説明

衛生マスク

【課題】 抗インフルエンザウイルス活性等の抗ウイルス活性が長時間持続しうる衛生マスクを提供する。
【解決手段】 この衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤が接着剤によって付着せしめられている。微粒子状の抗ウイルス剤としては、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕した微粒子が用いられる。接着剤は、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含むものである。ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%であるのが好ましい。接着剤中に、さらに数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を含んでいてもよい。また、繊維基材は不織布であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を付着させた衛生マスクに関し、特に、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスを不活化させる機能を持つ抗インフルエンザウイルス剤を付着させた衛生マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、豚インフルエンザが世界的に流行している。豚インフルエンザは、鳥インフルエンザに比べて致死率は低いものの、妊婦、5歳以下又は60歳以上の人及び基礎疾患を有する人は、感染時に重症化する可能性が高く、感染予防が必須となっている。
【0003】
感染予防の一つとして、従来より、豚インフルエンザ等の新型インフルエンザに限らず旧型インフルエンザの場合でも、外出時に衛生マスクを着用することが推奨されている。衛生マスクとしては、ガーゼマスク及び不織布マスクがあるが、ガーゼマスクはマスク本体が目の粗いガーゼよりなるため、ここからインフルエンザウイルスが侵入し、感染予防の効果は低いと言われている。不織布マスクはマスク本体が目の細かい不織布よりなるため、ガーゼマスクに比べて感染予防の効果はあると言われているが、それでもなお、感染予防の効果が疑問視されている。
【0004】
そのため、マスク本体にインフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクが提案されている(特許文献1)。しかしながら、単にインフルエンザウイルスを捕捉しただけでは、マスク本体中でインフルエンザウイルスが増殖し、咳やくしゃみにより、却ってインフルエンザウイルスを周囲にまき散らすことになる。また、マスク本体を手で触ると、手にインフルエンザウイルスが付着して口から人体に侵入することになる。したがって、インフルエンザウイルス捕捉剤を添着させた衛生マスクの効果も疑問視されている。
【0005】
このため、インフルエンザウイルス捕捉剤ではなく、インフルエンザウイルスを不活化させる抗インフルエンザウイルス剤を用いることも提案されている(特許文献2)。特許文献2は、抗インフルエンザウイルス剤として茶の抽出成分であるポリフェノールを用いたものである。そして、茶の抽出成分の水溶液を調製し、この水溶液に不織布を含浸して、不織布に茶の抽出成分を付着させた後、この不織布をマスク本体として使用したり、マスク本体に添着することが提案されている。
【0006】
近年、抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤として、金属酸化物の水和物よりなる微粒子が提案されている(特許文献3)。この微粒子はヒドロキシラジカルを発生し、このヒドロキシラジカルによってウイルスを不活化させるものである。しかしながら、このような微粒子は、茶の抽出成分のように水溶性でないため、不織布に付着させるには、接着剤を使用する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−115572号公報(要約の項)
【特許文献2】特開平08−333271号公報(特許請求の範囲の項及び段落番号0026)
【特許文献3】特開2008−37814号公報(特許請求の範囲の項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、接着剤を使用して、微粒子状の抗ウイルス剤を付着させると、抗ウイルス活性が長時間持続しにくいという欠点があった。抗ウイルス活性が長時間持続しにくい理由は定かではないが、接着剤皮膜によって微粒子の大部分が覆われてしまうからではないかと推定している。つまり、接着剤皮膜によって覆われていない部分(露出している部分)が、当初抗ウイルス活性を示すだけであり、覆われている部分(露出していない部分)の抗ウイルス活性が使用されていないのではないかと推定している。
【0009】
したがって、本発明の課題は、マスク本体として使用されたり或いはマスク本体に添着される不織布等の繊維基材に、微粒子状の抗ウイルス剤を付着させても、抗ウイルス活性が長時間持続しうる衛生マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明者は、上記した微粒子を各種接着剤で不織布に付着させ、抗ウイルス活性を検討していたところ、特定の接着剤を用いた場合のみ、抗ウイルス活性が長時間持続することを発見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤を、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含む接着剤によって付着させたことを特徴とする衛生マスクに関するものである。
【0012】
