個の標識FG及び105個のSMCの共培養。
Y軸 = TIMP-1の分泌(pg/ml/105細胞)
*** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.001
【0036】
結果は、FG単独又はSMC単独の培養におけるTIMP-1分泌に比べて、FGとSMCの共培養におけるTIMP-1分泌の大きな増加を示す。同じ結果が、D3、D7、D14及びD21で観察される。
【0037】
RT PCR によるTIMP-1転写の評価
TIMP-1 mRNA抽出及びRT PCRを、MMP9について上述したようにして、TIMP-1特異的プライマーを用いて行う。結果を図5に示す。
M: DNA分子量マーカー;
A: 未標識のFGの培養(1μg RNA);
B: 標識FGの培養(1μg RNA);
C: SMCの培養(1μg RNA);
D: SMCとFGの共培養(1μg RNA);
E: SMCとFGの共培養(2μg RNA)。
【0038】
結果は、SMCとFGの共培養におけるTIMP-1転写の増加を示し(図5、D及びE)、これはTIMP-1分泌の増加と相関する(図4)。
【0039】
ELISAアッセイによるMMP9/TIMP-1複合体の産生の評価
DuoSet (登録商標) ELISA Developmentキット(R&D Systems, ref. DY1449)を製造業者の使用説明に従って用いるELISAアッセイ(MMP9/TIMP-1複合体に特異的な抗体)により、D3、D7、D14及びD21 (培養日数)でのMMP9/TIMP-1複合体の産生を介して細胞相互作用を研究する。結果を図6に示す。
図6の凡例:
X軸
FG = 105個の未標識FGの培養;
FG* = 105個の標識FGの培養;
SMC = 105個のSMCの培養;
SMC/FG* = 105個の標識FG及び105個のSMCの共培養。
Y軸 = MMP9/TIMP-1の分泌(pg/ml/105細胞)
** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.01
*** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.001。
【0040】
結果は、ELISAによりアッセイされたMMP9/TIMP-1複合体の量が、SMCとFGの共培養(SMC/FG*)において増加する(×4)ことを示す。同じ結果が、D3、D7、D14及びD21で得られる。
これらの全ての結果から、FGと共培養されたSMCによるMMP9活性の減少は、該MMP9の合成が減少したことによるのではなく、その阻害剤であるTIMP-1の合成の増加、それにより不活性なMMP9/TIMP-1複合体の増加によることが明らかである。
【0041】
TGFβ分泌に対するFG/SMC共培養の影響
細胞相互作用を、サイトカインTGFβのD3、D7、D14及びD21/D28 (培養日数)での発現により研究する。
【0042】
ELISAアッセイによるTGFβ産生の評価
TGFβ産生を、DuoSet (登録商標) ELISA Developmentキット(R&D Systems, ref. DY240)を製造業者の使用説明に従って用いるELISAにより評価した。D3、D7、D14及びD21でのELISAアッセイの結果を、図7に示す。
図7の凡例:
X軸
FG = 105個の未標識FGの培養;
FG* = 105個の標識FGの培養;
SMC = 105個のSMCの培養;
SMC/FG* = 105個の標識FG及び105個のSMCの共培養。
Y軸 = TGFβの分泌(pg/ml/105細胞)
** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.01
*** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.001。
【0043】
ドットブロットによるTGFβ産生の評価
TGFβ産生を、ドットブロットにより、マウス抗TGFβ1モノクローナル抗体(R&D Systems, ref. MAB 240)を用いて、TIMP-1の場合に上述したプロトコルを用いて評価した。D3、D7、D14及びD28でのドットブロットにより得られた結果を図8に示す。
図8の凡例:
FG = 105個の未標識FGの培養;
FG* = 105個の標識FGの培養;
SMC = 105個のSMCの培養;
SMC/FG* = 105個の標識FG及び105個のSMCの共培養。
結果は、共培養におけるFG及びSMC細胞によるTGFβ分泌の増強を示す。
