説明

血糖上昇抑制剤

【課題】流動食の摂取後の血糖上昇を抑制する新規な手段を提供する。
【解決手段】キサンタンガムを含有する流動食においてキサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強するための薬剤の有効成分として、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を組み合わせて用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含む、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強するための薬剤、並びに、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含む血糖上昇抑制剤に関する。
また、本発明は、血糖上昇抑制用の流動食及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下困難者や消化機能不全者の栄養補給の代表的な方法として、流動食の利用が挙げられる。流動食は液体という性質上、消化吸収性が高く、摂取後に血糖値が急に上昇しやすい。
ところで、高齢化が進み、生活習慣病の患者も増加している現代社会においては、嚥下機能の低下などにより流動食を利用せざるを得ない上に、糖尿病を患ったり、高血糖傾向であったりする人も少なくない。実際に、嚥下困難者の多くが高齢者であり、糖尿病が強く疑われる人、及び糖尿病の可能性が否定できない人のうち32%が60〜69歳、37%が70歳以上である(非特許文献1)。
流動食の利用を必要とする上に、糖尿病を患ったり、高血糖傾向であったりする人においては、栄養補給の観点だけでなく、血糖コントロールの観点からも流動食の成分を検討する必要があり、食事の選択の幅が大きく制限されるという問題があった。
【0003】
他方、食事の摂取後に起こる食後血糖上昇反応は、キサンタンガム等の水溶性食物繊維の食事への添加により抑制されることが知られている(非特許文献2、3)。
また、フェヌグリーク種子粉末の血糖値減少作用やアラビアガムの血糖値調節機能が報告されている(特許文献1、2)。
【0004】
なお、嚥下困難者において液状食品の嚥下を補助するためのとろみ剤組成物として、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、水溶性のクエン酸塩を含有するものが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−269685号公報
【特許文献2】国際公開第2004/089992号パンフレット
【特許文献3】特許第4347248号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平成19年 国民健康・栄養調査報告、厚生労働省、2007年 (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou09/01.html)
【非特許文献2】ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(British Journal of Nutrition)、1994年、第71巻、第563-571頁
【非特許文献3】アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(American Journal of Clinical Nutrition)、1987年、第46巻、第72-77頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、流動食を利用した血糖コントロールについて研究する過程で、キサンタンガムの流動食への混合が、流動食の摂取後の血糖上昇抑制に有効であるか検討した。その結果、キサンタンガムを流動食に混合するのみでは、流動食の摂取後の血糖上昇抑制が十分でないことが判明した。
このように、流動食を利用した血糖コントロールは、従来の方法をそのまま適用するのみでは、有効に行うことが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、流動食の摂取後の血糖上昇を抑制する新規な手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、流動食の摂取後の血糖上昇を抑制する新規な手段を求めて研究を進めた結果、キサンタンガムを含有する流動食に、水溶性のカルシウム塩と、水溶性のクエン酸塩とを組み合わせて混合することで、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用が増強され、流動食の摂取後の血糖上昇を有意に抑制することが可能であることを知見し、この知見をもとに本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決する第1の本発明は、キサンタンガムを含有する流動食においてキサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強するための薬剤であって、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含有することを特徴とする。
本発明の薬剤を、キサンタンガムを含む流動食の摂取の際に投与することで、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用が増強される。
【0011】
前記薬剤の好ましい形態では、水溶性のカルシウム塩と水溶性のクエン酸塩の含有質量比が、それぞれカルシウム換算及びクエン酸換算で、1:30〜5:1である。