本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤としては、たとえば、特許文献3及び国際公開2005/013695に記載されているものが挙げられる。すなわち、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕して微粒子としたものである。微粒子の組成は、CaCO3、Ca(OH)2及びMg(OH)2を主成分とするものである。また、微粒子の平均粒子径は0.1〜60μm程度である。かかる抗ウイルス剤は、ヒドロキシラジカルを発生する。そして、ヒドロキシラジカルは、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスはもとより、旧型インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス及びレトロウイルス等のウイルスを不活化する。
【0013】
かかる微粒子状の抗ウイルス剤は、繊維基材に接着剤によって付着せしめられる。本発明は、この際に用いる接着剤に特徴を有する。すなわち、接着剤として、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含むものを用いることによって、ヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。たとえば、接着剤として、ウレタン系のものやフッ素−アクリル系のものを使用した場合には、ヒドロキシラジカルの発生が長時間持続しにくくなる。この理由は定かではないが、ポリビニルアルコールはヒドロキシ基を有しているため、抗ウイルス剤から発生するヒドロキシラジカルが、ポリビニルアルコールに結合しにくいのではないかと推定している。ウレタン系接着剤やフッ素−アクリル系接着剤は、抗ウイルス剤から発生したヒドロキシラジカルが、これらの接着剤中のウレタン結合基等と結合し、消失してしまうのではないかと推定している。
【0014】
ポリビニルアルコールの重合度を250〜1000としたのは、水溶液として取り扱いやすく、かつ接着作用を十分に発揮せしめるためである。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%程度であるのが好ましい。特に、66〜99モル%が好ましく、より好ましくは90〜99モル%である。ケン化度が極端に低くなると、ヒドロキシ基が殆どなくなり、抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生が長時間持続しにくくなると考えられる。また、ケン化度が極端に高くなると、水に溶けにくくなるため、扱いにくくなる。
【0015】
ポリビニルアルコールを含む接着剤は、一般的に水溶液の状態で用いられる。すなわち、微粒子状の抗ウイルス剤を分散させると共に、ポリビニルアルコールを溶解させた接着剤水溶液を用いて、塗布法や浸漬法等でこれを繊維基材に付与し、その後乾燥すれば、繊維基材に抗ウイルス剤を付着させることができる。
【0016】
ポリビニルアルコールを含む接着剤水溶液中には、さらに数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を含んでいるのが好ましい。すなわち、ポリビニルアルコールの接着作用によって抗ウイルス剤を付着させることができるのであるが、さらに多量の抗ウイルス剤を付着させたい場合や、強固に付着させたい場合には、接着作用のあるポリオレフィン樹脂微粒子を添加するのが好ましい。ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、1μm以下であるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、日機装社製の「マイクロトラック粒度分布計 UPA150(MODEL No.9340」を用いて求めたものである。数平均粒子径が大きすぎると、水溶液中に良好に分散しにくくなる傾向が生じる。
【0017】
本発明では、特に水に分散しやすいポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。かかるポリオレフィン樹脂は本件出願人が開発したものであって、特許第3699935号公報に記載されているものであり、(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物と(A2)炭素数2〜6のアルケンを含むモノマーを共重合してなる共重合体からなるものである。(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。また、(A2)炭素数2〜6のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が用いられる。なお、(A1)及び(A2)の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のアクリル酸エステルを第三成分として共重合しても差し支えない。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル等の第三成分を共重合しても差し支えない。
【0018】
(A1)と(A2)の共重合比は、質量比で、(A1):(A2)=0.5〜20:99.5〜80程度である。また、第三成分を共重合するときは、全体の35質量%以下程度の量で共重合される。
【0019】
以上のような組成を持つポリオレフィン樹脂微粒子は、特許第3699935号公報に記載されているように、水によく分散するものである。したがって、ポリビニルアルコールを含む接着剤水溶液中に、このポリオレフィン樹脂微粒子を添加しても、水溶液中に良好に分散し、均一な接着剤水溶液として使用しうるのである。
【0020】