【0044】
実施例2:SMCのMMP2又はMMP9活性への皮膚又は外膜の繊維芽細胞の影響と歯肉繊維芽細胞の影響との比較
皮膚繊維芽細胞(FD)又は外膜繊維芽細胞(FAs)と平滑筋細胞(SMC)との共培養を、コラーゲンゲル中で、歯肉繊維芽細胞について上記の実施例1で説明したものと同じプロトコルを用いて行う。
細胞は、皮膚繊維芽細胞については皮膚サンプルから、外膜繊維芽細胞については外膜サンプルから、及び平滑筋細胞については動脈中膜サンプルから得る。
【0045】
皮膚又は外膜の繊維芽細胞の培養、及び平滑筋細胞の培養は、同じ条件下でコントロールとして別々に行う。
細胞相互作用を、D7及びD14に、上記の実施例1で説明したようにザイモグラフィにより培養培地に分泌されたMMP2及びMMP9の活性を決定することにより調べる。並行して、20μlの組換えMMP9 (R&D Systems, ref. 911 MP)を、分析されるMMPの種類を確かめるために、同じ電気泳動に付す。結果を図9に示す。
A: 20μlコントロール(100μg/ml)の組換えMMP9;
B: コラーゲンゲル中で培養した600個のFGについてのMMP2活性;
C: コラーゲンゲル中で培養した600個のFDについてのMMP2活性;
D: コラーゲンゲル中で培養した600個のFAについてのMMP2活性;
E: コラーゲンゲル中で培養した600個のSMCについてのMMP2及びMMP9活性;
F: コラーゲンゲル中で共培養した600個のSMCと600個のFGについてのMMP2及びMMP9活性;
G: コラーゲンゲル中で共培養した600個のSMCと600個のFDについてのMMP2及びMMP9活性;
H: コラーゲンゲル中で共培養した600個のSMCと600個のFAについてのMMP2及びMMP9活性。
【0046】
結果は、歯肉繊維芽細胞(B)と同様に、そしてSMC (E)とは異なって、培養の皮膚及び外膜の繊維芽細胞は、MMP9を発現しない(C及びD)。一方、皮膚及び外膜の繊維芽細胞は、共培養においてSMCにより分泌されたMMP9の活性に影響せず(G及びH)、この活性を阻害した歯肉繊維芽細胞とは異なる(F)。同じ結果が、D7及びD14で観察される。MMP2に関して、この酵素の遊離の形の活性の大きな変化は観察されない。皮膚又は外膜の繊維芽細胞と同様に、歯肉繊維芽細胞がSMCとの共培養においてMMP2の分泌を変更するとはみられない。
【0047】
実施例3:損傷動脈の器官培養型培養
コラーゲンゲル中の損傷を受けた動脈の三次元培養を、時間経過に伴う動脈リモデリングを分析するためのモデルを提供するために開発した。
【0048】
培養物の取得
5匹のニュージーランドホワイト種のウサギに、LAFONTら(Circ. Res. 76(6): 996〜1002, 1995; Circulation 100(10): 1109〜1115, 1999)により記載されるようにして、空気乾燥(air desiccation)と高コレステロール食餌の組み合わせにより、アテローム性動脈硬化損傷を誘導する。4週間後に、アテローム性動脈硬化損傷の存在を、2本の大腿動脈内部の動脈造影により確かめる。次いで医原性損傷を、血管形成バルーンカテーテルを用いて(6 atm、60秒間での3回の吹送)、左大腿動脈に発生させる。
【0049】
血管形成術の24時間後に、フェノバルビタールの心臓内注射によりウサギを犠牲にする。切開の後に動脈を回収し、20% FCS含有DMEM中に4℃にて、3〜10時間貯蔵してから培養に付す。このようにして、5つの進行性アテローム性動脈硬化動脈(AAP)と5つの血管形成後24時間のアテローム性動脈硬化動脈(AAA)とを回収する。
【0050】
動脈を、ハンクス溶液でリンスし、外膜を残し、周囲組織を除去するように切開する。最後に、各動脈を、5〜7 mmの4つのセグメントに分ける。
各セグメントを、6 mlの培養培地(DMEM/20% FCS、通常の抗生物質及び抗真菌剤)、3.4 mlのラットI型コラーゲン(Jacques Boy Institut, REIMS, France)及び600μlのろ過済み0.1N NaOHを含む10 mlのエルレンマイヤーフラスコに入れ、溶液とともにホモジナイズする。最後に、混合物全体を、37℃/5% CO2のインキュベータ中の培養皿に移す。毎週、蒸発の埋め合わせのために培養培地1 mlを上清に加える。
【0051】
