説明

衝撃吸収型建築物

【課題】津波や洪水による家屋の浸水時に、水に浮遊することができると共に、他の物体との衝突エネルギーを吸収することができる、新規な構造を備えた衝撃吸収型建築物を提供する。
【解決手段】地盤12に敷設された基礎14と、前記基礎14に載置される家屋本体16を備え、前記家屋本体16が浸水時に及ぼされる浮力により前記基礎14から離脱するようになっている一方、前記家屋本体16が、他の物体との衝突時に作用する荷重によって破損することにより衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収領域48,50,52,54と、該衝撃吸収部48,50,52,54よりも剛性の高い構造とされた安全領域56とを含んで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に敷設された基礎に対して家屋本体が載置されてなる建築物に係り、特に、他の物体との衝突エネルギーを吸収することができる衝撃吸収型建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般住宅等の小型建築物では、地盤に敷設された基礎に対して、土台、床、壁や屋根等の各部から構成された家屋本体を載置して、アンカーボルト等で固定する構造が広く採用されている。これにより、家屋本体の荷重が、基礎を介して支持地盤に均一に伝達されるようになっている。
【0003】
ところで、近年では、このような建築物の耐震性を向上させる目的から、家屋本体を構成する柱や壁の強度を大きくして家屋本体の倒壊を防止する耐震構造が提案されている。また、地震による外部荷重が入力される基礎と家屋本体の間に、ゴムマウント等の振動絶縁手段を介在させて、地震による家屋本体への振動の伝達を絶縁する免震構造を備えた建築物も多数提案されている。例えば、特開2008−63720号公報(特許文献1)に記載のものがそれである。
【0004】
ところが、このような耐震構造や免震構造を備えた建築物は、地震の振動に対する家屋本体の強度向上や家屋本体への振動絶縁が図られるものの、地震後に発生する津波に対しては、何らの効果も発揮するものではなかった。すなわち、東日本大震災の如き海底を震源とする巨大地震の発生時等には、数十メートルを超える津波が押し寄せ建築物が浸水することとなるが、従来の耐震構造程度の強度では、津波のエネルギーに耐え得るはずもなく、家屋本体の破壊は免れない。また、家屋本体が、基礎に対してアンカーボルト等で部分的に固定されていることで、破壊の際に加えられる荷重が部分的に集中して歪が発生し、かえって家屋本体の破壊が促進されることとなる。
【0005】
なお、特開2006−266070号公報(特許文献2)には、家屋本体を浮体上に構築して、津波等の発生時に浮体を浮力により浮上させて浸水を免れる構造が提案されている。ここで、浮上した家屋本体は、津波で押し流された船舶や家屋等の他の物体と衝突して破壊される危険性が非常に高いが、それに対する対策は何らなされていなかった。特に、浮上した家屋本体がアンカーポールに固定されていることから、他の物体との衝突エネルギーが家屋本体の柱や壁を破損することを促進してしまい、結果的に家屋本体全体が破壊されることを回避することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−63720号公報
【特許文献2】特開2006−266070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、津波や洪水による家屋の浸水時に、水に浮遊することができると共に、他の物体との衝突エネルギーを吸収することができる、新規な構造を備えた衝撃吸収型建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様は、地盤に敷設された基礎と、前記基礎に載置される家屋本体を備え、前記家屋本体が浸水時に及ぼされる浮力により前記基礎から離脱するようになっている一方、前記家屋本体が、他の物体との衝突時に作用する荷重によって破損することにより衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収領域と、該衝撃吸収部よりも剛性の高い構造とされた安全領域とを含んで構成されている、衝撃吸収型建築物を提供するものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた衝撃吸収型建築物によれば、津波や洪水等により大量の水流が押し寄せ建築物が浸水した場合には、浮力により家屋本体が基板から離脱して、自由に水面上を浮遊することができる。これにより、家屋本体が基板に固定された状態で、家屋本体に水流が衝突することが回避できて、水流の衝突エネルギーにより家屋本体が破壊される危険性を有利に回避乃至は低減することができる。
