説明

血管統合性を促進するマイクロ−RNAおよびその使用

本発明は、内皮細胞における血管統合性の調節因子である、miR-126と命名されたマイクロRNAの同定に関する。この内皮細胞に限局的なマイクロRNAは、インビボで発生時血管新生を媒介し、マウスにおけるmiR-126の標的化欠失は、血管統合性の喪失ならびに内皮細胞の増殖、遊走および血管新生の欠陥のために、漏出性血管、出血および部分胎生致死を引き起こす。これらの血管異常は、VEGFおよびFGFなどの血管新生増殖因子によるシグナル伝達の低下の帰結と類似している。これらの知見は、異常な血管新生および血管漏出がかかわる種々の障害に対して重要な治療的意味を持つ。miR-126機能をモジュレートすることによって、虚血、血管障害および病的新生血管形成を特徴とする疾病状態を治療する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本出願は、2008年8月11日に提出された米国特許仮出願第61/087,886号に対する優先権を主張し、その全開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)による援助助成金第HL53351-06号の下で行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
1.発明の分野
本発明は一般に、循環器学、病理学および分子生物学の分野に関する。より詳細には、これはmiR-126による、内皮細胞および筋細胞における遺伝子調節および細胞生理に関する。このmiRNAは、血管統合性(vascular integrity)の維持および血管修復の促進において重要な役割を果たし、このためそれを疾患の治療においてモジュレーターの標的として用いることができる。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術の説明
内皮細胞(EC)は血管構造の内面に層状に並んでおり、血管の発生、機能および疾患において極めて重要な役割を果たす(Carmeliet, 2003)。血管発生(vasculogenesis)として知られる血管形成の間に、ECは増殖し、遊走し、会合して、平滑筋細胞の動員のためのスカフォールドとして働く原始的血管迷路(primitive vascular labyrinth)を形成する。血管新生(angiogenesis)を介したその後の血管発芽により、血管系のさらなる拡張および組織内血管形成(tissue vascularization)が可能になる。
【0005】
数々のペプチド増殖因子が、ECの遊走、増殖、生存および細胞間相互作用を強化することによって血管新生を促進する。最も強力な血管新生増殖因子であるVEGFおよびFGFは、胚発生および成体期の間を通じて血管新生のために必要とされる(Cross and Claesson-Welsh, 2001)。
これらの因子とそれらの細胞表面受容体との結合は、血管新生増殖および成熟を促進するMAPキナーゼ経路を活性化する。その反対に、MAPシグナル伝達の阻害は血管新生を減じさせ(Eliceiri et al., 1998;Giroux et al., 1999;Hood et al., 2002)、これは抗血管新生療法として進められている(Hood et al., 2002;Panka et al., 2006)。
【0006】
これらの進歩にもかかわらず、血管新生ならびに血管の統合性および修復に関係する細胞調節機構の理解は依然として不十分なままである。このため、これらの過程のより十分な理解は、例えば疾患の治療などにおいて、インビボでこれらの機能を調節しうる作用物質を同定するための取り組みにおいて大いに助けになると考えられる。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明によれば、血管統合性および/または内皮修復を促進する方法であって、血管障害のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象に対して、miR-126機能のアゴニストを投与する段階を含む方法が提供される。血管障害に罹患している対象は、梗塞、虚血-再灌流傷害または動脈狭窄を含むものを含む、虚血イベントのような心組織における血管障害に冒されていてよい。血管障害は心臓以外の組織に対してであってもよく、これには外傷または血管漏出が含まれうる。または、対象に血管障害のリスクがある場合、対象は高血圧、心肥大、骨粗鬆症、神経変性、線維症または呼吸窮迫に罹患していてよい。本方法はさらに、前記対象に二次療法を投与する段階を含みうる。
【0008】
対象は非ヒト動物またはヒトであってよい。アゴニストはmiR-126またはmiR-126の模倣物であってよい。アゴニストはまた、心臓細胞、平滑筋細胞、内皮細胞または造血細胞、骨髄細胞または心外膜細胞のような標的細胞において活性があるプロモーターの制御下にある、miR-126をコードする核酸セグメントを含む発現ベクターであってもよい。プロモーターは組織選択的/特異的プロモーターであってよく、組織選択的/特異的プロモーターは心臓細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、造血細胞、骨髄細胞または心外膜細胞において活性のあるものである。発現ベクターはウイルスベクターであっても非ウイルス性ベクターであってもよい。
【0009】
投与には、経口的、静脈内または動脈内経路などによる全身投与が含まれうる。投与はまた、浸透圧ポンプまたはカテーテルによってであってもよい。投与は、心組織、血管組織、骨組織、神経組織、呼吸器組織、眼組織または胎盤組織のような、血管障害を受けた組織または血管障害のリスクのある組織に対して直接的または局所的に行うことができる。アゴニストは患者、組織または部位と複数回、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または100回、接触させることができる。アゴニストは前記組織と2、3、4、5もしくは6日間、1、2、3もしくは4週間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくは11カ月間または1、2、3、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20もしくは25年間にわたって接触させることができる。
【0010】
もう1つの態様においては、病的血管形成を阻害する方法であって、病的血管形成のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象をmiR-126のアンタゴニストと接触させる段階を含む方法が提供される。病的血管形成に罹患している対象は、アテローム性動脈硬化、網膜症、癌または脳卒中に冒されていてよい。病的血管形成のリスクのある対象は、アテローム性動脈硬化、肥満、喘息、関節炎、乾癬および/または失明に罹患していてよい。対象は非ヒト動物またはヒトであってよい。アンタゴニストはmiR-126アンタゴミア(antagomir)であってもよい。標的組織は血管構造(vasculature)、平滑筋、眼組織、造血組織、骨髄、肺組織または心外膜組織であってよい。本方法はさらに、前記対象に二次的な抗血管新生療法を投与する段階を含みうる。
【0011】
投与には、経口的、静脈内または動脈内経路などによる全身投与が含まれうる。投与は、眼組織、血管組織、骨組織、脂肪組織または肺組織のような、病的血管形成、または病的血管形成のリスクのある組織に対して直接的または局所的に行うことができる。投与はまた、浸透圧ポンプまたはカテーテルによってであってもよい。アゴニストは患者、組織または部位と複数回、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または100回、接触させることができる。アゴニストは前記組織と2、3、4、5もしくは6日間、1、2、3もしくは4週間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくは11カ月間または1、2、3、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20もしくは25年間にわたって接触させることができる。
【0012】
「1つの(a)」または「1つの(an)」という語の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語とともに用いられる場合、「1つの(one)」を意味しうるが、これはまた、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」および「1つまたは1つを上回る」という意味とも矛盾しない。
本明細書中で考察した任意の態様を、本発明の任意の方法または組成物に関連して実施しうること、およびその反対も想定している。さらに、本発明の組成物およびキットを、本発明の方法を達成するために用いることもできる。
【0013】
本出願の全体を通じて、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために採用されたデバイスまたは方法に関する誤差の標準偏差を含むことを指し示すために用いられる。
【0014】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、いずれかの選択肢のみを指すこと、または選択肢が相互排他的であることが明示的に指し示されている場合を除き、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は、いずれかの選択肢のみ、ならびに「および/または」を指す定義も支持する。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において用いる場合、「含む(comprising)」(ならびに、含むの任意の形態、例えば「含む(comprise)」および「含む(comprises)」など)、「有する(having)」(ならびに、有するの任意の形態、例えば「有する(have)」および「有する(has)」など)、「含む(including)」(ならびに、含むの任意の形態、例えば「含む(includes)」および「含む(include)」など)、または「含む(containing)」(ならびに含むの任意の形態、例えば「含む(contains)」および「含む(contain)」など)は、包括的または非制限的(open-ended)であり、列挙されていない追加的な要素または方法段階を排除するものではない。
【0016】
本発明のその他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、当業者にはこの詳細な説明から本発明の趣旨および範囲に含まれるさまざまな変更および修正が明らかになるであろうから、詳細な説明および具体的な例は、本発明の具体的な態様を指し示してはいるものの、単に例証として提示されているに過ぎないことが理解される必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、より良く理解されるであろう。
(図1)miR-126の内皮細胞特異的発現および遺伝子構造
(図1A)ノーザンブロットによって検出した、種々の組織および細胞株におけるmiR-126の発現。U6または5S rRNAをローディング対照として用いている。矢印はpre-miR-126の位置を指し示し、矢尻印は成熟miR-126を指し示している。SMC、マウス平滑筋細胞株;HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)株;P19CL6、P19胚性癌細胞の派生物;C2C12:マウス筋芽細胞株;MS1、SV40ラージT抗原によって形質転換されたマウス初代膵島EC;HAEC、ヒト大動脈EC;SVEC、SV40により形質転換されたマウスEC株;EOMA、マウス血管内皮腫由来株。(図1B)(SEQ ID NO:1)マウスEgfl7遺伝子の構造。miR-126(miR-126-3p)およびmiR-126*(miR-126-5p)は、イントロン7によってコードされるステムループとして生成される。miR-126の進化的保存を示している(SEQ ID NO:2)。
(図2)Egfl7/miR-126の内皮特異的発現を導くシス調節配列
(図2A)Egfl7/miR-126遺伝子の上流にある5.4kbの50個の隣接DNAによって制御されるlacZ導入遺伝子を保有するE12.5トランスジェニックマウス胚。(a)ホールマウント胚、ならびに(b)軟骨外領域、(c)真皮、(d)脳および(e)流出路の矢状断面を示している、EC特異的なlacZ発現。スケールバー=50mm。
(図2B)E12.5時点のトランスジェニックマウスにおけるlacZの調節に関して検討した、Egfl7/miR-126遺伝子の上流のゲノム領域の概略図。lacZの内皮特異的発現を示したトランスジェニック胚の割合を示している。Egfl7/miR-126 50隣接領域の進化的保存を下に示している。保存されたETS結合部位は薄紅色および水色で強調している(SEQ ID NO:3〜8)
(図2C)調節領域1のゲノム断片(領域1-Luc)を、Ets1、またはDNA結合ドメインを欠くEts1突然変異体(Ets1mut)をコードする種々の量の発現プラスミドによる活性化に関してCOS-7細胞において検討した。欠失突然変異をETS結合部位に導入した(領域1(mut)-Luc)。Ets1は領域1-Lucを活性化したが領域1(mut)-Lucは活性化せず、一方、Ets1mutはいずれの構築物も活性化することができなかった。エラーバーは標準偏差を指し示している。
(図3)miR-126遺伝子のターゲティング
(図3A)相同組換えによってmiR-126突然変異マウスを作製するための戦略。miR-126を含む96bpのEgfl7イントロン7配列を、loxP部位によって挟まれたネオマイシン耐性カセット(Neo)によって置き換えた。マウス生殖系列におけるNeoを、ヘテロ接合性マウスをCAG-Creトランスジェニックマウスと交配することによって除去した。DTA、ジフテリア毒素A。
(図3B)ES細胞由来のゲノムDNAのサザンブロット分析。DNAをSca Iで消化した。50プローブまたは30プローブのいずれかを用いたところ、野生型および突然変異体(miR-126neoアレル)のサイズはそれぞれ11.4kbおよび13.4kbであった。遺伝子型を上に示している。
(図3C)RT-PCRによって検出した、miR-126neo/neoマウスまたはmiR126-/-マウスの心臓(左)または肺(右)におけるEgfl7転写物の分析。Egfl7遺伝子構造およびエクソン番号を下に示している。RT-PCRのために用いたプライマーは、エクソン番号に基づいて順(F)および逆(R)方向で命名した。遺伝子型は上に示している。GAPDHを対照として用いた。プライマー7Fおよび8R、6Fおよび9R、8Fおよび10Rを用いたRT-PCRによって示されているように、miR-126neo/neo突然変異体ではEgfl7発現が破壊されており、図示したプライマーを用いたRT-PCRによって示されているように、neoカセットを欠失させると正常化することに注目されたい。
(図3D)WTマウスおよびmiR-126 KOマウス由来の心臓抽出物のウエスタンブロットによるEGFL7およびGAPDHタンパク質の検出。
(図3E)心臓および肺のノーザン分析によるmiR-126転写物の検出。5S rRNAをローディング対照として用いている。
(図3F)miR-126+/-交雑雑種からの子孫の遺伝子型。図示したステージでの各遺伝子型に関するマウスの実際の数および期待数を示している。
(図3G)miR-126+/-交雑雑種からの胚の遺伝子型。各齢時点で分析したmiR-126-/-子孫の数を示している。重度の血管欠陥は、浮腫、出血、重度の発育遅延および致死と定義した。血管異常を示したのは野生型またはmiR-126+/-の胚または新生仔の1%未満であった。
(図4)miR-126ヌルマウスにおける血管異常
(図4A)E15.5時点の野生型(WT)およびmiR-126-/-(KO)胚。KO胚のあるサブセットは、矢印によって指し示されているように全身浮腫および出血を示す。
(図4B)E10.5時点のWTおよびmiR-126 KO胚の頭蓋領域の側面像。矢尻印によって示されている浅い頭蓋血管はWT胚では明らかに認められるが、突然変異体では著しく欠乏している。枠によって指し示した頭蓋領域内の血管の数を右側に示している(n=6)。
(図4C)PECAM染色によってP2で可視化した網膜の血管形成。網膜中心動脈の位置は白点線によって、突然変異体における網膜血管の末端は赤の矢印によって境界を示している。バー=200mm。相対的血管カバー率を右側に示している(n=3)。
(図4D)図示した遺伝子型のE15.5胚の真皮および肝臓ならびに新生仔の肺の矢状断面のH&E染色。上および中央のパネルにおけるスケールバーは200mmに等しく、下のパネルにおけるスケールバーは500mmに等しい。括弧記号は、KO胚における組織間隙中の赤血球および炎症性細胞による真皮の肥厚を指し示している。矢尻印は、WT肝臓と比較したKO肝臓における赤血球の欝滞を指し示している。矢印は肺を指しており、KOマウスではそこで肺胞が膨らむことができない。星印は、KO新生仔における胸腔内の浮腫を示している。
(図4E)E15.5時点のWT胚およびKO胚における毛細血管の電子顕微鏡観察。括弧記号は、KO胚における血管の崩壊を示している。緑の矢印はWT内皮細胞における密着結合を指している。赤の矢印は、KO胚における血管の外側で浮遊している赤血球を指しており、一方、矢尻印はKO胚の血管における内皮層の菲薄化を指し示している。EC、内皮細胞;rbc、赤血球。
(図4F)E15.5のKO胚における内皮細胞増殖。WT胚と比較してKO胚の方が、観察されたBrdU(赤)およびPECAM1(緑)二重陽性細胞は有意に少なかった。赤の矢印はPECAM/BrdU二重陽性細胞を指しており、一方、白の矢印はPECAM単陽性細胞を指している。核はDAPIで染色した(青)。エラーバーは標準偏差を指し示している。統計量は棒グラフ上に示されている(p=0.014)。
(図5)miR-126 KO ECの血管新生の障害
(図5A)第4〜6日時点の野生型(WT)およびmiR-126-/-(KO)マウスから単離して培養した大動脈環の代表的な画像を示している。WT外植片では広範な内皮増生が認められるが、突然変異体では認められない。各条件下での相対的遊走活性を定量し、棒グラフに統計量とともに示した。エラーバーは標準偏差を指し示している。
(図5B)図示した遺伝子型のマウスに移植したマトリゲルプラグのPECAM1(緑)染色の代表的な画像を示している。FGF-2を含むマトリゲル中で観察された血管新生は、WTマウスと比較してKOマウスでは有意に少なかった。WTマウスでもKOマウスでも、FGF-2を欠くマトリゲルプラグ中では有意な血管新生が観察されなかった。スケールバー=60mm。
(図5C)マトリゲルプラグアッセイにおける血管新生の程度を、Image Jソフトウエアを用いてPECAM染色面積を決定することによって定量した。エラーバーは標準偏差を指し示している。WTマトリゲルプラグとの比較でKOに関してp=0.0008。
(図5D)MI後のWTマウスおよびKOマウスの生存。WTと比較したKOマウスの生存に関するP値は、MIの1週後および3週後で0.05および0.014に。
(図5E)MI後のWTマウスおよびKOマウスの心臓の組織学的分析。パネルa〜dは、右室(RV)および左室(LV)を経由する縦断面を示している。心不全を指し示す、突然変異体心臓の心房内の血栓に注目されたい。パネルe〜fは、瘢痕形成を描出するためにマッソントリクロームで染色した横断面を示している。KOマウスの心筋の広範な喪失に注目されたい。パネルgおよびhは、eおよびfの枠で囲んだ梗塞領域内のPECAM1染色を示している。MI後のKOマウスにおける血管構造の欠損に注目されたい。パネルa〜fにおけるスケールバーは1cmに等しく、パネルgおよびhにおけるスケールバーは40mmに等しい。
(図6)miR-126による血管新生増殖因子シグナル伝達のモジュレーション
(図6A)miR-126はERK1/2のFGF依存的リン酸化を強化する。HUVEC細胞をlacZまたはmiR-126を発現するアデノウイルスに感染させ、図示した期間にわたってFGF-2(10ng/ml)で処理した。細胞溶解物を図示した抗体によるイムノブロット法に供し、リン酸化されたERK1/2および総ERK1/2のレベルを決定した。Ad-miR-126はERK1/2のFGF-2依存的リン酸化を強化した。
(図6B)miR-126のノックダウンはERK1/2のVEGF依存的リン酸化を減じさせた。HAEC細胞に2'-O-メチル-miR-126アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは対照オリゴヌクレオチドをトランスフェクトして、VEGF(10ng/ml)により10分間処理した。細胞溶解物を図示した抗体によるイムノブロット法に供し、リン酸化されたERK1/2および総ERK1/2のレベルを決定した。GAPDHをローディング対照として用いた。
(図6C)miR-126とさまざまな種由来のSpred-1 30非翻訳領域(UTR)(SEQ ID NO:9〜14)の配列アラインメント。
(図6D)E15.5のWT胚およびmiR-126 KO胚の卵黄嚢抽出物のウエスタンブロットによるSpred-1、CRKおよびGAPDHタンパク質の検出。
(図6E)miR-126はSpred-1 30 UTRを標的とする。Spred-1 mRNAの3' UTR、およびmiR-126シード領域に対して相補的な領域内に人工的に作製された突然変異(GGTACGAからTTGGAAGに)を有するSpred-1 m 3' UTRを、pMIR-REPORTベクター(Ambion)中に挿入した。このmiR-126突然変異体(miR-126 m)構築物は、CGTACCをGCATGGに突然変異させたmiR-126-3p配列、およびGGTACGをCCATGCに突然変異させた対応するmiR-126-5p配列からなる。COS-7細胞のトランスフェクションは、図示したプラスミドの組み合わせを用いて行った。CMV-bGALをトランスフェクション効率に関する内部対照として用いた。エラーバーは標準偏差を指し示している。P値を示している;ns、有意でない。
(図6F)miR-126の過剰発現またはノックダウンに応じた相対的なSpred-1 mRNA発現レベル。HUVEC細胞またはHAEC細胞を図示した処理に供し、Spred-1 mRNAのレベルをリアルタイムPCRによって決定した。GAPDHを対照として利用した。エラーバーは標準偏差を指し示している。P値を示している。
(図6G)miR-126-/-内皮細胞におけるSpred-1 mRNAのアップレギュレーション。Spred-1 mRNAのレベルを、L7を対照として用いるリアルタイムPCRによって決定した。エラーバーは標準偏差を指し示している。WTと比較してKOについてp=0.01。
(図6H)野生型(WT)マウスおよびmiR-126 KOマウスから単離して培養した大動脈環の第5日および第6日時点での代表的な画像を示している。WT外植片におけるSpred-1のアデノウイルス性過剰発現は内皮増生を障害させるが、一方、miR-126 KOマウスからの外植片におけるsiRNAを介したSpred-1のノックダウンは内皮増生を強化する。各条件下での相対的遊走活性を定量し、統計量とともに棒グラフで示した。エラーバーは標準偏差を指し示している。
(図6I)VEGFに対するHUVEC細胞応答に関する掻創アッセイ。アンチセンスRNAによるmiR-126発現のノックダウンはEC遊走を障害させるが、一方、siRNAによるSpred-1のノックダウンはmiR-126アンチセンスRNAの存在下における遊走を復旧させる。掻創の辺縁は赤の点線によって示されている。遊走細胞を定量し、統計量とともに棒グラフで示している。エラーバーは標準偏差を指し示している。
(図7)血管新生におけるmiR-126の機能に関するモデル
VEGFおよびFGFとEC上のそれらの受容体との結合はMAPシグナル伝達経路の活性化を招き、それが結果的に核内で血管新生に関与する遺伝子の転写を刺激する。miR-126は、Ras/MAPキナーゼシグナル伝達の負の調節因子であるSpred-1の発現を抑圧する。このため、miR-126機能の喪失はVEGFおよびFGFに応じたMAPキナーゼシグナル伝達を減じさせ、一方、miR-126機能の獲得は血管新生シグナル伝達を強化する。
(図8)pri-miR-126およびその宿主遺伝子Egfl7の内皮細胞特異的な発現
イントロン7をpri-miR-126に対するプローブとして用い、一方、Egfl7 cDNA断片をEgfl7に対するプローブとして用いた。標識は、E8.5、E10.5およびE14.5時点の体節間血管(黒の矢尻印)、背側大動脈(黒の矢印)、心内膜(白の矢尻印)および肝臓(白の矢印)におけるpri-miR-126およびEgfl7の内皮細胞特異的発現を指し示している。黒のバー=200μm、白のバー=1600μm。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例示的な態様の詳細な説明
最近の諸研究により、傷害およびストレスに対する心血管系の応答におけるマイクロRNAの重要な役割が明らかになってきている(Latronico et al., 2007;van Rooij and Olson, 2007)。miRNAはmRNAを標的として切断または翻訳抑圧を行うことによって遺伝子発現を調節する、ほぼ22ヌクレオチドの非コード性RNAのクラスである(Bartel, 2004)。500種を上回るmiRNAがヒトおよび他の真核生物種で同定されており、その約3分の1はタンパク質をコードする遺伝子のイントロンによってコードされる。miRNAはまず大きなpri-miRNAに転写され、それらが逐次段階によってプロセシングされてヘテロ二重鎖RNAを生じる。ヘテロ二重鎖のmiRNA鎖はRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)の中に取り込まれ、そこでそれが3'非翻訳領域内の相補的配列を通じて特異的mRNAを標的とすることが可能になる(He and Hannon, 2004)。star(*)鎖として知られる、ヘテロ二重鎖の逆鎖は一般に分解される。
【0019】
本発明者らはここで、内皮細胞特異的miRNAの1つであるmiR-126がインビボでの血管新生をモジュレートすることを示す。マウスにおけるmiR-126の標的化欠失は、突然変異マウスのサブセットにおける血管漏出、出血および胎生致死をもたらす。これらの血管異常は、血管新生増殖因子シグナル伝達が減少し、それがECの増殖、発芽および接着の低下をもたらすことが原因で起こりうる。生き延びた突然変異体動物のサブセットは、梗塞巣の血管形成の欠陥があり、心筋梗塞後に心臓破裂および致死を来しやすい。miR-126の血管新生誘発作用は、それによる、MAPキナーゼシグナル伝達の負の調節因子であるSpred-1の抑圧と相関する。したがって、miR-126の非存在下で、Spred-1の発現増大は、VEGFおよびFGFによる細胞内血管新生シグナルの伝達を減じさせる。
【0020】
これらの観察所見に基づき、本発明者らは、miR-126が、血管新生シグナル伝達の内皮細胞特異的調節因子として機能することを提唱する。内皮は、血管緊張および透過性、平滑筋細胞の成長および増殖、白血球付着、凝固ならびに血栓形成の制御を含めて、心血管ホメオスタシスおよび疾患過程でのリモデリングにおいて多彩な役割を果たしている。miRNAは、インビトロでのEC遺伝子の発現および機能の調節への関与が指摘されているが(Kuehbacher et al., 2007;Suarez et al., 2007)、インビボでのECの生物学的現象におけるmiRNAの機能はまだ調べられていない。miR-126が血管統合性および血管新生、さらにはMI後の生存のためにも必要とされるという発見は、虚血心筋におけるmiR-126を増大させる戦略が心修復を強化しうるという可能性を示唆する。その反対に、miR-126発現を減じさせることは、癌、アテローム性動脈硬化、網膜症および脳卒中のような病的血管形成の状況で有効な可能性がある。最近、miR-126は、腫瘍発生を抑制し、転移性乳房腫瘍においてダウンレギュレートされていることが報告されているが、それがダウンレギュレートされている具体的な細胞種およびこれらの作用を媒介する可能性のあるmiR-126の標的は明確にされていない(Tavazoie et al., 2008)。本発明者らは、miR-126および他のmiRNAが、組織リモデリングおよび疾患において鍵となる役割を果たすことが見いだされるであろうと推測している。本発明の上記および他の局面を以下で詳細に考察する。
【0021】
I.miRNA
A.背景
2001年に、いくつかのグループが、新規なクローニング方法を用いて、C.エレガンス(C. elegans)、ショウジョウバエ(Drosophila)およびヒトから、「マイクロRNA」(miRNA)の大規模なグループを単離して同定した(Lagos-Quintana et al., 2001;Lau et al., 2001;Lee and Ambros, 2001)。内因性siRNAを有しないように思われる、植物およびヒトを含む動物において、数百種ものmiRNAが同定されている。このため、siRNAに類似しているとはいえ、miRNAはそれとは全く異なる。
【0022】
これまでに観察されたmiRNAはおよそ21〜22ヌクレオチド長であり、それらはタンパク質非コード性遺伝子から転写されたより長い前駆体から生じる。Carrington et al.(2003)の総説を参照のこと。これらの前駆体は、自己相補性領域内で相互に折り返される構造を構造を形成する;それらは続いて、動物ではヌクレアーゼDicerによる、または植物ではDCL1によるプロセシングを受ける。miRNA分子は、それらの標的との正確なまたは不正確な塩基対合を通じて翻訳を妨害する。
【0023】
miRNAはRNAポリメラーゼIIによって転写され、個々のmiRNA遺伝子、タンパク質をコードする遺伝子のイントロン、または、往々にして複数の密接な関連のあるmiRNAをコードする多シストロン性転写物に由来しうる。一般に数千塩基長であるPre-miRNAは、核内でRNアーゼDroshaによってプロセシングされて70〜100ntのヘアピン形前駆体となる。細胞質中への輸送後に、このヘアピンはさらにDicerによるプロセシングを受けて二本鎖miRNAを生じる。この成熟miRNA鎖は続いてRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)の中に取り込まれ、そこでその標的mRNAと塩基対相補性によって会合する。miRNA塩基対がmRNA標的と完全に対合する比較的稀な場合には、それはmRNA分解を促進する。より一般的には、miRNAは標的mRNAと不完全なヘテロ二重鎖を形成し、mRNA安定性に影響を及ぼすかまたはmRNA翻訳を阻害するかのいずれかである。
【0024】
「シード」領域と呼ばれる、塩基2〜8の範囲に及ぶmiRNAの5'部分は、標的認識のために特に重要である(Krenz and Robbins, 2004;Kiriazis and Krania, 2000)。シードの配列は、標的配列の系統発生的保存とともに、現行の多くの標的予測モデルの基盤をなしている。miRNAおよびそれらの標的を予測するために、ますます高性能なコンピュータ計算アプローチが利用可能になってきているが、標的予測は依然として大きな難題であり、実験的検証を必要とする。miRNAの機能が特定のmRNA標的の調節にあるとみなすことは、個々のmiRNAが候補となる数百種もの高親和性および低親和性のmRNA標的と塩基対合しうること、ならびに複数のmiRNAが個々のmRNAを標的とすることのため、さらに困難である。
【0025】
最初のmiRNAはC.エレガンスにおいて発生タイミングの調節因子として同定され、このことからmiRNAが一般に、特定の標的のスイッチをオフに切り替えることにより、異なる発生状態間の移行において決定的な調節的役割を果たす可能性が示唆された(Fatkin et al., 2000;Lowes et al., 1997)。しかし、その後の諸研究は、miRNAはオン-オフのスイッチとして機能するのではなく、特定の細胞種にとって不適切なタンパク質の発現を抑圧することによって、またはタンパク質の用量を調整することによって細胞表現型をモジュレートまたは微調整するようにより一般的に機能することを示唆している。また、miRNAは、遺伝子発現の極度の変動をなくすことによって細胞表現型に頑健性を与えるとも提唱されている。
【0026】
マイクロRNAに関する研究は、これらの分子が真核生物遺伝子発現の調節に果たしている幅広い役割を科学者が正しく認識し始めるにつれて増加している。最も詳細に解明されている2つのmiRNAであるlin-4およびlet-7は、鍵となるmRNAのファミリーの翻訳を調節することにより、C.エレガンスにおける発生的タイミングを調節する(Pasquinelli, 2002で総説されている)。数百種のmiRNAがC.エレガンス、ショウジョウバエ、マウスおよびヒトで同定されている。遺伝子発現を調節する分子に関して予想されるように、miRNAレベルは組織間および発生状態間で異なることが示されている。加えて、1件の研究は、2種のmiRNAの発現低下と慢性リンパ球性白血病との間の強い相関を示しており、これはmiRNAと癌との間につながりがある可能性を提示している(Calin, 2002)。この分野はまだ歴史が浅いものの、高等真核生物における遺伝子発現を調節する上でmiRNAが転写因子と同程度に重要な可能性があるという推測がなされている。
【0027】
細胞分化、初期発生、ならびにアポトーシスおよび脂肪代謝のような細胞過程において重大な役割を果たすmiRNAの例がいくつかある。lin-4およびlet-7はいずれも、C.エレガンスの発生過程において1つの幼生段階から別のものへの経過を調節する(Ambros, 2003)。mir-14およびbantamは細胞死を調節するショウジョウバエmiRNAであり、これは見たところアポトーシスに関与する遺伝子の発現を調節することによってであるように思われる(Brennecke et al., 2003、Xu et al., 2003)。また、miR-14は脂肪代謝における関与も指摘されている(Xu et al., 2003)。Lsy-6およびmiR-273は、化学感覚ニューロンにおける非対称性を調節するC.エレガンスmiRNAである(Chang et al., 2004)。細胞分化を調節するもう1つの動物miRNAにはmiR-181があり、これは造血細胞の分化を導く(Chen et al., 2004)。これらの分子は、機能が判明している動物miRNAのあらゆる範囲に相当する。miRNAの機能の理解の向上は、疑いなく、正常な発生、分化、細胞間および細胞内情報交換、細胞周期、血管新生、アポトーシスならびに他の多くの細胞過程の一因となる調節ネットワークを明らかにすると考えられる。多くの生物機能におけるそれらの重要な役割を考慮すれば、miRNAは治療的介入または診断分析のための重要な拠点をもたらす可能性が高い。
【0028】
miRNAのような生体分子の機能の特性決定は、多くの場合、細胞に分子を導入するかまたは細胞から分子を除去して、その結果を測定することを伴う。細胞へのmiRNAの導入がアポトーシスをもたらすのであれば、そのmiRNAは疑いなくアポトーシス経路にかかわっている。miRNAを細胞に導入するかまたは除去するための方法はすでに記載されている。最近の2件の刊行物は、特定のmiRNAの活性を阻害するために用いることのできるアンチセンス分子を記載しており(Meister et al., 2004;Hutvagner et al., 2004)、また別のものは、それらがmiR-133およびmiR-1を効率的にノックダウンしたという、心臓におけるそれらの機能性を証明している(Care et al. 2007;Yang et al. 2007)。もう1つの刊行物は、細胞内にトランスフェクトされた場合に内因性RNAポリメラーゼによって転写されて特定のmiRNAを生じさせるプラスミドの使用を記載している(Zeng et al., 2002)。これらの2種の試薬セットは、単一のmiRNAを評価するために用いられている。
【0029】
B.miR-126
miRNAが心血管の発生および疾患に関与していることを示した最近の研究に鑑みて、本発明者らは、心血管組織に限局しているように思われるmiRNAに関して公開データベースを検索した。いくつかのそのようなmiRNAのうち、miR-126は、心臓および肺のように血管要素が多い組織中に多く存在するように思われた(Lagos-Quintana et al., 2002)。ゼブラフィッシュにおけるmiRNA発現パターンの調査からも、miR-126は血管系に対して特異的であることが示された(Wienholds et al., 2005)。
【0030】
ノーザンブロット分析からは、miR-126は広範囲にわたる組織中で発現され、中でも肺および心臓における発現が最も高度であることが示されており、このことは以前の諸研究と合致する(Harris et al., 2008;Lagos-Quintana et al., 2002;Musiyenko et al., 2008)。miR-126*は痕跡レベルの発現しか検出できなかった(非提示データ)。細胞株の調査により、miR-126は、初代ヒト臍帯静脈EC(HUVEC)、ならびにMS1、HAECおよびEOMA細胞株を含む数々のEC細胞株では発現されるが、SV40形質転換EC(SVEC)および非内皮性細胞種では発現されないことが明らかになった。
【0031】
miR-126(miR-126-3pとも呼ばれる)およびmiR-126*(miR-126-5p)は、フグ(Fugu)からヒト(Homo sapiens)までを通じて保存されている(microrna.sanger.ac.uk/sequences/index.shtml)。哺乳動物および鳥類では、miR-126および-126*は、平滑筋細胞遊走の化学誘引物質および阻害因子として作用することが報告されているEC特異的分泌性ペプチドをコードする、EGF様ドメイン7(Egfl7)遺伝子のイントロン7によってコードされる(Campagnolo et al., 2005;Fitch et al., 2004;Parker et al., 2004;Soncin et al., 2003)。組織および細胞株におけるmiR-126の発現パターンはEgfl7のそれと平行しており(Fitch et al., 2004;Soncin et al., 2003)、これはこのmiRNAがpre-Egfl7 mRNAのイントロン性RNA配列からプロセシングされるという結論に合致する。
【0032】
非常に多様な生物(マウス、ヒト、ラット、イヌ、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、フグ)からmiR-126が同定されており、その配列は完全に保存されている:

【0033】
C.miR-126のアゴニストおよびアンタゴニスト
miR-126のアゴニストは一般に、3種の形態のうち1つをとる。第1に、miR-126それ自体がある。この種の分子は、例えば、任意で、脂質などの送達媒体、例えばリポソームまたは脂質エマルションなどの中にある状態での注射または注入により、標的細胞に送達することができる。第2に、miR-126の発現を起こさせる発現ベクターを用いることもできる。さまざまな発現ベクターの組成および構築は、本文書中の別の箇所に記載されている。第3に、miR-126の活性をアップレギュレートする、安定化する、または他の様式で強化するように作用する、低分子を含む、miR-126とは異なる作用物質を用いることもできる。そのような分子には、miR-126の機能を、そして場合によっては形態をも模倣するが、化学構造は別個である分子である「模倣物」が含まれる。
【0034】
miRNA機能の拮抗作用は、「アンタゴミア(antagomir)」によって達成しうる。アンタゴミアは、Krutzfeldtら(Krutzfeldt et al., 2005)によって最初に記載されたもので、miRNA配列に対して少なくとも部分的に相補的な一本鎖の化学修飾リボヌクレオチドである。アンタゴミアは、2'-O-メチル-糖修飾物のような1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含みうる。いくつかの態様において、アンタゴミアは修飾ヌクレオチドのみを含む。また、アンタゴミアが、部分的または完全なホスホロチオエート骨格を結果的にもたらす1つまたは複数のホスホロチオエート結合を含んでもよい。インビボ送達および安定性を助長するために、アンタゴミアをその3'末端でコレステロールモイエティと結びつけてもよい。miRNAを阻害するのに適したアンタゴミアは、約15〜約50ヌクレオチド長、より好ましくは約18〜約30ヌクレオチド長、最も好ましくは約20〜約25ヌクレオチド長でありうる。「部分的に相補的」とは、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%相補的な配列のことを指す。アンタゴミアは、成熟miRNA配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%相補的であってよい。いくつかの態様において、アンタゴミアは成熟miRNA配列に対して実質的に相補的であってよく、すなわち、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%相補的である。他の態様において、アンタゴミアは成熟miRNA配列に対して100%相補的である。
【0035】
また、miRNA機能の阻害を、アンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することによって達成することもできる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチドであってもデオキシリボヌクレオチドであってもよい。好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは少なくとも1つの化学修飾を有する。アンチセンスオリゴヌクレオチドが、1つまたは複数の「ロックト(locked)核酸」を含んでもよい。「ロックト核酸」(LNA)とは、リボース糖モイエティの2'および4'炭素の間に架橋を1つ余分に含み、その結果、LNAを含むオリゴヌクレオチドに耐熱性の強化を付与する「ロックされた」コンフォメーションをもたらす修飾リボヌクレオチドのことである。または、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、糖-リン酸骨格ではなくペプチドをベースとする骨格を含む、ペプチド核酸(PNA)を含んでもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドが含みうる他の化学修飾には、糖修飾、例えば2'-O-アルキル(例えば、2'-O-メチル、2'-O-メトキシエチル)など、2'-フルオロおよび4'チオ修飾、ならびに骨格修飾、例えば1つまたは複数のホスホロチオエート、モルホリノまたはホスホノカルボン酸結合などが非限定的に含まれうる(例えば、米国特許第6,693,187号および第7,067,641号。これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。いくつかの態様において、適したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5'末端および3'末端の両方に2'-O-メトキシエチル-修飾リボヌクレオチドを含み、少なくとも10個のデオキシリボヌクレオチドが中央にある、2'-O-メトキシエチル「ギャップマー(gapmer)」である。これらの「ギャップマー」は、RNA標的のRNアーゼH依存的分解機構の引き金となりうる。その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,838,283号に記載されたもののような、安定性を強化するため、および効力を向上させるためのアンチセンスオリゴヌクレオチドのその他の修飾も、当技術分野において公知であり、本発明の方法に用いるのに適している。マイクロRNAの活性を阻害するために有用な具体的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、約19〜約25ヌクレオチド長である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、成熟miRNA配列に対して少なくとも部分的に相補的な、例えば、成熟miRNA配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%相補的な配列を含みうる。いくつかの態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは成熟miRNA配列に対して実質的に相補的であってよく、すなわち標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%相補的である。1つの態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、成熟miRNA配列に対して100%相補的な配列を含む。
【0036】
miR-126の機能を阻害するためのもう1つのアプローチは、成熟miR-126配列に対して少なくとも部分的な配列同一性を有する阻害性RNA分子を投与することである。阻害性RNA分子は、ステム-ループ構造を含む二本鎖の短鎖干渉性RNA(siRNA)または短鎖ヘアピンRNA分子(shRNA)であってよい。阻害性RNA分子の二本鎖領域は、成熟miRNA配列に対して少なくとも部分的に同一な、例えば、約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一な配列を含みうる。いくつかの態様において、阻害性RNAの二本鎖領域は、成熟miRNA配列に対して少なくとも実質的に同一な配列を含む。「実質的に同一な」とは、標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%同一な配列のことを指す。他の態様において、阻害性RNA分子の二本鎖領域は、標的miRNA配列に対して100%の同一性を含みうる。
【0037】
本発明の他の態様において、miR-126の阻害物質は、リボザイム、siRNAまたはshRNAのような阻害性RNA分子であってもよい。1つの態様において、miR-499の阻害物質は二本鎖領域を含む阻害性RNA分子であり、ここでその二本鎖領域は、成熟miR-126配列に対して100%の同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、阻害物質は二本鎖領域を含む阻害性RNA分子であり、ここで前記二本鎖領域は、成熟miR-126配列に対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性のある配列を含む。
【0038】
II.血管新生、miR-126およびSpred-1
以下に報告する研究の結果により、インビボでの血管新生および血管統合性の維持におけるmiR-126の必須な役割が明らかになった。miR-126の作用は、少なくとも一部には、それによる、血管新生の強力な誘導因子として作用するVEGFおよびFGFの下流でのMAPキナーゼシグナル伝達の増強を反映するように思われる(図7)。Ras/MAPキナーゼ経路の細胞内阻害因子の1つであるSpred-1は、miR-126による抑圧の標的としての役を果たす。このため、miR-126の非存在下では、Spred-1の発現は増大し、血管新生シグナル伝達の抑圧をもたらす。その反対に、miR-126の過剰発現は、VEGFおよびFGFによって活性化されるシグナル伝達経路に対するSpred-1の抑圧的影響を緩和し、血管新生に有利に働く。
【0039】
これらの知見に合致して、ECにおけるSpred-1の過剰発現は、miR-126機能喪失型の表現型を模すように血管新生および細胞遊走を障害させ、一方、Spred-1発現のノックダウンは血管新生を強化し、培養ECにおけるmiR-126機能喪失型の表現型をレスキューする。血管破裂による胎生致死に至ったのがmiR-126-/-胚の一部のサブセットのみであり、他のものは成体期まで生き延びたことは興味深く、このことはこのmiRNAが血管新生に関する「オン-オフ」スイッチとして機能するのではなく、遺伝子発現プログラムをモジュレートすることを示唆する。
【0040】
miR-126の機能は、胚発生の過程での正常な血管発生におけるその必要性に加えて、MI後に、梗塞部位の傷害された血管が、傷害された心筋壁への血流を回復させるために血管新生を惹起する場合にも重要であるように思われる。MI後の心臓におけるようなストレス条件下では、miR-126の作用は、新生血管形成のための血管新生シグナル伝達の必要性のために高い重要性を獲得する可能性がある。この点に関して、VEGFおよびFGFの発現は心筋虚血に反応して増加し、これは虚血心筋における側副血管の発生のために非常に重要である(Semenza, 2003)。心傷害は、近傍のECの遊走および増殖を活性化することに加えて、虚血部位への流血中造血前駆細胞のホーミングおよびそれらの心修復への寄与ももたらす(Kocher et al., 2001;Takahashi et al., 1999)。miR-126は造血幹細胞で発現され、このため、この細胞集団の再生機能の一因となっている可能性がある(Garzon et al., 2006;Landgraf et al., 2007)。
【0041】
A.miR-126による血管新生の制御
VEGFおよびFGFなどの血管新生増殖因子は、MAPキナーゼ経路を活性化し、それが結果的に核内で血管新生および血管統合性のために必要な遺伝子の発現を強化することにより、ECの増殖、遊走および接着をモジュレートする。miR-126機能喪失に伴う異常は、ECにおけるMAPキナーゼシグナル伝達の阻害に起因する血管欠陥に類似している(Hayashi et al., 2004)。
【0042】
miR-126がSpred-1の発現を減衰させることによって血管新生を促進するという結論に合致して、Spred-1は、血管新生のために重要な過程である、細胞運動およびRhoを介したアクチン再構成を阻害する(Miyoshi et al., 2004)。Spred-1およびSpredファミリーの他のメンバーは、増殖因子により誘導されるERK活性化の膜結合型抑制因子として機能し、増殖因子シグナル伝達に応答した細胞増殖および遊走を阻止する(Wakioka et al., 2001)。Spredタンパク質の阻害作用は、MAPキナーゼ経路の上流活性化因子の1つであるRafのリン酸化および活性化への干渉によって媒介される。3種のSpredタンパク質のうち、miR-126に対して予想される標的配列を含むのはSpred-1のみである。これらの結果は、Spred-1がmiR-126の血管新生誘発作用のメディエーターとして主要な役割を果たすという結論に合致するものの、miR-126の作用は、血管新生および血管統合性をモジュレートする複数の標的タンパク質の複合的な機能を反映している可能性が高い。
【0043】
したがって、本発明は、血管新生をそれを必要とする対象において促進する方法であって、miR-126の少なくとも1つのアゴニストを対象に投与する段階を含む方法を提供する。1つの態様において、本方法はさらに、第2の血管新生誘発物質を投与する段階を含む。第2の血管新生誘発物質には、VEGF、FGF、IL-8、CCN1およびAng-2が非限定的に含まれうる。
【0044】
もう1つの態様において、本発明は、細胞におけるMAPキナーゼシグナル伝達をモジュレートする方法であって、細胞をmiR-126活性の少なくとも1つのモジュレーターと接触させる段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、MAPキナーゼシグナル伝達は、miR-126アンタゴニストと接触された細胞において低下する。他の態様において、MAPキナーゼシグナル伝達は、miR-126アゴニストと接触された細胞において強化される。1つの態様において、細胞は内皮細胞である。もう1つの態様において、細胞は造血幹細胞である。
【0045】
B.miR-126の生合成
miR-126およびEgfl7 mRNAが共発現されること、さらにはmiR-126はEgfl7 pre-mRNAのサブセット中の残留イントロンから生成されるという本発明者らの知見(未発表データ)に基づき、本発明者らは、miR-126がEgfl7 pre-mRNAから生じると結論づけている。宿主遺伝子から独立に転写されるイントロン性miRNAは存在しているが、これまでのすべてのケースでは、これらのmiRNAは、miR-126およびEgfl7 mRNAとは対照的にmRNAの逆鎖上で転写される。さらに、Ets結合部位は内皮特異的発現のために必要とされ、Egfl7遺伝子のイントロン7中にはそのような部位は存在しない。
【0046】
最近、Egfl7ノックアウトマウスは、miR-126ヌルマウスのそれに著しく類似した血管異常を呈することが報告された(Schmidt et al., 2007)。そのようなマウスにおける欠失突然変異はEgfl7転写物の欠如をもたらすことが報告されており、このことはmiR-126発現も消失ししていることを示唆する。しかし、miR-126発現は検討されていない。このため、そのような突然変異マウスの表現型が実際にはmiR-126の機能喪失を反映しているという可能性は検討に値する。
【0047】
タンパク質をコードする遺伝子のイントロン中へのmiRNAの組込みは、miRNAの発現および調節機能をタンパク質をコードする遺伝子と協調させるための一般的な機構であることが、ますます明らかになりつつある。この形態の共調節のもう1つの例として、本発明者らは以前、α-ミオシン重鎖(MHC)遺伝子のイントロンによってコードされるmiR-208が、調節ネットワーク内部で機能して心臓のストレス応答を制御することを示した(van Rooij et al., 2007)。組織特異的遺伝子のイントロン中へのmiRNAの組入れは、miRNAとそれが調節する遺伝子プログラムとの共調節を確実に行うために効率的な機構である。
【0048】
III.疾病状態を治療する方法
本発明は、miR-126のアゴニストまたはアンタゴニストを対象に投与することによって、さまざまな疾病状態を治療する方法を提供する。本出願において、治療は、以下に考察した疾病状態に伴う症状の1つまたは複数を軽減することを含む。任意のレベルの改善を治療と考えるものとし、特定のレベルの改善または「治癒」に関する要求条件はない。また、症状が安定化されること、すなわち疾患病状が悪化しないと考えられることでも治療においては十分である。
【0049】
本発明は、血管統合性および/または血管修復を促進する方法であって、血管病状に罹患している対象に対してmiR-126機能のアゴニストを投与する段階を含む方法を提供する。血管病状には、心筋梗塞、虚血-再灌流傷害、狭窄、線維症、血管外傷および血管漏出が非限定的に含まれうる。
【0050】
A.血管統合性を障害させる、および/または血管修復の必要性を引き起こす病状
以上に考察したように、本発明は、血管組織の統合性を向上させるため、さらには虚血発作を含む傷害後の血管修復および新生血管形成を促進するための、miR-126のアゴニストの使用を提供する。以下の疾病状態/病状を本発明による治療に関して特に想定しているが、限定的ではない。
【0051】
治療レジメンは臨床的状況に応じて異なると考えられる。しかし、ほとんどの場合には長期的維持が適切であるように思われる。また、血管病状を、miR-126のモジュレーターによって間欠的に、例えば疾患進行の過程における短い期間内などに治療することとが望ましい場合もある。
【0052】
心筋梗塞
心筋梗塞(MI)は、心臓の一部への血液供給が途絶した場合に起こる。これは、動脈壁における脂質(コレステロールのような)および白血球(特にマクロファージ)の不安定な集積物である脆弱なアテローム硬化性プラークの破裂後に起こる冠動脈の閉塞(封鎖)に起因することが最も多い。その結果として起こる虚血(血液供給の制限)および酸素不足が、十分な期間にわたって治療されないまま放置されると、心臓の筋肉組織(心筋)の損傷および/または死(梗塞)を引き起こす恐れがある。
【0053】
急性心筋梗塞(AMI)の古典的な症状には、突然の胸痛(典型的には左腕または首の左側に放散する)、息切れ、悪心、嘔吐、動悸、発汗および不安(破滅が差し迫っている予感と説明されることが多い)。女性は男性よりも典型的な症状を来すことが少なく、最も頻度が高いのは息切れ、脱力、消化不良感および疲労である。心筋梗塞全体のおよそ4分の1は、胸痛も他の症状も伴わない無症候性である。心発作は内科的救急疾患であり、胸痛を来している人々には、即時の治療が有益であるため、自分の救急医療施設に通知するように助言する。
【0054】
急性心筋梗塞が疑われる場合の緊急治療には、酸素、アスピリンおよび舌下トリニトログリセリン(口語ではニトログリセリンと呼ばれ、NTGまたはGTNと略記される)が含まれる。疼痛緩和もしばしば行われ、古典的には硫酸モルヒネである。患者は、心電図(ECG、EKG)検査、胸部X線検査、および心臓マーカーの上昇を検出するための血液検査(心筋損傷を検出するための血液検査)などのさまざまな診断検査を受ける。最もよく用いられるマーカーは、クレアチンキナーゼ-MB(CK-MB)画分およびトロポニンI(TnI)またはトロポニンT(TnT)レベルである。ECGに基づき、ST上昇型MI(STEMI)であるか非ST上昇型MI(NSTEMI)であるかの鑑別が行われる。STEMIのほとんどの症例は血栓溶解によって治療されるか、または可能であれば、その病院が冠動脈造影法のための設備を有しているという前提の下で、経皮的冠動脈インターベンション(PCI、血管形成術およびステント挿入)によって治療される。NSTEMIは薬物療法によって管理されるが、入院中にPCIが行われることもしばしばである。複数箇所に封鎖があって比較的安定している患者では、または少数の極めて緊急的な症例では、封鎖された冠動脈のバイパス手術が選択肢の1つとなる。