D3、D7、D14又はD28 (培養日数)において、動脈及びそれらのコラーゲンネットワークを回収し、1×PBSでリンスし、PBS/4%パラホルムアルデヒド溶液中に48時間固定する。次いで、これらを70°、95°、次いで100°のアルコール、最後にトルエン中で脱水してからパラフィンに包埋する。パラフィンブロックを、切片を切断するために準備する。
5つの系列の動脈の培養上清を、-80℃で貯蔵する。
【0052】
培養物の形態測定学的評価
厚さ7μmの切片をミクロトームで切断し、3つの異なる特定のプロトコルを用いて染色する。
ヘマラン(Hemalaun)-エオシンプロトコル:再水和の後に、切片をヘマランで5分間被覆し、その後、水道水、次いでエオシンで1分間分染する。顕微鏡調製物を最後に蒸留水でリンスし、脱水して最後に集合させる。
【0053】
シリウスレッドプロトコル:再水和の後に、切片をシリウスレッドで30分間被覆する。顕微鏡調製物を蒸留水で最後にリンスし、その後、脱水して最後に集合させる。
カテキン(+)-フクシンプロトコル:部分的再水和(95°アルコールで止める)の後に、切片を暗所にて2.5時間、染色溶液に浸漬する。95°アルコール(2滴の塩酸を含む)で迅速にリンスした後に、脱水して最後に集合させる。
【0054】
細胞計数
ヘマラン-エオシン染色切片を、コンピュータ(BIOCOM 200ステーション)に連結した顕微鏡で観察する。細胞の半自動計数は、核を区別することにより可能になる。結果は、単位表面積当たりの細胞数として与えられる。
内膜(AAP)及び新内膜(AAA)の増殖のうち、単位表面積当たりの細胞数は、時間の経過につれて著しく減少する。この減少は、D3とD7の間で非常に有意であり(p<0.001)、D7とD14の間で有意であり(p<0.01)、D14とD28の間で比較的有意である(p<0.05)。
【0055】
中膜内では、AAP及びAAAの場合のいずれも、平滑筋細胞数は比較的安定である。
コラーゲンネットワーク内では、単位表面積当たりの細胞数は増加する。この増加は、D3とD7の間で非常に有意であり(p<0.001)、D7とD14の間で有意である(p<0.01)。この増加は、D14とD28の間ではもはや有意ではない。閾値効果(threshold effect)がD28で干渉していると考えられる。
【0056】
動脈の形態
同じイメージデジタル化プロセスを用いて、中膜の厚さの測定及び内膜増殖(AAP)及び新内膜増殖(AAA)の厚さの測定を行う。これらの測定は、培養での動脈の内部の6つの異なる領域において、10〜12回行う。
これらの測定は、時間の経過に伴ういずれの著しい変化も示さない。
【0057】
細胞外マトリックス成分の定量
コラーゲンネットワーク成分
イメージデジタル化の後に、ソフトウェアは、コラーゲン成分の相対表面積を評価できる(シリウスレッドで染色された切片について、繊維状コラーゲンを明らかにするために偏光の下で観察された)。
コラーゲンネットワーク成分は、内膜増殖(AAP)及び新内膜増殖(AAA)において評価される。これらの2つの場合において、コラーゲンネットワークの密度の増加が、時間経過に伴って観察される。さらに、測定が偏光の下で観察される切片について行われるので、観察された増加は、コラーゲンネットワークの繊維状成分に関する。
【0058】
弾性ネットワーク成分
イメージデジタル化の後に、ソフトウェアは、弾性ネットワークの相対表面積を評価できる(カテキン(+)-フクシンで染色された切片について)。
中膜内の弾性ネットワーク成分の相対表面積は、時間経過に伴って減少を示す。AAPの場合、減少は、D3とD14の間で有意であり(p<0.01)、D14とD28の間で非常に有意である。AAAの場合、減少は、D14とD28の間でのみ有意である(p<0.06)。しかし、初期のAAP (D3にて)は、AAAよりも著しい弾性成分を有する。しかし、D28において、弾性ネットワーク成分は、これらの2つの系列の動脈の間で実質的に等しい。
【0059】
最後に、内膜及び新内膜の増殖において、弾性ネットワーク成分の増加は、時間の経過に伴って観察される。この増加は、AAPについてD7とD28の間で、及びAAAについてD14とD28の間で非常に有意である(p<0.001)。
【0060】
弾性繊維断片化
ヘマラン−エオシンで染色された切片を、UV下で電子顕微鏡により観察する。切片の写真を撮影し、写真をコンピュータにより調べた後に、2つの断片化ポイント間の弾性繊維の長さを測定する。この長さは、断片化の状態を反映する。繊維の長さが短いほど、断片化がより著しい。
【0061】
