説明

衛生洗浄装置

【課題】量感を与えつつ優しい洗浄を実現する衛生洗浄装置を提供する。
【解決手段】ノズル410の吐水孔から洗浄水を中空円錐状511に吐水させる吐水手段と、吐水された洗浄水が人体局部に着水する前に、吐水された洗浄水の液膜を破砕することにより粒化された水流を生成し、吐水された洗浄水の中空部分に粒化された水流を流し込む破砕手段と、吐水手段よりも下流側で吐水孔よりも上流側に設けられ、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも吐水孔から中空円錐状511に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする液膜厚さ拡大手段と、を備え、粒化された水流は、第1の水流群521aと、第1の水流群521aよりも粒径が小さく、流速が遅い第2の水流群522aと、を有し、第1及び第2の水流群521a、522aが人体局部に着水する時間間隔は、人が連続的な吐水であると感ずる時間間隔とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、衛生洗浄装置に関し、具体的には洋式腰掛便器に腰掛けた使用者の人体局部を水で洗浄する衛生洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば「おしり」などの人体局部を洗浄する際に、所定の拡がりを有する洗浄水を吐水することで、人体局部の略全体に洗浄水を吐水する装置がある。例えば、直噴流と旋回噴流を同じ吐水口から同時に吐水し、ボリューム感のある洗浄感と高い洗浄性能とを得ることができる衛生洗浄装置がある(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された衛生洗浄装置では、直噴流が着水するおしり局部の中心と、旋回噴流が着水するおしり局部の周囲における着水力は、略同じとなる。そのため、おしり局部の近傍のうちで量感を感じやすいおしり局部の外周部における量感が弱くなるおそれがある。これに対して、量感を上げようとすると、水量を上げる必要がある。水量を上げると、昨今の節水の観点においては改善の余地がある。また、直噴流による量感が強くなり、使用者は、おしり局部の中心に強い刺激を受けるおそれがある。
【0004】
また、洗浄水を女性局部に着水させてビデ洗浄を行う衛生洗浄装置であって、吐水孔から中空円錐状に拡散するように洗浄水を吐水し、女性局部の所定の範囲に万遍なく着水させる衛生洗浄装置がある(特許文献2)。特許文献2に記載された衛生洗浄装置では、洗浄水に脈動を与えることにより、より大きな径を有する粒化水流を生成し、着水部における着水力をより高めることができる。
【0005】
おしり洗浄に対しては、ビデ洗浄と比較してより大きい量感が求められる。量感は、人体局部に当たる洗浄水の着水力に起因する。また、量感は、洗浄水が人体局部に当たる範囲にも起因する。さらに、量感は、洗浄水が人体局部に当たる時間的間隔によっても変化する。そのため、特許文献2に記載された衛生洗浄装置では、より大きな径を有する粒化水流により個々の液滴の着水力を高めている一方で、脈動の付与の仕方によっては、個々の液滴が人体局部に当たるタイミングが遅すぎる場合がある。そうすると、使用者は、洗浄水を断続的に感じてしまい、不快感を感ずる場合がある。一方で、個々の液滴が人体局部に当たるタイミングが早すぎると、使用者は、刺激感を感じてしまい、不快感を感ずる場合がある。そのため、特許文献2に記載されたビデ洗浄を行う衛生洗浄装置をおしり洗浄に利用しても、量感を与えつつ優しい洗浄を実現するという点においては、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−100370号公報
【特許文献2】特開2011−74697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、量感を与えつつ優しい洗浄を実現することができる衛生洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、ノズルの吐水孔から人体局部へ向けて洗浄水を吐水しておしり洗浄をする衛生洗浄装置であって、前記吐水孔から洗浄水を中空円錐状に吐水させる吐水手段と、前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水が前記人体局部に着水する前に、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を破砕することにより粒化された水流を生成し、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の中空部分に前記粒化された水流を流し込む破砕手段と、前記吐水手段よりも下流側であって前記吐水孔よりも上流側に設けられ、前記吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする液膜厚さ拡大手段と、を備え、前記粒化された水流は、第1の水流群と、前記第1の水流群よりも小さい粒径および前記第1の水流群よりも遅い流速を有する第2の水流群と、を有し、前記第1及び第2の水流群が前記人体局部に着水する時間間隔は、人が連続的な吐水であると感ずる時間間隔であることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0009】
この衛生洗浄装置によれば、より大きい粒径およびより速い流速を有する第1の水流群により、おしり洗浄に求められる十分な着水力を付与することができる。一方、より小さい粒径およびより遅い流速を有する第2の水流群により、例えば必要以上の大流量による洗浄のときに受ける不快感を感ずることはなく、広い範囲を優しく一度にさっと洗浄することができる。また、人が連続的な吐水であると感ずる時間間隔で洗浄水を着水させるため、より少ない流量でより広い範囲に、おしり洗浄に求められる適度な量感を与えることができる。そして、快適なおしり洗浄を実現することができる衛生洗浄装置を提供することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記人体局部の表面は、前記時間間隔に応じて振動し、前記表面の振動の周波数は、50ヘルツ以上100ヘルツ以下であることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0011】
この衛生洗浄装置によれば、おしり洗浄に求められる適度な量感(たっぷり感)を与えることができる。人体局部の表面の周波数が50ヘルツよりも小さい場合には、使用者は、吐水の断続感および不快感を感じてしまう。一方、人体局部の表面の周波数が100ヘルツよりも大きい場合には、使用者は、吐水の断続感を感じない一方で、振動感を感ずることができなくなり、おしり洗浄に求められる適度な量感を感ずることができない。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記吐水孔から吐水される洗浄水に脈動を付与し、前記第1の水流群および前記第2の水流群を形成する脈動発生手段をさらに備え、前記脈動発生手段が付与する脈動の周波数は、50ヘルツ以上100ヘルツ以下であることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0013】
この衛生洗浄装置によれば、おしり洗浄に求められる適度な量感(たっぷり感)を与えることができる。脈動発生手段が付与する脈動の周波数が50ヘルツよりも小さい場合には、使用者は、吐水の断続感および不快感を感じてしまう。一方、脈動発生手段が付与する脈動の周波数が100ヘルツよりも大きい場合には、使用者は、吐水の断続感を感じない一方で、振動感を感ずることができなくなり、おしり洗浄に求められる適度な量感を感ずることができない。
【0014】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記第1の水流群は、前記人体局部の外周部に着水し、前記第2の水流群は、前記人体局部の中心部に着水することを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0015】
この衛生洗浄装置によれば、より大きい粒径およびより速い流速を有する第1の水流群が人体局部の近傍のうちで量感を感じやすい人体局部の外周部に着水する。そのため、十分な量感あるいはしっかりとした量感を与えることができる。また、より小さい粒径およびより遅い流速を有する第2の水流群が汚れの付着しやすい人体局部の中心部に着水する。そのため、例えば直進流が人体局部の中心部に着水する場合と比較して、人体局部の中心部に強い刺激が必要以上に加わることを抑えることができる。これにより、痔や、裂傷や、過度の清拭による擦り傷などが人体局部の周辺に存在する使用者に対しても、広い範囲を優しく一度にさっと洗浄することができる。
【0016】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記人体局部における前記第1の水流群の水量は、前記人体局部における前記第2の水流群の水量よりも多いことを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0017】
