説明

血糖状態推定方法及び装置

【課題】尿糖値の測定結果の蓄積からHbA1cの改善・悪化を表示できる血糖状態推定方法及び装置を提供する。
【解決手段】尿糖値を測定し、最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満か判定し、その測定値が境界値未満であるとき、今回の測定が食後であれば、最新の尿糖値の測定結果を含む過去の短期所定期間の毎食後測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の毎食後測定値の平均値Yを計算し、そのようにして得たXとYとを比較し、その比X/Yが第1の基準値以下のときは有意な改善と判定し、最新のHbA1cが判定方法区分境界値以上であるとき、最新の尿糖値の測定結果を含む過去の短期所定期間の全測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の全測定値の平均値Yを計算し、そのようにして得たXとYとを比較し、その比X/Yが前記第1の基準値以下のときは有意な改善と判定して血糖状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿糖測定に基づいて血糖状態を推定するための血糖状態推定方法及び装置に関する。更に、本発明は、尿糖値の瞬間値ではなく、比較的長いスパンで見たときの尿糖状態を推定する尿糖状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病治療において最も重要となるのは血糖コントロールである。血糖状態の指標のひとつにHbA1c(ヘモグロビンA1c:グリコヘモグロビンともいう)がある。HbA1cは糖が非酵素的に結合したヘモグロビンであり、食事などによる一時的な血糖の変化の影響を受けないが、血糖が高い状態が続くと結合の割合が高くなり、HbA1cが高くなる。ヘモグロビンの寿命が120日程度であることから、HbA1cは測定前1〜2ヶ月間の血糖状態の指標として用いられる。
【0003】
通常、外来糖尿病患者は、HbA1cを月1回の通院時に測定し、前月などの前回値と比較し、血糖状態の良否が評価される。これを基に薬物治療の方針決定、食事・運動療法の指導が行われ、正常値に近づくように努力する。そのため、糖尿病患者にとっても、HbA1cの変化は非常に関心が高い。
【0004】
HbA1cの測定方法は、医療機関において採血し、臨床検査装置によるLA(ラテックス擬集法)またはHPLC法(高速液体クロマトグラフィ法)を用いるのが一般的である。HbA1cは、血糖状態の指標だけでなく、糖尿病のスクリーニングとして、健康診断で測定されることもある。
【0005】
一方、血糖状態を確認するためには、血糖値そのものを測定することでも可能である。医療機関において採血後、臨床検査装置で測定するのが一般的であるが、簡易血糖測定器により、医療従事者を介さないで自宅における測定も可能であり、インスリン適用者は日常的に使用している。
【0006】
上述したように、血糖状態の指標として、HbA1cは非常に重要な項目であり、医療従事者、患者にとって非常に関心が高い値である。しかし、HbA1cの測定は医療機関で行う必要がある。また、HbA1cは日常の血糖値の影響を強く受けるため、日常の血糖測定によりHbA1cの推定は可能ではあるが、食事の影響など血糖値の日内変化は激しいため、頻回の測定を必要とする。日常の血糖を測定する方法として、簡易血糖計を用いることができるが、穿刺による侵襲、費用の面から頻回測定には向いていない。そのため、HbA1c推定のための測定方法とはなっていない。
【0007】
また上述したように、糖尿病患者は、普通、毎月又は2ヶ月毎に医療機関で採血されて、血糖値やHbA1c他の様々な測定が行われ、必要に応じて生活指導を受ける。しかし、糖尿病患者にとっては、日々の血糖状態を知ることができれば、血糖状態に応じて食事をコントロールでき、一番望ましい。
【0008】
一方、尿糖測定は血糖測定と比較し、非侵襲的であるため比較的簡便に行うことができ、また、腎の糖排泄閾値を超えた血糖値の変化をダイナミックに反映するため、尿糖測定による食後高血糖の確認とコントロールが可能であることが報告されている(非特許文献1)。従来、尿糖測定は、尿糖検査試験紙を用いた定性測定が主流であったが、非特許文献1での報告では、家庭での定量測定が可能な尿糖計が生化学測定器として使用されている。その生化学測定器としての尿糖計は、例えば、特許文献1及び特許文献2に公開されている。
【0009】
他方、血糖値とHbA1cと尿糖値との関係は既に研究されており(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)、血糖値が腎の糖排泄閾値(一般には160〜180mg/dLであり個人差がある)を超える高血糖になるほどの上昇又は下降すれば尿糖値も当然上昇又は下降する筈である。すなわち、尿糖値の上昇又は下降が相当日数続けば、血糖値が大きく上昇又は下降しており、結果的にその相当日数後にはHbA1cも上昇又は下降する筈である。しかし、どの程度日数続けば、HbA1cの変化として現れるか、更にはどの程度の変化の大きさとなるかは、人毎の個体差が大きく、従来断定的には言うことはできない。同様に人毎の個体差が大きいために、尿糖値の具体的な値αを、血糖値の具体的な値βに正確に置換することもできない。そのため、尿糖値から血糖値を知る方法は従来全く無かった。
【0010】
また、尿糖値の上昇が相当日数続けば必ずHbA1cも上昇すると言えても、そのHbA1cが実際に上昇したときに、「血糖値が上昇した」と警告されても、結果としては糖尿病患者にとっては相当日数の間、血糖値の上昇が放置されていたことであり、その警告の価値はさほど高くない。むしろ、糖尿病患者にとっては、尿糖値の測定直後に、HbA1cの正確な値でなくとも、「HbA1cが改善傾向か悪化傾向か」を知ることができる方が重要である。
【0011】
更に、尿糖値自体に着目した場合、尿糖値の測定値は瞬間値であり、個体差が大きく且つ同一人にとっても測定時の状態に大きく依存する。そのため、尿糖値の瞬間値を知っても、それが極端な値を示しているならばともかく、尿糖値が改善傾向にあるのか又は悪化傾向にあるかは判断できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−297120号公報
【特許文献2】特開2006−153849号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】高崎医学、第55巻、別冊75〜79頁
