説明

衝撃吸収材料及びその製造方法

【課題】各種電子装置などを、衝撃や振動から保護するためのエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料を提供する。
【解決手段】(A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)粘弾性調整用樹脂を含み、かつアスカC硬度が10〜70度であるエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収材料及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ハードディスク装置や携帯電話のような電子装置等を、衝撃や振動から保護するためのエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク装置や携帯電話などの電子機器を衝撃から保護するために、低硬度加硫ゴム、シリコーン系ゲル、ウレタン系ゲルなどを使用した衝撃吸収材料が用いられてきた。しかしながら、前記の低硬度加硫ゴム、シリコーン系ゲル、ウレタン系ゲルなどの衝撃吸収材料は種々の物性を維持したまま硬度を低くすることが困難であり、また熱硬化性であるため量産性やリサイクル性に劣るという問題点があった。
そこで、近年、前記用途に用いられる衝撃吸収材料として、一般に、スチレン系熱可塑性エラストマー、オイル及びポリオレフィンやポリフェニレンエーテルなどからなる、いわゆるMNCS(Micro Network Controlled Structure)材料が多用されるようになってきた。
前記MNCS材料としては、例えば特許文献1〜4に開示されている。
ところで、前記用途に用いられる衝撃吸収材料は、一般的に衝撃吸収性能と硬度との間に、下に凸の相関関係が存在する。すなわち、好適な硬度から硬くなっても柔らかくなっても、衝撃吸収性能は低下するのが普通である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−44691号公報
【特許文献2】特開2000−169666号公報
【特許文献3】特開2002−226666号公報
【特許文献4】特開2004−115753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1〜4においては、MNCS材料に、粘弾性調整用樹脂を加え、得られるエラストマー組成物の粘弾性を調整することについては、なんら言及されていない。
本発明は、このような状況下になされたものであり、各種電子装置などを、衝撃や振動から保護するためのエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記の好ましい性質を有する衝撃吸収材料を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
前述した所定の硬度のMNCS材料に、粘弾性調整用として、ある種の樹脂を加えることにより、硬度が高くなると共に、衝撃吸収能が高くなる(tanδが高くなる)こと、また別のある種の樹脂を加えることにより、硬度が低くなると共に、衝撃吸収能が高くなる(tanδが高くなる)ことを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1](A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)粘弾性調整用樹脂を含み、かつアスカC硬度が10〜70度であるエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料、
[2](A)成分の水添ブロック共重合体が、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体及び/又はポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体である、上記[1]の衝撃吸収材料、
[3](B)成分の軟化剤としてのオイルが、非芳香族系オイルである上記[1]又は[2]の衝撃吸収材料、
[4](D)成分の粘弾性調整用樹脂が、重量平均分子量100〜5000の樹脂であって、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロン系樹脂、鎖状脂肪族炭化水素系樹脂、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂及び芳香族炭化水素系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]〜[3]のいずれかの衝撃吸収材料、
【0007】
[5](D)成分の粘弾性調整用樹脂の含有量が、(A)成分100質量部に対して、10〜250質量部である、上記[1]〜[4]のいずれかの衝撃吸収材料、
[6]さらに、(E)ポリフェニレンエーテルを含む、上記[1]〜[5]のいずれかの衝撃吸収材料、
[7](C)成分のポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、上記[1]〜[6]のいずれかの衝撃吸収材料、
[8]ハードディスク装置用である、上記[1]〜[7]のいずれかの衝撃吸収材料、及び
