説明

血糖測定装置及び血糖測定システム

【課題】血糖値の大小判断のための閾値の設定が医療機関からのみ行えるようにし、且つ、異常な血糖値が測定された場合には、そのことを被検者に繰り返し自覚させ、医師の診察へ誘導することを可能にする。
【解決手段】血糖測定装置100は一旦閾値を超える血糖値を測定すると、その事実を保持するため不揮発性メモリに格納し、血糖測定装置100が情報処理装置400と近接通信を開始し、情報処理装置400が正当な装置であると判定した場合のみ、情報処理装置400からの要求に応じて不揮発性メモリへの書き換えを許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖測定装置ならびにそれを用いたシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
簡易型の血糖測定装置(血糖計)は、主に糖尿病患者(被検者)の普段の生活において使用されるものであり、携帯性、操作性の簡便さが要求されるものである。測定結果である血糖値は装置の表示部にその都度表示される。また、視力障害をもつ被検者のため、測定結果を音声出力する機能を搭載したものもある。いずれの場合も、測定した結果は、内部のメモリに蓄積され、定期的な診察の際に医師の診療指導の材料として利用される。
【0003】
測定して得られた血糖値は単に表示するだけでは、それが普段より高いのか低いのかが判然としない。そこで、高いか低いかを判断するための閾値を設定できるようにし、閾値を超えた場合に警報を発することが行われている(特許文献1)。しかし、その閾値を被検者が自由に設定や変更ができるようにすると、医師の介在無しに被検者の主観による閾値が設定できてしまうこととなり、健康管理上問題が残る。かかる点に対し、医療機関側が用意した閾値等の各種設定データを読み取り、これを用いて体液を分析し、閾値を超えたデータを検出した場合に警報を発する体液分析装置が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−117434号公報
【特許文献2】特表2009−534687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでの警報は、血糖値の測定が完了した直後からせいぜい電源がOFFになるまでに発せられるものであった。その結果、被検者の中には、測定された血糖値が普段よりも高い(あるいは低い)値を示して警報が発せられた場合であっても、特に自身の体調に問題がなかったり、異常値がすぐに元に戻ったりすれば、それを一過性のものと判断してしまい、医師の指導を仰ぐことを怠ってしまう者が少なくなかった。
【0006】
本願発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、血糖値の大小判断のための閾値の設定が医療機関からのみ行えるようにするだけでなく、異常な血糖値が測定された場合には、そのことを継続的に被検者に自覚させ、治療への意識付けを向上させ、また、医師の診察を受けることを誘導することを可能ならしめる技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、例えば本発明に係る血糖測定システムは以下のような構成を備える。即ち、
被検者によって使用される血糖測定装置と、医療機関に設置され前記血糖測定装置と近接通信する情報処理装置で構成される血糖測定システムであって、
前記血糖測定装置は、
血糖値測定手段と、
不揮発性メモリと、
前記血糖値測定手段で測定して得られた血糖値が、前記不揮発性メモリ内の第1の領域に格納された閾値を超えるか否かを判定する判定手段と、
該判定手段で、前記測定して得られた血糖値が前記閾値を超えると判定した場合、前記閾値を超える血糖値が測定されたことを示す情報を、前記不揮発性メモリの第2の領域に格納する格納手段と、
前記判定手段で前記測定して得られた血糖値が前記閾値を超えると判定した場合、及び、当該血糖測定装置の電源がONになったとき過去に前記閾値を超える血糖値が測定されたことを示す情報が前記不揮発性メモリの前記第2の領域に格納されている場合、警報を発する警報手段と、
前記情報処理装置と近接通信が確立している間、当該情報処理装置からの要求に従って、前記不揮発性メモリの書き換えを行う書き換え手段とを有し、
前記情報処理装置は、
前記血糖測定装置と近接通信が確立している間、操作者より第1の指示があった場合、当該第1の指示に応じた閾値を前記第1の領域に対して書込むよう、前記血糖測定装置に要求する第1の要求手段と、