本発明に用いる抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を繊維基材に付着させるには、たとえば、以下のような方法によるのが好ましい。まず、微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を得る。水系溶媒中にアルコールを併用するのは、繊維基材への浸透性を向上させるためである。アルコールとしては、エタノール等の低級アルコールが水よりも低い沸点を持っており、水と共に蒸発させうるので、好ましい。そして、この水性分散液に、ポリビニルアルコールが溶解している水溶液を添加して、ポリビニルアルコールと抗ウイルス剤とを含む接着剤水溶液を得る。この接着剤水溶液を用いて、浸漬法、塗布法又は噴霧法等の従来公知の手段で、繊維基材に付与する。そして、乾燥して、水溶液中の水を蒸発させると、微粒子状の抗ウイルス剤が、接着剤であるポリビニルアルコールによって繊維基材に付着するのである。なお、ポリオレフィン樹脂微粒子を併用するときは、ポリビニルアルコールと抗ウイルス剤とを含む接着剤水溶液中に、水中にポリオレフィン樹脂微粒子が分散している水性分散液を添加混合すればよい。
【0021】
繊維基材としては、不織布やガーゼ等の編織物が用いられる。不織布は、ガーゼ等の編織物に比べて目が細かいため、衛生マスクの素材として適している。不織布としては、短繊維不織布や長繊維不織布等の従来公知のものが用いられる。本発明では、抗ウイルス剤の接着性(抗ウイルス剤の付着量やその接着力)の向上を目的として、ポリオレフィン樹脂微粒子からなる接着剤を使用することがあるため、不織布としてもポリオレフィン系長繊維よりなる不織布を用いるのが好ましい。ポリオレフィン系長繊維としては、ポリプロピレン長繊維やポリエチレン長繊維を挙げることができる。しかしながら、このような単一成分の長繊維では、長繊維相互間が融着しすぎてフィルム状になり、通気性が悪くなるので、衛生マスクの素材として好適ではない。したがって、本発明でも、芯成分が高融点のポリエステルよりなり、鞘成分が低融点のポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンよりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維の場合は、鞘成分のみの融着によって長繊維相互間が結合するため、通気性を犠牲にせずに、形態安定性のよい不織布が得られるからである。
【0022】
衛生マスクのマスク本体は、従来より種々の態様のものが用いられている。たとえば、マスク本体の呼吸通過箇所に種々の繊維基材を何層も重ね、種々の機能を具備させたタイプのものがある。このようなタイプのものでは、何層も重ねた繊維基材のうち、少なくとも一層の繊維基材に抗ウイルス剤を付着させておけばよい。また、簡易に使用しうる衛生マスクの場合、マスク本体は不織布等を単層で用いたタイプのものもある。このようなタイプの場合には、単層の繊維基材に、抗ウイルス剤を付着させておけばよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る衛生マスクは、マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含む接着剤で接着されている。そして、このポリビニルアルコールは、抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生を阻害しにくい。したがって、豚インフルエンザウイルス等のウイルスがマスク本体に付着しても、長時間に亙ってヒドロキシラジカルによるウイルスの不活化が可能となる。よって、本発明に係る衛生マスクは、抗ウイルス活性が長時間持続するという効果を奏する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤の表面が、ポリビニルアルコールによって被覆されても、ヒドロキシラジカルの発生を阻害しないとの知見に基づくものとして、理解されるべきである。
【0025】
実施例1
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)375gが水2125gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール542gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液744gを準備した。ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が300で、ケン化度が98〜99モル%のものである。そして、水性分散液を攪拌しながら、ポリビニルアルコール水溶液を添加して接着剤水溶液を得た。この接着剤水溶液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約10質量%であり、ポリビニルアルコールよりなる接着剤濃度は約2質量%である。
【0026】
この接着剤水溶液を4日間保存しておいた後に、スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名「エルベス SO503WDO」、目付50g/m2)にグラビアコート法により塗布した後、110℃で2分間乾燥して、スパンボンド不織布(繊維基材)に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片1を得た。ここで用いているスパンボンド不織布は、芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維で構成されたものであり、部分的にポリエチレンの融着によって生じた熱融着区域を持っているものである。なお、繊維基材に対する抗インフルエンザウイスル剤及びポリビニルアルコールの付着量は約12〜15g/m2程度であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約10〜12.5g/m2程度である。
【0027】
実施例2