【0055】
虚血-再灌流傷害
虚血-再灌流傷害は、少なくとも一部には、障害組織の炎症反応によって引き起こされる。新たに環流した血液によってその区域に運ばれた白血球は、組織障害に応答して、インターロイキンなどの多数の炎症性因子、さらにはフリーラジカルを放出する。復旧した血流は、細胞タンパク質、DNAおよび原形質膜を障害させる酸素を細胞内に再導入する。細胞膜に対する障害は、結果としてより多くのフリーラジカルの放出を引き起こす恐れがある。そのような反応種はまた、レドックスシグナル伝達に間接的に作用して、アポトーシスを開始させることもある。白血球が小さな毛細血管内に蓄積してそれを閉塞させ、より高度の虚血を招くこともある。
【0056】
再灌流傷害は、脳卒中および脳外傷にかかわる脳の虚血カスケードにおいてある役割を果たす。また、虚血および再灌流傷害の繰り返される発作は、褥瘡および糖尿病性足部潰瘍といった慢性創傷の形成および治癒不全を招く要因であるとも考えられている。連続的な圧迫は血液供給を制限して虚血を引き起こし、再灌流時に炎症が起こる。この過程が繰り返されると、それは最終的には創傷を引き起こすのに十分な程度に組織を障害させる。
【0057】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)およびコムギグリアジンに由来する栄養補助食品であるグリソジン(Glisodin)は、虚血-再灌流傷害を緩和する能力に関して試験されている。心臓手術における一般的な手技である大動脈遮断の試験では、優れた有益性の可能性が実証され、さらに研究が進行中である。
【0058】
狭窄
狭窄とは、血管、または他の管状臓器もしくは構造物における異常な狭小化のことである。血管型の狭窄症はしばしば、狭小化した血管を通過する乱流に起因する雑音(血管雑音)を伴う。この血管雑音は聴診器によって聴取することができる。より信頼性の高い、狭窄を診断する他の方法には、解剖学的撮影法(すなわち、血管の視認しうる狭小化)を流動現象の表示(身体構造を通る体液の移動の可視化)と組み合わせた、超音波、磁気共鳴撮影法/磁気共鳴血管造影法、コンピュータ断層撮影法/CT-血管造影法などの画像検査法がある。血管狭窄症には、間欠的跛行(末梢動脈狭窄)、アンギナ(冠動脈狭窄)、(脳卒中および一過性虚血発作)の素因となる頸動脈狭窄、および腎動脈狭窄が含まれる。
【0059】
その他の病状
外傷および血管漏出も、miR-126またはそのアゴニストによって治療しうる病状である。
【0060】
リスク
本発明はまた、前述の疾病状態のいずれかに対するリスクのある個体を治療することも想定している。これらの個体には、線維症、高血圧、心肥大、骨粗鬆症、神経変性および/または呼吸窮迫に罹患している人が含まれると考えられる。
【0061】
B.病的新生血管形成
以上に考察したように、本発明は、疾患を招くかまたはそれに寄与する新生血管形成を妨害するためのmiR-126のアンタゴニストの使用を提供する。以下の疾病状態/病状を本発明による治療に関して特に想定しているが、これらには限定されない。
【0062】
本発明は、病的血管形成の阻害を、それを必要とする対象において行う方法であって、miR-126のアンタゴニストを対象に投与する段階を含む方法を提供する。病的血管形成と関連のある病状には、アテローム性動脈硬化、網膜症、癌および脳卒中が非限定的に含まれる。
【0063】
初期アテローム性動脈硬化
アテローム性動脈硬化は、動脈血管を冒す疾患である。これは動脈壁における慢性炎症反応であり、主としてマクロファージ白血球の蓄積に起因し、機能性高密度リポタンパク質(HDL)によるマクロファージからの脂肪およびコレステロールの適切な除去が行われない場合に低密度(特に小粒子)リポタンパク質(コレステロールおよびトリグリセリドを運ぶタンパク質)によって促進される。これは一般的には「動脈の硬化」と称される。これは動脈内の多数のプラークの形成によって引き起こされる。
【0064】
アテローム性動脈硬化は、口語では「悪玉コレステロール」と呼ばれる、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL)から発症する。このリポタンパク質が動脈壁を通り抜けると、酸素フリーラジカルがそれと反応して酸化LDLを形成する。身体の免疫系は、酸化LDLを吸収するために、特化した白血球(マクロファージおよびTリンパ球)を送り出すことによって反応する。残念ながら、これらの白血球は酸化LDLを処理することができず、結局は増大した後に破裂し、より多くの量の酸化コレステロールを動脈壁に沈着させる。これはより多くの白血球の引き金となり、このサイクルを継続させる。最終的には動脈は炎症化する。コレステロールプラークは筋細胞を肥大させ、罹患区域を覆う硬い被覆を形成させる。動脈の狭小化を引き起こし、血流を低下させ、血圧を上昇させるのは、この硬い被覆である。
【0065】
アテローム性動脈硬化は典型的には青年期早期に始まり、通常はほとんどの主要動脈に見られるが、しかしながら無症候性であり、生きている間にはほとんどの診断方法によっては検出されない。真性アテローム性動脈硬化の直前の段階は潜在性アテローム性動脈硬化として知られる。これは、心臓への供給を行う冠循環または脳への供給を行う脳循環に支障を来した場合に重篤な症候を示すようになることが最も多く、脳卒中、心発作、うっ血性心不全を含むさまざまな心臓疾患、およびほとんどの心血管疾患全般の最も重要な根底的原因であると考えられている。血流低下を生じさせる、腕の、またはより多くの場合は足の動脈におけるアテロームは、末梢動脈閉塞性疾患(PAOD)と呼ばれる。動脈の流れを妨げるほとんどのイベントは、50%未満の内腔狭小化のある場所で起こる(ほぼ20%の狭窄度が平均である)。
【0066】
この疾患過程は数十年をかけて緩徐に進行する傾向があるものの、これは通常、アテロームが動脈内の血流を閉塞させるまでは無症候性のままである。これは典型的にはアテロームの破裂、血液凝固、およびその破裂部を覆うとともに狭窄を生じさせる内腔内部の血塊の線維性器質化によるか、または長い時間をかけて破裂を繰り返した後に、永続的で通常は限局性の狭窄がもたらされることによる。狭窄症は緩徐進行性でありうるが、一方、プラーク破裂は、「不安定」になった比較的薄い/弱い線維性キャップを有するアテロームで特に起こる突発的なイベントである。
【0067】
内腔の完全な閉鎖をもたらさないプラーク破裂の繰り返しと、破裂部を覆う血塊斑(clot patch)および血塊を安定化する治癒応答との組み合わせが、長い時間をかけてほとんどの狭窄症を生じさせる過程である。狭窄区域は、これらの狭小化部での流速が増すにもかかわらず、より安定化する傾向がある。最も重大な血流停止イベントは、その破裂の前には仮にあっても極めてわずかな狭窄しか生じていない、大きなプラークの場所で起こる。
【0068】
臨床試験によれば、後に破裂して結果的に完全な動脈閉鎖をもたらすプラークの箇所での平均狭窄度は20%である。最も重度の臨床イベントは、高度の狭窄を生じるプラークの箇所では起こらない。臨床試験によれば、血管閉鎖の前に75%またはそれ以上の狭窄を生じていたプラークの箇所での動脈閉鎖によって起こるのは心発作の14%に過ぎない。
【0069】
軟アテロームを動脈内部の血流と隔てている線維性キャップが破裂すると、組織断片が露出して放出され、血液が壁内部のアテローム中に入り、時にはアテロームサイズの急激な拡大をもたらすことがある。組織断片は非常に凝血促進性が高く、コラーゲンおよび組織因子を含む。それらは血小板を活性化し、凝固系を活性化する。その結果はアテロームに覆い被さる血栓(血餅)の形成であり、それは血流を急に閉塞させる。血流が閉塞されると、下流組織で酸素および栄養分が欠乏する。これが心筋(心臓の筋肉)であれば、狭心症(心胸痛)または心筋梗塞(心発作)が発症する。
【0070】
アテローム性動脈硬化が症状につながる場合、狭心症などの一部の症状は治療することができる。禁煙および定期的な運動の実行といった非薬物的な手段が通常は最初の治療方法である。これらの方法がうまくいかない場合には、通常は薬物療法が心血管疾患の治療における次の段階であり、これは数々の改善を経て、長期的にみると最も有効な方法にますますなってきている。しかし、薬物療法は、その費用、特許権による規制、および時折起こる望ましくない影響に対して批判もある。
【0071】
一般に、アテローム性動脈硬化の治療に関しては、スタチンと称される医薬品群が最も普及しており、幅広く処方されている。それらは短期的または長期的な望ましくない副作用が比較的少なく、ALLHATという1つの試験デザインではそれほど好成績ではなかったものの、複数の治療/プラセボ比較試験が、アテローム性動脈硬化疾患の「イベント」を減少させる強力な効果、および臨床試験における概ねほぼ25%という相対的な死亡率低下をほぼ一貫して示している。
【0072】
最新のスタチンであるロスバスタチンは、冠動脈内部のアテローム硬化性プラークの縮退をIVUS(血管内超音波評価)によって実証した初めてのものである。その試験は、主として、活動性/症候性疾患を有する人々を対象に、2年間という時間枠内でアテローム性動脈硬化体積に対する効果を実証するために設定されており(狭心症の頻度も顕著に低下した)、より長期の試験期間が必要とされると予想される全般的臨床アウトカムに関するものではなかった;これらのより長期的な試験はまだ進行中である。
【0073】
しかし、ほとんどの人々にとって、生理的な挙動を通常の高リスクのものからリスクが大きく低下したものに変更することは、毎日かつ無期限に服用されるいくつかの化合物の組み合わせを必要とする。生理的挙動のパターンを、脂肪線条(fatty streak)が形成され始める前の時点である小児期にヒトが呈していたものにより類似したものに変更させる、より複雑で有効な治療レジメンを用いている人々でのアウトカム改善を実証しているヒトでの治療試験がすでに数多く行われており、現在も進行中である。
【0074】
網膜症
網膜症は、眼の網膜に対するいくつかの形態の非炎症性障害を指す総括的用語である。最も一般的には、これはこの病状の原因である血液供給に関連する問題である。しばしば、網膜症は全身疾患の眼症状発現である。網膜症は、眼底検査の際に検眼士または眼科医によって診断される。治療は疾患の原因に応じて決まる。
【0075】
網膜症の主な原因には、糖尿病‐糖尿病性網膜症;動脈高血圧‐高血圧性網膜症;未熟新生児‐未熟児網膜症(ROP);鎌状赤血球貧血;遺伝性網膜症;直射日光曝露‐日光網膜症;医薬品‐薬剤関連網膜症;および網膜静脈または動脈の閉塞がある。網膜症の多くの型は進行性であり、特に黄斑が冒されると失明または重度の視覚損失もしくは障害をもたらす恐れがある。
【0076】
脳卒中
脳卒中は、脳への供給を行う血管における擾乱に起因する、急速に発症する脳機能の喪失である。これは、血栓症もしくは塞栓症によって引き起こされる虚血(血液供給の不足)または出血に起因しうる。これは即座に診断されて治療されなければ永続的な神経障害、合併症および死亡を引き起こす恐れがある。脳卒中のリスク因子には、高齢、高血圧(高い血圧)、脳卒中または一過性虚血発作(TIA)の既往、糖尿病、コレステロール高値、喫煙、心房細動、エストロゲン含有型ホルモン避妊薬、前兆を伴う片頭痛、および血栓形成傾向(血栓症の傾向)、卵円孔開存ならびにいくつかのより稀な障害が含まれる。高い血圧は、脳卒中の最も重要な修正可能なリスク因子である。
【0077】
1970年代に世界保健機構(World Health Organization)によって考案された脳卒中の伝統的な定義は、「24時間を超えて持続するかまたは24時間以内の死亡によって途絶する、心血管原因による神経学的欠陥」である。24時間の境界線により、脳卒中は、24時間以内に完全に回復する関連した脳卒中症状の症候群である一過性虚血発作とは区分される。早期に投与された場合に脳卒中の重症度を軽減させることのできる治療法が利用可能であるため、今では多くの人々が、脳卒中症状の緊急性および迅速に行動する必要性を反映した、脳発作および急性虚血性脳血管症候群(それぞれ心発作および急性冠症候群に倣っている)という代替的な考え方を好んでいる。
【0078】
脳卒中は血栓溶解(「血栓溶解剤」)によって治療されることもあるが、通常は支持療法(理学療法および作業療法)ならびに抗血小板薬(アスピリンおよび往々にしてジピリダモール)、血圧管理、スタチンおよび抗凝固薬(選択された患者において)による二次予防が行われる。
【0079】
脳卒中は、虚血性および出血性という2つの主要なカテゴリーに分類することができる。虚血は血液供給の途絶によって起こり、一方、出血は血管または異常な血管構造の破裂によって起こる。脳卒中の80%は虚血に起因する。残りは出血に起因する。
【0080】
虚血性脳卒中では、脳の一部への血液供給が低下して、その区域内の脳組織の機能不全および壊死を招く。これが起こる可能性のある理由には4つがある:血栓症(局所的に形成される血餅による血管の閉塞)、塞栓症(体内の他の場所からの栓子に起因する同上のもの、以下を参照)、全身低灌流(全身的な血液供給の低下、例えばショックにおいて)および静脈血栓症。明らかな説明がつけられない脳卒中は、「潜因性」(原因不明のもの)と命名される。
【0081】
血栓性脳卒中では、血栓(血餅)は通常、アテローム硬化性プラークの周りに形成される。動脈の封鎖は漸進的であるため、症候性血栓性脳卒中の発症はより緩徐である。血栓それ自体(非閉塞性であっても)も、血栓が崩壊すれば塞栓性脳卒中(以下を参照)を招く恐れがあり、その時点でそれは「栓子」と呼ばれる。血栓性脳卒中は、血栓が形成される血管の型に応じて、大血管疾患または小血管疾患という2つの型に分けることができる。
【0082】
塞栓性脳卒中は、他の場所で生じた動脈血流内の移行性の粒子または壊死組織片である栓子による動脈の封鎖のことを指す。栓子は血栓であることが最も多いが、脂肪(例えば、折れた骨における骨髄からの)、空気、癌細胞または細菌の凝集塊(通常は感染性心内膜炎による)を含むさまざまな他の物質であることもある。栓子は他の場所で生じるため、局所療法ではその問題は一時的にしか解決されない。このため、栓子の発生源を特定しなければならない。塞栓性封鎖は突然発症するため、症状は通常は開始時に最大である。また、栓子が部分的に再吸収されたり、異なる場所に移動したり、または全く消散したりした場合には、症状が一過性であることもある。塞栓症は心臓から起こることが最も多いが(特に心房細動において)、動脈樹における他の場所で生じることもある。奇異性塞栓症では、深部静脈血栓が心臓内の心房性または心室性中隔欠損を経由して脳内で塞栓症を引き起こす。
【0083】
心臓性の原因は高リスクと低リスクに区別することができる。
高リスク:心房細動および発作性心房細動、リウマチ性疾患による僧帽弁または大動脈弁疾患、人工心臓弁、心房または心室の公知の心臓血栓症、洞不全症候群、持続性心房粗動、亜急性心筋梗塞、駆出率28パーセント未満の慢性心筋梗塞、駆出率30パーセント未満の症候性うっ血性心不全、拡張型心筋症、リブマン-サックス心内膜炎、衰弱性心内膜炎、感染性心内膜炎、乳頭筋線維弾性腫、左心房粘液腫および冠動脈バイパス移植(CABG)手術
低リスク/可能性が低い:僧帽弁の環状部(環)の石灰化、卵円孔開存(PFO)、心房中隔動脈瘤、卵円孔開存を伴う心房中隔動脈瘤、血栓を伴わない左室動脈瘤、心電図上での孤立した左房内「スモーク」(僧帽弁狭窄も心房細動もない)、上行大動脈または近位弓部における複合アテローム
【0084】
全身低灌流は、身体のすべての部分への血流の低下である。これは心停止もしくは不整脈による心拍出不全、または心筋梗塞、肺塞栓症、心膜液貯留もしくは出血の結果としての心拍出量の減少に起因することが最も多い。低酸素症(血中酸素含有量低値)は、低灌流の発生を早めることがある。血流の低下が全身的であるため、脳のすべての部分、特に、主要な脳動脈による供給を受ける境界域領域である「分水界」領域が冒される恐れがある。これらの区域への血流は必ずしも止まらないものの、脳障害が起こる恐れのある程度まで低下する可能性はある。この現象は、潅漑において最後の牧草地は最も少量の水しか受けないという事実を指して「最後の牧草地(last meadow)」とも呼ばれる。
【0085】
脳静脈洞血栓症は、動脈によって生じる圧力を上回る、局所的に上昇した静脈圧が原因となって脳卒中を招く。梗塞は、他の型の虚血性脳卒中よりも出血性変化(障害区域への血液の漏出)を起こす可能性が高い。
【0086】
虚血性脳卒中は脳動脈を閉塞させる血栓(血餅)によって起こり、この型の脳卒中が見いだされた場合、患者には原因に応じて抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール)または抗凝固薬(ワルファリン)が投与される。出血性脳卒中の可能性を医学的画像検査によって否定しておかなければならないが、これはこの治療法はその型の脳卒中の患者には有害と考えられるためである。
【0087】
脳卒中時に脳を保護するためのその他の即時的な戦略には、血糖ができるだけ正常であるようにすること(糖尿病が判明している場合のインスリンスライディングスケールの開始など)、ならびに脳卒中患者が十分な酸素および静脈内輸液を受けることの徹底が含まれる。患者には、上体を起こすのではなく、彼または彼女の頭部がストレッチャー上に平らに置かれるような体位をとらせるが、これはこのことが脳への血流を増加させることが諸研究で示されているためである。虚血性脳卒中に対するそのほかの治療法には、アスピリン(50〜325mgを1日1回)、クロピドグレル(75mgを1日1回)、ならびにアスピリンおよびジピリダモールの配合徐放剤(25/200mgを1日2回)が含まれる。
【0088】
脳卒中の直後には血圧を上昇させることが一般的である。諸研究により、高血圧は脳卒中の原因になるものの、緊急期には脳への血流を改善させる方が実際には有益であることが示されている。
【0089】
検査で頸動脈狭窄が示され、患者が罹患側に残存機能を有している場合には、頸動脈内膜切除術(狭窄部の外科的除去)が脳卒中後に直ちに行われれば、再発のリスクを低下させることができる。
【0090】
脳卒中が心原性塞栓症を伴う心不整脈の結果である場合には、不整脈の治療およびワルファリンまたは高用量アスピリンによる抗凝固療法により、再発のリスクを低下させることができる。頻度の高い不整脈である心房細動に対する脳卒中の予防治療は、CHADS/CHADS2システムに従って決定される。
【0091】
数多くの脳卒中一次医療施設では、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)という薬物を用いた薬理学的血栓溶解(「血栓溶解薬」)が、血塊を溶解させて動脈の閉塞を取り除くためにますます用いられるようになっている。しかし、急性脳卒中におけるtPAの使用については議論がある。急性虚血性脳卒中に対するもう1つのインターベンション法は、問題を起こしている血栓を直接的に除去することである。これは、カテーテルを大腿動脈内に挿入して、それを脳循環路に向かわせて、コルク栓抜き様デバイスを投入して血塊を引っ掛け、それを続いて体内から引き出すことによって遂行される。抗凝固療法は再発性脳卒中を予防することができる。非弁膜症性心房細動の患者では、抗凝固療法によって脳卒中を60%減少させることができ、一方、抗血小板薬は脳卒中を20%減少させることができる。しかし、最近のメタアナリシスは、塞栓性脳卒中の後に早期に開始した抗凝固療法による害を示唆している。
【0092】