【非特許文献2】糖尿病、第42巻第11号、1999年、957〜961頁
【非特許文献3】Diabetes Care、Vol.25, No.2, 2002年2月、275〜278頁
【非特許文献4】Diabetes Care、Vol.27, No.2, 2002年2月、335〜339頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の発明者は、尿糖値の測定直後に、血糖値と尿糖値との有意な関係はどのようにして得られるかを研究して、本発明に至った。
【0015】
そこで、本発明は、侵襲のない尿糖測定とその結果から血糖状態を判定、推定などを行うことを目的とするものである。特に、血糖状態の1つの指標であるHbA1cに着目して、HbA1cと尿糖値との関係を研究して、尿糖値の測定結果の蓄積からHbA1cの改善・悪化を表示できる血糖状態推定方法及び装置を提供せんとするものである。
【0016】
更に、本発明の別の目的は、今回あるいは今回までの一定期間の尿糖値から、血糖状態の判定、HbA1cが改善傾向にあるのか反対に悪化傾向にあるかの推定、生活習慣改善目標となる尿糖値を設定して目標達成の有無を判定することである。
【0017】
本発明の更に別の目的は、今回あるいは今回までの一定期間の尿糖値から、健康状来の糖状態が改善傾向にあるのか反対に悪化傾向にあるかを推定する尿糖状態推定方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によるならば、
(1)尿糖値Aを測定し、
(2)最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満かどうか判定し、
(3)最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満であるとき、今回の測定が食後であれば、最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の毎食後測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の毎食後測定値の平均値Yを計算し、
(4)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定し、
(5)最新のHbA1cが判定方法区分境界値以上であるとき、最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の全測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の全測定値の平均値Yを計算し、
(6)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが前記第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定する
ことを特徴とする血糖状態推定方法が提供される。
【0019】
更に詳述するならば、(7)前記比X/Yが前記第2の基準値以上のときは「有意な悪化」と判定し、
(8)前記比X/Yが前記第1の基準値より大きく前記第2の基準値より小さいときは「有意な改善乃至悪化はない」と判定する。
【0020】
例えば、前記短期所定期間は、少なくとも5日以上2週間以下の期間であり、前記長期所定期間は、前記短期所定期間の少なくとも2倍以上の長さであり、2週間以上2ヶ月以下の期間である。具体的には、前記短期所定期間は、1週間の期間であり、前記長期所定期間は、1ヶ月の期間である。また、HbA1cの前記判定方法区分境界値は9%である。
【0021】
更に、本発明によるならば、尿糖値測定手段と、記憶手段と、HbA1cを入力できる入力手段と、クロック手段と、情報を処理する演算及び制御手段と、表示手段とを少なくとも具備する、血糖状態推定機能付の尿糖計であって、前記演算及び制御手段は、前記入力手段を介して入力されたHbA1cを前記記憶手段に記憶させ、
(1)前記尿糖値測定手段が尿糖値を測定するごとに尿糖値Aを測定日時を共に前記記憶手段に記憶させ、
(2)前記記憶手段に記憶した最新のHbA1cが前記記憶手段に記憶した判定方法区分境界値未満かどうか判定し、
(3)最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満であるとき、今回の測定が食後であれば、前記記憶手段に記憶した最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の毎食後測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の毎食後測定値の平均値Yを計算し、
(4)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが前記記憶手段に記憶した第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定して前記表示手段に表示し、
(5)最新のHbA1cが判定方法区分境界値以上であるとき、前記記憶手段に記憶した最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の全測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の全測定値の平均値Yを計算し、
(6)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが前記第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定して前記表示手段に表示する
ことを特徴とする、血糖状態推定機能付の尿糖計が提供される。
【0022】
更に詳述するならば、前記演算及び制御手段は更に、
(7)前記比X/Yが前記記憶手段に記憶した第2の基準値以上のときは「有意な悪化」と判定して前記表示手段に表示し、
(8)前記比X/Yが前記第1の基準値より大きく前記第2の基準値より小さいときは「有意な改善乃至悪化はない」と判定して前記表示手段に表示する。
【0023】
前記短期所定期間は、上述したように、少なくとも5日以上2週間以下の期間であり、前記長期所定期間は、前記短期所定期間の少なくとも2倍以上の長さであり、2週間以上2ヶ月以下の期間である。具体的には、前記短期所定期間は、1週間の期間であり、前記長期所定期間は、1ヶ月の期間であり、また、HbA1cの前記判定方法区分境界値は9%である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の尿糖計を分解して示す外観図である。