【0010】
さらに、家屋本体には、衝撃吸収領域と、それよりも剛性の高い安全領域とが設けられていることから、水流に浮遊した家屋本体が他の物体と衝突した際にも、衝撃吸収領域を積極的に破壊させて衝突エネルギーを吸収することにより、安全領域の破損を有利に防止することができる。従って、家屋本体の一部に設けられた安全領域をシェルタールームとして活用し、津波や洪水の襲来で避難が困難な場合等には、安全領域に非難することで、万が一津波に押し流されても、破壊されることなく水流上を浮遊して生命を維持することができる。
【0011】
なお、「家屋本体が基礎から離脱する」とは、家屋本体が基礎と連結されず、離隔して自由に移動できる状態をいう。また、家屋本体が浸水時に及ぼされる浮力により基礎から浮き上がり離脱するためには、浸水時に家屋本体全体に働く重力よりも大きな浮力が家屋全体に及ぼされるようにすればよい。例えば、家屋本体を木材等の水よりも比重の小さい材料を主として構成したり、構造材を軽量鉄骨等水よりも比重の大きい物体で構成する一方、壁材や内装材を発泡材や木材等の水よりも比重の小さな材料で構成して、家屋全体として重力よりも浮力が勝るようにすることで実現できる。
【0012】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載の衝撃吸収型建築物において、前記安全領域の全周に亘って前記衝撃吸収領域が設けられているものである。
【0013】
本態様によれば、安全領域がその全周において衝撃吸収領域に囲まれていることから、水流上を家屋本体が浮遊する際に、いずれの方向から他の物体の衝突エネルギーが入力されても、安全領域に荷重が入力される前に衝撃吸収領域が破壊されて衝撃エネルギーが吸収され、安全領域の破損が防止される。
【0014】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載の衝撃吸収型建築物において、前記安全領域を構成する支柱の強度が前記衝撃吸収領域を構成する支柱よりも大きくされているものである。
【0015】
本態様によれば、衝撃吸収領域および安全領域をそれぞれ構成する支柱の強度を変えることにより、各領域の剛性を容易に調整することができる。例えば、安全領域を構成する支柱の断面積を衝撃吸収領域のそれよりも大きくして強度を大きくすることができる。また、安全領域を構成する支柱を鉄骨等で構成する一方、衝撃吸収領域を構成する支柱を当該鉄骨よりも強度の小さな木材等で構成するようにしてもよい。なお、支柱とは、安全領域や衝撃吸収領域を構成する柱・梁の何れも含むものである。
【0016】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に記載の衝撃吸収型建築物において、前記安全領域を構成する耐力壁の強度が前記衝撃吸収領域を構成する耐力壁の強度よりも大きくされているものである。
【0017】
本態様によれば、衝撃吸収領域および安全領域をそれぞれ構成する耐力壁の強度を変えることにより、各領域の剛性を容易に調整することができる。例えば、軸組構法では、安全領域を構成する耐力壁の筋交いをたすき掛けにする一方、衝撃吸収領域の耐力壁の筋交いを方筋交いにすることにより安全領域の耐力壁の強度を大きくすることができる。また、枠組壁構法では、安全領域の耐力壁を構成する面材の板厚を、衝撃吸収領域の耐力壁を構成する面材の板厚よりも大きくすることで、安全領域の耐力壁の強度を大きくしてもよい。
【0018】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に記載の衝撃吸収型建築物において、前記安全領域の床板に対して水よりも比重が小さい浮力材が取り付けられているものである。
【0019】
