説明

衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタ

【課題】入力する荷重が小さい衝突の場合であっても、相手車両が受ける衝撃を好適に緩和することができる衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタの提供。
【解決手段】フロントアンダーランプロテクタ5は、車両1のメインフレーム3の前方の端部下方で車幅方向に延びる。エネルギ吸収体7は、フロントアンダーランプロテクタ5の後面に固定される一端を有し、一端から車両後方に延びる。フロントアンダーランプロテクタブラケット6は、エネルギ吸収体7の他端に固定され、エネルギ吸収体7を介してフロントアンダーランプロテクタ5をメインフレーム3に支持する。エネルギ吸収体7は、車両前後方向からの荷重を受けて車両前後方向に圧潰して変形し、且つその変形量の増大と荷重の増大とがほぼ比例する荷重−変位特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時に相手車両が受ける衝撃を緩和する衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000−296743号公報には、衝撃吸収型フロントアンダーランプロテクタが記載されている。この衝撃吸収型フロントアンダーランプロテクタは、シャシフレームに固定されるブラケットと、ブラケットに固定されるプロテクタと、ブラケットとプロテクタとの間に介設される衝撃エネルギ吸収装置とからなる。衝撃エネルギ吸収装置は、エネルギ吸収体とこれを被包する管状体とからなる。衝突時に外力(荷重)が作用すると、エネルギ吸収体が変形して衝撃エネルギを吸収する。エネルギ吸収体は、弾性域では荷重の増大とともに変形量が増大し、エネルギ吸収体が弾性変形可能な最大荷重を超える荷重が作用すると塑性域に移行して変形し、変形量の増大に対して荷重の変化が小さい荷重−変位特性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−296743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のエネルギ吸収体では、弾性域における変形量は、塑性域での変形量を含めた総変形量と比べて大幅に小さく、エネルギ吸収体が吸収可能な総エネルギ吸収量に対して弾性域におけるエネルギ吸収量は大幅に制限される。すなわち、エネルギ吸収体に上記最大荷重を超える荷重が入力し、エネルギ吸収体の変形が塑性域に達した場合には、所望のエネルギ吸収効果を得ることができるが、入力した荷重が上記最大荷重に達しない場合には、エネルギ吸収体の変形が塑性域まで到達せずに弾性域で完了するので、吸収されるエネルギ量は大幅に制限されてしまう。従って、例えば軽量車両や相対速度が小さい車両との衝突のように衝突時に発生する荷重が小さい場合、エネルギ吸収体に入力する衝突時の荷重が上記最大荷重に達しない可能性が高くなり、相手車両が受ける衝撃を十分に緩和することができないおそれが生じる。
【0005】
そこで本発明は、エネルギ吸収体に入力する荷重が小さい衝突の場合であっても、相手車両が受ける衝撃を好適に緩和することができる衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明の衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタは、アンダーランプロテクタと、エネルギ吸収体と、アンダーランプロテクタブラケットとを備える。アンダーランプロテクタは、車両の車体フレームの前方又は後方の端部下方で車幅方向に延びる。エネルギ吸収体は、アンダーランプロテクタの後面又は前面に固定される一端を有し、一端から車両後方又は車両前方に延びる。アンダーランプロテクタブラケットは、エネルギ吸収体の他端に固定され、エネルギ吸収体を介してアンダーランプロテクタを車体フレームに支持する。さらに、エネルギ吸収体は、車両前後方向からの荷重を受けて車両前後方向に変形し、且つその変形量が荷重の増大に従って徐々に増大する荷重−変位特性を有する。
【0007】
上記構成では、車両に他の車両が前方又は後方から衝突し、アンダーランプロテクタに車両前後方向から荷重が入力すると、アンダーランプロテクタの後面又は前面に固定されているエネルギ吸収体の一端に荷重が負荷される。エネルギ吸収体は、他端がアンダーランプロテクタブラケットに固定され後方又は前方への移動が規制されるので、エネルギ吸収体が車両後方又は前方に向かって変形し衝撃エネルギを吸収する。エネルギ吸収体は、
その変形量が、荷重の増大に従って徐々に増大する荷重−変位特性を有するので、荷重と変形量との積算値として求められるエネルギ吸収量も荷重の増大に従って徐々に増大する。すなわち、エネルギ吸収体のエネルギ吸収効果は、エネルギ吸収体の変形領域において略同様となり、小さい荷重が入力した場合であっても、大きい荷重が入力した場合と略同様にエネルギが吸収される。従って、軽量車両や相対速度が小さい車両との衝突のように、エネルギ吸収体に入力する荷重が小さい場合であっても、エネルギ吸収体によって所望の衝撃エネルギを吸収することができ、相手車両の受ける衝撃を好適に緩和することができる。
【0008】
また、エネルギ吸収体の荷重−変位特性は、変形量と荷重とがほぼ比例する関係を有してもよい。
【0009】
上記構成では、エネルギ吸収体の変形量の増大と荷重の増大とがほぼ比例する関係を有するので、エネルギ吸収量は、荷重の2乗にほぼ比例して増大する。このため、入力する荷重が増大するほど少ない変形量で大きな衝撃エネルギを吸収することができ、入力する荷重に応じたより好適なエネルギ吸収を行なうことができる。
【0010】
