説明

血糖値を調整するポリペプチド

【課題】血糖値を調整するポリペプチドと、これを含む医薬組成物と、血糖値を調整する薬の製造のためのこのポリペプチドの使用とを提供する。
【解決手段】
このポリペプチドはアミノ酸配列:RVRVWVTERGIVARPPTIG、又は該配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値を調整するポリペプチド及びその使用、特にアミノ酸配列:RVRVWVTERGIVARPPTIG、又は該配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列を持つポリペプチドに関する。
《関連する出願への相互参照》
本出願は、2008年12月01日付で出願した台湾特許出願第097146586号の優先権を主張する特許出願である。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は代謝異常の慢性病である。糖尿病の主な原因はインスリンの不足、体内でのインスリンの機能不良、又は先天性の遺伝子欠陥と生後の環境との組合せによって発生するインスリンへの抵抗性であり、糖を利用する能力が低下するか、又は完全に喪失され、その結果、血糖値が上昇し、体内のタンパク質及び脂質の代謝が異常化する。更に糖尿病は、眼底、神経(運動神経、知覚神経、自律神経を含む)、腎臓、大血管(脳梗塞、冠動脈疾患、末梢血管閉塞を含む)、糖尿病性足症などの病理学的変化を含む他の慢性合併症を引き起こす。
【0003】
世界保健機関(WHO)の統計によれば、世界中の糖尿病の患者の数は、1985年の約3000万人から1995年の約13500万人へ、そして現在の17700万人超へ劇的に増加した。WHOは更に世界の糖尿病の患者の数は、2030年に33600万人を超えると予測している(非特許文献1)。また、米国における糖尿病とその合併症の医療費は、1997年の440億米ドルから2000年の1320億米ドルに増加した。糖尿病の罹患率の増加とともに、血糖値を効率的に調整できる物質又は薬を開発することが重要になっている。
【0004】
1922年以来、糖尿病の治療に主にインスリンが使用されてきた。しかし、インスリンの不足は膵臓機能異常の原因の一部に過ぎない。このため、糖尿病の治療にインスリンだけを使用すると、効率が限定される。
【0005】
インスリンのほかに、糖尿病の治療に使用される他の医薬品がある。血糖を減らすために使用されるこれらの医薬品は、それらの機構によって5つのグループに分類できる。第1グループはスルホニル尿素群からなり、膵臓からのインスリンの分泌を促進し、組織球のインスリン受容体の数を増加させる。第2グループは、インスリンの分泌を促すことが出来る安息香酸誘導体群からなる。第3グループはビグアニド群からなり、胃又は腸における糖の吸収を抑制し、肝臓における糖の生成を抑制し、組織による糖の摂取を促進する。第4グループは、腸が吸収できるように二糖類が単糖類に分解されるのを抑制するαグルコシダーゼ抑制剤群からなる。第5グループは、末梢組織及び肝細胞のインスリン抵抗性を低減するインスリン増感剤群からなる。しかし、上記の医薬品の各グループはそれぞれ異なる副作用を持っている。例えば、スルホニル尿素群は発疹と低血糖を引き起こす可能性があり、安息香酸誘導体群は血糖値を減少させる可能性があり、ビグアニド群は乳酸アシドーシス及び胃腸病を引き起こす可能性があり、αグルコシダーゼ抑制剤群は胃腸病を引き起こす可能性があり、インスリン増感剤群は肝臓機能異常と肝細胞の損傷を引き起こす可能性がある。従って、血糖値調整機能を持ち副作用のない薬を開発することが重要である。
【0006】
通常の化合物と異なり、ポリペプチドは生物にとってより良好な代謝率と受容度を有し、従って、副作用が少ない。このため、多くのポリペプチドが世界で数十年間研究され、臨床治療に適用されてきた。例えば、特許文献1は血糖を減らすグルカゴン様ペプチド‐1類似体を開示し、一方、特許文献2は、膵臓炎関連タンパク質前駆体の活性断片であるヒト・プロ膵島ペプチド(HIP:Human proIslet Peptide)を使用して血糖を減らす薬を開示する。
【0007】
また、植物抽出物から得ることができるポリペプチドが血糖低減活性を有していることが発見された。例えば、特許文献3は苦瓜由来の血糖低減活性を持つポリペプチドを開示する。このポリペプチドのアミノ酸配列はKTNMKHMAGAAAAGAVVGであり、このポリペプチドの分子量は10kDa未満である。
【0008】
このように血糖値を調整する多くの医薬品が存在するが、異なる様々な病原機構を持つ糖尿病を治療するための単一又は組合せ治療法、又は医薬組成物がまだ必要とされている。
【0009】
本発明は上記の要求に対応して、血糖値調整機能、特に正常な動物と糖尿病に罹った動物のための血糖値調整機能を有する新規なポリペプチドを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】台湾特許第1283684号明細書
【特許文献2】米国特許第7,393,919号明細書
【特許文献3】米国特許第6,127,338号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】http://www.who.int/dietphysicalactivity/publications/facts/diabetes/en/
