説明

衝撃吸収構造

【課題】アルミハニカムのように主軸方向の衝撃に対する衝撃エネルギ吸収能は優れているが剪断方向の衝撃に対する衝撃エネルギ吸収能には優れていない材料を用いて斜めの衝突にも良好な衝撃吸収作用が得られる衝撃吸収構造を提供する。
【解決手段】航空機の機体の床下の内壁と該機体の外壁とによって構成される空間部内に衝撃エネルギ吸収部材が配置され、機体が外部からの衝撃を受けたときのエネルギを衝撃エネルギ吸収部材により吸収する衝撃吸収構造に於いて、外壁の外側で、且つ、外壁とエネルギ吸収部材との結合部よりも機体の先端側に突起部を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体の衝撃吸収構造に係る。
【背景技術】
【0002】
航空機や船舶を例にとり、それらがその先端部にて他体に衝突したとき、外部からの衝撃力を自身の圧縮破壊により緩和する繊維強化プラスチック(FRP)製のエネルギ吸収部材を航空機や船舶の先端部に、衝撃力負荷方向に対向して設けることが、下記の特許文献1に於いて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−224875
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今、航空機が地面に斜めに衝突した場合を例に取り、機体が受ける衝撃を吸収する衝撃吸収構造として、機体に横断面が図4の図(A)に示す如き衝撃吸収構造が設けられているとする。この衝撃吸収構造は、図4では10として略示されている板状の機体の内壁に地面12への斜めの衝突の衝撃エネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収部材14を付設し、かかる衝撃エネルギ吸収部材14を外壁16にて覆い、衝撃エネルギ吸収部材14の縁18より前方にある外壁16の延在部20の終端22を内壁10に固定したものである。このように内壁10に衝撃エネルギ吸収部材14を付設し、これを外壁16にて覆い、衝撃エネルギ吸収部材14の縁18より前方にある外壁16の延在部20を衝撃エネルギ吸収部材14の縁18に沿って折り曲げて斜めに引っ張り、その終端22を内壁10に固定し、外壁16に適度の張力を与えておけば、延在部20が引張りばねとして機能し、衝撃エネルギ吸収部材14を内壁10に体裁よく安定した状態に取り付けることができるが、この場合、外壁の延在部20を斜めに張設して引張りばねとして機能させるためには、大きさに多少の大小はあっても、図示のように横断面が三角形であるかまたはそれに近い形状を呈する空間部26が形成される。
【0005】
しかし、上記のような衝撃吸収構造では、機体が地面12のような他体に斜めに衝突すると、図4の図(B)に示す如く、衝撃エネルギ吸収部材14はその縁18の部分から始まって外壁16を挟んで地面12のような他体に接触し始め、他体の表面に強く押し付けられつつ該表面に沿って該表面に対し矢印Qの方向に移動するので、衝撃エネルギ吸収部材14の縁18の部分は厚み方向に押し潰されると同時に矢印Qとは反対の方向に押し遣られ、衝撃エネルギ吸収部材14は剪断変形を受ける。軽くて衝撃エネルギ吸収能が高く、衝撃エネルギ吸収部材14を構成するに適した材料として、例えばアルミハニカムのような材料があるが、そのような材料が高い衝撃エネルギ吸収能を呈するのは、その主軸の方向に衝撃が作用するときであり、それに比して剪断方向の衝撃に対する衝撃エネルギ吸収能は大きく劣るものである。従って、図4に示すような衝撃吸収構造に於いて、衝撃エネルギ吸収部材14をアルミハニカムのような材料により構成すると、図4の図(B)に示すように斜め方向の衝突により剪断作用を受ける場合には、良好な衝撃吸収作用が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、図4に示すような衝撃吸収構造に於ける上記の事情に着目し、アルミハニカムのように主軸方向の衝撃に対する衝撃エネルギ吸収能は優れているが剪断方向の衝撃に対する衝撃エネルギ吸収能には優れているとはいえないような材料を用いて図4に示すような衝撃吸収構造を構成した場合にも、図4の図(B)に示すような斜めの衝突に際して良好な衝撃吸収作用が得られる衝撃吸収構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、航空機の機体の床下の内壁と、該機体の外壁とによって構成される空間内に配置され、前記機体が外部からの衝撃を受けたときのエネルギを吸収するエネルギ吸収部材と、