この衛生洗浄装置によれば、おしり洗浄に求められる量感を与えることができ、快適なおしり洗浄を実現することができる。また、人体局部の近傍のうちで量感を感じやすい人体局部の外周部に対して、水量の面でも着水力を付与することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様によれば、量感を与えつつ優しい洗浄を実現することができる衛生洗浄装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態にかかる衛生洗浄装置を備えたトイレ装置を表す斜視模式図である。
【図2】本実施形態にかかる衛生洗浄装置の要部構成を表す概念模式図である。
【図3】本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態の概略を表す概念模式図である。
【図4】本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態の概略を表す概念模式図である。
【図5】着水部あるいは吐水孔から所定の距離だけ離れた位置における洗浄水の着水力を表すグラフ図である。
【図6】洗浄水による着水部の振動状態の測定方法を説明するための模式図である。
【図7】洗浄水による着水部の振動状態の測定結果の一例を例示するグラフ図である。
【図8】たっぷり感と脈動の有無との関係を説明するためのグラフ図である。
【図9】たっぷり感と周波数との関係を説明するための表およびグラフ図である。
【図10】本実施形態のノズルの具体例を例示する断面模式図である。
【図11】本実施形態の脈動発生手段の内部構造を例示する断面模式図である。
【図12】脈動発生手段に印加する電圧波形および脈動発生手段の下流側の水の流速波形を例示するグラフ図である。
【図13】着水位置の近傍を通過する粒子の速度分布を例示するグラフ図である。
【図14】着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率を例示するグラフ図である。
【図15】本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態を表す写真図である。
【図16】本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態を表す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる衛生洗浄装置を備えたトイレ装置を表す斜視模式図である。
【0021】
図1に表したトイレ装置は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)800と、その上に設けられた衛生洗浄装置100と、を備える。衛生洗浄装置100は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。但し、便蓋300は、必ずしも設けられていなくともよい。
【0022】
ケーシング400の内部には、便座200に座った使用者の人体局部の洗浄を実現する局部洗浄機能部などが内蔵されている。また、例えばケーシング400には、使用者が便座200に座ったことを検知する着座検知センサ404が設けられている。着座検知センサ404が便座200に座った使用者を検知している場合において、使用者が例えば図示しないリモコンなどの操作部を操作すると、ノズル410を便器800のボウル801内に進出させることができる。なお、図1に表した衛生洗浄装置100では、ノズル410がボウル801内に進出した状態を表している。
【0023】
ノズル410の先端部には、ひとつあるいは複数の吐水孔411が設けられている。そして、ノズル410は、その先端部に設けられた吐水孔411から水を噴射して、便座200に座った使用者の人体局部を洗浄することができる。例えば、図1に表したノズル410では、ふたつの吐水孔411のうちの一方の吐水孔411は、ビデ洗浄用の吐水孔であり、他方の吐水孔411は、おしり洗浄用の吐水孔である。なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。
【0024】
図2は、本実施形態にかかる衛生洗浄装置の要部構成を表す概念模式図である。
図3および図4は、本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態の概略を表す概念模式図である。
なお、図4は、図3に表した矢印A15の方向にみたときの着水位置における洗浄水の状態の概略を表す概念模式図である。
【0025】
本実施形態のノズル410は、図1に関して前述したように、便座200に座った使用者の人体局部に向けて吐水孔411から洗浄水500を噴射することができる。このとき、洗浄水500は、図2に表したように、中央部に中空部分を有する液膜として中空円錐状に吐水孔411から吐水される。つまり、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、ノズル410の吐水孔411から中空円錐状に洗浄水を吐水する吐水手段401を備える。以下、説明の便宜上、このように中空円錐状に吐水された洗浄水を「中空円錐状吐水」と称する。
【0026】
中空円錐状吐水510の中空部分では、液膜の流れに追随して中空円錐状吐水510の中空部分から外側へ排出される空気量が多くなる。一方で、中空円錐状吐水510の中空部分に入る空気の通り道は、中空円錐状吐水510の液膜によって遮られるため、中空円錐状吐水510の中空部分から外側へ排出される空気の中央部に限られることになる。そのため、中空円錐状吐水510の中空部分に入ってくる空気量が少なくなり、中空円錐状吐水510の中空部分では、外気と比べて圧力が低くなった負圧状態が発生している。
【0027】
本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、中空円錐状吐水510が人体局部に着水する前に、中空円錐状吐水510の中空部分を充填するように中空円錐状吐水510の液膜を破砕する破砕手段を備える。つまり、破砕手段は、詳細については後述するが、図2に表したように、中空円錐状吐水510の液膜を破砕することにより粒化された水流(以下、説明の便宜上、「粒化水流」と称する)を生成する。そして、液膜の進行方向に進行する粒化水流520の一部は、中空円錐状吐水510の中空部分に発生した負圧によって、その中空部分に流れ込む。これにより、破砕手段は、その粒化水流520により中空円錐状吐水510の中空部分を充填することができる。
【0028】
すなわち、図2においては、ノズル410から噴射された洗浄水500は、まず中空円錐状吐水510として吐水孔411から吐水され、粒化水流520により中空部分を充填された状態で便座200に座った使用者の人体局部のより広い範囲に着水できる。
【0029】
図2に表したように、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、吐水手段401よりも下流側であってノズル410の吐水孔411よりも上流側に設けられた液膜厚さ拡大手段402を備える。この液膜厚さ拡大手段402は、中空円錐状吐水510の液膜の厚さを拡大させる。より具体的に説明すると、液膜厚さ拡大手段402は、ノズル410の吐水孔411から吐水された中空円錐状吐水510の液膜の厚さD2を、吐水手段401から吐水された中空円錐状吐水の液膜の厚さD1よりも厚くすることができる。そのため、中空円錐状吐水510の液膜を破砕することにより生成された粒化水流520の径は、例えば約1mm(ミリメートル)程度であり、径が例えば約10〜100μm(ミクロン)程度の霧と比較すると大きい。
【0030】
図3(a)および図3(b)に表したように、ノズル410から噴射された洗浄水500は、第1の吐水501と、第2の吐水502と、を有する。つまり、ノズル410は、第1の吐水501と、第2の吐水502と、を結果的に吐水する形となっている。第1の吐水501と第2の吐水502は、ノズル410から交互に吐水される。第1の吐水501の流速は、第2の吐水502の流速よりも速い。言い換えれば、第2の吐水502の流速は、第1の吐水501の流速よりも遅い。つまり、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100では、第2の吐水502の流速よりも速い流速を有する第1の吐水501と、第1の吐水501の流速よりも遅い流速を有する第2の吐水502と、が生成される。
【0031】
図3(a)に表したように、第1の吐水501は、第1の中空円錐状吐水511として吐水孔411から吐水され、着水する前に破砕されて第1の粒化水流521となる。そして、複数の第1の粒化水流521は、第1の水流群521aを形成する。
図3(b)に表したように、第2の吐水502は、第2の中空円錐状吐水512として吐水孔411から吐水され、着水する前に破砕されて第2の粒化水流522となる。そして、複数の第2の粒化水流522は、第2の水流群522aを形成する。
つまり、中空円錐状吐水510は、第1の中空円錐状吐水511と、第2の中空円錐状吐水512と、を含む。粒化水流520は、第1の粒化水流521と、第2の粒化水流522と、を含む。第1の水流群521aと、第2の水流群522aと、は、交互に吐水される。
【0032】
第1の吐水501の流速は、第2の吐水502の流速よりも速いため、第1の中空円錐状吐水511の液膜の厚さは、第2の中空円錐状吐水512の液膜の厚さよりも厚い。また、第1の中空円錐状吐水511の液膜の長さは、第2の中空円錐状吐水512の液膜の長さよりも長い。つまり、第1の中空円錐状吐水511の液膜は、第2の中空円錐状吐水512の液膜と比較して、より厚くなった状態およびより長くなった状態で破砕され第1の粒化水流521となる。そのため、第1の粒化水流521は、第2の粒化水流522と比較すると、より大きい粒径およびより速い流速を有する。