AAPにおいて、弾性膜は、D3にて良好に組織化され、互いに平行でありかつ同心性である。よって、繊維断片化は非常に穏やかである。しかし、時間の経過とともに弾性繊維の長さは減少する。この減少は、D3とD7の間、及びD14とD28の間で非常に有意である(p<0.001)。このことは、弾性繊維の進行性の断片化を反映し、弾性繊維はD28では組織化されておらず、断片化されているように観察される。
AAAにおいて、培養第1日から、弾性膜は組織化されておらず、断片化されている。D3におけるこの断片化は、AAPについてD28に観察されたものと類似している。しかし、この断片化現象は、時間の経過とともに、AAPの場合と同様に著しく進行し続ける。このモデルにおいて、UV顕微鏡の結果は、損傷を受けた動脈の弾性繊維の長さがD3の466μmからD28の87μmに減少することを示す。
【0062】
全ての形態測定学的分析は、培養における動脈組織の粘着性(coherence)は、実験期間の最後まで維持されることを示す。さらに、インビトロで観察される動的細胞マトリックスリモデリング現象は、激しい(AAA)又は緩慢な(AAP)炎症の状態の両方においてインビボで確立されたデータに対応する。よって、コラーゲンゲル中の損傷動脈の器官培養型培養は、正当なエクスビボ動脈瘤モデルを構成することが明らかである。
【0063】
実施例4:損傷を受けた動脈の器官培養型培養による動脈リモデリングの鍵となる酵素の分泌の評価
MMP-1、-2及び-3、並びにTIMP-1及び-2の分泌
AAA及びAAP動脈の器官培養型培養の培地中に分泌されたMMP1、MMP2、MMP3、TIMP-1及びTIMP-2の発現を、上記の実施例1に記載されたようにして、これらのMMP及びTIMPに指向されたヒト抗体(Valbiotech)を用いて、ドットブロットにより分析する。コントロールとして、これらのMMP及びTIMPの存在を、培養血清(FCS)においても調べる。結果を図10に示す。
A:MMP1発現
B:MMP3発現
C:MMP2発現
D:TIMP-1発現
E:TIMP-2発現。
【0064】
D3とD28の間の結果は、次のことを示す。
- AAA培養物における濃度がAAP培養物のものよりも著しく高い、MMP-1 (A)及びMMP-3 (B)の発現の著しい増加。培養血清中にはMMP1及びMMP3のいずれも存在しない;
- MMP2発現の第1週(D7)の間の増加(C)、及び第2週(D14)の間の減少、次いでD28でその最大に到達する新たな増加。MMP2は、血管形成(AAA)の後においてAAP培養物よりもかなり多く発現されたままであるが、同じ現象が2種の動脈培養において観察される。さらに、MMP2濃度は、培養上清におけるよりも血清中で著しく低い;
【0065】
- 2つの系列の動脈培養間の著しい差異がない、最初の2週間のTIMP-1 (D)の発現の段階的な増加。一方、次の2週間の間に、AAA培養物はTIMP-1のピークを示すが、AAP培養物においてこの酵素の発現は停滞する。TIMP-1は培養血清中に存在しない;
- 最初の1週間のTIMP-2 (E)の発現の増加、その後、AAP培養物におけるよりもかなり低いレベルでの停滞。血管形成後では、TIMP-2発現のピークが第1週に観察され、その後、非常に高い濃度で停滞する。さらに、TIMP-2は、AAP培養物におけるよりも血管形成後により高く発現されたままである。TIMP-2は、培養血清中に存在しない。
【0066】
MMP9の産生
AAA 及びAAP動脈の器官培養型培養の培地中に分泌されるMMP2及びMMP9の発現を分析する。
【0067】
ゼラチンザイモグラフィによるMMP9の活性の評価
70μlの動脈(AAP及びAAA)器官培養型培養上清を、50%グリセロール及び0.4%ブロモフェノールブルーを含有する1M Tris、pH 6.8中で3/5に希釈し、1 mg/mlのブタ皮膚ゼラチン(Sigma, ref. G2500)を含有するSDS 10%ポリアクリルアミドゲル中で、Laemmliバッファー中で4℃にて、濃縮ゲルで80ボルト及び分離ゲルで180ボルトの電気泳動に付す。移動の後に、ゲルを2.5% Triton X-100中で洗浄し(周囲温度にて30分間、2回)、次いで生理食塩緩衝溶液中で37℃にて48時間インキュベーションする。次いで、ゲルを0.25%クーマシーブルー(Biorad, ref. R250)で染色し、脱染する。酵素活性のあるバンドが、図11に示すように半透明となって現れる。
【0068】
