説明

血糖制御のための新規グリシン酸メトホルミン塩

本発明では、グリシン酸メトホルミンと呼ばれる新規の1,1−ジメチルビグアニドグリシン酸塩を合成した。この塩は、他のメトホルミン塩に優る利点を有する。これらの利点は、第一に、グリシン対イオンそれ自体が、低血糖効果を示すという事実に起因する。その上、この塩は、塩酸メトホルミンによって製造されたものよりも、吸収が速く、より高い血漿中濃度に到達する。合成は塩酸メトホルミン塩から行い、この場合、イオン交換カラムを使用して塩酸塩の対イオンを放出させることによって遊離メトホルミンを生成し、放出されたメトホルミン塩基を水性媒体に溶解させ、続いて、周囲温度において継続的に撹拌しながらグリシンを加え、続いて、得られた生成物を、濃縮溶液が生成されるまで加熱し、グリシンが媒体に不溶となって飽和媒体の結晶化に都合が良いように、グリシンが不溶で、かつ存在する成分と反応しない有機溶媒を加える。なお、これはすべて余分なグリシンを沈殿させて、濾過により当該沈殿物を分離するためである。次いで、グリシン酸メトホルミン塩の沈殿が達成されるまで濾液を再び濃縮した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた血糖降下特性、より良好なバイオアベイラビリティ、特定の安全な薬物動態を示すグリシン酸メトホルミン塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ビグアニドと呼ばれる抗糖尿病薬の種類は、ガレガ・オッフィキナリス植物に由来し、これらは、糖尿病の症状を減じる能力において数世紀にわたって知られてきた。メトホルミンは、ビグアニドから誘導される化合物であり、主に肝臓でのグルコース新生を低減することによって作用するが、消化管レベルでのグルコースの吸収も減少させ、並びにグルコースの末梢利用を増加させることによりインシュリンに対する感受性も増加させる。これは、メトホルミンが、細胞レセプターへのインシュリンの結合を向上させるという事実に起因し得るが、このことは、メトホルミンがチロシンキナーゼポストレセプターにおいて引き起こす活性の増加、並びにその結果としてのGLUT4担体の数および活性の増加によって説明される。
【0003】
メトホルミンは、代謝されず、尿中に直接排出される。その半減期は6.2時間である。
【0004】
メトホルミンおよび塩酸メトホルミンは、結腸および下部消化管レベルでの腸吸収が乏しい。
【0005】
本発明は、グリシンに結合したメトホルミンをベースとし、先行技術において公知の他のメトホルミン塩と比較して、血流へのより良好な吸収および通過、少ない胃腸の有害効果、より良好な薬物動態プロフィールを示す、新規ビグアニド塩の開発に関する。
【0006】
塩酸メトホルミンの欠点の1つは、それが吸湿性であるということである。このことは、錠剤、カプセル剤などの固体組成物の製造において、それらの工業的取扱いの妨げになる。その上、塩酸メトホルミンは、その固体形態において腐食性の結晶であり、そのために、使用される製錠装置を摩損する。さらに、塩酸メトホルミンは使用者にとって非常に苦い塩であり、それによって発生する酸は、多くの場合、継続使用により胃疾患を引き起こす。
【0007】
特許文献1では、血糖値を下げることによって代謝障害、特に糖尿病を治療するためのビグアニド塩であって、以下の式:
【0008】
【化1】

式中、Rは、水素原子または低級アルキルまたは低級アルケニル基を表し、Rは、低級アルキル、アリール、アリール−(低級アルキル)、またはアリールオキシ−(低級アルキル)基を表すか、あるいはRおよびRが共に低級アルケニル基を表し、Rは、水素原子または式:
【0009】
【化2】

を有する基を表し、この場合、RおよびRは、それぞれ、水素原子またはカチオンを表すか、あるいはRが水素を表し、かつRが低級アルキル基を表すか、あるいはRおよびRが共に低級アルキレン基を表し、nは1または2を意味する]を有するビグアニド塩について初めて開示されている。
【0010】
ブホルミンまたはフェンホルミンなどの他のビグアニドとは異なり、メトホルミンは、高血清濃度において乳酸アシドーシスを生じない。塩酸メトホルミンは、現在市販されている塩であり、以下の式:
【0011】
【化3】

を有する。
【0012】