【0033】
前述したように、第1の中空円錐状吐水511の液膜は、第2の中空円錐状吐水512の液膜と比較して、より長くなった状態で、すなわち吐水孔411からより遠い位置で破砕される。そのため、第1の中空円錐状吐水511の液膜は、第2の中空円錐状吐水512の液膜と比較して、より広がった状態で破砕される。そのため、図3(a)に表したように、第1の粒化水流521は、第2の粒化水流522と比較して、より大きい粒径およびより速い流速を有する状態で、更に大部分の第1の粒化水流521が中空部分に充填される前に、人体局部の外周部に着水する。そして、図3(a)に表した矢印A11および矢印A12のように、第1の吐水501は、第1の粒化水流521として人体局部の外周部に着水し、人体局部の中心部の方向へ向かう流れを有する。
【0034】
一方、第2の吐水502は、第1の吐水501とは反対の作用を有する。すなわち、第2の中空円錐状吐水512の液膜は、第1の中空円錐状吐水511の液膜と比較して、より薄い状態およびより短い状態で破砕され第2の粒化水流522となる。そのため、第2の粒化水流522は、第1の粒化水流521と比較すると、より小さい粒径およびより遅い流速を有する。
【0035】
また、第2の中空円錐状吐水512の液膜は、第1の中空円錐状吐水511の液膜と比較して、あまり広がらない状態で破砕される。そのため、図3(b)に表したように、第2の粒化水流522は、第1の粒化水流521と比較して、より小さい粒径およびより遅い流速を有する状態で、更に、中空部分に充填されて、人体局部の中心部に着水する。そして、図3(b)に表した矢印A13および矢印A14のように、第2の吐水502は、第2の粒化水流522として人体局部の中心部に着水し、人体局部の外周部の方向へ向かう流れを有する。
【0036】
後に詳述するように、第1の吐水501の人体局部における着水力は、第2の吐水502の人体局部における着水力よりも大きい。
【0037】
ここで、本願明細書において、「着水力」とは、洗浄水500の着水流速、着水水量、着水圧力の少なくともいずれかを意味し、また、単位時間当たりの単位面積あたりの洗浄水が有する運動量であり、汚れを落としたり、剥いだり、浮かせたりする力をいう。また、「着水流速」とは、着水部あるいは吐水孔411から所定の距離だけ離れた位置における洗浄水500の流速をいう。また、「着水圧力」とは、着水部あるいは吐水孔411から所定の距離だけ離れた位置における単位面積あたりの運動量であり、汚れを落としたり、剥いだり、浮かせたりする力をいう。また、「着水水量」とは、着水部あるいは吐水孔411から所定の距離だけ離れた位置において単位時間あたりに着水する水量であり、汚れを洗い流す力をいう。
【0038】
これにより、第1の吐水501は、第2の吐水502と比較すると、より大きい粒径およびより速い流速を有する。そのため、第1の吐水501の着水水量は、第2の吐水502の着水水量よりも多い。第1の吐水501の着水流速は、第2の吐水502の着水流速よりも速い。第1の吐水501の着水力は、第2の吐水502の着水力よりも大きい。その結果、第1の吐水501は、第2の吐水502と比較すると、より大きい量感を与えることができる。また、人体局部に着水した後の第1の吐水501の流れと、人体局部に着水した後の第2の吐水502の流れと、により、より大きい洗浄力を確保することができる。ここで、本願明細書において「量感」とは、たっぷりとした水量による太い水流が肌表面に着水する時の皮膚感覚であり、あるいは、多い流量で汚れを洗い流す感覚をいうものとする。物理的な吐水量が減少しても、人体の肌表面部位に点在する感覚器官への吐水による作用効果が同じであれば、同じ「量感」があるものとされている。また、ノズル410から噴射された洗浄水500は、第1の吐水501と、第2の吐水502と、を有するため、少ない流量で量感を与えることができ、且つ洗浄力を確実に確保しつつ粒化水流521、522により人体局部を優しく洗浄することができる。
【0039】
中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置は、周期的に変動する。例えば、第1の吐水501と第2の吐水502とは、ノズル410から結果的に交互に吐水される。前述したように、第1の中空円錐状吐水511の液膜は、第2の中空円錐状吐水512の液膜と比較して、より長くなった状態で、すなわち吐水孔411からより遠い位置で破砕される。一方、第2の中空円錐状吐水512の液膜は、第1の中空円錐状吐水511の液膜と比較して、より短い状態で、すなわち吐水孔411により近い位置で破砕される。これにより、中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置は、周期的に変動する。
中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置を周期的に変動させる手段については、後に詳述する。
【0040】
中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置が周期的に変動すると、中空円錐状吐水510の液膜が破砕された後において、粒化水流520の粒径および流速が周期的に変動する。そのため、おしり洗浄に求められる適度な量感を与えることができ、人体局部を優しく洗浄することができる。
【0041】
また、中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置が周期的に変動すると、中空円錐状吐水510の液膜が破砕される際の液膜の長さおよび液膜の厚さが周期的に変動する。これにより、第1の粒化水流521(あるいは第1の水流群521a)および第2の粒化水流522(あるいは第2の水流群522a)は、中空円錐状吐水510の液膜が破砕される際の液膜の長さおよび液膜の厚さを周期的に変動させることで生成される。
【0042】
第1の吐水501と第2の吐水502とは、それぞれが独立した状態で人体局部に着水する。つまり、第1の水流群521aと、第2の水流群522aとは、それぞれが独立した状態で人体局部に着水する。言い換えれば、第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)と第2の吐水502(あるいは第2の水流群522a)とは、互いに干渉しない状態あるいは一方が他方から乱されない状態で人体局部に着水する。
【0043】
すなわち、第1の中空円錐状吐水511の液膜は、第2の中空円錐状吐水512の液膜と比較して、人体局部に近い位置で破砕され、より広がった状態で破砕される。そのため、第1の吐水501は、第2の吐水502ほどには第1の粒化水流521により中空部分が充填されることなく人体局部の外周部に着水する。そのため、図4に表したように、第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)は、リング状の吐水として人体局部の外周部に着水する。
【0044】
一方、第2の中空円錐状吐水512の液膜は、第1の中空円錐状吐水511の液膜と比較して、人体局部から遠い位置で破砕され、あまり広がらない状態で破砕される。そのため、第2の粒化水流522は、第1の粒化水流521と比較して、より長い時間にわたって中空部分に引き込まれる。そして、第2の吐水502は、第1の吐水501と比較して、第2の粒化水流522により中空部分がより充填された状態で人体局部の中心部に着水する。そのため、図4に表したように、第2の吐水502(あるいは第2の水流群522a)は、中実状の吐水として人体局部の中心部に着水する。
【0045】
図4に表したように、第2の吐水502(あるいは第2の水流群522a)は、リング状の吐水として人体局部に着水する第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)の内側において中実状の吐水として人体局部に着水する。
【0046】
これによれば、量感を与える第1の吐水501は、人体局部の近傍のうちで量感を感じやすい人体局部の外周部にリング状の吐水として着水する。そのため、第1の吐水501は、十分な量感あるいはしっかりとした量感を与えることができる。一方、第2の吐水502は、より小さい粒径およびより遅い流速を有する状態で人体局部の中心部に中実状の吐水として着水する。そのため、第2の吐水502は、洗浄力を確保しつつ、人体局部の中心部の汚れをさっと洗い流し、人体局部の中心部を優しく洗浄することができる。
【0047】
また、前述したように、結果的に、第1の吐水501と第2の吐水502とは、ノズル410から交互に吐水される。つまり、リング状の吐水を有する第1の吐水と、中実状の吐水を有する第2の吐水と、が交互に吐水される。これにより、中空部分が中抜けしていない連続した吐水として使用者に感じさせることができる。そのため、少ない流量で量感を与えることができ、洗浄力を確保することができる。また、前述したように、第1の吐水501と第2の吐水502とは、それぞれが独立した状態で人体局部に着水する。そのため、少ない流量で中空部分の中抜け感を抑え、広い範囲を優しく一度にさっと洗浄することができる。これにより、快適なおしり洗浄を実現することができる。
【0048】
