説明

血糖代謝改善剤

【課題】骨格筋における糖代謝機能を改善または向上させる血糖代謝改善剤およびそれを配合した経口組成物の提供。
【解決手段】田七人参、杜仲葉、オリーブ葉からなる群より選ばれる一種以上の水溶性抽出物からなる血糖代謝改善剤。該血糖代謝改善剤を配合した経口組成物。優れた骨格筋における糖代謝機能を改善または向上させる効果が存在し、運動による血糖値の低下作用を増強させるだけでなく、運動しなくても運動したときと同様な効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖代謝改善剤に関する。より詳細には、田七人参、杜仲葉およびオリーブ葉から水又は水−有機溶媒混合液により抽出して得られる抽出物を含む骨格筋における糖代謝機能を改善または向上させる血糖代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高カロリー食の普及や日常の運動量の低下などの生活習慣要因により、中高年層だけでなく若年層においても糖尿病を発症する若しくはインスリン抵抗性を示す人が増えている。また、脂肪細胞の老化がインスリン抵抗性を引き起こすことも知られており、運動量も低下する老齢者においても糖尿病発症のリスクが高い。このように、日常生活の変化や老齢化社会への移行に伴い、糖尿病患者が年々爆発的に増加する傾向にあり、糖尿病予備軍である血糖代謝の異常を有する人も糖尿病患者の数倍以上存在すると考えられている。実際、国民健康・栄養調査や糖尿病実態調査でも同様な傾向が明らかにされており、わが国の糖尿病患者の増加は深刻といえる。この状況において、糖尿病が根本的な治癒ができない疾病であることから、糖尿病患者においては、病態を悪化させない、また、インスリン抵抗性を示す人に対しては、糖尿病を発症させない取組みを実行することが重要である。
【0003】
血糖値を正常範囲で推移させ、糖尿病の発症予防や治療を行う方法としては、食事療法、運動療法および薬物療法が存在し、その単独の又は組み合わせた方法が採用されている。しかし、摂取カロリーを制限する食事療法や一定時間以上実行することが必要な運動療法は、継続的に実行できない場合が多く、特に老齢者では、基礎代謝量が大幅に低下しているだけでなく、運動能力の大幅な低下に伴う運動量の減少も深刻であり、前記の方法だけで対処することが難しい場合が増加している。一方、薬物療法も医療費増大防止の観点から満足できる対処方法とはいえず、また、予防的には採用しにくい方法である。そこで、血糖の代謝に大きな影響を与えている骨格筋における糖代謝に着目し、従来処置される治療法や予防法と併用若しくは単独で、糖尿病発症予防効果や糖尿病病態改善効果を飛躍的に増強させる手段の開発が試みられている。
【0004】
血管(血液)から骨格筋へ糖を取り込む機序として、骨格筋を収縮させることで細胞内のAMPキナーゼがリン酸化され活性化することで、最終的には細胞質内のグルコーストタンスポーター4が細胞膜中に移動し、骨格筋細胞内へ糖が取り込まれる場合が知られている。さらに、この骨格筋細胞内への糖の取り込みは、骨格筋の収縮が
無くても、AMPキナーゼを活性化させることでも生じることが判っていることから、運動しなくても運動した場合と同じような効果を得られる可能性がある。この点に着目し、AMPキナーゼを活性化させる物質を経口摂取することで、血中の糖濃度を低減させる試みが提案されている。(特許文献1、2)しかし、未だ十分な効果が得られていなかったり、長期飲用できる程度の安全性が確保できていないなどの問題があり、より有効な解決方法の提案が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−37323号公報
【特許文献2】特開2011−37732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、骨格筋における糖代謝機能を改善または向上させる血糖代謝改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに田七人参、杜仲葉およびオリーブ葉から水又は水−有機溶媒混合液により抽出して得られる抽出物に優れた骨格筋における糖代謝機能を改善または向上させる効果が存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、項1および2の血糖代謝改善剤およびそれを配合した経口組成物を提供するものである。