水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を、上記の比率で配合することにより、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用の増強を効果的に行うことができる。
【0012】
上記課題を解決する第2の本発明は、流動食の摂取後の血糖上昇を抑制するための血糖上昇抑制剤であって、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含有することを特徴とする。
キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を組み合わせて、流動食の摂取の際に投与することで、キサンタンガム単独の投与では十分に抑制できなかった流動食の摂取後の血糖上昇を、十分に抑制することができる。
【0013】
前記血糖上昇抑制剤は、キサンタンガム100質量部に対し、水溶性のカルシウム塩を、カルシウム換算で、好ましくは0.5〜10質量部、水溶性のクエン酸塩を、クエン酸換算で、好ましくは2〜15質量部含有する。
水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を、キサンタンガムに対して上記の比率で配合することにより、優れた血糖上昇抑制効果を得ることができる。
【0014】
本発明の血糖上昇抑制剤は、好ましくは、流動食に混合して投与される。血糖上昇抑制剤を流動食に予め混合した状態で投与することにより、流動食による血糖上昇をより有効に抑制することが可能となる。また、同時に流動食に良好なとろみを付与することができ、嚥下困難者の流動食の摂取を補助することが可能となる。
【0015】
本発明の血糖上昇抑制剤は、流動食において、キサンタンガムの濃度が0.1〜3質量%、カルシウムの濃度が0.04〜0.37質量%、クエン酸の濃度が0.002〜0.81質量%となるように混合されるのに適した組成であることが好ましい。
【0016】
上記課題を解決する第3の本発明は、血糖上昇抑制用の流動食の製造方法であって、キサンタンガムの濃度が0.1〜3質量%、カルシウムの濃度が0.04〜0.37質量%、クエン酸の濃度が0.002〜0.81質量%となるように、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を、他の流動食成分と混合することを特徴とする。
各化合物の濃度が上記の範囲となるように流動食を製造することにより、血糖上昇抑制用の流動食を簡便に製造することができる。
【0017】
上記課題を解決する第4の本発明は、前記製造方法により製造される、血糖上昇抑制用の流動食である。
本発明の流動食は、従来の流動食に比して、摂取後における血糖上昇が緩やかなものであり、しかも適度なとろみを有するので、嚥下困難者であって血糖コントロールが必要な人が摂取する流動食として好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のキサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強するための薬剤は、キサンタンガムを含有する流動食において、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強し、流動食に十分な血糖上昇抑制作用を付与する。本発明の薬剤は、キサンタンガムを含むさまざまな流動食に混合して用いることができ、流動食を用いた血糖コントロールを容易にする。
【0019】
本発明の血糖上昇抑制剤は、流動食の摂取後の急な血糖上昇を抑制する効果を有する。このような効果は、従来、その血糖上昇抑制作用が知られていたキサンタンガムを単独で投与することでは十分に得られなかった効果である。本発明の血糖上昇抑制剤は、さまざまな流動食に混合して用いることができ、流動食を用いた血糖コントロールを容易にする。また、本発明の血糖上昇抑制剤は、同時に流動食に適度なとろみを付与するものでもあるので、嚥下困難者であって血糖コントロールを必要とする人に特に有用である。
【0020】
本発明の血糖上昇抑制用の流動食の製造方法を用いれば、血糖上昇抑制用の流動食を簡便に製造することができる。また、本発明の血糖上昇抑制用の流動食は、摂取後の急な血糖上昇を抑制すると同時に、適度なとろみを有するので、嚥下困難者であって血糖コントロールが必要な人に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】試験において測定した、各群における流動食の投与後の血糖値の推移を示す図である。
【図2】図1に示す血糖値の推移から求めた、血糖値−時間曲線下面積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<キサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強するための薬剤>
本発明の薬剤は、キサンタンガムを含有する流動食において、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用(非特許文献2、3参照)を増強するために用いられるものであり、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含有することを特徴とする。
【0023】
本発明において「流動食」とは、疾患等により栄養摂取が不十分な者の食事代替品または栄養補給食品になりうる、液状または半固形状の食品をいう。流動食における主な成分の含有量は、たんぱく質またはその分解物が通常1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%、脂質が通常0〜10質量%、好ましくは1〜8質量%、炭水化物が通常5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%である。流動食の熱量は、通常100mlあたり0.5〜3kcal程度である。