第1の水流群521aと第2の水流群522aとが人体局部に着水する時間間隔は、人が連続的な吐水であると感ずる時間間隔である。これによれば、より大きい粒径およびより速い流速を有する第1の水流群521aにより、おしり洗浄に求められる十分な着水力を付与することができる。一方、より小さい粒径およびより遅い流速を有する第2の水流群522aにより、例えば必要以上の大流量による洗浄のときに受ける不快感を感ずることはなく、広い範囲を優しく一度にさっと洗浄することができる。また、人が連続的な吐水であると感ずる時間間隔で洗浄水を着水させるため、より少ない流量でより広い範囲に、おしり洗浄に求められる適度な量感を与えることができる。そして、快適なおしり洗浄を実現することができる衛生洗浄装置を提供することができる。
【0049】
言い換えれば、本実施形態によれば、おしり洗浄に求められる適度な量感と、上質な洗い心地と、の両立を図ることができる。上質な洗い心地は、優しい洗浄や、包み込むような洗浄や、水跳ねを抑えた洗浄などにより実現され得る。これにより、使用者が人体局部を洗える喜びを感じることができる衛生洗浄装置を提供することができる。
【0050】
なお、第1の吐水501から第2の吐水502へ遷移するときには、あるいは第2の吐水502から第1の吐水501へ遷移するときには、リング状の吐水と中実状の吐水とがわずかに干渉する場合がある。例えば、リング状の吐水がリングの内側へ流れ中実状の吐水と干渉したり、中実状の吐水がリングの外側へ流れリング状の吐水と干渉する場合がある。この場合でも、本願明細書においては、それぞれが独立した状態で人体局部に着水する吐水、または互いに干渉しない状態あるいは一方が他方から乱されない状態で人体局部に着水する吐水を第1の吐水501および第2の吐水502というものとする。そして、第2の吐水502(あるいは第2の水流群522a)は、リング状の吐水として人体局部に着水する第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)の内側において、第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)とは独立した状態で中実状の吐水として人体局部に着水する。
【0051】
図5は、着水部あるいは吐水孔から所定の距離だけ離れた位置における洗浄水の着水力を表すグラフ図である。
図2〜図4に関して前述したように、第1の粒化水流521は、第2の粒化水流522と比較して、より大きい粒径およびより速い流速を有する状態で人体局部の外周部に着水する。そのため、図5に表したように、人体局部における第1の吐水501の着水力は、人体局部における第2の吐水502の着水力よりも大きい。つまり、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、ノズル410から噴射される洗浄水500の流速を上げることで、人体局部における第1の吐水501の着水力を人体局部における第2の吐水502の着水力よりも大きくすることができる。また、人体局部における第1の吐水501の着水力は、使用者に対して量感を感じさせる着水力F1よりも大きい。
【0052】
これによれば、ノズル410から噴射される洗浄水500の水量を上げなくとも、洗浄水500の流速を上げることで着水力を大きくすることができる。そのため、少ない流量で十分な量感を与えることができ、十分な洗浄力を確保することができる。また、第1の吐水501は、人体局部の近傍のうちで量感を感じやすい人体局部の外周部に着水するため、おしり洗浄に求められる十分な量感を与えることができる。
【0053】
また、図5に表したように、人体局部の中心部における第1の吐水501の着水力は、人体局部における第2の吐水502の着水力よりも小さく、汚れを落とすために必要な着水力F2よりも小さい。そのため、例えば直進流が人体局部の中心部に着水する場合と比較して、人体局部の中心部に強い刺激が必要以上に加わることを抑えることができる。例えば、痔や、裂傷や、過度の清拭による擦り傷などが人体局部に存在する使用者に対しても、快適なおしり洗浄を実現することができる。
【0054】
図2〜図4に関して前述したように、第2の粒化水流522は、第1の粒化水流521と比較して、より小さい粒径およびより遅い流速を有する状態で人体局部の中心部に着水する。そのため、図5に表したように、人体局部における第2の吐水502の着水力は、人体局部における第1の吐水501の着水力よりも小さい。また、人体局部における第2の吐水502の着水力は、使用者に対して量感を感じさせる着水力F1よりも小さく、汚れを落とすために必要な着水力F2よりも大きい。第2の吐水502が着水する範囲は、一般的に汚れが付着する範囲を含むことができる。これにより、第2の吐水502は、十分な洗浄力を確保しつつ、人体局部の中心部に強い刺激が必要以上に加わることを抑え、広い範囲を優しく一度にさっと洗浄することができる。
【0055】
次に、本発明者が実施した量感(たっぷり感)の検討について、図面を参照しつつ説明する。
図6は、洗浄水による着水部の振動状態の測定方法を説明するための模式図である。
また、図7は、洗浄水による着水部の振動状態の測定結果の一例を例示するグラフ図である。
なお、図7(a)は、計測波形の一例を例示するグラフ図である。図7(b)は、図7(a)に表したグラフ図をフーリエ変換した結果の一例を例示するグラフ図である。
【0056】
本発明者は、ノズル410から吐水される洗浄水500による着水部の振動状態を測定した。具体的には、図6に表したように、便座200に座った使用者の人体局部に相当する位置に吐水受け皿610を設置した。吐水受け皿610は、一辺が10ミリメートル(mm)の正方形を呈する。そして、吐水受け皿610が受ける力を測定する力センサ620を設置した。本測定において使用した力センサ620は、「KISTLER製 9207」である。力センサ620は、吐水受け皿610が受けた力を電気信号に変換し、例えばスペクトラムアナライザなどの計測器630へ出力する。
【0057】
計測器630が計測した波形の一例は、図7(a)に表した如くである。すなわち、図7(a)に表したグラフ図の横軸は、時間(秒:s)を表す。図7(a)に表したグラフ図の縦軸は、電圧(ボルト:V)を表す。本測定において、ノズル410から吐水される洗浄水500の流量は、約430ml/min程度である。また、ノズル410から吐水される洗浄水500には、脈動を与えている。ここで、本願明細書において「脈動」とは、後述する脈動発生手段により生ずる圧力の変動のことである。つまり、後述する脈動発生手段は、流路内の水の圧力を変動させる装置である。これについては、後に詳述する。
【0058】
図7(a)に表したグラフ図をフーリエ変換した結果の一例は、図7(b)に表した如くである。すなわち、図7(b)に表したグラフ図の横軸は、周波数(ヘルツ:Hz)表す。図7(b)に表したグラフ図の縦軸は、振幅を表す。これによれば、図7(a)に表したグラフ図(計測器630が計測した波形の一例)には、周波数が約70Hz程度の成分とその倍数の成分が多く含まれることが分かる。このようにして、本発明者は、異なる吐水形態の洗浄水による着水部の振動状態をそれぞれ測定し、たっぷり感の違いと振動状態の違いとの関係について検討した。
【0059】
図8は、たっぷり感と脈動の有無との関係を説明するためのグラフ図である。
なお、図8(a)は、洗浄水に脈動を与えた場合における計測波形をフーリエ変換した結果を例示するグラフ図である。図8(b)は、洗浄水に脈動を与えていない場合における計測波形をフーリエ変換した結果を例示するグラフ図である。
【0060】
本検討では、ノズル410から吐水される洗浄水500の流量は、約430ml/min程度である。また、本発明者によるヒアリングの結果、図8(a)に表したグラフ図の吐水形態に対しては、たっぷり感があるという評価が得られた。一方、図8(b)に表したグラフ図の吐水形態に対しては、ややたっぷり感があるという評価が得られた。つまり、図8(a)に表したグラフ図の吐水形態に対してたっぷり感があるという評価数は、図8(b)に表したグラフ図の吐水形態に対してたっぷり感があるという評価数よりも多かった。
【0061】
図8(a)に表したように、たっぷり感があるという評価数がより多い吐水形態では、吐水受け皿610が受けた力の計測波形に、周波数が約70Hz程度の成分とその倍数の成分とがより多く含まれる。一方で、図8(b)に表したように、たっぷり感があるという評価数がより少ない吐水形態では、吐水受け皿610が受けた力の計測波形に、周波数が約70Hz程度の成分とその倍数の成分とがあまり含まれない。
【0062】
これにより、たっぷり感の差違は、洗浄水に与える脈動の有無に関係する。そして、洗浄水に脈動を与えると、より大きいたっぷり感を与えることができる。また、たっぷり感の差違は、周波数が約70Hz程度の成分とその倍数の成分との振幅の大きさに関係する。
【0063】
図9は、たっぷり感と周波数との関係を説明するための表およびグラフ図である。
なお、図9(a)は、たっぷり感と周波数との関係を説明するための表である。図9(b)は、周波数と吐水荷重との関係を例示するグラフ図である。
【0064】
本検討では、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数を、50Hz程度、71.4Hz程度、100Hz程度、150Hz程度に設定し、洗浄水に脈動を与えた。また、電圧を供給する時間を、約3.25ミリ秒(ms)程度に設定した。また、ノズル410から吐水される洗浄水500の流量を、約200ml/min程度および約130ml/min程度に設定した。
