説明

血糖値低下剤

【課題】血糖値低下剤を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明の血糖値低下剤は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値低下剤等に関する
【背景技術】
【0002】
レシチン(ホスファチジルコリンを多く含むリン脂質。)は抗コレステロール、免疫賦活、肝機能改善等の様々な機能を有することが知られている。特許文献1には、リン脂質の一種であるホスファチジルイノシトールを含有する抗肥満剤、脂肪肝改善剤、インスリン抵抗改善剤等が記載されている。
また、特許文献2には、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、若しくはこれらの混合物からなるグリセロリン脂質を皮膚に塗布したり、経口摂取等することにより、皮膚中のヒアルロン酸量が増大することが記載されている。
一方、糖尿病は日本国内での患者数が700万人を超え、その数は年々増加している。糖尿病は,血糖値の調節能力(耐糖能)が弱まり血糖値が異常に上昇することにより引き起こされる全身性代謝障害である。糖尿病は高浸透圧性昏睡やケトアシドーシス等の重篤な代謝異常を引き起こすだけでなく,細血管病性の合併症によって予後を悪化させ,生活の質(QOL)を極端に低下させるのを特徴とする。
糖尿病の予防又は治療には、血糖値を適正な範囲にコントロールすることが重要であり、従来よりインスリン製剤、スルホニルウレア系化合物、ビグアナイド系化合物など種々の化合物が用いられてきた。しかし、インスリン製剤は経口投与が困難である、スルホニルウレア系化合物はしばしば重篤な低血糖を引き起こす、ビグアナイド系化合物は重篤な乳酸アシドーシスを引き起こす等の問題がある。よって、日常的に用いることができ、かつ副作用の少ない血糖低下剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/093826
【特許文献2】WO2009/110205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、血糖値低下剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、ホスファチジルセリン(以下、「PS」と略称することもある。)、ホスファチジルイノシトール(以下、「PI」と略称することもある。)、若しくはこれらの混合物を含む組成物等を摂取等することにより、血中グリコアルブミン値が低下することを見出した。また、上記組成物等を摂取等することにより、血中グリコアルブミン値と高い相関がある血糖値が低下することを見出した。
【0006】
本発明は、これらの知見に基づき完成されたものであり、以下の血糖値低下剤、血中糖化タンパク質値低下剤、糖尿病の予防又は治療剤及び食品組成物等を提供する。
[1] ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む血糖値低下剤。
[2] グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである[1]に記載の血糖値低下剤。
[3] ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である[2]に記載の血糖値低下剤。
[4] 経口投与剤である[1]〜[3]に記載の血糖値低下剤。
[5] ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む血中糖化タンパク質値低下剤。
[6] 血中のグリコアルブミン値又はヘモグロビンA1c値を低下する[5]に記載の血中糖化タンパク質値低下剤。
[7] ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む糖尿病の予防又は治療剤。
[8] ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、組成物全体に対して、乾燥重量に換算して、0.01〜40重量%含む食品組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の血糖値低下剤は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を有効成分として含むことにより、血中のグリコアルブミン値等の血中糖化タンパク質値低下作用を有するため、血中のグリコアルブミン値等の血中糖化タンパク質値と高い相関を有する血糖値も合わせて低下させることができる。このように、上記グリセロリン脂質は血糖値を低下させることができ、これにより糖尿病等の高血糖症に伴う各種の疾患を予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールを経口投与することにより、血中のグリコアルブミン値が改善することを示す図である。
【図2】ホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールを経口投与することによる、血中のグリコアルブミン値の変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(I)血糖値低下剤