【0024】
流動食におけるキサンタンガムの含有量は特に制限されないが、好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜1.8質量%の場合に、本発明の薬剤の作用を十分に得ることができる。流動食に含有されるキサンタンガムは、食品添加物として通常用いられているものであり、特に制限されない。
【0025】
〔水溶性のカルシウム塩〕
水溶性のカルシウム塩としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム等を用いることができるが、特に乳酸カルシウムを好ましく用いることができる。
【0026】
〔水溶性のクエン酸塩〕
水溶性のクエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等を用いることができるが、特にクエン酸ナトリウムを好ましく用いることができる。
【0027】
本発明の薬剤における水溶性のカルシウム塩及び水溶性のクエン酸塩の質量比は、それぞれカルシウム換算、クエン酸換算で、好ましくは1:30〜5:1、さらに好ましくは1:14〜1:2、より好ましくは1:6〜1:2である。
【0028】
本発明の薬剤の剤形は特に制限されないが、流動食と混合しやすい剤形が好ましい。このような剤形として、顆粒、粉末、カプセル、ペースト、液剤などが好ましく挙げられる。製剤化においては、通常の賦形剤を用いることができ、例えばデキストリンや乳糖等が好ましく用いられる。本発明の薬剤は、上述した各成分を、必要に応じて賦形剤などを用い、常法により製剤化することで製造することができる。
【0029】
本発明の薬剤は、少なくとも消化管内でキサンタンガムを含む流動食と混合されるような形態で投与する必要がある。このような投与の形態として、例えば、流動食を摂取する直前、途中、又は直後に、薬剤を経口投与する形態、薬剤を予め流動食に混合しておき、流動食の摂取と共に投与する形態等が挙げられる。
好ましい形態では、前記薬剤は、予め、キサンタンガムを含む流動食に混合して投与される。薬剤を流動食に予め混合しておくことにより、血糖上昇をより有効に抑制することが可能となる。
【0030】
本発明の薬剤の投与量や、流動食に混合する場合の混合量については、流動食中のキサンタンガムの含有量を考慮して決定することができ、例えば、キサンタンガム100質量部に対し、水溶性のカルシウム塩が、カルシウム換算で、好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜2.1質量部となるような量を目安にすることができる。
また、キサンタンガム100質量部に対し、水溶性のクエン酸塩が、クエン酸換算で、好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3.4〜13.7質量部となるような量を目安とすることもできる。
このような範囲で水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を配合することにより、キサンタンガムに対し十分な量のカルシウム及びクエン酸を供給することができる。
【0031】
<血糖上昇抑制剤>
本発明の血糖上昇抑制剤は、流動食の摂取後の血糖上昇を抑制するためのものである。
【0032】
本発明の血糖上昇抑制剤は、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含有することを特徴とする。各成分の好ましい形態については、本発明の薬剤で説明したとおりである。
【0033】
本発明の血糖上昇抑制剤におけるキサンタンガムの含有量は、摂取する流動食の量を考慮して決定することができる。例えば、血糖上昇抑制剤を流動食に混合することによって流動食におけるキサンタンガムの濃度を、好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜1.8質量%とするのに適した濃度とすればよい。
目安ではあるが、血糖上昇抑制剤におけるキサンタンガムの含有量は、好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0034】
本発明の血糖上昇抑制剤における水溶性のカルシウム塩の含有量は、キサンタンガムの含有量との比率を考慮して決定することができる。例えば、キサンタンガム100質量部に対し、水溶性のカルシウム塩を、カルシウム換算で、好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜2.1質量部とすることができる。
このような範囲で水溶性のカルシウム塩を配合することにより、キサンタンガムに対し十分な量のカルシウムを供給することができる。
【0035】
本発明の血糖上昇抑制剤における水溶性のクエン酸塩の含有量は、キサンタンガムの含有量との比率を考慮して決定することができる。例えば、キサンタンガム100質量部に対し、水溶性のクエン酸塩を、クエン酸換算で、好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3.4〜13.7質量部とすることができる。
このような範囲で水溶性のクエン酸塩を配合することにより、キサンタンガムに対し十分な量のクエン酸を供給することができる。
【0036】
本発明の血糖上昇抑制剤の一形態として、例えば、キサンタンガムを5〜50質量%、水溶性のカルシウム塩をカルシウム換算で0.05〜1質量%、水溶性のクエン酸塩をクエン酸換算で0.1〜7質量%含有する形態が挙げられる。