前記血糖測定装置と近接通信が確立している間、操作者より第2の指示があった場合、前記第2の領域に対する情報をクリアするよう、前記血糖測定装置に要求する第2の要求手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、血糖値の異常を判断するための閾値の設定が医療機関からのみ行えるようにするだけでなく、異常な血糖値が測定された場合には、そのことを被検者に繰り返し自覚させ、その結果、治療への意識付けを向上させ、医師の診察へ誘導することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る血糖測定装置100の外観構成を示す図である。
【図2】血糖測定装置100の測定装置本体部110の機能構成を示す図である。
【図3】血糖測定装置100と情報処理装置400間の通信のシーケンスを示す図である。
【図4】近接通信しているときの血糖測定装置100と情報処理装置400を示す図である。
【図5】血糖測定装置100における処理内容を示すフローチャートである。
【図6】血糖測定装置100における処理内容を示すフローチャートである。
【図7】情報処理装置400における処理内容を示すフローチャートである。
【図8】情報処理装置400における閾値設定のGUI画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態における血糖測定装置は、次のような特徴を備える。
(1)測定して得られた血糖値が当該被検者の通常時の測定範囲内(第1閾値以下)であるか場合には警告は発生しない。一方、測定された血糖値が通常時の測定範囲内(第1閾値)を超えるものの、要経過観察処置と言える範囲内(第1閾値を超え、且つ、第2閾値以下)である場合には警告を発する。この場合の警告は、現在の測定結果を表示してから電源がOFFになるまでの間とする(一旦、電源をOFFにした後に再び電源をONにした場合、警報は発生しない)。そして、医師の診察を必要とする異常な値を測定した場合(第2閾値を超える場合)には、一旦は電源をOFFにした後に再び電源をONにした場合(次回の測定開始時)に、異常値測定がなされたことを被検者に再び通知し、医師の診察を受けることを促す。このため、第2の閾値を超えた場合には、不揮発性メモリの所定の領域に確保されたフラグ(以下、警報フラグという)をONに設定する。
(2)通常、血糖測定装置には幾つかのスイッチやボタンが設けめられており、それは本実施形態の血糖測定装置でも同様である。しかし、それらを如何様に操作しても、第1,第2閾値は勿論のこと、上記警報フラグをOFFには設定できなくする。そして、専用端末(情報処理装置)と通信することによってのみ、第1、第2閾値の設定や変更、更には、警報フラグをOFFに設定できるようにする。情報処理装置は、その被検者の主治医が居る病院等の医療機関に設置され、診察に先立って血糖計のデータを読み取ったときに、そのフラグをOFFに設定する。この結果、異常な値を測定した場合、医師の診察を受けない限り、警報し続けることになり、継続して、診察を受けるための動機づけを被検者に提供しつづけることが可能になる。
(3)被検者の健康状態にも個人差(難聴の方、視覚障害がある有る方等)があるので、第1,第2閾値を超えた場合の警報の仕方も医師が設定できるようにする。
(4)血糖測定装置は、信頼性の有る情報処理装置に対してのみ、過去に測定したデータを送信するので、個人情報の流出を防ぐことができる。また、上記第1,第2閾値の設定、更には、警報フラグのリセットも、信頼性のある情報処理装置のみで可とし、判断や医療の信頼性を確保することができる。以下は、上記(1)乃至(4)を実現する実施形態の説明である。
【0011】
<血糖測定装置の外観構成>
図1は、本発明の実施形態に係る携帯タイプの血糖測定装置100の外観構成を示す図である。図1に示すように、血糖測定装置100は、測定装置本体部110と、測定装置本体部110に装着される測定用チップ120とを備え、成人の掌に収まる程度のサイズである。
【0012】
測定用チップ120は、血液検体を保持するものであり、細管部121が配されたホルダ122を備え、ホルダ122内部には試験紙(不図示)が固定されている。
【0013】
細管部121は、毛細管現象により先端開口部から血液検体をホルダ122内部に導く。細管部121を介して導かれる血液検体は、ホルダ122内部の試験紙に吸収される。試験紙には、グルコースと反応して呈色反応を示す発色試薬が含浸されている。
【0014】
測定装置本体部110は、測定用チップ120に保持された血液検体の血糖値を算出する。具体的には、波長の異なる2つの光を血液検体が吸収された試験紙に対して照射して反射光の強度を測定することで血糖値を算出する。
【0015】
測定装置本体部110のハウジング111の先端には、波長の異なる2つの光を試験紙に照射して反射光の強度を測定する測定部112が配されている。また、ハウジング111の内部には、測定部112を制御するとともに測定部112で取得された測光値データに対して種々の演算を実行する制御部(不図示)が配されている。
【0016】