コンピュータ化された形態測定分析により、ザイモグラフィにより明らかにされるゼラチン溶解活性を定量することが可能になる。ゲルのイメージは、ビデオカメラを用いてコンピュータに伝送される。ソフトウェア(Imagenia 3000, BIOCOM 200ステーション)は、酵素のバンドの強度をグレーレベルに変換する。バンドの強度が強いほど、グレーのレベルが高い。溶解がないことはグレーレベル0に相当し、最大の溶解はグレーレベル255に相当する。バンドの表面積は、輪郭を明確にすることにより半自動的に測定される。任意単位Uでの定量は、バンドの表面積Sにグレーレベルを掛けることにより得られる。
この結果は、D3とD28の間のMMP2及びMMP9の酵素活性の段階的及び著しい増加を示し、これは、AAP培養物におけるよりも血管形成後(AAA)により著しいことが明らかである。
【0069】
ドットブロットによるMMP9発現の評価
ドットブロットは、上記の実施例1に記載したようにして、MMP9に指向されたヒト抗体(Valbiotech)を用いて行う。コントロールとして、MMPの存在を培養血清(FCS)中でも調べる。結果を図12に示す。
結果は、AAP培養物及びAAA培養物の両方の場合に、D3とD28の間でMMP9が非常に著しく増加することを示す(1〜4の比で)。さらに、D14から、AAA培養物によるMMP9発現は、AAP培養物のものよりも著しく多い。培養血清は少量のMMP9を含有するが、この量は、動脈器官培養型培養の上清中で測定された濃度よりも著しく低いままである。
【0070】
サイトカイン分泌
サイトカインIL-1β、IL-4、IL-6及びTGFβを、動脈培養の上清において、D3、D7、D14及びD28に、上記の実施例1に記載されるようにしてELISAにより、Quantikine (登録商標) (R&D Systems, ref. DLB50)キット及びDuoSet (登録商標) ELISA Development (R&D Systems, ref. DY204, ref. DY206 and DY240)キットをそれぞれ用いて定量する。得られた平均値をヒストグラムの形に変換し、統計的に分析する。結果を図13に示す。
X軸
A: IL-1βの定量;
B: IL-6の定量;
C: IL-4の定量;
D: TGFβの定量;
Y軸 = 24時間当たりに分泌されるサイトカインのpg/ml
□ = AAP動脈の培養
■ = AAA動脈の培養(= 血管形成後)
* = フィッシャースチューデントのT検定p<0.05
** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.02
*** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.01
**** = フィッシャースチューデントのT検定p<0.001。
【0071】
結果は、次のことを示す。
- D7でのIL-1βの分泌のピーク、その後の突然の減少(A)。この現象は、AAP培養物におけるよりも、血管形成後に4倍大きい;
- IL-1βのものに比較してより遅い(B)が、AAP/AAA比はIL-1βのものに非常に類似するIL-6分泌のピーク。IL-1βとIL-6の間の機能的協調が、それらの分泌プロフィールの関係により再び確認される;
- D3での同じ値から始まってのAAP培養における(レベル:3)IL-4レベルの著しい減少(C)、及び血管形成後のIL-4レベルにおける割合的に同じ増加(レベル×3);
- AAP培養物における(レベル:2)TGFβ分泌の非常に著しい増加(D)、しかし血管形成後の非常に本質的な増加(D3及びD14の間で係数20)。
【0072】
MMP9及びMMP3の間接的免疫検出
D3及びD28でのAAA及びAAP培養の厚さ7μmの切片を再水和し(2回のトルエン浴、次いで100°及び95°のアルコール溶液)、次いで、酢酸中で希釈した(1/10) 0.2%ペプシン(Sigma)を用いて2分間処理する。顕微鏡用調製物を0.1M PBS、pH 7.2中に10分間、次いでPBS-1%グリシン中に30分間リンスする。2回のリンスを1×PBS中で行う。
次いで、切片を、ブロッキング溶液(1% BSA、PBS 0.05% Tween及び10%ウマ血清)で30分間、37℃にて被覆する。
ブロッキング溶液を除去し、1% BSA及びPBS-0.05% Tweenを含有する溶液で希釈した一次抗体:1/50の抗MMP3又は抗MMP9 [Oncogene (Merk Eurolab)]で置き換える。切片を、一次抗体で一晩、周囲温度にて被覆する。
【0073】
顕微鏡調製物を、1×PBS中で3×10分間リンスする。次いで、切片をビオチン化特異的二次抗体で90分間被覆する(Vector Vectastain (登録商標)キット(ABCキット) Biovalley, Elite PK 6102)。顕微鏡調製物を、1×PBS中で3回リンスする。