項1.田七人参、杜仲葉、オリーブ葉からなる群より選ばれる一種以上の水溶性抽出物からなる血糖代謝改善剤。
項2.項1に記載の血糖代謝改善剤を配合したことを特徴とする経口組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血糖代謝改善剤は、AMPキナーゼの活性化を誘導することから、運動による血糖値の低下作用を増強させるだけでなく、運動しなくても運動したときと同様な効果を得ることが可能である。したがって、糖尿病患者や糖尿病予備軍だけでなく、高齢者や寝たきりの人など十分な運動量が確保できない人においても血糖値を下げ、糖尿病の発症を予防したり、糖尿病の病態を改善する効果が期待できる。さらに運動前・中・後の摂取により運動の効果を高める運動効果促進剤としても有用である。また、本発明の摂取によりAMPキナーゼを活性化することで、抗老化効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はAMPキナーゼのリン酸化活性測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における血糖代謝改善剤は、田七人参、杜仲葉およびオリーブ葉から水又は水−有機溶媒混合液により抽出して得られる抽出物からなる。なお、本願明細書において配合比率は、特に断りのない限り配合質量比率を表す。
【0012】
本発明に用いる田七人参は、ウコギ科ニンジン属の多年生草本であるサンシチニンジン(三七人参、学名Panax notoginseng Burkill、及びPanax notoginseng F. H. Chen)の地下部位(根、根茎、茎、枝根、ひげ根、塊根、むかご)を乾燥したもので、金不換や山漆と称されることもある。田七人参は、粉砕、破砕、裁断、焙煎、及び/または、乾燥等の加工を行った後に、水溶性溶媒を用いて抽出される。
【0013】
本発明に用いる杜仲は、トチュウ科トチュウ属のトチュウ(Eucommia ulmoides Oliv.)である。抽出には葉部だけでなく小枝部分も含まれていても良い。杜仲葉は、破砕、裁断、焙煎、及び/または、乾燥等の加工を行った後に、水溶性溶媒を用いて抽出される。
【0014】
本発明に用いるオリーブは、モクセイ科オリーブ属のオリーブ(Olea europaea Linne)やその同属種(例えば、Olea welwitschii、Olea paniculataなど)などを挙げることができ、500を超える品種が存在するが、品種の代表例としては、例えばネバディブロンコ、マンザニロ、ピクアル、ホジブランコ、アルベキナ、カタマラ、コロネイキ、ピッチョリーネ、パラゴン、ワッガベルダル、ミッション、ワシントン、ウエストオーストラリアミッション、サウスオーストラリアベンダル、アザパ、バルネア、コルニカブラ、ゴルダル、フラントイオ、レッチーノ、チプレッシーノ、ルッカ、アスコラーナテレナ、コレッジョッラ、モロイオロ、ブラックイタリアン、コラティーナ、ヘレナ、ロシオーラ、ワンセブンセブン、エルグレコ、ハーディズマンモスなどが挙げられる。抽出には葉部だけでなく小枝部分も含まれていても良い。杜仲葉は、破砕、裁断、焙煎、及び/または、乾燥等の加工を行った後に、水溶性溶媒を用いて抽出される。オリーブ葉抽出物としては、オレウロペインおよびヒドロキシチロソールが抽出物乾燥物当たり20質量%以上含有しているものが好ましい。
【0015】
本発明で使用する水溶性溶媒とは、水もしくは水と混和可能な有機溶媒を意味し、具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アセトンなどが挙げられる。抽出温度は、特に限定されるものではないが、0℃から溶媒の沸点程度とすればよい。溶媒が含水エタノールの場合、抽出温度は30℃〜沸点が好ましく、60〜80℃程度がより好ましい。溶媒が水の場合、抽出温度は60〜100℃程度が好ましく、70〜100℃℃程度がより好ましい。抽出時間は、溶媒が含水エタノールの場合、特に限定されるものではなく、エタノールの含量や抽出温度に応じて適宜設定することができるが、通常、数分〜24時間程度であり、20分〜4時間程度であることが好ましい。溶媒が水の場合、抽出時間は、10分〜24時間程度であり、25分〜4時間程度であることが好ましい。柿葉と抽出溶媒の割合についても、特に限定されず適宜設定することができるが、柿葉1質量部に対して、溶媒2〜1000質量部が適当であり、好ましくは2〜50質量部であり、更に好ましくは3〜30質量部程度である。