【0065】
ここで、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数を変化させると、着水部の振動の周波数、具体的には洗浄水が着水する皮膚の振動の周波数が変化する。つまり、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数を変化させることは、着水部の振動の周波数を変化させることに相当する。着水部の振動の周波数は、図6および図7に関して前述した測定方法により測定可能である。
【0066】
図9(a)に表したように、本発明者によるヒアリングの結果、ノズル410から吐水される洗浄水500の流量が約130ml/min程度である場合において、周波数が50Hz程度であるときには、周波数が比較的低いため、連続的な吐水ではないと感ずる(やや断続感を感ずる)一方で、たっぷり感があり、洗浄水500の当たり方が重いという評価が得られた。
【0067】
周波数が71.4Hz程度であるときには、たっぷり感があり、洗浄水500の当たり方がやや重いという評価が得られた。周波数が100Hz程度であるときには、たっぷり感があり、洗浄水500の当たり方の重さが減少したという評価が得られた。これらの評価は、図9(b)に表したように、吐水荷重の変化と略同じ傾向を有する。
【0068】
すなわち、図9(b)に表したグラフ図の横軸は、周波数(Hz)を表す。図9(b)に表したグラフ図の縦軸は、吐水荷重(ミリニュートン:mN)を表す。本検討において吐水荷重とは、吐水受け皿610が受ける力(荷重)である。つまり、吐水荷重は、力センサ620により測定され得る。周波数が上昇するにつれて、吐水荷重が減少している。この吐水荷重の減少傾向と同様に、周波数が上昇するにつれて、洗浄水500の当たり方の重さの評価が低下している。また、計測波形をフーリエ変換した結果のグラフ図に例示したように(図9(a)参照)、周波数が上昇するにつれて、周波数が70Hz程度の成分とその倍数の成分の振幅が減少した。
【0069】
続いて、周波数が150Hz程度であるときには、あまりたっぷり感がなく、洗浄水500の当たり方が軽いという評価が得られた。そこで、ノズル410から吐水される洗浄水500の流量を約200ml/min程度に設定した。そうすると、図9(a)に表したように、周波数が70Hz程度の成分とその倍数の成分の振幅が上昇した。また、図9(b)に表したように、吐水荷重が上昇した。それにもかかわらず、流量が約130ml/min程度である場合と同様に、あまりたっぷり感がなく、洗浄水500の当たり方が軽いという評価が得られた。
【0070】
これにより、たっぷり感の差違は、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数あるいは着水部の振動の周波数(具体的には洗浄水が着水する皮膚の振動の周波数)に関係する。そして、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数あるいは着水部の振動の周波数を100Hzよりも高い周波数に設定しても、あまりたっぷり感がなく、洗浄水500の当たり方が軽いという評価が得られる。また、吐水の断続感を解消することができる一方で、振動感を与えることができなくなり、おしり洗浄に求められる適度なたっぷり感を与えることができないおそれがある。一方、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数あるいは着水部の振動の周波数を50Hzよりも低い周波数に設定すると、たっぷり感があり、洗浄水500の当たり方が重いという評価が得られる一方で、断続感を感ずるという評価が得られる。そのため、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数あるいは着水部の振動の周波数を50Hz以上100Hz以下に設定すると、たっぷり感があり、洗浄水500の当たり方が重いという評価が得られる。つまり、後述する脈動発生手段に供給する電圧の波形の周波数あるいは着水部の振動の周波数を50Hz以上100Hz以下に設定することで、おしり洗浄に求められる適度なたっぷり感を与えることができる。
【0071】
次に、本実施形態のノズル410の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
図10は、本実施形態のノズルの具体例を例示する断面模式図である。
【0072】
本具体例のノズル410は、図10に表したように、ノズル本体(吐水手段)420と、スロート(液膜厚さ拡大手段および破砕手段)430と、を有する。ノズル本体420の内部には、図示しない水源から供給された洗浄水が通過するノズル本体流路421と、旋回流を生成可能な旋回室423と、旋回室423からの洗浄水をスロート430へ導く連通路425と、が設けられている。また、旋回室423の中央部には、より安定した旋回力の旋回流を生成する突設部424が設けられている。
【0073】
旋回室423は、底部においてより大きな径を有する大径部内周壁423eと、連通路425へ向かうにつれて収縮した径を有する傾斜内周壁423fと、により形成され、中空室とされている。そして、傾斜内周壁423fは、その一端において連通路425に接続されている。一方、ノズル本体流路421は、旋回室423に偏心して接続されている。より具体的には、ノズル本体流路421は、旋回室423の大径部内周壁423eの接線方向に接続されている。
【0074】
スロート430は、筒状に形成されている。そして、スロート430の内部には、ノズル本体420の連通路425から吐水された洗浄水が通過するスロート流路431が設けられている。そして、スロート流路431の一端には、スロート流路431を通過した洗浄水をスロート430の外部へ吐水する吐水孔433が形成されている。図10に表した吐水孔433は、図1および図2に表した吐水孔411に相当する。吐水孔433の近傍のスロート流路431には、吐水孔433へ向かうにつれて流路が拡大するテーパ部432が形成されている。
【0075】
なお、本具体例のノズル410では、ノズル本体420とスロート430との間に隙間が設けられているが、この隙間は必ずしも設けられていなくともよい。すなわち、ノズル本体420とスロート430とが一体的に形成され、連通路425とスロート流路431とが接続されていてもよい。
【0076】
図示しない水源から洗浄水がノズル410へ供給されると、その洗浄水は、ノズル本体流路421を通過して旋回室423へ流入する。ここで、ノズル本体流路421は、旋回室423の大径部内周壁423eの接線方向に接続されているため、旋回室423へ流入した洗浄水は、大径部内周壁423eおよび傾斜内周壁423fに沿って旋回する。そして、旋回室423において旋回した洗浄水は、旋回力を維持しつつ連通路425を通過し、連通路425の一端(吐水口)からスロート430のスロート流路431内へ吐水される。このとき、ノズル本体420から吐水された洗浄水は、旋回力を維持しているため、中央部に中空部分を有する液膜として中空円錐状に吐水される。
【0077】
そして、ノズル本体420から中空円錐状に吐水された洗浄水は、スロート流路431の内壁で受け止められる。続いて、スロート流路431に流入した洗浄水は、旋回力を維持しつつスロート流路431の内壁に沿って流れ、吐水孔433へ導かれる。すなわち、スロート流路431を通過する洗浄水は、スロート流路431の内壁に付着するように流れる。そのため、スロート流路431を流れる洗浄水は、スロート流路431の内壁から摩擦力による抵抗を受け、その洗浄水の流速は、吐水孔433へ向かうにつれて遅くなる。これにより、図10に表したように、吐水孔433の近傍の液膜の厚さは、ノズル本体420から吐水されたときの液膜の厚さ、あるいはスロート流路431に流入した直後の液膜の厚さよりも厚い。あるいは、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510の液膜の厚さD2は、ノズル本体420から吐水された中空円錐状吐水の液膜の厚さD1よりも厚い。つまり、本具体例では、ノズル本体420は、図2に関して前述した吐水手段401として機能する。
【0078】
さらに、スロート流路431を流れる洗浄水の流速は、スロート流路431の内壁の近傍すなわち境界層よりもスロート流路431の中心部の方が速い。つまり、スロート430は、スロート流路431の内壁の近傍を流れる洗浄水の流速と、スロート流路431の内壁の近傍よりも中心部の側を流れる洗浄水の流速と、を異ならせることができる。言い換えれば、スロート430は、洗浄水の液膜の外側(スロート流路431の内壁の側)の流れと、洗浄水の液膜の内側(スロート流路431の中心部の側)の流れと、の間において速度差をつけることができる。これは、液膜の外側(スロート流路431の内壁の側)の洗浄水が、液膜の内側(スロート流路431の中心部の側)の洗浄水よりも大きな摩擦力をスロート流路431の内壁から受けることにより、内側の洗浄水よりも減速するためである。
【0079】
そのため、スロート流路431を流れる洗浄水の内部には、図10に表した矢印A1のように、液膜を横断する方向に渦流が発生する。また、吐水孔433の近傍におけるスロート流路431には、吐水孔433へ向かうにつれて流路が拡大するテーパ部432が形成されているため、吐水孔433から吐水される洗浄水は、テーパ部432に沿って流れる。そのため、吐水孔433から吐水される洗浄水の内部には、液膜を横断する方向に渦流がより発生しやすい。