前記外壁の外側で、且つ、前記外壁と前記エネルギ吸収部材との結合部よりも前記機体の先端側に、取り付けられた突起部と、を備えることを特徴とする衝撃吸収構造を提案するものである。
【0008】
上記の衝撃吸収構造に於いて、前記突起部は、前記内壁と前記外壁と前記エネルギ吸収部材とから構成される空間部を背にして、外壁外側を向くように設置されていてよい。この場合、前記機体が他体に衝突の際は、前記突起部と該他体との衝突により、前記外壁が前記空間部の内側へ変形されるようになっていてよい。
【0009】
上記の衝撃吸収構造に於いて、前記突起部は前記機体の下方前方を向くように配置されていてよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の如く、航空機に、その機体の床下の内壁と、該機体の外壁とによって構成される空間内に配置され、前記機体が外部からの衝撃を受けたときのエネルギを吸収するエネルギ吸収部材と、前記外壁の外側で、且つ、前記外壁と前記エネルギ吸収部材との結合部よりも前記機体の先端側に、取り付けられた突起部とを備える衝撃吸収構造が設けられていれば、かかる衝撃吸収構造が衝撃エネルギ吸収部材の前縁部より他体に斜めに衝突し、衝撃エネルギ吸収部材が前縁部から始まって他体に対し次第により強く押し付けられていくのと並行して、前記突起部もその突出端にて他体に接触して外壁の前延部を内側へ次第により大きく変形させていくので、衝撃エネルギ吸収部材の前縁部が内壁に対して後向きにずれることが抑制され、衝撃エネルギ吸収部材の前縁部は単純に圧縮され、剪断荷重に曝されることから免れる。
【0011】
上記突起部の作用は、衝撃エネルギ吸収部材がその前縁部から始まって次第により大きく押し潰されることにより外壁の前延部に弛みが生じようとするとき、該前延部の中央部を内側へ変形させることにより弛みを打ち消すことであるので、かかる作用は、前記突起部が前記内壁と前記外壁と前記エネルギ吸収部材とから構成される空間部を背にして、外壁外側を向くように設置されていれば、最も効果的に達成される。かかる構造によれば、機体が他体に衝突した際は、前記突起部と該他体との衝突により、前記外壁が前記空間部内へ変形される。また前記突起部が機体の下方前方を向くように配置されていれば、航空機が地面に機体の先端部から斜めに衝突する際に、かかる衝撃吸収構造における衝撃エネルギ吸収部材を的確に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による衝撃吸収構造の第一の実施例を示す図4と同様の横断面図。
【図2】本発明による衝撃吸収構造の第二の実施例を示す図1と同様の横断面図。
【図3】本発明による衝撃吸収構造の第三の実施例を示す図1または2と同様の横断面図。
【図4】本発明による衝撃吸収構造の基となる衝撃吸収構造であって、従来技術の範囲で考えられる衝撃吸収構造を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による衝撃吸収構造の第一の実施例を示す図1に於いて、図4に示す構造に於ける各部に対応する部分は、図4に於けると同じ符号を付されており、これらの各部は、本発明により突起部28が追加されたことによって生ずる機能の一部の変化を除き、図4に於ける各部と同様に作動する。従って、これらの各部についての基本的説明には、図4を参照して行った説明を援用するものとし、同じ説明の繰り返しは、明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0014】