本態様によれば、衝撃吸収領域が他の物体との衝突により破損して安全領域から離脱した場合でも、安全領域が単体で確実に水に浮遊することができる。すなわち、仮に、安全領域の支柱を鉄骨材等水よりも比重の大きい材料を用いて構成した場合でも、安全領域の床板に取り付けた浮力材により、安全領域を単体でも確実に水に浮遊させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の衝撃吸収型建築物によれば、津波や洪水による浸水時に、家屋本体が基礎から離脱して水に浮遊することができ、水流の衝突エネルギーにより家屋本体が破壊される危険性を回避乃至は低減できる。また、家屋本体が水流に浮遊して流される際に、他の物体との衝突エネルギーを衝撃吸収部を積極的に破損させることにより吸収して、安全領域を有利に維持することができる。従って、安全領域に避難することで、万が一津波に押し流されても、破壊されることなく水流上を浮遊して生命を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一の実施形態としての衝撃吸収型建築物を示す斜視図。
【図2】図1に示した衝撃吸収型建築物の内部構成を示す斜視図。
【図3】図2のIII −III 断面拡大図。
【図4】図1に示した衝撃吸収型建築物の居住部の概略平面図。
【図5】図4のV−V断面拡大図。
【図6】図1に示した衝撃吸収型建築物において、浸水時の状態を説明するための斜視図。
【図7】図4に示した衝撃吸収型建築物において、衝突時の衝突吸収領域の作用を説明するための居住部の概略平面図。
【図8】図4に示した衝撃吸収型建築物の居住部の変形例を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
先ず、図1には、本発明の第1の実施形態としての衝撃吸収型建築物10の構成が、概略的に示されている。
【0024】
衝撃吸収型建築物10は、その最下部にコンクリート等から構成される基礎14を備えている。基礎14は、公知のベタ基礎や布基礎により構成されており、その基端部が地盤12に埋設された状態で、地盤12に対して敷設されている。一方、基礎14の上部には、家屋本体16が載置されている。この家屋本体16は、土台18,居住部20,屋根22からなっており、それらを構成する柱や壁等は、木材や発泡材といった水より比重の軽い材料で形成されている。
【0025】
図2には、より詳細な衝撃吸収型建築物10の構造が示されている。すなわち、基礎14は、地盤12から突出した略ロの字型の枠体形状とされており、土台18を介して加えられる家屋本体16全体の荷重を支持するようになっている。基礎14の突出端面には、周方向で離隔した複数箇所において、下端部が基礎14内に埋設された複数のアンカーポール26が上方に向かって突設されている。そして、基礎14から突出するアンカーポール26の上端部が、土台18に形成された貫通孔28に嵌め入れられており、土台18が基礎14に対して位置決めされるようになっている。
【0026】
土台18にはもう1つ矩形状のほぞ穴30が備えられており、居住部20を構成する骨組みのうち柱32の最下部に設けられたほぞ34に嵌め込まれて、土台18に固定されている。さらに、図示しないほぞとほぞ穴を介して、梁36や床梁38が柱32に嵌め込まれて固定されており、家屋本体16の強度を決定する骨組みを構成している。
【0027】
次に、図3の拡大断面図を用いて、衝撃吸収型建築物10の基礎14と土台18および居住部20の構成について詳述する。
【0028】
基礎14に埋設されたアンカーポール26は、全体に亘って一定の円形断面で延びる鉄鋼等の金属材からなり、下端部40が軸直方向に屈曲された略L字形状を呈している。アンカーポール26のL字に屈曲された下端部40は、基礎14の内部に埋設されており、アンカーポール26が基礎14から離脱するのを防止する役割を果たしている。一方、アンカーポール26の上端部42は、基礎14の上端面から上方に向かって突出しており、土台18に形成された略円形断面で延びる貫通孔28に嵌め入れられている。ここで、貫通孔28の内径寸法は、アンカーポール26の外径寸法よりも大きくされている。これにより、地震などで発生する横揺れに対して(図3の左右方向)土台18を基礎14に固定すると共に、土台18を含む家屋本体16に浸水時に及ぼされる浮力による上方の力が加えられた場合に、基礎14から家屋本体16が障害がなく離脱できるようになっている。
【0029】
すなわち、アンカーポール26の上端部42は、土台18に固定されないように構成されていることから、アンカーポール26の上端部42側に固定用のボルトをねじ込むためのネジ溝の形成は不要であり、また貫通孔28から土台18外方に突出しないように形成されている。