【図2】従来の尿糖計の保管状態を示す外観図である。
【図3】従来の尿糖計の電子的な構成を示すブロック図である。
【図4】図1における表示部の表示形態を示す図である。
【図5】本発明の実施例1及び実施例2の血糖状態推定方法の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例3の血糖状態推定方法の手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例3の血糖状態推定方法を検証した実験データを示すグラフである。
【図8】本発明の実施例4の血糖状態推定方法の手順を示すフローチャートである。
【図9】尿糖計とパーソナルコンピュータとの接続を示すブロック図である。
【実施例】
【0025】
本発明を実施するために血糖状態推定方法及び装置の1つ実施例は、生化学測定器の一例として例えば酵素の働きを利用して尿糖等を検出する上記特許文献2に開示されている尿糖計の機能を改良したものであり、基本的な構成と機能は特許文献2に開示されている尿糖計と同様である。上記特許文献2をここに引用して、詳細な説明を省略する。
【0026】
図1及び図2は外観図であり、図3は電気的な構成を示すブロック図であり、図4は表示部の表示形態を示す部分拡大図である。
【0027】
図示の尿糖計1は、図1に示すように、尿中糖分を電気化学的に検出するセンサカートリッジ11と、センサカートリッジ11による検出に基づいて尿中糖分濃度の測定・表示を行いかつ測定の際に尿糖計を保持する部分となる尿糖計本体21とによって構成される。センサカートリッジ11が交換できるように、センサカートリッジ11と尿糖計本体21とは図1に示すように互いに分離可能であり且つ図2に示すように互いに結合可能である。なお、図示の尿糖計1は、使用しない時には、図2に示すように、磁石42を有するスタンド41に挿入設置することにより保管できるようになされている。
【0028】
図3のブロック図に示すように、センサカートリッジ11は、尿糖センサ13、サーミスタ14、スタンド検出リードスイッチ15、コネクタ16及びコネクタ接続検出回路17を、図1に示すハウジング12内に収容している。また、尿糖計本体21は、電源23、操作ボタン24(24a、24b)、D/A変換装置25、センサ駆動回路26、A/D変換装置27、ブザー28、LCD表示装置29、外部入出力インターフェース端子30、コネクタ31及びマイクロコンピュータ32を、図1に示すハウジング22内に収容している。
【0029】
尿糖センサ13は寿命があり、使用限度に達するとLCD表示装置29にセンサ交換の旨の表示がなされる。その場合、使用者はセンサカートリッジ11を尿糖計本体21から取り外し、新しいセンサカートリッジ11を尿糖計本体21に取り付ける。センサカートリッジ11と尿糖計本体21は電気的に接続されるので、交換に際してはセンサカートリッジ11のコネクタ16を尿糖計本体21のコネクタ31に容易に接続できるのが好ましい。又、センサカートリッジ11には尿や洗浄水が掛けられるので、センサカートリッジ11と尿糖計本体21との間は防水性に優れていなければならず、その防水性はセンサカートリッジ11を何度交換しても常に維持される必要がある。
【0030】
また、尿糖計本体21に内蔵された電池の寿命がきた場合、新しい電池と交換する必要があるが、この電池の交換も使用者が容易に行えるように配慮しておくことが望ましい。即ち、電池を尿糖計本体21から容易に取り出せると共に、新しい電池を尿糖計本体21に容易に装着できることが好ましい。
【0031】
尿糖センサ13は、尿中の夾雑物質の影響を排除して、低中高の広範囲に渡る尿中糖分濃度について検出する。尿糖センサ13は酵素を尿成分検知用のセンサとして構成したものである。サーミスタ14は、測定の際における尿の温度を検出し、尿糖センサ13の温度特性を補正するためのものである。
【0032】
スタンド検出リードスイッチ15は、スタンド41に尿糖計1を収納したときに、磁石42による磁場の影響で例えばオフ状態(又はオン状態)になり、スタンド検出リードスイッチ15のオフ状態(又はオン状態)を認識してマイクロコンピュータ32は、電力消費を極力少なくするようにLCD表示装置29をオフ状態にする一方、マイクロコンピュータ32自体もカウント機能とスタンド検出リードスイッチ15に対する監視機能とを除いてスリープ状態にする。スタンド41から尿糖計1を取り出すと、スタンド検出リードスイッチ15は磁石42による磁場の影響下から離脱して、オン状態(又はオフ状態)になり、スタンド検出リードスイッチ15のオン状態(又はオフ状態)を認識してマイクロコンピュータ32は、尿糖計の全機能を回復させ、モード設定、較正及び尿中糖分濃度の測定等を可能とする。
【0033】
電源23は、電池であり、尿糖計1の電気系統各部に電力を供給する。操作ボタン24(24a、24b)は、押されたことを検出し、モードや食事内容を選択して設定登録したり、較正したりするためのものである。D/A変換装置25は、マイクロコンピュータ32からのデジタル信号(駆動信号)をアナログ信号(駆動信号)に変換して出力する。センサ駆動回路26は、D/A変換装置25からの駆動信号に基づいて尿糖センサ13に駆動信号を供給するとともに、尿糖センサ13にて検出された検出信号を受けてA/D変換装置27に出力する。
【0034】
A/D変換装置27は、センサ駆動回路26からのアナログ信号(検出信号)をデジタル信号(検出信号)に変換して出力する。ブザー28は、マイクロコンピュータ32からの信号に基づいて、例えば尿糖測定をする旨を報知するためのブザー音を発生する。LCD表示装置29は、マイクロコンピュータ32からの信号に基づいて、較正の状況、測定の状況、センサ交換の告知、電池交換の告知、選択モードの状況、次の測定の予告、尿糖測定結果の告知及び判定結果の告知を表示する。
【0035】
