説明

血管障害の予防および治療組成物

【課題】生活習慣病の治療および/または予防に有効な組成物の提供。
【解決手段】ビタミンB1、B6、葉酸、亜鉛、セレン、抗酸化ビタミン等を含む組成物を糖尿病患者に6ヶ月間投与し、血中のホモシステイン値およびADMA値の推移を観察したところ、ホモシステイン値およびADMA値ともに減少効果が確認された。ホモシステインは、血液内皮を傷害し、動脈硬化の発生に関与する。ADMAは、NO産生を阻害し、活性酸素を過剰産生させ、内皮機能を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活習慣病の治療・予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、痛風、心筋梗塞、脳卒中、メタボリック・シンドローム、アルコール性肝炎等の疾患は、遺伝的要因、ストレスや病原体等の外部的要因に加え、食生活、運動、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が重なり合って発症すると考えられており、生活習慣病と呼ばれている。生活習慣の改善は、生活習慣病の治療および予防に効果があるといわれており、栄養面の改善は生活習慣病の治療および予防に高い効果が期待できる。
【0003】
ホモシステインは血液中に存在するアミノ酸である。ホモシステインは、近年、動脈硬化との関連が注目されている。アテローム性動脈硬化では、動脈の内皮細胞損傷によって分泌される走化性因子に反応して単球が内皮細胞に接着浸潤し、内膜中で単球がマクロファージに分化し、血中のコレステロールを取り込んで内膜が肥大化するとともに、マクロファージも壊れて粥状となると考えられている。血中にホモシステインが蓄積すると、ホモシステインが自己酸化を起こし、酸化過程で生じたラジカル酸素等によって内皮細胞が障害され、動脈硬化が起こりやすくなると考えられている(非特許文献1)。動脈硬化は、糖尿病の合併症としても知られており、動脈硬化と糖尿病とは密接な関係があると考えられている。
【0004】
ビタミンB6,B12,葉酸は、ホモシステインの代謝に関与していることが知られている(非特許文献1)。ホモシステインは、食物中のメチオニンが体内でシステインに代謝される過程の中間代謝物である。メチオニンは、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)によりS‐アデノシルメチオニン(SAM)となり、さらにメチル基転位によりS‐アデノシルホモシステイン(SAH)となった後、アデノシルホモシステイナーゼによってホモシステインとなる。ホモシステインの一部は、シスタチオンβシンターゼに触媒されて、セリンと反応してシスタチオニンとなった後、システインに代謝される。残りのホモシステインは、メチオニンシンターゼに触媒されて5-メチルヒドロ葉酸と反応し、再びメチオニンとなる(非特許文献1)。
【0005】
ビタミンB6は、シスタチオンβシンターゼの補酵素として、ビタミンB12は、メチオニンシンターゼの補酵素として、ホモシステインの代謝に関与している。一方、葉酸は代謝されて5-メチルヒドロ葉酸になる。すなわち、ビタミンB6,B12,葉酸の供給は、血中ホモシステイン値の低下につながると考えられている(非特許文献1)。
【0006】
ビタミンB6、B12、葉酸を含む組成物を摂取すれば、糖尿病、動脈硬化を中心とする生活習慣病の治療および予防に有用であると考えられるが、具体的に効果が確認されたものは知られていない。
【0007】
【非特許文献1】医学のあゆみ, 202(10) : 789-793, 2002.
【非特許文献2】糖尿病 Vol.47 Supplement1 2004
【非特許文献3】日薬理誌119(1),29-35(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、糖尿病、動脈硬化等の生活習慣病の予防および/または治療に有効な組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を行った。ある組成物を健常者に投与すると、血中のホモシステイン値およびADMA(asymmetric N, N- dimethyl - L - arginine)値が低下することが知られている(非特許文献3)。ADMAは、血管拡張因子に関与するNOの合成阻害物質として知られている。本発明者らは、上記組成物に着目し、糖尿病患者に上記組成物を長期投与したところ、血中ホモシステイン値及びADMA値の減少傾向が確認された。すなわち、本発明は糖尿病等における血管内皮細胞保護組成物に関し、具体的には以下の発明を提供するものである。
(1)ビタミンB1、ビタミンB6、葉酸からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、亜鉛、セレン、抗酸化ビタミンからなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含む血管内皮細胞保護組成物、
(2)亜鉛、セレン、ビタミンC,ビタミンE、β-カロチン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンB12、ビタミンA、ビタミンD3及び鉄を含む、上記(1)に記載の組成物、
(3)服用可能な液体に分散されている、上記(1)または(2)のいずれかに記載の組成物、
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載の組成物を含む、生活習慣病治療および予防用組成物、