癌は、一群の細胞が、制御されない増殖(正常な限界を超えた分裂)、浸潤(隣接組織への侵入および破壊)および時には転移(リンパ液または血液を介した体内の他の場所への広がり)を呈する疾患群である。これらの3つの悪性特性により、癌は、自己限定的で(self-limited)、浸潤も転移もしない良性腫瘍と識別される。ほとんどの癌は腫瘍を形成するが、白血病のような一部のものはそうでない。癌の研究、診断、治療および予防にかかわる医学の部門は腫瘍学である。
【0093】
ほぼすべての癌が、悪性転換細胞の遺伝物質における異常によって引き起こされる。これらの異常は、喫煙、放射線照射、化学物質または感染性病原体のような発癌物質の影響に起因することがある。癌を促進するその他の遺伝的異常は、DNA複製の誤りによって無作為に獲得されることもあれば、または遺伝性であって、そのためすべての細胞に出生時から存在することもある。癌の遺伝性は通常、発癌物質と宿主のゲノムとの間の複雑な相互作用によって影響される。DNAメチル化およびマイクロRNAといった、癌の発生病理に関する遺伝学の新たな局面は、ますます重要であると認識されるようになっている。
【0094】
診断は通常、病理医による組織生検標本の組織学的検査を必要とするが、悪性腫瘍の最初の徴候が症状または放射線画像検査での異常であることもある。具体的な種類、場所または病期にもよるが、ほとんどの癌は治療することができ、治癒するものもある。ひとたび診断されれば、癌は通常、外科手術、化学療法および照射療法の組み合わせによって治療される。
【0095】
放射線療法(照射療法、X線療法または照射とも呼ばれる)は、癌細胞を死滅させ、腫瘍を縮小させるために電離放射線を用いることである。放射線療法は、外部ビーム照射療法(EBRT)を介して体外から、または近接照射療法を用いて体内から投与することができる。放射線療法は、脳、乳房、頸部、喉頭、肺、膵臓、前立腺、皮膚、胃、子宮の癌、または軟部組織肉腫を含む、ほぼあらゆる種類の固形腫瘍を治療するために用いることができる。放射線はまた、白血病およびリンパ腫を治療するためにも用いられる。各部位に対する放射線の線量は、それぞれの癌の種類の放射線感受性、ならびに放射線によって障害を受ける可能性のある組織および臓器が近傍にあるか否かを含む、さまざまな要因に応じて決まる。このため、あらゆる治療形態と同様に、放射線療法にも副作用がないわけではない。
【0096】
化学療法は、癌細胞を破壊しうる薬物による癌の治療である。現行の用法では、「化学療法」という用語は通常、急速に分裂する細胞全般に影響を及ぼす細胞毒性薬剤のことを指し、この点は標的化療法(以下を参照)と対照的である。化学療法薬は、例えば、DNAの複製または新たに形成された染色体の分離の妨害のように、考えられるさまざまなやり方で細胞分裂を妨害する。化学療法のほとんどの形態は、急速に分裂するすべての細胞を標的とし、癌細胞に対して特異的ではないものの、多くの癌細胞はDNA損傷を修復することができず、一方、正常細胞は一般にそれを行えることから、ある程度の特異性が得られることもある。それ故に、化学療法は、健常組織、特に置換率の高い組織(例えば、腸の内層)を害する可能性がある。これらの細胞は通常、化学療法後に自らを修復する。ある種の薬物は単独でよりも組み合わせた方がより優れた働きをするため、しばしば、2つまたはそれ以上の薬物が同時に投与される。これは「併用化学療法」と呼ばれ、実際にほとんどの化学療法レジメンは併用して投与される。
【0097】
標的化療法は、1990年代後期になって初めて利用可能になったもので、ある種の癌の治療に大きな影響を及ぼしており、現在、非常に活発な研究領域となっている。これは、癌細胞の脱調節化タンパク質に対して特異的な作用物質の使用に相当する。低分子標的化療法薬は一般に、突然変異した、過剰発現される、または癌細胞において他の点で決定的に重要なタンパク質の酵素ドメインの阻害物質である。顕著な例には、チロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブおよびゲフィチニブがある。
【0098】
モノクローナル抗体療法はもう1つの戦略であり、この場合、治療薬は、癌細胞の表面にあるタンパク質と特異的に結合する抗体である。その例には、乳癌の治療に用いられる抗HER2/neu抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin))、および種々のB細胞悪性腫瘍に用いられる抗CD20抗体であるリツキシマブが含まれる。
【0099】
また、標的化療法が、細胞表面受容体、または腫瘍を取り囲む冒された細胞外マトリックスと結合する「自動誘導装置(homing device)」としての低分子ペプチドを伴うこともできる。このペプチド(例えば、RGD)に付着させた放射性核種は、その核種が細胞の近くで崩壊すると最終的には癌細胞を死滅させる。これらの結合モチーフのオリゴマーまたはマルチマーは、これが腫瘍特異性および結合活性の強化をもたらしうることから、特に関心が持たれる。
【0100】
光力学療法(PDT)は、光感受性物質、組織酸素および光(多くの場合はレーザーを用いる)を伴う、癌に対する三成分治療法(ternary treatment)である。PDTは基底細胞癌(BCC)または肺癌に対する治療として用いることができる;PDTはまた、大きな腫瘍の外科的除去後に微量の悪性組織を除去する上でも有用なことがある。
【0101】
癌免疫療法は、患者自身の免疫系を誘導して腫瘍と闘わせるように設計された、多様な一連の治療戦略のことを指す。腫瘍に対する免疫応答を生じさせるための最新の方法には、表在性膀胱癌に対する膀胱内BCG免疫療法、ならびに腎細胞癌および黒色腫の患者における免疫応答を誘導するためのインターフェロンおよび他のサイトカインの使用が含まれる。特異的免疫応答を生じさせるためのワクチンは、さまざまな腫瘍、とりわけ悪性黒色腫および腎細胞癌に対する徹底的な研究の対象となっている。シプロイセル-T(Sipuleucel-T)は、前立腺癌に対する後期臨床試験が行われているワクチン類似の戦略であり、この場合は、前立腺由来の細胞に対する特異的免疫応答を誘導するために、患者由来の樹状細胞に前立腺酸性フォスファターゼペプチドを添加する。
【0102】
同種造血幹細胞移植(遺伝的に同一でないドナーからの「骨髄移植」)は、ドナーの免疫細胞がしばしば、移植片対腫瘍効果として知られる現象において腫瘍を攻撃することから、免疫療法の一形態とみなすことができる。この理由から、同種HSCTはいくつかの種類の癌に対しては自己移植よりも高い治癒率をもたらすが、ただし、副作用もより重篤である。
【0103】
いくつかの癌の増殖は、ある種のホルモンを提供するかまたは遮断することによって阻害することができる。ホルモン感受性腫瘍の一般的な例には、ある種の乳癌および前立腺癌が含まれる。エストロゲンまたはテストステロンの除去または遮断は、しばしば重要な追加治療となる。ある種の癌では、プロゲストゲンなどのホルモンアゴニストの投与が治療上有益なことがある。
【0104】
血管新生阻害物質は、腫瘍が生き延びるために必要とする、血管の広範な増殖(血管新生)を阻止する。ベバシズマブのような一部のものは承認されて臨床に用いられている。抗血管新生薬に関連した大きな問題の1つは、正常細胞および癌において多くの因子が血管増殖を刺激することである。抗血管新生薬は1つの因子のみを標的とし、そのため他の因子は血管増殖を刺激し続ける。他の問題には、投与経路、安定性および活性の維持、ならびに腫瘍血管構造での標的化が含まれる。
【0105】
リスク
本発明はまた、前述の疾病状態のいずれかに対するリスクのある個体を治療することも想定している。これらの個体には、アテローム性動脈硬化、肥満、喘息、関節炎、乾癬および/または失明に罹患している人が含まれると考えられる。
【0106】
C.併用療法
もう1つの態様においては、miR-126のモジュレーターを他の治療手段と組み合わせて用いることも想定される。すなわち、上記の治療法に加えて、患者に対して、より多くの「標準的な」薬物療法を与えることもできる。併用は、細胞、組織もしくは対象を、両方の作用物質を含む単一の組成物もしくは医薬製剤と接触させることにより、または細胞を、一方の組成物が発現構築物を含み、もう一方が作用物質を含む、2種類の異なる組成物または製剤と同時に接触させることによって達成しうる。または、miR-126のモジュレーターを用いる治療法を、数分間から数週間の範囲にわたる間隔をおいて、他の作用物質の投与の前または後に行うこともできる。他の作用物質および発現構築物を細胞に対して別々に適用する態様においては、一般に、作用物質および発現構築物が細胞、組織または対象に対して有利な併用効果を依然として発揮しうるように、各々の送達時点の間に有効な期間が過ぎないように徹底されると考えられる。そのような場合には、典型的には、細胞を両方の治療手段と互いに約12〜24時間以内に、より好ましくは互いに約6〜12時間以内に接触させることが考えられ、約12時間のみの遅延時間が最も好ましい。しかし、状況によっては、各々の投与の間に数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週)の間隔をおき、治療のための期間を大きく延長することが望ましいこともある。
【0107】
また、miR-126のモジュレーターまたは他の作用物質のうちいずれかの複数回の投与が望ましい場合も考えられる。これに関しては、さまざまな組み合わせを用いることができる。実例を挙げると、miR-126のモジュレーターを「A」、もう一方の作用物質を「B」とした場合、合計3回および4回の投与としては以下の順列が例示的である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B B/A/A A/B/B B/B/B/A B/B/A/B
A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A B/A/B/A B/A/A/B B/B/B/A
A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A A/B/B/B B/A/B/B B/B/A/B
【0108】
その他の組み合わせも同様に考えられる。
【0109】
D.薬理学的治療薬
薬理学的治療薬および投与の方法、投与量などは、当業者に周知であり(例えば、"Physicians Desk Reference," Klaassen's "The Pharmacological Basis of Therapeutics," "Remington's Pharmaceutical Sciences,"および"The Merck Index, Eleventh Edition,"を参照のこと。これらは関連部分が参照により本明細書に組み入れられる)、本明細書における開示に鑑みて、本発明と組み合わせることができる。治療される対象の状態に応じて、投与量のある程度の変更は必然的に生じることになると考えられる。いずれにせよ、投与を担当する者は個々の対象に対する適切な投与量を決定することになると考えられ、そのような個々の決定は当業者の技能の範囲内にある。
【0110】
本発明において用いうる薬理学的治療薬の非限定的な例には、抗高リポタンパク血症薬、抗動脈硬化薬、抗血栓/線維素溶解薬、血液凝固薬、抗不整脈薬、抗高血圧薬、血管収縮薬、うっ血性心不全の治療薬、抗狭心症薬、抗菌薬、またはこれらの組み合わせが含まれる。miR-126モジュレーターとの組み合わせが同じく考えられるものには、上記のセクションIIIA〜Bで考察した作用物質/治療法の任意のものがある。
【0111】
E.治療法の調節
本発明はまた、miR-126アゴニストまたはアンタゴニストを治療後に捕捉(scavenge)または排除するための方法も考えている。本方法は、miR-126アンタゴニストに対する結合部位を標的組織において過剰発現させる段階を含みうる。もう1つの態様において、本発明は、miR-126を治療後に捕捉または排除するための方法を提供する。1つの態様において、本方法は、miR-126に対する結合部位領域を標的組織において過剰発現させる段階を含みうる。結合部位領域は、好ましくは、miR-126に対するシード領域の配列を含む。いくつかの態様において、結合部位は、miR-126の1つまたは複数の標的、例えばSpred-1の3' UTR由来の配列を含みうる。もう1つの態様において、miR-126の後に、そのmiRNAの機能を減弱または停止させるために、miR-126アンタゴニストを投与することもできる。
【0112】
F.医薬製剤および患者への投与のための経路
臨床適用を考える場合には、薬学的組成物を、意図した用途に適した形態で調製することになる。これは一般に、発熱物質も、さらにはヒトまたは動物に対して有害な恐れのある他の不純物も本質的に含まない組成物を調製することを必然的に伴う。
【0113】
送達ベクターを安定に保つとともに標的細胞による取り込みを可能にする、適切な塩および緩衝液を用いることが一般に望ましい。緩衝液はまた、組換え細胞を患者に導入する時にも用いられると考えられる。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒質中に溶解または分散された、ベクターまたは細胞の有効量を含む。「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与された時に、有害反応も、アレルギー反応も、他の不都合な反応ももたらさない分子実体および組成物のことを指す。本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される担体」には、ヒトへの投与に適する医薬品のような医薬品の製剤化に用いるのに許容される、溶媒、緩衝液、溶液、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質に対するこのような媒質および作用物質の使用は、当技術分野において周知である。従来の任意の媒質または作用物質が本発明の有効成分と適合しない場合を除き、治療用組成物におけるその使用が想定される。組成物のベクターまたは細胞を不活性化しない限り、補助的な有効成分を組成物に組み入れることもできる。
【0114】
本発明の活性組成物には、古典的な医薬製剤が含まれうる。本発明によるこれらの組成物の投与は、標的組織にその経路を介して到達可能である限り、任意の一般的な経路を介してよい。これには経口的、鼻腔内または口腔内が含まれる。または、投与が、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内もしくは静脈内注射によってもよく、または心筋組織中への直接の注射によってもよい。そのような組成物は通常、前記のように、薬学的に許容される組成物として投与される。
【0115】
また、活性化合物を非経口的または腹腔内に投与してもよい。実例を挙げると、遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤とともに適切に混合された水中で調製することができる。また、分散液をグリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物の中、ならびに油中で調製することもできる。通常の保存および使用の条件下において、これらの製剤は一般に、微生物の増殖を防止するための保存料を含む。
【0116】
注射使用に適する医薬形態には、例えば、滅菌水性溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用滅菌粉末が含まれる。一般に、これらの製剤は無菌であり、容易な注射が可能である程度に流動性である。製剤は、製造および保存の条件下において安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して防御されるべきである。適切な溶媒または分散媒には、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、および植物油が含まれうる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散液の場合には必要とされる粒径の維持により、さらには界面活性剤の使用により、維持することができる。微生物活動の阻止は、さまざまな抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合には、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の長時間にわたる吸収は、組成物中に吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどを用いることによってもたらすことができる。
【0117】
滅菌注射用溶液は、所望に応じて他の任意の成分(例えば、上に列挙した成分)とともに、溶媒中に適量の活性化合物を組み入れた後に、濾過滅菌を行うことによって調製することができる。一般に、分散液は、さまざまな滅菌済みの有効成分を、基本的な分散媒および所望の他の成分、例えば、上に列挙した成分を含む滅菌媒体中に組み入れることによって調製される。滅菌注射用溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法には、有効成分と、事前に滅菌濾過したその溶液からの任意の所望の追加成分とを加えた粉末が生成される、真空乾燥法および凍結乾燥法が含まれる。
【0118】
経口投与の場合、本発明のポリペプチドは一般に、添加剤とともに組み入れて、非嚥下用の口腔洗浄液および歯磨剤の形態で用いることができる。口腔洗浄液は、必要量の有効成分を、ホウ酸ナトリウム溶液(ドベル溶液)などの適切な溶媒中に組み入れて調製することができる。または、有効成分を、ホウ酸ナトリウム、グリセリンおよび重炭酸カリウムを含む防腐洗浄液中に組み入れることもできる。有効成分を、ゲル、ペースト、粉末およびスラリーを含む歯磨剤中に分散させることもできる。有効成分を、水、結合剤、研磨剤、香味剤、発泡剤および保湿剤を含みうるペースト状の歯磨剤の中に、治療的有効量で添加することもできる。
【0119】
本発明の組成物は一般に、中性または塩の形態で製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、例えば、無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)に由来する、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成されたもの)が含まれる。タンパク質の遊離カルボキシル基との間で形成される塩は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄など)または有機塩基(イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンまたはプロカインなど)に由来してもよい。
【0120】
製剤化した上で、溶液は好ましくは、投与製剤に適合する様式で、治療的に有効な量として投与される。製剤は、注射液、薬物放出カプセルなどのさまざまな剤形として容易に投与することができる。例えば、水溶液による非経口投与の場合、一般に、溶液を適度に緩衝化して、液体希釈剤をまず、例えば十分な食塩水またはグルコースを用いて等張化する。そのような水溶液は、例えば、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に用いることができる。特に本発明の観点からは、当業者に公知であるような滅菌水性媒質を用いることが好ましい。実例を挙げると、単回用量を1mlの等張NaCl溶液中に溶解させて、1000mlの皮下注入液に添加するか、または推奨注入部位に注射することができる(例えば、"Remington's Pharmaceutical Sciences" 15th Edition, pages 1035-1038および1570-1580を参照)。治療される対象の状態に応じて、投与量のある程度の変更は必然的に生じることになると考えられる。いずれにせよ、投与を担当する者が、個々の対象に対する適切な投与量を決定することになると考えられる。さらに、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDAの生物製剤部門(FDA Office of Biologics standards)が要求している無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0121】
IV.キット
本明細書に記載した任意の組成物を、キットに含めることができる。非限定的な例においては、個々のmiRNAモジュレーター(例えば、miRNA、発現構築物、アンタゴミア)をキットに含める。キットはさらに、水、および、miRNAの2本鎖のハイブリダイゼーションを促進するハイブリダイゼーション緩衝液を含みうる。キットはまた、細胞へのmiRNAの送達を促進する1つまたは複数のトランスフェクション試薬を含んでもよい。
【0122】
キットの成分は、水性媒質中にある状態で、または凍結乾燥形態でパッケージ化することができる。キットの容器手段は一般に、その中に成分を入れて、好ましくは適切に分注することのできる、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段を含むと考えられる。キット中に複数の成分が存在する場合(標識試薬および標識を一緒にパッケージ化してもよい)、キットはまた、一般に、その中に追加成分を個別に入れることのできる第2、第3または他の追加の容器も含むと考えられる。しかし、1つのバイアル中に成分のさまざまな組合せを含めてもよい。本発明のキットはまた、典型的には、販売用に厳重に封じ込められた状態にある、核酸を収容する手段、および他の任意の試薬容器も含むと考えられる。そのような容器には、所望のバイアルが保持される、射出成形またはブロー成形によるプラスチック製容器が含まれうる。
【0123】
キットの成分が1種および/または複数種の液体溶液で提供される場合、液体溶液は水溶液であり、滅菌水溶液が特に好ましい。
【0124】
しかし、キットの成分を、乾燥粉末として提供してもよい。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、適切な溶媒の添加によって再構成することができる。また、溶媒を別の容器手段によって提供してもよいことが想定される。
【0125】
容器手段には一般に、その中に核酸製剤が入れられ、好ましくは適切に配分される、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジおよび/または他の容器手段が含まれると考えられる。キットはまた、無菌の薬学的に許容できる緩衝液および/または他の希釈剤を収容するための第2の容器手段を含んでもよい。
【0126】
本発明のキットはまた、典型的には、販売用に厳密に封じ込められた状態でバイアルを収容するための手段、例えば、所望のバイアルが内部に保持される、射出成形および/またはブロー成形によるプラスチック製容器なども含むと考えられる。
【0127】
そのようなキットはまた、miRNAを保存もしくは維持する成分、またはそれを分解から防御する成分も含みうる。そのような成分は、RNAアーゼ非含有性でもよく、RNAアーゼに対して防御性であってもよい。そのようなキットは一般に、それぞれの個々の試薬または溶液用の個別の容器を、適切な手段の中にある状態で含むと考えられる。
【0128】
キットはまた、キット成分を用いるための、さらにはキットに含まれない他の任意の試薬の使用に関する指示書も含む。説明書には、実施可能な変法を含めてもよい。
【0129】
そのような試薬は、本発明のキットの態様であると考えている。しかし、そのようなキットは、上記に特定した個別的な項目には限定されず、miRNAの操作または特性決定のために用いられる任意の試薬も含んでよい。
【0130】
V.スクリーニング方法
本発明はさらに、以上に考察した予防または治療において有用な、miR-126のモジュレーターを同定するための方法を含む。これらのアッセイは、候補物質の大規模ライブラリーのランダムなスクリーニングを含みうる;または、miR-126の発現および/または機能をモジュレートする可能性をより高くすると考えられる構造的な属性に着眼して選択された特定のクラスの化合物に焦点を合わせるためにアッセイを用いてもよい。
【0131】
miR-126のモジュレーターを同定するためには、一般に、候補物質の存在下および非存在下においてmiR-126の機能を決定する。例えば、ある方法は一般に、以下の段階:
(a)候補モジュレーターを提供する段階;
(b)候補モジュレーターをmiR-126と混合する段階;
(c)miR-126活性を測定する段階;および
(d)段階(c)における活性を、候補モジュレーターの非存在下における活性と比較する段階、を含み、
測定された活性の間の差により、候補モジュレーターが実際にmiR-126のモジュレーターであることが指し示される。
【0132】
また、アッセイを、単離された細胞、臓器または生体において実施してもよい。
【0133】
当然ながら、有効な候補物質が見いだされないことがあるという事実にもかかわらず、本発明のすべてのスクリーニング方法が本質的に有用であることは理解されるであろう。本発明は、そのような候補物質に関するスクリーニングのための方法を提供するのであり、それらを見いだす方法のみを提供するのではない。
【0134】
A.モジュレーター
本明細書で用いる場合、「候補物質」という用語は、miR-126の血管新生調節的な局面をモジュレートする可能性のある任意の分子を指す。典型的には、有用な化合物の同定を「総当たり的に試みる(brute force)」ための取り組みにおいて、さまざまな商業的供給源から、有用な薬物の基本的な基準を満たすと考えられる分子ライブラリーを得ることが考えられる。コンビナトリアル的に作製されたライブラリー(例えば、アンタゴミアのライブラリー)を含む、そのようなライブラリーのスクリーニングは、関連する(および関連しない)多数の化合物を活性に関してスクリーニングするための、迅速かつ効率的なやり方である。コンビナトリアルアプローチはまた、活性はあるがその他の点では望ましくない化合物をモデルとした第2、第3および第4の世代の化合物の創出による、可能性のある薬物の迅速進化にも役立つ。
【0135】
B.インビトロアッセイ
迅速で、廉価で、容易に行えるアッセイの1つは、インビトロアッセイである。そのようなアッセイは一般に、単離された分子を用い、迅速かつ多数において行うことができ、それにより、短期間で得ることのできる情報量を増大させる。試験管、プレート、ディッシュ、および試験紙またはビーズといった他の表面を含むさまざまな器(vessel)を、アッセイを行うために用いることができる。
【0136】
化合物のハイスループットスクリーニングのための手法は、WO 84/03564号に記載されている。多数の小型核酸を、プラスチック製ピンまたはある種の他の表面のような固体基質上で合成することができる。そのような分子を、それらがmiR-126とハイブリダイズする能力に関して迅速にスクリーニングすることができる。
【0137】
C.インサイトアッセイ
本発明はまた、細胞におけるmiR-126の活性および発現をモジュレートする能力に関する化合物のスクリーニングも考えている。この目的のために特別に人為的に操作された細胞を含む、内皮細胞および造血細胞に由来するものを含めたさまざまな細胞株を、そのようなスクリーニングアッセイに用いることができる。
【0138】
本発明はまた、miR-126活性がモジュレートされたか否かを判定するために、miR-126標的遺伝子の発現を調べることも考えている。すなわち、表3または4に示された遺伝子標的の任意のものをスクリーニング戦略の一環として調べることが可能と考えられ、都合よく、多数のこれらの標的に注目することもできる。
【0139】
D.インビボアッセイ
インビボアッセイは、特定の欠損を有するか、または候補物質が生体内の種々の細胞に到達して作用を及ぼす能力を測定するのに用いうるマーカーを保有するように人為的に操作されたトランスジェニック動物を含む、異常に考察した血管疾患のさまざまな動物モデルの使用を伴う。そのサイズ、取り扱いの容易さ、ならびにその生理的および遺伝的構成に関する情報の点から、マウスは、特に遺伝子導入研究のための好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマおよびサル(チンパンジー、テナガザルおよびヒヒを含む)を含む、他の動物も同様に適している。阻害物質に関するアッセイは、これらの種のうち任意のものに由来する動物モデルを用いて行いうる。
【0140】
被験化合物による動物の治療は、動物に対する、適切な形態にある化合物の投与を伴うと考えられる。投与は、臨床目的に利用しうるであろう任意の経路によると考えられる。インビボでの化合物の有効性の判定には、非常にさまざまな基準がかかわりうる。また、毒性および用量反応の測定は、インビトロまたはインサイトアッセイにおけるよりも動物における方が、より意味のある様式で行うことができる。
【0141】
VI.クローニング、遺伝子導入および発現のためのベクター
ある態様においては、発現ベクターを、miR-126またはその関連分子(例えば、アンタゴミア)を発現させるために用いる。発現はベクター中に適切なシグナルを用意することを必要とし、これには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を起こさせる、ウイルスおよび哺乳動物双方の源に由来するエンハンサー/プロモーターのような、さまざまな調節エレメントが含まれる。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するように設計されたエレメントも明示されている。産物を発現する永続的で安定した細胞クローンを樹立するためのさまざまな優性薬剤選択マーカーの使用に関する条件も提示されており、薬剤選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と関連づけるエレメントについても同様である。
【0142】
A.調節エレメント
本出願の全体を通じて、「発現構築物」という用語は、その中の核酸コード配列の一部またはすべてが転写されうる、遺伝子産物をコードする核酸を含む任意の種類の遺伝子構築物を含むものとする。一般に、遺伝子産物をコードする核酸はプロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」とは、遺伝子の特異的な転写を開始するのに必要とされる、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列のことを指す。「転写制御下にある」という語句は、プロモーターが、RNAポリメラーゼによる転写開始および遺伝子の発現を制御するのに、核酸との関係で正しい位置および向きにあることを意味する。
【0143】
プロモーターという用語は、本明細書において、RNAポリメラーゼIIによる転写開始部位の周りに集まっている一群の転写制御モジュールを指して用いられる。いかにしてプロモーターが組織化されるかについての考えの大半は、HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写ユニットに関するものを含む、いくつかのウイルスプロモーターの分析から得られている。これらの研究は、より最近の業績による補強を経て、プロモーターが、それぞれおよそ7〜20bpのDNAからなり、転写アクチベータータンパク質または転写リプレッサータンパク質に対する1つまたは複数の認識部位を含む、離散的な機能モジュールで構成されることを示している。
【0144】
各プロモーター中の少なくとも1つのモジュールは、RNA合成の開始部位を定めるように機能する。この最も周知の一例はTATAボックスであるが、哺乳動物ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターのような、TATAボックスを欠く一部のプロモーターでは、転写開始部位に重なる離散的なエレメント自体が、転写開始の位置を確定する一助となる。
【0145】
また別のプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは転写開始部位の30〜110bp上流の領域に位置するが、数多くのプロモーターは転写開始部位の下流にも機能エレメントを含むことが最近示されている。エレメントが互いに対して逆位になったり移動したりした場合にもプロモーター機能が保たれるように、プロモーターエレメント間の間隔には順応性があることが多い。tkプロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔を50bpまで拡げることでようやく活性が低下し始める。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協調的に機能して転写を活性化することもあれば独立して機能することもあるように思われる。
【0146】
他の態様においては、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスの長い末端反復配列、ラットインスリンプロモーター、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを用いて、関心対象のコード配列の高レベルの発現を得ることができる。発現レベルが所与の目的に対して十分であるという前提で、関心対象のコード配列の発現を達成するための当技術分野で周知の他のウイルスプロモーターまたは哺乳動物細胞プロモーターまたは細菌ファージプロモーターの使用も考えている。
【0147】
周知の特性を有するプロモーターを用いることにより、トランスフェクションまたは形質転換後の関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを最適化することができる。さらに、特定の生理的シグナルに応じて調節されるプロモーターを選択すれば、遺伝子産物の誘導発現を可能にすることができる。表1および2は、本発明に関連して関心対象の遺伝子の発現を調節するために用いうる、いくつかの調節エレメントを列記している。この一覧は、遺伝子発現のプロモーションに関与する、考えられるすべてのエレメントに対して網羅的であることを意図してはおらず、単にその例示であることを意図している。
【0148】
エンハンサーは、同じDNA分子上の離れた位置にあるプロモーターによる転写を増大させる遺伝子エレメントである。エンハンサーは、プロモーターとよく似た様式で組織化される。すなわち、それらは、それぞれが1つまたは複数の転写タンパク質と結合する、多数の個別的なエレメントで構成される。
【0149】
エンハンサーとプロモーターとの間の基本的な違いは動作上のものである。エンハンサー領域は全体として、ある距離を隔てた転写を刺激する能力を有しなければならず、これは、プロモーター領域またはその構成要素であるエレメントについてはそうである必要はない。一方、プロモーターは、ある特定の部位で特定の向きのRNA合成の開始を導く1つまたは複数のエレメントを有しなければならないものの、エンハンサーはこれらの特異性を持たない。プロモーターおよびエンハンサーは往々にして部分的に重なったり連続したりしており、多くの場合、極めて類似したモジュール構成を有するように思われる。
【0150】
以下は、発現構築物において関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて用いうると考えられる、ウイルスプロモーター、細胞プロモーター/エンハンサー、および誘導性プロモーター/エンハンサーの一覧である(表1および表2)。加えて、プロモーター/エンハンサーの任意の組み合せ(真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)を、遺伝子発現を導くために用いることも可能と考えられる。送達用複合体の一部として、または追加の遺伝子発現構築物として、適切な細菌ポリメラーゼが用意されれば、真核細胞は、ある種の細菌プロモーターによる細胞質中転写を下支えすることができる。
【0151】
(表1)プロモーターおよび/またはエンハンサー


