血糖値上昇抑制剤
【課題】 安全な食品素材由来である血糖値上昇抑制剤およびその製造方法および組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤、およびそれを含有する糖尿病および食後の血糖値上昇抑制の予防及び/又は改善・処置用組成物を提供する。本発明の上記の組成物は、安全であり、糖尿病の予防及び/又は改善・処置に有効である。
【解決手段】 本発明は、シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤、およびそれを含有する糖尿病および食後の血糖値上昇抑制の予防及び/又は改善・処置用組成物を提供する。本発明の上記の組成物は、安全であり、糖尿病の予防及び/又は改善・処置に有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシソ抽出物を有効成分として含有する血糖値上昇抑制剤及び糖尿病の予防・治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満及び糖尿病は、過剰カロリーの摂取が主な原因となって、増加の一途をたどっている。糖尿病には、インスリン依存型糖尿病(I型糖尿病)とインスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)の2タイプがあるが、その90%は後者のタイプである。インスリン非依存型糖尿病における高血糖の原因として、食後の急峻な血糖上昇に対応し、瞬時に分泌されるべきインスリン早期相の欠如と食後高血糖の持続により誘導される内因性基礎インスリン分泌低下が挙げられる。
【0003】
食後高血糖の是正は経口血糖降下剤やインスリンを用いても困難なことがあり、消化系における糖質の急速な吸収を防ぐ方法が有望である。消化系における糖質の吸収としては、小腸中のαグルコシダーゼが関与しており、これらの酵素を阻害することにより、食後の血糖値上昇が抑制され、さらにそれに続くインシュリン値の上昇も抑制されることが明らかにされている。
【0004】
いままでに、グルコシダーゼ活性阻害物質としては、エゾイシゲ抽出物(特許文献1) 、紅景天属植物(特許文献2)、アカルボース、エミグリテート、ミグリトール及びボグリボース(特許文献3)等が既に報告されている。
【0005】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor、以下PPARと記す)は脂質および糖代謝を維持する遺伝子群の発現制御を担う核内受容体ファミリーに属するリガンド依存性転写因子である。哺乳動物ではPPARα、PPARδ(PPARβ、NUC-1、FAAR)、PPARγの3種のサブタイプの存在が知られており、3種のサブタイプのうち、とりわけ、PPARγにはPPARγ1とPPARγ2の2種のアイソフォームが存在しており、PPARγ1は脂肪組織の他に免疫系臓器や副腎、小腸で発現して、PPARγ2は脂肪組織で特異的に発現している(非特許文献1)。
【0006】
PPARγリガンドとしては、糖尿病治療薬・インスリン抵抗性改善薬として開発されたトログリタゾン、ピオグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体が存在する。
【0007】
しかしながら、インスリン作用増強剤であるトログリタゾンは肝障害の副作用により開発が中止されるなど、これまでのPPARγリガンド剤やアミラーゼ活性阻害物質やグルコシダーゼ活性阻害物質では、安定性, 安全性, 有効性の全てを満足するものは、未だ得られていないのが実状である。
【0008】
そこで、血糖値を低減させる作用に優れ、かつ安全性が高く長期投与が可能な血糖値上昇抑制剤の開発が望まれていた。
【0009】
シソはシソ科シソ属(Perilla frutescens)の植物であり、赤シソ、青シソ、チリメンジソ、チリメンカタジソなどの品種が存在し、薬味、天ぷら、シソ巻き、菓子原料として広く用いられている。また、防腐、抗菌、解毒、健胃、解熱、鎮静、咳止め、発汗、利尿、整腸作用など様々な効能があることが知られており、古くから民間薬としてだけでなく、半夏厚朴湯、香蘇散などの漢方薬の主剤の一つとして用いられている(非特許文献2)。
【0010】
また、シソの50%エタノール水溶液による抽出物がαグルコシダーゼ阻害活性を有していること(特許文献4)、および、シソの熱水抽出物が抗アレルギー作用を有していること(特許文献5)が知られている。
【0011】
また、イソフラボンもしくはその類縁体がPPAR依存的遺伝子転写活性化作用を有すること、シソがイソフラボンもしくはその類縁体を含有する植物の一例として報告されている(特許文献6)。
【特許文献1】特開2000−342224号
【特許文献2】特開2000−128793号
【特許文献3】特表2002−529504号
【特許文献4】特開2000−102383号
【特許文献5】特許第3071669号
【特許文献6】特開2002−80362号
【非特許文献1】Journal of Medicinal Chemistry,2000年,43巻,527〜550頁
【非特許文献2】月刊フードケミカル,2000年,7巻,37−42頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、血糖値上昇を抑制する作用を有し、かつ安全性が高い、食品由来の血糖値上昇抑制剤およびその製造方法並びにこの血糖値上昇抑制剤を含有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、シソを濃度90〜99.5容量%のエタノール水溶液で抽出することにより、血糖値上昇抑制作用を有するシソ抽出物が得られることを見いだした。
【0014】
即ち本発明が提供するのは、以下の通りである。
[1] シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
[2] シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする[1]記載の血糖値上昇抑制剤。
[3] シソ乾燥物の水分含量が、25%未満であることを特徴とする[1]または[2]記載の血糖値上昇抑制剤。
[4] カルボキシメチルセルロースナトリウムで粉末処理された[1]〜[3]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤。
[5] 血糖値上昇抑制剤中のカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量が50〜90重量%である[4]記載の血糖値上昇抑制剤。
[6] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤からなるαグルコシダーゼ阻害剤。
[7] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤からなるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤。
[8] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤を含有する糖尿病の予防または改善用組成物。
[9] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[10] 医薬用または動物薬用である[1]〜[9]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
[11] 飲食用である[1]〜[9]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
[12] シソ(Perilla frutescens)乾燥物を、濃度90〜99.9容量%のエタノール水溶液で抽出することを特徴とする、血糖値上昇抑制剤の製造方法。
[13] シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする[11]記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
[14] シソ乾燥物が、水分含量25%未満の乾燥物であることを特徴とする[12]または[13]記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