また、エネルギ吸収体は、一端から他端に向かって周壁の厚さが増大する筒状であってもよい。
【0011】
上記構成では、エネルギ吸収体の周壁の厚さが一端から他端に向かって増大するので、エネルギ吸収体は、小さな荷重によって一端側から圧潰を開始して変形し、他端側への変形の進行に伴って変形に必要な荷重が徐々に増大するような座屈荷重特性を示す。すなわち、変形量が荷重の増大にほぼ比例して増大する荷重−変位特性を有するエネルギ吸収体を、簡単な構造によって実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エネルギ吸収体に入力する荷重が小さい衝突の場合であっても、相手車両が受ける衝撃を好適に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる衝撃エネルギ吸収型フロントアンダーランプロテクタを備えたキャブオーバートラックの模式側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる衝撃エネルギ吸収型フロントアンダーランプロテクタの模式側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係わるエネルギ吸収体の模式斜視図である。
【図4】エネルギ吸収体の荷重と変形量との関係を示す荷重−変位特性図である。
【図5】本発明に係わる衝撃エネルギ吸収型リアアンダーランプロテクタを備えたキャブオーバートラックの模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、図中FRは車両前方を、図中UPは車両上方をそれぞれ示している。また、以下の説明における前後方向は、車両の前後方向を意味し、左右方向は、車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0015】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係わる車両1は、キャブ2が概ねエンジン(図示省略)よりも前方に位置するキャブオーバー型の車両であり、メインフレーム3と、フロントアンダーランプロテクタ(アンダーランプロテクタ)5と、左右一対のフロントアンダーランプロテクタブラケット(アンダーランプロテクタブラケット)6と、左右一対のエネルギ吸収体7等を備えている。
【0016】
メインフレーム3は、車両1の車幅方向両側で車両前後方向に延びており、クロスメンバ4によって、左右各メインフレーム3の前端部間が連結されている。フロントアンダーランプロテクタ(以下、FUPと称する)5は、矩形筒状に形成されてメインフレーム3の前端部下方で車幅方向に延びている。キャブ2の前端下部にはフロントバンパ部30が設けられFUP5の前端部を覆っている。また、キャブ2に乗員が乗降する際の足場となるステップ部31が、キャブ2の車幅方向外側の下端部からフロントバンパ部30の後端部に沿って下方に延びている。フェンダ32は、キャブ2の下部に固定されてフロントタイヤ33の斜め前方上半分を覆っている。
【0017】
なお、フロントアンダーランプロテクタブラケット(以下、FUPブラケットと称する)6と、エネルギ吸収体7とは、右側と左側とがそれぞれ同様の構成を有するため、以下ではその一方(左側)について説明し、他方(右側)についての説明を省略する。
【0018】
FUPブラケット6は、フロントタイヤ33よりも前方のメインフレーム3の前端部に固定されている。FUPブラケット6は、上板12、前板13、下板15、後板14及び左右一対の側板16を有する略箱形状である。上板12は、メインフレーム3の下面3aに締結されている。前板13及び後板14は、上板12の前端及び後端からそれぞれ下方に相対向して延びる。下板15は、前端及び後端が前板13と後板14のそれぞれ下端に結合する。左右一対の側板16は、上板12と前板13と後板4と下板15との車幅方向両端部に接合される。左右一対の側板16には貫通孔16aが設けられている。
【0019】
エネルギ吸収体7は、図3に示すように、前後方向に延びる円筒状であり、外筒部8と前板(エネルギ吸収体一端)9と後板(エネルギ吸収体他端)10とエネルギ吸収部11とを有し、FUPブラケット6とFUP5との間に介設されている(図2参照)。前板9は円形の平板状であり、前板9の後面は、外筒部8の前端に固定され、前板9の前面は、FUP5の後面に固定されてFUP5を支持する。後板10は円形の平板状であり、後板10の前面は、外筒部8の後端に固定され、後板10の後面は、FUPブラケット6の前板13の前面に固定されている。外筒部8の内側にはエネルギ吸収部11が前後方向に延びて配置されている。エネルギ吸収部11は、外周面11dが外筒部8の内周面8aに近接又は接触する円筒状であり、前端11aが前板9の後面に接合され、後端11bが後板10の前面に接合されている。エネルギ吸収部11の内周面11cは前後方向に略同一の内径を有し、外周面11dは、周壁の厚さが前端11aから後端11bに向かって増大するテーパ状である。エネルギ吸収部11を被包する外筒部8の形状も前板9から後板10に向けて内径及び外径共に拡径するテーパ状に形成されている。
【0020】
エネルギ吸収体7の前板9の前方から荷重が入力すると、FUPブラケット6によってエネルギ吸収体7の後方への移動が規制されているので、エネルギ吸収体7が前後方向に圧潰して変形するとともに、エネルギ吸収体7内部のエネルギ吸収部11が前後方向に圧潰して変形し入力するエネルギを吸収する。エネルギ吸収部11の圧潰による変形は、エネルギ吸収部11の周壁の厚さが最も小さい前端11aから開始され、荷重の増大とともに周壁の厚さがより大きい後端11bの方向へ向かって進行する。本実施形態では、図4に示すように、エネルギ吸収体7に入力する荷重の増大と、エネルギ吸収体7の変形量の増大とがほぼ比例するように、エネルギ吸収部11の周壁の前後方向の厚さ分布が設定されている。