特許文献2では、塩酸メトホルミンなどのメトホルミンの酸付加塩について開示されている。特許文献3では、消化管レベルでの吸収が改善された、脂肪酸に結合したメトホルミンについて開示されている。脂肪酸に結合したこのメトホルミン(例えば、ラウリン酸塩、コハク酸塩、カプリン酸塩、パルミチン酸塩など)は、メトホルミン塩(例えば、メトホルミン−HCl)から生成される。これらの化合物は、下部消化管レベルでの吸収を増加させ、1日を通して比較的一定の濃度を必要とするような患者において、1日用量を数回にわたって摂取しなくても、血液中に薬物が維持されるように作り出された。ラットにおいて測定された、時間に対するこれらの化合物の血漿中濃度(ηg/ml)は、脂肪酸に結合していないメトホルミン塩よりも良好なバイオアベイラビリティを示している。しかしながら、メトホルミン−脂肪酸化合物と異なり、グリシン酸メトホルミンは、最初の数分間内で最大血漿濃度に達するだけでなく、これらの同じ濃度が最初の3〜4時間において血漿内で維持され、摂取後10時間までに徐々に減少する(図1)。
【0013】
グリシン酸メトホルミンによって示されるこの現象は、最初の1時間で到達する高濃度により、糖血症を軽減するために特に有用であり、これは、心血管性リスクおよび血管損傷の主な因子の1つとして認識されている食後高血糖への対処において特に有用であり得る。一方で、グリシン酸メトホルミンが達する最高濃度は塩酸メトホルミンより高いので、同様の血糖降下の効果を生じるために必要とする用量は、塩酸メトホルミンより少ない。
【0014】
現在の技術水準に関係する他の文献としては、Bristol−Myers Squibb Companyからの特許文献4が挙げられ、当該文献は、メトホルミンの様々なジカルボン酸塩、別の抗糖尿病薬との組み合わせ、並びに前述の塩または組み合わせを使用して糖尿病を治療する方法に関するものであり、当該特許は、メトホルミンフマレート、メトホルミンスクシネート、およびメトホルミンマレートを保護している。同様に、メトホルミン塩に関する現在の技術水準にある他の特許として、例えば、メトホルミンのパラークロロフェノキシ酢酸塩について開示している特許文献5、メトホルミンのパモ酸塩について開示している特許文献6および特許文献7、メトホルミンのアセチルサリチル酸塩について開示している特許文献8、メトホルミンのニコチン酸塩について開示している特許文献9および特許文献10、並びにヒドロキシ脂肪族ジカルボン酸の塩、例えば、メソ酒石酸、酒石酸、メソシュウ酸、および酸化マイレン酸など、を含むメトホルミンのヒドロキシ酸塩について開示している特許文献11が存在し、これらすべては、メトホルミンの有機酸塩であることが確認され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】英国特許第1473256号明細書
【特許文献2】ベルギー特許第568,513号明細書
【特許文献3】米国特許出願第2005/0158374号明細書
【特許文献4】欧州特許第1039890号明細書
【特許文献5】米国特許第4,835,184号明細書
【特許文献6】仏国特許出願公開第2320735号明細書
【特許文献7】仏国特許出願公開第2037002号明細書
【特許文献8】米国特許第3,957,853号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第2357864号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第1967138号明細書
【特許文献11】特開昭64−008237号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、グリシン酸メトホルミンと呼ばれる新規の1,1−ジメチルビグアニドグリシン酸塩を合成した。この塩は、他のメトホルミン塩に優る利点を有する。これらの利点は、第一に、グリシン対イオンそれ自体が低血糖効果を示すという事実に起因する。その上、この塩は、塩酸メトホルミンによって製造されたものよりも、吸収が速く、より高い血漿中濃度に到達する(図1)。一方で、当該塩がイオン化される際に発生するグリシンは、強酸性物質ではなく、その結果、望ましくない胃への作用が軽減される。最後に、グリシン酸メトホルミンは、腐食性が低く、より良好なレオロジー特性を有しており、並びに圧縮成型の影響をあまり受けないために、工業的規模での取扱いに対して好ましい物理特性を有しており、したがって、医薬組成物の調製が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】塩酸メトホルミン(HCL−MET2)と比較したグリシン酸メトホルミン(GLI−MET3)の血漿中濃度を示す。
【図2(A)】グリシン酸メトホルミンの核磁気共鳴(NMR)プロトンスペクトルを示す。
【図2(B)】グリシン酸メトホルミンの炭素13スペクトルを示す。
【図3】グリシン酸メトホルミンの赤外(IR)スペクトルを示す。
【図4】FAB技術により得られた質量スペクトルを示す。
【図5】FAB技術によって得られた質量スペクトルを示す。