(5)生活習慣病が糖尿病、動脈硬化、またはメタボリック・シンドロームである、上記(4)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、糖尿病等における血管内皮細胞保護組成物が提供された。本発明の組成物の投与は、血管内皮細胞保護作用を通じて、糖尿病、動脈硬化等の生活習慣病の治療および予防に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ビタミンB1、B6、葉酸からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、亜鉛、セレン、抗酸化ビタミンからなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含む血管内皮細胞保護組成物に関する。
【0012】
本発明の組成物は、ビタミンB1、B6、葉酸からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分を含む。ビタミンB1、B6、葉酸からなる群は、ホモシステイン代謝に関与する成分である。これらホモシステイン代謝に関与する成分は、メチオニンからシステインに至る代謝過程を活性化し、血中のホモシステイン量低下に寄与すると考えられる。本発明の組成物は、ビタミンB1、B6、葉酸のいずれかを単独で含むこともできるが、好ましくは上記3成分の複数の成分、最も好ましくは上記3成分の全てを組み合わせて含む。
【0013】
本発明の組成物は、1日あたりの投与量として、ビタミンB1は1.1〜11.0mg、好ましくは2.0〜4.0mg、最も好ましくは3.0mg、ビタミンB6は1.6mg〜16.0mg、好ましくは3.0〜8.0mg、最も好ましくは5mg、葉酸は200μg〜1.0mg、好ましくは600〜900μg、最も好ましくは800μgを含む。
【0014】
また本発明の組成物は、亜鉛、セレン、抗酸化ビタミンからなる群から選ばれる少なくとも一つの成分を含む。亜鉛、セレン、抗酸化ビタミンからなる群は、活性酸素除去に関与する成分群である。活性酸素は、血管内皮障害に関与すると考えられており、活性酸素除去に関与する上記成分は、血管内皮障害の改善に重要な役割を果たす。セレンは、抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの構成物質であり、亜鉛は、抗酸化酵素であるスーパーオキサイドジスムターゼの構成物質である。本発明の組成物は、亜鉛、セレン、抗酸化ビタミンのいずれかを単独で含むこともできるが、好ましくは、上記成分の複数の成分を組み合わせて含む。抗酸化ビタミンの例としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、β‐カロチンを挙げることができるが、これらに限定されない。ビタミン群の摂取量は、食事内容により左右され、特に食事制限の必要な糖尿病患者やその予備軍においては不足する傾向にある。そのため、本発明の組成物は複数の抗酸化ビタミンを組み合わせて含むことが望ましい。
【0015】
本発明の組成物は、1日あたりの投与量として、亜鉛を1.2〜30mg、好ましくは9〜12mg、セレンを10〜250mg、好ましくは30〜60mg、最も好ましくは50mgを含む。また、抗酸化ビタミンとしてビタミンC、ビタミンE、β‐カロチンを用いる場合、1日あたりの投与量として、ビタミンCを100mg〜2000mg、好ましくは500mg〜1000mg、ビタミンEを、3mg〜600mg、好ましくは5mg〜300mg、最も好ましくは200mg、βカロチンを、3mg〜30mg、好ましくは5〜10mgを含む。
【0016】
また本発明の組成物は、上記構成成分以外にも他の成分を含むことができる。例えば、上記通常の食事では不足しやすい鉄、カルシウム、カルシウム吸収を促進するビタミンD等を含むことができる。また、上記ホモシステイン代謝に関与するビタミンや抗酸化ビタミンとして例示した以外のビタミン(例えば、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸)も、本発明の組成物に好適に含まれる成分の例である。
【0017】
本発明の組成物は、当業者にとって周知の方法で調製することができる。例えば、上記各成分を混合し、粉末、顆粒、錠剤、液剤等の剤形で調製することができる。液剤は、経口摂取が困難な患者に対し、経管投与が可能であるため、より好ましい剤形である。
【0018】
本発明の組成物を液剤として調製する場合、組成物を分散または溶解する液体は、通常服用される液体であって各成分の生体への作用を減退させない限り、特に制限はなく、例えば、水、生理食塩水等を用いることができる。経口投与における味覚向上の目的で、果汁を用いてもよい。
【0019】
上記の様に調製した組成物が、血管内皮保護作用を有するかどうかについては、糖尿病等の患者、または糖尿病等の疾患モデル動物に該組成物を投与し、投与前後の血液を採取してホモシステイン値およびADMA値を測定し、投与前後の測定値の変化を観察することにより判断することができる。
【0020】
ホモシステインは上述のとおり、内皮細胞障害に関与している。
ADMA(asymmetric N, N- dimethyl - L - arginine)は、L-NMMA(N- monomethyl -L - arginine)とともに、生活習慣病との関連が指摘されている因子である。L-NMMAとADMAは、生体内でL-アルギニンがシトルリンに代謝される過程で産生されるNOS(一酸化窒素合成酵素)阻害物質である。高コレステロール血症、動脈硬化、高血圧、血栓性末梢血管障害などの患者血漿中には、ADMAが高濃度に検出されるとの報告がある。また、内皮損傷後の再生内皮細胞におけるL-NMDAとADMAの顕著な増加が確認されており、糖尿病性動脈硬化の憎悪や虚血後の尿道弛緩不全の際における、内皮細胞または尿道組織のL-NMDAとADMA増加も報告されている。さらに、L-NMDAとADMAは、NO産生抑制以外にも、活性酸素を過剰産生させることにより、内皮機能を低下させることが知られている(非特許文献3)。