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、血糖値を調整するポリペプチドを提供することである。このポリペプチドは、アミノ酸配列:RVRVWVTERGIVARPPTIG、又は該配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列を含む。
好ましくは、本発明のポリペプチドは、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 12、及びこれらのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列からなるグループから選択された1つ以上のアミノ酸配列を含む。
【0013】
本発明の別の目的は、本発明のポリペプチドを含む血糖値を調整するための医薬組成物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、血糖値を調整する薬の製造のための本発明のポリペプチドの使用を提供することである。
また、本発明は、本発明のポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。
本発明の詳細な技術と好適な実施形態を、当業者が本発明の特徴を良く理解できるよう下記に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のポリペプチドの2次元ゲル電気泳動の図である。
【図2】製造方法、医薬組成物の適用可能な投与形態、及び本発明のポリペプチドの使用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、用語「相同ポリペプチド」は、特定のポリペプチドのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られるアミノ酸配列を持つポリペプチド、即ち、この特定のポリペプチドの同族体を指す。
【0016】
本発明の血糖値を調整するポリペプチドは、アミノ酸配列:RVRVWVTERGIVARPPTIG、又は該配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列を含む。
【0017】
好ましくは、本発明のポリペプチドは、SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 12、及びこれらの配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列からなるグループから選択された1つ以上のアミノ酸配列を含む。
【0018】
より好ましくは、本発明のポリペプチドは、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 12、及びこれらの配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列からなるグループから選択された1つ以上のアミノ酸配列を含む。
【0019】
本発明のポリペプチドは、植物抽出、人工合成、遺伝子組換え技術、又はこれらの組合せにより得ることができる。本明細書において人工合成は、所望のポリペプチドに依って、化学合成法、又は化学合成原理に基づくペプチド合成機を使用する方法を含むマニュアル法によりアミノ酸を連結し配列することができることを意味する。このため、人工合成法は一般に次の利点を有している。即ち、合成過程においてポリペプチドの主構造を容易に変えること、特定のアミノ酸を容易に追加すること、ポリペプチドの末端を都合よく修飾することができる。
【0020】
本発明のポリペプチドを合成するために使用できる化学合成法は、固相合成法と、液相合成法とに分けることができる。一般に液相合成法は、各アミノ酸の連結ステップ後毎に抽出操作を実行する必要がある。また、通常、抽出物からのペプチド中間体は混合物であるので、クロマトグラフ精製ステップも必要である。言換えると、ポリペプチドを合成するために液相合成法を使用することは、高純度の生成物を得るための複雑な抽出とクロマトグラフ精製ステップとを伴う。
【0021】
液相合成法と違い、固相合成法はかなり異なる方法で実行される。アミノ酸の連結反応は溶媒中の固体ポリマー粒子(又はポリマー支持体)上で発生する。この方法では、所望のポリペプチドのN末端アミノ酸がポリマー粒子に先ず共有結合し、次に特定の連結方法で他のアミノ酸が連結して配列を作る。この結果、所望のポリペプチドが合成される。ポリマー粒子は溶媒中で分解しないので、該ポリマー粒子(及びこれに接続された所望のポリペプチド)は、合成プロセス後、洗浄と濾過により反応試薬及び副生成物から分離することができる。即ち、固相合成法では合成プロセス全体の最後に一回だけ精製ステップが必要である。このため、液相合成法と違い、固相合成法は相対的に簡便であり、合成時間をかなり短縮することができ、従って、長鎖ポリペプチドの合成により有利である。
【0022】
現在まで、ポリペプチドを自動的に合成するための多くの種類の装置、例えば固相ペプチド合成機、液相ペプチド合成機、マイクロ波ペプチド合成機等が開発されてきた。これらの全ては、要件に依って本発明のポリペプチドを合成するために選択することができる。
【0023】
本発明のポリペプチドは遺伝子組換え技術によっても合成することができる。この場合、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが宿主細胞に導入され、このポリヌクレオチドが発現されて本発明のポリペプチドが生成される。この宿主細胞は大腸菌又は酵母菌であってもよく、発現ベクターは市場から入手可能な通常のベクター、例えばpQStrep2, pQStrep4, pGEX-6P1, pQTEV等から選択することができる。