本発明の血糖値低下剤は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を有効成分として含む。
【0010】
血糖値とは、血中のグルコース濃度をいう。血糖値が高い状態が続くと糖尿病等の高血糖症を引き起こす。また、血糖値は血中グリコアルブミン値やヘモグロビンA1c値と高い相関を示すことが知られている。従って、本発明は血中グリコアルブミン値低下作用を示すため血糖値低下作用を有し、さらには糖尿病等の高血糖症に伴う各種の疾患の予防又は治療をすることができる。
【0011】
(1)グリセロリン脂質の製造
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質がPSとPIとの混合物である場合、PSとPIとの重量比率は、乾燥重量に換算して、PS:PIが約0.5〜20:1であることが好ましく、約1〜10:1であることがより好ましく、約1〜4:1であることがさらにより好ましい。PI及びPSを併用した場合、特に優れた血糖値低下作用を発揮する。
PIとPSの混合物は、後述する方法により得られたPI及びPSを混合することにより得てもよく、また、後述の塩基交換反応により入手できるPI及びPSの混合物を使用してもよい。
PSは天然物より公知の方法により抽出してもよく、公知の方法により合成してもよい。また、PSは市販品を用いてもよく、市販品を公知の方法により精製して用いてもよい。PSの市販品としては、例えばSIGMA社、BIOMOL社、日油株式会社等の製品を用いることができる。
PIは天然物より公知の方法により抽出してもよく、公知の方法により合成してもよい。またPIは市販品を用いてもよく、市販品を公知の方法により精製して用いてもよい。市販品としては、例えばBIOMOL社の製品等を用いることができる。
また、PIは、大豆、菜種、ひまわり、パームなどの植物由来のレシチンから単離することができる。また、SLP-WHITE(ホスファチジルコリン(以下、「PC」と略称することもある。)25.6%、ホスファチジルエタノールアミン(以下、「PE」と略称することもある。)24.1%、ホスファチジン酸(以下、「PA」と略称することもある。)8%、PI 12%、その他約30%)、SLP-PIパウダー(組成比:PC 18%、PE 22%、PA 8%、PI 17%、その他約35%)(いずれも辻製油社製)などの市販レシチンから単離することもできる。PIの単離は、例えば各種のクロマトグラフィー等で行うことができる。
【0012】
また、上記植物由来レシチン及び上記市販レシチンはPC及びPEを含むため、これらのレシチンにセリン及びホスフォリパーゼD(以下、「PLD」と略称することもある。)を作用させ塩基交換をさせることにより、PSを含むグリセロリン脂質混合物を得ることができる。PSを含むグリセロリン脂質混合物から、各種のクロマトグラフィーでPSを単離することができる。なお、PI及びPSは、それぞれ、その他のグリセロリン脂質などの夾雑物質が含まれた状態で用いてもよい。
また、上記植物由来レシチン及び上記市販レシチンはそれぞれPI、PC、及びPEを含むため、これらのレシチンにセリン及びPLDを作用させ後述するレシチンの塩基交換反応を行うことにより、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物を得ることができる。上記PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物は、PSとPIとの混合物を単離して用いてもよく、他のグリセロリン脂質などの夾雑物質が含まれた状態で用いることもできる
出発原料となるレシチンとしては、PCとPEの合計重量に対するPIの重量の比率(PI/(PC+PE))が、乾燥重量に換算して、約20〜45重量%、好ましくは約25〜40重量%であるものが好ましい。上記植物由来レシチン及び上記市販レシチンは、通常上記範囲でPC、PE及びPIを含むが、PC及びPEの含有量が少ない場合は、高純度リン脂質(例えば辻製油社製の「SLPC55」等)を添加することにより、レシチン中のPC、PE及びPIの比率を上記範囲内に調整することができる。
PCとPEの合計重量に対するPIの重量の比率(PI/(PC+PE))が上記範囲内にあるレシチンに、後述する塩基交換反応を行うことにより、PSとPIとの重量比率(乾燥重量換算)がPS:PI=約0.5〜20:1であるグリセロリン脂質混合物を得ることができる。
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質は、大豆などの天然物に含まれる成分であるため、摂取した場合も健康への悪影響を与える心配がない。また、環境に負荷のかからない方法で製造することができる。
【0013】
レシチンの塩基交換反応
レシチンの塩基交換反応は特に限定されず、公知の方法(例えば特開2007-014270号公報等参照)等により行うことができる。以下に塩基交換反応の一例を示すが、これに限定されるものではない。
まずレシチンを有機溶媒相と水相からなる二相系中で攪拌し、グリセロリン脂質と有機溶媒と水とのエマルジョンを形成する。
攪拌時に用いる有機溶媒としては特に限定されないが、例えば脂肪族炭化水素、環状脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル類、エーテル類、ケトン類等が挙げられる。攪拌時に用いる水相としては特に限定されないが、緩衝液が好ましい。緩衝液の酸、塩基及び塩の合計濃度は特に限定されないが、約0.1〜2Mが好ましい。上記二相系において、水層は有機溶媒層100重量部に対して20重量部以下であることが好ましい。二層系中での攪拌は約10〜40℃の温度で、約30分〜2時間行うことが好ましい。