【0074】
内因性ペルオキシダーゼは、切片に過酸化水素を37℃にて20分間加えることによりブロックする。顕微鏡調製物は、1×PBSで2回及びPBS-3% NaClで1回リンスする。アビジン-ビオチン複合体を調製し、切片上に周囲温度にて45分間堆積させる。顕微鏡調製物をPBS-3% NaClで2回、次いで0.1M Tris-HCl、pH 7.6でリンスする。
最後の現像は、各切片に対してDAB (ジアミノベンジジン)を用いて行う。
【0075】
ヘマランを用いる対比染色は、ペルオキシダーゼ免疫標識と細胞体の間のコントラストを改善するために行う。
切片を、2回の連続するアルコール浴(95°及び100°)、続いて2回のトルエン浴を用いて最終的に脱水する。顕微鏡調製物は、DEPEX (GURR (登録商標))を用いて標本にする。
【0076】
AAP培養において、MMP3及びMMP9は、D3に中膜で拡散しており、その後、D14に内弾性膜(internal elastic lamina)に沿って濃縮され、そして内膜に侵入するとみられる。D3において、MMP3標識はMMP9標識よりもかなり濃い。しかし、反対の現象が徐々に発生し、D28には、MMP9標識は中膜及び特に内膜において非常に濃いが、MMP3については穏やかなままである。
【0077】
AAA培養において、MMP9分散は、D3に内弾性膜に沿って濃く、その後、新内膜の中間領域に移動し、最後に中膜全体に拡散するとみられる。MMP3の分布は、明らかにより穏やかな動態を示す。D3において、その存在は中膜でまだ拡散しており、D7にてやっとMMP3の分散が内弾性膜に沿って集積し、その後、D14にて新内膜の中間領域に移動し、D28にて新内膜全体に広がる。しかし、MMP3標識は、MMP9のものよりも常に強度が小さいままである。
【0078】
D3〜D28の間の動脈培養の顕微鏡調製物に対する免疫組織化学のこれらの結果により、弾性繊維断片化の増加とMMP9分泌の増加との関係を確認することが可能になる。
【0079】
実施例5:MMP9及びTIMP-1の産生並びに弾性ネットワークに対する動脈と歯肉繊維芽細胞との共培養の影響
動脈と歯肉繊維芽細胞との共培養の取得
上記の実施例3に記載されるようにして得られたウサギからの損傷動脈の切片(アテローム動脈硬化性ウサギAAP)を、歯肉繊維芽細胞の存在下で、次の条件下で培養する:動脈/FG共培養のために犠牲にする1ヶ月前にウサギから採取した100000の自己歯肉繊維芽細胞に、コラーゲンゲルを混合してポリマー化し、2 mm (約3 mg)の動脈断片をゲルの中間部に堆積させる。培養方法は、上記の実施例1及び3に記載されたものである。
【0080】
MMP9及びTIMP-1の発現に対するFG/動脈相互作用の影響
D3とD21 (培養日数)の間の細胞相互作用を、動脈及びFGの共培養培地中に分泌されるMMP9及びTIMP-1の発現を介して調べる。コントロールとして、これらの酵素の発現を、上記の実施例1及び3にそれぞれ記載されるものと同じ条件下で行われるFG単独の培養、及び動脈器官培養型培養中でも分析する。
【0081】
ザイモグラフィによるMMP2及びMMP9活性の評価
D14及びD21において、動脈とFGとの共培養からの上清中に分泌されたMMP2及びMMP9の発現を、ゼラチンザイモグラフィにより分析する。結果を図14に示す。
T: 組換えMMP9 (R&D Systems, ref. 911 MP)及び組換えMMP2 (R&D Systems, ref. 902 MP)の10μlのスタンダード(100μg/ml);
A: コラーゲンゲル中の100000個のFGの細胞培養;
B: コラーゲンゲル中の動脈の培養;
C: コラーゲンゲル中の動脈と100000個のFGとの共培養。
【0082】
結果は、培養の歯肉繊維芽細胞は、動脈の器官培養型培養(B及びE)とは異なって、MMP9を発現しない(A及びD)ことを示す。一方、歯肉繊維芽細胞は、共培養中の動脈によるMMP9の分泌を阻害する(C及びF)。同じ結果が、D14及びD21で観察される。MMP2について、この酵素の遊離の形の活性の著しい変化は観察されない。歯肉繊維芽細胞は、動脈との共培養においてMMP2の分泌を変化させないとみられる。
【0083】
ドットブロットによるMMP9及びTIMP-1の発現の評価