【0080】
そうすると、吐水孔433から吐水された洗浄水は、中央部に中空部分を有する液膜として、すなわち中空円錐状吐水510として吐水されるが、吐水孔433からある程度離間した位置において粒化水流520へ遷移する。より具体的には、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510の内部には、液膜を横断する方向に渦流が発生しているため、吐水孔433からある程度離間した位置において、隣接する渦流同士の間に亀裂が生ずる。そうすると、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510は、図10に表したように、吐水孔433からある程度離間した位置において破砕される。このようにして、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510は、粒化水流520へ遷移する。つまり、本具体例のスロート430は、液膜厚さ拡大手段402として機能するとともに、破砕手段としても機能する。
【0081】
なお、破砕手段は、スロート430に限定されるわけではない。例えば、破砕手段は、液流や気流などを生成可能な図示しない流体噴射装置を有していてもよい。図示しない流体噴射装置は、液流や気流を図示しない噴射孔から噴射し、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510に衝突させることができる。このようにして、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510は、噴射孔から噴射された液流や気流により破砕され、粒化水流520へ遷移してもよい。
【0082】
次に、脈動発生手段について、図面を参照しつつ説明する。
図11は、本実施形態の脈動発生手段の内部構造を例示する断面模式図である。
本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、脈動発生手段(破砕位置変動手段)470を備える。脈動発生手段470は、第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)および第2の吐水502(あるいは第2の水流群522a)を形成し、第1の吐水501と第2の吐水502とを交互に吐水させることができる。また、脈動発生手段470は、中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置を周期的に変動させることができる。
【0083】
具体的には、脈動発生手段470は、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与え、吐水孔433から吐水される洗浄水に脈動を与えることができる。ここで、本願明細書において「脈動」とは、脈動発生手段470により生ずる圧力の変動のことである。そのため、脈動発生手段470は、ノズル本体流路421内の水の圧力を変動させる装置である。
【0084】
脈動発生手段470は、図11に表したように、ノズル本体流路421に接続されるシリンダ471と、シリンダ471の内部に進退自在に設けられたプランジャ472と、プランジャ472の内部に設けられた逆止弁473と、励磁電圧を制御することでプランジャ472を進退させる脈動発生コイル474と、を有する。
【0085】
そして、プランジャ472の位置が、ノズル410の側(下流側)に変化した場合には、脈動発生手段470よりも下流側の水の圧力が増加し、ノズル410とは反対の側(上流側)に変化した場合には、脈動発生手段470よりも下流側の水の圧力が減少するように逆止弁が配設されている。言い換えれば、プランジャ472の位置が、ノズル410の側(下流側)に変化した場合には、脈動発生手段470よりも上流側の水の圧力は減少し、ノズル410とは反対の側(上流側)に変化した場合には、脈動発生手段470よりも上流側の水の圧力は増加する。
【0086】
そして、脈動発生コイル474の励磁を制御することにより、プランジャ472を上流側・下流側に進退させる。すなわち、ノズル本体流路421内の水に脈動を付加する場合(ノズル本体流路421内の水の圧力を変動させる場合)には、脈動発生コイル474に供給する励磁電圧を制御することにより、プランジャ472をシリンダ471の軸方向(上流方向・下流方向)に進退させる。
【0087】
この場合、プランジャ472は、脈動発生コイル474の励磁により図示する原位置(プランジャ原位置)から下流側475に移動する。そして、脈動発生コイル474の励磁が消えると、復帰スプリング476の付勢力によって、原位置に復帰する。この際、緩衝スプリング477によってプランジャ472の復帰の動作が緩衝される。プランジャ472は、その内部にダックビル式の逆止弁473を有し、上流側への逆流を防止している。
【0088】
したがって、プランジャ472は、プランジャ原位置から下流側へ移動する際には、シリンダ471内の水を加圧して下流側のノズル本体流路421に押し流せるようになっている。言い換えれば、プランジャ472は、プランジャ原位置から下流側へ移動する際には、上流側のノズル本体流路421内の水を減圧してシリンダ471内に吸引することができる。この際、プランジャ原位置と、下流側に移動した位置とは常に一定であることから、プランジャ472が動作する際に下流側のノズル本体流路421に送られる洗浄水の量は一定となる。
【0089】
その後、原位置に復帰する際には、逆止弁473を経てシリンダ471内に洗浄水が流れ込む。そのため、次回のプランジャ472の下流側移動の際には、改めて、一定量の洗浄水が下流側のノズル本体流路421に送られることになる。このようにして、図11に表した脈動発生手段470は、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えることができる。
【0090】
なお、本実施形態の脈動発生手段は、これだけに限定されるわけではない。
例えば、本実施形態の脈動発生手段は、第1の圧力変調装置と第2の圧力変調装置とからなる2連構成とされていてもよい。この場合には、第1の圧力変調装置および第2の圧力変調装置には、それぞれ円柱状の空間を有するシリンダが設けられている。シリンダ内には、ピストンが設けられている。ピストンには、例えばOリングが装着されている。ピストンとシリンダとで画されたそれぞれの空間が加圧室となる。
【0091】
ピストンは、上下に往復動することができる。加圧室内が洗浄水で満たされている際に、ピストンが、下死点(原位置)から上死点に移動すると加圧室の容積が縮小するので、洗浄水が加圧されて、ノズル本体流路421の下流側に向けて押し流される。
【0092】
そして、その後、上死点から下死点(原位置)に復帰する際に、加圧室内の圧力が低下し、洗浄水が加圧室内に流入する。その後、次回のピストン移動の際に、洗浄水が再度加圧され、この工程を連続して行うことで、圧力変動すなわち脈動が発生する。このようにして、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えてもよい。
【0093】
次に、脈動発生手段の動作と水の流速との関係について、図面を参照しつつ説明する。 図12は、脈動発生手段に印加する電圧波形および脈動発生手段の下流側の水の流速波形を例示するグラフ図である。
なお、図12(a)は、本実施形態の脈動発生手段に印加する電圧波形を例示するグラフ図である。図12(b)は、本実施形態の脈動発生手段の下流側の水の流速波形を例示するグラフ図である。
【0094】
図11に関して前述したように、脈動発生コイル474に供給する励磁電圧を制御することにより、プランジャ472を駆動し、ノズル本体流路421内の水に脈動を付加することができる。脈動発生コイル474に供給する電圧の波形の周波数(1/T1)は、50Hz以上100Hz以下である。具体的には、その周波数は、例えば約70Hz程度である。電圧を供給する時間t1の最大値は、例えば約3.25ミリ秒(ms)程度である。そのため、脈動発生コイル474に供給する電圧の波形のデューティ比の最大値は、例えば約23.2%程度である。
【0095】
まず、脈動発生コイル474への電圧の供給を停止すると、プランジャ472が上流側へ移動し、脈動発生手段470よりも下流側の水の圧力は減少する。そのため、図12(b)に表した流速V1〜流速V2のように、脈動発生手段470よりも下流側の水の流速は減少する。そして、吐水孔411から吐水される中空円錐状吐水510の液膜の流速は、減少する。これにより、中空円錐状吐水510の液膜の流速は、吐水孔411から遠ざかるにつれて速い状態となる。つまり、吐水孔411から相対的に遠い位置に存在する中空円錐状吐水510の液膜と、吐水孔411から相対的に近い位置に存在する中空円錐状吐水510の液膜と、において流速差が生ずる。この流速差により、中空円錐状吐水510の液膜は、薄く引き伸ばされた状態となる。
【0096】
これによれば、水の流速が流速V1から流速V2へ変化する初期段階では、中空円錐状吐水510の液膜は、脈動発生手段470による圧力変動がない場合よりも吐水孔411から遠い位置で破砕される。液膜の厚さの薄い中空円錐状吐水510が吐水孔411から遠い位置において流速の速い状態で粒化水流520へ遷移するため、より小さい粒径およびより速い流速を有する粒化水流520が生成される。