【0152】
(表2)誘導性エレメント

【0153】
特に関心対象となるのは、Tie1、Tie2、Ve-カドヘリン、EGFL7/miR-126プロモーターなどの内皮細胞プロモーター、および心筋特異的プロモーターを含む筋肉特異的プロモーターである。これらには、ミオシン軽鎖-2プロモーター(Franz?et al., 1994;Kelly et al., 1995)、α-アクチンプロモーター(Moss et al., 1996)、トロポニン1プロモーター(Bhavsar et al., 1996);Na+/Ca2+交換因子プロモーター(Barnes et al., 1997)、ジストロフィンプロモーター(Kimura et al., 1997)、α7インテグリンプロモーター(Ziober and Kramer, 1996)、脳ナトリウム利尿ペプチドプロモーター(LaPointe et al., 1996)およびαB-クリスタリン/小型熱ショックタンパク質プロモーター(Gopal-Srivastava, 1995)、α-ミオシン重鎖プロモーター(Yamauchi-Takihara et al., 1989)およびANFプロモーター(LaPointe et al., 1988)が含まれる。
【0154】
cDNAインサートを用いる場合には、典型的には、遺伝子転写物の適正なポリアデニル化を生じさせるポリアデニル化シグナルを含めることが望まれるであろう。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功にとって決定的に重要ではないと考えられ、ヒト成長ホルモンおよびSV40のポリアデニル化シグナルなど、任意のそのような配列を用いてよい。発現カセットのエレメントとして同じく想定しているのはターミネーターである。これらのエレメントは、メッセージレベルを増大させるため、およびカセットから他の配列への読み過しを最小限に抑えるために役立ちうる。
【0155】
B.選択マーカー
本発明のある態様において、細胞は本発明の核酸構築物を含み、発現構築物中にマーカーを含めることによって細胞をインビトロまたはインビボで同定することができる。そのようなマーカーは、発現構築物を含む細胞の容易な同定を可能にする同定可能な変化を細胞に付与すると考えられる。通常は、薬剤選択マーカーを含めることが形質転換体のクローニングおよび選択に役立ち、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子は、有用な選択マーカーである。または、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの酵素を用いてもよい。免疫学的マーカーを用いることもできる。用いられる選択マーカーは、それが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現される能力を有する限りにおいて、特に重要ではないと考えられる。選択マーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
【0156】
C.発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞内に導入することのできるやり方はいくつもある。本発明のある態様において、発現構築物はウイルス、またはウイルスゲノムに由来する人為的に操作された構築物を含む。ある種のウイルスは受容体を介したエンドサイトーシスを経て細胞内に入り、宿主細胞ゲノム中に組み込まれてウイルス遺伝子を安定的かつ効率的に発現する能力があるため、それらは哺乳動物細胞への外来性遺伝子の導入のための魅力ある候補となっている(Ridgeway, 1988;Nicolas and Rubenstein, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして用いられた最初のウイルスは、パポバウイルス(シミアンウイルス40、ウシ乳頭腫ウイルスおよびポリオーマウイルス)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986)ならびにアデノウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986)を含むDNAウイルスであった。これらは外来性DNA配列の収容能力が比較的低く、宿主の範囲も限られている。さらに、許容性細胞におけるその発癌性および細胞変性効果により、安全性の上で懸念がある。それらは最大で8kBの外来性遺伝物質を収容しうるに過ぎないが、種々の細胞株および実験動物に容易に導入することができる(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986)。
【0157】
インビボ送達のための好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。「アデノウイルス発現ベクター」には、(a)構築物のパッケージングを支え、(b)その中にクローニングされたアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含む構築物が含まれるものとする。これに関して、発現は遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0158】
発現ベクターには、アデノウイルスの遺伝的に操作された形態が含まれる。36kBの線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成に関する知見により、アデノウイルスの大きなDNA断片を最大7kBの外来性配列に置換することが可能である(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAは遺伝毒性の恐れのないエピソーム様式で複製することができるため、宿主細胞のアデノウイルス感染では染色体への組込みは生じない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、高度の増幅後にもゲノム再配列は検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期の段階にかかわらず、事実上すべての上皮細胞を感染させることができる。これまでのところ、アデノウイルス感染は、ヒトでは急性呼吸器疾患のような軽度の疾患にのみ関連しているように思われる。
【0159】
アデノウイルスは、その中規模のゲノムサイズ、操作の容易さ、高力価、標的細胞範囲の幅広さ、および高い感染力のために、遺伝子導入ベクターとしての使用に特に適する。このウイルスゲノムの両末端は、ウイルスDNAの複製およびパッケージングのために必要なシスエレメントである100〜200塩基対の逆方向反復配列(ITR)を含む。このゲノムの初期(E)領域および後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される異なる転写単位を含む。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび少数の細胞遺伝子の転写調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現、および宿主細胞シャットオフに関与する(Renan, 1990)。ウイルスキャプシドタンパク質の大半を含む、後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって生み出される単一の一次転写産物の著しいプロセシング後にのみ発現される。MLP(16.8 m.u.に位置する)は感染の後期において特に効率的であり、このプロモーターから生み出されるmRNAはいずれも5'三分節リーダー(TPL)配列を有していることから、それらは翻訳のために好ましいmRNAである。
【0160】
現行のシステムでは、組換えアデノウイルスを、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えによって作製する。2つのプロウイルスベクター間の組換えの可能性があるため、この過程で野生型のアデノウイルスが生じる恐れがある。このため、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが極めて重要である。
【0161】
複製能を欠く現行のアデノウイルスベクターの作製および増殖は、Ad5 DNA断片によってヒト胎児腎細胞から形質転換され、E1タンパク質を構成的に発現する、293細胞と命名された独特なヘルパー細胞株に依存している(Graham et al., 1977)。E3領域はアデノウイルスゲノムにとって不可欠ではないため(Jones and Shenk, 1978)、現行のアデノウイルスベクターは、293細胞の助けを借りて、E1領域内、D3領域内またはその両方に外来性DNAを保有する(Graham and Prevec, 1991)。本来、アデノウイルスは野生型ゲノムのおよそ105%をパッケージングすることができ(Ghosh-Choudhuryet al., 1987)、約2kbのDNAを余分に収容する能力がある。E1領域およびE3領域において置換される約5.5kbのDNAと合わせると、現行のアデノウイルスベクターの最大収容能力は7.5kb未満、またはベクターの全長の約15%未満である。アデノウイルスゲノムの80%超はベクター骨格内に残っており、これがベクターがもたらす細胞傷害性の原因である。また、E1欠失ウイルスの複製能欠損も不完全である。
【0162】
ヘルパー細胞株は、ヒト胎児腎細胞、筋細胞、造血細胞、または他のヒト胎児間葉細胞もしくは上皮細胞などのヒト細胞に由来してよい。または、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対する許容性のある他の哺乳動物種の細胞に由来してもよい。そのような細胞には、例えば、ベロ細胞または他のサル胎児間葉細胞もしくは上皮細胞が含まれる。上述したように、好ましいヘルパー細胞株は293細胞である。
【0163】
Racherら(1995)は、293細胞を培養してアデノウイルスを増殖させるための改良方法を開示した。1つの形式では、100〜200mlの培地を含む1リットルのシリコン処理スピナーフラスコ(Techne, Cambridge, UK)に個々の細胞を接種することにより、天然の細胞凝集物を増殖させる。40rpmでの攪拌後に、細胞生存度をトリパンブルーによって評価する。もう1つの形式では、Fibra-Cel微小担体(Bibby Sterlin, Stone, UK)(5g/l)を以下の通りに用いる。5mlの培地中に再懸濁させた細胞接種物を、250mlエーレンマイヤーフラスコ内の担体(50ml)に添加し、時折攪拌しながら1〜4時間静置する。続いて、培地を50mlの新たな培地に置き換え、振盪を開始する。ウイルス産生のためには、細胞を約80%の集密度まで増殖させ、その後に培地を置き換えて(最終容積の25%まで)、アデノウイルスをMOI 0.05で添加する。培養物を一晩静置し、その後に容積を100%まで増量し、さらに72時間の振盪を開始する。
【0164】
アデノウイルスベクターが複製能欠損性であるか、または少なくとも条件的に欠損性であるという必要条件以外のアデノウイルスベクターの性質は、本発明の実施の成功にとって特に重要ではないと考えられる。アデノウイルスは、42種類の公知の血清型またはサブグループA〜Fのいずれであってもよい。アデノウイルスのサブグループCの5型は、本発明に用いるための条件的複製能欠損アデノウイルスベクターを得るための好ましい出発材料である。これは、5型アデノウイルスが多くの生化学的および遺伝学的情報が知られているヒトアデノウイルスであり、ベクターとしてアデノウイルスを用いるほとんどの構築物に歴史的に用いられてきたためである。
【0165】
上述したように、本発明による典型的なベクターは複製能欠損性であり、アデノウイルスE1領域を有しないと考えられる。したがって、E1コード配列が除去された位置に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入することが最も好都合であると考えられる。しかし、アデノウイルス配列内の構築物の挿入位置は、本発明にとって特に重要ではない。関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを、Karlssonら(1986)によって記載されたように、E3置換ベクターにおいて欠失したE3領域の代わりに挿入してもよく、またはヘルパー細胞株もしくはヘルパーウイルスがE4欠損を代償する場合にはE4領域に挿入してもよい。
【0166】
アデノウイルスは増殖および操作が容易であり、インビトロおよびインビボで幅広い宿主範囲を呈する。この群のウイルスは、例えば、1ml当たり109〜1012プラーク形成単位という高力価で得ることができ、それらは感染力が高い。アデノウイルスのライフサイクルは、宿主細胞ゲノム中への組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達された外来性遺伝子はエピソーム性であり、そのため宿主細胞に対する遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスによるワクチン接種の試験では副作用は全く報告されておらず(Couch et al., 1963;Top et al., 1971)、このことはインビボ遺伝子導入ベクターとしてのそれらの安全性および治療能力を実証している。
【0167】
アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levrero et al., 1991;Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992;Graham and Prevec, 1991)に用いられている。最近、動物試験により、組換えアデノウイルスを遺伝子治療に用いうる可能性が示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991;Stratford-Perricaudet et al., 1990;Rich et al., 1993)。種々の組織に組換えアデノウイルスを投与した試験には、気管内点滴注入(Rosenfeld et al., 1991;Rosenfeld et al., 1992)、筋肉内注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)、および定位的脳内接種(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。
レトロウイルスは、感染細胞内においてそのRNAを逆転写過程によって二本鎖DNAに変換する能力によって特徴づけられる、一本鎖RNAウイルスの一群である(Coffin, 1990)。その結果生じたDNAは、続いてプロウイルスとして細胞染色体内に安定的に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を導く。この組込みは、レシピエント細胞およびその子孫におけるウイルス遺伝子配列の保持をもたらす。レトロウイルスゲノムは、キャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ成分をそれぞれコードする、gag、polおよびenvという3つの遺伝子を含む。gag遺伝子の上流に認められる配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含む。ウイルスゲノムの5'末端および3'末端には、2つの長い末端反復(LTR)配列が存在する。これらは強力なプロモーター配列およびエンハンサーの配列を含み、宿主細胞ゲノム中での組込みのためにも必要である(Coffin, 1990)。
【0168】
レトロウイルスベクターを構築するためには、関心対象の遺伝子をコードする核酸をウイルスゲノム中の特定のウイルス配列の位置に挿入して、複製能が欠損したウイルスを作製する。ビリオンを作製するためには、gag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子を含むがLTRおよびパッケージング成分は含まないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., 1983)。cDNAをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列とともに含む組換えプラスミドをこの細胞株に導入すると(例えば、リン酸カルシウム沈殿による)、パッケージング配列が組換えプラスミドのRNA転写物をウイルス粒子内にパッケージングし、それが続いて培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986;Mann et al., 1983)。続いて、組換えレトロウイルスを含む培地を収集し、任意には濃縮した上で、遺伝子導入のために用いる。レトロウイルスベクターは幅広いさまざまな細胞種を感染させることができる。しかし、組込みおよび安定的な発現には宿主細胞の分裂が必要である(Paskind et al., 1975)。
【0169】
最近、ウイルスエンベロープに対するラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づく、レトロウイルスベクターの特異的標的化を可能にするように設計された新規なアプローチが開発された。この修飾により、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を行わせることが可能であった。
【0170】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対する、および特定の細胞受容体に対するビオチン化抗体を用いる、組換えレトロウイルスの標的化のための異なるアプローチも設計されている。抗体は、ストレプトアビジンを用いることにより、ビオチン成分とカップリングされた(Roux et al., 1989)。主要組織適合性複合体クラスI抗原およびクラスII抗原に対する抗体を用いて、彼らはインビトロでそのような表面抗原を有する種々のヒト細胞の同種指向性ウイルスによる感染を実証している(Roux et al., 1989)。
【0171】
本発明のすべての局面において、レトロウイルスの使用についてはある種の制約が存在する。例えば、レトロウイルスベクターは通常、細胞ゲノムの任意の部位に組み込まれる。これは、宿主遺伝子の妨害によるか、または隣接遺伝子の機能を妨害しうるウイルス制御配列の挿入により、挿入突然変異誘発につながる恐れがある(Varmus et al., 1981)。欠損性レトロウイルスベクターの使用に伴うもう1つの懸念は、パッケージング細胞における野生型の複製能力を持つウイルスの出現の可能性である。これは、組換えウイルス由来の無傷の配列が、宿主細胞ゲノムに組み込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入される組換えイベントによって起こりうる。しかし、組換えの可能性を大きく低下させるはずと考えられる新たなパッケージング細胞株が現在では利用可能である(Markowitz et al., 1988;Hersdorffer et al., 1990)。
【0172】
その他のウイルスベクターを本発明の発現構築物として用いることもできる。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Hermonat and Muzycska, 1984)およびヘルペスウイルスといったウイルスに由来するベクターを用いることができる。これらは、さまざまな哺乳動物細胞にいくつかの魅力的な特徴を付与する(Friedmann, 1989;Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988;Horwich et al., 1990)。
【0173】
欠損性B型肝炎ウイルスの最近の認知により、種々のウイルス配列の構造-機能の関係について新たな洞察が得られた。インビトロ研究により、このウイルスはそのゲノムの80%までの欠失にもかかわらず、ヘルパー依存性パッケージングおよび逆転写の能力を保持しうることが示された(Horwich et al., 1990)。これにより、ゲノムの大部分を外来性遺伝物質に置き換えうることが示唆された。肝臓指向性および持続性(組込み)は、肝臓を標的とした遺伝子導入にとって特に魅力的な特性であった。Changらは、アヒルB型肝炎ウイルスゲノム中に、ポリメラーゼ、表面および前表面(pre-surface)コード配列の代わりにクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を導入した。これを、野生型ウイルスとともにニワトリ肝癌細胞株にコトランスフェクトした。高力価の組換えウイルスを含む培地を用いて初代仔カモ肝細胞を感染させた。安定なCAT遺伝子発現が、トランスフェクション後少なくとも24日間にわたって検出された(Chang et al., 1991)。
【0174】
センスまたはアンチセンス遺伝子構築物の発現を生じさせるためには、発現構築物が細胞内に送達されなければならない。この送達は、細胞株を形質転換するための実験手順などの場合にはインビトロで行うことができ、または特定の疾病状態の治療などの場合にはインビボもしくはエキソビボで行うことができる。送達のための1つの機序はウイルス感染を介したものであり、この場合には発現構築物は感染性ウイルス粒子内にキャプシド封入される。
【0175】
また、培養哺乳動物細胞内に発現構築物を導入するためのいくつかの非ウイルス的な方法も本発明によって想定されている。これらには、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984)、直接的マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, 1985)、DNA装填リポソーム(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979)およびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速微粒子射入を用いる遺伝子銃法(Yang et al., 1990)、ならびに受容体を介したトランスフェクション(Wu and Wu, 1987;Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの手法のいくつかは、インビボまたはエクスビボ用途のためにうまく適合化することができる。