D3とD21の間の動脈と歯肉繊維芽細胞との共培養からの上清のドットブロット分析を、上記の実施例1に記載されるようにして、抗MMP9抗体及び抗TIMP-1抗体を用いて行う。MMP9分泌及びTIMP-1分泌の結果は、それぞれ図15 (A = ドットブロット、B = ドットブロットの定量)及び16 (A = ドットブロット、B = ドットブロットの定量)に示す。
X軸
T = コントロール(10 pgの組換えMMP9, R&D Systems, ref. 911 MP);
FG = コラーゲンゲル中での100000個の歯肉繊維芽細胞の培養;
A = コラーゲンゲル中の動脈の器官培養型培養;
A/FG = コラーゲンゲル中の動脈と100000個の歯肉繊維芽細胞の共培養。
Y軸 = MMP9の分泌(pgで)。
【0084】
結果は、歯肉繊維芽細胞が、MMP9の分泌を、動脈とFGとの共培養中でD3とD21との間に阻害することを示す(図15)。これと並行して、別々のFG培養及びA培養において検出されたものに比べて、TIMP-1分泌の大きな増加がA/FG共培養において観察される(図16)。同じ結果が、D3、D7、D14及びD21にて得られる。
【0085】
RT PCRによるMMP9及びTIMP-1の転写の評価
D14の動脈と歯肉繊維芽細胞との共培養からのMMP9 mRNA及びTIMP-1 mRNAの抽出、並びにRT PCR分析を、上記の実施例1に記載されるようにして、MMP9に特異的なプライマー及びTIMP-1に特異的なプライマーを用いて行う。MMP9及びTIMP-1転写分析の結果を、それぞれ図17及び18に示す。
S: DNA分子量スタンダード(Multiplex PCRキット, BioSource International);
G: コラーゲンゲルのみ;
FG: FG細胞培養(1μg RNA);
A: 動脈の器官培養型培養(1μg RNA);
A/FG: 動脈とFGとの共培養(1μg RNA)。
【0086】
結果は、動脈の培養及び動脈とFGとの共培養においてMMP9の転写の変化がないことを示す(図17)。一方、FG又は動脈の培養において観察されるものに比較して、TIMP-1転写の増加が、動脈とFGとの共培養において観察され(図18)、これはTIMP-1分泌の増加と関連する(図16)。
【0087】
MMP9/TIMP-1複合体の定量
D14での動脈と歯肉繊維芽細胞との共培養におけるMMP9/TIMP-1複合体の発現の定量を、ELISAアッセイにより、上記の実施例1に記載されるようにして行う。結果を図19に示す。
X軸
T = コントロール(コラーゲンゲルのみ)
FG = コラーゲンゲル中の100000個の歯肉繊維芽細胞の培養
A = コラーゲンゲル中の動脈の器官培養型培養
A/FG = 動脈と歯肉繊維芽細胞との共培養
Y軸 = MMP9/TIMP-1複合体の分泌(pg/ml)。
【0088】
結果は、動脈とFGとの共培養中で、MMP9/TIMP-1複合体の量が増加することを示す(×1.8)。
【0089】
全ての生化学的結果は、動脈との共培養における歯肉繊維芽細胞が、培養時間に関係なく(D3からD21まで)、酵素合成を減少させることによるのではなく、TIMP-1の合成及び不活性MMP9/TIMP-1複合体の形成の増加を誘導することにより、動脈SMCにより分泌されるMMP9の活性を阻害することを示す。これらのエクスビボの結果は、よって、インビトロで観察された結果を確実にする(上記の実施例1)。
【0090】
弾性ネットワークの分析
歯肉繊維芽細胞と3、7及び14日間共培養した損傷動脈に由来する7μmの切片を、オルセイン染色の後に顕微鏡(×40)で観察する。コントロールとして、上記の実施例3に記載のようにして単独で培養した動脈の切片を、同じ条件下で分析する。結果を図20に示す。
D3において
A: 単独で培養した動脈
B: 歯肉繊維芽細胞と共培養した動脈
D7において
C: 単独で培養した動脈
D: 歯肉繊維芽細胞と共培養した動脈
D21において
E: 単独で培養した動脈
F: 歯肉繊維芽細胞と共培養した動脈。
【0091】
単独で培養した動脈において、時間の経過に伴って、弾性繊維の短縮及び段階的な消滅が観察される(A、C及びE)が、FGと共培養したものにおいて、弾性ネットワークは密なままである(B、D及びF)。よって、これらの結果は、動脈が歯肉繊維芽細胞の存在下で培養される場合に、時間の経過に伴う弾性ネットワークの保護が存在することを示す。
【0092】
この研究から、中膜の弾性ネットワークの完全性の保存は、TIMP-1の増加の後のMMP9活性の減少に関連することがわかる。よって、歯肉繊維芽細胞は、歯肉において天然に発現されるその修復能力を動脈において再生することにより、血管リモデリングを変化させ得る細胞であることが明らかである。