【図6】単結晶X線回折によって得られた単位格子を示す。
【図7】結晶配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に好ましい実施形態を明記するが、これらは、グリシン酸メトホルミン塩の合成を限定することを意図するものではなく、当該合成は、塩酸メトホルミン塩から行い、この場合、イオン交換カラムを使用して塩酸塩の対イオンを放出させることによって遊離メトホルミンを生成し、放出されたメトホルミン塩基を水性媒体に溶解させ、続いて、周囲温度において継続的に撹拌しながらグリシンを加え、続いて、得られた生成物を、濃縮溶液が生成されるまで加熱し、グリシンが媒体に不溶となって飽和媒体の結晶化に都合が良いように、グリシンが不溶で、かつ存在する成分と反応しない有機溶媒を加える。なお、これはすべて余分なグリシンを沈殿させて、濾過により当該沈殿物を分離するためである。次いで、グリシン酸メトホルミン塩の沈殿が達成されるまで、濾液を再び濃縮し、この沈殿物を洗浄し、精製した。
【0019】
生成された塩は、核磁気共鳴、赤外分光分析、質量スペクトル分析、および最後に単結晶X線回折によって同定した。当該スペクトルの分析は、生成された新規の塩が他のメトホルミン化合物とは異なることを示していた。
【0020】
核磁気共鳴(NMR)プロトンスペクトルは、2,814ppm、2,916ppm、4,677ppmに変位を示した。
【0021】
13Cスペクトルは、37,754ppm、44,824ppm、158,761ppm、160,308ppm、および180,049ppmに変位を示した。
【0022】
赤外スペクトル(IR)は、3,367.34cm−1、3,175.88cm−1、1,618.78cm−1、および1,573.96cm−1に特徴的吸収シグナルを示した。質量スペクトルは、FAB技術により得られ、並びに分子イオンは、259m/zにおいて得られ、これは、予想される化合物と一致しており、ここで、分子イオンが、分子量の2倍に1を加えたものに等しいこと、すなわち、129×2+1=259であることが想起される。
【0023】
もう一方の質量スペクトルは、FAB技術によって得られ、分子イオンは、予想される化合物と一致する75m/zにおいて得られた。
【0024】
得られた単結晶X線回折は、以下の単位格子寸法を有する、空間群P−1の三斜結晶に一致する:
a=5.993Å α=90.94°
b=8.673Å β=95.10°
c=10.51Å γ=107.58°
【0025】
グリシン酸メトホルミンの特数:
a)正式な化学名:
N,N−ジメチルイミドジカルボンイミドジアミドグリシネート
b)簡略化した式:
16
c)分子量:
204.24
d)貯蔵要件:
周囲温度においてよく密閉された容器に保存する
e)溶解性データ
水に高溶解性であり、メタノール、エタノールに昜溶性である。酢酸エチル、エーテル、クロロホルム、ベンゼンには不溶性である。25℃での水における溶解度は約1.4g/mlである。
融点:166℃〜172℃
f)状態:固体(粉末)
g)化学安定性:グリシン酸メトホルミンは、強酸との反応により新たなメトホルミン塩を生成し、グリシンの塩基部分の反応により新たなグリシン塩が生成される。
【0026】
以下に明記する研究は、本発明の好ましい実施形態であるが、錠剤、カプレット、ゲル剤、ペースト剤、粉末剤、持続的放出粒剤、カプセル剤、持続的放出錠剤、緩衝剤を含む液剤、発泡錠、懸濁剤、シロップ剤、エアゾール剤などの形態であり得る投与されるべき組成物、あるいは、経口、静脈内注射可能、筋肉内注射可能、経鼻、腹腔内、経舌下などであり得る投与経路のいずれかを限定することを意図するものではない。
【0027】
グリシン酸メトホルミンのインビトロでの細胞毒性研究
以下の初代細胞株および細胞培養物を使用した:
肝臓由来の細胞:CCL13、ATCC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)
腎臓由来の細胞:CRL1633、ATCC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)
初代培養物:肝細胞
以下の細胞毒性パラメータを評価した:
細胞形態および細胞接着。
メチルチアゾールテトラゾリウム還元アッセイ(MTTアッセイ)。
評価する濃度範囲は、250mg/ml〜0.12mg/mlであった。
2種の暴露期間:24時間および72時間、について評価した。
【0028】
結果
評価した2種の暴露期間(24時間および72時間)において、評価したグリシン酸メトホルミンは、この研究で使用したいずれの細胞種に対しても細胞毒性でなかった。
【0029】
グリシン酸メトホルミンの50%致死量の研究(LD50