[15] シソ抽出物にカルボキシメチルセルロースを添加・混合し、その後必要に応じて溶媒を除去して、粉末化することを特徴とする[11]〜[14]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食品由来の安全な血糖値上昇抑制剤が得られる。本発明で得られる血糖値上昇抑制剤は、特に糖尿病患者だけでなく、健常人の血糖値上昇を予防・緩和または改善する上で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、シソ乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする組成物であり、血糖値上昇を抑制する作用を有する。
【0018】
上記血糖値上昇抑制作用とは、血糖値の上昇を抑制する作用である。本発明の血糖値上昇抑制剤は、糖尿病患者の血糖値の上昇を抑制することで、糖尿病を改善するだけでなく、健常人の血糖値上昇も抑制し、糖尿病を予防することができる。
【0019】
本発明において、糖尿病の予防とは、日本糖尿病学会診断基準(1999年発行)にて定義している糖尿病の状態又は境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることを指す。また、糖尿病の改善とは、上記に示す糖尿病の状態又は境界域の状態から、上記診断基準にて正常域と定義している状態に近づけることを指す。
【0020】
本発明において用いられるシソは、シソ科シソ属(Perilla frutescens)の植物であれば特に限定されない。具体的には、赤シソ(Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo )、青ジソ(Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo forma viridis Makino)、チリメンジソ(Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa Makino)、チリメンカタジソ(Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makino)などが挙げられるが、本発明においては、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa Makino、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoがより好ましい。上記シソは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、シソ抽出物を得るために用いる植物部位は、特に限定されないが、本発明においてはシソの葉が好ましい。上記シソの形態は、原型、ブレンダー等により粉砕したもの、切断したもの又は粉末のいずれを用いてもよい。また、本発明におけるシソは、乾燥物の状態で用いられ、該シソ乾燥物は水分含量25%以下のものが好ましく、水分含量15%以下のものがより好ましく、水分含量8%以下がさらに好ましい。水分含量が多いシソ乾燥物では、原料の保管の際に腐敗する可能性があり、また、抽出時にシソ乾燥物中の水分が溶媒へ移行し抽出溶媒の濃度が低下し、得られた抽出物が十分な血糖値上昇抑制作用を有さない可能性がある。
【0021】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、上記シソ乾燥物を、濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液で抽出することによって得られる抽出物を有効成分とする。該抽出物は例えば、上記のシソ乾燥物を抽出溶媒に浸し、常圧下で攪拌又は放置し、静置分離、濾過又は遠心分離などを行うことにより、得ることができる。本発明で用いられる抽出溶媒は、濃度90〜99.9容量%のエタノール水溶液である必要がある。90容量%未満のエタノール水溶液では、十分な血糖値上昇抑制作用が得られない。血糖値上昇抑制作用の点において、エタノール濃度は高い方が好ましく、その下限としては95容量%が好ましく、98容量%がより好ましい。血糖値上昇抑制作用の点において上限は特に限定されないが、実用的観点から、その上限としては99.9容量%が妥当である。また、抽出温度は、一般に−20〜100℃、好ましくは1〜90℃、より好ましくは1〜70℃で実施できる。抽出時間は、普通0.1時間〜1ヶ月、好ましくは0.5時間〜7日間で実施できる。また、抽出溶媒量はシソ乾燥物1重量部に対して1倍量以上50倍量以下が好ましく、3倍量以上20倍量以下がより好ましい。1倍量未満ではシソ乾燥物が充分に溶媒に浸らず抽出物の回収率が低くなる。また、50倍量以上では抽出に用いる抽出タンク等の容器が大きくなり、溶媒除去に必要となるエネルギーが極めて大きく製造コストが高くなる傾向がある。
【0022】
本発明において、シソ抽出物の形態は、抽出液の形態でもよいし、溶媒を除去したものでもよい。さらに、他の適切な溶媒に溶解、懸濁した形態であってもよい。また、これらのシソ抽出物には、血糖値上昇抑制剤として、その活性を失わない範囲内で脱臭、精製などの操作を加えることができる。さらに、当該シソ抽出物は、飲食品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は粗抽出物あるいは半精製抽出物として本発明に使用できる。
【0023】
上記製造方法で得られるシソ抽出物は、血糖値の上昇を抑制する作用を有しているだけでなく、αグルコシターゼ阻害作用及びPPARγリガンド活性も有しており、本発明の血糖値上昇抑制剤は、αグルコシダーゼ阻害剤、PPARγリガンド剤としても使用できる。
【0024】
本発明でいうαグルコシダーゼ阻害剤とは、αグルコシダーゼが多糖類を加水分解してシュークロースやマルトースなどからグルコースが生成するのを阻害し、その結果、食後の血糖値の急激な上昇及びそれに続くインスリン値の急激な上昇を抑制する作用を有する組成物である。
【0025】
炭水化物のなかで、シュークロースと澱粉は人体に摂取される割合が最も多く、全体の約80%以上になると言われている。人体に摂取されたシュークロースは、途中の消化器官で分解されずに小腸に達し、一方、澱粉は唾液や膵液中のαアミラーゼによりマルトースおよびイソマルトースに加水分解されて小腸に達する。シュークロースやマルトース、イソマルトースなどの二糖類は、小腸粘膜刷子縁に存在するαグルコシダーゼの作用により単糖類に加水分解され、小腸壁で吸収される。
【0026】
αグルコシダーゼは、多糖類の非還元末端のαグルコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、その具体例としては、マルトースやマルトオリゴ糖類を単糖類に加水分解するスクラーゼ−イソマルターゼ複合体などがある。
【0027】
αグルコシダーゼの基質認識は、その生物起源によって大きく異なり、大きく二つのファミリーに分類される。ファミリーIは細菌や酵母由来のαグルコシダーゼであり、ファミリーIIは動物、植物、糸状菌、分裂酵母由来のαグルコシダーゼである。ヒト小腸とラット小腸のグルコシダーゼは高い相同性を有している。
【0028】
小腸は十二指腸、空腸、回腸に分けられるが、ヒト小腸においてシュークラーゼ活性は空腸で最も高く、グルコアミラーゼ活性は空腸よりも回腸で高く、マルタ−ゼ活性はシュークラーゼとグルコアミラーゼのとの中間の分布をしている(M.Toda,et al., Gastroenterogy, 85,1326〜1332,1983)。
【0029】
αグルコシダーゼ阻害活性は、例えば、ヒト空腸分画試料(S9、ミクロソーム、サイトゾル)を用いてシュークロースを基質に測定することができる。これらのアッセイにおいて、サンプルの活性は一般にDMSO-1%(v/v)陰性対照、ケルセチン(QRC)、エピカテキン(EPC)を陽性対照として比較し、陰性対照に対する比活性が90%以下を示すサンプルを「αグルコシダーゼ阻害活性あり」と評価する。
【0030】
本発明でいうPPARγリガンド剤とは、PPARγリガンド結合領域に結合する能力、即ちPPARγリガンド活性を有している組成物である。本発明のPPARγリガンド剤は、脂肪細胞においてPPARγを活性化して、前駆細胞から分化した正常機能を有する小型脂肪細胞を増加させ、またインスリン抵抗性を惹起するTNF−αや遊離脂肪酸の産生や分泌が亢進している肥大脂肪細胞をアポトーシスにより減少させることで、インスリン抵抗性を改善し、血糖値を低下させることで、糖尿病などに係わるメタボリックシンドロームを予防・緩和・改善することができる。即ち、本発明のPPARγリガンド剤は、糖尿病および肥満、インスリン抵抗性、高脂血症などに係わるメタボリックシンドロームに関わる各種遺伝子の発現を制御することができる。前記各種遺伝子とは、例えば、アシルCoAオキシダーゼ、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ、長鎖アシルCoA合成酵素、脂肪酸結合タンパク質、リポ蛋白リパーゼ、アポリポタンパク質、脱共役タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ここでPPARγリガンド活性は、例えば、PPARγリガンド結合領域とGAL4との融合タンパクに対する結合をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイ(Cell,1995年,83巻,803〜812頁)や、PPARγリガンド結合領域を含むタンパクを用いたコンペティション・バインディング・アッセイ(Cell,1995年,83巻,813〜819頁)などにより測定することができる。これらのアッセイにおいて、サンプルの活性は一般に溶媒対照と比較し、溶媒対照よりも有意に高い活性を示すサンプルを「PPARγリガンド活性あり」と評価する。