図1に示す実施例に於いては、衝撃エネルギ吸収部材14の縁18より前方の外壁16の延在部20の中央部に、横断面に垂直で図の紙面に垂直の方向に延在する帯板状の突起部28が、その根元部にて取り付けられており、衝撃吸収構造が他体12に斜めに衝突するとき、その突出端にて他体に接触し、他体により根元部へ向けて押し遣られるにつれて、外壁16の延在部20を空間部26内へ横断面でみて逆V字型に変形させるようになっている。この場合、突起部28の高さは、衝撃吸収構造の設計、特に衝撃エネルギ吸収部材14の厚みaと衝撃エネルギ吸収部材14の端縁24から外壁16の終端22の間の距離bとに基づいて、衝撃吸収構造が他体12へ斜めに押し付けられ、衝撃エネルギ吸収部材14がその厚みを縁18の部分から始まって減じていくとき、先端にて他体12に当接した突起部28の内壁10に対する変形により外壁の延在部20に生ずる弛みが打ち消されるような高さとされればよい。またこのとき、突起部28が他体12に接触し、外壁16の延在部20と共に空間部26へ向けて押されたとき該空間部内に収まる大きさとされていれば、突起部28が衝撃エネルギ吸収部材14の衝撃吸収作用を妨げることはない。勿論、衝撃吸収構造が他体12に対し斜めに進行する角度は決まってはいないが、概略予想される範囲内での進行角度による他体12への衝撃吸収構造の衝突に対して、上記の延在部弛み打ち消し作用が的確に得られるように、突起部28の高さが定められればよい。
【0015】
図1は、他体12への衝撃吸収構造の斜めの衝突が幾分進行した瞬間を示しており、図の一部に、接触前の衝撃吸収構造に於ける外壁の延在部20とそれに取り付けられた突起部28の初期位置を仮想線にて示している。図示の実施例では、突起部28の根元は、突起部28が外壁16の延在部20を空間部26内へ横断面でみて逆V字型に変形させるとき、逆V字の頂点を空間部の最奥部30に向かわせる位置にて外壁の延在部20に取り付けられており、延在部20の弛みを最も大きな値まで打ち消すことができるようになっている。
【0016】
本発明による衝撃吸収構造の第二の実施例を示す図2に於いても、図4に示す構造に於ける各部に対応する部分は、図4に於けると同じ符号を付されており、これらの各部についての同じ説明の繰り返しは、図1の実施例について記したと同様の理由により省略する。
【0017】
図2に示す実施例に於いては、衝撃エネルギ吸収部材14の縁18より前方の外壁16の延在部20の中央部に、横断面では底面が平らで頂部が円弧状であり、横断面に垂直で図の紙面に垂直の方向に延在する突起部32が、その平らな底面にて取り付けられており、突起部32は外壁16の延在部20を空間部26内へ横断面でみて中央部に扁平な頂部を有する山型に変形させるようになっている。この場合にも、突起部32の高さは、衝撃吸収構造の設計、特に図1について説明した衝撃エネルギ吸収部材14の厚みaと衝撃エネルギ吸収部材14の端縁24から外壁16の終端22の間の距離bとに基づき、衝撃吸収構造が他体12へ斜めに衝突し、衝撃エネルギ吸収部材14がその厚みを縁18の部分から始まって減じていくとき、先端にて他体12に当接した突起部32の内壁10に対する変形により外壁の延在部20に生ずる弛みが打ち消されるような高さとされればよい。この場合にも、その突起部32の寸法的設計は、概略予想される範囲内での進行角度による他体12への衝撃吸収構造の衝突に対して上記の延在部弛み打ち消し作用が的確に得られるように定められればよく、また突起部32が他体12に衝突し、外壁16の延在部20と共に空間部26へ向けて押されたとき該空間部内に収まる大きさとされていれば、突起部32が衝撃エネルギ吸収部材14の衝撃吸収作用を妨げることはない。
【0018】
図2もまた、他体12への衝撃吸収構造の斜めの衝突が幾分進行した瞬間を示しており、図の一部に、衝突前の衝撃吸収構造に於ける外壁の延在部20とそれに取り付けられた突起部32の初期位置を仮想線にて示している。この実施例では、突起部32は比較的広い平らな底面の全域にわたって外壁に固定されてよいので、外壁に対する突起部の取り付けが容易となり、また取り付け状態の安定度も高くなる。
【0019】
本発明による衝撃吸収構造の第三の実施例を示す図3に於いても、図4に示す構造に於ける各部に対応する部分は、図4に於けると同じ符号を付されており、これらの各部についての同じ説明の繰り返しは、図1の実施例について記したと同様の理由により省略する。
【0020】