次いで、上記エマルジョンにセリン及びPLDを添加する。塩基交換反応系中のグリセロリン脂質の濃度は特に限定されないが、約5〜40重量%であることが好ましい。また、本反応系中のセリンの濃度は特に限定されないが、約20〜40重量%であることが好ましい。
【0014】
PLDとしては特に限定されず、例えばナガセケムテックス社製のホスフォリパーゼD、Sigma社製のStreptomyces chromofuscus由来のホスフォリパーゼD、Streptomyces sp.由来のホスフォリパーゼD等を用いることができる。本反応系中におけるPLDの濃度は特に限定されないが、例えばグリセロリン脂質1gに対して約5〜200Uとすることができる。なお本明細書において、1Uは、95%大豆ホスファチジルコリンを基質とし、基質濃度0.16%の0.2M酢酸緩衝液(pH4.0、10mMのCaCl2、1.3%のTriton X-100を含む)を37℃にて反応させた時、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。
上記塩基交換反応の反応時のpHは特に限定されないが、例えば約3.5〜10のpHで行うことができる。上記塩基交換反応の反応温度としては特に限定されないが、例えば約10〜40℃の温度で行うことができる。上記塩基交換反応の反応時間は特に限定されないが、例えば約1〜72時間行うことができる。
【0015】
塩基交換反応の終了方法は特に限定されないが、例えば80℃、10分間でPLDを加熱失活させることにより終了させることができる。
生成物の濃縮方法は特に限定されないが、例えば上記塩基交換反応終了後の溶液を遠心分離法等により有機溶媒相を得たあと、有機溶媒を減圧除去することによって行うことができる。
上記塩基交換反応を行った後に、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物を単離することもできる。単離方法は特に限定されないが、例えば上記濃縮を行った後に、アセトン又はエタノールで晶析を行い、固液分離によって固形物を得て、さらに乾燥することにより行うことができる。
上記塩基交換反応により、グリセロリン脂質中のPC、PE等とセリンとが反応してPSが生成する。PIは、上記塩基交換反応においてセリンと反応し難いので、原料のグリセロリン脂質に含まれるPIはほぼそのまま塩基交換反応後のリン脂質混合物中に含まれる。
【0016】
(2)用途
本発明の血糖値低下剤には、例えば医薬品、医薬部外品、化粧品、食品添加物、食品組成物など各種の形態が含まれる。
本発明の血糖値低下剤が医薬品である場合、経口投与剤、皮膚外用剤、注射剤、座剤などの剤型にすることができる。
本発明の血糖値低下剤が医薬部外品である場合、皮膚外用剤、ドリンク剤等とすることができる。本発明の血糖値低下剤が化粧品である場合、化粧水、化粧用乳液、美容液、パック剤等とすることができる。
【0017】
経口投与剤
本発明の血糖値低下剤は、各種の経口投与剤とすることができる。固形製剤としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤などが挙げられ、液体製剤としては、乳剤、液剤、シロップ剤などが挙げられる。中でも、服用し易く味がよい点で、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、カプセル剤が好ましく、錠剤又は顆粒剤がより好ましい。
固形製剤は、有効成分であるホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合して調製される。例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニット等の賦形剤;アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等の結合剤;カルメロース、デンプン等の崩壊剤;無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、グリセロール等の安定剤などが配合される。さらに、ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウ等でコーティングしたり、カプセル化したりしてもよい。また、液体製剤は、例えば、上記の有効成分を、水、エタノール、グリセリン、単シロップ等を単独で又はこれらを混合した溶液に溶解又は分散させること等により調製される。これらの製剤には、甘味料、防腐剤、粘滑剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、着色剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0018】
