説明

血糖値降下組成物及びそれを含有する糖尿病予防用飲食品

【課題】人体にとって安全であり、優れた効果を有する血糖値降下組成物、及び糖尿病予防飲食品を提供する。
【解決手段】血糖値降下のための有効成分としてアンセリン及び/又はその塩を用いる。前記血糖値降下組成物においては、魚介類、鶏肉、鳥肉、畜肉の少なくとも一つの抽出物から調製された組成物であることが好ましい。そして、この血糖値降下組成物を飲食品に含有させて糖尿病予防用飲食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンセリン及び/又はその塩を有効成分とした血糖値降下組成物及びそれを含有する糖尿病予防用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込むことを手助けるインスリンの量不足、又は作用不足により血液中のブドウ糖の利用率が低下する結果、血糖値が上昇する代謝疾患であって、様々な合併症をきたすおそれのある病気である。
【0003】
インスリン使用者においては、自己血糖測定の訓練をしたうえで、毎日の毎食前血糖や就寝前血糖のほか、食後血糖値もあわせて血糖管理状況が評価される。軽症であれば、運動と食事療法により対処が可能である。しかしながら、血糖が高い状態で長い時間経過するということ自体がその後のさまざまな合併症を引き起こす原因となることが指摘されている。このため、できるだけ早期からの経口血糖値降下薬を用いた薬剤療法開始、早期からのインスリン療法開始を行うよう世界中の学会が声明文を出している。
【0004】
経口血糖降下薬としては、スルフォニルウレア剤、ビグアナイド剤、αグルコシダーゼ阻害剤、チアゾリジン系誘導体などがある。また、近年では、短時間作用型のSU受容体刺激薬であるフェニールアラニン誘導体も上市されている。しかしながら、インスリン療法では、副作用の発現も懸念されている。そこで、効果が高く、安全性の高い血糖値降下組成物が切望され、種々検討が行われている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、鶏肉から抽出したカルノシンが自律神経に作用して、血糖値の上昇を抑制することが記載されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、カルノシンがメイラード反応を抑制することで、糖尿病を予防することが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献3では、魚鱗や魚骨を分解して得られるコラーゲンペプチドによる血糖値降下作用が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献4には、魚肉を蛋白分解酵素により分解して得られる、分子量500〜5,000の塩基性ペプチドによる血糖値降下作用が開示されている。
【特許文献1】特再表WO2002/076455号公報
【特許文献2】特表平7−500580号公報
【特許文献3】特開2002−326951号公報
【特許文献4】特開平1−98445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜4に開示されている食品素材では、血糖値降下作用は未だ十分とは言えなかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、人体にとって安全であり、優れた効果を有する血糖値降下組成物、及び糖尿病予防飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、アンセリンあるいはその塩を、食事前、食事中又は食事後に摂取することにより、食事に伴う血糖値の上昇を著しく抑制し、更には、速やかに血糖値を食事前の状態にまで低下させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の血糖値降下組成物は、アンセリン及び/又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の血糖値降下組成物は、魚介類、鶏肉、鳥肉、畜肉の少なくとも一つの抽出物から調製された組成物であることが好ましい。これによれば、一般には調味料として広く利用されている魚肉、鳥肉、及び畜肉から得られるエキスなどの抽出物から、安全に、コスト安く、かつ効率よく、前記アンセリン及び/又はその塩を調製することができる。
【0014】
また、本発明の血糖値降下組成物は、魚介類の抽出物から調製された組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を固形分当たり5質量%以上含有するものであることが好ましい。魚介類は、アンセリン及び/又はその塩が豊富に含み、資源量としても豊富に存在するので、魚介類を原料とすることにより、より安価に前記アンセリン及び/又はその塩を調製することができる。また、魚介類の抽出物には、アンセリン及び/又はその塩の他に、アミノ酸、ペプチド等の成分を含有するので、それらの成分が促進的又は相乗的に作用して、より優れた血糖値降下作用が期待できる。
【0015】