より具体的に詳述すると、図4に示す表示内容のうち、「基準あわせ」及びその上の「水滴マーク」を較正時に点灯することによって較正の状況を表示する。また、「準備中」、「測定」、「洗浄」又は「終了」のいずれかを測定過程中に点灯することによって測定の状況を表示する。更に、尿糖センサ13の交換時期に「センサ交換」を点灯することによってセンサカートリッジ11交換の告知を表示する。更に、交換時期に「電池マーク」を点灯することによって電池交換の告知を表示する。更に、「モード」と、その横の「1」、「2」、「3」及び「4」のうち選択されているものとをイベント時に点灯することによって選択モードの状況を表示する。更に、「次測定予告」及び「時間後」と、これら間の「1」又は「2」のいずれかをイベント時に点灯することによって次の測定の予告を表示する。更に、中央に「1347」と例示してある「4桁の数字」にて尿糖変化値、基準尿糖変化値又は通常尿糖変化値を各々の測定後に点灯することによって尿糖測定結果の告知を表示する。更に、3つの「三角マーク」のうちハウジング22に印刷された判定内容に該当する位置するものを各々の判定後に点灯することによって選択モードの状況を表示する。
【0036】
更に、尿糖値が減少したか、変化がないか、又は上昇したかに応じて、「減少」、「変化無し」及び「上昇」の何れかが点灯される。
【0037】
外部入出力インターフェース端子30は、マイクロコンピュータ32内の外部入出力インターフェース38を(図9の概念図を示すように)パーソナルコンピュータ等の外部機器と接続するためのものであり、マイクロコンピュータ32と外部機器との間で各種データ(外部機器からの入力データや尿糖計1からの尿糖測定結果・判定結果等の出力データ)の通信を行うためのものである。コネクタ16、31は、センサカートリッジ11と尿糖計本体21との間を電気的に接続する。コネクタ接続検出回路17は、コネクタ16とコネクタ31とが接続状態となっているかを検出する。
【0038】
マイクロコンピュータ32は、上記特許文献2と同様に、各種尿糖値や各種可否判定等を演算し、かつ、各種を制御する演算及び制御装置33、制御及び演算用プログラム等を記憶するROM34、演算結果・外部より読み込んだプログラム等を一時的に記憶するRAM35、各種報知のために計時するクロック36、選択されたモードや食事内容・演算した各種尿糖値・判定した判定結果等を更新されるまで記憶する補助記憶装置37、パーソナルコンピュータ等の外部機器と各種データ(外部機器からの入力データや尿糖計1からの尿糖測定結果・判定結果等の出力データ)の通信をする外部入出力インターフェース38、電気系統各部につながるポート等(不図示)を備えており、食直前尿糖値・食後尿糖値・基準食前尿糖値・基準食後尿糖値・通常食前尿糖値・通常食後尿糖値を測定すべき旨の報知、食前尿糖値・食直前尿糖値・食後尿糖値・基準食前尿糖値・食直前尿糖値・基準食後尿糖値・通常食前尿糖値・通常食直前尿糖値・通常食後尿糖値の測定、尿糖変化値(食後尿糖値と食直前尿糖値との差)・基準尿糖変化値(基準食後尿糖値と基準食直前尿糖値との差)・通常尿糖変化値(通常食後尿糖値と通常食直前尿糖値との差)・食差尿糖変化値(通常尿糖変化値と基準尿糖変化値との差)の演算、尿糖変化値に基づいた身体内の糖量変化の可否について、食差尿糖変化値に基づいた通常の食事内容の可否についての判定、及びこれら演算・判定結果の出力に係わる制御等の処理を行う。
【0039】
更に、本発明により、マイクロコンピュータ32は、直前の尿糖値の測定結果に基づいて、血糖値が減少したか、変化がないか、又は上昇したかを判定して、表示装置の「減少」、「変化無し」及び「上昇」の何れかが点灯させる。
【0040】
以下、本発明の動作を説明するが、尿糖値の測定方法自体並びに上記した各種の値を求める方法は、上記した特許文献1及び2に詳細に説明されているので、特許文献1及び2をここに引用して説明を省略する。
【0041】
実施例1(1週間平均との比較、判定)
今回の尿糖測定値と過去1週間の尿糖測定値を比較し、今回の血糖状態の良否を判定する。図5は、実施例1の動作のフローチャートである。但し、実施例1の手順は、後述する実施例2の手順と同一であるので、実施例1において平均値Xwと表示すべきものも、実施例2において平均値Xmと表示すべきものも、図5のフローチャートでは単にXと表示している。尿糖計1は、少なくとも過去1週間の尿糖測定データをそれぞれの測定タイミングと共にマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に記憶している。
【0042】
このような尿糖計1を使用して、尿糖計1の測定開始ボタンを押して、尿糖を測定する。尿糖計1のマイクロコンピュータ32は、測定データと共に測定タイミングを補助記憶装置37に記憶する。
【0043】
マイクロコンピュータ32は、最初に、今回測定した尿糖値Aが50mg/dL未満かどうか判定する。
【0044】
今回の尿糖値が50mg/dL未満の揚合、食前又は食後のような一日の生活での今回と同じタイミング(但し、食前何分又は食後何分のような分単位までの正確さは要求されない、以下同様)での過去1週間の全尿糖測定値を読み出し、1週間の平均値Xwを求め、1週間の平均値Xwと今回の尿糖値Aの差{=(1週間の平均値Xw)−(今回の尿糖値A)}を計算し、{Xw−A}が10mg/dL以上であるか、−10mg/dL以下であるか判定する。
【0045】
{Xw−A}が10mg/dL以上のときは、表示装置の「減少」を点灯する。{Xw−A}が−10mg/dL以下のときは、表示装置の「増加」を点灯する。そのいずれでもないとき、すなわち、−10mg/dL<{Xw−A}<10mg/dLときは、表示装置の「変化無し」を点灯する。
【0046】
今回の尿糖値が50mg/dL以上の揚合、今回の尿糖値Aと先に求めた1週間の平均値Xwとの比{=(今回の尿糖値A)/(1週間の平均値)Xw}を計算し、{A/Xw}が0.8以下であるか、1.2以上であるか判定する。
【0047】
{A/Xw}が0.8以下のときは、表示装置の「減少」を点灯する。{A/Xw}が1.2以上のときは、表示装置の「増加」を点灯する。そのいずれでもないとき、すなわち、0.8<{A/Xw}<1.2ときは、表示装置の「変化無し」を点灯する。
【0048】
実施例2(1ヶ月平均との比較、判定)
今回の尿糖測定値と過去1ヶ月の尿糖測定値を比較し、今回の血糖状態の良否を判定する。処理としては、上述したように、図5に示す実施例1の動作のフローチャートと同じである。
【0049】
本実施例2の場合には、尿糖計1は、少なくとも過去1ヶ月の尿糖値の測定データをそれぞれの測定タイミングと共にマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に記憶している。このような尿糖計1を使用して、尿糖計1の測定開始ボタンを押して、尿糖を測定する。尿糖計1のマイクロコンピュータ32は、測定データと共に測定タイミングを補助記憶装置37に記憶する。