したがって、ホモシステイン値およびADMA値は、血管内皮保護作用の指標となる。
【0021】
また、本発明の組成物は、糖尿病、動脈硬化、メタボリックシンドロームの治療および予防に用いることができる。実施例に示すとおり、本発明の組成物は糖尿病患者に対し、血管内皮保護作用を示した。したがって、糖尿病における血管内皮障害や糖尿病の合併症として起こる動脈硬化症の発症および進行を防止または抑制すると考えられる。また、糖尿病、動脈硬化症、メタボリックシンドローム等は、相互に強く関連していると考えられ、これらの疾病の治療および予防に広く適用可能と考えられる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0023】
[実施例1]組成物の調製
血管内皮保護組成物として、人参抽出液を20%含む果汁液に各種成分が含まれる組成物を調製した。該組成物1本(125ml)には、β-カロチン 6.6mg、ビタミンB1 3.0mg、ビタミンB2 3.0mg、ビタミンB6 5.0mg、ビタミンB12 10μg、ビタミンC 500mg、ナイアシン 15mg、葉酸 800μg、ビタミンD3 3.7μg、ビタミンE 20mg、パントテン酸 10mg、亜鉛 10mg、カルシウム 70mg、リン 20mg、鉄 5.0mg、ナトリウム 30mg、カリウム 70mg、セレン 50μg、が含まれる。
【0024】
[実施例2]健常者への組成物投与
実施例1で調製した上記組成物を、健常者に投与し、その影響を観察した。具体的には、健常者10人を対象とし、3日間にわたり、昼食直後に上記組成物(125ml)を投与した。投与開始前日、投与終了翌日に血液を採取し、血中のビタミン、ミネラル値、ホモシステイン値、ADMA値を測定した。
上記組成物投与により、糖代謝に関与するビタミンB1、B2、B6、B12、葉酸の血中濃度は有意に上昇した(p<0.01)。また、抗酸化ビタミンであるビタミンCも有意に上昇した(p<0.01)。一方、ホモシステイン値およびADMA値は有意に減少した。
【0025】
[実施例3]運動習慣がある健常者への組成物投与
実施例1で調製した上記組成物を、1日1時間以上の有酸素運動の習慣のある健常男性5名(38.4±3.89歳)に3日間投与した。食事は日常と同様に摂取させた。上記組成物投与前日15:00に採血し、翌日から3日間、昼食後に1本/日投与し、4日目の昼食後、15:00に採血した。
組成物投与後のビタミンB1,B2、ビタミンB6,葉酸、ビタミンCの血中測定値は、投与前に比較して有意な上昇を示し、また、セレンは有意な上昇を、亜鉛についても上昇傾向が観察された。一方、ホモシステイン値は組成物投与による低値傾向、ADMA値は有意な低下傾向を示した。
【0026】
[実施例4]糖尿病患者への組成物投与
実施例1で調製した上記組成物を、糖尿病患者に投与し、その影響を観察した。糖尿病患者の男性(41歳)に上記組成物を一日一本(125ml/day)投与した。投与0ヶ月、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の時点で採血し、各成分の血中濃度を測定した。
血中のビタミンB群は、上記組成物投与により上昇傾向を示した。ビタミンCの血中濃度は、0ヶ月:8.6μg/mL、1ヶ月:5.3μg/mL、3ヶ月:7.6μg/mL、6ヶ月:5.0μg/mLを示し、低値傾向であった。ADMA値は、0ヶ月:0.5 nmol/ mL、1ヶ月:0.45 nmol/ mL、3ヶ月:0.36 nmol/ mL、6ヶ月:0.38 nmol/ mLと減少傾向を示し、ホモシステイン値は、0ヶ月:14.4 nmol/ mL、1ヶ月:11.6 nmol/ mL、3ヶ月:9.2 nmol/ mL、6ヶ月:10.1mol/mLと顕著な減少傾向を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB1、ビタミンB6、葉酸からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、亜鉛、セレン、抗酸化ビタミンからなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含む血管内皮細胞保護組成物。
【請求項2】
亜鉛、セレン、ビタミンC,ビタミンE、β-カロチン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンB12、ビタミンA、ビタミンD3及び鉄を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
服用可能な液体に分散されている、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の組成物を含む、生活習慣病治療および予防用組成物。
【請求項5】
生活習慣病が糖尿病、動脈硬化、またはメタボリック・シンドロームである、請求項4に記載の組成物。

【公開番号】特開2007−106703(P2007−106703A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299614(P2005−299614)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年4月25日 日本ビタミン学会発行の「ビタミン 第79巻 第4号」に発表
【出願人】(500580677)ニュートリー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】