【0024】
また、本発明のポリペプチドは植物抽出物から得ることもできる。キュウリ科の植物、例えば苦瓜、山苦瓜(kakorot)、キュウリ、カボチャ、ヒョウタン(gourd)、スイカ、カラスウリの種、カラスウリの根、及びこれらの組合せの抽出物から得ることができ、血糖値を調整することができる幾つかのポリペプチドが存在する。キュウリ科の植物の抽出物内の血糖値を調整することができるポリペプチドは、全て相同ポリペプチドに属することがタンパク質電気泳動により証明された(図1参照)。しかし、本発明のポリペプチドはキュウリ科の植物以外の植物、例えば百日草、タルウマゴヤシ、ブドウ、グレープフルーツ、セイヨウニワトコ、シロイヌナズナ、イネ、及びこれらの組合せからも得ることができる。即ち、本発明のポリペプチドの供給源はキュウリ科の植物に限定されない。
【0025】
例えば、苦瓜からの植物抽出物は下記のステップにより得ることができる。その後、本発明のポリペプチドは、この植物抽出物を(例えば、タンパク質電気泳動又はクロマトグラフ精製を使用して)精製することで得ることができる。先ず、苦瓜を溶媒に浸してほぐし粗懸濁液を得る。ここで溶媒はリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、水等であってよい。苦瓜はミキサー又は粉砕機によって細かくされてよい。この粗懸濁液から粒子を速度12,000rpm〜15,000rpmで遠心分離機によって取り除き、その上澄み液を0.1μm〜0.5μmの孔サイズのフィルターを使って濾過する。得られた濾過液を1kDa阻止薄膜フィルターを通過させ、次に10kDa阻止薄膜フィルターを通過させる。最後に濾過液を収集して、本発明のポリペプチドを含む水溶性苦瓜抽出物が得られる。該薄膜フィルターは通常の薄膜フィルター製品、例えばAmicon(登録商標)薄膜フィルター、Millipore(登録商標)薄膜フィルター等から選択することができる。所望のポリペプチドはタンパク質電気泳動、クロマトグラフ精製等の精製方法を使用することで分離することができる。最後に保存剤(例えば、安息香酸ナトリウム、サリチル酸等)を加えてもよい。このポリペプチドは−80℃で保存される。
【0026】
本発明のポリペプチドを分離するためにタンパク質電気泳動を使用する場合、特に2次元ゲル電気泳動をこのポリペプチドを分離するために使用することができる。先ず、上記の水溶性苦瓜抽出物でタンパク質沈澱を発生させ、そのタンパク質沈澱物に1次元等電点電気泳動法(IEF)を実施する。2次元目用は、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動)ゲルが調製され、ゲルスロット内に注入され、エタノールを使用して平らにされる。20分後、ゲルスロットからエタノールを注ぎ出し、前記IEF処理されたゲルストリップとタンパク質分子量マーカーを試料ウェルに入れる。次に110Vで電流により電気泳動を実行する。染料がゲルの底に移動すると電気泳動は終了する。ゲルをゲルスロットから取り出し、着色試薬を使って着色する。次にゲル上の着色試薬を洗浄緩衝液で取り除き、ゲルを脱色緩衝液で脱色する。最後にゲル上の等電点が9〜10で、分子量が1kDa〜7kDaの位置にあるタンパク質バンドを切り取り、本発明のポリペプチドが得られる。
【0027】
また、本発明のポリペプチドは上記の方法の組合せにより得ることもできる。例えば、所望のポリペプチドの断片は先ず、遺伝子組換え又は植物抽出により得ることができ、次に完全なポリペプチドは人工合成により得ることができる。
【0028】
本発明のポリペプチドは血糖を減らす薬を作るのに使用できる。このため、本発明は、効果的な量の本発明のポリペプチドと医薬的に許容される担体とを含む血糖値を調整するための医薬組成物も提供する。この医薬組成物は任意の適切な投与形態、例えば錠剤、カプセル、顆粒、粉末、抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳濁液、チンキ剤、注射剤、静脈注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末懸濁注射剤、又はこれらの組合せ等の形態であってよい。
【0029】
また、本発明の医薬組成物は他の補助薬、例えば溶媒、分散媒質、被覆剤、安定剤、希釈剤、保存剤、防腐剤、殺菌剤、抗真菌試薬、等浸透圧試薬、吸収抑制試薬、崩壊剤、乳化剤、結合剤、潤滑剤、色素等を含んでもよい。本ポリペプチドの作用に悪影響がない限り、補助薬に特定の限定はない。例えば溶媒は水又は蔗糖溶液であってよい。希釈剤は乳糖又はでんぷんであってよい。保存剤はベンジルアルコールであってよい。吸収抑制試薬はキトサン又はグリコサミノグリカンであってよい。潤滑剤は炭酸マグネシウムであってよい。色素はタートラジンであってよい。
【0030】
本ポリペプチドが消化管内で酵素によって分解されるのを防ぐために、本発明の医薬組成物は注射により投与され、血液によって解放位置に直接運ばれる。本発明の医薬組成物が経口により投与される場合、この医薬組成物は、胃酸及び小腸の前半内の酵素から自身を保護するために吸収抑制試薬を含んでもよい。
【0031】
本発明のポリペプチドを含む医薬組成物が人又は動物の血糖値を調整するために使用される場合、本ポリペプチドの投与量は経口投与の場合、1日当り50mg/kg体重である。注射投与の場合、血糖値を調整するための本医薬組成物の1日当りの効果的な投与量は2.5×10-9モル/kg体重である。
【0032】