実験動物の管理と使用のための国際的な規定および仕様に従って、ウィスターラットにおいて経口経路による50%致死量(LD50)アッセイを実施した。手順全体は、経済協力開発機構のガイドラインのガイドライン423で規定されているように計画した。
【0030】
動物の数:両方の性別の3カ月の若齢成体のウィスターラット96匹を使用した。
【0031】
無作為化:1バッチあたり8匹による12バッチ。投与間隔を見出すために予備研究に4バッチを使用し、最終的な研究に8バッチを使用した。
【0032】
方法:絶食後に、生成物の異なる用量を、オロガストリック管を使用して経口により投与した。
研究の進展の間、並行して対照群を使用した。
【0033】
容量:3.8±0.4ml(ラット体重100gに対して2mlを超えない量に相当する)。
【0034】
観察時期:24時間。
【0035】
結果:
グリシン酸メトホルミンに対して得られた経口LD50:2.4625±0.195g/kg(塩酸メトホルミンのLD50は1.45g/kgである)。
試験の値は、p=0.723であった。
OECDは、LD50を「実験動物の50%における致死の原因として予想され得る物質の統計的に導出された単回用量」として定義している。
【0036】
グリシン酸メトホルミンの亜急性毒性の研究
実験動物の管理と使用のための国際的な規定および仕様に従って、28日間の亜急性毒性試験を実施した。
【0037】
動物の数:両方の性別の3カ月の若齢成体のウィスターラット50匹を使用した。それぞれ動物10匹による5つのバッチ、すなわち、4つの実験群(各群に動物10匹)および対照群である。
【0038】
絶食後に、異なる用量(低用量、中間用量、高用量、およびサテライト、並びに対照群)の生成物を、オロガストリック管を使用して経口により投与した。
【0039】
使用した用量:
低用量:0.1g/kg
中間用量:0.5g/kg
高用量:1.0g/kg
サテライト:1.0g/kg
対照:担体(再蒸留水)のみ
観察期間:28日間。サテライト群は、15日間の後処置(28+15日間)。
【0040】
以下の研究:徴候および症状の発現の観察、血液学的検査、並びに解剖学的病理学的研究、を28日間実施した。手順全体は、経済協力開発機構のガイドラインのガイドライン407において規定されているように計画した。
【0041】
結果:
臨床的知見:高用量において準糊状の糞便(2日間)。28日間の研究の間、死亡は全く観察されなかった。挙動変化は全く観察されなかった。剖検では、様々な器官において大きな変化は見られなかった。
【0042】
解剖学的病理学的研究:標的器官において、著しい巨視的な変化は観察されなかった。
対照群:変化は全く観察されなかった。
研究後の観察:
この研究を実施する以前の文献が全くないが、高用量群およびサテライト群における準糊状の糞便の存在は、投与された高用量における潜在的副作用であると結論し得る。
【0043】
最後の薬物投与後も後続効果は全く示されず、任意の長期の副作用(28日後)を特定する可能性は示されなかった。
【0044】
高用量において観察された副作用と推定される症状(準糊状の糞便)も、研究の経過期間中(第9日〜11日)に回復に向かった。
【0045】
副作用が観察されない推定用量の外挿は、0.5〜1.0g/kgの間に設定することができる。
【0046】
グリシン酸メトホルミンのバイオアベイラビリティの研究
塩酸メトホルミン(HCL−メトホルミン)850mgに相当するグリシン酸メトホルミンの錠剤を12人の健康なボランティアに投与し、塩酸メトホルミン850mgを服用した他の12人のボランティアの反応と比較した。24人のボランティアから試料を採取して薬物動態曲線解析を実施し、結果として以下の薬物動態パラメータを得た:最高血中濃度(Cmax)591ng/ml、最大時間(tmax)2.5時間、24時間での10分間の曲線下面積(ABC(10−24))26.811ηg・ml/h、2.8μg/mlの相対的バイオアベイラビリティ(図1の結果を参照のこと)。
【0047】
グリシン酸メトホルミンは、最初の数分間に、その生体内分解および放出を開始し、その結果、0.00〜0.13時間の間の血漿中濃度の観察からわかるように、急速に吸収される。これらの濃度が、10時間にわたって血液循環中において維持される。
【0048】
循環残留(200ηg/ml未満の濃度)が存在するが、その後の12時間以内に減少する傾向にあり、次の日の朝に当該薬物を投与しなければ消失する。
【0049】
グリシン酸メトホルミンの胃忍容性および有害事象の研究
研究は、同時に、850mgに相当する用量において30日間連続的にグリシン酸メトホルミン(ボランティア12人)または塩酸メトホルミン(ボランティア12人)の錠剤を投与された24人の健康なボランティアにおいて実施した。最初の薬物摂取前と、さらに30日間の研究の終了時に内視鏡検査を実施した。