【0093】
実施例6:ウサギ動脈へのヒト歯肉繊維芽細胞のインビボでの移植
この研究の目的は、注射の実現可能性、及びパール染色により証明された繊維芽細胞のナノ粒子での標識の妥当性を決定することである。ウサギに注射されたヒト細胞は、パール染色された細胞が実際に注射された繊維芽細胞であるかをHLA免疫検出により視覚化することを可能にする。これは、ナノ粒子が死滅(dead) FGから逃れて中膜のSMCを標識できるからである。
ヒト歯肉繊維芽細胞の移植を、2つの異なるモデル:正常動脈モデル及び動脈瘤モデル(エラスターゼモデル)で、ウサギの動脈内にインビボで行う。
【0094】
ヒト歯肉繊維芽細胞は、上記の実施例1に記載のようにして強磁性体のナノ粒子で単層培養において標識し、次いでトリプシン処理する。
移植手順は、上記の実施例6に記載のものと同じである。結果を図21に示す。
A: 正常動脈モデル(×10及び×40)
B: 動脈瘤モデル(×5)。
【0095】
結果は、抗ヒトHLA標識とパール染色との重ね合わせ(superposition)が存在することを示し(図21A)、このことはこの注射法の妥当性を確実にする。細胞は、正常な形態を有し、動脈へのINFILTRATORの浸透部位が観察できる(図21A、×40の矢印を参照)。図21Bは、動脈瘤の動脈への繊維芽細胞の注射を示す。
【0096】
実施例7:ウサギ動脈への自己歯肉繊維芽細胞のインビボ移植
歯肉繊維芽細胞を、実施例1に記載のようにして強磁性体のナノ粒子で単層培養において標識し、次いでトリプシン処理する。
これらを、種々の量で(105〜5×106細胞)ウサギの腸骨動脈内にINFILTRATORカテーテル(Boston Scientific)を用いて注射する(TEIGERら, Eur. Heart J. 18: abstract suppl. 500, 1997)。注射の24時間後にウサギを犠牲にし、注射の部位を視覚化する。結果を図22に示す。
【0097】
高倍率において(×100)、パール染色により、6μmの組織学的切片においてナノ粒子を見ることが可能になる。注射された繊維芽細胞は中膜に位置し、正常な形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図3】

【図5】

【図17】

【図18】

【図19】

【図21】

【図1】

【図2】

【図4】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図20】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈リモデリング病変の治療用の細胞組成物を得るための歯肉繊維芽細胞の使用。
【請求項2】
前記病変が動脈瘤であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記病変が血管形成術後狭窄又は再狭窄であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記病変が大動脈切開であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記病変がアテローム性動脈硬化症であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記繊維芽細胞が、治療を意図する個体から予め採取された歯肉組織に由来することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の使用。

【公表番号】特表2008−505164(P2008−505164A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519832(P2007−519832)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001690
【国際公開番号】WO2006/013261
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(500283125)ユニヴェルシテ ルネ デカルト−パリ ヴェ (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE RENE DESCARTES − PARIS V
【住所又は居所原語表記】12,rue de l’Ecole de Medecine,F−75006 Paris FRANCE
【Fターム(参考)】