【0097】
続いて、水の流速が流速V1から流速V2へ変化する終期段階では、中空円錐状吐水510の液膜は、脈動発生手段470による圧力変動がない場合よりも吐水孔411に近い位置で破砕される。液膜の厚さの薄い中空円錐状吐水510が吐水孔411に近い位置において流速の遅い状態で粒化水流520へ遷移するため、より小さい粒径およびより遅い流速を有する粒化水流520が生成される。このときの粒化水流が、図2〜図4に関して前述した第2の粒化水流522に相当する。つまり、水の流速が流速V1から流速V2へ変化する終期段階において吐水される洗浄水が、第2の吐水502に相当する。
【0098】
一方、脈動発生コイル474への電圧の供給を開始すると、プランジャ472が下流側へ移動し、脈動発生手段470よりも下流側の水の圧力は増加する。そのため、図12(b)に表した流速V3〜流速V4のように、脈動発生手段470よりも下流側の水の流速は増加する。そして、吐水孔411から吐水される中空円錐状吐水510の液膜の流速は、増加する。これにより、中空円錐状吐水510の液膜の流速は、吐水孔411から遠ざかるにつれて遅い状態となる。つまり、吐水孔411から相対的に遠い位置に存在する中空円錐状吐水510の液膜と、吐水孔411から相対的に近い位置に存在する中空円錐状吐水510の液膜と、において流速差が生ずる。この流速差により、中空円錐状吐水510の液膜の厚さは、吐水孔411から遠ざかるにつれて厚い状態となる。
【0099】
これによれば、水の流速が流速V3から流速V4へ変化する初期段階では、液膜の内部における流速差による破砕の促進が加わり、中空円錐状吐水510の液膜は、脈動発生手段470による圧力変動がない場合よりも吐水孔411に近い位置で破砕される。液膜の厚さの厚い中空円錐状吐水510が吐水孔411に近い位置において流速の遅い状態で粒化水流520へ遷移するため、より小さい粒径およびより遅い流速を有する粒化水流520が生成される。
【0100】
続いて、水の流速が流速V3から流速V4へ変化する終期段階では、中空円錐状吐水510の液膜は、脈動発生手段470による圧力変動がない場合よりも吐水孔411から遠い位置で破砕される。液膜の厚さの厚い中空円錐状吐水510が吐水孔411から遠い位置において流速の速い状態で粒化水流520へ遷移するため、より大きい粒径およびより速い流速を有する粒化水流520が生成される。このときの粒化水流が、図2〜図4に関して前述した第1の粒化水流521に相当する。つまり、水の流速が流速V3から流速V4へ変化する終期段階において吐水される洗浄水が、第1の吐水501に相当する。
【0101】
このようにして、脈動発生手段470は、吐水孔411から吐水される洗浄水500の流速を変化させることができる。また、脈動発生手段470は、リング状の吐水を有する第1の吐水501と、中実状の吐水を有する第2の吐水502と、を交互に吐水させることができる。また、脈動発生手段470は、中空円錐状吐水510の液膜の破砕位置を周期的に変動させることができる。
【0102】
図13は、着水位置の近傍を通過する粒子の速度分布を例示するグラフ図である。
本発明者は、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えた場合に着水位置の近傍を通過する粒子(液滴あるいは粒化水流)の速度分布と、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えない場合に着水位置の近傍を通過する粒子の速度分布と、を測定した。脈動発生手段470に供給する水の水量については、脈動の有無にかかわらず約430cc/分で一定とした。その結果の一例は、図13に表した如くである。
【0103】
図13に表したように、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えた場合における速度分布は、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えない場合における速度分布よりも広がりを有する。言い換えれば、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えない場合における速度分布は、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えた場合における速度分布と比較して、所定の流速を中心に集中している。これにより、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えると、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えない場合と比較して、より速い流速を有する粒化水流520やより遅い流速を有する粒化水流520を生成することができることが分かる。
【0104】
ここで、脈動発生手段470がノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えた場合における速度分布を、液滴の空間占有率が高いときと、液滴の空間占有率が低いときと、で分解する。そうすると、図13に表したように、液滴の空間占有率が高いときの速度分布のピークは、液滴の空間占有率が低いときの速度分布のピークよりも流速の速い側に存在する。ここで、本願明細書において「空間占有率」とは、単位体積当たりの液滴が占める体積の比率あるいは割合をいうものとする。つまり、液滴の速度分布を脈動発生手段470により変化させることで、液滴の空間占有率を変化させることができる。これについて、さらに説明する。
【0105】
図14は、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率を例示するグラフ図である。
図12に関して前述したように、脈動発生手段470は、中空円錐状吐水510の液膜の流速および粒化水流520の流速を変化させることができる。図13に関して前述したように、脈動発生手段470は、中空円錐状吐水510の液膜の流速および粒化水流520の流速を変化させることで、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率を変化させることができる。これにより、脈動発生手段470は、着水位置における水量を変化させることができる。
【0106】
本発明者は、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率の時間推移を測定した。その結果の一例は、図14に表した如くである。ノズル410から噴射される洗浄水500の水勢が「水勢4」および「水勢5」のときには、脈動発生手段470は、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えている。脈動発生コイル474に供給する電圧の波形の周波数は、「水勢4」および「水勢5」のときに50Hz以上100Hz以下である。具体的には、その周波数は、例えば約70Hz程度である。脈動発生コイル474に供給する電圧の波形のデューティ比は、「水勢4」のときに約13.3%程度であり、「水勢5」のときに約23.2%程度である。
【0107】
一方、ノズル410から噴射される洗浄水500の水勢が「水勢3」のときには、脈動発生手段470は、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えていない。脈動発生手段470に供給する水の水量については、脈動の有無にかかわらず約430cc/分で一定とした。つまり、「水勢4」および「水勢5」において、脈動発生コイル474に供給する電圧の波形のデューティ比は、互いに異なり、脈動発生コイル474に供給する電圧の波形の周波数および脈動発生手段470に供給する水の水量は、同じである。
【0108】
図14に表したように、脈動発生手段470は、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与えることで、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率が高い状態と低い状態とを交互に生成することができる。着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率が高い状態とは、例えば図14に表した挿入写真P1の如くである。図14に表した挿入写真P1では、粒子は、挿入写真P1の左側から右側へ向かって流れている。一方、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率が低い状態とは、例えば図14に表した挿入写真P2の如くである。図14に表した挿入写真P2では、粒子は、挿入写真P2の左側から右側へ向かって流れている。
【0109】
図13に関して前述したように、液滴の空間占有率が高いときの速度分布のピークは、液滴の空間占有率が低いときの速度分布のピークよりも流速の速い側に存在する。そのため、脈動発生手段470は、中空円錐状吐水510の液膜の流速および粒化水流520の流速を速くすることにより、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率が高い状態を実現できる。一方、脈動発生手段470は、中空円錐状吐水510の液膜の流速および粒化水流520の流速を遅くすることにより、着水位置の近傍を通過する粒子の空間占有率が低い状態を実現できる。