【0030】
なお、アンカーポール26の形状は本実施形態の如き略L字形状のものに限定するものではなく、単なる棒状でも良いし、また略逆T字型や下端部40にリブが設けられたもの等、任意の形状が採用可能である。また、貫通孔28と貫通孔28に嵌め入れられたアンカーポール26との隙間には、地震などで発生する横揺れに対して、土台18への衝撃を和らげるために、例えばゴムリング等の緩衝材が配設されていても良い。
【0031】
一方、土台18に設けられたもう1つの矩形状のほぞ穴30には、居住部20を構成する柱32がほぞ34を介して嵌め込まれ、土台18に固定されている。また、同様の方法で、居住部20の床部分を構成する床梁38がほぞ穴44,ほぞ46を介して居住部20を構成する柱32に固定されている。これにより、土台18,居住部20,屋根22からなる家屋本体16は、土台18や柱32や床梁38などを介して、一体化されている。
【0032】
図4には、衝撃吸収型建築物10の居住部20の平面図が概略的に示されている。本実施形態の衝撃吸収型建築物10は、木造軸組構法により建築されている。木造軸組構法とは、柱や梁といった軸組(線材)で支える構法のことである。
【0033】
衝撃吸収型建築物10の居住部20は、衝撃吸収領域48,50,52,54と安全領域56、を備えている。衝撃吸収領域48,50,52,54は、支柱としての柱58を基本的構成とし、柱58に壁60や窓62や扉64を取り付けた構成となっており、安全領域56を全周に亘って取り囲むように設けられている。安全領域56も、衝撃吸収領域域48,50,52,54と同様に、支柱としての柱66を基本的構成とし、柱66に壁68や扉70を取り付けた構成となっている。なお、衝撃吸収領域域48,50,52,54は、一例として、洋室48,52、廊下50、玄関54、というような構成が考えられる。
【0034】
木造軸組構法は柱の軸組で支える構法であることから、強度は柱や梁である支柱によって決定される。安全領域56は、衝撃吸収領域48,50,52,54の柱58に比べて、断面積が大きく強度が大きくされた柱66を採用しており、これにより衝撃吸収領域48,50,52,54よりも全体の剛性や強度を向上することができるのである。
【0035】
なお、安全領域56の柱や梁を鉄骨材、衝撃吸収領域48,50,52,54を当該鉄骨よりも強度の小さな木材等で構成することにより、安全領域56の剛性を衝撃吸収領域48,50,52,54よりも高い構造とすることができる。また、必要に応じて、安全領域56を構成する壁68の筋交いを両筋交いにする一方、衝撃吸収領域48の壁60の筋交いを方筋交いにすることにより、安全領域56の壁68の強度を衝撃吸収領域48,50,52,54の壁60の強度よりも大きくして、安全領域56の剛性を一層高くしてもよい。 本実施形態では、さらに、安全領域56を構成する壁68に窓を設けないことにより、安全領域56の壁68の剛性を高くしている。
【0036】
このように高剛性に構成された安全領域56は、さらに図5の要部拡大断面図に示す床構造を備えている。なお、図 5では、基礎14及び土台18の図示を省略している。安全領域56の床は、柱66の間に架け渡された支柱としての床梁72の上に床板74を配設して構成されており、床梁72と床板74の間には、水より比重が小さい浮力材76が収容配置されている。この浮力材76は、浸水時において、安全領域56に十分な浮力が及ぼされるように機能するものである。
【0037】
ここで、浮力材76としては、発泡スチロールなどの固形のものや樹脂でできたフィルムで多くの気室を形成したものなどが考えられる。本実施形態では、浮力材76を床梁72と床板74の間に設ける場合を示したが、浮力材76の配設場所は特に限定されるものではなく、例えば、並列配置された床梁72間の隙間に設けるようにしても良い。
【0038】
このような構造とされた本実施形態の衝撃吸収型建築物10の、浸水時の機能や効果について、図6および図7に基づき説明する。図6に示すように、津波や洪水の発生時には、大量の水流80が押し寄せて、衝撃吸収型建築物10が浸水する。なお、図6では、理解を容易とするために水流80を2点鎖線にて表示している。水流80が所定の水位に達すると、家屋本体16は水より比重の軽い材料で形成されていることから、家屋本体16にかかる重力よりも家屋本体16に及ぼされる浮力が大きくなる。その結果、家屋本体16が、浮力により基礎14から離脱して、自由に水面上を浮遊できるようになる。これにより、家屋本体16が基礎14に固定された状態で、家屋本体16に水流80が衝突することが回避できて、水流80の衝突エネルギーにより家屋本体16が破壊される危険性を有利に回避乃至は低減することができる。