上記のような抽出法により得られたエキス(抽出物)は、ろ過、遠心などの常法に従って柿葉と分離することができる。抽出液は、そのまま用いてもよいし、濃縮(例えばBrix 50〜70程度まで濃縮)して用いてもよい。濃縮は、常法に従って行うことができ、例えば30〜40mmHg程度の減圧下で、30〜50℃程度で行うことができる。また、濃縮後、凍結乾燥、噴霧乾燥、造粒乾燥などの通常用いられている手段によりエキス末を得ることもできる。その際、デキストリンなどの賦形剤を加えてもよい。そのまま、粉末で用いてもよく、さらに造粒し、顆粒、細粒にして用いることもできる。
【0016】
本発明の血糖代謝改善剤は経口組成物として摂取することができる。経口組成物としては、医薬品、医薬部外品のほか、糖尿病、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、動脈硬化、肥満、体脂肪蓄積、脂質代謝異常、生活習慣病、脂肪肝等の予防・改善や糖代謝亢進、抗老化の生理機能をコンセプトとした機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品などとすることができる。これら経口組成物の剤形形態としては特に限定するものではないが、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、サプリメント、チュアブル錠、飲料、粉末飲料、顆粒、フィルムなどの形態のほか、飲食品として使用する場合、例えば、茶系飲料、スポーツ飲料、美容飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、水や湯、炭酸水等で希釈する濃縮タイプの飲料等の飲料、水や湯等に溶解または懸濁させて飲用する粉末や顆粒、タブレット等の乾燥固形物、タブレット菓子、ゼリー類、スナック類、焼き菓子、揚げ菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、グミなどの菓子類、スープ類、めん類、米飯類、シリアル等などの食品形態にすることもできる。このうち通常の生活においては、サプリメントタイプ、チュアブル錠、ワンショットドリンクタイプなどの形態が好ましく、運動効果を高める目的で摂取する場合には、スポーツ飲料などの飲料の形態が最も好ましい。血糖代謝改善剤は、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤などの場合は、通常、乾燥物換算でこれら経口組成物に対して、合計0.01 〜95質量%、好ましくは5〜95質量%、最も好ましくは25〜90質量%の配合する。上記以外の飲食品やペットフードの場合は、通常、0.001〜50質量%、好ましくは0.01〜40質量%、最も好ましくは0.03〜25質量%配合する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0018】
AMPキナーゼのリン酸化活性測定

下記にしたがって、ELISA法を用いたAMPキナーゼのリン酸化活性の測定を行った。
下記の方法で調製された抽出液をろ過し、得られたろ液を凍結乾燥して、各被検体の抽出物(粉末)を得た。得られた抽出物を、培地に対して、最終濃度が0.02%若しくは0.05%となるように加えて溶解した。また、ネガティブコントロールとしては何も添加していない培地、ポジティブコントロールとして、AICARを培地に、最終濃度として0.2mMもしくは2mMとなるように加えた培地を使用した。
マウス骨格筋細胞株(C2C12)を6穴細胞培養プレートに播種し、10%ウシ胎児血清および1%抗菌剤を添加したDMEM培地中で37℃、5%二酸化炭素存在下で3日間培養した。細胞がコンフルエントになった状態で1%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に交換し、さらに培養して完全に分化させた。さらに、培地を新しいものに交換したうえで、被検体を投与し37℃、5%二酸化炭素存在下で培養した。PBS(−)で二度細胞を洗浄後、フォスファターゼ阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤、PMSFを添加した細胞溶解バッファー(invitrogen) を150μL加え、セルスクレイパーで細胞溶解液を回収した。細胞溶解液を超音波処理後、遠心分離にて上清を回収した。上清は測定に用いるまで−80℃で保存した。上清のタンパク質濃度を測定し、サンプル間のタンパク濃度を一定に調整した。調整後、AMPKα ELISA Kit (invitrogen)を用いて、AMPK活性を測定した。活性の度合いはコントロール(サンプル無添加)群を100とした相対値で示した。測定結果を表1および図1に示す。