また、本発明の血糖値降下組成物は、魚介類から抽出されたエキス類からタンパク質及び/又は脂肪を除去して得られる処理液を、逆浸透膜を用いて分離・精製した組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有することが好ましい。これによれば、魚介類のエキス類からタンパク質及び/又は脂肪を除去して得られる処理液を逆浸透膜を用いて処理することにより、アンセリン及び/又はその塩の含有量の高い組成物を得ることができ、優れた血糖値降下作用が得られる。
【0016】
また、本発明の血糖値降下組成物は、魚介類から抽出されたエキス類からタンパク質及び/又は脂肪を除去して得られる処理液を、食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜を組み合わせて用いて分離・精製した組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有することが好ましい。食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜を組み合わせて用いて処理して得られる組成物は、アンセリン及び/又はその塩の含有量のより高い組成物を得ることができる。
【0017】
また、本発明の血糖値降下組成物は、魚介類から抽出されたエキス類を脱塩処理し、得られた脱塩処理液を弱酸性イオン交換樹脂に通液させた後、前記弱酸性イオン交換樹脂を水洗浄し、次いで塩酸及び/又は食塩水で前記弱酸性イオン交換樹脂の吸着物質を溶出させて得られた抽出物から調製された組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有することが好ましく、前記塩酸及び/又は食塩水で前記弱酸性イオン交換樹脂の吸着物質を溶出させて得られた抽出物を、食塩阻止率80〜90%の逆浸透膜を用いて脱塩処理して得られた組成物であることがより好ましい。魚介類には、アルセノベタインなどのヒ素化合物が含まれていることから、飲食品への配合において種々の制限を受けてしまうことがあるが、この態様によれば、魚介類由来でありながら、ヒ素の含有量が極めて少ないため、幅広い分野に利用することができる。
【0018】
一方、本発明の糖尿病予防用飲食品は、上記血糖値降下組成物を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の糖尿病予防用飲食品は、上記血糖値降下組成物を含有してなるものであり、食後の血糖値上昇を抑制でき、更には、速やかに空腹時の血糖値まで低下させることができるので、糖尿病予防用として有用である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の血糖値降下組成物によれば、アンセリン及び/又はその塩を、食事前、食事中又は食事後に摂取することにより、食事に伴う血糖値上昇を著しく抑制し、更には、速やかに血糖値を食事前の状態にまで低下させることができる。
【0021】
そして、本発明の糖尿病予防用飲食品は、上記血糖値降下組成物を含有してなるものであり、食後の血糖値上昇を抑制でき、更には、速やかに空腹時の血糖値まで低下させることができるので、糖尿病予防用の飲食品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の血糖値降下組成物は、アンセリン及び/又はその塩を有効成分として含むものである。また、アンセリン塩としては、塩酸、乳酸、酢酸、硫酸、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、グルコン酸、酒石酸等の塩が挙げられる。
【0023】
アンセリンは、魚肉、鳥肉、及び畜肉等に含まれている。例えば、カツオ、マグロ、ウシ、鶏等の肉に多く含まれており、特にカツオ、マグロなどの魚介類に多量に含まれている。したがって、それらから水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出したエキスを精製することにより得ることができる。
【0024】
例えば、以下のようにして得ることができる。まず、常法に従ってカツオ、マグロ、ウシ、ニワトリ等の肉からエキスを調製し、適宜水を加えて該エキスのブリックス(Bx.)値(屈折糖度計示度)を1〜10%に調整した後、限外濾過膜(分画分子量5,000〜50,000)を用いて高分子タンパク質を除去し、低分子ペプチド画分を回収する。次いで、文献(Suyama et al:Bull. Japan. Soc. Scient. Fish., 33, 141-146, 1967)の方法に従って、適宜濃縮した低分子ペプチド画分を強酸性樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィーに供し、溶出液を回収する。そして、この溶出液を脱塩した後pH調整し、凍結乾燥等により乾燥して得ることができる。
【0025】
本発明の血糖値降下組成物は、魚介類の抽出物から調製された組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を、固形分当たり5質量%以上含有するものが好ましく、アンセリン及び/又はその塩を、固形分当たり10質量%以上含有するものがより好ましい。アンセリン及び/又はその塩を固形分あたり5質量%以上含有させることで、十分な血糖値降下作用が得られる。