[9](A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部と、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部と、(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部と、さらに(D)粘弾性調整用樹脂とをドライブレンドしたのち、混練することにより、アスカC硬度が10〜70度である粘弾性が調整されたエラストマー組成物からなる、上記[1]〜[8]のいずれかの衝撃吸収材料を製造する方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、所定の硬度のMNCS材料に粘弾性調整用樹脂を加えることにより、所望の硬度とtanδを有するエラストマー組成物を得ることが可能であって、ハードディスク装置や携帯電話のような電子装置等を、衝撃や振動から保護するためのエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明の衝撃吸収材料について説明する。
本発明の衝撃吸収材料は、以下に示す(A)成分である水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)粘弾性調整用樹脂を含み、かつアスカC硬度が10〜70度であるエラストマー組成物からなることを特徴とする。
【0010】
[(A)水添ブロック共重合体]
本発明におけるエラストマー組成物において、(A)成分として用いられる水添ブロック共重合体としては、例えば、ポリブタジエンとポリスチレンとのブロック共重合体、及びポリイソプレンとポリスチレンとのブロック共重合体、あるいは、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合(SEPS)など、中でも、上記のSEBSやSEPSなどを好ましく挙げることができる。
(A)成分としては、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも二つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つとを有するブロック共重合体(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等)を水添して得られる水添ブロック共重合体が更に好ましい。これらの水添ブロック共重合体の数平均分子量は60,000以上であることが好ましく、この数平均分子量が60,000以上であると、後述の(B)成分である軟化剤のブリードが抑制され、圧縮永久歪みが小さい。この数平均分子量の上限は特に制限はないが、通常は400,000程度である。
なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0011】
上記水添ブロック共重合体の非晶質スチレンブロックの含有量は、10〜70質量%、好ましくは15〜60質量%の範囲のものが望ましい。また、非晶質スチレンブロック部のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上、好ましくは80℃以上であるものが望ましい。また、両末端の非晶質スチレンブロックを連結する部分の重合体としては、やはり非晶質のものが好ましく、例えば、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ブタジエン重合体やイソプレン重合体の水添物等を挙げることができ、これらのブロックあるいはランダム共重合体であってもよい。なお、当該(A)成分の水添ブロック共重合体は主に単独で用いられるが、2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0012】
[(B)軟化剤としてのオイル]
本発明におけるエラストマー組成物においては、(B)成分として、軟化剤としてのオイルが用いられる。この(B)成分の軟化剤としてのオイルは、上記(A)成分の水添ブロック共重合体を低硬度化する目的で含有される。この(B)成分の軟化剤としてのオイルは、性能の点から非芳香族系オイルが好ましい。この非芳香族系オイルは、揮発による重量減やブリードを抑制する観点から、40℃における動粘度が100mm2/s以上であることが好ましく、実用上及び製造上の点から、40℃において100〜10000mm2/sであることがより好ましく、特に200〜5000mm2/sが好ましい。また、分子量については、数平均分子量で20,000未満、特に10,000以下、とりわけ5,000以下であるものが好ましい。また、親水性,疎水性のいずれのオイルも使用できる。このような性状を有する軟化剤としてのオイルは、例えば鉱物油系,植物油系,合成系などの各種非芳香族系オイルの中から適宜選択することができる。ここで、鉱物油系としては、ナフテン系,パラフィン系などのプロセス油が挙げられ、植物油系としては、ひまし油,綿実油,あまに油,なたね油,大豆油,パーム油,梛子油,落花生油,木ろう,パインオイル,オリーブ油などが挙げられる。なかでも、特に鉱物油系のパラフィン系オイル,ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される1種又は2種以上であって、その数平均分子量が450〜5,000であるものが好ましい。
【0013】