【0176】
ひとたび発現構築物が細胞内に送達されれば、関心対象の遺伝子をコードする核酸を種々の部位に配置させて発現させることができる。ある態様において、遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノム中に安定に組み込まれうる。この組込みは相同組換えを経て同族の位置および向きにあってもよく(遺伝子置換)、またはランダムな非特異的な位置で組み込まれてもよい(遺伝子増強)。別のさらなる態様において、核酸は、分離したエピソーム性のDNAセグメントとして細胞内に安定的に維持されうる。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞周期とは独立した、または同調した維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現構築物がいかにして細胞に送達されるか、および核酸が細胞のどこに留まるかは、用いる発現構築物の種類に依存する。
本発明のさらにもう1つの態様において、発現構築物は単に裸の組換えDNAまたはプラスミドからなってもよい。構築物の導入は、細胞膜を物理的または化学的に透過性にする上述した方法の任意のものによって行いうる。これはインビトロでの導入に特に適用可能であるが、インビボでの用途にも同様に適用することができる。Dubenskyら(1984)は、成体および新生マウスの肝臓および脾臓内に、リン酸カルシウム沈殿物の形態にあるポリオーマウイルスDNAを注入することに成功し、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。また、Benvenisty and Neshif(1986)も、リン酸カルシウム沈殿させたプラスミドの直接腹腔内注入が、トランスフェクトされた遺伝子の発現をもたらすことを実証した。関心対象の遺伝子をコードするDNAをインビボで同様の様式で導入し、遺伝子産物を発現させることができることも想定している。
【0177】
裸のDNA発現構築物の細胞への導入に関する本発明のさらにもう1つの態様は、微粒子射入を含みうる。この方法は、DNAでコーティングした微粒子を高速に加速して細胞膜を貫通させ、細胞を死滅させることなく細胞の中に入れることができることに依存している(Klein et al., 1987)。小さな粒子を加速するためのいくつかの装置か開発されている。そのような1つの装置は高圧放電により電流を生成し、それが結果的に推進力をもたらすことに依拠している(Yang et al., 1990)。用いられている微粒子は、タングステンまたは金ビーズのような生物学的に不活性な物質からなる。
【0178】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋肉組織を含む、選択された臓器に対して、インビボでの射入が行われている(Yang et al., 1990;Zelenin et al., 1991)。これは、銃と標的臓器との間のあらゆる介在組織を除去するために、組織または細胞の外科的露出、すなわちエクスビボ処置を必要とする場合がある。この場合も同様に、特定の遺伝子をコードするDNAをこの方法を介して送達することができ、これもやはり本発明に組み入れられる。
【0179】
本発明の1つのさらなる態様において、発現構築物をリポソーム内に封じ込めてもよい。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部の水性媒質を特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒質によって隔てられた複数の脂質層を有する。これは過剰量の水溶液中にリン脂質を懸濁させた場合に自発的に形成される。脂質成分は閉鎖構造の形成前に自己再配列を生じ、脂質二重層の間に水および溶解した溶質を封じ込める(Ghosh and Bachhawat, 1991)。また、リポフェクタミン-DNA複合体も想定している。
【0180】
インビトロでのリポソームを介した核酸送達および外来性DNAの発現は大きな成功を収めている。Wongら(1980)は、培養したニワトリ胚、HeLa細胞および肝臓癌細胞において、リポソームを介した送達および外来性DNAの発現の実現可能性を実証した。Nicolauら(1987)は、静脈内注射後のラットにおいてリポソームを介した遺伝子導入の成功を成し遂げた。
【0181】
本発明のある態様において、リポソームをセンダイウイルス(HVJ)と複合体化することもできる。これは、細胞膜との融合を容易にし、リポソームに封入されたDNAが細胞に入るのを促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様において、リポソームを核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体化すること、またはそれとともに用いることもできる(Kato et al., 1991)。さらなる別の態様において、リポソームをHVJおよびHMG-1の両方と複合体化すること、またはそれらとともに用いることもできる。そのような発現構築物はインビトロおよびインビボで核酸の導入および発現において成功裏に用いられていることから、それらは本発明に対して適用可能である。細菌プロモーターをDNA構築物中に用いる場合には、リポソームの内部に適切な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいと考えられる。
【0182】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞内に送達するために用いうる他の発現構築物には、受容体を介した送達媒体がある。これらは、ほとんどすべての真核細胞に見られる、受容体を介したエンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを利用する。さまざまな受容体の細胞種特異的な分布が理由となって、送達は極めて特異的となりうる(Wu and Wu, 1993)。
【0183】
受容体を介した遺伝子標的化の媒体は一般に、細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合物質という2つの成分からなる。いくつかのリガンドが、受容体を介した遺伝子導入のために用いられている。最も詳細に特徴づけられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wanger et al., 1990)である。最近、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達媒体として用いられており(Ferkol et al., 1993;Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)もまた扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために用いられている(Myers, EPO 0273085号)。
【0184】
他の態様において、送達媒体はリガンドおよびリポソームを含みうる。例えば、Nicolauら(1987)は、リポソーム内に組み入れたガラクトース末端アシアルガングリオシドの1つであるラクトシル-セラミドを用いて、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加を観察した。このことからみて、特定の遺伝子をコードする核酸を、リポソームを用いるかまたは用いない、さまざまな受容体-リガンド系の任意のものによって、1つの細胞種の中に特異的に送達することも実施可能である。例えば、上皮増殖因子(EGF)を、EGF受容体のアップレギュレーションを呈する細胞内への核酸の送達を媒介するための受容体として用いてもよい。マンノースは、肝臓細胞上のマンノース受容体を標的とするために用いることができる。また、CD5(CLL)、CD22(リンパ腫)、CD25(T細胞白血病)およびMAA(黒色腫)に対する抗体も、標的化モイエティとして同様に用いることができる。
【0185】
1つの特定の態様において、オリゴヌクレオチドを、陽イオン性脂質と組み合わせて投与してもよい。陽イオン性脂質の例には、リポフェクチン、DOTMA、DOPEおよびDOTAPが非限定的に含まれる。参照により明確に組み入れられるWO/0071096号公報は、遺伝子治療に有効に用いることのできる種々の製剤、例えばDOTAP:コレステロール製剤またはコレステロール誘導体製剤などを記載している。他の開示物も、ナノ粒子を含む種々の脂質製剤またはリポソーム製剤、ならびに投与方法について考察している;これらには、米国特許公開第20030203865号、第20020150626号、第20030032615号および第20040048787号が非限定的に含まれ、これらは、それらが核酸の製剤ならびに投与および送達の関連した他の局面を開示している程度に応じて、参照により明確に組み入れられる。また、粒子を形成させるために用いられる方法は、米国特許第5,844,107号、第5,877,302号、第6,008,336号、第6,077,835号、第5,972,901号、第6,200,801号および第5,972,900号に開示されており、これらはその局面に関して参照により組み入れられる。
【0186】
ある態様において、遺伝子導入は、エクスビボの条件下でより容易に行うことができる。エクスビボでの遺伝子治療とは、動物からの細胞の単離、インビトロでの細胞内への核酸の送達、およびその後に改変された細胞を動物体内に戻すことを指す。これは、動物からの組織/臓器の外科的摘出、または細胞および組織の初代培養を含みうる。
【0187】
VII.トランスジェニックマウスの作製方法
本発明の1つの特定の態様は、機能性miR-126アレルの一方または両方を欠くトランスジェニック動物を提供する。また、誘導性プロモーター、組織選択的プロモーターまたは構成的プロモーターの制御下においてmiR-126を発現するトランスジェニック動物、そのような動物に由来する組換え細胞株、およびトランスジェニック胚も、同じく考えている。miR-126をコードする誘導性または抑圧性の核酸の使用は、過剰発現または調節されない発現のモデルを提供する。また、一方または両方のアレルにおいて、miR-126に関して「ノックアウトされた」トランスジェニック動物も考えている。また、一方または両方のクラスターに関する一方または両方のアレルにおいて、miR-126に関して「ノックアウトされた」トランスジェニック動物も考えている。
【0188】
一般的な局面において、トランスジェニック動物は、導入遺伝子の発現を可能とする様式での、ゲノム中への所与の導入遺伝子の組込みによって作製される。トランスジェニック動物を作製するための方法は、Wagner and Hoppe(米国特許第4,873,191号;参照により本明細書に組み入れられる)およびBrinsterら(1985年;参照により本明細書に組み入れられる)によって全般的に記載されている。
【0189】
典型的には、ゲノム配列に挟まれた遺伝子を、受精卵内へのマイクロインジェクションによって導入する。マイクロインジェクションを受けた卵を宿主の雌に移植して、子孫細胞を導入遺伝子の発現に関してスクリーニングする。トランスジェニック動物は、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類および魚類を非限定的に含む、さまざまな動物由来の受精卵から作製することができる。
【0190】
マイクロインジェクション用のDNAクローンは、当技術分野で公知の任意の手段によって調製することができる。例えば、マイクロインジェクション用のDNAクローンを、細菌プラスミド配列を除去するのに適切な酵素で切断して、そのDNA断片を、標準的な手法を用いて、TBE緩衝液中の1%アガロースゲル上で電気泳動させることができる。DNAバンドを臭化エチジウム染色によって可視化し、発現配列を含むバンドを切り出す。続いて、切り出したバンドを、0.3M 酢酸ナトリウム、pH7.0を含む透析バッグ内に入れる。DNAを透析バッグ内に電気的に溶出させ、1:1比のフェノール:クロロホルム溶液で抽出し、2倍容量のエタノールによって沈殿させる。DNAを1mlの低塩濃度緩衝液(0.2M NaCl、20mM Tris、pH 7.4、および1mM EDTA)中に再溶解させ、Elutip-D(商標)カラム上で精製する。カラムをまず、3mlの高塩濃度緩衝液(1M NaCl、20mM Tris、pH 7.4、および1mM EDTA)で下処理し、その後に5mlの低塩濃度緩衝液で洗浄する。DNA溶液をカラム中に3回通過させて、DNAをカラム基質に結合させる。3mlの低塩濃度緩衝液による1回の洗浄後に、DNAを0.4mlの高塩濃度緩衝液で溶出させ、2倍容量のエタノールによって沈殿させる。DNA濃度は、UV分光光度計にて260nmでの吸収によって測定する。マイクロインジェクション用には、DNA濃度を5mM Tris、pH 7.4および0.1mM EDTA中に3μg/mlに調整する。マイクロインジェクションのための他のDNA精製法は、Palmiterら(1982);およびSambrookら(2001)に記載されている。
【0191】
1つの例示的なマイクロインジェクション手順では、6週齢の雌性マウスを、妊娠雌ウマ血清ゴナドトロピン(PMSG;Sigma)の5 IUの注射(0.1cc、腹腔内)、およびその48時間後のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Sigma)の5 IUの注射(0.1cc、腹腔内)により、過剰排卵するように誘導する。hCG注射の直後に雌を雄と一緒に入れる。hCG注射の21時間後に、交尾した雌を、CO2窒息または頸部脱臼により殺処理し、切り出した卵管から胚を回収し、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma)含むダルベッコリン酸緩衝食塩水の中に入れる。周囲の卵丘細胞は、ヒアルロニダーゼ(1mg/ml)により除去する。続いて、前核胚を洗浄し、0.5% BSAを含むアール平衡化塩溶液(EBSS)中に入れて、注射時まで、5% CO2、95%空気の加湿雰囲気下にある37.5℃インキュベーター内に置く。胚は二細胞期で移植することができる。
【0192】
任意周期の成体雌性マウスを、精管切除した雄と交尾させる。C57BL/6もしくはスイスマウスまたは他の同等の系統を、この目的に用いることができる。レシピエントの雌も、ドナーの雌と同時に交尾させる。胚移入の時点で、体重1グラム当たり2.5%のアベルチン0.015mlの腹腔内注射により、レシピエント雌に麻酔を施す。単回の正中線背部切開により、卵管を露出させる。続いて、卵管のすぐ上部の体壁に切開を加える。続いて、時計技師用のピンセットで卵嚢を除去する。移入しようとする胚をDPBS(ダルベッコリン酸緩衝食塩水)中に入れ、移植用ピペット(約10〜12個の胚)の先端に入れる。ピペット先端を卵管漏斗内に挿入して胚を移入する。移入後、2箇所の縫合により、切開部を閉鎖する。
【0193】
VIII.定義
「治療」という用語または文法的等価物は、疾患の症状の改善および/または逆行を範囲に含む。心臓の「生理的機能の改善」は、本明細書に記載した測定値の任意のもののほか、動物の生存に対する任意の効果を用いて評価することができる。動物モデルの使用においては、治療したトランスジェニック動物の反応と未治療のトランスジェニック動物の反応を、本明細書に記載したアッセイの任意のものを用いて比較する(加えて、治療した非トランスジェニック動物および未治療の非トランスジェニック動物を対照として含めてもよい)。
【0194】
「化合物」という用語は、疾患、疾病、病気、または身体機能の障害を治療または予防するのに用いうる、任意の化学的実体、医薬品、薬剤などのことを指す。化合物には、公知の治療用化合物および可能性のある治療用化合物の両方が含まれる。化合物は、本発明のスクリーニング法を用いるスクリーニングにより、治療的であることを判定することができる。「公知の治療用化合物」とは、そのような治療において有効であることが(例えば、動物試験またはヒトへの投与による以前の経験を通じて)示されている治療用化合物のことを指す。換言すれば、公知の治療用化合物は、心不全の治療において有効な化合物には限定されない。
【0195】
本明細書で用いる場合、「アゴニスト」という用語は、「ネイティブな(native)」化合物または「天然」化合物の作用を模倣または促進する化合物のことを指す。アゴニストは、コンフォメーション、電荷または他の特性に関して、これらの天然化合物と同族性であってよい。アゴニストには、関心対象の分子、受容体および/または経路と相互作用する、タンパク質、核酸、糖質、低分子医薬品または他の任意の分子が含まれうる。
【0196】
本明細書で用いる場合、「アンタゴニスト」および「阻害物質」という用語は、ある因子の作用を阻害する分子、化合物または核酸のことを指す。アンタゴニストは、コンフォメーション、電荷または他の特性に関して、これらの天然化合物と同族性であってもよく、またはそうでなくてもよい。アンタゴニストは、アゴニストの作用を阻止するアロステリック効果を有しうる。または、アンタゴニストは、アゴニストの機能を阻止しうる。アンタゴニストおよび阻害物質には、関心対象の受容体、分子および/または経路と結合または相互作用する、タンパク質、核酸、糖質、低分子医薬品または他の任意の分子が含まれうる。
【0197】
本明細書で用いる場合、「モジュレートする」という用語は、生物活性の変化または変更のことを指す。モジュレーションは、タンパク質活性の増大または低下、キナーゼ活性の変化、結合特性の変化、または、関心対象のタンパク質もしくは他の構造の活性に関連する生物特性、機能特性もしくは免疫特性の他の任意の変化のいずれであってもよい。「モジュレーター」という用語は、上記の生物活性を変化させるかまたは変更することのできる、任意の分子または化合物のことを指す。
【0198】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな態様をさらに例示する目的で含められる。当業者には、以下の実施例において開示される手法は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者によって発見された手法および/または組成物を代表するものであり、それ故に、その実施のための好ましい様式を構成すると考えうることが理解されるでべきである。しかし、当業者は、本開示に鑑みて、開示された具体的な態様に多くの変化を加えることができ、それでもなお、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、同様または類似の結果を得ることができることも理解すべきである。
【実施例】
【0199】
実施例1‐材料および方法
miR-126ヌルマウスの作製
miR-126標的化ベクターを作製するために、miR-126コード領域の上流に伸びる5.7kb断片(5'アーム)およびmiR-126コード領域の下流の1.8kb断片(3'アーム)を、pGKneoF2L2dta標的化プラスミド中の、loxP部位およびFrtで挟まれたネオマイシンカセットの上流および下流にそれぞれ挿入した。標的化を行ったmiR-126 ES細胞をサザンブロット分析によってスクリーニングし、胚盤胞内に注入した。生殖細胞系列伝達がキメラ体から得られ、突然変異体miR-126アレルを、miR-126neo/+マウスとCAG-Creトランスジェニックマウスを交雑させることによって得た。
【0200】
冠動脈結紮処置
8〜12週齡の雄性マウスに対して、記載の通りに(van Rooij et al., 2004)、遺伝子型に関して知らされていない外科医によるMI作製のための冠動脈結紮術を行った。手短に述べると、マウスにイソフランで麻酔を施し、20G針による挿管を行った上で、マウス用の従量式人工呼吸装置により、0.1cc/回、呼吸数150サイクル/分での換気を行った。開胸術の後に、LAD動脈の結紮を7-0プロレン縫合糸により行った。偽手術マウスには、左冠動脈の結紮を行わずに同じ処置を行った。胸壁を5.0絹糸による3箇所の単縫合によって閉鎖し、皮膚は外用組織貼付剤(Nexabrand)で閉鎖した。続いてマウスに鎮痛薬の塩酸ブプレノルフィンHCLの後注射を行い、管を抜き、加温パッド(37℃)上に1時間置いて手術から回復させた。すべてのマウスを1〜3週間飼育した上で、心臓の組織学検査および免疫染色のために安楽死させた。動物の手術処置についてはUT Southwestern IACUCによる承認を得た。
【0201】
電子顕微鏡検査
野生型およびmiR-126-/-のE15.5胚の背部から真皮および下層組織を切離し、PBS中の2%グルタルアルデヒド中に24時間おいて固定した。試料を後固定し、PBS中の1%酸化オスミウムで染色した上で、段階的な一連のエタノールおよび酸化プロピレン中で脱水させた。引き続いて組織をEponate 12中に包埋し、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で対比染色して、90nm厚の切片とした。
【0202】
内皮細胞の単離
EC細胞を、記載された通りに(Marelli-Berg et al., 2000)、ラット抗PECAM1抗体(BD Pharmingen)およびDanabead(Dana Biotech)を用いて腎臓から単離した。手短に述べると、細かく刻んだ腎臓をコラーゲナーゼ/ディスパーゼ混合物(3mg/ml、Roch)および0.005%のDNアーゼにより、撹拌しながら37℃で30分間かけて消化させた。続いて細胞を40μmナイロンメッシュに通して濾過し、DMEM+5% FCSで2回洗浄した。0.1%ゼラチンでコーティングしたプレート上で1時間のプレプレーティングを行った後に、浮遊細胞をもう1つのコーティングしたプレートに移して一晩増殖させた。細胞をトリプシン処理し、マウス免疫グロブリン(Chemicon)で30分間かけてブロックして、抗PECAM1とともに4℃でさらに30分間インキュベートした。数回の洗浄後に、細胞をDanabeadsヒツジ抗ラットIgGとともに4℃で30分間インキュベートした。結合しなかった細胞をPBS/0.5% FCSで洗い流し、残りの細胞を、さらなる分析のために、ゼラチンでコーティングしたプレート上にプレーティングした。純度を評価するために、細胞のアリコートをDiI-Ac-LDL(Biomedical Tech)で染色した。
【0203】
RNAおよびウエスタンブロット分析