経口投与剤中のホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質の含有量は、以下の通りである。即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.02〜40重量%であることが好ましく、約0.05〜30重量%であることがより好ましく、約0.1〜20重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜40重量%であることが好ましく、約0.02〜30重量%であることがより好ましく、約0.05〜20重量%であることがさらにより好ましい。上記範囲であれば、適量の使用によって十分な血糖値の低下作用が得られる。
【0019】
本発明の血糖値低下剤の剤型として、皮膚外用剤が挙げられる。皮膚外用剤は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質に加えて、通常医薬外用剤や化粧品に用いられる成分、例えば、精製水、アルコール類(低級アルコール、多価アルコールなど)、油脂類、ロウ類、炭化水素類等の基剤と、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、安定剤、防腐剤、着色剤、香料等の添加剤とを配合して調製することができる。
【0020】
皮膚外用剤中のホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質の含有量は、以下の通りである。即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.002〜4重量%であることが好ましく、約0.01〜2.5重量%であることがより好ましく、約0.02〜1重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜7.5重量%であることが好ましく、約0.05〜5重量%であることがより好ましく、約0.1〜2重量%であることがさらにより好ましい。上記範囲であれば、適量の使用によって十分な十分な血糖値の低下作用が得られる。
【0021】
注射剤
注射剤は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、注射用蒸留水又は生理用食塩水等に溶解又は分散させることにより得ることができる。また、注射剤はpH調整剤等として水溶性無機酸又はその塩、水溶性有機酸又はその塩、中性アミノ酸、酸性アミノ酸又はその塩、塩基性アミノ酸の塩等が含まれていてもよい。また注射剤は、任意成分として、例えば緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
注射剤中のホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質の含有量は、以下の通りである。即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.002〜2.5重量%であることが好ましく、約0.02〜1重量%であることがより好ましく、約0.08〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物である場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.001〜5重量%であることが好ましく、約0.01〜1重量%であることがより好ましく、約0.05〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。上記範囲であれば、適量の使用によって十分な十分な血糖値の低下作用が得られる。
【0022】
座剤
座剤は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、例えばカルボポール及びポリカルボフィル等のアクリル性高分子;例えばヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース性高分子;例えばアルギン酸ナトリウム及びキトサン等の天然高分子;例えば脂肪酸ワックス等の基剤等に配合することにより調製できる。座剤は、任意成分として、例えば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラベン等の防腐剤;例えば塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウム等のpH調節剤;例えばメチオニン等の安定化剤が含まれていてもよい。
座剤中のホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質の含有量は、以下の通りである。即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.05〜5重量%であることが好ましく、約0.1〜3重量%であることがより好ましく、約0.5〜2重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.02〜5重量%であることが好ましく、約0.05〜3重量%であることがより好ましく、約0.1〜2重量%であることがさらにより好ましい。上記範囲であれば、適量の使用によって十分な血糖値の低下作用が得られる。
【0023】
食品組成物及び食品添加物
食品組成物は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、組成物全体に対して、乾燥重量に換算して、0.01〜40重量%含む。ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質の含有量は、約0.02〜30重量%であることが好ましく、約0.05〜20重量%であることがより好ましい。グリセロリン脂質がPS及びPIである場合には、約0.01〜30重量%であることが好ましく、約0.02〜20重量%であることがより好ましい。上記範囲であれば、無理なく摂取できる量の食品中に、十分な血糖値の低下作用が得られる。