【0032】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、これを含有する組成物とすることで、特に糖尿病患者の血糖値の改善だけでなく、健常人の血糖値上昇を予防・緩和するための、医薬用、動物薬用または飲食用組成物として利用することができる。さらに、本発明の血糖値上昇抑制剤は、血糖値低減作用を有していることから、メタボリックシンドローム予防および/または改善用組成物としても利用することができる。また、それらの形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいはOTCなど容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品、動物薬品などとして利用できる。
【0033】
本発明の血糖値上昇抑制剤や上記組成物における、シソ抽出物の含有量は、特に限定されないが、抽出された固形分重量として、組成物重量基準で好ましくは0.001〜99.999重量%、より好ましくは0.01〜99.9重量%である。
【0034】
本発明の血糖値上昇抑制剤や、これを含有する組成物は、そのまま直接摂取することもできるし、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型して摂取することもできる。
【0035】
特に好ましくは、シソ抽出物をカルボキシメチルセルロースナトリウムによって粉末処理したものである。粉末化することによって取り扱い性が向上し、体内での吸収率の上昇が期待される。このときのカルボキシメチルセルロースナトリウムの使用量としては特に限定されないが、血糖値上昇抑制剤中の、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量として50〜90重量%の範囲が好ましく、60〜80重量%がより好ましく、75重量%前後が特に好ましい。カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量が50重量%未満では粉末化が困難となる場合があり、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含量が90重量%よりも多くなると血糖値上昇抑制剤中のシソ抽出物の含量が低くなり、血糖値上昇抑制効果がその分低下する。
【0036】
上記カルボキシメチルセルロースによる粉末化の方法としては特に限定されず、公知の手法を利用することができる。例えば、上記方法によって得られたシソ抽出物を、必要に応じて溶媒に溶解し、所定量のカルボキシメチルセルロースを添加・混合したのち、溶媒を除去することで、粉末化することかできる。ここで、シソ抽出物として抽出液をそのまま使用する場合は、溶媒を使用しなくともよい。溶媒としては、シソ抽出物を溶解できるものであれば特に限定されないが、90〜99.9容量%のエタノール水溶液を好ましく使用できる。溶媒の除去方法としては特に限定されず、エバポレーターや真空ポンプを使用した減圧下による乾燥やスプレードライなどを利用することができる。
【0037】
また、栄養強化を目的として、ビタミンA、C、D、Eなどの各種ビタミン類を添加、併用して用いることもできる。これらの成型剤における本発明の血糖値上昇抑制剤の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。
【0038】
さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。これら飲食用の組成物を摂取する場合、その摂取量は有効成分であるシソ抽出物の量に換算して成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは1〜300mg/kg体重である。
【0039】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。
【0040】
これら製剤の投与量としては、有効成分であるシソ抽出物の量に換算して、成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<シソ抽出物の作製>
(実施例1)
チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、濃度99.5容量%エタノール水溶液5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮により溶媒を除去し、半固形状態のシソ抽出物65.6gを得た。
【0043】
(比較例1)
チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、濃度70容量%エタノール水溶液5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮および凍結乾燥により溶媒を除去し、粉末状のシソ70%エタノール抽出物93.0gを得た。
【0044】
(比較例2) チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、濃度50容量%エタノール水溶液5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮および凍結乾燥により溶媒を除去し、粉末状のシソ50%エタノール抽出物124.5gを得た。
【0045】
(比較例3)
チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、水5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮および凍結乾燥により溶媒を除去し、粉末状のシソ水抽出物247.1gを得た。
【0046】
<シソ抽出物CMC-Na処理品の作製>
(実施例2)
実施例1で得られたシソ抽出物を、99.5容量%エタノールに完全溶解させ、そこにシソ抽出物重量の3倍量のカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加した。十分に混和した後、エバポレーターにてエタノールを除去した。真空ポンプで一晩乾固させることによりシソ抽出物CMC-Na処理品を得た。得られたシソ抽出物CMC-Na処理品は粉末状であり、もとのシソ抽出物と比較して取り扱い性が向上した。
【0047】
<血糖値上昇抑制効果の確認>
(実施例3)
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雄、6週齢)を4群(各群8匹)に分け、高脂肪・高糖分食(オリエンタル酵母株式会社、表1)を基本飼料として、無添加の飼料(コントロール群)と、実施例2で得られたシソ99.5%エタノール抽出物CMC処理品4.0%を添加した飼料(シソ抽出物として1.0%添加)を、それぞれ飲料水とともに自由摂取にて与え、26日後の血糖値を測定した。その結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

その結果、本発明のシソ99.5%エタノール抽出物CMC処理品には、有意な血糖値上昇抑制作用が認められた。
【0050】
(比較例4)
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雄、6週齢)を4群(各群8匹)に分け、高脂肪・高糖分食(オリエンタル酵母株式会社、表1)を基本飼料として、無添加の飼料(コントロール群)と、比較例1で得られたシソ70%エタノール抽出物1.0%とCMC-Na3.0%を添加した飼料を、それぞれ飲料水とともに自由摂取にて与え、26日後の血糖値を測定した。その結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