マウス組織または細胞株から、TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて全RNAを単離した。マイクロRNAを検出するためのノーザンブロット法は、以前の記載の通りに行った(van Rooij et al., 2006)。Sybergreenプローブを用いる通常のRT-PCRまたはリアルタイムRT-PCRを、テンプレートとしての1μgのRNAをランダムヘキサマープライマーとともに用いて用いて行い、cDNAを生成させた。miR-126スプライシング変異体のクローニングのために、ヒト胎盤由来のRace-Ready cDNA(Ambion)を用いた。PCRプライマーの配列入手については要請があれば応じる。ウエスタンブロット分析に関しては、標準的な手順を用いて、タンパク質溶解物をSDS-PAGEで分離させてブロッティングを行った。Spred-1抗体はDr. Kai Schuhにより寄贈いただいた。用いた他の抗体は以下の通りであった:CRK(BD Biosciences)、ERK1/2(Cell signalling)、Phospho-ERK1/2(Cell signaling)およびGAPDH(Abcam)。
【0204】
RNAインサイチューハイブリダイゼーション
RNAインサイチューハイブリダイゼーションは、記載されている通りに行った(Chang et al., 2006)。miR-126配列を含むセンス性およびアンチセンス性のEgfl7イントロン7、ならびにEgfl7エクソン特異的cDNAを、組織切片のインサイチューハイブリダイゼーションのためのプローブとして用いた。
【0205】
miRNAノーザンブロット法
トランスジェニックマウスの作製および分析 導入遺伝子は、Egfl7 50隣接領域からのDNA断片を、hsp68基本プロモーター中のlacZレポーター遺伝子の上流にクローニングすることによって作製した(Kothary et al., 1989)。これらのレポーター構築物をB6C3Fマウス由来の受精卵母細胞内に注入し、偽妊娠ICRマウスに移植した。胚を採取して、b-ガラクトシダーゼ活性に関して染色した。トランスジェニック胚を、lacZプライマー対を用いるPCR分析によって同定した。
【0206】
組織学検査、BrdU標識、TUNELアッセイおよび免疫組織化学検査
組織学検査は記載されている通りに行った(Chang et al., 2006)。BrdU標識のためには、マウスに100μgのBrdU/gを腹腔内注射して、4時間後に殺処理した。ホールマウント免疫染色のためには、胚またはP2網膜を4%パラホルムアルデヒド中で2時間かけて固定し、標準的な手順を用いて、PECAMによる染色用に加工処理した。切片の免疫組織化学検査のためには、胚またはマウス心臓を4%パラホルムアルデヒド中で一晩かけて固定し、標準的な手順を用いて、凍結切片化および単免疫染色または二重免疫染色用に加工処理した。アポトーシスは、インサイチュー細胞検出キット、TMR red(Roche)を用いるTUNELアッセイによって判定した。
【0207】
細胞培養
マウスECの単離は、補遺データ中に記載した通りに行った。HAEC細胞(Clonetics)およびHUVEC細胞(ATCC)を、EC増殖培地(EGM)(Clonetics/Cambrex)中で増殖させた。FGF-2またはVEGF処理のためには、0.1% FBSを含むEC基本培地(EBM-2)中にて24時間かけてECを飢餓状態に置き、続いて増殖因子で指定期間にわたって処理した。miR-126またはlacZを発現するアデノウイルスの作製、および細胞の感染は記載されている通りに行った(Wang et al., 2008)。Spred-1またはGFPを発現するレトロウイルスの作製は、記載されている通りに行った(Nonami et al., 2004)。miR-126-3p阻害物質のトランスフェクションのためには、HAEC細胞に対して、Liptofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、2'-O-メチル-miR-126アンチセンスオリゴヌクレオチド(Ambion)および/もしくはヒトSpred-1 siRNAプール、または対照オリゴヌクレオチドを50nMの濃度でトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後に、細胞を飢餓状態に置き、VEGF-Aで処理して、タンパク質分析のために収集した。miR-126発現は、miR-126-3p starfire(商標)プローブを用いるノーザンブロット分析によって判定した。大動脈環のウイルス感染のためには、Spred-1または対照GFPレトロウイルスを、培養した大動脈環に添加した。miR-126ヌル大動脈環へのマウスSpred-1 siRNAプールのトランスフェクションは、上記の通りに行った。一晩のトランスフェクションまたは感染後に、大動脈環の発芽をモニターするために、大動脈環を新たな培地中で4〜6日間培養した。Spred-1の発現はウエスタンブロット法およびリアルタイムPCR分析によって判定した。
【0208】
レポーターアッセイ
pEgfl7/miR-126の0.5kbの領域1エンハンサー、および部位指定突然変異誘発によって作製した断片のETS DNA結合部位欠失突然変異体を、pGL3ベクター中の、人為的に導入したANF基本プロモーターの上流にクローニングした。24ウェルプレート中のCOS-7細胞に対して、種々の量のEts1発現プラスミドまたはEts1 DNA結合突然変異体発現プラスミドの存在下または非存在下で、50ngのレポータープラスミドをトランスフェクトした(John et al., 2008)。
【0209】
Spred-1 3' UTR、および突然変異誘発によって作製したSpred-1突然変異体3' UTRを、pMIR-REPORTベクター(Ambion)中に定方向的にクローニングした。miR-126ゲノムDNA断片およびmiR-126 m DNA断片はpCMV-Mycベクター中にクローニングした。続いて、Spred-1またはSpred1m UTR構築物を、miR-126またはmiR-126 m発現プラスミドとともに、COS-7細胞にコトランスフェクトした。レポーターアッセイは記載されている通りに行った(Chang et al., 2005)。
【0210】
大動脈環アッセイ
4ウェル培養皿(Nunclon Surface, Nunc)を250mlのマトリゲル(Chemicon)で覆い、37℃、5% CO2の下で15分間かけてゲル化させた。胸部大動脈を4〜6週齡のマウスから摘出した。線維脂肪組織を大動脈から切離し、続いて大動脈を1mm厚ずつの環に切り分け、EGM-2(Cambrex)ですすぎ洗いした上で、マトリゲルでコーティングしたウェルに載せ、さらにマトリゲルで覆った。この大動脈環をEGM-2(Cambrex)+3%マウス血清(Taconic)中で培養した。
【0211】
インビボでのマトリゲルプラグアッセイ
増殖因子を減量させたマトリゲル(BD Bioscience)をヘパリン(60U/ml)およびFGF-2(250ng/ml、R&D)と混合するか、または対照としてPBSと混合した。マトリゲル(0.5ml)を、麻酔したマウスの腹部に皮下注射した。マウスを7日後に安楽死させ、マトリゲルプラグを宿主組織から注意深く切離して、凍結切片への加工処理を行い、PECAM1に関して免疫染色した。
【0212】
掻創アッセイ
掻創アッセイは、記載されている通りに(Wang et al., 2008)、HUVEC細胞を用いて行った。
【0213】
統計分析
統計分析は両側t検定を用いて行った。0.05未満のp値を有意であるとみなした。
【0214】
実施例2‐結果
miR-126の内皮特異的発現
miRNAが心血管の発生および疾患に関与していることを示した最近の研究に鑑みて、本発明者らは、心血管組織に限局しているように思われるmiRNAに関して公開データベースを検索した。いくつかのそのようなmiRNAのうち、miR-126は、心臓および肺のように血管要素が多い組織中に多く存在するように思われた(Lagos-Quintana et al., 2002)。ゼブラフィッシュにおけるmiRNA発現パターンの調査からも、miR-126は血管系に対して特異的であることが示された(Wienholds et al., 2005)。
【0215】
ノーザンブロット分析からは、以前の諸研究に合致して(Harris et al., 2008;Lagos-Quintana et al., 2002;Musiyenko et al., 2008)、miR-126は広範囲にわたる組織中で発現され、中でも肺および心臓における発現が最も高度であることが示された(図1A)。miR-126*は痕跡レベルの発現しか検出できなかった(非提示データ)。細胞株の調査により、miR-126は、初代ヒト臍帯静脈EC(HUVEC)、ならびにMS1、HAECおよびEOMA細胞株を含む数々のEC細胞株では発現されるが、SV40形質転換EC(SVEC)および非内皮性細胞種では発現されないことが明らかになった(図1A)。
【0216】
miR-126(miR-126-3pとも呼ばれる)およびmiR-126*(miR-126-5p)は、フグからヒトまでを通じて保存されている(microrna.sanger.ac.uk/sequences/index.shtml)。哺乳動物および鳥類では、miR-126および-126*は、平滑筋細胞遊走の化学誘引物質および阻害因子として作用することが報告されているEC特異的分泌性ペプチドをコードする、EGF様ドメイン7(Egfl7)遺伝子のイントロン7によってコードされる(図1B)(Campagnolo et al., 2005;Fitch et al., 2004;Parker et al., 2004;Soncin et al., 2003)。組織および細胞株におけるmiR-126の発現パターンはEgfl7のそれと平行しており(Fitch et al., 2004;Soncin et al., 2003)、これはこのmiRNAがpre-Egfl7 mRNAのイントロン性RNA配列からプロセシングされるという結論に合致する。Egfl7のイントロン7の上流および下流にプライマーを有するヒト胎盤由来のRACE-ready cDNAを用いたRT-PCRにより、miR-126はイントロン7が保たれているEgfl7転写物のサブセットから生じることが示された(未発表データ)。pri-miR-126を範囲に含むイントロン7の一部分をプローブとして用いたマウス胚切片とのインサイチューハイブリダイゼーションにより、Egfl7と同様に、E7.5から成体期までのmiR-126のEC特異的発現が明らかになった(図8)。Egfl7/miR-126のEC特異的転写 インビボでのmiR-126の発現パターンをさらに見てとれるように、本発明者らは、Egfl7/miR-126遺伝子の直近の5.4kbの50個のゲノムDNAをlacZレポーター遺伝子中にクローニングして、トランスジェニックマウスを作製した。このDNA断片は、胚発生および成体期の間を通じてECにおける発現を特異的に導くのに十分であった(図2Aおよび非提示データ)。
【0217】
この5.4kb DNA断片は進化的に高度に保存されている2つの領域(領域1および領域2)を含み、そのそれぞれがインビボでの内皮特異的発現を導くのに十分であった(図2B)。どちらの領域も、内皮特異的転写における関与が示されている、Ets転写因子の結合のための保存されたコンセンサス配列を含んでいた(Lelievre et al., 2001)。Ets1はトランスフェクトされたCOS-7細胞においてこれらの調節領域を強力にトランス活性化したが、一方、DNA結合ドメインを欠くEts1突然変異体には活性がなかった。さらに、Ets部位における突然変異はEts1による転写活性化を鈍らせ(図2C)、インビボのECにおけるlacZ導入遺伝子の発現を消失させた(非提示データ)。これらの所見は、Ets転写因子がEgfl7/miR-126の内皮特異的転写のために十分かつ必要であることを示唆する。
【0218】
miR-126ヌルマウスの作出
インビボでのmiR-126の機能を探るために、本発明者らは、miR-126をコードするEgfl7遺伝子のイントロン7の領域を欠失させ、loxP部位に挟まれたネオマイシン耐性カセットを挿入した(図3Aおよび3B)。突然変異体miR-126アレルに関してヘテロ接合性であるマウスを相互交雑させて、miR-126neo/neo突然変異体を得た。Egfl7イントロンにおけるネオマイシンカセットの存在は、RT-PCRによって検出されたように、周囲のエクソンのスプライシングを変更させた(図3C、左のパネル)。miR-126neo/+マウスをCAGプロモーターの制御下でCreレコンビナーゼを発現するマウスと交配させることによる、Egfl7イントロンからのネオマイシンカセットの除去は、Egfl7の転写およびスプライシングを正常化した(図3C、右のパネル)。
【0219】
miR-126+/-マウスを相互交雑させて、miR-126-/-マウスを得た。これらのマウスでは成熟miR-126もステムループも発現されなかった(図3E)。標的化突然変異は、ホモ接合性突然変異体マウスからの組織において、Egfl7 mRNA(図3C、右のパネル)およびEGFL7タンパク質(図3D)のいずれの発現も変更させなかった。
【0220】
miR-126突然変異体マウスにおける血管異常
miR-126-/-マウスは、miR-126+/-交雑雑種から、予想されたよりも低い頻度で得られた(図3F)。生後10日(P10)の時点で、ヘテロ接合性交雑雑種から得られた子孫の16%がホモ接合性突然変異体であり、これに対して期待数は25%であった。すなわち、miR-126-/-マウスの約40%が胎生期または周産期に死亡したことになる。時期を指定した交配によって得られた胚の分析により、胚発生の全体を通じて、重度の全身浮腫、多巣性出血および破裂血管を伴う、死亡した、または瀕死のmiR-126-/-胚が明らかになった(図4Aおよび4B)。血管異常を伴う胚は、E13.5〜E15.5の間に最も高いパーセンテージで観察された(図3G)。しかし、頭蓋血管の増殖不全は、全身浮腫、出血または胚全体の消滅が見られる前のE10.5の時点で早くも観察され(図4B)、このことは血管欠損がmiR-126欠失の最初の影響であることを指し示している。同様に、P0の時点で始まり、網膜中心動脈からのECの外向き遊走を伴う網膜の血管形成も、他の形態異常が存在しないmiR-126-/-マウスで重度に障害されていた(図4C)。
【0221】
突然変異胚および新生仔の組織学的分析により、浮腫の顕著な特徴である表皮の異常な肥厚が、組織間隙中の赤血球および炎症性細胞、さらには肝臓内の赤血球のうっ滞を伴って示されたが、これは低酸素症によって引き起こされた代償性赤血球新生を反映している可能性がある(図4D)。出生時まで生き延びたmiR-126-/-マウスのうち、およそ12%はP1までに死亡し、胸膜腔内にタンパク質を多く含む液体を過剰に含んでいたが、これは重度の浮腫の徴候である。肺も膨らんでおらず、これは重度の浮腫に続発した可能性がある(図4D)。数匹のmiR-126-/-新生マウスでは、心膜腔の外の胸腔内での浮腫および出血も観察された。これらの異常により、内皮統合性の統合性の維持におけるmiR-126の役割が示唆された。実際に、miR-126-/-胚の電子顕微鏡検査により、内皮統合性の欠如が確認され、血管の広範な破裂、および堅固な細胞間相互作用の欠如が明らかになった(図4E)。
【0222】
E15.5時点のmiR-126-/-胚の血管形成組織由来の血小板/内皮細胞接着分子(PECAM)陽性ECは、BrdU染色による検出で、野生型ECに比べて増殖の低下を呈したが(図4F)、一方、非ECの増殖に関して野生型胚および突然変異胚における有意差はなかった(非提示データ)。本発明者らは、E15.5時点の野生型ECと突然変異体ECとの間に、TUNEL染色によるアポトーシスの違いを検出できなかった(非提示データ)。
【0223】
生き延びたmiR-126-/-マウスは成体期まで正常な外観であるように思われ、組織の組織学的分析によっても明らかな異常を呈しなかった。雄性突然変異体マウスには生殖能力があった。しかし、雌は低受胎性であり、同腹仔数が減少していた(非提示データ)。本発明者らは、miR-126は胚発生中の血管統合性の維持には重要な役割を果たすが、出生後の血管ホメオスタシスにとっては必須でないと結論づけている。
【0224】
miR-126-/-ECの血管新生の欠陥
miR-126-/-の血管新生機能について探るために、本発明者らは、エクスビボ大動脈環アッセイを用いて発芽性血管新生を分析した。4週齡のmiR-126-/-マウスおよび野生型同腹仔から大動脈環を単離して、FGF-2およびVEGFを含み、かつ3%マウス血清を加えた内皮増殖培地とともにマトリゲル上で培養した。野生型マウス由来のECは、培養第4日から第6日までの間に広範な増生を示したが、一方、miR-126-/-マウスから得た大動脈環では内皮増生が劇的に障害されていた(図5A)。大動脈環培養物におけるECの識別は、PECAMに対する染色によって行った(非提示データ)。
【0225】
本発明者らはさらに、インビボのmiR-126-/-マウスのECにおける血管新生応答を、マウスに血管新生誘発因子FGF-2または対照としてのPBSを含むマトリゲルプラグを皮下注射するマトリゲルプラグEC浸潤アッセイを用いて分析した。血管新生増殖因子シグナル伝達に対する応答として、ECは典型的にはマトリゲルプラグ中に遊走し、集まって原始的血管ネットワークとなり、これを1週後にPECAM染色によって検出することができる。EC浸潤は血管新生増殖因子を必要とし、PBS対照マトリゲルプラグ中では観察されない。miR-126-/-マウス由来のECは、対照と比較して劇的に低下した血管新生応答をFGF-2に対して示した(図5Bおよび5C)。
【0226】
心筋梗塞後のmiR-126-/-マウスの生存性の低下
マトリゲルEC浸潤アッセイにおいて判明したmiR-126-/-ECの血管新生応答の低下により、miR-126が、傷害に対する応答で起こるような、成体組織の血管新生において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。血管新生は心筋梗塞(MI)後の心臓修復のために必須であり、その場合には虚血心組織への血流を維持するために梗塞部位から側副血管が形成される(Kutryk and Stewart, 2003)。MI後の心筋血管形成は、VEGFおよびFGFによるシグナル伝達を必要とする(Scheinowitz et al., 1997;Syed et al., 2004)。
【0227】
本発明者らはこのため、左冠動脈の外科的結紮後のMIに対する野生型マウスおよびmiR-126ヌルマウスの応答を比較した。野生型マウスにおけるMIは典型的には梗塞をもたらし、その後に瘢痕の形成が起こる。これらの実験に関する外科的条件下では、野生型マウスの70%がMI後少なくとも3週間生存した(図5D)。対照的に、miR-126-/-マウスの半数はMIの1週後までに死亡し、3週までにほぼすべてが死亡した(図5D)。
【0228】
野生型マウスおよびmiR-126突然変異体マウスの手術を受けていない心臓は、組織学的に識別不能であった(図5E、パネルaおよびb)。MIの1週後の時点で、突然変異体マウスは野生型心臓と比較して心室拡張を示し、多くが心不全の徴候である心房血栓症を発症した(図5E、パネルcおよびd)。MIの3週後までに、組織学的分析により、miR-126突然変異体では野生型対照と比較して、より広範な線維症および機能性心筋の喪失が示された(図5E、パネルeおよびf)。この期間に死亡した多くのmiR-126突然変異体マウスは、血流不足に起因しうる不良心筋の帰結として知られる心室破裂も呈したが(非提示データ)、一方、MI後の野生型マウスでは心筋破裂は全く観察されなかった。
【0229】
PECAM染色により、MIの3週後の野生型マウスでは、傷害された心筋における広範な血管形成が明らかになった。対照的に、突然変異体では新たな血管の相対的な不足が認められ、観察されたそのような血管は短縮していて断片的であるように思われた(図5E)。このため、miR-126はMI後の正常な新生血管形成のために重要であるように思われる。
【0230】
miR-126による血管新生シグナル伝達のモジュレーション
miR-126-/-胚における血管の欠陥と、突然変異体ECの血管新生活性の障害を総合することにより、miR-126は血管新生増殖因子に対する正常な応答性のために必須であることが示唆された。この可能性についてさらに検討するために、本発明者らは、HUVECを、miR-126を発現するアデノウイルス(Ad-miR-126)に感染させて、ERK1/2のリン酸化によって検出される、FGF-2によるMAPキナーゼ活性化を調べた。図6Aに示されているように、FGF-2によるERK1/2リン酸化の活性化は、Ad-lacZ対照と比較して、Ad-miR-126によっておよそ2倍に強化された。その反対に、20-0-メチル-miR-126アンチセンスオリゴヌクレオチドによるmiR-126発現のノックダウンは、対照オリゴヌクレオチドと比較して、VEGFに応答したERKリン酸化を低下させた(図6B)。これらの所見により、miR-126はFGFおよびVEGFによるMAPキナーゼ経路活性化を増強することが示唆された。
【0231】
miR-126によるSpred-1発現の阻害
miR-126突然変異体マウスの内皮異常の一因になると考えられる、miR-126のmRNA標的の可能性があるものを同定するために、本発明者らは、野生型マウスおよびmiR-126ヌルマウスの成体腎臓から単離したECのマイクロアレイ分析により、遺伝子発現プロファイルを比較した。ほとんどのmiRNAはその標的mRNAの分解を促進するため(Jackson and Standart, 2007)、本発明者らは、miR-126-/-ECにおいてアップレギュレートされるmRNAに焦点を絞った(表3)。miR-126-/-EC細胞では、血管新生、細胞接着、炎症性/サイトカインシグナル伝達および細胞周期制御に関与する数々のmRNAがアップレギュレートされていた。この転写物群の中から、本発明者らは、miR-126の進化的に保存された標的であることがさまざまなmiRNA標的予測プログラムによっても予想された3種のmRNA、すなわちSprouty関連タンパク質-1(Spred-1)、VCAM-1およびインテグリンα-6を同定した(表4)。実際に、VCAM-1 mRNAは最近、インビトロでのmiR-126による抑圧の標的であることが示された(Harris et al., 2008)。
【0232】
(表3)miR-126-/-内皮細胞において脱調節化される遺伝子