本発明は、更に本発明のポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。このポリヌクレオチドは通常のクローン法で得ることができる。例えば、先ずゲノム・デオキシリボ核酸を植物細胞から抽出し、次にこれをポリメラーゼ連鎖反応のための鋳型として使用できる。ポリメラーゼ連鎖反応の完了後、生成物は精製されて、本発明の単離ポリヌクレオチドが得られる。
【0033】
図2は製造方法、医薬組成物の適用可能な投与形態、及び本発明のポリペプチドの使用を例示する。
【0034】
本発明を下記の具体的な実施例を用いて更に詳細に説明する。下記で説明する実施例を参照することで、当業者は本発明の基本思想、他の目的、技術方法、及び実施形態を容易に理解できるであろう。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためだけに提供され、本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
[材料]
次の材料が実施例において使用された。
(A)実験対象:2タイプのマウス、即ち、BALB/c(血糖の代謝は正常)とob/ob(自然糖尿病タイプ2)を実験に使用した。これらは台湾国立研究所動物センター(National Laboratory Animal Center, Taiwan)によって提供された。
(B)ポリペプチド:表1に示すアミノ酸配列を持つポリペプチドを固相合成法によって製造した。
【0036】
【表1】

【実施例1】
【0037】
5匹の正常なマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、5匹の糖尿病発症マウス(ob/ob)を4時間絶食させた。次にSEQ ID NO: 12のポリペプチドの2.5×10-9モル/kg体重の溶液(100μL)を実験グループの各マウスの腹膜腔に注入し、一方、対照グループ(5匹のマウス)の各マウスに水(100μL)を注入した。15分後、グルコースの4g/kg体重の溶液を正常な各マウス(BALB/c)の腹膜腔に注入し、一方、各糖尿病発症マウス(ob/ob)の腹膜腔にグルコースの1g/kg体重の溶液を注入し、各マウスの血糖値を急激に上昇させた。180分後、各マウスの血液を尾から採取し、血糖値を血糖メーター(Accu-Check Advantage, Roche,ドイツ)により測定した。実験グループのマウスの血糖値を対照グループの血糖値と比較・分析して、血糖値に対するSEQ ID NO: 12のポリペプチドの相対的抑制率を得た(表2に示す)。
【0038】
【表2】

(統計はスチューデントのt‐検定によった、* p<0.05)
【0039】
表2に示すように、この実験では、SEQ ID NO: 12のポリペプチドは、正常なマウスと糖尿病発症マウスの両方の血糖値を効率的に下げることができた。SEQ ID NO: 12のポリペプチドは正常なマウスの血糖値の抑制率を約70%に到達させ、糖尿病発症マウスの血糖値の抑制率を約50%に到達させることができる。
【実施例2】
【0040】
5匹の正常なマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、5匹の糖尿病発症マウス(ob/ob)を4時間絶食させた。次にSEQ ID NO: 11のポリペプチドの2.5×10-9モル/kg体重の溶液(100μL)を実験グループの各マウスの腹膜腔に注入し、一方、対照グループ(5匹のマウス)の各マウスに水(100μL)を注入した。15分後、グルコースの4g/kg体重の溶液を正常な各マウス(BALB/c)の腹膜腔に注入し、一方、各糖尿病発症マウス(ob/ob)の腹膜腔にグルコースの1g/kg体重の溶液を注入し、各マウスの血糖値を急激に上昇させた。180分後、各マウスの血液を尾から採取し、血糖値を血糖メーター(Accu-Check Advantage, Roche,ドイツ)により測定した。実験グループのマウスの血糖値を対照グループの血糖値と比較・分析して、血糖値に対するSEQ ID NO: 11のポリペプチドの相対的抑制率を得た(表3に示す)。
【0041】
【表3】

(統計はスチューデントのt‐検定によった、* p<0.05, *** p<0.001)
【0042】
表3に示すように、この実験では、SEQ ID NO: 11のポリペプチドは、正常なマウスと糖尿病発症マウスの両方の血糖値を効率的に下げることができた。SEQ ID NO: 11のポリペプチドは正常なマウスの血糖値の抑制率を約50%に到達させ、糖尿病発症マウスの血糖値の抑制率を約40%に到達させることができる。
【実施例3】
【0043】
9グループのそれぞれの5匹の正常なマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、SEQ ID NO: 1のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 2のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 3のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 4のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 5のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 6のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 7のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、SEQ ID NO: 8のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、及びSEQ ID NO: 9のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)をそれぞれ実験グループの1つのグループの各マウスに経口投与した。