【0039】
なお、家屋本体16には、地盤12に配設された水道やガス管の配管が固定されていると共に、地盤12に敷設された電柱から引き込まれた電線等が固定されている。このような配管や電線等は、家屋本体16が浮力により上方(水面上)に移動する際に抵抗となる。従って、配管の途中に上下方向の外力に対して比較的破断が容易な破断予定部を設けたり、外部の電線等と家屋本体16の電気配線の接続部分に上方への離脱が容易なコネクタを採用すること等により、家屋本体16の浮上に対する、配管や電線等の抵抗力を低減して、家屋本体16のダメージを低減乃至は回避することが望ましい。
【0040】
そして、家屋本体16が水面上を浮遊すると、同様に水面上を浮遊する他の物体や地盤12に固定された他の物体との衝突が避けられない。例えば、図7には、左斜め前方から何らかの物体に衝突された、家屋本体16の居住部20の平面図が示されている。ここで、家屋本体16の居住部20は、衝撃吸収領域48,50,52,54とそれよりも剛性の高い構造とされた安全領域56を備えている。それ故、他の物体との衝突による外力が、家屋本体16に加えられた際には、衝撃吸収領域48が積極的に破壊されることとなる。
【0041】
具体的には、衝撃吸収領域48を構成する柱82は、安全領域56を構成する柱66に対して強度の弱いものとされている。従って、衝突エネルギーが加えられた際には、はじめに衝撃吸収領域48の柱82が衝撃により破断或いは倒壊し、それに伴い、柱82に取り付けられていた壁84等も倒壊して流失等することとなる。しかしながら、他の物体との衝突時に作用する荷重によって衝撃吸収領域48が破壊されることにより、大部分の衝突エネルギーを吸収できることから、衝撃吸収領域48よりも剛性が高くされた安全領域56に対する被害(ダメージ)をなくするもしくは低減することができるのである。従って、家屋本体16の一部に設けられた安全領域56をシェルタールームとして活用し、津波や洪水の襲来で避難が困難な場合等には、安全領域56に非難することで、万が一津波に押し流されても、破壊されることなく水流80上を浮遊して生命を維持することができるのである。
【0042】
特に、安全領域56には、浮力材76が取り付けられていることから、衝撃吸収領域48,50,52,54の破損状態が酷く、安全領域56のみが残存した場合でも、安全領域56が確実に水面に浮上できるようになっている。
【0043】
なお、図7には、左斜め前方から何かの物体に衝突した場合について例示したが、衝撃吸収領域48,50,52,54は、安全領域56の全周を取り囲むように設けられていることから、どの方向からの衝突に関しても例示の場合と同様の効果を得ることができるのである。
【0044】
次に、図8を用いて、本発明の第二の実施形態としての衝撃吸収型建築物90の居住部20の衝撃吸収領域と安全領域について説明する。なお、以下の説明において、前述の実施形態と実質的に同様の部材および部位については、前述の実施形態と同様の符号を付することによって、詳細な説明を省略する。
【0045】
本実施形態の衝撃吸収型建築物90は、木造枠組壁構法により建築されている。木造枠組壁構法とは、壁や床といった枠組(面材)で支える構法である。木造枠組壁構法においても、土台18および基礎14の部分は第一の実施形態の木造軸組構法と同様であることから、前実施形態と同様に、家屋本体16に浮力が及ぼされる場合に、家屋本体16が基礎14から離脱できるようになっている。
【0046】
衝撃吸収型建築物90の居住部20は、衝撃吸収領域48,50,52,54と安全領域56、を備えている。衝撃吸収領域48,50,52,54は、耐力壁92を基本的構成とし、耐力壁92に窓62や扉64を取り付けた構成となっており、安全領域56の全周を取り囲むように設けられている。安全領域56も、衝撃吸収領域48,50,52,54と同様に、耐力壁94を基本的構成とし、耐力壁94に扉70を取り付けた構成となっている。
【0047】