【0024】
本発明の食品組成物は、健康食品(サプリメント)として用いるのに適している。また、本発明の食品組成物は、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)に好適である。なお、本発明の食品組成物は、食品添加剤として用いることもできる。
本発明の食品組成物は、食品に通常用いられる賦形剤又は添加剤を配合して、錠剤、タブレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤又はエリキシル剤等の剤型に調製することができる。中でも、服用しやすく味が良い点で、錠剤、タブレット剤、顆粒剤が好ましく、顆粒剤がより好ましい。
食品に通常用いられる賦形剤としては、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン等の結合剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコール等の潤沢剤;ジャガイモ澱粉等の崩壊剤;ラウリル硫酸ナトリウム等の湿潤剤等が挙げられる。食品に通常用いられる添加剤としては、例えば香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の食品組成物は、飲料(スポーツ飲料、ドリンク剤、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳、豆乳飲料、調製豆乳、ミネラルウォーター、果汁飲料、炭酸飲料、野菜飲料、茶飲料、ノンアルコールビール等)、アルコール飲料(ビール、発泡酒、カクテル、チューハイ、焼酎、日本酒、ウィスキー、ブランデー、ワイン等)、麺類(そば、うどん、ラーメン、パスタ等)、菓子類(クッキー等の焼き菓子、ゼリー、ガム、グミ、飴、チョコレート、洋菓子、和菓子、スナック菓子等)、ソース類、乳製品、水産加工品、スープ類等を含むものであってもよい。本発明の食品組成物は、中でも、飲料に用いることが好ましい。
【0026】
(3)使用方法
本発明の血糖値低下剤の使用量は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.02〜0.5gであることが好ましい。
本発明の血糖値低下剤が経口投与剤である場合は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.02〜0.5gであることが好ましい。PS及びPIを有効成分とする場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜0.5gであることが好ましい。
本発明の血糖値低下剤が注射剤である場合は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜100mgであることが好ましい。PS及びPIを有効成分とする場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgであることが好ましい。
【0027】
本発明の血糖値低下剤が座剤である場合は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜100mgであることが好ましい。PS及びPIを有効成分とする場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgであることが好ましい。
本発明の血糖値低下剤が皮膚外用剤である場合は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、製剤の使用量が、1日あたり、通常使用量である約0.1〜1mLであればよい。
本発明の血糖値低下剤が食品組成物である場合、この食品組成物の摂取量は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、PS又はPIの摂取量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.02〜0.5gであることが好ましい。PS及びPIを有効成分とする場合は、PS及びPIの合計摂取量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.1〜1.5gであることが好ましい。
【0028】
使用対象は特に限定されないが、グリコアルブミン値の低下を求める者、血糖値の低下を求める者、血糖値の上昇抑制を求める者、例えば肥満、高血糖症、高脂血症、遺伝等の糖尿病予備軍、糖尿病患者等が挙げられる。
本発明は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質の有効量を哺乳動物、特に人に投与する、生体における血糖値低下方法も包含する。
【0029】
本発明の血糖値低下剤の投与期間は、投与対象者の年齢や症状により異なるが、例えば1週間〜12ヶ月、好ましくは2週間〜6ヶ月とすることができる。
【0030】
(II)血中糖化タンパク質値低下剤