一方、対照グループ(5匹のマウス)の各マウスに水(20μL)を与えた。15分後、グルコースの4g/kg体重の溶液を各マウスの腹膜腔に注入し、各マウスの血糖値を急激に上昇させた。180分後、各マウスの血液を尾から採取し、血糖値を血糖メーター(Accu-Check Advantage, Roche,ドイツ)により測定した。実験グループのマウスの血糖値を対照グループの血糖値と比較・分析して、血糖値に対する各ポリペプチドの相対的抑制率を得た(表4に示す)。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示すように、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:7、又はSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を持ったポリペプチドは、血糖値を下げる効果がより高い。これらのポリペプチドはそれぞれ異なる植物科由来である。従って、この実験は植物由来のポリペプチドは体内の血糖値を下げることができることを示している。
【実施例4】
【0046】
2つのグループのそれぞれの5匹の正常なマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、SEQ ID NO:10のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)、及びSEQ ID NO:11のポリペプチドの50mg/kg体重の溶液(20μL)をそれぞれ実験グループの1つのグループの各マウスに経口投与した。一方、対照グループ(5匹のマウス)の各マウスに水(20μL)を与えた。15分後、グルコースの4g/kg体重の溶液を各マウスの腹膜腔に注入し、各マウスの血糖値を急激に上昇させた。180分後、各マウスの血液を尾から採取し、血糖値を血糖メーター(Accu-Check Advantage, Roche,ドイツ)により測定した。実験グループのマウスの血糖値を対照グループの血糖値と比較・分析して、血糖値に対するSEQ ID NO:10とSEQ ID NO:11のポリペプチドの相対的抑制率を得た(表5に示す)。
【0047】
【表5】

(統計はスチューデントのt‐検定によった、** p<0.01)
【0048】
表5から分かるように、この実験では、SEQ ID NO:10とSEQ ID NO:11のポリペプチドの両方とも、正常なマウスの血糖値を効率的に下げることができた。SEQ ID NO:11のポリペプチドは血糖値の抑制率を約50%に到達させることができる。
【実施例5】
【0049】
15グループのそれぞれの5匹の正常なマウス(BALB/c)を18時間絶食させ、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む苦瓜(栽培変種:Yue-Hua)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む苦瓜(栽培変種:Tsuei-Fei)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む苦瓜(栽培変種:Siou-Hua)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む山苦瓜(OP)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む山苦瓜(WB15)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む山苦瓜(栽培変種:同系交配種)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含む山苦瓜(Hu2)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むキュウリ(栽培変種:Wan-Lyu)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むキュウリ(栽培変種:Si-Yan)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むカボチャ(栽培変種:Yi-Pin)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むカボチャ(栽培変種:Mu-Gua-Sing)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むヒョウタン(栽培変種:Bian-Bo)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むスイカ(栽培変種:Fu-Bao)の抽出物(20μL)、本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むスイカ(栽培変種:Te-Siao-Fong)の抽出物(20μL)、及び本発明のポリペプチド(相同ポリペプチド)を1g/kg体重含むカラスウリの種の抽出物(20μL)をそれぞれ実験グループの1つのグループの各マウスに経口投与した。一方、対照グループ(5匹のマウス)の各マウスに水(0.5mL)を与えた。15分後、グルコースの4g/kg体重の溶液を各マウスの腹膜腔に注入し、各マウスの血糖値を急激に上昇させた。180分後、各マウスの血液を尾から採取し、血糖値を血糖メーター(Accu-Check Advantage, Roche,ドイツ)により測定した。実験グループのマウスの血糖値を対照グループの血糖値と比較・分析して、血糖値に対する各植物抽出物の相対的抑制率を得た(表6に示す)。