【0050】
マイクロコンピュータ32は、最初に、今回測定した尿糖値Aが50mg/dL未満かどうか判定する。
【0051】
今回の尿糖値が50mg/dL未満の揚合、一日の生活での今回と同じタイミングでの過去1ヶ月の全尿糖測定値を読み出し、1ヶ月の平均値Xmを求め、1ヶ月の平均値Xmと今回の尿糖値Aの差{=(1ヶ月の平均値Xm)−(今回の尿糖値A)}を計算し、{Xm−A}が10mg/dL以上であるか、−10mg/dL以下であるか判定する。
【0052】
{Xm−A}が10mg/dL以上のときは、表示装置の「減少」を点灯する。{Xm−A}が−10mg/dL以下のときは、表示装置の「増加」を点灯する。そのいずれでもないとき、すなわち、−10mg/dL<{Xm−A}<10mg/dLときは、表示装置の「変化無し」を点灯する。
【0053】
今回の尿糖値が50mg/dL以上の揚合、今回の尿糖値Aと先に求めた1ヶ月の平均値Xmとの比{=(今回の尿糖値A)/(1ヶ月の平均値)Xm}を計算し、{A/Xm}が0.8以下であるか、1.2以上であるか判定する。
【0054】
{A/Xm}が0.8以下のときは、表示装置の「減少」を点灯する。{A/Xm}が1.2以上のときは、表示装置の「増加」を点灯する。そのいずれでもないとき、すなわち、0.8<{A/Xm}<1.2ときは、表示装置の「変化無し」を点灯する。
【0055】
上記した実施例1及び実施例2において、今回の尿糖値が50mg/dL未満の場合には、今回の測定値と過去の平均値との差を求めて判定を行い、今回の尿糖値が50mg/dL以上の揚合、今回の測定値と過去の平均値との比を求めて判定を行っているが、判定方法を分けている尿糖値の境界値は50mg/dLに限定されるものでない。また、この実施例2では、一日の生活での今回と同じタイミングでの過去1ヶ月の全尿糖測定値を読み出し、1ヶ月の平均値Xmを求めている。しかし、一日の生活での今回と同じタイミングでの過去1ヶ月の全尿糖測定値を含むならば、それ以外のタイミングでの尿糖測定値をも含む過去1ヶ月の全尿糖測定値を読み出して1ヶ月の平均値Xmを求めることもできる。それは、タイミングの違いによる尿糖測定値のバラツキの影響は少ないと考えられるからである。
【0056】
尿糖値は50mg/dL未満の値から数千mg/dLに達する幅広い値をとる。尿糖値が50mg/dL未満の場合には、今回の測定値と過去の平均値との差が10mg/dL以上か以下であるか重要な意味をもつが、尿糖値が数千mg/dLに達する場合には、今回の測定値と過去の平均値との差が10mg/dL以下であれば、有効数字を考えれば、無視できる値である。従って、尿糖値が大きい場合に、今回の測定値と過去の平均値との差を求めて判定を行うには、増減判定の基準となる尿糖値の差を、測定尿糖値の大きさ毎に、例えば、測定尿糖値が、50mg/dLから100mg/dLの場合、100mg/dLから300mg/dLの場合、300mg/dLから1000mg/dLの場合、1000mg/dLから3000mg/dLの場合、3000mg/dL以上の場合毎に分けなければならず、煩雑になる。従って、実施例1及び実施例2において判定方法を分けている尿糖値の境界値50mg/dLは臨界的な値ではない。
【0057】
実施例1及び実施例2のように2通りの判定方法を採用する場合には、判定方法を分けている尿糖値の境界値は、30mg/dLから100mg/dLの範囲から選択でき、また、増減判定の基準となる尿糖値の差も、尿糖値の境界値の値に応じて変えることもできる。しかし、判定方法を分けている尿糖値の境界値は50mg/dLで、増減判定の基準となる尿糖値の差も10mg/dLであることが現在は最も妥当性が高い。
【0058】
実施例3(尿糖状態の推定方法)
糖尿病の人だけでなく糖尿病でない人にあっても、健康状態の管理は求められている。血糖値とHbA1cと尿糖値との関係を離れても、尿糖値の上昇は、糖尿病の人にとっても健康人にとっても好ましくなく、健康人にとっては糖尿病を示唆する場合もある。しかし、尿糖値の測定値すなわち尿糖値の瞬間値は、バラツキがあり、特に食事内容によってかなりのバラツキが生じるので、そのままでは健康状態の指標にはならない。このように、1回測定での尿糖値では、本来健康指標たり得る「中〜長期の経時変化」を把握するのは困難である。また、上記したように尿糖値の瞬間値はバラツキが大きいため、たとえ中〜長期に亘ってプロットしてグラフ化したとしても、その経時変化は分かりにくく、健康指標としては不足である。一方、糖尿病の人だけでなく健康人にとっては、尿糖値の1回の数値で一喜一憂するのでなく、少し長い目で見て、改善に向かっているのか、悪化しているのかを把握して生活改善に生かす指標が望まれる。かかる観点から上記した実施例1及び実施例2の方法を見るならば、上記した実施例1及び実施例2の方法により、尿糖値を判断すれば、健康状態の指標となる。従って、上記した血糖糖状態の推定方法は、そのまま、健康状態の指標としての尿糖状態の推定方法となる。
【0059】
実施例4(HbA1c推定)
尿糖計1は、(図9の概念図を示すように)外部のパーソナルコンピュータに接続できるように構成されており、尿糖計1をパーソナルコンピュータに接続し、パーソナルコンピュータを操作して、HbA1cを、尿糖計のマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に書き込み、記憶させることができる。これにより、HbA1cと尿糖値との比較を容易にする。一方、尿糖計1は、少なくとも過去1ヶ月の尿糖値の測定データをそれぞれの測定タイミングと共にマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に記憶している。
【0060】
図6は、尿糖値から見た現在の血糖状態を過去の尿糖値から見た血糖状態と比較して、HbA1cが改善傾向にあるか又は悪化傾向にあるかを推定する動作のフローチャートである。
【0061】
まず、HbA1cを測定後、尿糖計1をパーソナルコンピュータに接続し、パーソナルコンピュータを操作して、HbA1cを、尿糖計のマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に書き込み、記憶させる。
【0062】
一方、最新のHbA1cをマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に書き込む前少なくとも過去1ヶ月の尿糖値の測定データをそれぞれの測定タイミングと共にマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に記憶している。
