説明

血管繊維化の治療または予防薬

【課題】動脈硬化症の初期段階である血管コラーゲン繊維化を予防および解消することができ、且つ安全であり毎日の摂取も可能な薬剤を提供する。
【解決手段】ザクロ等、従来より食用や生薬として使用されている植物の特定部分又は全体を乾燥粉末や抽出物とし、これをそのまま薬剤とするか、或いは医薬組成の構成成分とする。従って、本発明に係る薬剤は安全であることから毎日の摂取が可能であり、また、優れた血管繊維化改善効果を有するため、動脈硬化症の治療または予防薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環器疾患の原因となる血管のコラーゲン繊維化を治療または予防することができる薬剤、および当該薬剤を有効成分として含む動脈硬化症の治療または予防組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化症は、血管内壁に脂質が沈着した後コラーゲン繊維化し、次いでカルシウムが沈着することにより動脈血管が硬化する病気であり、やがては血栓症へと進展し血管壁の破裂などによって重篤な状態に至る疾患である。近年、食生活の欧米化や過食、アルコール飲用、運動不足などにより動脈硬化症が生じやすい状況にある一方で、動脈硬化症には自覚症状が一切なく、知らず知らずのうちに症状が進行し、ある日突然、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの重大な合併症を引き起こす。従って、動脈硬化症については、常日頃の生活からその発症予防を意識し、また、症状が進行しないうちに改善を図ることが非常に重要である。
【0003】
ところで、動脈硬化症はLDL(所謂、悪玉コレステロール)の蓄積をその第一段階とするため、その治療には高脂血症治療剤が用いられている。
【0004】
しかし、医療用の高脂血症治療剤は副作用を伴うのが一般的であるため、症状が進行した段階で投与するならまだしも、動脈硬化症の予防薬として或いは軽度の段階で使用すべきではない。
【0005】
また、循環器疾患の主要な原因として冠動脈や腎血管のコラーゲン繊維化が問題とされているが(Brilla & Weber, Cardiovascular Res., 第26巻, 第671〜679頁(1992年))、これに対応できる薬剤はいまだに見出されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様な状況下、本発明の目的は、動脈硬化症の初期段階である血管コラーゲン繊維化を予防および解消することができ、且つ安全で毎日の摂取も可能な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した解決課題の下で、これまで食用や生薬として利用されてきた植物であれば副作用を懸念することなく安全に使用できると考え、様々の植物について血管繊維化の予防および治療効果を有するものを見出すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の植物成分が血管繊維化に対して予防および治療効果を享有するのみならず、動脈硬化症に有効なHDL(所謂、善玉コレステロール)を有意に増加せしめ、血中中性脂肪を減少させて動脈硬化症の予防にも優れた効果を有することを見出して、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明に係る血管繊維化の治療または予防薬は、ミロバラン(Terminalia chebula)の果実、ターミナリア ベリリカ(Terminalia bellirica)の果実、アンマロク(学名:Emblica officinalis,異名:Phyllantus emblica)の果実、サラシア属植物の地下部または幹、ザクロ(Punica granatum)の花、またはタカサブロウ(Eclipta alba)の全草の乾燥粉末または抽出物からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る動脈硬化症の治療または予防組成物は、上記血管繊維化の治療または予防薬を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る血管繊維化の治療または予防薬は、動脈硬化症の初期段階である血管コラーゲン繊維化の優れた予防および解消作用を示し、且つ従来より食用や生薬として使用されてきた植物を原材料とするために安全であり、毎日の摂取も可能である。従って、本発明に係る血管繊維化の治療または予防薬は、動脈硬化症の治療または予防薬として有用であり、医薬組成物の構成成分として利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の血管繊維化治療薬等が享有する最大の特徴は、血管のコラーゲン繊維化の予防および治療に対して高い効果を有するにも拘わらず、安全性が高く毎日でも摂取が可能な点にある。即ち本発明では、従来食用や生薬として利用されてきた植物の中から血管繊維化予防/治療効果の高いものを探索したため、本発明の血管繊維化治療薬等は副作用が極めて少なく、非常に安価に製造することができ、且つ製造や製剤化の利便性も高い。
【0012】
以下に、斯かる特徴を発揮する本発明の実施形態、及びその効果について説明する。
【0013】
「ミロバラン(Terminalia chebula)」はシクンシ科モモタマナ属の植物であり、その高さが30mにも達する高木である。ミロバランの果実は、訶子と呼ばれる生薬の原料となり、慢性の下痢などに使用されている。
【0014】
「ターミナリア ベリリカ(Terminalia bellirica)」も生薬の原料植物であり、ミロバランの代わりに使用されることがある。その未熟果実は下痢止めに、完熟果実は止瀉剤とされる。