【0026】
本発明の血糖値降下組成物は、アンセリン及び/又はその塩の他に、更に賦形剤、ミネラル類、ビタミン類、糖類、香料等を配合して構成されるものであってもよく、また、アンセリン及び/又はその塩の含有量が高められるように部分精製された、抽出エキス類をそのまま用いることもできる。
【0027】
魚介類から、アンセリン及び/又はその塩を含有する抽出物を得る抽出法としては、各種方法が適用できる。以下にその好ましい例を説明する。
【0028】
<抽出法1>
原料として用いられるエキス類は、魚肉、鳥肉、及び畜肉等を、水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出して得ることができ、市販のものを用いてもよい。なかでも、カツオ、マグロ等の魚介類は、アンセリンが特に多く含まれているので、原料として好ましく用いられる。また、魚介類には、上述したように、アンセリンの他に、アミノ酸、ペプチド等を含有しており、これらの成分が促進的又は相乗的に作用して、より優れた血糖値降下作用が得られる。
【0029】
上記エキス類は、更に酵素処理することにより、後述する膜処理工程におけるアンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類化合物の精製効率を上げることができる。
【0030】
上記酵素としては、例えば中性プロテアーゼ(例えば「パンチダーゼ」(商品名、ヤクルト薬品工業社製)等)、アルカリ性プロテアーゼ(例えば「アロアーゼAP−10」(商品名、ヤクルト薬品工業社製)等)を用いることができる。
【0031】
また、上記エキス類は、適宜濃縮又は希釈してブリックス1〜40%に調整して後述する膜処理工程に供することが好ましく、操作性及び効率性の点から、ブリックス5〜15%に調整することがより好ましい。
【0032】
(1)前処理工程
上記エキス類には、夾雑物としてタンパク質や脂肪等が含まれており、後述する膜処理工程において膜の目詰まりの原因となるため、予め除去しておく。
【0033】
タンパク質や脂肪の除去方法は、特に制限されないが、操作性及び効率性等の点から、活性炭による吸着除去、限外濾過膜による除去等の手段を適宜組み合わせて行なうことが好ましい。例えば、活性炭による吸着除去は、エキス類に対して10〜100質量%の活性炭を添加して0.5〜3時間撹拌した後、濾過して活性炭を除去することにより行なうことができる。また、限外濾過膜を用いる場合は、分画分子量5,000〜50,000の限外濾過膜を用いて処理し、その透過液を回収して、必要に応じて濃縮すればよい。
【0034】
(2)膜処理工程
前処理工程で得られた処理液を、逆浸透膜を用いて処理し、目的物(アンセリン及び/又はその塩)の高分子側及び低分子側の夾雑物をそれぞれ除去する。
【0035】
処理条件は、エキス類の濃度、pHの他、温度、運転圧力等の操作条件によりRO膜の分離性能が変化するため、適宜設定すればよい。
【0036】
また、逆浸透膜は、食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜を組み合わせて用いることが好ましく、高分子側の夾雑物の除去を食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いて行ない、低分子側の夾雑物の除去を食塩阻止率60〜98%の逆浸透膜を用いて行なうことがより好ましい。これにより、各夾雑物を効率よく除去することができるので、アンセリン及び/又はその塩の含有量の高い組成物を得ることができる。
【0037】
食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜を組み合わせて用いる場合、各逆浸透膜による処理順序については特に制限はないが、作業効率の点から、第一膜処理工程として食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いて濃縮を行ない、その透過液を回収し、第二膜処理工程として該透過液を食塩阻止率60〜98%の逆浸透膜を用いて濃縮を行ない、その濃縮液を回収することが好ましい。これによれば、第二膜処理工程が低分子側の夾雑物除去とアンセリン及び/又はその塩を含む溶液の濃縮を兼ねており、作業工程を簡略化できる。
【0038】
また、上記の食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いた第一膜処理工程において、処理液のpHを2〜6(より好ましくはpH4〜5)に調整して膜処理を行なうことが好ましい。上記pHの範囲内で膜処理を行なうことにより、理由はよく分からないが、アンセリン及び/又はその塩の回収率を上げることができる。
【0039】
そして、上記のようにして夾雑物を除去した処理液を、適宜濃縮して、あるいは乾燥して粉末化することによりアンセリン及び/又はその塩を高度に含有する抽出物を得ることができる。
【0040】
このようにして得られる抽出物は、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有している。