当該(B)成分のオイルは1種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば2種以上を混合して用いてもよい。これらのオイルの含有量は、前記(A)成分100質量部に対し、1〜500質量部であるが、好ましくは20〜400質量部、特に好ましくは100〜300質量部である。この配合量が1質量部以上であると充分な低硬度化が達成でき、エラストマー組成物の十分な柔軟性が得られる。一方、500質量部以下であるとオイルがブリードすることがなく、またエラストマー組成物の十分な機械的強度が得られる。なお、このオイルの含有量は、(A)成分の水添ブロック共重合体の分子量及び該水添ブロック共重合体に添加される他の成分の種類に応じて、上記範囲で適宜選定することが好ましい。
【0014】
[(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂]
本発明におけるエラストマー組成物においては、(C)成分として、加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂が用いられる。当該(C)成分のポリオレフィン系樹脂は、上記エラストマー組成物の加工性を向上させるのが主目的であるが、該組成物の耐熱特性を向上させる作用も有している。
当該(C)成分のポリオレフィン系樹脂としては、性能の観点から、結晶性のものが好ましく、結晶性ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。この結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクティックポリプロピレン,プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体,プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体)などを挙げることができる。結晶性ポリプロピレン系樹脂としてアイソタクティックポリプロピレンの共重合体を用いる場合、そのMFR(JIS K7210)が0.1〜100g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲のものが好適に使用できる。当該(C)成分の含有量は、前記(A)成分100質量部に対し、0.1〜50質量部であるが、好ましくは0.1〜30質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。この含有量が0.1質量部以上であると、エラストマー組成物の加工性及び耐熱特性を向上させることができ、一方、30質量部以下であると得られるエラストマー組成物の硬度が高くなり過ぎることがない。
【0015】
上記エラストマー組成物においては、該組成物の加工性、耐熱性の向上を図るために、上記(C)成分にポリスチレン系樹脂を併用することができる。ポリスチレン系樹脂としては、公知の製造方法で得られたものであれば、ラジカル重合法、イオン重合法のいずれで得られたものも好適に使用できる。ポリスチレン系樹脂の数平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲から選択でき、分子量分布〔重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)〕は5以下のものが好ましい。このポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン単位含有量60質量%以上のスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ゴム補強ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を併用してもよい。さらに、これらポリマーを構成するモノマーの混合物を重合して得られる共重合体も用いることができる。本発明におけるエラストマー組成物において、(C)成分にポリスチレン系樹脂を併用すると、ポリスチレン系樹脂を併用しない場合と比較して、得られる組成物の硬度が高くなる傾向にある。したがって、これらの配合比率を選択することにより、得られるエラストマー組成物の硬度を調整することもできる。この場合、ポリオレフィン系樹脂/ポリスチレン系樹脂の比率は95/5〜5/95(質量比)の範囲から選択することが好ましい。
なお上記の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC法により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0016】
[(D)粘弾性調整用樹脂]
本発明におけるエラストマー組成物においては、(D)成分として、粘弾性調整用樹脂が用いられる。なお、本発明で云う粘弾性調整用樹脂とは、前述した(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、後述の任意成分とを含むエラストマー材料に加えた場合に、該材料の硬度を維持する、又は上げる、又は下げると共に、粘弾性率測定装置で求められる損失正接(tanδ)を上昇させる作用を有する樹脂を指す。
本発明におけるエラストマー組成物は、後述のアスカC硬度が10〜70度の範囲において、上記tanδが高いほど衝撃エネルギーを吸収して、耐衝撃性の優れた衝撃吸収材料を与える。
当該粘弾性調整用樹脂の1種又は2種以上を、上記エラストマー材料に適宜量加えることにより、得られるエラストマー組成物の硬度及びtanδを所望の値に調整することができる。