【0015】
「アンマロク(学名:Emblica officinalis,異名:Phyllantus emblica)」は油柑とも呼ばれ、インドから東南アジア・中国南部に生育する落葉樹である。その果実はレモンのように使用され、中国では乾燥果実を庵摩勒と呼び、風邪に伴う発熱や咳、喉の痛みなどの治療に用いられる。
【0016】
「サラシア属植物」はニシキギ科であり、例えばサラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア プリノイデス(S. prinoides)、サラシア オブロンガ(S. oblonga)を挙げることができる。これらは食後の過血糖調整作用を有し、また便秘症に有効なことが知られている。
【0017】
「ザクロ(Punica granatum)」はザクロ科ザクロ属の植物であり、その果皮・果実・樹皮・根皮に含まれる駆虫成分により、古代から駆虫目的で使用されている。その花については、中国やインド、アラビアの医学で主として止血剤として用いられているが、日本では殆ど利用実績がない。
【0018】
「タカサブロウ(Eclipta alba)」はキク科の植物であり、水田などに自生する。日干ししたものは生薬とされ、主として止血剤として用いられる。
【0019】
本発明では、前述した植物の果実、地下部(根や地下茎など)、幹、花、或いはその全草の乾燥粉末または抽出物を有効成分とする。更に詳しくは、ミロバラン、ターミナリア ベリリカおよびアンマロクでは果実を、サラシア属植物では地下部または幹を、ザクロでは花を、タカサブロウでは全草を使用する。
【0020】
「乾燥」の方法は特に制限されず、例えば日干し、半日干し、陰干し、加熱乾燥、常温乾燥、凍結乾燥などを挙げることができるが、従来から生薬製造に用いられる日干し、半日干し、陰干しが好ましい。
【0021】
「粉末」とは、そのまま経口で飲み下すことができるものという意であり、その粒径は特に制限されない。従って、その粒径は均一である必要はなく、また、約1cmのものであってもよい。更に、一般的には「粉末」とはいい得ないものであっても、粒状化しさえすれば「乾燥粉末」となるものも本発明の範囲に含まれる。
【0022】
「抽出物」を抽出する方法も特に限定される理由はなく、例えば果実等はそのまま抽出してもよいし、すり潰す等したものから抽出してもよく、また、一旦乾燥したものから抽出してもよい。但し、抽出の効率を考慮すれば、より細かいものから抽出することが好ましい。
【0023】
抽出するための溶媒としては、主として水系溶媒が使用される。抽出作業の利便性や、水系溶媒から抽出されたものであれば水溶性であるため安全であること、また、溶媒が残留した場合の安全性等を考慮したものである。斯かる水系溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール;水と低級アルコールとの混合溶媒を挙げることができる。
【0024】
使用する溶媒量は、抽出素材が乾燥したものであれば素材の2〜50倍、乾燥したものでなければ0.5倍〜30倍が一般的である。また、抽出は常温で行なってもよいが、溶媒を適当に加熱することによって抽出効率を高めることも有効である。
【0025】
抽出時間は特に制限されないが、1時間から3日間が好ましい。また、抽出の際には静置したままでもよいし、攪拌してもよい。
【0026】
抽出終了後の処理は、常法に従う。例えば、濾過後に残渣を使用溶媒で洗浄し、濾液と合わせた後、溶媒を減圧や加熱により留去すればよい。
【0027】
こうして得られた乾燥粉末および抽出物は、そのまま飲用してもよいが、他の組成成分を添加することによって、動脈硬化症の治療または予防組成物としてもよい。
【0028】
本発明においては、血管繊維化の治療または予防効果を有する成分は特定されていない。しかしながら、本発明で使用する植物は従来から生薬等として用いられているものなので、斯かる有効成分は1つではなく様々な有効成分が相互作用することにより優れた血管繊維化の治療効果等を発揮することが考えられる。従って、本発明の治療または予防薬を複数併用することによって、更なる効果を生じることが予想される。
【0029】
本発明に係る動脈硬化症の治療または予防組成物は、上記血管繊維化治療または予防薬を有効成分とし、その他に医薬品製剤の構成成分として使用されているものを含有していてもよい。斯かる含有成分は特に制限されないが、例えば香料,防腐剤,色素類,ビタミン類などを挙げることができる。
【0030】
本発明は以上の様に構成されており、本発明に斯かる血管繊維化治療又は予防薬は、安全であり安価に製造され得る上に、非常に優れた血管繊維化改善作用を享有する。そして、その投与量は、乾燥粉末か抽出物か、血管繊維化の予防を目的とするか或いは治療を目的とするのか、また、その症状、患者の年齢や性別等により異なるが、例えば1日当たり0.01mg/kg〜1g/kg(好適には0.1〜500mg/kg)を経口より投与する。但し、当該投与量はあくまで例示であり、その効果等を観察しつつ、適時変更され得るものである。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例、試験例および製剤例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)試料の調製
ミロバランの果実、ターミナリア ベリリカの果実、アンマロクの果実、サラシア レティキュラータの地下部および幹、ザクロの花、およびタカサブロウの全草を乾燥したものを粗粉砕して50メッシュ以下とし、その20倍量の熱水を加え、約3時間加熱抽出後、濾過し、次いで溶媒を減圧留去してそれぞれの乾燥抽出物を得た。
【0033】
抽出物の収率は、サラシア レティキュラータ6.5%、ミロバラン28%、ターミナリア ベリリカ30%、アンマロク25%、ザクロ35%、タカサブロウ26%であった。