【0041】
また、食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜を組み合わせて用い、各膜処理工程において、適宜加水操作を行なうことにより、上記ジイミダゾールジペプチド類の含有量(固形分中)が10質量%以上の抽出物を得ることができる。加水操作は、膜処理液の量の2〜5倍量の水を数回に分けて加えて行うことが好ましい。
【0042】
<抽出法2>
本発明において、上記アンセリン及び/又はその塩を含有する抽出物として、特に魚肉からの抽出物を用いる場合には、魚介類に多く含まれるヒ素を低減させるために、以下に示す抽出法で抽出物を調製してもよい。
【0043】
すなわち、この抽出法は、エキス類を脱塩処理する脱塩処理工程と、脱塩処理工程で得られた脱塩処理液を弱酸性イオン交換樹脂に通液させる吸着工程と、吸着工程後の弱酸性イオン交換樹脂を水洗浄する洗浄工程と、洗浄工程後の弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させて弱酸性イオン交換樹脂に吸着させた吸着物質を溶出させる溶出工程とから主に構成されている。以下にその概略を説明する。
【0044】
原料として用いられるエキス類は、魚肉、鳥肉、及び畜肉等を、水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出して得ることができ、市販のものを用いてもよい。なかでも、上述したように魚介類が好ましい。
【0045】
上記エキス類は、塩分濃度が高いため、塩分を低減させるべく、エキス類を脱塩処理する必要があり、塩分濃度が1質量%以下となるように脱塩処理することが好ましい。エキス類の脱塩処理方法としては、イオン交換膜を用いた電気透析法、逆浸透膜を用いた方法等が挙げられる。
【0046】
電気透析法による脱塩処理において、イオン交換膜としては、特に限定されないが、例えば、商品名「ネオセプタCL−25T、CM−1〜2、AM−1〜3」(徳山曹達社製)、商品名「セレミオンCMV/AMV」(旭硝子社製)等が挙げられる。
【0047】
また、逆浸透膜による脱塩処理において、逆浸透膜としては、食塩阻止率60〜80%のいわゆるルーズRO膜と呼ばれる種類の逆浸透膜が挙げられ、具体的には、商品名「NTR−7250」(日東電工社製)、商品名「SU−610」(東レ社製)等が挙げられる。上記食塩阻止率の逆浸透膜を装着した膜分離装置に、Brixが1〜20%となるように希釈したエキス類を通液して、脱塩処理を行うことで、アンセリン及び/又はその塩等のイミダゾールジペプチド類化合物が膜を透過することなく、塩分のみが透過し、エキス類から効率よく脱塩をすることができる。なお、食塩阻止率が上記よりも低い場合は、上記イミダゾールジペプチド類化合物が膜を透過するため、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率が低下し、上記よりも高い場合は、脱塩効率が低下する傾向にある。
【0048】
次に、上記脱塩処理後のエキス類(以下より、「脱塩処理液」と記す)を、H型に置換された弱酸性イオン交換樹脂(以下より、「弱酸性イオン交換樹脂」と記す)に通液し、イミダゾールジペプチド類化合物を吸着させる。上記イミダゾールジペプチド類化合物を吸着させるにあたり、強酸性イオン交換樹脂を用いた場合、イミダゾールジペプチド類化合物以外の中性・酸性アミノ酸や、ペプチドがイオン交換樹脂に吸着されてしまうため、イミダゾールジペプチド類化合物の含量を高めることが困難になり、更には、吸着成分が増加するために樹脂量に対する処理量が低下してしまう。そして、ヒ素化合物も強く吸着してしまうため、イミダゾール化合物と、ヒ素化合物との分離が困難となり、目的を達成することが出来ない。弱酸性イオン交換樹脂を用いることで、イミダゾールジペプチド類化合物の含量を高めることができ、更には、ヒ素含有量を低減もしくはヒ素化合物を除去できる。
【0049】
上記弱酸性イオン交換樹脂とは、カルボキシル基等の弱酸性の官能基を有するイオン交換樹脂であり、強酸性イオン交換樹脂とはスルホ基等の強酸性の官能基を有するイオン交換樹脂である。
【0050】
弱酸性イオン交換樹脂としては、特に限定されるものではなく、市販のものが幅広く利用でき、例えば商品名「アンバーライトIRC76」(オルガノ社製)、商品名「ダイアイオンWK‐40」(三菱化学社製)、商品名「デュオライトC476」(住化ケムテックス社製)等が挙げられる。
【0051】
上記弱酸性イオン交換樹脂への上記脱塩処理液の濃度及び負荷量は、原料や抽出液の製造方法、塩分濃度、及び使用するイオン交換樹脂により異なるので、使用するイオン交換樹脂の吸着容量範囲内で適宜決定すればよい。また、流速については特に制限されず、通液する上記脱塩処理液の性状や、使用する樹脂に応じて適宜決定し、例えば0.5〜8SVの流速で通液させる。なお、SVとは、単位時間当たりにカラムに通液した溶液の樹脂量に対する量を表し、1時間に樹脂量と同量の溶液を通液した場合の流速を1SVとする。
【0052】