マイクロアレイ分析によって判定した(カットオフ:1.5倍)、miR-126-/-腎臓内皮細胞において脱調節化される遺伝子。アップレギュレートされる遺伝子は、PANTHERによる判定で(www.pantherdb.org/tools/)、アレイ中に過剰出現したカテゴリーにグループ分けされている。増加倍数を示している。Yは、miR-126の予想された標的である遺伝子を指し示している。注目されることとして、いくつかの遺伝子は複数のカテゴリーに挙げられている。
【0233】
(表4)miR-126の保存された標的

miR-126標的遺伝子は、TargetScan Version 4.1(www.targetscan.org/)、PicTar(pictar.bio.nyu.edu/)および/またはMirand(microrna.sanger.ac.uk/targets/v5/)により、バイオインフォマティクス的に予想された。検証の欄において、「あり」は、標的がmiR-126-/-内皮細胞において実験的に検証されたことを指し示している。
【0234】
興味深いことに、Spred-1はRas/MAPキナーゼ経路の負の調節因子として機能することが示されている(Wakioka et al., 2001)。VEGFおよびFGFに応答したMAPキナーゼシグナル伝達を強化するmiR-126の能力、ならびにmiR-126の非存在下における血管新生増殖因子シグナル伝達の低下を考慮することにより、Spred-1はmiR-126の血管新生作用のメディエーターである可能性が高いと思われた。miR-126/Spred-1相互作用の予想されるエネルギーはほぼ-17.9kcal/molである。最も重要なことに、miR-126の「シード」領域(ヌクレオチド1〜7)はSpred-1 3' UTRの配列に対して完全に相補的であり、miR-126およびSpred-1 30 UTRの相補的配列は両生類から哺乳動物まで保存されている(図6C)。Spred-1 mRNAがmiR-126による抑圧の標的であるという結論に合致して、miR-126-/-マウス由来の卵黄嚢におけるSpred-1タンパク質の発現は野生型同腹仔と比較して増大していた(図6D)。対照的に、いくつかのmiRNA標的予測プログラムによってmiR-126の標的であることが予想されたCT10キナーゼ調節因子(CRK)には変化がなく、対照としてのGAPDHも同様であった。
【0235】
Spred-1 3' UTRをルシフェラーゼレポーターと融合させて、トランスフェクト細胞におけるmiR-126の抑圧について検討したところ、miR-126はSpred-1 3' UTRルシフェラーゼレポーターの発現を強く抑圧した(図6E)。miR-126「シード」領域における6個のヌクレオチドの突然変異(miR-126 m)またはSpred-1 3' UTRにおけるその相補的配列の突然変異(Spred-1 m UTR)は、miR-126の抑圧作用を軽減した(図6E)。miR-126を発現するアデノウイルスによるHUVEC細胞の感染も、Spred-1 mRNAの発現を約2分の1に抑圧した(図6F)。その反対に、miR-126アンチセンスRNAは、HAEC細胞におけるSpred-1 mRNAの発現を増大させた(図6F)。miR-126過剰発現またはノックダウンの効率は、miR-126プローブを用いるノーザンブロット分析によってモニターした(非提示データ)。
【0236】
miR-126がSpred-1発現を抑圧するために必要であるか否かを確かめるために、miR-126-/-および野生型成体マウスの腎臓からECを単離した。ECの識別は、DiIで標識したアセチル化低密度リポタンパク質(DiI-Ac-LDL)の取り込み、およびフォンビルブランド因子に対する抗体を用いた染色によるモニタリングによって行った(非提示データ)。予想されたように、Spred-1 mRNAは、野生型ECと比較して、miR-126-/-ECにおいて有意にアップレギュレートされており(図6G)、これはマイクロアレイの結果の裏づけとなった。
【0237】
miR-126によってモジュレートされるEC遊走および血管新生の阻害におけるSpred-1の関与に関するさらなる裏づけは大動脈環アッセイによって得られ、この場合、レトロウイルスを介したSpred-1の過剰発現はEC増生を低下させ(図6H)、一方、短鎖干渉性RNA(short interfering RNA)によるSpred-1発現のノックダウンはmiR-126-/-マウス由来の外植片における内皮増生を強化した(図6H)。さらに、インビトロでの掻創アッセイにおいて、miR-126アンチセンスRNAはHUVEC遊走を劇的に障害させたが、一方、Spred-1 siRNAは、miR-126アンチセンスRNAを発現する細胞への遊走活性を復旧させた(図6I)。これらの結果は、miR-126が、MAPキナーゼ経路に対するSpred-1の阻害的影響を減じさせることにより、血管新生シグナル伝達を増強するという結論を裏づけるものである。
【0238】
本明細書において開示および請求された組成物および方法はすべて、本開示に鑑みて、過度な実験を伴わずに作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された組成物および方法に対して、ならびに方法の段階または方法の段階の順序に変更を加えうることは、当業者には明らかであろう。より具体的には、本明細書に記載された作用物質の代わりに、化学的にも生理学的にも関連したある種の物質を代用することができ、その場合にも同一または類似の結果が得られると考えられることが明らかであろう。当業者にとって明らかであるそのような類似の代用物および変更はすべて、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあると見なされる。
【0239】
X.参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書に記載されたものに対して補足的な例示的な手順または他の詳細を提供する範囲において、参照により本明細書に明確に組み入れられる。










【図1】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図3F】

【図3G】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図4F】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図5E】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図6E】

【図6F】

【図6G】

【図6H】

【図6I】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管統合性(vascular integrity)および/または内皮修復を促進する方法であって、血管障害のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象に対して、miR-126機能のアゴニストを投与する段階を含む、前記方法。
【請求項2】
対象が血管障害に罹患している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血管障害が心組織に対してである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
血管障害が虚血イベントを含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
虚血イベントが梗塞、虚血-再灌流傷害または動脈狭窄を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
血管障害が心臓以外の組織においてである、請求項2記載の方法。
【請求項7】
血管障害が外傷または血管漏出を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
対象に血管障害のリスクがある、請求項1記載の方法。
【請求項9】
対象が高血圧、後期アテローム性動脈硬化 心肥大、骨粗鬆症、神経変性、線維症または呼吸窮迫に罹患している、請求項8記載の方法。
【請求項10】
対象が非ヒト動物である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
アゴニストがmiR-126である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
アゴニストがmiR-126の模倣物である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
アゴニストが、標的細胞において活性があるプロモーターの制御下にあるmiR-126をコードする核酸セグメントを含む発現ベクターである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
標的細胞が内皮細胞または造血細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
プロモーターが組織選択的/特異的プロモーターである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
組織選択的/特異的プロモーターが内皮細胞または造血細胞において活性がある、請求項16記載の方法。
【請求項18】
発現ベクターがウイルスベクターである、請求項14記載の方法。
【請求項19】
発現ベクターが非ウイルス性ベクターである、請求項14記載の方法。
【請求項20】
対象に二次療法を投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
投与が全身投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
全身投与が経口的、静脈内または動脈内である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
投与が浸透圧ポンプまたはカテーテルによる、請求項1記載の方法。
【請求項24】
投与が、血管障害を受けた組織または血管障害のリスクのある組織に対して直接的または局所的である、請求項1記載の方法。
【請求項25】
組織が心組織、血管組織、骨組織、神経組織、呼吸器組織、眼組織または胎盤組織である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
病的血管形成(pathologic vascularization)の阻害を、それを必要とする対象において行う方法であって、病的血管形成のリスクがあるかまたはそれに罹患している対象に対して、miR-126のアンタゴニストを投与する段階を含む方法。
【請求項27】
対象が病的血管形成に罹患している、請求項26記載の方法。
【請求項28】
病的血管形成が初期アテローム性動脈硬化、網膜症、癌または脳卒中を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
対象に病的血管形成のリスクがある、請求項26記載の方法。
【請求項30】
対象が高脂血症、肥満、喘息、関節炎、乾癬および/または失明に罹患している、請求項29記載の方法。
【請求項31】
対象が非ヒト動物である、請求項26記載の方法。
【請求項32】
対象がヒトである、請求項26記載の方法。
【請求項33】
アンタゴニストがmiR-126アンタゴミア(antagomir)である、請求項26記載の方法。
【請求項34】
アンタゴニストが血管構造(vasculature)組織、平滑筋、眼組織、造血組織、骨髄、肺組織または心外膜組織に送達される、請求項26記載の方法。
【請求項35】
対象に二次的な抗血管新生療法を投与する段階をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項36】
投与が全身投与を含む、請求項26記載の方法。
【請求項37】
全身投与が経口的、静脈内、動脈内である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
投与が、病的血管形成、または病的血管形成のリスクのある組織に対して直接的または局所的である、請求項26記載の方法。
【請求項39】
組織が眼組織、血管組織、骨組織、脂肪組織または肺組織である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
投与が浸透圧ポンプまたはカテーテルによる、請求項26記載の方法。

【公表番号】特表2012−500199(P2012−500199A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523096(P2011−523096)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/053409
【国際公開番号】WO2010/019574
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】