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)375gが水2125gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール140gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JMR−10L」)を、水268gとエタノール402gが混合されてなる混合溶媒に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水性液744gを準備した。ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が250で、ケン化度が35〜36モル%のものである。そして、水性分散液を攪拌しながら、ポリビニルアルコール水性液を添加して接着剤水性液を得た。この接着剤水性液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約10質量%であり、ポリビニルアルコールよりなる接着剤濃度は約2質量%である。
その後、この接着剤水性液を用いて、実施例1と同一の方法で、スパンボンド不織布に抗インフルエンザウイルス剤が付着させて試験片2を得た。
【0028】
実施例3
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)に代えて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JMR−10M」)を用いる他は、実施例1と同一の方法により試験片3を得た。なお、ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が250で、ケン化度が66〜67モル%のものである。
【0029】
実施例4
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)に代えて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「VC−10」)を用い、かつ、ポリビニルアルコール水溶液の固形分濃度を8質量%とする他は、実施例1と同一の方法により試験片4を得た。なお、ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が1000で、ケン化度が99モル%のものである。
【0030】
実施例5
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)375gが水2125gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール542gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液248gを準備した。そして、水性分散液を攪拌しながら、ポリビニルアルコール水溶液を添加し、添加が完了した後さらに、下記方法により調製されたポリオレフィン樹脂微粒子分散液(固形分濃度25質量%)198gをゆっくりと添加して、乳白色の接着剤水溶液を得た。この接着剤水溶液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約11質量%であり、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン樹脂微粒子よりなる接着剤濃度は約2質量%である。
【0031】
[ポリオレフィン樹脂微粒子分散液の調製]
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、100gのポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、商品名「ボンダイン HX−8290」)、有機溶媒として120gのエタノール、塩基性化合物として3.36gの85%水酸化カリウム及び170gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌し、ポリオレフィン樹脂微粒子を水中に浮遊させた。そして、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴に漬けて、回転速度300rpmを保ったまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した。最後に、300メッシュのステンレス製フィルター(平織組織で線径0.035m)を用いて加圧濾過(空気圧0.25MPa)した。得られたポリオレフィン樹脂微粒子分散液は乳白色であり、微粒子の数平均粒子径は約0.06μmであった。
なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂は、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%より構成された共重合体であり、融点は81℃のものである。
【0032】
この接着剤水溶液を用いて、実施例1と同一の方法でスパンボンド不織布(繊維基材)に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片5を得た。なお、繊維基材に対する抗インフルエンザウイスル剤、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン樹脂微粒子の付着量は約12〜15g/m2程度であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約10〜12.7g/m2程度である。
【0033】
実施例6
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)に代えて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「VC−10」)を用い、かつ、ポリビニルアルコール水溶液の固形分濃度を8質量%とする他は、実施例5と同一の方法により試験片6を得た。
【0034】
比較例1