その結果、シソ70%エタノール抽出物には有意な血糖値上昇抑制作用は認められなかった。
【0052】
(実施例4)
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雄、6週齢)を2群(各群4匹)に分け、高脂肪・高糖分食(オリエンタル酵母株式会社、表1)を基本飼料として、無添加の飼料(コントロール群)、実施例2で得られたシソ抽出物CMC-Na処理品3.0%を添加した飼料(シソ抽出物として0.75%添加)をそれぞれ飲料水とともに自由摂取にて2週間与え、血糖値を測定した。その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

以上の結果から、本発明のシソ抽出物CMC-Na処理品に、有意な血糖値の上昇抑制作用が認められた。
【0054】
<αグルコシダーゼ阻害活性の確認>
(実施例5)
96 穴プレートに0.25 M リン酸緩衝液(pH 6.8)を60 μl 入れ、実施例1のシソ抽出物/DMSO 溶液(100 mg/ml)を1 μl添加し、0.5 mg 蛋白/ml ヒト空腸ミクロソームを20 μl 添加し、37℃で10 分間プレインキュベートした。250 mM スクロース/0.25 M リン酸緩衝液,pH 6.8溶液を20 μl 添加し、37℃で20 分間インキュベートした。陰性対照にはDMSO、陽性対照にはケルセチン(QRC) 及びエピカテキン(EPC)を用いた。反応液(100 μl)中のヒト空腸ミクロソームは0.1 mg 蛋白/ml、スクロースは50 mM、DMSO は1% (v/v)、シソ抽出物及びQRC、EPC は100μg/ml とした。2 M Tris-HCl 緩衝液,pH 7.0 を100 μl 添加し、反応を停止した。反応終了液50 μl を別の96 穴プレートに移し、グルコースB-テスト・ワコー試薬200 μl を添加し、37℃で20 分間インキュベートした後、505 nm の吸光度を測定した。グルコース標準液(2〜25mg/dl)による検量線により、生成したグルコース量を定量し、陰性対照(DMSO:1%)の活性と比較した。その結果を表5に示す。
【0055】
【表5】

表5から明らかなように、陰性対照(DMSO:1%)との比較において、実施例1で得られたシソ抽出物はαグルコシダーゼ阻害活性を示した。
【0056】
<PPARγリガンド活性の確認>
(実施例6)
CV-1細胞(雄性アフリカミドリザル腎臓由来の培養細胞)を96穴培養プレートに6×103cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培地には、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10ml/Lペニシリン・ストレプトマイシン溶液(それぞれ5000IU/ml、5000μg/ml、Invitrogen社)、37mg/Lアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium:Invitrogen社)を用いた。その細胞をOPTI-MEM(Invitrogen社)で洗浄した後、pM-PPARγと4xUASg-lucをリポフェクトアミン・プラス(Invtrogen社)を用いてトランスフェクションした。なお、pM-PPARγは、哺乳類発現プラスミドであるpM(Clontech社)に酵母由来転写因子GAL4遺伝子(アミノ酸配列1〜147)とヒトPPARγリガンド結合部位遺伝子(アミノ酸配列204〜505)を結合したキメラタンパクの遺伝子を挿入したプラスミドであり、4xUASg-lucはルシフェラーゼ遺伝子の上流にGAL4の応答配列(UASg)を4回組み込んだレポーター・プラスミドである(Cell,1995年,83巻,803〜812頁などに記載の方法で作成可能)。トランスフェクションの約24時間後、被検物質を含む培地に交換し(n=4)、24時間培養した。溶媒対照にはDMSOを用い、培地に1/1000量添加した。細胞をCa、Mg含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)で洗浄した後、ルックライト(パーキンエルマー社)を添加し、トップカウント・マイクロプレートシンチレーション/ルミネッセンスカウンター(パーキンエルマー社)にてルシフェラーゼの発光強度を測定した。コントロールの発光強度に対するサンプルの発光強度の比をサンプルのPPARγリガンド活性とした。
【0057】
実施例1及び比較例2、3で得られたシソ抽出物のPPARγリガンド活性を表6に示す。
【0058】
【表6】

表6から明らかなように、実施例1で得られたシソ99.5%エタノール抽出物は有意なPPARγリガンド活性を示したのに対し、比較例2のシソ50%エタノール抽出物のPPARγリガンド活性はそれに劣るものであった。また、比較例3のシソ水抽出物は、有意なPPARγリガンド活性を示さなかった。
【0059】
<カプセルの調製>
(実施例7)
実施例2で調製したシソ抽出物CMC-Na処理品を80重量部、結晶セルロースを10重量部、ビタミンCを10重量部の組成で混合、粉砕し、ゼラチン製カプセル(サイズ:02号、カプスゲル・ジャパン株式会社)に充填して、シソ抽出物を20重量%含有する医薬用および飲食用カプセル剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる血糖値上昇抑制作用剤およびその製造方法を得ることができる。
【0061】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、優れた血糖値上昇抑制作用を有しており、安全で、糖尿病の予防及び/又は改善・処置に有効である。
【技術分野】
【0001】
本発明はシソ抽出物を有効成分として含有する血糖値上昇抑制剤及び糖尿病の予防・治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満及び糖尿病は、過剰カロリーの摂取が主な原因となって、増加の一途をたどっている。糖尿病には、インスリン依存型糖尿病(I型糖尿病)とインスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)の2タイプがあるが、その90%は後者のタイプである。インスリン非依存型糖尿病における高血糖の原因として、食後の急峻な血糖上昇に対応し、瞬時に分泌されるべきインスリン早期相の欠如と食後高血糖の持続により誘導される内因性基礎インスリン分泌低下が挙げられる。
【0003】
食後高血糖の是正は経口血糖降下剤やインスリンを用いても困難なことがあり、消化系における糖質の急速な吸収を防ぐ方法が有望である。消化系における糖質の吸収としては、小腸中のαグルコシダーゼが関与しており、これらの酵素を阻害することにより、食後の血糖値上昇が抑制され、さらにそれに続くインシュリン値の上昇も抑制されることが明らかにされている。
【0004】
いままでに、グルコシダーゼ活性阻害物質としては、エゾイシゲ抽出物(特許文献1) 、紅景天属植物(特許文献2)、アカルボース、エミグリテート、ミグリトール及びボグリボース(特許文献3)等が既に報告されている。
【0005】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor、以下PPARと記す)は脂質および糖代謝を維持する遺伝子群の発現制御を担う核内受容体ファミリーに属するリガンド依存性転写因子である。哺乳動物ではPPARα、PPARδ(PPARβ、NUC-1、FAAR)、PPARγの3種のサブタイプの存在が知られており、3種のサブタイプのうち、とりわけ、PPARγにはPPARγ1とPPARγ2の2種のアイソフォームが存在しており、PPARγ1は脂肪組織の他に免疫系臓器や副腎、小腸で発現して、PPARγ2は脂肪組織で特異的に発現している(非特許文献1)。
【0006】
PPARγリガンドとしては、糖尿病治療薬・インスリン抵抗性改善薬として開発されたトログリタゾン、ピオグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体が存在する。
【0007】
しかしながら、インスリン作用増強剤であるトログリタゾンは肝障害の副作用により開発が中止されるなど、これまでのPPARγリガンド剤やアミラーゼ活性阻害物質やグルコシダーゼ活性阻害物質では、安定性, 安全性, 有効性の全てを満足するものは、未だ得られていないのが実状である。
【0008】
そこで、血糖値を低減させる作用に優れ、かつ安全性が高く長期投与が可能な血糖値上昇抑制剤の開発が望まれていた。
【0009】