【0017】
(樹脂の種類)
当該粘弾性調整用樹脂としては、重量平均分子量が、好ましくは100〜5000の範囲、より好ましくは500〜3000の範囲にあるものを用いることができる。このような樹脂としては、例えばロジン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロン系樹脂、鎖状脂肪族炭化水素系樹脂、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂及び芳香族炭化水素系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0018】
上記ロジン系樹脂としては、例えば天然樹脂ロジン、その重合ロジンや部分水添ロジン;グリセリンエステルロジン、その部分水添ロジンや完全水添ロジンや重合ロジン;ペンタエリスリトールエステルロジン、その部分水添ロジンや重合ロジンなどが挙げられる。
このロジン系樹脂は、該エラストマー材料の硬度を下げると共に、tanδを上昇させる作用を有する。
上記フェノール系樹脂としては、例えば低重合度のアルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、p−t−ブチルフェノール−アセチレン樹脂などが挙げられる。前者の低重合度アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂は、該エラストマー材料の硬度を若干下げると共に、tanδを上昇させる作用を有している。一方、後者のp−t−ブチルフェノール−アセチレン樹脂は、該エラストマー材料の硬度を維持するか、又は上げると共に、tanδを上昇させる作用を有している。
上記クマロン系樹脂としては、例えばクマロン樹脂やクマロン・インデン共重合物などが挙げられる。クマロン・インデン共重合物は、コールタール中のクマロン、インデン、スチレンなどを重合させて得られた樹脂である。このクマロン系樹脂は、該エラストマー材料の硬度を上げると共に、tanδを上昇させる作用を有している。
【0019】
上記石油系環状脂肪族炭化水素樹脂としては、シクロペンタジエン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シクロペンタジエン−ジシクロペンタジエン共重合物などが挙げられる。これらの石油系環状脂肪族炭化水素樹脂は、本発明の効果が損なわれない範囲で、鎖状のC5留分、例えばイソプレン、1−ペンテン、2−ペンテン、1,3−ペンタジエン由来の単位を含む共重合物も用いることができる。
この石油系環状脂肪族炭化水素樹脂は、該エラストマーの硬度を下げると共に、tanδを大幅に上昇させる作用を有している。
一般に、エラストマー組成物においては、硬度が上がれば、tanδが上昇することは知られているが、上記石油系環状脂肪族炭化水素樹脂のように、硬度を下げるにもかかわらず、tanδを大幅に上昇させ得ることは、全く予想外のことである。
【0020】
上記鎖状脂肪族炭化水素系樹脂としては、例えばα−オレフィン及びジエン化合物の中から選ばれる少なくとも1種を単独重合又は共重合させて得られたものであって、重量平均分子量が100〜5000程度の樹脂が用いられる。
この鎖状脂肪族炭化水素系樹脂は、該エラストマー材料の硬度を上げると共に、tanδを上昇させる作用を有している。
上記芳香族炭化水素系樹脂としては、例えばC8〜C10留分のスチレン、インデン、α−メチルスチレン及びメチルインデンの共重合物であるC9系合成石油樹脂などを挙げることができる。
この芳香族炭化水素系樹脂は、該エラストマー組成物の硬度を上げると共に、tanδを上昇させる作用を有している。
【0021】
本発明におけるエラストマー組成物においては、上記(D)成分の粘弾性調整用樹脂の含有量は、該樹脂の種類にもよるが、前記(A)成分100質量部に対して、10〜250質量部であることが好ましい。この含有量が上記範囲にあれば、該エラストマー組成物は、後述のアスカC硬度を10〜70度の範囲に維持し得ると共に、tanδを上昇させることができる。当該(D)成分のより好ましい含有量は20〜100質量部であり、さらに好ましい含有量は30〜80質量部である。
【0022】
[任意成分]
本発明におけるエラストマー組成物には、該組成物の圧縮永久歪を改善するなどの目的で、所望により、(E)成分として、ポリフェニレンエーテルを含有させることができる。
((E)ポリフェニレンエーテル)
本発明において、(E)成分として用いるポリフェニレンエーテルは、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよく、またポリスチレン、ポリプロピレン又はポリアミドとのアロイであってもよい。
単独重合体としては、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられ、共重合体としては、例えば2,6−ジメチルフェノールと1価のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体の如きポリフェニレンエーテル共重合体などが挙げられる。
この(E)成分のポリフェニレンエーテルは市販されており、例えば旭化成ケミカルズ株式会社製の「ザイロン(登録商標)」シリーズ、日本GEプラスチックス株式会社製の「ノリル(登録商標)」シリーズなどを使用することができる。