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を溶解させた固形分濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液に代えて、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体(楠本化成社製、商品名「ネオレッツ R−600」、ポリウレタンの重量平均分子量37,000、固形分濃度33質量%)を固形分濃度10質量%となるように水によって希釈したものを接着剤溶液として用いた他は、実施例1と同一の方法により試験片7を得た。
【0035】
比較例2
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を溶解させた固形分濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液に代えて、フッ素−アクリル樹脂エマルジョン(旭硝子社製、商品名「アサヒガード AG−7000」、固形分濃度20質量%)を固形分濃度10質量%となるように水によって希釈したものを接着剤溶液として用いた他は、実施例1と同一の方法により試験片8を得た。
【0036】
[抗インフルエンザウイルス活性評価(点)]
抗インフルエンザウイルス活性は炭酸ガスと接触すると低下してゆくことが知られているため、実施例1〜6、比較例1及び2で得られた試験片を所定時間炭酸ガスに接触させた後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。具体的には、口内径33mmで容量70mlのマヨネーズ瓶に30ccの水を入れた後、水の中にドライアイス2gを投入する。そうすると、高濃度の炭酸ガスが発生するので、マヨネーズ瓶の口を試験片で覆う。覆う時間を、15秒、30秒、45秒、60秒、120秒として、その後20分経過後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。この評価は、抗インフルエンザウイルス活性とpHとの間に相関関係があることが知られているため、チモールフタレイン指示薬を用い、これをマヨネーズ瓶の口を覆った試験片の部位に噴霧し、発色の程度に依った。つまり、試験片の全ての部位が発色すれば、抗インフルエンザウイルス活性が完全に有効であるので10点とし、全ての部位が発色しなければ抗インフルエンザウイルス活性が無効であるので0点とし、発色部分の面積によって1〜9点までの点数付けを行い評価した。以上の評価方法は、炭酸ガスの発生量が、人のマスク装着によって曝される炭酸ガス量に比べると極めて多く、抗インフルエンザウイルス活性の加速試験となっている。評価結果は、表1に示したとおりであった。
【0037】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
15秒後 30秒後 45秒後 60秒後 120秒後
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験片1 10 10 8 8 5
試験片2 10 8 6 5 2
試験片3 10 9 8 6 5
試験片4 10 9 10 9 4
試験片5 10 9 8 8 6
試験片6 10 9 7 6 5
─────────────────────────────────
試験片7 10 5 2 0 0
試験片8 9 3 0 0 0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0038】
表1の結果から分かるように、実施例1〜6で得られた試験片1〜6は、炭酸ガスに45秒接触した後でも、ほぼ良好な抗インフルエンザウイルス活性を示している。これに対して、比較例1及び2で得られた試験片7及び8は、炭酸ガスに45秒間接触した後でも、殆ど抗インフルエンザウイルス活性がなくなっている。したがって、実施例1〜6で得られた試験片は、抗インフルエンザウイルス活性を長時間に亙って持続するものである。よって、かかる試験片を衛生マスクのマスク本体の呼吸通過箇所に適用すれば、インフルエンザの感染予防に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体の呼吸通過箇所に用いられる繊維基材に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤を、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含む接着剤によって付着させたことを特徴とする衛生マスク。
【請求項2】
抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項3】
ポリビルアルコールのケン化度が35〜99モル%である請求項1記載の衛生マスク。
【請求項4】
接着剤中に、さらに数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を含んでいる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂が、以下に示す(A1)及び(A2)を含むモノマーを共重合してなる共重合体である請求項4記載の衛生マスク。
(A1):不飽和カルボン酸又はその無水物
(A2):炭素数2〜6のアルケン
【請求項6】
繊維基材が不織布である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の衛生マスク。
【請求項7】
不織布の構成繊維が芯鞘型複合長繊維であって、芯成分がポリエステルであり、鞘成分がポリオレフィンである請求項6記載の衛生マスク。

【公開番号】特開2011−101758(P2011−101758A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258446(P2009−258446)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】