【0063】
(1)尿糖計1で尿糖を測定する毎に、測定結果Aはマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に格納される。
【0064】
(2)尿糖値の測定結果Aがマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に格納される毎に、補助記憶装置37に記憶されている最新のHbA1cが9%未満であるかどうか、判別する。最新のHbA1cが9%未満であるとき、最新の尿糖値の測定結果Aが、食後であるかどうか判別する。食後でない場合には、動作は終了する。ここで、食後でない場合には動作は終了する理由は、HbA1cが9%未満の場合には、食後以外のときに測定した尿糖値が、現状ではHbA1cに対して有意な関係が見出せないためである。
【0065】
(3)一方、今回の測定が食後であれば、最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間、例えば過去1週間の毎食後尿糖測定値を読み出して、平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間、例えば過去1ヶ月間の毎食後尿糖測定値を読み出して、平均値Yを計算する。そのようにして得た、過去の短期所定期間(過去1週間)の測定値平均値Xと過去の長期所定期間(過去1ヶ月間)の測定値平均値Yとを比較し、その比{(過去の短期所定期間の平均値X)/(過去の長期所定期間の平均値Y)}を計算し、比X/Yが0.5以下のときは「所定値以上改善」例えば「HbA1c 0.5%以上改善」と判定する。一方、2以上のときは「所定値以上悪化」例えば「HbA1c 0.5%以上悪化」と判定する。0.5<X/Y<2の場合には、「変化0.5%未満」であり「有意な改善乃至悪化はない」と判定する。
【0066】
(4)最新のHbA1cが9%以上であるとき、今回の測定が食後であるかどうかに関係なく、過去の短期所定期間、例えば過去1週間の全尿糖測定値を読み出して、平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間、例えば過去1ヶ月間の全尿糖測定値を読み出して、平均値Yを計算する。そのようにして得た、過去の短期所定期間(過去1週間)の測定値平均値Xと過去の長期所定期間(過去1ヶ月間)の測定値平均値Yとを比較し、その比{(過去の短期所定期間の平均値X)/(過去の長期所定期間の平均値Y)}を計算し、比X/Yが0.5以下のときは「所定値以上改善」例えば「HbA1c 0.5%以上改善」と判定する。一方、2以上のときは「所定値以上悪化」例えば「HbA1c 0.5%以上悪化」と判定する。0.5<X/Y<2の場合には、「変化0.5%未満」であり「有意な改善乃至悪化はない」と判定する。
【0067】
図7は、上記した実施例3を検証した実験データである。図7のグラフは、或る被験者の約2ヶ月間の毎食後に測定した尿糖値と1ヶ月おきに測定した(3回/2ヶ月)HbA1c(%)とを時系列で示すものである(縦軸:尿糖値及びHbA1c値、横軸:日)。
【0068】
また、図7のグラフ下に、測定期間2ヶ月間の前半の1ヶ月と後半の1ヶ月とにおいて、上述した、尿糖値の比較からのHbA1c(%)の改善が推定されることの妥当性を示している。
【0069】
すなわち、前半の1ヶ月間における尿糖値の実測値から、当該1ヶ月間の平均値Y=99.9(mg/dL)であり、当該1ヶ月間の最後の1週間の平均値X=47.9(mg/dL)である。本発明の実施例3によれば、[47.9<99.9/2]⇒[平均値Xが平均値Yの1/2以下]であるので、この結果から、HbA1c(%)は、0.5%以上低下していると判定される。このとき、HbA1c(%)の実測値によれば、1ヶ月間で、8.7(%)から7.4(%)まで低下(0.5(%)以上改善)しているので、本発明の実施例3が妥当であることが示されている。
【0070】
後半の1ヶ月間においても、同様のことが言える。すなわち、後半の1ヶ月間における尿糖値の実測値から、当該1ヶ月間の平均値Y=36.3(mg/dL)であり、当該1ヶ月間の最後の1週間の平均値X=16.6(mg/dL)である。本発明の実施例3によれば、[16.6<36.3/2]⇒[平均値Xが平均値Yの1/2以下]であるので、この結果から、HbA1c(%)は、0.5%以上低下していると判定される。このとき、HbA1c(%)の実測値によれば、1ヶ月間で、7.4(%)から6.6(%)まで低下(0.5(%)以上改善)しているので、本発明の実施例3が妥当であることが示
されている。
【0071】
なお、1ヶ月おきに測定したHbA1c(%)(3回/2ヶ月)と比較して検証するために、前半の1ヶ月と後半の1ヶ月とに分けて尿糖値の実測値に着目したが、本発明の実施例3においてHbA1cの測定日前の1ヶ月だけに着目するものではないことは実施例3の上述した説明から理解できるであろう。例えば図7のグラフの8月11日に尿糖値が測定されたときには、8月11日前の1ヶ月間と1週間の尿糖値の実測値からHbA1c推定が行われる。8月11日前1ヶ月間の平均値Y=64.2(mg/dL)であり、8月11日前1週間の平均値X=36.6(mg/dL)である。本発明の実施例3によれ
ば、[64.2/2<36.6<2(64.2)]⇒[平均値Xが平均値Yの1/2より大きく2倍より小さい]であるので、この結果から、「変化0.5%未満」であり「有意な改善乃至悪化はない」と判定する。
【0072】
図7のグラフにおいて、後半の1ヶ月での毎日の尿糖測定後に、実施例3に従いHbA1c推定を行った場合、「HbA1c(%)は、0.5%以上改善」か「有意な改善乃至悪化はない」かのいずれかの判定結果が得られ、HbA1cが改善傾向にあることを糖尿病患者は認識することができ、その認識がHbA1cの実測値の変化に一致していることがわかる。
【0073】
上記した実施例3において1ヶ月を長期所定期間とし1週間を短期所定期間としているが、これらの期間に限定されるものではない。一般的に、血糖値の1〜2ヶ月間の平均値は、食事等の一時的な変化に左右されない血糖状態を示す値であるとされていることから、前記長期所定期間は、前記血糖状態に相当する尿糖状態を示す期間として、1〜2ヶ月間の範囲で設定されるのが好ましいと言える。他方、前記短期所定期間は、最新の血糖状態を示す一方で日々の極端なバラツキを吸収できる期間であり、1ヶ月間以下の範囲で設定されるのが好ましく且つ前記長期所定期間よりも十分短い期間である必要がある。従って、短期所定期間は、長期所定期間よりも十分短く且つ少なくとも5日以上2週間以下の期間が好ましい。長期所定期間は、短期所定期間の少なくとも2倍以上の長さであり、2週間以上2ヶ月以下の任意の期間を選択できる。