本発明におけるエラストマー組成物においては、当該(E)成分のポリフェニレンエーテルの含有量は、前述の(A)成分100質量部に対して、10〜250質量部であることが好ましい。
【0023】
(充填剤)
本発明におけるエラストマー組成物には、所望により充填剤を含有させることができる。この充填剤としては、例えばクレー,珪藻土,シリカ,タルク,硫酸バリウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,金属酸化物,マイカ,グラファイト,水酸化アルミニウムなどのりん片状無機系充填剤、各種の金属粉,木片,ガラス粉,セラミックス粉,粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填剤,その他の各種の天然または人工の短繊維,長繊維(例えば、ワラ,毛,ガラスファイバー,金属ファイバー、その他各種のポリマーファイバー等)などを含有させることができる。
また、中空フィラー、例えば、ガラスバルーン,シリカバルーンなどの無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン,ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラーを含有させることにより、軽量化を図ることができる。更に軽量化などの各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入することも可能であり、また、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
【0024】
(その他添加剤)
その他の添加剤として、必要に応じて、難燃剤,抗菌剤,ヒンダードアミン系光安定剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤,着色剤,シリコーンオイル,シリコーンポリマー,ハイブラー(商品名:クラレ社製、ビニル−ポリイソプレンブロックの両末端にポリスチレンブロックが連結したブロック共重合体),ノーレックス(商品名:日本ゼオン社製,ノルボルネンを開環重合して得られるポリノルボルネン)などの他の熱可塑性エラストマー又は樹脂などを含有させることができる。
【0025】
[エラストマー組成物の性状]
本発明におけるエラストマー組成物においては、それを構成する高分子有機材料は、三次元連続の網状骨格構造を有することが好ましく、形成される三次元連続の網状骨格構造は、その骨格の平均径が、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、セル(網目)の平均径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下であり、高分子有機材料の体積分率を〔高分子有機材料の体積/(高分子有機材料の体積+軟化剤の体積)〕×100(%)と定義したとき、高分子有機材料の体積分率が、好ましくは50%以下、より好ましくは33%以下であることが望ましい。
また、当該エラストマー組成物のアスカC硬度は、10〜70度の範囲にあることを要する。アスカC硬度が10度未満では機械強度が低く、それから得られる衝撃吸収材料は、充分な性能が発揮されず、一方70度を超えるとエラストマーとしての性質が失われ、それから得られる衝撃吸収材料は、充分な性能が発揮されない。好ましいアスカC硬度は10〜60度であり、より好ましくは10〜50度である。
なお、上記アスカC硬度は、ASK−c硬度計を用いて測定された値である。
【0026】
[エラストマー組成物の製造]
本発明におけるエラストマー組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、前記の(A)〜(D)成分及び所望により用いられる(E)成分や各種添加剤をドライブレンドしたのち、加熱混練機、例えば、一軸押出機,二軸押出機,ロール,バンバリーミキサー,プラベンダー,ニーダー,高剪断型ミキサーなどを用いて溶融混練りし、さらに、所望により有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加したり、又は、これら必要な成分を同時に混合し、加熱溶融混練りすることにより、容易に製造することができる。また、高分子有機材料と軟化剤とを混練りしたエラストマー組成物を予め用意し、この組成物を、ここに用いたものと同種か若しくは種類の異なる一種以上の高分子有機材料に更に混ぜ合わせて製造することもできる。さらに、本発明におけるエラストマー組成物においては、有機パーオキサイドなどの架橋剤,架橋助剤などを添加して架橋することも可能である。
【0027】
[衝撃吸収材料]
本発明の衝撃吸収材料は、前記のようにして製造されたエラストマー組成物を、従来公知の各種成形法、例えば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法などを用いて所望の形状に成形することにより、得ることができる。
本発明の衝撃吸収材料は、オイルブリードが少なく、かつ優れた柔軟性及び高い衝撃吸収性を有することから、各種の電子機器における落下衝撃対策や振動対策などに用いることができる。特に柔軟性に優れると共に、高い衝撃エネルギー吸収性を有するため、ハードディスク装置用として好適に使用することができる。
【0028】