【0110】
図12に関して前述したように、水の流速が増加する終期段階において吐水される洗浄水は、第1の吐水501に相当する。そのため、図14に表した挿入写真P1は、例えば第1の吐水501を表している。一方、水の流速が減少する終期段階において吐水される洗浄水は、第2の吐水502に相当する。そのため、図14に表した挿入写真P2は、例えば第2の吐水502を表している。
【0111】
これによれば、着水位置(例えば人体局部)における第1の吐水501(あるいは第1の水流群521a)の水量は、着水位置(例えば人体局部)における第2の吐水502(あるいは第2の水流群522a)の水量よりも多い。そのため、第1の吐水501は、おしり洗浄に求められる十分な量感を与えることができる。
【0112】
なお、図14に表したように、脈動発生手段470は、「水勢4」のときの粒子の空間占有率と、「水勢5」のときの粒子の空間占有率と、を異ならせることができる。すなわち、脈動発生コイル474に供給する電圧の波形の周波数および脈動発生手段470に供給する水の水量を変化させることなく、脈動発生コイル474に供給する電圧の波形のデューティ比を変化させることで、粒子の空間占有率を変化させることができる。言い換えれば、脈動発生コイル474に供給する電圧の波形のデューティ比を変化させることで、例えば図14に表した挿入写真P1および挿入写真P2のように、着水位置における水量あるいは着水力を変化させることができる。
【0113】
図15および図16は、本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態を表す写真図である。
本発明者は、脈動発生手段470に印加した電圧の波形の1/8周期ごとにノズル410から吐水された洗浄水の状態を撮影した。図15(a)〜図15(e)および図16(a)〜図16(d)は、それらの写真を時間経過の順に並べたものである。
【0114】
図15(a)に表した状態では、中空円錐状吐水510の液膜は、比較的薄い。そのため、中空円錐状吐水510の液膜は、吐水孔411に比較的近い位置で破砕され、比較的小さい径を有する液滴へ遷移している。図15(a)に表した矢印のように、中空円錐状吐水510の液膜の長さは、比較的短い。つまり、図15(a)に表した状態では、第2の吐水502が生成されている。そして、図15(a)に表した実線の囲み線内において、第2の中空円錐状吐水512の液膜が破砕され第2の粒化水流522へ遷移している。
【0115】
続いて、図15(b)〜図15(d)に表したように、図15(a)において生成された第2の粒化水流522(あるいは第2の水流群522a)は、着水位置へ向かって進行している。また、中空円錐状吐水510の液膜の長さが徐々に伸長している。着水位置は、吐水孔411から例えば約40ミリメートル(mm)〜60mm程度離れた位置である。なお、図15および図16に表した着水位置は、吐水孔411から約40mm程度離れた位置である。
【0116】
続いて、図15(e)に表した状態では、中空円錐状吐水510の液膜は、比較的厚い。そのため、中空円錐状吐水510の液膜は、吐水孔411から比較的遠い位置で破砕され、比較的大きい径を有する液滴へ遷移している。図15(e)に表した矢印のように、中空円錐状吐水510の液膜の長さは、比較的長い。つまり、図15(e)に表した状態では、第1の吐水501が生成されている。そして、図15(e)に表した破線の囲み線内において、第1の中空円錐状吐水511の液膜が破砕され第1の粒化水流521へ遷移している。
【0117】
このとき、実線の囲み線内の第2の粒化水流522は、ほとんど着水位置に到達している。そのため、第1の粒化水流521の流速は、第2の粒化水流522の流速よりも速いにもかかわらず、図16(a)に表したように、実線の囲み線内の第2の粒化水流522が着水位置を通過した後に、破線の囲み線内の第1の粒化水流521が着水位置に到達している。
【0118】
続いて、図16(b)に表したように、破線の囲み線内の第1の粒化水流521は、着水位置を通過した後に実線の囲み線内の第2の粒化水流522に追い付いている。つまり、第1の粒化水流521(あるいは第1の水流群521a)が着水位置に到達する前に第2の粒化水流522(あるいは第2の水流群522a)を追い越すことはない。
【0119】
続いて、図16(c)および図16(d)に表したように、第1の粒化水流521および第2の粒化水流522は、さらに進行する。そして、ノズル410から吐水された洗浄水500の状態は、図15(a)に表した状態へ戻る。
【0120】
このように、本実施形態では、第1の粒化水流521(あるいは第1の水流群521a)が着水位置に到達する前に第2の粒化水流522(あるいは第2の水流群522a)を追い越すことはない。つまり、第1の粒化水流521(あるいは第1の水流群521a)と第2の粒化水流522(あるいは第2の水流群522a)とは、交互に人体局部に着水する。そのため、中空部分が中抜けしていない連続した吐水として使用者に感じさせることができる。また、少ない流量で量感を与えることができ、広い範囲を優しく一度にさっと洗浄することができる。
【0121】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、吐水手段401や液膜厚さ拡大手段402や破砕手段や脈動発生手段470などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などやノズル410やノズル本体420やスロート430の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0122】
100 衛生洗浄装置、 200 便座、 300 便蓋、 400 ケーシング、 401 吐水手段、 402 拡大手段、 404 着座検知センサ、 410 ノズル、 411 吐水孔、 420 ノズル本体、 421 ノズル本体流路、 423 旋回室、 423e 大径部内周壁、 423f 傾斜内周壁、 424 突設部、 425 連通路、 430 スロート、 431 スロート流路、 432 テーパ部、 433 吐水孔、 470 脈動発生手段、 471 シリンダ、 472 プランジャ、 473 逆止弁、 474 脈動発生コイル、 475 下流側、 476 復帰スプリング、 477 緩衝スプリング、 500 洗浄水、 501 第1の吐水、 502 第2の吐水、 510 中空円錐状吐水、 511 第1の中空円錐状吐水、 512 第2の中空円錐状吐水、 520 粒化水流、 521 第1の粒化水流、 521a 第1の水流群、 522 第2の粒化水流、 522a 第2の水流群、 610 吐水受け皿、 620 力センサ、 630 計測器、 800 便器、801 ボウル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの吐水孔から人体局部へ向けて洗浄水を吐水しておしり洗浄をする衛生洗浄装置であって、
前記吐水孔から洗浄水を中空円錐状に吐水させる吐水手段と、
前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水が前記人体局部に着水する前に、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を破砕することにより粒化された水流を生成し、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の中空部分に前記粒化された水流を流し込む破砕手段と、
前記吐水手段よりも下流側であって前記吐水孔よりも上流側に設けられ、前記吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする液膜厚さ拡大手段と、
を備え、
前記粒化された水流は、第1の水流群と、前記第1の水流群よりも小さい粒径および前記第1の水流群よりも遅い流速を有する第2の水流群と、を有し、
前記第1及び第2の水流群が前記人体局部に着水する時間間隔は、人が連続的な吐水であると感ずる時間間隔であることを特徴とする衛生洗浄装置。
【請求項2】
前記人体局部の表面は、前記時間間隔に応じて振動し、
前記表面の振動の周波数は、50ヘルツ以上100ヘルツ以下であることを特徴とする請求項1記載の衛生洗浄装置。
【請求項3】
前記吐水孔から吐水される洗浄水に脈動を付与し、前記第1の水流群および前記第2の水流群を形成する脈動発生手段をさらに備え、
前記脈動発生手段が付与する脈動の周波数は、50ヘルツ以上100ヘルツ以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の衛生洗浄装置。
【請求項4】
前記第1の水流群は、前記人体局部の外周部に着水し、前記第2の水流群は、前記人体局部の中心部に着水することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の衛生洗浄装置。
【請求項5】
前記人体局部における前記第1の水流群の水量は、前記人体局部における前記第2の水流群の水量よりも多いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の衛生洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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