更に、ハウジング111の表面には、血糖測定装置100に電力を供給する電源に対してON/OFFの指示を入力するための電源スイッチ113と、制御部において算出された血糖値データや制御部において検知された内部状態を表示するための液晶等の表示部114と、制御部において算出され記憶された過去の血糖値データを呼び出し、表示部114に表示させるための履歴呼び出しボタン115と、音声出力された音声メッセージを再出力させるための再生ボタン116と、血糖測定のタイミングが食前/食後のいずれであるかを識別するために食後に測定する際に押す食後ボタン117と、が配されている。
【0017】
<血糖測定装置の内部構成>
次に、血糖測定装置100の測定装置本体部110の内部構成、特に、電気系統の構成について説明する。図2は、血糖測定装置100の測定装置本体部110の機能構成を示す図である。
【0018】
図2に示すように、測定装置本体部110の測定部112には、発光素子231と受光素子232とが配されている。発光素子231では、制御部240からの発光指示に基づいて発光を行い、受光素子232では、発光素子231の発光により試験紙に照射された光の反射光を受光することで、測光値データを生成する。
【0019】
一方、測定装置本体部110のハウジング111内には、制御部240と、A/D変換器250、表示制御部260、入力受付部270、通信部280、時刻を計時するタイマ290、ならびに、スピーカ295が配されている。
【0020】
このうち、A/D変換器250では、受光素子232において生成された測光値データを、A/D変換し、制御部240に入力する。
【0021】
制御部240は、装置全体の制御を司るCPU241と記憶部242で構成される。この記憶部242には、血糖測定装置100としての機能を実現するため、CPU241が実行する各種プログラム(A/D変換器250を介して入力された測光値データに基づいて、血糖値データを算出するためのプログラムや、データ記録、外部装置との通信プログラムを含む)や各音声メッセージや警告音データが格納されている。
【0022】
また、記憶部242には、上記のようなプログラムやデータの他にも、図示の如く、測定データ245、警報フラグ246、閾値情報247、鍵情報248、デバイス識別情報249を格納するための各領域が予め確保されている。そして、記憶部242は、不揮発性メモリで構成されており、電源がOFFになっても、そのデータは記憶保持され、揮発することはない。なお、実施形態では、記憶部242全体が不揮発性メモリとしているが、少なくとも測定データ245、警報フラグ246、閾値情報247の記憶領域は書き換え可能な不揮発性メモリ(フラッシュメモリ等)で構成されていれば良いので、記憶部全体が書き換え可能な不揮発性メモリである必要はなく、プログラムを格納している部分はマスクROMでも構わない。
【0023】
測定データ245は、測定日、測定時間帯ごとに区分されており、更に、血糖測定が食前に行われたか食後に行われたかを示す識別子が対応付けられている(つまり、測定タイミングに応じて区分されている)。
【0024】
警報情報(警報フラグ)246は、1個の警報フラグ、ならびに、{血糖値+測定時刻}を複数組格納する領域を持ち、警報フラグは当初はゼロクリア(そのタイミングは後述する)されており、一旦、測定して得た血糖値が第2閾値を超えた場合に、CPU241が非ゼロの値を書き込む。このとき、CPU241は、測定した血糖値とその時刻も併せて格納する。なお、警報フラグをゼロクリアすることを「警報フラグをリセットする、もしくは警報フラグをOFFにする」といい、警報フラグに非ゼロのデータを書き込むことを「警報フラグをセットする、もしくは警報フラグをONにする」という。
【0025】
閾値情報247には、先に説明した第1,第2閾値や、警報方法に関する情報が格納される。これらの情報は、病院に設置された専用端末と通信することによってのみ設定、変更が可能になっている。
【0026】
鍵情報248は、通信部280を介して外部装置と通信する際に、その外部装置を信頼しても良いのかどうかを判定するために用いられるものでる。この鍵情報248は、血糖測定装置100の製造段階でメーカによって書き込まれるものであり、外部に送信されることはない。本実施形態の場合、上記の「外部装置」が、病院に設置された「専用端末」となるわけであるが、これ以外の装置に対して測定データを送信しないようにするため、ならびに、これ以外の装置から閾値等の各種設定が行えないようにするため、この鍵情報248が設けられている。
【0027】
デバイス識別情報249は、血糖測定装置100をユニークに特定するための情報であり、やはりメーカによって書き込まれるものである。通常、医師は不特定多数の患者を診察する。それ故、どの血糖測定装置がどの患者のものであるのかを識別する必要があり、このために利用される。患者とデバイス識別情報との関連づけは、その血糖測定装置をその患者に貸与する際の初期段階で行われる。
【0028】