[衝撃吸収材料の製造方法]
本発明はまた、前述した衝撃吸収材料を製造する方法をも提供する。
本発明の衝撃吸収材料の製造方法は、(A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部と、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部と、(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部と、さらに(D)粘弾性調整用樹脂とをドライブレンドしたのち、混練することにより、アスカC硬度が10〜70度である粘弾性が調整されたエラストマー組成物からなる、前述の衝撃吸収材料を製造する方法である。
上記(A)〜(D)成分については、エラストマー組成物において説明したとおりである。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものである。
なお、各例で得られたエラストマー組成物の物性については、以下に示す方法に従って評価した。
(1)アスカC硬度
JIS K6253に基づき試験片を作製し、アスカC硬度計[高分子計器社製、機種名「ASK−c硬度計」]により、25℃におけるアスカC硬度を測定した。
(2)引張試験
DIN3ダンベル形状に打ち抜いたシートについて、引張試験機[ORIENTEC社製、機種名「テンシロンRTC−1225A」]を用い、JIS K6251に準拠して、試験温度25℃、引張速度200mm/minの条件で引張試験を行い、破断強度Tb、破断伸びEb及び300%伸び応力M300を測定した。
(3)動的粘弾性特性
縦40mm、横5mm、厚さ2mmのシートを作製し、試料とした。この試料について、粘弾性スペクトロメーター「RDAIII」(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー株式会社製)を用い、チャック間距離2mm、動的歪1%、周波数1Hz、測定温度25℃の測定条件にて、動的粘弾性測定を行ない、損失正接(tanδ)を測定した。
【0030】
実施例1〜12
重量平均分子量30万でポリスチレンブロック含有量が30質量%のSEPS[クラレ社製、商品名「セプトン4077」]100質量部、40℃における動粘度が380mm2/sのパラフィン系オイル[出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスオイルPW380」、数平均分子量750]263質量部、ポリプロピレン[日本ノバテック社製、商品名「BC05B」、MFR50g/10分]5質量部、及び第1表に示す各粘弾性調整用樹脂20質量部を予め混合し、次いで二軸混練機(東芝機械社製、TEM58BS型、スクリュー全長/シリンダ径=62.5、スクリュー全長に対する混練帯域の長さの比率=62%)にて180℃で混練し、ストランド状に押し出しながらカッターにてカットし、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第1表に示す。
【0031】
比較例1
実施例1〜12において、粘弾性調整用樹脂を用いなかったこと以外は、実施例1〜12と同様にして、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第1表に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
[注]
第1表における粘弾性調整用樹脂の商品名及び企業名は以下の通りである。
ロジン系樹脂:大社松精油社製「ハイロジンB」
フェノール樹脂:SI GROUP社製「RIBETAK 7510pj」
フェノール−アセチレン樹脂:BASF社製「KORESIN」
クマロン樹脂:大内新興化学工業社製「エクスロンV」
シクロペンタジエン系樹脂−1:東燃化学社製「ESCOREZ 1102」
シクロペンタジエン系樹脂−2:新日本石油化学社製:「PICODIENE」
シクロペンタジエン系樹脂−3:丸善石油化学社製「ESCOREZ 8080」
シクロペンタジエン系樹脂−4:荒川化学社製「P125」
シクロペンタジエン系樹脂−5:荒川化学社製「P140」
芳香族炭化水素系樹脂:新日本石油化学社製「日石ネオポリマー」
鎖状脂肪族炭化水素系樹脂:schill&SEILacher社製「STRUKTOL 40MS」
クマロン・インデン共重合物:森村産業社製「粉クマロン樹脂」
【0035】
第1表において、各特性の指数は、粘弾性調整用樹脂を配合していない比較例1のものを100とした値である。
第1表から分かるように、SEPS系において、粘弾性調整剤がロジン系樹脂、フェノール樹脂、シクロペンタジエン系樹脂の場合には、アスカC硬度を下げると共に、tanδを上昇させる。特にシクロペンタジエン系樹脂の中では、tanδを大幅に上昇させるものがある。
一方、フェノール−アセチレン樹脂、クマロン樹脂、クマロン・インデン共重合物(クマロン・インデン樹脂)、芳香族炭化水素系樹脂及び鎖状脂肪族炭化水素系樹脂は、アスカC硬度を上げると共に、tanδを上昇させる。
【0036】
実施例13〜24