被検体抽出液の調製
田七人参:田七人参末(日本粉末薬品社製)75gに蒸留水を1500ml加え、100度にて1時間抽出し、ろ液を凍結乾燥してエキス末をえた。
杜仲葉:杜仲葉(常盤植物科学研究所製)25gに蒸留水を375ml加え、100度にて1時間抽出し、ろ液を凍結乾燥してエキス末をえた。
オリーブ葉:オリーブ葉エキス末としてオピエース(エーザイフードケミカル製)を使用した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1、図1に示したとおり、田七抽出物、杜仲葉抽出物、オリーブ葉抽出物は、明らかにAMPキナーゼのリン酸化活性を有することが判った。
【0021】
以下、本発明に係る血糖代謝改善剤を配合した経口組成物の実施例の処方を挙げるが、本発明は下記の処方に限定されるものではない。なお、特に指定の無いかぎり配合量は質量部を示す。
【0022】
処方例1:スポーツ飲料
成 分 配 合 量
杜仲葉エキス 0.2
田七人参エキス 0.1
果糖 8
食塩 2
重曹 2
水 残 部
合 計 500
【0023】
処方例2:粉末茶
成 分 配 合 量
杜仲葉エキス 20
柿葉エキス 5
オリーブ葉エキス 7
香料 3
デキストリン 75
合 計 110
【0024】
処方例3:チュアブル錠
成 分 配 合 量
キシリトール 285
杜仲葉エキス 50
田七人参エキス 30
オリーブ葉エキス 20
ステアリン酸マグネシウム 10
アスパルテーム 4
香料 1
合 計 400
【0025】
処方例4:チューイングガム
成 分 配 合 量
キシリトール 1000
還元パラチノース 700
ガムベース 500
香料 200
田七人参エキス 50
オリーブ葉エキス 50
合 計 2500
【0026】
処方例5:焼き菓子
成 分 配 合 量
薄力粉 17.8
還元水あめ 9
米油 2.4
ベーキングパウダー 0.3
杜仲葉エキス 0.2
オリーブ葉エキス 0.1
香料 0.15
合 計 29.95
【0027】
処方例6:ゼリー飲料
成 分 配 合 量
還元水あめシロップ 27
オリゴ糖シロップ 27
濃縮果汁 7.2
グルコマンナン 5.4
pH調整剤 4.5
ゲル化剤 2.7
杜仲葉エキス 0.20
田七人参エキス 0.10
オリーブ葉エキス 0.05
香料 0.45
水 残 部
合 計 100
【0028】
処方例7:ショットドリンク
成 分 配 合 量
オリゴ糖シロップ 15
還元水あめシロップ 15
濃縮果汁 4
pH調整剤 2.5
安定化剤 1
香料 0.25
杜仲葉エキス 0.30
田七人参エキス 0.10
オリーブ葉エキス 0.10
柿葉エキス 0.2
スクラロース 0.02
水 残 部
合計 100
【0029】
処方例8:カプセル剤 (300mg/個)
成 分 配 合 量
コーンスターチ 30
セルロース 30
乳糖 23
トコフェロール 6
安定化剤 1
杜仲葉エキス 0.100
田七人参エキス 0.050
オリーブ葉エキス 0.050
合 計 90.2
【0030】
処方例9:錠剤(250mg錠)
成 分 配 合 量
杜仲葉エキス 60
田七人参エキス 60
オリーブ葉エキス 30
コーンスターチ 25
セルロース 25
ビタミンC 50
合 計 250

【特許請求の範囲】
【請求項1】
田七人参、杜仲葉、オリーブ葉からなる群より選ばれる一種以上の水溶性抽出物からなる血糖代謝改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の血糖代謝改善剤を配合したことを特徴とする経口組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−75874(P2013−75874A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217871(P2011−217871)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】