表示制御部260は、制御部240からの表示指示に基づき、所定の画面(算出された血糖値データや制御部240の内部状態を示す情報を表示する画面)を表示部114に表示するよう制御する。入力受付部270は、図1の電源スイッチ113、履歴呼び出しボタン115、再生ボタン116、食後ボタン117からの指示を受け付け、当該受け付けた指示を制御部240に送信する。
【0029】
通信部280は、非接触通信手段(例えば、ISO/IEC 14443の省電力IC通信技術等)である。この通信部280を介して、病院等に設置され、医師等が取り扱う専用端末に接続されたRFIDリーダ/ライタとの間で通信を行うことになる。
【0030】
<専用端末(情報処理装置)の概要と血糖測定装置100との通信の説明>
次に、病院に設置される専用端末の構成とその処理の流れを説明する。図4は、病院等において医師等が取り扱う専用端末として機能する情報処理装置400と、それに接続されたRFIDリーダ/ライタ410に対して、血糖測定装置100をかざして通信している状態を示している。
【0031】
図4における情報処理装置400には、患者のカルテデータベース、血糖測定装置データベースが設けられているものとして説明するが、これらは情報処理装置400に接続されたサーバに設けられていても構わない。カルテデータベースは、患者の個人情報、過去の治療情報を格納するためのデータベースである。血糖測定装置データベースは、血糖測定装置のメーカが、血糖測定装置を病院に納品する際に用意するものであり、そのデータ構造は{デバイス識別情報+鍵情報}のペアで構成されているものの、暗号化されておりメーカが容易したアプリケーション(図7のフローチャートに係るソフトウェア)でのみアクセスできるものとする。従って、病院関係者といえども血糖測定装置内の鍵情報を知ることはできない。
【0032】
先ず、血糖の推移をモニタすべき新たな患者に対して、血糖測定装置100を貸与する場合の操作を説明する。この場合、貸与する血糖測定装置100とその患者との関連づけを行う必要がある。そのため、貸与する血糖測定装置100をRFIDリーダ/ライタ410にかざして、デバイス識別情報を読み出し、そのカルテデータベース中の該当する患者のカルテ情報にそのデバイス識別情報を格納し、患者と血糖測定装置100とを関連づける操作を行う。このとき、その血糖測定装置100に対して、第1、第2の閾値、警報方法の設定(その詳細は後述する)を行う必要があるが、血糖測定装置100に対して正当性を示さないとこれらのデータを書き込めない。そこで、血糖測定装置100のデバイス識別情報249をキーにして血糖測定装置データベースを検索し、鍵情報を取得する。そして、取得した鍵情報を血糖測定装置100に送信して、認証を行なわせる。血糖測定装置109は、自身が記憶保持する鍵情報248と、情報処理装置400より受信した鍵情報とを比較し、一致した場合、その情報処理装置400を信頼できるものとし、それ以降の書込みを許可すると共に、測定データ245の記憶領域内の測定データの提供も可とする。従って、この後、情報処理装置400から第1、第2閾値、警報方法の設定要求があった場合、その情報を閾値情報247として書込む。また、詳細は後述するが、警報フラグ246のリセット要求も受付可となる。以上が、患者(被検者)と血糖測定装置との最初の関連づけに係る処理である。
【0033】
次に、情報処理装置400が、被検者が持参した血糖測定装置100からの測定データの読み出し、ならびに、各種設定に係る通信シーケンスの概要を説明する。
【0034】
医師等が、被検者(患者)から血糖測定装置100を受けとると、情報処理装置400を操作して、メニューの中から測定データの読み込みの操作を選択し、血糖測定装置100をRFIDリーダ/ライタ410にかざす操作を行う。この結果、デバイス識別情報249が得られるので、カルテデータベースを検索し、被検者の名前等の情報を得て、本人確認を行うことができる。このとき、血糖測定装置データベースを検索することで、鍵情報も得られるので、その鍵情報を血糖測定装置100に送信し、血糖測定装置100と情報処理装置400との通信信頼関係を構築する。この後、情報処理装置400は血糖測定装置100に対して、測定データ245、警報フラグ246の転送要求を発行し、それらのデータを読み出し、診察に備えて最近の測定データとして該当する患者のカルテデータベースに登録する。このとき、警報フラグ246がONになっていたら、血糖測定装置100は警報を発し続けていることになるので、警報フラグをOFFに設定させる。この結果、血糖測定装置100の警報が止むことになる。なお、医師による診察の結果、閾値、警報方法の変更が必要になる場合も起こり得る。この場合、医師は、新たな閾値、警報方法を情報処理装置400に設定し、血糖測定装置100をRFIDリーダ/ライタ410にかざして、通信に信頼関係を構築してから、新たな情報を書込む要求を行うこととなる。
【0035】