本発明は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む血中糖化タンパク質値低下剤を含む。
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質は、血中グリコアルブミン値等の血中糖化タンパク質値を低下させることができる。
すなわち、上記血中糖化タンパク質値低下剤は、血中のタンパク質の糖化を防止できるため、血中グリコアルブミン値、血中ヘモグロビンA1c値、血中フルクトサミン値等を低下することができる。
【0031】
糖化タンパク質としては、例えばグリコアルブミン、ヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと略称することもある。)、フルクトサミン等が挙げられる。血中糖化タンパク質値は過去の血糖値の平均値と相関するため、糖尿病診断の指標としても用いられている。
グリコアルブミンとは、血液中のアルブミンがグルコース等の還元糖により糖化されたものをいう。血中グリコアルブミン値は、採血時から過去1ヶ月間の血糖値の平均と相関する。
ヘモグロビンA1cとは、赤血球の蛋白であるヘモグロビン(Hb)がグルコース等の還元糖により糖化されたものをいう。血中ヘモグロビンA1c値は、採血時から過去1〜2ヶ月の血糖値の平均と相関する。
【0032】
本発明の血糖値低下剤には、例えば化粧品、医薬品、医薬部外品、食品組成物等が含まれる。その他の構成は、血糖値低下剤について説明した通りである。
【0033】
(III)糖尿病の予防又は治療剤
本発明は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む糖尿病の予防又は治療剤を含む。
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質は、血中グリコアルブミン値等の血中糖化タンパク質値低下作用を有するため、血中グリコアルブミン値等の血中糖化タンパク質値と高い相関を有する血糖値も合わせて低下させることができる。このように、上記グリセロリン脂質は血糖値を低下させることができ、これにより糖尿病の予防又は治療剤として用いることができる。
【0034】
糖尿病とは血液中あるいは血漿中のブドウ糖が持続的に上昇している状態の疾患をいう。糖尿病は,膵β細胞が破壊される(自己免疫異常が主要な要因とされる)ことによる1型糖尿病と,インスリンに対する抵抗性の増大とインスリン分泌低下とが組み合わさったものである2型糖尿病とに大別される。
糖尿病の症状としては、例えば高血糖症、耐糖能不全等が挙げられる。また糖尿病が長期にわたることにより、例えば肥満、高脂血症、高コレステロール血症、脂質代謝異常、高血圧症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、浮腫、心不全、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化症、高尿酸血症、痛風等の糖尿病関連疾患;例えば網膜症、腎症、神経障害、白内障、足壊疽、感染症、ケトーシス等の糖尿病合併症等の症状を引き起こす。
【0035】
なお本発明において、「予防」には、発症を回避すること、発症率を抑制すること、症状の進展を抑制すること等が含まれる。また、「治療」には、治癒させること、症状を緩和又は改善すること等が含まれる。
【0036】
本発明の血中グリコアルブミン値低下剤には、例えば化粧品、医薬品、医薬部外品、食品組成物等が含まれる。その他の構成は、血糖値低下剤について説明した通りである。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
製造例1(PI・PS含有リン脂質混合物の製造)
大豆レシチン(UltralecP(ADM社);PC=24重量%, PE=17重量%, PI=14重量%含有)14gをヘプタン・アセトン混合液(ヘプタン:アセトン=4:1)140mLと混合し、溶解させた後、1M酢酸緩衝液(pH4.5)100mLを添加、攪拌し、レシチン溶液を得た。これとは別に、セリン40g及びPLD(ナガセケムテックス社製)500Uを1M酢酸緩衝液(pH4.5)134mL中に含む酵素含有セリン溶液を調製した。
上記レシチン溶液に酵素含有セリン溶液を加え、30℃にて5時間攪拌した。次いで、この混合液に、上記ヘプタン・アセトン混合液150mL及び塩化ナトリウム40gを加え、1時間攪拌し、これを静置して、水相と有機溶媒相とを分離した後、有機相を回収し、PI及びPS含有有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液は固形分16gを含有していた。固形分の組成を下記条件のHPLCで調べたところ、次の通りであった。PS 31重量%、PI 20重量%、PC 2重量%、PE 9重量%、PA 13重量%、その他のリン脂質 2重量%。
<HPLC条件>
使用カラム:ジーエルサイエンス社製 Unisil Q NH2(4.6mm I.D.×250mm)
移動相:アセトニトリル/メタノール/10mMリン酸二水素アンモニウム
=1856/874/270
流速:1.3mL/分
検出:UV 205nm
【0038】
製造例2
製造例1で得られたPI・PS含有リン脂質を粉砕して粉体とし、この粉体と表1に示す各成分を均一に混合し、常法により打錠して1錠当たり300mgの錠剤を製造し、これを被験食とした。なお、同様にしてPI・PS含有リン脂質を含まない錠剤を製造し対照食とした。