重量平均分子量6万でポリスチレンブロック含有量が30質量%のSEBS[旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックH1272」]100質量部、40℃における動粘度が380mm2/sのパラフィン系オイル[出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスオイルPW380」、数平均分子量750]163質量部、ポリプロピレン[日本ポリオレフィン社製、商品名「JP0M1600」、MFR11g/10分]12質量部、及び第2表に示す各粘弾性調整用樹脂20質量部を予め混合し、次いで二軸混練機(東芝機械社製、TEM58BS型、スクリュー全長/シリンダ径=62.5、スクリュー全長に対する混練帯域の長さの比率=62%)にて180℃で混練し、ストランド状に押し出しながらカッターにてカットし、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第2表に示す。
【0037】
比較例2
実施例13〜24において、粘弾性調整用樹脂を用いなかったこと以外は、実施例13〜24と同様にして、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第2表に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
[注]
第2表における粘弾性調整用樹脂の商品名及び企業名は、第1表の脚注と同じである。
第2表において、各特性の指数は、粘弾性調整用樹脂を配合していない比較例2のものを100とした値である。
第2表から分かるように、SEBS系においても、SEPS系と同様に粘弾性調整剤がロジン系樹脂、フェノール樹脂、シクロペンタジエン系樹脂の場合には、アスカC硬度を下げると共に、tanδを上昇させる。特にシクロペンタジエン系樹脂の中では、tanδを大幅に上昇させるものがある。
一方、フェノール−アセチレン樹脂、クマロン樹脂、クマロン・インデン共重合物(クマロン・インデン樹脂)、芳香族炭化水素系樹脂及び鎖状脂肪族炭化水素系樹脂は、アスカC硬度を上げると共に、tanδを上昇させる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の衝撃吸収材料は、オイルブリードが少なく、かつ優れた柔軟性及び高い衝撃吸収性を有することから、各種の電子機器における落下衝撃対策や振動対策などに用いることができる。特に柔軟性に優れると共に、高い衝撃エネルギー吸収性を有するため、ハードディスク装置用として好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)粘弾性調整用樹脂を含み、かつアスカC硬度が10〜70度であるエラストマー組成物からなる衝撃吸収材料。
【請求項2】
(A)成分の水添ブロック共重合体が、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体及び/又はポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体である、請求項1に記載の衝撃吸収材料。
【請求項3】
(B)成分の軟化剤としてのオイルが、非芳香族系オイルである請求項1又は2に記載の衝撃吸収材料。
【請求項4】
(D)成分の粘弾性調整用樹脂が、重量平均分子量100〜5000の樹脂であって、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロン系樹脂、鎖状脂肪族炭化水素系樹脂、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂及び芳香族炭化水素系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の衝撃吸収材料。
【請求項5】
(D)成分の粘弾性調整用樹脂の含有量が、(A)成分100質量部に対して、10〜250質量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の衝撃吸収材料。
【請求項6】
さらに、(E)ポリフェニレンエーテルを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の衝撃吸収材料。
【請求項7】
(C)成分のポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項1〜6のいずれかに記載の衝撃吸収材料。
【請求項8】
ハードディスク装置用である、請求項1〜7のいずれかに記載の衝撃吸収材料。
【請求項9】
(A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部と、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部と、(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部と、さらに(D)粘弾性調整用樹脂とをドライブレンドしたのち、混練することにより、アスカC硬度が10〜70度である粘弾性が調整されたエラストマー組成物からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の衝撃吸収材料を製造する方法。

【公開番号】特開2010−275457(P2010−275457A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130381(P2009−130381)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】