図3は、血糖測定装置100と情報処理装置400との間の通信のシーケンスの具体例を示している。
【0036】
操作者(実施形態では病院の医師や看護師等)は、情報処理装置400を起動し、血糖測定装置100との通信アプリケーションを起動する(ステップS321)。メニューの中から、処理したい項目を選択する(ステップS322)と共に、血糖測定装置100をRFIDリーダ/ライタ410にかざす操作を行う(ステップS301)。この結果、血糖測定装置100には、交番磁界による電力が供給され、通信処理が起動することになる(ステップS302)。情報処理装置400は、血糖測定装置100との通信が可能であることを検出すると通信を確立し、デバイス識別情報の送信要求を行う(ステップS323)。この要求を受けて、血糖測定装置100はデバイス識別情報249を情報処理装置400に送信する(ステップS303)。情報処理装置400は、このデバイス識別情報を受信し、血糖測定装置データベースを検索し、対応する鍵情報を取得し(ステップS324)、血糖測定装置100に送信する(ステップS325)。血糖測定装置100は受信した鍵情報と、自身が記憶保持している鍵情報248とを比較し、一致するか否かを判定する(ステップS304)。そして、不一致であった場合、通信が確立中の相手の装置は信頼性が無いものとして、本処理を終了し、一致すると判定した場合には認証が成功したことを情報処理装置400に通知する(ステップS305)。これ以降、血糖測定装置100は、情報処理装置400からの要求に従った処理を行う(ステップS306)。一方、情報処理装置400は、認証手続が成功した旨の通知を受信した場合(ステップS326)、操作者が選択したメニューに従って処理を行う(ステップS327)。この処理の中には、測定データや警報情報の受信処理、閾値情報の設定処理、警報フラグのリセット処理が含まれる。
【0037】
<血糖測定装置100の処理の説明>
次に、実施形態における血糖測定装置100の処理手順を図5、図6を用いて説明する。
【0038】
本装置の電源がONになると、先ず、CPU241は、通信部295による情報処理装置400と通信可能な状況になっているか否かを判定する(ステップS501)。情報処理装置400と通信可能な状況になっていると判断したとき、すなわち、血糖測定装置100がちょうど図4に示す様な状況になっていると判断したとき、ステップS503に進んで、情報処理装置400との通信を確立し通信処理に移行する(詳細後述)。
【0039】
一方、ステップS501の判断がNoの場合、ステップS502に進み、警報情報246内の警報フラグがONになっているか否かを判断する。警報フラグがONになっていると判断した場合、少なくとも、第2閾値を超える血糖値を測定した後、医師の診察を受けていないことを意味するので、閾値情報247を参照し、その中の第2閾値を超えた場合の警報方法を示す情報に従い、表示制御部260、或いは/及び、スピーカ295を制御し、警報の発生を開始する。表示に係る警報が設定されていた場合には、表示制御部260を制御し、表示部114に通常の表示内容を表示すると共に、その表示部114の一部に設定された警報メッセージを表示する。なお、表示部114の全面を使って、通常表示内容と警報メッセージとを交互に表示しても良い。また、音声に係る警報が設定されていた場合には、設定・選択された音声メッセージを記憶部242から読み出し、所定のタイミングでスピーカから音として出力する処理を行う。
【0040】
次いで、ステップS505に進み、血糖値の測定処理に進む。血糖値の測定処理そのものは公知であり、その概要は既に説明済みでもあるので、ここでの詳述は省略する。なお、ステップS502がNoと判断されて、このステップS505に処理が進んだ場合、警報の無い状態での血糖測定を行うことになる。一方、ステップS504を経てこのステップS505に処理が進んだ場合、警報が発せられたままの状態で血糖値の測定を行うことになる。
【0041】
さて、血糖値の測定が完了すると、ステップS506、S507にて第1,第2閾値との比較処理が行われる。測定で得られた血糖値が第2閾値を超えていると判断された場合、ステップS508に進み、警報フラグをONにし、且つ、測定した血糖値ならびに測定時刻を記憶保持するため、警報情報246を更新する。そして、閾値情報247に設定された第2閾値を超えた場合の警報方法に従って警報の発生を開始する。なお、既に警報フラグがONになっていた場合には、今回測定した血糖値とその時刻のペアを警報情報246に追加するものとする。また、血糖値が第2閾値以下で第1閾値を超えている場合、医師が設定した平常時よりは高いことになる。それ故、ステップS509に進んで、閾値情報247に設定された第1閾値を超えた場合の警報方法に従って警報の発生を開始する。いずれの場合も、処理はステップS510に進み、今回測定した測定値、時刻、食前/食後識別子を測定データ245の記憶領域に格納し、本処理を終える。