【0034】
(試験例1)
12週令,体重35〜40gの雄性dd−Y系マウスを一群10匹とし、ストレプトゾトシン(Streptozotocin,シグマ社製)(以下、「STZ」とする)100mg/kgを静脈内注射して糖尿病を誘発した。近年得られた知見によれば、斯かる糖尿病モデルにおいて血管がコラーゲン繊維化されることが報告されているので(Miriceら,Br.J.Pharmacol,133巻,687〜694頁(1992年))、当該マウスを血管コラーゲン繊維化のモデルとすることができる。
【0035】
前記実施例により調製した試料につき、サラシア レティキュラータの抽出物は100mg/kg、他の試料は500mg/kgの投与量で、STZ投与3時間後から1日2回4週間経口投与した。また、対照群として非投与群も設けた。
【0036】
最終投与の30分後にマウスをエーテル麻酔した後採血し、血糖値、総コレステロール値、中性脂質値、HDLコレステロール値を市販の測定キット(和光純薬社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
当該結果によれば、総コレステロール値は対照群に比べて有意差がなかったものの、中性脂肪値は有意に減少し、HDL値は有意に増加している。従って、本発明に係る繊維化予防または治療薬を飲用すれば、動脈硬化症を予防することができるだけでなく、その進行を抑制できることが明らかとなった。
【0039】
(試験例2)
前記マウスから心臓および腎臓を摘出して10%ホルマリンで固定し、組織標本を作製した。これらのうち、ザクロ花抽出物の血管繊維化改善効果を示す200倍および400倍拡大写真を、図1(心臓冠動脈)と図2(腎血管)として添付する。
【0040】
また、各組織の標本から無作為に20分画選択し、間質の繊維化部分をvan Gieson染色してKS400イメージシステム(Zeiss社製)を用いて、コラーゲン繊維化率を算出・定量化した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
図1と図2によれば、STZの投与によって冠動脈および腎血管の繊維化は明らかに進行しているが(図中の濃色部分)、本発明に係る繊維化治療または予防薬の投与によって、血管のコラーゲン繊維化部分が明らかに減少していることがわかる。
【0043】
また、表2に示した結果によれば、本発明に係る繊維化治療または予防薬の投与によって、血管のコラーゲン繊維化率が統計学的にも有意に減少していることを確認できる。
【0044】
従って、本発明に係る繊維化治療または予防薬は、一旦繊維化が進行した血管に対しても、明らかな治療効果を示すことが明確とされた。
【0045】
(試験例3)
上記試験例1,2と同様の方法を用いて、特に血管繊維化改善効果の高いターミナリア ベリリカと他の試料との併用効果に関する実験を行なった。ターミナリア ベリリカは250mg/kg、サラシア レティキュラータは50mg/kg、他の抽出物は250mg/kgで投与した。結果を表3,4に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
当該結果と上記試験例1,2の結果を比較すると、試験例1での投与量を半分としてターミナリア ベリリカと他抽出物とを併用投与した場合であっても、血糖値、総コレステロール値、中性脂肪値、HDL値の夫々について同等かそれ以上の効果が得られている。
【0049】
これらの効果に加えて、本発明で使用する植物には様々な有効成分が含まれていると考えられるので、本発明に係る血管繊維化の治療または予防薬を併用することによって、更なる付加的効果が生じることも予想され健康の維持に貢献できると考えられる。
【0050】
(製剤例1)顆粒剤
下記成分の粉末を充分に混合した後、公知の湿式造粒法により顆粒剤とする。
サラシア レティキュラータの抽出物 30mg
ラクトース 865mg
セルロース 5mg
ステアリン酸マグネシウム 100mg
(合計) 1000mg
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、循環器疾患の原因となる血管のコラーゲン繊維化を治療または予防することができる薬剤、および当該薬剤を有効成分として含む動脈硬化症の治療または予防組成物への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ザクロ花抽出物が示す冠動脈繊維化の改善効果を表す図。
【図2】ザクロ花抽出物が示す腎血管繊維化の改善効果を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ザクロ(Punica granatum)の花の乾燥粉末または抽出物からなることを特徴とする血管繊維化の治療または予防薬。
【請求項2】
ザクロ(Punica granatum)の花の乾燥粉末または抽出物、およびターミナリア ベリリカ(Terminalia bellirica)の果実の乾燥粉末または抽出物からなることを特徴とする血管繊維化の治療または予防薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126480(P2007−126480A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25711(P2007−25711)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【分割の表示】特願2002−236058(P2002−236058)の分割
【原出願日】平成14年8月13日(2002.8.13)
【出願人】(598092270)有限会社 坂本薬草園 (11)
【Fターム(参考)】