【0074】
更に、推定されるHbA1c(%)の改善度合いの「所定値以上改善」の例として「0.5(%)以上改善」を挙げましたが、「所定値」が「0.5(%)」に限定されるものではなく、有意な改善と考えられる任意の数値とすることができる。
【0075】
また、上記実施例において、最新のHbA1cが9%未満であるかどうかにより、平均値を取る測定値の範囲を、食後の測定値のみ限定するか、又は、全測定値を含めるかどうか、と変えている。しかし、本発明者の研究の結果、境界値をHbA1cの9%とした場合が最も判定の妥当性が高いことが判明したものであり、境界値をHbA1cの9%とすることは絶対的なものでない。従って、HbA1cの9%の前後に境界値を変更しても、判定の妥当性が急激に低下するものではないので、HbA1cの9%の前後に境界値を変更することも可能である。
【0076】
実施例5(目標値設定機能)
HbA1c(血糖状態、生活習慣)改善のために、改善の目標値を設定して、現在(最近)の尿糖データから、「尿糖の目標値を達成しているかどうか」を判定する。
【0077】
例えば、改善目標値をHbA1cの0.5%以上の改善とした時、今回の測定までの過去1ヶ月分の尿糖値(今回と同じタイミング)の平均値の2分の1を目標値として設定する。そして、今回の尿糖値とその目標値を比較し、目標値を超えた場合、ランプ、アラームなどで報知する。1ヶ月を所定期間としているが、これらの期間に限定されるものではなく、2週間以上2ヶ月以下の任意の期間を選択できる。
【0078】
図8は、実施例4(目標値設定機能)の動作を示すフローチャートである。
まず、改善目標、例えば「HbA1cの0.5%以上の改善」を尿糖計のマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に書き込み、記憶させる。
一方、少なくとも過去1ヶ月の尿糖値の測定データをそれぞれの測定タイミングと共にマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に記憶している。
【0079】
(1)尿糖計1で尿糖を測定する毎に、測定結果Aはマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に格納される。
【0080】
(2)尿糖値の測定結果Aがマイクロコンピュータ32の補助記憶装置37に格納される毎に、最新の尿糖値の測定結果Aを含む例えば、今回と同じタイミングでの過去1週間の尿糖測定値を読み出して、平均値Xを計算し、目標値とする。目標値すなわち平均値Xと測定結果Aとを比較して、{X−A}が0以上の場合、改善目標達成「OK」を示すために、図4の表示装置の「減少」を点灯させる。それ以外の場合には、「注意ランプ」として図4の表示装置の「変化無し」及び「上昇」の両方を同時に点灯又は点滅させる。
【0081】
上記した実施例は全て、尿糖計においてデータ処理したが、尿糖計が接続されるパーソナルコンピュータにおいて処理して表示することも当然可能である。例えば、図9に示すように、尿糖測定毎に尿糖計をパーソナルコンピュータに接続して、測定値を日時データと共にパーソナルコンピュータに転送して、パーソナルコンピュータのメモリに格納する。一方、HbA1cを測定した時に、HbA1cの値を日時とともにパーソナルコンピュータに入力して、パーソナルコンピュータのメモリに格納する。そして、パーソナルコンピュータに予めインストールしてある上記した実施例1から4の処理を実施するプログラムを選択的に実行させることにより、パーソナルコンピュータにおいて実施例1から4の処理の結果を得ることもできることは当業者に説明するまでもなく明らかであろう。
【0082】
以上説明したように本発明の血糖状態推定方法及び装置は、測定した尿糖値および入力したHbA1cの値を日時とともに記憶する機能を備えており、侵襲のない尿糖測定により、血糖状態の判定、HbA1cの推定などを行うことができる。
【0083】
具体的には、本発明の血糖状態推定方法及び装置は、測定した尿糖値を過去に測定した尿糖値と比較し、HbA1cの改善の良否を判定することができる。
更には、本発明の血糖状態推定方法及び装置は、測定した尿糖値から、現在の生活改善が将来のHbA1c改善につながるかを判定することができる。
また、本発明の血糖状態推定方法及び装置は、測定した尿糖値とHbA1cの改善目標値から、尿糖目標値を算出する。
【0084】
本発明の血糖状態推定方法及び装置は、測定した尿糖値および入力したHbA1cを記憶していることにより、それらデータを用いた判定、推定、目標値設定が容易に選択できる。その判定、推定、目標値設定には、目的、使用者の糖尿病のステージ、生活パターンなどから最適な算出方法を選ぶことができる。
【0085】
従って、本発明の血糖状態推定方法及び装置は、測定後直ちに直前の食事、運動などについての良否を判定することができ、又は、HbA1cの改善傾向を推定でき、加えて、改善目標を設定することができるので、使用者の血糖コントロールに対するモチベーションが維持可能となる。
【0086】
なお、本発明の血糖状態推定方法及び装置である尿糖計に通信段手段を付加することにより、さらに多くの機器より得られるデータ(例えば体重、食事・運動記録など)と連携することが可能となり、判定、推定、目標設定の信頼性が向上する。
【0087】
インターネットなどを介し、データをサーバに蓄積すれば、判定、推定、目標設定の信頼性が向上する。尿糖計単独の場合は、個人のデータに基づき算出するが、外部サーバに接続した場合、尿糖計使用者の全データが蓄積され、そのデータにより個人のデータが少なくても推定が容易になり、判定の信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0088】
1 尿糖計
11 センサカートリッジ
12、22 ハウジング
13 尿糖センサ
14 サーミスタ
15 スタンド検出リードスイッチ
16、31 コネクタ
17 コネクタ接続検出回路
21 本体
23、57 電源
24(24a、24b) 操作ボタン
25 D/A変換装置
26 センサ駆動回路
27 A/D変換装置
28 ブザー
29、59 表示装置
30 外部入出力インターフェース端子
32、55 マイクロコンピュータ