【0039】
【表1】

【0040】
製造例3
製造例1で得られたPI・PS含有リン脂質を粉砕して粉体とした。PI・PS含有リン脂質の粉体200mgと各成分を均一に混合し、定法により重量1gの顆粒製剤を製造した。各成分の混合比を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
製造例4
製造例1で得られたPI・PS含有リン脂質混合物0.2重量%を99.8重量%の調製豆乳に混合しTKホモミキサーで撹拌(室温、2分間、5000rpm)、乳化した後、100℃、10分間加熱処理して飲料(調製豆乳)を製造した。
【0043】
製造例5
製造例1で得られたPI・PS含有リン脂質混合物0.2重量%、99.7重量%のヨーグルト(飲料タイプ)及び0.1重量%のビタミンEを室温にて混合し、常法により撹拌して飲料(ヨーグルトタイプ)を製造した。
【0044】
<実施例1>
PI・PS含有リン脂質のグリコアルブミン低下作用
対象
LDL-コレステロール値が140mg/dL以上の者40名を被験者として、臨床試験を行った。被験者には、ウイルス性肝炎又はアルコール中毒症と診断されている者、食品に対してアレルギー症状がある者、試験前1か月以内に他の臨床試験に参加したことがある者、その他担当医が試験開始時に不適格と判断した者は含まれていない。
【0045】
試験方法
無作為単盲比較試験により実施した。被験者40名を、被験食群20名と対照食群20名に分けた。被験食及び対照食は、製造例2により製造したものを用いた。被験食群の者は4週間の間、原則として朝食後に、1日1回2錠ずつ被験食を摂取した。対照食群の者は4週間の間、原則として朝食後に、1日1回2錠の対照食を摂取した。
試験開始前と試験終了後に血液を採取し、グリコアルブミン値を測定した。いずれの採取に際しても採取前日は過度のアルコールを避け、採取5時間前より絶食とした。
【0046】
統計解析
摂取群別に試験開始前および試験終了後の各群の平均値および変化量の比較をおこなった。対照食群との比較で対応のないt検定を、摂取群内の比較で対応のあるt検定を行った。有意水準は5%以下とした。被験食群1例にデータ欠損があったため、対照食群20例、被験食群19例について統計解析をした。
【0047】
結果
対照食群および被験食群の試験開始前と試験終了後のグリコアルブミン値の比較を図1に示した。対照食群では有意な変化はみられなかったが、被験食群では統計学的に有意に減少した(p<0.01)。
対照食群および被験食群の試験開始前と試験終了後のグリコアルブミン値の変化量を図2に示した。対照食群と比較し被験食群ではグリコアルブミン値が有意に減少した(p<0.05)。
【0048】
<実施例2>
PI・PS含有リン脂質の血糖値低下作用
対象
血糖値が110mg/dL以上の者15名を被験者として、臨床試験を行った。
【0049】
試験方法
製造例3で得られた顆粒製剤を、1日1回(原則として朝食後)、8週間の間1gを被験者に摂取させた。
試験開始前及び試験開始8週間後にDEMECAL社のメタボリックシンドローム&生活習慣病セルフチェックにて採血と血糖値の測定を行った。
【0050】
結果
血糖値の平均値は、試験開始前116.1mg/dL、8週間後107.8mg/dLであり、有意に低下した(p<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の血糖値低下剤等は、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を有効成分として含むことにより、血糖値低下作用、血中糖タンパク質値低下作用、糖尿病の予防又は治療作用等を発揮するため、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む血糖値低下剤。
【請求項2】
グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである請求項1に記載の血糖値低下剤。
【請求項3】
ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である請求項2に記載の血糖値低下剤。
【請求項4】
経口投与剤である請求項1〜3に記載の血糖値低下剤。
【請求項5】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む血中糖化タンパク質値低下剤。
【請求項6】
血中のグリコアルブミン値又はヘモグロビンA1c値を低下する請求項5に記載の血中糖化タンパク質値低下剤。
【請求項7】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項8】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、組成物全体に対して、乾燥重量に換算して、0.01〜40重量%含む食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−232918(P2012−232918A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102174(P2011−102174)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】