シソはシソ科シソ属(Perilla frutescens)の植物であり、赤シソ、青シソ、チリメンジソ、チリメンカタジソなどの品種が存在し、薬味、天ぷら、シソ巻き、菓子原料として広く用いられている。また、防腐、抗菌、解毒、健胃、解熱、鎮静、咳止め、発汗、利尿、整腸作用など様々な効能があることが知られており、古くから民間薬としてだけでなく、半夏厚朴湯、香蘇散などの漢方薬の主剤の一つとして用いられている(非特許文献2)。
【0010】
また、シソの50%エタノール水溶液による抽出物がαグルコシダーゼ阻害活性を有していること(特許文献4)、および、シソの熱水抽出物が抗アレルギー作用を有していること(特許文献5)が知られている。
【0011】
また、イソフラボンもしくはその類縁体がPPAR依存的遺伝子転写活性化作用を有すること、シソがイソフラボンもしくはその類縁体を含有する植物の一例として報告されている(特許文献6)。
【特許文献1】特開2000−342224号
【特許文献2】特開2000−128793号
【特許文献3】特表2002−529504号
【特許文献4】特開2000−102383号
【特許文献5】特許第3071669号
【特許文献6】特開2002−80362号
【非特許文献1】Journal of Medicinal Chemistry,2000年,43巻,527〜550頁
【非特許文献2】月刊フードケミカル,2000年,7巻,37−42頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、血糖値上昇を抑制する作用を有し、かつ安全性が高い、食品由来の血糖値上昇抑制剤およびその製造方法並びにこの血糖値上昇抑制剤を含有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、シソを濃度90〜99.5容量%のエタノール水溶液で抽出することにより、血糖値上昇抑制作用を有するシソ抽出物が得られることを見いだした。
【0014】
即ち本発明が提供するのは、以下の通りである。
[1] シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
[2] シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする[1]記載の血糖値上昇抑制剤。
[3] シソ乾燥物の水分含量が、25%未満であることを特徴とする[1]または[2]記載の血糖値上昇抑制剤。
[4] カルボキシメチルセルロースナトリウムで粉末処理された[1]〜[3]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤。
[5] 血糖値上昇抑制剤中のカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量が50〜90重量%である[4]記載の血糖値上昇抑制剤。
[6] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤からなるαグルコシダーゼ阻害剤。
[7] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤からなるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤。
[8] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤を含有する糖尿病の予防または改善用組成物。
[9] [1]〜[5]のいずれか記載の血糖値上昇抑制剤を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[10] 医薬用または動物薬用である[1]〜[9]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
[11] 飲食用である[1]〜[9]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
[12] シソ(Perilla frutescens)乾燥物を、濃度90〜99.9容量%のエタノール水溶液で抽出することを特徴とする、血糖値上昇抑制剤の製造方法。
[13] シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする[11]記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
[14] シソ乾燥物が、水分含量25%未満の乾燥物であることを特徴とする[12]または[13]記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
[15] シソ抽出物にカルボキシメチルセルロースを添加・混合し、その後必要に応じて溶媒を除去して、粉末化することを特徴とする[11]〜[14]いずれか記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食品由来の安全な血糖値上昇抑制剤が得られる。本発明で得られる血糖値上昇抑制剤は、特に糖尿病患者だけでなく、健常人の血糖値上昇を予防・緩和または改善する上で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、シソ乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする組成物であり、血糖値上昇を抑制する作用を有する。
【0018】
上記血糖値上昇抑制作用とは、血糖値の上昇を抑制する作用である。本発明の血糖値上昇抑制剤は、糖尿病患者の血糖値の上昇を抑制することで、糖尿病を改善するだけでなく、健常人の血糖値上昇も抑制し、糖尿病を予防することができる。
【0019】
本発明において、糖尿病の予防とは、日本糖尿病学会診断基準(1999年発行)にて定義している糖尿病の状態又は境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることを指す。また、糖尿病の改善とは、上記に示す糖尿病の状態又は境界域の状態から、上記診断基準にて正常域と定義している状態に近づけることを指す。
【0020】
本発明において用いられるシソは、シソ科シソ属(Perilla frutescens)の植物であれば特に限定されない。具体的には、赤シソ(Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo )、青ジソ(Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo forma viridis Makino)、チリメンジソ(Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa Makino)、チリメンカタジソ(Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makino)などが挙げられるが、本発明においては、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa Makino、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoがより好ましい。上記シソは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、シソ抽出物を得るために用いる植物部位は、特に限定されないが、本発明においてはシソの葉が好ましい。上記シソの形態は、原型、ブレンダー等により粉砕したもの、切断したもの又は粉末のいずれを用いてもよい。また、本発明におけるシソは、乾燥物の状態で用いられ、該シソ乾燥物は水分含量25%以下のものが好ましく、水分含量15%以下のものがより好ましく、水分含量8%以下がさらに好ましい。水分含量が多いシソ乾燥物では、原料の保管の際に腐敗する可能性があり、また、抽出時にシソ乾燥物中の水分が溶媒へ移行し抽出溶媒の濃度が低下し、得られた抽出物が十分な血糖値上昇抑制作用を有さない可能性がある。