【0021】
本実施形態では、車両1に他の車両が前方から衝突し、FUP5に荷重が入力すると、FUP5の後面に固定されているエネルギ吸収体7の前板9が車両後方に押圧され、エネルギ吸収体7が車両後方に変形して衝撃エネルギを吸収する。エネルギ吸収体7は、変形量が荷重の増大にほぼ比例して増大する荷重−変位特性を有するので、エネルギ吸収体7のエネルギ吸収効果は、エネルギ吸収体7の変形領域の全域に亘って略同様となる。また、エネルギ吸収体7によって吸収されるエネルギ量は、荷重と変形量との積算値として求められるので荷重の2乗にほぼ比例して増大する。すなわち、小さい荷重が入力した場合であっても、大きい荷重が入力した場合と略同様に衝撃エネルギを吸収することができ、また、入力する荷重が増大するほど少ない変形量で大きな衝撃エネルギを吸収することができる。従って、例えば軽量車両や相対速度が小さい車両との衝突のように、エネルギ吸収体7に入力する荷重が小さい場合であっても、エネルギ吸収体7によって所望の衝撃エネルギを吸収することができ、相手車両の受ける衝撃を好適に緩和することができる。また、入力する荷重が増大するほど、エネルギ吸収体7の変形量の増大が抑制され、相手車両の受ける衝撃をより好適に緩和することができる。
【0022】
また、エネルギ吸収体7の変形は、衝突の荷重が入力するエネルギ吸収体7の前板9からFUPブラケット6に固定される後板10に向かって進行するので、エネルギ吸収体7の変形モードが安定し確実に衝撃エネルギを吸収することができる。
【0023】
また、エネルギ吸収体7は、部品点数が少ない簡単な構造であるためコストの増大を抑制できる。
【0024】
なお、エネルギ吸収体7の形状は本実施形態に限定されず、図4に示すように、エネルギ吸収体7の変形量が荷重の増大にほぼ比例して増大するものであればよい。例えば長さの異なる複数のスリットを、エネルギ吸収部の外周面の前端部から周方向に沿って前後方向に設けた形状等であってもよい。
【0025】
また、エネルギ吸収体7の形状は円筒状に限定されず、例えば矩形筒状等であってもよい。
【0026】
また、エネルギ吸収体7の変形量と荷重との関係は、変形量が荷重の増大に従って増大するものであれば、変形量の増大が荷重の増大にほぼ比例する関係に限定されない。この場合は、小さい荷重が入力した場合であっても、大きい荷重が入力した場合と略同様に衝撃エネルギが吸収されるので、エネルギ吸収体7に入力する荷重が小さい場合であっても、相手車両の受ける衝撃を好適に緩和することができる。
【0027】
また、本実施形態では、エネルギ吸収体7を、車両1の前方に配置されるFUP5とFUPブラケット6との間に介設したが、図5に示すように、車両1の後方(メインフレーム3の後部下方)に配置されるリアアンダーランプロテクタ34とリアアンダーランプロテクタブラケット35との間に介設することも可能である。
【0028】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、大型車両の衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタとして広く適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 車両
2 キャブ
3 メインフレーム(車体フレーム)
5 フロントアンダーランプロテクタ(アンダーランプロテクタ)
6 フロントアンダーランプロテクタブラケット(アンダーランプロテクタブラケット)
7 エネルギ吸収体
8 外筒部
9 前板(エネルギ吸収体一端)
10 後板(エネルギ吸収体他端)
11 エネルギ吸収部
34 リアアンダーランプロテクタ(アンダーランプロテクタ)
35 リアアンダーランプロテクタブラケット(アンダーランプロテクタブラケット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体フレームの前方又は後方の端部下方で車幅方向に延びるアンダーランプロテクタと、
前記アンダーランプロテクタの後面又は前面に固定される一端を有し、該一端から車両後方又は車両前方に延びるエネルギ吸収体と、
前記エネルギ吸収体の他端に固定され、前記エネルギ吸収体を介して前記アンダーランプロテクタを前記車体フレームに支持するアンダーランプロテクタブラケットと、を備え、
前記エネルギ吸収体は、車両前後方向からの荷重を受けて車両前後方向に変形し、且つその変形量が前記荷重の増大に従って徐々に増大する荷重−変位特性を有する
ことを特徴とする衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタであって、
前記エネルギ吸収体の荷重−変位特性は、前記変形量と前記荷重とがほぼ比例する関係を有する
ことを特徴とする衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタ。
【請求項3】
請求項2に記載の衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタであって、
前記エネルギ吸収体は、前記一端から前記他端に向かって周壁の厚さが増大する筒状である
ことを特徴とする衝撃エネルギ吸収型アンダーランプロテクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103686(P2013−103686A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250800(P2011−250800)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)