木造枠組壁構法は壁の枠組で支える構法であることから、強度は耐力壁によって決定される。安全領域56は、衝撃吸収領域48,50,52,54の耐力壁92に比べて、厚肉とされて強度が大きくされた耐力壁94を採用している。これにより、衝撃吸収領域48,50,52,54よりも安全領域56の剛性が高くされているのである。また、安全領域56の壁94に窓を設けないことによっても、安全領域56の壁94の強度を大きくすることができる。
【0048】
従って、上述の図7を用いて説明を行った本発明の第一の実施形態の場合と同様に、衝撃吸収型建築物90の家屋本体16においても、浸水時に水面上を浮遊でき、且つ、他の物体との衝突時には、衝突エネルギーを衝撃吸収領域48,50,52,54の破損により吸収することができることから、、安全領域56に対する被害(ダメージ)を低減する等、第一の実施形態と同様の効果が得られる。
【0049】
特に、本実施形態においては、家屋本体16が木造枠組壁構法により建築されていることから、天井並びに床を含めた安全領域56全面が、厚肉で高強度とされた耐力壁94によって構成されている。従って、扉70も含めた安全領域56の全面において気密性を確保することにより、安全領域56のシェルターとしての安全性をさらに向上させることができる。なお、図示は省略するが、高強度の耐力壁94で囲まれた安全領域56の床下に、図5に示すような浮力材76を取り付けることによって、安全領域56だけが分離されて浮遊することになった場合でも、浸水することなく浮遊し、救助を待つことができるようになる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。例えば、家屋本体16の支柱や耐力壁は必ずしも全て木材等の水よりも比重の軽い材質で構成されている必要はなく、家屋本体16全体が浮力により水に浮くものであれば、安全領域56の柱66や床梁72および耐力壁94を、軽量鉄骨等の水より比重の重い材料で構成してもよい。
【0051】
また、基礎14と土台18の連結は、各実施形態に記載のアンカーポール26と貫通孔28に必ずしも限定されない。すなわち、土台18と基礎14の間に設けられて、上下方向に離脱可能で左右方向の移動を制限するものであれば、いずれも採用可能である。
【0052】
また、安全領域56だけが分離されて浮遊することになった場合でも、再度何らかの物体と衝突することも考えられることから、安全領域56の壁94の外側に低強度の外壁(衝撃吸収領域)を追加で設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10,90:衝撃吸収型建築物、12:地盤、14:基礎、16:家屋本体、18:土台、48,50,52,54:衝撃吸収領域、56:安全領域、58:柱(支柱)、60:壁、66:床板(支柱)、72:床梁、74:床板、76:浮力材、92:耐力壁、94:耐力壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に敷設された基礎と、
前記基礎に載置される家屋本体を備え、
前記家屋本体が浸水時に及ぼされる浮力により前記基礎から離脱するようになっている一方、
前記家屋本体が、他の物体との衝突時に作用する荷重によって破損することにより衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収領域と、該衝撃吸収部よりも剛性の高い構造とされた安全領域とを含んで構成されている、衝撃吸収型建築物。
【請求項2】
前記安全領域の全周に亘って前記衝撃吸収領域が設けられている請求項1に記載の衝撃吸収型建築物。
【請求項3】
前記安全領域を構成する支柱の強度が前記衝撃吸収領域を構成する支柱よりも大きくされている請求項1又は2に記載の衝撃吸収型建築物。
【請求項4】
前記安全領域を構成する耐力壁の強度が前記衝撃吸収領域を構成する耐力壁の強度よりも大きくされている請求項1〜3の何れか1項に記載の衝撃吸収型建築物。
【請求項5】
前記安全領域の床板に対して水よりも比重が小さい浮力材が取り付けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の衝撃吸収型建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246642(P2012−246642A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117589(P2011−117589)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】