【0021】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、上記シソ乾燥物を、濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液で抽出することによって得られる抽出物を有効成分とする。該抽出物は例えば、上記のシソ乾燥物を抽出溶媒に浸し、常圧下で攪拌又は放置し、静置分離、濾過又は遠心分離などを行うことにより、得ることができる。本発明で用いられる抽出溶媒は、濃度90〜99.9容量%のエタノール水溶液である必要がある。90容量%未満のエタノール水溶液では、十分な血糖値上昇抑制作用が得られない。血糖値上昇抑制作用の点において、エタノール濃度は高い方が好ましく、その下限としては95容量%が好ましく、98容量%がより好ましい。血糖値上昇抑制作用の点において上限は特に限定されないが、実用的観点から、その上限としては99.9容量%が妥当である。また、抽出温度は、一般に−20〜100℃、好ましくは1〜90℃、より好ましくは1〜70℃で実施できる。抽出時間は、普通0.1時間〜1ヶ月、好ましくは0.5時間〜7日間で実施できる。また、抽出溶媒量はシソ乾燥物1重量部に対して1倍量以上50倍量以下が好ましく、3倍量以上20倍量以下がより好ましい。1倍量未満ではシソ乾燥物が充分に溶媒に浸らず抽出物の回収率が低くなる。また、50倍量以上では抽出に用いる抽出タンク等の容器が大きくなり、溶媒除去に必要となるエネルギーが極めて大きく製造コストが高くなる傾向がある。
【0022】
本発明において、シソ抽出物の形態は、抽出液の形態でもよいし、溶媒を除去したものでもよい。さらに、他の適切な溶媒に溶解、懸濁した形態であってもよい。また、これらのシソ抽出物には、血糖値上昇抑制剤として、その活性を失わない範囲内で脱臭、精製などの操作を加えることができる。さらに、当該シソ抽出物は、飲食品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は粗抽出物あるいは半精製抽出物として本発明に使用できる。
【0023】
上記製造方法で得られるシソ抽出物は、血糖値の上昇を抑制する作用を有しているだけでなく、αグルコシターゼ阻害作用及びPPARγリガンド活性も有しており、本発明の血糖値上昇抑制剤は、αグルコシダーゼ阻害剤、PPARγリガンド剤としても使用できる。
【0024】
本発明でいうαグルコシダーゼ阻害剤とは、αグルコシダーゼが多糖類を加水分解してシュークロースやマルトースなどからグルコースが生成するのを阻害し、その結果、食後の血糖値の急激な上昇及びそれに続くインスリン値の急激な上昇を抑制する作用を有する組成物である。
【0025】
炭水化物のなかで、シュークロースと澱粉は人体に摂取される割合が最も多く、全体の約80%以上になると言われている。人体に摂取されたシュークロースは、途中の消化器官で分解されずに小腸に達し、一方、澱粉は唾液や膵液中のαアミラーゼによりマルトースおよびイソマルトースに加水分解されて小腸に達する。シュークロースやマルトース、イソマルトースなどの二糖類は、小腸粘膜刷子縁に存在するαグルコシダーゼの作用により単糖類に加水分解され、小腸壁で吸収される。
【0026】
αグルコシダーゼは、多糖類の非還元末端のαグルコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、その具体例としては、マルトースやマルトオリゴ糖類を単糖類に加水分解するスクラーゼ−イソマルターゼ複合体などがある。
【0027】
αグルコシダーゼの基質認識は、その生物起源によって大きく異なり、大きく二つのファミリーに分類される。ファミリーIは細菌や酵母由来のαグルコシダーゼであり、ファミリーIIは動物、植物、糸状菌、分裂酵母由来のαグルコシダーゼである。ヒト小腸とラット小腸のグルコシダーゼは高い相同性を有している。
【0028】
小腸は十二指腸、空腸、回腸に分けられるが、ヒト小腸においてシュークラーゼ活性は空腸で最も高く、グルコアミラーゼ活性は空腸よりも回腸で高く、マルタ−ゼ活性はシュークラーゼとグルコアミラーゼのとの中間の分布をしている(M.Toda,et al., Gastroenterogy, 85,1326〜1332,1983)。
【0029】
αグルコシダーゼ阻害活性は、例えば、ヒト空腸分画試料(S9、ミクロソーム、サイトゾル)を用いてシュークロースを基質に測定することができる。これらのアッセイにおいて、サンプルの活性は一般にDMSO-1%(v/v)陰性対照、ケルセチン(QRC)、エピカテキン(EPC)を陽性対照として比較し、陰性対照に対する比活性が90%以下を示すサンプルを「αグルコシダーゼ阻害活性あり」と評価する。
【0030】
本発明でいうPPARγリガンド剤とは、PPARγリガンド結合領域に結合する能力、即ちPPARγリガンド活性を有している組成物である。本発明のPPARγリガンド剤は、脂肪細胞においてPPARγを活性化して、前駆細胞から分化した正常機能を有する小型脂肪細胞を増加させ、またインスリン抵抗性を惹起するTNF−αや遊離脂肪酸の産生や分泌が亢進している肥大脂肪細胞をアポトーシスにより減少させることで、インスリン抵抗性を改善し、血糖値を低下させることで、糖尿病などに係わるメタボリックシンドロームを予防・緩和・改善することができる。即ち、本発明のPPARγリガンド剤は、糖尿病および肥満、インスリン抵抗性、高脂血症などに係わるメタボリックシンドロームに関わる各種遺伝子の発現を制御することができる。前記各種遺伝子とは、例えば、アシルCoAオキシダーゼ、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ、長鎖アシルCoA合成酵素、脂肪酸結合タンパク質、リポ蛋白リパーゼ、アポリポタンパク質、脱共役タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ここでPPARγリガンド活性は、例えば、PPARγリガンド結合領域とGAL4との融合タンパクに対する結合をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイ(Cell,1995年,83巻,803〜812頁)や、PPARγリガンド結合領域を含むタンパクを用いたコンペティション・バインディング・アッセイ(Cell,1995年,83巻,813〜819頁)などにより測定することができる。これらのアッセイにおいて、サンプルの活性は一般に溶媒対照と比較し、溶媒対照よりも有意に高い活性を示すサンプルを「PPARγリガンド活性あり」と評価する。
【0032】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、これを含有する組成物とすることで、特に糖尿病患者の血糖値の改善だけでなく、健常人の血糖値上昇を予防・緩和するための、医薬用、動物薬用または飲食用組成物として利用することができる。さらに、本発明の血糖値上昇抑制剤は、血糖値低減作用を有していることから、メタボリックシンドローム予防および/または改善用組成物としても利用することができる。また、それらの形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいはOTCなど容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品、動物薬品などとして利用できる。
【0033】
本発明の血糖値上昇抑制剤や上記組成物における、シソ抽出物の含有量は、特に限定されないが、抽出された固形分重量として、組成物重量基準で好ましくは0.001〜99.999重量%、より好ましくは0.01〜99.9重量%である。
【0034】
本発明の血糖値上昇抑制剤や、これを含有する組成物は、そのまま直接摂取することもできるし、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型して摂取することもできる。
【0035】
特に好ましくは、シソ抽出物をカルボキシメチルセルロースナトリウムによって粉末処理したものである。粉末化することによって取り扱い性が向上し、体内での吸収率の上昇が期待される。このときのカルボキシメチルセルロースナトリウムの使用量としては特に限定されないが、血糖値上昇抑制剤中の、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量として50〜90重量%の範囲が好ましく、60〜80重量%がより好ましく、75重量%前後が特に好ましい。カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量が50重量%未満では粉末化が困難となる場合があり、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含量が90重量%よりも多くなると血糖値上昇抑制剤中のシソ抽出物の含量が低くなり、血糖値上昇抑制効果がその分低下する。
【0036】
上記カルボキシメチルセルロースによる粉末化の方法としては特に限定されず、公知の手法を利用することができる。例えば、上記方法によって得られたシソ抽出物を、必要に応じて溶媒に溶解し、所定量のカルボキシメチルセルロースを添加・混合したのち、溶媒を除去することで、粉末化することかできる。ここで、シソ抽出物として抽出液をそのまま使用する場合は、溶媒を使用しなくともよい。溶媒としては、シソ抽出物を溶解できるものであれば特に限定されないが、90〜99.9容量%のエタノール水溶液を好ましく使用できる。溶媒の除去方法としては特に限定されず、エバポレーターや真空ポンプを使用した減圧下による乾燥やスプレードライなどを利用することができる。