【0042】
次に、上記のステップS503の情報処理装置400との通信処理を詳細を図6のフローチャートに従って説明する。この状態は、図4に示すように、血糖測定装置100が、病院に設置された情報処理装置400と通信可能な状態にある場合(通信が確立中)の処理である。
【0043】
先ず、ステップS601にて、CPU241は通信部280を介して、情報処理装置400よりデバイス識別情報の送信要求を受信するのを待つ。その要求を受信すると、CPU241は、ステップS602にてデバイス識別情報249を情報処理装置400に送信する。この結果、情報処理装置400は、血糖測定装置100を利用している被検者を特定できると共に、正当な装置であれば血糖測定装置100の鍵情報も取得できることになる。
【0044】
CPU241は、次いで、ステップS603にて、情報処理装置400から鍵情報の受信を待つ。そして、鍵情報を受信すると、ステップS604にて、その受信した鍵情報が、自身が記憶保持している鍵情報248と一致するかどうかを判定する。不一致の場合には、これ以降の処理を行なわず、本処理を終了する。また、一致すると判定した場合、ステップS605にて、一致した旨、すなわち、認証成功を情報処理装置400に通知する。この後、ステップS606、S608、S610、S612にて、情報処理装置400からの情報の受信を待つ。ここで、測定データの送信要求を受信したと判断した場合、CPU241は、ステップS607にて、警報情報246、測定データ245内の情報を情報処理装置400に送信する。また、閾値設定要求を受信したと判断した場合には、ステップS609にて、その要求に含まれる第1,第2閾値、ならびに警報方法に関する情報で、閾値情報247を更新する。更に、警報フラグリセット要求を受信したと判断した場合、警報情報246の全域をゼロクリアする。そして、通信終了を示す情報を受信した場合、本処理を終える。
【0045】
以上、実施形態における血糖測定装置100の処理内容を説明した。
【0046】
<情報処理装置400の処理の説明>
次に、実施形態における情報処理装置400の処理手順を図7のフローチャート、ならびに、GUI画面の例を示す図8を用いて説明する。
【0047】
情報処理装置400にて血糖測定装置との通信アプリケーションを起動すると、ステップS701にて血糖測定装置100との間で交わされる通信処理の種類を選択するためのメニュー(不図示)を表示し、ステップS703にていずれのメニュー項目が選択されたのかを判定する。表示されるメニュー項目としては、「初期設定」、「閾値設定」、「測定データの読み出し」がある。この中で、「初期設定」は、患者に血糖測定装置100を貸与する際、その患者と貸与する血糖測定装置100のデバイス識別情報とを関連づける処理である。「閾値設定」は、第1,第2閾値を設定、ならびに、警報の方法を設定する処理である。そして、「測定データの読み出し」は、診察のために血糖測定装置100のこれまでの測定結果(測定データ245、ならびに、警報情報246)を読込むための処理である。
【0048】
さて、「初期設定」が選択されると、ステップS704に進み、RFIDリーダ/ライタ410を介して血糖測定装置100にデバイス識別情報要求を行ない、デバイス識別情報249を取得する。次いで、ステップS705に進み、カルテデータベース内の貸与する患者の電子カルテに、取得したデバイス識別情報249を登録し、患者と血糖測定装置100とを一対一の関係を構築する。
【0049】
メニュー項目にて、「閾値設定」が選択されると、ステップS706に進み、やはりRFIDリーダ/ライタ410を介して血糖測定装置100にデバイス識別情報要求を行ない、デバイス識別情報249を取得する。次いで、ステップS707に進み、デバイス識別情報249を検索キーにして血糖測定装置データベースを検索して鍵情報を取得し、その鍵情報を血糖計装置100に向けて送信する。この結果、血糖測定装置100から認証が成功した旨の情報を受信できたか否かを判定する。否の場合、認証が失敗したと判定し、本処理を終える。一方、認証が成功したと判断した場合、ステップS709に進み、閾値、警報方法を設定し、その結果を血糖測定装置100に送信し、新たな情報として、閾値情報247を更新させる。この後、ステップS710にて、通信処理の終了を血糖測定装置100に通知し、本処理を終了する。
【0050】
図8は、情報処理装置400において、第1,第2閾値、ならびに、警報方法の設定を行うGUI画面800を示している。
【0051】
GUI画面800は、第1、第2閾値としての、それぞれの判定基準となる血糖値を入力する欄801、811を有する。なお、高血糖領域での閾値の設定であれば、第1閾値<第2閾値の関係となる。
【0052】