【0050】
この研究では、範囲の合計を計測することによって胃損傷を評価するために使用されるLanzaスコアを使用した。平均範囲が高いほど、胃損傷は激しい。
【0051】
この研究では、塩酸メトホルミンを服用した群の平均範囲合計が258であるのに対し、グリシン酸メトホルミンを服用した群は225であることが見出された(p=0.43)。
【0052】
統計的に有意な違いは確認されないが、塩酸メトホルミンを服用した群は、Lanzaスコアが4(スケールにおける最大スコア)であるボランティアの割合が、グリシン酸メトホルミンを服用した群より大きく、よって、グリシン酸メトホルミンを服用した群は、塩酸メトホルミンを服用した群より胃損傷が少ないことが見出された。
【0053】
追跡調査した患者において、重篤有害事象の調査では、2つの群のどちらにおいても重篤有害事象は見られず、このことは、両方の薬物の安全性を実証するものである。
【0054】
上記において開示したすべてにより、当業者であれば、糖尿病の治療のためのこの新規の医薬塩の開発の新規性および発明の範囲を観察することができ、薬物血漿中濃度曲線の挙動は、塩酸メトホルミンとの比較だけでなく、脂肪酸のメトホルミン塩との比較においても、より良好なバイオアベイラビリティを示していることは注目に値し、このことは、曲線下面積の間の違い分析により明らかであり(図1の結果を参照のこと)、当該高濃度維持期間(4時間)は、現在の研究技術水準では報告されておらず、したがって、この現象は、糖尿病患者の治療のための予期しない有利な結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトホルミンおよびグリシンを含み、グリシン酸メトホルミン塩を形成する塩。
【請求項2】
核磁気共鳴(NMR)プロトンスペクトルが、2,814ppm、2,916ppm、4,677ppmに変位を示すことを特徴とする、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
炭素13スペクトルが、37,754ppm、44,824ppm、158,761ppm、160,308ppm、および180,049ppmに変位を示すことを特徴とする、請求項1に記載の塩。
【請求項4】
赤外(IR)スペクトルが、3,367.34cm−1、3,175.88cm−1、1,618.78cm−1、および1,573.96cm−1に特徴的吸収シグナルを示すことを特徴とする、請求項1に記載の塩。
【請求項5】
錠剤、カプレット、ゲル剤、ペースト剤、粉末剤、持続的放出粒剤、カプセル剤、持続的放出錠剤、緩衝剤を含む液剤、発泡錠、懸濁剤、シロップ剤、エアゾール剤の形態の医薬組成物または他の医薬組成物中において、有効成分として見出されることを特徴とする、請求項1に記載の塩。
【請求項6】
メトホルミン塩酸塩の溶液をイオン交換カラムに通過させ、塩酸対イオンを分離することによって遊離メトホルミンを生成する工程と、
該遊離メトホルミンを水性媒体に溶解させ、周囲温度において継続的に撹拌しながらグリシンを加える工程と、
得られた混合物を濃縮し、過剰なグリシンが沈殿するまで、グリシンが不溶な溶媒を加える工程と、
濾過して過剰なグリシンを除去し、結果として得られたものを、第2の沈殿物が生成するまでエバポレートする工程と、
該第2の沈殿物を洗浄し、精製する工程と、
を含むことを特徴とする、前記グリシン酸メトホルミン塩を製造する方法。
【請求項7】
血糖値の低減を達成するために、脈内注射可能、筋肉内注射可能、経鼻、腹腔内、経舌下などの様々な経路、しかし好ましくは経口経路、によって様々な用量のグリシン酸メトホルミンを投与する工程から成ることを特徴とする、温血動物における高血糖を治療するための請求項1の塩の使用。

【図1】
image rotate

【図2(A)】
image rotate

【図2(B)】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2011−525900(P2011−525900A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515639(P2011−515639)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002665
【国際公開番号】WO2009/144527
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510341581)
【Fターム(参考)】