各成分を上記の範囲で配合した血糖上昇抑制剤は、流動食による血糖上昇を抑制するのに十分な量のキサンタンガム、カルシウム、及びクエン酸の混合物を投与することが容易であるという利点を有する。
【0037】
本発明の血糖上昇抑制剤の剤形は、上述した本発明の薬剤と同様、特に制限されない。
【0038】
本発明の血糖上昇抑制剤は、流動食の摂取後の血糖上昇を抑制するためのものであるので、少なくとも消化管内で流動食と混合されるような形態で投与する必要がある。このような投与の形態として、例えば、流動食を摂取する直前、途中、又は直後に、血糖上昇抑制剤を経口投与する形態、血糖上昇抑制剤を予め流動食に混合しておき、流動食の摂取と共に投与する形態等が挙げられる。
好ましい形態では、前記血糖上昇抑制剤は、予め流動食に混合して投与される。血糖上昇抑制剤を流動食に予め混合しておくことにより、血糖上昇をより有効に抑制することが可能となる。また、同時に流動食に適度なとろみを付与することができ、嚥下困難者の流動食の摂取を補助するという効果も得ることができる。このように、本発明の血糖上昇抑制剤は、特に、嚥下困難者であって血糖コントロールが必要な人に好適である。
【0039】
本発明の血糖上昇抑制剤の投与量は、摂取する流動食の量に応じて決定することができる。例えば、流動食と血糖上昇抑制剤の総量に対して、キサンタンガムが好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜1.8質量%となるような量を目安とすることができる。
血糖上昇抑制剤を予め流動食に混合して投与する場合の混合量の目安も、上記の範囲とすることが好ましく挙げられる。
【0040】
また、血糖上昇抑制剤を予め流動食に混合して用いる場合の混合量の目安として、血糖上昇抑制剤を混合した流動食の粘度が、25℃で、好ましくは50〜50,000mPa・s、さらに好ましくは1,000〜30,000mPa・sとなるような量を挙げることができる。
このような粘度となるような量を混合することで、十分な血糖上昇抑制効果を得ることができるとともに、嚥下困難者などが摂取する観点から見た物性も良好となる。
【0041】
本発明の血糖上昇抑制剤は、上述した各成分を、必要に応じて賦形剤などを用い、常法により製剤化することで製造することができる。
【0042】
<血糖上昇抑制用の流動食>
本発明の流動食は、血糖上昇抑制のために用いられるものである。さらに、本発明の流動食は、適度なとろみを有するものであり、嚥下困難者の摂取を補助する機能も有している。すなわち、本発明の流動食は、特に嚥下困難者であって、例えば糖尿病患者、糖尿病予備群の人などの血糖コントロールが必要な人に極めて好適である。
【0043】
本発明の流動食の製造は、流動食において、キサンタンガムの濃度が、0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜1.8質量%、カルシウムの濃度が、好ましくは0.04〜0.37質量%、さらに好ましくは0.04〜0.11質量%、クエン酸の濃度が、好ましくは0.002〜0.81質量%、さらに好ましくは0.005〜0.61質量%となるように、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を、他の流動食成分と混合することにより行うことができる。
上記製造方法は、キサンタンガムを含有する流動食に本発明の薬剤を添加、混合する方法、一般的な流動食に本発明の血糖上昇抑制剤を添加、混合する方法、既存の流動食におけるキサンタンガム、カルシウム、又はクエン酸の含有量を考慮し、これらの成分を補う方法、キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を、流動食の栄養源として通常用いられる流動食成分と共に一度に混合する方法などをいずれも含む。
【0044】
また、流動食におけるカルシウムの含有量は、キサンタンガム100質量部に対し、好ましくは、少なくとも0.7質量部、さらに好ましくは、少なくとも3質量部とすることができる。また、流動食におけるクエン酸の含有量は、キサンタンガム100質量部に対し、好ましくは、少なくとも2質量部、さらに好ましくは、少なくとも3.4質量部とすることができる。
【0045】
本発明の流動食の粘度(摂取前の粘度)は、25℃で、好ましくは50〜50,000mPa・s、さらに好ましくは1,000〜30,000mPa・sである。このような範囲の粘度の流動食は、嚥下困難者における摂取がしやすいという利点を有する。
【実施例】
【0046】
<試験:2型糖尿病ラット(GKラット)の血糖値に及ぼす効果>
(試験方法)
キサンタンガム、乳酸カルシウム、クエン酸ナトリウムを添加した流動食の投与が、2型糖尿病ラットの血糖値に及ぼす効果を試験した。試験は、下記文献等を参考にし、以下の方法にて行った。
文献: ジャーナル・オブ・エンドクライノロジー(Journal of Endocrinology)、1995年、第144巻、第533-538頁
実験動物として自然発症糖尿病モデル動物であるGKラットを用いた。20週齢のGK雄ラット(日本クレア社製)を2週間F-2飼料(船橋農場社製)で予備飼育後、22週齢で試験に供した。
【0047】
表1に示す栄養組成を有する市販の流動食(比重1.065)を用い、表2に示す処方にて、試験用の3種の流動食を調製した。(I)対照食は、市販の流動食そのものを用いた。(II)キサンタンガム添加食は、市販の流動食100 mlにキサンタンガム0.9 gとデキストリン1.95 g(賦形剤)の混合物を添加、混合して調製し、(III)混合剤添加食は、市販の流動食100 mlにキサンタンガム0.9 g、デキストリン1.95 g(賦形剤)、乳酸カルシウム0.078 g(カルシウム換算量0.010 g)、およびクエン酸ナトリウム0.072 g(クエン酸換算量0.046 g)の混合物を添加、混合して調製した。