警報方法としては、視覚的に報知するメッセージ表示、音響的に報知するアラーム音の2種類があり、いずれを機能させるかを指示するためのチェックボックス802(又は812)、804(又は814)が設けられている。また、表示、音響のいずれの場合であっても、予め登録された中から報知すべき表示メッセージや音声メッセージを選択するためのコンボボックス803、805(813、815)も設けられている。
【0053】
図示の場合、測定して得られた血糖値が第1閾値を超え、第2閾値以下の場合は、表示による警報は無しで、アラーム音で通知する点、ならびに、その際に出力するメッセージは予め登録された「音声メッセージ1」であることを示している。音声メッセージには、何種類か存在し、例えば「普段より高いです」「このメッセージが連続して表示される場合には医師に相談して下さい」等である。表示メッセージも同様である。
【0054】
また、図示の場合、測定して得られた血糖値が第2閾値を超える場合、警報方法として表示、音響の両方で行うことが示されている。この第2閾値を超える血糖値が測定された場合、既に説明したように、それを測定した血糖測定装置100の警報情報246内の警報フラグがONとなり、電源がONであって、再び医師の診察を受けなていない限り、設定された警報方法による警報が継続することになる。
【0055】
操作者(医師)は、上記の設定でOKであると判断した場合には、図示のOKボタン821をクリックする操作を行い、キャンセルしたい場合には、キャンセルボタン822をクリックする。OKボタンがクリックされた場合、GUI画面で設定された閾値情報で閾値情報247を更新する要求を、通信が確立中の血糖測定装置100に送信することになる。
【0056】
一方、メニュー項目「測定データの読み出し」が選択されたと判断した場合、ステップS711に進み、やはりRFIDリーダ/ライタ410を介して血糖測定装置100にデバイス識別情報要求を行ない、デバイス識別情報249を取得する。次いで、ステップS712に進み、デバイス識別情報249を検索キーにして血糖測定装置データベースを検索して鍵情報を取得し、その鍵情報を血糖測定装置100に向けて送信する。この結果、血糖測定装置100から認証が成功した旨の情報を受信できたか否かを判定する。否の場合、認証が失敗したと判定し、本処理を終える。一方、認証が成功したと判断した場合、ステップS714に進み、血糖測定装置100に対して測定データならびに警報情報の送信要求を行い、その情報を受信し、該当する患者の電子カルテに登録する。そして、ステップS715にて、受信した警報情報をチェックすることで、血糖測定装置100の警報フラグがON状態であるか否かを判定する。もし血糖測定装置100の警報フラグがONであった場合、今回診察を行うことが確実なので、この時点で警報フラグをOFFにすべく、その要求を行う(ステップS716)。そして、本処理を終了する。
【0057】
以上説明したように本実施形態によれば、測定した血糖値が異常な値であるかどうかの判断のための閾値は、医療機関に設置した専用端末からのみ行え、且つ、特に異常な血糖値が測定された場合については、電源のON/OFF等を行ったとしても被検者からは警報を止めることができないことになり、異常な測定値が測定されたこと継続的に被検者に自覚させ、医師の診察へ誘導することも可能になる。しかも、血糖測定装置に対する各種設定や、測定データの読出しは、信頼性のある専用端末からのみ行えることとになる。
【0058】
なお、上記実施形態では、設定する閾値を第1,第2閾値の2種類とし、第2閾値を超えた場合に被検者側では解除できない警報報知を行うものとした。しかしながら、閾値は1種類であっても良いし、3種類以上であっても良い。また、被検者側では解除できない警報報知を行うための閾値は2種類以上であっても良い。この場合、被検者側では解除できない警報報知を行う閾値をどれにするかを医師が選択できるようにしても良い。
【0059】
また、実施形態では、血糖測定装置100と情報処理装置400との通信として、ISO/IEC 14443に規定される非接触通信を例示したが、これは一例にすぎない。被検者に病院まで足を運ばせるため、血糖測定装置100と情報処理装置400とが接近した上で通信を行うことが重要であり、この限りであれば、有線通信、例えばUSB等のインタフェースでも良く、その種類は問わない。
【0060】
また、実施形態では警報の発し方として、メッセージを表示、メッセージを音声再生するものとしたが、例えば、メッセージ表示については表示する際に色を指定できるようにしてもよい。一方、音声メッセージの場合、音声の種類として男性、女性の声を選択できるようにしても良い。
【符号の説明】
【0061】