図3に示す実施例に於いては、衝撃エネルギ吸収部材14の縁18より前方の外壁16の延在部20の中央部に、横断面では底面および頂部が円弧状で、横断面に垂直で図の紙面に垂直の方向に延在するす突起部34が、その円弧状底面の中央部36に沿って取り付けられており、突起部34は外壁16の延在部20を空間部26内へ横断面でみて中央部に円弧状頂部を有する山型に変形させるようになっている。この場合にも、突起部34の高さは、衝撃吸収構造の設計、特に図1について説明した衝撃エネルギ吸収部材14の厚みaと衝撃エネルギ吸収部材14の端縁24から外壁16の終端22の間の距離bとに基づき、衝撃吸収構造が他体12へ斜めに衝突し、衝撃エネルギ吸収部材14がその厚みを縁18の部分から始まって減じていくとき、先端にて他体12に当接した突起部34の内壁10に対する変形により外壁の延在部20に生ずる弛みが打ち消されるような高さとされればよく、また突起部34が他体12に接触し、外壁16の延在部20と共に空間部26へ向けて押されたとき該空間部内に収まる大きさとされていれば、突起部34が衝撃エネルギ吸収部材14の衝撃吸収作用を妨げることはない。
【0021】
図3もまた、他体12への衝撃吸収構造の斜めの衝突が幾分進行した瞬間を示しており、図の一部に、接触前の衝撃吸収構造に於ける外壁の延在部20とそれに取り付けられた突起部34の初期位置を仮想線にて示している。この場合にも、その突起部34の寸法的設計は、概略予想される範囲内での進行角度による他体12への衝撃吸収構造の衝突に対して上記の延在部弛み打ち消し作用が的確に得られるように定められればよい。この実施例では、突起部34は外壁の延在部20を空間部26内に変形させるとき、外壁の延在部20の途中を折り曲げることなく滑らかに湾曲させるので、変形の途中で外壁の延在部20に裂壊が生ずるような虞れをより確実に排除することができる
【0022】
以上に於いては本発明をいくつかの実施の形態について詳細に説明したが、これらの実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【符号の説明】
【0023】
10…内壁、12…他体、14…衝撃エネルギ吸収部材、16…外壁、18…衝撃エネルギ吸収部材の縁、20…外壁の延在部、22…外壁延在部の終端、24…衝撃エネルギ吸収部材の端縁、26…空間部、28…突起部、30…空間部の最奥部、32,34…突起部、36…突起部34の円弧状底面の中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体の床下の内壁と、該機体の外壁とによって構成される空間内に配置され、前記機体が外部からの衝撃を受けたときのエネルギを吸収するエネルギ吸収部材と、
前記外壁の外側で、且つ、前記外壁と前記エネルギ吸収部材との結合部よりも前記機体の先端側に、取り付けられた突起部と、を備えることを特徴とする衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記突起部は、前記内壁と前記外壁と前記エネルギ吸収部材とから構成される空間部を背にして、外壁外側を向くように設置されていることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記機体が他体に衝突の際は、前記突起部と該他体との衝突により、前記外壁が前記空間部の内側へ変形されることを特徴とする請求項2に記載の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記突起部は前記機体の下方前方を向くように配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の衝撃吸収構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−245895(P2012−245895A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119426(P2011−119426)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】