上記弱酸性イオン交換樹脂に脱塩処理液を通液させた後、該弱酸性イオン交換樹脂に水を通液して非吸着成分、及び吸着力の弱い成分を溶出させる、すなわち弱酸性イオン交換樹脂の水洗浄を行う。
【0053】
上記水洗浄は、2〜20RVの通液量で行うことが好ましく、より好ましくは4〜10RVである。なお、RVとは樹脂量を表し、樹脂量と同量の溶液を通液した場合の通液量を1RVとする。
【0054】
弱酸性イオン交換樹脂に対するヒ素化合物の吸着力は、イミダゾールジペプチド類化合物のそれよりも弱く、水洗浄においても溶出でき、使用する樹脂により異なるものの、上記通液条件による水洗浄によってほぼ完全に溶出できるので、イミダゾールジペプチド類化合物とヒ素化合物の分離が可能となる。通液量が上記よりも多い場合、水洗浄によってヒ素化合物と共にイミダゾールジペプチド類化合物も溶出してしまうおそれがあり、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率が劣る傾向にあり、通液量が上記よりも少ない場合、ヒ素化合物を十分分離溶出させることができず、イミダゾールジペプチド類化合物の精製が不十分となる傾向にある。
【0055】
また、上記水洗浄における、水の流速は特に制限されず、使用する樹脂に応じて適宜決定し、例えば0.5〜8SVの流速で通液させることが好ましい。
【0056】
弱酸性イオン交換樹脂の水洗浄後、弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させて、弱酸性イオン交換樹脂に吸着させた吸着物質を溶出させる。
【0057】
弱酸性イオン交換樹脂から吸着物質を溶出させるにあたり、塩酸、食塩水の濃度及び通液量については、イミダゾール化合物を溶出できる条件であれば特に制限はなく、使用するイオン交換樹脂によっても異なるため特に限定は出来ないが、例えば、1〜2Nの塩酸を2〜4RVの通液量で溶出させる、又は1〜2mol/lの食塩水を2〜8RVの通液量で溶出させることが好ましい。また、塩酸と食塩水とを併用して溶出する場合、上記塩酸及び食塩水を連続的に通液するか、塩酸と食塩の合計として1〜2mol/lの溶液を2〜6RVの通液量で溶出させることが好ましい。
【0058】
ここで、上記洗浄工程において、水洗浄が不十分であった場合においては、上記溶出画分にヒ素化合物が混在してしまう。しかしながら、ヒ素化合物はイミダゾールジペプチド類化合物よりも、弱酸性イオン交換樹脂から溶出しやすいため、弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させてから、上記通液量2RV未満で回収した上記溶出画分には、ヒ素化合物が含有している可能性があるが、弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させてから、上記通液量2RV以降の上記溶出画分を回収することで、ヒ素化合物とイミダゾール化合物とを分離することができる。なお、上記洗浄工程において十分量の水を通液した場合には、同工程中でヒ素化合物をほぼ完全に除去されているため、上記溶出画分の全量を回収してもヒ素化合物が混入することはない。
【0059】
例えば、魚介類から抽出して得られたエキス類を、上述のようにして処理することで、固形分あたりのアンセリン及び/又はその塩の含有量が4.5〜80質量%で、かつイミダゾールジペプチド類化合物の含量が5〜80質量%であり、ヒ素化合物の含量がイミダゾールジペプチド類化合物の1に対して150ppm以下である抽出物を得ることができる。固形分あたりのアンセリン及び/又はその塩の含有量は、9〜80質量%が好ましく、18〜80質量%がより好ましい。またイミダゾールジペプチド類化合物の含量は、10〜80質量%がより好ましく、20〜80%が特に好ましい。また、ヒ素化合物の含量は、質量比でイミダゾールジペプチド類化合物を1としたとき15ppm以下がより好ましく、1.5ppm以下が特に好ましい。
【0060】
上記溶出工程で得られた上記溶出画分は、活性炭を用いて脱色処理するか、脱塩処理(二次脱塩処理)することが好ましく、活性炭脱色を行った後、更に脱塩処理することが特に好ましい。
【0061】
活性炭による脱色処理は、上記溶出画分を塩酸、もしくは苛性ソーダやソーダ灰等のナトリウム塩を用いて溶出液のpHを2.5〜5.5に調整することが好ましい。pHが上記範囲外であると、活性炭による脱色効果が不十分となる傾向にある。
【0062】
活性炭による脱色処理方法としては、特に制限は無く、pH調整を行った上記溶出画分(以下、「溶出画分中和液」と記す)に、直接活性炭を添加するバッチ方式や、活性炭をあらかじめ充填したカラムに、上記溶出画分中和液を通液するカラム方式等が例示できる。
【0063】
溶出工程で得られた上記溶出画分を、このように活性炭脱色処理し、イミダゾールジペプチド類化合物の含量が1.0質量%の水溶液とした際の波長420nmの吸光値が0.5以下となるようにすることが好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0064】