【0037】
また、栄養強化を目的として、ビタミンA、C、D、Eなどの各種ビタミン類を添加、併用して用いることもできる。これらの成型剤における本発明の血糖値上昇抑制剤の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。
【0038】
さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。これら飲食用の組成物を摂取する場合、その摂取量は有効成分であるシソ抽出物の量に換算して成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは1〜300mg/kg体重である。
【0039】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。
【0040】
これら製剤の投与量としては、有効成分であるシソ抽出物の量に換算して、成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<シソ抽出物の作製>
(実施例1)
チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、濃度99.5容量%エタノール水溶液5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮により溶媒を除去し、半固形状態のシソ抽出物65.6gを得た。
【0043】
(比較例1)
チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、濃度70容量%エタノール水溶液5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮および凍結乾燥により溶媒を除去し、粉末状のシソ70%エタノール抽出物93.0gを得た。
【0044】
(比較例2) チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、濃度50容量%エタノール水溶液5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮および凍結乾燥により溶媒を除去し、粉末状のシソ50%エタノール抽出物124.5gを得た。
【0045】
(比較例3)
チリメンカタジソ(新和物産株式会社より購入)1000gの乾燥物(水分含量3.9%)を、水5Lに浸し、常圧下、45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮および凍結乾燥により溶媒を除去し、粉末状のシソ水抽出物247.1gを得た。
【0046】
<シソ抽出物CMC-Na処理品の作製>
(実施例2)
実施例1で得られたシソ抽出物を、99.5容量%エタノールに完全溶解させ、そこにシソ抽出物重量の3倍量のカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加した。十分に混和した後、エバポレーターにてエタノールを除去した。真空ポンプで一晩乾固させることによりシソ抽出物CMC-Na処理品を得た。得られたシソ抽出物CMC-Na処理品は粉末状であり、もとのシソ抽出物と比較して取り扱い性が向上した。
【0047】
<血糖値上昇抑制効果の確認>
(実施例3)
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雄、6週齢)を4群(各群8匹)に分け、高脂肪・高糖分食(オリエンタル酵母株式会社、表1)を基本飼料として、無添加の飼料(コントロール群)と、実施例2で得られたシソ99.5%エタノール抽出物CMC処理品4.0%を添加した飼料(シソ抽出物として1.0%添加)を、それぞれ飲料水とともに自由摂取にて与え、26日後の血糖値を測定した。その結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

その結果、本発明のシソ99.5%エタノール抽出物CMC処理品には、有意な血糖値上昇抑制作用が認められた。
【0050】
(比較例4)
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雄、6週齢)を4群(各群8匹)に分け、高脂肪・高糖分食(オリエンタル酵母株式会社、表1)を基本飼料として、無添加の飼料(コントロール群)と、比較例1で得られたシソ70%エタノール抽出物1.0%とCMC-Na3.0%を添加した飼料を、それぞれ飲料水とともに自由摂取にて与え、26日後の血糖値を測定した。その結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

その結果、シソ70%エタノール抽出物には有意な血糖値上昇抑制作用は認められなかった。
【0052】
(実施例4)
2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(雄、6週齢)を2群(各群4匹)に分け、高脂肪・高糖分食(オリエンタル酵母株式会社、表1)を基本飼料として、無添加の飼料(コントロール群)、実施例2で得られたシソ抽出物CMC-Na処理品3.0%を添加した飼料(シソ抽出物として0.75%添加)をそれぞれ飲料水とともに自由摂取にて2週間与え、血糖値を測定した。その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

以上の結果から、本発明のシソ抽出物CMC-Na処理品に、有意な血糖値の上昇抑制作用が認められた。
【0054】
<αグルコシダーゼ阻害活性の確認>
(実施例5)
96 穴プレートに0.25 M リン酸緩衝液(pH 6.8)を60 μl 入れ、実施例1のシソ抽出物/DMSO 溶液(100 mg/ml)を1 μl添加し、0.5 mg 蛋白/ml ヒト空腸ミクロソームを20 μl 添加し、37℃で10 分間プレインキュベートした。250 mM スクロース/0.25 M リン酸緩衝液,pH 6.8溶液を20 μl 添加し、37℃で20 分間インキュベートした。陰性対照にはDMSO、陽性対照にはケルセチン(QRC) 及びエピカテキン(EPC)を用いた。反応液(100 μl)中のヒト空腸ミクロソームは0.1 mg 蛋白/ml、スクロースは50 mM、DMSO は1% (v/v)、シソ抽出物及びQRC、EPC は100μg/ml とした。2 M Tris-HCl 緩衝液,pH 7.0 を100 μl 添加し、反応を停止した。反応終了液50 μl を別の96 穴プレートに移し、グルコースB-テスト・ワコー試薬200 μl を添加し、37℃で20 分間インキュベートした後、505 nm の吸光度を測定した。グルコース標準液(2〜25mg/dl)による検量線により、生成したグルコース量を定量し、陰性対照(DMSO:1%)の活性と比較した。その結果を表5に示す。
【0055】
【表5】

表5から明らかなように、陰性対照(DMSO:1%)との比較において、実施例1で得られたシソ抽出物はαグルコシダーゼ阻害活性を示した。
【0056】
<PPARγリガンド活性の確認>
(実施例6)
CV-1細胞(雄性アフリカミドリザル腎臓由来の培養細胞)を96穴培養プレートに6×103cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培地には、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10ml/Lペニシリン・ストレプトマイシン溶液(それぞれ5000IU/ml、5000μg/ml、Invitrogen社)、37mg/Lアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium:Invitrogen社)を用いた。その細胞をOPTI-MEM(Invitrogen社)で洗浄した後、pM-PPARγと4xUASg-lucをリポフェクトアミン・プラス(Invtrogen社)を用いてトランスフェクションした。なお、pM-PPARγは、哺乳類発現プラスミドであるpM(Clontech社)に酵母由来転写因子GAL4遺伝子(アミノ酸配列1〜147)とヒトPPARγリガンド結合部位遺伝子(アミノ酸配列204〜505)を結合したキメラタンパクの遺伝子を挿入したプラスミドであり、4xUASg-lucはルシフェラーゼ遺伝子の上流にGAL4の応答配列(UASg)を4回組み込んだレポーター・プラスミドである(Cell,1995年,83巻,803〜812頁などに記載の方法で作成可能)。トランスフェクションの約24時間後、被検物質を含む培地に交換し(n=4)、24時間培養した。溶媒対照にはDMSOを用い、培地に1/1000量添加した。細胞をCa、Mg含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)で洗浄した後、ルックライト(パーキンエルマー社)を添加し、トップカウント・マイクロプレートシンチレーション/ルミネッセンスカウンター(パーキンエルマー社)にてルシフェラーゼの発光強度を測定した。コントロールの発光強度に対するサンプルの発光強度の比をサンプルのPPARγリガンド活性とした。