なお、(I)対照食、及び(II)キサンタンガム添加食におけるカルシウム量は、0.036 g(市販の流動食における含有量)であり、(III)混合剤添加食における全カルシウム量は、0.046 gであった。
調製した(II)キサンタンガム添加食と(III)混合剤添加食の粘度(B型回転粘度計(25℃、12rpm、2分間)にて測定)は、何れも3,400mPa・s程度であり、差はなかった。また、pHは、何れも6.3程度であり、差はなかった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
GKラットを18時間絶食後、各個体の尾静脈の血糖値を小型血糖測定器(グルテストセンサー、三和化学社製)により測定し、各群間での平均血糖値が同一になるように、(I)対照食投与群、(II)キサンタンガム添加食投与群、(III)混合剤添加食投与群の合計3群に分けた。各群の個体数は7匹とした。
各群に、各流動食をkg体重あたり10 mlとなるように、ラット用胃ゾンデを用いて強制経口投与した。投与後30分、60分、90分、及び120分に尾静脈血の血糖値を測定した。各群間の比較はStudent-t検定法で行い、P<0.05を有意とした。
結果を図1および図2に示す。
【0051】
(結果)
図1から明らかなとおり、(II)キサンタンガム添加食投与群における投与後の血糖値は、(I)対照食投与群と比較して有意差を認めなかったが、(III)混合剤添加食投与群は、投与後60分、90分に(I)対照食投与群と比較して有意に低値を示し、60分後の血糖値においては(II)キサンタンガム投与群と比較しても低値傾向を示した。
図2から明らかなとおり、血糖上昇とその持続性を総合的に評価する目的で算出した投与後2時間までの血糖値−時間曲線下面積においても、(II)キサンタンガム添加食投与群は、(I)対照食投与群と比較して有意差を認めなかったが、(III)混合剤添加食投与群においては、(I)対照食投与群と比較して有意に低値を示した。これより、キサンタンガム、乳酸カルシウム、及びクエン酸ナトリウムを組み合わせて流動食と共に投与することにより、流動食の摂取後の一定時間にわたって、血糖値の上昇が抑制されることが明らかとなった。
以上の結果から、キサンタンガムに、乳酸カルシウムとクエン酸ナトリウムを組み合わせることで、キサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、流動食の利用を必要とする嚥下困難者や消化機能不全者においても、血糖コントロールを行うことが容易となる。本発明によれば、さまざまな流動食に血糖上昇抑制作用を付加することが容易になると同時に、新たな種類の血糖上昇抑制用の流動食を提供することが可能となる。特に、血糖コントロールが必要な嚥下困難者においては、摂取を容易にする物性と血糖上昇抑制作用を兼ね備えた流動食は、極めて有用である。このように、本発明は、血糖上昇抑制用の流動食の選択肢を大きく広げるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガムを含有する流動食においてキサンタンガムの血糖上昇抑制作用を増強するための薬剤であって、
水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含有することを特徴とする薬剤。
【請求項2】
水溶性のカルシウム塩と水溶性のクエン酸塩の含有質量比が、それぞれカルシウム換算及びクエン酸換算で、1:30〜5:1であることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
流動食の摂取後の血糖上昇を抑制するための血糖上昇抑制剤であって、
キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を含有することを特徴とする、血糖上昇抑制剤。
【請求項4】
キサンタンガム100質量部に対し、水溶性のカルシウム塩を、カルシウム換算で0.5〜10質量部、水溶性のクエン酸塩を、クエン酸換算で2〜15質量部含有する、請求項3に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項5】
流動食に混合して投与されることを特徴とする、請求項3又は4に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項6】
流動食において、キサンタンガムの濃度が0.1〜3質量%、カルシウムの濃度が0.04〜0.37質量%、クエン酸の濃度が0.002〜0.81質量%となるように混合されるための、請求項5に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項7】
血糖上昇抑制用の流動食の製造方法であって、
キサンタンガムの濃度が0.1〜3質量%、カルシウムの濃度が0.04〜0.37質量%、クエン酸の濃度が0.002〜0.81質量%となるように、
キサンタンガム、水溶性のカルシウム塩、及び水溶性のクエン酸塩を、他の流動食成分と混合することを特徴とする、製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により製造される、血糖上昇抑制用の流動食。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126682(P2012−126682A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280286(P2010−280286)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】