また、脱塩処理(以下より「二次脱塩処理」と記す)は、上記溶出画分を塩酸、もしくは苛性ソーダやソーダ灰等のナトリウム塩を用いて、pH3.5〜7.0に調整した後に行うことが好ましい。二次脱塩処理は、食塩阻止率80〜98%の逆浸透膜を用いて脱塩を行うことが好ましく、このような逆浸透膜としては、例えば、商品名「NTR−729」(日東電工社製)等が挙げられる。上記食塩阻止率の逆浸透膜を装着した膜分離装置にBrixが1〜20%となるように調整した上記中和液を通液して、脱塩処理を行うことで、イミダゾールジペプチド類化合物が膜を透過することなく、塩分のみが透過し、溶出画分中和液から効率よく脱塩をすることができる。なお、電気透析法や食塩阻止率60〜80%の逆浸透膜を用いて脱塩を行った場合、イオン交換樹脂処理を行う前では、イミダゾールジペプチド類化合物を透過させずに塩分のみを透過させるため、効率よく脱塩処理できるが、イオン交換樹脂処理後では、理由は明らかではないが、イミダゾールジペプチド類化合物が塩分と共に膜を透過してしまい、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率が著しく低下してしまう。また、上記弱酸性イオン交換樹脂の溶出工程において、硫酸や硝酸、有機酸及びこれらの塩を用いた場合や、その後のpH調整工程において、有機酸やカルシウム塩、マグネシウム塩等のナトリウム塩以外を用いた場合、食塩阻止率80〜98%の逆浸透膜では、膜に対する透過率が低いため、脱塩が困難となる。上記弱酸性イオン交換樹脂の溶出工程において塩酸及び/又は食塩水を用いて、更にpH調整において塩酸、及び苛性ソーダやソーダ灰等を用いて、脱塩の対象となる塩類を食塩とした上で、食塩阻止率80〜98%の逆浸透膜を用いることにより、食塩のみが膜を透過するため、食塩を効率よく除去しつつ、イミダゾールジペプチド類化合物を高い収率で回収することができる。
【0065】
溶出工程で得られた上記溶出画分を、このように二次脱塩処理し、塩分含量を、質量比でイミダゾールジペプチド類化合物を1としたとき0.8以下とすることが好ましく、0.4以下がより好ましく、0.2以下が特に好ましい。
【0066】
以上のようにして得られた抽出物は、アンセリン及び/又はその塩を高濃度で含有し、かつヒ素化合物、塩分等の不純物が少なく、色調も薄いため、飲食品等に配合するのにも適している。
【0067】
本発明の血糖値降下組成物の製品形態は、特に限定されないが、例えば、錠剤、粉末、顆粒、溶液、カプセル剤等が挙げられる。
【0068】
本発明の血糖値降下組成物によれば、これを食事前、食事中又は食事後に摂取することにより、食事に伴う血糖値上昇を著しく抑制し、速やかに血糖値を食事前の状態にまで低下させることができ、更には、糖尿病の治療ないし予防にも役立つと考えられる。
【0069】
本発明の血糖値降下組成の成人における1日当りの有効摂取量は、アンセリン換算で1〜1,000mg、より好ましくは10〜500mgである。
【0070】
一方、本発明の血糖値降下組成は様々な飲食品に配合することもできる。例えば、(1)清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料等の飲料類、(2)トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物等の野菜加工品、(3)乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰等の果実加工品、(4)カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉等の香辛料、(5)パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニ等の麺類(生麺、乾燥麺含む)、(6)食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツ等のパン類、(7)アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉等、(8)焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリーム等の菓子類、(9)小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツ等の豆類製品、(10)蜂蜜、ローヤルゼリー加工食品、(11)ハム、ソーセージ、ベーコン等の肉製品、(12)ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリーム等の酪農製品、(13)加工卵製品、(14)干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ等の加工魚や、乾燥わかめ、昆布、佃煮等の加工海藻や、タラコ、数の子、イクラ、からすみ等の加工魚卵、(15)だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌等の調味料や、サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油等の食用油脂、(16)スープ(粉末、液体含む)等の調理、半調理食品や、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)等が挙げられる。