【0057】
実施例1及び比較例2、3で得られたシソ抽出物のPPARγリガンド活性を表6に示す。
【0058】
【表6】

表6から明らかなように、実施例1で得られたシソ99.5%エタノール抽出物は有意なPPARγリガンド活性を示したのに対し、比較例2のシソ50%エタノール抽出物のPPARγリガンド活性はそれに劣るものであった。また、比較例3のシソ水抽出物は、有意なPPARγリガンド活性を示さなかった。
【0059】
<カプセルの調製>
(実施例7)
実施例2で調製したシソ抽出物CMC-Na処理品を80重量部、結晶セルロースを10重量部、ビタミンCを10重量部の組成で混合、粉砕し、ゼラチン製カプセル(サイズ:02号、カプスゲル・ジャパン株式会社)に充填して、シソ抽出物を20重量%含有する医薬用および飲食用カプセル剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる血糖値上昇抑制作用剤およびその製造方法を得ることができる。
【0061】
本発明の血糖値上昇抑制剤は、優れた血糖値上昇抑制作用を有しており、安全で、糖尿病の予防及び/又は改善・処置に有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
【請求項2】
シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項3】
シソ乾燥物の水分含量が、25%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項4】
カルボキシメチルセルロースナトリウムで粉末処理された請求項1〜3いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項5】
血糖値上昇抑制剤中のカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量が50〜90重量%である請求項4記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤からなるαグルコシダーゼ阻害剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤からなるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤を含有する糖尿病の予防または改善用組成物。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項10】
医薬用または動物薬用である請求項1〜9いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
【請求項11】
飲食用である請求項1〜9いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
【請求項12】
シソ(Perilla frutescens)乾燥物を、濃度90〜99.9容量%のエタノール水溶液で抽出することを特徴とする、血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項13】
シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項11記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項14】
シソ乾燥物が、水分含量25%未満の乾燥物であることを特徴とする請求項12または13記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項15】
シソ抽出物にカルボキシメチルセルロースを添加・混合し、その後必要に応じて溶媒を除去して、粉末化することを特徴とする請求項11〜14いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項1】
シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液による抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
【請求項2】
シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項3】
シソ乾燥物の水分含量が、25%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項4】
カルボキシメチルセルロースナトリウムで粉末処理された請求項1〜3いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項5】
血糖値上昇抑制剤中のカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量が50〜90重量%である請求項4記載の血糖値上昇抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤からなるαグルコシダーゼ阻害剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤からなるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤を含有する糖尿病の予防または改善用組成物。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制剤を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項10】
医薬用または動物薬用である請求項1〜9いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
【請求項11】
飲食用である請求項1〜9いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤、αグルコシダーゼ阻害剤、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γリガンド剤または組成物。
【請求項12】
シソ(Perilla frutescens)乾燥物を、濃度90〜99.9容量%のエタノール水溶液で抽出することを特徴とする、血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項13】
シソが、Perilla frutescens Britton var. acuta Kudo、Perilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispa MakinoおよびPerilla frutescens Britton var. crispa Decaisne forma crispi-discolor Makinoからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項11記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項14】
シソ乾燥物が、水分含量25%未満の乾燥物であることを特徴とする請求項12または13記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【請求項15】
シソ抽出物にカルボキシメチルセルロースを添加・混合し、その後必要に応じて溶媒を除去して、粉末化することを特徴とする請求項11〜14いずれか1項記載の血糖値上昇抑制剤の製造方法。
【公開番号】特開2008−88087(P2008−88087A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269348(P2006−269348)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
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