100…血糖測定装置、110…測定装置本体部、111…ハウジング、112…測定部、113…電源スイッチ、114…表示部、115…履歴呼び出しボタン、116…再生ボタン、117…食後ボタン、120…測定用チップ、121…細管部、122…ホルダ、241…制御部、242…記憶部、245…測定データ、246…警報情報、247…閾値情報、248…鍵情報、249…デバイス識別情報、280…通信部、400…情報処理装置、410…RFIDリーダ/ライタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者によって使用される血糖測定装置と、医療機関に設置され前記血糖測定装置と近接通信する情報処理装置で構成される血糖測定システムであって、
前記血糖測定装置は、
血糖値測定手段と、
不揮発性メモリと、
前記血糖値測定手段で測定して得られた血糖値が、前記不揮発性メモリ内の第1の領域に格納された閾値を超えるか否かを判定する判定手段と、
該判定手段で、前記測定して得られた血糖値が前記閾値を超えると判定した場合、前記閾値を超える血糖値が測定されたことを示す情報を、前記不揮発性メモリの第2の領域に格納する格納手段と、
前記判定手段で前記測定して得られた血糖値が前記閾値を超えると判定した場合、及び、当該血糖測定装置の電源がONになったとき過去に前記閾値を超える血糖値が測定されたことを示す情報が前記不揮発性メモリの前記第2の領域に格納されている場合、警報を発する警報手段と、
前記情報処理装置と近接通信が確立している間、当該情報処理装置からの要求に従って、前記不揮発性メモリの書き換えを行う書き換え手段とを有し、
前記情報処理装置は、
前記血糖測定装置と近接通信が確立している間、操作者より第1の指示があった場合、当該第1の指示に応じた閾値を前記第1の領域に対して書込むよう、前記血糖測定装置に要求する第1の要求手段と、
前記血糖測定装置と近接通信が確立している間、操作者より第2の指示があった場合、前記第2の領域に対する情報をクリアするよう、前記血糖測定装置に要求する第2の要求手段とを備える
ことを特徴とする血糖測定システム。
【請求項2】
前記不揮発性メモリには、測定データを格納する第3の領域が設けられ、
前記第2の指示は、前記第3の領域に格納された測定データの読み出し指示であることを特徴とする請求項1に記載の血糖測定システム。
【請求項3】
前記情報処理装置は複数の閾値を設定でき、少なくとも1つの閾値を、前記不揮発性メモリの前記第2の領域への格納するか否かの閾値として使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の血糖測定システム。
【請求項4】
前記情報処理装置は各閾値毎に、利用する警報の種類を設定するためのGUIを表示する表示手段を備え、
前記第1の要求手段は、前記GUIにて設定された閾値ならびに警報の種別を前記第1の領域に書込むよう要求することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の血糖測定システム。
【請求項5】
前記血糖測定装置は、自身の装置をユニークに特定するデバイス識別情報、ならびに、書き換え要求の要求元である前記情報処理装置の正当性を判定するための鍵情報を保持する保持手段と、
前記情報処理装置からの要求に従って、前記デバイス情報を前記情報処理装置に通知する通知手段と、
該通知手段の通知後、前記情報処理装置から受信した情報と鍵情報とを比較する比較手段と、
該比較手段によって前記鍵情報と一致する情報を前記情報処理装置から受信したと判定した場合にのみ、書き換え手段を機能させる制御手段と
を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血糖測定システム。
【請求項6】
血糖測定装置であって、
血糖値測定手段と、
医療機関に設置される情報処理装置と近接通信を行うための通信手段と、
不揮発性メモリと、
前記血糖値測定手段で測定して得られた血糖値が、前記不揮発性メモリ内の第1の領域に格納された閾値を超えるか否かを判定する判定手段と、
該判定手段で、前記測定して得られた血糖値が前記閾値を超えると判定した場合、前記閾値を超える血糖値が測定されたことを示す情報を、前記不揮発性メモリの第2の領域に格納する格納手段と、
前記判定手段で前記測定して得られた血糖値が前記閾値を超えると判定した場合、及び、当該血糖測定装置の電源がONになったとき過去に前記閾値を超える血糖値が測定されたことを示す情報が前記不揮発性メモリの前記第2の領域に格納されている場合、警報を発する警報手段と、
前記通信手段を介して前記情報処理装置と近接通信が確立している間、当該情報処理装置からの要求に従って、前記不揮発性メモリの書き換えを行う書き換え手段と
を有することを特徴とする血糖測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−76597(P2013−76597A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215874(P2011−215874)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】