【0071】
上記ように飲食品に配合する場合、一食当りの添加量はイミダゾールジペプチド類化合物換算で10〜2,000mgが好ましく、10〜500mgがより好ましい。
【実施例】
【0072】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
(試験例1)
3名の被験体に、魚肉から分離生成したアンセリン(純度98%以上)を、それぞれ体重45kgあたり10mg摂取させた後、50gのグルコース溶液を摂取させ、30分後、60分後、120分後の血糖値を、グルコカード(Arkray製)で測定した。
【0074】
(試験例2)
3名の被験体に、魚肉から分離生成したアンセリン(純度98%以上)を、それぞれ体重45kgあたり100mg摂取させた後、50gのグルコース溶液を摂取させ、30分後、60分後、120分後の血糖値を、グルコカード(Arkray製)で測定した。
【0075】
(試験例3)
3名の被験体に、アンセリン含有量5%,ペプチド含有量15%の魚肉抽出物粉末(商品名;「マリンアクティブ」 焼津水産化学工業製)を、それぞれ体重45kgあたり500mg摂取させた後、50gのグルコース溶液を摂取させ、30分後、60分後、120分後の血糖値を、グルコカード(Arkray製)で測定した。
【0076】
(試験例4)
3名の被験体に、アンセリン含有量5%,ペプチド含有量15%の魚肉抽出物粉末(商品名;「マリンアクティブ」 焼津水産化学工業製)を、それぞれ体重45kgあたり2,000mg摂取させた後、50gのグルコース溶液を摂取させ、30分後、60分後、120分後の血糖値を、グルコカード(Arkray製)で測定した。
【0077】
(試験例5)
3名の被験体に、50gのグルコース溶液を摂取させ、30分後、60分後、120分後の血糖値を、グルコカード(Arkray製)で測定した。
【0078】
上記結果を図1にまとめて記す。アンセリンの未摂取時(試験例5)の0分後と60分後の値を比較したところ、有意差が認められ(Turkey’s test)、60分後も血糖値が高い状態にあった。
【0079】
一方、アンセリンを摂取した試験例1〜4では0分後と60分後の値に有意差は見られず、60分後には血糖値は空腹時血糖に戻っていた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】血糖値の経時変化を表す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンセリン及び/又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする血糖値降下組成物。
【請求項2】
魚介類、鶏肉、鳥肉、畜肉の少なくとも一つの抽出物から調製された組成物である請求項1記載の血糖値降下組成物。
【請求項3】
魚介類の抽出物から調製された組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を、固形分当たり5質量%以上含有するものである請求項2記載の血糖値降下組成物。
【請求項4】
魚介類から抽出されたエキス類からタンパク質及び/又は脂肪を除去して得られる処理液を、逆浸透膜を用いて分離・精製した組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有する請求項3記載の血糖値降下組成物。
【請求項5】
魚介類から抽出されたエキス類からタンパク質及び/又は脂肪を除去して得られる処理液を、食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜を組み合わせて用いて分離・精製した組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有する請求項3記載の血糖値降下組成物。
【請求項6】
魚介類から抽出されたエキス類を脱塩処理し、得られた脱塩処理液を弱酸性イオン交換樹脂に通液させた後、前記弱酸性イオン交換樹脂を水洗浄し、次いで塩酸及び/又は食塩水で前記弱酸性イオン交換樹脂の吸着物質を溶出させて得られた抽出物から調製された組成物であって、アンセリン及び/又はその塩を含むイミダゾールジペプチド類を固形分当たり5質量%以上含有する請求項3記載の血糖値降下組成物。
【請求項7】
前記塩酸及び/又は食塩水で前記弱酸性イオン交換樹脂の吸着物質を溶出させて得られた抽出物を、食塩阻止率80〜90%の逆浸透膜を用いて脱塩処理して得られた組成物である請求項6記載の血糖値降下組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに一つに記載の血糖値降下組成物を含有することを特徴とする糖尿病予防用飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−143788(P2008−143788A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329209(P2006−329209)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】