【0050】
【表6】

(統計はスチューデントのt‐検定によった、* p<0.05, ** p<0.01)
【0051】
表6から分かるように、本発明のポリペプチドを含むキュウリ科の植物抽出物は全て、血糖を減らす効果がある。苦瓜(栽培変種:Tsuei-Fei)の抽出物、カボチャ(栽培変種:Yi-Pin)の抽出物、及びヒョウタン(栽培変種:Bian-Bo)の抽出物は、血糖を減らす効果がより高い。
【0052】
実施例1〜5から、本発明のポリペプチドを経口投与又は腹膜腔注入により正常なマウス(BALB/c)又は糖尿病発症マウス(ob/ob)に投与することは、高濃度のグルコースの注入によって血糖値が高くなるのを防ぐ可能性があることが分かる。
【0053】
上記実施例は本発明の原理と効力を例示するために提供され、本発明の範囲を限定するものではない。当業者は上記の開示に基づいて、本発明の原理と思想から逸脱することなく様々な変更と置換えを想到する可能性がある。従って、本発明の範囲は添付の請求項によって概ね規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血糖値を調整するポリペプチドであって、
アミノ酸配列:RVRVWVTERGIVARPPTIG、又は該配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 10、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 12、及びこれらのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列からなるグループから選択された1つ以上のアミノ酸配列を含む請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 12、及びこれらのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列からなるグループから選択された1つ以上のアミノ酸配列を含む請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 11、SEQ ID NO: 12、及びこれらのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸の置換え、削除、及び/又は追加によって得られる相同アミノ酸配列からなるグループから選択された1つのアミノ酸配列からなる請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
植物抽出、人工合成、遺伝子組換え技術、及びこれらの組合せからなるグループから選択された方法によって得られる請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
苦瓜、山苦瓜、キュウリ、カボチャ、ヒョウタン、スイカ、カラスウリの種、カラスウリの根、及びこれらの組合せからなるグループから選択された植物から抽出によって得られる請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
百日草、タルウマゴヤシ、ブドウ、グレープフルーツ、セイヨウニワトコ、シロイヌナズナ、イネ、及びこれらの組合せからなるグループから選択された植物から抽出によって得られる請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記遺伝子組換え技術は宿主細胞における遺伝子発現によって実行され、この宿主細胞は大腸菌又は酵母菌である請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項1に記載の血糖値を調整するポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1に記載のポリペプチドと、医薬的に許容される担体とを含む血糖値を調整するための医薬組成物。
【請求項11】
錠剤、カプセル、顆粒、粉末、抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳濁液、チンキ剤、注射剤、静脈注射剤、粉末注射剤、懸濁注射剤、粉末懸濁注射剤、及びこれらの組合せからなるグループから選択された投与形態を有する請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
血糖値を調整する薬の製造のための請求項1に記載のポリペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−124827(P2010−124827A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62569(P2009−62569)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】