33 演算及び制御装置
34 ROM
35 RAM
36 クロック
37 補助記憶装置
38、56、75 外部入出力インターフェース
41 スタンド
42 磁石
43 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)尿糖値Aを測定し、
(2)最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満かどうか判定し、
(3)最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満であるとき、今回の測定が食後であれば、最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の毎食後測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の毎食後測定値の平均値Yを計算し、
(4)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定し、
(5)最新のHbA1cが判定方法区分境界値以上であるとき、最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の全測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の全測定値の平均値Yを計算し、
(6)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが前記第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定する
ことを特徴とする血糖状態推定方法。
【請求項2】
(7)前記比X/Yが第2の基準値以上のときは「有意な悪化」と判定し、
(8)前記比X/Yが前記第1の基準値より大きく前記第2の基準値より小さいときは「有意な改善乃至悪化はない」と判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の血糖状態推定方法。
【請求項3】
前記短期所定期間は、少なくとも5日以上2週間以下の期間であり、前記長期所定期間は、前記短期所定期間の少なくとも2倍以上の長さであり、2週間以上2ヶ月以下の期間であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の血糖状態推定方法。
【請求項4】
前記短期所定期間は、1週間の期間であり、前記長期所定期間は、1ヶ月の期間であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の血糖状態推定方法。
【請求項5】
HbA1cの前記判定方法区分境界値は9%であることを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の血糖状態推定方法。
【請求項6】
尿糖値測定手段と、記憶手段と、HbA1cを入力できる入力手段と、クロック手段と、情報を処理する演算及び制御手段と、表示手段とを少なくとも具備する、血糖状態推定機能付の尿糖計であって、前記演算及び制御手段は、前記入力手段を介して入力されたHbA1cを前記記憶手段に記憶させ、
(1)前記尿糖値測定手段が尿糖値を測定するごとに尿糖値Aを測定日時を共に前記記憶手段に記憶させ、
(2)前記記憶手段に記憶した最新のHbA1cが前記記憶手段に記憶した判定方法区分境界値未満かどうか判定し、
(3)最新のHbA1cが判定方法区分境界値未満であるとき、今回の測定が食後であれば、前記記憶手段に記憶した最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の毎食後測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の毎食後測定値の平均値Yを計算し、
(4)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが前記記憶手段に記憶した第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定して前記表示手段に表示し、
(5)最新のHbA1cが判定方法区分境界値以上であるとき、前記記憶手段に記憶した最新の尿糖値の測定結果Aを含む過去の短期所定期間の全測定値の平均値Xを計算し、更に過去の長期所定期間の全測定値の平均値Yを計算し、
(6)そのようにして得た過去の短期所定期間の測定値平均値Xと過去の長期所定期間の測定値平均値Yとを比較し、その比X/Yが前記第1の基準値以下のときは「有意な改善」と判定して前記表示手段に表示する
ことを特徴とする、血糖状態推定機能付の尿糖計。
【請求項7】
前記演算及び制御手段は更に、
(7)前記比X/Yが前記記憶手段に記憶した第2の基準値以上のときは「有意な悪化」と判定して前記表示手段に表示し、
(8)前記比X/Yが前記第1の基準値より大きく前記第2の基準値より小さいときは「有意な改善乃至悪化はない」と判定して前記表示手段に表示することを特徴とする請求項6に記載の血糖状態推定機能付の尿糖計。
【請求項8】
前記短期所定期間は、少なくとも5日以上2週間以下の期間であり、前記長期所定期間は、前記短期所定期間の少なくとも2倍以上の長さであり、2週間以上2ヶ月以下の期間であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の血糖状態推定機能付の尿糖計。
【請求項9】
前記短期所定期間は、1週間の期間であり、前記長期所定期間は、1ヶ月の期間であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の血糖状態推定機能付の尿糖計。
【請求項10】
HbA1cの前記判定方法区分境界値は9%であることを特徴とする請求項6から請求項9までの何れか1項に記載の血糖状態推定機能付の尿糖計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−92537(P2013−92537A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7147(P2013−7147)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2008−87071(P2008−87071)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】